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あと3話で完結ロワスレ

111Memoria Memoria -想い出を抱き締めて- ◆6XQgLQ9rNg:2013/01/02(水) 19:29:24
 ◆◆
 
 すごいな、という感想しか抱けなかった。
 ヴァージニアも、カズマも、耐えられないほどに辛いことや押しつぶされそうなくらいに悲しいことが沢山あったのだ。
 彼らが負った傷は、クマのそれよりも遥かに多い。
 なのに戦っている。抗っている。生きようとしている。
 彼らの原動力は『想い出』だ。クマだって、クマだけの『想い出』を持っている。
 あったかで、楽しくて、とても嬉しくなる『想い出』がある。
 つめたくて、さみしくて、すごく悲しい『想い出』もある。
 嫌な『想い出』は強くて、意識を思い切り引っ張っていく。
 思ってしまうのだ。
 もう会えないと。二度と遊べないと。一緒にお話ができないと。
 そう思ってしまうと、いい『想い出』には必ず悪い『想い出』がくっついてしまう。
 ぐずっ、と洟をすする。瞳は潤み、視界は涙で霞む。
 滲む視界に、ヴァージニアの『想い出』が映っている。
 楽しいものがある。辛いものがある。温かいものがある。悲しいものがある。激しいものがある。穏やかなものがある。
 その中に、見つける。

 ――セン、セイ……! センセイ!
 
 鳴上悠。
 特別捜査隊のリーダーにして、多くの人とかけがえのない絆を結んだ、冷静で頼りになる、クマの大好きな仲間。
 その姿が、ここにある。
 もう、死んでしまったはずのその姿が、ここにあるのだ。
 クマの意識に、悠と、特別捜査隊のメンバーとの『想い出』が鮮烈に蘇っていく。
 次々と、続々と。
 いい『想い出』――最高の『想い出』が、クマの脳裏に溢れかえる。
 あったかで、楽しくて、とても嬉しくなって、つめたくて、さみしくて、すごく悲しくなる。
 それは不思議な、もう二度と返らない『想い出』。
 分かっている。
 もう返ってこないと分かっているから、悲しいのだ。
 でもそれは今、胸の奥にある。
 空っぽだったら得ることができなかった宝物として、胸の奥で光っている。 
「我が命は、君たちの『想い出』と共に」
 ブルーのメッセージを、口に出してみる。
 ヴァージニアの『想い出』にある鳴上悠を見る。
 喪っても、失くしたわけではない。
 つまり、そういうことだ。
『想い出』とは、死者の行き場所であり、彼らの存在を保証するものなのだ。
 ツェツィのことだって、同じだ。
 一緒に過ごせた温かさと護れなかった痛みと共に、ツェツィだって『想い出』の中にいる。
 だって、覚えている。
 お話したことも、抱きしめてくれたことも、涙を拭ってくれたことも、覚えている。
 確かに、ツェツィは、いるのだ。
 故に。 
 みんながいなくなったからといって、喪った記憶が辛いからといって、自分の『想い出』も生命も、否定してはならない。
 みんながいなくなったからこそ、喪った記憶があるからこそ、『想い出』を抱えて生きなくてはならない。
 たとえつめたくても、さみしくても、悲しくても。
 守れなかった罪悪感も、護れなかった後悔も、噛み締めた無力さも。
 すべてをひっくるめて、生きなくてはならないのだ。
 
 ――生きるって……大変クマ。

 でも、だからこそ。
 あったかで、楽しくて、とても嬉しいものだって、一緒に握り締めていられる。
 みんなは確かに生きて、クマと共にいたと、胸を張って言える。
 立ち上がる。
 立ち上がれる。
 やることはまだ、いっぱいある。
 まず、トトリのために、何かできることをしたい。
 死を求められても、嫌われても、怨まれても、憎まれても。
 それでも生きていれば。
 生きていれば、できることが、きっと何かあるはずだと思う。
 そして、帰るのだ。
 彼らの生きた街へ。大好きなみんなと共に過ごした稲羽市へ。
『想い出』を抱えて帰るのだ。
 待っている人の元へ――菜々子の元へ、帰るのだ。


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