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あと3話で完結ロワスレ

681ep298.主人公はもう居ない ◆LO34IBmVw2:2013/08/22(木) 22:38:39

「今更考え方を変えても過去も未来も変わらない。屑は屑らしく、嫌われ者は嫌われ者らしくしてれば良いと思うんです。
 佐藤さんがどう思うかは知りませんけどね、俺には何も期待しないで下さい。
 貴方の事なんか知ったこっちゃないですよ。なんてったって、あと数十分で別れる他人なんですから。
 くれぐれも内輪揉めとかに俺を巻き込まないで下さいね。俺は内輪に居たくないんで」

引企谷はきっぱりとそう言って、ソファから腰を上げる。埃が少しだけ舞って、天井からぶら下がるナトリウム灯の光にきらきらと踊った。
少し迷って、口を開く。今日の俺は何故だか饒舌だった。

「……俺はそれでも悩んで悩んで、最後まで悩んでいたい。勇気もないし、抗う気力もないけど。
 何も変わらなかったとしても、悩む。決めたとしても、やっぱり迷う。
 人間、そんなもんじゃないのか? 少なくとも俺はそういう情けない奴だよ。ニートだし。大学中退だし、引き篭もりだしな。
 ただお前みたいな奴は、俺から言わせればただの格好つけたがりの糞生意気な餓鬼だね。
 感傷的な気分にでも浸って星空でも見上げてろよ。あれがテネブ、アルタイル、ベガってさ(笑)。
 その間にも逃げて、悩んで、結局いつもいつも駄目な結果で。
 死ぬのを決めた今でもまだ死にたくないとか、あの時こうしてればとか、色んな事を後悔し続けておくからな。俺は。
 俺達は確かに現実に負けた屑だけど、まだ25分くらいは生きてるんだぜ。全部放り投げてくたばっちまうのは……それからだろ。
 迷わない考えない悩まないってのはお前、そりゃあ最早人間じゃなくて機械の域だぜ。俺はそう思うけどな」

引企谷は口をへの字に曲げて俺の言葉を聞いていたが、やがて溜息を吐いて俺に背を向けた。

「非生産的ですね。きっと球磨川大先生は、今のアンタをモニタ越しに見ながらメシウマしてますよ」

肩を竦めて僅かに嘲笑しながら、引企谷は扉の向こう側に消えてゆく。なにやら原因不明の苦しい気持ちだけが、胸の奥に深く残っていた。
部屋は静かになってしまった。錆びた鉄扉へ煙の輪を飛ばしながら、俺は黴臭いソファに上半身を委ねる。

「格好つけてるのは俺の方だ……なぁ……本当にこのままで、良いのか? 教えてくれよ、岬ちゃん。
 俺はまだ自分の人生の中で、一度も答えを見付けた事がないんだ。笑っちまうよなぁ。
 でもさ、死ぬ時くらい、見付けたいんだよ……何の答えかは分からないけどさ。何かを見付けたいんだ。何か一つでいいんだ」

俺はポケットに手を入れた。いつか山崎と作った脱法ドラッグは、まだ確かに残っている。
この島に来てから、一度も使っていなかった。そんな気分にはなれなかった。だが、今なら使ってもいいかもしれない。
どうせ死ぬからなのだろう。そんな気分だった。

ーーー佐藤くん、また私に会いたい?

重い鉄の扉の向こう側から、そんな声が聞こえた気がした。
あぁ、岬ちゃん。会いたいよ。またこの夢の粒を飲めば、答えを教えてくれるかな?
君は、俺を救ってくれる天使だもんな。


「いつかの星空の、続きを見に行こうぜ。岬ちゃん」


だけど、嗚呼ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー高校の時あんなに覚えた星座の名前、もう殆ど忘れちまったよ。


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