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あと3話で完結ロワスレ

278SLBR・289-a: 素晴らしき小さな戦争(Ⅰ) ◆MobiusZmZg:2013/02/02(土) 17:11:18
 初手の斬撃を受け流して刃を返すテトリスの言葉から、迷いというべきは払われていた。
 六花がもたらす困惑と自失を払って、はじめてそれが『白の力』――救世主の異能と思い至る。
 なんだ、ボクはホントに『散漫』としてたんじゃないか。白の力で剣圧を増幅させた一閃を、自身が傷を負う未来を
厭わず捌ききる。被害を最小限に留めることだけに意識を集中させていた騎士は、引いたあごに戸惑いを隠した。
 自身の異変。始まりも終わりも分からなかった白いパズルに、ピースがはまって確かな形をなしていく。
「……そうかい」
 失望と妬心を隠そうともしないため息が、雪に抗って立つ耳を突き刺した。
 剣をいなされて重心を崩したまま、ゆらりと巡らせた花白の瞳に、先ほどまでの思い切りのよさはない。
 魔物ならば呪詛や術理の構築が必須となる【困惑】のスキルを、迷宮支配者のもつはずの迷核へ干渉して顕してみせた
規格外。世界を手玉に取るほどの力を有する者の気勢と戦意は、相手を選ばず、相手の顔を認識せぬがゆえにあった
気負いのなさを喪い、テトリス個人への《敵意》に変貌していた。

「テトリス。僕はお前らみたいな莫迦が一番嫌いだ。さっきお前の言ってたとおりに」

 硝子の質感を有する血濡れた剣を手にする、彼は星の欠片の輝きを受けて傲然と立っていた。
 線の細い身体にくすんだ白さの衣装を纏う、彼は世界へ貧弱でみすぼらしい姿を晒していた。
 箱庭と呼ばれた世界を救って――自身の好ましく思った魔王を手にかけたことで一度死に、この迷宮においては
魔王としての価値を無くした玄冬を殺して二度死んだ少年は、しかして今なお、ここに在る。
「託した? 違う。お前らが勝手に擦り寄ったんじゃないか。お前らが押し付けていったんじゃないか」
 自身の正しさを疑いながらも相手を信じ、ひととしての間違いを正せと言えるもの。
 テトリスの向こうにある何者かの影が去来するのを、花白は呼気を押し出して否定した。
 ふるえる膝を冷笑で隠し、ひりつく二の腕に力を込め、折れそうな心を守るために言葉を操る。
「矜持、じゃあないな」それに応じるテトリスの声は、彼の耳朶をも冷たく打った。「意地か。それが、お前の」
「本音は『逆上だ』って言いたい? でも、……逆上だとしてもお前らのせいだ」
 騎士の纏ったサーコートの襟が、吹き上がった風に巻きあげられて乾いた音をたてる。
 いかにして――いかに思って打ち込んだものか掴みきれず、テトリスの得物も身体の脇にと流された。
 王のもとにあった救世主と、国王を目指す騎士が演じる剣劇(ブレイド・オペラ)。
 壮麗たる剣の舞踏、救世主の魂として箱庭の創世主に選ばれた少年と、百万迷宮が創世主たる神の血を引く
『災厄の王子』の決戦は、その序幕を終えぬうちに化けの皮を剥がされていた。
 大舞台が瓦解した後に残るのは安いつくりの三文芝居。玄冬以外のなにものも信じまいとする花白と、《民の声》が
生み出す希望を信じるテトリスの、みじめたらしい綱引きだ。いいや。双方の主張が平行線上にあり、『影弥勒』の側が
【分断】のエニグマで殲滅戦を規定している現状、これは、そんなものでは終わらない。
 相手が折れて剣を手放すまで、我慢比べを続けるか、
 敵と定めてしまったものを殺して、
 命を、奪っていくだけの、


「はな、しろ」


 騎士のついた吐息が、子供のような響きをなした。
 縁のない眼鏡の下では、無愛想な瞳がはっきりと見開かれている。
「へぇ。大食らいの莫迦は血の巡りも悪いんだ。普段は胃にでも集まってるんじゃない?」
 思考の死角を衝かれた者に特有の反応を見もせずに、花白はあっけらかんとした声で笑ってみせた。
 ぼぉん。古い柱時計の鳴らすような音の、どこか間の抜けた響きがテトリスの耳に届く。
 その音が空間そのものをゆがめていくさまを察知すれば、その事実が彼の心をも乱していく。


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