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あと3話で完結ロワスレ

174それはきっと、いつか『想い出』になる物語 ◆6XQgLQ9rNg:2013/01/13(日) 21:37:10
 黒い。白い。暗い。明るい。眩しい。真っ暗い。地に足がつかない。手に触れるものが感じられない。 
 水面に浮かんでいるような不可思議な浮遊感があった。穏やかな潮流に身を任せるような流動感があった。意識を埋め尽くすノイズがあった。 
 何をしていたのだろう。
 何をしているのだろう。
 何をしてきたのだろう。
 思い出す。思い出そうとする。
 ノイズの中を探り記憶を辿る。
 男の顔があった。少女の顔があった。女の顔があった。少年の顔があった。
 知っているような気がする。知らないような気がする。
 自分のもののような気がする。他人のもののような気がする。
 記憶は、濃霧の先に微かに浮かぶ輪郭のように曖昧で、はっきりとしなかった。
 揺らぐ。
 自分とは何なのか分からなくなる。
 たゆたう。
 他人とは何なのか分からなくなる。
 流される。
 何か大いなるものに引っ張られるような感覚がある。
 そこには、音にはならない声があった。
 無数の声は入り乱れ、数え切れない言葉がぐちゃぐちゃにぶちまけられていた。
 
 ――いいのか?

 誰かに問い掛けられる。
 知っている声のようだった。
 
 ――お前は、それでいいのか?

 誰かに問い掛けられる。
 知らない声のようだった。
「知らねェ……」

 発声はできた。
 だがその声は、自分の口を通して放たれたものなのか分からなかった。
 その回答に意志が通っているかどうかすら分からなかった。

 ――お前は風に吹かれっぱなしの草か?

 誰かに問い掛けられる。
 聞いたことがあるような声だった。
 聞いたことがないような声だった。
 煩雑な集団となった言葉の中で、ただその声が気になった。
 意識に、引っかかる。
 イメージが広がる。
 草原。吹き荒ぶ風。流される草。飛ばされる草。吹かれっぱなしの、草。
 自らの意志が通わない、草の光景。
 その緑を、視線で追ってみる。
 彼方へ流れ、果てへと遠ざかり、小さくなり、曖昧さに溶け、呑まれる。
 見えなくなる。消えてなくなる。
 ただ流されるままに消えてゆく。
 一切の意志が介在しない光景。消滅の定めに抗わず逆わず、風に全てを委ねる風景。
 心が、それを受け付けはしなかった。
 気に入らないと、ただそう思った。
 そうやって消えてしまうのだけは、絶対に嫌だと思った。

『俺』をなくすのだけは、絶対に、嫌だった。


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