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あと3話で完結ロワスレ

181それはきっと、いつか『想い出』になる物語 ◆6XQgLQ9rNg:2013/01/13(日) 21:49:48
「さっきのお城が急に揺れ出して崩れ始めたそのとき、目の奥にふわふわした――ぼんやりした雲みたいなものを感じて。
 わたしの中に、世界が入ってきたんです」

 トトリはこう言うのだ。
 誰かが望んだ虚ろな世界がナイトメアキャッスルの崩壊と同時に滅び、それが彼女の精神に根を張り、巣食い、寄生したのだ、と。
 虚軸<キャスト>の定着。
 それによりトトリの人格には世界が固定され、彼女は虚ろなる世界とひとつになる。
 結果、トトリは虚軸<キャスト>にまつわる知識を得た。同時に、その世界を支配していた法則を、力として行使できるようになった。
 ああ、そうなのか、とヴァージニアは得心する。
 殊子は言っていた。
 虚軸<キャスト>を身に宿すということは、欠落を抱えるということだ、と。
 トトリは壊れたのではない。世界と引き換えに何かを失ってしまったのだろう。 
 それは、決して幸福ではないのかもしれない。 
 だがヴァージニアには、不幸だと断じることはできなかった。
 何故ならば。
 今トトリは、生きているのだ。
 数多くの犠牲と悲しみの果てで、トトリは確かに、ここにいるのだ。
 それを不幸だと言ってしまったら、トトリの命と、最期にトトリへと微笑みかけた殊子の意志を否定することになってしまう。
 そう、思うのだ。
「このアトリエは、わたしに宿った虚軸<キャスト>の力です。この虚軸<キャスト>は、夢と現実の境界を曖昧にできるんです」
 トトリが、両手を浅く広げる。
「ここは、夢の世界でもあり、わたしが知っている現実でもあります。でも――」
 と、トトリはアトリエの天井を見上げ、呟いた。
「わたしは、夢の世界の住人じゃないから。夢の中に、現実は定着させられません」
 トトリの視線を追う。
 天井の輪郭が曖昧になっており、今にも消えてしまいそうになっていた。 
「もうすぐ、このアトリエは現実へ――アーランドへ、還ります」
 アーランド。
 それはトトリが生まれ生きてきた世界。
 ファルガイアでも、ロストグラウンドでも、稲羽市でもない、トトリが帰るべき場所。
「このままだと、俺らもそこへ行っちまう、ってことか?」
「はい。アーランドに戻った後でも、もう一度力を使えば夢の世界には来れると思います。
 けど、ここから皆さんを、それぞれの世界に送り届けることはできないんです……」 

 申し訳なさそうに縮こまって首肯するトトリ。その手を、クマがぽんぽんと叩いた。
「だいじょぶクマ! ちゃあんと帰る方法は用意してあるクマよー」
 クマが、ぐっ、と親指を立ててみせた。
「え、そうなんですか? さすがクマさん!」
 トトリがぱちぱちと手を叩く。純真な瞳に見つめられて、クマは少し後ずさった。
「ほ、本来はクマテレビで皆さんをお送りしたいところなのですが? その、あれはその、今はお休み中でして?」 
 露骨に目を逸らし、口笛を吹くべく口を尖らせる。ひゅーひゅーと、空しく吐息が漏れた。
 そんなクマにくすくすと笑い掛け、ヴァージニアはポーチからペンダントを取り出した。
 それは、傷ついた天使からユルヤナの老師へと託され、アニエス・オブリージュへ手渡されたペンダント。並行して存在するルクセンダルクを繋いだ、ペンダントだ。
 これこそが鍵だった。
 無数の並行世界を繋いだように。
 この鍵で、夢の世界からあらゆる現実へ繋がる扉を開けるのだ。
 眩い光を湛えたそれを、クマへと差し出す。
「お願い、クマ。あなたに任せるわ」
「クマが、やっていいクマ?」
 ええ、とヴァージニアが頷く。任せるぜ、とカズマが首を縦に振る。
 応じるように、クマも強く頷き返し、その手でペンダントを受け取った。
「よーし! やったるクマァッ!」 
 クマは、力こぶしを作ってみせ、
「そいやぁッ!」
 宙へ、ペンダントをぶん投げた。
「開けぇー、クマッ!」
 ペンダントはまるで意志を持つかのように宙を飛び、アーランドへ還りつつある扉の前で制止する。
 光が、解き放たれる。
 外へ。
 外へ。
 光は回廊を形作る。
 長い長い回廊を、形作る。
 曖昧となっていくアトリエを起点とし、集合無意識の沃野を貫くその回廊は、何よりも煌々と輝いていた。


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