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あと3話で完結ロワスレ
179
:
それはきっと、いつか『想い出』になる物語
◆6XQgLQ9rNg
:2013/01/13(日) 21:44:50
「笑って、いました」
眉をハの字にし、目尻に涙を浮かべ、それでも笑って、
「最期のその瞬間、殊子さんは、わたしに笑いかけてくれていたんです」
死に瀕した殊子の気持ちを再現するために、
「たいせつな人なんていないって、大好きな人なんていないって、そんなの、言われなくても分かってるんです」
笑うべきだというようにして、
「ずっとずっとずっと、わたしにはそんな人いなかったんだから。言われなくても、誰よりも自分がよく知ってます」
必死で笑顔を保とうとして、
「でも、なんだか、そうやって言われたら、ああ、そうかって、納得できた気がして。心が落ち着いた気がして。
それで、それで……ッ」
ぽたり、と。
トトリは、笑顔のままで、大粒の涙を溢れさせる。
一度零れ落ちてしまえば、涙は止まらなかった。
「わたし、何言って、るんだろ。あの、あれ、えと、ごめん、ごめんなさ、ごめんなさい……ッ」
自分を制御できず持て余しているようのその様は、ヴァージニアは胸を痛ませた。
笑おうとすればするほど、雫はぼろぼろと落ちて、トトリの頬を濡れそぼらせる。
その雫を、拭いとるものがあった。
クマの、手だった。
「トトチャン、頑張って笑わなくて、いいクマ。トトチャンは、トトチャンなんだから」
着ぐるみの手に、トトリの涙がじんわりと沁み込んでいく。
「今のトトチャンの気持ちを、大事にしてほしいって、クマは思うクマよ」
「今の、わたし……。今の、わたしは……ッ」
トトリの声は滲んで、震えている。
その姿は、たった一人、荒野に放り出されてしまった雛鳥のように見えたのだった。
そんなトトリの髪に、ヴァージニアはそっと触れる。
「無理、しないで。明日笑う為に、今日泣いたっていいじゃない」
「そんな、わたしは……殊子さんを、殊子さんの……」
なおも首を振るトトリに、言葉が差し込まれる。
「殊子のことは分かった。サンキュな。あんがとよ」
それは、カズマの言葉だった。
「だからもういい。もう、我慢すンな。苦しいんだったら吐き出せ。辛いんだったら泣けよ」
ぶっきらぼうで愛想の悪い、言葉が差し出される。
「泣けるってのは、案外悪いことじゃねェさ」
その一撃は、トトリの顔をくしゃりと歪ませるには十分だった。
しゃくり上げ、えずき、濡れた吐息を吐き出して。
トトリの感情が、決壊する。
クマの身に縋りついて、トトリは泣きじゃくる。
その涙はクマ毛を伝い、クマの感情にまで届いたらしい。
みるみるうちに、クマの瞳にも大粒の雫が浮かび上がった。
「トトチャン……! ツェツィチャン、コトチャン……! ごめんなさい、ごめんなさいクマぁ……ッ!」
滝のような涙を流し始める。
慟哭は重なり合い溢れだし、アトリエをいっぱいに満たす。
ヴァージニアはそんな二人を抱きよせ、その身をそっと撫でた。
「優しい言葉、言えるのね」
そうして、ヴァージニアはカズマに微笑みかける。
対し、カズマは白々しい溜息を鼻から吐き出し、ヴァージニアから目を逸らす。
「アイツが笑ってたんだろ。だったら、責める気なんてねェよ」
カズマの視線が、宙に向けられる。
その目が見ているのは、速水殊子か舞鶴蜜か。
ヴァージニアは蜜のことを知らない。それでも、両方だったらいいなと、そう思う。
そうだね、とだけ呟いて、ヴァージニアは、トトリとクマを強く抱きしめる。
強く、抱きしめるのだった。
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