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あと3話で完結ロワスレ

386剣士ロワ第300話「光」:2013/03/13(水) 23:15:35




 無我夢中だった。
 突如として崩落を始めた宮殿の中で、最初、タクティモンは膝を着いたまま立つことすらできずにいた。
 それほどに、タクティモンはトゥバン・サノオの死を悼み、悲しんでいた。
 このまま宮殿の崩落に呑まれて、押し潰されて静かに消え去るのも良いかと思った、その時だった。
 人一人を容易に押しつぶせるほどの大きな瓦礫が、トゥバン目掛けて落ちて来たのだ。
 気付いた時には両の足で立ち、両の手で蛇鉄封神丸を握り、振るっていた。
 そうすることの意味も知らず、理由も分からぬまま、タクティモンは一心不乱に剣を振るい瓦礫を撥ね退け続けた。
 数分後。洛陽宮殿は完全に崩壊し、瓦礫の雨も止んだ。タタリ場の瘴気に浸食された曇天の下、タクティモンはトゥバンの亡骸と共に立っていた。
 終わってから、タクティモンは自分が何故、反射的に身体を動かしたのかを考えた。
 トゥバン・サノオは、最早ただの肉塊。それを守ったところで、何の意味があるというのだ。
 決して答えの出ることの無い自問自答に沈む直前、タクティモンは自分の顔に違和感を覚え、手で触れた。
 指先が、何かの液体で濡れた。
 これは何かと考えること数秒、答えはすぐに出た。
「馬鹿な……! 私が、涙を……?!」
 タクティモンは自分が涙を流していたことに、今になって気付いた。
 よく見れば、鎧も涙で濡れていた。一滴や二滴では到底足りないほどに。
 驚愕によって、思考が白く埋まる。タクティモン自身が、『タクティモン』というデジモンについて熟知しているが故に。
 タクティモンとは、デジタルワールドの幾万年分にも及ぶ記録の中で、戦場で無念の最期を遂げた武人デジモン達の怨霊とも呼ぶべき無数の残留魂魄のデータを、バグラモンの手によって1体のデジモンとして練り固められた存在だ。
 その存在に、誰かの死を悲しみ、悼み、涙を流すという性質を記したデータは、何処にも存在しない。
 主君への忠誠心、一介の武人としての性、完璧(パーフェクト)を好む――タクティモンの人格を構成する要素など、たったそれだけなのだ。
 なのに、タクティモンは間違いなく、泣いていた。つい先程まで、虚しき最期を迎えてしまった男の死を悼み、悲しんで。
 これはどういうことなのだ。まるで自分が別人にでもなってしまったのではないかとすら考えて、タクティモンはその思考の中に答えを見つけ出した。


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