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あと3話で完結ロワスレ

277SLBR・289-a: 素晴らしき小さな戦争(Ⅰ) ◆MobiusZmZg:2013/02/02(土) 17:10:51
Scene 02 ◆ 合咲の間・開幕『剣劇(ブレイド・オペラ)』


 乱れて舞い散る、雪が迷宮を満たしていた。
『合咲の間』と名付けられた一室の、天地左右も見え分かぬほどに氷の花があまぎって鳴る。
 空がない百万迷宮を照らす星の欠片の、ひどく澄んだ一片さえ、これほどさやけく瞬きはしないだろう。
 そして、本来なら命の危険をもたらす冷気からは、ひとに対する敵意や殺意の欠片も感じられない。心を奪われれば
盲目のうちに果てると知れていてもなお、冬の朝を思わせて蒼く締まった空気を恐ろしいものとは思えなかった。
 空気。くうき、空(くう)――から、『そら』。
 迷宮の天階にあると聞く『空』も、この雪のように美しく鮮烈なものなのだろうか。
 肌を刺す寒気を裏切るように、虚ろに澄んだ六ツ花が輪郭は心もとなく、淡い。
 穢れない白に、白く重なる影へと認識が吸い寄せられ、胸の拍動さえ潰れて聴こえなくなる。

 永遠を思わせて降り積もる、この雪に埋もれ解け敢えるのなら、
 現し世に在るいかなものどもも、眠るように終われるのではないだろうか。

 ひどく危うい感傷に衝かれて、テトリスは強くかぶりを振った。
 世界の滅びを。いいや。自身の死をすら受け容れる心地を受けた足が、止まっている。
 受容とも諦観ともいうべき思いが、胸にともった希望や気力を消すものが、自身のどこから沸き起こったものか
判断がつかなかった。生を希求して脈打つ胸は主の思いに揺り戻しをかけるように激しく高鳴っている。

 死ぬわけにはいかない。
 花白に向けて宣誓し、国にある者の意気を上げる【突撃】を行わんとしていた体が動かない。

 もとより先手を取るにあたって、自身の機転や才知には期待していなかった。
 だが、騎士の核たる武勇を支える精神が揺らされてしまえば、肉体もそれに引きずられてしまう。
 足を止めたまま、動かない自身の呼吸が。早鐘を打つ心音がうるさい。
 やまぬ動悸はテトリスの胸中で焦燥と認識され、そのまま、本能的な恐怖に取って代わろうとする。
 致命に至る自失を払うべく、ほつれた雪に濡れて束をなした髪を跳ね上げて一刹那、
「ホントに……きみは、アカツキのことを心配しないんだね」
 猫と同じかたちをした耳に、どすのきいた声がもつれる。

「【決闘場】だったっけ。
 大事な仲間とはぐれる罠にも慣れっこなのかな、百万迷宮の騎士ってヤツは!」

 心中の憤懣を堪えかねてか。地の底をすべる苛烈が天の氷雪を割り裂いた。
 その声に追随するように、騎士を嫌う救世主は無造作な足取りでもって間合を詰めていく。
 花白。天から降る花の名をもつ少年が振るった剣の、太刀筋はひどく感覚に拠っている。しかし、逆落しの一閃でもって
武をおのが道と定めるテトリスの体幹を揺らし得た事実は、彼の有する感覚が正しいことの証左となった。
 身体の延長を思わせて馴染んでいる刃に剣を噛み合わせた騎士の、腕に重たくしびれが残る。
「先手、っていうか。このまま全部もらおっかな」
 雪をものともせずに踏み足へ力を込める花白は、女性的な面立ちに獰猛な笑みを刻んだ。
「ふざけるな」冷気でひりついていたテトリスの頬に、瞬間べつの赤みが宿る。「国のために仲間を信じ、力を合わせる。
それがランドメイカーだ。民はボクらの姿を見て、胸に芽生えた《希望》を育てていく」
 迷宮では、ひとの思いが力になる。
 胸に湧いた義憤を、このとき確かな力として、テトリスは四肢に力を込めた。
 取り回しに難がある両手剣の切っ先を、ほんのわずかに自身の胸へと引き寄せ、花白の剣を絡めとる。
 他者に血を流させることしか出来ぬとうそぶいた救世主の、縦の軌道を刻む刃が、峰をすべって頭を垂らした。

「アカツキが何を思ってるかは知らないが、仲間だって《民》のひとりなんだ。
 アイツがボクに託すというなら、こちらは『災厄王』の末裔たる誇りをもってそれに応える!」


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