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あと3話で完結ロワスレ

283SLBR・289-a: 素晴らしき小さな戦争(Ⅰ) ◆MobiusZmZg:2013/02/02(土) 17:14:02
 黙示録の乙女。理想を胸に学園を打ち立てた女王が、足を折ってひざまずく。
 災厄の王子。王になるとの誓いをたてた騎士が、乙女のあごにと手を添える。
 さよならは言わないわ。決然としたリジィの言葉に、テトリスも胸中で同意していた。
 さよならの言葉は、いつかこの手が冷たくなろうと、あの日荒野を目指した心が凍りつくまで要らない。


 誓いの、あるいは道を征く覚悟を表明した接吻は、熱に解けた雪の苦みを舌に刻んでいる。
 叙事詩的な光景に影を落とす苦みこそが、騎士としてありつづけていたテトリスに飛躍を促した。
 王のため、勇者のごとくに斃れること。それが騎士に出来る最後の誓いの表明だとして、自分は、そこにいかな意味も
見出さない。それを実行したところで忠誠を誓うべき王はすでになく、世界の滅びも止められはしない。
 まぶしいものを見たかのように、風雨に立ち向かうように。少年は瑠璃のしずむ双眸をすがめた。
「どうして」
 口をついた言葉の調子はひどく静謐で、選ばれた単語は滑稽なほど朴訥だった。
 だが、その単語にこそ空疎な少年はいっとき花白となって、意識をテトリスの側にと向ける。

「どうしてなんだと、お前は言う。
 世界に、神とやらに、そしてボクらに――花白。お前は問いをかけてばかりだ」

 無慈悲な吹雪を、刹那、そよと吹いた風が払った。
 雪雷さえ寄せ付けぬ、それは初夏の緑を思わせて爽やかなものをふたりの間に残していく。
「だからなんだっていうんだ。僕に殺せと強いたせかいを、そこに住むものを恨んで、憎んで呪って何が悪い……!」
 花白の、雪に映える薄紅の髪より深い瞳の紅を、テトリスは真っ向から見つめ返した。
 双方『睨んでいる』との形容が至当な、視線には切迫したものがある。身を震わせるほどの切迫と焦燥とに苛まれて
なお見出したいものがある。信じたいものがある。殉じたい、重なりたい、愛したいものが確かにある。
 少なくとも、いまこのときのテトリス・パジトノフは『それ』ゆえに渇き餓えている。
 その気持ちが花白の側にあると明言しないのが、ある意味では、この少年の示す誇りの最たるものであった。
「違うだろう。質問ってのは審問じゃない。それは、相手を痛めつけるために行うものじゃない。質問ってのは」
「答えを求めて行うものだなんて、お前なんかが言えるわけ?」
 ただ、素っ気ないと思われがちな物言いだけは、この場で直せるようなものでもない。
 理合いの勝って、いささか教条的な印象さえ残す物言いに、花白が噛み付くのも当然だと思えた。
 噛み付いてもらえるだけで、十分だった。
「じゃあ、どうしてお前はボクに問いかけた?」
 噛み付いてくれた少年を受け止めた災厄の王子は、そのまま、彼の手筋を崩しにかかる。
「お前が『影弥勒』だから。騎士で貴族で、僕の嫌いな軍人っぽいヤツだからに決まってるじゃない」
「銀朱隊長、か? そういう人間でいいんなら、ムラクモやアカツキも変わらないさ」
 敵だから、軍人だから貴族だから騎士だから。記号の力を、他者との相似でもっていちどきに打ち払う。
「この戦場に向かうのを選んだのはお前自身だ。その時点で、お前は問いかけるべきをボクらだと定めている」
 処刑人としてもあった友の、あるいは抗魔式にて相手を無力化する仲間の手筋を思い出しながら、
「自意識、過剰すぎ。僕は、お前らじゃなくてアカツキと一緒にいたんだよ」
 テトリスは、花白の隠していたのだろう本音をここで引き出し、たしかに掴み取った。

「同じことだ。さっき『救世主が殺したものだけは、命の器が計上しない』と言っただろう。
 ずるい言い草だが――本当に世界の滅びを望んだとして、ボクがお前だったら、あそこで加賀十也を殺さない」

 息を呑んだ花白の、細い身体を風が揺らしていく。
 飛雪は花と見まごうものから、ざらざらと振りかかる氷塊にと成り代わっている。
 ぴんと立った耳のなかに入り込もうとする雪を、テトリスはかぶりを振って追い払った。


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