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あと3話で完結ロワスレ

100Memoria Memoria -想い出を求めて- ◆6XQgLQ9rNg:2013/01/02(水) 19:20:01
 ◆◆

 髪が舞う。
 緑の黒髪一本一本が、編まれた髪束が、意志を持った刃物のように乱れ舞う。
 あらゆる平面から縦横無尽に伸びる髪の挙動は不規則で読み辛い。
「クマッ、クマクマッ!」
 正面の群れを、クマが腕の一振りで叩き落とす。身に巻きつこうとする集団を薙ぎ払う。
 貫きに来た髪を吹き飛ばすべく、跳躍して横回転。そのままブルーのすぐ横を落下しつつ、彼の詠唱の邪魔をする。
「何をするッ!?」
「術は禁止クマ! クマにまかせんしゃい!」
「こういうときのための術だろう!」
 そんなことは、クマだって分かっている。
 だが、それよりも更に分かっていることは、これ以上ブルーに負担を掛けられないということなのだ。
「ダメクマ! ダメったらダメダメよ!」
 沸くようにして溢れる髪には際限がない。際限なく溢れる髪で形成される層は分厚く、カズマやヴァージニアとは完全に分断されていた。
 カズマの突破力で、層に穴を開けることはできる。
 だが、彼の拳は基本的には一点突破に向いた力だ。
 進行方向にあるものはまとめて薙ぎ倒せても、空間を埋め尽くすものを完全に一掃するには向いていない。
「ブルーは休んでるクマ! すごいの使ったら、ブルーが、ブルーが……っ」
 クマは跳び、跳ね、両手を回し、両足を振って髪を迎撃する。
 必死のその様は格好悪く、無様な足掻きにも見えた。
 
「だったら――どう突破するのかしら?」
 神経を引っ掻かれるような、不愉快極まりない声がした。
 道を作るように髪の群れが横に別れていく。空いた空間からは、ベアトリーチェの視線が落ちてきた。
 右目とは違い、左目は人のそれと同じ様相だ。だが、蠱惑的な妖しさを孕んだ左の瞳は紅く、魔性が宿っている。
 その左目に、映り込む。
 クマの姿が、映り込む。
 クマを包む全身の毛が、文字通り総毛立った。
「残念だわ。貴方は、わたしを分かってくれると思ったのに」
 差し出されたその言葉を聴いてはいけないと、本能的に察した。
「ペルソナッ!」
 半ば反射的に、叫ぶ。星のアルカナが浮かんで爆ぜ、クマの頭上にペルソナ――カムイが顕現する。
 丸いその身がくるりと回り、透き通った氷の壁を生み出した。
 氷壁はベアトリーチェへと殺到する。その口を閉ざしてしまおうとするように。その身を封じ込めてしまおうとするように。
「冷たいのは、嫌いだわ」
 ぼう、と。
 黄昏色の火が灯ったのは、ベアトリーチェが呟いた瞬間だった。
 忠誠を誓う姫君の命に従い参じた騎士のような火は踊り、舞い、逆巻いて、轟々と燃え盛り火炎となる。
 ベアトリーチェを取り巻いた火炎――『悪夢たる想い出』<バーン・ストーム>は、身を挺してカムイの氷を受け止めた。
 氷は音を立て、次々と蒸発していく。髪が乱れる玉座の間に水蒸気が溢れ、視界が湿った白で満たされる。
 見えなくなる。
 まるで霧の中にいるように、あたりが見えなくなる。
「貴方は言ったわね。かつての貴方とわたしは似ている、って」
 優しげで、蕩けそうで、甘くて、心の表面を撫でられるような声が、不意に、クマの耳元で囁かれた。
「わたしもそう思うわ影<シャドウ>。抑圧された人の心が生み出した、空っぽな真っ暗闇さん」
「い、今のクマはッ! 空っぽじゃないクマよッ!!」
 声の発生源を目がけ、がむしゃらに拳を振るう。
 拳の先にベアトリーチェの姿はない。中空を滑り余った勢いは、クマの身を転倒させた。
 くすくすくす。
「ええ、そうね。今の貴方は空っぽじゃない。でも、思わない?」
 眼前に、現れる。
 目を細め、口角を吊り上げ、嗜虐的で凄絶な微笑みを浮かべたベアトリーチェの顔が、だ。


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