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あと3話で完結ロワスレ

443300:ウソツキハッピーエンド ◆YOtBuxuP4U:2013/04/10(水) 22:52:33
  
 立ち上がり、窓の近くまで行って少女は外を見る。
 広がる箱庭学園の風景――彼女たちが生きてきた場所を見て、思う。

「贅沢な考えだとは思うけど。どうせ死ぬならこう、あたしはここにいたぞ! って気持ちを、
 どこかに、ずっとずっと、少しでも長く残しておきたいって思うのは、間違いじゃないと思うんだ。
 特にあたし達は、この学園で――安心院さんの気まぐれ次第じゃ、
 自分自身の気持ちなんて持てずに、駒みたいな生き方しかできなかったかもしれなかった。
 でも今は、ルールなんてぶっちぎって、安心院さんに抗えてる。
 そういうことが出来るようになった。せっかく出来るくらい、自分が出来て、育ったのにさ。
 あたし達を誰にも伝えられずに死ぬなんて――嫌なんだよ。やなんだ。みんなだって、そうでしょ?」

 最期のほうは少し熱っぽくなりながら。依真は他のメンバーに問いかけた。
 打ち消し線を外して、メガネも帽子も外して、もはや彼女を彼女と定義づける記号は一つもない。
 だけど瞳に遺志を帯びた顔をしている彼女は、誰がどう見ても財部依真以外のなにものでもなかった。

 安心院なじみ。
 自分以外を悪平等に大したことはない存在だと定義する全能少女。
 フラスコ計画を潰した黒神めだかから主人公をはく奪するために、彼女が送り込んだ5人の「普通」。
 「普通」であるがゆえに警戒されず、
 「普通」であるがゆえに作戦の要を担った5人の候補生たちは、最初はただの記号の集まりでしかなかった。

 でもいつのまにか、記号なんて無くても個人を個人だと判別できるくらいに、育った。
 ただの記号に人間としての色がついて、自分として独立することができた。
 それなのに。誰にもそれを伝えられないまま、彼女たちはもう死を選ぶしかない。
 彼女たちが成長したことを知っている人々もみんな死んでしまっているから、
 この状況でみんなで死ぬことを選んだという彼女たちの想いすら、このままだと知る人はいないまま。

「……機械的に言わせていただくと」

 依真の言葉に最初に返したのは、希望が丘水晶だった。

「私はアンドロイドですから、死んでもこの体の中にメモリーは残ります。
 ですから、もし後日に私の死体からこのメモリが解析されれば、
 この場で私たちが選んだ決断、それ自体は知られることになるでしょう。ですが」

 反語を呟くと、水晶は関節部を動かして自らの背中に手を回す。
 そしてカチリと脊髄のあたりにあるバックカバーを開けて、中から小さなメモリを取り出す。
 四角いチップ型のそれは希望が丘水晶の誕生からこれまでの記録を収めているメモリだ。
 無表情のまま――希望が丘水晶は、それを自らの手で、
                              折った。

「え?」
「ノゾミちゃん!?」
「な……」

 ぽきり。
 とメモリが折られたことで、希望が丘水晶の外部保存領域は消滅した。 
 残る記憶領域は、せいぜい人間と同じ程度の重要事項しか残さず、
 電源が落ちれば0になるローカル領域だけ……つまり、他の4人と同じくらいの記憶だけ。

「メモリはあくまで記録であって、その場での感情を記した思い出ではありません。
 だからタカちゃんの想いを受け取るならば。思い出を残すためならば。
 この記録はむしろ、ノイズであると判断しました。――間違いだったでしょうか?」

 自らアンドロイドとしての利点を捨て、希望が丘水晶はそれでも笑顔を作った。
 もうこれでいよいよ本当に、5人が死んでも何も残せなくなったのに。
 36時間眠っていて話に関われなかったことさえ残せなく――――残「ら」なく、なったのに。


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