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あと3話で完結ロワスレ

180それはきっと、いつか『想い出』になる物語 ◆6XQgLQ9rNg:2013/01/13(日) 21:48:38
 ◆◆
 
 波が引いてゆくように。雪が解けてゆくように。アトリエから、涙の色が薄れていく。
 ヴァージニアが二人から手を離すと、トトリとクマは揃って目をごしごしやっていた。
「もう、大丈夫かな?」
 問うと、頷きが返ってきた。
「すみません、もう、大丈夫です」
「クマも、ダイジョウブよ」
 おどけるように、クマはくるりと回転する。
「トトチャンとヴァニチャンのハグがー、クマに元気をくれたクマぁ」
 とりあえず叩いておいた。
「さてそれじゃあ、聞いてもいいかな」
 ごほん、と咳払いをして、ヴァージニアはトトリを見る。
「ナイトメアキャッスルが崩れて、電界25次元に放り出されたわたしたちを、トトリが助けてくれた。っていう認識でいいのかしら?」
「わたしは何もしてないです。このアトリエを拵えただけですから。
 お二人が助かったのは、皆さんが夢に溶けない強さを持っていたことと、クマさんがアトリエから皆さんを呼んだからだと思います」
 
 クマに、視線が集中する。クマは腰に手を当て、得意げに胸を張っていた。
「夢の世界は、クマがいた世界とおんなじクマ。だからクマは、目隠ししてでもここを歩けるクマよー」
 と、言葉を切って、クマが突然もじもじとし始めた。
「そしたらー、トトチャンの匂いがしたからー、それを辿ってトトチャンハウスにお宅訪問しちゃったクマー!」
 クマは膨らんだベッドや鉱石の詰まった棚、巨大な釜を興味深そうな視線で見つめる。
「に、匂い……。わたし、匂うのかな……そりゃあ、調合の時にクサい素材使ったりするけど……。
 って、わわ、恥ずかしいから見ないでっ!」
 慌てるトトリは妙に可愛いなと思いながらも、ヴァージニアはクマをもう一発叩いておいた。
「女の子の部屋をじろじろ見ないの。もう、せっかく呼んでくれたことのお礼を言おうと思ったのに台無しだわ」
 それにしても、クマを叩いたときに返ってくる弾力はえらく小気味よい。クセになるかもとヴァージニアは思う。
「アトリエとか部屋とか言ってッけど、だいたいここは何なんだよ? おかしいだろこれ。なんで家が浮かんでんだよ?」
「おお、カズマがまともなことを言っとるクマ……!」
「カズマー、殴っていいわよー」
 クマの背中を押し、カズマへとシュートする。カズマ自慢の拳がクマにめり込んだ。
「ぐぼッ!」
 座ったまま繰り出された拳でも、力はそれなりに乗っていたらしい。
 クマの身が、アトリエをごろごろと転がった。
「おぉ、なかなか殴り応えがあるぞ……!」
「でしょー。いい手応えしてるわよね」
「しどいッ! ときどきヴァニチャンが鬼に見えるクマッ!」
「あのー……」
「あ、ごめんね。話の腰折っちゃって」
 三人を見回すトトリに謝罪すると、彼女は慌てて首を横に振った。
「いえ、その、わたしも叩いてみたいなーと、ちょっと思っただけで」
「ト、トトチャン……。ぷりちーなお顔から飛び出るキレのあるお言葉に、もうクマは、たまりませんッ!」
 ヴァージニアは拳を作り、叩き下ろすジェスチャーをトトリに見せた。
 その真似をするように、ぐっ、と拳を作り、トトリはクマを叩く。ぽくっ、と、可愛らしい音がした。
「よっし、それじゃあ真面目な話の続きをしましょうか。このアトリエが何なのか、教えてもらっていいかしら?」
 はい、と頷き、トトリは口を開くのだった。

「これは、わたしがずっと過ごしてきたアトリエです。夢じゃない、現実のアトリエなんです」

 三人の目が、点になった。
 理解ができない。意味が、よく分からなかった。
「え、えーっと。それも、錬金術?」
 呆然としながら尋ねると、トトリは首を横に振り、
「まさか、違いますよー」
 そして、更に驚くべき発言をするのだった。
「わたし……固定剤<リターダ>になっちゃったみたいなんです」

 沈黙が、アトリエに落ちて広がった。
 
「……へ?」
「固定剤<リターダ>って……」
「舞鶴や殊子と同じヤツ、なのか……?」

 理解が追い付かないままの三人に、トトリは、はい、と頷いたのだった。 
 昨日の夕飯を思い出すかのような気軽さで、訥々と語り出す。


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