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あと3話で完結ロワスレ
170
:
素晴らしき小さな戦争(0)雨時々僕たちまち君
◆MobiusZmZg
:2013/01/12(土) 19:38:18
「と、枯れた女が褥に誘うような真似をするのにも飽きました。
まただんまりを決め込まれても寂しいので、此度は貴方の水に訊ねるといたしましょう」
だからルツボは、ムラクモが死んでも求めないであろうこともする。
ふたたび首筋に這わせた唇と、舌を――此度は引き結ばれた武官のそれに向かわせた。
纏った水による浮力で、わずかに地から浮かぶ濡れ女は、背中から首の後ろにつたわせた左手で彼の髪を愛撫する。
薄い唇の表面を、猫のするように舐めれば、意外なほどに容易く隙間が出来た。
「聞き分けのよろしいこと。坩堝衆が技を恐れるのなら、抱擁も受けなかったでしょうが……っ」
触れるばかりの口づけが、不意に深いものとなった瞬間、ルツボの頬がこわばった。
毒婦のそれともみえた色は瞬く間に塗り替えられ、かたちを歪めてなお純真な苺のように、
「こうなるようにことを運んだのはお前だ。すべて計算していたろうに、今になって臆したなどと言えるか」
赤く染まった顔を、ムラクモは瞳を開いたまま視界に入れていた。
転瞬、酷いともずるいとも言わせる隙を与えず、武官は間隙のひとつも残さぬ接吻を再開する。
唇を噛み裂いて血を得るも、口づけの合間に糸を引く唾液を呑むも自由と言わんばかりに、焦げ付くほどの
熱をもってルツボの『闘い』に応じた男が吐息に残るものは、恋のように甘いと形容された飲料の香りだ。
――なんですの。本当に、なんなんですかそれは。きちんと出来るのではありませんか。
かすかに塩の味が残る唾液の、ぬるつきが疎ましかった。
合間に漏れだす吐息の熱に、瞳まで潤んでしまいそうだった。
女の背中へ回した腕が有する力と無造作にこそ、憤りを覚えていた。
たちまちを通り越して鮮やかだとしか言いようのない所作で主導権が入れ替えられかけた事実と、事ここに至るまで
動こうともしなかった男との間にある溝の大きさに絶望しながら、ルツボは彼の頬を両手で挟み込んだ。
ディスコミュニケーションを地で行くものが、せめて最後にキスを返してくれている。
ならば――口づけを受けた側が敬意を払って投げ返すべき石も、これしかない。
息が湿るほどに長い口づけの、ほどけるそのとき、
はじめに舌を沿わせていた下唇に歯を立てて、誰にも虚飾のかなわぬ血を、
ムラクモの燃やして流した生命の、鼓動に転がる『断片』をたしかに舐め取って告げる。
「……忍法『洫語(みぞがたり)』」
そうしてルツボは、ディスコミュニケーションしかない濃密な接吻を終えた。
ひどく空虚で不毛だと、誰よりも当人が知るからこそひたすらに閉じ込め続けていた肋骨をかき分けた果てに、刹那
のぞけた果実の赤さ。それを知ってなお相手を「敵と突き放したい」がために、潤んだ瞳の焦点をずらす。
かなわぬ夢を見るように、届かぬ星をただ眺めるように、『星の意志』を得た魔人として茫洋とたたずむ。
「うん――成功です。百歩譲って満足したことにもしましょう。
閨でそのようなことを言われなく……て……ッ、ああ、良かったですね!」
「くだらんな」
「それが、貴方のいちばん悪いクセですのよ!」
だが、当然というべきか。
本音を知られて自嘲する武官と、かぎりなく近づいた――時と場所さえ噛み合っていれば、本当に最後まで共闘した
かもしれないルツボであったからこそ、慣れているはずの演技も一瞬で崩れた。
「もう――もう、わたくしは決めてしまいました」
寝物語をするような気安さが、慇懃無礼な言葉つきにもさす。
「ムラクモ。貴方のことは『ゴミ』でなく、『クズ』か『残念なイケメン』と呼んで差し上げます。
この身が常世に向かおうとも、ずっと。いつまでも……わたくしが貴方の血を忘却する、そのときまで」
強いて言うなら何もかもが台無しにされたことへの怒りで震えた声に、情というべきが混淆するのは――
やはり自分が、九重ルツボが『女』としてあることを選んでしまったからだろうか。
もう、武官の表情は見えない。いいや。接吻の、そのときから、女は男の顔など見られなかった。
九重ルツボが知っているのは、彼の体温と心臓の押し出した血の味と、赤く潜んだ本音の断片だけだ。
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