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あと3話で完結ロワスレ

194299:すべてが0になる ◆YOtBuxuP4U:2013/01/17(木) 15:19:23
 
「――良心から、だと?」

 不知火半纏は自らの耳を疑った。ぽかんと空いた口を閉じることを忘れた。
 《地震雷雷雷(サードサンダー)》は不発。
 発動を『なかったこと』にはされていない――いやできないはずだ。
 《大嘘憑き(オールフィクション)》は後だしスキル、一撃目は喰らわざるを得ないはず。
 つまり、罪悪感は球磨川禊に一切ない。そして彼自身もそれを認めた。
 しかし。無邪気ですらないと。良心だと。よかれと思って、物語を壊したのだと。

「お前は――お前はなにを言っているんだ」
「素直な言葉を言ってるだけさ、半纏くん」

 いまだボロボロの状態で対岸に立ち尽くす球磨川は「素直な言葉」でそれに答える。
 表情はうって変わって、ゼロだった。
 無表情、無感動、そんな言葉が陳腐化するしかないほど何もない、
 ゼロの表情で彼は語り始める。彼にとっての。球磨川禊にとってのバトルロワイアルを。

「僕たちはさ……詰んでたんだよ、最初から。
 最初の最初。安心院さんがこの首輪で、見せしめに不知火袴を爆殺したところから。
 僕たちの負けは確定してしまっていた。
 何故って? だってそうだろ? “犠牲者が出てしまった”んだぜ?
 死んだ不知火袴だけじゃない。それを見た全員、全員が犠牲者さ。
 見せしめとして死んだ老人。その死の瞬間を見たみんな。
 そして主催として、人殺しをしてしまった安心院さんと君――。
 誰一人としてもう“元には戻れなくなった”。楽しい学園生活には戻れなくなった。
 壊れてしまったんだ。
 殺し合いが始まって、いくらかの登場人物は安心院さんを倒して、平和を取り戻そうとした。
 でもそれはあまりにも――あまりにも遅すぎるんだよ、半纏くん。
 遅きに失している。僕からすれば滑稽だ。完成不可能なパズルの前で唸り続ける子供みたいに」

 絶対に取り戻せると、駄々をこねているだけだ。
 そう、球磨川禊は断じる。

「長く続けば続くほど。
 殺し合いが進めば進むほど、その登場人物はいろんなものを背負う。
 僕だってほら、傷だらけで、痛々しいだろ?
 これらを僕だけは『なかったこと』にできるけど、みんなは違う――背負い続けなきゃいけない。
 人の死を、人を殺した事実を、人を助けた経験を、大切な人の言葉を、
 ナイフを振り上げたときの心情を、拳銃の重みを、戦うことへの疑問とか、愛とか欲とか、
 極限状態の中で生まれた清濁入り混じった感情は、経験は、全てが終わっても残ってしまう。
 何年経っても何十年経っても、きっとゼロにはならないだろう。
 そんな――そんな想いは、重すぎやしないか? ううん、重すぎるんだよ。
 重すぎるんだ。漫画の中の登場人物ならともかく――現実の人間が、耐え切れるわけがない。
 それこそ“開始直後から終了間際までずっと眠っていて、何が起きたのか分からない”
 くらいじゃないと――例え生き残ったって呪われ続けるだけだ」

 絶望だけじゃなく、希望にもね。球磨川禊はそう続けた。
 不知火半纏は普通の人間ではないが、その言葉の意味を想像することは出来た。
 確かに、
 誰かを殺して生き残れば、殺した事実に苛まれ続けるだろう。
 そして――誰も殺さず生き残ろうとも、他に死者が生まれてしまった以上。
 生き残った者には死んだ者を弔う義務が発生する。
 ○○のぶんまで生きなければならなくなる。
 大量の命を背負って長い人生を生き続けなければならない。
 もとには戻れない――そんな壊れた人生を送る。壊れなければ、いけなくなる。
 誰かは必ずその役割を負わなければならないというなら――確かに初手から手詰まりだ。


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