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あと3話で完結ロワスレ
661
:
ep298.主人公はもう居ない
◆LO34IBmVw2
:2013/08/22(木) 21:42:02
【119:50】
放送が終わった。球磨川の戯言について語る人間は一人もいない。今は口を挟む余地も、意味もなかった。
それよりも大切な現実が目の前にあったからだ。
120分。派手なアクションを起こすには些か足りず、赤の他人同士で結束するにも短過ぎ、寝るにも半端で、ただ黙っているには長過ぎる時間だった。
ただ一つだけ言えるのはーーーけれども弱った少女一人の命を奪うには、十分過ぎるという事だ。
「た、たすけっ……嫌っ……誰か……」
ひんやりとしたコンクリートの床は、灰色の身体を薔薇色のドレスで着飾っている。
かちかちと点滅するナトリウム灯は、流れ広がる鮮やかな紅を不規則に照らしていた。
部屋はそれなりに広くちょっとした公園や体育館程度の広さはあったが、家具や雑貨の類は無く、至って簡素な作りだった。
良く言えばシンプル。或いは悪く言えば味気ないとも言う。図体だけ大きく空っぽな部屋には、温かみの類など探すだけ無駄だった。
「…………ど、うして、こんなっ……わ、わた、しっ……なにもっ」
灯りは切れかけの裸電球一個。御世辞にも明るさが足りているとは言えない。
その暗さからなのか、地下室だからなのか。空気は薄気味悪いほど冷たかった。
吐いた息すらほんのり白かったが、湿気だけがいやに彼等の肌に纏わり付いて離れなかった。
飽和水蒸気量を超えた水分子達は、菜の花に群がる油虫の様に床や天井にびっしりと張り付いている。
部屋の隅は深緑の暗がりに飲まれ酷く不鮮明で、壁の気配は消えてしまっていた。
そのせいでどこまでも空間が続いている様な錯覚さえ感じられたが、スケルトン天井の異様な低さから閉鎖感を忘れる事だけは出来なかった。
よくよく見ると、壁は打ちっ放しのコンクリートである事がわかった。ただ遠目にも綺麗な施工とは言えず、欧州よりのそれだったが。
職人が外国人だったか、或いは時間と金がなかったかだろう。安藤忠雄だったら建物ごと殴り倒しているレベルだ。
空気は質量を持っているかの様にずっしりと重く、トンネルの中の様に酷く淀んでいた。
これ以上こんな場所に居たくない。
その場にいる全員がそう思っていたことだろう。
低い天井がだんだんと彼等に近付き、空気ごと肉を圧迫しているようで、得体の知れないその重圧は彼等の肌をぴりぴりと刺激していた。
辺りには噎せ返る様な血の臭いが満ちている。此処に来て彼等が覚えた臭いの一つだ。そこには明確な死の予感があった。
音は、少女の命乞いが一つ。はぁ、はぁ、と荒れた息遣いが、幾つか。
「たす……死に、く……なっ……わ、私、なにも、悪、ない、のにっ……」
嗚咽混じりの嗄れた声が少女から漏れた。その場に立っていた青年が、少女の胸倉を掴んで小さな身体を持ち上げる。その光景はどうにも奇妙だった。
「“何も悪くない?”」
青年ーー佐藤達広ーーは震える声で呟く。乾いた嘲笑が地下室に反響した。
「“何も悪くない”、だって?」
怯えた声色で悲鳴を上げる少女の後ろの暗がりに、不意にぼわりと灯りが浮かび上がる。支給品のランタンだった。
弧を描いた薄い飴色のガラスの内側で、何かを嘲笑う様に焔がぶわりと踊る。
その度に部屋に散らかる影はけたけたと輪郭を変えて、部屋の中を徒に駆け回った。
青年はランタンを灯した男を一瞥して、小さく舌を打つ。なんなんだ、と。
「さ、佐藤くん……お、落ち着こう、まずは」
鈴木英雄だった。
皮脂でずり落ちる眼鏡を上げながら、彼は続ける。
「相手はまだ子供だよっ。それにZQNですらないし。何もここまでする必要はないんじゃない……ですか」
ハン、と青年が呆れた様に笑った。
「正気っすか、鈴木さん。俺達が残ったのは、全部こいつらのせいだろ? 全部こいつらの陰謀だろ! 違うか!?
球磨川だって言ってただろ! こいつが最期のマーダーだって!!」
「それは……」
ランタンに照らされて、部屋の隅で腕を組む少年の不服そうな顔が浮かび上がった。比企谷八幡だった。
残念ながらそいつは違う、と少年は心の中で呟く。俺達がここまで残ってしまったのは、他でもない俺達自身のせいなのだ、と。
間違っても誰かのせいなんかではない。自分達には彼女を殺す権利はあっても、糾弾する権利は無い。
むしろトリエラが今際の際に語った彼女のしてきた事は、マーダーとして至極正当なものだった。
それが非人道的で褒められるものではないにせよーーー彼女のせいにするには驕りが過ぎるというものだ。
少年は口を閉ざしたまま、胸中で舌を打った。それを偉そうに言う権利もまた、自分にはないのだと自覚していたからだ。
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