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あと3話で完結ロワスレ

677ep298.主人公はもう居ない ◆LO34IBmVw2:2013/08/22(木) 22:27:48
玲音が思い付いた様に尋ねる。目線は墓の向こう側の暗い森を見ていた。
よくわかんない、とピノは応えた。玲音はピノの方へ視線だけを動かした。ぐるり、とやや大き過ぎる目玉が回転する。

「ピノ、ニンゲンじゃないから、よくわかんないの。でも“死ぬのは幸せな事だ”って、パパ、いってた」
「オートレイヴだから、よくわからない?」
「わかんないもん、そんなの」
頬を膨らませながらピノは言う。玲音は少し悩む様な素振りを見せた後、再び口を開いた。
「でも、ピノはコギトウイルスに感染しているんだよね?」
「うん。でもわからないの!」
「どうして?」
「わかんないっ。れいんはときどき、よくわからないこという!」

ばん、とピノが椅子の上に立ち上がって、玲音にサックを投げ付ける。
サックの中身が散らばって、玲音の膝の上のパソコンは落ち葉の海にダイブした。

「……。……ごめんなさい。ピノがどう思ってるか、知りたかっただけなの。許してくれる?」

玲音は立ち上がり、ピノの支給品をサックの中に入れながら言った。ばつの悪そうな表情だった。

「ううん……ピノも、ごめんなさいする。ピノ、れいんのことしりたいよ。ピノだって、しあわせ、おしえてほしいもん」
「私は……私みたいな人の事なんか、知っても良い事ないよ」
玲音は苦笑を浮かべて言った。ピノは首を振って、椅子を飛び降りる。錆色の木の葉が少しだけ地面の周りを踊った。

「トリエラがいってた。きっとともだちってやつは、おたがいのことをよくしってるものなんだって」
「トリエラが……?」
「トリエラ、それからヘンリエッタこわしたんだ。そしたらトリエラきゅうになきだしたの」
「……きっとコギトに感染してたんだね、トリエラも」
「トリエラ、さみしいっていってた。ピノもね、そのあとうごかなくなったビンスをみたの。そしたらむねがなんか、きゅーってしたよ。
 だからピノ、きっとトリエラがいってた“さみしい”っていうびょうきなのかもしれないなって」

玲音は無表情のまま、空を見上げた。星は一つとして顔を出していない。
ーーー寂しい?
自分に問いかけるように呟いたが、やがてその言葉は森の向こう側の闇に沈んでいった。
いつまでもそうしていた玲音の腰あたりに、ピノは不安そうな表情を浮かべて抱き付いた。
熊のフードと、猫のフード。白い肌、暗い髪の毛。端から見れば、姉妹の様に見えなくもなかった。

「……ビンス、いつここにくるのかな」

不意に、ピノが呟く。顔は玲音の胸に埋まっていた。玲音はピノの肩を優しく掴み、ゆっくりと引き離す。
「……あのね、ピノ」
「うん?」
「ビンセントさんは、もう帰ってこないんだよ」


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