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あと3話で完結ロワスレ

107Memoria Memoria -想い出を抱き締めて- ◆6XQgLQ9rNg:2013/01/02(水) 19:26:45
 ◆◆

 ヴァージニアは、眼を見開いた。
 一瞬たりとも目を離さなかったはずなのに、視界からベアトリーチェが消えていたのだ。
 霧のように消えた瞬間も、影に溶け込む様子もなく、まるで最初からその場所にはいなかったように、彼女は忽然と姿を消していた。
 ベアトリーチェだけではない。
 ブルーの姿もまた、あったはずの場所から消失していた。
「ベアトリーチェは……? ブルーはッ!?」
「分からねェッ! アイツら、一体何処へ行きやがったッ!?」
 ヴァージニアは耳を澄ませ感覚を研いであたりを見回し、空から舞い降りてくるものを発見する。
 ふわり、ふわりと落ちてくるそれからは、邪悪さも敵意も感じられない。
 だからそれは、ベアトリーチェの手に掛かっていない何かだと、ヴァージニアは直感した。
 スカートの裾で、受け止める。
 それは、短い文章の記された一片の紙だった。
 読み取った瞬間――胸が、詰まった。
「カズマッ! クマッ!」
 カズマが振り返る。
 繋いだクマの手が、僅かに反応する。
「ブルーが、ブルーから……メッセージが……ッ」
「メッセージ、だと?」
 聞き返すカズマに頷いて、ヴァージニアは、深く息を吸い。
 声が震えないように、濡れてしまわないように、意識を強く保って。
 紙に記された文章を、読み上げる。

「――我が命は、君たちの『想い出』と共に」

「え……ッ?」
 クマの身が、跳ねるように震え上がった。
「おい、何言ってんだよ。お前今、なんて――ッ」
 カズマが早足で詰め寄ってくる。ヴァージニアに向けられたその顔は呆然としたものだった。
 ヴァージニアは気付く。
 先の紙のように頭上から舞い落ちる、紫色の薔薇の花弁に、だ。
 不吉さに突き動かされて見上げる。
 頭上で、黒色の光が瞬いた。
「カズマ、上ッ!」
「何ッ!?」
 振り仰ぎ跳び退るカズマ。直後、影が一つ落ちてくる。
 かきん、と甲高いを立てて影が着地する。
 夢魔ベアトリーチェが、右腕から生えた黒色の光を放つ剣を床に突き立て、そこに佇んでいた。
 ヴァージニアは、息を呑む。
 姿を消す前のベアトリーチェと、今落ちてきたベアトリーチェの様子が、余りにも違い過ぎた。
 豪奢な髪飾りは無残に千切れ飛び、薔薇の装飾は痛々しく焼け焦げ、美しい夜色のドレスは所々が朽ちていた。
 欠損は衣装だけではない。
 肌には無数の切り傷と焼け跡が刻まれ、夥しい量の血液を全身から溢れさせており、そして。
 左肩から先が、完全に消失していた。
「何が、あったの……」
 思わず尋ねたヴァージニアを、ベアトリーチェは睨み付け、
「……祖国に利用された哀れなお人形は壊れた。それだけよ」
 唾を吐くように言い捨て、黒光の剣を振り上げる。
「次は、貴方達の番」
 理解が追いつかない。
 発生した出来事があまりにも突然過ぎて、思考も意識も、事象を認識できない。
 だから、振り上げられた剣にも、反応ができない。
 ただ、体は動いた。
 荒野を生き抜く渡り鳥の本能が危機を察知し、ヴァージニアの身を動かした。
 真横を、黒刃が通り過ぎていく。クマの手を引いたまま転がって距離を開ける。


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