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あと3話で完結ロワスレ

679ep298.主人公はもう居ない ◆LO34IBmVw2:2013/08/22(木) 22:32:12





【30:00ーー佐藤達広と比企谷八幡の場合ーー】






ソファに腰を深く沈めた。緑色のベロア生地に金色の刺繍は中々に高級感があって、座り心地も悪くはなかった。
サイドテーブルからカップを手に取って、口へ運ぶ。注いである珈琲は、何故だかいつもより苦く感じた。

「どうして」

カップの中の黒い水面を見ていると、そこに映っている冴えない男の口から声が漏れた。

「どうして、俺達なんだ」

どうしてなんだ、と。腹の底から捻り出す様に言う。半ば無意識の言葉は、その九文字は、この一週間の苦い想いの全てが詰まっていた。

「生き残ってなきゃいけなかったのは、めだかちゃんや紅麗さん達の方だった」

対面の高校生は、何も言わなかった。ただ光の無い黒い目を、こちらに向け続けていた。
励ます人も、怒る人も同意する人も、殴ってくれる人すら、もうこの世界には居ない。
残ってしまった五人は生きてこそいれど、軒並み心が死に尽くしていた。
優しさなどありはしない。温かさなどありはしない。希望は愚か、絶望すらありはしない。
そこにあるのは、ただただ“無気力”だった。
抗う事すら諦めた。勇気なんてものは、端からありはしなかった。人の形をしたその中身は、ひたすらに空虚だった。

「俺達は守られちゃいけなかったんだ。死ぬべきなのは俺達だった。ずっと前からそう思ってたんだ」

珈琲を飲み干して、ソーサーの上にカップを置く。
まるで泥水のような不味さだった。こんなにも不味く感じたのは初めての事だった。

「そうさ、ずっと思ってた事だ。ずっと見てきた事だ。自殺していく奴や、戦って死んでいく奴。殺してもらう奴、集団で死ぬ奴。
 俺もそうなるはずだった。せめて人間らしく、誰かに悲しんでもらって逝く筈だった。それが、なんで」

震える両手を目の前に出す。一週間を生き残ったにしては、彼等の掌はあまりに綺麗で、あまりに白かった。
目頭が熱くなる。視界が滲んで。頬をゆっくりと雫が流れ落ちた。



「ーーーなんで、ここに居る?」



わななく口で、震える心で、絞り出す。
死にたくなかった。
死ねなかった。
生きたくなかった。
戦いたくなかった。
ただどうしようもなく、生きてしまった。

「こんな守る価値も無い引き篭もりでニートの屑が、なんで。なんでだよ……なんでだ……」

一緒に死のうと言ってきた奴が居た。俺は怖くて、薬を飲んだふりをした。そいつだけ死んだ。
脱出を誓った奴も居た。敵に襲われて、俺はそいつを餌に逃げた。
俺を元気付けてくれた奴も居た。救ってくれた奴が居た。戦いを任せていたらピンチになったので、見捨てて隠れた。
全員、ゴミ屑の様に死んでいった。自分なんかよりもよっぽど価値ある命が、まるで羽虫の様にこの島の呪いに喰い散らかされた。

「俺達は此処で何をしてきた? 何を誇れる? 俺達に一体何がある?
 ただだらだらと長い時間引き篭って、助けられて、縋って、仲間を見捨てて、ひたすら現実から逃げて……そんな俺達の命に何の意味がある?
 守られて、頼って、逃げて、任せて。一度も戦ってこなかった俺達に、今更何が出来る?」


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