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あと3話で完結ロワスレ

295SLBR・289-a: 素晴らしき小さな戦争(Ⅰ) ◆MobiusZmZg:2013/02/02(土) 17:19:25
 どうしようもない。
 諦観を全面に出した言葉は、苦い酸のようにテトリスの胸を灼いていく。
 足りないのだ。どうしようもない人間を、どうしようもなくはない者にするには手数も時間も足りない。
 そして、どうしようもない人間を、どうしようもないままで抱えていく考えを、よりによってこの自分が表明している。
 いずれ世界が滅ぶなら、それを続けと願うなら。この戦いとて、ここで、終わっていくしかないのだ。

「春の花ってのは……この、白梅じゃあなく」
 だから、せめてものこと、騎士は花白の名が持つ意味を問うた。
 救世主として生まれたというのに人としてしかあれず、人としての玄冬や白梟、銀朱らをしか愛せずに――。
 そうであったというのに、死に方だけは人のそれというには異常な少年を表すものが何なのかは知っておきたかった。
「桜だよ。救世主が玄冬を殺すと、せかいに降り積もった雪は、すべて春の花に変わるんだ」
 誰の願いにも添えないまま逝く少年の笑みがおぞましいと思えても、知っておかねばならなかった。
 その花白は自身の未熟にも無知にも気づかない様子で、自分が言った言葉に対してひどく素直な唸りを漏らす。
「まいったな。僕が死んだら、アカツキの記憶戻っちゃうや」
「『白の力』で、何かの記憶を封じているのか」
「そ。アイツは自分で自分の始末をつけようとしてた。首を斬るヤツも――腹を、切るようなヤツも同じだから」
 自分の名前の意味と、ひとの死を同列に語れることの意味に、そのとき、テトリスも気づいた。

「だから、僕はきっと……僕みたいでさ。アイツのことも、好きじゃなかった」

「いいさ。べつにそれでも」
 気づいて、しかし、触れなかった。
 自分が何をしているか、どれだけ莫迦なことをしているかを、この少年は知っている。
 だから最期に、花白はアカツキを嫌っていく。莫迦なことはこれで最後にしろと、間違ってはいないのに歪みがすぎて
届きもしない伝言を、届きもしないという程度では諦めることなく残していく。
「もうちょっと、まともに育てとは思うんだが」それなら、それで良かった。「とりあえず、お前はボクを信じたんだ。
その回りくどい伝言は、とりあえずヤツが生き残ってるかどうかを確かめてから伝えるさ」
 ノー・クォーター、ノー・プロットの、どこにも繋がらない劇に、これ以上続けと願う趣味はテトリスにない。
 それは、硝子の剣の刀身を返した花白も同じだった。

「……闘いはまだこれからだ。これからボクは王になる。
 いつかも言ったが、王でなけりゃダメなんだ。王として、《民》が始めたこの魔戦を終わらせてやるには」

 硝子の剣が、瞬間、輝きの質を変えた。
『白の力』を受けた刃は、よく練磨された鋼のように冴え渡った煌めきをのぞかせる。
 あとに残ったものは、幼児のような首肯と、テトリスの周囲に纏い付く魔素。
 災厄の王子を縛ってとどめた『白の力』の、成れの果てたる思いであった。



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