[
板情報
|
カテゴリランキング
]
したらばTOP
■掲示板に戻る■
全部
1-100
最新50
|
1-
101-
201-
301-
401-
501-
601-
701-
この機能を使うにはJavaScriptを有効にしてください
|
あと3話で完結ロワスレ
676
:
ep298.主人公はもう居ない
◆LO34IBmVw2
:2013/08/22(木) 22:24:59
【30:00ーー岩倉玲音とピノの場合ーー】
あれから、自由行動ということになったので、玲音はピノと一緒に散歩することにした。
いくつか部屋を見て、それから辿り着いた廃ビルの裏口には、ハンス・ウェグナーのYチェアが二脚、ぽつんと置いてあった。
一脚は苔と黴に覆われ自慢の曲線美は失われてしまっていたが、もう一脚は比較的新しく、岩倉玲音はそこに腰を下ろした。
「何をしているの?」
玲音が小首を傾げながら尋ねた。ピノは落ち葉が重なった地面に、木の枝を立てているところだった。
「おはかっ、つくってるの!」
ピノは玲音へ振り向いて、大きな声で答えた。顔は泥だらけだった。
「……桐敷ちゃんの?」
玲音はノートパソコンに何かを打ちながら訊いた。エンターキーを打つと同時に、ピノの体がびくりと大きく跳ねた。
ビルの入り口からは太い細いが入り乱れた様々なコードが溢れ、玲音の持つパソコンやその周辺の大きな機材、そしてピノの背中とを繋いでいた。
「うん。うごかなかったから。うごかなくなったら、おはかをつくるんでしょ? ビンスがおしえてくれたよ」
今度はピノの声は聞き取れないほど小さかった。玲音の指がパソコンに何かを打ち込む。当たり前の様に、ピノの身体がびくんと跳ね上がった。
「ピノはビンセントさんが好き、なんだね?」
「すき?」
「えっと、違うの?」
「ううん。すきって、なにー?」
ピノが小首を傾げる。愛玩用だから辞書をインストールしておかなかったんだね、と玲音がパソコンのモニタを見ながら小さく呟いた。
「ピノ、すきってわかんない。だけど、ビンスはほうっておけないやつ。だからピノがついてなきゃいけないんだ」
ピノは鼻の頭を擦って、したり顔を浮かべた。玲音は目を白黒させた後、肩を揺らして小さく笑った。
「ふふっ。ピノと話してると、不思議な気分になるよ」
ふしぎなきぶん、とピノは歌う様に繰り返す。ふしぎな、きぶん?
「ともだち、だから?」
「ふふふ、そうかもね?」
玲音は口元を隠して笑うと、キーボードを指で静かに叩いた。
画面は暗い緑色のスクリーンで、意味ありげな文字列がずらりと並んでいたが、それを覗いたピノには意味がさっぱり分からなかった。
「……ねぇ」数分の沈黙の後、玲音は思い出した様にそう切り出した。「ピノは人が動かなくなったのを見たって言ってたよね?」
ピノは苔の生えたYチェアーの上でピアニカを吹いていたが、玲音の質問にうーんと唸る。
ピアニカの唄口を咥えたままだったので、警笛を失敗した様な間抜けな音が鳴った。
「ラッカがね、くびをしめてっていうから、しめたの。そしたらうごかなくなっちゃったんだ。ピノ、びっくりしたな。
れいん。あれがみんなのいう、“しぬ”ってことなんだよね?」
玲音の指がするするとキーボードを走る。スクリーンに浮かぶ小窓にはRakka、と黄緑色の文字が浮かびあがった。
エンターキーを押すとほぼ同時に、ずらりと何かの一覧が新しいウィンドウで飛び出した。そのうちの一つがタブで選択される。
玲音はそれをドラッグして、haibaneというフォルダにドロップした。
「うん。そうだよ」
「ピノにはすこしむずかしいな」
ピノが口を尖らせて言う。玲音は手を止めて、ピノの頭を猫耳フード越しに撫でた。
「れいんはわかってる?」
「私にも、難しいよ。リアルワールドでの死なんて、解らない。意味も、価値も。知りたいと思った事も、ない……から」
「ふうん……?」
玲音は熊耳のついたフードを深々と被って、目の前に広がる景色を見た。
小さな枝が墓標の様に地面に刺さっていて、しかしその下には死体は埋まっていない。
コギトに感染し、死んだ事を理解できて、弔いの文化や墓について知っていても、そこには感情と意味が欠落していた。
人が死んだら、墓を作って弔わなければならない。ピノはその一文を条件と結果の一致としか見ていなかった。
「ピノは今、幸せ?」
新着レスの表示
名前:
E-mail
(省略可)
:
※書き込む際の注意事項は
こちら
※画像アップローダーは
こちら
(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)
スマートフォン版
掲示板管理者へ連絡
無料レンタル掲示板