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あと3話で完結ロワスレ

186それはきっと、いつか『想い出』になる物語 ◆6XQgLQ9rNg:2013/01/13(日) 21:53:49
 ◆◆

 夢の世界に、ベッドが一つ浮かんでいる。
 アトリエは完全に現実へと還った。それでも周りにいる夢の世界の化物どもは、何故か襲ってこない。
 だから、ベッドの端に座ったトトリは、黒髪を撫で続けていた。
 やがてトトリの掌の下で、ベアトリーチェが動く気配があった。
 手を離すと、すぐに起き上がる。
 痛ましい傷はほとんど治っていたが、顔に残る涙の跡はそのままだった。
「おはよう、ベアちゃん。みんな、行ったよ」
「……どうして、わたしを匿ったの。どうして、帰らなかったの」
 頬を膨らませ、口を尖らせ、上目遣いで睨みつけてくる。
 その不貞腐れているような様子は、普通の子どもと変わらなくて、少し微笑ましかった。
「放って、おけなかったから」
「……どうして」
 どうして、どうしてと問うのも子どもみたいだなと、トトリは思う。
 その不服そうな顔の裏にあるのは不満ではない。
 ベアトリーチェが抱えているのは、不安なのだ。
「ベアちゃんの気持ちが分かったから、かな。ベアちゃんが願ったこと――わたしの中にあるから」
 だから手を伸ばす。
 たとえ拒否されても。拒絶されても。
 抱き締めるつもりで、トトリは手を伸ばす。
 それでも、ベアトリーチェからの抵抗は、なかった。

「寂しかったんだよね」

 右腕に力を込める。

「永い、永い間、独りぼっちだったから」

 左腕に力を込める。

「『想い出』が欲しかったんだよね」

 全身で、ベアトリーチェを包み込む。

「他の人たちの『想い出』を、たくさん、たくさん、たくさん見てきたから」

 腕の中で、胸の中で。

「『想い出』にして欲しかったんだよね」

 ベアトリーチェを感じ取る。

「みんな――『想い出』を大切にしているから」

 ぎゅーっとされる、その感覚をトトリは知っている。
 してもらった『想い出』はないのに、心のどこかで、知っている気がするのだ。

「独りぼっちは、イヤ……。寂しいのは、キライ……ッ」

 温もりが、凝り固まった心を溶かしていく。
 震えが伝わってくる。涙が伝わってくる。
 確かめるように、ベアトリーチェが吐き出す。

「『想い出』が、欲しいのッ!」

 ベアトリーチェが、抱き締め返してくる。その腕はか細く、その身は小さかった。

「『想い出』に残りたいのッ!」

「うん……うん。わたしも、おんなじ。おんなじ、だよ」

 ベアトリーチェの願いは、今やトトリの願いでもある。トトリは、ベアトリーチェが切望する願いの結晶を抱えているのだ。


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