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あと3話で完結ロワスレ

270【298話:それはのばらのように】  ◆xo3yisTuUY:2013/01/31(木) 23:57:03

「薔薇の誇りは、そう簡単に、傷つけさせられるものじゃないぜ――!」

 阿部の声が一際大きくなった。
 刹那、鯨の表情が僅かに歪み、突然身を捻るように仰け反る。
 一瞬遅れて、その場を疾風のような刃が掠めた。
 鮮血が飛ぶ。鯨の巨体の肩口に、鋭く斬跡が入る。

「ちっ……見破られたか」
 阿部が呻く。
 彼が喋り続けていたのは、それから意識を逸らさせるためであった。
 だがこの相手は、プロだ。だから、それに気付いたのだろう。

 紅い人形が、僅かに血の光沢の残った刀を翻して、鯨に迫る。
 鯨はライフルを大きく後ろ手から回し、素早い動作で人形に照準を合わせた。
 ハッと身体を固くしたその人形の一瞬の隙に、鯨は銃撃を加えることなく、大きく飛び退いた。
 奇襲を受けた時は、迎撃に徹するのではなく、その場を放棄して退却し、態勢を整えるのが、殺しを生業とする者達の鉄則だ。
 鯨は、その巨体に似合わぬ素早い動作で、階段へ続く通路へと身体を翻した。

 紅の人形――真紅は、それを追い大地を蹴る。
「追うな、やつはプロだ」
 阿部の一声に、真紅は足を止めた。阿部に振り向きはせず、背中を見せたまま、鯨の消えた通路を睨んでいる。
「そうね。ただ私も、ある意味プロなのだけど?」
「奴は――戦いのプロというよりは、殺しのプロだ。いや、死のプロ、か。
 逸っても、いいことは無いぜ」
 
 倒れたままで説教とは情けないがね、と阿部はぼやくように言った。
 真紅は嘆息する。

「まぁ、あの子を置いてもいけないし、貴方の言うとおりだわ。
 るか! 大丈夫よ、来なさい」

 真紅が声をかけると、下の階段から、漆原るかが恐る恐ると顔を出す。
 奇襲を仕掛ける以上、身軽な自分が一人で戦ったほうがいい。真紅はるかを、そう諭して待たせてあったのだ。
 尤も、彼女自身の実力はともかく――彼女が武器と言って憚らない、あのレプリカの刀では戦力とも言い難いというのが、本心のところであったのだが。

「あいつはどうやら次の階へ逃げたみたい。待ち伏せしているのかもしれないから、油断はならないわね」
 阿部に背中を向けたまま、真紅は階段の向こうから視線を外さない。
「逃げた、とは極めて主観的だが――まぁこの階から消えたのは間違いなさそうだな。
 だが、その先に水瀬伊織が――行っている。すまないが、追いつかれる前に、頼む」
「――伊織。ああ、容姿は、人から、聞いているわ。了解よ」
「ひとつ、気をつけてくれ。あいつに意識を傾けすぎるな。奴の目の前では、死に――駆り立てられる」
「自殺させる能力者、だったかしら。それも、他の子から聞いたわ。
 死の色が、あまりに濃すぎる人。傍にいるだけで、『死に近くなる』って――。
 でも――。大丈夫。それに引き摺り込まれたりしないわ」


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