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あと3話で完結ロワスレ

282SLBR・289-a: 素晴らしき小さな戦争(Ⅰ) ◆MobiusZmZg:2013/02/02(土) 17:13:33
「……こんなこと、分からなきゃ良かった?」

 剣劇が言葉に断ち切られての第二幕は、ひそやかな声にて始められた。
 しずかに壊れてゆくものを眺めて息をつく花白の、テトリスに問う声は恍惚としてさえいる。
 世界が滅んで黙したそのとき、彼は、はじめて世界を抱き締められるとでもいいたげに睫毛を伏せる。
 もはや双方剣を構えず、会話も成立しない局面を迎えて、騎士は大剣を杖がわりにして身体を支えていた。

 剣の一閃によって決着をつけられぬ間にも刻一刻と、世界は終わりに近づいていく。
 なにも為さぬまま、滅びを告げる雪に消え敢えるか、最終決戦で積極的に世界を滅ぼすか。
 【困惑】にさえ昇華され得ぬくるめきを覚える選択を前にすれば思考も止まる。この世界は必ず終わる。
 騎士では、いけない。積み上げた武勲では、目の前にある『空疎』を殺した先に進んでいくこともかなわない。

 笑うしかない状況だと、テトリスの脳漿は告げている。
 笑ってしまえば、少なくとも肉体は弛緩を得られることも経験していた。
 それでも吐息に色はつかず、肩を揺らすたび白く凍ったものが緩んで溶けてほどけていく。
「黙ってるって、ことはさ」
 声がかけられたという事実に対して目を上げれば、伏せられた空疎の睫毛に銀花の欠片が舞い降りた。
「きみは、自分が潔白だなんて思わないんだ。血に汚れた手で何かを掴めるなんて思えないんだ」
「汚れのない身で、なけりゃあ……」
 幸せにはなれないかというくだりを、テトリスは胸中に呑んで殺した。
「自分が潔白である――なんて。そんな根拠のないこと、よく思えたもんだよね」
 やはりと、言うべきなのだろうか。
 かつての救世主であり、花白という名を持っていた空の少年は、自分に対して言葉を発していない。

「だってひとは……ヒトビトは、どれだけ同類を殺してきたの?
 どれだけ、玄冬と救世主に犠牲を強いてきたの? あの人やバカトリに無理をさせたの。
 争いのない世界を望んでたっていうなら、どうして、かみさまはあんなふうに作っちゃったのかな」

 先刻の繰り返しとなる言を、今度はテトリスも止めなかった。
 止めても無駄だと感じたのではない。滅びまでの空白を、音で埋めたいと思ったわけでもない。
「今までヒトビトを殺して、傷つけて、せかいの滅びに手を貸してきたくせに。
 いざせかいが滅ぶとなったら『救世主と玄冬によって救われる』だなんて、道理が通らないよ」
 花白の言を聴く少年は、自身の才知が不足に逃げることなく黙考することを選んでいた。
 騎士では、いけない。世界を呪う彼を剣によって殺すことでは、ここより先にある何処にも向かえない。
 そのすべてが真実であったとして、そうであるからなんだというのだ。
 何処にも行けぬからといって、ここまでの道で覚え掴んだ《希望》を投げ出す道理はない。
 ランドメイカーだからではなく、異能があるからでもなく、まず、自身がテトリス・パジトノフであるために。
 ただひとりの乙女と交わした誓いに、乙女のもとを離れる自分をさえ受け容れた彼女に応えるために――。
 ここでも、約束は守っていく。あの雪の日に交わした約束を、守り続けていく。

  ――約束する。必ず、君にふさわしい王になってここに帰ってくる。

 この言を聞いて、乙女――「七不思議の」リジィは、騎士でもいいのにと首を傾げた。
 だが、そこだけはテトリスにも譲れはしなかった。騎士であるなら、リジィを守ることは出来る。しかし騎士では
王国を拓けない。王の傍らにあって輝くことはかなっても、みずから希望の炎をともすことはかなわぬがゆえに。
 ある意味では、暗黒不思議学園の国王たるリジィと袂を分かちかねない選択を、しかして彼女は許していった。
 友好国との事情はあれども、ほんのすこし寂しげに、けれども、この気性ゆえにこそと言いたげに。
 リジィが命を落としたいま、かりに彼女と交わした約束を破ったとしても、その事実にはきっと誰も気付かない。
 だが、彼女に向けて世界をもっと良くすると宣誓したテトリス自身だけは、約束を破った事実を絶対に忘れない。
 忘れられるものか。凛と紅い瞳。ときおり林檎の朱がさすなめらかな頬。リジィが好きだから帰ってくるわけじゃない。
よく通る声。雪に流れた金の髪。素直に伝えて行けなかったことは、すべてくちづけに込めたのだ。

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