[
板情報
|
カテゴリランキング
]
したらばTOP
■掲示板に戻る■
全部
1-100
最新50
|
1-
101-
201-
301-
401-
501-
601-
701-
この機能を使うにはJavaScriptを有効にしてください
|
あと3話で完結ロワスレ
296
:
SLBR・289-a: 素晴らしき小さな戦争(Ⅰ)
◆MobiusZmZg
:2013/02/02(土) 17:19:47
Scene 05 ◆ 花白・君を殺して花を散らせて
春の花に息が止まった。
空から降る白い花に交ざって降るのは、救世主が生み出すという花。
ぼくの生まれた季節にして、玄冬の死んで迎える季節に咲いて舞い散る――。
雪に交じる花びらが狂い咲きの桜に見えたそのとき、左手はそれをたぐってつかんだ。
だけど、穴が空くほど見つめた萼は赤くて、指で透けるほど撫でた花びらも、切れ目なく丸いもので。
花びらが壊れてしまうほどに答えを探して納得して、僕は、やっと息を継ぐことが出来た。もう死んだほうがいいと
決めたときにも脈打つ鼓動が白々しいのに安らぎが体をめぐって、やっぱり未来に期待しているんだと思えた。
いま幸せになれなくても、幸せが一体なんなのかさえ分からなくてもだ。
未来に期待してるってことは、たぶん、僕は幸せになることをずっと夢見ている。
いま幸せになれなくても、幸せってものが、一体どんなものなのかさえ分からなくても。
ただ、きっと幸せってものは、あした生まれてくるきみと、あしたは剣を取らなかった僕とが巡り逢って、そして。
いずれ生まれてくるだろう、次の玄冬に、
僕の救わなきゃいけない、あのせかいを終わらせるものに、
最後には死に別れると分かっていても、それでも優しくされることだと思えた。
優しくされたいって言葉は死ぬほど薄っぺらくて、今からホントに死ぬヤツにはお似合いだった。
幸せ。
幸せを思えば浮かぶ、玄冬はけれど、ここでも死んだ。
こんな所でなければ願えない終わりのかたちを、僕こそが否定した。
そうしてこのまま元の箱庭に戻れたとして、あそこにはまだあの人が。箱庭を監視する鳥の片翼が変わらずにある。
救世主とされた僕の隣にあった、あの人は、なににも染まらない『白の鳥』だった。
ああ――ああ、きっと。
きっと、彩の国の城では僕の嫌いなあの人が。僕の好きになりたかった、あの人が。
もう変えることさえ出来ない、涼しそうな顔つきで、繰り返し永遠の冬に近づく世界を眺めている。
初夏の緑色をした目。普段は穏やかなのに、必要ならどこまでも酷薄になれるあの目は涙も流さない。
そのくせ、このごろは母親のような諦観をしずめた眼差しを、この僕に注ぎさえしている。
だから、それならやっぱり、僕のやることはひとつしかないと思えた。
誰からも忌まれる玄冬が好きで、かわいそうで、かわいそうだと感じたものを拠り所にして『正義』を為そうとした
僕と、創世主の帰還をしか信じ得ない白の鳥とは、目を逸らしたくなるほどの盲目だけはよく似ているとも思った。
管理者の塔で見た、怜悧な微笑み。
自分で玄冬を殺しに行くという僕の言葉を、嘘だと知っていたくせに。
子供そのものの癇癪をぶつけたときの、あの人の表情が浮かぶと同時に胸を刺す。
――……いいえ?
刺された胸が、絞られてたまらなくなる。
あの人は。他人行儀で張り詰めていて、ひどく近寄りがたいあの人は、
僕のことを……救世主が玄冬を殺して世界を救う未来を心から信じていた。
理屈や計算、どこかで理想さえ振り捨てた、およそあの人らしくないやり方で、
白の鳥たる白梟は、花白を信じてくれていた。
花白。
あの人が僕にくれた綺麗な名前を、あの人が歌えば、桜さえ美しく思える瞬間があった。
玄冬以外のものが救われたせかいに咲く花を認めるたび、僕からは冬が拭われた。
そうして日々を過ごしていれば、撥ね付けられても揺るがなかったあの人が棘を失うさまも見た。
これ以上甘えて寄りかかってしまえば、あの人が倒れてしまう。
直感としか言いようのない感覚を受けた僕からも、棘というべきは抜け落ちていった。
それは、でも、丸くなっただとか大人になったなんていうものじゃない。
救われたせかいがヒトビトにもたらした日々の安穏は、僕とあの人からじりじりと力を奪っていく。
――だから……終わらせてしまいなさい、花白。
終わってしまえば、夢だったとでも思えるでしょう。
あの塔で玄冬を斬って、僕は、ほんの少しだけ楽になれた。
だけど「次からの僕には優しくする」と約束したあの人は、どれだけ時代が巡ろうと終われない。
箱庭を維持することが白の鳥の役目だから、そもそも、箱庭にあるどんなものも途中で手放せはしない。
悲しいことを、つかの間の夢だったと思えるときは、あの人には最初から与えられてなんかいない。
新着レスの表示
名前:
E-mail
(省略可)
:
※書き込む際の注意事項は
こちら
※画像アップローダーは
こちら
(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)
スマートフォン版
掲示板管理者へ連絡
無料レンタル掲示板