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あと3話で完結ロワスレ

291SLBR・289-a: 素晴らしき小さな戦争(Ⅰ) ◆MobiusZmZg:2013/02/02(土) 17:17:39
「……どうして」

 はじめて自身の思考が肉声をなしたと感じた、その瞬間に『戻って』いた。
 雪の吹き乱れる情景こそ変化はないが、空気の流れ方で分かる。分かってしまう。
「やあ、おかえり」
 壁と天井でもって仕切られた空間で花白と直面せざるを得ないことを理解した、テトリスは片膝を折っていた。
 迷核に込められていたであろう過去が、脳漿を圧迫し、花白の声の穏やかさが、彼の求めるものを思い起こさせる。
「頑張ってみたんだけど、ちゃんとした魔法はダメだったよ」
 息を荒らげる騎士の背景を知ってか知らずか、花白は気楽そうな声で言った。きみが過去を見てる……過去と重なってるって
ことを理由にして、【刻騙し】の魔法が使えないかと思ったんだ。
 でも、いっときでも滅びの時を止めるなんてどだい無理な話だったね。
 そんな力が使えたら、僕だってもとの箱庭で……力が及ぶかぎり、ずっと使ってたと思うから。
「そんな――魔法を。いつ使ったんだ」
「いま」いたずらを自分からばらした子供の顔で、花白は星の欠片から手を離す。「『どうして』って、いま言ったじゃない。
そのとき、僕の力がちょっとだけ強まった気がしたんだ」
 協調行動。思い浮かんだランドメイカーとしての用語を、テトリスは水筒の水で飲み込んだ。
 相手に対して抱いた《好意》を、この場合は無意識に花白自身の糧として使われたということだろうか。
 じかに手合わせした剣のみならず、救世主がもつ『白の力』も感覚的に操っていたと聞いたものだが、なるほどたしかに、
この少年にはひどく嗅覚のするどいところがある。

「結論を言うまでに、ひとつ問おう。お前の言う――『すべて』ってのは、一体どこまでのものを指すんだ」

 だからこそ、先手を打って問いかけなければならなかった。
 自身へ問いかけた花白に満足される必要はない。まして愛される必要もない。
 だが、これだけは譲れなかった。ここで一歩でも譲ってしまえば、少年は自身が騎士でさえあれないと確信した。
「なんだ。それって最初に訊くべきところじゃない?」
「そこだけ聞けば正論だが、訊くまでにあれを見せたのはお前だ」
「それでも、おかしいよ」そして、花白は最も痛いところを晒した言葉を的確に拾って、ため息をついてみせる。

「すべては『すべて』さ。でも、そういうふうに訊くってことは、弾かなきゃいけないと思うものとか見ちゃった?」
「……そのとおりだ。民草――お前の言う『ヒトビト』か? ソイツらに審判だけを下せるヤツが、あそこにもいた」

 アルフレッド・J・コードウェルの、あるいは完全者の、ムラクモの――。
 三者三様に世界を壊すと言い放ったものたちの浮かべる表情は、おぞましいと形容しても足りなかった。
「理想もいい。ときには鬼になることだって必要だろう。そういう気持ちはボクにだってある」
 理合いに秀でてひどく冷たく、しかして、双眸にだけは憎しみとも怒りとも取れる熱のさし続ける顔。顔。顔。
「だが……絆や命の途切れた瞬間で止まって、自分の力にまつわる衝動でしか動けない怪物となると話はべつだ」
 方向こそ違えど『新世界』を求めて行動した彼らは、三者とも同じような顔つきをしていたのだ。
 いちど死んだはずの人間は、これ以上死なない。
 生まれ直すこともなければ、精神の変容がなされることもない。
 ひとと繋がる理由もないというのに、変わりようのないがゆえに相対するものに変化を強要し続けるさまは、テトリスの
目から見れば屍霊術師の手によって立ち上がり、生者を憎む死霊のそれとなんら変わりはなかった。
「ふぅん。それだけ聞くと、きみが見てきたヤツは『ジャーム』ってのに似てるね」
 わずかな間だが、アカツキとともにいた十也と行動した花白もオーヴァードを知っている。
 極光によって過去に至る、それまでに聞いた言葉がなければ、テトリスは彼もジャームに近いものだと認識しただろう。


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