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あと3話で完結ロワスレ

684ep298.主人公はもう居ない ◆LO34IBmVw2:2013/08/22(木) 22:46:31

“なぁ、不謹慎だけど本当は皆思ってんだろ? 今まで生きてきて、初めて生きた気がしたってさ”
佐藤君の言葉が、頭の中でずっと渦巻いていた。元の世界では、三谷さんも同じ様な事を言って死んだ。
何も変わらない毎日は、確かにDQNやバトロワのせいで変わった。生きる事を初めて意識して、命に対する想いも変化した。
死に触れる事で、生きている事に実感が持てた。だけど、結局本質は変わらない。死なない様に引き篭って脇役に徹しただけだった。

「俺は……俺の人生くらい、自分がヒーローにななりたかったんだ……それだけなのに」

しかし結局、どうやらヒーローにはなれずに人生は終わってしまいそうだった。
……でも、本当にそれでいいのか?
ふと思い出して、胸ポケットの煙草を取り出す。煙草は好きではなかったけれど、その一本の煙草だけは、ヒーローになれた時に吸おうと決めていた。

「こんな時に、どうして思い出しちゃうかなぁ……俺は……」

ーーーヒーローになりたいです。
三日目の昼、俺は雄一さんに言った。雄一さんはふむ、と唸り、煙草をふかしながら暫く考え込んでいた。
その夜、雄一さんは俺の隣に座って、眼鏡のレンズをTシャツで拭きながら言った。
ーーー僕ァね、鈴木くん。ヒーローになりたければなればいいと思うよ。
   ただ君以外の誰もが、君がヒーローである事に、興味なんてないんだ。
俺は何も反論する事が出来なかった。
ーーーだけどヒーローは街を壊すし、全員を救えないし、法律と警察無視で直接悪を殺すし、誰にも理解されない。
   それでもヒーローであり続ける自信が、責任を取り続ける覚悟が、君にはあるのかい?

「……誰もやらないというなら、俺がやってやる……今しかないんだ、チャンスは。俺なら、うん。出来る」
ガリルのグリップを握って、空を見上げた。雲の向こう側で、十六夜の月がぼんやりと浮かんでいる。


「アイアムア、ヒーロー」


ーーーないです。
俺は言った。
ーーーないけれど、どうしていいか分からないけど、ヒーローになる方法も、貴方の言う覚悟も分かりませんけど。
   でも、なりたかった。それって、悪い事なのでしょうか?
雄一さんは笑って煙草に火を点けた。まるでエクトプラズムの如く煙は洞窟に浮かんで、やがて岩壁に吸い込まれるようにして消えていった。
ーーー今度、君の漫画を見しておくれよ。そしたら、答えてあげても良いかな。
雄一さんはそう言って煙草をふかした。いいですよ、と俺は応えた。
その夜、雄一さんは遺書と一本の煙草を遺して洞窟を出ていった。

『僕ァ、ヒーローにはなれそうにないからね』

遺書の最後の一文には、汚い文字でそう綴られていた。


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