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あと3話で完結ロワスレ

176それはきっと、いつか『想い出』になる物語 ◆6XQgLQ9rNg:2013/01/13(日) 21:41:59
 飛んできたのは、クマと、ヴァージニアだったからだ。
「カズマッ! 無事でよかったッ!」
「遅いクマ! 大遅刻クマ!」
「遅いってなんだよ!? 離れろクマ野郎! つーかアンタまで飛び付いてくるんじゃねェッ!」
 二人を押しのけながら、謎の屋内を見回す。
 目に付いた棚には頭が痛くなりそうな分厚い書物と、用途不明な薬らしきものが並んでいた。
 本は机にも積まれ、巨大な地球儀が飾られている。
 ソファには可愛らしいぬいぐるみが置いてあった。子ども一人分くらいの大きさに膨らんでいるベッドにも、おそらくぬいぐるみが眠っているのだろう。
 何よりも目を引くのは、壁沿いに大きく鎮座する釜だった。
 その釜には大人すら余裕で入れそうなほどで、調理器具にしてはあまりに巨大だった。
 釜のそばに、座り込んでいる人物がいた。
 目が合う。

「えっと、ようこそ。わたしの、アトリエへ」

 その人物――トトゥーリア・ヘルモルトは、苦笑いをして応じたのだった。
 そう、そいつはどう見ても、トトゥーリア・ヘルモルトだった。
 顔も、背丈も、体格も、服装も、『想い出』にあるトトリと一致する。
 なのに、カズマが最後に見た時の彼女と、別人のように印象が違う。
 目が違う。顔つきが違う。そして何より、まとう雰囲気が別物になっていた。
 トトリが立ち上がる。
 最後に得た記憶を信じるならば、この女は敵のはずだ。だがカズマの本能は、彼女から敵意を嗅ぎ取りはしなかった。
 違うのだ。
 何かが、致命的に違う。
「アンタ、いったい……」
 尋ねようとするが、疑問は上手く言語化されない。もやもやとした気持ちの悪さが、胸の奥でわだかまった。
「皆さん、揃いましたね」
 その瞳が、カズマ、ヴァージニア、クマの順で移動する。
 皆さん。
 その単語がやけに耳に残った。カズマは、その単語を反芻する。
 待て、違うだろう。
「きっと、色々聞きたいこととか、気になってることがあると思います」
 制止の言葉が出るより先に、トトリは深呼吸を挟み、両手を組み合わせ、握り締めてみせた。
「けれど、まずは……謝らせて、ください」
 謝る。
 まただ。
 また、耳に残る単語が聞こえてくる。
「謝るって、何を……」
 呟いた、直後。
 カズマの背筋を、嫌な直感が駆け廻った。
 言うなと思う。
 言ってくれるなと、願う。
 そんなカズマをよそに、トトリは、強く目を閉じ、口を引き結ぶ。

「ごめんなさい……っ!」

 そうして。
 彼女は、頭が地についてしまいそうなほどに、深々と頭を下げた。

「わたしが……殊子さんを、殺しましたッ!」


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