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あと3話で完結ロワスレ

102Memoria Memoria -想い出を求めて- ◆6XQgLQ9rNg:2013/01/02(水) 19:21:23
「――ねぇ、クマさん?」
 嘲笑で表情を満たし、
「どうして、貴方が――」
 嗜虐心で声色を彩って、
「貴方なんかが、生きてるの?」
 再現する。
 トトリがクマに投げかけた言葉を、再現し、そして。
 容赦のない追い打ちを、掛ける。
「特別捜査隊のメンバーは、もう、誰一人残っていないのに。死んでしまったのに」
「――ッ!!」
「ねぇ? どうして、生きてるの? 役立たずの影<シャドウ>さん?」
「いい加減に、しやがれェ――ッ!!」
「……役立たずのためにそんなに怒るなんて、本当に愚か。救えない。鬱陶しいわ」
 鼻を鳴らすベアトリーチェ。その表情からは笑みが消え、代わりに不機嫌さが広がった。
「そんな奴――放っておけばいいのに」
 不貞腐れるように指を翳す。鋭く尖ったその先端から、暗闇の雲が迸った。
『悪夢たる想い出』<暗黒星雲>。
 すべてを呑み込み塗り潰し喰らい尽くす黒雲が、カズマを、ブルーを、ヴァージニアを地に伏せさせる。
 三人の悲鳴が、重なった。
「あ、あ……っ。みんな、みんな……」
 クマが、息を詰まらせる。
 目に見えて分かるほどに震え、深く俯き、戦慄いた。
 力が抜ける。力が入れられない。
 立って、いられない。
「あ、あ……ッ。クマは、クマ、は……ッ」
「クマッ!」
 膝が折れたようにへたり込んだクマは、その呼び声が誰のものなのか、分からなかった。
 
 ◆◆
 
 蘇る。
 
 ――『ツェツィチャンはクマが守るクマ! どどーんと、大船に乗ったつもりでいるといいクマ!』
 
 思い出す。
 
 ――『クマがいればもーう安心よー! ゼーッタイ、ケガなんてさせないクマ!』
 
 想起する。
 
 ――『ダイジョーブ! ツェツィチャンはクマが助けてくるクマ! だから、トトチャンはここで待ってるとよいクマよ!』
 
 忘れられない。
 全身にこびりついた血液が、失われていく体温が、輝きを失う瞳が、血の気の失せた真っ青な顔色が。

 焼き付いてる。
 泣きじゃくる表情が、姉の名を呼び続ける声が、動かない姉に縋りつく姿が、絶望に暮れる慟哭が。
 
 守りたかった。護りたかった。
 けれど守れなかった。されど護れなかった。
 信頼に応えることができなかった。約束を守ることができなかった。助けられなかった。救えなかった。
 何も、できはしなかった。
 やりたかったことも、やろうとしたことも、すべて叶いはしなかった。
 応えられなかった信頼は不義となり、果たせなかった約束は裏切りに転じた。
 泣き疲れて眠った彼女が目を覚ましたら、怨まれ、憎まれ、糾弾されるだろうなと思った。
 そうされるべきだと思った。
 そうされなくても、謝ろうと思った。謝っても許されるとは思わないが、そうする他に考えが浮かばなかった。
 けれど、そうはならなかった。


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