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あと3話で完結ロワスレ

223剣士ロワ第299話「ぶつかり合う魂」 ◆9DPBcJuJ5Q:2013/01/27(日) 00:29:06
「確かに、わしは肉体のみならず心までもが闇に染まり、蝕まれておった。闇を喰らったが故では無く、己が裡より溢れ出た心の闇に溺れてな。……だが、お人好しの聖騎士が、我が心に僅かな光を灯してくれた。ただ、それだけのことよ」
 歌と踊りが誰より得意な、陽気で明るい好青年だった。騎士というよりも踊子か旅芸人の方がしっくりくると言ってしまえば、本人は嘆くだろうか。
 スプラウトがこの殺し合いの舞台で“鬼”と見紛う剣士との戦いの後に出会ったのが、そんな愉快な聖騎士――カイだった。
 カイは、スプラウトが殺し合いに乗っているにも拘わらず、手当てをして動けるようになるまでの護衛まで買って出たのだ。
 何故こんなことをするのかと問うても、へらへらと笑いながら、のらりくらりとかわされるのみ。
 その後も成り行きで、カイの言動に流されるまま行動を共にするようになった。
 カイの真意を聞くことができたのは、彼の死の間際だった。
 スプラウトを庇い、カイは致命傷を負ってしまった。
 何故、殺人者の自分を庇ったのだとスプラウトが問うと、カイはこう答えた。
 スプラウトの目が、泣いているようにしか見えなかった。
 振るう剣も、大切な人を失った悲しみとやり場の無い怒りを、目の前の敵に叩きつけるようにしか見えなかった。
 昔、初陣の折に大勢の僚友を失った、自分と重なって見えた。
 そんな悲しいおじいさんを、放っておくことなどできなかった……と。
 言い終えると、即死を免れたのが奇跡としか言いようの無い重傷を負いながら、カイはマラカスを握ったままバラを取り出す手品をスプラウトに見せた。
 そして、スプラウトの反応を見ると、穏やかに微笑んで――そのまま、逝ってしまった。
 スプラウトは、泣いた。半世紀ぶりに、最愛の家族を失った時以来に、紅く染まった双眸から透き通る涙を流し続けた。
 やがて、まるでその涙がスプラウトの心を洗い流したかのように、泣きやんだスプラウトの心からはサルファーへの憎悪と復讐衝動が消えていた。
 胸に残ったものは、サルファーに奪われたとばかり思っていた温もり。
 今まで自分が持っていた、それなのに忘れてしまっていた、大事なもの。
 そうだ、あの気が狂う程の悲しみは、自分がそれまでどれほど大切なものを持っていたのか、共にいられたのか、その証だったのだとスプラウトは悟った。
 ブリアンの為にするべきは復讐では無く、彼女の為に心の底から泣いて悲しむ。ただそれだけのことで良かったのだ。
 そして、カイがスプラウトにくれた優しさも、今もこの胸に共に在る。
 心に確かな光を宿した――取り戻した今、スプラウトが闇に屈することなどあり得ない。
 今の彼こそ、イヴォワール最強の剣士“輝ける聖剣”スプラウトなのだ。
「……そうか。紅の瞳を保ったままであるが故に見落としていたが……抜かったわ。よもや、天の刃が後天的に生まれようとはな」
 司馬懿はスプラウトの話を聞き終えると、忌々しげに呟いた。
 光の戦士の他に存在する、もう1つの闇の宿敵。
 闇の力を宿して生まれながら、その闇の力を御して闇を斬り裂く者――天の宿命に刃向かう、闇の裏切り者。
「天の刃……?」
 スプラウトはその言葉を不思議そうな表情で繰り返す。
 自分の存在が更なる変質を遂げたことに、本人すらも気付いていなかったのだ。
「闇であって、闇にあらざるもの。宿命を知らず、運命を解さず、天命を心得ず、天の意志に刃向かう逆賊よ。死ぬがよい」


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