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あと3話で完結ロワスレ

674ep298.主人公はもう居ない ◆LO34IBmVw2:2013/08/22(木) 22:18:25







【38:37】







「……なあ比企谷。NHKって知ってるか?」

箱の背でマッチを擦りながら、佐藤さんが言った。
「知らない奴が居るのかよ。黄金時間の量産型糞クイズ番組でも全員正解レベルだわ―」
俺はそう答えた。日本人なら知らない人間は居ないだろう。
「何か勘違いしてないか? 何を想像してた?」
「……日本放送協会?」
俺の代わりに鈴木さんが質問に答える。いや、と佐藤さんはかぶりを振った。
「違うんですよそれが」火の点いたマッチが薄暗い部屋に光の残滓を振り巻く。「答えは日本人質交換会」
煙草に火が点いて、何とも言えないリンの匂いが鼻をつんと突いた。

「にほんひとじちこうかんかい?」俺が文句を言う前に、玲音はそう言って小首を傾げる。「なぁに、それ」
「ピノもしらないよ?」
岩倉の隣で、ピノが言った。そもそも本来のNHKすら彼女たちの世界にはなさそうだな、と俺は思った。

「その胡散臭さMAXな会があるのかは置いといて、それって造語じゃないんですか?」

俺は肩を竦めて言った。聞いた事もない単語だし、なによりNHKの略称をそんな戯けた会に許すほど、日本放送協会は懐が深くないと思ったからだ。
佐藤さんは少しだけ笑うと、不味そうに煙草の煙を吐いた。

「俺の知り合いが作ったんだ。人質交換会ってのはな、会員同士で人質を交換するんだよ。自分の命を人質にして互いに差し出すんだ。
 まあ、つまり“あんたが死んだら俺も死ぬぞコラ!”って事だな。
 そうすると、あたかも核保有国の冷戦下ににおける睨み合いのごとく身動きがとれなくなって、死にたくなっても死ねなくなるんだとよ」

俺達は黙って佐藤さんの話を聴いていた。きっと、その知り合いはこの島で死んだのだろう。俺は何よりも先ずそう思った。

「でも注意しなきゃいけない点がひとつだけあってな。
 “あなたが死んだって、そんなのどうでもいいよ”って状況になるとこの会のシステムは破綻しちまう。
 だからそうならないように気をつけなきゃいけねーんだ」

俺達は黙っていた。きっと俺を含めこの場にいる誰もが、誰が死んでもどうでもいいと思っていたからだ。
俺達は生き残ったが、何一つとして絆は無かったし、心の底から仲間と呼び合える間柄でもなかった。


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