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あと3話で完結ロワスレ

112Memoria Memoria -想い出を抱き締めて- ◆6XQgLQ9rNg:2013/01/02(水) 19:30:38
「ただいまを言う為に――行ってきます」

 誰にともなくそう告げて、クマは腕に力を込める。
 込められる力があることが、堪らなく嬉しかった。
「イエス――」
 意識の深層に潜り、自分と向き合い、満ち満ちる力を引き出す。
「カムイモシリッ!!」
 キントキドウジを越え、カムイの先へと至ったペルソナを、召喚する。
 七色をし、手足の生えた弾丸にも似た流線型が、クマの頭上に顕現する。
 流線型に接続されたブースターには、薔薇の紋章が刻まれている。
 マントをはためかせ王冠を頂くそのペルソナは、悪夢の国に終わりを告げに来た、王子のようだった。
「カム!」
 クマは呼ぶ。
「カムッ!」
 クマは呼ぶ。
「ミラクルッ!!」
 悪夢を貫くための奇跡を、呼び寄せる。
 カムイモシリから、光が放射状に迸った。
 クマの『想い出』が詰まった光は強く、それでいて優しい。
 その光はヴァージニアを、カズマを、クマを包み込み――晴れる。
 瞬間、カズマの動きがより軽くなる。クマの受けた傷が癒えていく。そして。
 ヴァージニアの右腕が。
 動かなくなってしまっていた、右の手が。
 ぴくりと、動いたのだった。
 
 ◆◆
 
 負った傷から痛みが消える。貧血による強烈な目眩が収まっていく。全身に巡る血液を感じ取る。澱みこびりついた疲労が嘘のように消え去る。
 そして、垂れ下がるだけで如何なる意志にも反応してくれなかった右腕に、活力が戻って来る。
 五指を曲げてみる。拳を握り、筋肉に力を流し込んでみる。肘を曲げてみる。肩を回してみる。
 動く。
 痛みも痺れも違和感もなく、動かせる。
 訪れた奇跡の光が、全ての疲労とダメージを拭い去り、持っていってくれていた。
 動作を縛るものは、もう存在しない。
 だからヴァージニアは駆ける。
 胸の奥から噴出する力に任せ、駆け回る。
 バントライン93R、プリックリィピアEzの弾倉から空薬莢を排出。リロード。
 手慣れた動作は1秒足らずで完了され、両銃をホルスターへ収める。
 駆け抜ける。
『想い出』の森を、駆け抜ける。
 堂々と響くシェリルの歌声の中を、駆け抜けて――見つける。
 カズマの拳から 這う這うの体で逃げ出すベアトリーチェを、捕捉する。
「もういい! もういいッ! お前たちの『想い出』などいらないッ! わたしに逆らう『想い出』なんていらないッ!」
 駄々をこねて拗ねる子どものように喚き、ベアトリーチェが手を振るう。
「そんな『想い出』、首輪もろとも弾け飛ぶがいいッ!!」
 涎を吐き出し叫ぶ。
 しかし、姫君の命に従って炸裂する首輪は、一つたりともありはしなかった。
 当然だった。
 首輪の爆弾は、対象者が抱える負の『想い出』を吸い上げて刺激し、起爆されるものなのだ。
 負の『想い出』さえ宝物とする意志がある以上、爆破されることはない。
 錯乱し狂乱するベアトリーチェは、そんなことすら気付かなかった。
「わたしたちの『想い出』は、あなたの思い通りになんてならない。今、あなたが自分で言ったのよ」


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