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あと3話で完結ロワスレ

389剣士ロワ第300話「光」:2013/03/13(水) 23:25:24





 戦いを終えて故郷のカムイへと帰って来たオキクルミは、感慨に耽る暇すら無く目の前の惨状に言葉を失った。
 辺り一面はタタリ場に呑み込まれ、母なるカムイの大地は闇の瘴気に包まれていた。
 吹雪こそ止んでいるが、寒さも冬であるにしても異常で、木々すらも凍りついて折れている。
「まさか、双魔神どもの手がここまで……!」
 迂闊だった。別世界の恐るべき闇を倒して来たとは言っても、この世界の闇の勢力は健在だったのだ。
 しかも、時期は“厳冬の蝕”が差し迫った頃。
 オキクルミがこの世界を離れている間に、双魔神が本格的な行動を起こしていてもおかしくなかったのだ。
 碧眼の獣神へと転身し、オキクルミはエゾフジの麓、故郷のウエペケレへと走った。
 ウエペケレに辿り着いたオキクルミは大きな声で3度吠えたが、誰も応えない。村の何処からも、誰の臭いも漂って来ない。
 嫌な予感が胸を締め付けるが、それを振り払うようにオキクルミは村の中を駆け巡り、やがてエゾフジの麓、ラヨチ湖の畔にある山興しの儀式の舞台へと辿り着いた。
 そこで待っていたのは、地獄だった。
 サマイクル、ケムシリ爺、カイポク、トゥスクル、ワリウネクル……オイナ族の、村の仲間達の亡骸が、死屍累々という言葉のままに、儀式の舞台の周りに倒れていた。
 そして、エゾフジを噴火させカムイの大地に温もりを与える重要な儀式『山興し』を行う舞台の上には、ピリカと、コロポックル宿しの狼――アマテラスが折り重なって倒れていた。
 オキクルミは人間の姿に戻り、力無くその場に崩れ落ちた。
 両手を温もりの失われた大地に突き立て、立ち上がろうとするが、上体を起こすだけで精一杯で、力が入らない。
 悲しさと悔しさのあまり、声すら出ない。
 しかし、それが幸いした。微かな、今にも消えてしまいそうな程弱々しい呻き声を、オキクルミの耳は捉えることができた。
「ピリカ!!」
 今年の山興しの祈祷を捧げる役を任されていた、自分にも懐いていた少女の名を叫び、オキクルミは慌てて彼女の下へと駆け寄った。
 オキクルミが傍まで近寄って跪くと、ピリカも気付いて、顔をオキクルミの方へと向けた。
「オキクルミ……お兄ちゃん……? 帰ってきたんだ……良かった、無事で……。みんな、どこに行ったんだって、心配……してたよ……」
「喋るな、ピリカ!」
 ピリカの声は間近まで近付いて漸く聞き取れるほどにか細く、彼女の生命が今にも尽きようとしていることが嫌でも分かってしまった。
 見れば、ピリカも傷だらけで、彼女を庇うように倒れているアマテラスはその白い体を朱の隈取りとは違う、赤い血で染めていた。
「双子の魔神が、エゾフジから降りて来て……みんなは、オオカミさんと一緒に戦って、わたしは……ケムシリお爺ちゃんの代わりに、山興しを、いっしょうけんめい踊ったの……」
 言われて、オキクルミは目の前のラヨチ湖に巨大な物体が転がっていることに気付いた。
 黄金と白銀の、フクロウの姿を模したカラクリ仕掛けの怪物。双子の魔神、モシレチク・コタネチク。
 オイナ族の同胞とアマテラスは、山興しの儀式を阻もうと現れたこの双魔神との戦いで力尽きてしまったのだと悟った。
「ねぇ、お兄ちゃん。わたし、ちゃんとできたかな……? わたしの、力で……みんなを守れたかな……? なんだか、周りが真っ黒で、お兄ちゃんの顔も見えないの……」
 ピリカからの問いかけに、オキクルミは言葉に詰まった。
 何と答えればよいのだ。
 カムイの大地は温かさを失い闇に呑まれていると、事実を告げろというのか?
 未だ寒さに震えているピリカに、山興しは成功したぞと、見え透いた嘘を言えというのか?
 オキクルミには、そのどちらも言うことは出来ない。
「ピリカ……!」
 少女の名を呼び、抱き締める以外に思いつかなかった。
 だが、既にピリカの体は、冷たくなっていた。
 呼吸も、鼓動も、止まっていた。
「ピリカ……? ピリカ! ピリカ!!」
 息絶えた少女の名を、オキクルミは呼び続け……いつしかその呼び掛けは、慟哭へと変わっていった。
 英雄の慟哭が、母なる温もりを失った大地に木霊する。








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