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あと3話で完結ロワスレ

683ep298.主人公はもう居ない ◆LO34IBmVw2:2013/08/22(木) 22:45:15
「ふぅーっ」

溜息が自然に出た。吐く物は全部吐き尽くしていたが、息だけは未だに吐ける事に少しだけ安心した。
まだ自分が生きている事の裏返しのように思えたからだ。

「こんな事になる前に早く誰か可愛い女の子を守って、格好つけてから自殺すれば良かった……」

何となしに、空を仰いだ。雲で暗く淀んで、星など見えはしなかった。今生最期の夜だと言うのに、気の利かない空だ。

「くそ。俺の馬鹿っ。結局集団自殺とかっ」
赤く錆びた手摺に額をごつりと凭れる。ざらざらとして、少しだけ痛かった。
皆と別れた後、テラスへ出た。あの息が詰まりそうな地下室に居ると、吐き気が治まりそうになかったからだ。
テラスは二階の東側にあった。こぢんまりとした、一畳あまりの一人用テラスだった。
夜風は涼しく、湿気は適度。虫一匹いない。自然光は皆無で、朧月が僅かに辺りを照らしているだけ。中々どうして良い環境だった。
テラスの外には深い森ーー参加者達からは“黒い森の庭”と呼ばれて恐れられたーーが見えた。
屋久杉顔負けな巨大な杉達は天を目指してそれぞれが競うように伸び、ひしめき合っていた。
森の中には深い谷があり、そこには川が流れていて、滝壺に落ちる水の音が、空にどうどうと響いていた。
めだか、紅麗、トリエラ、ジョーカー、夜空、クルス、王土、坂東、メラン、ヘンリエッタ、ルーシー、ヴィンセント、桜田、黒木。
少なくとも今朝から夜にかけての惨劇で、13の死体がその森に眠っている筈だった。

「はぁーっ。ついてなさすぎだろぉっ、俺……」
溜息と共に、言葉が唇から零れ落ちる。そのうちの一人になれたならどれだけ幸せだったろう。
自殺だなんて、そんな事想像すらした事なかった。自殺する奴は馬鹿だと思っていた。
漫画家の世界では別段珍しくはなかったが、それでも親や大家に迷惑だし、折角生きてるのに自分から命を終わらせる意味もさっぱりわからなかった。
だがそれがここにきて現実味を帯びて心を襲う。
かつて自分が貶してきた最も間抜けな最期が、目前にあった。皮肉にも程がある馬鹿げた話だった。

「……でも。俺なんかが格好つけられる様なシーン、どこにも無かったよなぁ……」

初日から、俺は洞窟の奥に引き篭もった。DQNとの戦いで学んだ事は、とにかく静かにして身を隠す事が一番という事だったからだ。
三日目に差し掛かる頃に、中原岬さんと小野寺雄一さんの二人が洞窟へ来たが、その二人も結局自殺して。
その後も黒神めだかさんが来るまでずっと引き篭った。格好つける余裕も隙も、機会さえありはしなかった。

「おぇ。まだちょっと吐き気する。くそっ」
瞳を閉じると、少女の頭が弾け飛ぶ瞬間が壊れたテープの様に繰り返す。
「けど、悪くない……俺は……悪くない……大丈夫……大丈夫……」
網膜に焼き付いてしまったみたく、最期の瞬間が離れない。

「……ようつべで見た、外人が輪ゴムで西瓜を割る動画みたいだった……」

人を殺した以上、天国には行けないな、と思った。ただでさえ今だって不法侵入してるし、器物破損もしてきた。元の世界でも。
これじゃあ、バカッターに犯罪自慢するDQNと何も変わらない。
寧ろローソンやブロンコビリーのアイスケースや冷蔵庫の中に入る方がエンターテイメント性があるだけまだマシじゃないか。
……あ―あ。ガリガリ君の梨味と炭焼き厚切り熟成ぶどう牛サーロインステーキセット400g……死ぬ前にもう一回食べたかったなぁ。

「自分の人生って、やっぱり自分で思ってる以上に大した事ないよな。俺の持論は身を以って証明された訳だ……。
 自分の人生がつまらないから、漫画で他人の人生を覗きたがる。そこに現実を見て、経験を補いたい。だから人間は漫画を見るのだという理論が……」


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