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あと3話で完結ロワスレ

501 ◆MobiusZmZg:2013/05/03(金) 17:12:11
「莫迦を言うなよ。お前は俺とか完全者サンに向かって行って勝つとか、そんなんないでしょ?」
 仰向けになっているしかない修羅ノ介は、ゆえに愛惜ともいうべき情をもって武官に応える。
 彼を直視し立ち向かおうとしなければ、彼は世界から消えていく。命の器による【封鎖結界】の罠を仕掛け、『影弥勒』を
使って『天魔伏滅の法』を展開し、『綾鼓ノ儀』で理想に夢さえ抱かせぬ強敵であっても関係はない。

「だって……ほら。ここで俺らがみんな死んじまって、世界の全部が壊れちまったら。
 絶対、誰も気付けない。俺もお前も、この天井突き抜けた宇宙のどこからも忘れられて、いなくなっちまう」

 あンの八咫烏だって、俺ら『化野生徒会』が墜としちまったし。
 天才的にエロい――えげつなくろくでもなく、いやらしいにもほどがある札さえ、事無草はまなうらに追憶する。
 こうして追憶しなければ生まれ得ないからこそ、自分は現世にない過去にありもしない熱を燃やしているのだと、
 萬川集海による侵蝕と闘う際に覚えた絶望とて、こうして、喰らえずともしがみ続けて慣れていったのだろうと、
 なにものかを呑めぬまましがみ続ける代わりに男へ刻まれたのが、額から頬骨に落ちる翳であるのかと、思った。

「濡れ女みたいには、言ってやれねえけど……でも『斬らないならお前、また負けるよ』。
 その得物の、美の一閃で、物語<Winter Tales>なんざすぐに終わらせちまえる冬の圧制者だってのに」

 あぁ、でも、――斬っても負けたんだっけ。
 ささめいて冬の気配たる雪を水にほどけば、修羅ノ介の双眸には九重ルツボの魂が宿る。
 これまで命を落とした忍びたちの名をもって過去を刻む忍術秘伝が外典・『天下忍名録』にかたどられた他者に触れても、
彼女の置き土産であろう哀れみにちかい愛惜に口を開かされても、情報を溶かし落とした心水は揺らがない。
「その、ヒトガタをすら作れぬ身体で、私に勝つつもりか」
「なんでよ? 俺の負けがお前の勝ちとか、その逆になるような場所じゃないっしょ、ここはさ」
 けれども哀れみの行く先は、この、短い間で移り変わりかけていた。
 意識せねば現し世に浮かび上がることのない、昨日の体現。それがムラクモなのだというのなら、昨日を愛し、あるいは
傷つけてみたところで、振り向かせることはかなうまい。日向影斗という『いま』を武器として、彼に立ち向かおうとした
九重ルツボと、いまの自分はきっと同じだ。『過去の、想い出から人間を取り出そうとする』自分をこそ哀れんで、



                 ――――所詮、夢は夢。過去を追っても、何も得られぬ。



「……うるっせえんだよ『花狂い』!」
 哀れむことがかなったからこそ、修羅ノ介は冬の気配に怒声をもって応じられた。
 怒り。紙の身体が何より恐れる焔のごとき感情こそは、ムラクモという他者に声を放ったつもりでいて、そのじつ自分に
声が返ってくる感触を前にすれば、どうしても抱ききれなかった思いである。
「何も得られない。夢を見続けたくて目を閉じたって、夢を見られる自分にさえ冷めちまってる。
 そんなのはもう知ってるよ。でも、それを分かっててしがみつくのはいつだって九尾の――狐じゃねえか」
 けれども今、殴り返されることのないのだろう場所から響いた声に、少年は酷薄な笑みをもって応じた。
 ヒトは完全な受動にあって、はじめて己の本性を露にする。藤林修羅ノ介。のらりくらりと立ち回り、ときに『悪魔忍者の
再来』とさえ言われよう策を弄して勝ちを奪う「戦術」の得手。怒りで自身を燃やす《火術》の達人。
 過去の喪失を取り戻さんとする彼の本性は、ならば変化を拒む盲信であり拘泥であり、憎悪であった。
「だけど、それで俺を黙らせようってなら、当てが外れてんだよなぁ……。
 本当は何も喪ってないなら、本当は傷ついてないなら、あのときつらかった自分は何だったのかって、思うよ。
 でもあのとき、止まれなくなってた俺を止めた狐<天華ちゃん>だって、ここばっかりは止まらずに走るだろうさ」
 けれどこのとき、修羅ノ介は決めた。
 都合よく日常を謳歌し夢を思い出し、ひとりよがりに咲き散らかす自分をこそ赦さないと決めてしまった。


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