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あと3話で完結ロワスレ

103Memoria Memoria -想い出を求めて- ◆6XQgLQ9rNg:2013/01/02(水) 19:23:20
 目を覚ました彼女――トトゥーリア・ヘルモルトの精神は、ボタンを掛け違えたようにズレてしまっていた。
 速水殊子を姉――ツェツィーリア・ヘルモルトだと慕い無邪気に笑み、甘える姿は明らかに歪で、見ているだけで痛々しかった。
 壊れてしまった。
 
 ――クマの、せい、クマ……。
 
 クマがもっとしっかりしていれば。
 クマがもっと強ければ。

 ――クマ、役に、立てないクマ……。

 頭がくらくらする。瞳がびしょびしょで何も見えなくなる。鼻の奥がぐずぐずと濡れているのに、喉の奥はチリチリと乾いていた。
 菜々子が死んでしまうのではないかと不安に押しつぶされたときと同じ感覚だった。
 あのときも辛かった。シャドウであるクマなんて、いなくなってしまえばいいと思った。
 それでも、菜々子は生きていてくれた。
 みんなが、迎え入れてくれた。
 いてもいいと、いてほしいと、そう言ってくれた。

 でも、そんなみんなも、もういない。
 頼りになるみんなは、仲間は。
 空っぽだったクマの中身を探してくれたみんなは、もういない。居場所をくれたみんなは、もういないのだ。
 陽介も、千枝も、雪子も、完二も、りせも、直斗も。
 
 ――センセイ……も……。
 
 役にも立たないクマが生き残っているのに。
 約束も守れないクマが生き残ってしまっているのに。
 みんな、いなくなってしまった。
 みんな、みんな。
 
「クマッ!」
 不安げな女の子の声がする。
「おいクマ野郎ッ!」
 荒っぽい少年の声がする。
「クマ、目を覚ませ!」
 利発そうな青年の声がする。
 涙を、少しだけ拭う。
 頬に傷を負い額から血を流すヴァージニアの横顔が、滲んだ視界にうっすらと見える。
 彼女はクマを見ていない。でも、左手にある痛いくらいの温もりから、クマを案ずる気持が伝わってくる。
 ヴァージニアの視線を追い掛ける。
 戦い続ける者たちの姿がそこにはある。
 カズマが駆けて拳を振る。
 生命を縮めない程度の術で、ブルーがその援護を行う。彼らのサポートを、ヴァージニアが果たしていた。
 ベアトリーチェの様々な『悪夢たる想い出』を受けて倒れても。拳が届かなくても、達人の術が阻まれても。
 ボロボロになっても、傷だらけになっても、肩で息をして全身に力を込めて立ち上がり抗っている。
 満身創痍だった。立っていられるのも不思議なくらいの消耗だった。勝機なんて転がってさえいないようにすら感じられた。
 なのに。
 それなのに。
「クマッ!」
 彼らは呼ぶのだ。
「クマ野郎ッ!」
 叫ぶのだ。
「クマ!」
 そんな余裕などないはずなのに、彼らは、クマを呼んでくれるのだ。
 嬉しいと思う。ありがたいと感じる。
 役に立ちたい。
 けれど、それ以上に。
 申し訳なく思ってしまう。自分がいなければ、みんなはもっと戦えるはずなのにと感じてしまう。
 こんな精神状態では、ペルソナ召喚もできはしない。
 役に立てない。足手まといだ。
 いない方が、いい。
 そんな想いを、言葉にすることすらできず、ただ、呼び声だけを聞いている――。


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