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あと3話で完結ロワスレ

182それはきっと、いつか『想い出』になる物語 ◆6XQgLQ9rNg:2013/01/13(日) 21:50:21
 夢から現実へと通ずるそれは、目覚めの輝きだった。
 夢の時間は、もう終わる。
「よっ、と」
 カズマが、立ち上がった。
 回廊は一本道だ。だが、一度足を踏み出せば、きっとそれぞれの帰る場所へと道は分岐するだろう。
 だから。
 このまどろみの時が、別れの時間なのだ。
「カズマ」
 呼ぶ。
「クマ」
 呼ぶ。
「トトリ」
 呼ぶ。
 三人の瞳を順に見つめ、胸に焼き付ける。
「この夢は、確かに悪夢だった。ひょっとしたら、わたしたちは出逢わずにいられた方がよかったかもしれない」
 そして、ヴァージニアは脳裏に思い描く。
 散った人々のことを、彼らと過ごした時間を、深く強く想い描く。
「それでもわたしは、あなたたちと――みんなと、出逢えてよかったって言うわ。何度だって、何度だってそう言うわ」
 両手を重ね、胸に強く押し当てる。
 そして、精一杯の笑顔を三人へ向けるのだ。
「だって、いっぱいにもらった『想い出』を、わたしは否定したくないもの」
 ああ、と返答し、カズマは拳を突き出した。
「逝った奴がいる。亡くしたモンがある。けど、全部背負って刻んで進んでやる」
 そう思えるのならば。
「重てェよ。重てェけど、背負っていたいと思うものを掴めたんだ。だからこいつは、ただ悪いだけの悪夢じゃねェ。悪いだけじゃあ、ねェのさ」
 カズマの拳に、クマが手を打ち付ける。
「我が命は、君たちの『想い出』と共に、クマ! クマは皆のことを忘れない! ゼッタイ、ゼッタイ忘れない!」
 続いてヴァージニアも、拳に手を打ち付けた。手の甲で感じられる温もりも『想い出』となるのだろうとヴァージニアは思う。
「ほら、そんなところで突っ立ってないで。トトリも早く」
 ヴァージニアが促すと、少し距離を置いて佇んでいたトトリが、つぶらな瞳を丸くした。
「え? わたしも、ですか?」
 自分を指差し、小首を傾げる。
 否定する者など、いやしなかった。
「たりめェだろ」
「もっちろんクマ!」
 トトリは迷うようにヴァージニアを見て、戸惑うようにクマに視線を移し、躊躇うようにカズマを眺める。
 そして、惑うようにあたりを見回してから、おずおずと近づいてくる。
 こつん、と。
 遠慮がちに打ち合わせられた手も、また温かい。
 簡単に忘れられないくらいには、温かい。その温かさが在るから、現実を生きていける。
 トトリもそうであるといい。そうであるといいなと、ヴァージニアは思うのだ。
「それじゃあ、行くか」
 カズマが扉を開け放つ。
「ええ。そろそろ、起きましょう」
 ヴァージニアが隣に立つ。
「トトチャンは、どうするクマ?」 
 クマが尋ねると、トトリは、思い切り目を擦った後のように薄ぼんやりとするアトリエをぐるりと見回した。
「わたしは、このままアトリエと一緒に還ります」
 そっか、と頷いて、クマはトトリの隣へ行く。とてとてと足音を立て、背伸びしてトトリを見上げる。

「トトチャン。クマは、トトチャンの力になりたいクマ。トトチャンが元気でいる力に。トトチャンが明日を歩いていく力に、なりたいクマ。
 そして、伝えたいことが、たくさん、たくさん、たくさんあるクマよ」
 
 だから、と言葉を切り、言いにくそうにしながら、
 
「もしトトチャンさえよければ、クマの世界へ、ご一緒、しませんクマ……?」
 
 クマは、そう告げたのだった。


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