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あと3話で完結ロワスレ

169素晴らしき小さな戦争(0)雨時々僕たちまち君 ◆MobiusZmZg:2013/01/12(土) 19:37:22
 現人神。万物の理と定めた、闘争を支配せんとするもの。歴史の闇に消えた帝國陸軍武官。
 数多の複製體をもつ『アカツキ零號』にして、『完全者』となって転生の秘蹟を得てしまったもの。
 負けるという逃げ道を己に許してしまった矛盾の塊の裏にあるものを探ろうとしないことにルツボが疑問を
覚えられたのも、ひとえにルツボが斜歯忍軍の手によって作られ、忍者の流儀を身につけたことに拠っている。
 また、たとえ【秘密】を探ったところで、必ずしも行動方針が固まるわけでなく、その【秘密】に――相手の人間へ
目を通した際に抱いた思いによっては、もはや刃を交わすことさえ出来なくなるときもあると知っていた。

「それと、そこでひととき眠りについている完全者。ミュカレ。
 思いを忘れるほどの時間を生き続け、終わりえぬ夢を見る絶望は、果たしていかほどのものでしょうか」

 知っていたところで、この問いを止める道理もない。
 常世であろうと地獄であろうと、九重ルツボは日向影斗にもう一度逢いたいのだ。
 涙をこぼしでもしなければ自分を「可愛い」とさえ思ってくれない少年に、風のような『忍神』に。
 影斗の心に別の誰かが住んでいようとも、自儘や無謀のそしりと受けようとも、いい。
 彼や彼の仲間を喪って泣くことの出来た自分の心に、優しいそよ風を吹かせて欲しいのだ。
 甘く腐って香る昂揚が、腐っているから胸に貼り付き、不老不死の九ノ一の魂をすら侵蝕してゆく。
 侵蝕が度合いを加速させる一因は、皮肉にも自分の恋したものが仇の肉体であった。
 筋肉の充実さえ『電光被服』と呼ばれる軍装に隠したムラクモの、それでも隠すことのかなわぬ首の付け根。
 雪花がごとく色の抜けた皮膚に唇をつければ、どくり、どくりと、彼が燃やす命の鼓動が伝わってくる。
 自身の操る水の牢獄にあってなおも解けぬ仇の体を、あたたかいと感じた――そのときだ。
 黒手袋に包まれた五指で、顎を引き上げられた女と、男の視線が交わることなくぶつかり合う。
 その手を取って自身の胸元にすべらせながら、女は終わりに続く言葉をほうった。


「最後にムラクモ。アカツキ零號。あなたは、彼らに幾度殺されますの?」


 水より生まれた身体を、探りも求めもしない男の『心臓』へたどり着くために。
 第二次世界大戦の直前に作られたルツボは、根の部分でムラクモを理解出来ていない。
 彼女が打った布石の意味を理解して、いま動かないことを選べるほどに頭の回る彼と、あの言葉が噛み合わない。
 自分の大義を語るにあたって、産業革命などという大仰な単語を持ちだしてくるのはまだいい。
 だが、闘争を支配するとの言を実現させるにあたって、なぜ、この男はここまで自分の人間を隠してしまったのか。
 ……顔が見えない相手には、容赦なく拳を振り落ろせる。
 そうして殺したムラクモを見れば、敵手ははじめて闘争のなんたるかを知るのかもしれない。
 きっと、それも間違いではないだろう。
 けれどもここにあるルツボにとって、徹底的なまでに行われた隠匿は、ひどく滑稽なものに見えた。
 色に溺れることなく、権力に憑かれることもなく、闘うものを睥睨し続ける道を選ぶことの出来た頭のいい武官。
 それが初手から手を歪ませ、無様な姿を晒している。
 この構造を知ったからには、なんとしても聞かねばならない。
 そこまでして守りたいものが何なのか、ここで掴まなければならない。
 相手の欲するところを聞かねば、嫌がらせをしていくこともかなわないのだから。

「いったいどういう殺され方をしたら、あなたは満足出来るのかしら。
 貴方ほどに死んでしまった魂の持ち主など、きっとどこにもいませんから――」
「……サー・ウォルター・スコットだな」
「あら、碩学の人でもありましたの? 新たな魅力ですわねぇ」

 くすくすと笑いながらも、すべって落ちただけの手に失望を覚えなかったといえば嘘になる。
 異性の趣味については、自分とて立派なことを言えたものではないのだが、それでもこの武官に対する期待を
傷に垂らし続けただろう完全者の死体が、ルツボの意識で始まりの笛<ギャラルホルン>を歌わせはじめる。
 自分のような『女』の身体でなく、少女の姿をしていた魔女には、すこし同情出来るような気がした。
 血の色をした瞳に揺らぐ焔を宿したムラクモのように、相手がそれを求めていなくともだ。


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