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あと3話で完結ロワスレ

671ep298.主人公はもう居ない ◆LO34IBmVw2:2013/08/22(木) 22:08:36

「平気じゃないです。我慢してるだけですよ。それに人を殺した事は一度ありますから。ほら、俺この通り極悪人なんで」

佐藤さんと岩倉と黒神は好きにはなれなかったが、何故だかこの人はそこまで嫌いじゃないな、と俺は思った。何故かは知らないが。

「お、俺は生きてる人を殺したのは、うぷ、は、初めてだった……。
 見捨てた事なら、一度だけあったけど……ごぷ。ぅぐぇー、きもちわるっ」

血で濡れたシャツを脱ぎながら、鈴木さんは言った。
服を脱いだ後、鈴木さんは決まりきった出来事の様にレジ袋に吐瀉を吐いた。俺は最早何も思わなかった。

「それで気分を悪くしてるんですか?」
俺は尋ねた。鈴木さんは首を横に振る。
「違う……違うんだっ。同じだったから……ZQNを殺す感覚と、同じだった……」
「解らないな」俺も首を横に振った。「だったら何処に、気分が悪くなる理由があるんですか?」
鈴木さんはレジ袋に吐くと、長い溜息を吐いて、そして俺の方を見た。

「俺が元の世界で殺してきたZQNは、人間だったんだって……だったらやっぱり、殺人だ……そう思ってしまったのでっ……。
 だったら彼女だって、化け物とは言うけれど……お、同じ人間だったんじゃ、ないのかって……。な、なら。ならだ?
 それって、つまり、俺が、やった、事、は、その、」

俺が鈴木さんの言葉を遮って反論しようとした時、トイレの扉が開いてげっそりとした面持ちの佐藤さんが出て来た。

「すまん、待たせた。もう大丈夫だぜ。ちょっと堪えたけど……」
「俺も……もう行ける」
佐藤さんの言葉に、鈴木さんも続いた。どう見ても大丈夫そうにはなかったが、彼なりの気の遣い方なのかもしれないので放っておいた。
「なら、上に行きましょう。食べる気分じゃなくても、最期の晩餐くらい胃に入れとかないと」

俺は立ち上がって、階段の上で鍋を見張る岩倉を見た。
どうか神様。あれが空鍋でありませんように。
俺は今生最期の祈りを、密かに神に捧げた。






【80:12】






「悪いな、玲音ちゃん。メシまで作ってもらってさ」

佐藤さんが申し訳なさそうに言って、席に着いた。向かい側に座る岩倉は無表情のままこくりと頷く。
「……最期の晩餐」
隣で、独り言の様に鈴木さんが呟く。もし本当にそうならこの場に裏切り者が居る事になるな、と俺は思った。
ならば果たしてそいつは銀貨何枚で俺達を売るのだろうかと思ったところで、俺は考えるのを止めた。
メリットが無いからだ。故にそれは有り得ない答えだった。最早裏切る必要さえも無い。

「さいごって?」

ピノが左を向き、佐藤さんに尋ねた。
「皆消えちゃうって事さ」
佐藤さんは悲しそうに笑って、ピノの頭を撫でる。

「きえる?」
「何も無くなるって事だよ」

岩倉がコッペパンを齧りながら淡々と言った。
ピノは眉間に皺を寄せて暫く考えているようだったが、やがてかぶりを振って考える事を止めたようだった。
黒くくすんだスプーンを手にとって、俺はシチューを口へ運ぶ。
スプーンはきっと高級な代物なのだろうが、銀装飾がごつごつと指に当たってどうにも慣れなかった。
シチューの味は、本来こうあるべきというシチューよりーー少なくとも俺の知っている常識で考えてーーだいたい十倍ほど薄く、そして必要以上に塩辛かった。
隣の鈴木さんはしかめっ面を浮かべている。体型的にも濃い味が好きそうだもんな、と俺は思った。二郎とか行って呪文唱えてそうだし。
……俺は食べられなくはなかったが、それでも不味いという事実は避けようがない。やはり岩倉は普段料理をする人間ではないらしい。
まぁそういう風にも見えないし、不自然に美味いよりかは下手な方が余程良いかもしれない。

「……なくなってもまたつくれる?」

数分間はカトラリー達が音を立てていたが、ふと不安そうな顔をしたピノがそう呟いて、四人の手は止まった。

つくれる?

俺は間抜けに口を開けたままその発言の意図を咀嚼してみたが、意味が掴めずそのままスプーンを口へ運んだ。
人を作れるのかどうかと、そういう事を訊いているのだろうか。この幼女の世界ではクローン技術でもあるのかもしれない。
なにせオートレイヴとかいうアンドロイドが当たり前の様に居るのだ。そのくらいあっても別段おかしくはないだろう。


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