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あと3話で完結ロワスレ
165
:
素晴らしき小さな戦争(0)雨時々僕たちまち君
◆MobiusZmZg
:2013/01/12(土) 19:34:02
REPLAY #248-02 ◆ 九重ルツボ・斜歯忍法『霞声(かすみごえ)』
迷宮にたたずむムラクモの鼻孔を、花の香りがくすぐった。
泥砂とほぐれた土や、蒸れた石から立ちのぼったような、それは大地のいだく熱の名残である。
かすかなそれが雨香と気づいたときには、彼の髪を雨滴のひと粒がつたった。
唇にとどいて含んだ枝垂の丸い甘みと、それを塗り替えて舌先に残す苦さは毒のそれだ。
そうと感じた理由は、改めて考えるまでもない。
雨――天津『水』とは『濡れ女』の異名をとる斜歯の九ノ一、九重ルツボが忍法の触媒であったからだ。
目標に水を送り込んで操る忍法・水人形をはじめとする力は、彼女とともにあったムラクモも直に見ている。
懐紙でもって血を拭おうとも残った余韻を、武官は鼻から息を吐くことで抜いてやった。
交錯迷宮の一室に敷設されていた砦跡。野戦ならば土埃の舞い込んで仕方のなかっただろう作戦室の机に
向かって手を伸ばし、いまだ湯気が立ちのぼるデミタスカップの中身をすする。
ひといきに煽ったのは酸味より苦味が前に出た、つよい焙煎のコーヒーた。
苦味を苦味で相殺した、彼は大外套の代わりに右肩で留めた上着の裾をさばいて作戦概要に目を落とす。
血盟の者――むろん、そこにはルツボも含む――のおかげで、『天魔伏滅の法』の念度は最大に近くなっていた。
発動の引き金となる二度目の儀式を行うまでに完全者は転生を果たしたが、特別構うことはない。
『棄神宮殿』。いまでは『新神宮殿』と名を変えた儀式忍法の支配者がいた状況では、命脈を断たれた者も無茶を
するか、殺されでもしなければ死ねるものではなかったからだ。
だが、すでにして真理を得た完全者も次で必ず死ぬ。
転生の秘蹟を得たものであろうとも、必ず終わってしまうようにしたのだ。
ヴァルハラで逢おうなどとさえずるのなら、まず、あの女がひと足先に逝けばいい。
「……まったく。頑是無いばかりか我慢のきかない方でもあるのですか。
こんなことでしたら本当に、わたくし、これから貴方をいつまでも『ゴミ』と呼ぶことにしますわよ」
死に様を振り見れば月光の、したたるような微笑みが武官を突き刺した。
振り見た先に、うごめく九重ルツボ。神速の逆袈裟にて華と散らせたはずのもの。
彼女は仰向けに倒れ伏したまま、蒼く水と透けゆくに任せた貌へ悪意を浮かべて微笑んでいる。
妖艶にして奇怪たる女の有様と視線を合わせた男の双眸に、このときまぎれようのない嫌悪が差した。
◆◆
ぬるり――と音のするようだった。
血と雨の溜まりから、陶然と笑みを宿す女のかたちが、ふたたび構成されていく。
背面まで断たれたセーラー服の残骸からは、クリームを思わせてなめらかな素肌がこぼれだした。
ひとつ、左の乳房の側にある黒子だけが白蝋を思わせて幽明な肌へと滲み、あだめいた艶を醸している。
「貴方に告げるのは、これで二度目になりますけれど。わたくし不老不死ですの」
身も蓋もない理由を告げた、彼女はたしかに散華のときを散りはぐらかした。
歴史の闇に潜む『影』、斜歯忍軍が坩堝流の九ノ一は、瀕死の吐息を湿らせていく。
「それで、わたくしを殺すことが、貴方の答えだと受け取っても構いませんか」
声に深みを増す湿り気は、けして情によるものでない。
といって、彼女の得意とする水術を、攻撃のために操ってのものでもない。
九重ルツボのかたちを取らんとして寄り集まる血と水の、溜まった淵が仇とふるえ始める。
騒がしいと思えるほどに波立った液体の、振動が寄り集まって、ひとつの声をムラクモに届けた。
――金も女も権力も、暴力の前には無価値だ。
「青年のように涼しげで、若々しく張った響き。内容はともかく聞き惚れますわね。
忍器など通さずとも使えるようになりましたけれど……わたくしの水面に映る貴方の声も悪くない」
繰り出された忍法の名は『霞声(かすみごえ)』。
離れた場所にある者へ一方的に声を届ける、斜歯のわざの変奏である。
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