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あと3話で完結ロワスレ

288SLBR・289-a: 素晴らしき小さな戦争(Ⅰ) ◆MobiusZmZg:2013/02/02(土) 17:16:38
 同時に、テトリスの脳は、写り込んだ過去にこめられた感情でもって直截に揺らされる。
 白い部屋の壇上にあがった男の、秀麗な顔立ちを引き立てるプラチナブロンド。許容や妥協の一切見受けられぬ峻厳な双眸。
胸の、ざわつくものの源を眺めないという選択を下すことも許されない少年は、必死で思いの源を探った。
 憎い。思い自体は強く烈しいが、そうではない。憤懣に近いものや、さらに未消化な衝撃は街の様々なモニタへいちどきに
映る男にも向いているが、何よりまず、この思いを感じた者と、それを追憶するテトリス自身にこそ牙を剥く。

(なぜだ。なぜ――? 疑問、を……叩きつけたいと思っているのか、こいつは)

 おそらく、事態を受けたものがあまりに無力であったから。
 思いがひどく強いのは、ここにどうしても噛み砕けないものがあって、何度も思い出していたから。
 そうした理解は自身のおぼえる負担の軽減には一切繋がらないことを痛感しながら、それでも過去が物語を作る。

(イスカリオテ……反逆の、聖人とやらに)

 アルフレッド・J・コードウェル博士。
 複数の画面で男が名乗ると同時に、彼の二つ名<コードネーム>が脳裡にひらめいた。
 記憶のあるじが知る年齢に比して若い肉体の、喉から紡ぎ出される声はテトリスの想像を外れない。深みはあるが厳しい、
男性性のかたまりだとすら形容出来る声音は、ひどく計算された抑揚をもって聴衆の耳朶を打つ。
 彫りの深く端正な顔の、鼻梁に渡したブリッジで支えられたモノクルもそうだ。緑色の瞳の片方を彩るレンズと、頬に下がる
銀の鎖の繊細をもってしても、視線のするどさはいささかも減じなかった。


「あなた方の日常は、すでに壊れている」


 酷薄なまでのひと言で、瞬間、テトリスは理解に至った。
 様々なものの伝聞によって知った世界に関する知識の点が、線を通り越して面となる。

(『レネゲイドウィルス』。ひとを超人たらしめる与える代わりに、彼らの理性を奪うもの。
 発見したものは、この、コードウェル博士。人類の多くがこれに感染したことと、ウィルスの侵蝕に耐え切れないものは
心を失い、ひとでない『ジャーム』になること。その怪物が世界を壊していることを、各国政府へ警告した……)

 儀式忍法の土台となった世界の背景を自分に話した者は、加賀十也。
『探求の獣(クエスティングビースト)』のコードネームをもつ少年であった。
 自身が一度死んだことで超人としての能力に目覚めた彼の、気怠げにしている眼に、あのときばかりは血が入っていたことを
覚えている。怪力を得るとともに、肉体の一部が獣のそれに変化する「キュマイラ」のシンドロームに覚醒したと知れると同時に、
自分が決定的に日常へ馴染めなくなったと理解した、彼は、それでも何かに焦がれる心までは喪っていなかった。

  ――いつか、この手でアイツを殺す――

 たとえ、それがひどく昏いものであったとしてもだ。
 アカツキのような年長者に属し、幾度となく鉄火場を乗り越えたものが、だからこそ沈黙した瞬間もよく覚えている。
 同じ世界に生きていたという十也の話があったからこそ、あの技官は左京との戦いを選んだのかもしれない。


(……だが、これは……これが、ボク自身の気持ちか)


 魔戦が行われた世界について、テトリスは伝聞によって得たことしか知らない。
 一説には百万迷宮のいずこかから到達出来るともいうこの世界は、どれだけ終わっているか。どれだけ救いがないのか、
どれだけ苦しいのか生きづらいのか、それでも目指したいものが、見たい景色が、夢や希望があるのか。
 血盟に与するか否かに関わらず、どこの世界にもあるような『人間』の話は、抱えきれぬほど聞いてきた。
 その、ばらばらにほどけた欠片を繋いだものが、十也たちによる世界そのものの話だったのだ。


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