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あと3話で完結ロワスレ
673
:
ep298.主人公はもう居ない
◆LO34IBmVw2
:2013/08/22(木) 22:10:48
【50:08】
「悪かった、鈴木のおっさん」
「へ?」
俺がトイレから帰ってくると、佐藤さんが鈴木さんに頭を下げていた。何事かと俺は彼等の会話に耳を傾ける。
「やっぱりさ、無理だった。耐えられねーよ。もうあんな思いをするなんて二度と御免だ」
佐藤さんは力無く笑っていた。俺は漸く状況を理解する。きっと桐敷を殺す時のあの口論の謝罪なのだろう。
「い、いや俺だって悪かったんだしっ……謝らないでいいって、佐藤くん」
「駄目だ。謝らせてほしい。……だけど、これだけは言いたいんです。
俺は考える事を止めたわけじゃない。やっぱり色んな事考えちまうよ。でも俺には優勝は無理なんだ。脱出も。
もどかしいけどこればっかりは仕方無いんだよな。力も覚悟も勇気も頭も、足りねぇ。俺、馬鹿でヘタレですから。
貴方達がやろうとしてる答え意外、選択出来なかったんです。それが一番……楽だったから」
「佐藤くん……」
ピアニカの音が階段の方から聞こえていた。譜面は多分、小瀬村晶の“light dance”だった。
透き通った音は確かに綺麗だったが、佐藤さんの苦い表情と固く閉じた拳とは、その雰囲気と曲調は酷く不相応だった。
「なぁ、引企谷」
「ん?」
「確か球磨川は“無かった事に出来る”んだったよな?」
佐藤さんは不意に何かを思い出した様に顔を上げると、手を濡らしたまま立ち尽くす俺にそう質した。
「……少なくとも黒神と都城と行橋と不知火は、そう言ってました」
俺はソファに腰を下ろしながら応える。
尤も、今はその眉唾情報を確かめる事すら叶わないのだが。
「『大嘘憑き(オールフィクション)』。現実(すべて)を虚構(なかったこと)にする能力、らしいですよ」
正直不知火から聞いた時は半信半疑だったが、黒神と都城から聞けば納得するほかなかった。
ラノベ顔負けな設定だが、スキルや魔道具とかいうものがあった以上、ファンタジーも最早ファンタジーではなくなりつつある。
いや、それでも十分中二っぽいファンタジーなのだが。
「だよな……尚更お手上げだわ。何でも有りじゃねーか。そんなのチートだぜ、チート。
“ぼくがかんがえたさいきょうきゃら”かよ。MUGENなら糞キャラ扱いだぜ?
アクションリプレイでもそこまで出来ねぇよ」
佐藤さんは肩を竦めて諸手を上げ、そして諦めた様に笑った。
「認めるよ鈴木さん。俺は負けた」
「……でもっ、佐藤くんは俺と違って迷って決めた事、だろ?
なら、産まれた時から負けてたと思ってた俺よりは、ずっとマシだと思うけど……ど、どうだろう?」
「よしてくださいよ。結果は同じじゃないですか」
胸ポケットから桃印のマッチを取り出しながら、佐藤さんはあからさまなフォローを嗤った。
「俺の方が、よっぽど道化ですよ」
深い溜息と共にそう続けて、佐藤さんはソファに深く腰掛ける。カリモクソファーの木製脚がぎいと軋む音を上げた。
鈴木さんは中空に目を泳がせて、開きかけた口を閉じる。それ以上二人の間で言葉が交わされることはなかった。
遠くから、下手糞な“light dance”が聞こえている。部屋の隅の窓の外には、月が浮かんでいた。
天井から垂れ下がる電球に、小さな蛾が一匹、体当たりを繰り返していた。
本棚の影では、岩倉が体育座りをしたまま膝にパソコンを載せ、一心不乱に何かを打ち込んでいる。
俺は時計を見た。あと46分で俺達はこの世から消えてしまうというのに、時計は素知らぬ顔をして秒針を進めている。
針は細く、動きは軽やかで、死のタイムリミットは余りにも軽々しく進んでいた。
きっとあと46分後にも、一秒もずれることなく時計の針は進むのだろう。
俺達の命は、あんなに細い時計の秒針一つ動かせない。
そんなものなのだ、人の命なんて。
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