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あと3話で完結ロワスレ

722夢と『想い出』が交差するその日 ◆6XQgLQ9rNg:2013/12/29(日) 23:13:58
 ◆◆
 
 ぱたん、と音を立てて扉が閉じる。
 諸々の打合せを終えて帰ったグイードの姿を、トトリは首を傾げて腕を組み、思い起こしていた。
「あの人、さっきの夢の中で、見たような……見てない、ような……やっぱり見たような……」
 あのあったかい夢を作っていた人たちの中に、グイードの姿もあったような気がする。
 だからだろうか。
 初めて会った人だというのに、もっと前から知っていたように思えて仕方がなかった。
「グイードさん、グイードさん……」
 落とし物を探して道を歩くように、トトリはその名前を呟く。
 そうやって名を呼ぶことに、奇妙な違和感があった。
 もっと別の呼び方があるはずだと、根拠もなく感じる。
 もっとずっと、親しみのある呼び方があるに違いないと、なんとなくながら思ってしまう。
 その呼び方を知りたかった。
 その呼び方を知らないということが、何故かとても、とても寂しかった。
 だからトトリは、ふわふわとして定まらない感覚に触れる。
 そうして撫でて、捏ねて、混ぜて、探る。
 けれどカタチを作れない。言葉を生み出せない。
 それどころか、考えれば考えるほど遠ざかってしまう。
 親しみのある呼び方など、最初から存在してなどいないというように。
 親しいものなどいるはずがないだろうと、改めて思い出させるように。
 手の届かないところへ、行ってしまう。

 胸の奥が――空白に詰め込まれた世界が、苦しみを訴えた。
 視界が揺らめき、足元がふらつく。
 呼吸が上手くできなくなり、頭の中を掻き回されるような不快感が襲ってくる。
 急速に、現実と夢の境界線が薄れていく。
 わからなくなる。
 現実なのか夢なのか、わからなくなる。
 トトリの意識<現実>と集合的無意識<夢>の境目が、わからなくなっていく。
 目が霞む。
 知らない光景が意識に溢れる。膨大な情報量がトトリを呑み込むべく流れ込む。
 その、瞬間。
 胸のあたりに、熱を感じた。腰に回される、力を感じた。
 それは、確かな温もりだった。
「トトリッ!」
 それは、紛れもない呼び声だった。
 それらによって、トトリは引っ張り上げられて浮上する。
 足裏は床に触れている。
 様々な薬品の臭いが鼻をつく。 
 視線を、ゆっくりと温もりへと向ける。
 ベアトリーチェの頭が、目に入った。
 トトリを強く抱き締めてくれているベアトリーチェが、目に入った。
「ベアちゃん……」
 呼ぶと、ベアトリーチェが弾かれたように顔を上げた。
「トトリ! トトリッ! 大丈夫!?」
 ベアトリーチェは、不安と心配を調合したかのような表情をしていた。
 だからトトリは、笑ってみせる。
 大丈夫だよと、ありがとうと、そう告げるために笑顔を見せる。

 そうやって表情を変えて、初めて気付く。
 涙が溢れ、頬を伝っていることに、だ。
 けれどトトリは、それを拭おうとはしなかった。
 そうして泣いたまま、トトリはベアトリーチェをぎゅっと抱き締め返す。
 今は、ここにある小さな温もりを感じていたかった。
 引っかかったままの違和感も、思い出せない寂しさも、消えてなんていないけど。
 だからこそ、今は。
 今だけは。
 確かなあったかさを、確かなこの場所で、感じていたかったのだった。


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