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あと3話で完結ロワスレ

114Memoria Memoria -想い出を抱き締めて- ◆6XQgLQ9rNg:2013/01/02(水) 19:32:04
 入ってくる。
 ノイズを破り、電界に住まう魔獣が崩れゆく城に侵入してくる。城の崩壊に伴い、夢魔の結界もまた消失したのだった。
 集合無意識を彷徨っているのは、魔獣だけではない。
 シャドウが、神の悪夢が、次々と溢れて零れて塗れていく。
 数は増していく。
 埋め尽くされる。
 滅びゆく城が、帰り道が、無数の異形で塗り潰される。
 異形の群れが、ヴァージニア達を知覚した。城が立てる崩壊の呻きと、異形どもの咆哮が重なり合う。
 耳障りな騒音に目を顰めながら、銃を構えようとして――。
「行けッ!! 道は空けてやるッ!!」
 ヴァージニアを押し留め、カズマが異形どもの前に出る。
 その身に纏うはシェルブリット。出し惜しみなしの最終形態。
 立ち向かう覚悟だってある。負けない気持ちだってある。
 わたしも戦う、と言うのは簡単だ。
 だが、ヴァージニアは迷わずに頷くのだ。
 細かい理屈とか理由はいらない。
 ただ、カズマのすべてを信頼し、ヴァージニアは頷いた。
「生きて帰りましょう。一緒に、必ず」
「あいよ。それじゃあ――行くぜッ!」
 軽く片手を挙げ、カズマの拳が異形どもを退けた。
 群れが別れて出来た道を、ヴァージニアは突っ走る。
 揺れにも負けず、振り返らず、異形の間を抜けて行く。
 シャドウを振り切り、神の悪夢の残滓を踏みつけ、魔獣の死骸を跳び越えて。
 到達する。
 カズマがすぐに来ないのは、追手を押し留めてくれているからだろう。
 振り返らず、床を蹴り付けた。
 クマの姿はまだ見えない。
 あの長い階段を転がり落ちても目を回していないのだとしたら大したものだとヴァージニアは思う。
 駆ける。
 駆ける。
 現れる異形はすべて無視し、阻む邪魔者を撃ち抜いて、前だけを見て駆ける。
 長い回廊の先、クマの後ろ姿が見えた。やはり目を回していたのか、その足取りは多少覚束ない。
 追い付ける。
 そう思い爪先に力を込めた、その瞬間に。
「ッ!?」
 不意に、足場が、抜け落ちた。
 行き場を失った力は空を蹴るだけで、反動は少しも戻ってこなかった。
 落下が、始まる。
 夢の底へ、集合無意識の澱みへ、ノイズの深奥へ、落ちていく。
「クマッ!!」
 叫んだ声は、崩れる城の泣き声に潰された。
 手を伸ばす。
 指先が、断層の端に引っ掛かり――触れた床が、ぼろぼろと崩れ落ちた。
「嘘――ッ!?」
 指先は、むなしく中空を掴むだけだった。
 崩れゆく城の破片と共に、体が、下へと引っ張られる。
 轟音が、一気に激しさを増して聴覚を支配する。
 上に見える城が、完全に崩れ落ちて欠片となり、夢に溶けていく。
 クマの姿が見えた。
 両手をぐるぐる回しながら、落ちてゆくクマの姿が見えた。
 ヴァージニアは思いっきり手を伸ばす。何かに捕まろうと手を伸ばしながらも。
 ヴァージニアは、無常にも落ちてゆく。
 夢魔の野望と共に、何処までも何処までも落ちてゆく――。


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