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あと3話で完結ロワスレ

292SLBR・289-a: 素晴らしき小さな戦争(Ⅰ) ◆MobiusZmZg:2013/02/02(土) 17:18:00
「ヤツらだけは許されないと感じたボクが正しいかどうかは、この際どうでもいい。
 理想、目的――あるいは概念そのものになって、自分で自分を満たすやり方も忘れた輩だけは認められない」
「ギリギリで成り立ってる日常を壊して、整理して、水際立ったところから助けてくれるかもしれなくても?」
「整理や救済って言葉の裏には何がある。もと救世主。その『裏』に堪えられなかったのがお前なんじゃなかったか」
「……それだってウソじゃないけど、なんか落第したみたいに聞こえちゃうなぁ」
「いいさ。手前勝手にひとを神にする『新神宮殿』と同じに、こんなもの、本当は出来なくていい」

 もっとも、王と王を守る騎士だけは、最後まで逃げてはならないのだが。
 それゆえに、テトリスは花白よりも先に征くために心を燃やす。人類の敵となった者を超えるために口を開く。

「一番怖いと思ったのは、な。戻りぎわに耳に入った、子供の歌う声だったよ。
『全てを壊し、それから創る』……活劇の主題歌のようにも聴こえたんだが、ボクには裏にある意味が分かった。
 そして、そんなものの意味が分からない子供の姿を、一瞬……ほんの一瞬であっても、想像がつかなくなったのさ」
「冗談とか夢物語で流せないくらいに、この箱庭も終わってたのかい?」
「終わっているかどうかは知らない。だが、どうしても分からない。どうして」

 どうして。
 答えようのない問いの、否定の一節こそが、テトリスの胸を衝き上げる。


「その歌も、ムラクモや完全者たちも、ヤツらの編んだ『新神宮殿』も同じだ。
 どうして壊してから創るんだ。壊してからじゃないと創れないのか、全部壊していく必要は本当にあるのか。
 風雨やなにかのように『ままならない』と思えるものも認めて、そいつを残しながら創ることは選べなかったのか」


 続いた言葉は、問いの形さえなさないものだった。
 血盟『影弥勒』の一員として儀式忍法に近い立ち位置にあった少年は、この問いに答えを望まない。
 この世界にあるものを全て壊していくと、絆や歴史、伝統や生を振りほどいて応えられる者がいることをこそ望まない。
「それ、出来るんなら誰かがとっくにやってると思うんだ。僕らのせかいの、かみさまとかが」
「知るか。ボクはかみさまなんか見てない。いや――生き神様とか『不思議さま』には会ったけど、あれは」
「あれは?」
「いや、いい。かみさまが出来ないか、やらなかったことなら、それは人が努力していけることだ。
 ボクにはわずかな《民》に《希望》を宿すことしか出来ないが、だからって最初から最後の手段に頼ってどうする」
「……羨ましいな、そういうコト、素直に言えるの。かみさまになれば楽かもしれないのに」
「楽じゃない」生き神様を知る少年は、その言葉だけは明確に否定した。「ひとの信仰に応えるってのは、楽なもんじゃない」


 信仰者を獲得すれば、ひとは神になれる。
 信仰もまた思いである以上、神は信仰を糧にして奇跡を起こす。
 それが、百万迷宮における生き神様のあり方だ。
 ではなにゆえに、ひとはこの世界における生き神様となる『真の忍神』を信ずるか。
 おそらくは神鏡で未来を見透し、世界の終わりさえ分かってもなお、夢を諦めずに進む姿を信じるのだろう。
 理想の見た夢を目指して神にまで至り、不滅の存在となろうとも色褪せぬ存在を前にした人々は、

 胸に《希望》を、宿せようものか。
 改めて、そうとだけ吐き捨ててしまいたくなる心地だった。

 いまも発動し続ける『新神宮殿』の構造そのものは、筋が通っているとすら言えるものだ。
 神の死体。それに神器「神鏡」と部品「理想の見る夢」を宿し、現人神や救世主たちの性質を作り変える。
 あるいは「理想の見る夢」とやらを抱くことがかなった人物の篤信が、かれの信じる者を生き神様として蘇らせる。
『新神宮殿』のもととなった『棄神宮殿』は、力に溺れた「偽りの忍神」を異世界に隔離するためのものであると
言うのだから、このような場に喚ばれた者は等しく生き神様となりうる資格を有するのかもしれない。

 だが、そうして生まれ直した世界にはきっと何も残らない。
 理想や夢が膨らんだ結果として生まれる、世界には《希望》を抱くべき未来がない。


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