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あと3話で完結ロワスレ

187それはきっと、いつか『想い出』になる物語 ◆6XQgLQ9rNg:2013/01/13(日) 21:55:03
「わたしには――たいせつな人がいないから。大好きな人が、いないから」

 殊子が言ってくれた、その事実。
 それを認識する瞬間、心の奥から何かが突き上がってくる。
 正体の分からない何かは、トトリの意識へと浮かび上がり、分からないままに弾け飛ぶ。
 両目から、雫が溢れる。その理由も、やはり分かりはしない。
 けれどトトリは、それを拭わない。
 拭わない方が、きっといいような気がしたのだ。

「だから、つくろうよ。一緒に、つくろうよ」
 息を呑み、ベアトリーチェが見上げてくる。
 貰えないと諦めていた誕生日プレゼントを差し出された子どものような表情で、見上げてくる。
「つくれるの……? わたしも、つくれるの……?」
 髪を撫で、頷く。
 何度も、何度も、トトリは頷く。

「できる。できるよ。だって――」

 トトリは涙を流しながら、心に宿る世界へアクセスする。
 それは、ベアトリーチェの願いが生んだ世界。

「だってわたしは、あなたが望む世界なんだから」

 虚軸<キャスト>に触れ、願いを受け取る。

「虚軸<キャスト>……『夢現渡り鳥<アローン・ザ・ワールド>』」

 ひとりぼっちの世界から飛び立ちたい。
 そんな願いを根源とする世界が、トトリの裡から溢れ出る。
 夢と現実の境界が薄れていく。
 夢が曖昧になり、現実がカタチになる。
 床が、壁が、天井が、棚が、ソファが、大釜が顕現し――現実に在るトトリのアトリエが、夢の中に再度現れる。

「ほら、ここは夢の中だけど現実なんだよ。だから現実に戻っても、わたしたちは一緒にいられる」
 夢に浮かぶ、現実で。
 トトリは、ベアトリーチェを抱き締める。
「ねぇ、ベアちゃん。わたしと、『想い出』を見つけに行こうよ。一緒にアーランドを旅をして、色んな『想い出』を作ろうよ!」

 アーランドへ戻れば、何処へだって行ける。
 いつだったか、どうしてか取った冒険者免許と。
 父が残してくれた、船がある。
 だから。
 荒野に羽ばたく渡り鳥のように。
 何処へだって、さがしに行けるのだ。

「いきたい……」

 腕の中から届いたのは、希求だった。

「わたしも、いっしょに、いきたい……ッ!」

 幼い外見にそぐう泣き声が、トトリの耳朶を打つ。 

「いっしょに、『想い出』、つくりたいッ!」

 より強く、抱き締めた。
 更に強く、抱き締め返された。
 トトリは離さない。
 ベアトリーチェも離さない。
 何故ならこれは、二人の最初の『想い出』なのだ。 
 始まりを乗せて、アトリエは輪郭を失っていく。現実へ還るべく、色を落としていく。
 アトリエが、アーランドへ還っていく。
 二つの泣き声を乗せて、抱きあう強さを連れて、感じる温もりを抱いて。
 夢を越えて、現実へと還っていく。
 その先に在る『想い出』を夢見て。
 血塗られた悪夢は、今、終わりを告げるのだった。

【トトゥーリア・ヘルモルト@トトリのアトリエ〜アーランドの錬金術士2〜 アーランドへと生還】
【ベアトリーチェ@WILD ARMS Advanced 3rd アーランドへと出立】


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