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あと3話で完結ロワスレ

168素晴らしき小さな戦争(0)雨時々僕たちまち君 ◆MobiusZmZg:2013/01/12(土) 19:36:32
REPLAY: #248-03 ◆ ムラクモ・せめて最後に


 ひとつずつ、整理してみましょうか。
 遣らずの雨が銀箭にほどけた第一声は、子供に諦めを促すそれであった。

「――アカツキ。アカツキ試製一號。
 終わりえぬ闘争、その嚆矢を与えたはずが、戦いの終わりを貴方へ告げて征けたもの」

 柔らかな声音としどけないが緊張を残した肢体だけを見れば、あるいは睦言とも聴こえるだろう。
「彼は……ひょっとすると、貴方の虚構を誰よりするどく見ぬいたものかもしれません」
 頑是無くも籠の鳥を、雨夜の星を手にしようとした男に向けて紡ぐ言葉には、しかし、敵意の他になにもない。
「すべてを知っているような顔をして実感の伴わぬ言葉を繰って。そうして貴方は、貴方自身にひとを縛ってゆく」
 枝垂に流されるはずの花もまた、ふたりの場所から消えることがない。
 くるめきを誘う甘さを含んだ匂いは、さらさらと音をたてて流れる女の髪から香り立っていた。
 だが、突き出すように近づけられた唇からは、ときおり粒の揃った白い歯がこぼれる。
 その瞬間だけは背の君よりの接吻をせがむような抱擁から色事めいたものが抜け落ちて、女の滑稽こそが前に出た。
 言うまでもなくムラクモは、みっしりと蛇に食い締められるような有様に、甘さなど欠片も感じない。
 もとより闘争をしか望まず、抱擁を受けることの意味など捨てているのがこの男であった。

「塞。鼎二尉。不律。マリリン・スー。魏。
 終わりを認めたか、再会を思ったか、終わらないことを告げたのか――。
 それぞれ違いはありましたけれど、彼らは貴方を知らずして、何かを知っている貴方の言に応えていた」

 ゆえにこそ、女の側も遠慮なく彼の弱みというべきをついていた。
 これから自分は死ぬのだからという前提を掲げ、不死の力やムラクモの憂慮した『星』の意志と一体化している
事実を示して彼の絶対性を喪わせ、彼の知らないことや経験の薄い状況を盾にとって毒を含んだ言葉を紡ぐ。
 そうして自分が何かを知っているものだと感じてもらえるように立ちまわって受け身をとらせ、これでもまだ
足りぬとばかりに、孤独を望む彼が思いもしない相互的な関係を、他者のぬくもりというべきなにものかを――。
 おそらくは最も理解に易いであろう、肉のつながりをとおして迫ってさえいる。
 そこまでした濡れ女にとって、この武官の手筋は容易に突き崩せるなどとは思えぬものであった。

「神はいないと告げられて、最期には完全者に『乗られた』アノニム・メレル・ランバス。
 個性の育ったエレクトロゾルダートに電光戦車。後者は貴方自身がヴァルハラに送ったのでしたか。
 アドラーという方には、危うく出し抜かれかけたようですけれど……貴方がここにいるのが何よりの証ですね」

 たとえばアカツキのやり方では、ムラクモは止められない。
 彼は『ムラクモの問いに答えない』という形で彼の力が及ばぬ状況を作ったが、それでは彼の望む人類虐殺計画は
止められない。電光機関と複製體を作る技術が別個に存在する以上、この男は歴史の闇に留まり続けられる。
 逆に、鼎二尉や魏のようにムラクモを追っていたしても、やはり彼は止められない。
 周到に布石を打って相手の敵意を引き出し、それを折ってゆく武官の真意を誰も知り得ず、その謎がゆえに彼へと
引き寄せられていく者は、飛んで火に入る夏の虫と本質的には同じだ。
 彼を追う間に、全体状況は彼と彼の動かす『人口調節審議会』の有利な方向に展開されていく。
 ここで転生を待つ完全者が首魁となった教団による横槍さえなければ、十中八九そうなっていた。

  ――まぁ……当然といえば当然ですか。【秘密】など、戦いに勝っても知ることはかないますし。

 そうと思ってみたところで、如何せんため息は漏れるものである。
 ムラクモの野望を止めようとする者はいても、誰も彼を知ろうとはしないのだ。


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