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あと3話で完結ロワスレ

495 ◆MobiusZmZg:2013/05/03(金) 17:01:28
289-b 素晴らしき小さな戦争(Ⅱ)われら死地に踏み入る者たち

Scene 06 ◆ 黒の鳥・世界の歯車が軋み始める


 なんとも、安直な発想だね。

 世界を静かに眠らせることを使命とする鳥は、穏やかな声でそう言った。
 なにものにも染まらず、染まらぬものをも逃がさない、響きはほがらかに心を侵す。
 だが、軽薄そうに謳う鳥――齢三十を超えたかどうかという見目をした男の、双眸はひどく冷酷に光っていた。
 宵闇の輪郭をぼかす月の瞳には諧謔と超然が混淆して、見たものの裡にある空虚を暴き立てる。
 彼がため息をついて腕を組めば、襟巻から墨色をした羽根がこぼれ、白手袋に包まれた指先を包み込んだ。
 道化のごとく剽げた佇まいは世界を憎んでいるのか愛しているのか、あるいは許しているのかさえ余人に掴ませない。

 この箱庭にある鳥よ。
 貴方も『そう』だったのかな。

 ただひとつ、囀る言葉の自嘲だけが周囲の闇を揺らしていく。



 ◆◆



 足りないものがあるから足す。
 安直だという感想を撤回はしないが、使い方によっては、それほど悪い考えではないとも思うんだ。
 なにせ私は、時で滅ばぬ黒の鳥。箱庭の滅びを司る存在なんだ。自殺行為を破滅的だというだけで否定はしないさ。
 白梟ともども、他の者の主観から復元された存在<タイム&アゲイン>だからこそ素直な言葉もほうりやすいよ。
 それに、ここでこうしていると、失敗作を壊して行かれるあの方の気持ちを察することが出来る気もしてねぇ。

 ま、私も『たったひとつ』のために世界すべてを裏切っていける者だ。
 滅びを恐れ、喪失を嘆いて手を伸ばすこと自体にどうこう言うつもりはないよ。
 ただ、伸ばした手を離すべき時に至ってなおもぐずぐずしていると、結局世界はこうなるというわけだ。ほんとうに、
愛とは害意に他ならないな。なぁムラクモ。箱庭の楔たる鳥、ヴァルキュリアを手にかけた現人神よ。
 なんていうか、お前が掲げた天命と主の浮かべる理想は、わずかに色味が似ているんだ。悪い意味でというよりは、私が
好まない方向で合致している。だから、届かないと分かっていても意地悪を言いたくなってしまったんだなぁ。

  ――ひとがひとを殺し過ぎない世界を。

 ……まだ負ってもいない傷をさえ嘆いて、征く途を綺麗にしてみたところで、世界にはなにも実るまい。
 それは花に満ちる庭とて同じだ。すべてが白い花の色に塗り潰された楽園は、なにも香らせ得ずに滅びるさ。
 だって、綺麗だと思ったものだけを集めたというのなら、美しきを峻別するはずの五感は役に立たなくなるじゃないか。
 世界に息づいているものの、一体なにが綺麗であるのか、なにがそれを綺麗に見せたのかも見えなくなった世界で生きろと
いうのなら、人は情愛を注ぐべきを選べなくなる。なにを見てもいとおしいと思えなくなるだろうね。
 比喩表現が気に入らないなら、花を闘争にでも入れ替えたまえ。
 なにを当てはめるにせよ、そんな世界ではだれもが神のように生きてしまう。だから世界も壊れるというわけだ。
 それは推測でも、予測でもない。経験に基づいた確信で、私にとっての絶望ともいうべきものさ。

 でも正直、顰め面如く行う講釈なんてどうでもいいんだ。
 私はこの世界も気に入らないけれど、それ以上に、この世界に従うお前が嫌いだなぁと思うから。

 泣き言と感傷しかない、おもちゃ箱をひっくり返して戻さない戦争。
 あのちびっこのように、道を歩みきったはずの者が折れるまで紡がれる繰り言。
 胸が悪くなるほどに密で甘い感傷すら――胸が悪くなること自体に飽きてしまったから、感傷に浸らせていたものを
死なせてなかったことにする。そんな世界の様相を前にすると、すべてが嫌になってこないか。
 こんなふうに雪であるとか花だとか、美しいものたちをかき回しても、生み得るものなどありはしないよ。
 指を伸ばす前に発想したことを正答としているものにとって、世界は我を肥やすエサにしかならないから。


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