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ゼロの奇妙な使い魔 対サル用書き込みリレー依頼板

1名無しさん:2007/05/29(火) 00:26:16 ID:???
サル規制の中でもこのスレにある「絆」を持ってして投下する
そういう目的で使用していくスレです。

作者は規制にかかったらここに書き込んでください。

2slave sleep〜使い魔が来る:2007/05/29(火) 00:27:46 ID:???
ガッキン!!
襲い掛かるワルキューレ!だがブチャラティはっ!?
「ハハッ!あいつ動かないぞ!やっぱりハッタリかっ!!」
観客の一人が言った時だった!
「"スティッキィ・フィンガース"!!!」
ブチャラティ以外には見えない人型の何かが出た。
そしてワルキューレがブチャラティを捉えた。と思ったときだったっ!
「アリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリ!!!!!!!!」
ドゴッ ガスッ バキャキャ
ドズッ ドズッ ドボォ!!
あまりに予想外ッ!!ブチャラティの後ろの人らしき物がワルキューレを拳で破壊していくっ!
だがそれが見えない他人には"見えない打撃"が襲っているようにみえたっ!
「な、なんだああぁーっあいつぅーッ!!?手も足も出してないのにっ!」
「"打撃"が・・"打撃"がどんどん人形を破壊していくぞぉー!?」

ズサッ

「なるほど・・。固いな。S・フィンガースのパワーでも結構戸惑うもんだな。
そして、今のは『実体』だ。実は"スタンド使い"というオチはなさそうだな・・・。」
「・・・な、何をしたんだ・・?君は・・・?」
舐めてかかっていたギーシュが!あの少年は今ッ!
今起きた事に実感が持てなかったっ!それはそうだろうっ!
『平民』に破壊できるはずのない自分のワルキューレがっ!今ッ!
ブチャラティによってプライドごと完全に!粉みじんにっ!
手からすべり落ちた皿のように破壊されてしまったのだからっ!
「・・・まさか、卑怯だとか言うんじゃないよな?ギーシュ・ド・グラモン。
おまえが"魔法"を使っていいと言ったんだぜ?もっともオレのは"魔法"ではないが。」

3slave sleep〜使い魔が来る:2007/05/29(火) 00:29:57 ID:???
「くっ、甘く見ないでもらおう。こうも言ったはずだッ!『まずは様子見』と!」
ギーシュの花から複数のワルキューレが飛び出す!
「この数相手に時間かけてたら一気にオダブツだっ!さあ観念しろっ!」

ガシャンガシャンガシャン!!

複数のワルキューレがブチャラティを襲うッ!
「その気取った顔、崩して血ヘド吐かせてやるっ!!」
「なめるなよ。様子見してたのは・・・お前だけじゃあないんだぜっ!」

ドッカアアアアン!!!

「な・・・ウソだろ・・?」
ギーシュは悪夢を見ているように感じた。
気がついたらワルキューレのほとんどがっ!バラバラに解体されていたっ!
「これがオレのスタンド、“スティッキィ・フィンガース”の能力だ。
ワルキューレの断面が見えるかい?」
「こ、これは・・!『ジッパー』だ!ワルキューレにジッパーが付いて
バラバラにされてるっ!!」

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・・。

「そう。オレの能力なら、『ジッパー』を貼り付ければどんなに固くても関係ないんだ。
・・・一気に形勢逆転だな。」
ギーシュはすでに本能的な物で察していた。―――― 分が悪い。
「こいつは・・・マジにやばいっ!!」
ブチャラティが近寄ってくる!ギーシュが杖を構えた。
呪文を唱える間、ギーシュの杖の先に土が、砂が寄せ集まっていたっ!
それはまさにチャージ中のエネルギー砲のごとく!
「吹っ飛べっ!!」
ヒュウン!!
石礫が飛んだッ!ブチャラティがスタンドでガードする!
「これは・・。石だというのに、『ダイヤモンド』のように固く、『弾丸』のようにするどいっ!」
ブチャラティが一歩引く。だがそこにはっ!!

4slave sleep〜使い魔が来る:2007/05/29(火) 00:31:49 ID:???
「ワルキューレ達がお待ちかねさっ!」
ブチャラティに再び襲いかかるッ!
「そして、少しわかったぞ・・。君の『スタンド』とやらの弱点がっ!」
ギーシュは一歩、また一歩と下がる。
「やっぱりだ。君の“見えない打撃”も『ジッパー』も遠くの敵にはあたらないっ!!
でなければ攻撃のために駆け寄ってくるはずがないもんなっ!
そしてワルキューレとの戦いを観察するに・・・せいぜい、2,3メイルって所だろう?」
ブチャラティには、この世界の単位はわからなかったが、自分の弱点を
知られたのはヤバイはずだった。
だがっ!『彼』の目はあきらめてはいないっ!
「『2メイル』とは、『2メートル』の解釈でいいのか・・?どうでもいいが。
ああ。オレのスタンドは最もポピュラーな“近距離パワー型”だからな。仕方ない。
だが、そんなの俺たちの世界じゃ『常識』だ。『弱点』とも取らない。
そんな物、能力で補っていく物だからな。」

5slave sleep〜使い魔が来る:2007/05/29(火) 00:32:32 ID:???
キッ!
ブチャラティはギーシュを見据えて言う。
「おまえのワルキューレ。スタンドじゃあないからおまえ自身にはダメージがないし、
魔法だからいくらでも操れる。防御に関しても優秀だし、距離を取って戦うには使い勝手のいい
魔法だ。だが、」
ブチャラティは駆け出す。目標は、自分とギーシュの間にいるワルキューレ!
「攻撃に関してはオレのほうが上だな。パワーはオレのほうが上。
さらにスタンドだからすり抜けることができる。薄い壁とかならな。
そして、『実体』であることが災いしたな。コイツはオレが『応用』させてもらう。」
そして射程距離内にワルキューレが!
「ところでお前、『だるまおとし』って知ってるか?・・・知らないだろうな。オレだって
とある仲間から教えてもらったばかりだからな。円柱型の積み木をかさね、一番上に頭となる
達磨をおくんだ。そして頭が落ちないように体を打撃で吹っ飛ばすんだ。
ちょうどこんなようにっ!“スティッキィ・フィンガース”!!」

タタタタタン!

ギーシュがワルキューレに『ジッパー』をつける。
ただし、精密かつ素早く、同じ幅にバラけるようにッ!
そして・・!
「アリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリ!!!!!!!!」
S・フィンガースの打撃でバラバラになったワルキューレがギーシュの方向に飛ぶっ!

6slave sleep〜使い魔が来る:2007/05/29(火) 00:38:49 ID:???
バキッ!ドカッ!ボコッ!
「グッ!がはあぁぁぁぁぁ!!」
腹ッ!肘ッ!膝ッ!胸ッ!腹ッ!
一つ一つのパーツがギーシュにぶち当たるッ!!
「アリィ!!!」
頭のパーツがまたギーシュにクリンヒット!!
「ぐおおおおおおおおああああああ!!!」
「おっと。『失敗』したな・・・。間違えて達磨(頭)まで吹っ飛ばしてしまった。
まあ全弾命中したから、ここはよしとしよう・・・。」
「ぐ・・・・。ゲホッ!ゲホッ!」
ギーシュがむせた。その時出たのは・・・血液だっ!!
「先に血ヘド吐いたのはそっちだったな。自慢の魔法も実戦慣れしてなければオレには
勝てはしないさ。」

7slave sleep〜使い魔が来る:2007/05/29(火) 00:39:43 ID:???
ブチャラティはギーシュに近づく。
「く・・・クソ・・・。」
「お前が申し込んできたのは確か『決闘』だったよな?『決闘』なんだからオレとおまえのどちらかが死んでもまさか文句なんかが出るはずがない。そうなる事を『覚悟』したからオレに決闘を申し込んだんだよな・・・・?」

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・・・・!!!!!!

ブチャラティから感じるそのプレッシャー。それがあの『ゼロのルイズ』の、あのおとなしそうな使い魔と同一人物なのが、ギーシュにはマジに信じられなかったッ!!
(コイツ・・・マジかっ!?マジに僕を殺す・・・つもりか!?・・・いやマジだっ!
こいつには、言った事を本当にやってのける『スゴ味』があるっ!!)
ギーシュは反射的に立ち上がるッ!
「来るなッ!これでもくら・・・!」
バシッ!
ブチャラティの“S・フィンガース”は、ギーシュの杖を持った手を跳ね除けた。
そのため起こった事はギーシュにとってあまりに『信じられない出来事』だった。
「手・・・。手が・・!!僕の手がぁぁ!!ブッタ斬れてるっ!!」
ドドドドドドドドドドドドドドドドド・・・・・
「答えろよ・・・・。『質問』はすでに・・・『拷問』に変わってるんだぜ?」

                            to be continued……

8slave sleep〜使い魔が来る:2007/05/29(火) 00:40:49 ID:???
投稿オワタ\(^o^)/

9スターダストファミリアー 10/10:2007/06/05(火) 22:50:05 ID:8e5GNfVM
承太郎のすぐ隣で、キュルケが下着姿で倒れている。まるで襲われたかのように。
しかも、倒れた拍子に下着がズレて、乳房が片方プルンッと出ていた。
「こっ、こここっ……この、エロ犬ー!」
ルイズの足が承太郎の股間に向かって蹴り上げられる!
が、承太郎は片足立ちになったルイズに足払いをかける。
「あっ」
簡単にバランスを崩したルイズは廊下にズデンと尻餅をついた。金的蹴りも空振り。
「イタタタタ……何するのよ!」
「ルイズ、部屋に戻るぜ」
ルイズの横を通り抜け、承太郎はさっさとルイズの部屋に入っていった。
「あっ、ちょ、待ちなさい!」

こうしてこの晩、承太郎はルイズの誤解を解くのに睡眠時間を削り、
さらにヴァリエール家がツェルプストー家に恋人を寝取られまくった過去など、
憎らしげに語るルイズの愚痴に延々とつき合わされるハメになった。

そしてようやく話が終わり、承太郎はソファーに、ルイズはベッドに入る。
強力なスタンド使いと戦った後のように疲れ果てた承太郎はすぐ眠気に身を委ねたが、
完全に眠りに落ちる前にルイズが強がったような口調で質問してきた。
「ジョータロー。あんた、キュルケの胸、どう思った?」
「……くだらねー事を言ってねーで、とっとと寝やがれ」
「やっぱり大きい方がいい?」
「……俺は寝るぜ」
「……ムッツリスケベ」
ビシュッ! 承太郎のボールペンがルイズの枕に突き刺さった。
ルイズの耳との距離、およそ1サント。
「ひゃっ!? ななな、何するのよ! 危ないじゃない!」
「やかましい! 俺は疲れてるんだ、黙って寝ろ!」
こうして承太郎とルイズの睡眠時間はこの後もう少し削られる事となるのだった。

10スターダスト:2007/06/05(火) 22:51:35 ID:8e5GNfVM
すまねえ、猿って書き込めねえ。
これに気づいたら転載を頼みたい。

11スターダスト:2007/06/05(火) 22:54:27 ID:8e5GNfVM
……時間を置いてチャレンジしてみたら、投下できちゃったw
しかし漫画サロンで猿なんて初体験だぜ。
さすがに10レス分は多かったか……今後注意するぜ。

12兄貴ィィ:2007/06/08(金) 11:36:51 ID:???
完全にテンパり責任の擦り合いをしている教師達を尻目にオスマンに眼鏡の女性―ロングビルがフーケの居場所を掴んだ事を知らせていた。
「至急王室に報告を!王室衛士隊に頼んで、兵を向かわせなければ!」
そうU字禿コルベールが叫ぶがオスマンがその年齢らしかぬ怒気を含んだ叫びを上げる。
「王室なんぞに知らせている間に逃げられたらどうするんじゃ!S.H.I.Tッ!!
     それにこれは我が身の不始末!魔法学院の問題を我々で解決できねばどうする!」
オスマンが捜索隊を結成するため有志を募るが…教師陣は誰一人として杖を掲げようとしない。全員お互いの顔を見合わせるだけだ。
「おらんのか?おや?どうした!フーケを捕まえて、名を上げようと思う貴族はおらんのか!」
犯行現場を見ていたため呼ばれていたルイズが杖を掲げる。
「何をしているのです!あなたは生徒ではありませんか!ここは教師に任せて……」
「誰も掲げないじゃあないですか」
『覚悟』を決めた強い言葉がシュヴルーズの言葉を遮らせる。
それに続くようにしてキュルケ、タバサが杖を掲げた。
それを見てオスマンが笑った。
「そうか。では頼むとしようか」
幾人かの教師達が生徒達だけでは危険だとオスマンに進言するが
「では、君達が行ってくれるかね?」
と問われると全員黙り込んでしまう。

13兄貴ィィ:2007/06/08(金) 11:37:25 ID:???
「彼女達三人に勝てる者が居るなら一歩前に出たまえ。
   居らんじゃろう?それに彼も居る事じゃし心配あるまいて」
全員の視線がプロシュートに集まった。
「「「悪魔憑き…」」」
どちらかというと教師達はルイズ、キュルケ、タバサの三人よりプロシュート一人にビビっている。
得体の知れない力で一瞬にして人を老化させメイジを顔色一つ変えず殺す事ができるのだからそれも無理ない事なのだが。
誰も前に出ない事を確認するとオスマンが四人に向き直った。
「魔法学院は、諸君らの努力と貴族の義務に期待する」
ルイズとキュルケとタバサが真顔になり直立し――
「杖にかけて!」
と同時に唱和した。

プロシュート兄貴 ―― ザ・ニュー任務!
  二つ名   悪魔憑き

14兄貴ィィ:2007/06/08(金) 11:39:11 ID:???
久々に規制ktkr・・・

15ドイツ軍人 10/18:2007/06/09(土) 18:42:18 ID:???
授業を終えたシュヴルーズは、教室を去ろうとするルイズとシュトロハイムを呼び止めた。
「ミスタ・コルベールからの伝言です、
この授業が終わったら自分のところに来るように、だそうですよ」

つまり、シュトロハイムが『なに』なのかについて、何らかの結論が出たということだろう。
了解の意を示したルイズを、シュヴルーズはさらに引き止める。

「それとミス・ヴァリエール、ここの片付けをよろしくお願いしますね」

そう言って指すのは、ルイズの『錬金』(の、失敗)で破片が飛び散った教室の床。

「私は次の授業の準備がありますので」
「なるほど。ならば、先に行っているぞ、ヴァリエール」
「はい……って、あんたは待ちなさいよ、シュトロハイム!」

今度はルイズが、シュトロハイムの腕を掴んで呼び止める。

「なにか用か?」
「用か、じゃないでしょ。使い魔が主人の手伝いをしなくてどうすんのよ!」

首を横に向けてみれば、シュヴルーズも『当然!』といった様子で頷く。

「メイジと使い魔は一心同体ですから」

シュトロハイムが、ヌゥと小さくうめき声を立てた。

16ドイツ軍人:2007/06/09(土) 18:42:56 ID:???
規制によりこちらに投下

17ドイツ軍人 11/18:2007/06/09(土) 18:44:05 ID:???
教室の片付けには、予想以上の時間がかかった。
ルイズが『錬金』しようとした小石は砂粒大にまで分解され教室の隅々まで
飛び散っており、シュトロハイムはドイツ人らしい几帳面さでそれを一粒残らず
回収しようとした。はたきをかけ、箒で掃き、雑巾で机を一つ一つ磨き上げる。
最後のほうになると、手伝いを命じたルイズのほうが掃除の仕方を指示されている
始末だった。

――ほんとに、なんて几帳面なゴーレムなのかしら。

彼女は知るよしもなかったが、彼は軍務で出向いたメキシコ砂漠の奥地まで召使の女をわざわざ
(それも自分の髭をそらせるためだけに!)連れていくほどの、几帳面な男なのである。

結局二人が掃除を終え教室を後にできた時には、既に太陽は空の頂点を通過していた。

18ドイツ軍人 12/18:2007/06/09(土) 18:44:45 ID:???
シュヴルーズに言われたとおり、コルベールの研究室に向かう。
途中校舎から外に出たところで、講義の終わりと昼休みの始まりを示す鐘がなる。
途端に眠りから醒めたかのように、騒がしさを取り戻す学院。
春の陽射しで温められた中庭にも、生徒たちが姿を現す。
木陰でランチボックスを広げるもの、友人同士雑談に興じるもの。
カフェテリアらしきベンチに腰掛け、メニューを広げるものもいる。
そう、ここでは今は春なのだ。部下たちと凍えたあのスターリングラードではないのだ。
暖かくも冷たい現実が、改めてシュトロハイムを襲う。

「こっちよ、ほら! 何やってんの!」

自分の主人という立場にあるらしい少女の声で、シュトロハイムは物思いをやめる。
今は部下たちのことを考えるべきときではない
――では、なにをすべきなのかと問われれば明確には分からないが。

「あら、タバサ?」

研究所を有する建物の中に足を踏み入れたルイズが、見かけた同級生の名を呼ぶ。
蒼髪の少女が、振り返る。手には、分厚い本を抱えるようにして持っている。

「あなたも、コルベール先生のところ?」
「の、帰り」

小声で答え、塔の出口に向うタバサ。

「今のも……同級生なのか?」

先ほどの教室でも同じ顔を見かけたのを思い出し、シュトロハイムがルイズにきいた。

19ドイツ軍人 13/18:2007/06/09(土) 18:45:26 ID:???
「そうよ、だけどそれが?」
「同い年にしては体格が違いすぎるぞ。それとも、これも魔法というやつか?」
「違うわよ、彼女は年下」

そんなことも知らないのかと、呆れ顔のルイズ。

「ここトリステイン魔法学院は、全国から優秀なメイジを集める名門校なの。
入学の年齢制限は上限しか設けてないから、タバサみたいに飛び級してくる学生も
多いのよ」
「ふーむ、なるほど。だが、なら何故『ゼロ』と呼ばれるようなお前が入れたのだ?」

はた、と、ルイズの歩く足が止まる。
「先ほどの『錬金』とやらは驚いたぞ。なにせ、いきなりの爆発だったからな。
とはいえ、失敗で爆発が起きるというのも興味深い。
あの爆発は、いったいどれくらいの威力なのだ?」
「知りたいの?」
「なに?」

そのまま歩いていたシュトロハイムが、ルイズの声に振り返る。
少し後ろで立ち止まったままのルイズが、右手に杖をしっかりと握る。

「なら、教えてあげるわ」

そのまま呟くように、二言三言呪文らしきものを詠唱……シュトロハイムの前方の空気が、奇妙に歪む。

20ドイツ軍人 14/18:2007/06/09(土) 18:46:17 ID:???
――こ、これは……

ゆがみに気付いた瞬間に、耳を通過する『音』。続けて衝撃が、頭部を襲う。

「ぬう!! ………………なるほど、屍生人(ゾンビ)のキック並みといったところか」

よろめくシュトロハイム、だが、ひざはつかない。

「な、なかなかやるわね。
でも、今度からかうようなことを言ったら承知しないんだからね!」
「からかう? ああ、『ゼロ』という二つ名のことか」
「また! いいわ、あんたがそういうつもりならこっちにも考えがあるから。
もう今日は、ご飯抜きよ!」

――ご飯抜きと言われても、あの『鉄の棒』ではな……

自分にとっては同じことだ。
不覚にも思い出された空腹に耐えつつ、シュトロハイムはルイズと共にコルベールの研究室へと入っていった。

21ドイツ軍人 15/18:2007/06/09(土) 18:47:00 ID:???
研究室内は、魔窟の様相を呈していた。
さながら、本の迷宮……大小さまざまな書物が所かまわず積み重ねられ、
人の背ほどの柱を、壁を成している。一つ倒せば、連鎖的に全てが崩れ去りそうだ。
本の量が多いのは分かる、だがこれでは取り出して読むことができないではないか
……そう考えたシュトロハイムの隣の『ブックタワー』が突然浮く。
そこから一冊が抜き出され、ふわふわと宙を漂う。

「『レビテーション』。コモン・マジックの一種よ」

本で囲まれた狭い通路、その前方を進むルイズが言った。

「ミス・ヴァリーエールか。こちらだ、来たまえ」

声と本に導かれ、二人は部屋の置くに。
これまた本で覆われた机に、コルベールが向っている。
開いているのは、先ほどタバサが持っていたのと同じ本だろうか。

「いや、すまないね。少し散らかっていて」
「いいえ、とんでもありません」

とは言いつつも内心では、これが『少し』か!! と突っ込んでいる。

「それで、お話というのは……」
「ああ、君の使い魔のことだ。シュトロハイム君といったかね。
少し、触らせてもらっていいかな?」

眼鏡をツイと持ち上げながら言うその仕草に、シュトロハイムは少々うろたえつつも頷く。
いくらなんでも分解されるということはないだろう。
それに、いつまでもゴーレム扱いはさすがに困る。

22ドイツ軍人 16/18:2007/06/09(土) 18:47:38 ID:???
「ありがとう。ふむ……むむ、ふむふむ、うん、これは……」

医者の触診のような手つきでシュトロハイムの体を扱い、コルベールは大きく息を吐く。

「うん、やはりそうか」
「どうなんですか、コルベール先生」
「そうだな、結論から言うとすれば、このシュトロハイム君はゴーレムでは、いや、幻獣ではない」

コルベールの言葉に、ルイズは顔をサッと青褪めさせた。

「今調べたところでは、中心部分は人に近い要素が存在している。
だが、……って、聞いているのかね、ミス・ヴァリエール?」
「はい……」

沈んだ声。シュトロハイムが幻獣でないということ、人であるかもしれないということ。
それはすなわち、彼女の『サモン・サーヴァント』が失敗だったかもしれないということだ。
逆にほっとしたのはシュトロハイム。何せもしここで『お前はゴーレム』宣言を
されていたら、今後は『鉄の棒』で口を糊せねばならなかったのだから。

「それはさておき、だ。外側に使われている技術……これには正直、驚いた。
今の我々の技術では、実現不可能なものばかりだからね。
昨日シュトロハイム君が言っていた『異世界』とやらも、
あながち冗談ではないのかもしれない」
「それじゃあやっぱり、私の『サモン・サーヴァント』は……」
「いや、それは立派な成功だよ。左手部分の義手に、ルーンは浮き上がっているわけだから」

23ドイツ軍人 17/18:2007/06/09(土) 18:48:11 ID:???
――おまけにタバサ君に探し出してきてもらった資料によれば、そのルーンはあのガンダールヴのもの……

声には出さずに付け加え、続ける。

「それに実際シュトロハイム君、これは推測だが……君は並みの使い魔よりも強いんじゃあないかね?」

眼鏡の奥で、コルベールの目が光る。シュトロハイムは、フンと鼻を鳴らした。
「俺は『並みの使い魔』というものを知らん。
だがこのボディーは我がドイツの技術力の結晶そのもの、そうそう遅れをとることはない!」
「だ、そうだ」
「ということは……」
――つまり、人間かもしれない使い魔だけど使い魔は使い魔ってこと?

首を捻る、ルイズ。

「つまり俺は、このヴァリエール嬢に仕えればいいわけか?」
――馬鹿め、上っ面だけ仕えたふりをして
裏ではこの世界についての情報ともとの世界に戻るための情報を探ってやるぞ!

内心を押し隠し、とりあえず頷くシュトロハイム。
互いに相手のほうを向き、二人の視線が交錯する。

24ドイツ軍人 18/18:2007/06/09(土) 18:48:47 ID:???
――使い魔は使い魔……とは思ったけどこいつ、なーんか『上っ面だけ仕えるふり
してりゃそれでいいんだ馬鹿め』ってオーラが出てるのよねー。
なめられないように注意しなくっちゃ!

――なんだ、こいつ! この目は『疑う』目だ。『仕える』と言った俺のことを
『疑っている』! チィッ! すんなりだまして利用できると思ったが、
さすが『貴族』を名乗っているだけのことはあるということか!
――あ、今こいつ『チィッ!』って言った、『チィッ!』って舌打ちをしたわ! 
信用できない、理屈ではなく本能が私に『こいつを信用するべきではない』と
告げている! 冗談じゃないわ、このルイズが、
このルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールが、
たかが『喋る使い魔』ごときになめられてたまるもんですか!!
――警戒レベルが上昇した!? 馬鹿な! くそ、なめていた、
こいつをなめて判断を誤っていた! 慎重に行くぞ、シュトロハイム! 
なんとしてもこいつの目を欺いて『もとの世界』への道を見つけ出す。
そして『幻獣』や『魔法技術』をドイツへと持ち帰り、祖国に利益をもたらすのだ!

「あ、いや、二人ともいったい何事だね?」

熱く熱ーく、それはもう燃えるように視線を交わせるルイズとシュトロハイムに、
部屋主コルベールが声をかける。彼が間に入らない限り二人はそれこそ永遠にでも
見詰め続けて――というか、睨み合い続けていそうだった。

25ドイツ軍人 19/18:2007/06/09(土) 18:50:46 ID:???
以上です……代理投下、ありがとうございます。
次はギーシュ戦までいけるかな?

26砕けない使い魔 10/10:2007/06/10(日) 21:50:28 ID:SQ0RoF3c

繰り返すが、東方仗助にしてみれば 召使いになった覚えがないのは当然である
どうしてこんなワケのわからないところに誘拐されて仕えなければならない?
いきなり殺されかけたと思ったら下僕扱いされて ムチで叩かれて…冗談じゃない!
だが、それでも…たとえそこから発した動機であったとしても
仗助を助けるためにその小さな身体を張り、下げにくいだろう頭を必死で下げた
その後ろ姿に仗助は『タイヤのチェーンでズタズタになった学ラン』を見た
そう思った途端に 身体が熱くて止まらなくなった 魂のエンジンに火が入ったのを実感した
そして心底ぶっ飛ばしてやりたくなったのだ!
『学ラン』をズタズタに踏みにじる、あの二股のクソヤローがッ!
(なんか泣き顔にうまく使われてるみたいでシャクだけどよぉー
 だけどこれでグッと来ねーヤツは男じゃねぇーぜッ
 そして、なんとなくわかってきた…今までバク然と使ってきたオレの『武器』)
歯車が、仗助の全身にピタリとはまりつつあった
今まさに呼ばれるその瞬間を待っている力の『砕けない名前』
運命であり、魂そのものであるそれは、今!
東方仗助の中で高らかに名乗りを上げたのだッ!

「クレイジー・ダイヤモンド…」

『そばに立つもの』、真なる覚醒ッ!!

27砕けない使い魔 11/10:2007/06/10(日) 21:53:20 ID:SQ0RoF3c
代理投下に感謝いたします。
ギーシュは悪なのではありません、調子に乗ってしまうだけなのです…

28アンリエッタ+康一:2007/06/11(月) 01:22:40 ID:???
互いに睨みあい視線が交錯する。使い魔、広瀬康一とメイジ。
そしてまず均衡を破ったのはメイジだった。

のそりとしたような、しかし俊敏な動きでメイジは体を動かす。
そして呪文を瞬きをするような間に完成させたッ!

だが俊敏なのは康一も同じだった。
剣を弾き飛ばした魔法の威力を見ていても、躊躇うことなくメイジに向かって突っ込むッ!
それを見て取ったメイジは迎撃するべく魔法を解き放った。

風の刃が3つ。康一の正面から飛来する。
だが康一に飛んでくるものは、それだけではなかったッ!

ガキッ!ガキャッ!ガキンッ!

飛んできたものは康一の盾となって身を守った。
カーテンだ。布である薄いカーテンが魔法を弾き飛ばしたのだッ!

「エコーズACT2!!」

康一のスタンドの2番目の形態。
ACT2のしっぽ文字で音の表す物理的効果を表現化する能力。
『ガキンッ』のしっぽ文字。
それを部屋のカーテンに貼り付け、ACT2に投げてよこさせたのだッ!
ACT2はパワーはそれほどないが、元々カーテンは薄く軽い。
鋼のように弾き返す盾でも、布の軽さを持つ盾ならACT2でも投げられるッ!

カーテンを受け取った康一は、そのまま突き出すように構えさらに駆ける。
メイジは自分の姿を見えない状態でありながら、まるで見えているように突っ込んでくる康一に焦り、たたらを踏みながらもすぐさま飛びのいた。

道が開ける。アンリエッタが自分に向かってくる康一を見た。
「アンリエッタさんッ、こっちへッ!」
康一はアンリエッタの手を引っつかみ部屋の奥へと走る。

部屋の奥には
ドアがあり、その先には普段は物を置くための場所になっていた。
メイジは追撃の呪文を唱えようとするが遅い。
奥のドアがひとりでに開いて康一とアンリエッタは薄暗い部屋へと飛び込んだッ!

今度はドアがひとりでに閉まる。
二人の姿はメイジから一枚のドアを境に隠されてしまった。

29アンリエッタ+康一:2007/06/11(月) 01:23:35 ID:???
イジはどうするべきか考える。そして判断は一瞬だった。
追撃する。細工をして作り上げた時間は多くないし、また予想外のことが起きるとも限らない。

メイジは簡単な呪文を唱えてドアのノブを回した。
使い魔と名乗った少年。魔法のような現象。
見るところ杖は持っていなかったようだが油断は禁物だ。
そう。油断さえしなければ、少なくとも自分は使い魔の少年に引けをとることはない。

ドアを開けるための魔法を行使しながら、すでに次の攻撃呪文を唱えきる。
杖を構えながらゆっくり、ゆっくりとドアを開いていく。

居た。ドアを開けたその先にこそこそ「隠れもせず」使い魔とアンリエッタは居たッ!

アンリエッタの目は恐怖に滲んでいたが、使い魔の少年は違った。
メイジを見据えて、「お前を必ずブチのめすッ!」と目で語っている。

メイジは罠だと思った。踏み込んだ瞬間に相手は何かを仕掛けてくる。
そう直感した。ならばどうするのか。
奥に踏み込まず遠距離から魔法で攻撃する。
一番ベターな方法に思える。だがあの使い魔の少年に通用するのだろうか。
自分の攻撃魔法を本気ではなかったが簡単に防がれた。
どうすればいいのかメイジは「迷って」しまった。

「迷ったな、お前……」

ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ

30アンリエッタ+康一:2007/06/11(月) 01:24:21 ID:???
呟き声のような断定。根拠は何もない。
だが確かにメイジは一瞬迷ってしまったッ!

「お前は必ずブチのめす、それは最初から決めていたことなんだ。けどさちょっぴり不安もあったんだぜ。」

「不安と言ってもお前が怖いとかそんなことじゃーない。

ア ン リ エ ッ タ さ ん が傷つくのが不安だったんだ」

アンリエッタが康一を見る。

「使い魔の仕事ってのは主人を守ることらしいんだけど、
こんなに早くメイジってヤツと戦うことになるとは思ってなかったんだ。
魔法ってヤツもちょっと聞きかじったくらいで殆んど分からない」

一拍置いて康一は言った。

「だから「安全策」を取らせて貰ったよ…」

メイジの目が大きく広がった。
やはり何か策が、罠が仕掛けてあったのだッ!

「僕のエコーズACT1の射程距離は50m。こっちの単位が同じかどうかは知らないけど、そう認識しておけよ。
そしてACT1の能力は音を出したりすること。どういう意味かお前に分かるか?」

31アンリエッタ+康一:2007/06/11(月) 01:25:44 ID:???
理解不能!? 理解不能!? 理解不能!? 理解不能!?
自らの能力を説明して何になるのだろうかッ!
それとも嘘なのだろうか。
そんなこともマトモに考えられないくらいに、いつの間にかメイジは康一に「飲み込まれて」いたッ!

「50mなんだぜ、誰も来ないからっていっても、その範囲でなら…さすがに誰かが居る」

「聞こえてこないかい。廊下から聞こえてくる足音をッ!」

メイジの耳は確かに捕らえた。音を。足音を。
そしてすでにその音はこの部屋の真ん前まで来ていることをッ!

「姫様ッ、失礼いたしますッ!」
バンッと開けはなたれる背後のドア。

「スデに僕は、ここに来る前にACT1で人を呼んでいたんだぜッ!」

「なにィィィィィッ!!!」

┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨

32アンリエッタ+康一:2007/06/11(月) 01:26:22 ID:???
部屋に入ってきた人物は、メイジを見るなり殺気を込めて斬りかかる。
この国の姫の部屋に不審人物が居れば当然の成り行き。
しかしメイジは発動待ちの風の魔法を振り向きざまに放ち、たたらを踏みながらも剣を凌ぎきった。

「そして、やっぱり…たたら踏んだな」

ミシリ…

嫌な音がメイジの足元からした。

「お前、僕が投げた剣を叩き落としたりさァけっこー勘がよかったろ。
罠があるのは気付くと思ったんだ。だからお前に気付かれないよう二重に罠を張ってた。
そしてこれで積みってことさ………」

メイジは背中にゾクリしたものを感じた。

「さっきさァー僕が突っ込んできて、焦って避けたときたたら踏んでたよな」

ミシリッ…

足元を見ると、微妙に今までいた場所と床の木目が違っている。

「今もたたら踏んで、一歩下がってくれたよ」

33アンリエッタ+康一:2007/06/11(月) 01:27:05 ID:???
ミシッ…!

メイジは気付いた。

「予想通りってヤツさ」

自分は今ッ奥の部屋の中に入ってしまっているのだとッ!

「お前が踏んでるその床は、最初ッからACT2のしっぽ文字が貼り付けてあったんだぜッ!」

ボゴンッ!!!

「ウオォォォォォォォォォォッ!」

メイジには見ることが出来ないACT2の「ボゴンッ」のしっぽ文字で作った落とし穴。
罠に気付いたときにはもう遅い。
メイジは床を踏み抜いて宙を舞い、そして階下の床に叩きつけられるッ!

「ガバダッ!」

だがメイジはいまだ意識を保っている。
しかし保っているだけだ。体を叩きつけた衝撃で呪文を唱えることが出来ない。

これこそが康一の狙い。呪文を唱えられない隙にキツイのを叩き込む。
メイジが迷ったとき人が来る時間を稼ぐために自分のスタンド能力を説明したのも、そのための布石だった。

34アンリエッタ+康一:2007/06/11(月) 01:27:45 ID:???
空中でACT2が弾丸のように体を丸めて身構える。

「ACT2は直接攻撃向きじゃないんだけど、本気でぶつけてやれば人一人ぐらいブッ飛ばせるッ!!」

「ACT2!!!」

康一の精神により押し出されるように普段以上のパワーでブッ飛ぶACT2ッ!。

その小さな体躯が身動きの取れないメイジのアゴを正確に捉えたッ!!

「ジョジョワァァァッゴォォッォォォッッ!!!!」

アゴを砕かれ階下に落ちて体を叩きつけられたメイジ。

その体はボロボロで呪文を唱える口はガタガタ。

意識もブッ飛ばされた。戦うことなど出来はしない。

康一は学ランの袖で額の汗をぬぐい、息を大きく吸ってから吐く。

「やれやれ。最初ッからハードな感じだよ……」

ド―――――z______ン


「名も無きメイジ」 再起不能

To Be Continued…

35アンリエッタ+康一:2007/06/11(月) 01:31:09 ID:???
規制くらったのでこちらに書きます。
もし代理投下してくださる方がいたらは29の最初の部分を、
「イジはどうするべきか考える。」ではなく「メイジはどうするべきか考える。」
にクレイジーダイアモンドで直してくださるとありがたいです。

36アンリエッタ+康一:2007/06/11(月) 02:11:23 ID:???
>>823氏あなたの代理投下、僕は敬意を表するッ!
修正の要望も完璧にこなしてもらい本当にありがとうございます。
ちなみに今回の話は「ジョジョワァァァッゴォォッォォォッッ!!!!」が書きたいがために書きました。
次は結構長くかかりそうですが、気長にお待ちください。

37名無しさん:2007/06/11(月) 21:52:27 ID:???
さて。規制喰らったために質問すら出来ない俺が来たわけだが。
誰か、暇な人が居たら本スレに転載しておくれ。

         ,. -‐'''''""¨¨¨ヽ
         (.___,,,... -ァァフ|        あ…ありのまま 今 起こった事を話すぜ!
          |i i|    }! }} //|
         |l、{   j} /,,ィ//|        『おれは 「「ロードアゲインの決闘」でギーシュが勝っていたら」
        i|:!ヾ、_ノ/ u {:}//ヘ          というIFSSを考えていたら
        |リ u' }  ,ノ _,!V,ハ |         いつの間にかギーシュがスタンドに目覚める話に変わっていた!』
       /´fト、_{ル{,ィ'eラ , タ人         な… 何を言っているのか わからねーと思うが
     /'   ヾ|宀| {´,)⌒`/ |<ヽトiゝ       おれも何をされたのかわからなかった…
    ,゙  / )ヽ iLレ  u' | | ヾlトハ〉
     |/_/  ハ !ニ⊇ '/:}  V:::::ヽ      頭がどうにかなりそうだった…
    // 二二二7'T'' /u' __ /:::::::/`ヽ
   /'´r ー---ァ‐゙T´ '"´ /::::/-‐  \    スティア・ウェイ・トゥ・ヘブンだとかキング・クリムゾンだとか
   / //   广¨´  /'   /:::::/´ ̄`ヽ ⌒ヽ   そんなチャチなもんじゃあ 断じてねえ
  ノ ' /  ノ:::::`ー-、___/::::://       ヽ }
_/`丶 /:::::::::::::::::::::::::: ̄`ー-{:::... イ     もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ…


 というわけで、ギーシュのオリジナルスタンドが活躍する話なのだが。
 なんせ、既存キャラがスタンド使いになる話なんで、前振り無しに投下すると荒れの元になる可能性があるんで、先に聴かせて欲しい
 オリジナルスタンドの存在は、このスレ的にはOKなのだろうか。

3837:2007/06/11(月) 22:50:47 ID:???
再び転載頼む。

了解した。顔笑って出直す事にする。
ブラックサバスでの覚醒をもくろんでたので、オリジナルしかありえないと、投稿してから気づいた。
すっぱり忘れて、次の神ドゾー

3937:2007/06/11(月) 23:00:06 ID:???
洗ってだよorz

40アンリエッタ+康一:2007/06/13(水) 22:08:56 ID:???
前回の康一君…ジョジョアゴで名も無きメイジをブッ飛ばした。


夜も更けた王城の一室。
その部屋の外に幾人もの魔法衛士隊員が集められ、厳戒態勢の守りの中にアンリエッタと康一は居た。

「曲者は捕らえたうえ、杖を奪ってから牢屋に押し込みました。重症ですが厳しく追求する所存であります」
「ではそのようにお願いします。隊長殿」

報告を終え、敬礼をして部屋を去るマンティコア隊隊長。
その足取りは心なしか重そうだった。

ドアが閉まり二人きりになると、アンリエッタは一つ溜息のようなものをつく。

「やっぱり、まだ混乱してますか」
アンリエッタは傍に立つ康一の顔を見て躊躇いながらも言った。
「そう、です…ね。やはりまだ少し」

アンリエッタは襲撃のあと、騒ぎを聞きつけ衛士がやってくるまでのあいだ康一の腕の中で震えていた。
メチャクチャになった私室からこの部屋に移り、現在は傍目から見ると落ち着きを取り戻したように見える。
しかし自分の命が狙われ危うく命を落とすところだったのを考えると、アンリエッタは今必死で王女になりきろうとしているのだろう。

41アンリエッタ+康一:2007/06/13(水) 22:09:57 ID:???
「それと慌しくてお礼も言えておりませんでしたね。私の命をお救い下さり、本当に感謝いたします」
「いやァ、使い魔の仕事ってヤツをやっただけなんで大したことないですよ〜」
いとも気楽に、手を振りながら話す康一に苦笑しアンリエッタはちょっぴり気が楽になる。

狙ってやってるのではないのだろう。
人柄、性格、心。積み重なって生まれた、ほっとするような雰囲気。
改めて、本当に「いい人」だとアンリエッタは思った。

「ところで、質問があるのですが…」
「あぁ、どうやってさっきのヤツをブッ飛ばしたかですか?」

何を聞こうとしているのか、心を読んだようにあっさりと言いのける康一。
どうせ聞かれるだろうと予測していたので、言ってみただけだがアンリエッタは結構驚いた。

「「スタンド」っていう能力なんですよ。ここで言う魔法みたいなものです」
「スタンド…。魔法みたいな、と言うことは魔法ではないのですか?」

ん〜。と困ったような難しいような顔をして康一は首を捻る。
「ちょっと長くなっちゃうんですけど、いいですか?」
小さくコクンとアンリエッタは頷いた。

42アンリエッタ+康一:2007/06/13(水) 22:10:27 ID:???
「別の世界から来た、ですか…」
アンリエッタは自分の常識からして、あまりにも荒唐無稽な説明をうけた。

自分の召還した使い魔の平民は別の世界から来た。
その使い魔はスタンド能力というチカラを持っている。
そしてスタンド能力で自分の身を守り抜き、曲者を倒してみせたのだと。

信じられないような話しで、こちらに来て説明を受けた康一と同じような状況だった。
にわかには信じがたい。

しかし彼女は信じたッ!否、信じるより先に信頼があったッ!

今日初めて会った自分を命を掛けて守った。
そんな使い魔への信頼がッ、どんなに荒唐無稽で無茶な話しであろうと、そんなことはどうでもよくさせたのだッ!

そしてこの世のどんなことより確かなことは。
自分の召還した使い魔は、ヒロセ・コーイチは本当に頼りになるヤツだということだけなのだ。

こうして広瀬康一は、どんなお偉方や金持ちよりも頼りになる……アンリエッタの使い魔になったのだ!!

43アンリエッタ+康一:2007/06/13(水) 22:19:35 ID:???
代理投下してくださる方はこちらの文も代理投下していただけるとありがたいです。

規制が全く解除されない。何故か携帯からも投下できないしorz
荒しや悪いことした覚えはないんですが…
短いですが間の話しが出来たので避難所に投下しておきました。
ところでアバッキオのSSがたくさん出てきましたが真面目な話、アバッキオが死ぬシーンは本当に最高だと思う。
「真実に向かおうとする意思」そういう誇り高い精神が、読者も誇り高くあれと言っているような気がしてなりません。
自分の康一君もちょっとでもそういった誇り高さを表せたらと思います。

44奇妙なルイズ:2007/06/14(木) 00:56:35 ID:???
>>955
携帯からの投下は手間がかかる。
名前もsageも手動でいちいち入れなければならないし…
でも、まあ書き込めるだけマシだと思っておこう。

45slave sleep〜使い魔が来る:2007/06/17(日) 03:20:18 ID:???
どなたか代理投下お願いします。

―※―
「なるほど・・・。その青年のルーンを調べに調べた結果、
それにたどり着いたということじゃな?」
オスマンがコルベールに言う。その真剣な目つきはいつもの茶目ッ気ある行動からは予測不能だっ!
「ええ・・・。彼の左手に現れたのは、この『始祖ブリミルの使い魔』にかかれたこのルーンでまちがいありません。」
そう言って指したページにかいてあったものは、ブチャラティのルーンと同じ!
「彼のルーン・・・それは『ガンダールヴ』の物と同じルーンなのです!!」
「『ガンダールヴ』か・・・・。」

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・・・・・・・・

「だが、コルベール君・・。『ガンダールヴ』はただの使い魔ではない・・・。
これによると、『ガンダールヴ』は、始祖ブリミルの詠唱時間の長い呪文を唱えている間の
守護者と聞いている・・・。そんな使い魔がミス・ヴァリエールの使い魔になったのか?」
「私も・・・疑問に思いました。ですから実は召喚時、“ディテクト・マジック”で彼を調べさせて
もらったのですが・・・。」
コルベールは言葉を詰まらせた。
「その結果は、契約前と契約後では結果が分かれましたが・・・。どちらも『異常』としか思えませんでした・・・。」
「何っ!?」

46slave sleep〜使い魔が来る:2007/06/17(日) 03:21:04 ID:???
「『異常』とは・・・どのように異常だったのかね?」
「まず契約前・・・。彼は一見我々と同じ人間ですが・・・。契約前の彼は、精神エネルギーと、生命エネルギーにおいて、あきらかな『異常』がみられました。」
「精神と・・・生命エネルギー?」
「精神エネルギー・・・。これが、我々の使う魔法のそれとほとんど同じだったのですッ!!」
「む・・。つまり彼は“メイジ”だとでも言いたいのか?」
「いいえ。全くの別物です。我々の場合は、杖などの媒体を用いて、自らのエネルギーを
魔法へと変えていますが彼は違う。彼の場合は、精神エネルギーそのものが魔法とよく似た波動を放っているのですッ!!」
オスマンは水パイプを吸いながら言う。
「精神エネルギーそのものが魔法だと・・?それじゃあまるで“先住魔法”・・。」
「『エルフ』・・・ではありませんよ?彼の身体的特徴は全て我々と同じものです。
つまり、彼は『何者でもない』。平民でもメイジでも・・・エルフでもないのです。
そして生命エネルギーのほうだったんですが・・・。」
「どうだったんじゃ?」
オスマンが息を呑む。
「『ゼロ』でした。」
「何!?」
「正確には、“ディテクト・マジック”でさえ認識できないほど生命エネルギーがなかった・・。
どの道、あの時の彼は『死人』も同然だったんです・・・・。」
コルベールが汗を拭きながら言った・・。

47slave sleep〜使い魔が来る:2007/06/17(日) 03:21:37 ID:???
「死人・・・だったじゃと・・?」

ドドドドドドドドドドドドドドドドド・・・・・・・・

「ですが契約後。そのときの結果は大きく変わりました。まず生命エネルギーが戻っていたんです・・・。その代わり、妙な反応が『二つ』に増えていた・・・・・。」
「それが・・・・ガンダールヴということか?」
「ええ・・・・。」
オスマンがコルベールを見据え、しかししばらく黙りこくってから言った。
「スマン・・・。君の言い方じゃと、『彼はもう死んだ人間だったが、ミス・ヴァリエールの召喚によって
一時的に復活し、その後契約で命を取り戻したあげくガンダールヴになった』と聞こえるのじゃが・・・。」
「そういうことになります・・・。ですが学院長・・。『その結果』が意味することは・・・。」
コルベールがどこか悲しげな表情で言った。
「うむ・・・。」
オスマンは背を向ける。そして言った。
「彼とミス・ヴァリエールの間に出来た“絆”はこの世で最も美しいのか?それとも最も残酷なものなのか?生憎こんな老いぼれになるまで生きておるのに答えが出せん・・・。」
「私もです・・・・。」
「彼ほど、この言葉が似合う者も珍しい・・・『運命の奴隷』と言う言葉が・・・。

48slave sleep〜使い魔が来る:2007/06/17(日) 03:22:51 ID:???
コンコン。
ふとノックの音が聞こえる。
「誰じゃ?」
「私です。オールド・オスマン。」
ミス・ロングビルだった。少々息を切らしている。
「ヴェストリの広場で決闘をしている生徒がいるようです。大騒ぎになっています。
 止めに入った教師がいましたが、生徒達に邪魔されて、止められないようです。」
オスマンは、髭が揺れるほど深いため息をついて言った。
「まったく、暇をもてあました貴族ほど、性質の悪い生き物はおらんわい。で、誰が暴れておるんだね?」
「(アンタもよ!クソジジィ!)まず一人は、ギーシュ・ド・グラモン。」
「なんと・・。あのグラモンところの馬鹿息子か。思えば親父も色の道では剛の者じゃったが息子もその血を深く受け継いでいた・・。どうせ女がらみじゃろう。」
「いえ、もう一人はミス・ヴァリエールの使い魔です!教師たちは、『眠りの鐘』の使用許可を求めております。」
「アホか。たかが子供のケンカくらいを止めるのに、秘宝を使ってどうするんじゃ!放っておきなさい!」
「わ、わかりました・・・。」
ガチャン。
「オールド・オスマン・・・・。」
「うむ・・・。わかっておる。ワシらも行かなくては・・・。」

49slave sleep〜使い魔が来る:2007/06/17(日) 03:23:32 ID:???
―※―
「ワルキューレ!容赦などするなッ!再び立ち上がった以上、確実に再起不能にしてしまえッ!!」
ワルキューレが襲い掛かるッ!その時ブチャラティは!?
(何か・・・おかしいぞ・・?)
彼は自分の感覚に違和感を感じた。『周りがゆっくり見える』のだ。
(これは・・・そう。かつてジョルノと戦った時に起こったあの感覚と同じ・・・。)
ワルキューレが迫るッ!もう逃げ場がないッ!!
「ブチャラティ!!・・あれ?」
ルイズは自分の目をこすった。だが見えるものは変わらない。
(あれ・・?何アレ・・・?なにか・・・・ブチャラティの後ろに・・うっすらと・・誰かがいる・・?)
ルイズの目には、ほとんど透明に見える。だが『それ』は確かにいる。そしてソイツの左手には、ブチャラティと同じルーンがあったッ!!
「終わりだぁぁ!!!」


「――――いや。『アレ』とは違う。」

50slave sleep〜使い魔が来る:2007/06/17(日) 03:24:51 ID:???
ズバッ!バキズカッ!!
「な、何ィーーーーーーーーーー!!!」
ギーシュは何が起こっているのか理解できなかった。
ほんの一瞬!ブチャラティはほんの一瞬でワルキューレの3体は切り崩しッ!!
4体はジッパーを使うことなく砕き割ったッ!!
「やはり・・・。あの時とは違い、オレ自身がそのままゆっくり動けていた・・!
今度は間違いない・・・!本物のパワーアップが起きているッ!!」

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・

「何・・・?何なのあの『霊』のようなもの・・・。ブチャラティ・・・アンタ一体・・?」
「よくわからないが・・・。オレの“スティッキィ・フィンガース”!
まだ動ける・・・。まだ戦えるみたいだッ!!」

ルイズに見えているモノとはもしや・・?そして黄金の精神を取り戻したブチャラティ!
次回、とうとう決着ッ!!

to be continued・・・⇒

51slave sleep〜使い魔が来る:2007/06/17(日) 03:26:57 ID:???
投下終了・・・。だれかココを見たらかきこんでおいてください・・・。

ジッパーが他人に開けられる設定は続けます。困難が多いほど
物語はおもしろくなると思ってますから・・。次回に期待ッ!!

52使い魔は静かに暮らしたい:2007/06/17(日) 14:19:57 ID:zGL2jpj.
ギーシュ空間とは!
ひとつ、哀れなり!
ふたつ、決して攻撃されず!
みっつ、決して救われることは無い!
よっつ、あらゆる同情や憐憫を兼ね備え、しかもそれらを無意識で行う!
そしてその空間はとても居辛く、嗚咽交じりの沈黙を基本形とする。

うお!?今何か電波を受信したような気がする。なんだったんだあれは……
いや、今はそんなことを考えている場合ではない。早くこの雰囲気を何とかしなければ!
ギーシュをこづいたりしてやめさせたいがあまりにも不憫すぎてためらわれてしまう。無視したいが無視できない何かを兼ね備えているがごとくその場から離れられない。
もう望みはワルドだけだ。さっきもこの雰囲気を壊そうとしたんだ。ならもう一回してくれるはずだ。何か策があるはずだ。もうこの雰囲気はごめんだ!
そう思いワルドに目をやるとワルドもこちらに目線を向けていた。なにやら目配せをしてくる。何かするつもりのようだ。
そしてワルドはルイズを見やりルイズにも目配せをする。
ワルドは突然口笛を吹く。すると朝靄の中から何が出てくる。それは奇妙な生き物だった。
鷲の上半身にライオンの下半身がくっついた生き物だった。何かで読んだことがあるな。たしかグリフォンとかいう空想上の生物だ。
この世界には本当に居るのか。

53使い魔は静かに暮らしたい:2007/06/17(日) 14:20:41 ID:zGL2jpj.
ワルドはグリフォンに颯爽と跨ると、
「おいで、ルイズ」
と手招きする。
「は、はい」
ルイズはこれに便乗し跨る。そしてワルドは「さあ、きみの番だ!」とでもいう風に視線を向けてて来る。
ああ、私の番だ。ギーシュ空間が緩んだ今しかない!
「剣を忘れたからとって来る」
そう言い残し時自分でも惚れ惚れするような速さで逃げ出した。
そしてデルフリンガーをとって帰ってきてみた光景は、いくらか憔悴した顔のワルドとルイズ、そして復活し馬に跨っているギーシュだった。
どうやら二人でギーシュ空間を治めたらしい。ワルドとルイズの恨みがましい視線を極力無視し馬に跨る。
そしていつまでもこうしているわけにはいけないと思い出したのだろう。
「では諸君!出撃だ!」
ワルドが思いを振り切るように杖を掲げた!
グリフォンが駆け出す。それを追うように私とギーシュも馬を走らせた。
さて、一体どれくらい馬に乗ることになるのやら……

54506:2007/06/17(日) 14:22:03 ID:zGL2jpj.
規制によりこっちに投下した!
見た人は代理投下よろしくお願いします。

55506:2007/06/17(日) 14:54:34 ID:zGL2jpj.
あと
ERROR:公開PROXYからの投稿は受け付けていません!!(1)
って何?教えてくれるとありがたい。

56名無しさん:2007/06/17(日) 16:47:43 ID:???
串噛ませてる奴の投稿なんて受けつけないんだぜ!
てことじゃね

57名無しさん:2007/06/18(月) 19:58:07 ID:???
そのエラーメッセージがわからんというのなら、おそらく自分で設定したってことじゃないと思う。

一部のケーブルテレビや地方ローカルのプロバイダだと、
インターネット接続でプロバイダのプロキシ経由で接続するところがある、らしい。
プロキシの意味はググってくれ。
ググればわかると思うが、プロキシは匿名性を高める効果があるので、
2chのような場所だとプロキシを使って悪意ある書き込みをする人間がいるので規制されていることがある。
2chの管理しているところで規制解除とか申し込めば、解除されるかもしれん。

58奇妙なルイズ:2007/06/19(火) 23:31:39 ID:???
「…それで、その『ゼロのルイズ』が平民を助けたと言うのか」
「ええ、そうよ」
城下町の小さな劇場に、サイレントの魔法で包まれた二人組がいた。
一人は仮面を被った男、もう一人はミス・ロングビルである。
ロングビルが男に話したのは、ルイズに関することだった。

昨日、モット伯の別荘に平民が連れて行かれたのを知った『ゼロのルイズ』は、単身でモット伯の別荘に乗り込んだ。
それを知ったロングビル、タバサ、キュルケの三人は、タバサの使い魔シルフィードに乗り、モット伯の別荘へと急いだ。
途中、馬で逃げようとしたモット伯を発見し、ロングビルが保護。
別荘に向かったルイズはシエスタを背負って屋敷から出てきたが、キュルケとタバサを見るなり気を失った、現在シエスタが看病

している。
モット伯を魔法学院で保護しようとしたが、そこにマンティコア隊が現れ、モット伯のバックを没収し、モット伯の身柄は拘束さ

れてしまった。
翌日オールド・オスマンから話を聞くと、モット伯は以前から汚職の件で疑われていたのだと言う。
モット伯が持ち出した書類の中からその証拠が発見され、最低でも身分剥奪は免れないとか。

「…腑に落ちん、『ゼロのルイズ』と呼ばれるメイジが、モット伯に仕えていたメイジと戦い、勝利したというのはな」
「実力を隠してたんじゃないかしら?…それにしても、ずいぶんあの娘のことが気になるのね」
ロングビル…いや、本物の『土くれのフーケ』は、宝物庫でこの男から受けた脅迫を忘れたかのように、男をからかいつつ話を進

める。
男は、それがフーケの虚勢だと気づいているのだろうか、男はフーケに言い返した。
「気にしているのはお前の方だろう、平民を助けようとするメイジに、心を乱されているようだな」
「………」
フーケは、何も言い返せなかった。

59奇妙なルイズ:2007/06/19(火) 23:32:12 ID:???
さて、場面は移り、ここはトリスティン魔法学院の女子寮。
ルイズが目を覚ますと、すでに日は高かく昇り、午後の授業が始まる頃の時間だった。
驚いたルイズはベッドから飛び起き、ベッドから降りようとすると、なぜかベッドの脇に置かれている小さな机に足を引っかけ、

盛大に転んでしまった。
どべちーん、と音を立てて、おでこから床に落下したルイズ。
「ルイズ様!」
それを見て驚いたのはメイドのシエスタ。
なぜかルイズの部屋にいたシエスタは、ルイズを助け起こすと、こんな所に机を置いた私が悪いんですと謝り始めた。
そんな事はどうでも良いから、なんでシエスタがここに居るの?と問うルイズ。
謝り続けるシエスタ。
何がなんだか分からずシエスタを慰めるルイズ。
授業が終わり、夕食前にキュルケとタバサがルイズの様子を見に来るまで慰め合戦は続いた。

「それにしてもあんた、凄いじゃない、タバサが感心してたわよ」
「……」
キュルケの言葉に無言で頷くタバサ。
だが、当のルイズは何の話なのか分からず、頭にクエスチョンマークを浮かべた。
何の話なのか質問しようとした時、シエスタがルイズに頭を下げた。
「あの…ルイズ様、助けて頂いて、本当にありがとうございました」
「助けて?…って、あ、そっか、シエスタ!あの変態に何かされてない?大丈夫?」
ルイズはシエスタの一言で、モット伯の別荘で起こったことを思い出した。
「呆れた!ルイズ、あんた今まで自分が何をしたのか忘れてたの?」
キュルケが両手を左右に開き、ジェスチャアを交えつつ、心底呆れたように言う。
そしてタバサはルイズの若年性痴呆症を疑っていた。

ルイズには地下牢でオークに殴られてからの記憶がはっきりしていない。
タバサが言うには、ミス・ロングビルはオールド・オスマン不在の間、学院に異常がないか監視するように言われていた。夜間外

出したルイズを見たロングビルが、マルトーに話を聞き、キュルケとタバサの二人に頼んでルイズを追いかけたそうだ。破壊され

た別荘のテラスにルイズとシエスタを発見し、すぐさまシルフィードで助け出したが、ルイズは気を失っていた…という事らしい



60奇妙なルイズ:2007/06/19(火) 23:33:24 ID:???
窓から別荘の廊下を見たタバサは、風を使うメイジとルイズが戦ったのではないかと分析した。
キュルケは、ルイズは前兆のない『爆発』を起こせると知っているので、タバサの考えに異論を挟まなかった。
ほかの生徒たちはルイズが何をしたのかまでは知らされていないが、おそらくルイズがほかのメイジと戦えば惨敗すると思ってい

るだろう。
何よりも驚いたのは、オークに立ち向かうルイズの話だ。
杖のないメイジがオークに立ち向かうのは自殺行為と言える、しかし、シエスタを守ろうと自ら危険な役を引き受けたという。
キュルケにとって、ルイズを含むヴァリエール家は宿敵だが、ルイズに対しては友情に近い感覚が芽生えている、すでに彼女は『

ヴァリエール』ではなく『ルイズ』と呼んでいるのだから。
もっとも、本人はそれを否定するだろう、素直になれない友人に、少しだけ苦笑いするタバサだった。


「…いけない」
突然、タバサが立ち上がった。
タバサの表情は変わらなかったが、いつになく緊迫した雰囲気が漂っている。
その様子に驚いた三人は、タバサから目が離せなかったが、遠くから響く夕食終了の鐘の音を聞いて、慌てて食堂へと移動した。

「あちゃー、片づけられちゃったわね」
そう言いながらテーブルを見渡すキュルケ。
タバサは誰かが食べ残した食事を見て、自分の好物が無惨にも残されているのに気づき、少し腹が立った。
ルイズも空腹感はあったが、ちょっと疲れているので、いつものコッテリとした夕食を思いだし、食べなくても別に良かったかな

と考えた。
そんな三人にシエスタは、おそるおそる話しかける。
「あの、私、料理長に掛け合ってみます」
「いいわよ、遅れたのが悪いんだし、規則は守らなきゃね」
ルイズはシエスタを庇うように言う、そうでもなければシエスタは自分のせいだと思いこんでしまうからだ。
「あら、いいじゃない、たまにはぬるいスープじゃなくて作りたてを食べたいわよ」
「ハシバミ草大盛り」
キュルケとタバサの遠慮のない言葉に苦笑いするルイズだったが、シエスタは嬉しそうに微笑んでいた。

61奇妙なルイズ:2007/06/19(火) 23:33:55 ID:???
シエスタが交渉する間もなく、ルイズが来たと聞いた料理長によって、三人は厨房へと招かれた。
料理人たちの食事である『まかない』を作っている最中だったが、その香りにキュルケとタバサは鼻をひくつかせた。
「美味しそう」 グー…
タバサが小さく呟くと、タバサのお腹がグーと鳴った。
「何よ、タバサったら食いしんぼ…」 グー…
続いてキュルケのお腹も鳴る。
「二人ともお腹すいてるんじゃない」 グーー
そしてルイズのお腹がひときわ盛大に鳴り響いた。
「あんたが一番」「食いしん坊」
ルイズは、キュルケとタバサに言い返すことも出来ず、顔を真っ赤にした。

「ほっほっほ、お前たちもつまみ食いに来たか?」
厨房の奥から出てきた意外な人物は、三人を見ると嬉しそうに声をかけた。
オールド・オスマンである。
オスマンは三人を厨房の奥のテーブルへと招くと、そこには厨房で働くメイドや料理人達がいた。
オスマンはテーブルの端に座ると、キュルケ、タバサ、シエスタ、ルイズの席を々席に着くように促す。
貴族嫌いのマルトーが仕切る、普段の厨房の様子からは考えられないほど、ルイズ達は好意的に迎えられた。
「ええと、ヴァリエール公爵嬢様、シエスタを助けてくれて、本当に、ありがとうござい…ます」
「ほっほっほ、マルトー、お前が敬語を使ったら雨が降るわい」
オスマンが笑うと、マルトーは頭を振って、少し恥ずかしそうにした。
「ミス・ヴァリエール、魔法学院で学ぶ生徒達は、国家の宝であるとは何度も申しておるな。ここに居る料理人達やメイド達も、

魔法学院にとっての宝であることに代わりはない。貴族の横暴によって損なうことなど、決してあってはならん」
料理人やメイド達、そしてルイズ達もオスマンの話を神妙に聞いている。
「魔法学院の長として、ワシからも礼を言わせてもらうぞ、ミス・ヴァリエール。『身分に応じた責任を負う』それがメイジを貴

族たらしめる理由じゃ。今回の件は国家預かりになっておるが、ワシは勇気ある行動を尊敬するぞ」

62奇妙なルイズ:2007/06/19(火) 23:35:27 ID:???
ルイズはオスマンの言葉に驚いた。
ほかの料理人、メイド達までルイズにお礼を言い始めたので、更に驚いた。
今までに感じたことのない、むず痒い気持ちに困惑してしまう。
子供の頃から魔法が使えず、メイジとして失格とまで言われてきた。
しかし今はどうだ、『貴族』として尊敬を受けているのだ。
「さあ、お友達の二人も食べていってくれ、腕によりをかけたんだ!そうだ、おいシエスタ、34年もののワインがあったな、あれ

を三人に出してくれ」
マルトーが威勢の良い声で料理を作り、そして運ぶ。
次々にテーブルの上を彩っていく料理の数々に、キュルケは素直に感心した。
「何よ、これがまかない料理って奴なの?…美味しいじゃない、あんたたち厨房でこんな美味しいもの食べてるなんてずるいわよ


タバサも無言で食べ続ける、心なしかいつもよりペースが速いぐらいだ。
「ところでマルトー、せっかくじゃから、ワシの分もワインを…」
「ちょっと、学院長、またミス・ロングビルに怒られますぜ」
「彼女は城下町に用があって出かけておる、酒は別れによし再会によしと言うじゃろう、ここにいるヴァリエールがおらねば、シ

エスタと再会できなかったかもしれんのじゃぞ?野暮なことを言わずワインを出しなさい」
「そこまで言うなら、アッシも飲ませてもらいますぜ!」
「ベネ!」(良し!)

妙にノリの良い学院長の一言で、全員に振る舞われる酒。
ルイズは、自分が記憶を失っている間に何が起こっていたのか、これから先どうなってしまうのか、姫様から頼まれた用事を前に

してこんな事をして大丈夫だったのか…
等々、いろいろな事が頭を駆けめぐった。

だけど、今はとにかくこの時間を楽しもうとして、ワインをあおった。
ワインは確かに美味しいものだったが、この楽しい雰囲気と、マルトー特製の料理は、酒の肴にするには勿体ないと感じた。

そして飲み過ぎた。

翌日、シエスタは恥ずかしそうに、四人分の布団と下着を洗っていたとかいないとか。

63奇妙なルイズ:2007/06/19(火) 23:36:39 ID:???
誰か余裕があれば代理投下をお願いします。

64『女教皇と青銅の魔術師』:2007/06/20(水) 12:41:05 ID:???
以上、投下終了!

スタンド能力や魔法について批判のあるかたは避難所のほうにお願いします。

こんなんギーシュちゃうわ!という方は、もうしばらく待ってください。
男子三日会わざればカツモクして見よ、ともいいますし。


なして最後で規制にかかるかなあ(笑)

65奇妙なルイズ:2007/06/20(水) 23:30:52 ID:???
代理投下ありがとう!
携帯が壊れそうになってヒヤヒヤしていたんだ。
避難所と、代理投下してくれた人に、感謝するよ!

66ゼロと奇妙な隠者:2007/06/21(木) 02:18:52 ID:???
実はこの回色々と悩んだりしていたw
「果たしてジョセフはどこまで強化していいのか、左手だけにしておくか
それとも波紋てで強化された肉体ごと武器でいいか」とか、
「ワルキューレにどうやって勝とう。流石にフルボッコじゃジョセフらしくないよな」とか他にも色々w

隠者のギーシュ戦はこんなんだ。誰か一人でも楽しんでもらえれば嬉しい(´・ω・`) w
あとうちのゼロ魔世界は波紋≒魔力なので、ワルキューレが動いてる以上は金属に擬似生命エネルギーが
流れているので波紋が通用する、と考えてもらえれば嬉しい(´・ω・`) w

それと……ついに私も初さるさん食らったorz

67名無しさん:2007/06/21(木) 12:59:34 ID:???
接戦は対ワルド戦からでいいんじゃね?

68ゼロと奇妙な鉄の使い魔:2007/06/24(日) 04:34:29 ID:???
さる規制をくらったので残りはこちらに書き込みます

69ゼロと奇妙な鉄の使い魔:2007/06/24(日) 04:36:22 ID:???
「それよりも続きをお話ください」
「ええ。分かりました…」
アンリエッタは再び沈んだ調子で語り始めた。
現在、アルビオンでは貴族による反乱が起きており、王室は今にも倒れそうなのだという。
反乱軍が勝利を収めたら、次にトリステインに攻めてくることが予測されるため、トリステインはゲルマニアとの同盟を画策している。
そのための条件としてアンリエッタとゲルマニア皇帝の結婚があるのだという。
いわゆる政略結婚であり、アンリエッタ自身が望むものではないが、アンリエッタは王族としての責務としてそれを実行することにしたのだという。
「なんてこと…あの野蛮な成り上がりどもの国に、姫様が嫁がなければならないなんて……!」
「仕方がないの。成り上がりの国とはいえ同盟を結ぶためなのですから…」
そういいつつも、アンリエッタの表情と口調は暗い。
リゾットはゲルマニアについて、キュルケに聞いた話を思い出していた。
ゲルマニアは国の中では歴史が浅く、金を積めば平民でも貴族になれるのだという。それゆえ、他の国々から嫌われているのだった。
(どこにでもあるものだな……)
イタリアでも北イタリアと南イタリアの間では貧富の差があり、南イタリア出身者が何らかの成功を収めても、
北イタリアの人間からは「成り上がり」とどこか蔑むような眼で見られることが多い。
ハルケギニア諸国、そしてその民のゲルマニアを見る眼はそれに似ているのだろう。

アンリエッタの話は続く。
トリステインとゲルマニアの同盟は当然、反乱軍には好ましくないため、反乱軍はこの同盟をぶち壊すための要因を探しているのだそうだ。

70ゼロと奇妙な鉄の使い魔:2007/06/24(日) 04:37:21 ID:???
「では、もしかして、姫さまの婚姻を妨げるような材料が…?」
「おお、始祖ブリミルよ……、この不幸な姫をお許しください……」
アンリエッタが顔を両手で覆い床に崩れ落ちた。別に嘘というわけではないだろうが、意識的にしろ、無意識にしろ、かなり大げさに演出しているようにリゾットには見えた。
何でも、アンリエッタがアルビオンの皇太子ウェールズへ送った手紙(明言はしなかったがおそらくは恋文の類)があるらしく、
それがゲルマニアに対して明るみになった場合、即座に結婚は破談になり、トリステインは一国でアルビオン反乱軍と戦わねばならなくなるのだという。
「では、姫様、私に頼みたいことというのは…?」
「無理よ! 無理よ、ルイズ! わたくしったら、なんてことでしょう! 混乱しているんだわ!
 考えてみれば、貴族と王党派が争いを繰り広げているアルビオンに赴くなんて危険なこと、頼めるわけがありませんわ!」
「何をおっしゃいます! たとえ地獄の釜の中だろうが、竜のアギトの中だろうが、姫さまの御為とあらば、何処なりと向かいますわ!
 姫さまとトリステインの危機を、 このラ・ヴァリエール公爵家の三女、ルイズ・フランソワーズ、見過ごすわけには参りません!」
ルイズは膝を突いて恭しく頭を下げた。
「『土くれ』のフーケを捕まえた、このわたくしめに、その一件、是非ともお任せくださいますよう」
「ルイズはあんたのために命を賭ける覚悟をした。それに応えるんだな……」
なおもアンリエッタは迷っていたようだが、 リゾットの口ぞえで決心したようだった。
「覚悟に応える……。そうですね……。ルイズ、わたくしの力になってくださいますか?」
「もちろんです! なんなりと」
「では……アルビオンに赴き、ウェールズ皇太子を探し、手紙を取り戻す任、貴女に託します」
「一命に変えましても。急ぎの任務なのですか?」
「アルビオンの貴族たちは、王党派を国の隅までおいつめていると聞き及んでいます。敗北は時間の問題でしょう」
「分かりました。では早速、明朝にでも、ここを発ちます」

71ゼロと奇妙な鉄の使い魔:2007/06/24(日) 04:38:11 ID:???
それを聞くと、アンリエッタはリゾットに向いた。
「使い魔さん。貴方はさきほど、わたくしが秘密を知ったルイズと貴方を抹殺する可能性を示唆していましたね?」
「ああ…」
「恥ずべきことですが、先ほどの使い魔さんの言葉を聞くまで、お二人に命を賭けてもらうということを、わたくしは忘れておりました。いえ、意識しないようにしていたのかもしれません」
アンリエッタは杖を掲げた。
「あなた方と等価の危険を背負うわけでもないし、ただの言葉ではありますが、わたくしも、ここに始祖ブリミルの名において誓いましょう。
 わたくしがこの件について二人に不義をなすことあらば、わたくしは地獄の業火で焼き尽くされることを」
「三人だ」
「え?」
リゾットの言葉に、アンリエッタが聞き返す。
「三人だ。ルイズと、俺と……」
扉を思いっきり開ける。
「うひゃぁ?」
そこにはギーシュが居た。突然戸が開いたのに驚き、尻餅をついている。
「ギーシュ! あんた! 立ち聞きしていたの? 今の話を!」
「いや、その……」
「ずっと聞いていたはずだ。扉の前でこいつの気配を感じたからな…。つまり、あの警告も聞いて……『覚悟』したわけだ」
ギーシュはその言葉で突然立ち上がって敬礼した。
「姫殿下! その困難な任務、ぜひともこのギーシュ・ド・グラモンに仰せ付けますよう!」
「グラモン? あのグラモン元帥の?」

72ゼロと奇妙な鉄の使い魔:2007/06/24(日) 04:39:18 ID:???
アンリエッタが突然の事態についていけず、きょとんとしてギーシュを見つめた。
「息子でございます。姫殿下!」
ギーシュが恭しく一礼をした。
「貴方も、わたくしの力になってくれるというの?」
「任務の一員に加えてくださるなら、これはもう、望外の幸せにございます」
「ありがとう。お父様も立派で勇敢な貴族ですが、貴方もその血を受け継いでいるようね。ではお願いしますわ。この不幸な姫をお助けください、ギーシュさん」
「姫殿下が僕の名前を呼んでくださった! 姫殿下が! トリステインの可憐な花、薔薇の微笑みの君がこの僕に微笑んでくださった!」
ギーシュは感動のあまり、キリキリと回転すると、後ろにのけぞって失神した。
「……大丈夫か、こいつ?」
「味方になるならいいかと思って放っておいたが、失敗だったか…」
デルフリンガーが呟きに、リゾットがため息混じりに答えた。

「では明日の朝、アルビオンに向かって出発いたします」
ルイズがアンリエッタに提案する。ギーシュのことは完璧なスルーである。
「ウェールズ皇太子は、アルビオンのニューカッスル付近に陣を構えていると聞き及びます」
「了解しました。以前、姉たちとアルビオンを旅したことがございますゆえ、地理には明るいかと存じます」
「旅は危険に満ちています。アルビオンの貴族たちは、あなたがたの目的を知ったらありとあらゆる手を使って妨害しようとするでしょう」
そういうとアンリエッタは手紙を書き始めた。一度、筆を止めたようだが、始祖への謝罪を口にし、朱に染まった顔で最後に一文を書き加える。
書き終わると、手紙を巻き、杖を振る。すると、手紙に蝋封がなされ、花押が押された。その手紙をルイズに渡す。
「ウェールズ皇太子にお会いしたら、この手紙をお渡しください。すぐに件の手紙を返してくれるでしょう」

73ゼロと奇妙な鉄の使い魔:2007/06/24(日) 04:40:06 ID:???
それからアンリエッタは右手の薬指から指輪を引き抜くと、ルイズに手渡した。
「母君から頂いた『水のルビー』です。せめてものお守りです。お金が心配なら、売り払って旅の資金に当ててください」
「そんな……そこまで…私に信頼を…」
ルイズは感極まった様子で、深々と頭を下げた。
「この任務にはトリステインの未来がかかっています。母君の指輪が、アルビオンに吹く猛き風から、貴方がたを守りますように」

暗い廊下の中、リゾットは帰路に着いたアンリエッタに続いて歩いていた。
ルイズが「姫様に何かあったら大変だから、途中まででもいいから送っていきなさい」と言ったのだ。
ちなみにギーシュはその時、まだ失神したままだったので部屋に放り込んでおいた。
「………一つ、いいか?」
黙々と送っていたリゾットが不意に口を開く。
「何でしょうか、使い魔さん」
「もしも……次にこういう任務をルイズに頼むならば……、同情を引くような頼み方はやめてくれ。自分が撒いた種の始末を友人に頼む後ろ暗さ…………それは分かるが」
「!」
アンリエッタが言葉を失う。意識的ではないにしろ、そういう意図がなかったとは言い切れないのだ。
「ルイズは純粋にお前のために戦おうとしてる。ああいう頼み方じゃなくても引き受けるさ…。それを同情を引くような頼み方をするってことは……お前とルイズの間にあるらしい『友情』に泥を塗りつける行為も同然だ……」
「……そうですね。今回のわたくしの頼み方は相応しくなかったかも知れません。以後、気をつけます」
「素直に認められるなら……まだお前は救いがある方だ…」
「ありがとうございます」
アンリエッタは礼を言って、少し含み笑いをした。

74ゼロと奇妙な鉄の使い魔:2007/06/24(日) 04:40:53 ID:???
「?」
「貴方はいつもルイズのことを心配しているのですね」
「……恩人だからな」
そっけなくリゾットが答える。別に嘘をついたわけではないが、それが全てではないことは、リゾット自身にもいまや明らかだった。
「わたくしにも貴方のように誠実な部下が居ればよかったのですが……」
「……なければ作ることだ。そしてそのためには他人を徐々にでも信頼することから始めるんだな……。そういう発言をすること自体、誰も信じていない証拠だ」
「…………信じた相手に裏切られたら?」
「そのときは自分の人を見る眼のなさを恨むしかないな。二度目があるなら慎重になることだ」
「貴方は使い魔なのに、まるで誰かの上に立つ人間のようなことを言うのですね……」
「…………」
異世界ではそういう立場にあった経験から言っているのだが、それを説明する必要はないため、リゾットは口を閉ざした。
やがて、行く手に明かりが見えてきた。
「ここまでだ…。あとは……自分で帰れ…」
「ええ、ありがとうございます。ルイズにもお礼をお伝え下さい」
「分かった……」
アンリエッタの姿が見えなくなるまで見送ると、リゾットは踵を返す。その足が何かを蹴った。
足元で土で出来た小型のゴーレムが転んでいた。ひょこりと立ち上がると、ついてこいというような身振りをして、のこのこ歩き出す。
リゾットがゴーレムの後に続くと、人気のない場所にきたところで、ゴーレムが消えた。
「一週間ぶりだね。こないだ送った情報は役に立ったかい、リゾット?」
茂みが揺れ、土くれのフーケが姿を現した。それをみてデルフリンガーが声を出す。
「おでれーた! こないだ倒したフーケじゃねーか」

75ゼロと奇妙な鉄の使い魔:2007/06/24(日) 04:42:03 ID:???
「ふーん……。なるほどね。アルビオンへウェールズを探しに行くのか」
リゾットの話を聞くと、フーケは腕を組んだ。その言葉からは何とはなしに『嫌悪』が伺える。
「ああ……。ルイズの任務でな……」
「何のために会うのかは、聞かせてもらえない?」
「…………念のため、やめておこう」
リゾットの答えに、フーケは不満そうに唇を尖らせた。
「そ。ま、しょうがないね。で、どうする? アルビオンへの港町、ラ・ロシェールまでの道のりなら、調べてやっても構わないけど…」
「アルビオンへは……来ないのか?」
「貴族派と王党派が戦争やってるような危ない所に行くほど金はもらってないよ」
フーケが吐き捨てるように言ったが、リゾットはその表情からはっきりと『嫌悪』を読み取った。
先の言葉から考えると、フーケはアルビオン王家を嫌っているのだろう。嫌いなものを無理に近づけようとは、今は思っていなかった。
「そうだな……。では、その港町までの道のりの調査は頼んでおこう」
「ん、分かったよ。じゃ……連絡は手紙で…ってあんた、字が読めないんだっけ?」
「ああ……」
フーケはどうやって伝えるか、首をひねった。
「世話が焼けるねえ……。じゃあ、そうだね。行く手に危険が待ち受けてるなら道に印をつけておくってことで。
 ラ・ロシェールまで急いで向かうなら選ぶ道は限られてくるし、あんたが見落とさなきゃ、大丈夫だろ」
「分かった……」
「あと、あらかじめ言っておくけど……。危険を何とかするのは自分でやりなよ。私は手を貸さないからね」

76ゼロと奇妙な鉄の使い魔:2007/06/24(日) 04:42:56 ID:???
「俺がお前を雇ったのは、あくまで情報収集のためだからな……」
「わかってるならそれでいいんだけどさ……」
フーケは頬を掻く。どうも木石に話しかけているような淡白な反応で、面白くなかった。
自分と戦っていたときはそれなりに感情を見せていたので、感情がないわけではないのだろう。
(やりこめてやれば、少しは表にだすかね…)
考えて見れば出会ってから今まで、リゾットに勝った事がない。やられっぱなしでは面白くないし、相手より下に見られるのも仕方ない。
フーケは心ひそかに、何とかしてリゾットをやり込めることを誓うのだった。

77ゼロと奇妙な鉄の使い魔:2007/06/24(日) 04:43:51 ID:???
以上、投下しました。
依頼シーンは動きがないですね。
結構生みに苦しみました。

78ゼロと奇妙な鉄の使い魔:2007/06/24(日) 05:22:38 ID:???
その後、自分で投稿できましたので代理投下は要りません。
ありがとうございました。

79ゼロと奇妙な隠者:2007/06/26(火) 05:28:09 ID:???
しまったッ! 「もう投下終わった」と勘違いして投下してしまったッ!
申し訳ありませんじゃジョースター卿〜〜〜(焼身自殺)

この文打つのにも五回規制に何回もひっかかったァー!
さるさんにもひっかかったァー!

ということでどなたか代理投下を……

80ゼロと奇妙な隠者:2007/06/26(火) 05:29:05 ID:???
 彼女はジョセフをカットされたアメジストだと称し、ルイズを掘り出してもいない原石だと言った。
 だがそれは、ジョセフをかなり過小評価した例えだと、痛感していた。
 ジョセフはアメジストどころか、ルビーそのものだ。
 認めたくないが、石ころにルビーをあしらった滑稽な姿を今更鏡で見せつけられた。今まで自分が美しいと自負してきたものは、ただの石ころだったのだ。何がメイジだ。何が貴族だ。
 私がヴァリエールの生まれでなかったら……何も、何も。
 胸の奥から溢れたものを必死に押さえ込もうとして、それが不毛な努力にしか過ぎないことを、ルイズは強く自覚していた。
 ここ数日、何回も湧き上がってきた感情と似て非なるもの。ジョセフを妬んで悔しくて泣いたのではない。自らの小ささを本当に知った、不甲斐なさからの涙だった。
「……ジョセフ……ごめんなさい、ごめんなさい……」
 抑えきれない感情の発露。片手で手綱は握りながらも、もう片手は拭いても拭いても零れ続ける涙を拭うしかできなかった。
「お、おいちょっと待たんかルイズ。なんじゃどうした、今の話で何も泣くポイントないじゃろ? ちょっと止まるぞ、そんなんで馬乗っとったら危ないわい」
 ジョセフは柄にも無く狼狽しながら、急いで留めた馬を木に繋ぎ止めると、それでもなお泣き続けるルイズに腕を伸ばして抱き下ろす。
 ごめんなさい、ごめんなさい、とただ繰り返して泣きじゃくるルイズは、まるで本当の子供のようで。
 泣き止ませることを早いうちに諦めたジョセフは、少々悩んでから。ままよ、と自らの身を緩く屈めて、ルイズを自分の胸に抱きしめた。

81ゼロと奇妙な隠者:2007/06/26(火) 05:30:05 ID:???
 何が悲しくて泣いているのか、何を謝られているのか、ジョセフには全く理解できない。
 何で悲しくて泣いているのか、何で謝っているのか、ルイズにも全く理解できない。
 だから少女が泣き止むまで。二人とも、何も出来なかった。
 やがて慟哭が嗚咽に変わり、しゃくり上げる様な声に変わってきた頃、ルイズは、ジョセフに抱きしめられていた自分を改めて自覚し……今になって、ジョセフを突き飛ばすように離れた。
「……き、気にしないでっ……」
 気にするなと言われても何を気にしなくていいのか見当も付かない。ジョセフは、小さくため息を漏らし。引っかかれる危険を押して、ルイズの頭に手を伸ばし、撫でた。
 だがルイズはその手を振り解くこともせず、ただ撫でられるままになっていた。
「気にしてくれるなルイズ。わしは見ての通りジジイで平民で使い魔じゃ。他の誰にも言わんから、気にせんかったらいいんじゃよ」
「そうじゃないの! 私はあんたより下なのよ! 劣ってるのよ! 『ゼロ』なのよ!」
 キッ、とジョセフを見上げて睨みつけるルイズ。
 泣いた理由の片鱗が、少しだけ理解できた。ジョセフは小さくため息をついて、苦笑した。
「わしがルイズんくらいの年にゃ、ただ毎日ケンカしとるだけのクソガキじゃった。努力とか訓練とかが死ぬほど大嫌いで、とにかく気に入らんことがあったら誰彼構わず殴りかかっただけのクソガキじゃった。
 それに比べたら、ルイズの方が……」
「おためごかし言わないでッ! 私は昔のあんたを召喚したんじゃないわ、今のあんたを召喚したのよ! あんたに比べて、私なんか……私なんか、情けなさ過ぎるのよッ!」
「おっと、それ以上言っちゃいかん。それ以上言うなら、シタ入れてキスしちまうぞ」
 なおも言葉を続けようとしたルイズの唇に、ジョセフの指先が当てられた。

82ゼロと奇妙な隠者:2007/06/26(火) 05:31:03 ID:???
「いいかルイズ。わしもかつて、自分の才能だけで突き進んで、こっぴどくボロ負けしちまった。じゃがな、わしはそこで今までの愚かさを自覚し、大嫌いじゃった修行に専念した。それもせんとただウジウジしとるだけなら、わしは今頃ここにゃおらんわい」
 やっとしゃくり上げるのを止めたルイズは、泣き腫らした目で、それでもまだ何か言いたげにジョセフを見上げて、彼の言葉を聞いていた。
「わしの修行をつけてくれた師匠も先輩も友人も、みぃんなわしよりずっと上にいた。今、ルイズが感じている悔しさは、きっとかつてのわしが感じた悔しさじゃ。世の中の人間は、貴族だろうが平民だろうが、必ず自分の弱さにぶち当たった。
 今のお前は、正にぶち当たったところなんじゃ。大切なのはぶち当たってから、どうするかじゃよ。うじうじ悩んでるのもよし、弱い自分をどうにかしようとするのも足掻くのもいい。
 じゃがルイズ、お前さんには忘れちゃあいかんものがあるんじゃ」
 頭に置いていた手を、肩に置き。両手でルイズの肩を掴んだジョセフは、彼女の目の高さと同じ高さに自らの視線を合わせた。
「お前さんにはお前さんを心配してくれる友達だって、お前さんを心配しておる使い魔じゃっておるッ! いいか忘れちゃならんぞ、お前さんは一人じゃないッ! 一人で悩むんも時にはいいッ、じゃが一人で何もかもしようとするのはただの傲慢じゃ!
 人を信じて頼るのは弱さじゃあないッ! 自分の弱さを直視せず、自分に出来ないことを出来ると嘘を吐く、その行為自体が真の弱さじゃ! 少なくともわしは、そう信じておるッッッ!!!」
 ぐっ、と肩を強く掴んで、彼女に言い聞かせる。
 潤んだ鳶色の瞳が、ジョセフの瞳を、真正面から見つめ返した。
「……私、『ゼロ』よ? ジョセフみたいに、すごくもなんともない……それでも、いい?」
「言ったじゃろ。今は『ゼロ』でも構わん。いずれ、強くなるんじゃ……『わしら』は」

83ゼロと奇妙な隠者:2007/06/26(火) 05:31:39 ID:???
「……離してっ、肩痛いわよ、ボケ犬っ」
 ルイズはジョセフの手から離れると、背を向けて。ごしごしと目元を袖で拭って、背を向けたまま口を開いた。
「……聞いてて、とっても恥ずかしかったわっ」
「同感じゃな。わしも言ってて死ぬかと思ったわい」
 主人の憎まれ口に、ちっとも死にそうじゃない口調で返すジョセフ。
「……どさくさに紛れて恥ずかしいコトばっかり言ってっ。そんなこと言ったからって三ヶ月の食事抜きは覆らないんだからねっ! 心配してくれても、エサあげないんだからっ!」
 ピンクの髪の間から微かに覗くルイズの耳が真っ赤なのを、ジョセフは見た。
「そんだけ大口叩いたんだから、ちゃんと責任持って私が強くなるまでいなさいよっ! 思い切り頼ってこき使うわ、覚悟なさい!
 それから、それからっ……私が泣いた、なんて他の誰かに言いふらしたらっ……絶対に、ぜーったいに、許さないんだからね!? 絶対誰にも言わないでよっ!?」
 振り返ったと同時に杖をジョセフの鼻先に吐き付けるルイズは、まだ顔は赤いままで。けれど、ジョセフを見上げる目は。今までとは、決定的に違っていた。
 ほんのちょっと、ほんのちょっとだけ――優しかった。
「墓場まで、持って行くことにしますわい。ご主人様?」
 ジョセフの笑みは、今までと変わらず。どうしようもないくらい、優しかった。
「さっ、つい道草食べちゃったわ! 早く行かないと店が閉まっちゃうじゃないボケ犬!」
 ピンクの髪を勢い良く風になびかせ。木に繋いでいた馬へ歩いていき……ジョセフはその後姿を、微笑ましげに見つめて、その後ろを歩いていった。


To Be Contined →

84ゼロと奇妙な隠者:2007/06/26(火) 05:32:12 ID:???
「い……今起こったことをありのまま話すぜ!
 やっと俺の出番かと思ったら、作者大好きなこっぱずかしい展開で一話分終わってた。
 オリジナルとか妄想炸裂とかそんなチャチなモンじゃねえ、もっとアイタタな何かの片鱗を味わったぜ……はいはいおでれーたおでれーた」

「うるせえぞデル公! ちったあそのへらず口を閉じてやがれ!」

To Be Contined?

85奇妙なルイズ:2007/06/26(火) 11:31:03 ID:???
ルイズ達が目指しているのは、港町ラ・ロシェール。
トリステインから馬を走らせれば二日、空に浮かぶ大陸『アルビオン』への玄関口として知られている。
港町とは言っても海に面しているわけではない、いや、空を海に例えれば間違いではないが。

そのラ・ロシェールの酒場で、アルビオンへ行こうとする傭兵達が集まり、前祝いをしていた。
「アルビオンの王さまはもう終わりだね!」
「ガハハ!『共和制』ってヤツの始まりなのか!」
「では、『共和制』に乾杯!」
そう言って乾杯しあう傭兵達、彼らは元はアルビオンの王党派についていた傭兵達だが、王党派よりも良い待遇で貴族派が雇ってくれると知って、王党派を裏切った。
彼らは王党派を離脱すると、貴族派に付いて各地の傭兵達を集めた、この酒場に残っている傭兵達は、言わば連絡役なのだ。
ひとしきり乾杯が済んだとき、酒場に仮面を付けた男が現れた。
男は傭兵達に近づき、料理の並ぶテーブルの上に重そうな袋を置く、すると重みで口が開き、金貨が顔を見せた。
「働いて貰うぞ」
傭兵達はその男を不審に思ったが、袋に書かれているマークがアルビオン貴族派のものだったので、にやりと笑って頷いた。
 

一方、魔法学院を出発したルイズ達は、ワルドの乗るグリフォンの早さに驚いていた。
ロングビルとギーシュの乗る馬は、途中で二回も交換した、しかしワルドのグリフォンは疲れを見せずに走り続ける。
長時間馬を駆るのは乗り手にとっても大きな負担だが、ワルドとグリフォンはまったく疲れた様子を見せない。
「ちょっと、ペースが速くない?」
ワルドの前に跨ったルイズが言った。
ルイズはワルドと雑談を交わすうちに、学院で見せるようなくだけた口調に変わっていった、ワルドがそれを望んだためでもある。
「ギーシュもミス・ロングビルも、へばってるわ」
ワルドが後ろを向くと、ギーシュはまるで倒れるような格好でへばっている、ロングビルは明らかに表情に疲れが出ている
「ラ・ロシェールの港町まで、止まらずに行きたいんだが……」
「普通は馬で二日かかる距離なのよ、無理があるわ」
「へばったら、置いていけばいい」
「そういうわけにはいかないわ」
「ほう、どうしてだい?」
ルイズは、困ったように言った。
「だって、仲間じゃない。それに……」
何かを思い出そうとして、結局そこで口をつぐんだ。

86奇妙なルイズ:2007/06/26(火) 11:31:57 ID:???
ルイズの頭に、古い宮殿での記憶が引き出される。
ある目的を持って二手に分かれたが、それが二人を見た最後だった。
三人いるはずの別チームが、再会したときは一人に減っていた。
炎の使い手と、砂の使い手、その二人を助けられなかったことをずっと悔やんでいる。
その記憶に引きずられたルイズもまた、仲間と離れるのは怖いのだ。

「やけにあの二人の肩を持つね。もしかして、彼はきみの恋人かい?」
「あ、あれが…? 冗談じゃないわよ」
ルイズは苦虫をかみつぶしたような顔をした。
「ならよかった。婚約者に恋人がいるなんて聞いたら、ショックで死んでしまうからね」
「お、親が決めたことじゃない」
「おや?ルイズ!僕の小さなルイズ!きみは僕のことが嫌いになったのかい?」
過去の記憶と同じおどけた口調で、ワルドが言った。
「何よ、もう、私、小さくないもの。失礼ね」
ルイズは頬が熱くなるのを誤魔化すように、頬を膨らませた。

グリフォンの上でワルドに抱きかかえられながら、ルイズは先日見た夢を思い出していた。
生まれ故郷の、ラ・ヴァリエールの屋敷で、困っているときは、いつもワルドが迎えにきてくれた。
だが、そこに現れる白金の光、光は徐々に人型をして、屈強な戦士を思わせる姿に変わる。
薄いブルーの色をしたその戦士に抱きかかえられ、ワルドと対峙するルイズ。
その夢が何を意味するのか、今のルイズには分からなかった。

途中、何度か馬を替えたので、ルイズ達はその日の夜中にラ・ロシェール付近にまでたどり着くことができた。
町の灯りが見えたので、ギーシュとロングビルは安堵のため息をついた。
「待って!」
不意にルイズがワルドを制止した。
「どうしたんだい?」
「誰かいるわ…2……3人…」
そのとき、不意にルイズ達めがけて、崖の上から松明が投げこまれ一行を照らした。

87奇妙なルイズ:2007/06/26(火) 11:32:55 ID:???
「な、なんだ!」
「馬から下りなさい!」
慌てて怒鳴ったギーシュに、ロングビルは指示を飛ばす。
突然の事に驚いた馬が前足を上げたので、ギーシュは馬から落ちてしまう、そこに何本かの矢が飛んできた。
もの矢が夜風を裂いて飛んでくる。
「奇襲だ!」
「伏せなさい!」
ギーシュがわめくと同時に、ロングビルは地面を練金して泥の壁を作った、スカッと軽い音を立てて矢が突き刺さる。
ワルドは風の魔法を唱えて身の回りにつむじ風を起こし、矢を防いてでいたが、攻撃に転じようとしたときに別方向から一陣の風が吹いた。
同時に、ばっさばっさと羽音が聞こえた、その音に聞き覚えのあったルイズが崖の上に目をこらすと、六人ほどの男達が風の魔法に巻かれて崖から転がり落ちてきた。
「ほう」
感心したようにワルドが呟くと、がけの上から落ちた男達は地面に体を打ち付けてうめき声を上げた。
そして空には見慣れた幻獣…タバサの乗るシルフィードが姿を見せていた。

「シルフィード!」
ルイズが驚いて声を上げると、シルフィードは地面に降り、その上からキュルケが地面に飛び降り髪をかきあげた。
「お待たせ」
ルイズもグリフォンから飛び降りキュルケに怒鳴る。
「お待たせじゃないわよ! 何しにきたのよあんたたち!」
「あーら、助けにきてあげたんじゃないの。朝がた、あんたとギーシュが馬に乗って出かけようとしてるもんだから、急いでタバサを叩き起こして後をつけたのよ」
キュルケはシルフィードの上に乗ったままのタバサを指差した。
寝込みを叩き起こされたとは言え、パジャマ姿は何か面妖だ。
「キュルケ、あのねえ、これはお忍びなのよ?」
「お忍び? …まさかギーシュと駆け落ち?」
ルイズは笑顔になりながら杖を抜いた、その仕草にキュルケが冷や汗を流す、やばい、怒ってる。
こんな場所で爆発を起こされてはたまったものではない、これにはキュルケも謝った。
「ま、まあ冗談よ!勘違いしないで。あなたを助けにきたわけじゃないの」
キュルケはグリフォンに跨ったままのワルドににじり寄り、しなを作った。
「おひげが素敵なお方ね、あなた情熱はご存知?」

88奇妙なルイズ:2007/06/26(火) 11:33:41 ID:???
ワルドは、側に寄ろうとするキュルケを手で押しやる。
「あらん?」
「助けは嬉しいが、婚約者に誤解を受けると困るのでね、これ以上近づかないでくれたまえ」
そう言ってルイズを見つめる。
「こ、婚約者?…ふーん、ルイズにねぇ…」
キュルケはルイズを冷やかしてやろうかと考えたが、気が乗らない。
ルイズに微妙な戸惑いがある、と感じたからだ。
しばらくしてから、男達を練金の手かせで拘束し、尋問していたロングビルとギーシュが戻ってきた。

「子爵、あいつらは物取りだと言っていましたが」
「ふむ……、なら捨て置こう」
ギーシュの報告を受けて 先を急ごうとグリフォンに跨るワルドをルイズが制止する。
「ルイズ、どうしたんだ?」
「あいつら、グリフォンに乗ったワルドを見ていたはずだわ。それなのにたった三人で襲ってくるなんて…ねえ、キュルケ、上空から見ても三人だった?」
「あたしが見た限りじゃ三人よ、ね、タバサ」
タバサは無言で頷く。
「何か気になることでも?」
ロングビルの質問に、メイジ4人をたった3人で襲う野党がいるだろうか?と、ルイズが答える。
「貴族派に嗅ぎつかれているのかもしれんな…どちらにせよ、ラ・ロシェールに一泊するしか無い、朝一番の便でアルビオンに渡ろう」
ワルドは一行にそう告げた。
ルイズは腑に落ちないものを感じながらワルドに手を引かれ、グリフォンに跨った。
キュルケはシルフィードの上に乗り、本を読んでいたタバサの頬を突っつく、出発の合図らしい。

目の前の峡谷には、ラ・ロシェールの街の灯が怪しく輝いていた。

そしてルイズの中にいる『誰か』が、ワルドに対する警戒心を強めていた。

89奇妙なルイズ:2007/06/26(火) 11:34:56 ID:???
どなたか投下をお願い致します。
携帯まで繋がらなくなってしまった…

90ヤバイ『兄貴』がIN:2007/06/27(水) 02:38:14 ID:???
ニューカッスル城礼拝堂。始祖ブリミルの像が置かれている場所に皇太子の礼服に身を包んだウェールズが佇んでいた。
周りは戦の準備や脱出者の手伝いなどで忙しいため他には誰も居ない。
ウェールズもこの式が終わり次第すぐにでも戦の準備に駆けつける予定だ。
そこに扉が開き。ルイズとワルドが現れた。ルイズの方は昨日プロシュートから式があると聞かされていたものの、まだ戸惑っている。

もっとも、昨日言われた『なら、気絶させてでも連れ帰るか?オメーにそれをやるだけの覚悟があんのならやってやってもいい』
これを本気で考えていたため、結婚の事など頭から消し飛んでいたのだが。
確かに気絶させるなりすればウェールズをトリステインに連れ帰る事はできる。
…だが、問題はその後だ。『自分一人無様に生き残ったと思い命を絶つ』
そうなった場合、下手をすればアンリエッタまでもがその後を追いかねない。
もちろん、自殺するとは限らないが『覚悟』という言葉が重くのしかかっていた。
死を覚悟した王子を止める『覚悟』ができない自分に対して自暴自棄な気になり落ち込ませていた。

ワルドはそんなルイズに「今から結婚式をするんだ」と告げアルビオン王家から借り受けた新婦の冠をルイズの頭に載せ
続いて、何時も着けている黒のマントを外し同じく借り受けた純白のマントをまとわせる。
ワルドによって着飾られても、思考の渦に埋まっているルイズは無反応でワルドはそれを肯定の意思と受け取った。
だが、一つある事に気付いたルイズがワルドに問う。
「………プロシュートは?」
「彼なら今頃イーグル号に乗ってるところさ」
それを聞いた瞬間ルイズの心にさらに影が差す。
あれだけ『今のオレの任務はオメーの護衛だ』と言っていたプロシュートが自分を置いて先にトリステインに帰る。
(何時までたっても『覚悟』ができない自分に対して呆れ見捨てられたんだ……)
そう思いさらに自暴自棄な気持ちが心を支配した。

91ヤバイ『兄貴』がIN:2007/06/27(水) 02:38:48 ID:???
「では、式を始める
  新郎、子爵ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド。汝は始祖ブリミルの名においてこの者を敬い、愛し、そして妻とすることを誓いますか」
ワルドは重々しく頷いて、杖を握った左手を胸の前に置いた。
「誓います」
ウェールズは頷き、今度はルイズに視線を移すが当のルイズはハイウェイ・トゥ・ヘルが発現してもおかしくない状態だ。
そんな、状態でウェールズやワルドの声がマトモに聞こえるはずはなかった。
「新婦、ラ・ヴァリエール公爵三女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール……」
朗々と誓いの詔をウェールズが読み上げる段階になってようやく結婚式をやっているという事に気付いた。
相手は、幼い頃からこの時をぼんやりと想像し憧れていた頼もしいワルド。 その想像が今、現実のものとなろうとしている。
ワルドのことは嫌いじゃない。おそらく、好いてもいるだろう。
でも、それならばどうして、こんなに心に迷いがあるのだろう。
そう思い、宿屋でワルドに結婚を申し込まれた事をプロシュートに相談した事を思い出した。
どうして自分は、プロシュートにそれを相談したのだろうかと思う。
(自分で決められずに他人に決めて欲しかったからだ)
なぜ決められなかったか。その答えはスデに自分が知っている。
(肝心な時に『覚悟』ができていなかったからだ)
プロシュートがよく言っている言葉を借りれば自分は『マンモーニ』だという事だ。
そして、その覚悟の意味を知っているであろうプロシュートは自分から離れていった。



「兄貴ィィィ起きてくれよォーーー」
壁に打ち付けられ体中に傷を作り血に塗れたプロシュートのが辛うじて握っていたデルフリンガーが己の主の名…もとい敬称を呼ぶが返事は無い。
「『ガンダールヴ』の事を思い出せそうなのに兄貴が死んだら意味がねぇだろうがよォーーー」
だが、それに答えるべき主は沈黙したままだった。

92ヤバイ『兄貴』がIN:2007/06/27(水) 02:39:26 ID:???
………
………………
………………………………
気が付くとさっきまでとは別の場所を歩いていた。
見覚えが無い場所ではない。いや…見覚えが無いどころかよく知っている場所
一定のリズムで規則正しく流れる音。自分が召喚される前居た『ヴェネツィア超特急』の中だ。
無意識の内に車両を進むと、一人の男が釣竿を持ってそこに居た。列車に釣竿、ミスマッチもいいとこな組み合わせだがそいつの事はよく知っている。
「ペッシかッ!」
しかし、ペッシはそれに答えずに何かを叫んでいる。
「まさかッ!この糸から墜落した一人分の『体重』っていうのはッ!うっ嘘だッ!
  う…嘘だ!嘘だッ!あ…兄貴がッ!ま…まさかッ!オ…オレのプロシュート兄貴がッ!う…嘘だ!」
ペッシが床に蹲りパニクって泣き始める
「どうしよう〜どうしよう〜あ…兄貴がう…嘘だ!!オ…オレどうすれば……?
  う…ううう…うう〜〜〜そんなぁああああ…亀の中のヤツらも、でっ出てくる!ど…どうしよう〜オ…オレ」
『マンモーニ』、その言葉に相応しいうろたえ様だ。当然そんな弟分にする事はただ一つ。
「オレがさっき言った事がまだ分かんねーのかッ!?ママっ子野郎のペッシ!!」
その言葉と同時にペッシの顔面に思いっきり蹴りをブチ込む。それを受けたペッシは吹っ飛びいつもの説教に突入するはずだった。
だが、それは虚空を蹴る。
「なん…だと…!?」
もう一度同じようにして蹴り上げる。だが同じだ。
さっきと同じように空を蹴るだけだ。いや、ペッシには当たっている。当たっているが、何事もなかったかのように『通り抜けて』いる。
「も…もうダメだあああああ」
「なんだパニクってらあ〜〜〜こいつマンモーニだな〜ちェッ!」
誰かにまでマンモーニと言われるペッシだがその声の主は老化が解けた乗客だった。
そこでプロシュートが理解をする。自分が居なくなった事により老化が解除された列車だという事を。

93ヤバイ『兄貴』がIN:2007/06/27(水) 02:40:06 ID:???
そこで全ての光景が途絶え闇になり自分がどこで、何をしていたかを思い出す。
「あの野郎にやられてくたばってるってわけか…」
こうして、考えることができるという事は恐らくまだ生きてるのだろうとそう検討を付ける。
断崖に置かれた樽と同じ状況だ。少しでも押せば谷底に、引き戻せば手元に戻る。
そして、出した結論は一つだった。
「ったく…情けねーなぁおい?何が『腑抜け野郎』だ?誰が『マンモーニ』だ?
   オレがここで覚悟見せねーと…この先オレがペッシにマンモーニって言われちまうじゃあねーか!!」
その言葉と同時にどこからか
「兄貴ィィィィィィィイイイイイイイ」
と聞こえたような気がし意識が光に包まれた。

「兄貴ィーーーー!」
「ペッ…いやオメーか」
デルフリンガーを杖代わりにして立ち上がる。
状態は最悪に近い。左脚にヒビが入り、全身打撲。おまけに頭も打っていてまだ視界がボヤけている。
「チッ…左目が妙だな…」
「そりゃああれだけ、やられればな」
デルフリンガーは頭を打ったせいだと言うが、それが右目と左目で微妙に違っている。だが、まだその違いに気付けないでいた。

「新婦?」
妙な様子に気付いたウェールズがルイズを見ている。思考の渦からそれに気付いたルイズは慌てて顔を上げた。
「緊張しているのかい?初めての時は事がなんであれ緊張するものだからね」
緊張…などではない。自分は一人では何も決められない『マンモーニ』だ。
だからこそ、今ワルド…いや誰かと結婚する事などできない。

94ヤバイ『兄貴』がIN:2007/06/27(水) 02:40:45 ID:???
そう思い、深く深呼吸をし生涯初めての『真の覚悟』を決めウェールズの言葉の途中首を横に振った。
「新婦?」
「ルイズ?」
二人が怪訝な顔でルイズの顔を覗き込んむ。ルイズはワルドに向き直り、悲しくも何かを決意した顔で再び首を振る。
「どうしたね、ルイズ。気分でも悪いのかい?」
ワルドがルイズの目を見るが、その視線は反らさない。
「日が悪いなら、改めて……」
「そうじゃない、そうじゃないの。ワルド、わたし、あなたとは結婚できない」
声そのものは小さいが、その言葉には確かに『決意』と『覚悟』が込められていた。
その言葉にウェールズが首を捻る。
「新婦は、この結婚を望まぬのか?」
「そのとおりでございます。お二人には大変失礼を致すことになりますが…わたくしはこの結婚を望みません!」
その瞬間、ワルドの顔に朱が差し、ウェールズは残念そうにワルドに告げた。
「子爵。誠にお気の毒だが、花嫁が望まぬ式をこれ以上続ける訳にはいかぬ」
だが、ワルドはウェールズを無視しルイズに詰め寄りその手を取る。
「……緊張しているんだ。そうだろルイズ。君が、僕との結婚を拒む訳がないッ!」
「ごめんなさいワルド。確かに憧れてた、恋もしてたかもしれない。でも…わたし自身がまだ結婚なんてできる段階じゃない」
ワルドがルイズの両肩を掴み熱っぽい口調で語りだし、目が爬虫類を思わせるような冷たい目に変わった。
「世界だルイズ。僕は世界を手に入れる! そのために君が必要なんだ!」
人格が入れ替わった…そう思えるほどに豹変したワルドに脅えながら何とか首を振る。
「僕には君が必要なんだ! 君の『能力』が! 君の『力』がッ!」
プロシュートが怒っている所を見て怖いと思うことはあったが恐ろしいと思うことは無かった。
あいつが人に対して本気で怒る時は必ず相手に何らかの原因があったからだ。
だけど、このワルドは違う…!
「ルイズ!宿屋で話した事を忘れたか!君は始祖ブリミルに劣らぬ優秀なメイジに成長するだろう!君がまだ自分で気付いていないだけだ!その才能に!」
この感情は…恐怖そのものだ。目の前のワルドはルイズが知っているワルドではない。
それだけに、今のワルドが無性に恐ろしかった。

95ヤバイ『兄貴』がIN:2007/06/27(水) 02:41:19 ID:???
「子爵…君はフラれたのだ。ここはいさぎよく……」
「黙っていろッ!!」
そう叫ぶと再びルイズの手をヘビが獲物に絡みつくがの如く両の手で握る。
「君の才能が僕には必要なんだ!」
「わたしは『ゼロ』よ!そんな才能のあるメイジなんかじゃあないわ」
「何度も言っている!自分で気付いていないだけだ!」
「あなたが愛しているのは、あなたがわたしにあるという在りもしない魔法の才能だけ…
   そんな理由で結婚しようだなんてこんな侮辱はないわ!そんな結婚…たとえ死んでも嫌よ」
ルイズがワルドの手を振りほどこうと暴れるが離れない、尋常ならざる力で握られていた。
見かねたウェールズがワルドの肩に手を置き、二人を引き離そうとするが突き飛ばされる。
ウェールズが立ち上がると同時に杖を引き抜く。
「なんたる無礼!なんたる侮辱!子爵、今すぐラ・ヴァリエール嬢から手を離したまえ!さもなくば我が魔法の刃が君を切り裂くぞ!」
その段階になってようやくルイズから手を離すが、その顔はどこまでも優しい、『偽善』で固められた顔だった。
「こうまで僕が言ってもダメかい? ルイズ。僕のルイズ」
「嫌よ…誰があなたと結婚なんかするもんですか…!」
「ふぅ…この旅で君の気持ちを掴むため随分と努力をしたんだが…仕方あるまい。目的の一つは諦めよう。」
「目…的…?」
頭に『理解不能!理解不能!理解不能!理解不能!』という幻聴が聞こえる。
「まず一つは君だ。ルイズ、君を手に入れる事。しかし、これは果たせないようだ」
「…当然よ!」
「二つ目は…君が受け取ったアンリエッタの手紙」
「ワルド、あなた……」
「そして三つ目…」
アンリエッタの手紙という言葉で全てを理解し杖をワルドに向け詠唱を始めるが
それよりも、ワルドの方が閃光の如く杖を引き抜きウェールズの心臓を青白く光る杖で的確に貫いた。

96ヤバイ『兄貴』がIN:2007/06/27(水) 02:42:04 ID:???
「き…貴様…『レコン…キスタ』…」
ウェールズの口から血が溢れる。誰がどう見ても致命傷だった。
「三つ目…貴様の命だ」
「貴族派…!アルビオンの貴族派だったのねワルド!」
「Exactly。いかにも僕はアルビオンの貴族派『レコン・キスタ』の一員さ」
「トリステインの貴族のあたながどうして!」
「答える必要は無いな…これから君はウェールズや…プロシュートだったか?彼らの下に逝くのだから」
その言葉にプロシュートの名が入っている事に衝撃を受ける。
ウェールズと同時に言われたという事はスデにプロシュートもワルドに殺されたという事だ…!
杖を握ろうとしたがそれをあえなくワルドに弾き飛ばされる。
「助けて…」
蒼白になり後ずさる。立って逃げようとしても腰が抜けて立てないでいるが、その様子をみてワルドが首を振り『ウィンド・ブレイク』で吹き飛ばす。
「もう遅い…だから共に世界を手に入れようと言ったではないか…鳴かぬなら殺してしまえと言うだろう?なぁ…ルイズ…」
壁に叩き付けられ床に転がる。呻き声をあげ泣き、もうこの世にいないであろう使い魔に助けを求めた。
「助けて……お願い……」
そう繰り返し助けを求めるが、ワルドは愉しそうに呪文を唱え始めたが扉の外から足音と声が聞こえてきた。
「『殺す』…そんな言葉は使う必要はねーんだ…」
声と足音が大きくなる。そしてその声はルイズにとって聞きなれたものだ。
「なぜならオレやオレ達の仲間が…その言葉を頭の中に思い浮かべた時には…」
次の瞬間ドアがブチ破られ、ドアの破片が飛びそれをワルドが回避する。
「実際に相手を殺っちまってもうスデに終わっちまってるからだ…!」
慌てるわけでもなく、怒りをもっているわけでもなく、いつもの調子で危険極まりない言葉を吐き出し歩くのは全身傷だらけになったプロシュートだ。
「…貴様!」
「プロシュート…!」

97ヤバイ『兄貴』がIN:2007/06/27(水) 02:44:26 ID:???
二人が驚愕の目で傷だらけのプロシュートを見るが、ワルドの目は怒りを含み、ルイズの目は動揺を含んでいる。
「オレが昔やった事と同じ事をしたようだから忠告…しといてやる……敵の頭に銃弾をブチ込んだとしても…生死の確認ぐらいしておくんだったな…」
列車内でミスタに直触りを仕掛け、拳銃を奪い頭に3発の銃弾をブチ込み死んだものと思い亀に向かったが
どういうわけか脳天に弾をブチ込んだはずの『ミスタのスタンド』が『氷』を持って『ブチャラティ』の所に居た。
生死さえキッチリ確認していれば今頃は、ブチャラティ達は全滅しボスの娘を奪っているはずだったのだ。
「…ったく、どっちの世界もマンモーニだな…!なに泣いてやがる」
ギャングであるペッシとそうでないルイズを比べるのもどうかと思うがまぁ似たようなものとして扱っているプロシュートには関係無い。
「生きてるなら…早く来なさいよ…!」
そう叫ぶが顔の方は泣き顔のそれだ。
「さっきのお前の魔法…本当にオシマイかと思ったよ…ワルド…今までお前の事『老け顔のヒゲ』だなんて思っていたが
   撤回するよ…無礼な事だったな…お前は信頼を裏切れる男だ…『婚約者の信頼』を含めてな…いやマジにおそれいったよ」
淡々とした口調だがその言葉にははっきりとした意思がある。そのままゆっくりとワルドに近付くが『ウィンド・ブレイク』が飛び吹き飛ばされ壁に激突する。
だが、それでも何事も無かったかのように立ち上がり再びワルドに近付く。
「オメーは『ゲス野郎』なんだよワルド…裏切ったんだ…組織のようにな…!分かるか?え?オレの言ってる事…」
「信じるのはそちらの勝手だ。勝手に信じたものを利用して何が悪い?」
また『ウィンド・ブレイク』が飛びまた吹き飛ばされそうになるが、今度はデルフリンガーを床に打ち込みスタンドパワー全開で支え飛ばされないようにする。
「どうした『ガンダールヴ』!動きが鈍いぞ?今にも死にそうではないか。攻撃しないと僕を倒せないぞ?せいぜい僕を楽しませてくれるんだな」
だが、その言葉にも動じずその目はワルドのみを見据え歩みを進める。その歩みには一片に迷いなど無い。
「…分かったよ兄貴!兄貴がいつも言っている『覚悟』ってのが俺にも言葉でなく『心』で理解できたッ!!」
三度『ウィンド・ブレイク』が飛ぶがデルフリンガーが自分を前に突き出すように叫びそれに応じるかのように手を前に突き出す。
「無駄よ!無駄無駄ァァアアア!剣などでは風は受けることはできん!」
風がプロシュートを飛ばそうとした時デルフリンガーの刀身が光だし風を全て吸い込んだ。
「魔法を吸い込むと思ったなら兄貴…!スデに行動は終わっているんだな…!」
「そんな事ができるなら最初からやりやがれ…!」

98ヤバイ『兄貴』がIN:2007/06/27(水) 02:45:08 ID:???
「六千年前も昔に『ガンダールヴ』に握られて以来だからてんで忘れてたんだよ
  でも、これからは任せてくれていいぜ兄貴ィ!ちゃちは魔法は俺が全部『吸い込んだ』からよ!」
「…なるほど。私の『ライトニング・クラウド』を受けて生きているのはおかしいと思っていたが…
   その剣のおかげか。それならばこちらも本気を出そう。何故風が最強と呼ばれるのか、その由縁を教育してやる」
プロシュートとルイズはそれを見据えたまま動かないでいる。前者はあえて動かないでいるが、後者は動けないでいる。
「ユビキタス・デル・ウィンデ……」
そうしてワルドが分裂するが、今度は1体だけではなく4体…計5体のワルドがプロシュートと相対した。
「また同じか芸がねーな」
分身が懐から仮面を取り出し顔に付ける。
「『エア・ニードル』…杖自体が魔法の渦の中心だ。その剣で吸い込む事は不可能よッ!!」
それを見てプロシュートがルイズの方に向かい話し始める。ワルドx5は完全に余裕の態度でそれを見ている。
「なに…ボケっとして…やがる。正念場だぜ…ルイズよォーー!
フーケの時の覚悟見せやがれ…!オレが…突っ込むからよ…オメーは爆発を起こせ。自信を持て…いいなッ!」
「無茶よ!そんな…!それに、そんな怪我してるのに巻き添え受けたらどうするのよ…!」
それを聞かずに、ワルドの本体へと歩き出す。
後ろ取られないようにワルドへ向かう。
剣とグレイトフル・デッドで受け流すが、相手は五体。後ろを取られないようにしているとはいえ入れ替わるように分身と本体が攻撃を仕掛けてくる。
腕に一撃を受ける。だが止まらない。
脇腹を杖が掠め血が流れ出る。だが止まらない。
大腿部に『エア・ニードル』が突き刺さる。だがそれでも止まらない。止まろうとしない。
急所に受ける攻撃だけを受け流し、後は全て体で受け止めている。
傍から見れば一方的に攻撃を受けているだけに見えるが、ジリジリと後退しているのはワルドと分身の方だ。
「こ…こいつ!何故だ…?何故、貴様を使い魔として使役しているあの高慢なルイズのために命を捨てる!?」
「『恩には恩を…仇には仇を…』それがオレ達チームのリーダーの流儀だ…
  だから…オレもそれに従っている……オレの命を救ったという借りを返さねーってのは…オレがチームの流儀を裏切る…って事になるからな…!」

99ヤバイ『兄貴』がIN:2007/06/27(水) 02:45:50 ID:???
「兄貴!それだ!心を振るわせられればなんでもいい!『ガンダルーヴ』もそうやって力を溜めていた!」
それを聞いた瞬間ルイズに衝撃が走る。
プロシュートは自分の魔法を信頼してくれているからあんな無謀な行為をしてくれている。
ここで自分が何もしないという事はその信頼を裏切る…つまりワルドと同じ事をするという事だ…!
「まだ『覚悟』っていうのはよく分からない…けど!わたしを信頼してくれているのは『心』で理解できたわ!」
その声と共に杖を本体と分身に向け、詠唱の短いコモンマジックを連発する。

狙いはプロシュート以外の全ての物だ。
一発が分身に直撃し消し飛ばす。
それでも爆発は止まらない。残りは命中はしていないが爆風がワルドと分身を容赦なく襲う。当然突っ込んでいるプロシュートにもそれは襲いかかる。
「…くッ!邪魔だ!!」
3体の分身がルイズに襲い掛かる。だがそれでもルイズは魔法を止めようとはしない。最後まで自分の使い魔を信頼すると決めたからだ。
『エア・ニードル』がルイズを突き刺そうと飛び掛った瞬間…分身の動きが急激に鈍くなった。
「グレイト…フル・デッド…」
そう呟くように言う本体のワルドへと突き進む。
「こ…これは…!?貴様…まさか…私や貴族達を…道連れに死ぬ気か…!?」
「一瞬だ…一瞬老化させて掴めればそれでいい。爆風の熱で温まってる今なら…オメーだけよく老化するだろうよォーーーーーー!」
それだけ言うとワルドに突き進む。速い、満身創痍な状態とは思えない速さだ。
ワルドの左腕を右腕で掴むと老化を解除する。この程度の時間ならば城の連中に効果はあまり及んでいないはずだ。
「てめーにも…覚悟してもらうぜ…」
だが、そこに広域老化が解除され動きが元に戻った分身の杖が振り下ろされ…
空中に『腕が舞った』


←To be continued

100ヤバイ『兄貴』がIN:2007/06/27(水) 02:47:16 ID:???
ヤバイな…昼間携帯からルイズにペッシ化フラグ出すって言ったばかりなのに…
スマンありゃ嘘だった、でもまぁデル公が目立ったって事でよしとするってことでさ…こらえてくれ

101奇妙なルイズ:2007/06/27(水) 21:33:25 ID:???
ラ・ロシェールで一番上等な宿『女神の杵』
この宿に泊まったルイズ達は、一階の酒場で適当な料理をつまんでいた。
今後の予定などを話していたが、ロングビルはラ・ロシェールにとどまると聞いて、ギーシュが何故ここに止まるのかと質問した。
「私は、ミス・ヴァリエール、そしてワルド子爵が帰還されない場合の連絡役ですから」
ロングビルの答えに「なるほど」と頷いていると、そこにワルドが戻ってきた。
ワルドはアルビオンに向かう船を調達するために出かけていたのだ。
席に着いたワルドから、アルビオンにわたる船は明後日になると告げられる。
「あたしはアルビオンに行ったことがないからわかんないけど、何で明日は船が出ないの?」
キュルケのふとした疑問にワルドが答える。
「明日の夜は月が重なるだろう、『スヴェル』の月夜だ。アルビオンに行くには距離がある。その翌日の朝ならアルビオンがラ・ロシェールに近づくんだ」
キュルケは、タバサのシルフィードに乗せて貰えば良いと考えたが、シルフィードに無理をさせるのは少し気が引ける、おとなしくワルドの言葉に従うことにした。
ルイズも同じ事を考えていたが、本来ならお忍びの任務、タバサの力を借りるのはあまり良くないと思い、何も言わなかった。

ワルドが席を離れると、あらかじめ預かっていた鍵を机の上に置く。
「さて…そろそろ寝るとしようか。部屋は取ってある、ルイズと私は相部屋だ、後は…」
それを聞いたルイズは顔を真っ赤にする。
「そんな、ダメよ! ままままだ私たち結婚してる訳じゃないし、それに…」
「婚約者だからな、当然だろう?それに…大事な話があるんだ、二人きりで話をしたい」
そう言って、ワルドはルイズを連れて部屋へと入っていく。

後に残された四人はしばらく悩んだが、ギーシュは一人、他の三人は相部屋ということで落ち着いた。

ルイズとワルドが入った部屋は、この宿でもっとも上等な部屋であり、そのつくりは貴族の館の私室のようで、豪華な装飾の割には落ち着いた雰囲気のいい部屋だった。

102奇妙なルイズ:2007/06/27(水) 21:33:55 ID:???
ラ・ロシェールで一番上等な宿『女神の杵』
この宿に泊まったルイズ達は、一階の酒場で適当な料理をつまんでいた。
今後の予定などを話していたが、ロングビルはラ・ロシェールにとどまると聞いて、ギーシュが何故ここに止まるのかと質問した。
「私は、ミス・ヴァリエール、そしてワルド子爵が帰還されない場合の連絡役ですから」
ロングビルの答えに「なるほど」と頷いていると、そこにワルドが戻ってきた。
ワルドはアルビオンに向かう船を調達するために出かけていたのだ。
席に着いたワルドから、アルビオンにわたる船は明後日になると告げられる。
「あたしはアルビオンに行ったことがないからわかんないけど、何で明日は船が出ないの?」
キュルケのふとした疑問にワルドが答える。
「明日の夜は月が重なるだろう、『スヴェル』の月夜だ。アルビオンに行くには距離がある。その翌日の朝ならアルビオンがラ・ロシェールに近づくんだ」
キュルケは、タバサのシルフィードに乗せて貰えば良いと考えたが、シルフィードに無理をさせるのは少し気が引ける、おとなしくワルドの言葉に従うことにした。
ルイズも同じ事を考えていたが、本来ならお忍びの任務、タバサの力を借りるのはあまり良くないと思い、何も言わなかった。

ワルドが席を離れると、あらかじめ預かっていた鍵を机の上に置く。
「さて…そろそろ寝るとしようか。部屋は取ってある、ルイズと私は相部屋だ、後は…」
それを聞いたルイズは顔を真っ赤にする。
「そんな、ダメよ! ままままだ私たち結婚してる訳じゃないし、それに…」
「婚約者だからな、当然だろう?それに…大事な話があるんだ、二人きりで話をしたい」
そう言って、ワルドはルイズを連れて部屋へと入っていく。

後に残された四人はしばらく悩んだが、ギーシュは一人、他の三人は相部屋ということで落ち着いた。

ルイズとワルドが入った部屋は、この宿でもっとも上等な部屋であり、そのつくりは貴族の館の私室のようで、豪華な装飾の割には落ち着いた雰囲気のいい部屋だった。

103奇妙なルイズ:2007/06/27(水) 21:34:25 ID:???
「きみも腰掛けて、一杯やらないか? ルイズ」
ルイズは言われたままにテーブルに着くと、ワルドが注いだワインを二人で乾杯した、ルイズは恥ずかしさからか、少しうつむいていたが。
「姫殿下から預かった手紙は、きちんと持っているかい?」
ルイズはポケットの上から、アンリエッタの封書を押さえた。
どんな内容なのか具体的に入ってくれなかったが、恋文に似た思いで書いたのだと想像はつく。
ウェールズから返して欲しいという手紙の内容は、もしかしたら…そこまで考えて頭を振った、今はそんなことを考えても仕方がない。
そんなルイズを心配して、ワルドが語りかける。
「不安なのかい? 無事にアルビオンのウェールズ皇太子から、姫殿下の手紙を取り戻せるのかどうか」
「そうね。不安だわ…だけど……」
そこでルイズはハッと気づく、ワルドの後ろに見える、比較的大きな姿見の鏡に、あの青い色の幽霊が浮かんでいたのだ。
ワルドはルイズの視線に気づき、ふと後ろを見る、しかしそこには誰もいない。
鏡にも何も映っていなかった。
「ずいぶん心配しているのだね…大丈夫だよ。きっとうまくいく。なにせ、僕がついているんだから」
「そうね、あなたがいれば、きっと大丈夫よね」
ルイズは落ち着いたフリをして答えるが、内心は焦りがあった。
心の中で誰かが警鐘を鳴らしている、何かがおかしい、何かが引っかかる。

昔、吸血鬼が居た。
その吸血鬼のカリスマ性とも言うべき、人を『恐怖』させ『安心』させる姿。
あの雰囲気に共通する、何かがあるのだ。

いつの間にか、ワルドは遠くを見る目になって、ルイズに語り出した。
ワルドはルイズとの思い出を語り、そして、ルイズの魔法は4大魔法ではなく、別の魔法…すなわち虚無の魔法に最も近いのではないかと言った。
歴史書が好きだったワルドは、始祖ブリミルの魔法についても調べていた、火炎と油による爆発は、火と土の合成だが、単体で爆発を起こせる魔法は存在しないはずだとまで言った。
それが本当の事かどうか分からないが、ルドが自分を評価してくれているのは分かる。
しかし現実味を感じられない、どこか白ける気すらした。
そして…

104奇妙なルイズ:2007/06/27(水) 21:35:11 ID:???
「この任務が終わったら、僕と結婚しようルイズ」
「え……」
 いきなりのプロポーズに、ルイズははっとした顔になった。
先ほど現れた幽霊のことも忘れ、ルイズはワルドの話をじっと聞き続けた。


一方、キュルケ、タバサ、ギーシュの三人は、景気づけと称した一気飲みでロングビルに敗北していた。


翌日、ルイズ達4人は、ラ・ロシェールの町を見て回っていた、ロングビルは一応護衛なのでルイズと行動を共にしている。
ワルドは後学のためにと、ギーシュを連れて桟橋へ行ったが、実際の所ギーシュは体の良い小間使いだろう。

一通りラ・ロシェールを見て回った四人は、『女神の杵』の裏手にある練兵場に来ていた。
「昔はここで修練してたのねー」
キュルケが興味深そうに呟く。
歴史などには興味のなさそうな彼女だが、練兵場の壁は、高位のメイジが固定化をかけたと思われるほどの丈夫さがあった。
そしてその岸壁にも、いくつかの傷や焦げ跡がある。
集団戦と言うよりは、決闘の痕と言うべき傷が、キュルケの心を喜ばせた。
「この宿は昔、アルビオンからの侵攻に備えるための砦だったと聞いています」
ロングビルの言葉に、一同が感心する、言われてみれば宿の作りに不思議な点があったと思い出せるからだ。

そういえば…と、キュルケがロングビルを見る。
「ミス・ロングビルはラ・ロシェールに住んでたの?」
ロングビルはこの宿だけではなく、ラ・ロシェールの事に詳しかった。
事実、町を巡って何か分からないことや疑問があれば、ロングビルが説明してくれたのだ。

105奇妙なルイズ:2007/06/27(水) 21:36:40 ID:???
「いえ、私は…」
「アルビオン訛り」
ロングビルを差し置いてタバサが答えた、その答えでキュルケとルイズが納得する。
アルビオンの貴族ならば、大陸に来る時にこの町を必ず通る、しかし納得したところで別の疑問が出てきた。
なぜルイズと共にアルビオンに同行しないのか?
故郷ならば、地理にも情勢にも詳しいのだろうが、それなのにアルビオンには同行しないと言う。
その答えは三人にとって驚きのものだった、ロングビルはアルビオンの貴族ではなく、アルビオンの貴族だった者、なのだ。
貴族としての立場を剥奪されたメイジ、ある意味、王党派を恨んでいてもおかしくない人物がルイズの護衛をしていることに、三人は大いに驚いた。
「ミス・ロングビル、なんでルイズの護衛なんて引き受けたのかしら?」
キュルケは不信感を隠そうともしない態度で質問する。
「…私は、戦争を防ぐために手伝って欲しいとしか、オールド・オスマンから承っていませんわ、王党派への恨みがないと言えば嘘になりますが、戦争が始まって孤児が増えるのは…もう、見たくはありません」

ロングビルはルイズを見た、ルイズは何か考えるように、うつむいている。
「私からも一つだけ質問させて頂きます、ミス・ヴァリエール…貴方はなぜモット伯の元へ、シエスタを助けに行こうとしたのですか?」
キュルケとタバサもルイズを見た、この二人にしても疑問に思っていたからだ。
「貴族が、一人の平民を贔屓するのは、決して良いことだとは思えません。モット伯は教育と称して少女を嬲り、売買もしていたと判明しましたが…そうでなかったら、どうするおつもりでしたか?」

その質問は、あらかじめ答えが用意されていた。
いや、ルイズ自身が自問自答していたのだ、これは誰からの受け売りでもない、ルイズ自身の答えだった。

「一度でも友人と呼んだ者を見捨てるのが貴族といえるのかしら」
ルイズは、真剣な目でロングビルを見た。
ロングビルは、その視線に思い出す者があった。
そもそもロングビルの一家が貴族の立場を剥奪されたのは、父親がアルビオンの王家に逆らったからだ。
しかし、父は決して後悔などしていない。
王家よりも、自分よりも、何よりも大事な『理念』を守ろうとした父、その視線とうり二つに見えたのだ。

106奇妙なルイズ:2007/06/27(水) 21:38:18 ID:???
以前のルイズならば、同じ答えを言ったとしても、そこには説得力が無かっただろう。
しかし今のルイズに見える『威厳』と、目の奥に見える『悲しみ』があった。

「貴方は、精神的にも貴族なのね…」
ロングビルの呟きに、ルイズは少しだけ頬を染めた。

「照れてる」
「う、うるさい!」
タバサの言葉に、いっそう顔を真っ赤にしてルイズが怒鳴る。
「ちょっとあんた何格好いいこと言ってるのよ!ゼロのルイズのキャラじゃないわよ!」
「ゼロって言ったわねこの色ぼけ女!」
キュルケのちょっかいで、普段の騒がしさを取り戻した三人。

その三人を見ながら、ロングビルは何かを決心していた。

キュルケと喧嘩しつつも、ルイズの頭の中にはある記憶が浮かんでいた。
シエスタを助けるため、モット伯へと立ち向かう決心を与えた、ある人物の記憶だった。

『なぜ おまえは自分の命の危険を冒してまで わたしを助けた…?』
『さあな…そこんとこだが おれにもようわからん』

なぜ命がけでシエスタを助けに行ったのか、よく分からない。
アンリエッタからのお願いを、命の危険があると知りながら引き受けたのも、よく分からない。

でも、よく分からないままでも、いいじゃないか…。

107奇妙なルイズ:2007/06/27(水) 21:41:30 ID:???
避難したッ!
前回代理で書き込んでくれた人、ありがとう。
今回も手が空いている人がいたらお願いします。

108名無しさん:2007/06/27(水) 22:15:08 ID:???
>>107
本スレ投下終わったら言ってくる。

109奇妙なルイズ:2007/06/28(木) 23:01:10 ID:???
夕方になり、ワルドとギーシュが女神の杵に戻ってきた。
ギーシュは、あっちを見てこいこっちを見てこい等と、一日中こき使われたらしい。
「魔法衛士隊は、ばけものだ…」
酒場のテーブルでへばっていたギーシュが、そう呟いた。
「馬鹿ねえ、朝は『魔法衛士隊隊長のお供が出来るなんて幸せだ!』とか言ってたクセに」
「ううう…」
キュルケに言われても何の反論も出来ない、それを見たタバサは相変わらずパジャマ姿のまま読書していた。

しばらくしてから、ワルド、ロングビル、ルイズも酒場へ集まり、明日の予定が話し合われた。
今日ギーシュとワルドが交渉したおかげで、朝一番に出航する輸送船でアルビオンに行けることになった。
明日は朝が早いので、遅れたら置いていくと語るワルドに、ギーシュは今日何度目か分からない冷や汗を流した。

そろそろ部屋に戻ろうと、ワルドが立ち上がった時に、酒場の外からガヤガヤと声が聞こえてきた。
ラ・ロシェールの町は宿場町でもあるので、夜中でも人通りはある、しかし何か雰囲気がおかしい。
ワルドに続き、キュルケとタバサもそれに気づいた。

次の瞬間、扉が吹き飛ばされ、軽装鎧を着込んだ男がルイズ達に弓矢を向けた。

突然の事に驚いたのはルイズ達だけではない、この酒場には他の客もいるのだ。
慌てて逃げようとした客達は、弓矢におびえてカウンターの下に隠れている。
ラ・ロシェール中の傭兵が集まっているのではないかと思えるほどの傭兵を前にしては、キュルケ達でも分が悪かった。

テーブルを盾にして矢をしのぎ、魔法で応戦していたが、どうにも勝手が悪い。
傭兵たちは魔法の有効な範囲になかなか入ってこない。
メイジとの戦いに慣れているのか、キュルケ達が応戦しているうちに射程を見極められているようだった。
他の客たちはカウンターの下で震えているのが見える。

110奇妙なルイズ:2007/06/28(木) 23:01:43 ID:???
「参ったわね…」
ロングビルの言葉に皆がうなずく。
「いいか諸君、このような任務は、半数が目的地にたどり着ければ成功とされる」
非常事態にもかかわらず本を読んでいたタバサは、ワルドの言葉を聞いて本を閉じた。
そして、ワルドとルイズとロングビルを指さした。
「桟橋」
そしてキュルケと自分とギーシュを指さし
「囮」
と呟く。
ワルドがタバサにタイミングを尋ねると、タバサは今すぐと答えた。
「聞いてのとおりだ。裏口に回る、行くぞ!」
ルイズははキュルケ達を見ると、キュルケはご自慢の赤髪をかきあげ、つまらなそうに唇を尖らせていた。
「危なくなったら逃げなさいよ!」
「何言ってんのよ、もう十分危ない目に遭ってるじゃない」
ルイズがキュルケを心配するが、キュルケは余裕の表情を崩さない。
タバサがルイズを見つめた。
「行って」
ギーシュも薔薇の形をした杖を手に持ちつつ、ルイズを見た。
「こ、これも姫様のため、そして友人のためさ!」
緊張か恐怖のあまり、微妙にろれつが回っていなかったが、そんな虚勢がルイズの心を解きほぐした。
「ねえ、ルイズ。勘違いしないでね?あんたのために囮になるんじゃないんだからね」
「わ、わかってるわよ、か帰ってきたら決着を付けるんだからね!」
ルイズはそう言ってから、キュルケたちにぺこりと頭を下げた。
そんなちぐはぐな態度がおかしくて、震えていたギーシュにも少し余裕が戻る。

ロングビは転がっていた椅子をバリケード状の金属板に練金し、ワルドとルイズを連れて裏口へ急いだ。
通用口から出る頃には、酒場から爆発音が聞こえてきた、陽動が始まったのだろう。
「……始まったみたいね」
先行するワルド、しんがりのロングビルに挟まれて、ルイズが言った。

111奇妙なルイズ:2007/06/28(木) 23:02:19 ID:???
裏口の方へルイズ達が向かったのを確かめると、キュルケはギーシュに厨房の油をもってくるように命令した。
「じゃあおっぱじめますわよ。ねえギーシュ、厨房に油の入った鍋があるでしょ」
「揚げ物の鍋のことかい?」
「そうよ。それをあなたのゴーレムで取ってきてちょうだい」
「お安い御用だ」
ギーシュはテーブルの陰で杖を振りワルキューレを出す。
ワルキューレは矢を体にめり込ませながら厨房に走り、油の入った鍋を運び出した。
「ギーシュ、それを入り口に向かって投げて」
そう言いながらもキュルケは化粧を直している。
「こんなときに化粧するのか。きみは」
呆れ気味のギーシュがワルキューレを操り、油を酒場の入り口に向かって投げる。
「だって歌劇の始まりよ? 主演女優がすっぴんじゃ、しまらないじゃないの!」
まき散らされた油に向かって、キュルケは杖を振る、油は一気に引火して、酒場の入り口とその周辺に炎を振りまいた。
「花びら」
タバサが短く言うと、風の呪文を詠唱して床に風を起こす。
ギーシュは言われるままに、薔薇の形をした杖から花びらを放ち、風に舞わせた。
「練金」
タバサの指示にハッと気づいたギーシュは、花びらを油に練金する。
色気たっぷりの仕草で呪文を詠唱するキュルケが、再び杖を振るう。
タバサの風が花びらを巻き込み、花びらは油となる、そこにキュルケの放った火球が混ざり、地面を炎が覆い尽くした。
炎は酒場の外にいるる傭兵達にまでからみつき、つい先ほどまで統制のとれていた傭兵達は、一瞬で混乱状態に陥った。

ギーシュは驚いていた、キュルケとタバサの使った魔法はごく基本的な魔法だ。
しかし、火、油、風の三つが、酒場の外を覆う傭兵達を混乱させ、何割かを戦闘不能に陥いらせている。
ルイズは自分の失敗魔法をコントロールすることで、ギーシュとの決闘に勝った。
ギーシュは使い方次第で驚くべき効果を発揮する魔法と、それを効果的に操るキュルケとタバサに尊敬のまなざしを向けた。
そして、自分の無知を恥じつつ、ルイズの無事を案じていた。

112奇妙なルイズ:2007/06/28(木) 23:04:43 ID:???
その頃ルイズ達は桟橋へ向けて走っていた。
とある建物の間にある長い階段へと駆け込み、脇目もふらず駆け上る。
長い階段を上りきって丘の上に出ると、そこに生えた巨大な樹が四方八方に枝を伸ばしていた。
山ほどもある樹の枝に、船が吊されているのを見て、ロングビルは「急ぎましょう」とルイズに言う。
この樹は内側が空洞になっており、いくつかの階段があった。
ワルドが階段にかけられているプレートから目当てのものを探し、そこを駆け上がる。

途中の踊り場で、ルイズは後ろから近づいてくる何者かの気配に気づいた。
後ろを見ると、ロングビルの後ろに黒い影が近づいている。
ばっ、とロングビルとルイズの頭上を飛び越して、その影はルイズの前に立った。
「ヴァリエール嬢!」
ロングビルの声に反応したルイズが、後ろに飛ぶ。
男はルイズを捕まえようとしたが、ルイズが予想外の反応速度で跳んだのでからぶってしまう。
その隙にロングビルが仮面を付けた男の足下を練金し、足を鉄で拘束する。
「行きなさい!」
ロングビルが叫ぶ、ルイズは無言で頷き、仮面を付けた男の脇を走り抜けようとした。
男は杖を振り呪文を唱えたが、それより一瞬早くルイズの周囲に金属のドームが作られた。
仮面の男が持つ杖から電撃が放たれたが、ドーム状の金属に吸収されて、あっけなく霧散してしまった。

仮面の男は、ロングビルを見た、いや、仮面に隠されてはいるが、その目は明らかにロングビルを睨んでいるのだと分かる。
「土くれのフーケ…貴様、裏切ったか…やはり盗賊は盗賊だな」
「ふん、あんたが何者なのか知らないけどね、あたしは一匹狼が似合ってるのよ」
そう言いながらロングビルは男の周囲を練金し、男を土で包み込んだ。
「貴様!後悔することになるぞ」
「おあいにく様、狙われるのは慣れっこよ」
男は、ベキベキベキベキと嫌な音を立てながら、土の中に消えた。

113奇妙なルイズ:2007/06/28(木) 23:05:46 ID:???
「ふう…あたし、何やってんだろ」
そう呟くロングビル…いや、土くれのフーケの表情は、貴族をからかっていた時の笑顔とはまるで違う、和やかなものだった。

「まったくだな」
「!?」
ロングビルは、背後から突然聞こえた声に驚いた。
慌てて後ろを振り向くと、そこには今死んだはずの、男が杖を向けていた。
呪文を詠唱する間も無いと悟ったロングビルは、踊り場の窓を突き破って外に飛び出す。
フライの呪文で体勢を立て直そうとするが、仮面の男はそれよりも早く外に飛び出て、ロングビルに杖を向ける。
「『ライトニング・クラウド』!」
バチン、と男の周囲で空気が弾ける音が鳴り、次の瞬間、ロングビルの体を電撃が走っていた。
「ッあああァァあァアアあッ!」

電撃による衝撃で意識を失い、ロングビルは地面に落ちるかと思われたが、仮面の男はロングビルをゆっくりと地面に着地させた。
そして、ふと『女神の杵』の方を見る。
既に傭兵達を倒したであろう三人が、ロングビルの後を追ってくるのは想像に難くない。
仮面の男は、懐から掌に収まる程度の箱を取り出すと、うつぶせに倒れたロングビルと地面の間に挟み、短く練金の呪文を唱えた。

小さな箱から、カチリ、と不吉な音が鳴った。

114奇妙なルイズ:2007/06/28(木) 23:08:16 ID:???
代理投下してくれた方、ありがとうございます。
今回も余裕があれば誰かお願いします…。

115名無しさん:2007/06/29(金) 00:11:35 ID:???
奇妙なルイズ、本スレに投下してきました。フーケの運命にどきどきです。

116ゼロの世界:2007/06/29(金) 11:30:20 ID:???
さる喰らってしまった
もし今誰か見ていてくれたらこれからの代理で投下してもらえないだろうか

多分改行数とか多いほうなので名前とか入れなくても大丈夫だ

117ゼロの世界:2007/06/29(金) 11:31:10 ID:???
――深夜、中庭――三人の少女の影。そのなかに、一頭の竜が舞い降りる。
「立会人はタバサよ。いいわね?」
「危なくなったら、シルフィードが止める」
万が一の起こる直前に、風韻竜の超高速の一撃で全てを終わらせる腹積もりだ。
ルイズは無言で頷く。
四、五歩ほどの距離に二人は立つ。
「構え」
ゆっくりと剣を引き抜く。
ルイズの構えは、デルフリンガーのアドバイスでマシになったにせよ、素人丸出しである。
対するキュルケも剣は素人であるが、天性のものか、なかなか堂に入って見える。

――これほどか――――
キュルケは今初めて、己が相手の命を握っているのを知った。同時に相手も、己の命を握っている。
ルイズは大上段に、キュルケは脇構え。
二人ともでまかせの剣技である。それ故、対手の命がか細く見えた。
「始め」
タバサの声。
キュルケは恐怖した。ルイズにではない、己自身にである。
果たして、ルイズを生かせるか?

――甘い。
タバサはそう感じた。
命を張り合った事に、ここまできて初めて気付いた。それで、どうするというのだ。
もっとも、そんなキュルケをわかっていたからこそ、タバサは友を止めなかった。
ルイズのほうは、予想以上に肝が据わって見えるが、それでもためらいが見て取れる。
結局、両者に大した違いは無い。

キュルケが動いた。

118ゼロの世界:2007/06/29(金) 11:32:37 ID:???

不安と焦りからか、一気に距離を詰めるキュルケ。
一方のルイズは、まだ動かない。
「マダだッ、まだ動くなよッ、嬢ちゃんッ!」
キュルケが剣を振る。ルイズに当てるわけにはいかない。剣は虚空を斬る。
「今ッ!!」
地を踏みしめ、腹の力で一気に振り下ろす。
キュルケの剣は、あっさりと折れた。

勝者も敗者も、何も言わなかった。
心の底から安堵した。相手が生きていた事に。
心の底から恐怖した。友の命を握った自分に。

勝負の行方は、タバサの予想通りに収まった。ただ、どちらが先に動くかの違いだ。
(なんだかんだで、仲がいい……)
タバサは二人の関係を、少しうらやましくも思った。

わずかな振動にタバサは気付く。
直後、大気ごと地面が震えた。
『それ』を見た瞬間、タバサはシルフィードに二人を乗せ上空へと退避する。

「デカいッ! ゴーレムよ!」
その巨大なゴーレムを目にした二人が慌てふためく。
「どっ、どうすんのよ!」
「どうするって、敵でしょ、敵! どー見ても!」
「だったら! 攻撃あるのみよ!!」
先走ったルイズが放った魔法は、30メイルもあるゴーレムにかすりもせず、
地面と壁を爆破するだけに終わった。
「……すみませんでした…調子コキ過ぎました……」

こうして、『土くれのフーケ』との戦いが始まることとなる。

119ゼロの世界:2007/06/29(金) 11:34:43 ID:???
以上…『託し』た……
きっと…届く…

120ゼロの世界:2007/06/29(金) 12:33:03 ID:???
代理投下の方、ありがとう

そしてオレも思う。もっと緩い話だったはずだ。

121代理投下した人:2007/06/29(金) 18:53:44 ID:???
いや、あれは批判とかじゃなくて。
危ういというか、綱渡りというか、そんな緊迫感がある話だったなと。そんだけです。
これからも頑張ってください。

122奇妙なルイズ:2007/06/29(金) 22:58:56 ID:???
静かに風を受けて飛ぶ輸送船の上で、ルイズは星空を見上げていた。
ロングビルの助けを借りて輸送船に乗り込んだルイズは、船を宙に浮かす『風石』が足りないと言っていたが、足りない分をワルドの魔法で補う条件で出航した。
「ルイズ、どうしたんだい?」
ワルドがルイズの側に寄り、肩に手を置く。
「ロングビルが心配なのか?」
ルイズは、無言で頷いた。



傭兵の一団を壊滅に追い込んだキュルケ、タバサ、ギーシュの三人は、桟橋へと急いだ。
ギーシュは、周囲を警戒しながらも走る速度をゆるめないキュルケとタバサを、息を切らせながら追いかけていた。
長い階段を駆け上がると、桟橋のある丘の上に出る。
そこにはロングビルが倒れていた。
キュルケが駆け寄ろうとしたが、それをギーシュが制止する。
「ツェルプストー!待て!」
「何よ!」
「ロングビルに触れちゃ駄目だ!」
ロングビルの両手首からは、血が流れ続けていた。
水たまりになる程ではないが、かなりの出血がある。
ここにいる三人は強力な治癒の魔法は使えない、怪我を治す秘薬も所持していない。
町に戻っても秘薬があるとは限らないので、早く止血しなければ失血死の危険がある。
キュルケが焦るのも無理はなかったが、タバサまでもが杖でキュルケを制止したので、キュルケは別の意味で驚いた。

123奇妙なルイズ:2007/06/29(金) 22:59:39 ID:???
「罠」
タバサの言葉に、キュルケは焦りが冷めていくのを感じた、タバサとギーシュの意図に気づき、背中に冷たいものが走った。
タバサがディティクトマジックで罠を調査する、すると、ロングビルの体に何かが仕掛けられているのが分かった。
いつも無表情なタバサだが、このときはギーシュでさえタバサの口元に力が入るのが認識できた。
「ちょっと、タバサ、何があるのよ」
「小さい…箱のようなもの?」
小さな箱のようなものがある、それは分かったが、タバサにはその罠がどんな罠なのかまでは分からなかった。
「ツェルプストー、硫黄の臭いだ、火の秘薬と…油のような何かの臭いがする」
キュルケがギーシュの言葉に驚く。
「ギーシュ、あんた、分かるの?」
「いや、僕じゃない」
そう言ってギーシュが足下を指さす、するとギーシュの隣にボコリと穴が開き、そこからギーシュの使い魔であるジャイアントモール『ヴェルダンデ』が顔を見せた。
「ヴェルダンデが言うには、人間の作った洞窟…つまり、宝物を隠したダンジョンにある罠と、臭いが一緒らしい」
「威力は?」
タバサが短く質問すると、ギーシュはテレパシーのようなものでヴェルダンデに話しかける。
「…具体的には分からない、でも、ヴェルダンデは怖がっている。少なくとも半径30メイル(m)以内には近寄りたくはないらしい」
タバサが風の魔法で冷気を作り、細心の注意を払いながらロングビルの両手首に当つつ、呟く。
「爆発か、火の海」
キュルケは頭を悩ませた。
「それなりの威力の奴ね…あたしならともかく、ミス・ロングビルじゃ…」
火の使い手であるキュルケなら、自分の炎を使って、他者の炎から身を守ることも出来る。
しかしロングビルに同じ事をやれば、致命傷となる火傷を負わせてしまうだろう。
タバサも悩んでいた、レビテーションで体を浮かせ、風の魔法で炎から身を守ることは可能だ。
爆発と火炎の両方が仕掛けられていたら、体を浮かせている間に爆発してしまう。
強力な風でロングビル後と吹き飛ばしても、ロングビルの体からは箱が離れなければ、ロングビルを巻き込んで爆発してしまう。

キュルケとタバサは、罠ごと破壊することは出来ても、ロングビルを傷つけずに解除する方法が思いつかなかった。

124奇妙なルイズ:2007/06/29(金) 23:00:11 ID:???
二人が悩んでいると、ギーシュはヴェルダンデに何かを命令し、地面を掘らせた。
「ミス・タバサ、頼みがあるんだが…これから言う場所に、竜巻を作ってくれないか」
「ちょっとギーシュ、何のつもりよ」
「ロングビルを傷つけずに助けるのさ」
ギーシュの顔はヘラヘラしただらしのない笑顔でもなく、情けない軟弱者の顔でもなかった。
「ギーシュ、覚悟を決めるのはいいわ、でも貴方なら回りくどいことをしなくても練金で罠を解除できるのではなくって?」
「いや…聞いたことがあるんだ、持ち運びの出来る罠があるってね…仮にトライアングル以上のメイジが練金したものなら、僕には手出しできない」
そう言って杖を握りしめるギーシュに、タバサが質問する。
「規模は?」
「中心が真空になるぐらい…それと、僕たちを巻き込まないように範囲は狭く、高さは高くいほどいい」
タバサはこくりと頷き、普段よりもゆっくりと、真剣に魔法の詠唱を始めた。
しばらくすると、40メイル程離れた地面からヴェルダンデが顔を出した。
「良し!僕のかわいいヴェルダンデ、ちゃんと離れているんだよ!」
ギーシュが叫ぶ、するとヴェルダンデは地面をぴょこぴょこと歩き、離れた場所に穴を掘って待避した。
「ヴェルダンデが出てきた穴の空気を、できるだけ引きずり出してくれ!」
「……」
タバサは頷き、魔法を完成させた。
次の瞬間、ごうごうと音を立てて竜巻が現れる、ギーシュの望み通り天高くまで竜巻が伸びているのが視認できるほどだ。
「よし!『練金』!」
ギーシュは薔薇を模した杖を振って、練金を放った。
練金によってロングビルの上着が土になる、それと同時にロングビルの体の下から強い光が漏れた。
「爆発!?」
キュルケが光を見て身の危険を感じる、しかし次の瞬間にはズボボボという音と共に、光が地面の中に消えていった。
驚いてロングビルを見ると、ロングビルの倒れている地面が鉄格子に練金されており、その隙間には勢いよく風が流れ込んでいる。
「ギーシュ!何よこれ!」
「これでいい!これがイイんだ!」

125奇妙なルイズ:2007/06/29(金) 23:01:14 ID:???


ギーシュが叫ぶと、タバサの作り出した竜巻が爆発音と共に炎の竜巻に変わる。
キュルケが驚いて竜巻の方を見ると、竜巻の中心にある小さな『何か』が、すさまじい勢いで炎を噴出しているのが見えた。
タバサの氷塊混じりの竜巻に巻かれても、火勢は衰えない。
小さい罠ではあったが、その威力はかなり強いものだと理解できた。

しばらくすると、小箱から噴出する炎も止み、箱自体も燃え尽きて消えてしまった。

それを確認したキュルケは、倒れているロングビルを抱き起こす。
上半身は裸になっており、胸元に小さく火傷の痕がついていたが、ごくごく軽いものだと分かる。
タバサのシルフィードに乗せて学院まで急げば、命は助かるだろう。
「ギーシュ、やるじゃない」
「まあね…ば、薔薇の棘は、女性を守るためにあるのさ」
カッコつけようとしたギーシュだったが、鼻の下をものすごーく伸ばして、ロングビルの胸を見ている。
「ミス・ツェルプストー、ミス・ロングビルはこの僕が連れて行こう」
精一杯格好良くしているつもりだが、どう見てもロングビルの胸に視線が向いている。
それどころか薔薇を持っていない左手がワキワキと何かを掴むような動きをしていた。

そんなギーシュの真上に、タバサの使い魔シルフィードが突如現れた。
しなやかな尻尾がギーシュを叩くと、ギーシュは「オゲッ」っとうめき声を上げて10メイルほど吹っ飛んだ。
「女の敵」
タバサの言葉に、キュルケはうんうんと頷くのだった。

126奇妙なルイズ:2007/06/29(金) 23:03:19 ID:???
スイませェん…代理投下お願いしまス…
サイトがいない分ギーシュがスケベ小僧になってしまったような気がする

127slave sleep〜使い魔が来る:2007/07/01(日) 02:35:18 ID:???

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・・。

しばらく重々しい空気が続くが・・・・。
「・・・・クッ。」
「・・?」
「・・・・ガッハッハッハッハッハッハッハッハッ!!こりゃまた素直に言ってのけたぜコイツめッ!!」
突然のマルトーの豪快な笑いに流石のブチャラティもたじろいだッ!
「自分をメイジだとか言っていい気になってるような器の小さい成り上がり野郎だったら
今すぐ叩き出してやる所だったが!なかなかどうして謙虚な男・・。
そしてお前がッ!あのグラモンとやらの性根を叩きなおしたってんなら俺はあんたを
好評価せざるを得ないぜッ!」
ブチャラティはシエスタのほうを向き、その顔が安堵と喜びに満ちている事から、
どうやら彼とは打ち解けることができた事に気がついた。
「・・・でもこんな簡単に信じてもらっていいのですか?もしや騙してるなんて事も・・。」
「なぁ〜に。ウソをついてないって事くらいなんとなくわかるさ。お前さんがいい奴だって事とかもな。」
とまあ見てた者があっけらかんとなるほどあっさり打ち解けたマルトーは
今やブチャラティを『我らの剣』と呼んで称えている。

128slave sleep〜使い魔が来る:2007/07/01(日) 02:35:52 ID:Khluudnc

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・・。

しばらく重々しい空気が続くが・・・・。
「・・・・クッ。」
「・・?」
「・・・・ガッハッハッハッハッハッハッハッハッ!!こりゃまた素直に言ってのけたぜコイツめッ!!」
突然のマルトーの豪快な笑いに流石のブチャラティもたじろいだッ!
「自分をメイジだとか言っていい気になってるような器の小さい成り上がり野郎だったら
今すぐ叩き出してやる所だったが!なかなかどうして謙虚な男・・。
そしてお前がッ!あのグラモンとやらの性根を叩きなおしたってんなら俺はあんたを
好評価せざるを得ないぜッ!」
ブチャラティはシエスタのほうを向き、その顔が安堵と喜びに満ちている事から、
どうやら彼とは打ち解けることができた事に気がついた。
「・・・でもこんな簡単に信じてもらっていいのですか?もしや騙してるなんて事も・・。」
「なぁ〜に。ウソをついてないって事くらいなんとなくわかるさ。お前さんがいい奴だって事とかもな。」
とまあ見てた者があっけらかんとなるほどあっさり打ち解けたマルトーは
今やブチャラティを『我らの剣』と呼んで称えている。

129slave sleep〜使い魔が来る:2007/07/01(日) 02:36:42 ID:???
続いて他でもないギーシュ・ド・グラモンだ。
マルトーから聞いた通り、あの戦い以来彼の人間性がだいぶ成長したらしい。
平民をぞんざいに扱ったり、高慢な態度をとったりすることが無くなったとのことだ。
そして彼はほかの誰よりもブチャラティを信頼するようになった。
あの戦いで通じるものがあったのだろうか。信頼関係は多いほうがいいと判断した
ブチャラティは彼とも仲良くやっていた。
だが彼は人間的に成長しても女癖の悪さは直らなかったらしい。グラモンの血からは逃れられないようだ。
「いや、僕くらい女性に優しい人間になると、どうしても断りきれない事も
あるにはあるんだよ。僕はね、ブチャラティ。多分一人の女性だけを愛すると言う事は
永遠にないと思うな・・・。」
「・・・何のために決闘でボロボロになったんだろうな・・・。」
ブチャラティはもはやこの話題につっこむ事をやめることにした。
「全くそろそろ身が持たなくなってきているんだ・・。どうにかできないかなブチャラティ?」
「・・・・・・・まあ・・。いいんじゃあないか?お前がそれでいいなら・・。」
ブチャラティはこれが無ければだいぶ一人前に見えるのにと思った。
―――――余談だが、ブチャラティはあの決闘の日以降、ギーシュがケガを負ってない所を見たことがなかった。つまり一日一回はモンモランシーに傷を負わされているという事になる。
「ここまで来ると褒めるしかないな・・・。」

130slave sleep〜使い魔が来る:2007/07/01(日) 02:37:14 ID:???
さて、彼は昼休み、昼食や手伝いなどを終えると広場でくつろぐことが多い。
そこには2年生の使い魔たちが羽を伸ばす場としても使われているので、
ブチャラティ自身も魔法生物には興味があったので、昼休みにそれらと触れ合う機会に
ちょうどいいと思っていた。
その日は日当たりのいい所で休んでいた時だった。
モコモコモコモコ・・・・。
ポコッ
「あれは・・・モグラか・・?」
それにしても大きい。少なくとも自分の世界で見ることはかなわない種だろう。
「・・・・そういえばあのモグラ・・。確かギーシュの・・。」
そう。これはギーシュの使い魔、ジャイアントモールの『ヴェルダンテ』である。
(どうだいブチャラティ!僕のヴェルダンテは美しいだろう?僕は多分この子こそが
使い魔の中で一番美しいと言う自信があるくらいだからね。ハッハッハ!)
そう言ってギーシュが親バカっぷりを見せていたのを思い出した。
「・・・・美しい・・か?確かに愛らしさのある姿はしているが・・。」
そう言った時、ヴェルダンテがこっちに甘えたいと言わんばかりに寄ってきた。
「人懐っこい奴だな・・・。」

131slave sleep〜使い魔が来る:2007/07/01(日) 02:37:54 ID:???
「きゅるきゅる。」
寄ってきていたのはヴェルダンテだけじゃあない。
大き目の赤っぽい体のトカゲも寄ってきた。――――――気のせいか今口から火が出た。しかも尻尾に火が灯っている。
「これは・・・サラマンダーって奴か?」
サラマンダー・・・。そういえばコイツは・・・。
ルイズが嫌っていた、赤髪にグラマラスな体格のメイジ、キュルケの使い魔『フレイム』だ。なぜかコイツも寄ってくる。
ブチャラティは二匹の頭を撫で、ふと空を見る・・・。
(―――――――オレがこの世界に来てもう20日・・・。
そろそろ向こうじゃ完全に死亡扱いされて葬式やってるかもしれないな・・・。
これ以上時間をかけると、帰ったとき驚かれそうだ・・・。)
ダランと力を抜き、壁にもたれる。
(・・いずれイタリアに帰ることができたら・・。何しよう・・・。
まず仲間に顔出して・・。久々に故郷の料理を食べて・・。墓参りもやって・・・。
あと・・・見届けたい・・。ギャング・スターのその輝かしい姿を・・。)
その時、ブチャラティの目を引いたのは空を翔る大きな青い竜だった。

「・・・空を・・・飛んでいる!?」

132slave sleep〜使い魔が来る:2007/07/01(日) 02:38:37 ID:???
バサッバサッ!
「きゅいきゅい〜♪」
スタッ
「風竜・・・。そうだ・・あれは風竜ッ!!」
ブチャラティはその上に誰かがいることに気づく。
小柄な体に青い髪、眼鏡をかけ、大きな杖を持った少女だ。
「・・・・・・・・・・。」
「あ、お前はッ!」


話はここで4日遡る。

BITE THE DUST 『バイツァ・ダスト』!!(負けて死ね)

図書室。
4日前ブチャラティはここに来ていた。
「ここは学校・・。やはりこの世界の資料は大量に用意されている・・・。
オレはこの中に、『帰る方法』があると考える・・・だが・・。」
だがブチャラティは、『召喚・空間転移系』の資料を探そうとして留まってしまった。
「・・・・・・。」

133slave sleep〜使い魔が来る:2007/07/01(日) 02:39:27 ID:???
近くにあった椅子に座り込む。
「やっぱりそうだ・・・。オレはあくまでルイズの契約の影響で喋れるだけで、
字は読めるはずがない・・・。」
そう。普段ルイズと難なく会話できているせいで、ルイズはイタリア語を喋っているわけではないのだ。試しに英語も話してみたのだが、ルイズにはそれも通じていた。
「だがいくらどんな言葉でも通じるとしても、そこに書かれた文字までイタリア語に翻訳されるわけではない・・。マズイ。これでは資料を探すどころではない・・・。」
いつだったかパッショーネにいた頃、かつてのチームメイトからも「戦いとは情報を得ることから始まっている。」と言う言葉を聴き、そのためには多国語を喋れることが何より重要だった。だからほとんどの本は読むこと自体は苦労しなかった。
だがコレはまさにその次元の問題。情報を読むこと自体が困難なのだッ!!
そういって頭を抱えていると、ふと本に没頭している少女を見た。

「・・・・・・・。」
お茶を飲みながら本に没頭している彼女を一目見てブチャラティはその鋭い洞察力で即座に彼女の高い実力を見抜いたッ!!
(コイツが発しているこの感覚・・・。死地を経験した人間特有の殺気だ・・・。
日常を生きていても、そんな世界に生きてきた人間は一目でわかる。だがこんなルイズよりも年下に見える奴が何故これほどの殺気を・・・。)
だがブチャラティはそれは後回しにする。彼女から確かに感じられた高い実力、『知性』のほうに目を向ける。コイツならもしや・・?

134slave sleep〜使い魔が来る:2007/07/01(日) 02:42:57 ID:???
「君・・・。話があるんだがちょっといいか?」
だが話しかけても無反応である。よほど本に集中しているらしい。
「聞こえているか・・?ちょっと字を・・。」
だが彼女にはよほど集中して聞こえていないのか、まったくブチャラティに興味を示さない。
「・・・どうした物か・・。このまま待つか・・?」
そう言った頃だった。
「あら、タバサじゃない。またその本読んでたの?」
キュルケだ。タバサの友人なのだろうか。少しだけタバサの視線が逸れる。
「ゴメンゴメン。用はないの。ちょっと借りたい本が・・。あら?あなたルイズの・・。
何?この子に用があるの?」
「ああ、ちょっと字を・・。」
「タバサは一度本を読み始めたらほかの事にほとんど興味示さなくなるから話しかけるには少し時間がかかるわよ。それより・・。」
キュルケが寄ってくる。
「あなたこの間の決闘・・・。凄くかっこ良かったわ・・。もう心臓が大噴火を起こすくらいにね・・。」
「・・?」
「私はね・・。えっと、ブチャラティって言ったわよね・・。ああいう戦いの場で魅力を引き出す男って奴にとても興味を持っているの・・。そのうちゆっくりお話したいわ・・。
それじゃあ、待たせてる人がいるから・・・。」
そう言ってキュルケが立ち去る。
「・・・・何だったんだ・・?」
そして改めてタバサに向き直り、
「………仕方ない。ここで…待たせてもらうか。読み終わったら話を聞いてくれ…。」
そう言ってしばらく待ち、眠りこけているうちにいなくなっており、さらにルイズにしかられたのを良く覚えている。

135slave sleep〜使い魔が来る:2007/07/01(日) 02:43:34 ID:???
―※―
「そうだ、あの時の!確かタバサだったか・・・。」
スタンッ!とタバサがシルフィードから綺麗に降り立つ。
「この間は ごめんなさい。」
タバサは淡白に言う。
「・・・いや、読書中に話しかけるのも悪いと思ってな。」
そう言い終わった時、タバサが近くにいる事に気がついた。持ってた紙袋の中のいくつかの本の中から一冊を取り出す。
「これ、よかったら読んで。」
それは『初心者の言語学習 イラスト付き』だった。
「これ・・。買ったのか?」
タバサは何も答えず言う。
「詳しく教えるのは明日。」
「・・・感謝する。」
タバサはその後学院にさっそうと帰った。
「きゅいきゅい。」
残った風竜がこちらを見ている。ブチャラティはまた人懐っこい竜の頭を撫でてやる。
「きゅい♪」
「そろそろ遅い時間か・・。ルイズも待っているだろうし今日は帰ろう。じゃあな。」
ブチャラティはヴェルダンテとフレイムのほうに言って帰る事にした。
「今日もまた何事もなく平和に終わった・・。」

だがそう思っていたブチャラティの身にちょっとしたハプニングが降りかかる。
その事にまだブチャラティは気づかない・・・。

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・。

「きゅるきゅる。(そろそろ追跡を始めるか・・・・。)」

To Be Continued =>

136奇妙なルイズ:2007/07/02(月) 01:29:37 ID:???
ロングビルを助けたギーシュ達は、ロングビルの治療のためシルフィードに乗ってトリスティン魔法学院に急いだ。
学院に到着する頃、遠くから昇る朝日を見て、キュルケはルイズの身を案じていた。
「早く帰ってきなさいよ…」




ギーシュ達が魔法学院に到着した頃。
ルイズは夢を見ていた。
使い魔品評会の日に、アンリエッタがルイズに会いに来た、その時の夢だ。
メイジの常識で言えば、使い魔の居ないルイズはメイジとして失格だと思われても仕方がない。
そんな自分に、アンリエッタは重要な任務を任せた。
他のメイジ達が聞けば、アンリエッタは気が狂ったのかとでも思われるだろう。

なぜ自分だったのか?
おそらく、アンリエッタの周囲には、心から信頼できる人が居ない。
この手紙の件を話せる人が居たとしても、アンリエッタの周囲にいる貴族が『政治』を担っている以上、決して話すことは出来ない。
アンリエッタは、この手紙を交渉の材料として使われることを恐れたに違いない。
だから、『おともだちのルイズ』に任せたのだろうか。

もし、アンリエッタが自分を利用しているとしたら?
…関係ない、自分は貴族なのだから、王女の命令に従うのは当然だ。
もし、アンリエッタが自分を利用しているとしたら?
…関係ない、アンリエッタになら騙されていてもいい、そう思って引き受けたのだから。
アンリエッタが『おともだち』として自分を信頼してくれているのなら、絶対に生きて帰らなければならない。

でなければ、アンリエッタは友達殺しの罪に、一生苛まれる事になるだろうから。

137奇妙なルイズ:2007/07/02(月) 01:30:46 ID:???
ルイズの意識が、朝焼けと共に覚醒してくる。

わずかに暗い空に流れ星が流れ、あの時名付けた名前を思い出す。

「スタープラチナ…」
ルイズが呟くと、ルイズの手からもう一本の手が現れた。
その手を握りしめ、開き、また握りしめて、その『感触』を確かめた。

「アルビオンが見えたぞ!」
鐘台の上に立った見張りの船員が大声を上げた。
ルイズは起きあがり、船員の指さす方を見ると、雲の切れ目からアルビオンの大陸が見えていた。
周囲をきょろきょろと見回すと、右舷の方向に何かの影が見えた。
「…?」
雲の切れ目から何かが現れたような気がしたので、その方向に向かって集中力を高める。
するともう一つの目が景色を拡大させる、遠見の鏡で遠くを見るかのように、雲の切れ目がクッキリと拡大されていく。
雲の切れ目から見えたのは、大砲を備えた船であり、輸送船や客船には見えない。
「あの船は何?」
ルイズが船員に聞いたが、船員にはその船が見えないらしく、
「何もありませんぜ」
としか返事は帰ってこなかった。

しかし、その船員はルイズの言葉を嫌でも信じるハメになる。
「右舷上方の雲中より、船が接近してきます!」
ルイズが見た船は、いつの間にか輸送船の死角となる雲中から現れ、大砲の照準を向けてきたのだ。

138奇妙なルイズ:2007/07/02(月) 01:31:33 ID:???
後甲板で、ワルドと船長は、見張りが指差した方角を見上げ驚いていた。
黒くタールが塗られた、いかにも戦艦だと思わせる船体からは、二十数個も並んだ砲門をこちらに向けていた。
「アルビオンの貴族派か?それとも…」
見張り員が輸送船の副長に合図を送る、すると青ざめた顔で副長が船長に駆け寄り、見張り員からの報告を伝えた。
「あの船は旗を掲げておりません!」
船長の顔も、みるみるうちに青ざめる。
「してみると、く、空賊か?」
「間違いありません! 内乱の混乱に乗じて、活動が活発になると予測されていましたが、既に…」
「逃げろ! 取り舵いっぱい!」
船長は輸送船を空賊から遠ざけようとしたが、既に空賊の船は輸送船と併走していた。
ボン!と音を立てて空賊の船から砲弾が発射され、輸送船の進路上にある雲に砲弾の穴が開く。
「船長!停船命令です…」
空賊の船から手旗での停船命令を受けると、船長はワルドを見た。
ワルドはこの船を浮かすために魔力のほとんどを傾けていたため、戦っても勝ち目はない。
ワルドは短く「私も打ち止めだよ」と言った。

船長は、停船命令を受ける旨を、見張り員に伝えた。




空賊に捕らえられたルイズ達は、船倉に閉じこめられていた。
輸送船の船員達は、船の曳航を手伝わされているらしく、ここには居ない。
ルイズはワルドから「チャンスを待とう」と言われ、ワルドの隣に座ってじっとしている。

139奇妙なルイズ:2007/07/02(月) 01:32:14 ID:???
空賊に捕らえられたルイズ達は、船倉に閉じこめられていた。
輸送船の船員達は、船の曳航を手伝わされているらしく、ここには居ない。
ルイズはワルドから「チャンスを待とう」と言われ、ワルドの隣に座ってじっとしている。

がちゃりと扉が開き、船室に空賊の男が入ってきた。
「飯だ」
ルイズはじっと黙ってその男を見ていた。
ワルドが受け取ろうとしたとき、男はその皿をひょいと持ち上げた。
「質問に答えてからだ…お前たち、アルビオンに何の用なんだ?」
「旅行よ」
ルイズは床に座ったまま答えた。
「トリステイン貴族が、いまどきのアルビオンに旅行だって?いったい、なにを見物するつもりだ?」
「そんなこと、あなたに言う必要はないわ」
「へっ、随分と強がるじゃねえか」
ルイズが顔を背けると、男は皿と水の入ったコップを床に置いた。
ワルドが皿を取り、ルイズに先食べるよう薦める。
「食べないと、体がもたないぞ」
しかしルイズはそのスープを飲もうとしない。
仕方なくワルドは半分だけ飲み、しばらくしてからルイズもスープを飲んだ。
「あんなやつらの出したスープを飲むなんて…」
ルイズが悔しそうに呟くと、ワルドはルイズの肩に手を回した。
「今は体力を温存するんだ、僕のルイズ…きっとどうにかしてみせるさ」
いつものルイズなら、恥ずかしがって顔を赤らめていたかもしれない。
しかし、今は違う。

ルイズは自分の思考が恐ろしい程冷めているのを実感していた。
ワルドに『毒味』させたのだ、悔しがるような台詞はそれを誤魔化すための演技だった。

140奇妙なルイズ:2007/07/02(月) 01:34:46 ID:???
私はこんな性格だっただろうか、そんな事を考えながら、ワルドに身を預けていた。
その時再びドアが開かれ、今度は別の男が船倉に入ってきた。
「おめえらは、もしかしてアルビオンの貴族派かい?」
男の質問には答えない。
「おいおい、だんまりじゃ困っちまう、貴族派だったら失礼したな。俺らは貴族派の皆さんのおかげで、商売させてもらってるんだ。」
「…じゃあこの船は、貴族派の軍艦なのね?」
「おめえらには関係ねえことだがな。で、どうなんだ? 貴族派なのか? そうだったら、きちんと港まで送ってやるよ」

ルイズは、悩む仕草をしているワルドを差し置いて、立ち上がった。
そして空賊を見据え、言い放った。
「誰が貴族派なものですか。バカ言っちゃいけないわ。わたしは王党派への使いよ!し、正統なる政府は、アルビオンの王室ね。わたしはトリステインを代表してそこに向かう貴族なのだから、つまりは大使ね。だから、大使としての扱いをあんたたちに要求するわ」
「………」
ワルドはじっと黙っていた、ルイズにはそれが気になったが、決して勝算が無くてこのような事を言ったワケではない。
ルイズの右腕からもう一つの腕が伸びる。
いざとなれば、この使い魔を使って何とかしようと考えていた。
この船が貴族派のものだとして、これから拷問にかけられるのならば、何かの道具を使って拷問しようとするだろう。
それを奪えるだけの力があるはず、そう考えての発言でもあった。

「ハッハッ!こいつは驚いた、お嬢ちゃん正直なのはいいが、ただじゃ済まないぞ」
「あんたたちに嘘ついて頭を下げるぐらいなら、死んだほうがマシよ」
「頭に報告してくる。その間にゆっくり考えるんだな」
そう言って空賊の男はは去っていった。
ワルドはルイズを抱き寄せて、耳元でささやいた。
「君は昔からそうだったなぁ…いいぞ、さすがは僕の花嫁だ」

141奇妙なルイズ:2007/07/02(月) 01:35:46 ID:???
しばらくして、再び扉が開き、先ほどと同じ空賊が入ってきた。
「頭がお呼びだ」
 
狭い通路を通って連れていかれた先は、空賊にしては上品に過ぎると思えるほどの部屋だった。
後甲板の上に設けられたその部屋は、空賊船の船長室らしい。
大きな水晶のついた杖をいじる空賊の頭、杖をいじっていることから、メイジであることが理解できる。
その周囲では、ガラの悪そうな空賊たちがニヤニヤと笑いながら、ルイズたちを見ている。
「おい、お前たち、頭の前だ。挨拶しろ」
自分たちを連れてきた空賊がそう言っても、ルイズは頭をにらむばかりで、頭を下げようとはしなかった。
「気の強い女は好きだぜ。子供でもな。さてと、名乗りな」
「大使としての扱いを要求するわ」
ルイズは、先ほどと同じセリフを繰り返した。
そして、ゆっくりとスタープラチナの腕に意識を向ける。
三歩、いや二歩前に出られればそれでいい。
空賊の頭が杖を振り、こちらに向けてくれば好都合だ。
この『腕』は、自分の腕から更に2メイル(m)の距離まで伸ばせるはず。
二歩前に出られれば、空賊の頭から杖を取り上げることも可能なはずだ。

ルイズが悩んでいる間にも、空賊の頭は話を進めていく。
「王党派か…なにしに行くんだ? あいつらはもう風前のともし火だ。それよりも貴族派につく気はないかね?来るべき革命に向け、戦力となるメイジを欲しがっている。たんまり礼金も弾んでくれるだろうさ」
「死んでもイヤよ」
「もう一度言う。貴族派につく気はないかね?」
ルイズはきっと顔を上げ、腕を腰に当てて胸を張る。
「無いわ」
ルイズの言葉を聞いて、空賊の頭は大声で笑った。
「トリステインの貴族は、気ばかり強くって、どうしようもないな。まあ、どこぞの国の恥知らずどもより、何百倍もマシだがね」
空賊の頭は笑いながら立ち上がり、杖を納めた。
そして縮れた黒髪と、付けひげと、眼帯を外す。

142奇妙なルイズ:2007/07/02(月) 01:36:17 ID:???
「失礼した。貴族に名乗らせるなら、こちらから名乗らなくてはいけないな」
周りに控えた空賊達が、一斉に整列する。
その中央には、凛々しい金髪の若者。
「私はアルビオン王立空軍大将、本国艦隊司令長官、本国艦隊といっても、すでに本艦『イーグル』号しか存在しない、無力な艦隊だがね。まあ、その肩書きよりこちらのほうが通りがいいだろう」
金髪の若者は威儀を正して名乗った。
「アルビオン王国皇太子、ウェールズ・テューダーだ」

ルイズは驚き、そして緊張が解けたせいか、膝の力が抜けてその場にへたり込んでしまった。

「アルビオン王国へようこそ。大使殿」

そう言ってウェールズは、ルイズとワルドに席を勧めた。

あまりのことに驚いたルイズだったが、ワルドがルイズを立たせて、ルイズの代わりに申し上げた。
「アンリエッタ姫殿下より、密書を言付かって参りました」
「ふむ、姫殿下とな。きみは?」
「トリステイン王国魔法衛士隊、グリフォン隊隊長、ワルド子爵」
ウェールズが「ほう」と呟く。
「そしてこちらが姫殿下より大使の大任をおおせつかったラ・ヴァリエール嬢でざいます。殿下」
「なるほど!きみ達のように立派な貴族が、私の親衛隊にあと十人ばかりいたら、このような惨めな今日を迎えることもなかったろうに!して、その密書とやらは?」
ルイズは慌てながらアンリエッタの手紙を取り出す。
ウェールズに近づき手紙を渡そうとしたが、その前に、確認することがあった。
「あ、あの……」
「なんだね?」
「その、失礼ですが、ほんとに皇太子さま?」
ウェールズは笑った。
「まあ、さっきまでの顔を見れば、無理もない。僕はウェールズだよ。正真正銘の皇太子さ。なんなら証拠をお見せしよう」

143奇妙なルイズ:2007/07/02(月) 01:36:48 ID:???
ウェールズはルイズの指に光る、水のルビーを見つめて言った。
自分の薬指に光る指輪を外すと、ルイズの手を取り、水のルビーに近づけた。
二つの宝石が共鳴しあい、虹色の光を振りまく。
「この指輪はアルビオン王家に伝わる風のルビーだ。君がはめているのは、アンリエッタのはめていた、水のルビーだ。そうだね?」
ルイズは頷いた。
「水と風は、虹を作る。王家の間にかかる虹さ」
「大変、失礼をばいたしました」
ルイズは一礼して、手紙をウェールズに手渡すと、ウェールズは愛おしそうにその手紙を見つめ、花押に接吻した。
その様子を見たルイズは、やっぱり恋文だったのねと、心の中で呟いた。

その後、ウエールズは手紙の内容を見て驚き、そして、今自分たちの置かれている状況を話した。
表向きには知られてないが、一月ほど前から既に王党派は何人も暗殺され、静かに革命が始まっていた。
アルビオンの所有する戦艦の殆どは貴族派に押さえられており、王党派は既に政治の実権どころではなく、地下に潜伏して逃げ隠れている状態なのだ。
それを聞いたルイズは、トリスティンに伝わっている情報がほんのごく一部だったことを思い知らされた。
アンリエッタからの手紙には、昔の手紙を返して欲しいと書かれていた。
そのため、アルビオンの城、ニューカッスル地下にある秘密港にまで来て欲しいと言われ、ルイズ達はそれを承諾した。

アルビオンの日陰になる雲の中は、暗闇といって差し支えないほどの空間で、周囲は何も見えない。
そんな中でも、熟練の船員達は船を秘密港まで移動させている。
その技術にワルドも驚きを隠せないようだった。

144奇妙なルイズ:2007/07/02(月) 01:38:21 ID:???
秘密港に到着すると、ルイズ達はウェールズに促されるままタラップを降りた。

そこに、背の高い年老いたメイジと、20代半ばのメイドが近寄ってきて、ウェールズの労をねぎらつた。
「ほほ、これはまた、大した戦果ですな。殿下」
年老いたメイジは、軍艦『イーグル』号に続いて現れた輸送船を見て言った。
「喜べ、パリー。硫黄だ、硫黄!」
ウェールズの言葉に、その場にいる者達が歓声を上げる。
硫黄は火の秘薬として用いられ、使い方によっては恐るべき破壊力を生む。
戦争を避けられぬ彼らにとって、待ち望んだ物だった。

「戦を前にしてお客様が来られるとは、思っても見ませんでした」
パリーと呼ばれた老メイジと共に、ルイズ達を迎えたメイドを見て、ルイズは息を呑んだ。

『……一人前のメイドになって、アルビオンの王族に、仕えることになった、娘を見て、うれしかった…………』

この女性(ひと)だ…!

ルイズの頭の中に、モット伯の別荘でメイジと戦った記憶がよみがえる。

なぜ今まで忘れていたのだろう?

あの時、私は、この女性の父親を、見捨てて…

そこまで考え、ルイズは、気を失った。

145奇妙なルイズ:2007/07/02(月) 01:39:53 ID:???
どなたか代理投下をお願いします。
本当はもっと暴力的に活躍させたいのに、
どこまで活躍させてイイやら悩んじゃう。

146名無しさん:2007/07/02(月) 01:40:27 ID:???
あいよー

147奇妙なルイズ:2007/07/02(月) 03:01:29 ID:???
ありがとうー

148暗殺者チーム全員召喚:2007/07/02(月) 13:25:35 ID:???
すみません、サル食らいました。
こちらに投下しますので、代理投下お願いします!

149暗殺者チーム全員召喚:2007/07/02(月) 13:26:26 ID:???
何故選ばれたのかは不明だが、この召喚によって――ソルベとジェラートは除くが――全員が生き返っている事は、リゾットにとって幸運だった。
暗殺チームに身を置き、それを率いる事になったリゾットにはチーム以外に信頼できる人間がいない。チームが家族と言っても過言では無いくらい互いを大切に感じてもいる。
(――つまり、これは恩か?)
ルイズの召喚の儀式がなければ自分も仲間たちも死んだままだった。そう考えると、リゾットはルイズにかなりの恩を受けたことになる。
「ねえ」
新たな発見に脳をフル回転させていたリゾットに、空気をまったく読まずにルイズが声を掛けてくる。
リゾットが顔を上げるとそこには何かを決意して唇を真一文字に結んだルイズが立っていた。
「なんだ?」
「起きているのがあんただけだし、まあ、顔もそこそこイケてるし……。とにかく、感謝しなさいよね。貴族にこんなことされるなんて、普通は一生ないんだから」
リゾットが返事をすると、瞳にあった決意はあっさりと霧散し、ルイズはブツブツと言い訳を口にする。
そのマンモーニぶりにリゾットはメタリカで説教したくなったが、いきなり目を閉じたルイズに虚を突かれた。
はて、何をするつもりなのだろう。
「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ」
疑問を感じているリゾットの前でルイズは杖を振ると、朗々とした声で呪文と思しき言葉を唱えた。
そうして、リゾットが反応するより先に、杖をリゾットの額に置く。
(何だ?! 体が動かないだと?!)
とっさに避けようとしたリゾットは、そこに来て自分の体の自由が利かないことに気付いた。
上体を起こして膝立ちになった格好から、全身が彫像になったかのように身動きが取れない。そうして、そのことに戸惑っている間に、どんどんルイズの顔は近づいてくる。
一体なにが起こるんだ? そう思ったとき、ルイズの唇がリゾットの唇に重なった。柔らかい感触がする。
目を閉じたルイズは何故か頬を染めているが、リゾットにとっては蚊に刺された事と同レベルだ。
と、無感動にルイズを見つめているうちに(何しろ体が動かないのでそれ以外出来ない)キスは終わり、ルイズは唇を離した。

150暗殺者チーム全員召喚:2007/07/02(月) 13:27:10 ID:???
「終わりました」
少し恥らいながらコルベールに向かって報告するルイズを、リゾットは冷めた表情で眺める。
「『サモン・サーヴァントは』何回も失敗したが、『コントラクト・サーヴァント』はきちんとできたね」
やっと厄介ごとが終わったというように晴れ晴れとした顔でコルベールが言った。
その言葉にリゾットは心の中だけで盛大に舌打ちする。やはり今のは使い魔とやらの契約の儀式だったらしい。
面倒な事になったと、頭を抱えたくなった。ルイズの唇が離れたせいか、体は元通り動くようになっていた。
後ろをもう一度覗くが、仲間たちはまだ目を覚まさない。普段の彼らならすぐに起きるのだが、一回死んでいるので勝手が違うのだろうか。
殴って起こそうかとも考えたが、スタンド攻撃が飛んできそうなので遠慮しておいた。
ここでザ・グレイトフル・デッドやホワイト・アルバムなんぞを発生させたら大変な事になる。
「相手がただの平民だから『契約』できたんだよ」
「そいつが高位の幻獣だったら、『契約』なんかできないって」
リゾットの注意が逸れている間も彼らの会話は進んでいく。それにしても平民平民と煩いものだ。リゾットは真剣にメタリカで口を塞ごうかと考える。
「バカにしないで! わたしだってたまにはうまくいくわよ!」
「ほんとにたまによね。ゼロのルイズ」
おほほほ、と今にもお嬢様笑いが聞こえてきそうな声音で、見事な巻き毛を持つブロンドの少女が言う。
顔にはそばかすが散っていて、まだまだガキといった容貌だ。外見と中身が比例している良い例である。
「ミスタ・コルベール! 『洪水』のモンモランシーがわたしを侮辱しました!」
「誰が『洪水』ですって! わたしは『香水』のモンモランシーよ!」
「あんた小さい頃、洪水みたいなおねしょしてたって話じゃない。『洪水』の方がお似合いよ!」
「よくも言ってくれたわね! ゼロのルイズ! ゼロのくせになによ!」
「こらこら。貴族はお互いを尊重しあうものだ」

151暗殺者チーム全員召喚:2007/07/02(月) 13:27:55 ID:???
ルイズとモンモランシーとかいう女の聞くに堪えない低レベルな口喧嘩(少なくともリゾットは耳栓がほしくなった)を、穏やかな声でコルベールが宥める。
この男、この集団と一人で相対しても勝てるほど飛び抜けた強さを持っているが、あまり畏怖されていないようだ。その事に僅かに首を傾げた瞬間、リゾットの体が熱くなった。
「なんだ、これはッ?!」
熱の発信源はどうやら左腕のようだ。見れば左手の甲に見知らぬ文様が刻まれていっている。熱い。
我慢出来ないほどではないが、脂汗が滲むのを感じた。
「『使い魔のルーン』が刻まれているだけよ。すぐ終わるわよ」
やはりさっきのキスが契約履行の条件だったらしく、ルイズは苛立った声で説明してくれた。
どうやら契約のキスがよっぽどおきに召さなかったと思われる。しかし、激痛に襲われるリゾットにはそこまでルイズを観察する余裕は無い。
ぐっと唇を噛み締めて痛みに耐える。そして、その数瞬後、熱と痛みはあっさりと退いた。
「……使い魔のルーンか……。本格的だな……」
異常が終わった事に安堵の息を吐いたリゾットは、左手の甲に浮かび上がった文様を見てそう零した。
すると、コルベールが近づいてきて、リゾットの左手を持ち上げた。リゾットは反射的に攻撃に転じようとして、意識的にそれを抑えた。
コルベールにはリゾットに危害を加えようとする意志は無い。ただ、リゾットに刻まれたルーンを確認しようとしているだけだ。
相手に完全に敵意が無いことを理解し、リゾットはそれまで無意識に行っていた警戒を解いた。
この男はリゾットが敵になろうと思わない限り攻撃してこないだろう。
「ふむ……。珍しいルーンだな」
何か突っ込まれるかと思ったが、感想はそれだけのようだった。
もしかしたら自分が普通の人間ではないことがばれるかもしれないと思っていたリゾットは、この台詞に安心する。

152暗殺者チーム全員召喚:2007/07/02(月) 13:28:32 ID:???
「さてと、じゃあ皆教室に戻るぞ」
「ちょっと待ってくれ」
くるりと踵を返して生徒たちに指示を出すコルベールを、リゾットは呼び止めた。平民の事を侮っている者たちなので無視されるかもしれないと案じていたが、リゾットが初めて自主的に声を掛けたからか、コルベールは興味深げな顔をして振り返ってくれた。
「何かね、――……ええと……」
声を掛けたコルベールはそこで自分がこの使い魔の名前を知らないことに気付いたようで、視線で名前を尋ねる。
リゾットはここで反抗的な態度を取る事のデメリットを理解していたので、出来るだけ丁重な口調で話すことにした。
「リゾット。リゾット・ネエロという。不躾で悪いのだが、気絶している彼らを運ぶのを手伝ってもらいたいのだが、お願いできるだろうか?」
その言葉にコルベールは、ああ、と軽く頷いた。別に了承したのではなく、失念していたことを思い出した、という様子だ。
複数形で話してはいたが、リゾットの仲間の事はすっかり忘れ去られていたらしい。
「そうだな、六人もの人間を学院まで運ぶのは難しいだろう。分かった。彼らはわたしが責任をもって学院に送り届けよう。君はミス・ヴァリエールと共に来たまえ」
そう言って今度こそコルベールは生徒たちに向き直り、宙に浮かんだ。
魔法使いと思わしき格好をしていることから、リゾットはこの可能性を頭のどこかで肯定していたが、想像と実際に見てみるとは大違いだという事を知る。
思わずぽかんとした間抜けな表情で、すうっと空中に飛び上がって静止するコルベールの後ろ姿を見上げる。さらに生徒たちも一斉に空へと浮かんだ。
およそ十メートルの高度で留まっている。ある意味でとても衝撃が強い光景だ。メローネなんかは飛び跳ねて喜びそうだが、あいにくとリゾットにそんな余裕は無い。
生まれて初めて見る魔法にひたすら唖然としていた。そうしているうちに、まずはコルベールが気絶しているリゾットの仲間たちを背後に浮かべて地平線の少し手前に位置している城へ向かって飛び出す。
「ルイズ、お前は歩いてこいよ!」
「あいつ『フライ』はおろか『レビテーション』さえまともにできないんだぜ」
「その平民、あんたの使い魔にお似合いよ!」
次に生徒たちが口々にルイズをからかう言葉を残して去っていった。

153暗殺者チーム全員召喚:2007/07/02(月) 13:29:12 ID:???
これにはさすがのリゾットも、人間が宙を飛んでいくという画期的なシーンを目撃した興奮に砂をかけられた気分になった。
ある意味心沸き立つ光景であったため余韻に浸りたかったのだが、台無しである。が、そのおかげで現実に立ち戻ったリゾットは、横に居るルイズを見やった。
ルイズは先ほどの生徒たちの哄笑に怒りを感じているらしく、苛立ちを込めた視線で去っていく生徒たちの後ろ姿を睨みつけていた。
「あんた、なんなのよ!」
しかし、リゾットが自分を見ていることに気付くと、いきなりキレてきた。リゾットは一瞬この展開の速さについて行けずに目を見張る。
もっとも感情豊かなルイズに比べたら微々たる変化なので、相対するルイズは無反応だと感じたようで、さらに言葉を重ねるために息を吸った。
「なんで『サモン・サーヴァント』であんたみたいな平民を呼び出しちゃうのよ! ああ、ドラゴンとかグリフォンとかマンティコアとか……カッコいいのがよかったのに。それがダメだったらせめてフクロウとかワシとかそんな有能な使い魔を望んでたのに!」
どうやら癇癪玉が爆発してしまったらしい。地団太を踏んで悔しがっている。
リゾットはそんなルイズに向かってメタリカを発動させたかったが、仲間を全員生き返らせてもらった恩があるので何とか堪える。
ギアッチョだったら即行ブチギレて殴りかかるだろうな、プロシュートなら説教タイムに突入するだろう。と、苛々を紛らわせるために別のことを考えながら。
「…………それなのに、それなのに! なんであんたみたいな平民がのこのこ召喚されちゃうの?! 由緒正しい古い家柄を誇るヴァリエール家の三女であるこのわたしがなんであんたみたいな平民を使い魔にしないといけないの? ああ、わたしの人生お先真っ暗だわ!」
「………………それはすまないな。ところでミス・ヴァリエール」
全然申し訳ないと思ってない表情と声でリゾットは謝ってみせる。
ルイズはそれに対して、誠意が篭ってない! と怒鳴ったが、一応話を聞くつもりはあるらしい。じっとリゾットの目を見つめた。
「ここはどこなのか教えてもらえないか?」
「は? あんたそんな田舎から来たの? ここはトリステインよ。そして、あそこに見える城がトリステイン魔法学院! ちなみにわたしは二年生のルイズ・ド・ラ・ヴァリエールよ。今日からあんたのご主人様だからね。ちゃんと覚えておきなさいよ」
だが断る。と、リゾットは返そうと思ったが、話がややこしくなるので止めておく。
その代わり新たに入った知識で推測を補強することにした。

154暗殺者チーム全員召喚:2007/07/02(月) 13:29:50 ID:???
(この国の名前はトリステイン。地球上には存在しない国だな。先ほどの魔法の件もあるから、ここは本当に正真正銘の異世界なのだろう。そして、トリステイン魔法学院とか言ったな。ならばそこは国立校だと分かる。その学校に通っているという事は、このルイズとか言う女はかなり身分の高い貴族だという事になる。そうして、貴族は平民を見下している。それもかなり徹底的にな)
ルイズはその隣で、トリステイン魔法学院も知らない田舎者の平民を使い魔にするなんて。しかも、ファーストキスだったのに。
と、さらに嘆いていたが、自分の思考に没頭していたリゾットは余裕で無視した。
(とりあえず今はこの世界の情報を手に入れる事を優先しなくてはいけないな。ボスへの反逆でここしばらく緊迫した状態が続いていたからな……、少しは休息も必要だろう。それに……この女には恩もある)
リゾットは飽く迄仲間たちのことを考えていた。成り行きで使い魔になってしまったが、人の実力を見極める事もできずに喚き散らすだけしか出来ない主人に忠誠を誓う気はまったく持ってない。
――つまり、真面目に使い魔をやる気などこれっぽっちもないのである。しかし、ルイズに恩があることも事実。それを返さないことはリゾットの生き様にも関わる不祥事だ。
(恩を返すまでは使い魔として仕えるが、それ以後は………………この女次第だな)
ちらりと横目でリゾットはルイズを見下ろす。彼女はまだリゾットたちを召喚してしまった事を嘆いていた。始祖ブリミルがどうとかこうとかと呟いている。
しかし、リゾットはこの我侭な少女が、まだ研磨する前の宝石のような存在である事を見抜いていた。

155暗殺者チーム全員召喚:2007/07/02(月) 13:33:14 ID:???
以上です。

ところどころくどい文章なのは自分の癖なので改善していきたいです。
リゾットが落ち着いている&前向きなのは仲間が揃っているからで、
一人だったら超後ろ向きだったと思います。


↑この上の文章まで投下お願いします。

156名無しさん:2007/07/02(月) 13:33:55 ID:???
あいよー

157奇妙なルイズ:2007/07/02(月) 23:47:24 ID:???
気を失ったルイズは、手近な部屋のベッドへと運び込まれた。
ニューカッスル城の水のメイジは、極度の緊張から解放されたストレスで気を失ったのだと診断した。
ウエールズの計らいで、ワルドもまた、消費しきった魔力を回復するためにルイズの傍らで体を休めていた。

ルイズは、すぐ側の椅子にワルドが座っているのを感じていた。
起きあがり声をかけようとしたが、体も動かず、声も出ない。
なんとか体を動かそうとするルイズに、誰かの声が聞こえてきた。
『………ズ』

『…ルイズ…』
しばらくその声に耳を傾けていると、少しずつハッキリと聞こえてくるようになった。
「だれ? 私を呼んでるのは」
『やれやれ、やっと気づいたか』
暗い意識の中で、ルイズの目の前には、不思議な出で立ちの男が立っていた。
五芒星の装飾をあしらった黒い服に身を包み、マントと見まがうような長いコートを着ている。
少なくともトリスティンでは見たこともない服装だったが、ルイズはその男が誰なのか知っていた。
「あんた、オークに殴られた時に助けてくれた…ええと…なんだっけ」
『空条承太郎だ』
「クゥジョー、ジョォタロー? 変な名前ね…ねえ、貴方、もしかしてあの変な円盤から出てきたの?」
ルイズが使い魔召喚の日に見つけた、銀色の円盤を思い浮かべる。
そのイメージが伝わったのか、承太郎は無言で頷いた。
「ふーん…何よ、やっぱり私、サモン・サーヴァントに成功してたんじゃない」
『やれやれ、いろんなスタンド使いと戦ったが…使い魔として呼び出されるなんてのは初めてだ』
「そりゃそうでしょうね、貴方の記憶が夢に出てきたもの、あなたの世界ってこっちとはずいぶん違…」
そこまで言ってルイズは思い出した、目の前の男は、承太郎は、時間の加速した世界の中で、仲間がバラバラにされていくのを見ていたのだ。
その中にはもちろん実の娘もいた、杉本鈴美が自分以外の幽霊の姿を見たように、彼もまた幽霊の視点で娘の死を見ていたのだろう。
『…気にするな、徐倫は、やるべきことをしたんだ』
「ごめんなさい…でも、あの時死んだ貴方がなぜDISCになって現れたの?」
『さあな、それは俺にも分からん、だが、今俺は使い魔として召喚され、お前の意識に同居している、それだけが事実だ』
ルイズは意識の中で、腰に手を当て、胸を張った。
「使い魔としての自覚はあるのね、ちょっと複雑だけど…でも、いいわ。それと私のことはルイズでいいわよ。どうせ他の人には聞こえないもの」
『わかった』
「で、突然私の前に現れたのはなぜ?ウエールズ王太子殿下に手紙を渡さないといけないのよ」
『その事だが、一つだけ言っておきたいことがある』
「何?」
『ワルド…奴には気をつけろ』
「えっ…」

158奇妙なルイズ:2007/07/02(月) 23:47:57 ID:???
そこでルイズの意識は光に包まれた。
ガバッ、と体を起こすと、そこはベッドの上だった。
近くにいたワルドがルイズを心配して駆け寄る。
「ルイズ!目が覚めたか、大丈夫か?」
「あ、ワルド…うん、大丈夫よ、ちょっと疲れたみたい、ごめんなさい」
「それならいいんだ、僕の花嫁に何かあったら、僕は気が気じゃないからね」
今まで何かの夢を見ていた、それだけは覚えている、しかもワルドに関わる夢を見ていたはずだ。
しかし、その夢の内容が思い出せない。
ルイズはベッドから降りると、ウェールズ王太子に面会するため、ワルドと共に部屋を出て行った。


ウェールズの部屋は王子の部屋とは思えない程粗末で、質素な部屋だった。
ルイズはウェールズから手紙を受け取る、確かにアンリエッタの花押が押されている。
「ありがとうございます」
ルイズは深々と頭を下げ、手紙を懐にしまった。
「明日の朝、非戦闘員を乗せた『イーグル』号が、ここを出港する。それに乗ってトリステインに帰りなさい」
ウェールズは実に爽やかに言ってのける。
しかしその言葉は、自分はそれに乗らないというニュアンスが含まれていた。
「あの、殿下…王軍に勝ち目はないのですか?」
ルイズは一瞬だけ躊躇したが、ウェールズの目を見据えて言った、それに答えるかのように、ウェールズも凛々しいまなざしをルイズに向けて答えた。
「ないよ。我が軍は三百。敵軍は五万。万に一つの可能性もありえない。我々にできることは、勇敢な死に様を連中に見せることだけだ」
ルイズは俯いた。
「殿下の、討ち死になさる様も、その中には含まれるのですか?」
「当然だ。私は真っ先に死ぬつもりだよ」
ガタン、と扉から音が鳴った。
それに気づいたウェールズは杖を振って扉を開く、すると扉の向こうには、ルイズ達を迎えたメイドが立っていた。
「きみは…」
そのメイドは、恭しく頭を垂れると、ウェールズの部屋へと入り、扉を閉めた。
「殿下、お使者の方々、失礼をお許し下さい。恐れながら申し上げたいことがございます」
「…申してみよ」
「どうかトリスティンに亡命なされませ、私どもはアルビオンの意志と血を絶やさぬために戦うのです、どうか、王太子殿下だけでも生き延びて…」
「それは、できない」
ウェールズがきっぱりと言い放つ。
「君は非戦闘員だ、女子供を無惨に殺されるわけにはいかぬ、私は名誉のために死を選ぶのではない、意志を伝えるために戦うのだ、戦わなければ、意志は受け継がれないのだよ」
「ですが…!」
「トリスティンからの使者の前だ、これ以上の無礼は私が許さん、下がりなさい」
ウェールズの固い決心を聞いてもなお、納得いかないといった表情だったが、メイドは一礼するとウェールズの部屋から退室した。
「ふぅ…メイドが失礼をした、あのように私を慕ってくれる者もいるのだ、だからこそ私は戦わなければならないのだよ」

159奇妙なルイズ:2007/07/02(月) 23:48:30 ID:???
ルイズはウェールズの言葉を黙って聞いていたが、意を決して話し出した。
「この、ただいまお預かりした手紙の内容、これは…」
ごくり、と喉が鳴る。
「この任務をわたくしに仰せつけられた際の姫さまのご様子、尋常ではございませんでした。そう、まるで、恋人を案じるような……。それに、手紙に接吻なさった際の殿下の物憂げなお顔といい、もしや、姫さまと、ウェールズ皇太子殿下は……」
ウェールズは微笑んだ。ルイズが言いたいことを察したのである。
「きみは、従妹のアンリエッタと、この私が恋仲であったと言いたいのかね?」
ルイズが頷くと、ウェールズは悩んだ仕草をしたあと、口を開いた。
「その通り。きみが想像しているとおり、これは恋文さ、彼女は始祖ブリミルの名おいて、永久の愛を私に誓ったんだ」
ルイズは「ああ」と心の中でため息を漏らした。
始祖に誓う愛は、つまり婚姻の際の誓い。アンリエッタが既にウェールズと愛を誓っていると知られれば、ゲルマニアの皇帝との結婚は重婚となる。
重婚の罪を犯したと知られれば、ゲルマニアの皇帝は、姫との婚約は取り消し、同盟の約束も反故にしてしまうだろう。
「殿下…姫様の手紙には、殿下に亡命を求める内容など一言も書かれてはいなかったと思います。 それが、それが姫様の、姫様の『覚悟』でございます、ですが、私は…私は殿下に亡命を、トリスティンへの亡命を進言致します!」
ワルドがルイズの肩を押さえる、落ち着けと言いたいのだろうが、ルイズの興奮は収まらない。
「それはできんよ」
ウェールズは笑いながら言った。
「殿下、これはわたくしだけの願いではございません!姫さまの願いでございます!姫さまがご自分の愛した人を見捨てるわけがございません!姫様の覚悟を、どうか!」
ウェールズは首を振った。
「…君は、本当にアンリエッタのことを知っているのだね、幼い頃の遊び相手の話を、アンリエッタはよく話してくれたよ、君がそうなのだろう?」
「殿下!」
ルイズはウェールズに詰め寄った。
「私は王族だ。そしてアンリエッタを愛する一人の男でもある、だからこそアンリエッタの覚悟を汲まねばならぬ。アンリエッタはこの手紙を覚悟して書いたのだろう、『この手紙に書かれていることが真実である』と『覚悟』して書いたのだろう。だからこそ、姫と、私の名誉に誓って、私はここで戦い、そしてアルビオンの意志を貴族派の者達に、世界の者達に見せなければならぬ」
ウェールズは苦しそうに言った。
王女であるアンリエッタが、どれだけの苦しみを覚悟して、残酷な手紙を書いたのか、ウェールズには居たいほど理解できたのだ。
ウェールズがルイズの肩を叩く。
「きみは、正直な女の子だな。ラ・ヴァリエール嬢。正直で、純粋な、いい目をしている」
ルイズは、寂しそうに俯いた。
「忠告しよう。そのように正直では大使は務まらぬよ。しっかりしなさい」
ウェールズの微笑みは、爽やかな、魅力的な笑みだった。
「しかしながら、亡国への大使としては適任かもしれぬ。明日に滅ぶ政府は、誰より正直だからね。なぜなら、名誉以外に守るものが他にないのだから」

そう言うとウェールズは時計を見る、決戦前夜のパーティーの時間が近づいていた。
ウェールズは、ルイズとワルドにパーティへの出席を促すと、部屋を出て行った。

160奇妙なルイズ:2007/07/02(月) 23:49:07 ID:???
パーティは城のホールで行われた。
簡易の玉座が置かれ、そこにはアルビオンの王が腰掛けて、集まった貴族や臣下を見守っていた。
とても、明日には滅びる者達のパーティとは思えない、華やかなパーティーだった。
最後の晩餐に参加したトリステイン客、ルイズとワルドの二人は、城に残った王党派の貴族達に最高のものを振る舞われた。
明日死ぬかもしれない、そんな悲観に暮れた言葉など一切漏らさず、二人に明るく料理を、酒を勧め、冗談を言ってきた。


ルイズは歓迎が一段落つくのを見計らって、ホールを離れた。
城のバルコニーへと出て月夜を眺めようとしたのだ。
しかし、そこには先客が居た。
先ほどウェールズに進言しようとしたメイドが、ウェールズに何かを訴えていたのだ。
「殿下…怖くは、ないのですか?」
「怖い?」
ウェールズはきょとんとした顔をして、メイドを見つめた、そしてはっはっはと笑った。
「怖いさ!だがね、私を案じてくれる者がいるからこそ、私は笑っていられるのだよ」
「そんな…私だったら、私だったら、怖くてとても、殿下のように笑えません、そんな風に笑えるなんて、私には」
「いいかね? 死ぬのが怖くない人間なんているわけがない。王族も、貴族も、平民も、それは同じだろう」
「では」
「守るべきものがあるからだ。守るべきものの大きさが、死の恐怖を忘れさせてくれるのだ」
「何を守るのですか?私は、モット伯に引き取られたとき、モット伯の衛士の方から、どんなにふがいなくとも生きろと教えられました、生き残る屈辱に耐えて、伝えるべき『魂』を伝えろと、そう教わったのです」
メイドは語気を強めて言ったが、ウェールズは笑顔を崩さない、そして、言い聞かせるように優しく語り始めた。
「優しいのだな、君は、だからこそ私は君たちに生きて欲しい、語り継ぐのは君たちの役目だ、私が戦わなければ、アルビオンの貴族が勇敢に戦ったと言えなくなるのだよ」
「でも…もう、すでに勝ち目はないですのに…」
「我らは勝てずともいい、せめて勇気と名誉の片鱗を貴族派に見せつけ、ハルケギニアの王家たちは弱敵ではないことを示さねばならぬ。君は将来、誰かと恋に落ち、そして子を育てるだろう、私はその子らの為に戦いに行くのだ、無碍に民草の血を流させぬためにも、少数でも団結した者達が如何に難敵であるかを見せつけねばならんのだよ。」
「そんな…」
「これは我らの義務なのだ。王家に生まれたものの義務なのだ。内憂を払えなかった王家に、最後に課せられた義務なのだよ、君は違う、生き延びなさい」
そう言ってウェールズはバルコニーを離れた、廊下で立ち聞きしていたルイズを見つけ、ウェールズはルイズに微笑んだ。
「おやおや、聞こえてしまったが。…今言ったことは、アンリエッタには告げないでくれたまえ。いらぬ心労は、彼女の美貌を害してしまう。彼女は可憐な花のようだ。きみもそう思うだろう?」
ルイズは頷いた。それを見たウェールズは、目をつむって言った。
「ただ、こう伝えてくれたまえ。ウェールズは、勇敢に戦い、勇敢に死んでいったと。それで十分だ」
それだけ言うと、ウェールズは再びパーティーの中心に入っていった。

161奇妙なルイズ:2007/07/02(月) 23:49:56 ID:???
翌日、非戦闘員が秘密港から避難している頃。
始祖ブリミルの像が置かれた礼拝堂で、ウェールズ皇太子は新郎と新婦の登場を待っていた。
周りには誰もいない、戦の準備で忙しいのだ。
ウェールズも、すぐに式を終わらせ、戦の準備に駆けつけるつもりだ。

礼拝堂の扉が開き、ルイズとワルドが現れる。
ルイズは礼拝堂と、ウェールズの姿を見て呆然としたが、ワルドに促されて、ウェールズの前に歩み寄った。
ルイズは戸惑っていた、朝早くワルドに起こされ、ここまで連れてこられたのだだ。
戸惑いはしたが、深く考えずに、半分眠ったような頭でここまでやってきた。
死を覚悟した王子たちの様子、そして、前日に聞いたメイドとウェールズの会話が、ルイズの頭を混乱させていた。
ワルドは、そんなルイズに「今から結婚式をするんだ」と言って、アルビオン王家から借り受けた新婦の冠をルイズの頭にのせた。
新婦の冠は、魔法の力で永久に枯れぬ花があしらわれ、なんとも美しく、清楚なつくりであった。

そしてワルドはルイズの黒いマントを外し、やはりアルビオン王家から借り受けた純白のマントをまとわせた。
新婦しか身につけることを許されぬ、乙女のマントが、ルイズの背中を包んだ。

しかし、そのようにワルドの手によって着飾られたルイズは戸惑っていた。
確かにワルドはあこがれの人だ、その人から結婚を申し込まれて嬉しくないはずはない。
しかし、何かが引っかかる、ワルドの変わらぬ笑顔が、なぜかとても冷たいものに見えた。
ワルドは戸惑い恥ずかしがるルイズの様子を、肯定の意思表示と受け取った。

ウェールズの前で、ルイズとワルドは並び、一礼する。
「では、式を始める」
王子の声が、ルイズの耳に届く。
「新郎、子爵ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド。汝は始祖ブリミルの名において、このものを敬い、愛し、そして妻とすることを誓いますか」
ワルドは重々しく頷いて、杖を握った左手を胸の前に置いた。
「誓います」
ウェールズはにこりと笑って領き、今度はルイズに視線を移した。
「新婦、ラ・ヴァリエール公爵三女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール……」
朗々と、ウェールズが誓いのための詔を読みあげる。
相手は憧れていた頼もしいワルド、自分の父とワルドの父が交わした、結婚の約束が、今まさに成就しようとしている。
ワルドのことは嫌いではない、しかし…

162奇妙なルイズ:2007/07/02(月) 23:51:08 ID:???
「新婦?」
ウェールズがこっちを見ている。ルイズは慌てて顔を上げた。
「緊張しているのかい? 仕方がない。初めてのときは、ことがなんであれ、緊張するものだからね」
にっこりと笑って、ウェールズは続けた。
「まあ、これは儀礼に過ぎぬが、儀礼にはそれをするだけの意味がある。では繰り返そう。汝は始祖ブリミルの名において、このものを敬い、愛し、そして夫と……」
そしてルイズは思い出す。
スタープラチナが視た映像を。

桟橋で、ルイズの前に現れた、仮面の男。
その男の背丈は、ワルドと完全に一致する。
顔に被った仮面も、ワルドの変わらぬ笑顔を象徴するかの如くだった。
そして何よりも、ワルドは風のスクエアであるという事実。

風の魔法には、偏在の魔法という、分身を作り出す魔法がある。
偏在とは、空気が『色』と『形』を持ち、見た目こそ魔法を詠唱したメイジと変わらぬ姿を出現させるが、その中身は言わば『雲』だ。

ルイズの傍らに立つ使い魔、スタープラチナの腕が、承太郎の心臓を止めた時のように、ワルドの身体に入り込んでいた。

ワルドの身体の中には、内蔵の感触が無かった。


「新婦?」
「ルイズ?」
二人が怪訝な顔で、ルイズの顔を覗き込む。
ルイズはワルドに向き直り、悲しい表情を浮かべて首を横に振った。
「どうしたね、ルイズ。気分でも悪いのかい?」
「違うの…」
「日が悪いなら、改めて……」
「そうじゃない、そうじゃないの。ワルド、わたし、あなたとは結婚できない」
いきなりの展開に、ウェールズは首をかしげた。
「新婦は、この結婚を望まぬのか?」
「そのとおりでございます。私は…分身と結婚しようとは思いません」
ウェールズは困ったように首をかしげたが、『分身』の意味するところに気づき、真剣な表情でワルドを見た。
ワルドはウェールズに見向きもせずに、ルイズの手を取った。
「……緊張してるんだ。そうだろルイズ。きみが、僕との結婚を拒むわけがない」
「さわらないで!」

163奇妙なルイズ:2007/07/02(月) 23:51:47 ID:???
ルイズがワルドの手をはねのける、するとワルドはルイズの肩を掴む。
ワルドの目はつりあがり、既に笑顔はない、まるでトカゲか何かを思わせる表情に変わった。
「ルイズ。僕は世界を手に入れる! そのためにきみが必要なんだ!」
ルイズはワルドの手から逃れようと後ろに飛ぶ、そしてウエールズがワルドとルイズの間に割って入り、ワルドを制止した。
「なんたる無礼!なんたる侮辱だ! 子爵よ、風が教えてくれている、本体は扉の外に隠れているな!」
そう言ってウェールズはウインド・カッターを唱え、ワルドの身体を切り裂く、するとワルドの身体は霧のように霧散して消えた。
それと同時に、礼拝堂の扉が開かれた、そこにはワルドと、城の衛士の死体が転がっていた。
ワルドの表情は怒りでもなく、笑顔でもない。しかし無表情でもない、言うなれば冷たい表情で、じっとルイズを見つめていた。
「君はなんたる無礼な振る舞いをしたのだ!我が魔法の刃は、きみ決して許しはせぬぞ!」
ウェールズの言葉を意に介さず、ワルドは礼拝壇に向けて歩き出した。
「この旅で、きみの気持ちをつかむために、随分努力したんだが……」
「よく言うわ」
「こうなってはしかたない。ならば目的の一つは諦よう」
 ワルドは唇の端をつりあげると、禍々しい笑みを浮かべた。
「この旅における僕の目的は三つだ、その二つが達成できただけでも、よしとしなければな」
そう言いながらワルドは、ウェールズを指さした。
「まず一つはきみだ。ルイズ。きみを手に入れることだ。しかし、これは果たせないようだ」
ルイズは黙っていた、ウェールズもワルドを警戒しながら杖を向ける。
「二つ目の目的は、ルイズ、きみのポケットに入っている、アンリエッタの手紙だ」
ルイズも杖を抜き、魔法の詠唱を始める。
「そして三つ目……」
ワルドの『アンリエッタの手紙』という言葉で、すべてを察したウェールズが呪文を詠唱した。

しかし、ワルドは二つ名の閃光のように素早く杖を引き抜き、一瞬で呪文の詠唱を完成させた。

礼拝堂の入り口から、目にも止まらぬ速度でウェールズへと接近したワルド。
ウェールズの胸を、魔法をまとった杖で貫こうとした、そのとき、ルイズの身体が何かを『超えた』


『最初は幻覚だと思った、
 訓練された戦士は、相手の動きが超スローモーションで見え、
 死を直感した人間は、一瞬が何秒にも何分にも感じられるあれだと思った。
 だけど、私は、
 その静止している空間を、二歩、三歩と駆けて、ウェールズ殿下の身代わりになることができた、
 幻覚では、なかったんだ…」

164奇妙なルイズ:2007/07/02(月) 23:52:54 ID:???
すみません、誰か代理投下お願いします。
前回投下してくれた人ありがとう。
ルイズの使い魔が「いないことになってる」と、いろいろ難しい気がする。

165名無しさん:2007/07/03(火) 00:24:35 ID:???
サルさん喰らってしまったので誰か代理投下の続き>>162からお願いします

166名無しさん:2007/07/03(火) 00:29:45 ID:???
了解した

167名無しさん:2007/07/03(火) 00:34:02 ID:???
と思ったら
ギリギリで先に代理をしてくれた人が居たので
その人に任せた

168僕の夢は三色コロネッ!:2007/07/03(火) 18:58:32 ID:???
規制にかかってしまったorz

「別にかまいませんが下着ぐらいは自分ではけるようにしてくださいよ。」
(ご、ご飯抜きにまったく効かない!それにこんな…こんな辱めをうけるなんて!)
「なによ〜。朝っぱらからうるさいわね〜〜なにやってんよ〜。」
そこに隣人であろう女性が入ってきた。ネグリジェ姿でまだ眠そうである。
褐色の肌にモデルが務まるであろうスタイル。ルイズとは正反対の体つきだ。
「キュ、キュルケ!?いや、これはその。こ、このバカ犬がヘビを連れてきたのよ!
そ、それで驚いて」
「ヘビ?どこにもいないじゃない。ねえそこのアナタ。ホントにヘビつれてきたのぉ?」
「つれてきていませんよ。ルイズが寝ぼけていたんでしょう。」
「そうよねぇ。…なにこの変な匂い。これってまさか」
「ええ。ルイズがお漏らししました。」
少しも隠さずストレートッ!しかしこの男。つくづく外道である。
「ちょ、ちょっとなんで言っちゃうのよ!このバカ犬ゥゥ!」
「いいこと聞いちゃった〜♪朝の話題はこれで決まりね。」
「ちょ、ちょっと待ってキュルケ!お願い!お願いだからそれだけは!」
キュルケはルイズのことは嫌いではない。ちょっかい出したりしてるが
心配してやっていることなのだ。モチロンこのことも他の人にしゃべる気など
毛頭ないのだがやめてと言い泣きそうになってるルイズの顔がたまらなくかわいく
思えてきた。しかしこの男。何したんだろう。ドSなのは間違いなさそうね。
「おねがい…ヒック…誰にも言わないで…おねがいよぉぉ」

169僕の夢は三色コロネッ!:2007/07/03(火) 18:59:26 ID:???
ああんもう!かわいいんだから〜〜!
キュルケは泣いてしまったルイズを某鉈女のように抱きしめて
お持ち帰りしたかった。ちょっとそこの男に感謝しよう。


「三人の秘密にしてあげるからね。それで大丈夫よルイズ」
「ホント?」
「ホントにホントよ。ねえそこのアナタ」
「もうちょっと遊ぼうと思いましたがまあいいでしょう」
やっぱりドSね。恐ろしい人ッ!
「や、やるわねアナタ…お名前はなんていうのかしら。」
「ジョルノ・ジョバァーナ。ジョルノでいいです」
「私はキュルケ。キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストー。
人からは微熱のキュルケと呼ばれているわ。これからもよろしくねハンサムさん。」
微熱か…風邪気味なのだろうか。
自己紹介を済ますとスタコラさっさと部屋に戻っていった。
「さあルイズ。なにをしてるんです。僕達も食堂にいきましょう。」
「アンタは…ご飯抜きだからねっ! グスッ」
いじめる分にはかわいげがあるな。これはこれで楽しみの一つかな。
そしてジョルノたちも食堂へ向かった。

170僕の夢は三色コロネッ!:2007/07/03(火) 19:09:58 ID:???
なんとか本スレに書き込めましたッ!

171妄想用C-MOON:2007/07/04(水) 21:36:23 ID:rz8E7Do6
ルイズ→きれいなルイズorデレオンリー  きれいなジャイアンモード

キュルケ→ S→M    みくる属性が付きました まる

タバサ→関西弁めっちゃ喋るor 真の姿?学生服来た長戸召喚ktkr

ギーシュ→GERから解放=出番消える 「おめーに『さよなら』って言葉があるとするならよーーっ 
スレ住民たちが『さよなら』と言うのを聞く時だけだ!!」

フーケ→泥棒の事を忘れ秘書として延々と滞在。「激しい『喜び』はいらない…そのかわり深い『絶望』も
ない…『植物の心』のような人生を…そんな『平穏な生活』を望みだす。」

コルベール→「私の技術力は世界一ィイイイイイイ」 えらそうになる

シエスタ→仗助のDISCがスロットイン!! 小瓶のシーンでギーシュを逆に袋叩き。
「このヘアースタイルがトイレの花子さんみてェーだとォ?」 プッツーーン!!オラオラオラ!!

オールドオスマン→「400年前はわしは輝いていたのじゃぁああああ」スタンドだけ置いて帰ってください
って…あれ?裏返ってない・・・?

ワルド→ロリコンは犯罪でした。覚醒し熟女専門になりミセス・シュヴルーズに求愛 周りドン引き
「相手がロリコンを認めたとき、そいつをすでに逮捕している」

ガリア王→死にたくなった。ハイウェイツゥヘル! ゼロの使い魔 完!ほぅ…それじゃぁ誰がラスボスになるのかな…?
あ…あんたは!死んだはずの!!タバサの父親!!Yes,Iam...ってなわけないだろぉおおお・・・ん?
…何か遠くにメローネが「タバたんを僕にくださいっ!」と言う覚悟してるのは気のせいか?

勢いでやった…反省はしている…まぁ俺の勝手な妄想なんで
他の人の意見でこれは違うだろってあるかもしれませんが、そこはすみません…

172奇妙なルイズ:2007/07/05(木) 02:39:47 ID:???
ドン、と体に衝撃が走り、次の瞬間には礼拝堂の壁に背中を激突させていた。

続いて響いてくる音、エア・ハンマーが床や壁をたたきつける音だろうか。

混濁した意識の中、ルイズは状況を把握しようと必死に視聴覚を働かせようとする。

しかし、強く背中を打ち付けたせいか、呼吸が極端に乱れ、体を動かすことが出来ない、その上ワルドの杖が左肩をえぐり、その痛みがなお呼吸を邪魔していた。

『…ズ ……ルイズ 起きろ』
頭の中に響く声は、夢の中で会った、空条承太郎の声。
その声にハッとしたルイズは、体を丸めて力を入れて、痙攣を押さえ込んだ。
「ワルド…なんで、なんでワルドが裏切るのよっ…」
と、一瞬だけ考えてから、ルイズはかろうじて顔を上げた。
礼拝堂を所狭しと飛び回るワルド達、遍在の魔法で合計七体に分身したワルドは、じわりじわりとウェールズを追いつめていった。
ウェールズもトライアングルとはいえ、かなり優秀なメイジなのか、スクエアであるワルドの攻撃をかろうじて防いでいる。
しかし服はボロボロ、頬や腕からは血を流している、このままでは時間の問題だと、素人でも理解できるだろう。
「ぐっ…杖、杖は…」
視線をワルドに向けたまま、手探りで腰に差した杖を引き抜き、ファイヤーボールの詠唱を始める。
「…ファイヤーボール!」
バァン!と破裂音が鳴り、ウェールズを背後から攻撃しようとしていたワルドの体が弾け、霧のように霧散する。
やった! と喜ぶ間もなく、別のワルドが唱えたエアハンマーで、ルイズの体は再度宙を舞った。
ルイズは勢いよく始祖ブリミルの像に衝突し、ゴォンと重たい金属音を響かせた。
「か  は 」
ドサッ、と冷たい床の上に落ちたルイズは、ブリミルの像と床に衝突したショックで、横隔膜を痙攣させて、体をビクンビクンと震わせた。

173奇妙なルイズ:2007/07/05(木) 02:40:45 ID:???
「ルイズ!邪魔をしなければ、楽に死なせてやろうと思ったのに、いけない娘だ!」
「貴様ァーーッ!」
勝ち誇ったように台詞を吐くワルド、それに怒りを顕わにし、立ち向かおうとするウェールズ。
しかし、ワルドの分身が一人減った程度では、ウェールズが圧倒的不利な状況に立たされている事に変化はなかった。


再度ルイズの頭に声が響く。
『ルイズ、体を貸せ、時間がない』
「ハァ…ッ、と、とっとと、意識を奪えば、いい、でしょ」
砕かれた肩が酷く痛み、呼吸も苦しい、いまにも気絶しそうだが、なぜか気絶できなかった。
『やれやれ…どうやら無理なようだ』
「なんでよっ」
『おまえは、『諦めていない』、だから意識を乗っ取れない』
「肝心なときに、痛っ…じゃあ、どうしろって言うのよ!」
『スタンドをおまえに預ける、俺は…』

『”痛み”を引き受ける』

その声と同時に痛みが薄れ、ルイズの体が軽くなる、ルイズはさっきまでのショック状態が嘘のように立ち上がることが出来た。
それを見たワルドの表情が変わる、そんなバカなとでも言いたいのだろうか、そんな表情だ。

頭の中で声がする。
『思ったより肩からの出血が多い』
「分かってるわよ」
苦悶に満ちていたルイズの表情に、笑顔が戻る。
『スタープラチナはおまえが思ってるほど忠実じゃない』
「分かってるわよ」
痛みなどものともしない、余裕すら感じさせるルイズの表情を見て、ワルドは攻撃対象をルイズに変更した。

174奇妙なルイズ:2007/07/05(木) 02:41:16 ID:???
「ルイズ!君の傍らに立つ”それ”が、それが君の使い魔か!土くれのフーケが言っていたが、まさかそんな”使い魔”を持っていたとは!ルイズ、やはり君は思った通り、素晴らしいメイジだ!」
そう言いながらも他のワルドが呪文を詠唱する、ワルドの戦い方のもっとも厄介な部分だ。
フライの魔法を使いながら攻撃魔法を使うのは不可能だと言われている、しかしワルドは三人以上に分身することで、浮遊と攻撃の魔法を交互に唱え、自由自在に魔法を駆使するのだ。
ワルドの台詞が終わったと同時に、右から別のワルドがライトニング・クラウドを放つ。
「おらぁーっ!」『オオオオオオラァァ!』
ルイズと同時にスタープラチナが雄叫びを上げ、始祖ブリミル像を破壊する。
その破片の中に隠れるようにして、ルイズは宙に浮き、ライトニング・クラウドの電撃は破片に吸収された。
「何ッ!?」
おそらく本体であろうワルドが驚きの声を上げる。
ルイズは破片の合間を縫って、天井近まで勢いよく飛び上がった。
しかしそこには、別のワルドが接近し、呪文の詠唱を完成させようとしていた。
ワルドが杖を向け、魔法を放つより一瞬早く、ルイズは天井に意識『破壊』のイメージを向けた。
「おらおらおらおらおらおらおらおらおらおらァッ!」
『オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァッ!』
スタープラチナの放つ拳が、轟音と共に固定化のかけられた天井を破壊する。
その破片をワルドに向かって跳ね返す、するとワルドはその破片を避けた。
ルイズは考えた、緊急回避が可能ならば、フライでもレビテーションでもない、おそらく風の魔法で飛んでいる。
スタープラチナの目が素早く下を見ると、ワルドの攻撃を必死に避けるウェールズと、こちらぬ杖を向けているワルドが一人見えた。
「スタープラチナ!」
ルイズの叫びと同時に、スタープラチナはルイズの手からブリミルの像の破片を奪う。
そしてスターフィンガーと同じように力を集中させた指先が、目の前のワルドを宙に浮かせているであろう、もう一人のワルドに向けて、その破片をはじき飛ばした。

175奇妙なルイズ:2007/07/05(木) 02:42:07 ID:???
「ぐあっ!?」
宙に向けて杖を向けていたワルドが声を上げる、破片が左目から頭を貫通し、ワルドは煙のように消えた。
目の前のワルドもあわててフライの呪文を詠唱しようとするが、それよりも早く落下途中の破片をワルドに向けて殴り飛ばした。
「ぐおっ!?」
蛙のつぶれるような声と共に、そのワルドも顔面を削られ、煙となってかき消えた。

(あと四人!)
スタープラチナを使って着地の衝撃を和らげると、ウエールズを取り囲んでいた四人のワルドのうち三人が、ルイズから離れるようにして跳躍する。
そしてウェールズと戦っていたワルドが、他の三人とは別方向に跳躍する。
ルイズはその隙にウェールズの側に駆け寄った、ウェールズは全身傷だらけに見えたが、それほど深い傷は受けてはいないようだ。
「殿下!」
「ミス・ヴァリエール、このような目に遭わせてしまって、申し訳がない」
「覚悟の上です!それより、何とかここを脱出しましょう」
「…私が活路を開く、君はその隙に逃げなさい!」
そう言うとウェールズは魔法を詠唱し、竜巻を作り出した。
竜巻はウェールズとルイズを囲み、礼拝堂の中を埋め尽くそうと勢いを増していく。
少しだけでもワルドの足止めが出来ればいい、そう考えての行動だった。
しかしルイズは、ワルドの一人が笑みを浮かべたのに気づいた。
…まずい!
そう思った次の瞬間、二人を囲む竜巻から、光り輝く刃のようなものが飛び混む。
刃はウェールズを狙って飛び込んできたが、その直前スタープラチナが刃を弾いた。
「ッ…!」
ルイズの手に痛みが走る、痛みは一瞬だったが、手の甲がパックリと裂けていた。
承太郎が痛みを引き受けてくれてはいるが、ダメージを増やすのは得策ではない。
そんなことを考えている間にも、輝く刃がは竜巻の中で数を増していく、青白い光はルイズとウェールズの血を吸おうと、不気味に輝いていた。
「殿下!風で吹き飛ばしてください!」
「く…、む、無理だ…耐えるのが、精一杯…!」
ウェールズは杖を構えたまま脂汗を流しながら返事をした、すると、それを見たワルド達が高笑いをして、言った。

176奇妙なルイズ:2007/07/05(木) 02:43:39 ID:???
「「「」「ハハハハハハハハハ!」」」」
「ウェールズ皇太子殿下、君はスクエアのメイジを甘く見たな」
「この青白いはエア・ニードル、真空の渦に触れれば肉は裂け骨は砕ける!」
「さきほど、そこを歩いていたメイドからナイフとフォークを借りてね、エアニードルの核にしたのだよ」
「分身を作り出した後でも、この程度の竜巻を飲み込むのはたやすい!」

そう言ってワルドの一人が杖を振る、すると、ウェールズの顔がより厳しいものに変わる。
一人は竜巻を作り出し、ウェールズの竜巻を取り囲み、押しつぶそうとしている。
一人はエア・ニードルの魔法を食器のナイフにかけている。
一人はエア・ニードルを風の魔法で操り、竜巻の中にいる私達に狙いを定めている。
一人は…何かの袋を取り出した。

「火の秘薬だ!」
ウェールズが叫ぶ、そして、同時にワルドの竜巻がウエールズの竜巻を押しつぶし、竜巻は大人二人入るのがやっとの大きさにまで縮められてしまった。
ルイズと、ウェールズの身体をエア・ニードルが切り裂いていく、スタープラチナでナイフを弾き、致命傷を裂けてはいるものの、ルイズの手は切り傷だらけで、何カ所かは骨にまで達している。

袋を開けたワルドが、竜巻に袋を向けて、言った。
「ルイズ、君には驚いたよ、スクエアのメイジを一時的にとはいえ手こずらせたのだからね、だが…ここでお別れだ。だめ押しに火の秘薬を受けたまえ」
そう言ってワルドが竜巻に火の秘薬を流す。
「スタープラチナ!」
「もう遅い!脱出不可能よ!」
そしてワルドは杖を振って、火の秘薬に着火した。

ドォォン…と、城が響く。
火の秘薬は竜巻により、爆発に近い強烈な燃焼を起こし、超高温の竜巻がルイズとウェールズを包んだ。

竜巻が消えた後には、焼けこげた地面しか残っておらず、二人が死んだのは誰の目にも明らかだ多。

ワルドは、自分を追いつめた婚約者に敬意を払うため、地面に転がっているルイズの杖を拾おうとした。

177奇妙なルイズ:2007/07/05(木) 02:44:09 ID:???
「うあああああああああああああああああああああア!」
『オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァーーーッ!!!!』
「ぐがっ!?」
上空から突如現れたルイズに驚いたワルドは、とっさにエア・ハンマーを自分に当てて逃げたが、スタープラチナの拳を胸と腕に食らい、バランスを崩して着地に失敗した。
ルイズは肩に乗せたウェールズを床に降ろしてから、ワルドに近づいた。
「な、なぜだっ!ど、どうやって逃げた!」
「…殴っても消えないって事は、貴方が本体のようね、ワルド」
ルイズの表情が、いつものものでははない、これからワルドを殺そうとしている、それだけの覚悟が感じられた。
ワルドはテレパシーのようなもので他の三人のワルドに意志を伝える、ルイズを殺せと。
分身が杖を振り、魔法を放とうとしたその時、突如分身達の目の前にナイフが現れた。
「「「!?」」」
どすっ、と、訳も分からぬうちに分身達は頭にナイフを生やして、霧散した。
「な…な…」
ワルドは、ただ呻くしかできなかった。
何が起こった?
今、何が起こったのだ?
わからない、だが、一つだけ理解できることがある。

ルイズは自分を殺そうとしている。

思い沈黙が流れた。

ドォォォンと、外から爆音が響く。
反乱軍達の侵攻が、とうとう城内に及んだのだろう。
ワルドの頭に、「もう少し時間を稼げば助かるかもしれない」という考えが浮かんだ。
それが命取りだった。
目の前のことに集中していればいいものの、彼は雑念で気を散らせてしまったのだ。
助かるかも知れない、と考えるワルドの腹に、スタープラチナのつま先がめり込んでいた。

178奇妙なルイズ:2007/07/05(木) 02:44:48 ID:???
「……!」
声にならないワルドに、再度スタープラチナで殴りかかろうとしたその時、偶然、天井が崩れた。
それに気づいたルイズは慌ててウェールズの側に飛んだ。
「スタープラチナ!」
『オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァーッ!』
落ちてくる天井の破片をスタープラチナで破壊し、ウェールズの安全を確保した時、礼拝堂の入り口から転がるようにして逃げるワルドの後ろ姿を見た。


「ワルド…さよなら」
もう追いかける力も残っていない。
痛みこそないものの、出血が多く、足に力が入らない。
ワルドを追う余力も、攻め込んで来るであろう反乱軍に立ち向かう力も残っていなかった。
とにかく、ウェールズ殿下を逃がさなければいけないのだと、自分に言い聞かせたが、身体が動かない。
トリスティンの政治的には、ウェールズ殿下が生きていてはまずい、それぐらいは理解しているつもりだ。
しかし、アンリエッタはウェールズを愛しているし、ウェールズもアンリエッタを愛している。
ウェールズを助けたい!
例えその結果ゲルマニアとの同盟が反故になっても、アンリエッタを苦しめることになったとしても、この恋だけは成就させなくてはならない。
そんな使命感がルイズを突き動かした。

ウェールズを担ぎ上げようとしたが、うまくいかない。
力が入らない。
駄目なのか、私はここで死ぬのだろうか。


「アン、ごめんね…」
そう呟いて、ルイズは意識を失う。

意識を手放す瞬間、なぜか、身体が浮いたような気がした。

179奇妙なルイズ:2007/07/05(木) 02:45:59 ID:???
そして場面はキュルケ達に移る。

「もう始まってるわよ!」
シルフィードの上でキュルケが叫ぶ。
目の前に広がるアルビオンの浮遊大陸からは、大砲の音、すなわち戦乱の音が響いていた。
「これでは、ミス・ヴァリエール達を捜すどころじゃないぞ!」
「ギーシュ、あんた昨日は『例え戦地でも姫様のためなら喜んで!』とか言ってたじゃない!」
「そっ、そりゃそうだけど」
シルフィードの上で口論している二人はさておき、タバサはシルフィードの話を聞いていた。
『きゅいきゅい』『ふもー』
シルフィードが話しているのは、ギーシュの使い魔ヴェルダンデ、その得意の鼻がルイズのつけていた宝石のにおいを覚えているというのだ。
タバサキュルケとギーシュに「しっかり掴まってて」とだけ告げて、シルフィードを雲の中に突っ込ませた。

「…あれは何?」
暗雲の中をしばらく進むと、小舟が見えた。
空に浮かぶ船にしては小さすぎる船だ、大人四人が乗れる程度の大きさだろうか。
『きゅいきゅい!』
シルフィードが、ルイズのにおいがすると告げる。
タバサは迷わずその小舟にシルフィードを近づけた。

「ルイズ!」「ヴァリエール!」
突然近くから聞こえてきた声に、小舟に乗った女性…ニューカッスルの秘密港でルイズを迎えたメイドの女性は、驚いて声を上げた。
「あ、あなた方は!?」
「それはこっちの台詞よ、何よ…ルイズ、ひどい傷じゃない」
キュルケが血相を変える、ルイズの身体には包帯が巻かれていたが、出血を抑えきれてはいないと分かったのだ。

180奇妙なルイズ:2007/07/05(木) 02:47:10 ID:???
「そ、そちらに倒れてるのは…まさか」
ギーシュの疑問に、メイドが答える。
「アルビオンのウェールズ・テューダー殿下…いえ、先皇が討ち死にされた今、ウエールズ・テューダー陛下にございます」
「僕たちはトリスティン魔法学院で、そこに倒れているヴァリエールの友達だ」
「まあ!そうでございましたか、どうかお願いがございます、お二人を連れてすぐにここを離れてください」
キュルケは船に乗り移ると、ルイズを抱き上げた。
ギーシュもまたウェールズをシルフィードに乗せる。
「あなたは?」
タバサがメイドに聞くと、メイドはにっこりと笑って言った。
「私には最後の役目がございます、どうか、できるだけ遠くに離れてください」
タバサはメイドの言わんとしていることを察し、無言でうなずいた。
「あ、それと…、トリスティンのお方ならモット伯にお会いすることもありますでしょう、もしモット伯と、衛士の方にお会いすることがあれば、一人の生徒が勇敢に死んでいったとお伝えください!」
「わかった」
タバサが答えると、そのメイドは小舟の中央に設置された風石の箱を操作し、ニューカッスルの秘密港に向けてゆっくりと移動していった。
それを見送る間もなく、タバサはシルフィードに急いでここを離れろと伝える。
「おい!彼女も連れて行かないのかい!」
風を受けて喋りにくそうにしながらも、タバサに詰め寄ろうとするギーシュだったが、キュルケがそれを制止した。
「ツェルプストー、何をするんだ」
「あんたねえ、野暮って事を知らないの? …あのメイド、メイドのくせに、いっぱしの貴族みたいな目をしてるじゃない」
ギーシュはその言葉の意味が分からなかったが、次の瞬間、あの小舟が飛び去った方から輝く爆炎を見て、その意味を察した。

ごうごうと音が響き、雲が爆風に巻き込まれて散っていく、そして爆炎に巻き込まれた戦艦が看板を火の海にしていた。
ドオン!と、数秒遅れて到達した爆音。
それを見たギーシュは、メイドの言った「最後の役目」の意味が分かった。
アルビオンの下部に設置されていた火の秘薬を、あのメイドが点火したのだろう。
あの規模では、生存は絶望的だと、皆が感じていた。

181奇妙なルイズ:2007/07/05(木) 02:47:48 ID:???
ルイズは意識を失っていたが、スタープラチナの目が、爆炎を見ていた。

『あのメイドは昨日、ウェールズに詰め寄り、生きて欲しいと懇願していた奴だな』

「死ぬつもりだったのよ、あのメイド…死ぬのは怖いとか言っておきながら、笑顔で死にに行ったじゃない、ホント生意気なメイドね」

『本当に…生意気だと、思っているか?』

「生意気よ。だって………私より、貴族らしいじゃない」

シルフィードがアルビオンの下から抜け出し、太陽の下に出る。
ルイズと承太郎は、スタープラチナの目を通して、アルビオンを包み込む雲を見た。

目の錯覚かも知れないが、雲の一部が、まるで手を伸ばすように伸びた。

その雲はモット伯の別荘で戦ったメイジによく似ている。

手を差し出された雲は、先ほど笑顔で死地に向かったメイドによく似ていた。

二つの雲は、抱き合って、消えた。

182奇妙なルイズ:2007/07/05(木) 02:49:24 ID:???
すみません、余裕がある方、どなたか投下をお願いします。
全回投下してくださった方、ありがとうございました。

183名無しさん:2007/07/05(木) 03:07:35 ID:???
今ある予約終わったら代理しとくよ。

184Start Ball Run:2007/07/05(木) 15:17:05 ID:???
どーしよぉぉォ!
規制くらっちゃったよぉぉぉぉォォォォ!

つーわけでこちらを利用させていただきます。

185名無しさん:2007/07/05(木) 15:17:47 ID:???
代理任せろ。

186Start Ball Run1/3:2007/07/05(木) 15:18:28 ID:???
「……ぐ、ぅ……!」
ジャイロが呻いた。
左の脇腹にぐっさりと――ワルキューレの槍が食い込み、貫通していたから。
それは腹から背中にかけて、大きな穴を穿っている。どれほどの痛みがあるものなのか。少なくとも――これからまた戦おうなどと、普通は考えないぐらい、痛いはずだろう。
――勝負、あった。
誰もが、そう思う。すでにジャイロの傷口からはおびただしい出血があり、芝生は赤く、絨毯のように染め広がっていた。
だが、それでも――、ギーシュは矛を収めようとしない。
槍を引き抜いたワルキューレに、命令を下す。再び、……血に塗れた切っ先が、獲物に狙いを、定める。
「……ま、待ちなさい! 待って! ギーシュ!」
声を上げたのは、ルイズだった。自分の使い魔がいま、まさに止めを刺されようという場面にきて、ようやく。
取り返しのつかないことが起きていたのだということに……、気が付いたのだった。
「一撃目は……、君の動きを止めるために、放った。……だが、二撃目は違う。これで完全に……この『決闘』に。……決着を、つける」
ギーシュの視線は、貫くべき敵の心臓から外れない。
だから――この争いを止めるために、二人の間に割り込んだルイズにも、視線は、移動しなかった。
「そこまでよギーシュ! この決闘は貴方の勝ちよ! だから! もうお互いに敵意を向け合う必要は無いわ! ワルキューレを収めて!」
ルイズが宣言する――この戦いは、私の使い魔の、私達の、負けだと。
「……ぐっ。……げほォ……。……な、何言ってやがる……チビ。……ま、……まだ決着は、ついちゃいねぇ……、ぜ」
口から込みあげた血反吐を吐きながら、ジャイロが強がって見せたが。
「何言ってるのよ! そんな様で、これ以上戦えるわけないじゃない!」
何か言いかけたジャイロだったが、血を吐き出して、言葉が不鮮明なまま、途切れる。
「負けよ! あんたの負け! それでいいでしょ!? それ以上強がって、なんになるっていうの!? あんたホントに死ぬ気?!」
ルイズが、血を吐いてうつ伏せているジャイロに叫ぶ。
彼女も、知っていた。彼がこんな姿になったのは、――自分の、せいだと。

(以上、ここまでは本編に投下分です)

187Start Ball Run2/3:2007/07/05(木) 15:19:25 ID:???
あの、とき。
ジャイロがルイズを見て、彼女に襲い来る破片を防いだから。
彼が、その代わりに、――致命的な傷を負う契機を作ってしまった。
それに、我慢できなかった。
それが、許せなかった。
自分の命令を無視する使い魔も許せなければ。
魔法が使えない、未熟なメイジである自分も許せなかった。
もし魔法が使えたなら、自分に飛んできた破片くらい、自分でどうにかできただろうに。
だから、ルイズは。この決闘を、ここで決着させたいと、思った。
終わりにしたかった。
これ以上、使い魔が傷を負う姿を――見たいと、思わなかったから。
「ここで死ぬっていうの!? 何よそれ!? こんなところで死んで、あんたに何の得があるっていうのよ!?」
その答えに。……ジャイロは、腕で見えない何かを、どかすような、仕草をした。
「……ど、」
「もう止めるの! ここで終わりにして!」
「……け。……どけ、おチビ……そこに突っ立ってると、ヤベェ、ぞ……」
そいつ……、槍を、突き出す気だ。と、咳篭りながら、ジャイロが言った。
はっと目を開いて、ルイズはギーシュを見つめた。
彼の使役する青銅の騎士が――今にも、その槍を、ジャイロの盾となっているルイズごと、貫こうとしていた。
「ギ、ギーシュ! もう決闘は終わったの! バカな真似は止めて!」
「ルイズ! どくのは貴方のほうよ! 早く逃げて!」
ルイズに、そう叫んだのは、ギーシュの後方から成り行きを見守る、……モンモランシーだった。
「な、何を言ってるのよ?!」
「ルイズ! ギーシュは! そこにいる彼は! 私達が知っている彼じゃないわ! 今の彼には! やると言ったら“やる”! 凄味があるのよ!」
『決意』と『決断』そのどちらもが、かつての彼には未熟な部分であったのだが。
今の彼はそれが、心で理解できているのだと。
モンモランシーは、それを――誰よりも彼を知るが故に、理解してしまった。
「ギーシュは止めない! 貴方がそこにいようと! いまいと! 彼が今見ているものは! 貴方の後ろしかない!」
貴方は助かる――後ろにいる彼の前に、立ちふさがらなければ。と、彼女は言ったのだった。

188Start Ball Run3/3:2007/07/05(木) 15:20:06 ID:???
「……何言ってるのよ。そんなの! ギーシュが今すぐ! 止めてくれたら終わるじゃない! ギーシュ! 遊んでないでもう終わりにして! もう――」
突風が、おきた。
ルイズの右頬を、ワルキューレの槍が通り抜けたのだった。
凍りつく。この場の空気も。ざわめきも喧騒も。……このときになってようやく、周りの観客も、彼の変化がただ事ではないことを、理解した。
「暴れ馬が一頭……、猛烈な勢いで走りながら自分のほうへ向かってきた、……と、する」
突き出した槍を再び、引絞るように構える青銅の騎士の前で、ルイズは、足が震えるのを感じた。
「これを……、道の真正面でぼさっと突っ立って、……向こうが避けてくれるだろうと考えて待つ者は、いない」
いれば、それは頭が悪いか、自殺したいかの、どちらかだろう、と。
足の震えは全身に及び。……ルイズは、気持ちの悪い汗が、首元へ流れるのを感じた。
「一度だけ言おう……。ミス・ヴァリエール。これは『決闘』……何者にも邪魔はできない。僕か彼か――そのどちらかが、決着をつけねばならない」
彼が彼女を、見る。その視線は――、とても冷たいもので。喉を伝って胸まで流れた汗が、酷く気持ち悪いほど、冷えていた。
「君がそこに立って彼を守ろうとするのは――、非常に、意味が無い。……何故なら、僕のワルキューレの槍は、君を貫いて――」
ぎしゃり、と青銅が一歩、踏み出す。
「後ろの彼に止めを刺すことなど――簡単だからだ」
ルイズの体は、ワルキューレにとってすれば、張りぼての壁にすぎないと。
槍がさらに、高く掲げられた。降り注ぐように、突き下ろそうと。
「二秒あげよう……今すぐ、彼の前から、どきたまえ」
ルイズの足が、竦む。
今すぐ、ここから――彼の前から、逃げ出したかった。
彼女の言うとおりだ。彼は――、彼じゃ、ない。
私が知っている、彼じゃない。
――怖い。
心から、そう思った。
一。
でも、足が、……動かない。
それが恐怖のためなのか。
それとも……。彼を助けようという、気持ちが、まだ折れずにいるためなのか。
彼女にも――、分からなかった。
二。
――槍が、振り下ろされる。

189Start Ball Run3/3:2007/07/05(木) 15:22:06 ID:???
以上投下したぁ!

規制を初めて食らったときのあの絶望感はものすごかったが、
>>185 の代理支援に、DIO様の誘惑のような安心感を覚える!

感謝してもし足りない!

190うわっ面:2007/07/09(月) 06:52:46 ID:???
人大杉でした。
うわっ面は毎回短いですが投下します。

191うわっ面:2007/07/09(月) 06:54:16 ID:???
選択 ①首根っこを捕まえる。1票

 第二話 異世界 -The different world-

「この、クソ餓鬼がぁぁぁ〜〜!!」
間田はキレた。
その少年の肩を捕まえ、少年の前に出ると、胸ぐらをつかんで持ち上げた。
ここは杜王町から遠く離れた秋葉原。康一の背を縮める能力の射程外だ。
背が元に戻った間田はデカイ。
少年は
「スイマセェ〜ン、大統領。」
と謝っていたが、間田はギアッチョ状態であった為に全く通じなかった。
暫く無限ループを繰り返していたが、少年の次の言葉でそれは終わる。
「ちょっと後ろ後ろ!」
間田の後ろに鏡みたいな光った物体があったからだ。
「そんなことでこの間田さんを騙せると思っているのかッ!」
当然の反応である。
だから少年は逃げようとしてジタバタした。まるでコイ○ングのように。
それによってバランスが崩れて、間田は少年の胸ぐらを掴んだまま、鏡のようなものに向かって転倒してしまった。
吸い込まれる間田。
「ちくしょー、新手のスタンドかッ!」
そう言って間田は吸い込まれて別の世界に到着する。ぶつかってきた少年と共に…。

間田がふと気が付くと目の前にピンクの髪の少女。
周りを見ると少女と同じような服装をしているものがいっぱいいる。
間田は、
(制服か?しかもなんか、某映画の某ホグ○ーツの某学校のみたいだな。黒マントだし。)
と考えた。
するとピンク少女が何やらで呟きながら近づいてくる。
(コイツ、イカれてやがるのか?)
間田が考えていると唇を奪われる。


選択 どうしますか?
  ①大人しくされるがまま。
  ②舌を入れる。そして次の行為へ進める。
  ③GYU!っと抱きしめる。

192うわっ面:2007/07/09(月) 06:56:54 ID:???
以上です。
間田を「幸福」に導いてやってください。
呼べは試験終了後に書く予定です。
では、レポートの追い込みをします。

193ヘビー・ゼロ:2007/07/10(火) 16:34:50 ID:826wy/uY
昨日からずっと人大杉で書き込めないのでこっちに投下します。

194ヘビー・ゼロ:2007/07/10(火) 16:36:04 ID:826wy/uY
第十二話 『帽子旋風』

事件は昼時のシエスタの一言から始まった。
「ウェザーさんって帽子をお脱ぎにならないんですか?」
厨房にいるウェザーに会いに来たキュルケとそれを止めに来たルイズと流れで連れてこられたタバサはたまたまそれを聞いてしまった。
イタリアのとある医者はこう言った。
『好奇心が強いから人間は進化した』
その言葉が示す通り、彼女たちの好奇心が鎌首をもたげた瞬間であった。
「確かにウェザーが帽子を外したところを見たことないわね」
「フーケに泥々にされても洗って舞踏会に被ってきてたわよ」
「頭に秘密が?」
額をくっ付けひそひそ話をする辺り年相応の仲の良い女友達と言った感じだ。
「まさか・・・禿げてるとか?」
「やめてよねルイズ!あるわけないじゃない!」
「だけれど不自然。あれだけ激しく動いても外れなかった」
「確かに、ただの帽子ならとっくに外れてるわよね。そうだルイズ、あなた彼が寝てるとき外してなかったの?」
「え?でもウェザーっていつもわたしより寝るの遅いし、朝起こしてもらうときにはもう被ってるのよね」
う〜ん、と唸る三人。好奇心がさらに刺激される。

195ヘビー・ゼロ:2007/07/10(火) 16:39:57 ID:826wy/uY
一方厨房でも好奇心を刺激されている人間がいた。
「いつも同じ帽子を被っていらっしゃるので・・・」
「そうだな」
「何か理由でも?」
「いや、特にないな」
本当にどうでもよさそうに言うのでシエスタは外してくれるよう頼んでみようかと思ったが、
「それは無理だ」
とピシャリと言われてしまった。
「あの、やっぱり何か大切な物なんですか?」
「いや、全然。ただ今まで一度も帽子の中を見せたことがないから、何となく見せたくないだけだ」
特に理由がないと知ったシエスタは、何とかして見たいと思考を巡らし一つの奸計を思い付いた。
「あ、ウェザーさんおかわりいりませんか?」
「ん?いや俺はもう・・・」
「おかわりいりますよね?」
「もう二杯も食べ・・・」
「くすん・・・食べて・・・くれないんですか?」
泣き落としである。
「いやお前たかが料理で泣くことは・・・」
「私が作ったんです・・・ヒック・・・ウェザーさんのために」
そこまで言われては断れない。ウェザーはとうとう観念した。
「じゃ・・・スープおかわり」
「はーい!」
涙はどこへ飛んだのか満面の笑みでおかわりをよそってウェザーのもとへ運ぶ。
「はい、特製スープですよ〜・・・そおい!」
が、目の前で華麗に躓いてみせ、ウェザーの頭にスープを叩き込んだのだった。ウェザーは咄嗟にシエスタを支えたが、スープを皿ごと頭で食べるはめになった。
「あー本当にすいません。すぐに乾かしますから・・・あれ?」
しかしシエスタがウェザーの服をさわると全く濡れていないのだ。
「次からは気を付けるんだぜシエスタ」
ウェザーは皿だけ渡すと呆気にとられるシエスタを残して厨房をあとにした。
「『ウェザー・リポート』雲に吸いとらせた」

196ヘビー・ゼロ:2007/07/10(火) 16:43:38 ID:826wy/uY

食事をすませたウェザーは中庭の木にもたれて『お天気おじさん』を読み進む。ルイズやタバサの協力もありこれ一冊ならぎこちないながらも何とか読めるに至ったのだ。
「やあウェザー」
「ギーシュか」
決闘のせいかややぎこちなかった二人もフーケの事件以来はわだかまりなく話すようになったのだ。
「まだその本を読んでいるんだね」
「まあな。この一冊くらいは楽に読めるようになりたいしな」
元の世界に帰る必要はなくなったものの、字が読めないぶんにはできることが少なすぎるので勉強は続けている。
「どんな話しなんだい?」
「何かおじさんが世界を回って日照りや冷害地に雨を呼んだり晴れにしたりする話しだ」
「あれ?読んだことあるかな?」
「お前は何やってるんだ?あの巻き毛の彼女はどうした?」
「モンモラシーならまだ食堂じゃないかな。僕は、その、非常に言いにくいんだが・・・」
ギーシュは口ごもりながら杖を取り出すといきなり『練金』を唱えたのだ。手だけのワルキューレがウェザーを地面に固定する。
「何のマネだギーシュ?」
ジロリと睨むと本当に申し訳なさそうにな顔をしている。
「すまないウェザー・・・僕だってやりたくはないんだが・・・キュルケに脅されてね。僕から言えるのは一言だけさ」
その時ウェザーがもたれている木からガサガサと音がした。
「危なァーーい!上から襲ってくるッ!」
意外!それはフレイムッ!
防御が間に合わないウェザーの頭にフレイムがのしかかろうとするが空中で弾んでしまい横に落ちた。
「今のはフーケの時のエアバッグ!」
それには答えずにワルキューレを腐食させて枷を外すと中庭の茂みに向かって、雨を蛇のように伸ばして飛ばすと、
「あいたッ!」
と茂みから声が漏れた。
「あんなデカイトカゲが落ちてきたら首が折れるぞ。俺を殺すきかキュルケ?」
キュルケがおでこを押さえながら茂みから出てくる。
「あーあ、バレちゃった。だって帽子を取ったダーリンも見たかったんだもの」
「ならもうちょっと策を練るんだったな」
ウェザーは本を持って立ち上がると角でギーシュを小突いてから中庭を立ち去った。

197ヘビー・ゼロ:2007/07/10(火) 16:47:41 ID:826wy/uY

ウェザーは久々に授業に出た放課後にタバサに呼び止められた。
「・・・何だ?本ならちゃんと手で読んでいる」
するとタバサは小さく頭を振り『お天気おじさん』を指差した。
「返却期限」
「・・・そうか、それは忘れてたな」
「まとめて返しておく」
「重いだろ?俺が持ってってやるよ。新しいのも借りたいからな」
タバサは返事をするでもなく歩き出した。
ウェザーは図書館につくとタバサが本を返しているあいだに本棚を物色する。
タバサはシエスタとキュルケの失敗を踏まえた上である作戦を考えた。彼女たちの失敗は帽子を直接とろうとしたこと。ならば帽子を脱がざるをえない状況にすればいいのだ。
まずはウェザーに適当な本を選び一緒の机に座る。キュルケと話をつけてフレイムを近くにしのばせてあるので、室温をどんどん上げて図書館を真夏に変える。そうなれば必ず帽子を取る。名付けて『ヒート・ライブラリー作戦(帽子を奪え!)』。
ちなみにシルフィードに話したら「素直に『北風と太陽作戦』って言えばいいのに」とダメだししてきたので反省のため『はしばみ草部屋』に叩き込んでおいた。この作戦が終わる頃には従順になっているだろう。
自分の作戦に内心ほくそ笑みながらタバサは本を読み始めた。しばらくすると室温が三十度を超える。
「熱くない?」
「そうか?」
どうやらこの程度ではまだまだらしい。フレイムに合図を送りさらに室温を上げさせる。
「・・・熱くない?」
「は?いや全然」
「本当に?」
「ああ」
確かに本当なのだろう。タバサの顔は上気して汗だくなのに対してウェザーは涼しい顔で汗一つかいていなかった。室温は四十度に届いている。
しかし室温を上げ始めてから三十分が経った頃とうとうタバサがダウンした。いきなり突っ伏したタバサをウェザーは慌てて担ぎ上げて保健室まで運んだ。
「・・・完敗」
赤くなった顔にはなぜか清々しい笑みがあった。
タバサの敗因はウェザーの能力を知らなすぎたことだろう。ウェザーは自身の周りの空気の温度湿度をベストの状態に保つことで快適に本を読んでいたのだ。言うなれば『人間エアコン』である。

198ヘビー・ゼロ:2007/07/10(火) 16:51:30 ID:826wy/uY

ウェザーがタバサを運んでいる時、ルイズは自室で考えていた。シエスタとキュルケとタバサの作戦の失敗を見て知っているルイズは考える。
(三人の失敗は他力本願なところ。やはり最後にものを言うのは自分の力よね)
しかしルイズが作戦を練っている途中でウェザーが帰ってきてしまったのだ。徐々に開いていく扉。
「今日は災難だったな・・・」
(マズイ!まだ作戦が固まってないのに!や、やるしか・・・当たって『砕けろ』よルイズ!)
ルイズは椅子の上にかけ上がるとウェザーに向かい飛んだ。
「かかったなアホが!稲妻十字空烈刃!」
「何ィッ!」
ルイズが腕を交差してウェザーに体当たりを敢行するがウェザーもさるもの、咄嗟にルイズの足を払いかわす。それによってルイズは顔面から床に墜落したが。
「大丈夫か?」
ウェザーはしまったと思いながらルイズを助け起こそうとした。するとルイズが片方の鼻の穴を塞ぎ、フンッと鼻に息を通し鼻血を飛ばしたのだ。
「ぬうぅッ!」
「ふふふ・・・鼻血入りの目潰しは痛かろう・・・そしてどうだ!この鼻血の目潰しはッ!勝ったッ!死ねいッ!」
目が見えないウェザーに冷酷なるルイズの蹴りが飛ぶ!
しかしルイズの蹴りはウェザーの帽子を蹴り飛ばす直前で止まった。いや、止められた!
「バカなッ!貴様は目が見えぬはずッ!」
「忘れたのか?俺の能力を。お前程度なら空気の乱れで動きは読める!」
ウェザーの拳がルイズの鳩尾に決まった。
「ば・・・ばかなッ!こ・・・このルイズが・・・!このルイズがァァァァァァ〜ッ!」
「てめーの敗因は・・・たったひとつだぜ・・・ルイズ・・・たったひとつのシンプルな答えだ・・・『てめーは我を忘れすぎた』」
「きゅう」
実際には触れる程度の拳なのだが何かがとり憑いたルイズはそのまま床に倒れてしまった。
何だかどこにいても身の危険に晒されそうな気がしたウェザーは、ルイズをベッドに寝かせると外へ出た。

199ヘビー・ゼロ:2007/07/10(火) 16:56:32 ID:826wy/uY

ウェザーは人気のない場所を選び、はずれにある建物の裏手に回った。
その時ウェザーの背後の土がゆっくりと人形に盛り上がっていき、完成したと同時にウェザーに襲いかかった。
「接近には気付いていたぞ!」
ウェザーも振り返りざまに『ウェザー・リポート』の風圧のパンチを土人形に叩き込む。しかし一撃で呆気なく崩れた土人形の陰から人影がおどりだし、ウェザーのパンチを上方に飛び上がりかわして建物の屋根に着地した。
「お前は・・・フーケかッ!」
ウェザーが見上げた屋根には縁に腰かける『土くれ』のフーケの姿があった。しかもその手にはウェザーの帽子があり、くるくると回して遊んでいる。
「・・・やるじゃあないか」
「盗賊の面目躍如ってところかしら」
そう言うとフーケはウェザーの帽子を被って見せる。
「あら、温かいわねこれ」
「驚いたな・・・今朝衛士に連れていかれたと聞いたが」
「ああ、衛士っつったって所詮男ね。連れてかれる途中で『あ〜ん衛士さん、太ももの裏が痒いの〜お願い、か・い・て』ってなもんよ。したらあいつら鼻の下伸ばして鍵を開けて入ってきたから股間に膝を埋め込んでやったわ」
得意気にはしゃぐフーケだった。
「で、ここに何の用だ?次見つかったらさすがに逃げれんぞ」
「なんだいつれないねえ・・・言ったじゃない、『脱獄したらいの一番にあんたのところに行って一泡吹かせてやるからね』って。まあ忘れ物とか取りに来たのもあるけど」
フーケが脇に置いた袋から錆びた刀の柄が見えた。
「これからどうするんだ?」
「さすがにほとぼりが冷めるまでは大人しくしてるわ」
「そうか。わかったから帽子を返せ」
「別になくたって格好いいわよ。もちろんあたしに泥だらけにされた時が一番男前だったけどね」
嫌味タップリにそう言うって帽子を投げて寄越す。
「じゃあね。もう会わないことを祈るわ」
「それがいい」
ウェザーが帽子を被り直している間にフーケはどこかへ去ってしまった。
ウェザーが部屋に戻るとルイズは起きていたが数十分記憶がないらしいので適当に言っておいた。

200ヘビー・ゼロ:2007/07/10(火) 16:57:53 ID:826wy/uY

夜の帳が完全に降りた頃、フーケは一人町の裏路地にいた。
「送金は済ませたし、しばらくはトリステインから離れて情報収集に努めるかな」
あの錆びた剣はインテリジェンスソードだったので売ろうとしたが「出番をください姐さんッ!」と五月蝿くて売る店売る店で買い取り拒否されたのでお金と一緒に送っておいた。暇潰しにでもなるだろう。
町を出ようと歩き出したとき、いきなり目の前に白い仮面が現れた。長身に黒いマントをまとった怪しげな人物だ。
フーケは咄嗟に杖を引き抜いて魔法で攻撃しようとしたが、それよりも早く白仮面が魔法を唱える。強烈な風により杖を弾かれてしまったフーケは手を押さえながら白仮面を睨むしかなかった。
「いきなり杖を抜くとは物騒だな、『土くれ』のフーケ」
白い仮面の向こうから年若く力強い男の声が聞こえた。
「常識のある人間は目の前に仮面被った変態野郎がいきなり現れたら普通攻撃するわよ」
フーケは精一杯虚勢をはった。正直言えば今の一瞬の攻防で相手の実力は見えていた。
(恐らくは『風』の『スクウェア』クラス。しかもかなりの手練れ!)
体術には自信があるが『スクウェア』相手では意味がないだろう。しかもフーケの正体を知っているということは、魔法衛士隊か貴族の刺客だろうと推察できた。一人のところを見ると後者だろう。
悪事に手を染めた時から命を失う覚悟をしてきたが、みすみす殺されてやるつもりはなかった。しかし――
「そう怯えることもあるまい。なあ、マチルダ・オブ・サウスゴータ」
瞬間フーケが男に飛びかかった。杖も持たず、生身で、しかも何の考えもなしに。数多の貴族を翻弄し、冷静に分析し大胆かつ繊細に盗むのを信条としたフーケが、鬼のごとき気迫で白仮面を殺すためだけに躍り懸かったのだ。
彼女がそうなるほどに、その名前は禁忌だった。
常人ならば気迫と速度に気圧されるだろうが白仮面はまるでそうなるのを予想していたかの様に迎え撃った。
呪文を唱えて杖を振るうと、杖の先から空気のハンマーが飛び出し、フーケを壁に叩きつけた。
「やれやれ、穏便にすませたかったがしかたない」
頭を打ったのかぐったりとしたフーケを担ぎ上げて白仮面は笑う。
「我が『世界』の礎となれることを光栄に思いたまえ。マチルダ・オブ・サウスゴータ・・・いや、『土くれ』のフーケ」

アルビオンから強い風が吹き始めた。さらに大きな嵐がやってこようとしているかのように・・・

201ヘビー・ゼロ:2007/07/10(火) 16:58:24 ID:826wy/uY
以上で投下完了です。
どなたか代理してくださると助かります

202名無しさん:2007/07/11(水) 00:27:22 ID:azxW01Ac
そおい!wwww

203『女教皇と青銅の魔術師』  0/15:2007/07/12(木) 14:55:06 ID:LYlv2YL2
ぷろくし規制が全く解除される気配がないので避難所に投下します。
誤字や間違い指摘も避難所の当該スレにお願いします。

…ついでに壷のぷろくし規制のせいでIEすら書き込めなくなってる現状の修正の仕方を知ってる方も。

204『女教皇と青銅の魔術師』 64  (1/15):2007/07/12(木) 14:56:57 ID:LYlv2YL2
フーケ騒ぎから十日あまりが過ぎた。
土くれのフーケは捕らえられ、破壊の杖は取り戻された。
宝物庫に運ばれる破壊の杖を見てミドラーは「カイロの闇市で見たアレね…」と呟いたが、
それに反応できる人間は黒焦げ状態だったためスルーされた。
フーケは三日間オスマン師の取調べの後、王宮に護送された。
その三日間で夜の学院にうめき声が聞こえるという怪談話が持ち上がったが、
事情を知る人間は誰も真実を口にしなかった。

知らないほうが幸せな真実も、ある。

騒ぎの翌日に開催された舞踏会は、教師陣とフーケ騒ぎの功労者以外には大盛況であった。
盗賊だったとはいえ元同僚が拷問を受けている時に騒ぐ気にはなれなかったのか、教師はほぼ全員欠席し、
主役の三人(+1)は欠席するわけにもいかず多少青ざめた顔ではあるが着飾って出席していた。
ミドラーは鬱々とした雰囲気を吹き飛ばすべく踊り子の衣装を用意したが、
ギーシュが「そういう踊りじゃないから!」と泣きながら懇願した為諦めて裏方にまわった。

マルトー達と結託して料理の一品として紛れ込ませたエジプト風鳩肉料理はかなりの好評であった。

205『女教皇と青銅の魔術師』 65  (2/15):2007/07/12(木) 14:58:19 ID:LYlv2YL2
ミドラーが放課後に開く交流会(実際にはほぼ食事会)には、最近キュルケも顔を出すようになった。
基本的に巨体のシルフィードに圧倒されてこの交流会に他の使い魔は参加しないのだが、
匂いに我慢できなくなったフレイムが主人を盾に近寄ってきたのが始まりである。
女三人寄れば姦しいと言う。
例に漏れずこの集まりも話が弾み、妙な話題になったりもする。

キュルケもタバサもミドラーの身上については大体のところ気がついていた。
先住魔法と時々口にする砂漠の話、最初の怪我。
エルフが人間に化けているのかあるいは混血だろう。
その辺については触れないのが二人の暗黙の了解であった。
だが、異国の話というのはやはり興味深い。
そんなわけでミドラーに、この辺にはいない幻獣を説明してもらったのだが…

「氷柱をばんばん飛ばす鳥がいた」
キュルケもタバサも絶句する。
私が前見せた魔法と同じようなものか、とタバサが尋ねると
「普通はだいたい同じくらい。だけどあの校舎が一撃で半壊するくらい大きい塊も出してた」
土の中を掘り進んだり足元を凍らせて動けなくするなどの説明をすると、フレイムが怯えはじめる。
天敵である。どう考えてもフレイムに勝ち目はない。
しかもそれほどの幻獣を、ミドラーの元主は番犬がわりにしていたという。
なるほど人間がエルフに勝てないわけだ、と二人は納得する。

206『女教皇と青銅の魔術師』 66  (3/15):2007/07/12(木) 14:59:21 ID:LYlv2YL2
「目に見えないほどの速さで飛翔する、人の舌を引きちぎるクワガタ」
「フーケのゴーレムくらいの船を自在に操るゴリラ(オランウータンの説明には失敗)」
「頭の前後に性別の違う顔がついている人もどき」
ミドラーの説明は続く。
しかもこれらは全て彼女の主が従えていたらしい。
それ以外に見たことはないが有名な幻獣として、学院全部合わせたより大きな鳥がいる、と言う。
キュルケもタバサも、そんな鳥は知らない。
まだ見ぬ異国の恐るべき野生を知り、圧倒される二人であった。

ミドラーにとってもこの交流は貴重なひと時である。
ギーシュからでは聞けない話も耳にする。
例えば例のサイトとかいう少年だが、舞踏会ではルイズと踊っていたらしい。
ほんの数時間前まで黒焦げだったのに、である。
あのアヌビスもどきといい、やはりあの少年は油断できないと心に留める。

207『女教皇と青銅の魔術師』 67  (4/15):2007/07/12(木) 15:00:15 ID:LYlv2YL2
そんな事があってから数日。
朝。
公衆の面前で犬のSMプレイに興じるルイズ達にミドラーはドン引きしていた。
(ただでさえアレな雰囲気を醸し出す使い魔だと思ってはいたけど、主まで染まり始めた?)
しかしタバサの説明によれば使い魔は主に似たものが呼び出されるという。
ということは、ルイズは元々アレが素なのだろうか。
(…わたしとギーシュも似てる?そうは思えないんだけど…)
サイトがわんと鳴いている。主従ノリノリだ。

溜息をつく。
とりあえず今後ルイズを他人に紹介するときは友人ではなく知人としよう。

208『女教皇と青銅の魔術師』 68  (5/15):2007/07/12(木) 15:01:30 ID:LYlv2YL2
翌朝。
ミドラーは熟睡しているところをギーシュに揺さぶられて目覚めた。
未だかつてギーシュが自発的に起きた事などない。
(敵襲かッ!?)
跳ね起きて周囲を警戒する。
…何やらギーシュが苦笑している。敵ではないのか。
とりあえず説明をしてもらう事にする。

説明されてもよく判らない。
何かえらい人に言われて長旅をする事になったらしい。
昨日王族らしいえらく豪勢な一行が来ていた。
一応ギーシュも名門の出らしいし、そういった人脈からの依頼というのもあるのだろう。
ちょっと貴族っぽくて見直した。
留守の間にやっておいて欲しい事はあるか、と聞いたら怒られた。
わたしも一緒に行くらしい。
そういえば自分が使い魔をやっていることをすっかり忘れていた。
自分の荷物をまとめる。
長旅らしいしそれなりの用意がいるだろうが、衣類以外の日用品は女教皇で作ればいい。
こういう時スタンド使いに生まれて本当に良かったと思う。

209『女教皇と青銅の魔術師』 69  (6/15):2007/07/12(木) 15:02:43 ID:LYlv2YL2
朝もやの中馬に鞍を載せる。
その上に女教皇で自作したラクダこぶを固定する。
同行者はルイズ主従(+アヌビスもどき)、ギーシュと私、
そしてさっきから私のラクダこぶを妙な目で見ているヒゲ。
笑いをこらえているのがみえみえでムカツク。
物腰も妙に柔らかくて気味が悪い。
…ギーシュに聞いたところ、騎士団長?のような偉い人でルイズの婚約者らしい。
なるほどあの物腰の柔らかさはロリコンだからか。

私とギーシュ、サイトは馬に、ルイズとヒゲロリはグリフォンに乗る。
グリフォンを見たのは初めてだったのでなでようと近寄ったが、眼光が鋭すぎてあきらめた。
ペットショップと大差ない目付きの悪さだった。
あれは口から火とか噴く。
間違いない。

そういえばこの学院から本格的に離れるのは初めてだ。
エジプトから出たことのなかった自分には見るもの全てが珍しい。
この旅で何が見られるのか楽しみだ。
シルフィードと離れるのは寂しい。一応出発前に挨拶はしておいたが。
どれくらいかかるか判らないが戻ってくる時にはお土産を忘れないようにしよう。

210『女教皇と青銅の魔術師』 70  (7/15):2007/07/12(木) 15:03:38 ID:LYlv2YL2
やっぱり馬は嫌いだ。
なんというかラクダに比べて余裕みたいなものがない。
地面を蹴る衝撃がこっちまでいちいち伝わってくる。疲れる。
女教皇で自転車でも作ろうかと考えたが、ゴムタイヤが作れないので断念した。
馬のスプリングシューズは前に試してえらい事になった。
結局この振動に耐えるしかないか。
もういやだ疲れた。
疲れた!

朝早くから馬を走らせまくって夜中に目的地に着いた。
もう限界だ。
何か途中でギーシュとサイトが取っ組み合いをはじめたり、散々だった。
観光とかする暇もないし。
しょんぼりとしながら岩山の中を縫うように進む。
かぽかぽと馬の足音が響く。
明るい月夜に険しい岩山。風光明媚と云えないこともないが…

そんなことを考えていると、崖の上からたくさんの松明が降ってきた。
馬が炎に煽られて暴れる。
「敵襲ッ!」
ギーシュが落馬しながら叫ぶ。
こっちも慌てて女教皇で遮蔽物を作る。
同じく馬に振り落とされたサイトが隠れにくる。
無数の矢が急造の遮蔽物(今回は車)に突き刺さる。

211『女教皇と青銅の魔術師』 71  (8/15):2007/07/12(木) 15:04:41 ID:LYlv2YL2
「ギーシュ、こっちへ!」
とりあえず一箇所に集まる。
ルイズとヒゲは離れた場所に一緒だ。
サイトはこっちだ。アヌビスもどきを抜いているのがちょっと怖い。
「崖上に敵。ミドラー、届く?」
「大きいのは無理だけどこの距離なら無力化くらいはできる!」
OK、久しぶりに大暴れしていいって事ね?

女教皇を崖上に這い登らせる。
もちろん崖の壁面と同化しているから相手には気付かれない。
敵は五人。全員崖下を覗き込んでいる。
弓矢と普通の武器だけで特にメイジはいないようだ。
足元に潜む。
標的が大きく下を覗き込んだ瞬間、かかとの下の土を10センチほど盛り上げる。
…手をばたばたさせて数秒間不自然な体勢で堪えていたが、結局悲鳴をあげて落ちていった。
あと4人。

212『女教皇と青銅の魔術師』 72  (9/15):2007/07/12(木) 15:05:23 ID:LYlv2YL2
さてどうしよう。今ので下への攻撃は止まったけど周囲を警戒し始めた。
これ以上不自然な転落をさせると、敵は逃げそうな気がする。
一網打尽にするには…
考えていると、突然スタンド背後から暴風が吹きつけた。
木の小枝が折れるレベルの風。
もしや、と空を見上げるとやっぱりいた。
月夜に浮かぶ竜の姿はほれぼれするほどカッコイイ。

結局、襲撃してきたグループは全員崖から落ちて簡単に捕まった。
キュルケ達は朝方に出発する私たちを見てこっそり尾行してきたらしい。
タバサを見る。
ちょっと赤くなってそっぽを向かれた。
どうやら心配してついてきてくれたらしい。
ありがとう。

213『女教皇と青銅の魔術師』 73  (10/15):2007/07/12(木) 15:06:34 ID:LYlv2YL2
わたしがシルフィードにほおずりしている間に、尋問が終わったらしい。
ただの物取り…ってヒゲロリコンあんたグリフォンに乗ってたでしょうが!
どこの馬鹿がそんな物騒な獣に喧嘩売るのよ。おかしいじゃない。
ギーシュを見る。
どうやら同感のようだ。使い魔のリンク?で話をする。
(あのヒゲおかしいんじゃない?)
(確かにちょっとおかしいね。急ぐにしてもこいつらをもうちょっと問い詰めるべきだろう)
(目的地はもうすぐなのよね?こっちで片付けとくから先に行ってて)
(頼む。仲間が襲撃してこないとも限らないから気をつけて)
キュルケに私の馬に乗ってもらい、私とタバサ、シルフィードがこの盗賊の後片付けに残る。
…これで今日はもう馬に乗らなくてすむ。

214『女教皇と青銅の魔術師』 74  (11/15):2007/07/12(木) 15:07:26 ID:LYlv2YL2
盗賊を見る。
あのロリコンはまともに尋問もできないのだろうか?全員まだ減らず口を叩けるほど元気だ。
溜息をついてとりあえず女教皇でパワーショベルのアームを出す。
盗賊が何か言っているが完全に無視して大穴を掘る。
本調子なら顔を地面に作って飲み込めばOKなのだが、まだあの顔は作れない。
承太郎にやられたイメージが強すぎて、回復できない。

穴が完成。とりあえず有り金全部と武装を剥ぐ。
結構な小金持ちだった。
穴の縁に全員立てかけて埋め戻す。
ここまで無言で作業。
盗賊はかなり喚き散らしていたが、無視。
首だけ出した状態まで埋めてから初めて声をかける。
「で、あんた達、何?」

215『女教皇と青銅の魔術師』 75  (12/15):2007/07/12(木) 15:08:11 ID:LYlv2YL2
一番端の男に聞く。
「だからさっきから盗賊だって言ってモガッ」
頭の上まで埋める。次。
「ちょっとまてお前いくら盗賊だっていきなりモガッ」
埋める。次。
「やめてやめて助けてたすけモガッ」
埋める。次。
「何でも話しますから助けてくださいッ!」
やっと話し合いに応じてくれた。

どうやら全員傭兵らしい。仮面を付けた男に大金で雇われたと吐いた。
しかもこの先の街で、だ。
急がないとギーシュ達が危ない!
大急ぎで全員埋める。
シルフィードの背中にしがみついて、タバサに合図する。
今日の目的地、ラ・ロシェールはもうすぐだ。
シルフィードに全速力で追ってもらう。

…やっぱり馬とは全然違う…

216『女教皇と青銅の魔術師』 76  (13/15):2007/07/12(木) 15:09:22 ID:LYlv2YL2
両脇を峡谷に挟まれた街、ラ・ロシェール。
夜に宿にたどり着いた一行はくたくたのまま宿で潰れていた。
ワルドとルイズが翌朝の船の確認に行っている間に、ミドラーが先程の盗賊の説明をする。
まずこちらの行動が筒抜けであること。
そして敵の実行部隊は昨日この街で雇われたということ。
雇った人物は白い仮面を付けた男(おそらく貴族)であること。

「子爵からのルートでしか計画は漏れようがない。おそらく貴族派だろう」
トリステイン中枢にも内通者がいる、とギーシュが苦々しく言う。
彼にとって貴族派はどうあっても共存できない敵である。
武門のグラモン家が、他国とはいえ主君に仇成す有象無象を許せるはずもない。

217『女教皇と青銅の魔術師』 77  (14/15):2007/07/12(木) 15:10:27 ID:LYlv2YL2
「でも不自然」
茶をすすりながらタバサが発言する。
「あんな装備でグリフォンとそれに乗った貴族を襲うのは無理」
ミドラーもギーシュも頷く。
それが一番気になっていたところだった。
例え奇襲が成功しても、ワルドとグリフォンには勝てなかっただろう。
前金をいくら積まれても傭兵は不可能に思える仕事は請けない。
命が無ければ金を使うこともできないのだから。

「闇夜も魔法で明るくされる。高所からの待ち伏せでもグリフォンは飛べる」
タバサが指折り数える。
「傭兵側に伏兵もなし。メイジを相手にするには明らかに戦力不足」
「これらから推測できることは一つ」
「あの傭兵達はグリフォンを襲う気が無く、馬に乗る三人だけを狙った」

218『女教皇と青銅の魔術師』 78  (15/15):2007/07/12(木) 15:11:38 ID:LYlv2YL2
重苦しい沈黙が降りる。
「…すぴー…」
訂正。テーブルに突っ伏したサイトの安らかな寝息だけが聞こえる。
引きつった笑みを浮かべてキュルケが場を取り成す。
「そ、それじゃあアレはこっちの戦力を削ぐだけの様子見ってことね?」
「多分。どこか遠くからこちらの反応を見ていたと思われる」

「じゃあ次は…」
「相手の戦力は測った。居場所も特定。
 増えたこちらの戦力に対応する時間は必要だけどここなら傭兵の補充は簡単。
 この宿にいる間に大規模な奇襲を受ける可能性が高い」

タバサはいつもの調子を崩さないが、キュルケは動揺を隠せないでいる。
フーケ戦の時はあくまで奇襲する側、攻め手であった。
今回のような相手に命を狙われる実戦は初めての経験だ。
お互い命を賭けて決闘したことのあるギーシュとミドラーは、少し感心してタバサを見る。
どうやら二人の想像以上にタバサは修羅場を経験しているようだ。
安らかな寝息を立てている凄腕の使い魔は…どうなのだろう。

219『女教皇と青銅の魔術師』:2007/07/12(木) 15:14:01 ID:LYlv2YL2
以上です。
どなたか、投下お願いします。

10日も投稿しないと何か忘れられそうで怖い…

220女教皇代理:2007/07/12(木) 15:40:26 ID:l1XIpaEw
俺もさるさん食らっちゃったぜ……次の人、代理頼む……
あと名前欄が長いとかで撥ねられるから、俺の名前欄を参考にするといいかもしれない…ガク

221名無しさん:2007/07/12(木) 15:49:00 ID:1iWPYY3k
OK、それじゃあ引き継がせていただこう

222『女教皇と青銅の魔術師』:2007/07/12(木) 17:21:19 ID:sht7fugY
投下の協力に感謝する。ありがとう。

223来訪者:2007/07/13(金) 05:47:44 ID:giWtPpSc
途中で規制をくらった!
アホか俺は!
というわけでだれか続きを頼みます…

224来訪者:2007/07/13(金) 05:49:02 ID:giWtPpSc

『闘い終えた「バオー」は、変身から少年へ戻っていった』

「これは!?」
育郎の意識が覚醒し、最初に目に入ったのは、倒れるギーシュにすがりつき、
涙を流しながら魔法をかけているモンモランシーの姿だった。
その光景に、自分が何をしてしまったのか悟る。

あの『力」が!
僕の中の化け物の『力』が彼を!?
あの時は自分の意思でコントロールできたのに!
ドレスとの最後の闘いの時、自分はあの力を制御していた。
だからこそ、最悪あの姿になっても誰かを傷つける事はないと思っていた。

「僕のせいだ…ッ!」
自分に対する怒りがわいてくる。
しかし次の瞬間、ギーシュから、あの『におい』が発せられている事に気付いた。

感じる!かすかだが、まだ彼の生命の『におい』を!
今ならバオーの血で助ける事が出来る、だがコントロールできるのか!?

225来訪者:2007/07/13(金) 05:50:53 ID:giWtPpSc
一瞬の戸惑い。
だが魔法をかけていたモンモランシーが倒れこむのを見たとき、
育郎は決心した。

迷っている暇は無い、コントロールするのだ!
でなければ彼が死んでしまう!
目覚めるんだ、僕の中に眠る『力』よ!

『脳に寄生する「バオー」が、橋沢育郎の意思を感知した………
 「バオー」はその意思に従い、宿主である育郎を再び変化させる!』

      ウォォォォォォォォム!バルバルバルバル!!!

『宿主の命に危険があるわけではない、だが「バオー」は育郎の意思に従う。
 それは宿主のための行動であり、そして「バオー」の意思でもあるのだ!』

226来訪者:2007/07/13(金) 05:52:41 ID:giWtPpSc

「あれ?」
ギーシュが目を覚まして考えたのは、何故自分が地面に寝ているのだろう?
という事だった。そしてその自分に、誰かが倒れこんでいることに気付く。
「…モンモランシー?」
一瞬モンモランシーに何かあったのかと思ったが、ただ寝ているだけだと気付き、
安心すると、倒れこんでいる事によって、モンモランシーの胸の感触を味わえている
という事実をギーシュは発見した。

こ、これは……なんだかわかんないけどラッキー!

「う…うん……ギーシュ?」
そんなことを考えていると、モンモランシーが目を覚ました。
身持ちの硬いモンモランシーの性格を思い出し、顔が青くなる。
「いや、違うんだモンモランシー!これはその」
「ギーシュ!!!」
「へ?」
モンモランシーがギーシュに抱きついて泣き出した。
「ギーシュ、生きてるのね!?良かった、本当に良かった!ああ、ギーシュ……」

おおおおおお!さらに胸が!おっぱいがいっぱいであります!
って『生きてる』?

227来訪者:2007/07/13(金) 05:54:15 ID:giWtPpSc
「あああああッ!!!!」
思い出した。
自分はあのルイズの使い魔に…
傷のあった場所を見てみると、服は汚れているがもう血は止まっている。
それにモンモランシーの胸が当たっているのに、全然痛くない。
というか気持ちいい。
「おお、愛しのモンモランシー!君が治してくれたのかい?」
涙をぬぐったモンモランシーが、ギーシュを見て首を振る。
「わからない…治癒の魔法は懸けてたけど、秘薬もないのにあんな傷…」
「『彼』が君に何かを飲ませたんだ…そしたら君が生き返った」
何故かボロボロになっているマリコルヌが、いつの間にか傍に来ていた。
「『彼』って…ルイズの使い魔の?ど、どうして?」
「わからない……けど、すまなさそうしてたよ、彼は…」
「そうか…教えてくれてありがとう、マリーベル」
「マリコルヌ!風上のマリコルヌだよ!?」
マリコルヌの抗議の声を聞きながしながら、モンモランシーを見ていると
ふと、思い出すことがあった。
「も、モンモランシー…」
「なぁに、ギーシュ?」
非常に心苦しいが言わなければならない。
「負けちゃってごめん…いや、その…僕が代わりにあのメイドに謝ってこようか?」
それを聞いたモンモランシーは呆れた顔をした後、笑顔になり
「本当に…馬鹿なんだから…」
もう一度ギーシュに抱きついて、泣いた。

228来訪者:2007/07/13(金) 05:55:30 ID:giWtPpSc

ギーシュは泣いているモンモランシーをなだめながら思った。

それにしても…良いにおいだな

モンモランシーの二つ名を思い出す
『香水』のモンモランシー

やっぱりモンモランシーの香水はいいな…
いや、モンモランシーがつけてるから良いのかな?

なんだか幸せな気分になってくる。

でも、やっぱりモンモランシーは笑ってるほうがいいや。

そう思ったが、ギーシュは、なんだか世界で一番自分が幸福のような、
そんな気分になっていた。

229来訪者:2007/07/13(金) 05:58:24 ID:giWtPpSc
規制!
その素敵な好奇心が自分を不安にさせた!

ていうか初めて喰らってかなり焦ってます。
だれか代理お願いします

230来訪者:2007/07/13(金) 06:48:20 ID:giWtPpSc
代理投下してくれた人ありがとう!
君の命がけの行動ッ!僕は『敬意』を表するッ!

231ヘビー・ゼロ:2007/07/13(金) 20:45:38 ID:4CYzC2CM
前回の代理投下してくれた人に『敬意』を払いますッ!
そして本スレに書き込めなくなっているのでまた代理投下お願いします・・・

232ヘビー・ゼロ:2007/07/13(金) 20:47:45 ID:4CYzC2CM
第十三話 『夢枕のち閃光』

ルイズは夢を見ていた。かつての自分を夢に見た。母に叱られて隠れているのだ。すぐそこでは召し使いたちが自分を探していた。自分に哀れみを向けながら。
「上の二人は才能に恵まれているというのに・・・」「ルイズ様はなんでだろうな・・・」
ルイズは悔しくて歯がゆくて唇を噛んだ。
召し使いたちがこちら側を捜索しだしたので、ルイズは『秘密の場所』と呼んでいる、中庭の池に向かう。ルイズが唯一安心できる場所。
池の真ん中には小さな島があり、ほとりには小船が一艘浮いていた。ルイズは叱られるといつもこの小船に逃げ込んだ。小さく丸くなっていると不意に上から声がかかる。
「泣いているのかい?ルイズ」
まだ声変わりしたばかりだろう声は優しく鼓膜を振るわせる。
「手を貸してあげよう」
差し出された手は大きく逞しかった。ずっと憧れていた手。ルイズは握り返そうと手を伸ばすが、急に風が吹いて目の前の男性を吹き消してしまった。わたしはまた、一人ぼっちだ。

そこで目が覚める。

「大丈夫か?」
目が覚めて一番に目に入ったのは使い魔の顔だった。
「うなされていたが」
「なんでもないわ!」
なぜだろうか。わたしは焦ってそれだけ言うと毛布に頭までくるまり身を縮めた。なぜだか今はウェザーと顔を会わせたくなかった。
しかし無情にも毛布は剥ぎ取られてしまった。必死になって端を掴むけれどウェザーの力には敵わずに奪われてしまった。

233ヘビー・ゼロ:2007/07/13(金) 20:50:59 ID:4CYzC2CM
「何するのよ!」
「朝起こせと言ったのはお前だろう・・・俺に落ち度はないはずだ」
「う・・・」
「理解できたなら顔を洗い着替えろ。朝食を食いっぱぐれるぞ」
ルイズは言われた通り起き上がり顔を洗う。ちなみに本来ならば桶に水を張って持っておくものだが、ウェザーの場合は桶の上に雨を降らせることで手間を省いている。顔を洗ったのを確認したらウェザーは廊下に出てルイズの着替えが終わるのを待つのだ。
こうして新しい一日が始まる。

教室の扉が開き、長い黒髪と漆黒のマントという不気味な出で立ちの男が入ってきた。
「では授業を始める。知ってのとおり私の二つ名は『疾風』、疾風のギトーだ」
ウェザーは第一印象から何だか好きになれそうにないやつだと思った。
「さて、最強の系統をご存知かな?ミス・ツェルプストー」
「『虚無』じゃないんですか?」
「伝説に夢を馳せるのは構わないが私は現実の話をしているのだよ」
回りくどく陰険な物言いは聞いているだけで相手を不快にさせる。直に言われたキュルケならばいわんや何をや、である。
「『火』に決まってますわ。ミスタ・ウイロー」
「ギトーだッ!白黒抹茶あがりコーヒー柚桜でもないッ!・・・取り乱したなスマナイ。電波を受信してしまったようだ」
青柳・・・もといギトーが咳払いをして仕切り直す。
「で、どうしてそう思うね?」
「すべてを燃やしつくせるのは、炎と情熱。そうじゃございませんこと?」
「残念ながらそうではない」
ギトーは腰に差したういろうではなく杖を引き抜くと言い放った。
「試しに、この私に君の得意な『火』の魔法をぶつけてきたまえ」
なるほど、生徒の魔法を撃ち破ることで自分の力を見せつけたいわけだ。さしずめキュルケは生け贄と言うわけだ。
「・・・気に食わないな」
そう思ったのはウェザーばかりではないらしく、周りからもぶちぶちと文句を言う声が聞こえてきた。
(どうするかな・・・)
ウェザーが思案している間にキュルケは少し躊躇ったが挑発に乗ったようだ。

234ヘビー・ゼロ:2007/07/13(金) 20:53:43 ID:4CYzC2CM
「火傷じゃすみませんことよ?」
キュルケの目が狩人のそれに変わる。
「かまわん。本気できたまえ。そのツェルプストー家の証たる赤髪が飾りではないのならね」
その瞬間、キュルケの周りの空気が熱に歪んだ。炎髪は正に炎のごとく揺らめき逆立つ。胸の谷間から杖を引き抜くと瞬時に呪文を詠唱し振った。直径一メイルの『ファイヤーボール』がギトーめがけて飛ぶ。
殺傷能力は十二分だろう。しかしギトーは恐れた様子もなくすました仕草で杖を向けた。そのタイミングでウェザーはキュルケの火の玉に酸素を送り込む。火の玉が一瞬で燃え盛り、一メイルから二メイルに燃え上がった。
目の前でいきなり倍に膨らんだ火の玉を目の当たりにしたギトーは詠唱も放り出して教卓の陰に潜ってしまう。その上を火の玉が通過してだいぶ経ってから顔を出したギトーの髪は先の方が燃えていた。
慌てて消そうとするギトーに教室中から笑いが起こる。
「あらミスタ・ギトー、わざわざ情熱に焦がされてくださったのですか?でも残念、あなたあたくしの趣味じゃございませんの」
キュルケのセリフに笑いが一層大きくなった。キュルケが後ろを振り返りウィンクを贈ってきた。
「鎮まりなさい!鎮まりなさい!」
何とか鎮火したギトーがちぢれた毛を必死に伸ばしながら叫んでいる。その後笑いは収まったがギトーの見せ場は台無しだろう。
「あー・・・さすがはツェルプストー。『火』の恐さはよくわかったよ。しかしだ諸君!それでも『風』が最強であることは確実なのだ!今その証拠をお見せしよう・・・」
恥辱からか顔の赤いギトーに次は何をやらかしてくれるのかとダメな期待の眼差しを生徒が贈る。せれを良い方向に受け取ったギトーは杖を構えて詠唱を始める。
「ユビキタス・デル・ウィンデ・・・」
しかしギトーの見せ場はまたも台無しとなった。教室の扉がけたたましく開かれると、ロールケーキが入ってきた。
「みなさん授業は中止です!」
「ミスタ・コルベール!一体何事か?」

235ヘビー・ゼロ:2007/07/13(金) 20:55:07 ID:4CYzC2CM
ギトーの言葉に驚いたがよくよく見ればコルベールがロールケーキの群れを被っているだけだった。しかしセンスのないヅラだ。
「ヅラじゃない!ウイッグだ!」
心を読まれて怒鳴られてしまった。
「そんなことより授業が中止とは?」
「うむ、何とゲルマニアへ出向いてらしたアンリエッタ姫殿下がハルキゲニアへの帰途に我が学院に行幸なさるのです!」
その途端に教室が荒波のごとくざわつきだした。王女が来る。それがスゴいことなのはわかるが、この騒ぎ方は異常だ。コルベールが両手を掲げけて生徒を静める。
「したがって、粗相があってはいけませ。急なことですが、今から全力を挙げて歓迎式典の準備を行います。よって本日の準備は全て中止!」
荒波から一転、水滴ほどのささやきさえ聞くことができなくなってしまった。コルベールはその様子に満足したらしく首を上下に振った。
「御覚えがよろしくなるように、しっかりと杖を磨いておきなさい!よろしいですかな!」

生徒たちが正門近くで列を整えて暫くすると、一角獣に引かせた馬車が正門をくぐって現れた。真ん中の一番立派なのが王女の馬車だろうか。
生徒たちは一斉に杖を掲げて出迎える。
オスマンが出迎える本塔の玄関で馬車は止まり中から老人が現れ、一拍おいてから王女が現れた。
「なるほど、確かに可憐だな」
王女が生徒に向かい手を振ると辺りからは割れんばかりの歓声が上がった。人気の秘訣は王女という地位もさることながら、彼女自身の美貌によるところも大きそうだ。
「大した人気だな」
「王女だからでしょ。あたしの方が美人よね、ダーリン?」
誰に言うでもなく呟いたつもりだったが、キュルケが目敏く反応してきた。
「ん〜・・・そうだな」
「ちょっとぉ〜今の間はなにィ〜?」
留学生という話だったからだろうか、キュルケはあまり王女に興味は無さそうだった。タバサはタバサでいつものごとく本の虫と化している。
対照的にギーシュは熱狂的に騒ぎ立てていた。ルイズはと言うと、顔を赤くして一点を見つめていた。王女の方を見ているのかと思ったが、その護衛の男を見ているらしかった。羽付の帽子にヒゲをはやした長身の美丈夫だ。
(一目惚れか?)
ウェザーは勝手にそう思った。

236ヘビー・ゼロ:2007/07/13(金) 20:57:15 ID:4CYzC2CM
夜になり部屋に戻ってもルイズは惚けていた。顔を赤くしたまま俯いたり天井を見上げたり、ベッドに寝転がると枕を抱いてあっちへコロコロこっちへコロコロとせわしなく動いている。
よっぽど王女が好きだったのだろう。ビートルズやマイケル・ジャクソンを直で見たファンが卒倒してしまったなんて話をよく聞くからな。
ルイズの奇行を眺めているその時、廊下で空気の乱れを感知した。寮生ではない初めて感じる風だ。しかも徐々にこの部屋に近づいてきているらしい。警戒してドアを見ていると不規則なノックがされた。
それが聞こえると惚けていたルイズがベッドに寝たままの姿勢でドアまで跳び、少しだけ開けた。隙間からは黒いローブを被った人間が見える。
「まさか・・・姫様?アンリエッタ様ですか?」
「そうよ、あなたのお友達のアンリエッタよ!ルイズ会いたかったわ!」
そう言ってローブを取り払うと確かに今日見たアンリエッタ王女その人であった。アンリエッタはドアを押し開けてルイズに抱きつこうとしたが、それよりも速くルイズの掌底がアンリエッタの顎をかち上げた。
「巨乳だなてめー・・・」
「何ッ?」
たまたま部屋の前を通り過ぎようとしていたタバサが室内に入ってきて二人してアンリエッタを蹴りまくる。
「巨乳か!」「巨乳かッ!」「巨乳かッ!」「巨乳かッ!」
激しい蹴りの嵐に晒されているアンリエッタは・・・なぜか笑顔だ。そこに騒ぎを聞き付けたキュルケが入ってきた。
「ちょっとルイズ!あんた何して・・・」
しかし皆まで言う前にタバサの神速の掌底が口を塞ぐ。
「巨乳発見」
「なにィ?」
「巨乳か!」「巨乳かッ!」「巨乳かッ!」「巨乳かッ!」
アンリエッタから標的を移したルイズとタバサのヤクザキックがキュルケに雨霰と降り注ぐ。
さすがに止めた方がいいかと声をかけようとした時、文句を言いに来たモンモラシーが現れた。
「あんたらうるさァーーいッ!」
眉を吊り上げながら飛び込んできたモンモラシーだが今度はルイズとタバサのダブル掌底が炸裂した。
ああ、人間の目からはマジで火花が出るんだなあ・・・
「テメーも巨乳か?」
「なに!」
「巨乳か!」「巨乳かッ!」「巨乳かッ!」「巨乳かッ!」
「くらえ!くらえッ!」「おらっ」「おらっ」「おらっ」
いつの間にか参加していたアンリエッタが二人を制する。
「待てルイズ。こいつは巨乳ではないようだ・・・なんだ、おい・・・ただの罪のない中乳だぜこりゃ」
「え、本当かよ!やばいわわたしどうしよう。弁償なんてできねーよ、わけてあげれる余裕のある胸なんか持ってねーよ」
「これか?うーむ確かにこの胸では分類しにくいな。巻き毛に普通の胸は目立たないんだよなぁ〜〜〜だがラッキーな事に、今のキャラの立ち位置ならギーシュとくっつく未来が見えない事もない。死亡フラグを立てなけりゃ大丈夫だぜ」
「そう、まあ・・・しょうがないわね。ついでよ、こいつに『探知魔法』をかけてから話しましょう」

237ヘビー・ゼロ:2007/07/13(金) 20:58:33 ID:4CYzC2CM

「で?ルイズご乱心の理由はなんだ?」
「やあねえ、わたしと姫さまの間で昔から行われてきた挨拶よ」
「驚かせて申し訳ありません。懐かしくてつい・・・」
「驚いたってレベルじゃなかったがな」
蹴りも掌底も全て『ふり』らしくアンリエッタはまるで傷をおっていない。後からのってきたタバサと巻き添えをくらったキュルケとモンモラシーは知らないが、ケガをしていないところを見ると『ふり』らしかった。
「で、そのルイズと旧知の麗しの姫殿下様がこんな時間に何の用なのかしら?」
キュルケが乱れた髪を手櫛で直しながら尋ねる。ゲルマニアからの留学生だからかどこかぞんざいな感じが見受けられた。
ルイズと共にベッドに腰かけているアンリエッタはウェザーとキュルケとタバサ、モンモラシーを順繰りに見て回りその後でルイズを見た。その視線を受けてルイズが一人ずつ紹介する。
「あそこの赤い髪の彼女はキュルケと言ってゲルマニアからの留学生です。椅子に座って本を読んでいるのがタバサ。窓際の巻き毛の彼女はモンモラシーです」
キュルケとタバサはまるで気にした様子もないが、モンモラシーだけは姫殿下に紹介されてかなり緊張しているらしい。会釈がぎこちなかった。
「それでルイズあの人は?私ここに入った時から気になっていたのよ。だってあなたの恋人なんでしょう?」
いきなりの爆弾発言にルイズは目を白黒させながらしどろもどろに答えた。
「は?な!え?ち、違います!あんな角生えた帽子かぶるようなセンスの男が恋人なわけないじゃないですか!」

238ヘビー・ゼロ:2007/07/13(金) 20:59:51 ID:4CYzC2CM
慌てて否定するルイズに対してキュルケがウェザーにすりよってきた。
「そうよね〜、ダーリンはあたしの恋人だもの」
豊満な胸を押し付けているキュルケをルイズが睨む。あまりの剣幕とさっきの挨拶のせいかキュルケは思わず飛び退いた。
「あれはわたしの使い魔です」
「でもどう見ても人間・・・」
「人間です」
その言葉にアンリエッタはポカンとしたが、すぐにクスクスと笑いだした。
「ルイズ、あなたって昔から不思議なところがあったけれど、スゴいわ」
「ははは・・・」
乾いた笑いのルイズだった。
「王女様は昔話をしにきたのか?」
ウェザーが横から口を挟むとアンリエッタは少し渋ったが、改めてルイズを見据えた。
「実はね、あなたにお願いがあってきたの。あの『土くれ』のフーケを倒したあなたにしか頼めないの」
するとキュルケが不満そうに口を挟んだ。
「お言葉ですけど姫殿下様、『土くれ』討伐の場にはこのキュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルト・ツェルプストーもいましたのよ」
「フォン・ツェルプストー!かの家の者までが!そう言えばフーケを捕らえた者の中にキュルケとタバサという名がありました」
アンリエッタはにわかに喜びだすと、内密な話です、と前口上を置いて話し出した。
「実はですね・・・」
「あの〜・・・」
モンモラシーが申し訳なさそうに挙手をして話を切った。全員の視線が刺さる。
「なんかヤバそうな話なら私はパスしたいな〜・・・なんて」
「確かに、王女の密談を聞いたのなら従わなければ殺されるな・・・」
「私はフーケ討伐にも参加してないし、本当物騒なことは嫌いなんです・・・」
「いえ、わたくしも無理強いするつもりはありません。今日わたくしがここに来たことを他言しないと誓ってくださるのならばわたくしは何も申し上げませんわ」
アンリエッタの言葉にモンモラシーはほっとした表情になる。
「だ、そうだが、お前の覚悟を聞かせてもらおうか?」
ウェザーはいきなりそう言うともたれていた扉を開けた。すると誰かが転がり込んできた。
「うわあ!」
ギーシュだった。

239ヘビー・ゼロ:2007/07/13(金) 21:01:26 ID:4CYzC2CM
「盗み聞きしてた覚悟のほどをお聞かせ願おうか」
仰向けにひっくり返っていたギーシュは素早く立ち上がるとなぜか敬礼の姿勢をとった。
「姫殿下!あなた様の憂鬱、是非ともこのギーシュ・ド・グラモンに打ち明けられませ!」
「グラモン?あの、グラモン元帥の?」
「息子でございます。姫殿下」
「あなたもわたくしの力になってくれるというのですか?」
「姫殿下のお力になれるのであれば、これはもう、望外の幸せにございます」
その目はいささか熱っぽすぎるが、アンリエッタは納得したようだ。モンモラシーが扉に向かう。
「それじゃあ私はこれで・・・」
「みんな、モンモラシーの口の固さはこの僕が保証しよう」
「あなたの尻の軽さはみんなが保証するけどね」
「も、モンモラシー・・・」
憎まれ口を叩きあってモンモラシーは帰っていった。
「それでは皆さんにお話し致します」

ギーシュが部屋に戻るとモンモラシーが扉にもたれていた。ギーシュに気付くと物憂げな眼差しをギーシュに贈る。
「待っていたのかい?」
「ギーシュ・・・なんだか私心配になってしまって。あなたが遠くにいってしまう気がするの・・・」
モンモラシーが胸に飛び込んでくるのをギーシュは優しく受け止めた。
「大丈夫さモンモラシー。当然わけは話せないが僕は明日早くにここを出立する。けれど必ず帰ってくるから、どうか涙を拭いておくれよ、僕の愛しい女神」
キザったらしくモンモラシーの涙を掬うギーシュにモンモラシーは安堵を感じた。
「ギーシュこれを持っていって」
モンモラシーがやや大きめの小ビンをギーシュに渡す。中には銀色に光る液体が入っている。
「これはもしかして薬かい?」
「まだ上手く作れなくてそれだけしかないの・・・傷に塗るだけでも効果はあるはずよ」
「ありがとうモンモラシー」
ギーシュはモンモラシーの額に口付け、モンモラシーとおやすみを言い合った。

240ヘビー・ゼロ:2007/07/13(金) 21:02:51 ID:4CYzC2CM
「なんだか面倒くさそうねえ」
「ならば受けなければ良かった」
タバサの部屋のベッドを占領したキュルケが愚痴るようにこぼした言葉にタバサは律儀に応えた。
キュルケは寝返りをうち仰向けになると頬杖をついてタバサを見やった。寝巻きに着替えるタバサの体のラインが月の光によって浮かび上がる。
「だってぇ、あの王女様ったらルイズばかり褒めるじゃない?ルイズが注目されてあたしが注目されないなんて有り得ない!」
力強く言いきったキュルケにタバサはため息で応える。着替え終えたのでキュルケをどかそうとするがまるで動く気配がしなかった。むしろボタンの掛け違いを指摘されて直されてしまった。
「それにそれを言うならあなたこそモンモラシーと一緒に抜け出せばよかったのに。あなたこういうの嫌いでしょ?」
キュルケが上目遣いで見つめてくるのを正面から受けていたタバサだったが、すぐにそらしてしまった。
「・・・心配」
キュルケは一瞬きょとんとしてしまったがタバサの顔が赤いのに気付くと手を引いてベッドに倒して抱きついた。
「あーん、あなたってば本当に良い子ね。あたしは良い友達を持ったわ。キスしていい?」
「それはダメ」
「つれないわねぇ・・・じゃあ今日だけ一緒に寝ちゃダメかしら?」
「・・・かまわない」
「ありがとうタバサ」
その日タバサは抱きついて眠るキュルケの胸を枕代わりにした。巨乳も悪くないと思えた。

寮の廊下をアンリエッタとウェザーが並んで歩く。ルイズの命令でアンリエッタを護送しろということだった。無言に耐えられなかったのかアンリエッタが口を開いた。
「あの、あなたは本当にルイズの使い魔なのですか?」
「そうらしいな」
前を見たままウェザーが答える。また無言。
「あ、あの!わたくしの大事なお友達をどうか守ってくださいね」
そこではじめてウェザーがアンリエッタの方を向いた。
「そう思うのなら・・・ルイズにあんなことを頼むべきじゃあなかったな」
「え?」
「ルイズを――お友達を守れと言うが、そのルイズにふりかかる火の粉はお前が招いたものだし、お前がルイズに被れと言ったことだ・・・」
責めるような調子でないことが逆にアンリエッタの胸に深く刺さる。
「そんな、わたくしは・・・ただ・・・」
「お前はただ友達だからと話をしたんだろうが、ルイズはお前だからこの依頼を受けたんだ」
アンリエッタはハッとした。頼むだけなら他の者でも良かった。依頼の内容が内容だが、ルイズを危険にさらす必要はないのだ。だのにルイズはまるで躊躇する様子もなく快諾してくれた。しばらくぶりだというのにルイズは昔と変わらない態度で接してくれた。今のアンリエッタの周りにそうしてくれる者がはたして何人いるだろうか。
「いい友達を持ったな・・・」
「ええ・・・ええ・・・」
アンリエッタの青い双眸からは涙が止めどなく溢れていた。

一人になった部屋でルイズはアンリエッタの話を反芻していた。反乱を起こしたアルビオン貴族派に対抗するためにゲルマニアと同盟を結ぶこと。そのためにはアンリエッタがゲルマニア皇室に嫁がなければならないこと。しかしそれを脅かす材料があること。姫様からの依頼とはこの不安材料――ウェールズ皇太子が持つ手紙の回収であった。
「はあ・・・」
ルイズがため息を漏らすのはその依頼の難易度ゆえにではなかった。いかな困難もアンリエッタのためならば辛くはなかい。
ウェールズ皇太子のことを話す時の姫様のあの憂いを帯びた瞳。あれは間違いなく恋する女の瞳だった。ウェールズは凛々しく、アンリエッタとならさぞやお似合いだろう。しかし政治に携わる者の宿命か、二人は引き離されようとしていた。自分がすることは二人にとって本当に良いことなのだろうか?
アンリエッタから授かった『水のルビー』を明かりにかざしてみる。心を落ち着かせるような光が反射したがルイズの心中は複雑だ。
「わかってるわよ・・・個人よりも国だってことくらい・・・」
ルイズの一人言は、しかし虚しく部屋の壁に吸い込まれるだけだった。

241ヘビー・ゼロ:2007/07/13(金) 21:04:45 ID:4CYzC2CM
朝霧の中、ルイズ、ウェザー、ギーシュ、キュルケ、タバサ、シルフィードが正門に集まった。ルイズ、キュルケ、タバサがシルフィードの背に乗り先行する。ウェザーとギーシュは馬だ。
「あなた馬に乗れないんじゃないの?」
「尻の下にクッションを敷けば問題ない」
空気のだが、とルイズに答えた。話によるとかなりの距離を行くらしく、しかもいつアルビオン王家が敗れるかわからないので急がなければならなかったがこれで何とかなるだろう。
「でも今日に限ってスゴい霧ね。幸先悪いわ」
「ああ、それは俺だ。あくまでこれは隠密だから姿を隠せる。誰が見てるか分からないからな」
ルイズ以外の三人はへ〜と驚いていた。
「ねえやっぱり先住魔法なの」
「・・・さあな」
出発の準備を着々と進める中でギーシュが困ったように言った。
「僕の使い魔を連れていきたいんだ」
「連れてくればいいじゃない」
ルイズの言葉に笑みを浮かべたギーシュが地面を叩くとそこが盛り上がり巨大なモグラが現れた。
「ヴェルダンテ!ああ!僕の可愛いヴェルダンテ!」
モグラに抱きつくギーシュに周りは引いた。
「ジャイアントモールじゃない。ダメよギーシュ。私たちの目的地はアルビオンなのよ。地中を掘り進む生き物を連れてはいけないわ」
それを聞いたギーシュはがくりと両膝を地面についた。
「絶望した!使い魔に冷たい世界に絶望した!」
両手を持ち上げて何か言っているが気にしない。するとモグラが鼻をひくつかせながらルイズを押し倒したのだ。
「ちょ、ちょっと!や!どこに触ってるのよ!」
ルイズは必死に抵抗するが、何かの遊びと勘違いしたシルフィードがダメ押しとばかりに混ざり出してなすすべがないようだ。モグラはルイズの右手に光るルビーに鼻を擦り付けている。
「ほう、ヴェルダンテは宝石が大好きなんだ」
ルイズはルビーを守るために必死だが、相手は小熊くらいのモグラと竜だ。勝ち目はない。
しかしこのままでは出発できない。キュルケもタバサも見ているだけなのでウェザーが止めるはめになった。
一陣の風が二匹を吹き飛ばす。その際ルイズのスカートもめくれたが見なかったことにした。
「遊んでないで行くぞ」
「遊んでんのはこいつらでしょ!」
憤慨したルイズが二匹の額に大きなたんこぶを作った。
シルフィード組と馬組に別れ、シルフィードが羽ばたき霧の外を目指して飛び立ったのを合図にウェザーとギーシュが正門を出た。しかしウェザーはすぐに止まって後方を見つめる。
「どうしたんだねウェザー?」
「・・・いや何でもない」
何か帽子を被った長身の人影が霧の中をさ迷っていてすれ違った気がしたが、ギーシュにせかされて先を急いだ。

アンリエッタは学院長室から霧を抜けて走り去る一団を見つめると、目を閉じて祈った。
隣ではオスマンがその尻を撫でるかどうするかで真剣に迷っていた。やれば罰が、やらねば今まで築き上げてきた全てが崩れる気がした。
「見送らないのですか?オールド・オスマン」
「いや、見るだけでは惜しい尻ですからな・・・」
「お尻?」
「いやいやなんでもありませんぞ!」
「心配はないのですか?」
「すでに杖は振られたのですぞ。それに若い者のすることに老人は口を挟むものじゃありませんでな」
その言葉にアンリエッタは頷いた。災厄を被せた以上彼女にできることは全ての結果を受け入れることだけだった。
「なに、心配せんでもあのミス・ヴァリエールの使い魔がおれば大丈夫じゃて」
アンリエッタはあの無口な横顔を思い出す。
「彼は・・・そんなにも?」
「ギーシュ・ド・グラモンとの決闘を軽く制して『土くれ』討伐も彼がいなければ成功しなかったという。雲のように捉え所のない男じゃがただの平民ではあるまい」
「そうですか。ならば信じましょう。その雲がみなを優しく包んでくれると」

アンリエッタが窓から見上げた空には黒い雲が迫っていた。どうか彼らの道が暗雲に覆われることのないようにと祈った。

242ヘビー・ゼロ:2007/07/13(金) 21:06:53 ID:4CYzC2CM
以上投下完了ッ!どなたか代理お願いします!
しかしいつまでも人に頼っていられないな・・・対策を立てねば・・・
これは「試練」だ
慣れない2ちゃんに打ち勝てという「試練」とオレは受けとった
人の成長は・・・未熟な過去に打ち勝つことだとな・・・

243名無しさん:2007/07/13(金) 21:08:16 ID:MWBXzycw
個人的にはギコナビがオススメ

244名無しさん:2007/07/13(金) 21:12:32 ID:hPpDYRrk
506氏のが終わったら代理投下するよー。

245名無しさん:2007/07/13(金) 21:39:48 ID:c6mWkEH6
モンモランシーって貧乳だったと思うんだが

246ヘビー・ゼロ:2007/07/13(金) 21:42:47 ID:4CYzC2CM
>>243
オケ、試してくる
>>244
あなたの代理投下宣言を見ているうちに・・・なんていうか、その・・・『感謝』しちゃいましてね・・・

247ゼロと奇妙な隠者:2007/07/14(土) 06:50:14 ID:BrYLEAvA
やはり早朝に投下するもんじゃないね五回投稿にひっかかりまくるorz
誰か代わりに投下お願いします…

248ゼロと奇妙な隠者:2007/07/14(土) 06:50:47 ID:BrYLEAvA
 そして右手からハーミットパープルを伸ばすと、自分の喉に緩く絡みつかせてから、三人の耳元に茨の先端を這わせ、押し付けた。さっきも使った骨伝導である。
 もしかしたらフーケに聞かれるかもしれない、という用心の為でもあるが、より「内緒話」感を強くするのも念頭に入れている。
「よし! もうハーミットパープルについちゃわしらだけの秘密にしよう! 今ハーミットパープルを知ってるのはわしらとオスマン学院長くらいじゃしな! で! 読心能力はこの身内には決して使わない!
 自分の心の中を覗かれて平気でいられる人間はおらんしの! プライバシーの侵害になっちまうからのッ!」
 心の中に隠していることを全て知られる、というのは随分と恐ろしい事である。三人は想像の範囲内ながらも、もし自分の心が人に知れたら……と考えて、その恐ろしさに身の毛がよだった。
 こくこくこく、と一も二もなく頷く三人。
「どーやらスタンドどころか波紋もあまり見せちゃいかんようだったが、もう波紋であれやこれややっちまったからそれはしゃーないッ。ただハーミットパープルのことは他言無用っつーことでな。オーケー?」
 全員でこくりと頷いた。
「よし。んじゃそーゆーことでヒトツ。ルイズもキュルケもタバサもそれぞれきちんとゴメンナサイしたことじゃし、これで水に流しちまおう。なッ?」
 これで一件落着……となるはずだった。が。
「うふふふふ……それで終わりだとか思ってるワケじゃないわーよーねー、ジョーセーフ?」
 まだ終わっていない人がいた。
 我らが『ゼロ』のルイズである。

249ゼロと奇妙な隠者:2007/07/14(土) 06:51:26 ID:BrYLEAvA
「フラチにもご、ご主人様にッ……あああ、あんな、きききキス、するだなんてッ……!」
 乙女にとってキスとは神聖不可侵な問題である。
 ファーストキスはまだしょうがないとしよう。しょうがないのだ。
 だが、あのキスは。セカンドキスを奪われた上に。
「しっ……ししし、舌まで入れるだなんてッ……!!」
 ゴゴゴゴゴ、と特徴的な書き文字をバックに肩を震わせるルイズ。
 ジョセフの卓越した危機感知能力は、命の危険を判別したッ!
「……ま、待てルイズッ! ここはヤバいッ! 落ちたら死ぬからッ! な! 落ち着けッ! むしろ落ち着いて下さいッ!」
 全身全霊で命乞いをするジョセフに、ルイズはゆらりと杖を振り上げた。

(何が一番許せないって――!!)

 キュルケも死ぬ気でルイズを羽交い絞めにするも、ルイズの詠唱は止まらない!

(ちょっと気持ちよかったのが、一番ムカついたッッッ!!!)

「ハ、ハーミットパープルッ!!!」
「帰ってから! 帰ってからになさい! ね!?」
「ムゴゴッ! ムゴ、ムゴーーーッッ!!!(離しなさいよ! 離しなさいってば!!!)」
 後ろで巻き起こる大騒ぎから、前に視線を戻したタバサの唇には。
 小さいけれど、確かな微笑みが浮かんでいた。


 To Be Contined →

250ゼロと奇妙な隠者:2007/07/14(土) 06:52:32 ID:BrYLEAvA
意外と長くなったので一旦ここまで。また昼過ぎくらいに続きを投下しますorz

251名無しさん:2007/07/14(土) 07:12:09 ID:0/.rTrPQ
とりあえず代理投下してきたZE☆

252ゼロと奇妙な隠者:2007/07/14(土) 07:27:47 ID:BrYLEAvA
確認したのですよー。もう非常に感謝(TдT) アリガトウ

253呼べの人:2007/07/15(日) 03:13:35 ID:jLnmWBlU
これから投下します。試験の息抜きです。
それと、うわっ面の代理投下の方、ありがとうございました。

254呼べの人:2007/07/15(日) 03:14:22 ID:jLnmWBlU
 第八話 マリコルヌは恋をする その①

「はぁ〜、……ルイズに相手にしてもらえなかった。なんだかよくわからないけど死にたくなってきた…。」(第七話その③参照)
乙、じゃなくて鬱になっている少年。彼こそがゼロ魔世界の不幸人が一人、マリコルヌである。
「どうしてしまったのだろう僕は…」
現在の彼はいったいどうなっているというのか。
それは簡単である。
恋をしているのだ!ルイズに!
どうしてまたルイズに。
彼の友人達が知ったら、みな口を揃えて言うだろう。
しかし彼、マリコルヌは恋をしてしまった。
彼自身はこれが恋だとは、現時点では気づいていないようだが。
なぜ、ルイズに恋をしてしまったのか、それは数日前にこんなことがあったからである。


マリコルヌは、『決闘』の後の何者かによる襲撃で負傷した。
その怪我を治療がおわり、どんなやつが大怪我をしたのか気になって、医務室に立ち寄ったときのことであった。
ドアを開けると、なんとルイズの声が聞こえるではないか。
そのときはまだ誰も運ばれていなかったため、医務室には別の理由で治療中のルイズしかいなかったのである。
ルイズをからかうのが生きがいであった彼にとって、からかうことは至極当然のことだった。
なぜ、あの場にいなかったルイズがここにいるのか、ということを考えるような頭は彼にはない。
こっそり様子を見てからからかおうと思っていた彼は、カーテンの隙間からルイズの声がするほうを見た。
すると…

255呼べの人:2007/07/15(日) 03:14:54 ID:jLnmWBlU
 第八話 マリコルヌは恋をする その②

マリコルヌの見たもの、それは………







ルイズの生まれたままの姿だったのだ!!!

女に耐性ができていない彼は、鼻血を大量に出し、倒れる、という道を辿りかけた。
しかし、見つかってはまずいという『確固たる意思』と『黄金の精神』でそれを耐え、フラフラとした足取りで自らの部屋に戻っていったのであった。
耐性のない彼にとって、そんなものを見せられたらそれだけで、『僕は幸せだった。』を通り越して恋愛感情が芽生えてしまう。
こうして彼は無意識のうちにルイズの虜になった。


話は戻って現在。
彼はなぜこんな気持ちになるのかを悩んでいた。
悩んでいたために前方の人に気づかず、ぶつかってしまった。
「前を見て歩いていないとは何事ですか、ミスタ・グランドプレ。」
それは土系統を得意とする教師シュヴルーズであった。
「申し訳ありません、ミセス・シュヴルーズ。」
ディ・モールト思いつめた様子で謝るマリコルヌ。
それに対しシュヴルーズはこう切り出した。
「そんなに思いつめてどうしたのです。よければ私が相談にのってあげますよ。」
今の自分がわからないマリコルヌに、これは救いの手に見えた。
だから彼は迷わずに今の状況をひとつ残らず彼女に話した。

256呼べの人:2007/07/15(日) 03:15:42 ID:jLnmWBlU
 第八話 マリコルヌは恋をする その③

「ミスタ・グランドプレ、それは恋ですよ。ミス・ヴァリエールに貴方は恋をしているんです。」
「…ぼ、僕がゼロのルイズに。」
「そうですよ。あなたは気づいていないだけ。数多くの恋をしてきた私にはわかります。」
この後シュヴルーズの昔の恋話が延々と語られる。そして…
「ありがとうございます、ミセス・シュヴルーズ!いえ、師匠!!僕は自分の気持ちに素直になります!」
マリコルヌの返答にシュヴルーズはうんうんと頷き、激励を送った。
その後…ルイズと話をしようとルイズの部屋に向かったマリコルヌであったが、ルイズはタバサと話中だったので彼はあきらめて部屋に帰ることにする。


同日の夜、ロングビルはガリアから来たという自称・神父に呼び止められ、話していた。
「君はトリステイン魔法学院で働いているんだね。一つ頼みがあるんだが。」
神父が問う。
「頼みですって?内容によっては答えかねますわ、神父様。」
ロングビルの答えに諭すように話を始める自称・神父。
そこには不思議な雰囲気が漂っていて、ロングビルを捕らえて離さなかった。
「私にはやらなければならないことがあってね。一度は成し遂げたんだが、とある邪魔があってそれは無に帰したんだ。
また同じ間違いが起こらないように、以前にもまして念を押しておこうと思ってね。」
自称・神父は更に続ける。
その言葉に悪意は含まれない。如何にも私が正義とでも言わんばかりである。
「そこで君に協力をしてもらいたいんだ。つまり私の障害になりそうな人を取り除いてもらいたい。報酬は弾もう。」
「わ、私がそんなこと…」
ロングビルが否定的な発言をしようとすると、間髪いれず次の言葉が発せられる。
まるで絶対に断らせないように。
「いや、君ならできる、ミス・ロングビル。いや、マチルダ・オブ・サウスゴータ。」
「な、なぜその名を知って……ゲバッ!?」
なぜその名を知っているのか疑問に思い、驚いて立ち上がったロングビルは、机の角に顔面を思い切り叩きつけられて意識が遠退く。
「君には期待しているよ、ミス・サウスゴータ…」

257呼べの人:2007/07/15(日) 03:16:27 ID:jLnmWBlU
 第八話 マリコルヌは恋をする その④

翌日、中断されていた授業が始まり、学院内も騒がしくなっていく。
本日最初はシュヴルーズの授業である。
席には生徒、後ろには使い魔という状態でシュヴルーズが入室し、授業が始まる。
「色々アクシデントがあり休講になっていましたが、怪我をした方も復帰して何よりです。
それに話は変わりますが、皆さんの使い魔が召喚が見れて私はとても嬉しいのですよ。」
軽い挨拶を済ませ、基礎知識の復習にはいる。系統がどうとか、その他もろもろだ。
フー・ファイターズは他の使い魔とコミュニケーションをとっている。
そしてお待ちかねの錬金の実習である。
誰を指すのか?それは野暮な質問である。鯔な質問でないことは確かだ。
「ではミス・ヴァリエール、やってみなさい。………ミスタ・グランドプレと一緒に。」
「「は?」」
二人の声がハモる。
一人はなぜマリコルヌと一緒なのかと驚くルイズ。
もう一人はいきなり振られて思考が追いついていないマリコルヌ。
「ミセス・シュヴルーズ、どうして『かぜっぴき』のマリコルヌと一緒にやらなくちゃあいけないんですか?」
「それは、ミスタ・グランドプレの良いところを、共同作業を通じて知ってもらいたいからです。」
直球の答えである。
「「そーだ、それで少しは魔法を学習しろよ!『ゼロ』が贅沢言うんじゃあねー!というか『ゼロ』は錬金するなー!!」」
周りから野次がはいる。ルイズは怒りに震え、シュヴルーズはマリコルヌを見る。
そこでマリコルヌが口を開ける。

258呼べの人:2007/07/15(日) 03:17:01 ID:jLnmWBlU
 第八話 マリコルヌは恋をする その⑤

「みんな、『ゼロ』のルイズなんて呼んじゃあ駄目だ。僕がもっと相応しい二つ名を命名しよう!」
この言葉に野次をはなった生徒は、
「そうだよな、もっと相応しい二つ名があるよなぁ〜。」
「『無能』とか。」「『爆破』!」「『露出』なんてどうよ。」「『貧乳』!『貧乳』!」
てな感じで口々に繰り返す。
それをマリコルヌが黙らせ発表する。
「候補は複数ある、みんなで選んで欲しい。」
「「おぉぉぉぉぉ!!!!」」
熱狂する生徒たち。
「では一つずつ言っていく。忘れないようにメモを取ってくれ!」

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!

「『美麗』『端麗』『女神』『天使』『明晰』『美声』、〜中略〜…でどうだ!好きなものを選んでくれたまえ。」
マリコルヌが言い終えたあと、教室内は静まり返っていた。みんな唖然としていた。マリコルヌとシュヴルーズを除いて。
ルイズのことをからかうのに生きる意味を見出していた(と認識されている)彼がルイズを賛美するなんて、フー・ファイターズのプランクトンほどにも思っていないからだ。
因みにこの賛美で、授業時間はほとんど終わってしまった。錬金する暇なんてない。
次のやり取りで授業の残り時間は消費される。
それは沈黙を破ったルイズの声とマリコルヌの反応。
「ななな、何言ってんのよ、アンタ。あああ、頭でもぶつけたの、『かぜっぴき』!」
「…君がそう名付けてくれるなら!僕は『風上』を捨て『かぜっぴき』を二つ名にするよ!!」

=====スタープラチナ・ザ・ワールド!!!!

時が止まった。

=====そして授業は終わりだす!

259呼べの人:2007/07/15(日) 03:18:07 ID:jLnmWBlU
 第八話 マリコルヌは恋をする その⑥

「マリコルヌにそんな趣味があったなんてな。」
「相手は『ゼロ』かよ。」「もしやロリコンなのでは!?」
「マゾヒストかもしれん。」「モンモランシーの美貌は世界一ィィィィィィィ!!!」
様々な生徒たちの感想が食堂を飛び交う。
フー・ファイターズは
(授業中に愛を語られるなんてルイズはもてるんだな。エートロとはぜんぜん違うな。)
と勘違いをしていた。
ルイズは恥ずかしさで真っ赤になりながら、うつむいて食事をしている。
正直あれは生き恥である。言った者だけでなく、その対象も曝されたのと同然だ。
その日ルイズは、追ってきては人前で延々とギーシュ以上に愛を語るマリコルヌに一日中悩まされていた。

場所と時間が変わってその晩。
ロングビルに呼び出され、倉庫裏で待っているギトー。逢引であろうか?
ギトーがいやらしい目つきでまだかと待っていると、目的の人から声がかかった。
「お待たせしました、ミスタ・ギトー。」
「やっと来たかね。今日は私の風が最強たる所以を…。」
急に暗くなったので、言葉を中断して上を向くギトー。
するとそこには巨大なゴーレムの足が目前に迫っていた。
「ま、間に合わ…ギイィィィィィィヤァァァァァァ!!!」
ギトーは得意の風の魔法を使う前に潰された。
そして跡形もなく地面に飲み込まれた。
「あなたが土くれのフーケということにさせてもらうわ。そして私は被害者。さようなら、ミスタ・ギトー。」


ギトー 二つ名『疾風』…ペチャンコになって死亡。
マリコルヌ・ド・グランドプレ 二つ名『風上』→『かぜっぴき』…トリステイン魔法学院の変態リストに載る。
ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール 二つ名『ゼロ』…あまりに恥ずかしさに穴にこもった。
フー・ファイターズ スタンド『フー・ファイターズ』…マリコルヌとシュヴルーズを覚えた。

260呼べの人:2007/07/15(日) 03:20:10 ID:jLnmWBlU
to be continued…

以上です。
フーケ編は構想上、あと2、3回くらいで完結の予定です。

261代理を呼べ!:2007/07/15(日) 04:17:53 ID:QRpnzQ.6
起きてたので代理させていただきやした。

グレンラガンまで起きてるか、寝るか。それはそれで問題だ

262ゼロのスネイク:2007/07/16(月) 00:00:36 ID:XJ7VJEsk
バカなッ!
またサルだとォーーー!!??

「え? ち、ちょっと……え? 消えちゃったの? ……え? どういうこと?」
「落チ着ケ、マスター」

そう言って首から上だけで現れるホワイトスネイク。
ホワイトスネイクからすれば全身を出すのが面倒くさかったからこそなのだが――



「っっっっっっっ!!!!!!!!」



自分の使い魔がいきなり生首になって現れる光景は、
年頃の少女には、ショッキングすぎた。



そして朝食の席にルイズとホワイトスネイクが到着したとき――
ルイズは両の目を少し前まで泣いていたかのように充血させており、
ホワイトスネイクは全身からプスプスと黒い煙を上げていた。
もちろんコスチュームはボロボロである。

「……いいこと。今度ご主人様を怖がらせるようなことしたら、またオシオキだからね」
「……了解シタ、マスター」

263ゼロのスネイク:2007/07/16(月) 00:01:30 ID:XJ7VJEsk

さて、ここ「アルヴィーズの食堂」には、ゆうに100人は食事を取れるであろう程に長い机と、
その上に所狭しと並べられた豪華な料理と豪華な飾り付けがあった。

「中々豪華ナ食卓ダナ」
「トリスティン魔法学校で教えるのは、魔法だけじゃないのよ」

食堂の絢爛っぷりに感心したように言うホワイトスネイクに、ルイズは得意げに指を立てて言った。

「メイジはほぼ全員が貴族なの。
 だから私たちが貴族としての教育を受け、貴族としての礼儀作法を学ぶために、
 貴族にとって相応しい食卓がこうして用意されてるってわけ。分かった?」
「ナルホドナ。……デ、ソコニ置イテアルノハ何ダ?」

ホワイトスネイクが床を指し示す。
そこには小さな肉の欠片がぽつんと浮かんだ貧しいスープと、あからさまに硬そうなパンが並べられている。

「あんたが食べるものよ。まさか、貴族と同じ食卓に座れると思ってたの?」

ルイズが呆れたように言う。
それに対してホワイトスネイクはさらに呆れたように、

「私ハ生物デハナイカラ、食事ナンテ取ラナインダガナ……」

こう言った。

264ゼロのスネイク:2007/07/16(月) 00:02:33 ID:XJ7VJEsk

「えっ……あんた、生き物じゃないの? っていうか、それってどういうこと?」
「コレハ私ノ推測ダガ、私ハマスターノ精神ニ『寄生』シ、ソコカラ常ニエネルギーヲモラッテイルノダ。
 ソレニ私ハ力の『イメージ』とか『ヴィジョン』ニスギナイ。ダカラ腹ガ減ルコトナドナイ
 ……ソウイエバコノコトヲ伝エルノヲ忘レテイタ気ガスルガ、
 マスターノ方モコンナ食事ヲ私ニトラセルツモリダッタノダカラ堪エテクレ」

淡々とルイズに説明するホワイトスネイク。
分かったような分からないような説明にぽかーんとしているルイズと、
そんなルイズを見てクスクス笑う周囲の生徒達との対比が、実に見事だった。

そのとき、ルイズをクスクス笑う生徒達の口から「ゼロ」という単語が出てきたのをホワイトスネイクは聞いた。
確か食堂に来る前に見た女……キュルケもルイズに向かって「ゼロ」とか言っていた。
一体どういう意味なのだろうか、と考えていたところで、
昨日、ルイズが魔法を使えないと推測したことを思い出した。

(魔法ガ使エナイ者ノ事ヲ『ゼロ』ト言ウノカ?
 それともマスター個人の事を指して『ゼロ』と呼ぶのか……
 イズレニシテモ、マスターヘノ侮辱デアルコトニ変ワリハナイダロウナ……)

そんなことを考えながら、ホワイトスネイクは不機嫌そうに食事を取るルイズを見下ろしていた。


To Be Continued...

265ゼロのスネイク:2007/07/16(月) 00:03:44 ID:XJ7VJEsk
以上です

3話にもなってまだ朝飯食ってるってどういうコトだァーーーーーー!?

266名無しさん:2007/07/16(月) 00:17:20 ID:046cWpZo
うろたえない!
職人はうろたえない!

3話にもなってまだ朝飯なんてSSはざらにあるぜ

267サーヴァント・スミス:2007/07/16(月) 13:19:14 ID:tgRx6vfw
初規制かかっちゃいましたってかァ〜
どなたか代理投下お願いします。
一レスだけですんで

268サーヴァント・スミス:2007/07/16(月) 13:20:20 ID:tgRx6vfw
(い……いつ進化するんだ!?次は!お、俺のそばに近寄るなァーッ!!)

フレイム:レベル9 HP 38/38


火炎放射
誘拐
体当たり 
鳴き声

進化まで――後7レベル

To Be continued ...

269サーヴァント・スミス:2007/07/16(月) 13:21:08 ID:tgRx6vfw
これだけ。ほんのこれだけ。
なんでこんな所でサル喰らうんだよぉぉーッ!

270仮面のルイズ:2007/07/17(火) 06:45:04 ID:e.v6qqf6

フーケの質問に、ルイズは首を振った、NOのサインだ。
「ど、どうして?」
「私は友達が欲しいの、奴隷なんて欲しくないわ。ねえ…貴方は自分を人間だと思っているかもしれないけれど、
貴族に刃向かった貴方が捕らえられたら、人間以下の扱いを受けて処刑されると思うわ」
フーケはルイズの言葉を聞きながら、今までに行った盗みを思い返した。
「人間を人間たらしめているのは何かしら?私は『自覚』と『覚悟』こそが人間を人間にしていると思うの、私はもちろん『吸血鬼としての自覚』がある」
「自覚…」
「そうよ…ねえ、フーケ、貴方は何になりたいの?」

しばらくの沈黙の後、フーケは答えた。
「故郷で…平穏に暮らせれば…それでいいわ」
ルイズは、にやりと笑った。
「平穏に暮らしたいと思うでしょう?私もそう思うわ、でも、貴方は故郷と言ったわね、故郷を故郷としているものは何かしら、土地?環境?それとも………家族」
家族という言葉に反応し、ロングビルの肩が震える、ルイズはそれを見逃さなかった。
「家族が居るのね…羨ましいわ、私はもう家族として認められない者になったのだから。ねえフーケ…いいえ、ミス・ロングビル、貴方は魔法学院に戻って、
宝物をフーケから取り返したと伝えてくれないかしら、貴方はこれから『仲間を作る』覚悟が必要よ、ヒトは一人では生きられないもの」
フーケはルイズの言葉を黙って聞いていたが、仲間という言葉には異を唱えた。
「仲間なんて、そんなもの不要よ、私は一匹狼の盗賊よ、それに貴族に尻尾を振る気は無いわ」
「強情なのね。でも、貴方はきっとお友達を作るわ、だって、貴方が言った『平穏』は『家族と過ごす平穏』でしょう? 貴方は寂しがりや…私と同じ…」
そう言ってフーケを見つめるルイズの瞳が、どこか寂しげに見えた。

(私が、吸血鬼に同情するなんて…)
そう考えたところで、ふと故郷に住むハーフエルフの少女を思い出す。
(どうやら、私は亜人と縁があるのかねえ)

271仮面のルイズ:2007/07/17(火) 06:45:35 ID:e.v6qqf6
「分かったわよ、言うとおりにするわ、学院に戻って宝物を取り返したと言えばいいんでしょう?まったく私もお人好しだねえ」
「ええ、そうしてくれると助かるわ…それと、一応私は死んだことにしてくれないかしら、私は今日明日を境にして行方不明になるつもりだったの」
「それは構わないけれど…いいのかい?」
「ええ、それともう一つ約束するわ、人間から少し血を貰うかもしれないけれど、食屍鬼(グール)にはしない。奴隷なんて欲しくないし、人間とは仲良くしたいもの」
「よく言うわ」
「…あ、それと、体を再生してちょっと疲れたから、一口分だけ血を飲ませてくれないかしら」
「………」
先ほどまでルイズを怖がっていたと思えない程、嫌そうな顔をするフーケ。
「大丈夫よ、グールにはしないって言ったでしょう、ちょっと腕を出して」
フーケが左手を出すと、ルイズはフーケの袖を捲り、二の腕のあたりに爪で切り込みを入れた。
「…つぅ」
「いただきまぁす」
そう言ってルイズが腕に吸い付く、全裸の少女に抱きつかれているようで、フーケはどこか落ち着かなかった。
そして、違う意味でも落ち着かなくなっていった。

272仮面のルイズ:2007/07/17(火) 06:46:05 ID:e.v6qqf6
痺れにも似た快感が襲ってくるのだ、傷口が性器にでもなったかのように、じわりじわりと快感の波が広がる。
ルイズの舌が傷口を舐める度に、敏感な部分を舐められたかのような刺激が伝わり、自然と呼吸が荒くなる。
ちゅぽ、と音を立ててルイズが口を離すと、フーケは「もう終わり?」とでも言いたそうな顔でルイズを見た。
「えへへ…ごめんなさい、二口分吸っちゃった」
「え、ああ、なんならもっと吸…いやいや、何考えてるんだアタシったら」
「じゃあ、後かたづけをするから、盗んだ本を持って離れてくれないかしら」
「分かったわ」

100歩以上離れた所で、地面を掘って身を隠したルイズは、フーケも一緒に避難したのを確認し、ファイヤーボールの魔法を詠唱した。
「あれ?アンタって魔法が使えないはずじゃ…」
ルイズは今悪戯っ子のような笑顔でフーケにウインクしつつ、今までにないほどの集中力でファイヤーボールを詠唱する。

そして、あばら屋を中心にして半径30m、ゴーレムの破片も何もかもを吹き飛ばす、巨大な爆発が発動した。

「どう?『ゼロのルイズ』唯一の特技、堪能したかしら」
「え、ええ…」
フーケは引きつった笑みを浮かべた。


To Be Continued…

273仮面のルイズ:2007/07/17(火) 06:48:38 ID:e.v6qqf6
あ、ありのまま起こったことを話すぜ!
「夕べ、投下するタイミングを計っていたらいつのまにか眠っていた。」
「目が覚めたので投下を始めたら、規制を食らった」
ネトゲの寝落ちとかじゃねー、もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ…
どなたか代理投下、お願いします…

274名無しさん:2007/07/17(火) 07:05:05 ID:539bVuWI
投下された

275仮面のルイズ:2007/07/17(火) 13:52:49 ID:e.v6qqf6
ありがとう!

276サーヴァント・スミス:2007/07/18(水) 23:54:31 ID:fKegOsiI
誰か代理頼む!



タバサと向き合い、手を開く

「「チェックメイト」」

パンッ、と小気味良い音が響いた。所謂ハイタッチである。
学院へ帰ってからルイズの嫉妬から来る攻撃を喰らうことになるが、別の話である。

「あー、体イテェ。早く帰ろうぜ」

壮絶な戦いの後を感慨深げに見つめるナランチャに、全員頷いた。
へなっと崩れ落ちるルイズに、キュルケとナランチャが肩を貸してやった。
ナランチャの右を、タバサが歩く。

その後は馬ごと置いて行く訳にも行かないので馬車で帰り、そして出番が無い所為で、影でシルフィードが涙目になっているのには、誰も気がつかなかった。
……タバサさえも、帰り道にナランチャが自分にもたれかかっていたので、気にしなかった。




To Be continued ...

277サーヴァント・スミス:2007/07/18(水) 23:55:10 ID:fKegOsiI
よし・・・後は誰かが代理してくれる事を信じて・・・
寝ます。

278サーヴァント・スミス:2007/07/19(木) 20:57:39 ID:SOpGRXUk
はいまた最後で規制ー。・・・orz
すまない。手をかけさせることになるけれども宜しく頼みますorz

「………」

「うっ」

「………」

「………」

こうして、ルイズは味の悪い舞踏会をすごすことになる
翌日、吊るした男達を引き上げに来たルイズはげっそりとしていて、ナランチャがどうしたのかと問えば、無言で首を横に振るだけでだった

第一章『サーヴァント・スミス』 完


To Be continued ...

279サーヴァント・スミス:2007/07/20(金) 19:54:08 ID:DdiGO6uw
もう何もいえない・・・・
何で最後の最後に絶対規制喰らうんだよおおおおおorz


「急いで」

「きゅいきゅい!」

タバサとキュルケはシルフィードに乗ってナランチャたちを追いかける。
素早さで上回るシルフィードが追いつくのも時間の問題であった


To Be continued ...

280名無しさん:2007/07/20(金) 20:03:58 ID:xb1TQQ8E
それじゃあ代理いっとこう

281偉大なる使い魔:2007/07/21(土) 08:55:00 ID:rsdiQeHA
 結局ギーシュも同行する事になった
いつもと違い、わたしは乗馬用のブーツを履き、プロシュートは剣を背負っている
そんな風に出発の用意をしていると、ギーシュが、困ったように言った
「お願いがあるんだが・・・」
「なんだ」
プロシュートは、馬に荷物を括りながら、ギーシュをギロッとにらみつける
「僕の使い魔を連れて行きたいんだが」
「使い魔なんかいたのか?」
「いるさ。当たり前だろ?」
わたしとプロシュートは顔を見合わせた。それから、ギーシュの方を向いた
「連れてきゃいいじゃねーか。っていうかどこにいるんだよ」
「ここ」
ギーシュは地面を指差した
「いないじゃないの」
わたしに向かってギーシュがにやっと笑った。
地面が盛り上がり茶色の生き物が、顔を出した
ギーシュはずさっ!と膝をつくと、その生き物を抱きしめた
「ヴェルダンデ!ああ!ぼくの可愛いヴェルダンデ!」
プロシュートは心底呆れた声で言った
「なんだそれ?」
「なんだそれ、などと言ってもらっては困る。大いに困る。
ぼくの可愛い使い魔のヴェルダンデだ」
その生き物は巨大モグラだった
「あんたの使い魔ってジャイアントモールだったの・・・って
なんで、わたしに寄ってくるの?」
ヴェルダンデがわたしを押し倒してきた
「や!ちょっとどこ触ってるのよ」
ヴェルダンデが薬指の指輪に鼻を摺り寄せてきた
「この!無礼なモグラね!」
ギーシュが頷きながら呟いた
「なるほど、指輪か。ヴェルダンデは宝石が大好きだからね」
「現金なモグラだな」
「現金とか言わないでくれたまえ。ヴェルダンデは貴重な鉱石や宝石を僕の
ためにみつけてきてくれるんだ。『土』系統のメイジのぼくにとって、この上も無い。
素敵な協力者さ」
「宝石か、鉱脈でもみつけりゃ大金持ちだな」
プロシュートがそう言うとギーシュが驚いていた
「グッドアイデア。プロシュート、君は平民にしておくのは勿体無い位のナイスガイだね。
ここは一つ君に敬意を表して、兄貴・・・プロシュート兄貴と呼ぶことにしよう」
プロシュート兄貴ィッ!やっぱり兄貴ィはスゲーやッ!
・・・なんか、そんな声が聞こえてきた
「・・・呼ばなくていい」
「なんだい遠慮してるのかい?それとも照れているのかい?なあに
気にする事はない!君と僕の仲じゃないか、あっはっはっはっは」
ギーシュ、なんて馴れ馴れしい・・・いや、怖いもの知らずか
っていうか、早く助けなさいよ!

282偉大なる使い魔:2007/07/21(土) 08:58:07 ID:rsdiQeHA
代理お願いします、あとsage忘れてしまいましたスイマセン

283名無しさん:2007/07/21(土) 09:14:54 ID:cneIqXhc
偉大なる兄貴代理完了

284ゼロと奇妙な隠者:2007/07/23(月) 03:17:59 ID:pGK21RLw
さるさんを食らってしまいました…しばらくこのハズイSSが晒されます(ノД`)

「……別に何もないわ」
 一瞬言葉を選んだ後で出てくる否定の言葉が、決して彼女の意思を忠実に表しているわけではないことは、もうそろそろ一年を経過する付き合いを経たジョセフにはよく判る。
「えーと。あれか。静のコトかの」
 当てずっぽで言った言葉に、小さな肩がぴくりと震えた。
「……うるさいわね。いいわよ、主人なんかほっといて赤ちゃんの世話でもずっとしてなさいよ。ガンダールヴなんかやってるより子守やってる方がよっぽどお似合いだわっ」
 その言葉に、ジョセフはおおよその事情を察した。隠せない苦笑を隠す努力もせず、腰に当てていた手を肩に回して、自分に振り向かせた。
「……何よっ。何か言いたいことでもあるの」
 月明かりに照らされる少女の両目は、月光を受けて色濃く潤んでいた。泣き虫なこの少女は、自分に泣き顔を見せるのをあまり良しとしないのだ。
「んじゃまあ僭越ながら。静も大切じゃが、ご主人様もとても大切に思ってるんじゃよ」
「……あたしとシズカのどっちが大切なのよ」
「そりゃ両方じゃよ」
「嘘でもこういう時はご主人様って言いなさいよっ。気が利かないわねっ」
 赤ん坊に張り合う17歳というのも、どういうモンじゃろうなあ。と思ってしまうのは、仕方のないことだった。
 呆れも半分、微笑ましさも半分。
 なおも何かを言い募ろうとするルイズの言葉を飲み込むように、唇を重ねた。
「んっ……」
 きゅ、と瞼を固く閉じるが、ジョセフの唇を拒もうとはしない。
 誰もいない広場の片隅に、ほんの少しの間だけ沈黙が訪れた。

285ゼロと奇妙な隠者:2007/07/23(月) 03:19:22 ID:pGK21RLw
 そして、唇が離れた時。ルイズの小さな手はジョセフの耳を摘んでひねっていた。
「アイチチチチチ、お気に召しませんでしたかの」
 その言葉に、更にぎゅうううう、と力を込めてひねり。そして、耳元に濡れた唇を寄せて囁いて。
 ジョセフだけに聞こえた言葉に笑みを漏らすと、今度は両頬と額に、キスが落ち。それから
もう一度、唇が重なった。

 結局二人が部屋に帰った頃には、キュルケは椅子の上ではなくベッドの上ですやすやと寝入っていた。
 ルイズに叩き起こされたキュルケは、寝癖の付いた赤毛を気だるそうにかき上げながら言った。

「シズカに弟か妹を拵えるのは、せめて学院卒業してからになさいよ」

 To Be Contined?

286隠者の中の人:2007/07/23(月) 03:23:50 ID:pGK21RLw
うはあなんてこった、まさか残り2レスでさるさん食らうだなんてorz
ちなみに番外編なので断固として続きません。
ここから三ヶ月後にルイズとの間に出来ちゃったので、ジョセフが様々な手を駆使して
トリステインにジョースター家を立ち上げたりヴァリエール公爵家と死闘を繰り広げたり
したりしますが書きません。多分。

自分の作品が切っ掛けで素晴らしいイラストを描いていただけたので感動のあまりトチ狂ってしまった。
こんなこっぱずいSSを書いてちょっと後悔はしているが、絵描き様に心からのGJを。

287隠者の中の人:2007/07/23(月) 03:33:46 ID:pGK21RLw
投下確認しました。ありがとうございましたー

288偉大なる使い魔:2007/07/26(木) 06:05:49 ID:ZFYTn3yU
わたしはヴェルダンデを押し退けようとするがビクともしない
一陣の風が舞い上がり、ヴェルダンデをふきとばした
「誰だッ!」
ギーシュが激昂してわめいた
朝もやの中から、長身の貴族が現れた。あれはワルドさま
「貴様、ぼくのヴェルダンデになにをするだー!」
ギーシュは薔薇を掲げるが、ワルドさまも杖を抜きギーシュの造花を散らす
「僕は敵じゃない。姫殿下より、きみたちに同行することを命じられてね。
きみたちだけではやはり心もとないらしい。しかし、お忍びの任務であるゆえ、
一部隊つけるわけにもいかぬ。そこで僕が指名されたってワケだ」
ワルドさまは、帽子を取ると一礼した
「納得できねえな」
プロシュート!?
「姫さんは誰にも話せないってんでルイズに言ったんだろ、どういう事だ?」
「それは、おそらく僕がルイズの婚約者だからだと思うんだ、姫殿下も
粋な計らいをしてくれる」
「ルイズそれは本当なのか?」
プロシュートが顔に汗を浮かべながら質問してきた
「ええ、ワルドさまは両親同士が決めた許婚よ」
「マジかよ・・・・・」
プロシュートが信じられないって感じで呟く
まあ・・・『ゼロ』のわたしには勿体無いくらいの人だしね
わたしが立ち上がると、ワルドさまは、わたしを抱えあげた
「久しぶりだな!ルイズ!僕のルイズ!」
「お久しぶりでございます」
ワルドさまはとても嬉しそうだ。十年ぶりかしら・・・
「相変わらず軽いなきみは!まるで羽のようだね!」
「・・・お恥ずかしいですわ」
「彼らを、紹介してくれたまえ」
ワルドさまは、わたしを降ろすと帽子を被り直し言った
「あ、あの・・・、ギーシュ・ド・グラモンと、使い魔のプロシュートです」
わたしが交互に指差すと、ギーシュは深深と、プロシュートはつまらなそうに
頭を下げた
「きみがルイズの使い魔かい?人とはおもわなかったな」
ワルドさまはきさくな感じでプロシュートに近寄った
「僕の婚約者がお世話になっているよ」
「そりゃどうも」
プロシュートが素っ気無く答える
ワルドさまが口笛を吹くと、朝もやの中からグリフォンが現れた
「おいで、ルイズ」
ワルドさまはわたしの手を引くとグリフォンに跨り、わたしを抱きかかえた
「では諸君!出撃だ!」
頭の中に声が聞こえてきた

お忍びっつってる側からデケぇ声で出撃だぁ?この野郎、ふざけてんのか?

ワルドさまの軍人としての振る舞いにプロシュートは我慢出来ない様だ
確かにコレ、お忍びの重要任務よね・・・
ワルドさまに気をつける様に頼む?
笑い飛ばされるだろうか・・・
気分を悪くするだろうか・・・

プロシュートに気にしすぎと言う?・・・
無茶苦茶怒るわね・・・きっと
どうする・・・どうする・・・どうする、ルイズ?
よしっ、決めたわ!
聞かなかった事にしよう!

289偉大なる使い魔:2007/07/26(木) 06:08:02 ID:ZFYTn3yU


投下終了、よろしくお願いします

290ツンデレマスタールイズ!:2007/07/31(火) 22:11:37 ID:0QWJBlY6

①自分から箱を開けてみる。
「これが…あんたなの…?」
「そうだ(へへへ、そのまま触ってくれれば乗っ取れるぜ」
「んじゃ…こうよ」
「へ?」 
ポイッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッ
ゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッ
「いやッ!あのッ!ちょッ!」
ゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッ
ゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッ
「も…もういやぁああああ!こんな小ネタにまで同じ扱い嫌ぁあああああ!」
ゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッ
ゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッ
(…アッレ〜…俺の知ってるルイズってこんなキャラだったっケ…?)
「キング・クリムゾン!」しばらくお待ちください…
「ハイ、ボク従イマスカラ許シテクダダサイ」
「分かればいいのよ分かれば、それじゃ行くわよ!」
(…俺も使い魔になってタラああなってたのカネェー…?)

291ツンデレマスタールイズ!:2007/07/31(火) 22:13:52 ID:0QWJBlY6
ってぎゃあああSS投下スレ2に書くつもりがミスった…orz


よく来たわね…ツンデレマスタールイズ…待っていたわよ…
(あ…あれ?行き成り場面変換?ご都合主義もここに極まりね…)
「ミス・ヴァリエール…戦う前に貴方に言いたい事があるの…
 あなたは私を倒すのに『破壊の杖』が必要だと思っていr「フーケか?」
「…行き成り話してる途中に口を挟むなんて…イイ度胸してるわねぇ〜小娘!」
「…いえ…この剣が話したんだけど…」
「インテリジェンスソード?…ってその剣まさか!!!」
「ようフーケ!相変わらず(斬りたくなる)イイ肉付きしてるじゃねぇ〜か!
 んじゃっこの前の暴露大会の続きいっちょやってみっかぁ〜」
「い…いやぁぁあああああ!わ…私に近寄らないでぇぇええ〜〜〜〜〜〜〜!」
(フーケのアンラッキーパーソン…ルイズ…アンラッキーアイテムアヌビス神…終ったネェー…)

     アヌビスの暴露がフーケを更生させると信じて…
     ご愛読!ありがとうございました!

292ツンデレマスタールイズ!:2007/07/31(火) 22:17:42 ID:0QWJBlY6
…ミスってここに載せましたが…本スレには載せないでください…
ほんとうにすみません…
サブ・ゼロさん 承太郎さん 竜夢さん アヌビス神さん そして…プロシュートの兄貴さん…
ホンットーーーーにすんませんでしたぁああああ!
つい…ソードマスターヤマトネタ思いついたんで…
出来心でやってしまいました…orz
さすがに今回は今までのやばいのと…次元が違う…と思うのでしばらく書くの控えます…orz

293アヌビス神:2007/08/01(水) 06:36:35 ID:axr99nB6
何故かまた幾ら時間空けても二重扱いされるんで誰かお願いします。
こんな感じで二重来た事無かったけど一体何だろう。誰かとホスト被ってるとか?

294アヌビス神:2007/08/01(水) 06:38:03 ID:axr99nB6
 ここまでグリフォンの上で雑談を交わすうちに、ルイズのしゃべり方は昔の丁寧な言い方から、今の口調に変わっていた。
 ワルドが乞ったのもあるが、正直な所『ギーシュさん』『ギーシュさん』と連呼される度に何度も苦笑して、何時の間にかざっくばらんな気持ちになっていた。
 この駅へ降りる前も『しかし『ギーシュさん』を愛しの彼女と別れ別れにさせて、実に申し訳無いね』と言っていた。
 その時は遊びが欠片も出来ない包囲網が、国レベルで出来上がっていくギーシュを少し哀れに思った。同時に最近モンモランシーが、自分に以前より親しくしてくる理由も理解した気がした。

「ところでルイズ、僕はきみがその二降りの剣を扱う事がいまだに信じられないよ」
「わたしも一応メイジよ?使える筈ないわ。たまたま使い魔になってしまったから帯びてるだけよ」
「だが只の飾りならば、そうやって持って歩かないだろう?」
「そうね。あのギーシュに作らせたゴーレムに持たせて使わせたり、一応使い道はあるのよ」
「成る程、だから『ギーシュさん』が同行をしたのだね」
「……え?そ、それは偶然だけど。ま、まぁそういう事でいいわ」
 己が話題にされているものの、アヌビス神は未だ黙っている。オラオラ発言と同時のお仕置きは心底嫌だったようだ。
 デルフリンガーは鞘にがっちり閉じ込められてリボンで厳重に封印されている。

「はははは、どうあれインテリジェンスソードを二本ぶら下げているのは相当に珍しいよ。こと小さなルイズが下げていると、そのアンバランスさで可憐さが引き立つね」
「もうっ!小さくないわ。失礼ね」
「いや、そういう事ではなくて、その剣の大きさと比べてと言う事だよ。本来ならばメイジには不釣合いな筈の剣ですら、きみを彩る優美なアクセサリーだ」

295アヌビス神:2007/08/01(水) 06:40:43 ID:axr99nB6
 オラオラルイズは怖いが、甘々な口説きセリフの連呼には耐え切れず、精神衛生を保つ為にアヌビス神は鼻歌でも歌うことにした。
「……lessly That's the way it was Happened so naturally I did not know it was love The next thi……」
 ちなみに本邦初公開らしい。なぁに、ちょっと昔どこかで覚えただけの話しだとかなんとか。
「おや?きみの使い魔は歌が随分と上手じゃないか。成る程、武器として連れているとも限らない訳だね」
「そ、そそそ、そ、そうなの。や、やはり専門の楽士ぐらいは連れていく余裕は、貴族として当然よ」
 知らなかった癖に見栄を張るルイズ。妙に二人の雰囲気が一層良くなってしまった。
 アヌビス神は今までの仕打ち以上に何か堪えた、これはきつい。実に耐え難い。馬鹿ップルに縛り付けらている状況は拷問に等しい。
 しかも愚痴を聞いてくれそうな相棒は、忌むべき暗黒物質で封印されている。
「ケッ、さっさと移動しようぜ!一応急いでるんだろうがよォー」
 堪らず移動を提案した。
 正論だったので、その案は通りアヌビス神はホッとした。

 ホッとしたのも束の間の出来事だった。
 グリフォンの上で今度は、婚約者だの結婚だの好きとか嫌いとか最初に言い出したのは誰なのかしらとか話し始めた。
 今はワルドがルイズの肩を抱いて、愛を語り始めている。
「僕はきみのことを忘れずにいたんだよ。覚えているかい?僕の父がランスの戦で戦死して……」
 ルイズも何だか頷いて返している。アヌビス神は心の中で『青い青い青臭い』と繰り返していたが、今度は昔語りなったようで少し安心した。
「母もとうに死んでいたから、爵位と領地を相続してすぐ、僕は街に出た。
 立派な貴族になりたくてね。陛下は死んだ父のことをよく覚えていてくれた。
 だからすぐに魔法衛士隊に入隊できた。最初は見習いでね、苦労したよ」

296アヌビス神:2007/08/01(水) 06:41:37 ID:axr99nB6
「なるほど、そこでホモに目覚めたのか。雄社会で新人が掘られるなんてありがちだよな」
 アヌビス神はついうっかり声に出していた。
 グリフォンに乗る時に封印が少し解けたのか、デルフリンガーが『うんうん、良くあるわ』と頷いた。
 やべえばれるか?とドキドキしたが、風を切る音で聞こえてはいなかったようだ。二人はべったりしたままイチャイチャ会話を続けている。二人の世界と言う奴である。

「ほとんど、ワルドの領地に帰ってこなかったものね」
「軍務が忙しくてね、未だに屋敷と領地は執事のジャン爺に任せっぱなしさ。僕は一生懸命、奉公したよ。おかげで出世した。なにせ、家を出るときに決めたからね」
「なにを?」
「立派な貴族になって、きみを迎えにいくってね」
 ワルドは笑いながら言った。
「冗談でしょ?ワルド、あなた、モテるでしょう?なにも、わたしみたいなちっぽけな婚約者なんか相手にしなくても……」
 ルイズはワルドのことは、夢を見るまで忘れていた。現実の婚約者というより、遠い思い出の中の憧れの人だった。
 婚約もとうに反故になってたと思っていた。戯れに、二人の父が交わしたあての無い約束……。そのぐらいにしか思っていなかった。
 想い出が不意に現実になりルイズは動揺した、更に『ギーシュさん』等と言っているのを聞いて眩暈を覚えて現実なのか夢なのか、一瞬判らなくなりかけた。
「旅はいい機会だ」
 ワルドは落ち着いた声で言った。
「いっしょに旅を続ければ、またあの懐かしい気持ちになるさ」
 ルイズは頭の中で即答した。『ギーシュさん』とか眩しい笑顔で言われてる以上戻れるか!
 そりゃ嫌いじゃない。確かに憧れていた。それは間違い無い。でも、それは想い出の中の出来事だった。
 想い出の中のワルドは『ギーシュさん』とか言わなかったし。

297アヌビス神:2007/08/01(水) 06:44:59 ID:axr99nB6
 いきなり婚約者だ、結婚だ、なんて言われても、将来日々『ギーシュさん』と繰り返されるのに耐えられるのか。正直ちょっと胃が痛くなった。
 しかし、どこか気取った表情の時より、無邪気に『ギーシュさん』と言っている時の表情の方が少しドキドキする。
 正直良い笑顔だ。想い出の中でもあんな良い笑顔見た事ない。
「ま……確かに色々良い機会なのかもしれないわね」
 ルイズは良い笑顔に騙された気もしたけど、そう思った。

「あ……あー……おれ寒気がしてきた。そろそろ寿命がきたのかもしれん。
 良い500年だった。けど愛もぶった斬れるぐらい強くなりたかった……」
「しっかりしろ、しっかりしろ兄弟!500年じゃまだはええ。気をしっかりもて!
 クソッ!クソッ!何てこった。刺激が強すぎたんだ!」
 ルイズは、そんなアヌビス神に、ムード有る曲でも流して雰囲気を変えろ!オラオラと小声で伝えてコツコツ叩いた。
 更にお前もできるだろ?とデルフリンガーもコツコツ叩かれた。


 さて、空からアヌビス神とデルフリンガーの泣き声の二重奏が風の歌のように流れている頃。
 ギーシュはミス・ロングビルもといフーケに見入っていた。いくら『ギーシュさん』と言われてもギーシュがギーシュで無くなった訳でもないのであって。
 いきおくれだの何だの言われる年齢かもしれないが、そんな事関係ない。良い女は良い女なんだとギーシュは考える。
 馬の揺れに併せて微妙に揺れる胸とか、実にけしからん!じ、じじ、実にけしからん!オールド・オスマンの気持ちが少し判る、判ってしまう。
 ただ若い色気とは違うこの絶妙さッ!基本的な女性の好みからは外れる物の、一度位はこういうお姉さんにリードされてえー!とか妄想がどんどん広がる。

298アヌビス神:2007/08/01(水) 06:47:02 ID:axr99nB6
 ギーシュは何時の間にか桃色妄想の世界へと入り込んでいった。ついつい馬に入れる鞭にも力が入る。『そう!そこっ!』とか独り言を言いながらびしばし尻を叩く。
 その所為でミス・ロングビルに『上よ、危ない!』と言われたのも耳に入らなかった。
 たった今、突然二人に向けて崖の上から松明が何本も投げ込まれたので、止まれとの注意であったのだが、それを無視してしまった。
 そして減速どころか、ビシビシ鞭を入れて、いきなり加速全開で突っ走ったギーシュの馬は、そのまま松明の落下地点より遥か先へ一気に走りぬけた。
「へ?」
 後方への突然の明かりでようやくギーシュは現実に引き戻される。
 戦闘訓練を受けていない馬が、近距離で燃え上がった松明の炎に驚き、前足を高々とあげたのでミス・ロングビルは馬から放り出された。
 ギーシュが跨る馬は炎から離れていた為、そこまで驚かなかったものの、嘶いてそこらをぐるぐると暴走し始めた。
 続けて何本もの矢が、暗闇から夜風を引裂き飛んでくる。
「奇襲よ!」
 一帯にミス・ロングビルの声が響き渡る。

 かすかに届いたミス・ロングビルの声に、ワルドが手綱を握る手に力を入れ、グリフォンを加速させる。
「な、なんと。流石『ギーシュさん』!!」
 急ぎその場に駆けつけたワルドとルイズの目に入って来たものは……。
 落馬し、そこから体勢を何とか立て直そうとしているミス・ロングビルと、雨霰と降り注ぐ矢の中を馬で走り回って、一切被弾せずに敵の目を引き付けるギーシュの姿であった。
 実際は違うがワルドの目には間違いなくそう映った。
「奇襲にも怯まず、戦闘訓練も受けていない馬を見事に操るその技術。
 躊躇う事無く女性を己の身を張って庇うその心。『愛』の噂に偽りなし!」
 正直ワルドは感動していた。そんな子供向けのおとぎ話のような事を、躊躇わずやってのける少年の存在に!
 そして『イーヴァルディの勇者のような話しなんか現実には無いのさ』等と酒を一人飲みながらごちていた自分が恥ずかしくなった。

299アヌビス神:2007/08/01(水) 06:48:06 ID:axr99nB6
 杖を振るい竜巻を捲き起こし、降り注ぐ矢雨を蹴散らす。
「大丈夫か!」
 一声上げて、グリフォンの高度を一気に下げた。

「あれは恐らく夜盗か山賊ね」
 矢の飛んできた崖上を睨んでいたミス・ロングビルが、グリフォンから飛び降りてきたルイズをちらっと流し見る。
「もしかしたら、アルビオンの貴族の仕業かも……」
 腰では『ジュークボックスじゃねえんだ。おれはジュークボックスじゃねえんだ』とアヌビス神が意味不明な言葉を繰り返している。
 ミス・ロングビルはアヌビス神の言葉を少し疑問に思ったが、意味が無いようなので『多分ルイズにまたいびられたのね』とスルーする事にした。
「貴族なら、弓は使わないわよ。
 いえ……確かに雇われた傭兵の可能性も有るわね」
 まずは懐からさっと杖を抜き放ち、素早く自分等の正面に3メイル程の土のゴーレムで矢を避ける為の壁を作り上げる。

 ルイズを降ろしたワルドはグリフォンで、走り回る馬上のギーシュの斜め上に付け、『来たまえ!』と一声かけ、腕を掴んで一気に引っ張り上げる。
 そのまま崖上へと攻め入ろうとした時、ばっさばっさと羽音が聞こえてきた。
 続けて崖上から男達の悲鳴が聞こえてくる。どうやら、いきなり頭上に現れた存在に、恐慌状態に陥っているようだ。。
 男達は夜空に向けて矢を放つが、小型の竜巻が巻き起こり、矢も男達諸共まとめて吹き飛ばしてしまった。
 宙に浮いた男達は足場を失い崖から転がり落ち、地面に叩き付けらる。

300アヌビス神:2007/08/01(水) 06:49:01 ID:axr99nB6
 そして、双月を背に見慣れた幻獣が姿を現した。
「おや?」
 グリフォンにぶら下るように掴まっているギーシュが首を傾げる。
「「シルフィード!」」
 地上のルイズとギーシュの声が重なった。
 それは間違いなくタバサの風竜だった。
 舞い降りてくる風竜から、赤い髪の少女が投げキッスをして笑いかける。
「お待たせ」
 ルイズが風竜の羽ばたきに負けず下から叫ぶ。
「お待たせじゃないわよッ!何しにきたのよ!」
「助けにきてあげたんじゃないの。朝がた、窓から見てあんたたちが馬にのって出かけ様としてるもんだから、急いでタバサを叩き起こして後をつけたのよ」
 指差されたタバサは、寝込みを叩き起こされたらしく、パジャマ姿であった。それでも気にした風もなく、本のページをめくっている。
 ギーシュはワルドの鼻の穴が不自然に少し広がったのに気付いた。

「ツェルプストー。あのねえ、これはお忍びなのよ?」
「お忍び?だったらそう言いなさいよ。言ってくれなきゃわからないじゃない。
 とにかく、感謝しなさいよね。あなた達を襲った連中を、捕まえたんだから」
 さて、二人が言い争いを続けていると、地上に降りてきたらしいギーシュがルイズの肩をぽんぽんと叩いてきた。
「あによ?」
 ルイズは不機嫌そうに振り返る。
「尋問だよ尋問」
「何でわたしがッ!」
「いや、そうじゃなくてそっち」
 ギーシュはルイズの腰のアヌビス神を指差した。
「いよっしゃァー!!おれがジュークボックスじゃ無い所を見せてやるぜ!!」
 アヌビス神は今日一番活き活きした声を出した。

301アヌビス神:2007/08/01(水) 06:49:54 ID:axr99nB6
 かくして尋問が始まった。
 ミス・ロングビルが胃が痛そうにお腹を抱えて座り込んでいる。
 なんだかんだでこの瞬間が病み付きになっているらしく、ルイズとキュルケは口論を止めて尋問モードに突入している。実に笑みが邪悪である。
 タバサは聞き耳を立てながらも、知らん振りをして読書を装っている。
 ワルドはあまりに様子がおかしいミス・ロングビルを心配して、顔を覗き込んで水筒を取り出して水を勧めている。

 そして『話すわけねえだろ、お子様が俺達の口を割れると思ってんのか?』と挑発してくる男達。
 それに対して、ギーシュが少し苦笑して『どんな事でも喋ってしまうんだよこれが……』とか言いながら、怪我して動けない一人にアヌビス神をぽいっと放り投げた。
 他の男達は『武器をこっちに寄越して何の真似だ?』とか、疑問符だらけの表情でぶつぶつ言っている。
「あー。『俺達は物取りって設定だけど、本当は此処を通る貴族を襲うように依頼された』って考えてるなこいつらは。
 依頼された場所は『金の酒樽亭』って所だな。
 依頼してきた奴は白い仮面を被った男らしいぜ
 ふんふん、前までは『王党派』だったが今は『貴族派』だってよ」
 それを聞いて男達の表情が一変する。
「あ、ちなみに『その白い仮面の男。時々、給仕の貧乳でケツの青い小娘をやたらとチラチラ見てたから、そっち系の趣味に違いねえ!』ってこいつは考えてるな。へっへっへ」
 アヌビス神がニヤニヤとした感じの笑い声を出す。
 腹を抱えて屈んでいたミス・ロングビルとワルドが、口に含んでいた水をブーっと盛大に噴出した。
「ちなみにこいつは田舎に残してきた年老いた母親が居るな。へっへっへ。
 さて次行こうゼ次!」
 男達は心底怯えた表情になった。アヌビス神は男を操って次ぎの男に己を持たせる。
「おっとっと、こいつはこいつは……。
 この男。さっきの白い仮面の男は良い趣味してやがるぜ、同意する!と熱く考えているな」
 水が気管支に入り込んだらしいワルドが、ゲホゲホ苦しそうに咽込んだ。

302アヌビス神:2007/08/01(水) 06:50:48 ID:axr99nB6
「依頼関係に関しては全く同じだな。おっとこいつ実家の三軒隣の11歳の少女に色目使ってるな。夜な夜なその小娘の事を思い出して励んでるな。
 ゲラゲラゲラゲラ。こいつ36歳なのによォ!」
 グホォっとワルドが一層激しく咳き込んだ。
「んーこいつはどうかなァ?何々?
『どいつもこいつも変態だな!常識的に考えてそこで屈んでる姉ちゃんみたいなのが最高に決まってるじゃないか!あの胸に顔を埋めたいと』
 ほっほー、こいつは大切な部分があまりにミニマムで悩んでるな」
 先に秘密を暴かれた男達が、自分の運命を悟り力無く項垂れてピクリとも動かなくなっている。

「つまり『貴族派』にわたし達の行動は筒抜け状態って事?」
 ルイズは忌々しそうに爪を噛んだ。尋問の結果でキュルケも色々察したようで、表情が厳しく変わり、タバサの元へすたすたと移動してコソコソなにやら話し始めた。
「それにしても、相変わらず悪趣味でえげつねえ破壊力だねえ……」
 次は自分の番か?と怯えて泣き声を上げる男達を見て、デルフリンガーは溜息をついた。
 尚、ワルドは未だ激しく咳き込んで使い物にならず。逆にミス・ロングビルに背中をさすられている。
「はぁ……。姫殿下の周りにも、既に間諜が入り込んでいると見るべきなんだろうね。これからの行動もどこまで漏れてるやら」
 ギーシュが溜息をついて、ヤレヤレとかぶりを振った。

303アヌビス神:2007/08/01(水) 06:51:33 ID:axr99nB6
 一通り尋問をして終わったアヌビス神が一人の男を操って、ウキウキした足取りで戻ってきた。
 動けないダメージを受けた身体を無理矢理動かされているのも手伝って、尋問後の男達はまともに動く事も出来なくなっている。
「全員から聞き出したぜ。んじゃ後は全員ずばァーっとばらして良いよな?
 ゆっくりと足の先から微塵切りにしてよー。腹ァ掻っ捌いて臓物引っ張り出してよォー。直ぐに死なない様に血管は避けねえとなァー!」
「またおめーはそんな事を言っちまって……」
 興奮し始めたアヌビス神を呆れたように、デルフリンガーがカチャカチャ鍔を鳴らす。
「あ?本能に従えよ。斬りたいんだろデル公も」
 アヌビス神がひゅんひゅんと己を振り回し、刀身が双月の光を映して妖しく光る。
「お、おめーっ学習しろ!俺が言ってるのはそんな事じゃねえ」
 ギーシュは何だか嫌な予感がしたので「今後の指針を打ち合わせないとね」と、タバサとキュルケの方へそそくさと退散する事にした。
「おれの学習能力がお前に劣るってのか?」
「劣るね、とある一点に限っては間違いねえ。興奮したお前はホント駄目だ」
 ルイズに振り上げられながらデルフリンガーがトホホと嘆いた。


「何時になったら覚えんのよ、この犬!犬!犬!」
 物凄い勢いで縦横無尽に振り回されるデルフリンガーが、地面に転がるアヌビス神に激しく叩き付けられる。
 大地が削られ土煙が舞い上がり、『バカヤロー巻き込むんじゃねええええ』と叫ぶデルフリンガーの嘆きが、ぐわんぐわんと揺れに併せ強弱を付けて辺りに響き渡る。
ドカッドカッドカッドカッドカッドカッドカッドカッドカッドカッドカッ
ドカッドカッドカッドカッドカッドカッドカッドカッドカッドカッドカッ
ドカッドカッドカッドカッドカッドカッドカッドカッドカッドカッドカッ
 先程まで操られていた為傍に倒れていた男が巻き添えを喰らう。
 激しく脚を強打され、妙な方向に曲がった脚を抱えて『ぎゃぁぁぁ』と絶叫を上げた後、泣き叫びながらゴロゴロ転がる。

304アヌビス神:2007/08/01(水) 06:52:28 ID:axr99nB6
「ワルドさまがいるの!判ってるわよね?勿論判ってるわよねあんた?
 あんた婚約者の前でわたしを殺人狂の仲間にする気?」
 ギロリと睨み、オラァ!と叫んでデルフリンガーを激しく投げ付けぶつける。
「おぼァッ!ちょ、ま、まて。このままじゃ俺何もしてねえのに―――」
 デルフリンガーが上擦った声で叫んぶ。
「間抜け?ねえ、脳味噌が間抜けなの?インコンプテンツソードじゃないの?
 無能よね?全然インテリジェンスソードじゃないわ!」
 ルイズが右足をぐぐうっと高く振り上げ、アヌビス神に踵を叩き付ける。
「犬以下ぁ!」
 踵をたたきつけた後、その反動で軽く宙に身を浮かせたルイズはアヌビス神の真上に陣取った。
「油虫?黒油虫よね?大変、踏み潰さないといけないわ」
 汚物を見下すような冷たい目で一瞬見つめた後、棒読みで淡々と死刑宣告をした。
ゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッ
ゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッ
ゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッ
 打撃音を響かせながら、両足で交互に踏みつける。
 アヌビス神を、その上に叩きつけられたデルフリンガーを、どっかどっかと物凄い勢いで踏みつけ続ける。

305アヌビス神:2007/08/01(水) 06:53:01 ID:axr99nB6
ゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッ
ゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッ
ゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッ
「い、今の情況見られるほうが不味いんじゃね?なあご主人さま」
 地面に減り込んだアヌビス神が忠告する。しかしルイズは前に進まぬ全力疾走に夢中であり、そんな言葉聞きはしない。
 デルフリンガーは考えるのを止めたようだ。
ゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッ
ゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッ
ゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッ

 漸く咳が止まって、『さて尋問の結果を覗うか!』とやる気満々で立ち上がったワルドはその有様を直視して、ドン引きした。
「あ、あれは何の儀式だい?」
 脂汗をダラダラ流しながら隣のミス・ロングビルに尋ねる。
「調子が悪い日は叩くと直るそうですわ……確か」
 彼女は遠巻きに見え始めているラ・ロシェールの街の灯りを見つめながら、溜息交じりに適当に答えた。



 To Be Continued

306アヌビス神:2007/08/01(水) 06:55:02 ID:axr99nB6
以上です。
よろしくお願します。
あと投下宣言してから時間空けてしまいご迷惑お掛けしました。
もっと早くお願いすべきでしたね。

307名無しさん:2007/08/01(水) 07:10:13 ID:BrFGt7jQ
>>306
代理投稿、完了致しました。いいえ、こちらこそ全て投稿される前に
早漏な投下を始めてしまい、本当に申し訳ありません。
今回もすごく乙です!次のお話も楽しみにさせて頂きますね

308アヌビス神:2007/08/01(水) 07:23:42 ID:axr99nB6
お礼を向こうで書き込もうと思ったらまた二重に……
なんか30分単位で規制喰らってる様な勢い。はてさてこれはいったいどうなってるのやら。文字数変えても駄目だったし。

って事で、
代理乙でした。助かりましたよ。うちは回線ぶっこぬいてもIP変わらないのでホント助かりました。
本当にありがとうございました。

309Start Ball Run:2007/08/04(土) 02:34:11 ID:MbIYBUOo
久々の規制……ラスト1レス分投下させてください

Start Ball Run13/12

「駄目よ。キュルケがあんなこと――、謝るなんて、いうわけないもの。これは罠よ」
「ルイズ……おねがい。信じて。あたし火照っているの。ううん。もう、……ついの」
「はあ?」
最後の言葉が、聞き取れなかった。
「……つい。……あつい……、熱いの。熱いのよぉ! 我慢できないくらいに!」
「キュ、キュル、ケ……?」
「お願い、入れてぇ! あたしの火照りを静めてぇ! あなたの使い魔にしか、頼めないのぉっ!」
突然、部屋が暑くなった。
まるで冬から夏に、瞬時に変わったかのような、それほど劇的な変化。
熱気は、ドアの向こうからにじり寄ってくる。
そしてそのドアが――中心から、焦げ付いていた。
まるで掌のように、黒く焦げ付きは広がっていく。
ルイズはその光景を、呆然と眺め。
才人は止めどなく流れる汗が、冷たく感じた。
だが、残る二人は、少女と少年とは、全く違う反応を見せていた。
ジャイロは、この感覚を――、ヤバイと、感じていた。
そして、この感覚は、以前、出会ったことがある、ヤバさだと。
そして、もう一人、ギーシュもまた、これを見て、恐怖を感じていた。
彼はこれを、この感覚をよく知っていた。なぜなら、これは以前、自分の中にあったものだから。
絶望を覚えた日。ギーシュはそれに触れていた。それは触れた瞬間、自分と融け込むという、吐き気を覚えるような現実を見せ付け、忽然と消えた。
その日から数日、ギーシュは記憶が曖昧になっている。
だが、それだけはよく覚えていた。気持ち悪くて、忘れたいと思っているのに――忘れられない。
「……手の、ひらだ」
そう、呟いたギーシュの胸倉を、ジャイロがいきなり掴んだ。
「何だって……? おい! オメー! いま何て言った! あれが何だってんだ!」
「あ、悪魔だ。……あの手のひらは、悪魔。…………悪魔の手のひらだああぁぁっ!」
ギーシュが叫んだと同時に、ドアが燃え尽きて、崩れ落ちる。
ネグリジェが燃え尽き、全裸となったキュルケが、炎をドレスとして着飾っていた。
その姿は、紅蓮の魔女と呼ぶに、ふさわしいものだった。



↑以上、投下分です。2桁投下がしてみたかった。後悔は(規制以外)していない。

310名無しさん:2007/08/04(土) 02:39:41 ID:WnrE73qo
じゃあ今から代理してきます

311名無しさん:2007/08/04(土) 02:41:41 ID:WnrE73qo
必要無くなったみたいで、よかったよかった。

312名無しさん:2007/08/04(土) 02:46:34 ID:WnrE73qo
前言撤回。最後の一文だけ投下しましょうか?

313名無しさん:2007/08/04(土) 02:51:06 ID:WnrE73qo
その必要も無かったようで。4レスもすいません。

314偉大なる使い魔:2007/08/11(土) 07:48:17 ID:0gGqSfiQ
『ザ・グレイトフル・デッド』
 
あれ?さっきと一寸ちがうような?
まっ・・・いいか
「お待たせ」
お待たせって・・・キュルケ?
「何しにきたのよ!」
「助けにきてあげたんじゃないの。朝方、窓からみてたらあんたたちが
馬に乗って出かけようとしてるもんだから、急いでタバサを起こして後をつけたのよ」
キュルケは風竜の上のタバサを指差した
パジャマ姿なのを見ると寝込みの所を叩き起こされたのだろう
タバサ・・・あなた、キュルケの使い魔なの?
「ツェルプトー。あのねえ、これはお忍びなのよ?」
「お忍び?だったら、そう言いなさいよ。言ってくれなきゃわからないじゃない。
とにかく感謝しなさいよね。あななたちを襲った連中を捕まえたんだから」
キュルケは岩陰を指差した
「少し待ってろ、ヤツ等に聞きたいことがあるんでな」
プロシュートが岩陰に入るのを見届けると、キュルケをにらみつける
「勘違いしないで。あなたを助けにきたわけじゃないの。ねえ?」
キュルケはしなをつくると、ワルドさまに、にじり寄った
「おひげが素敵よ。あなた、情熱はご存知?」
キュルケ。今度はワルドさまなワケ?
文句を言おうとした時、頭の中に声が聞こえてきた

『ブッ殺す』と心の中でおもったならッ!
その時スデに行動は終わっているんだッ!

ちょっと!なにやってんの?

315偉大なる使い魔:2007/08/11(土) 07:50:14 ID:0gGqSfiQ
投下終了  
 
書き込むとページが見つかりませんと表示が・・・

316偉大なる使い魔:2007/08/20(月) 13:45:19 ID:WNCe.8bY
プロシュートが戻ってきた。
「ヤツ等は貴族に雇われたとゲロしたぜ」
ゲロって何?
「喋ったって事だぜ、ルイズ」
わたしの方を向きプロシュートが言い直した。
そんなにも不思議そうな顔をしてたかしら。
「それなら、最初からそう言いなさいよね」
「よく、あっさりと聞き出したものだな」
ワルドさまが不思議そうに言った、なんとなく分かっているわたしにとって
そこには気づいてほしくなかった。
「まず、1人ブッ殺した」
まず・・・か、プロシュートの返答を聞いたワルドさまの顔が強張った
「残った連中は知っていることを、俺が質問する前に話してくれたぜ」
いきなり殺されたんじゃ、交渉の余地なし。男たちは話すしかなかったのね。
「その後に全員ブッ殺した」
「何で殺すのよ!」
わたしはプロシュートに怒鳴った、なにも殺す事は無いと思ったからだ。
「お前を守るためだ、ルイズ。貴族を襲ったんだ、殺されたって文句を言えねえ、そうだろ?」
たしかに、そのとおり・・・わたしが黙って聞いている事を肯定と
受け止めたのか、プロシュートは後を続ける。
「ルイズ、お前がフーケを捕まえに行くと言った時や、戦争中の国に行くと言った時も、
危険だからヤメロとか自殺行為だとか俺は止めたりしねえ。俺は保護者じゃねえ、
お前の使い魔だからなあ。唯、お前を敵から守るだけだ!」
プロシュートはわたしの身を守る為に敵を殺した。
・・・でも、わたしは納得出来なかった
「だから、殺す必要は無かったと思うの。縛ってたし、気になるんだったら
動けなくなる様に傷つければ良いじゃない」
プロシュートが大きなため息をついた。
「甘いんじゃねーか!ルイズ。もし、今ここでヤツ等を放置すれば再び襲って
来るだろう。こんどは単純な奇襲じゃなく罠も張り巡らせてなあ」
プロシュート・・・なんという用心深さなの。
わたしの身を守る、わたしの使い魔。
わたしが甘いというの?
いや、いけない。使い魔に振り回されるな!
確かにプロシュートはわたしの身を守っている。
しかし、わたしの言うことを全て聞いてない。
まるで手綱を受け付けない馬の様ね。
馬は、わたしを乗せているが思い通りに走ってくれない。
馬が乗り手を認めていない・・・つまり、わたしの力不足ってことね。
・・・上等じゃない。今まで驚かされ続けてきたけど、使い魔に振り回される
メイジなんて恥もいいとこだわ。わたしは、この任務を通じて少しでも
プロシュートに相応しい立派なメイジに成ってみせるわ。

317偉大なる使い魔:2007/08/20(月) 13:47:03 ID:WNCe.8bY
投下終了  
 
書き込むとページが見つかりませんと表示が・・・
まただよ、また・・・どうなってんの?

318使い魔のことを呼ぶならそう呼べ:2007/08/31(金) 05:21:53 ID:G3lGFZDc
公開PROXYどうのとかでていたのでこちらに投下。

319使い魔のことを呼ぶならそう呼べ:2007/08/31(金) 05:23:09 ID:G3lGFZDc
宮中から戻ってきたルイズ一行。学院に戻ってすぐに、ルイズはオスマンに呼ばれて学院長室に向かった。
オスマンから始祖の祈祷書を渡され、その旨をルイズは聞かされる。
その際ルイズは、先程会話の途中に豹変したアンリエッタのことを思い出し、複雑な心境だった。

ゼロの奇妙な使い魔〜フー・ファイターズ、使い魔のことを呼ぶならそう呼べ〜
    [第三部 未来への祈祷書] 第一話(16) 崩壊への序曲 その①


「僕のルイズー!クックベリーパイを持ってきたよー!」
学院長室から戻ってきたルイズを待ち受けていたのは、クックベリーパイを持ったマリコルヌだった。
「な、何よマリコルヌ。そんなもの持ってきて。」
暗くぼんやりとしたルイズが言う。
「きっと落ち込んでいるだろうと思って差し入れを持ってきたんだ。」
アンリエッタ云々の件はマリコルヌは知らない。
しかし信頼していたワルドに裏切られ、目の前でウェールズが肉塊になった。
マリコルヌはそれを考え、ルイズはきっと落ち込んでいるだろうと踏んだのだ。
「そ、そんなことされなくたって落ち込んでないわよ!ででで、でもね、折角持ってきてくれたんだから、たたた、食べないのは悪いわよね。
とっととと、特別に私といっしょに食べることを許可してあげるわ。ヴェストリの広場に行きましょう。」
「よ、よろこんで、僕のルイズ!」
ルイズはマリコルヌの行動に瞳を潤ませて感謝していたが、そんな顔を見られたくないので先頭をきって歩く。
ヴェストリの広場に到着した二人は、その場に腰掛けてクックベリーパイの皿をを地面に置く。
マリコルヌのマヌケな話を笑いながら食事をしている二人。
その様子を一人の人物が偶然目撃する。タバサだ。
(ルイズ…キュルケが死んだのに、仲の良い友人が殺されたっていうのに…貴女はどうしてそんなに笑っていられるの…。)
キュルケの死が未だに頭から離れないタバサ。
キュルケの代わりにルイズを心配しようと考えていたその気持ちは、笑っているルイズへの憎しみへとかわっていった。
タバサはそのまま自室に戻り、キュルケのことを思い出し、眠った。

320使い魔のことを呼ぶならそう呼べ:2007/08/31(金) 05:24:34 ID:G3lGFZDc
 第一話(16) 崩壊への序曲 その②

「う〜ん。まったくもって思いつかないわ。」
始祖の祈祷書と睨めっこをしながら、再び復活したFF下っ端に話しかけている。
その横にある窓からは、シルフィードに乗って出かけていくタバサが見える。
ただしルイズはそのことには気が付いていないのだが。
日はあけ、ワルド戦からは二日も経っている。
つまりタバサがプッチ神父と接触してから三日後だ。プッチとの約束の日である。
タバサは待ち合わせの魅惑の妖精亭に向かう。十二時という約束であったが、タバサはいても経ってもいられず、明け方に出発した。
勿論時間に余裕がありすぎるくらい早くついたので、そのあたりを散歩してから、約束の三十分前に店に入った。
するとそこにはあの男、プッチが既に座っていた。
タバサは警戒気味で椅子をひき、座った。
「これが解毒剤だ。」
タバサが座るとすぐに、プッチは液体の入ったビンを目の前に差し出す。
タバサは少し疑り深い目をしながら受け取った。
どうしてこのような物を持っているのか気になったが、それは口に出さない。
「それを飲ませれば君の母親はすぐに良くなるだろう。」
タバサは無言で頷く。
「次は父親の仇だ。実行するときは私を同伴しろ。そうすればいつでも討てる。」
「じゃあ今すぐ。それで条件は?」
タバサはことを急ぐ。何が何でも仇は早く打ちたかった。
「前に言ったと通り、天国に到達するための手伝いをしてほしい。そのためにまずは君に王位を継承してもらいたい。」
その後、話は纏まり、二人は魅惑の妖精亭を後にして、シルフィードでガリアに向かった。

321使い魔のことを呼ぶならそう呼べ:2007/08/31(金) 05:26:23 ID:G3lGFZDc
 第一話(16) 崩壊への序曲 その③

「以上のことからマザリーニ枢機卿を幽閉します。賛同者は起立して下さい。」
ここは王宮の一室。アンリエッタ、マザリーニ、その他多くの貴族が今後のことで話し合っていた。
そしていきなりマザリーニの話になる。そこでマザリーニは全く身に覚えのない行為についての訴えを受けた。
横領しているだの、権力を好き勝手に使っているだの、貴重品の盗難の主犯だの言いたい放題だった。
そして話が続き、文頭の一文に繋がる。マザリーニ以外の貴族がみな、立ち上がる。
マザリーニは絶望したかのように力が抜けた。一体何が起こっているのかと。
アンリエッタの命で、扉を開け、兵が入ってきてマザリーニを連行する。
「さぁ、会議を続けましょう。」
アンリエッタの一声で、規律した貴族たちが座る。
彼らはリッシュモンとその息のかかった連中である。
「王党派のふりをしてトリステイン領を攻撃。その名目でアルビオンの内紛に参入。
そしてレコン・キスタと共同戦線。王党派と邪魔になりそうな者を相打ちさせる。わかりましたね。」
アンリエッタが話を進める。
「攻撃対象はタルブの村が候補地としてあがりましたぞ。」
「ご苦労様です、リッシュモン高等法院長。では軍役免除税を払った者はどうやって排除するのがいいと思いますか?」
「何か適当な罪をかぶせて幽閉するのが良いでしょう。戦争が楽しみですな、姫殿下。」
「ええそうね、とても楽しみだわ。ウフフフフフ。」
このあと、太后マリアンヌやアニエス・ミランなどが幽閉されていった。

322使い魔のことを呼ぶならそう呼べ:2007/08/31(金) 05:27:05 ID:G3lGFZDc
 第一話(16) 崩壊への序曲 その④

プッチとの約束のあった翌日、本日はシュヴルーズの授業である。
ガリアに向かったタバサは当然帰ってきていないので、無断欠席だ。
「タバサは一体どうしたのかしら?」
「そうだね、どうしたんだろう。」
ルイズはマリコルヌに話しかけていた。
同じ目的を持って旅をしたのだ。当然仲は良くなる。
それを見たシュヴルーズは、とてもルンルンで微笑んでいた。
そしてマリコルヌにいいところを見せる場面を用意してやろうとして、言った。
「ではミスタ・グランドプレ。みんなの大好きな錬金ですよ。やってみてください。」
それを聞いてルイズは思い出した。マリコルヌは現在魔法が使えないのだ。
マリコルヌがあまりにも明るかったので失念していた。ルイズはそう思った。
そして、前に出て魔法を使おうとしないで、と祈った。
だがマリコルヌは前に出て行く。そして錬金を唱えるが何もおきない。
周りは大爆笑だ。ルイズは、自分を庇ってその能力を失ったマリコルヌが笑われているのを見て、泣いて呟いた。
「ごめん、ごめんねマリコルヌ。私のせいで…。」
そんなルイズの声も聞こえないくらい野次が騒がしい。そしてある生徒がこんなことを言った。
「最近ゼロのルイズと仲が良いからなぁ。ゼロが移ったんじゃあねぇのか。ゼロのマリコルヌ!」
周りは更に爆笑する。しかし、そこで先程までシュヴルーズに心配そうに話しかけられたマリコルヌが、生徒のほうを向き声を荒げる。
「ルイズを侮辱するな!僕だったらいくらでもコケにしたまえ。だがルイズを馬鹿にするのは許さない!謝れ!」
そして静寂が訪れる。ここで何とかシュヴルーズが取り直し、授業は無事に再開した。

323使い魔のことを呼ぶならそう呼べ:2007/08/31(金) 05:27:36 ID:G3lGFZDc
 第一話(16) 崩壊への序曲 その⑤

授業の後、二人は食堂にいた。
「ごめんねマリコルヌ。私のせいであんなことになったのに、私を庇ってくれて…。」
「泣かないでよ、僕のルイズ。当然のことをしたまでなんだから。それに最近泣いてばっかりだよ。笑っておくれ、僕のルイズ。」
この言葉にルイズは涙をぬぐう。そしてその後の第一声はというと…
「な、泣いてなんかいないんだから!そそそ、それに庇ってなんて一言も言ってないわ!私はあんなのまったく気にしてないんだからね!」
それをシエスタが微笑ましそうに見て呟く。
「いいなぁ、恋人がいて。それにしてもミス・ヴァリエールはどうして連れてこないんだろう。
フー・ファイターズさんとお話がしたかったのに。」
フー・ファイターズが食事を摂取しないということはすっかり忘れてしまっている。
しかし、直後に耳にしたことで、シエスタの周りは時が止まってしまう。
「おい、聞いたか、タルブの村の話。」
「ん、何かあったのかい?聞いたこともない村の名前だけど。」
「何言ってんだよお前、今は結構有名だぞ。」
「だから一体何なんだよ。」
シエスタはここまでの会話の流れで、龍の羽衣の噂でも広まったのかなぁ、なんて微笑んでいた。
だがそれは違ったのだ。
「昨晩なにやらアルビオンの王党派が、食料を手に入れるために襲ったんだとよ。」
「げぇ、本当かよ。いくら貴族派に追い詰められているからって、そんなことして貴族の誇りはねぇのかよ。こりゃあトリステインも敵に回したね。」
「そうなんだよ。村人も皆殺しにされたらしくて、姫殿下も途轍もなくお怒り、すぐさま討伐軍を編成したらしいぜ。」
「こりゃあ大変なことになったな。まさか貴族派の肩をもつなんて予想外の展開だね。」
シエスタは、持っている皿を床に落とし、その場に座り込んで泣いてしまった。
食事中の生徒たちは、何事かと一斉にシエスタを見たが、他のメイドたちがシエスタを奥の部屋に連れて行き、割れた皿を片し、生徒たちに謝ったので、何事もなかったかのように場は収まった。


to be continued…

324使い魔のことを呼ぶならそう呼べ:2007/08/31(金) 05:35:32 ID:G3lGFZDc
以上です。
そろそろレポートに手をつけねば。

325偉大なる使い魔:2007/09/07(金) 00:37:16 ID:m3NEgM/s
わたしたちは、ラ・ロシェールで一番上等な宿に泊まることにした。
ワルドさまは全員に向かって困ったように言った。
「アルビオンに渡る船は明後日にならないと出ないそうだ」
「急ぎの任務なのに・・・」
わたしは口を尖らせた、ウェールズ様が敵の手に落ちるのも時間の問題なのに。
「あたしはアルビオンに行った事がないからわかんないけど、
どうして明日は船が出ないの?」
キュルケの方を向いて、ワルドさまが答えた。
「明日の夜は月が重なるだろう?スヴェルの月夜だ。その翌日の朝、
アルビオンが最も、ラ・ロシェールに近づく」
ワルドさまは鍵束を机の上に置いた。
「さて、じゃあ今日はもう寝よう。部屋を取った。キュルケとタバサは相部屋だ。
そしてギーシュとプロシュートが相部屋」
キュルケとタバサ、ギーシュとプロシュートが顔を見合わせる。
「僕とルイズは同室だ」
わたしは、はっとしてワルドさまの方を見た。
「婚約者だからな。当然だろう?」
ワルドさまが、あたり前の様に言った。それを言ってしまえばプロシュートと
わたしが同室でも主人と使い魔で当然なんだけど・・・
「大事な話があるんだ。二人きりで話したい」
そういわれて、断るわけにはいかなかった。

326偉大なる使い魔:2007/09/07(金) 00:38:27 ID:m3NEgM/s
わたしとワルドさまは宿で一番上等な部屋に入った。
テーブルに座ると、ワルドさまはワインを杯につぎ一気に飲み干した。
「きにも腰掛けて一杯やらないか?ルイズ」
「はい、ワルドさま。いただきます」
わたしは言われるままにテーブルについた。
「ルイズ、その『ワルドさま』と言うのを止めてくれないか」
でも・・・
「僕達は婚約しているんだ、十年もほったらかしにしていたのは悪いと思っている。
その溝を少しでも埋めていきたいんだ」
信じられなかった。婚約といっても両親同士が勝手に交わしたもので、ワルドさまは
とっくに別の人を見付けているとばかり思っていた。
「わかったわ、ワルド」
「ありがとう、ルイズ」
わたしの返事にワルドは微笑み満足そうに頷いた。

327偉大なる使い魔:2007/09/07(金) 00:39:43 ID:m3NEgM/s
「それで、ワルド大事な話って何?」
わたしはワルドに本題を促した。
「ルイズ、自分の系統は見つかったのかい?」
「いいえ、まだ見つかっていません」
「そうか、やはり・・・」
ワルドはわたしの返事に複雑そうな表情をした。
やっぱり婚約の事を後悔したのかしら。
「そうよ!やはり、わたしは『ゼロ』のルイズよ」
わたしは、堪らず声を荒げた。
「ルイズ、僕が君のクラスメイトの様にそんな事を言うと思っているのかい」
ワルドの目がつり上がった。
「だって本当の事ですもの」
自分で言って気持ちが沈んでいく。
「違うんだルイズ。きみは失敗ばかりしてたけど、誰にもないオーラを放っていた。
魅力といってもいい。それは、きみが他人には無い特別な力を持っているからさ。
僕だって並のメイジじゃない。だからそれがわかる」
「まさか」
「まさかじゃない。例えば、そう、きみの使い魔」
わたしの使い魔・・・異世界の暗殺者
「プロシュートのこと?」
「そうだ。彼の左手のルーン・・・。あれは、ただのルーンじゃない伝説の使い間の印さ」
「伝説の使い魔の印?」
「そうさ。あれは『ガンダールヴ』の印だ。始祖ブリミルが用いたという伝説の使い魔さ」
ワルドの目が光った。

328偉大なる使い魔:2007/09/07(金) 00:40:43 ID:m3NEgM/s
「ガンダールヴ?」
そういえば、以前コルベール先生がプロシュートのことをガンダーなんとかと言おうとして
オールドオスマンに口止めされてたっけ。
「誰もが持てる使い魔じゃない。きみはそれだけの力を持ったメイジなんだよ」
「信じられないわ」
わたしは首を振った。プロシュートの力は疑いようは無いが、自分がワルドの
言うようなメイジなんだろうか。
「四系統に当てはまらない系統、伝説の使い魔」
ワルドの目に妖しい光が灯る。
「これらの事は全て君が虚無の系統であることを示している」
虚無ですって!失われた伝説の系統。それが、わたしの系統だっていうの?
「この世界に始祖ブリミルが残した虚無の呪文が必ず何処かにある。僕がきっと
その呪文を見つけ出し君に差し出そう。その時こそ、虚無の系統の誕生・・・いや、復活だ」
ワルドは熱っぽい口調でわたしを見つめた。

329偉大なる使い魔:2007/09/07(金) 00:41:48 ID:m3NEgM/s
「それを信じろというの、ゼロのわたしに?」
「かわいそうに、周りに馬鹿にされ自分に自信がもてないんだね・・・この任務が
終わったら、僕と結婚しようルイズ」
「え・・・」
けっ結婚ですって、だっ誰と誰が?
「僕は魔法衛士隊の隊長で終わるつもりはない。いずれは国を・・・
このハルケギニアを動かすような貴族になりたいと思っている」
「で、でも・・・」
「でも、なんだい?」
「あの、その、わたしまだ、あなたに釣り合うような立派なメイジじゃないし・・・
もっともっと修業して・・・」
わたしは俯いて、続けた。
「あのねワルド。小さい頃、わたし思ったの。いつか皆に認めてもらいたいって。
立派なメイジになって、父上と母上に誉めてもらうんだって」
わたしは顔を上げて、ワルド見つめた。
「まだ、わたし、それができてない」
「僕は君を認めている、それじゃだめなのかい?」

330偉大なる使い魔:2007/09/07(金) 00:42:44 ID:m3NEgM/s
「そんなことないの!そんなことないのよ!」
ワルドがわたしに結婚を求めている。・・・さきほどの伝説の使い魔、失われし
虚無の系統・・・。慰めなんかじゃなく、ワルドは本当にそれを信じているというの?
「わかった。取り消そう。今、返事をくれとは言わないよ。でも、この旅が終わったら、
君の気持ちは僕にかたむくはずさ」
ワルドの言葉に、わたしは頷いた。
「それじゃあもう寝ようか。疲れただろう」
ワルドが近づいて、唇を合わせようとした。わたしは無意識にワルドを押し戻した。
「ルイズ?」
「ごめんなさい、でも、なんか、その・・・」
ワルドは苦笑いを浮かべて首を振った。
「急がないよ。僕は」
わたしは再び俯いた。
どうしてワルドはこんなに優しくて、凛々しいのに・・・。ずっと憧れていたのに・・・。
結婚してくれと言われて、嬉しくないわけじゃない。
でも・・・わたしを認めてほしいと思う両親に、クラスメイトに。
そして、プロシュートに。

331偉大なる使い魔:2007/09/07(金) 00:46:03 ID:m3NEgM/s
見つかりません・・・もう、こっちのスレに投下するしかないのか?

332名無しさん:2007/09/07(金) 02:32:18 ID:2yaSJyBk
偉大の人、2ちゃんねる専用ブラウザは使ってるのですか?

333偉大なる使い魔:2007/09/07(金) 07:12:42 ID:dSqZyKu6
禁断の壺なんだけど、なんか調子悪いみたい。

334名無しさん:2007/09/07(金) 09:58:27 ID:EZHPCyFU
他のに変えてみたら?ギコナビとかオヌヌメ

335名無しさん:2007/09/07(金) 17:37:28 ID:RgO9XPVI
むしろ壺を外してみたらどうだろうか

336偉大なる使い魔:2007/09/08(土) 00:18:24 ID:y0cKtvgI
最初はギコナビで更新に不具合が出たから壺にしてみた。
いままで読むだけだったから問題なかったんだけど。

337名無しさん:2007/09/08(土) 00:22:13 ID:WV/UlOpw
じゃあ>>334の言うとおりにしてみては?

338名無しさん:2007/09/08(土) 00:23:58 ID:WV/UlOpw
あかん間違えた、他の変えてみたらってことです。ちなみに俺はJane Doe Style

339偉大なる使い魔:2007/09/08(土) 09:16:11 ID:QOWOnP8E
アドバイスありがとう!
ためしてみる。

340兄貴:2007/09/18(火) 18:46:46 ID:PY/98TUI
参ったな…同じ症状が発生してしまった…
アケ板のビルダースレとかは普通に書き込めるのに何故だ

341名無しさん:2007/09/18(火) 18:55:47 ID:fIGTG9ME
>>340
ここに書き込めるんなら代理投下を頼んでみては?

342偉大なる使い魔:2007/09/22(土) 00:42:16 ID:GXXIWOrc
本スレに書き込めた。
ありがとう!

343アンリエッタ+康一:2007/09/24(月) 07:54:03 ID:2XAcJvKY
本スレが950間近なのでこちらに投下させてもらいます

344アンリエッタ+康一:2007/09/24(月) 07:54:36 ID:2XAcJvKY
夜の世界。それは静止と静寂の世界である。
冷えて澄んだ空気に、先の見えぬ闇。
人は世界から姿を消して、残るは僅かな虫や獣のみ。

しかしそんな夜の世界に、染み込むように響く風切り音。
鳥の羽ばたき音であろうか。いや、風が伝える音は鳥ではないと言っている。
闇に紛れて宙を駆ける音の主、それは体長6メイルの風韻竜の幼生であった。
「おねーさま、そろそろ降りますわ。残念です。きゅいきゅいっ」

夜の澄み切った空気の中を飛ぶことが楽しくてしょうがないシルフィードは、あからさまに残念がって着陸の体勢に入る。
そんなシルフィードに乗るタバサは、背中の鱗をすりすりとなだめるように擦ってやった。
「また帰るときに飛べる。それと、ここからは喋っちゃダメ」

しっかりとシルフィードに言い含めておくタバサ。
人語を話す韻竜は滅んだとさえ言われる希少種だ。
それがこのお喋りな使い魔だと知れれば、面倒なことになるのは目に見えている。
「きゅきゅー。(分かってますー)」

タバサの為と納得しているが、それでも何だか渋々感ありありのシルフィード。
それでもタバサはそんなシルフィードが好ましく思う。
いい子いい子、と優しく背をたくさん撫でてあげた。

345アンリエッタ+康一:2007/09/24(月) 07:55:30 ID:2XAcJvKY
着陸地点はトリステイン王城の厩舎前。
学院に戻ったタバサは、一日前に城からの手紙を受けた。
正確にはアンリエッタからオスマン老へと送ってから、そのオスマン老経由での手紙。

その手紙にはアンリエッタからシルフィードを連れて、出来るだけ静かに城へ来てもらいたいと記されていた。
後は、来る際の日時と着陸地点の目印。
それと一番重要なこととして、体の大きなシルフィードが見つからないよう細心の注意を払ってほしいとのこと。
これはシルフィードからタバサが調べられ、アンリエッタと繋がりがあるということを悟られないようにする意味を持っているそうだ。

タバサは風を頬で受けながら、サイレントの魔法を唱える。
これでシルフィードの発する風切り音は消える。
さらにサイレントを行使しながら、杖を振り簡単な雲を作り出す魔法を唱えた。
雲はシルフィードの巨体を覆いつくし、その巨体を覆い隠す。
多少切れ切れな雲であっても夜の帳が落ちたなら、地上からその姿を捉えるのは困難だ。

すでに地上では目印の篝火を一つ用意している。
そこにめがけて、ゆっくりとシルフィードは降下。
大体の目標が分かれば、その鋭い目が最適な地点をはじき出す。
微妙に開けた場所。その周りに人影がある。

つまりそこが相手にとっても着陸してほしい場所なのだろう。
ゆっくりと宙をすべるように、降りるシルフィード。
そして音も立てずに着地。
完全な望みどおりの隠密行動をとったシルフィード。
タバサは再び、いい子いい子、と背を撫でてやった。

346アンリエッタ+康一:2007/09/24(月) 07:56:08 ID:2XAcJvKY
空からシルフィードが見た人影達がタバサを迎える。
「お呼びたてして申し訳ありません。ミス・タバサ」
「久しぶりです、タバサさん」
アンリエッタと康一、二人の主従。それと言葉は出さないが礼をとるアニエスとマザリーニの姿も見える。

タバサは特に言葉は出さず、僅かに会釈するに留まる。
「きゅいきゅいっ(おひさしぶりねっ)」
シルフィードは自分の言葉が解る康一に会えて、嬉しそうに鳴く。

しかしその声を聞いた瞬間康一の表情が僅かに、困ったような、複雑そうな顔になった。
康一のそんな表情。タバサの鋭い観察眼はそれに違和感を覚えた。
普段の康一なら、そうそうそんな顔にはならないだろう。
それが彼の良さだ。なのに、今の彼は。

「何か、あった?」
タバサは何故かそれが自然であるかのように問いかけていた。
「エッ!?」
康一がその問いに目を丸くして驚く。

他の者も皆、何かしら驚きの表情を見せていた。
「もしかして顔に出てました、僕?」
康一の問いかけに、コクンと頷いたタバサ。
「あー、そうですか。……一応お城の方で準備してるんで、そっち行きましょっか」

347アンリエッタ+康一:2007/09/24(月) 07:56:55 ID:2XAcJvKY
シルフィードは着陸地点で隠れて待機して貰うとして、タバサは城のアンリエッタの居室に招かれた。
マザリーニはちょっと取って来る物があるとかで、少し席を外している。
その間にタバサは、今回自分が呼ばれた理由を告げられることとなった。
「動物の声が解らない?」

タバサが少し驚きを目に浮かべ、疑問の声を投げかける。
「ええ。前にシルフィードさんの声が解るって分かったじゃあないですか。
それで他の動物の声が解るだろうと思って、色々と試して見たんですけど全然ダメだったんですよ」

康一の説明では、タバサが帰ってから城でルーンの能力を試していたそうだ。
しかし全く能力は使えなかった。ルーンは何も変わらず発光しない。
それで今回ルーンの調査を頼んでいたタバサを呼んで何か分かったか聞こうと思っていた訳だ。しかし。

「それでタバサさんのに色々聞こうかなと思ってました。でもまさかな、とは思ってたんですけど。
さっきシルフィードさんの声聞いたら、そっちの声まで解らなくなっちゃってて…」
ちょっぴり溜息をついて、康一が頬を掻いた。

「別に康一さんのせいではありませんわ。きっと何か理由があるのでしょう」
アンリエッタが慰めるように康一の肩を叩く。
「そうだといいんですけど、ねぇ」
もう康一はボヤくしかない。

348アンリエッタ+康一:2007/09/24(月) 07:57:57 ID:2XAcJvKY
「とりあえず、ミス・タバサ。現在のルーンの調査状況を教えていただけますか?」
アンリエッタが場の空気を換えるため話題を変えた。
タバサは居室の丸テーブルの前に立ち、懐を探る。
そしてその懐から一冊、表紙がボロボロになった書物を取り出しテーブルに置いた。

いつもの小さな声だが、よく場に通る声でタバサが語り始める。
「まず結論から言う。ルーンの紋様を調べたが、それと同じ紋様のルーンの記録は見つからなかった」
康一の右手のルーンを見ながら、結果を言い放った。

その結果にアニエスが疑問を投げかける。
「それは、今はまだ見つかっていない、かも知れないのか。
それとも、おそらく学院では見つかることはない、のか。一体どちらだろう?」
見つかっていないでも、この二つの違いはあまりに大きい。

まだ見つかっていない可能性があるなら、それはまだ問題ない。
しかし学院の資料でも、おそらく見つからないだろう、という話は別だ。
魔法学院はトリステインの国立学院。
魔法に関しては、周辺国のガリア・ゲルマニア・アルビオンに勝ると言われるトリステイン。

そのトリステインの魔法に関する最高学府に、
使い魔のルーンの記録がないとすれば一体何処にそんな記録があるのだろうか。
否、本当にそんな記録があるのかどうかさえも疑わしい

349アンリエッタ+康一:2007/09/24(月) 07:58:31 ID:2XAcJvKY
その疑問に対するタバサの回答はこうだ。
「学院の記録は殆んど調べた。この分だと見つからないと思う」
冷静で自信を持って答えたタバサの回答。
冷酷とも言えるような答えだが、それはタバサの調査が確実であるという表れでもある。

「そうですかー。まぁ、見つからないんじゃあしょうがないですね」
ちょっと残念そうな、ホッとしたような康一が呟いた。
康一としてはタバサに調べるのを任せていたのが、ちょっぴり具合が悪かったのだ。何だか複雑な気分である。

だがこれで話が終わった訳ではない。
「ただ」
そう前置きして言葉をタバサが紡ぐ。
「あなたのルーンと、よく似た紋様のルーンの記録があった」

タバサはテーブルに置かれた、持ってきた書物に目を落とす。
そしてタバサは書物に手を伸ばし、しおりの挟んであったページを開いた。
開かれた書物。康一が、アンリエッタが、アニエスがそのページを見つめる。

ページに記されたルーンの紋章。それはとても康一のルーンによく似ていた。
いや、これは似ているというレベルではない。
ほぼ完璧に同一の形状。ただし一画ほどルーンが抜けているが、それ以外は完璧に同形のルーンであった。

350アンリエッタ+康一:2007/09/24(月) 08:03:13 ID:2XAcJvKY
投下完了
本日中にスレが落ち着いたらどなたか代理投下していただけると助かります
これから自分は寝ます

351名無しさん:2007/09/24(月) 12:46:17 ID:Z0twt2Zo
代理投下しておきましたー

352名無しさん:2007/09/24(月) 13:08:42 ID:MgRzkoZ.
アンリ+コーイチせんせGJ!!
代理殿、乙っした!!

353ゼロいぬっ!:2007/10/05(金) 21:12:27 ID:D5yGqZ.o
規制で書き込めなくなっているようなのでお願いします。

354ゼロいぬっ!:2007/10/05(金) 21:13:22 ID:D5yGqZ.o

陽の光さえ差し込まない薄暗い洞窟。
長い年月を経て獣の牙のように尖った鍾乳石から水滴が伝う。
光源と呼べるものはただ一つ、大気を震わせながら咆哮を上げる此処の主の息吹のみだ。
その灼熱の炎は岩山を溶かしてこの洞窟を作ったという伝説まである。
たとえメイジであろうと人間に抗う術などはない。
そうして村の人間は自分達を守る戒律を作った。
村が襲われぬように定期的に竜に生贄を差し出す事に決めたのだ。
それは決して破られぬ事なく続けられ、遂に私の番を迎えた。
覚悟は決めていたにも関わらず膝が震える。
断れる筈などなかった。
病弱な母を連れて逃げ出せる勇気も力もない。
何より自分の我が儘で村の人達を犠牲には出来ない。
家族のように自分に接してくれたあの人達を。

竜の手が私へと伸ばされる。
瞳を閉じて最期の瞬間を受け入れる。
だが、いつまで経ってもそれは訪れなかった。
代わりに上がったのは巨竜の絶叫。
伸ばされた腕は一筋の剣閃により断たれていた。
それは決して抗えない存在だった。
その怪物が、絶対的な地位に君臨していた暴君が腕を失い困惑する。
怪物の眼下には自身を傷付けた剣士。
初めて目の当たりにする脅威に、嵐のように吹き掛けられる灼熱の吐息。
それを避けながら尚も剣士は竜に挑みかかる。
幾度の攻防が繰り広げられただろうか、
遂に炎の真下を掻い潜った剣士が竜の喉下に剣を突き立てた。
同時に不動だった巨体が地響きと共に崩れ落ちる。
喰い込んだ刃はさながら竜の墓標のよう。
それで全てが終わったのだと私は理解した。
竜を討ち果たした剣士が私へと歩み寄る。
そして彼は、私に…。

「わんっ!」

355ゼロいぬっ!:2007/10/05(金) 21:14:23 ID:D5yGqZ.o

ガタガタと揺れる馬車の中で私は目を覚ました。
思った以上に熟睡していたのか、垂れていた涎を袖で拭う。
手には彼から貰った魔法薬の本。
道すがら読んでいたが途中で眠ってしまったようだ。
思えばここ数日、モット伯の一件以来ほとんど睡眠を取っていなかった。
それというのも眠る時間が惜しかったからに他ならない。
もしかしたら母様を助けられるかも知れない、
そう考えると一日でも早く読破したいという気持ちに駆り立てられた。
キュルケがいたなら『睡眠不足はお肌の大敵』とか『寝ない子は育たない』と言っただろう。
正直、同年代のタバサからしてもキュルケは育ちすぎだと思う……色々と。
自分の胸にぺたぺたと手を当てながら、視線を横に向ける。
そこには一匹の犬がスヤスヤと寝息を立てていた。
変な夢を見たのは彼の所為か。
以前にも“イーヴァルディの勇者”の夢を見た事はある。
その時の勇者は自分自身か、生前の時は父だった事もある。
キュルケが出てきた時には恥ずかしくて顔を合わせられなかった。
心のどこかで自分が頼りにしている相手、それが夢の形で顕れるようだ。
彼が出てきたのは薬の影響下にあるからだろう。
以前ならそれを自分の甘さと認識した。
だけど今は違う。仲間を頼る気持ちは弱さじゃない。
そう心から思えるのだ。

そんな自分の気も知らず、彼はごろりと寝返りを打つ。
お腹を見せる無防備な姿がどことなく自分を誘っているように見えてならない。
うずうずと好奇心をくすぐられ、彼の肉球へと手が伸びる。
「……………」
ぷにぷに。
ぷにぷにぷにぷに。
ぷにぷにぷにぷにぷにぷに……。
興奮のあまり飛びそうになった意識を繋ぎ止める。
薬の効果で愛情を植えつけられた彼女にとって、それは魔性の魅力だった。

国境を越え、既に馬車はガリア王国内。
窓の向こうにはガリア王国指折りの観光スポット、ラグドリアン湖が広がっている。
……否。広がり過ぎている。
湖畔の近くに建てられた民家が皆悉く水没し、
僅かにそれらの屋根だけが水面から顔を出している。
嵐か何かで増水したのかと思ったが違うようだ。
ラグドリアン湖が氾濫する程吹き荒れたのなら、ここに来るまでの道も無事では済まない。
しかし薙ぎ倒された木々や土砂崩れなど何一つ目にしていない。
(…何か良くない事が起きている)
もし嵐が来るとしたらこれからだ、と彼女の勘が告げていた。

356ゼロいぬっ!:2007/10/05(金) 21:16:07 ID:D5yGqZ.o

時を同じくしてトリステイン国境。
そこでは警備の衛兵達が警戒網を張り巡らせている。
隣国が不安定な情勢にある今、何が起きてもおかしくない。
密偵、工作員、刺客など各国からの敵に注意を払う必要がある。
故に不審な人物は誰一人として見逃さない。

その彼等が動けずにいた。
たった一人の少女を前に成す術なく立ち尽くす。
平民とはいえ鍛え抜かれた兵隊達がだ。

その少女が身に纏っているのは魔法学院の生徒の物。
しかし、それはこんな煽情的な服装だったろうか?
サイズが違うブラウスは胸を隠すに留まり、へそは完全に丸出し。
そして僅かに残された生地も完全に胸を覆う事は出来ていない。
押し当てられた胸がハッキリと形に浮かぶ。
スカートにいたっては腰布と言ってしまってもいい。
下着を隠すという本来の目的を理解しているのか。
元々の女性的な体つきが密着した布によってアピールされる。
むしろ服を着ている方が恥ずかしく思えるという不思議な感覚。

「んん〜、お姉さまの馬車を知らないのね?」
少女が衛兵に何の警戒感もなく話し掛ける。
その正体は風の精霊の力を借り人の姿に変装したシルフィードである。
一晩置いて頭を冷やした彼女はタバサを追いかけていた。
そう。あれは薬による一時的な気の迷い。
自分が傍にいなくてお姉さまも寂しがっているに違いない。
(今謝れば許してあげない事もないのね)
しかし人と喋る事をタバサに禁止されている為、聞き込みも儘ならない。
そこで人に姿を変え、タバサの予備の制服を勝手に持ち出し着替えたのだ。
(人間ってどうしてこんな窮屈な格好するのね、きゅいきゅい)
裸でいるのはマズイと知っていたが、
サイズが合っているかどうかなど彼女には判らない。
しかし、ある意味それは良い方向に作用した。

357ゼロいぬっ!:2007/10/05(金) 21:17:02 ID:D5yGqZ.o

「い…いや、馬車と言われても日に何台も通ってるからなあ…。
せめて特徴があれば話は別だが」
男達の鼻の下が伸びる。
町の警備と違い仕事帰りに一杯とはいかない国境の仕事である。
そんな所に痴女めいた格好の麗人が現れたのだ。
それはもう下心満載。仕事そっちのけで彼女を食い入るように眺める。
そして彼女の機嫌を損ねないように質問に答える。
「うー、お姉さまはこーんなメガネ掛けてて、それでいつも本を読んでいるのね」
指先で丸を作って眼鏡のフレームを真似て顔を近づける少女。
その際に張った胸が大きくたわんで弾む。
彼女の胸の動きを衛兵達が目線で追いかける。
「えーとねー、お姉さまはシルフィと同じ髪の色してるのね」
「同じ色……ああ、そういえば」
彼女の話す特徴に当て嵌まる人物は覚えがあった。
しかし、すぐに思い至らなかったのも仕方ない。
“お姉さま”と言われて彼女より年上の人物を想像したのだ。
あんな少女が彼女の探してる人物だったとは…。
同じ髪とはいえ実の姉妹ではないだろう。
もしかしたら、そういう意味での“お姉さま”なのか…?
一見して大人しく見える少女が夜になると豹変し、目の前の女性を攻め立てる。
そんな倒錯的な光景が思い浮かび、男達は鼻に熱い物が込み上げるのを堪えていた。
確認の為に自分が覚えている特徴を少女に語る。
「あの長い杖を持った…」
「そう! そうなのね!」
「犬の使い魔を連れている少女だろう?」
「…………!」
あの犬が使い魔かどうか聞いた訳ではない。
他に使い魔らしい物がいなかったので勝手にそう思っただけだ。
しかし、その彼の返答が思わぬ勘違いを生むなど誰が予想しただろうか。
「……ふぇ」
「お、おい! どうした嬢ちゃん?」
「ふぇえええええん!! シルフィ、お姉さまに捨てられたのね!」
突然、雷が落ちたかのように泣き始める少女。
衛兵が呼び止める間もなく彼女はそのまま走り去った。
その速度ときたら暴れ馬にも匹敵する。
まるで現実から逃げ出すように駆ける彼女の背が見えなくなっていく。
唖然とした表情のまま、衛兵達はそれを見送った。
その日の定期報告の際に彼女の事をありのままに伝えた彼等は、
医師の診察を受けた後、神経症と診断され念願の城下町の警備に転属となった。
そこでアニエスに徹底的にしごかれて本当に神経症になりかけるのだがそれは別の話。

358ゼロいぬっ!:2007/10/05(金) 21:18:25 ID:D5yGqZ.o

「くぅぅぅ……」
彼が応接室で背筋を伸ばす。
続けて後ろ足を一本ずつ伸ばす屈伸運動。
馬車の長旅は退屈ではなかったが酷く窮屈だった。
しかし、色々違った風景を楽しめたので良しとする。
出来れば外に出て駆けずり回りたい気分なのだが、
主からタバサの事を頼まれている以上、そうもいかない。
そして当のタバサは自分にここで待つように言ったのだ。
どのような理由なのかは判らないが彼はそれに従った。

その彼を執事のベルスランが見下ろす。
最初こそタバサに抱えられた彼の姿に驚かされたが、
久しく見ぬ彼女の温和な表情に、この忠実な老輩は感動を覚えた。
例えそれが薬の所為だとしてもお嬢様の安らぎになるならそれも悪くない。
彼は心の奥でそう思っていた。
奥様を救おうとするお嬢様の気持ちは誰よりも理解できる。
しかし、その為に心を砕くお嬢様の姿は見るに耐えない。
彼女には彼女の人生がある。
それを棒に振ってまで奥様に尽くす必要はない。
(いっそ奥様の事は忘れ一人の女性として幸せを…)
無論、不忠である事は理解している。
それでも笑顔を忘れた彼女の姿を見る度に、そう思わずにいられなかった。

瞬間、甲高い破砕音が鳴り響いた。
その異変に彼と老執事が互いに顔を見合わせる。
即座にベルスランは事態に気付き、タバサの下へと向かう。
その後を彼が追いかける。
先を急ごうにも彼一人ではタバサの居場所どころか扉も開けられない。
胸騒ぎに掻き立てられながら彼は走った。

359ゼロいぬっ!:2007/10/05(金) 21:20:05 ID:D5yGqZ.o

彼が辿り着いたのは屋敷にある私室の一つ。
そこで彼が目にしたのは部屋の端で頭を下げるタバサの姿と、
ヒステリックに叫ぶ痩せこけた女性。
それを前にしても表情を一切変えることの無いタバサ。
その額から一筋の血が流れ落ちる。
タバサの足元には砕けたグラスの破片が散らばっていた。
恐らくはそれを叩きつけられたのだろう。
「下がれ! 下がりなさい!」
尚も相手はタバサに執拗に罵倒の声を浴びせる。
警戒の唸り声を上げる彼をタバサが手で制する。
そして落ち着いた声で女性に告げた。
「また…会いに参ります母様」
それはとても優しげで、そしてとても切ない響き。
感情を押し殺した彼女が初めて見せる、弱くて儚い少女の姿だった。

「さあ奥様。疲れましたでしょう、寝室にお戻りになられては?」
ふらつくタバサの母親の肩を抱き止め、ベルスランが椅子に座らせる。
それでようやく静まったのか、深い溜息と共に彼女は落ち着きを取り戻す。
その手には擦り切れ褪せた人形が固く握り締められていた。
私室に執事一人を残し、彼女は部屋を後にした。

「……………」
部屋を出てから一言も発しないタバサの後を彼が付いて行く。
自分に見られたのをショックに思っているのかもしれない。
どちらにせよ自分は彼女の言いつけを破ったのだ。
いくら謝罪しようとも容易に許される事ではない。
それにデルフがいない今、どんなに謝ろうとも伝わらない。
あまりの無力に情けなくなってくる。
自分が助けられるのは自分だけ。
そう割り切ってしまえればどんなに楽だろうか。
いくら力があろうとも少女の助けにはならない。
魔法薬さえも無効化する体も人を救う事には使えない。
彼女の笑顔一つ作る事も出来ない。
ルイズは自分を『無能』と卑下するが、それは違う。
彼女は自分やタバサの心に光を差してくれた。
それこそが今の自分が持たない本当の強さ。
その力に比べれば、この身に巣食う暴力こそが『無能』。
いや、本来『無能』であるべき力なのだ。
だけど、いつかは届くのだろうか。
彼女の背を追いかけ、光差す道を歩めば自分も彼女のように…。

360ゼロいぬっ!:2007/10/05(金) 21:21:47 ID:D5yGqZ.o

ポカという頭部に走った衝撃と共に上を見上げる。
そこには、むーと少し眉を寄せるタバサの姿。
ああ、よく覚えている。これはデルフの言ってた『嫉妬』だ。
きっと自分がルイズの事を考えていたのを知られたのだろう。
“女の勘ってのは変身した相棒の触角より鋭えんだぜ”
デルフが冗談交じりにそう言っていた事を思い出す。
しゃがみ込んで自分の顔を覗き込むタバサ。
「くぅん…」
それに喉を鳴らしながら伏せて反省の意を示す。
ようやく気が晴れたのか、タバサが頷く。
だが、彼女の視線は外れる事なく自分を見据えている。
しばらく、二人とも同じ体勢のまま時が流れる。
そして唐突に彼女の口が開く。
「…大丈夫。いつもの事だから」
それは自分を気遣っての言葉だった。
彼女はそれだけ告げると背を向けて先に歩き出す。
母親が自分を責め立てる光景、それを彼女はさも当然のように受け止めた。
“いつもの事”と割り切れる彼女の強さが今はとても悲しかった…。


キュルケ達を監禁した部屋にコルベールが足を運ぶ。
手には彼女達の食事を乗せたトレイ。
自分の生徒に捕虜同然の生活をさせるのは心苦しい。
しかし、それ以外に方法はなかった。
本来ならコルベールがやるべき用事ではないが、
他に誰もいない状況で、しかも極秘となれば彼かロングビルしかいない。
それを率先して彼は引き受けた。
少しでも彼女達の不安を取り除きたいという配慮であった。
しかし、部屋を目前にして彼の足は止まった。
刹那、彼の手より滑り落ちるトレイ。
皿の割れる音が合唱の如く響き渡り、料理が残骸と化していく。
しかし、そのような物は目前の事態に比べれば些細な事に過ぎない。

「た、大変だ…」
キュルケの部屋の扉は完全に失われていた。
扉があるべき場所には焼け焦げた炭の跡。
僅かに残った火種から煙が燻っている。
そして隣のギーシュの部屋は壁がごっそり崩れ落ちていた。
室内に二人の姿は見当たらなかった。
コルベール達は大きな見落としをしていたのだ。
杖を取り上げればメイジは無力、その思い込みが命取りだった。
メイジには魔法以外に平民には無い力がもう一つ残されている。
それは自身の半身である使い魔。
キュルケはサラマンダー、そしてギーシュはジャイアントモール。
どちらも内壁や扉など物ともしない力を持っている。
となれば答えは一つ。
「だ、脱走だァァーーー!!」
コルベールの叫びがほぼ無人と化した学院に虚しく響き渡った。

361ゼロいぬっ!:2007/10/05(金) 21:24:16 ID:D5yGqZ.o
以上、投下したッ!!
どなたか気付かれた方、代理投下をお願いします。
どうか気付いてください…これが最期のメッセージです…。

362ゼロいぬっ!:2007/10/07(日) 23:00:34 ID:OyLOu6u2
遅くなりましたが、投下してくれた方、ありがとうございます

363来訪者:2007/10/08(月) 02:48:15 ID:06Kcf9.g
なかなか規制が解除されないのでだれか頼む…

364ゼロの来訪者:2007/10/08(月) 02:49:24 ID:06Kcf9.g
旅籠から飛び立った2匹の竜、シルフィードとヴァリエール家所有の竜は、
一時間もしないうちに屋敷についた。もっとも屋敷と言うより、その威容は
城と呼ぶほうが相応しいものだったが。
「エレオノール姉さま、それにわたしの小さいルイズ、お帰りなさい!」
城の前庭に降り立ったルイズとエレオノールに、桃色がかったブロンドの、
ルイズと同じ髪の色をした女性が駆け寄る。
「カトレア」
「ちい姉さま!」
顔を輝かせ、ルイズがその女性の胸に飛び込む。
「あらルイズ、暫く見ない間に背が伸びた?」
「はい!ちいねえさま!」
「私には全然かわってないように見えるけど…」
そうは言うが、嬉しそうに抱きあう二人に、エレオノールの顔が弛む。
「ねえ…ひょっとしてあの人も、ルイズのお姉さんなのかしら」
エレオノールとルイズのやり取りの時以上に、唖然とした顔をするキュルケ。
「そうだろうね。あんなにそっくりなんだし」
「え〜どこが?」
「全然違うじゃねえか相棒」
即座に否定される育郎であった。
「そ、そうかな?」
「そうだって。髪の毛の色は娘っ子と一緒だが、顔つきが全然違うじゃねえか。
 例えると娘っ子は針。金髪の姉ちゃんは槍。あの姉ちゃんは綿って所だな」
「あら、上手い事言うわね。他にも…ほら、アレ見てみなさいよ」
「アレ?」
キュルケはカトレアの胸を指差す。
そう、それはルイズとエレオノールとは明らかに違っていた。
あるのだ!
いや、あるだけではない!
ボリューム満点なのだ!
「ありえねーよなー」
「ありえないわよねえ?」

365ゼロの来訪者:2007/10/08(月) 02:50:20 ID:06Kcf9.g
「いや、そんなところで判断するのは…
 そうだ!タバサはどう思う?似てると思うだろ?」
シルフィードに、召使の言う事を聞くように言い聞かせていたタバサに、意見を
求める育郎。タバサは杖をカトレアに向け、ゆっくりと口を開いた。
「突然変異」
杖の先は、しっかりとカトレアの胸を指し示している。
「いや、胸じゃなくて…」
ルイズと抱き合っていたカトレアが、騒ぐ育郎達に気付く。
「あらあら、私ったら…ルイズ、お友達も連れて来たのね?」
「いえ、一人かってについてきたのがいます」
「もう、恥ずかしがらなくてもいいのに」
そう言って育郎達に駆け寄り、礼をする。
「わたくし、ルイズの姉のカトレアと申します」
「あ、どうも。橋沢育郎といいます」
「デルフリンガーさまだ」
「………タバサ」
最後にキュルケが、エレオノールの時と同じように、馬鹿丁寧な礼をした。
「これはこれはご丁寧に。ルイズの『友達』のキュルケ・アウグスタ・
 フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストーと申します」
「まあ!ツェルプストーですって?」
口に手を当てて、目を丸くしているカトレアに満足するキュルケ。しかし、次の
瞬間予想外の言葉が飛び出す。
「素敵ねルイズ!インテリジェンスソードだけじゃなくて、ツェルプストー家の
 人ともお友達だなんて!」
「ちょっとカトレア!?」
「ちいねえさま!私こんなと友達じゃないわ!そこのメーンとか言う剣も!」
詰め寄る姉妹を不思議そうな顔で見るカトレア。
「あら、どうして?お隣同士なんだから、仲良くなったほうが良いじゃない」
「そうですよね」
そう言って、カトレアの言葉に育郎が頷く。
「まあ、貴方もそう思う?」
「ええ、やっぱりいがみ合」
「「アンタは黙ってなさい!!」」
息ピッタリで育郎に怒鳴る姉妹であった。

366ゼロの来訪者:2007/10/08(月) 02:51:44 ID:06Kcf9.g

「ごめんなさいね。もうお姉さまもルイズも、せっかく来てくれたお医者様に…
 気を悪くしないでね?」
「いえ、いいんですよ。僕は気にしてませんから」
「ミス・ツェルプストーも」
「私も気にしてないわよ」
広場で一通り騒いだルイズ達は、カトレアの提案で、ヴァリエール公の部屋まで
彼女直々に案内される事になったのだ。
「別にキュルケに謝る事なんてないのに…」
「あら、だめよルイズ。わざわざこんな所まできてくれたんだから。
 お姉さまも、お客様に粗相なんて、恥ずかしいじゃないですか」
「…もういいわよ」
「二人とも、わかってくれて嬉しいわ」
姉妹達の返事に笑顔をみせたカトレアが、今度は振り返って育郎を見つめた。
「それにしても貴方…変わった服装ね、名前も変わってるし…あ、気を悪く
 しないでね。ひょっとして東方から来たの?」
「え?あ、はい」
「まあ、やっぱり!私東方から来た人を見るのは初めてなの!」
そう言って無邪気に笑うカトレアに連れられ、育郎の顔にも笑みが浮かぶ。
「ま、それはいいとして。そっちのお姉さんの婚約者…なんて名前だっけ?」
「バーガディシュさん…だったかな?」
「違う。チキンブロス」
そう答える育郎とタバサに、エレオノールが溜息をつく。
「…バーガンディ伯爵様よ。ていうかなによ、チキンブロスって?」
「………」

367ゼロの来訪者:2007/10/08(月) 02:54:14 ID:06Kcf9.g
「そうそう、その伯爵様は何処にいらっしゃるのかしら?
 よろしければ、ご紹介して欲しいのですけれど」
先程の幸せモードの時は気付かなかったが、キュルケが浮かべる笑みに
不振な何かを感じ、エレオノールは眉をひそめた。
「ひょっとして貴方、妙な事を考えてないでしょうね?」
「何をおっしゃっているか、よくわかりませんわ」
二人の間に飛び散る火花に、辺りの空気に緊張したものが張り詰めていく。
「あら、ツェルプストー家の悪名は我が家によ〜く伝わっているのよ?」
エレオノールの声音に、恐ろしい物を感じたルイズがキュルケを見ると、なんと
キュルケは楽しげに笑っているではないか。
ルイズはこの時、胸以外で始めてキュルケを凄いと思った。
「あら、残念…バーガンディ伯爵様はもう帰られましたわ」
「「へ?」」
カトレアの言葉に、張り詰めていた空気が一気に弛む。
「ど、どうして?」
「さあ…お父様とお話してから、すぐに出発なされたもので」
「な〜んだ、つまんないの」
キッ!っと鋭い目を向けるエレオノールに気付き、悪戯を見つかった子供のように
舌を出すキュルケだった。

368ゼロの来訪者:2007/10/08(月) 02:56:25 ID:06Kcf9.g

「東方…の医者か」
むぅ、と唸り、顎に手をやって考えるそぶりを見せるヴァリエール公爵。
それからルイズが連れて来た平民を見る。
珍しい黒髪と黒い瞳を持ち、これまた見たことのない珍しい服を着ている
その男はどうみてもまだまだ若造であり、さらには剣を背負っているため、
とてもとても腕の立つ医者には見えなかった。そんな者に娘を診せるなど…
とはいえ、かわいい末娘がなんとか呼び出した使い魔である。
娘を信じたい気持ちもあり、この怪しげな少年をどう扱うべきか決めかねていた。
「では、カトレアを頼みます」
「お、おいカリーヌ…」
自分の隣にいる桃色の髪の鋭い目つきの女性、公爵の最愛にして…とにかく最愛の
妻の言葉に、ヴァリエール公爵は困惑した顔をする。
「あなた、何を悩んでらっしゃるのですか?」
「むぅ…その、なんだ…」
娘の前で、その使い魔への不審を述べる事を躊躇い、思わず口ごもってしまう。
「多少珍しくとも、使い魔は使い魔。
 主の不利益になるような事を、するはずもありません」
『平民の使い魔は多少珍しいで済ませるような事だろうか?』と公爵は思ったが、
確かに妻の言う通りである。
「…そうだな。ルイズ、その男にカトレアの治療をさせなさい」
「は、はい!」

369ゼロの来訪者:2007/10/08(月) 02:57:43 ID:06Kcf9.g
「ああ、エレオノール。お前はここに残りなさい。少し話がある」
ルイズ達といっしょに、部屋を出て行こうとするエレオノールを呼び止める。
「わかりましたわ、お父様。ほらルイズ、貴方はさっさとお行きなさい」
ルイズ達が部屋から出て行くのを確認した後、公爵はどう話を切り出すか
しばらく悩んだ後、結局単刀直入に言う事にする。
「あー、バーガンディ伯爵だが…お前との婚約は解消するとの事だ」
一瞬静寂が訪れ、そしてすぐにエレオノールの困惑の声が部屋に響く。
「…ど、どういう事ですの?何故!?」
「落ち着きなさいエレオノール。あなた、無論伯爵から納得のいく説明は
 受けているのでしょうね?」
長女と妻の視線を受け、なんとも気まずくなりながらも、これも親の義務だと
自分を納得させる。
「もう限界…だそうだ」
「どういう意味ですか!?」
どうもこうもそういう意味なのだが…とは公爵は言えない。
「はぁ…まったく、あなたはそんなわけのわからない理由で、婚約解消を
 受け入れたのですか?」
だってかわいそうだったんだもん…等とは口が避けても言えない。
「そうですわお父様!納得がいくよう話してください!」
「そんな曖昧な理由で婚約解消を許されるだなんて、何を考えているんですか?」
妻と娘に詰め寄られ、やはり自分の判断は間違っていなかったと確信する
ヴァリエール公爵であった。

370来訪者:2007/10/08(月) 03:06:00 ID:06Kcf9.g
とりあえずここまで
いぬで吸血鬼娘の話が合ってびっくり
自分もやろうとしたが、もろもろの理由でやめた
やったらさぞかし育郎は沈み込んだ事だろう

さて次こそ本当に治療編だ

というわけで、この宇宙にいる何処かの誰かさん。代理投下を頼む!

371来訪者:2007/10/08(月) 15:13:50 ID:vfaGoo9c
投下確認。
ありがとうございました!

372ゼロのスネイク:2007/10/10(水) 21:57:14 ID:WrIOBjBA
さるです
代理投下お願いします

373ゼロのスネイク24/31:2007/10/10(水) 21:58:11 ID:WrIOBjBA
そしてキュルケとタバサの元へ到達したホワイトスネイクは、ルイズにしたものと同じ命令を二人に差し込む。
スデに二人は意識を失っていた。
後数秒でも遅れていたならば、二人の命は無かっただろう。
しかしこれで二人の命はもう1、2分は稼いだ。
あとは・・・ラング・ラングラーを倒すのみ。
そう決意し、ラングラーのほうへ振り向く。

そして振り向いた先には、驚愕に顔を歪めるラングラーがいた。

「バカな・・・真空の中で・・・何故・・・血を吹き出さねえ・・・・・・。
 ホワイトスネイク・・・テメー・・・一体・・・何を、しやがった・・・・・・」
「何ヲシタカ・・・カ。ソレヲ貴様ガ知ル必要ハナイナ。
 何故ナラ貴様ハココデ死ヌカラダ・・・ラング・ラングラー。
 貴様ノ無重力ノ能力ガ作リ出シタ真空デナ・・・・・・。」

そう言い終わるや否や、ラングラーに向けて突進するホワイトスネイク。

「テメーッ! オレが作った真空で、オレを攻撃する気かッ!」

ホワイトスネイクの目論見を理解したラングラーは、すかさず後方に下がる。
だがすぐに壁に背がぶつかる。
もう後ろには下がれない。
正面から迫るホワイトスネイクは、自分を真空の範囲に捉えるまであと数歩の位置。
ならば――

「ジャンピン・ジャック・フラァァァッシュッ!!」

咆哮とともにJJFがラングラーの正面に回りこむ。
そしてコンマ数秒単位で腕を構え、ホワイトスネイクへと向けるッ!

「くらえッ!!」

ドンドン!

そして、その腕から鉄クズを撃ち放つ。
だが狙いは甘かった。
大半はホワイトスネイクに当たらず、その周囲へと逸れていった。
ラングラーがホワイトスネイクに抱いた恐怖が、その照準を正確なものにしなかったのだ。

だが、3つ。
それだけの数の鉄クズは、ホワイトスネイクへと向かった。
しかもその全てが、ホワイトスネイクへの直撃コース。
だがホワイトスネイクは避けようともしない。
自分を敵の弾丸が貫くのを承知で、真正面からラングラーのいる方向へと突っ込むッ!

ドシュシュッ!

そしてホワイトスネイクの胴体を、3つの鉄クズが撃ち貫く。
ホワイトスネイクの、膝が落ちる。
勝った、とラングラーは感じた。

374ゼロのスネイク25/31:2007/10/10(水) 21:59:24 ID:WrIOBjBA
だが、ホワイトスネイクは止まらなかった。
落ちかけた膝を無理やり引き上げ、床を蹴り、レスラーがタックルをかけるように、ラングラーへと襲い掛かるッ!
ホワイトスネイクはスタンドである。
そして今のホワイトスネイクは、本体の状態に一切左右されないスタンドであるッ!
そのため人間ならば致命傷の攻撃でも、まだ十分に活動可能ッ!

「バカなッ! こいつ、何故止まらないッ!?」

それを知らないラングラーは驚愕のままにタックルをモロに食らい、壁にたたきつけられる。
JJFで防御する余裕すらなかった。
そして、真空の範囲にラングラーが入った。
真空が、ラングラーに襲い掛かるッ!

「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

時間の経過のために、より強力になった真空がラングラーを襲う。
そして、ラングラーの体の組織を次々と破壊してゆくッ!

(マ・・・マズイ・・・ぞ・・・・・。このままじゃあ・・・オレが・・・ヤバイッ!
 壁に押さえつけられた・・・この体勢じゃあ・・・逃げられねえッ! くッ・・・こうなったらッ!!)

375ゼロのスネイク26/31:2007/10/10(水) 22:00:24 ID:WrIOBjBA
完全に追い詰められた状況ッ!
そしてラングラーが、そこから脱出を図るッ!

「ジャンピン・ジャック・フラッシューーーーーーーーッ!」

ラングラーの絶叫とともに、JJFが部屋の壁に拳のラッシュを叩き込むッ!
追い詰められ、生きることへとしがみつこうとする精神によって昂ぶり強化された拳は、
壁を一瞬にしてベコベコに破壊し、そしてひび割れさせていくッ!

そしてラッシュが始まってから一秒経ったか経たないか、それだけの時間で、壁に大穴が空いた。
そこにラングラーは這いずるようにして逃げ込む。
ホワイトスネイクはそれを上から押さえつける。
だがダメージのためにホワイトスネイクはフルパワーを発揮できない。
反対に極限状況のために暴走に近い強化を受けたJJFのパワーは強く、そして荒々しい。
そしてラングラーの体がルイズの部屋から、空中に放り出された。
この瞬間を、ラングラーは待っていた。

ジャンピン・ジャック・フラッシュ解除ォーーーーーーーーーーーーーッ!!」

ラングラーの絶叫とともに真空が解除されるッ!
そして周囲の気圧は突然正常に戻り、ホワイトスネイクとラングラーの身体は、
その周囲にあった真空地帯へ吹き込んだ風に、木の葉のように吹き飛ばされるッ!
ラングラーの身体は上空へ吹き飛ばされ、ホワイトスネイクの身体は地上へと、一気に叩き落されるッ!
しかしホワイトスネイクは抱きかかえる3人の身体を手放しはしないッ!
手放す前に、やらねばならないことがあるからだ。

(解除・・・ダトッ!? マズイゾッ! コノママデハ、外気圧ニマスタータチノ体ガ潰サレルッ! ソノ前ニッ!)

ホワイトスネイクは素早くルイズの頭部から命令のDISKを抜き取る。
そしてキュルケ、タバサの頭部からも命令のDISKを抜き取り、3人の体内気圧を正常に戻す。

だがまだ油断は出来ない。
地上が、眼前に迫っている。
今の加速した状態で地面に叩きつけられれば、並の人間はただではすまない。
ましてや今の状況では重傷を負った人間が二人もいるのだ。
ホワイトスネイクが手を離し、勢いのままに地面に激突したならば、間違いなく死ぬ。

ホワイトスネイクは何も持たない状態なら自由に空中を移動できる。
そして軽いものならば抱えたままで空中を移動できる。
だが今ホワイトスネイクが抱えるのは、三人の人間。
抱えたまま空中に留まるのは不可能だ。

そうである以上、着地はホワイトスネイクがやらねばならない。
しかしホワイトスネイクの両足はJJFの射撃でダメージを受けている。
着地の衝撃に耐えられるかどうかは怪しい。
出来るか。
ホワイトスネイクは現在の自分の状況に相談し、そして覚悟を決めた。

その直後、ホワイトスネイクは3人を抱えたまま、地面に着地した。
そして着地の衝撃がホワイトスネイクの両足を襲う。
無重力解除による風圧、そして人間3人分の重力が生んだ衝撃が、ホワイトスネイクの足をズタズタに破壊してゆく。
だがホワイトスネイクは膝を突かない。
膝を突かず、衝撃に耐え、着地したままの状態を保ち続ける。

そして、耐え切った。
そのことを実感すると、ホワイトスネイクは3人の身体をそっと地面に横たえた。

ホワイトスネイクの身体に新たな衝撃が走ったのは、その瞬間だった。

376ゼロのスネイク27/31:2007/10/10(水) 22:01:13 ID:WrIOBjBA
衝撃の発生源は腹部。
そこに目を向ける。
自分の腹部から、握り拳が突き出ているのが見えた。
そして、やられた、と思った。

JJFの拳が、背後からホワイトスネイクの身体を貫いていた。

空中に飛ばされたラングラーは、手足の吸盤で校舎の壁に張り付き、風圧に耐えていた。
そして耐え切ると、間髪いれずに空中からホワイトスネイクの背後に迫った。
落下の音、衝撃は吸盤で吸収し、ホワイトスネイクに気づかれることは無かった。
そして、あの一撃をホワイトスネイクに叩き込んだ。

ホワイトスネイクの膝が、がくりと落ちる。
もはや両足で立つこともできない。
そしてボロボロの両手では、手刀を使うことも出来ない。
ホワイトスネイクの身体は、もう戦える身体ではなかった。

「これで・・・テメーは・・・もう・・・戦えねえ。
 あとは・・・ガキを・・・頂いていく・・・だけだ。
 だが・・・・・・その前に・・・テメーは破壊する。
 オレを散々ナメてくれたテメーを・・・・・・生かしておく・・・つもりはねえッ!」

そう言いつつ、JJFの拳をホワイトスネイクの腹から引き抜くラングラー。
それと同時にホワイトスネイクの体が崩れ落ちる。
ダメージは、あまりにも大きかった。
これ以上戦えぬほどに、これ以上立つこともできぬほどに。

そして床に倒れこむホワイトスネイクの頭部に、ラングラーはJJFの拳の狙いを定める。

「これで終わりだッ! 今度こそ、ここで死ねッ!!」

そして、JJFの拳が、ホワイトスネイクの頭部へ振り下ろされる。

「勝ったッ!!」

ラングラーが今度こそ勝利を確信し、叫ぶ。

377ゼロのスネイク28/31:2007/10/10(水) 22:02:05 ID:WrIOBjBA
ドグシャアッ!

ドシュンッ!

直後、二つの音が交錯する。
JJFの拳がホワイトスネイクを破壊する音、そしてそれとは別の音が、校庭に響いた。
そして視界が真っ暗になる。
何だ? とラングラーは一瞬首を捻りかける。
捻りかけて、理解した。
自分の額に、あの忌々しいDISKが突き刺さっている。
そのDISKに目隠しされているのだ、と。

そしてそうだ。
「これ」はさっき見ていた。
これはホワイトスネイクが、あの三人のガキの頭から抜き取ったものだ。
ホワイトスネイクはこのDISKで、自分の真空から三人を守っていた。
しかし、だとしたらその効果は一体・・・。

「ソノDISKノ効果・・・教エテヤロウ」
「!!??」

バカな!?
何故ホワイトスネイクが生きている!?
ヤツの頭部は、自分のJJFで完全に破壊したハズ。
手ごたえも十分にあった!

・・・いや、本当にそうだったのか?
本当に、自分が破壊したのはヤツの頭部だったのか?
インパクトの瞬間、オレはヤツのDISKで目隠しされたんだ。
だとしたら、そのときに・・・まさか・・・・・・。

「『体内気圧を限りなくゼロに近いレベルまで、一気に低下させろ』・・・ダ。
 ソレデ何ガ起コルカ・・・・・・貴様ニハ・・・スグ分カル」

暗闇の中で、ホワイトスネイクがこちらの意思とは関係ナシに喋り続ける。
『体内気圧を限りなくゼロに近いレベルまで、一気に低下させろ』・・・だと?
・・・何だとッ!?
じゃあまさか、これからオレはッ!?

「感ヅイタヨウダナ・・・。貴様ノ体ハコレカラ・・・外気圧ニ潰サレテ、ペシャンコニナル。
 セイゼイソレマデノ間、残サレタ命ヲ楽シメ・・・・・・」

378ゼロのスネイク28/31:2007/10/10(水) 22:02:44 ID:WrIOBjBA
その言葉の直後、ラングラーの体に異変が起こる。
まず、息が出来なくなった。
正確には、肺から空気が一気に押し出されたッ!
そして破壊はさらに進行するッ!
ラングラーの体はあっという間に圧縮されていき、ラングラーの全身の穴という穴から血が噴出すッ!

「ガッ・・・ゴボ・・・・・・ガボ、ゴッ・・・・・・」

声にならない声を上げ、ラングラーが呻く。
呻きながらも、JJFに指示を出す。
自分をこんな目に合わせた奴らを、せめて一人でも道連れにするために・・・。

だが、それもすぐに止められた。
JJFの腕が、動かない。
ホワイトスネイクがJJFの両腕をガッチリと捕まえ、その腕輪の照準が三人の少女にそして自分へと向かぬよう、
そして照準が誰もいない上空へ向くように押さえ込むッ!

「ア・・・アガ・・・ゴバ、ガ・・・ガボバ・・・・・・」

しかしラングラーは止まらない。
JJFへの指示を止めはしない。
そして主人のダメージに従い、ボロボロとその身を崩壊させていくJJFは、主人の命令に忠実に、最後の足掻きを見せたッ!

ドドドドドドドドドドドドドドドドドドッ!!!!

それは戦いの序盤でホワイトスネイクに対して行った、マシンガンのような集中射撃。
JJFはそれが自分の最後の輝きであるかのように、ホワイトスネイクに押さえつけられたまま、上空に向かって撃ち続けた。
今までで最大の威力を持った、鉄クズの射撃だった。
撃ち放たれた無数の鉄クズはその大半が校舎に辺り、そしてそれらを抉り、無数のひびを入れた。
ゴーレムの一撃ですら破壊できなかった壁にさえ、目に見える形で損傷を与えた。

そして残弾が完全に尽きたのと同時に、ラング・ラングラーは全身の血を外気圧に絞り取られて絶命した。
ジャンピン・ジャック・フラッシュの姿は、もうその傍らには無かった。

379ゼロのスネイク30/31:2007/10/10(水) 22:05:11 ID:WrIOBjBA
「終ワッタ・・・・・・カ・・・・・・」

ラングラーが死んだのを確認し、ホワイトスネイクはそう呟いた。
そして周りを見回す。
見回して、ひどい有様だと思った。

周囲一体がラングラーの血で染まって真っ赤になっている。
ルイズ、キュルケ、タバサの三人も例外ではない。
全員の衣服が、血で真っ赤になっていた。
もっともキュルケとタバサの衣服は彼女達自身の血でスデに赤く染まっていたが。

(シカシ・・・マズイナ。今ノ私ハ、ホトンド行動不能。
 ソレニ助ケヲ呼ブコトモママナラナイ。
 マスターハマダ大丈夫ダガ・・・コノ二人ハ応急処置ガ必要ダ。
 クソッ・・・・・・ドウスル・・・・・・?)

自身も再起不能寸前でありながらも、冷静に状況を判断するホワイトスネイク。
その時――

「ルイズの使い魔君ッ! 君の命がけの行動、僕は敬意を表するッ!!」

バカみたいにでかくて、それでいて妙に気取った声が聞こえてきた。
どこか聞き覚えがあった声だ、と思いながらホワイトスネイクがそちらを見る。

「ちょっとギーシュ! あんた分かってるの? あいつはあなたを殺しかけたようなやつなのよ?」
「黙っていてくれモンモランシー。僕は今猛烈に感動しているんだ!」

声の主はやっぱりギーシュだった。
そしてその後ろから、モンモランシーがギーシュを引きとめようとしている。
しかしギーシュはそれを引きずるようにしてこっちにやってきた。

「・・・・・・何シニ来タ」

ジト目でギーシュを見ながら言うホワイトスネイク。

「そんなことを連れないことを言わないでくれ、使い魔君。
 僕は君の命がけの戦いの一部始終を見ていた。
 それで・・・感動したんだ!
 不届き者から三人のレディーを守り、満身創痍になりながらも勝利した君の姿に!
 そして実感したよ! 君と僕は似たもの同士だったんだ!
 君は一週間前のあの日、僕と決闘したろう?
 それが何故なのか、ずっと気になっていたんだ。
 でもそれが分かったよ! 君は君の主人であるルイズのために、レディーのために戦ったんだね!
 はっはっは! そんな神妙な顔をしないでくれ!
 何も言わずとも分かる! 君のその行動こそが君の精神のあkガボゴババゴボ・・・・・・」

延々と喋り捲っていたギーシュが、突然彼を包み込んだ水によって黙らされた。
やったのはモンモランシーである。
しかしギーシュもなんと言うか、相当にアレだ。
一週間前に自分を危うく殺すところだった相手にここまでフレンドリーになれてしまうとは。
お調子者というべきか、能天気というべきか、とにかく見ているこっちが心配になってくる感じだ。

そしてギーシュを黙らせたモンモランシーがその前に出て、じろりとホワイトスネイクをにらむ。
ホワイトスネイクも、それを正面から見返す。

380ゼロのスネイク31/31:2007/10/10(水) 22:06:58 ID:WrIOBjBA
「・・・あんたがギーシュに決闘でしたこと。私は忘れて無いわ。
 でも・・・・・・」

そういって、地面に横たわる三人に目を向けると、短くルーンを唱える。
すると、キュルケとタバサの傷が、溶けるようにして浅くなっていく。
水のメイジにしか使えない、「治癒」の魔法だ。
ホワイトスネイクは驚いてモンモランシーを見る。

「この三人がケガをしてるのは別の話よ。
 応急処置をしてくれる人を探してたんでしょ?
 ・・・だったら私がしてあげるわよ。
 この三人のケガはどれも致命傷じゃないし、水のラインメイジの私なら応急処置が出来る。
 ただ、キュルケとこの青髪の女の子は相当に弱ってるから、魔法厄での治療が必要になるけど。
 ・・・別に、あんたがしたことを許したわけじゃないんだからね。勘違いしないでよ」
「・・・覚エテオク」

ホワイトスネイクがそれだけ言うと、モンモランシーはぷい、とそっぽを向いてギーシュのほうへ戻っていった。
そのギーシュが、何やらゴボゴボ言っている。

「どうしたのよ、ギーシュ?」
「ばべ! ばべぼびべぐべぼ!」
「・・・何言ってるかわかんないわよ、ギーシュ」
「ばばらばればぼ! ぼぼばび! びびぼぶびぼごべば!」

モンモランシーの魔法で水攻めにされたまま、ギーシュが指を差しながら何か言っている。
だがモンモランシーには何が言いたいのかも何がしたいのかも全く理解できない。
かろうじて言いたいことが理解できたホワイトスネイクが、ギーシュが指差す先を見ると――

「・・・・・・何ダ、アレハ?」

そこには、全長30メイルは下らない、巨大なゴーレムがいた。


To Be Continued...

381ゼロのスネイク32/31:2007/10/10(水) 22:09:09 ID:WrIOBjBA
なんということだ・・・・・・投下が出来ない世界・・・・・・
お前は・・・投下を邪魔する「バイバイさるさん」

これで今日は終わりです
伏線というかそのあたりのものも山ほど残してしまってすいません
あとラングラーがやたら強かったりしたのは失敗だったかも
ちなみにルイズとホワイトスネイクの関係はまだ改善されてないので、次あたりにその話が入るかも

382ゼロのスネイク33/31:2007/10/10(水) 22:09:45 ID:WrIOBjBA
そして代理投下を「依頼した」ッ!

383ゼロのスネイク33/31:2007/10/10(水) 22:35:33 ID:WrIOBjBA
代理投下ありがとうございます

誤字が多いのは、あとでこちらで訂正します

384名無しさん:2007/10/10(水) 22:38:03 ID:Cbsq6mpU
乙じゅしたー
個人的にはまた以前のようなコミカルな話も見たかったりw

385名無しさん:2007/10/10(水) 22:39:16 ID:Cbsq6mpU
ああ、書き忘れた。「代理した」ッ

386名無しさん:2007/10/11(木) 00:10:03 ID:SPRia2MQ
>>384
フーケの一件が終わったあたりからまた見れるさ
今はシリアスじゃないといけない場面だからな

387アンリエッタ+康一:2007/10/25(木) 18:49:11 ID:5DkJdK06
ざわざわ、と煌びやかな広間に喧騒が広がっていた。
今は双月がその姿を見せる頃。
今晩の舞踏会の豪華な会場に負けず劣らぬ、身を着飾った貴族や麗人が顔を揃えている。
その誰もが程度の差はあれ、名を知られた著名人。

そんな人一倍は自尊心がありそうな者達が、今か今かと待ち構えるように、視線を前方の重厚な造りの扉に向けている。
来賓達が見つめる向こう。つまりは、今夜の主役が扉の先にいるという事に他ならない。
これだけの視線を一身に受け止めるというのは、苦痛だろうか、それとも快感なのであろうか?
それは人それぞれだろうが、今夜の主役はどちらでもなかった。


色々と神経を使うが、いつもと変わらない事だと割り切っている。
これが自分の仕事であると割り切り、それを全力でこなす事が国の大事なのだ。
だから、どうという事はない。これはただの義務なのだから。
それに。こんな事で根を上げたら、こんな自分を助けてくれる者達に申し訳がたたないではないか。

そんな考えが脳裏を交錯していき。彼女、アンリエッタは秘めた瞳を表に現す。
見開いた瞳がまず見た物は、広間の視線が集まる重厚な扉。
相変わらず収まらない喧騒が、目の前の扉越しに伝わってくる。
少々物思いにふけって時間が経過してしまったようだが、特に問題はなさそうだ。

普段は可憐で清楚な白のドレスを身に纏った彼女だが、今夜は多少グレードアップ。
今夜の為に新しく仕立てられた、白の色は変わらないが豪奢なフリル増量のドレス。
どちらかというと、可愛くても動きやすい服の方が好みのアンリエッタには少し着慣れない感覚がある。
もちろん着慣れないというのは、普段着ているドレスよりもという意味で、実際はそれほど大差ないが。

当然ながら姫としての教育を受けた彼女の着こなしは完璧で、文句のつけようなど何処にもありはしない。
見られる為に作られたドレスなのだから、着こなす側にも相応の教養が必要だからだ。
言い方は悪いが彼女は「鑑賞」される為に、これから海千山千の者達の元へと出向かねばならぬのである。

有力者や権力者というのは実際問題、悪事をはたらいて権力や財を成した者も多い。
今日の来賓の貴族の中には、人様には言いにくい事をしていると思しき者も多数在る。
そんな狐狸ども相手に御機嫌を伺わなければならないのは実に面倒な事である。
アンリエッタとしても城へ招きたくはないのだが、招かねば無用な軋轢を生む要因にもなろう。

それに中身はどうであれ、相手は国の中枢に食い込むような者達なのだ。
排除しようとすれば混乱が生じ、国は荒れる。表面上だけでも友好的な立場を取っておくことに越したことはない。
「つくづく嫌な世界だこと」
アンリエッタは軽い溜息混じりに呟いた。

388アンリエッタ+康一:2007/10/25(木) 18:49:47 ID:5DkJdK06
『えェ?何か言いましたか。アンリエッタさん?』
アンリエッタに届いた声。自身の使い魔である彼の声だ。
背後から聞こえてきた、その声に応えようと優雅に振り返るアンリエッタ。
「いいえ。何でもありませんわ、コーイチ……さん?」

彼女の最後の言葉は微妙に上ずったものとなった。
何故なら彼女の振り返って見た視界の中に、広瀬康一は何処にもいなかったから。
「あら。おかしい…ですね?」
声はあれども姿は見えず。確かに彼の声が後ろから聞こえてきたと思ったのだが。

狐につままれたようなアンリエッタだが、そんな彼女の肩に小さな衝撃。
「あはははッ」
咄嗟に振り返った彼女の見た先には面白そうに笑う、先ほど後ろから声を掛けてきた筈の康一であった。

そしてアンリエッタは笑ってる康一を見て、ハッと閃く。
「コーイチさん。あなた今のは音の能力で…!」
つまりはそういう事だ。さっき後ろから声を掛けてきたのは、康一のエコーズACT1が音の能力で発した声。
そして康一はアンリエッタが振り向いて気を取られてるスキに、彼女の背後に回りこんだという訳である。

そうと気付いたアンリエッタは唇を尖らせ、悔しそうな瞳で康一を見つめる。
女の子がそういう事をすると、何だか微妙に可愛らしいものだ。
アンリエッタ自身は怒っているつもりなのだろうが、その人目を引き付けるであろう麗しい顔立ちが余計に可愛らしさに拍車をかけている。
そんな無言で素敵な圧力に、康一は素直に頭を下げた。

「どうもスイマセンでした。ちょっと能力の実験してたんですけど、やり過ぎちゃいましたね」
そんな言い訳じみた事を話す康一の傍にはACT1が浮いている。
一応康一も意味もなくそういう事をやった訳ではない。
今夜の舞踏会の間、アンリエッタと連絡を取るためにACT1を配置しておくので、その実験を兼ねACT1で声を掛けたのだ。
もちろん悪戯心が無かったか、と聞かれると言葉に詰まるだろうが。

「もうっ!次は許しませんよ」
誤魔化し笑いをする康一に向かって、アンリエッタがちょっぴりだけ怒ったような声で言った。
「それはそーと、今日結構人来てるみたいですけど大丈夫ですか?
ACT1で広間の中を見てきたんですけど、大人の人ばっかりですよ」

389アンリエッタ+康一:2007/10/25(木) 18:50:34 ID:5DkJdK06
少し話題を変えるように、康一が広間の来賓達の様子を語る。
「あんまりアンリエッタさんと同い年位の人っていないんですね。
あーいう大人の世界っていうの、僕ちょっと苦手だなァ」

確かに今夜招待に応じた来賓達は、皆アンリエッタより年を重ねた者達ばかりだ。
「わたくしと同じ年齢の有力貴族の子弟の方達は、皆さん魔法学院で寮生活をしておられます。
学業に加えて社交の為、王城に出向くのまでは難しいのでしょう」
今晩の舞踏会は有力貴族などしか参加していない。そういう訳で自然と貴族の子弟などは少なくなってしまうのだ。

「やっぱりコッチの人も勉強するのは大変なんですねー」
康一は微妙に遠い目をして、過去に自分が受けたスパルタ教育の事を思い出した。
誘拐されてクイズ形式の料理を出され、危うく「石鹸」や「英単語カードのコーンフレーク」などを喰わされそうになったのはいい思い出、かもしれない。
そんな感じで毎日食事時には阿鼻叫喚な世界へと変貌する魔法学院を想像して、康一はブルリと背筋が寒くなった。

……嫌過ぎる。こんな想像はするモンじゃあない。
瞬時にACT3を脳内に発現してドス黒い想像を粉砕ッ!
更には臭い物には蓋を的な考えで、想像を3・FREEZEで脳内の奥底へと沈める。

「てゆーか、魔法学院ってもしかして相当レベル高い学校なんですね。
という事はもしかしてタバサさんも、この国の結構良いトコのお嬢さんって事ですか?」
貴族の中でも一握りの有力な貴族の子弟だけが通える学校となると、
そこに通っているタバサもまた有力貴族の出身という事になる。

あまりお互いの事を話したりとかした訳ではないが、確かにタバサも相当整った顔立ちだし、
寡黙だが知性のある的確な判断をしたり、高い魔法の技量を持つ優れたメイジである。
康一にはあまり貴族の能力の基準が分からないが、それを持ってしてもタバサは非情に傑出した女の子だと思う。
ならばトリステインの有名な貴族の出自であると思うのは当然だ。

だがアンリエッタの答えは康一の考えとはちょっと違った。
「いいえ、ミス・タバサはトリステインの方ではありません。
依然読んだオールド・オスマンからの紹介状によると、彼女は他国からの留学生だとありました。
それにタバサという名は人につける名前ではありません。恐らくは偽名でしょう」

390アンリエッタ+康一:2007/10/25(木) 18:51:26 ID:5DkJdK06
「偽名、なんですか?」
別に康一としては変な名前には聞こえないのだが、アンリエッタがそう言うのならそうなのだろう。
「留学生の身分でこのような事件に協力して下さるということは、それだけ色々と事情がおありなのでしょう。
あの歳で、あれほどメイジとしての技量を持つ方はそうおられません」

確かにタバサには色々事情があるのだろうと察する材料は余りある。
あの胆力にしろ魔法の技量にしろ、一朝一夕で得られるものではない。
数々の経験に裏打ちされた、名前や肩書きではない「実の力」を感じられた。

ともすれば何か裏があるのではと疑ってしまいそうになる、タバサの歳に見合わぬ力。
だがタバサはそんなチンケな些事を補って余りある正しい心を持っていた。
「他国の方とはいえ実力もそうですが、彼女の心持ちは素晴らしいものがあります。
一人の人間として敬意を払うに値する方だと、わたくしは考えますわ」

康一としてもタバサは年下の女の子であるが、そんな事に関係なく尊敬できる子だと思えるのは間違いない。
「でもタバサさんって外国の人だったんですね。何処の国の人なんだろう?」
このトリステインどころか、首都のトリスタニアの事さえ満足に知らない康一にとっては、
タバサがどんな国に住んでいたのかを想像する事もできない。

そんな康一の素朴な疑問の呟きに、アンリエッタは思う。
(確かにそこまではオスマン老も教えては下さらなかった。一体何処の国の出身なのでしょう?
でもそれは、いつかミス・タバサから直接聞けるのが一番いいですね。
彼女とは、とてもいいお友達になれそうだから)

あの青髪の小さな少女の顔を思い浮かべて、少しアンリエッタは微笑んだ。
そしてそんな二人の後ろから一人の足音。康一はその足音に気付いて振り向く。
つられてアンリエッタも振り向いて、そこにいたアニエスを見た。
「姫さま。枢機卿がそろそろ会場に出る準備を、と」

礼を取りながら、アニエスがマザリーニからの伝言を伝える。
「あら、もうそんな時間かしら。アニエス殿、枢機卿は今どちらに?」
「はっ。一足先に広間に出て姫様をお待ちしております」

391アンリエッタ+康一:2007/10/25(木) 18:52:05 ID:5DkJdK06
それはいけないと、アンリエッタはパッと最後に衣装を確認して、良しと一つ頷く。
「それではアニエス殿、コーイチさんの事はよろしくお願いします」
「かしこまりました」
アニエスはそう言ってから、康一に向かって微妙に一つニヤリ。

康一は、間違いなく扱き使う気だ…、と思ったがアンリエッタの前なので何も言わない。
そんな感じでアンリエッタは扉の前にスラリと立った。
扉越しに聞こえてくる呼び出しの声。

康一は手順の邪魔をしないように後ろへと下がった。
アンリエッタと康一が、互いに手を軽く振って離れる。
そして一際呼び出しの声が大きくなり、広間から盛大な拍手が鳴り響く。
同時にアンリエッタの前の重厚な扉が重々しく開き、彼女の為の道を作る。

絶え間なく迎えの拍手は鳴り響き、最早引き返す事はかなわない。
康一と話していた時よりも、ずっと引き締まった表情でアンリエッタは扉をくぐる。
優雅に歩くアンリエッタの後姿を見つめる康一だが、ゆっくりと扉が世を隔てるように閉じられた。

ズン、と重みの篭った音で閉まった扉を、更に何秒か康一は見つめる。
そしてもう見えなくなったアンリエッタの後ろ姿を思い出して、背を翻した。
不思議な感覚が康一の身を包む。何だか寂しいような、アンリエッタが心配なような。

僕ってこんなに心配性だったっけ?、と思う康一。
何だか…今夜は長くなりそうな予感がした。

392アンリエッタ+康一:2007/10/25(木) 18:57:15 ID:5DkJdK06
投下しようと思ったら規制喰らってました
どーいう理由で規制は実行されるのだろう、謎だ
どなたか代理投下していただけるとありがたいです

393名無しさん:2007/10/25(木) 19:48:03 ID:a0gqw2CA
俺もDION規制に引っかかった……orz

394名無しさん:2007/10/25(木) 22:51:01 ID:YT8K8EQY
>>392
本スレに『投下した』ッ!

395アンリエッタ+康一:2007/10/26(金) 00:52:14 ID:bJdkjWwQ
>>394代理投下ありがとうございました
何だか自分はこのスレの利用率が高い気がするので、本当に助かっています
しかし相変わらず、話の展開が遅い世界だ

396アンリエッタ+康一:2007/11/02(金) 13:07:10 ID:nOn2Y4Fk
広間に姿を現した姫を見て、来賓達は皆息を飲んだ。
衣装は今夜の為にあつらえた最高級の生地を使った一品で、しかしそんな衣装も彼女の引き立て役でしかない。
アンリエッタの体は奉公人達の手によって磨きぬかれ一点の曇りも無い、透くような美しさがある。
一国の姫として、清廉で潔白を体現したかのような姿を皆が見つめた。

視線が自身を貫くのを感じながら、アンリエッタは堂々と口上を述べる。
「お集まりの紳士淑女の皆様。まず今宵の舞踏会の誘いへのご参加に深く感謝いたします。
わたくしも皆様のお顔を拝見でき、とても嬉しく思っておりますわ」
ニコリとほころぶようにアンリエッタが笑った。

そんな彼女を聴衆となり静まり返った来賓達が見つめている。
「今宵は貴き者として始祖に感謝を捧げながら、歌い、踊り、語り合いましょう。
皆様方……ごゆるりと存分にお楽しみくださいまし」

そう口上を締めくくると同時に響き渡るファンファーレ。
高々と響く金管楽器の音色に加え、更に繊細な音色の弦楽器やリズムの心地良い打楽器が音を奏でる。
来賓からは惜しみない拍手が送られ、それさえもが音に深みを与える。
かくして今宵の舞踏会は合奏曲を合図として幕が上がった。


「おおォーーー」
感心したような、驚いたような声で康一が唸った。
今康一はACT1を広間に向かわせ、上空からアンリエッタの口上を眺めていた。
康一は公式的な行事に出席するアンリエッタは初めて見る。

十日と少々前にアンリエッタの暗殺未遂事件が起きたので、そのような公務は安全の為に極力組まれていなかったからだ。
人の多いところへ出向くなど狙ってくれと言っているも同然。
そのため事件からずっとアンリエッタは城に篭りっぱなしだったのである。

だが今回は城の中、更に毎年行う舞踏会という事で公務に組み込まれたのだった。
当然ながら普段以上に警備は厳重であるし、各所に魔法衛士隊の隊員や平民の衛士が眼光を向けている。
そして康一も多分に漏れず隣のアニエスと警備に回っているのであった。
しかし康一はエコーズの射程距離と、アンリエッタの使い魔である故に微妙に自由な立場にある。

基本的には射程距離50mを保ちつつ、広間の周辺を自分の判断で回る。
しかしこんな仕事は基本的に素人の康一にできるはずもなく、回る場所などはアニエスに任せっぱなしだ。
そもそも見回る箇所も衛士が見張っているので効果は定かではない。
だが康一に求められているのは、アンリエッタの身の安全という唯一点なので特に問題は無いらしい(とアニエスが言った)。

397アンリエッタ+康一:2007/11/02(金) 13:07:57 ID:nOn2Y4Fk
「しっかし豪華ですよねー。幾ら掛かってるんだろう」
少し呆れが混じりながら康一は言った
「わたしには縁の無い世界の話だな。そんな事を考えるより明日の生活だぞ」
全くもって健全で、庶民的感覚な物言いのアニエス。

現在地は広間から25m程離れた廊下。
康一とアニエスは二人並んで見回りをしていた。
アニエスは一つ一つ空き部屋や死角になりそうな物陰をその目でチェックしている。
一応適当に康一はACT1をそこらに飛ばして、視覚や超音波での探査などもしてみてはいるが怪しいモノはまるでない。

「何か本当に何事もないですね。いえ、別にその方がいいんですけど」
「おいコーイチ。完全に気を張っていろと言うつもりはないが、一応最低限は気を抜くなよ」
「そーですよね。気を抜くと酷い目に合いますよねェ…」
康一は自分のせいで、人を酷い目に「合わせてしまった」恐ろしき殺人鬼の爆弾戦車との戦いを思い出して言った。

完全に気を抜いてしまうと予想もしない出来事に対応できない事は間々ある。
兵士や戦いに生きる者は避けようのない出来事で、死ぬ時は死ぬだろう。
だが死ななくて済む時に死んでしまうのはバカのする事だ。
康一はアンリエッタからの、いわば預かり者であるので任務中に死ねばアニエスの責任にもなる。

もちろん責任がどうとかより、目の前で人に死なれるのは気分の良い事ではないという理由もあるが、
微妙に実感が篭った康一の言葉に、アニエスはこの分なら問題は無いかと思った。
そんな事を考えながらアニエスがまた一つ部屋のドアノブを引いて開く。

「これは…」
そこは窓も無く薄暗く殺風景で、前面がガラス張りのとても大きな棚が一つ置いてあるだけの部屋であった。
部屋の入り口から棚に向かいやすいようにしているからなのか、棚は入り口の真正面に置いてある
それ故に入り口からでも、棚の中に何かが収められているのが見えた。

アニエスと康一は見回りの任についているので、当然ながら入室して棚の中を覗いてみる。
「何でしょう、結構たくさん大きなビンがありますけど?」
康一が不思議そうに、棚の中のラベルの付いたビンを見つめて言った。
「…ああ、これはワインだな」

398アンリエッタ+康一:2007/11/02(金) 13:08:50 ID:nOn2Y4Fk
ラベルの文字を読み取ったアニエスがそう呟いた。
「恐らく今夜の舞踏会用のワインを、この広間から近いワインセラーに一時的に置いてあるんだろう。
ワインの貯蔵庫は城の地下室にあるから、一々取りに行くのは面倒だしな。
それに以前姫さまから聞いた話だが、ワインセラー自体も色々と魔法の掛かった最高級の一品で、
ワインを入れておけば飲むのに最適な状態にしてくれるらしい。使わん手はないのだろう」

それ、とアニエスが指差すその先に、康一が数日前に飲んだシャンパンが保管されていた。
「あー、そーいえばこのワイン。今夜の舞踏会に出すって言ってましたっけ。
皆で二本飲みましたけど、二本目をマザリーニさんが開けるのちょっと失敗して大変でしたよね」
「そんな事もあったな。それにもう何本かは広間にも出されているだろう。この部屋も問題なさそうだ。さっさと別の場所へ行くぞ」

踵を返して本当に置いていこうとするアニエスを、康一はバタバタと慌てて追いかけた。
そしてドアをガチャリと開け、アニエスが廊下に出て康一も続く。
更に当然ながらドアを開けたなら、今度は閉めなければならない。
それをアニエスは行おうと腕に少し力を込めたところで声がした。

「ちょっと、そこのあなた達」
少々キーの高い声。一声聞いただけでも女性の声と分かる。
反射的にアニエスと康一は声のした方へ顔を向けた。

まず康一の目に入ったのは金の輝きだった。
正確には金のブロンド髪が、揺らめくランプの明かりを受けた幻の如き輝き。
金色が髪の毛だと気付いたと同時に相手の顔も見えた。
まず眼鏡。そして眼鏡の奥にある少々キツイ印象を与える吊り目。

顔立ちは可愛らしいと言うより、凛々しく美しいと言わしめんばかりの気品が漂う。
服飾も美しいベージュ色のパーティードレス。
その全身から溢れるような威圧感ともいえる雰囲気は、彼女がまさしく貴族であることを物語っていた。
「あなた達、わたくしが問いかけているのです。返事ぐらいすぐに返しなさい」

鋭い眼光が康一とアニエスを容赦なく貫いた。
表情には出ていないようだが、彼女の眼光は秒を重ねるごとに研ぎ澄まされていく。
アニエスはこれ以上相手を刺激するのは不味いと考え、すぐさま貴族への言葉遣いで話し始める。

399アンリエッタ+康一:2007/11/02(金) 13:09:36 ID:nOn2Y4Fk
「失礼いたしましたっ。何でしょうか?」
「まぁ…いいでしょう。あなた達に聞きたい事があるわ。舞踏会はもう始まっているの?」
頭を下げて問いかけたアニエスにつられて、康一も頭を下げてみる。
そんな二人を本当に心からどうでもよさそうに見つめ、彼女は高圧的な口調で聞いた。

舞踏会。康一はそういえばこの人ドレスを着ているな、と思った。
つまり彼女は舞踏会に出席する為に城へ来た者だと考えられる。
しかし会場となる広間から少し離れた廊下を舞踏会が始まったのに歩いているという事は、開始に間に合わなかったという事だろう。
そんな事を指摘されればこの怖そうな彼女は烈火の如く怒るであろうが。

アニエスはその辺りを加味して、慎重に言葉を選び答える。
「はっ。十数分前に姫さまが口上を述べられて始まっております」
アニエスは面をあげてキビキビと答えを述べた。ついでに康一も顔を上げた。

彼女はその言葉を聞くと一つ小さく、ふぅと溜息を漏らす。
「そう、分かったわ。もう用は無いから何処へとでも行きなさい」
そう言い放って、彼女は康一達が来た広間の方へ向かって去って行った。

彼女が廊下の角を曲がり視界から消えるまで、アニエスと康一は硬直したままであった。
そして視界から金色の髪の毛が消えると同時に、一気に体から力が抜ける。
「はぁーーー…かなりキツかったな」
先ほどの彼女とは比較にならない溜息をついてアニエスが呟く。

「えぇ……フツーに反則ですよね」
かなり強烈な彼女に康一は結構精神的に疲れた。貴族という人達にはああいう人もいるのか、と改めて思う。
さすがに山岸由花子に誘拐された時に比べれば、直接的な危険が無かった分大丈夫だったが、やはり怖いものは怖い。
何となく康一とアニエスは友情を育んでしまったような気がした。

身長差がある二人が、見上げ見下ろして、見つめ合う。
「……行くか」
「…そうですね」
微妙に煤けた背中の二人は廊下を歩き出し仕事に戻った。

400アンリエッタ+康一:2007/11/02(金) 13:17:20 ID:nOn2Y4Fk
二回連続避難所投下です、早く規制解除されないかなぁ…
今回も申し訳ありませんが、どなたか代理投下していただけないでしょうか?
どうぞよろしくお願いします

それと話が変わるのですが、Wikipediaのゼロの使い魔用語一覧を見て気が付いたのですが、
アンリエッタの杖の名前が「水晶の杖」ということで載っていたのです
自分は名前は知らなかったもので原作のどの部分に載っているのかどなたか情報をいただけないでしょうか?

代理投下してもらえる方はこの文章もスレに載せていただけるとありがたいです

401ゼロの方の兄貴:2007/11/18(日) 19:47:41 ID:S0RQyqQs
ああ…次はサルさんだ…

「あいつらはどうした?」
「もう行ったわ。この子みたいに何時までも籠の中の鳥じゃないって事ね」
その視線の先には籠の中で包帯を巻かれていたつぐみだ。
笑みを浮かべながら中に手を伸ばすと、つぐみが手の上に乗った。
包帯を外されたつぐみを、ものスゴク輝いた目で猫草が凝視していたので布を被せたが
そうしていると、カトレアが窓から手を出し2〜3語りかけると、空へと飛び立って行った。
布を被せるのが少し遅れていたら、潰れたつぐみを食べる猫草という、少しばかり精神的外傷を残しそうな光景になっていたので間に合ってなによりだ。

「それじゃあオレも行くか。面倒かけたな」
「ええ。あなたにも、始祖のご加護がありますように」
例の鋭い勘によって出て行く事を分かっていたようで、特に驚きもされなかったが。
「ああ、言い忘れたが、ファッツ(大蛇)は最近食いすぎだ、控えさせろ。チャリオッツ(虎)の毛並みが最近悪いから、一度診て貰った方がいい。それから…」
今まで仕事で世話してきた危険動物達だが、状態はしっかり把握している。
仕事の内容に関しては手を抜いたつもりは無い。
そして、続きを言おうとすると、笑いながらカトレアに止められた。
「やっぱり、あなたの方が上ね。この子達の事はもういいから、代わりにルイズと、その騎士殿の事をお願いするわ」
そうすると、少しばかり真剣な目でカトレアがプロシュートを見つめた。

「あの子、ワルド子爵の件ではもう落ち込んだりしてなかったけど
  また、あの子の居場所が無くなったら取り返しが付かなくなるような気がするの。だから…」
「あー、分かった、分かった。見れるとこでならオレのやり方で両方纏めて面倒見てやんよ」
無論、本気で見れる範囲内の事でだ。手の届かない場所の事は知った事ではないし
守るよりも攻めを得意とするので、クロムウェル暗殺をやらんといかんなと一層思う。
頭を潰せばどんな生き物でも死に至る。それが例え組織でもだ。
レコン・キスタやパッショーネのような新興組織なら、なおさら頭を潰された時の混乱は大きい。
その隙を付いて麻薬ルートを乗っ取ろうとしただけに現実味がある。

402ゼロの方の兄貴:2007/11/18(日) 19:49:24 ID:S0RQyqQs
「ったく…にしても人の事心配できる立場じゃねぇだろうが」
本来なら、カトレア自身が身体の弱さから心配される立場だ。
「いいのよ。あの子には先がある。私と違ってね」
そう言って目を閉じたカトレアだったが、それを聞いたプロシュートがカトレアの頭を一発叩いた。
「病人に言いたかねーし、やりたくもないんだが、この際だ。ついでに言わせて貰うぜ。
  誰がオメーに先が無いって決めた。医者か?他人に言われて限界決めてんじゃねぇ。どうせなら最後まで足掻いてみろよ」
出来て当然と思い込む。
精神そのものを具現化するスタンド使いにとって大事な事だが、非スタンド使いにも言える事だ。
病は気からという諺もある。
やりもしないでハナっから投げ出すというのは、この男の最も嫌うところである。

しばらく呆然として俯いていたカトレアだったが、いつもと変わらない笑みを浮かべ顔を上げた。
「そうね。見てるだけじゃなくて私も…」
そこまで言ってプロシュートの姿が無い事に気付いた。
寝ている猫草に向けて杖を振ると、鉢が浮きカトレアの腕の中に納まる。
相変わらず、気にした様子も無くゴロゴロと音を立てている猫草を見てカトレアが決めた。
今度、この動けない猫草を自分が連れて街へ出てみようと。
やれるやれないは関係無い。そう思うだけでも十分だった。

プロシュート兄貴―無職!
エレオノール姉様―『未』覚醒!
猫草―ヴァリエール家に根を張る

投下したッ!
サル喰らうまで支援が無いとは…皆飯を食ってるのか
それとも完全スルーなのか…ああ!そうさ!露伴先生のような気分さ!

403アンリエッタ+康一:2007/11/24(土) 03:06:33 ID:uU8zJoy.
「ぅう…これは、一体…コーイチ殿?」
「状況は凄くヤバイ感じみたいですよ、マザリーニさんッ」
助け起こされたマザリーニが見た物は、赤の勢力。
触れれば火傷する、燃え盛る火炎であった。

火炎。火。それはメイジの四系統の一。
つまり先ほどの球体は火炎の球弾。「ファイヤーボール」か「フレイムボール」だろうか。
火は高価そうな絨毯に引火してパチパチと更に燃え盛っている。
その音はヤケに小気味良く、スッと耳にしみ込んだ。

そこまでマザリーニは考えた所でバッと背後を振り向いた。
普段夜は薄暗い廊下だが、燃える炎のお陰で明かりには苦労しない。
揺れる炎の明かりによって映し出される人影。
その数は三。

人影が身に着けている衣服はボロボロであちこちが引き裂かれている。
その裂けた衣服から覗く肌もまたボロボロだ。
至る所にある、赤く腫れ上がったミミズ腫れがとても痛々しい。
しかしマザリーニの頭に最初に浮かんだのは、別の事だ。

それは「こやつ等の衣服は何処かで見たような?」という考え。
芋蔓式に手繰り寄せられた記憶の糸は、即座にマザリーニにこいつ等が誰であるのかを告げた。
「まさか…貴様等、抜け出しおったのか…!」
マザリーニが言った「抜け出す」という言葉で、康一もハッと閃く。

その人影達の顔は前に一度見た。そしてその時もこんな修羅場が繰り広げられていた筈。
コイツ等の顔はまさしく、あの新月の晩に戦った者達。
この城の地下牢にブチ込まれている筈の三人のメイジ達が、表情の無い幽鬼が二人を静かに見つめていた。

僅かな沈黙があっただろうか。だが数瞬の沈黙は破られる。
その者達の内の一人が魔法の詠唱を開始したからだ。
反射的に康一はヤバイと感じてマザリーニを引きずり、未だ炎が燃える曲がり角に向かって走り出す。
しかし魔法から逃れられるほどには動きは素早くない。

404アンリエッタ+康一:2007/11/24(土) 03:07:42 ID:uU8zJoy.
詠唱が完成。開放された魔法は氷の矢へと変換され、康一とマザリーニの背後から迫る。
氷の矢は、皮を裂いて肉を貫く。容赦などありえない魔法が二人を襲ったッ!
「エコーズACT3ッ!」
康一は咄嗟にACT3を発現して、その拳と体の面積での防御を試みる。

唸る連弾の拳撃ッ。超人的なパワーの篭った拳はいとも容易く氷の矢を砕くッ!
しかしこの距離で同時に降り注ぐ、全ての氷の矢を破壊出来るほどのスピードはACT3には無い。
当然ながら防御できる範囲には限りがあり、その範囲外の攻撃は二人に到達するッ!

「うぐぅッ!」「ヌおぉッ!」
到達した氷の矢は二人を簡単に引き裂く。
しかし不幸中の幸いなのか、ACT3が二人を体で庇ったお陰で致命傷となる傷は無い。
その為、何とか走ることは可能。逃走は続行できる。

そして二人は燃える絨毯の上を転がるように飛び越し、曲がり角を曲がれた事で敵の視界から姿を消した。
視界に入っていない対象に魔法を掛けるのは難しい。
文字通り、火事場の馬鹿力。これで一旦追撃を逃れる事に康一とマザリーニは成功した訳だ。
しかし当然だが、黙って二人を逃がすほどコイツ等は甘くは無い。

三人は表情を一片たりとも変えずに追撃を開始する。
そう、一片たりとも変わらない。その表情にも、瞳にも、感情は無い。光は無い。
まるで生気を感じさせない三人は、それぞれ同時に走る。チープだが、まるでそれは機械の在り様。

ただ手に持った杖だけが、生きている事を証明するかのように輝いた。

405アンリエッタ+康一:2007/11/24(土) 03:10:20 ID:uU8zJoy.
避難所投下が続くこの頃…しかし投下中に規制を喰らうというのは初めてです
もしかしてこれがサルというものなのでしょうか?
申し訳ありません、どなたか夜遅いですが代理投下をお願いします
自分にはこれが精一杯なのです……

406使い魔は引き籠り:2007/11/26(月) 01:25:42 ID:qr1NjDzE
スレの方いけなくて申し訳ない。

407使い魔は引き籠り:2007/11/26(月) 01:26:50 ID:qr1NjDzE
「うわー、浮いた!」
「浮いてるんじゃないんだ、スタンドが手にとって持ち上げてるだけで」
「詠唱無しで浮かせられるのかい?なんでも?!」
「話を聞け!無視するな!」
『何も物が動かない』世界そのものよりも、ただ『物が動く』だけに酷く興味を示すギーシュ。
否、ただ動かすだけなら彼にだって出来るのだろう、ただその物体が
どの方向へ、何のためにだとか言う秩序を持たずふわりと浮き上がったのが面白いらしい。
オレはマン・イン・ザ・ミラーに『そこの造花を手に取れ』と命じただけで、
それをその後どうしろだとかは特に注文をつけていなかった。
マン・イン・ザ・ミラーは造花を手に取り注意深く覗き込んだ後、それに向かって手を伸ばしたギーシュから
ひょいと造花を遠ざけて、暫く手を止めた後に俺の傍らに置いた。

「その『スタンド』っていうのは、魔法が意思を持ったようなものかい?」
「さあ?意思があるかは良くわからない。見るからに自由意志を持ってべらべら喋る奴もいるし、
本体の意思をそのまま口に出しているだけの奴もいる。分身みたいに動くんだ。
逆に意思なんて持ちようも無い形をしてるのもある。本体の言う事を聞くのだけは確かかと思ったら、そうで無い奴もいる。」
「結局何なんだい?」
「さあ。オレが知りたいくらいだ。」
ギーシュはマン・イン・ザ・ミラーを目で追う。と言っても、『ここに居るんじゃあないか』と推測して見ているだけだから
どうもずれた場所を凝視していて、『マン・イン・ザ・ミラー』の方からギーシュの視線にあわせて動いた。
「使い魔と魔法をごったにしたみたいだ」
「『使い魔』ね・・・・そんな感じもするな。それで」

魔法の方は見せてくれないのか?というと、杖を手に取らなければ無理だと返ってきた。
なんと面倒くさい。鏡が無けりゃ何も出来ないと少し自信喪失していたが、それも吹っ飛ぶようだった。
そんな明確すぎる弱点をぶら下げてメイジって奴らは何故平気な顔をしているんだ?
『マン・イン・ザ・ミラー』のがずっとマシだ。鏡が無くてもぶん殴れるからな。

「じゃあ、ちょっと『マン・イン・ザ・ミラー』、洗面所までもってって・・・・よし、『許可』しろ。これでどうだ?」
ふわふわと鏡の前から返ってきた造花は、なんとなく冷え切っていた先ほどとは違って
造花なりに生き生きと色を取り戻していた。
「おお、触れるようになってる。」
「外のそいつを鏡の中に持ってきたんだ。そいつは『本物』だ。」
「さっきのは?」
「『鏡に映った造花』だから、外側だけだな。見た目以上の意味はもって無いから、電化製品なんかは許可しないと動かない」
「デンカ・・・・?何?」
「気にするな、ほら」
何かやって見せろよ、と言うとギーシュは『錬金』を唱えて衣服のボタンを別の金属に変えた。

408使い魔は引き籠り:2007/11/26(月) 01:27:25 ID:qr1NjDzE
モンモランシーは、自分の頭がおかしくなったのかと思った。
無用心に開け放されたギーシュの部屋を覗いたところ、人っ子一人いないと言うのに
部屋中に転がるギーシュの私物が出たり消えたり浮いたり落ちたり、ポルターガイストだってもう少し大人しいだろうと言う
お祭り騒ぎが現在進行中なのだ。
(『鏡の中』で男二人が自分の特技を見せ合って、ギーシュが『青銅製の鏡』を作り出した辺りで
オレ達が組んだら結構強いんじゃあないか?とテンションを上げているのをモンモランシーは知らない。)
「どうしたの?モンモランシー。中へ入らないの?」
「ルイズ・・・・」

イルーゾォ捜索は、まだ続いていた。『犯人は現場に帰ってくる』という根拠の無い定説に基づき、
何故かモンモランシーを筆頭に少女四人はギーシュの部屋を訪れる。

タバサは『勝手に帰ってくる』と結論付けたものの、モンモランシーの方では自分の恋人を半殺しにした薄気味悪い使い魔を信用できなかったし、
ルイズだって「そう、じゃあ勝手に帰ってくるまで待つか」という訳にもいかなかった。
使い魔を自分の思い通りに出来ないんじゃあ当面『ゼロ』は払拭できそうに無いし、
それに、一人の人間として、きちんとイルーゾォの事を判りたい。そう思ったのだ。
「あたしもね、ダーリンと一対一で語らい合いたいわ。まだお互いの事を知らなさ過ぎるもの・・・・」
何故こうも意味合いが違って聞こえるのか知らないが、要するにキュルケもまた、待つだけなんか性に合わないのだ。
「放っておけばいいのに」
タバサだけが、少しイルーゾォに同情する調子で呟いた。

「ルイズ・・・・貴方も?その、部屋が変になってる。私だけじゃない?」
「・・・・・・・・っ!」
ルイズは、自分の頭がおか(ry
「な、何これ?!何が起こってるの?」
「『消失』・・・・」

タバサが、やはりそうかと言うように呟く。
「イルーゾォ、居る。ギーシュも・・・・ずっと居た。」

ルイズは思考を巡らす。
そもそも、イルーゾォが忽然と『消え』、再び『現れる』事は誰しもが知っていた。
目にとまるのはその『消え』『現れる』一瞬の事象ばかりで、『消えている』間一体何処に居るのだろうとか、そんな事は考えもしなかった・・・・
「透明になってるだけ、って事?」
「違う。透明になるだけなら、現れる必要は無い。ずっと透明で居るだけで安全・・・・」
タバサは言い終わらないうちに、手に持っていた本を思い切り投げた。
「何?!」
デスクから人一人分の余裕を持って引かれた椅子の上、『人が座っていて不思議じゃない』その場所をめがけ本は飛んで行き、
そして『叩き落とされた』。

「どんな仕組みかは、彼に聞けばいい。ルイズ、頑張って。」
タバサに背中を押される。ううん、やっぱり良くわからないけれど。私に何か出来る事があるの・・・・?

部屋に一歩足を踏み入れ、良くわからないうちに杖をぎゅっと握る。
何も無いはずの空間がぴりりと、私を警戒した。

409使い魔は引き籠り:2007/11/26(月) 01:27:55 ID:qr1NjDzE
「うわっ、何あれ?」
ギーシュが驚いたようにドアを指差す。
音も無く開いたドアから勢い良く分厚い本が飛んできた。
咄嗟に『マン・イン・ザ・ミラー』が叩き落とすが、軽率だったかもしれない。
堰を切ったように部屋中の小物が渦を巻いて暴れだし(まだ日中だぞ。ポルターガイストだってもうちょっと大人しいだろう)
『マン・イン・ザ・ミラー』はオレにぶつかりそうになる幾つかを忙しく叩き落とす。
「おいギーシュ!こりゃ何だ?さっきの『レビテーション』か?」
「いや、タバサの杖がある、多分風の魔法だと思う!部屋の中で風が起きてるんだ!!」
部屋に4本の杖が浮いている。一つは目に見えてメガネ女のものだとわかるが、残りは区別がつかない。
花瓶だの万年筆だのの直撃を食らって悲鳴を上げるギーシュを尻目に、
先ほど奴が作り出した鏡を『マン・イン・ザ・ミラー』が持って駆ける。
『外』では空中を落下する鏡に映る、一つだけ明らかにデカい杖に『マン・イン・ザ・ミラー』が手を伸ばす――――

「『マン・イン・ザ・ミラー』、杖を『許可』しろ!杖だけだ!」

やはりと言うか杖さえ取り上げれば異変は収まり、
しかしそれは『先ほどの旋風はオレにとって危険だった』と教えてしまったことにもなる。
それだけじゃない――――

空中で少女四人を睨み付けていた鏡が、破片も残さず弾け飛んだ。


ほら見たことか、嫌な予感がした!『ゼロ』の爆発はオレにとって危険なものだ!
多少砕けるならばむしろ有利なぐらいだが、『無くなってしまう』なら訳が違う。
鏡が無ければオレは無力だ!そして何より、たった今証明された・・・・『マン・イン・ザ・ミラー』と『爆発』、俊敏性と射程が段違いだッ!
このままじゃあ・・・・・・・・!
「ギーシュ!洗面台行――――」


瞬間、世界が裏返るような浮遊感と共に背景が瞬き、「やっぱり『鏡』に関係しているようね!」と勝ち誇った声が振ってくる。

ルイズだ――――やはり気づかれていた――――存外に恐ろしいぞ、『爆発』ってモノは。
この短時間に、『マン・イン・ザ・ミラー』の射程内の鏡を、片っ端から吹っ飛ばしたって言うのか?
(正確には、何も『爆発』で鏡を消失させずとも、初歩の錬金で一時的に鏡に成り得ない物質に変えればいいだけなのだ。
ギーシュの部屋以外には迷惑がかかるだろうと、キュルケ・タバサ両名が錬金をかけた。)

『鏡の世界』は勿論鏡が無ければ維持できず、射程内に鏡が無くなったせいで反転世界は霧散し放り出された先は『現実』だ。
こんな事態は初めてで、ぐにゃりと歪んだ空間を見たときは胃が裏返るかと思った。

「もう逃げようなんて考えない事ね!」
ルイズに杖を突きつけられて――――向けんな、頼むから。爆発したくない――――観念する他無いようだ。
絶対安全で最良のスタンド『マン・イン・ザ・ミラー』・・・・『魔法』なんてものの存在で、オレの取り戻しかけてた自信は見事粉砕されるハメになる。

410使い魔は引き籠り:2007/11/26(月) 01:33:01 ID:qr1NjDzE
①現実と鏡の世界で物体は同じように動く
②鏡の世界で物体を動かせるのはマンミラのみ
③引き込むにはマンミラが触れる必要あり
④衣服は身につけている者が『自分の体の一部』と思える範疇まで。
 ポケットの中身はおk、本やカバンは駄目。襟元でイガイガして気になる洋服のタグとかも駄目。
他に魔法については原作のパープルヘイズの時のイメージで
鏡の外で発生する『事にしてある』。注釈が多くてゴメン。

411ゼロのパーティ:2007/12/05(水) 02:50:09 ID:0fJY6Mrc
規制が解けないので、こっちに投下と。

412ゼロのパーティ:2007/12/05(水) 02:51:05 ID:0fJY6Mrc
その動きは鈍重なため、落ちて来るまでに身をかわす時間ぐらいはある。
しかし今のように全員が一カ所に固まっている状態では、いくら拳をかわしても、お菓子の周りに群がった蟻を潰すように手を振り回されれば、僕らもやられてしまうだろう。
だが、それでも僕は慌てるつもりはない。
なぜなら此方の方へ、竜に乗ったタバサが滑り込んでくるのが見えたからだ。
蟻を潰すのは難しく無いだろうが、蜂を潰すのは骨が折れる。
ましてあんな鈍重な動きでは、飛んでしまった僕らを捕らえるのは不可能だろう。
と、落ち着いて思考できる人間であれば、余り下手に走り出したりしない方がいいというのは認識できるだろう。
仮にパニックに陥っても、才人やルイズは先程の、僕のエメラルドスプラッシュを受けた所為で、走る事はまだ無理なはずだ。
となれば……心配なのはキュルケの方だが。

僕はキュルケの方へと視線をやる。
キュルケは落ち着いた様子で、身をかわし、タバサの方へと目線をやっていた。
先程の様子を見ている限りじゃあ、もっとあわてふためいていると思ったのだが、それだけタバサを信頼しているということだろうか。
そういう相手を持っていない僕には、其処の所ははっきりとは解らない。
っと、僕も早くここから退かなくては。

僕が身をかわして数瞬後、先程まで僕らがいた場所に、土で出来たゴーレムの拳が振り下ろされた。
足下が揺れ、芝の生えた土が派手にめくれる。

想像以上の衝撃が、身体に伝わる。
少し甘く見過ぎていたッ!
先程の怪我から、忘れていた痛みが身体をかける。

「ぐぅッ……!」

痛みに耐えかねて、膝が笑う。
だが、今へたり込むわけには行かないッ!
今へたり込めば、タバサに回収して貰うことは無理になってしまうッ!
竜の足は二本しかないのだ。

413ゼロのパーティ:2007/12/05(水) 02:51:43 ID:0fJY6Mrc
しかし、身体は言うことを聞かず、ついに膝からへたり込む。
立ち上がるにも、身体が痺れてすぐには立ち上がれない。
そして、既にタバサの竜は目の前まで来ていた。

マズイッ!?
僕は急いで足に力を込めるが、その行為は無駄に終わる。なぜなら、


「浮いているッ!?」


誰かが魔法を掛けたのか、僕の身体はふわりと宙に浮いていた。
そして見えない力に引っ張られるようにして、タバサの竜の上まで誘導される。
目の前にはタバサの背中。その右手には、相変わらず不釣り合いに大きな杖が握られている。
彼女が助けてくれたのだろうか?

「大丈夫かしら、ノリアキ?」

礼を言おうと、声を掛けようとした所で、逆に後ろから声を掛けられた。

「これでおあいこね」

声を掛けてきたのはキュルケだった。
そして彼女の右手にも同じように杖が握られている。
ということは、助けてくれたのはキュルケらしい。
僕は素直に礼を口にした。

「どうも、ありがとございます」
「そんなにかしこまらなくても良いわよ。ねぇ、タバサ?」

キュルケはそういって、タバサにウインクを送る。タバサはそれに軽く、示しを合わすように後ろを向いた。

推測するに、キュルケが僕に、タバサがキュルケに魔法を掛けて、ここまで誘導したのだろう。
そして竜の二本の足で、固まっていた才人とルイズをつかみ取る。
あの、僕が倒れて起きあがろうとする、一瞬の間に示しを合わせて、誰をどう助けるかを決めたのか。
どうやらこの二人の間には、僕が思っている以上に深いものがあるようだ。

414ゼロのパーティ:2007/12/05(水) 02:52:43 ID:0fJY6Mrc
と、タバサとキュルケがもう一度、杖をふるった。
それによって、才人とルイズが足から、竜の上へとあがってきた。

「ありがとな」
「あ、ありがとう」
「あ〜ら、ルイズがわたしに礼を言うなんて、明日は雨ね」
「ツェルプストー! あああたしがせっかく礼を………!」

あがってきた才人は一言、タバサへ礼を言う。それに対し、タバサは無言で頷いた。
ルイズの方は、怪我の所為で少し殊勝になったのか、呟くような声でキュルケに礼を言う、が、また、からかわれていつものペースで口論を始める。
広場の時なら兎も角、こんな狭い所でやるのは止めてくれ。6m程度のスペースしかなくてキツいんだ。
第一、今はそれどころじゃないだろう。

「高度を上げる。しっかり捕まって」

タバサの声と共に、景色がぐるりと回る。
ちゃんと座れるような感覚で背びれがついているので、振り落とされるということはないが、これは存分に気分が悪くなるッ!
御陰で口論をしていた二人も、あっさり静かになった。
しかも高度を上げると、ほぼ真上に向かって飛んでいる所為か、周りは雲ばかりで、いまいち自分の位置がつかめないッ!
記憶の中で落ちていく飛行機という感覚を味わったが、これはそれの逆バージョンッ!


と、唐突に顔に当たっていた風が無くなり、視界が安定をする。
どうやら安全な高度まで来たようだ。
大分上がっていたようだが、一体、今どのくらいの位置に居るんだ?
僕は竜から身を乗り出して、辺りを見回した。

正面には塔。
庭の位置からは相当に見づらい塔の頂点が目の前にあるので、100mぐらいの高さといった所か?
次に先程まで僕らのいた庭を見る。
ゴーレムは相変わらず其処にたたずんでいる。
その肩の上に乗っている人影は、辛うじて人間と解る程に小さく見える。此方を見上げているらしいのは解るが、それ以上は無理だ。
暫く此方を見つめていたソイツは、届かないと判断するやすぐさま行動を切り替え、ゴーレムの巨体を再び反転させた。
それを見、いち早くタバサが、次いでキュルケ、ルイズと杖を抜く。
僕も負けじとスタンドを出し、肩にのったヤツに狙いをつける。

415ゼロのパーティ:2007/12/05(水) 02:53:23 ID:0fJY6Mrc
タバサが竜の高度を軽く下げるタイミングに合わせ、一斉に魔法を放った。
タバサの大きな杖からは巨大な竜巻、キュルケの杖からは1mものサイズの火球、ルイズの杖からは……何も出てない。
それに併せて、ヤツも静かに杖を振い、ゴーレムは右腕を掲げてヤツを守る。
その大きな手はまるで壁だ。
その壁へキュルケとタバサの魔法が叩き込まれた。

竜巻はゴーレムの身体を構成している土砂を巻き上げ、火球はゴーレムの身体を火で包んだ。
しかし、いくら竜巻で身体の土砂を巻き上げられようが、火でいくらその身体を焼かれようが、ゴーレムは巻き上げられたなら直せばいい、焼かれたのなら取り替えればいいと、すぐさま身体を修復させ、悠然と其処にたたずむ。
それどころか、ドームから炸裂した土砂をショットガンの様にして、此方の方へと打ち出してきた。
火で良く焼き上げられた岩石のショットガンは、低速であっても十分に凶器だ。

「くッ! 『エメラルド・スプラッシュ』!」

アレを喰らっては火傷じゃあ済まないッ!
僕は急いで狙いを外し、岩石をハイエロファントで残らずたたき落とす。
どうやら此方の攻撃よりも、相手の防御の方が堅固な様だ。
タバサの方もかなわないと判断したか、高度を上げ、僕らは再びゴーレムの上空を飛び回ることになった。

「これじゃ無理ね」
「どうしようもない」

タバサ、キュルケが諦めの声を上げる。あれだけやって通用せず、挙げ句反撃を喰らったとあっては、それも当然か。

ドグォオン!

唐突に、何故か塔の壁が爆発した。
あまりの爆音に、ヤツも含め、全員の意識がそちらへと向く。
そこには、あのゴーレムが拳を叩きつけても傷一つつかなかった壁に、大きなひびが入っていた。

「何であんな大きな的に当たらないのよ!」

ルイズが叫ぶ。どうやら犯人はルイズらしい。
ルイズが魔法を放つのは初めて見たが、本当に爆発するんだな。
しかしノーコンの上にあの爆発力。危ないにも程があるだろう。

ヤツはひびの入った壁を見、再び向きを転身する。
さっきから、逃げようとしたり、此方を迎撃しようとしたりと、本当に忙しいヤツだな。

「ルイズ。どうやったらあの大きな相手をはずせるのよ。器用にも程があるわ! 挙げ句、壁にひびまで入れて! 盗賊の手助けをしても良いこと無いわよ!」
「うるさい、キュルケ!」

416ゼロのパーティ:2007/12/05(水) 02:54:19 ID:0fJY6Mrc
そう大声で返したルイズだが、様子を見るに明らかに凹んでいる。
当たり前だ。自分が足を引っ張ってしまったことを、露骨に自覚することになったわけだからな。
僕だったら余りの悔しさに、自分を呪う。

しかし、一瞬だが、相手の興味が本塔の方へと戻った。
これは先程、潰されそうになった礼を返してやるチャンスでもある。
僕は急ぎ、相手について解っていることを整理して、対策を練る。
まずわざわざゴーレムの手で防御した点から、新しく防護壁を作ったりする。ということは出来ないようだ。
左手も守りに回すと考えても、完全に守りを固める事は出来ないらしい。
ゴーレム自体は相当な再生力を持っているのか、現状で破壊するのはほぼ不可能。
狙うのはメイジに直接だろう。
となると、なるべく広範囲に渡って、メイジのみを直接攻撃出来る手段。
それなら簡単だ。僕のスタンドで結界を張ればいい。
だとすると、問題が二つある。
まず第一に、こんないつも動いている足場の上では、結界をはれないので、シッカリとした足場が必要だということ。
次に結界を張っている最中、及び攻撃を加えた後は消耗が激しく、全神経を集中させる必要があり、僕自身の動きを止めなくちゃあならないこと。
これらをカバーするには、僕が集中できる状況を作ってくれる協力者が必要だ。

それともう一つ気になることがある。
僕のエメラルドスプラッシュに対し、ガードをしたということだ。
見てガードしたというのであれば、ヤツは最悪、スタンドも使えるという可能性がある。
それも問題だが、もし見えてないとするなら、一度でも僕がスタンドを使っている所を見たことがある相手、つまり学院内の人間という可能性が高い。
例え見えなくても、そのスタンドの起こした事象は見ることが出来るからな。
来ると思ったタイミングでガードすれば、全く不可能でもない。
それに、もし内部の人間であるとするのであれば、こうやって裏手から宝物庫を狙える程度に本塔の構造を知っていてもおかしくない。

となると、ここで逃げられれば、寝首をかかれる可能性もある。
チャンスはおそらくこの一回。
なるべく早く行動に移さなければならない。
そのことが、自分で自分にプレッシャーを掛けてしまう。
できるのか? 僕に。

僕は一旦呼吸を整え、手を何度か握り直す。
そして僕は自分の『ハイエロファントグリーン』を見て考える!
コイツを昔のように誰にも気づかせなくしてやる。
そう! 今の状況を乗り切り、ヤツを倒すため完璧に気配を消してやる!

417ゼロのパーティ:2007/12/05(水) 02:55:02 ID:0fJY6Mrc
覚悟は決まった。なら、後は一緒に、この勝負に乗って貰う相手を決めるだけだ。
そこで、銅鑼をひっぱたいたかのような空気の揺れが再び身体を伝わる。どうやらゴーレムが再び本塔に攻撃を加えたようだ。
今度は以前と違い、本塔に大きな穴があいている。
時間がないッ! 誰に協力を頼む!?
ルイズ? キュルケ? タバサ? いや、全員どうもここ一番で僕が信用しきれない。

ふと、ギーシュとの決闘の光景が頭に浮かぶ。
才人なら、スタンドも見えるし、フォローも大丈夫だろう。
だが、実力にムラがある。
あの時は青銅製の人形を意図もたやすくなぎ払ったが、今日は木の幹一つ断ち切れなかった。
そんな才人に頼って良いものか、迷う。

「とりあえず、ここから離れましょ」
「退却」
「……」
「おい、ルイズ。大丈夫かよ?」
「……平気よ」

どうやら逃げるという方向で話はまとまりだしているらしい。
それだけはマズイ! 今、撃退できないのは最悪の状況だ。
あの鈍重な動きなら、今の僕でもかわせるかも知れない。
……一人でやるッ!

僕はハイエロファントの触手で竜の首を掴み、飛び降りるための準備をする。

「おい、花京院。一体、何をするつもりなんだよ?」

僕のスタンドを指さし、才人が僕に尋ねる。心底、何をする気か解らないと言った表情だ。
僕は一番上に羽織っていた学ランを脱ぎ、才人に向かって手渡す。

「うわっと!」
「預かっておいてくれ。……思いついたんだ。ヤツをあそこから引きずり降ろす方法を」
「え!?」

僕はそういって、竜の上から飛び降りるッ!

418ゼロのパーティ:2007/12/05(水) 02:55:35 ID:0fJY6Mrc
「あ!」
「おい!」

才人達は僕の、その唐突な行動に全く反応出来なかったようで、飛び降りてから初めて、何が起きたのか慌てる声が耳に届いた。
しかし僕の身体は既に、順調に重力に支配されている。
身体はかなりの風に当てられ、着ている服がばさばさと波を打つ。
このまま落ちれば、大怪我程度じゃあ済まないだろう。
だが、僕は少しずつハイエロファントの触手を伸ばしながら、身体の減速に勤める。
僕のスタンドは、例え距離が100mあっても人型を保てるスタンド。
自分の身体を減速させつつ降りていくことだって出来るはずだ。

風と重力に身体を支配されながら、僕は竜の首を大きく引っ張る!

「ぎゅいぎゅいッ!」

なにやら悲鳴にも似た鳴き声で竜が鳴く。
重力で加速した僕の体重が首の一点にかかるんだから、仕方がないことだが。
堪えてくれ。後でお肉をやるから。
今暴れられたら僕が落っこちて、地面にグチャァ! となってしまう。

僕は竜が暴れてくれないことを祈りつつ、少しずつ触手を伸ばして地面との距離を詰めていく。
が何度も言うように、僕のスタンドは人間並の力しかでない。
自分の身体を支えるのには、それなりの負担がかかる。
竜が暴れないとしても、油断は出来そうにない。慎重に…

そう考えていた所で、体が軽くなった感覚を覚える。
僕は竜の方を見上げる。
逆光でよくは見えないが、誰かが杖を掲げているのが見えた。
どうやらその誰かが、慌てて僕に魔法を掛けてくれたらしいな。
まだ身体が痛むので、このフォローはありがたい。
僕は心の中で感謝を述べつつ、広場の芝生の上を転がるようにして着地する。

まず、最初の関門はクリアー出来たといった所かな?
さて、後はゴーレムの真上に結界を張り、ヤツが出てきた所をしとめる!

419ゼロのパーティ:2007/12/05(水) 02:58:05 ID:0fJY6Mrc
僕からゴーレムまでの距離は40mぐらい。
となると結界を張るには少し遠い。
僕は迷わずゴーレムの足下へ走って行く。
ゴーレムの手が届く範囲。
危険だが、其処が僕が彼処に結界を張ることが出来るギリギリのラインだ。
伸びきった触手を、今度はゴーレムの頭上で結界となるように再び、伸ばし、巻き取り、縮めながら網を編んでいく。
それほど網は大きくなくて良い。カバーするのはゴーレムの頭上だけで十分だ。
大体、5mぐらいか? 半径5mエメラルドスプラッシュ……どこかしまらないな。

ゴーレムの拳が飛んでくるラインへと入った。
僕も気を引き締め、ゴーレムへ全意識を集中する。
ゴーレムは僕の方へ、ただ蟻を潰すかのように拳を振るってくる。
アレをかわし続けながら、結界を張るのか……
近くで改めて見たその拳の圧迫感に、思わず屈しそうになる。
鈍重と言っても、それはサイズが大きいからそう感じるだけで、実際は相当早い。スクーター程度のスピードは出てると見て間違いないな。
しかし、たかがスクーター程度の速さと考えれば……。
立ち止まらなければ、捕らえられずに逃げ切れる!

僕は拳の届く範囲を走り回る。
ゴーレムは律儀にその軌道をおいながら、拳を振り下してくる。
しかし、落ちる地点に僕は居ない。
馬鹿正直にまっすぐ行くしか能がない訳じゃあ無いんだ。
僕は人間。だから好き勝手に走り回ることが出来る。
ゴーレムは所詮、プロムラミングされただけの相手。
肩に乗っていたヤツが操作していないというのなら、適当に走り回るだけで何とかなる!

そのまま僕は集中を乱すことなく、ゴーレムの回りを動き回って、ハイエロファントの結界を完成させていく。
ホンの数秒程度、結界を張るにはその程度の時間で良い。
拳を避けながら、触手同士を絡め、解き、編んでいくだけ。
簡単じゃあないか。
慌てるな、慎重に行くんだ花京院典明!

結界は三度、拳が落ちてくる間に完成した。
僕や、僕のスタンドにとってこのくらいは、わけない。
このくらいのことは出来て当然。
後はヤツが宝物庫から出てくるを待つだけだな。
避けに徹するため、僕はトン、と足にいっそうの力を込めた。
その瞬間唐突に、がくんと何かに僕の身体が引っ張られる錯覚がした。

「ぐぇえっ!」

420ゼロのパーティ:2007/12/05(水) 02:58:41 ID:0fJY6Mrc
今、一体、僕の身体で何が起きた? 何かが喉からこみ上げて……
僕は思わず口元を押さえる。
同時に身体全体に怠さを覚えた。
まるで食事が終わった後にマラソンを走らされたかの様な吐き気がッ、だるさが全身にッ!
どうやら身体、特に中に相当キていたみたいだ。
喉が痛い! 鼻にもクる!
胃液が戻ってきているのか!?
予想外だ。身体に受けたダメージがこうも引きずるなんて……。

だが、足を止めて吐いてしまうわけにはいかない!
今、止まれば僕はきっと、ぐしゃぐしゃになってここに惨めな屍を晒す事になる。
身体が内部からシェイクされるような感覚を覚えながらも、足を動かして、落ちてくる拳をかわし続ける。
早く! 早く出てこい!
一体、ヤツは宝物庫の中で何をしているんだ!

足下が怪しくなり、フラフラとよろめいたすぐ先へ、ゴーレムの拳が落ちる。
ッ……。 今のは危なかった。
結界を張り終えたからといって、余計なことを考えている余裕は無いか。
後のことを考えれば危険だが、ゴーレムの足下まで行けば、多少の余裕は出来るかも知れない。
シューティングとかでも、つっこんだ方が安全な事もあるしな。
だいたい今、ゴーレムは下手に動いたりはしないだろう。
口の中の酸の味を振り切って、僕は其処へと駆けていく。


走ると共に、いっそう気分は悪くなった。
口の中の酸の味が、いっそう強くなる。
視界が一回転し、景色が目まぐるしく動く。強い風が顔に当たる。
何だ!? 一体! 何が起きた!?
何がなんだか解らないが、兎に角、足を動かす。
が、蹴るべき地面がない!

「あばれんなよ! 重いんだから!」

横から声がする。
そこでようやく気がついた。僕は今、抱きかかえられているッ!

逆さまのまま景色は流れ、ゴーレムの足下についた時点で、僕はドスン、と降ろされた。
誰が抱えてくれたのかは、想像がつく。
多分、才人だ。

「無茶すんなよ! 死ぬ気か、お前!」
「才人……」

僕を降ろすなり、才人は僕の方へと怒鳴りつけてくるのだった。

To be contenued……

421ゼロのパーティ:2007/12/05(水) 03:01:36 ID:0fJY6Mrc
書き直し。書き直し。書き直しに次ぐ書き直し。
思い通りに書けない……
いつもにまして散文状態……
一巻分が終わったら、三人称の文章に戻そう。
少しは楽になるかも知れない。

422偉大なる使い魔:2007/12/05(水) 22:44:57 ID:p/3ApHMk
「ヴァリエールの名に懸けて必ずお前を八つ裂きにしてやる!!」
いつもの見慣れた自分の部屋、わたしはベッドから身を起こした。
「・・・夢か」
ドン ドン ドン ガチャガチャ
乱暴にノックされ、ドアを開けようとする音が聞こえた。
しかし、鍵をしっかりとかけているのでドアは開かない。
カチリ ガチャ
鍵が勝手に外され、返事も待たずにドアが開けられた。
こんな事をする奴は一人しかいない。
「ちょっとキュルケ『アンロック』は止めてって何時も言ってんでしょーが」
わたしの文句にかまわずにキュルケはズカズカと部屋に入ってきた。
「あのね、朝早くから『八つ裂きにしてやる』なんて聞かされた日には
何事かと思うじゃない」
「あ・・・ご、ごめん。寝言、聞こえちゃってた?」
「寝言ォ?あんた思いっきり叫んでたわよ」
「だから、それは謝るわよ。起こしちゃったみたいね」
わたしは素直に頭を下げた。完全にこちらが悪いのだ。
「いや、それはいいんだけどね」
急にキュルケの態度がしおらしくなった。
「一体『誰を』八つ裂きにするの?」
キュルケが上目遣いに聞いてきた。
「誰って、あなたには関係ないでしょ」
そう、これは、わたしの問題。
「ひょっとして、あの『子爵さま』なの?」
ワルドの事を言っているのだろう。
「・・・違うわ」
キュルケが目をパチクリとさせた。
「ありゃ、違うの?」
「違うわ」
わたしは即答する。
「じゃあ誰よ?」
キュルケがしつこく訊ねてくる。
「それは・・・」
「それは?」
キュルケが続きを促すように復唱する。
「オ・・・」
「オ?」
キュルケが身をググッと前にのめり込ませてきた。
「思い出せない」
キュルケが道化師ばりにズッコケた。
「下着、見えてるわよ」
「おちょくってんの、あんたわー!」

423偉大なる使い魔:2007/12/05(水) 22:45:48 ID:p/3ApHMk
キュルケが怒って出て行った後、身支度を整えながらデルフリンガーに問う。
「ねえ、デルフリンガー」
「なんだ?」
「わたし、寝言を言ってたのよね?」
「みてえだな」
「『誰を』八つ裂きにするか言って無かった?」
「いや、名前は言って無かったな」
「そう」
わたしは、一体『誰を』八つ裂きにしようとしていたのだろう。
そもそも何故そんな事をしようと思ったんだろう・・・思い出せない。
「まあ、何かの拍子で思い出すか・・・」
「なあ、貴族の娘っ子」
「なによ?」
「なんで俺っちを持ってんだ、授業に行くだけだろ?」
「いいじゃない別に、倉庫に入りたいわけ?」
「いや、そういうワケじゃネーけど・・・」
デルフリンガーはプロシュートが持っていた数少ない私物の一つ・・・
わたしはプロシュートが居ないことを常に戒めるためにデルフリンガーを
杖代わりに突いて持ち歩いていた。

424偉大なる使い魔:2007/12/05(水) 22:46:34 ID:p/3ApHMk
教室に入ると、クラスメイトたちが取り囲んだ。
顔を見渡すと、いつものバカにしたような表情ではなく
何か聞きたそうな顔をしてた。
タバサ、キュルケ、ギーシュも同じように取り囲まれていた。
「ねえルイズ、あなたたち、授業を休んでいったいどこに行っていたの?」
モンモランシーが腕を組んで話しかけてきた。
どうやら、ワルドと出発するところを何人かに見られてたみたいね。
タバサは何事も無かった様にじっと本を読んでいる。マイペースな子ね。
キュルケは化粧を直している。あんた人前で・・・娼婦か?
ギーシュは足を組み人差し指を立て上機嫌に笑っていた。
・・・しょうがないわね。
わたしは人壁をかきわけギーシュの頬をひっぱたいた。
「なにをするんだね!」
「軽々しくしゃべらないでよね」
わたしは真剣な顔でギーシュに頼んだ。
「・・・すまない、調子に乗りすぎてしまったようだ」
ギーシュは姿勢を正し黙ってしまった。
しかし、その事が逆に好奇心をツンツンと刺激してしまったみたいだ。
再び、わたしを取り囲みうるさく騒ぎはじめた。
「ルイズ!ルイズ!いったい何があったんだよ!」
「なんでもないわ。ちょっとオスマン氏に頼まれて、王宮までお使いに行ってた
だけよ。ねえギーシュ、キュルケ、タバサ、そうよね」
ギーシュは素直に頷いた。べネ!(良し!)
キュルケは意味深な微笑を浮かべた。このツェルプトーは・・・。
タバサはじっと本を読んでいた。ホント、マイペースな子ね。
クラスメイトたちはつまらなそうに、負け惜しみを並べながら席へと戻っていく。
「そうよねゼロのルイズだもんね、魔法のできないあの子に何か大きな手柄が
立てられるなんて思えないわ!」
モンモランシーがイヤミったらしく言った。我慢我慢。

425偉大なる使い魔:2007/12/05(水) 22:47:26 ID:p/3ApHMk
「フーケを捕まえたのだって、あなたじゃなく、あの怖い使い魔にまかせっきり
だったんじゃないの?」
わたしが言い返さない事をいい事に言いたい放題にいってくれるわね。
「だいたい、何であなたがあの使い魔の剣を持っているのよ?」
「預かっているのよ」
「なんで?」
キュルケといいモンモランシーといい、しつこく食いついてくるわね。
「死んだのよ・・・だから、わたしが持っているの」
どうせ隠しても、いずれバレるのだから言ってやった。
「へえ」
モンモランシーは目を細め口元をつり上らせた。
「ひょっとして殺されたのかしら、あの使い魔、ギーシュを倒したぐらいで調子に
乗ってたんじゃないの?」
イマ ナンテ イッタノ コイツ
「取り消しなさい」

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

「ひっ」
モンモランシーが悲鳴を上げた。
「プロシュートの侮辱を取り消しなさいって言ってんのよ」
「睨まないで、睨まないでよ」
モンモランシーが首を振りながら後ずさる。
「あんた、わたしをなめてんの!突っ掛かってきておいて今更被害者気取り?」
「ひっ、その『目』で睨まないで」
「謝りなさいって言ってんでしょうが!」
怯えるだけで、ちっとも謝らないモンモランシーに
だんだん我慢がならなくなってきた。
キュルケがわたしとモンモランシーの間に割って入ってきた。
「ちょっとルイズ、あんたマジで恐いわよ。その目、まるでダーリンみたいよ」
プロシュート?
「あははははははははははははは」
何言ってるのコイツ。突然に笑い出した、わたしを間の抜けた顔で黙って見る
クラスメイトが更に可笑しかった。
「ははははははははは、ふざけないで!!」
わたしはキュルケに一喝した。
「ルッ、ルイズ?」
「キュルケ、あんたの目は節穴なの、わたしの目がプロシュートみたいですって
冗談でも二度と言わないで!!」
「ご、ごめん悪かったわルイズ」

426偉大なる使い魔:2007/12/05(水) 22:48:22 ID:p/3ApHMk
やけに素直に謝るキュルケを置いて、わたしはモンモランシーに向き直した。
「さて、謝ってもらおうかしらモンモランシー」
モンモランシーは涙目になりながら杖を抜いていた。
「なによゼロのルイズのくせに。ちょっと恐い目ができるからって、
いい気にならないで」
魔法で黙らせるつもり?上等じゃない。
「モンモランシー頭上、二メイル」
「へ?」
わたしは素早く杖を抜き呪文を詠唱する。
「ファイアーボール」
狙い通りにモンモランシーの頭上で爆発が起こる。
爆発によりクラスメイトたちは耳を塞ぎしゃがみこんだ。
モンモランシーは腰が抜けたのかヘナヘナと座り込んだ。
「どうするのモンモランシー。あなたが、わたしを溺れさせるのが早いか。
わたしが、あなたを爆発させるのが早いか試してみる?」
モンモランシーが顔を見上げ睨みつけてきた。
「わたしの方が早いわ。わたしは、たった今、唱え終わったんですもの」
モンモランシーが杖を振るうと、わたしの顔が水で覆われた。
「ゴボッ」
なんたる失態、威嚇せずに当てとけば良かったわ。
どうする?
デルフリンガーなら、この水を消すことが出来る!
鞘から外し、刃を水に触れさせれば・・・
「ほほほ、どうしたのゼロのルイズ。まともに喋る事も出来ないみたいね」
モンモランシーが立ち上がり、勝ち誇るように笑う。
「頭を下げなさい。そうすれば『許して』あげるわ」
『許す』ですって?これで頭を下げることが出来なくなったわ。
それは、わたしの『誇り』が許さない。

427偉大なる使い魔:2007/12/05(水) 22:49:43 ID:p/3ApHMk
頭が下げられないのなら剣を持ち上げれば・・・
重い・・・うまく力が入らない。
「ガボッ」
わたしはデルフリンガーを手放し、水をかき出そうと手を突っ込む。
バシャバシャと水をかき出すが、まったく効果が無かった。
「ほほほ、不様ねゼロのルイズ。さあ、頭を下げなさい」
誰が下げるもんですか・・・息が出来ない・・・
いや、息を『吸う事』ができない。
『吐く事』は出来る・・・そして呪文を唱える事も・・・
「イン・・・エグズ・・・ベッド・・・ブレイヴ・・ブァイアボール」
わたしは自分に向けて杖を振る。

どぱん

水表面に爆発が起こり、わたしは机に寄り掛かった。
すううううううぅ、空気がこんなにも旨かったなんて知らなかったわ。
「な・な・てま・を」
モンモランシーが目を見開き口をパクパクとさせていた。
なんてまねを?
よく聞こえないわ、耳が潰れたかしら・・・
「さて今度はこちらの番ね『覚悟』はいいかしらモンモランシー?」
モンモランシーは口をパクパクさせている。
ごめんなさい?許して?
「ごめん、聞こえないわ」
『ヤル』と心の中で思ったのならスデに、その行動は完了している!
「ファイアーボール」
モンモランシーの顔面が爆発した。

428偉大なる使い魔:2007/12/05(水) 22:50:34 ID:p/3ApHMk
いや、正確に言うとモンモランシーの目の前で爆発が起こり直撃した。
顔面血まみれになりながらモンモランシーは倒れた。
すぐさまギーシュが駆け寄り、モンモランシーの顔にハンカチを被せ
お姫様抱っこをした。
ギーシュが黙って、こちらを見つめている。
「どうするのギーシュ?敵討ちってんなら受けて立つわよ」
もう後には引けない・・・トコトンやってやるわ。
ギーシュの目には敵意が無かった・・・
黙って首を横に振り、ペコリと頭を下げてから教室から出て行った。
わたしも治癒を受ける為に、おぼつかない足取りで医務室に向かった。

次の日から、わたしに面と向かって『ゼロ』と呼ぶ者はいなくなった。

429偉大なる使い魔:2007/12/05(水) 23:00:04 ID:p/3ApHMk
本スレに書き込めない。
誰か、代理投下お願いします。

430名無しさん:2007/12/05(水) 23:02:15 ID:DJjVfgOM
代理するといったときにはッ!その時既に投下しているんだッ!

431名無しさん:2007/12/14(金) 22:35:07 ID:IIQTstsQ

い、今起こった事をありのまま話すぜ!
わ、私は食後の散歩中目の前に落ちてきた瓶に気付き拾い上げた。
どことなく…そうだな。死んでしまった妹の持ち物にならこんな感じの物もあったかもしれない。
女物っぽい感じの瓶だった。

だが近くに女性徒はいない。流石の私もスカートの中が見えてしまう位置にいつもいるわけではないからな。
こんな日もあるさ。
それに拾い上げたのは反射的な行動だったし、満腹感からぼーっとしてたんで誰のかはわからない。
だから私は一先ず手近な奴に聞いてみたんだが違うという。

その時、私は閃いた!

これってよくある缶のポイ捨てなんじゃねぇのか?
ジュースの缶じゃねーがこいつらは貴族、気に入らない香水位同じように捨てちまえるんだろう!
チッ、こんな態度が地球環境を汚染していくんだぜ(ここはハルケギニア?だが)

見つからないしたかが瓶一つに余り時間をかけたくは無いんで、そう考える事にした私は瓶を捨てることにした。
探すの面倒だからな。
そんなわけで通りすがりのメイドに瓶捨てを頼んだ私だったが…うっかり中身を入れたまま渡しちまった。
分別回収とかの精神に反する行為で、あまり紳士的とは言えん。
私も既に30過ぎ。瓶を渡した時の私はぼーっとしていて気付かなかったとはいえん。

432名無しさん:2007/12/14(金) 22:35:39 ID:IIQTstsQ
そんな私にある一人の貴族が忠告してくれた。
片づけをする(そいつら貴族どもからすれば)目下の者への配慮を忘れぬその貴族の名はギーシュ・ド・グラモン。
中々見所のある奴。そう思った。


だがそれは、私の勘違いだった!


奴の行動は全て一つの事を目的とした計算済みのこと…!


私が瓶を拾うのも! 捨てようとすることも!


全て…ギーシュの掌の上のことだったのだ!


即ち…!
いらなくなった女からの贈り物である香水をわざと落とし、私に衆人観衆の前で中身を捨てさせる…ッ!
恋人だった女にこれ以上無い屈辱を与える行為…!

な、何をいっているかわからねぇと思うが、私も信じられなかった。
悪ふざけとか、うっかり落として隠そうとしたとかそんな可愛げのある行動じゃねぇ!
奴は今、泣きながら食堂を去っていく元カノに向かって流し目を送りながら、新しい女といちゃつき始めやがった!

だのにこの小僧ッどういうわけか私を睨みつけこう言った。

「もう容赦せん!決闘だ!」

勿論私の返事はこうだ。

「よかろう、受けて立つぜ!」

433名無しさん:2007/12/14(金) 22:37:04 ID:IIQTstsQ
(常に男前だが)普段より3割増しで凛々しく私は宣言する。
ギーシュは、私に背を向け逃げるなよとだけ言って去っていった。
私はマジシャンズレッドを呼び出しカメを抱えさせると決闘に向け歩き出す。

そこへ現れたのは一応主人ということになっているルイズ。

「待ちなさい! なに勝手に決闘なんか約束してんのよ!」
「はぁ? 何言ってんだマスター」

私の返事にムカついたようだが、ルイズはそれを堪えて私にこう言った。

「怪我したくなかったら謝っちゃいなさい。カメ相手に決闘なんてこと自体馬鹿馬鹿しいんだから、今なら許してくれるかもしれないわ!」
「はぁ〜〜ッ!?」

回りからKYKYと連呼が始まる。
しかしッ、ルイズはそれをうるさいうるさいっと言って黙らせるとさっきより強い口調で言う。

「あのね? アンタは絶対に勝てないわ。勝てるわけがないわ! ちょっと喋れたり宙に浮けるようになった位で図に乗らないの! カメじゃ…ううんッメイジにはメイジしか勝てないのよ!?」

私は耳を疑っていた。勝てるわけがないだと?
メイジとカメ。勝てるわけが無い!だと?

さんざ貴族がどーとか言って威張り散らしてる分際でなんと言う弱腰ッ!
私はちょっぴりだが幻滅したぜ。ちょっぴりしか好感を持っていなかったからな。

目の前でこんなことが起きて言う事が止めろだぁ!?

目の前でこんな邪悪な行為を見せられて怒らない奴はいねえ!
貴族だのなんだのと言うなら、この女の…いや、紳士の敵に対して尚更じゃなきゃぁいけねえと私は思うッ!

私は止めようとカメを掴もうとするルイズの手をマジシャンズレッドに弾かせ、決闘場所である広場を他の奴に尋ねた。
そして移動する…決闘場であるヴェストリの広場は魔法学院の敷地内、『風』と『火』の塔とかいう塔の間にあった。
西側にあり、日中でも余り日は差さない…つまりは血とかがいくら流れようが目立たないという点において、決闘にはうってつけの場所ってわけだ。
人手も普段は少ないのかも知れねぇが、今は別だった。

元々決闘という行為自体娯楽に飢えている生徒を集めるには十分な餌になったようだ。
今回はそれに加えてギーシュの非道な行為が既に知れ渡り、義憤に沸く多くの生徒を集めていた。

そこに、ギーシュは一人たっていた。
取り巻きは誰もいないようだ。

「諸君! 決闘だ!」

マントを靡かせ、造花のバラを掲げた糞野郎のギーシュは憎しみを込め私を見下ろしている。
既に開始を今か今かと待っている奴の目には、私をどう料理するかしか無いように見える。
闘争心は満々ってわけか…私の能力も全くわからないくせにな。

一方私の方は既にあの糞野郎の行為に吐き気を催した同士達の連盟『嫉妬団』により情報はリークされている。
奴の能力は青銅のゴーレムを7体まで作ること。
他に少しの基本的な魔法を覚えている位だが、その青銅のゴーレムを全て同時に動かす事ができるというのが厄介らしい。
教師陣にもドットメイジの中ではとても評価されているらしい。
奴は優雅な動きで造花を一振りする。
花びらが一つ零れ落ち、甲冑を着た女戦士の形へと変わる。

…花びら一枚から人間サイズかよ?
しかも全部青銅製のようだが…これがどの程度のパワーで動くのかなどはパッと見じゃあわからん。
まぁ関係ないがな。
私は大声を出す為、息を吸い込んだ。

434名無しさん:2007/12/14(金) 22:37:41 ID:IIQTstsQ

「僕はメ「我が名はジャン・ピエール・ポルナレフ」

何事かギーシュが言おうとしたようだが、そんな御託を聞くつもりはさらさらねぇ!
私の心は闘争心―少女を泣かせるのに一役買った自分への怒りと、義憤に燃えているのだ。

「傷つけられた一人の乙女の誇りの為、貴様如きを醜悪な輩を紳士と呼んでしまった我が愚かさの清算の為、ギーシュ・ド・グラモン。貴様を討つ!」

私の名乗りに、周囲を取り囲んでいた貴族達から歓声があがった。
それに比例するように交わされるギーシュへの罵声が奴の体を震わせている。

「もう…もう限界だーツ!!」

造花を振るう奴の叫びがヴェストリの広場に響く。
そして散らばった花びらは、黒光りする女兵士へと変わった。
数は三つ。どーみても青銅じゃねぇ…! アレは鉄だ!

「気をつけろカメ! 魔力は気力、気力は感情だ! あの糞野郎っ! この土壇場で!怒りでラインにまで上がりやがった!」

かわりに最初に作り出したゴーレムはいなくなっている。
ふむ…周りは慌てだしたようだが、私にとってはかえってやりやりやすくなったと言える!

動き出す七体のゴーレムと3体のゴーレム。どちらが厄介か考えれば数が多い方が面倒だ。
義憤に燃える私の冷静な部分は多くの戦闘経験からそう判断していた。

その間にもゴーレムは既に動き出している。
中々俊敏だ。素人なら一体だけでも対応することはできないだろう!
それには賞賛を送ってやってもいい…だが今の私には友が残してくれた力があるッ!

鉄のゴーレムが私の元へたどり着くより当然早くッ!
我が相棒、マジシャンズレッドが私が入った亀を上空へと投げた。
当然私が移動するのだから我がスタンドであるマジシャンズレッドも共に移動する事になる!

「アヴドゥル!俺に力を貸してくれ!」

私が操るマジシャンズレッドは広場上空十数メートルの高さで亀をキャッチ、両手での固定…そして大きく振り上げて私は、私の入った亀をギーシュへ向かい回転をつけて投げさせた!

「オオオオッ!」

空気を切り裂いて進む私に不意を突かれたせいかゴーレムは動きを止めている。
ギーシュは慌てるばかりで、逃げることもままならないようだ。
だが容赦はしない!
マジシャンズレッドの視界でそれを確認しながら、私の入った回転した亀は見事にギーシュの腹部に命中した!
周囲から上がる歓声!
一気に熱気があがる広場の中で、私はトーンを落とした声でギーシュに告げる。

「今のが私の分、次が貴様が傷つけたレディの分だ」

血反吐を吐き亀と同じ高さでこちらに視線を向けるギーシュに、私は容赦なくマジシャンズレッドの腕を振り上げた。
マジシャンズレッドのパワーとスピードで殴ったならば、最低でもコイツの顔を二目と見れないものにしてやることが可能だ。

435名無しさん:2007/12/14(金) 22:39:11 ID:IIQTstsQ

だがその時!
先ほどギーシュに抱きついていた女生徒が、ギーシュの前に立ちふさがった!

「退けい!」
「嫌です!もう勝負はついた筈ですわ!」

私は十分ドスのきいた声で怒鳴りつけたつもりだったが、私の言葉にも怯まずその女生徒は亀を見返した。
場が騒然としていくが、この女性との言葉には聞き捨てならん部分が一つあった。私は大声を張り上げて否定する。

「断じて違う!報いを受けさせた時、名誉が回復された時が決着だ!」

私の返事に女生徒、ケティといったか? は表情を曇らせ、既にその影で怯えていたギーシュを見た。

「確かに、ギーシュ様は間違った方法を使われました…ミスモンモランシーには必ず謝罪いたします、ですが!」

そう言って再び私を見たケティの目には強い輝きがあった。

「ギーシュ様は私への愛ゆえに間違われてのです!お願いします、ギーシュ様にチャンスを、チャンスをくださいませ!私がギーシュ様を正して見せます!」
「なんだと?」

私は戸惑った。
この色ガキを正すだと?
未だマジシャンズレッドに振り上げさせた拳はそのままだったが、私は迷った。
それを敏感に感じ取ったのか、ケティが重ねて言う。

「私への愛ゆえに、間違われたこの方を、私の愛情で正したいのです」

言うなりケティはギーシュを抱き寄せる。
それを見た私は後一撃、多分ギーシュを殺してしまうかもしれない一撃をアヴドゥルのスタンドを使って加えるのがとても馬鹿馬鹿しいことのような気がしてきた。
チッ、興が殺がれちまったぜ。

遠い記憶が蘇る…私の脳裏には妹の敵を討とうと愚かな真似をした私をアヴドゥルは追いかけ、助けてくれた事が、思い浮かんでいた。

「ギーシュ・ド・グラモン、あんな真似までして得た相手だ。大事にするんだぞ」
「では!」

ケティの顔が輝いた。
私はうむ、とだけ言って彼ら若い恋人達から離れていく。
周囲もそれをきっかけに動き出し、ギーシュをなじりケティを褒め称えながら去っていく…

だから私は気付かなかった。
ケティは、母性的な笑顔を浮かべてギーシュを抱きしめながら、何を考えているか…

彼女はギーシュを抱きしめながら、ギーシュのポケットに少し切れ目を入れておいたことも思い出していた。
そして先ほど出来うる限り低い声で言った台詞などを思い出していた。

『わかったぜ!つまり、ギーシュはモンモランシーと付き合ってたけどゴミみたいに捨てるって事なんだよ!』

と言った事などを…思い出してその微笑みは深くなった。
腕の中には、ケティを女神か何かのように見上げる瞳がある。
ケティはギーシュにも聞こえない程の微かな声で呟いた。

「…計算通り。いえ、計算以上ね」

ギーシュはこの騒動で一気にラインメイジになった。
一時的な感情の高ぶりが齎した精神力とはいえ、一度そのハードルを越えてしまえばまた超えるのは容易になる。

恋愛とは、杖を交えず行う決闘なのよ。ミス・モンモランシー。

「クスクス、可愛がってあげるわ。ギーシュ」

ケティは年上のカレと見つめあい、少しするとカレを医務室へと連れて行った。
周りはそれを暖かく見守っていた…


ポルナレフ…気分は良くなったがルイズとはギクシャク。早く帰りてーなぁとも思い出している。
ギーシュ…モンモランシーに振られた上に評判は血に落ちたが、ケティと恋人に。涙目。
モンモランシー…ショックを受けて引き篭もりに。涙目。
ケティ…恋に勝利した。

To Be Continued...

436ポルジョルの中の人:2007/12/14(金) 22:41:30 ID:IIQTstsQ
プロバイダが規制対象らしくて本スレに書き込めません。
誰か代理投下お願いします。
今回はちょっとだけやっちゃったかなぁという気もする。
外伝も含めて…

437仮面のルイズ:2007/12/15(土) 13:33:21 ID:/YCsSzJs
規制を食らってしまい書き込めませんです。
どなたか気付いたらお願いします。

438仮面のルイズ:2007/12/15(土) 13:38:15 ID:/YCsSzJs
シエスタとモンモランシーの二人は、ヴァリエール家に到着してすぐ、ヴァリエール公爵夫人カリーヌ・デジレの出迎えを受けた。
滞在する部屋を準備させてあるので、今晩は疲れを癒すようにと言われ、二人はそれぞれ別の部屋に通された。

シエスタにとって、ヴァリエール家は「有名な貴族」であり「大きなお屋敷」でしかない。
しかし、モンモランシーは家名の『格』を気にしてしまう、ヴァリエール家は自分より遙かに目上なのだ、よってモンモランシーは、シエスタ以上に緊張していた。
あてがわれたゲストルームは、二つのベッドルームがリビングで繋がっており、モンモランシーは片方のベッドルームに行くとすぐに寝間着に着替えて眠ってしまった。
モンモランシーは緊張のあまり疲れてしまったのだろう。

一方、シエスタはなかなか寝付けず、窓から空を見上げていた。
エレノオールから聞いた話では、カトレアは生まれつき体が弱く、今まで何人もの高名な水のメイジに治療を依頼していたらしい。
だが、体を伝わる水の流れを何度治しても、またすぐ別の場所に異常が出てしまい、根治することができないのだ。
そんなカトレアの体を治すため、エレノオールは魔法アカデミーでの研究を志したと言う。
他のメイジが見向きもしなかった『波紋』の効能に、興味を惹かれたのも当然だと言える。

シエスタとモンモランシーがシュヴァリエを賜って間もない頃、タルブ村で治癒の力を使い活躍をした二人組の話が、エレノオールの耳に届いた。
エレノオールは、すぐに関連する資料を調べ上げ、オールド・オスマンへアポイントを取った。
オールド・オスマンは、モンモランシーを『将来有望な水のメイジ』として紹介し、シエスタを『オスマンと共に波紋を研究していた人物の曾孫』として紹介した。

「波紋を受け継ぐ者…か…」
ベッドの上でシエスタが呟く。

出発前、オールド・オスマンから、『波紋戦士』の立場は盤石でないと聞かされた。
何十年も昔、リサリサと共に波紋を研究していたオールド・オスマンは、波紋が人体に及ぼす影響だけでなく、魔法への干渉をも研究していた。
『水の秘薬』の効果を劇的に高めるのも、水系統の『治癒』を促進するのも波紋作用の一つ。
応用すれば、『毒』を排出することも、『覚醒作用』を持たせることも、『安心感』を得ることもできる。
波紋を好意的に受け入れて貰うためにも、またシエスタの立場を確固たるものにするために、オールド・オスマンはあえてエレノオールの耳に『波紋』の噂が届くようし向けたのだ。

あくまでも『治癒』の力として波紋を印象づければ、カトレアを治癒できなかったとしても、ヴァリエール家とのパイプは太くなる…そう見越してのことだ。

だが、シエスタには、そんなことはどうでも良かった。
ルイズが治してくれた足をさすりつつ、タルブ村に行く途中で乗り捨てた馬を思い出す。
仮にルイズが吸血鬼だとして、ルイズが人間との共存を望むとしたら、シエスタはルイズを殺す必要はないと考えている。
オールド・オスマンは、それを許すだろうか?
ルイズの血は、際限なく食屍鬼を作り出し、世界を混乱させる恐れがある。
やはりルイズを殺さなければいけないのだろうか?

なぜ私が波紋使いになってしまったのだろうか?

結論の出ない思考を続けているうちに、眠気がだんだんと強くなっていく。
シエスタは用意されたネグリジェに着替え、ベッドに入った。
その日、久しぶりにルイズの夢を見た。

439名無しさん:2007/12/15(土) 13:39:36 ID:TugjAbdE
代理します

440仮面のルイズ:2007/12/15(土) 13:41:41 ID:/YCsSzJs
翌朝、シエスタとモンモランシーは、ゲストルームのリビングで朝食をとっていた。
ヴァリエール家の朝食は魔法学院よりも早いので、魔法学院での朝食と同じ時間に食事をとれるようにと、公爵が二人に気を遣ってくれたらしい。
魔法学院の料理を任されているマルトーは、学院長が直々にスカウトした程の腕前だが、ヴァリエール家もそれに引けを取らなかった。
それほど、朝の食事は豪勢で、しかも食べやすいようにと様々な工夫が凝らされていた。

「ねえ、シエスタ、あなたは緊張してない?」
「え?」

シエスタが顔を上げると、向かい側に座っていたモンモランシーと視線が重なった。
モンモランシーの瞳は力強くも見えたが、どこか儚げだった。おそらくカトレアを治療する緊張感が勝っているのだろう。

それは無理もないことだと、シエスタは理解していた。
国内有数の水のメイジに治療を施されても、病気が根治しない…そんな相手を治癒しろと言われたら緊張するのは当たり前だろう。

「大丈夫ですよ、治せるかどうか、やってみなければ解りませんけれど…ほら、オールド・オスマンが出発前に『今のミス・モンモランシーなら微細な流れも解るじゃろう』って仰っていたじゃありませんか」
「うん…そうね、そうだけど……ねえ、私が何て言われてるか知ってる?」
「え?『香水のモンモランシー』ですよね」
「そうよ、私が一番得意なのは調香。食べ物に使われてる香草や薬味は臭いで解るわ。でも…今は駄目よ、緊張しちゃって、ちょっと自信ないの。弱気になると駄目ね…私」
「そ、そんなことないです!だって、タルブ村で、どんなに酷い怪我人もすぐに治療できたじゃありませんか。今回だって、悪い結果にはならないはずです」
「……怪我と病気は違うのよ。ミス・カトレアを長年治癒していた水のメイジがいるって聞いたでしょう?その人はトライアングルなんですって。私、その人と比べられるのかと思うと…緊張して食事の味もよく分からないわ」

「それでも、私たちは私たちの役目を果たすべきです、たとえどんな結果になっても」
シエスタの言葉を聞いたモンモランシーは、驚き目を見開いた。
「強いのね」
「私は強くなんか無いです、弱いから、必死にならざるを得ないんです」
「…そっか、そうよね。弱いから必死になるのよね…」

モンモランシーは、改めてシエスタの顔を見た。
シエスタは強い、迷いがない、今ならそう思える。

平民出身のシエスタに学ぶことがあるなんて思いもしなかった、だが、今ではそれも快く受け入れられる。
タルブ村で、治療のために奔走するシエスタの行動力、そして強い意志、それは魔法学院では滅多に見られない物だった。
貴族という立場に、家名にアグラをかいている生徒達と違い、シエスタは実力だけが評価されている。

そのハングリー精神が無かったモンモランシーの父親は慢心し、水の精霊を怒らせる真似をしてしまったのではないか。
父親を悪く言うつもりは無いが、父も典型的な貴族主義の貴族であり、シエスタのような目的意識を持たない貴族だと思えた。
だからこそ、今のシエスタがとても眩しく、そして力強く見えるのだ。

「ね、シエスタ。私も波紋が使えたら自信がつくかしら?」
「それは解りませんけど…でも、モンモランシーさんが波紋を使えたら、もっと沢山の人を治せると思います。だからモンモランシーさんにも波紋を会得して欲しいです。自信なんて…その後考えればいいじゃないですか」
「…そうよね。ありがとう。シエスタ」


朝食が下げられた後、メイドから今日の予定を告げられた。
ヴァリエール公爵との面会を済ませてから、カトレアの治療に当たって欲しいとの事だった。
二人は魔法学院の制服に着替え、マントを付けて杖を携えた。
お呼びがかかるまで部屋で待機しているのだが、この時間がやけに長く感じられた。
実際には、着替え終えてから五分と経っていないのだが、何かを待つ時間はとても長く、緊張に満ちている時間でもある。

パタパタパタと、誰かが廊下を走る音が聞こえてきた。
お呼びがかかるのだろうと思い、二人は居住まいを正したが、シエスタはふと疑問を感じた。
廊下を『走る』。それ自体公爵の住まう館では、異常なことではないか?
そして不安は的中した。


コンコン、と急ぎ調子なノックの音が鳴る。
モンモランシーはすぐさま「はい」と返事をした。
「大変です!カトレア様が発作を起こされました、すぐにカトレア様を診て頂けませんか!」
メイドの声に驚き、二人は顔を見合わせた。
二人は同時に頷くと席を立ち、カトレアの部屋へと急いだ。

441仮面のルイズ:2007/12/15(土) 13:42:11 ID:/YCsSzJs



カトレアの部屋に入った二人は、急ぎカトレアの容態を見るべくカトレアに近づいた。
ベッドの上で苦しそうに呼吸するカトレアの姿は、エレノオールとは正反対とも言える容姿だった。
シエスタの胸が高鳴る。
ピンク色の髪の毛はルイズを彷彿とさせる、顔つきもルイズによく似ている、姉妹だから当然かもしれないが、それでもシエスタにとっては大きな事だった。
カトレアの従医が杖を向けて小声でルーンを詠唱しているが、カトレアが落ち着く様子はない、ゼェゼェと息を切らせて苦しそうにしている。

「行きましょう」
シエスタが歩き出した。
モンモランシーが一歩遅れて続き、カトレアの傍らへと立つ。
「君たちがシュヴァリエを賜ったメイジかね?」
カトレアの従医が、杖を引き、二人に向かって問うた。
「「はい」」
男はカトレアに視線を戻すと、左手で自分の頭を押さえた、どうすれば良いのか解らないのだろう。
「今回のは特に酷い、水の濁りが治まらないんだ」

「濁りが?」
モンモランシーが聞き返しつつ、カトレアの体に杖を向ける。
窓から差し込む日差しに、間接的に照らされたカトレアの体は、姉のエレノオールよりもわずかに濁って見える。
それがどれだけ異常なことかモンモランシーにもよく解る。
「シエスタ!波紋を流してちょうだい…体の末端から様子を見るわ」
「はい!」
シエスタがカトレアの手を覆うように握る、そして、深く息を吸い、横隔膜をコントロールし、体の浄化能力を活性化させる波紋を流した。
その上にモンモランシーの杖が触れる、波紋がどういった効果を生み出すのか、水の流れから感じ取るためだ。
結果として、波紋はカトレアの治癒に効果があった、体のほんのわずかな変色と、カトレアを襲っていた強烈な悪寒が治まり、呼吸がだんだんと安定してきたのだ。
その間、モンモランシーはひたすらカトレアの体を観察していた。
『より微細な流れを感じ取りなさい』オールド・オスマンの言葉である。

タルブ村では、主に怪我人を相手に治癒を繰り返していた。
外傷の酷い者もいれば、内臓にダメージを負った者もいる、病人の場合は後者と同じで内臓に目を向けなければならない。
モンモランシーは、波紋によって浄化されていく体から、いくつかの『原因』を抽出していった。


三十分ほどすると、カトレアの体から汗が流れ出す、その汗は脂汗であり、冷や汗でもあった。
人間の体は、少しずつ毒を溜め込み、『水』と共に排出される。
尿や汗がそれだ、だが、カトレアの体は解毒作用が極端に低下している。
シエスタから『波紋』のサポートを受けることで、溜まっていた毒が汗として排出されたのだとしたら、間違いなくカトレアは浄化能力が極端に低下している。
肝臓か、脾臓か、腎臓か、それとも水の流れを生む心臓か。

……モンモランシーは、心を落ち着ける香水を持ってくれば良かったと、頭の隅で考えていた。

442仮面のルイズ:2007/12/15(土) 13:43:41 ID:/YCsSzJs
「ふう…」
シエスタがため息をつく。
一時間以上波紋を流し続けていたが、全力で流していた訳ではないので体力的には疲れていない。
だが、精神的な疲労は確かにあった。
ルイズによく似ている人物が、目の前で苦しんでいるというだけでも辛いのに、それがルイズの実姉だと言うのだ。
自分が抱えている秘密…ルイズを殺すために波紋を学んだという事実を秘匿したまま、カトレアを治療すると思うと、どこかやるせない気持ちがわき起こる。

身体の様子を調べていたモンモランシーが杖を収めると、傍らで見ていた従医が入カトレアに杖を向けた。


「……ふむ、小康状態か、いや二人ともありがとう、このところカトレア様の発作が長引いておられたので、私一人では体力的にも辛いところだった。助かったよ」
そう言って額を拭う、どうやらこの医者も長く治癒を続けていたらしく、疲れが見えていた。


「カトレアは落ち着いたの?」
突然聞こえてきた声に、シエスタとモンモランシーが驚く。
声の主はエレノオールだった、いつの間にかカトレアの部屋に居たのだ。

「今のところは安定していますわ」
モンモランシーの言葉に安堵したのか、エレノオールは「そう」と呟いてため息をついた。

エレノオールは椅子を引き、カトレアの隣に座る。
汗でべたついたカトレアの髪の毛を手ですくと、寂しそうに、そして愛おしそうにカトレアを見つめた。
「ミス・モンモランシー。ミス・シエスタ。カトレアの病状は解ったでしょう…原因もよく分かっていないの。何か感じたことはある?」

「身体の中が全体的に弱まっています、毒を溜め込んでしまうような…」
モンモランシーが呟くと、エレノオールは従医に目配せをして「あれを持ってきて」と言った。
従医が退室すると、しばらくしてから何枚かの絵図面らしきモノを持って部屋に戻ってきた、エレノオールは絵図面を受け取るとモンモランシーにそれを手渡した。

「これは…日付が沢山書き込まれてる…もしかして、ミス・カトレアが今まで発作を起こした箇所ですか?」
「そうよ」
エレノオールがモンモランシーの言葉を肯定する、シエスタが絵図面をのぞき込むと、そこには人体の簡素なイラストと、いくつもの矢印と丸印、そして日付が書かれていた。

「これは…ここ一ヶ月以内のモノしか書かれていませんね」
シエスタが呟くと、エレノオールは窓の外を見つめつつ、言い聞かせるように喋り始めた。

「あの子が死んだって聞かされた時、カトレアはひどい発作を起こしたの。それから発作の頻度が多くなって……今は立ち上がることも辛そうなの」

シエスタの身体が、ぶるっと震えた。
あの子とは、ルイズのことだ。
それに気付いたとき、シエスタの身体は恐怖と武者震いで震えたのだ。

443仮面のルイズ:2007/12/15(土) 13:45:24 ID:/YCsSzJs
「ん…」
「カトレア、目が覚めた?」
エレノオールがカトレアの顔をのぞき込むと、カトレアは薄目を開けて、自分を取り囲む人たちの姿を見回した。

身体を起こそうとしてベッドに手をついたカトレアだが、体力が衰えているためかうまく上体を起こせない。

「だめよ、寝ていなさい。…お願いだから、ね」

エレノオールが優しくカトレアの頭を撫でると、カトレアは小声で呟いた。

「……そちらのお二人が、魔法学院のお医者様?」
「ええ、そうよ。ルイズと一緒に学んだ仲なんですって」
「そうなの……あの子が沢山迷惑をかけたでしょう?」

カトレアはほほえみを浮かべた、どこか懐かしむような笑みはルイズの笑顔を彷彿とさせる。

厳しさのあったルイズと違い、カトレアは慈愛に満ちた瞳をしている。

だからこそ解る、ルイズが目指していた憧れの人とは、きっとこの人に違いないと、直感的に感じるのだ。

「私はカトレア・イヴェット・ラ・ボーム・ル・ブラン・ド・ラ・フォンティーヌ 。まずはお礼を言わせていただきますわ…。ところで、お二人の名前も聞かせてくれないかしら」

「はい。私はモンモランシー・マルガリタ・ラ・フェール・ド・モンモランシ」
「私は、シエスタ・シュヴァリエ・ド・リサリサです」

「あら、貴方がシエスタさんね、ルイズからの手紙に貴方のことが書いてあったわ」

「えっ」

静かに微笑むカトレアの瞳は、とても優しかった。
魔法学院で、自分に声をかけてくれたルイズのように、慈愛に満ちた瞳だった。

この場にいる誰も気付かなかったが、カトレアの隣に座るエレノオールの表情が少し強ばっていた。
ルイズはカトレアに懐いていた、対して自分はルイズに恐れられていた。
手紙を貰っていたカトレアが、とても羨ましく思えた。

444仮面のルイズ:2007/12/15(土) 13:47:16 ID:/YCsSzJs
一方、場所は変わり、トリステインの首都トリスタニア、その一角。
『魅惑の妖精亭』では、相変わらずロイズ(ルイズ)とロイド(ワルド)の二人が仕事に追われていた。

ルイズは高くもなく低くもない、中堅どころの人気を得ていた。
ワルドは表に出ることなくひたすら裏方仕事を続けている。
店主のスカロンが『訳ありなのに顔を出しちゃまずいでしょ』と気を利かせてくれたのだ。

ワルドは、自分の心境の変化に驚きつつ、これが当然だとも思えていた。
ルイズと再開して母を蘇らせ、リッシュモンに復讐すると誓ったあの日から、価値観がすべて一度崩れ去った気がする。
一度崩れた価値観は、ルイズを中心として再構築され、今は自分でも驚くほど皿洗いが気に入っている。
つかの間だと解っていても、平和なのだ、この場所が。
魔法衛士隊に正式に入隊する前は、実力を見せつけるために無茶な任務に志願し、何度も視線をくぐり抜けて仕事をこなした。
時には農村を襲うオーク鬼を退治したり、はぐれの火竜を退治するなどもした。
その時、村人から感謝されたりもしたが、正直なところ何の感慨も涌かなかった。
たが今は違う、皿洗いをしたり重い荷物を運んだり、閉店後の後かたづけをして、ルイズや他の店員から礼を言われるのがとても嬉しかった。

トリステインの腐敗も、己の名誉欲も、母を蘇らせるという目的も、すべて過去のもの。
今自分がやるべき事は、リッシュモンに復讐する機会が来るまで、ここで与えられた仕事を全うすることだ。

つかの間の平和であったとしても、平和は尊い。
暗闇に光が差し込んだような晴れ晴れとした気分で、ワルドは今日も皿洗いを続けていた。


ルイズは、そんなワルドの変化を感じ取っていた。
仮面のように張り付いた作り笑いではなく、飾り立てもしない健やかな笑みがとても嬉しかった。
思い出の中の、青年時代のワルドよりもずっと魅力的に思えるのだ。
閉店時間が近くなり、ルイズが厨房へと入ってきた、ワルドの隣に並び顔をのぞき込む。
「手伝うわ」
「いや、いいさ、すぐに終わる」
「こんなに沢山皿が残ってるじゃない、私も手伝うわよ」

水場に積み重ねられた食器はかなりの数だった、タワーのように積み重なる食器を一枚一枚手に取り、洗っていく。
ワルドの付けている義手は人間と見紛う程のものだが、精密な動作は完璧ではないので不意に力がかかってしまう。
昨日、それで二枚も皿を割ってしまったので、ワルドはおそるおそる食器を洗っていた。

ルイズが横から手を伸ばすと、皿を左手に持ち、右手でキュッと音を立てて拭う。
すると不思議なことに、ルイズが手で拭った箇所が、汚れ一つ無いほど綺麗に磨かれていた。
「…?」
ワルドが首をかしげると、ルイズは掌を見せた。
ルイズの手のひらは、銀色の毛で覆われており、ブラシのようになっていた。
手首に仕込んだ吸血馬の骨が、黒と銀色の毛を掌に伸ばしていたのだ。
毛の先端は微細で、堅すぎず柔らかすぎない、どんな細かい汚れも落としてしまう。

「便利だな」
「でしょう」

カチャカチャと音を立てながら、食器を洗い続けていると、不意にワルドの動きが止まった。
ルイズは、どうかしたんだろうか?と思いつつワルドの表情を見た。
そこに居るワルドは、かつてニューカッスル城で見たような、感情の見えない顔をしていた。

ルイズの肘がワルドの腕を軽くノックする、ワルドはハッと我に返り、ルイズの方を見た。
「どうしたの?」
「耳を貸してくれ」
ルイズがワルドに密着すると、ワルドはルイズの耳元に口を近づけ、小声で呟いた。
「『遍在』がラ・ロシェールに居るんだが、フーケが何者かに襲われているのを見つけた。相手は……」
「相手は?」
「おそらく、クロムウェルが蘇らせた、ウェールズの近衛兵だ」
「…!」

ルイズの表情が、心なしか厳しくなり、髪の毛がほんの少しだけ逆立つ。
「洗い物は頼むよ、僕は先に部屋に戻る」
手の汚れを軽く洗い落として、ワルドは部屋へと足を向けた。

「…助けてよ、お願い」
ルイズの呟きが、やけにハッキリと聞こえた。

445仮面のルイズ:2007/12/15(土) 13:48:43 ID:/YCsSzJs
ワルドは、他の店員達に顔を見られぬよう、俯いたまま部屋へと戻っていった。
怒りでも悲しみでもない、目の前の敵を排除するという目的のために、ワルドの表情は凍り付いていく。
その顔を見られたくないのだ。

部屋に入ると、ベッドの上に転がり、目を閉じた。
マチルダ・オブ・サウスゴータは、魔法学院での名をロングビルといい。盗賊としての名を土くれのフーケという。
彼女がどんな理由でラ・ロシェールにいるのか解らないが、とにかく今は彼女を助けるために尽力せねばならない。

ワルドは、トリステインで最も多く、また長距離にわたって遍在を使えると自負している。
『魅惑の妖精亭』で本体は身を隠し、遍在を使って各地の調査に当たらせていたのだ。

だが、遍在ばかりに頼っては居られない、レコンキスタからの暗殺者や、そのあたりのごろつきに『魅惑の妖精亭』が襲撃されるかもしれないのだ。
だから本体にもある程度の精神力を残しておく必要があった。
だが、今はそんなことも言ってられない。
全精神力を遍在に配分し、本体が気絶するまで精神力を使い、全力でフーケを助けるつもりなのだ。


ルイズは、フーケを信頼している。
そしてフーケもまたルイズを信頼している。
仮に、フーケがレコン・キスタに捕らえられたとしたら、水の魔法などで『騎士』の正体がルイズだと知られてしまうだろう。
それを防ぐためには、フーケを殺してしまうのが一番良いのだ。

だが、ルイズは『助けてよ』と言った。

甘い、甘すぎる。
容赦なく敵兵を殺す吸血鬼でありながら、心を許した仲間には甘い。
だからこそ自分はルイズが好きなのだろう。

そんなことを考えながら、ワルドは目を閉じて意識を集中させていった。

446仮面のルイズ:2007/12/15(土) 13:49:30 ID:/YCsSzJs
ロングビルは、シエスタとモンモランシーを送り出した後、オールド・オスマンに頼み休暇を貰っていた。
アルビオンに残している身内が心配なので、休みが欲しいと申し出たのだ。
ロングビルの故郷はアルビオンである、現在はなりを潜めているが、戦争をしていることに違いはない。
ラ・ロシェールからアルビオンに行くには、密航しか方法がない。

オールド・オスマンはロングビルを引き留めたが、ロングビルの決意を崩すことはできなかった。


事実、ロングビルは焦っていた。
ティファニアに物資を援助している商人と、このところ連絡が付かない。
その上、ルイズから渡されたメモには、ティファニアが虚無の使い手であり、レコン・キスタが虚無の使い手を捜していることまで書かれていた。
レコン・キスタからワルドに与えられた任務の一つに、『始祖のオルゴール奪取』があった。
レコン・キスタが虚無の使い手と、キーアイテムを探しているのは間違いない。

ルイズはロングビルに気を利かせたつもりだが、逆にそれがロングビルを焦らせることになった。
ロングビルの熱意に負けたオールド・オスマンは、ついに休暇を認めたが、危険を感じたらすぐに帰ってくるようにと何度も念を押した。





そして今、ロングビルはラ・ロシェール近くの旅籠で盗賊に襲われ、街の外に逃げ出していた。

森の中で、左の上腕に火傷を負い、荒く息をついている。
ただの盗賊が相手なら、ここまで後れを取ることも無かったが、メイジ崩れの盗賊があいてでは分が悪い。
その上、かなりの訓練を積んでいるのか、統率のとれた動きでじわりじわりとロングビルを追いつめている。
「はぁッ…はぁ…ちくしょう、ちくしょうっ…」
絶体絶命だった。

一人、二人、三人、四人と、敵が姿を現していく。
相手はおそらくトライアングル、それが四人。
火、土、水、風で構成された部隊が相手では、フーケの勝ち目は皆無だった。
「…ただじゃやられやしないよ…!」
そう言って、折れた杖を構える。
すると、距離を置いてフーケを取り囲んでいた四人も、杖を構えた。

フーケは、正面にいるメイジの姿を凝視した、薄汚れたローブは胸の前が裂けており、鉄でできた角が深々と刺さっている。
この盗賊達は、フーケが練金で作り上げた槍を食らい、一度は倒れたのだ。
それで安心していたのがいけなかった、死んだはずの盗賊達が内蔵を引きずりながら起きあがり、魔法を使ってきたのだ。
風の魔法を防ぎきれず、フーケは杖を折られてしまった。
「冗談じゃないよ、ゾンビかい?」
心なしか、フーケの声は震えていた。
ゆっくりと、フーケを囲う包囲網が狭まる。
正面にいる男がぴたりと歩みを止めると、不意にフーケの視界が白く濁った。

447仮面のルイズ:2007/12/15(土) 13:50:39 ID:/YCsSzJs

「ふあ…」
身体から力が抜け、あくびが出る。
まずい!と思ったフーケは、頭をかきむしり、髪の毛を引っ張って眠気に耐えた。
(ああ、これはスリープ・クラウドだ、私を眠らせる気なのか、このゾンビどもは)
強烈な眠気に耐えきれず、意識を失いそうになったその時。

目の前のから、ごろりと首が落ちた。

「!?」
驚いたフーケの後ろで、ドンッと爆発するような音が聞こえた。
後ろを振り向くと、もう一人の盗賊が、何かの魔法で吹き飛ばされ宙を舞っていた。
突風が吹き荒れ、風の刃が盗賊を切り刻む、特に念入りに首と胴を切り離され、ズタズタになった体が地面に落ちた。

残った二人の盗賊は、フーケではなく、突然現れた敵に向けて杖を構えた。

「死人を使って女を襲うとはな」

(どこかで聞いた声がする、そうだ、ルイズの連れていた男の声だ)



薄れゆく意識の中で、フーケはワルドの戦いを見つめていた。
エア・ニードルとエア・スピアーを駆使して、容赦なく首をはねるその姿は、死神のような雰囲気を身にまとっていた。

手際よく切り落とされた首が転がり、フーケを見る。
ぱくぱくと数秒間口を動かすと、それっきりピクリとも動かなくなった生首が、フーケをじっと見つめていた。
フーケは、生首の瞳を眠そうな眼で見返すと。

(ざまあみな)

と呟いて意識を闇に落としていった。


To Be Continued→

448仮面のルイズ:2007/12/15(土) 13:52:55 ID:/YCsSzJs
以上です。
どなたか代理投下お願いします。

449名無しさん:2007/12/15(土) 13:53:10 ID:TugjAbdE
代理投下ギリギリで終了
ラストに投下終了って入れようとしたらサルさん食らっちゃったよ
仮面さん乙

450ポルジョルの中身:2007/12/17(月) 00:23:03 ID:IK2G2Vw.
色々とやってみたけど無理だった。別の専ブラ探そうかと思う…

どなたか代理投下をお願いします。
何故か外伝だけあっさりできたので、今回はこちらだけにします。

451外伝6 コロネとメロンは世界を救う ラルカス著:2007/12/17(月) 00:24:06 ID:IK2G2Vw.

領地の境界から屋敷まで一日をかけてたどり着いた屋敷でジョルノは壁際に置かれている様々な彫刻にジョルノは見入っていた。
大理石で出来た少年の像。今にも動き出しそうな躍動感に満ちた一匹の獣に挑む勇壮な男の像。この世界の英雄達らしき像。
薄布を纏った少女。ヴィーナス。etcetc…土の魔法で作られたそれらはどれも素晴らしい出来だった。
滑らかな表面には傷一つ無く、製作者の意志が込められ時には写実的でないものや不自然なポーズで固定されたものもある。
だが年代が古い物もあるだろうが、全て固定化の魔法により腐食や変色が防がれ埃なども丁寧に取り除かれている。

「見事な彫刻ですね」
「お気に召しましたか? 確かそれは…三百年ほど前のトライアングルが製作したものと聞いております。あぁそちらはこの屋敷の主人であるヴァリエール公爵の手による物で」

周りを警戒するように右へ左へと世話しなく目を動かしながら、説明するバーガンディ伯爵にジョルノは顔を向けた。

「ほぉ、ヴァリエール公爵が?」
「はい。ヴァリエール公爵は彫刻などを始めとした芸術に強い関心を持っておられるだけでなく、ご本人も土系統の魔法による彫刻制作で高い評価を得ておられます」

説明を聞くジョルノの周りでは深く帽子を被ったテファも、並べられた彫刻やそれ自体が芸術品に値する程の細かな細工が施された壁面などを興味深そうに眺めている。
ラルカスも貴族らしく多少は芸術方面に造詣があるらしくテファが興味を持ったものを一つ一つ丁寧に説明していた。

所でトリスティンを始め、この世界では絵画に名画と呼ばれるものは殆ど無い。
貴族達は魔法を使えば然程時間をかけずにジョルノが眺めているような石像が作れてしまうからだ。
水魔法で水や油を動かすことはできるが、色を作ったり配置したりするセンスも要求されてしまい彫刻に比べ長い時間がかかる。
その時間に見合うものができないというのがハルケギニアでの評価であり、その評価故に志望する人の数が少なくなり作品数もすくなくなるという状況なのだ。
ちなみに平民の手仕事には芸術は行えないとさえ考えている者が多い為平民の芸術家はほぼいない。

「ところで伯爵…なにか良いフレーズありませんか? 実はまだ彼女に贈る詩ができてなくて」
「一度位できなくても「駄目です!ワタシの命が危ないでしょう!?」

震えるバーガンディ伯を見てジョルノはため息をつく。

452外伝6 コロネとメロンは世界を救う ラルカス著:2007/12/17(月) 00:24:41 ID:IK2G2Vw.
メディチ家歴代の美術コレクションを収蔵するウフィツィ美術館やミケランジェロの傑作『ダヴィデ像』が所蔵されているアカデミア美術館には及ばないが…
このヴァリエール家所蔵の品々は十分美術館と呼べる程の品揃えがあるというのに、何故婚約者に震える年上男の為に詩なんぞ考えなければならないのか?
ここに到着するまでも含めて、これで8回目となればジョルノの口からため息が出るのも仕様が無かった。

「では代わりの物を送ってはどうです?」
「念のために用意もしてありますが、やはり女性には詩や花が受けが良いらしくて…」

まぁ彼女の実家がコレですから普通のプレゼントでは満足できないのかもしれませんが、とバーガンディ伯は自嘲気味に笑った。
そういうものかとジョルノは適当に相槌を打つ。
こちらの女性で仲がいいのはテファ位だったし、元の世界でも女性経験が豊富とはいえないジョルノには判断が付かなかった。
母親に問題があったせいかジョルノは、平均的イタリア人男性程軽薄にはなれない性質だった。

「お待たせしてすまない、バーガンディ公爵。よく来られた」
「ヴァリエール公爵!」

かけられた声にバーガンディ伯が振り向く。
ジョルノ達もそれに習うように声のほうを向くと、初老の男女が穏やかな笑みを浮かべつつジョルノ達の元へと歩いてくるのが見えた。
バーガンディも笑顔を浮かべてそれを出迎え、ジョルノは一歩引いて声をかけられるのを待ちながら今暫し彫刻を眺める。
確かにこのヴァリエール公爵は血筋を辿れば王家にたどり着く程のこのトリスティンでも有数の貴族だ。
だが仲良くするべき相手かどうかというと、微妙な所だ。
長い歴史を持つ。それは彼らの中では美点だが、平民が金で地位を買い貴族になるゲルマニアにおいては古くからいる貴族と親交がある事に嫌悪感を持つ者もいるのだ。
そしてそんな者達こそ今上がり調子だったりするのだから、ジョルノとしては今回はどんな相手か見ることができればそれでよかった。

「すまないがエレオノールはあいにくと急な用ができてお会いする事ができない」
「そ、そうですか! いやぁ残念です。HAHAHA」

今のバーガンディ伯爵の態度では彼の紹介でヴァリエール家と親交を持っても長く続くとも思えないというのもあった。
馬車内でも少し話を聞いたが、本当に結婚できるのか?
ジョルノにはそれが疑問だった。

「ネアポリス伯爵、でしたかな? 初めまして。彫刻に興味がおありですか?」

未来の義理の息子を伴い、ヴァリエール公爵はジョルノの隣に立った。
手が差し出され、ジョルノはその手を取る。

「初めまして。ええ、私も芸術には少々興味があります。この石像、公爵の作品だという事ですが…」
「ええ、私も土系統を得意とするメイジ。練習がてら始めた事がちょっとした特技に成ったというわけです」

ジョルノは公爵の返事を聞きながらその薄く色づいた大理石の像を眺め、ついで公爵の隣に立つヴァリエール公爵夫人を見る。

「奥様ですか。初めまして、ジョナサン・ブランドー・フォン・ネアポリスと申します…公爵、この像はもしや奥様をモデルにされたのでは?」
「おや、おわかりになりますか!」

公爵は照れたようにジョルノの言を認め妻の方をチラチラと見た。
ヴァリエール公爵夫人は、一歩引きジョルノにも軽く挨拶をしただけにとどめていたので、ジョルノも彼女の手の甲に挨拶をしたりはしなかったが。
ジョルノはそれを不気味に感じていた。
夫人はバーガンディ公爵より年上の娘がいるとは思えない程若々しく見えるし、身長だけで言えばテファよりも小柄な女性だ。
が、その視線の動き、そこから感じられる微かな表情は、公爵などより余程手ごわい相手のようにジョルノには感じられた。

453外伝6 コロネとメロンは世界を救う ラルカス著:2007/12/17(月) 00:26:29 ID:IK2G2Vw.
「ええ、奥様への想いの強さでしょうか。ここに飾られた石像の中でも特に苦心が窺えます」

畏怖とか色々と感じられましたとは言わなかった。
ただ視線を交わす。奇妙だがそれだけで分かり合える確かなものがあった。

だがジョルノは既に公爵から視線を外している。
これで確認できたからだ。

このヴァリエール家の真の支配者が誰であるか…
彼らの視線が交わるその一瞬、たったの一秒にも満たない時間が齎した深い共感を、ヴァリエール公爵夫人は敏感に感じ取ったのを理解したからだ。
彼女の小さな手が微かに揺れて…公爵の背中に滝のように汗が流れ始めたのはジョルノの勘違いではないだろう。

先ほどまでの深い共感から芽生えた同士への暖かい視線が今は間逆の冷たいものへと変わっているからだった。
今度はヴァリエール公爵から視線を外したジョルノの手が動き、少し離れていたテファが夫妻の前に来る。

「ご紹介するのが送れて申し訳ありません。私がさる方からお預かりしているティファニア嬢と、私の「使い魔のラルカスと申します。公爵様」」

ジョルノに紹介されるまでもなくラルカスはガリア貴族としての作法に乗っ取りヴァリエール公爵夫妻に挨拶をする。
それを見た夫妻は眉を顰めた。
亜人が使い魔となるという話は夫妻にしても聞いた覚えが無い。
だがその脅威度から犬や猫、カエル等よりは上だと認識している。
メイジの腕を知るには使い魔を見ろ、そう末の娘にも教えている夫妻はジョルノのメイジとしての腕を高いものと考えたようだ。

「亜人を使い魔としているとは…伯爵の事は主にビジネスの世界で噂として聞いておりましたが、メイジとして優秀でおられるようですな」
「戦闘は得意ではありません。彫刻なども…あぁ一つ。治療に関しては多少覚えがありますが」
「治療? ですと」

夫妻の間に緊張が走る…テファの胸をヴァリエール公爵が見たからだけではない。
いや、確かに公爵は更に流す汗の量を増やしていたが、何か彼らにとって重要なことに踏み込んだのかもしれない…ジョルノにはどーでもいいことだったが。
ジョルノとしてはさっさとテファを紹介させて欲しかった。
テファが今後どうなっていくかはジョルノにもわからない。

だが、テファの母は今アルビオンの貴族派との戦争において劣勢に陥っているというアルビオン王家の国王の弟の妾だった。
当然テファの父はその国王の弟であり、テファがその事を証明すれば王太子ウェールズに次ぐ王位継承権を得てしまうのは明白だった。
もし表に出る事になった場合、テファは妾との子供でしかもエルフというハンデも背負ってという事になる…

そんな考えが浮かべば、たかが大貴族夫妻相手に挨拶位はしておかせたかった。
テファが緊張した様子でジョルノを少し見上げたが、ジョルノは笑顔を見せじテファの手を引いてやるだけに留めた。

「ええ、体に空いた穴位なら修復して見せますが。さ、お二人に「ネアポリス伯爵。折り入ってお願いしたい事があります」
「カリーヌッまさか!?」
「はい。見ていただいたほうがいいでしょう。治癒だけを見れば、これほどの腕のメイジに出会ったことはありません」

妙な事になってきた。
ジョルノは思わぬ展開に戸惑う牛とテファは置いてきたほうがよかったかもしれないと思った。
そんなジョルノ達の事など見えていないように夫妻は見つめあい、言葉を交わすことも無く公爵が負けた。
幾分肩を落とした公爵がジョルノに遠慮がちに言葉をかける。

「ネアポリス伯爵。貴方の腕を見込んでお願いします。私の娘を診察していただきたい」
「…まずは詳しい話を聞かせていただけますか?」

少し考えてから、ジョルノはそう答えた。

頷き、ヴァリエール公爵はジョルノらを別の所へ…その一度ジョルノに診せたい娘の下へ向かいながら説明する。
ヴァリエール公爵家には3人娘がいる。
長女はバーガンディ公爵を恐れさせている程キツイが、今は王都だ。
末娘もどうやらキツイ性格だが魔法が苦手らしい。今は魔法学院だ。
その二人の間に挟まれ、どういうわけか二人とは全く逆の特徴を備えているのが、これから引き合わされようとしている次女カトレアだという。

つまり性格が大らかで病弱、胸が大きいってわけですか。
ヴァリエール公爵がカトレアの部屋に入り説明をする間部屋の外で待ちぼうけを食らったジョルノは冗談半分にそう考えたのだが…
公爵が部屋から出て、ジョルノ達に部屋に入るよう促す。
カトレアの部屋に通されたジョルノは…ついさっき冗談半分に考えた通りのカトレアらしき女性を目にして少し頭が痛くなった。

「今度のお医者様はとてもお若いのね。ごめんなさいね、こんな格好で」

454外伝6 コロネとメロンは世界を救う ラルカス著:2007/12/17(月) 00:27:53 ID:IK2G2Vw.

部屋に入ってきたジョルノを見て、動物に囲まれて大きなベッドに横たわっていた二十そこそこの女性が上半身を起こす。
優しい性格で、怪我をした動物などをよく拾ってくるとは公爵から説明を受けていたが、その周りにいる動物達の種類、動物達が体を起こそうとするカトレアを気遣うような動きを見せたのに、ジョルノ達は驚いた。

「いえ、そのままにしてください」

彼女がカトレアらしい。見知らぬ侵入者に動物達が少し警戒するような動きを見せ、カトレアがそれを嗜める。
母親と同じ桃色がかったブロンドだが、表情…とりわけ眼差しが穏やかで、向けられると奇妙な安心感が心の隅に沸くのをジョルノは感じた。
寝巻きに包まれたプロポーションは女性らしく成熟しており、寝巻き姿で客を迎える事に恥じらいを覚えるような人でもあるようだ。

「初めまして。ジョナサン・ブランドー・フォン・ネアポリスです。ご説明があったと思いますが、貴方のお父上から一度貴方を診るよう頼まれました」
「ジョナサン?」

それに、勘も鋭いかもしれない。
入った所で足と止めていたジョルノは少し部屋に足を踏み入れ、次いでテファとラルカスも部屋に入り順に自己紹介をする。
ジョルノはその間に未だ警戒を解かない大きな蛇を目で圧して、カトレアの傍に寄った。
テファとラルカスの自己紹介を聞きながらも、その動きを見逃さなかったカトレアは微笑を浮かべてジョルノを迎えた。

「貴方の事はジョナサン君でいいのかしら?」
「ご自由に。シニョリーナ。キスのご挨拶をしてもよろしいですか?」

手のかかる子供でも見るような目に微かに戸惑ったジョルノは軽口を一つ叩いてみた程度の気持だったが、その一言で蛇やら鳥やら、カトレアに拾われた動物達が逃げ出し始めた。
ヴァリエール公爵の放ち始めた圧迫感のある雰囲気のせいだ。
ラルカスも少し軽薄とも取れる態度が気に入らず止めろと目で告げるが、ジョルノはラルカス達に背を向けている。
祈る事。ラルカスにできるのはそれだけだった…カトレアも戸惑ったような表情を見せていた。

「まあ!」
「…変なことを言いましたか?」

動物達が逃げるのを見たジョルノはそう尋ねた。
カトレアは首を振り恥じらいとちょっぴり残念そうな顔をする。

「いいえ。私、貴方のような若い紳士の方に言われるのは初めてだったの。でも私はこんな体ですから、何かうつってしまうかもしれないわよ?」
「そんなことを言う人がいたんですか?」
「私の体のことが何も分からない方は時折そう…お父様、どうかされましたか?」

苦笑したカトレアの言葉を聴きながら、ジョルノは柔らかい掛け布団に少し沈むカトレアの手を取りその指先と甲に口付けをする。
少し冷く、細いというより痩せた手だった。

「ネアポリス伯…! すまないがさっさと見てやってくれませんかね」

堪え切れなかったのだろう。ヴァリエール公爵の怒りの篭った声が背中にかけられ、ジョルノはカトレアの手を掴んだまま彼女の額に手を当てたりして診察していく。
カトレアにそういう態度を取ったメイジがその後どーなったかは尋ねないほうがいいのだろうなとか考えながらだったが。

今にも爆発しそうな公爵を宥める夫人の声を聞きながら係りつけのメイジや今までカトレアを診たメイジの記録を読んでも見たが、大した記録が残されていない…
患者の容態をしっかりとした記録を取って残すという考えが一般的でないのかもしれないし、ヴァリエール家としては残したくないか残してしまわない方がいいとメイジ本人が考えているのかもしれない。

その辺りは想像するしかないがこれでは詳しい状態を知るのがジョルノ一人の感覚になり、ジョルノの感覚や知識が間違っていて誤認してしまう可能性も高まる。
波紋によるスキャンに加えて、ジョルノは誤認を減らす為にカトレアに幾つかの質問をする。
水系統のメイジなら、カトレアの体を流れる水から彼女の体調等を感じ取ってしまうので余りそうした記録は取っておかないのかもしれないとちょっと不思議そうにしたカトレアを見てジョルノは思った。

455外伝6 コロネとメロンは世界を救う ラルカス著:2007/12/17(月) 00:28:43 ID:IK2G2Vw.
フーゴと一緒に集めて作っていた亀書庫には医学書も一揃いあり、一応目は通してある。
何せ多少特殊とは言えメイジのふりが出来たほうが便利になりそうだからだが…聞くに連れて表面上はともかく、ジョルノの内面は揺れた。
ここにたどり着くまでの会話からもどうしようもないのでは?
という考えが既に浮かんでいたが、蓋を開けてみれば全くその通りでジョルノにはどうにもできないようだ。

ゴールドエクスペリエンスは体の部品を作り埋め込むことで治療を行う。
それにある程度の病なら亀の中に常備されている薬をやればいい。
抗癌剤さえ少しはある。その位の物になるとジョルノの知識で投与するのを決めてしまうのは問題があるが。

唯一効果がありそうなのはポルナレフの話から訓練を続けている『波紋』だったが、ジョルノの波紋ではどれほどの効果があるかわからない。
ジョルノの波紋は所詮壁に張り付く程度の能力。
ポルナレフの話に出てきたジョセフやリサリサなら違うのだろうか…?
多少無力感を感じるジョルノにテファが声をかける。

「ジョナサン、治してあげられそう?」

ジョルノへとかけられたテファの質問はその場の全員が思っていることだった。
ヴァリエール家の三名は半ば諦めているが…何せ今までに様々な医者を連れてカトレアの治療を頼んできたのだ。
かけた金額をそのまま領民に分ければ何割かは年単位で働かずとも暮らしてゆける。
カトレアの体に良い食べ物を手に入れる為、医者を連れてくる為、医者が必要だといった薬の材料を得る為に支払った労力をかければこのヴァリエール領はモットモット発展していただろう。

そう言ってしまえる程度のことをヴァリエール家は行ってきたが、結果はこの様だったのだ。
いや、カトレアが今生きているのはそれ位の事をしたからかもしれない…一歩引いていた公爵夫人が公爵を差し置いて出てジョルノに言う。

「ネアポリス伯、はっきり言ってくださって構いません。無理なのでしょう?」

ジョルノは頷いた。

「はい、私には治せません。私には貴女の痛みを和らげることしか出来ないでしょう」

公爵は肩を落とす妻を抱き寄せて慰めの言葉をかける。
今よりも体調が良い日が増えるなら僥倖ではないかとか、気休めの言葉を捜す公爵に背を向けたまま、ジョルノはカトレアの手をとり、考え込んでいた。

テファが話しかけてくれたことが、実に良かった。
試してみる価値のある考えが頭に浮かんでいた。

だが…本当にいってよいのだろうか?
思いついた手で目減りするのは自分の物ではない…落胆した空気が流れる部屋で暫し考えたジョルノは決断した。

「ですが、ラルカス、貴方の相棒と変わってもらえますか?」

ラルカスが頷くと同時に若干身にまとう雰囲気が軽くなる。

「なんだジョナサン?」

テファ達の前という事を考慮し、地下水もジョナサンとジョルノを呼んだ。

「俺の力を当てにしてるなら無理だぜ。確かにコイツは俺が知る中でもモノスゲー治療が得意なメイジだが、まだ足りないんじゃね?」

456外伝6 コロネとメロンは世界を救う ラルカス著:2007/12/17(月) 00:29:17 ID:IK2G2Vw.

今度はジョルノが少し落胆する。
ラルカスは自分の体を治療する為に手を尽くしてきた水のメイジだ。
ヴァリエール家ほどの財力などは無かったが、人体…特に治療に関してはスペシャリストと言っていい。
その知識と能力に地下水の能力を+しても治療できないという…予想通りだが、これでテファにお願いするしかジョルノには手が無い。
ジョルノは気付かないようにしていたが、先程から物言いた気にしているテファに声をかける。

「そうですか。テファ、貴方の母上の形見、お借りして構いませんか?」
「ええ!ぜひ使って」

テファは嬉しそうに自分の指に嵌めていた指輪をジョルノに渡す。
ジョルノは礼を言うが、テファは付け加えるようにこう言った。

「気にしないで。貴方が言い出さなかったら、私から言い出してたわ」

そのやり取りに、公爵達は首を傾げていた。
肩身だの、亜人の使い魔が優秀なメイジだの…突拍子も無い話ばかりであるように彼らには感じられていた。
そんな公爵夫妻にジョルノは至って真面目な表情で告げる。

「…公爵。あなた方にいくつか条件があります」
「なんだね」

弱いところを見せた珍しすぎる妻を慰めるのに忙しかった公爵の声は少し憮然としていた。

「治療が成功したらヴァリエール家にはテファの味方になっていただきます。構いませんね?」
「…構わんよ。元よりそのつもりだ。治せればの話だがね」

ジョルノはさわやかだがダーティな笑みを浮かべた。

「ベネ。ラルカス、こちらへ。指輪は貴方の方がうまく使えるでしょう」

巨体に似合わぬ俊敏さを見せて、地下水が操るミノタウロスはカトレアの横たわるベッドの傍までやってくる。
初めて間近に見るミノタウロスにカトレアは怯える所か喜んでいるようだった。
地下水は配置に付き、ジョルノが波紋を流してカトレアの肉体を活性化させていく。

「チッと集中するから待ってくれよ」
「はい、これで無理ならお手上げですから」

かなり本気で二人はぼやき、地下水はミノタウロスの全魔力を込めて魔法を唱えていく。
幸い、ミノタウロスは自分の治療や移植などの経験から医療に関する知識は随一。
必要なスペルもすぐに思いついた。

ミノタウロスの手の中で、テファから預かった指輪の宝石に似た物体が溶けていく。
地下水の指示でそれはカトレアに飲まされ…そして地下水が魔法を唱え終えた。

特に光ったりだとか爆発したりという派手なエフェクトはなかったが…結果から言うと、成功だった。
波紋でカトレアの体を活性化すると同時にスキャンしてもいたジョルノにはそれがよくわかる。

「…わるいが、俺もう限界」
「お疲れ様です。いい仕事でしたよ」

カトレアの体を蝕んでいるのは先天的な疾患だったと言うのにジョルノの波紋によるスキャンで感じられるのは普通の肉体だった。
ちょっと胸など以外が痩せている為、後は健康的な生活を行っていけば完治じゃね?と言えるほどだ。

457外伝6 コロネとメロンは世界を救う ラルカス著:2007/12/17(月) 00:29:48 ID:IK2G2Vw.
「ネ、ネアポリス伯爵…まさか!?」
「はい。カトレア。貴方の治療は完了しました。後は、良い食事と適度な運動を心がけてください」

治ったとジョルノが言うなり、公爵夫人がジョルノ達を押し退けて娘に抱きつき、公爵が他の医者を呼び事の真偽を確かめさせる為に動き始めた。
本当に治っている事がわかるにつれ、彼らの表情が笑顔になる。

「波紋+水のペンタゴン(スクエア+地下水)+水の秘宝…これで効果がなかったらお手上げでしたが、うまくいきましたね」
「うん…」

だが代わりに、テファの母親の形見でもある指輪の宝石はとても小さくなってしまっていた。
台座に残っているのは滴数滴ほどの小さく薄っぺらい塊だった。
喜ぶヴァリエール親子の傍で、ジョルノはテファのほっそりとした指へ台座の先が無くなったせいで印象ががらりと変わった指輪を嵌める。
テファは治った事を喜んでいたが、指に差しなおした指輪の変わりようを見て、テファの顔が微かに曇るのをジョルノは見逃さなかった。

「ネアポリス伯爵! 今日は宴だ。さっ貴殿には私の心からのもてなしを受けてもらわねばならん…覚悟はいいか?私はできている」

既に酔っ払ったようなテンションの公爵はジョルノの手を引いて、連行していく。
テファは夫人やカトレアに捕まっているようだった。

「まずは風呂だ。息子よ! 準備が整うまでそこでゆっくりと語り合おうではないか!」
「いつから息子になったんですか…」
「息子同然だということだ。貴公は野蛮なゲルマニア人だが、娘を治したとあっては息子同然に扱うしかあるまい!」

後で忍び込んでこっそり治した方がよかったかもしれない。
近すぎる満面の笑みを浮かべた暑苦しい顔に、ジョルノはマジでそう思った。

その後一晩で、テファがエルフとの混血であることはあっさりばれてしまったが、カトレアの大らかさと夫人の冷静さに助けられた。
ヴァリエール家はテファへの援助を惜しまないという事を言葉だけでなく書面にまで残してくれた。
だがヴァリエール家を出たジョルノの表情は余りよいものではなかった。
公爵に色々と勧められ、長話にもつき合わされたから、だけではない。
狭い馬車の中、向かいに座るテファの選択が腑に落ちないのだった。

「それでね、昨日はカトレアさんと一緒に眠ったの」

ジョルノはウンザリさせられた昨夜の事を楽しそうに語るテファの顔をジョルノは眺める。
毎日届く報告書を兼ねた手紙を読みながらだが、まだ相手にしてるだけマシだった。
地下水とラルカスは話に相槌を打つのが面倒なのかそれとも昨日飲みすぎたのか馬車に乗った次の瞬間には寝ると言ってうつらうつらしているのだから。

「なんて言ったらいいのかしら。マチルダ姉さん…ううんお母様に似た感じがして、暖かかったわ」

(まだ痩せ細っているが)健康体になったカトレアと過ごした時間はテファにとって楽しいものだったらしく、ちょっぴり興奮した様子さえ窺える。
そのせいで更にテファがここにいるのが腑に落ちないジョルノだったが、一先ず相槌を打つ。

「母? フーン…普通はあぁいう感じがするものなんですか?」
「え、どうして?」

手紙を読みながら返された返事にテファは首を傾げた。
母親に関して、どういう認識を持っているか…テファにとっては優しく暖かく包んでくれる存在だった。
幼少期の頃の記憶の中で、母と過ごしていた時間は大事なものだ。
広い館の中で過ごしたものだけだが、幸福な記憶…それの終わりが母の死であったように、テファにとって母の存在は幸福な時期を象徴する存在だった。
だがジョルノにとっては違うのだろうか?
テファの視線の意味を悟ったのか、ジョルノは顔をあげた。

「あぁ、僕は育児放棄されてましたから」
「育児放棄?」

こちらの世界にはない単語にテファは首を傾げた。
簡単に言うと、とジョルノは手紙を読みながら教えてやる。

「子育てしないってことです」
「そんな…冗談でしょ?」

絶句して聞き返したテファだったが、ジョルノは同じ事は言わなかった。
ばつが悪くなったテファは重くなってしまったように感じる馬車内の空気をどうにかしたかった。
けれど、いい言葉が思いつかない。こんな時何かを言ってくれても良さそうなラルカスはまだ眠ったままだった。
実の所、おきてはいるのだが昨日行ったカトレアの治療で消耗した魔力が完全に回復しておらずラルカスは眠くて仕方が無かった。

車輪が石に乗り上げ大きく揺れる。

458外伝6 コロネとメロンは世界を救う ラルカス著:2007/12/17(月) 00:31:15 ID:IK2G2Vw.
「じゃあ…私がジョルノのお母さんになってあげるわ」

胸に手を当てて、顔も満面の笑みでそう言われ、ジョルノは一瞬聞き間違えたのかと思った。
コロネを弄りながら顔を上げたジョルノはなんともいえない微妙な表情でテファを見る。
見慣れないジョルノを見たテファは言葉が足りなかったと感じたのかたどたどしく説明を付け加える。

「ええっと、その…昨日カトレアさんが私の事を少し話したらお姉さんになってくれるって…! 私、嬉しかったから」

あの女は何を吹き込んでいるのか。
嘆息して揺れる馬車内でも飲み易いように蓋とストローを取り付けたコップを取り、紅茶を少し飲む。

「僕に母親は必要ありません。僕が死ぬまでそれは変わらない…それよりテファ、どうして公爵家に残らなかったんです?」

いつも通り届いた手紙から顔を上げてジョルノは尋ねた。
出る時、ジョルノはテファにヴァリエール公爵家に、というよりあの優しげでジョルノに奇妙な感覚を覚えさせるカトレアのところに残ることを勧めた。
安全で公爵はともかくカトレアはある程度信頼のおける相手と判断したからだ。
元々孤児院に向かうのが無理になったから緊急避難として一緒に行く事にしたのだから、当然だった。
だがテファは不満そうに言う。前に身を乗り出した瞬間、ラルカスの視線が揺れる一点を見つめていたが、もはや誰も突っ込まなかった。

「だって、ジョルノは亀を探しにいくでしょ? 私はまだジョルノと一緒に旅をしたかったの」
「…そうですか」

ジョルノは困ったように眉を寄せたが、口元は緩く孤を描いていた。
しかし仕事の規模が裏も表も大きくなってきている。
麻薬が一般家庭にも存在する以上、まともな薬を作ったりしなければならない。その為には金が必要なので必然的に規模を大きくするしかないのだ。
その為にジョルノはラルカスに目を向ける。
ラルカスは砂糖が吐けそうな顔をしていたが…「ラルカス、トリスティン王都に行ってもらえますか?このままでは被害が大きくなる」
「行けと命じられれば」

条件反射と言ってもいい速さで返事を返したラルカスは手早く自分の荷物を掴むと馬車の後ろに用意していた予備の馬に飛び乗る。
ラルカスの大きな体を乗せるのに足る馬に、ラルカスは牛の顔で器用に笑みを浮かべた。
だが同時に、ミノタウロスを乗せられるほどの馬をどこから用意してきたのか…手綱を馬車から切り離しながら、ラルカスは考える。
先日合流したばかりだというのに既に大きな馬を用意したジョルノに微かな畏怖を覚えながら、ラルカスは王都に向かって走り出した。

さっさと終らせなければ、まだステップ1で苦労しているとはいえステップ2や3を教わる事ができず、一日の半分とかを地下水に明け渡す羽目になる。
ラルカスはじゃあなんでジョルノはこんな事を命じたのか考えながら、急いでいた。
それを読み取った地下水がふと呟いた。

「…もしかしてテファの胸を見てたのがばれたんじゃね?」
「あ、ありえる…」

さっきも揺れていたメロンとか冬瓜とかっぽい見た目の何かを思い出しながらラルカスは唇を噛んだ。
何故ボスはあの誘惑から目を離していられるのだ…それともそれがあの強さの理由なのか!?
色々と間違った事を考えながらラルカスは叫ぶ。

「うおおおっ!」

ラルカスは馬を走らせたまま手綱から手を離し頭を抱えた。

自分はボスと一緒にいる間何をしていたのか?
波紋呼吸の練習。胸の鑑賞。皿洗い。揺れる胸の鑑sy…そうか! 

不意にラルカスは理解した(ような気がしただけだった)。

459外伝6 コロネとメロンは世界を救う ラルカス著:2007/12/17(月) 00:32:19 ID:IK2G2Vw.

「地下水。私が本能に打ち勝つ為に習っている『波紋』だが、波紋は規則正しい呼吸によって生み出されるのだ」
「そうみたいだが、今更なんだ?」
「胸を見てる私は冷静じゃあないよなぁ? その状態で規則正しい呼吸ができると思うか?」

地下水は何を言いたいのか能力で悟ってしまい呆れて返事もできなかったが、ラルカスは馬上で続ける。

「呼吸は乱れて波紋は練られない…つまり! 呼吸を乱すのは『本能!』だが『本能』を支配した時! (胸を見ないわけだから)呼吸は規則正しく乱れないッ!」
「お前、それくらいにしとけよ?」

忠告にも、ヒートアップしたラルカスは止まらなかった。

「理解したぞボス! ボスが何を考えているのか頭ではなく心で理解した…! 波紋呼吸が出来た時、既に私は『本能』を支配しているんだなッ!」

そう言って頭を抱えたまま雄叫びを上げ続ける牛男に馬の方がびくついていたが、逆に怖くなったのが実に良い鞭となってより速度を上げさせていく。
唯一この場で間違いを正せる地下水は呆れすぎて話しかけられるまで何も突っ込む気になれなかった。

「あの胸を一人鑑賞しようとしたのが間違いだったのか!」
「色々と突っ込んでやりたいがアンタ、牛の本能の前に人として本能を制御しろってことにやっと気付いたのか」
「おおおっ! すまないボス! 全身全霊をかけてこの任務達成し、成長して戻ってみせようぞ!」
「駄目だコイツ…俺がどうにかしないと…」

その雄叫びはジョルノ達にも届いていた。
テファは顔を赤くして胸を抑えている…「ジョルノ。やっぱり、私の胸、おかしいのかしら? だからラルカスも」
手紙を読んでいたジョルノはため息をついてテファへ目を向ける。
浮かんでいる表情は聊か冷たくて、テファは口を噤んだ。

「テファ、それは違います。(こんなこと説明するのも切ないですが)男って生き物はサイズの好き嫌いはともかく女性の胸が好きだし、テファ位の人はあんまりいないんで思わず見ちまうんでしょう」

言われたテファは胸を隠すように、と言っても完全には隠せないが…手で押さえながらジョルノを上目遣いに見た。

「そうなの? やっぱり普通と「普通と違うってことは希少価値ってことでもあります。大抵の男性にとってはとても魅力的ってことです」

何度か瞬きをするテファに、自分が言った言葉を考えてジョルノは馬車の外へと視線を転じた。
言っててなんだが悲しくなったからだ…
読み終えた手紙を仕舞い、新しい手紙を何通か出しながらジョルノはやれやれと首を振った。
今の言い草ではジョルノがわざと牛を横にいさせたように受け取られても仕方ない話だ。

「…ジョルノもそう思う?」

至って冷静な声音のまま解説されたテファは顔を赤くしてそう尋ねた。

460外伝6 コロネとメロンは世界を救う ラルカス著:2007/12/17(月) 00:33:35 ID:IK2G2Vw.
それにジョルノは冷静な視線でテファの全身をザッと見てから返事を返す。

「僕は貴女の胸より目が好きです」
「目? どうして?」

疑っているというよりは単純に疑問に思ったらしいテファにジョルノは言う。

「いいですかテファ。『牢獄』で一人の囚人は壁を見ていた。もう一人の囚人は鉄格子から覗く星を見ていた。そんな話が僕の故郷にはあります。貴方は後者だ」

生まれてからは屋敷の中に、エルフと知られた母が殺された後は村にずっといて人を蔑視する事も敵視もしていない、というのはジョルノには見慣れない価値観だった。
ジョルノなら、自分の運命と決着をつける為に兵士達に復讐するだろう。

「貴女の目は、自然と星を見ている。そこが気に入っています…まぁ、どうしても気になるならこの手紙を書いた子達への返事で相談してみたらどうです?」

取り出した手紙を示しながらジョルノが言った言葉にテファは頬を赤らめて手紙を受け取る。
抽象的な言葉だったが、とても嬉しく思いながら目をあわせていられずに受け取った手紙へ視線を移す。
差出人は、ロマリアの孤児院にいる子供達だった。
何人かで一通書いたらしく、名前を書く欄には良く知った名前が並んでいて自然と口元が緩んだ。

「伯爵、馬車が一台立ち往生してますぜ」

馬車内の空気を吹き飛ばすように、御者台から報告があがる。
ガリアで購入したガーゴイルの声だ。
手紙に気を取られているテファから視線を外し、ジョルノは窓から顔を出す。
見ると、少し先で確かに馬車が一台止まっていて…この場所にはいないはずの人が地団駄を踏んでいる。

「イザベラ様。こんな所で何をしてるんです?」
「な、何を言ってるのかねぇ…わ、私はガリア王女なんかじゃ…」

傍に停車した馬車の窓から出たジョルノの顔を見て、特徴的な青い髪をそのままにしているくせにとぼけようとしたイザベラは言葉を失った。
捨て置くわけにもいかぬしと、停車を命じたジョルノは馬車をおりてイザベラの前へと出て行く。

「どちらへ向かわれるんです? よろしかったらお送りしますが」

放っておくって手も無いわけじゃなかったが、ジョルノはそう申し出た。
ここから人のいる所までは歩いていくには聊か距離がある。
見ればイザベラだけでなく足を痛めた馬を労わる御者などもいて、放って置けば彼らが必死で走らされるのは目に見えていたからだ。

「え…そ、そうだね! どうしてもって言うならアンタのその馬車に乗ってやってもいいよ」
「ええ、どうぞこちらへ」

無理をさせられ潰れた馬に一瞬哀れむような目を送り、ジョルノはイザベラを伴い馬車に戻ろうとする。
イザベラはこんな所からはすぐに離れたいのか、駆け足で馬車へと向かっていく。
乗っていた馬車の事など忘れたように見えたので、ジョルノは念のため、残されるものの処遇について言っておくことにした。

461外伝6 コロネとメロンは世界を救う ラルカス著:2007/12/17(月) 00:34:46 ID:IK2G2Vw.
「馬は後で迎えをやりましょう。治療の手配も必要ですね」
「フンッ、あんな柔な馬潰してしまえばいいのさ。それと、私は今お忍びなんだ。名前は「イザベラ」ゲルマ…!」

愚痴を遮られ、呼び捨てにされたイザベラは振り向き声を失った。
イザベラがそんな目を向けられる事など殆どなかったとはいえ、見下ろすジョルノの視線はそれ程冷たく鋭かった。

「僕の馬車に乗る以上、それに身分を隠されている以上僕のルールに従ってもらいます。いいですね?」
「なん…う、ん」

言い草がイザベラの癇に障り、尊大かつキツイ言葉を叫ばせようとしたが、ジョルノにはそれを言わせぬ凄みがあった。
ジョルノにとってはさほど険しい顔を見せたわけではなかったが、父ジョゼフから見捨てたような態度で送り出されたせいもあったかもしれない。
王女である事を隠すため、普通の貴族となんら変わらない装束をした現在のイザベラには軽い目に見えぬ圧力にも過敏だった。

その態度をジョルノは少し妙に感じたが、ジョルノ達の馬車の後方から聞こえ始めた馬の蹄が地面を蹴る音にあっさりと考えの外に置いた。
イザベラも音を聞いたのだろう。体が一瞬大きく振るえ、それまでよりもっと急いでジョルノの馬車へ向かう。

だが、馬車に付くより早く、木々に挟まれた道に一頭の馬が現れる。
逞しい筋肉の動き、何よりその大きさから一目見てそれが軍馬だということがわかる。
しかし乗っているのはローブを深く被り素性が分からぬようにした男、…その男はイザベラを見て杖を懐から抜いた。

流れるような動きで、その男は杖を動かしている。
何か魔法を使うつもりだと思うより先に、ジョルノは懐から取り出した拳銃で馬の銅を撃っていた。
地球の技術を取り入れた拳銃とはいえ拳銃ゆえに、射程距離は然程長くは無い為だ。
口径も小さく、その場にいた人間や動物達を驚かせる事は出来たが、馬を殺すには至らない。

一瞬、音に驚いて詠唱を止めた男が撃たれた痛みに慄く馬から落ちる。
馬は撃たれた痛みにもがき苦しみ、馬自身危険な程急激に体制を崩していた。
ジョルノはそれを確認することなく彼らに近づいている。

攻撃の為の魔法を唱えていた男は、レビテーションも間に合わず今しがたジョルノの馬が通って出来たわだちに顔を突っ込みそれでも止まらず空中で回転し背中を強打する。
イザベラが悲鳴を飲み込むのを背中に感じ、徐々にその男との距離を詰めながらジョルノは男の肩に銃弾を打ち込む。

命中精度がまだ低く、威力もこの距離でもまだ致命傷を与えるには至らないが悲鳴を上げさせたり魔法を唱えられないような状態に追い込むのには十分だ。
それでも杖を落とさない胆力は褒められたものだが、ジョルノはやっと十分な距離に近づいたことを安堵しながら男に問いかけた。

「なんです? 目的と誰の手の者か吐けば命は助けてあげます」

男はそう問いかけられるまで熱いだのなんだのと喚き散らしていたが、「ごぶっ…王権の…簒奪」

「あぁなるほど」

ジョルノが呟き、男の顔面に銃弾を打ち込まれる甲高い音が辺りに響き渡る。
ゴールドエクスペリエンスで男の身元などを確認する物が無いか調べながら、ジョルノは青ざめた表情で震えるイザベラを見やった。
襲撃者の狙いが自分だったからだけではない。銃声を聞くのは初めてなのかとても驚いているようだった。

462外伝6 コロネとメロンは世界を救う ラルカス著:2007/12/17(月) 00:35:49 ID:IK2G2Vw.
スタンドを飛ばすが、襲撃者は他には見えない。
持ち物からすると他にも仲間がいるはずだが…一枚岩ではないのかもしれない。
おつむが間抜けなお陰で襲撃者が誰かなど色々と足の付きそうな物を取ってから、ジョルノは最初に銃弾を打ち込んだ馬へと歩いていく。
暴れそうになる馬を容赦なく戻しておいたゴールドエクスペリエンスで殴りつけて静かにする。
ついでにジョルノは能力で傷を治し、ジョルノはイザベラを馬車へと誘った。
だがイザベラは警戒心を露にして一歩も動こうとしなかった。
今しがた襲撃を受けたと言うのに誘うのはおかしい…そう考えたようだ。
そう考えたジョルノに対してイザベラは後退りながら言う。

「あ、あんた…目的と誰の手の者か吐けば命は助けるって言ってたじゃないか。なのに…」

ジョルノにとっては当然過ぎて気付かなかったが、今見せたばかりの容赦ないジョルノの姿がイザベラを恐怖させているらしい。
ぶっ殺すと思った時には既にぶっ殺した後、というのが常識の世界に生きているのだが、こちらは暗殺対象になるような人物でも違うようだ。
ジョルノのことも怪しむイザベラにジョルノは言う。

「僕は貴女を殺しません…僕は今の貴女を踏み台にして喜ぶほどゲスではありませんからね。一人でどうにかするという貴女におせっかいを焼くほど世話好きでもありませんが」

言うなり置いていこうとされては、歩いて目的地に向かうという考えが頭に無かったイザベラは去っていこうとするジョルノの後についていくしかなかった。
そして…馬車に残されたテファは我が目を疑っていた。

『神父様がエルフと新教徒とだけは喧嘩していいって言うんだけど…テファお姉ちゃんはエルフじゃないよね?』

「テファ?どうかしましたか?」
「う、ううん! な、なんでもないの…そうだわ。カトレアさんが話したがってたから、今度お手紙を送るのはどうかしら?」
「…まぁ構いませんが」

戻ってきたジョルノはテファの反応から、手紙に何か書かれている事を知ったが…イザベラが乗ってきたので気付かない振りをした。
ジョルノ宛にも一通だけ、勉強の出来た子供から手紙が届いているのでそれを読めば事情が分かる…そう考えていた。

463外伝6 コロネとメロンは世界を救う ラルカス著:2007/12/17(月) 00:42:39 ID:IK2G2Vw.
以上です。

前はローマって名前にしてたんですが、書いてて嫌になったんで「ネアポリス伯」に変更しました。

464名無しさん:2007/12/17(月) 00:47:36 ID:hjkcosHI
GJ!
アンデルセン神父自重w

465名無しさん:2007/12/17(月) 01:20:17 ID:TZhX.zoM
ジョルノ怖eeeeeeeeeeeee!
テファは意外とあっさりヴァリエール家に受け入れられたな、でもカトレアとママンに気に入られたらもう勝ったも同然だよな…
そしてイザベラ様とラルカスにGJだ

466名無しさん:2007/12/17(月) 03:42:54 ID:/SbOUexA
GJ!
イザベラ様の今後がきになるぜ!!
テファとイザベラ様の絡みとか初めて見ることになるので楽しみ

467名無しさん:2007/12/17(月) 08:57:23 ID:6xUQbxsw
GJ!
ジョルノの偽名のフルネームを見て何かジーンとした
カトレアの病気が治ったのも嬉しかった
あと、タイトル見て法皇出るのかと思ったのは多分自分だけw

468名無しさん:2007/12/17(月) 09:00:05 ID:Ck6Gu3TQ
>467
やあ俺

メロンって聞くとやっぱりそう思っちゃうよね

469名無しさん:2007/12/17(月) 23:47:38 ID:TifctPsc
俺はパソコン持った変態だと思ったZE

470仮面のルイズ:2007/12/18(火) 18:29:11 ID:l8ewUCEw
「それで、この女性を宿屋に放り込んだ後、その男は煙のように消えてしまったんだな?」
「はい、金貨を渡されまして、『丁重に休ませておけ』と言われました」
「もう一度聞くが、顔は見ていないんだな?」
「はい、帽子を深く被っておりましたので…あ、ただ、薄いグレーの髭を蓄えておりました。声も低めでしたが、重々しい感じではなく、二十代そこそこの貴族様かなぁ…と」
「ふむ……」

ラ・ロシェールの宿屋で、女騎士が店主に質問をしていた。
剣と銃を携え、シュヴァリエのマントを着けたアニエスである。
昨晩、怪我をした女性がメイジらしき男に担がれ、宿屋に放り込まれたと聞いて、事情を調査するため駆けつけたのだ。
アニエスは、その女性が誰なのか知っていた、アルビオン出身の元貴族、マチルダ・オブ・サウスゴータ。


事情を一通り聞いたアニエスは、マチルダの眠っている部屋に入り、備え付けの椅子に腰を下ろす。
マチルダがぐっすりと眠っているのを確認すると、窓の外に目を向けた。
ラ・ロシェールの岩壁や建物は、『レキシントン』からの砲弾で所々が傷ついており、壁面には傷を修復する人夫とメイジの姿が所々に見えていた。

『練金』で修復される壁面や建物、メイジの便利さが羨ましくなって、アニエスは再度マチルダに目をやった。

彼女は腕と肩に包帯を巻かれ、寝息を立てている。
椅子の背もたれに身を預けて、アニエスは昨晩の出来事を思い返していた。

アニエス達銃士隊は、基本的に近衛か、親衛隊待遇で扱われている、だがそれ以外にも『情報収集』という役割が与えられている。
トリスタニアに亡命政権を構えたウェールズ・テューダーからの密命で、トリステインに亡命・疎開したアルビオン国民の調査に当たっていたのだ。
人数を確認するだけではなく、いまだアルビオン国内でレコン・キスタに抵抗を続けるレジスタンスと接触する目的もあった。

アニエスは、ある情報通の男に頼み、レジスタンスとの接触を試みた。
情報通の男から指定された場所は、ラ・ロシェールでは一般的な宿屋で、岩山の一角をくりぬいて作られた宿屋だった。
指定された時刻になると、ラ・ロシェールの丘が月明かりを遮り、宿屋の周囲はまるで月のない夜のように暗闇に覆われる。

宿屋の主人にチップを払い、目的の部屋に案内されたが……そこでアニエスは異変に気づいた。
血の臭いがする。

宿屋の主人に扉を開けさせると、主人が悲鳴を上げて腰を抜かした。
アニエスが中を見ると、そこに生きた人間は一人もおらず、死体だけが転がっていた。

壁をくりぬいて作られた石造りの二段ベッドが、部屋の左右に作られていおり、正面には跳ね上げ式の窓がある。
簡素な机の上には、飲み物が六つ置かれ、死体が三つ。

アニエスは主人に衛兵を連れてくるように告げて、部屋の中を調査した。

三つの死体はお互いに短剣で胸を突かれ、仰向けに倒れていた。
だがアニエスはメイジの仕業だと直感的に理解し、舌打ちをした。

傷口から流れ出るはずの血が少なすぎる上、三人とも口を大きく開いているのだ。
歯の裏を指でなぞると、歯垢…ではない、粘土らしきものが指先に付着した。
心臓を突き刺されているが、ナイフが根本まで深々と刺さっているため、思ったより血は出ていなかった。
体の中は血の海だろう。

アニエスは考える。
『レビテーション』で三人を宙に浮かせ、『練金』で動きを奪い窒息させつつ、ナイフを突き立てたのだろうか?と。
二人か、それか三人の、メイジを含む暗殺者がこの部屋にいたはずだ。

だとしたら急がなくてはならない、暗殺者らしき者の情報だけでも手に入れなければならない。
暗殺者に狙われるということは、後手に回るということでもある。

アニエスは駆けつけた衛兵に後を任せると、衛兵の詰め所で伝書フクロウを借り、暗殺者が潜入していると王宮に知らせた。

471仮面のルイズ:2007/12/18(火) 18:33:14 ID:l8ewUCEw

そのすぐ後、郊外でメイジらしき男四人の死体が発見された。
女がメイジに襲われているのを目撃した市民が、衛兵の詰め所に知らせてくれたのだ。
アニエスは衛兵に命じて死体を片づけさせると、メイジに襲われていたという女の行方を捜した。
朝日が昇る頃になって、ようやく女が担ぎ込まれた宿屋を探し出した。
いくらチップを貰ったのか知らないが、宿屋の主人は女が担ぎ込まれたことを話したがらなかった。

ようやく発見した女性を見て、アニエスは驚いた。
女性の名はマチルダ・オブ・サウスゴータ。
魔法学院での名はミス・ロングビルである。




「ふわ…」
窓の外を見ていたアニエスが、大口を開けて欠伸をした。
昨晩からずっと動き続けていたので、眠気と疲れが溜まっているようだ。
両腕を挙げて背伸びをし、もう一度欠伸をした。

「「ふわあ…」」

欠伸の声が重なったのに気づき、アニエスがベッドの方を振り向く。
マチルダは眠そうな目をこすりながら、包帯の巻かれた上半身を起こしているところだった。
アニエスは椅子を動かし、マチルダのすぐそばに座り直す。
「目が覚めたか」
「……ここは?」
「ラ・ロシェールの宿屋だ、怪我をして担ぎ込まれたそうだが…覚えていないか?」

マチルダが自分の体に目をやる。
顕わになった胸を隠そうともせず、包帯の巻かれた自分の体を見つめていた。
徐々に昨晩のことを思い出し、同時に鈍痛を感じて顔をしかめた。

「う……アンタが介抱してくれたのかい?」
「いや、私じゃない、この宿で働いている少女がやってくれたそうだ」
「そっか…後で礼を言わなきゃね。ところで何でアンタがここに居るんだ?」

アニエスは無言で部屋の扉を開け、廊下を見渡す。
誰もいないのを確認すると、扉を閉じて鍵をかけた。
「ラ・ロシェールではアルビオンから亡命、疎開する人間がどれだけいるのか調査しているが、私はその陣頭指揮を任されている。貴方を見つけたのは偶然だよ」
「偶然ね。 ……ふああぁぁぁ」

大あくびをしたマチルダを、アニエスが「やれやれ」と言いたげな目で見た。
「薬か魔法で眠らされたのか? 心当たりがあるなら話して貰わないと困ふぁぁ……ゴホッ」

アニエスは、あくびを咳で誤魔化したが、マチルダはそれを見逃さなかった。
ニヤニヤと笑みを浮かべてアニエスを見ている。
「ええい!そんな目で見るなッ! …とにかく、昨晩何が起こったかちゃんと話して貰うぞ、それと、後でメイジ四人の死体を見て貰うからな」

「メイジ四人?」
「そうだ、貴方はメイジに襲われていたらしいな。目撃者は、貴方が四人組に襲われ郊外に逃げたと言っていた。その四人が何者なのか調査している」
「ああ、そういえば、そいつらに眠らされたんだ。あいつらは何者なんだい?」
「それは私が知りたいさ。それと、貴方をここに担ぎ込んだメイジのことも話して貰わないとな」
「それこそ、こっちが知りたいよ」

マチルダは心の中で、あんたに教える気はないよ、と粒やいた。

「「ふああ……」」

またも同時に欠伸をして、二人は恥ずかしそうに顔を背けた。
太陽の明かりが岸壁に反射し、ラ・ロシェールの町は戦時下とは思えぬほど穏やかな陽気に包まれていた。

472仮面のルイズ:2007/12/18(火) 18:38:31 ID:l8ewUCEw
一方少し時間は過ぎ…こちらは『魅惑の妖精亭』

ワルドが目を覚ますと、誰かの顔が見えた。
「………ん?」
「起きた?」

心配するような顔で、ルイズが顔をのぞき込んでいたようだ。
ワルドは自分がどんな状態に置かれているのか、周囲を見回して確認する。

ここは『魅惑の妖精亭』の一室、住み込みで働く者のために用意された部屋。
昨晩、ラ・ロシェールで活動していた遍在が四人組のメイジを倒した後、ロングビルを宿屋に預けた。
そこで精神力が底を突き、遍在は消失し、本体は気絶してしまった。

ワルドは上体をベッドから起こそうとしたが、風邪でも引いたような気だるさがあり、体の動きが鈍く感じられた。

「ふぅーっ……さすがに疲れたな」
「ラ・ロシェールに遍在を作り出すなんて、とんでもないわね。暗殺なんかお手のものじゃない」
「そうでもないさ、トリスタニアから馬で遍在を走らせたんだ、そうでなければラ・ロシェールまで遍在を維持できないよ」
「そうだったの…で、何で遍在なんかを使っていたの?」

ルイズはワルドの背中に手を回して体を支えた。
ワルドは平静を装っているが、体に疲れが溜まっているとすぐ解った。
この状態では『サイレント』を使うのも一苦労だと思い、ルイズはワルドに顔を寄せて、小声で話しをした。

「僕がレコン・キスタを裏切ったことは既に知られているだろう。だとすれば、何らかの動きがあるはずだ、それを調べていたんだ」
「……まあいいわ、信じてあげる」
「そうしてくれるとありがたいな」

「ところで、ロングビルはどうなったの?」
「彼女は無事だよ。ラ・ロシェール麓の小さな宿に頼んでおいたからね。金貨を二枚渡しておけば上手くやってくれるだろう」
「金貨なんて、よく持っていたわね」
「彼女を襲った四人は、もう金も使えないからな。懐から少し拝借して…」

ワルドが指を曲げ、懐からくすね取る仕草をする。それを見てルイズが眉をひそめた。
「まあ、それじゃ追い剥ぎじゃないの」
「君がそれを言うのかい? まあ、死人が使うよりも、ずっと有効な使い方さ。それに、あのままでは彼らも無念だろうしな」

ワルドはカーテンの下がった窓を見て、その向こうに広がる空を想像し、ニューカッスル城の惨状を思い出した。
死体、死体、死体、青空の下、ニューカッスル城は死体にまみれていた。
それを蘇らせ、反逆者狩りに利用するクロムウェル。
トリステインを裏切った自分も、クロムウェルも、非業な最期を遂げるべきだと、ワルドは思った。

「ロングビルを襲ったのは、アルビオンの近衛兵って言ってたけど、本当?」
「ああ、近衛兵か親衛隊か、ウェールズにごく近い者達だった…見覚えがあるよ。おそらく、アルビオンから亡命した者を探していたんだろう」
「つまり、レジスタンス狩りってやつ?」
「おそらくな」
「…やるせないわね」
ルイズが目を細めて軽く歯を食いしばる。それは怒りではなく、悲しみから来るものだとワルドは理解した。

「彼らを気遣っているのか? …君は、本当に優しいな」
「え? 何よ、急に」
「僕は彼らが二度と蘇らぬよう、奇襲して首をはねるのが精一杯だった。これも皆クロムウェルのせいだと、そう思いながら戦っていたんだ」



「けれども君は違う。彼らの名誉を思って君は悲しんでいる…違うかい?」
「………ワルド」

ワルドは、心底からルイズを羨ましいと思った。
トリステインの腐敗を知ったときも、母の死を知ったときも、ルイズが死んだと気化されたときも、石仮面と戦ったときも、怒りしか無かった。

ルイズは違う、淡々と事実を受け止める強さと、悲しむだけの余裕と、そしてこれから何をすべきかを決断する力を持っている。

もっと早く、ルイズに仕えていれば、一人のメイジとして、充実した日々を送れたかもしれない。

そう思いながら、ワルドはごく近い距離で、ルイズの瞳を見つめた。

473仮面のルイズ:2007/12/18(火) 18:39:07 ID:l8ewUCEw



不意に、廊下の向こうからバタバタバタと足音が近づいてきた。
二人が振り向く間もなく、バン!と音を立てて勢いよく扉が開かれる。

「おふたりさーん!遅番の時間 だ よ ……」

扉を開けたのは、店主の娘、ジェシカだった。
ベッドの上で上体を起こしたロイド(ワルド)とロイズ(ルイズ)が、ごく至近距離で見つめ合っている。
その姿はどう見ても、キスをする直前か、はたまた事後かといった感じだった。

「えーと…………お邪魔だった?」
照れ隠しに後頭部に手を当てつつ、引きつった笑みを浮かべるジェシカを見て、ルイズは自分がどんな風に見られているのか気が付いた。
男と女が顔を接近させていると言えば……キス?


「うきゃあ!」
ルイズの顔が一瞬で真っ赤になり、ワルドを勢いよく突き飛ばす。
「ぐはっ!?」
突き飛ばされたワルドは『魅惑の妖精亭』を揺らすほどの勢いで壁に衝突した。

「あー、やっぱり兄妹ってのは嘘だったんだー」
ジェシカが笑みを浮かべつつ、ルイズに迫る。
「ちちちちがうわよ!こいつとは何でもないわよ!」
ワルドに恋愛感情を抱いている訳ではないが、それでも『キス』と言われると狼狽えてしまう。
既に何度か全裸まで見られているのに、ルイズの頭の中はまだまだウブだった。

「でもキスしようとしてたでしょ?あ、それともキスした後?」
「だから違うって言ってるでしょうがあああ!」
「同じ部屋じゃ危ないよねー」
「キーーーーーーーーーーーーー!!」


壁に激突したワルドが、痛む顔を押さえながらむっくりと起きあがる。
手玉に取られているルイズを見て、ワルドは静かに、だが心底から楽しそうにほくそ笑んだ。
「やれやれ、困ったお姫様だ」


To Be Continued→

474仮面のルイズ:2007/12/18(火) 18:41:20 ID:l8ewUCEw
どなたか代理投下お願いします。
次回、魅惑の妖精亭にあの人が…?

475名無しさん:2007/12/18(火) 19:23:48 ID:zXzataEc
代理しますねー
>>472
>ルイズが死んだと気化されたときも、石仮面と戦ったときも、怒りしか無かった。
は誤字でしょうし治しておきます

476名無しさん:2008/01/02(水) 01:58:05 ID:scp3jPHo
実家に帰還中なので投下はできないと思っていた。
だが画像支援を受けてしまうと書かずにはいられない…というわけでどなたか代理投下をお願いします。
いつも支援をしてくださる方々、やる気を一気に上げてくれた絵師さんに感謝とあけおめを。
今年もよろしくお願い申し上げます。

477名無しさん:2008/01/02(水) 01:59:58 ID:scp3jPHo

あ、ありのまま今起こったことを話すぜ!

私は使い魔の品評会に出ることになった。
ネタは名付けてマジシャンズレッドに投げさせて会場の上空を自在に飛び回る回転飛行ガメ乙の舞だ。

好評だった。
自分でもびっくりするくらいの大好評。
生徒、教師、来賓客共が皆揃ってスタンディングオベーション(standing ovation)しているような扱いだったね。間違いない。

だがその後のトークで『王女様を見ることが出来て私は幸せです「どこが気に入ったんだー」色々と良いが特に胸が…ハッ』と野次に素直に答えてしまったのが不味かったらしい。
顔を微かに赤くして恥らう王女様には謝罪の意を込めた礼を、観客達にもちゃんとその後に冗談ですって言ったんだけどな…(勿論マジシャンズレッドでガードしたが)ルイズには踏まれるわエロナレフとまた呼ばれちまうわ回りの視線は(使い魔のものにいたるまで)生暖かいわで大変だったぜ。

しかも裏に引っ込んだ後も、ルイズは『マジにアンタ明日には亀鍋になる運命なのね』って冷たい目で俺を見下ろしてきやがる。
私のパフォーマンスでなんとも酷い仕打ちだ。

所詮トリスティンはまだコメディーが存在しない文化的後進国だと思うことにするしかあるまい。
そうでも思わんとせっかく見世物になってやったというのに切なすぎるからな。

そうやって私は文化の違いが生み出す決定的な価値観の違いに悩まされながらも、DIO退治の旅を乗り越えるなど精神的成長を何度も繰り返してきた30代としてめげることなく品評会の会場から離れていった。
ルイズはまだ私を罵っているがそんなものは聞き流してだ。私はそこまでマゾじゃあないんでな。
コイツの説教を全部聞くなんて、できるわけがない!

会場を離れながら、なんとなしに見上げた空ではタバサとかいう無愛想なガキのドラゴンが悠々飛ぶ姿が見えた。
タバサが一位だったらしい。さっきまで私に野次を飛ばしたりしていた会場からは拍手が聞こえてきてちょっぴり寂しいぜ。
私がいたことはもうやつらの記憶の中にはないだろう。思い出されることも、多分ない。
肉体を失ったせいか、それとも

フッと亀の中でニヒルな笑みを浮かべた私は、マジシャンズレッドの立つ地面が少し揺れているのに気がついた。

「聞いてるのカメナレフ! アンタ、こここんどという今度は反省しなさい!」
「ルイズ…なんかおかしくねぇか?」

マジシャンズレッドを操る事に思考を裂きながら、私はルイズに聞いた。
足を止めたルイズは最初嘘と決め付けたようだったが、ルイズが誤魔化すんじゃないッとか私に言ってくるより先に、宝物庫のある塔の方から大きな音が聞こえてきた。
口を開きかけていたルイズは面白くなさそうな表情をして亀を掴んだ。

「カメナレフ、説教は後にするわ。行くわよ」
「まだ言い足りないのかよ」

一言言われただけでうんざりしていた私に、ルイズはまるで私が変なことでも聞いたような表情で言う。
向かう先から吹き付ける風がルイズの髪をなびかせ、亀の天井から見える私の空をピンク色の帯で覆っていく。
時折隙間から見える青い空が、待っていく土のかけらまでもが印象的に見える風景だった。

「当然でしょ、あんた全然聞いてるようには見えないわ」

私のちょっとした楽しみに水を差すようなルイズの言葉。
そしてまた轟音が亀の中までも響かせていく。

「ゴ、ゴーレムだわっ!? 大きい…ッ30メイルはあるわねッ!」

また音がする。
巨大な何かが何かを打つような音だ。
動揺した声に返事を返さず、私はマジシャンズレッドを呼出してルイズの前面に展開する。
野郎が地面を揺らし、吹き付ける土交じりの風から身を守りながらマジシャンズレッドはそのゴーレムを確認した。

全長30メートルのゴーレム…遠目にも巨大であり、近づけば更に圧倒的な威圧感を持つそいつは塔へと攻撃していた。
ルイズと私の亀のことなどまるっきり無視して塔をまた殴りつける。
轟音と、地響きが私達を襲った。だが塔は無傷、魔法によるものかはわからんが恐ろしく頑丈に作られているらしい。
(この世界にはこの世界の単位というものがあるわけだがまどろっこしいし、こちらの方が分かりやすいので長さはメートル、重さはグラム単位で書かせてもらいます)

ルイズはこれくらいのゴーレムを見たことがあるのか案外冷静なようだが、私は動揺していた。
今の私のサイズからすれば30倍以上のでかさがあるんだからな。

スタンドの視界を使って見れなったら相手をするのは勘弁して欲しいと思っていただろう。
まぁスタンドの視界で見たって戦う気はあんまりしないが。

478名無しさん:2008/01/02(水) 02:00:58 ID:scp3jPHo

「ルイズッ、あの塔を襲ってるってことはお宝狙いかっ?」
「アンタ、ご主人様を呼び捨てなんて…「今はそんな「分かってるわよ! でしょうねッ! あんなゴーレムを作り出せるのは最低でもトライアングルクラスの実力を持つ土系のメイジよ」

風で舞った土が目に入らないよう腕をかざすルイズの怒鳴り声を聞きながら、マジシャンズレッドを風除けに立たせ続ける。
なんせ30メートルの巨体が動き続けるんだぜ?

拳を塔に叩きつける衝撃は結構なもんだし、何よりやつは土でできている。
塔を殴った衝撃が野郎の体から少し、また少しと土を落として、それが私達に降り注ぐんだ。
私はまた飛んできた土を被るのをマジシャンズレッドを使って防ぎながら、このゴーレムを作ったやつのことを考える。
魔法学院の宝物庫を狙うような盗賊。それも土のトライアングル以上…
私には一人心当たりがあった。

シエスタ…前ゲーシュに絡まれていた所を助けた脱ぐと凄いメイドから聞いたんだが、
貴族が大事に持っている秘宝、特に稀少なマジックアイテムを好んで狙う派手好きな盗賊がここトリスティンに出没しているらしい。
今まではアルビオン中心に活動していたが、アルビオンで戦争が始まり今はトリスティンを中心に活動していると思われる。

思われるってのは、つまり官憲はフーケを捕らえられていないし、どの程度の情報が入っているか私の耳には噂話でしか入ってこないからだ。
一応新聞みたいなのはあるらしいんだが、完全に政府の管轄だからホットな話題は噂話の方が正確な場合もあるって話だ。

「まさか「こんなことをするのは土くれのフーケねッ! 平民以下の盗人風情がッ!!」」

引っかかりを覚える見下ろした発言にルイズを見上げる。
わなわなと、怒りに震える杖をルイズは掲げていた。

コイツ、何をするつもりだ?
まさかと思ったが、その時にはもう遅かった。
ルイズは得意の魔法?『爆発』で横殴りを行った!

…守る対象であるはずの塔の壁へとだが。
30メートルのゴーレムが繰り出す拳を何度かぶち込んでも傷一つつかなかった塔の壁には、今は大きくひびが入っていた。
あともうちょっと押し込めば崩れそうな、そんな状態だ。私は舌打ちしてルイズを怒鳴りつける。

「ルイズッ、テメェには無理だ! 逃げるぜ!」
「…嫌よっ! 盗賊相手に背中を向けるなんて!」

貴族としての誇りか?
ルイズは塔を破壊したことは後悔してるようだが、キッパリ拒否してまた魔法を唱えようとする。

「あんなでかい的を外す程度の実力で何言ってやがる!」

流石にカッとなって、私は思わずそうはき捨てた。
杖も取り上げて、マジシャンズレッドでルイズを抱えて距離をとる。

「カメナレフッ!離してッ、ご主人様の命令よ!!」
「黙ってろッ」

怒鳴るルイズへ叫び返してその場から飛び退く。
鬱陶しそうにゴーレムが脚を動かし、草を含んだ土の波がルイズが立っていたあたりを覆った。
土煙が舞って、視界が塞がれて行く。
ルイズを離すとまたゴーレムに向かってくのが目に見えたんで、私はルイズを抱えたまま距離を取らせ、ゴーレムの動きとメイジを探した。

メイジはすぐに見つかった。
ゴーレムの肩の上辺りに漂う、深緑のローブで体を隠した奴が、多分フーケだ。
だがしかし…私はフーケを見て何か頭に引っかかるものを感じた。

「下ろせって…言ってるでしょ!」

479名無しさん:2008/01/02(水) 02:03:21 ID:scp3jPHo

至近距離で爆発が起きるッ。
奪っといた杖を引ったくり、ルイズの野郎!、私へ容赦なく魔法を使いやがったッ!
スタンドだからよかったものの、結構な衝撃だ。
マジシャンズレッドは衝撃を受けてルイズを離し、地面を転がっていく。
私も亀の中で2回転ほどしちまったぜ。
この間に攻撃をされたらかなりまずいことになっていたが、その心配はないようだ。
ゴーレムはひびの入った壁を殴りつけ、そこへフーケが入っていく。

それを見て血相を変えて走り出したルイズを、私はもう一度マジシャンズレッドで拘束した。
取り返されないように今度は杖を後ろに投げ捨てて、だ。

塔の中からフーケが出てくる。
目的のものは手に入ったらしく、笑みを浮かべた唇だけが見えた。

その時だった。上空30メートルだ…亀の居る地上5cmとかよりもずっと風が吹いてんだろう…
突風が吹いてローブが少し捲れた。

それは後から聞いた話じゃあタバサって奴のドラゴンが近くを飛んだかららしいんだが…ともかくちょっぴり捲れたんだ。

で、私の視界からなら脚が見えた。
スタンドの目も普通の人間よりはよかったんでな。

私にはバッチリ『ふともも』が見えた。

「あの太もも…まさか『マチルダお姉さん』!?」

じょ、冗談だと思うかも知れねぇ。
だ、だが間違いない…あの薄っぺらいルイズとかまだまだ修行が足りないキュルケなんてもんじゃねぇやわらかいムチムチ太ももはマチルダお姉さんだ!
間違いねぇ!

悠々と去っていくゴーレムとメイジを見送りながら、私は、『だがなぜだ?』と疑問で頭がいっぱいだった。
テファにお金を送ってくれている優しいお姉さんだったはずだが、まさか盗賊をして稼いでいたのか?
それとも…前にちらっと聞いた話。
ブリミルの子孫である王族がテファの母親、エルフと愛し合っていたというスキャンダルを消す為に国王はテファも殺そうとした。
それを庇ったテファの父親の部下が、マチルダお姉さんの父親に当たり、そしてマチルダお姉さんはそのことを恨んでいるらしい。
テファが、いつだったかジョルノに相談しているのを聞いた話ではそうなっていた。
その腹いせもこの行為には含まれているような気が、私にはした。
私は妹の無念を晴らす為、青春を修行に捧げたんで、そう思うだけかもしれないがな…

まぁそれは、今はいいさ。
今、私が…いや、ここはあえて俺と言わせてもらおう。
私はルイズをマジシャンズレッドに抱えさせたまま亀の中でポージングを行う。
レベル幾つかは私の気合から察してくれ。

480名無しさん:2008/01/02(水) 02:04:13 ID:scp3jPHo

俺が!
俺がやるべきことは一つ、そう…たった一つだけだ。

私の精神力が、高まっていく。
ポージングにより整う呼吸。
落ち着きを取り戻し、平常心に満ちた心はマジシャンズレッドの能力を高め、操作をより精密にしていく。
マジシャンズレッドの目が細められた。

このポルナレフは、所謂カメナレフというレッテルと貼られている…!
下種野郎なんでしめてやったギーシュは毎日ケティ嬢と仲がよさそうだし、胸が揺れすぎるんで思わず生唾ゴックンしながら胸革命を見るなんてのはしょっちゅうよ!!

だが…!
こんな私にも女性は胸だけじゃねぇって事くらいは分かる…ッ!

私の目がクワッと開かれた。
集中、大切なのはそれだ。

土くれのフーケだとおぉ! 
違うねッ、あの太ももはマチルダお姉さんさ!
その事は同士オスマンも、コッパゲール大使にもわからねぇ…だから、!

『この私が計るッ!(性的スカウターな意味で) 』

「…あんた、今なんか言った?」

ルイズから剣呑な声があがったような気がするが「は?」ととぼけて私は集中した。
ルイズの相手なんてしてる暇はねぇ、なんせもうマチルダお姉さんがどっかいっちまいそうだからな。

見えなくなる前にどうにか計り終えた私は心のHDに保存して、それからやっとゴーレムを追いかけていくタバサの竜の姿に気づいた。
学院の外へ逃げる30メートルのゴーレムを追う事は…まぁあれだ。できなくはない。
亀をマジシャンズレッドで投げまくれば可能だが、追う気はなかった。
マチルダお姉さんとはやりづらいし、ルイズが邪魔だ。
ルイズを連れてあのサイズの野郎を相手にするのは危険だからな…

まだ暴れるルイズのことを考えないようにしながら振り返ると、ようやく品評会会場の連中が騒ぎに気づいたようだ。
ぞろぞろと学院関係者や警備の連中も駆けつけてくるのが見える。

盗賊フーケの手による盗難事件はこうして幕を開けた。
私は当初、私がやることはもうおしまいだと考えていた。

学院の奴らにも面子ってもんがあるだろうから生徒に任せるなんてことはねーだろうなと思ってたんだ。
事後処理中に学院長室に呼ばれたのも、ルイズからその時の話を聞く為だけだってな。
だが、ルイズに説教をされたりしながら抱えられ、話をそれとなしに聞いていた私はそういうわけにもいかないことがわかってきた。

ルイズが大事に思っているらしいアンリエッタ王女。
国王亡き後は国の象徴的存在となり、多忙な日々を送っている彼女が品評会を観覧しに来たから、学院の警備を割かなければならなかった。
アンリエッタは、どういう関係かルイズのことを知っている風で、彼女の言い方では警備を割かせた自分にこそ責任があると考えているらしかった。
早急に王宮に報告しなければならない事を伝えて部屋を後にするアンリエッタを見て私の胸は痛んだ。
最悪、アンリエッタの責任問題になりかねない事位は私にも分かる。

国の象徴的存在って言葉と矛盾するかもしれないが、国民人気はそのままに、小娘には飾りで居てほしいってやつらもいるだろうからな。

それだけでも、ルイズは責任を感じてフーケを追う討伐隊に参加したがるだろうし、私もそれを手伝うだろう。
だが、私はルイズやアンリエッタ王女の事よりも一つの事が気に掛かった。

盗賊『土くれ』のフーケ。
彼女が盗んだ宝物庫に保管されていたモノの名は『破壊の円盤』。

…まさか、って感じだが、嫌な予感がするぜ。

481名無しさん:2008/01/02(水) 02:07:48 ID:scp3jPHo


ポルナレフが嫌な予感をおぼえ、フーケを追う決心をした頃、ジョルノ達はようやく学院付近へと迫ろうとしていた。
馬車の中は、相変わらずイザベラとテファが応酬を繰り広げていたが、ジョルノは少しそれを止めて小さいケースを二人に見せた。

「所で、こんなものを流行らせようかと思うんですがどう思います?」
「何だいこれは? こんなシンプルな指輪が流行るもんか」

小さい箱に入れた状態で差し出された指輪を見て、イザベラは鼻で笑った。
ジョルノが見せた指輪は、イザベラが言うとおり、いたってシンプルで飾り気などない。
イザベラが見た所純金製らしいが、それだけで貴族に売れるはずもないのだ。

「私も、そう思うけど…ジョナサンはどう売るつもりなの?」

テファも同じ意見だったが、ジョルノの事だから何か考えがあるのだろうと思い、そう尋ねた。
リングのサイズを少し見て、左手の薬指に嵌める。
ぴったり、ではなかったが、一番その指がテファの手にあっているように思えた。
ジョルノはそれを見て、微かに不思議そうな顔を見せて、言う。

「バーガンディ伯のような男性向けの商品です。結婚する男女の、そう、婚約とか、恋人同士の口約束とかの印、とでも宣伝して売ってみるつもりです」
「ふぅん…」

テファはもう一度手を翳して指を眺めた。
恋人同士の、ちょっとした、二人の気持ちを形にした物。
そう思うと、時折目に入るこれは悪くないように思えた。
控えめだから、余り邪魔でもないし…テファだからそう思うのかもしれない、とは考えず「それなら、いいかもしれないわ」とテファは言った。
イザベラはそう言われて、ジョルノがちょっぴりだが、相好を崩したように感じてテファの胸を掴んだ。
意味は特にない。あえて言うと、なんとなくムカついたからだ。案の定テファは嫌がって身を捩ったりするが…

「ほ、本物…」

やっぱり本物でイザベラもちょっぴり衝撃を受けた。
ジョルノはそれを見ずに、そういう方向でちょっと売り出させる指示を出していた。

「ねぇジョナサン、これ…よかったら、くれない?」
「特に高い物でもありませんし、構いませんが…」

手紙を鳥に持たせて、窓から投げようとしていたジョルノは、テファの質問にそう返す。
そしてちょっぴりショックを受けてから手を引っ込めたイザベラに言う。

「クリスもいりますか?」
「え?」

本物…と、ほうけた様に言っていたイザベラは顔を上げ、ジョルノが取り出したもう一つの指輪を見た。
こちらも金で出来ていたが、少しだけラインが入っているタイプだった。テファとは違うタイプの指輪を見ながら、イザベラは少し考えるようなそぶりを見せた。

「そ、そうだね。私も持ってるなんて、いい宣伝になるかもしれないからね!」

ご機嫌取りには引っかからない、とも言って、あくまで仕方なく、気が進まなさそうな態度でイザベラは受け取った。
気のないそぶりで、自分の横にケースを置くイザベラと、面白くなさそうなテファを見て、二人の見えない所で、ジョルノは微かに笑みを浮かべる。
砂糖を吐けそうな顔の馬が引く馬車は、少しずつ学院へと迫っていた。

482名無しさん:2008/01/02(水) 02:10:27 ID:scp3jPHo
以上です。どなたか代理投下お願いします。

もう少しでカメナレフと合流できる…のかな?

483管理人:2008/01/02(水) 18:46:30 ID:f598cVzU
行数制限をアニキャラ総合と同じ60行に変更しました。

484ゼロいぬっ!:2008/01/12(土) 19:07:26 ID:ibltYdG6

次々と炎に包まれ、地に落ちていく仲間の竜騎士達の姿を、
代理指揮していた男が呆然と見上げる。

アルビオン最強と謳われた彼等は特別な事など何もしなかった。
突撃によって撹乱し、分断された竜騎士を包囲、各個撃破した…ただそれだけだ。
たったそれだけの事で並み居る竜騎士達は零れ落ちる砂時計のようにその数を減らしていく。

状況に合わせて各自が最適の判断を下して行動する。
一人一人の神経が繋がってるのではないかと思わせる王直属竜騎士隊の連携に、
男はまるで巨大な手に握り潰されるのにも似た錯覚に陥っていた。

彼は初めて理解した。
自分が国王直属の竜騎士隊に選ばれなかったのは機会に恵まれなかったからではない。
純粋に自分の実力がその域に到達していなかっただけだと。

「ヒィ……!」

目の前を通過していく炎の塊に凝視されて男は我に立ち返った。
如何に歴戦の竜騎士達も急な代理指揮の下で実力など発揮できる筈もない。
このままでは全滅を待つばかりじゃあないか。
彼はすぐさま撤退を指示し、火竜の尻尾を巻いて逃げ出した。

増援を求めるだけなら抗命罪で処罰される事はないだろう。
本陣には彼等の数十倍の竜騎士隊が待機している。
どんな英雄だろうと圧倒的な数の前では無力に過ぎない。
そう自分に言い聞かせながら自身の火竜を全力で駆る。


退却していく竜騎士の姿を見て緊張の糸が切れたのだろうか。
キュルケの腰がどさりとシルフィードの上に落ちた。

「ごくろうさま。送り狼どもはこちらで引き受けよう」
「ええ。そうしてくれると助かるわ」

それを眺めていた隊長の冗談にキュルケも応じる。
しかし両者の心中は互いへの感嘆に満ちていた。
たった二人で竜騎士隊に果敢にも挑んだ勇気ある二人の少女。
あれほど苦戦を強いられた敵を事も無げに追い払った竜騎士。
瞳に映る者こそ違えど、そこには英雄の姿があったに違いない。

「その代わり、城門へ向かってくれ。
誰かは判らないがそこで交戦しているらしい。
もしかしたらまだ生存者がいるのかもしれない。
そいつ等の救出に当たってくれ。
風竜単騎なら敵の追撃からも逃げ切れるだろう」

半ば曖昧な言葉で彼は頼み事を告げた。
何しろ彼自身でさえ確信が持てないのだ。
城内に舞い戻った彼が目にしたのは多数の敵兵の屍骸。
否。それは屍骸と呼んでいいのかさえ定かではない。
原形さえも留めぬそれは肉塊以外の何者でもなかった。
そして警戒しつつも無事に火竜の厩舎に辿り着いた彼は、
城門の向こう側から響く銃声と悲鳴じみた敵兵の雄叫びを耳にした。
誰かが城門で交戦しているのだろうか。
しかし手助けに行く余裕はなく、彼は部下を率い『マリー・ガラント』号の救援へと赴いた。

485ゼロいぬっ!:2008/01/12(土) 19:08:18 ID:ibltYdG6

冷静に考えれば、それだけの兵力が王党派にある筈がない。
だが幻聴というには鮮明で、足元に転がっていた物は幻覚ではない。
もしも生き残りがいるというのなら一人でも助けたい。
それが本音だったが恐らくは理解されまい。
いるかどうかも判らない生き残りの為に、
彼女達は動いたりはしないだろうとそう思っていた。
しかし、彼の言葉に彼女達は互いの顔を見合わせ頷いた。

「…タバサ」
「間違いない。彼しか考えられない」

心当たりがあるのか、即座に応じた彼女達が空を駆ける。
そこに誰かの声がかけられた。
あまりにも弱々しく、か細い声。
なのに鮮烈に彼女達の心に響き渡った。

振り返れば未だに燻り続ける甲板の上に、一人の少女が立っていた。
整ったいた桃色の髪を振り乱し、胸元を裂かれた服の上にコートを羽織りながら
ルイズ・ド・ラ・ヴァリエールは必死に叫び続けていた。

「ルイズ!?」
「お願い! 私も一緒に連れて行って!」

壮絶な姿を晒す彼女にキュルケも言葉が詰まった。
ルイズの傷は決して浅い物ではなかった筈だ。
それは身体だけではなく心も同様だ。
必ず連れて変えると約束して安静にさせるべきだと判っている。
だけど彼女の眼を前にすると言葉が出なくなった。
既に覚悟を決めている彼女に何を言えば説得できるというのか。
思い悩むキュルケを余所にルイズの体が宙へと引き上げられる。

「ちょっと! タバサ!」
「……乗って」

一時とはいえ彼と共に過ごしたタバサには彼女の気持ちが理解できた。
しかしルイズを連れて行く理由はそれだけではない。
幾度も死線を潜り抜けた彼女の脳裏には最悪の事態が想定されていた。
ルイズの制御から解放された彼の暴走。
それは考えたくないもない想像でありながら限りなく現実味を帯びていた。
もし、そうなっていれば自分達の説得など無意味に終わる。
その時こそルイズの力が必要となるのだ。

「痛ぅ…!」
ルイズの手を取ってシルフィードの背に引き寄せようとした瞬間、
彼女が苦悶の表情を浮かべた。
心配するタバサを手で制し、ルイズは気分を落ち着かせる。
胸の傷が痛んだんじゃない。
私には判る、これは自分の痛みじゃない。
見えない絆にも似た繋がりの向こうから伝わってくる、この痛みは…。

「急いで!」

ぎゅっと胸元を握り締める仕草を見せながらルイズは叫んだ。
彼女の尋常ではない様子にタバサも不安を抱いた。
それは彼の戦友でもあるシルフィードも同様だった。
疲弊しきった筈の身体で尚も力強い羽ばたきを見せる。

486ゼロいぬっ!:2008/01/12(土) 19:09:56 ID:ibltYdG6

飛び去っていくその姿を見送りながら彼は手綱を握り締めた。
追い掛けようとした自分を強く自制する。
別れが惜しいと思ったのは、これが初めての体験だった。
後数年もすれば彼女達はきっと“いい女”になるだろう。
彼の目蓋に浮かぶのは幼き日に憧れた女性の姿。
トリステイン魔法衛士隊マンティコア隊隊長。
アルビオンの王都を行進する彼女の姿を一目見た瞬間から心奪われた。
それは絵本の中から飛び出したような英雄に恋焦がれた。
その日から彼はその背中を追い続け、直属の竜騎士隊まで任されるようになった。

色褪せていた光景が彩を取り戻していく。
その記憶を呼び起こしたのは他ならぬ彼女達だ。
あの日、群衆に紛れて横から見る事しか出来なかった自分が今度は肩を並べて戦えるかもしれない。
その歓喜が、衝動が、どれほど彼を突き動かそうとしたか。
だけど一緒に行く事は出来ない。
忠誠を誓った国は滅び、剣を預けた先王は死に、共に戦場を駆けた若き王も散った。
自分の進むべき道はここで途絶えたのだ。

なればこそ未来に望みを託そう。
アルビオンの遺志を継ぐ者達に、トリステインの少女達に、そしてこの世界に。

騎竜が静かに唸り声を上げる。
敵を察知した事を表す警戒の声。
相棒に静かに頷き、腰に差した杖を抜き高々と掲げる。
厳粛な空気の中、男は高らかに命を下した。

「全騎突撃、こちらから討って出るぞ! この船に決して近づけるな!」

次々と上がる鬨の声。
圧倒的な戦力差を前に怯む者は誰もいなかった。
負けると判った戦に開き直ったのではない。
『マリー・ガラント』号には彼等にとって掛け替えの無い者達が乗っている。
それは親であったり、恋人でありり、友であったのかもしれない。
だからこそ自分達の手で守り切ろうとする、強い意思がそこにはあった。
『マリー・ガラント』号が空を往く限り、これは負け戦などではない…!

487ゼロいぬっ!:2008/01/12(土) 19:10:32 ID:ibltYdG6

「おい! しっかりしろ! 意識を強く持て!」

肩を貸した相手を引き摺りながら貴族派の兵士が叫ぶ。
その言葉に反応は無く、俯いた顔色は青白いまま。
彼の目の前で止血した包帯が赤黒く染まっていく。
無理もない。男の腕は獣を突いた槍ごと肉も骨も砕かれていたのだ。
それをこんな布如きで出血を止められる筈もない。
戦場での常識は助かる人間から助ける事だ。
重傷者一人を助けるよりは軽傷者三人を助けた方が効率がいい。
しかし兵士は男を助けようと必死に運び出す。
そいつは彼の友人でもなければ知り合いでもないし、ましてや上官でもない。
彼は戦場での常識に従ったに過ぎない。
一面に広がる地獄の中で、まだしも彼が一番助かる可能性があったからだ。

足元を埋め尽くす屍が彼等の進路を妨げる。
原形さえも失ったそれを死体と呼ぶ事さえ間違っているのかもしれない。
“これはもう…戦争ですらない”
心の中で呟きながら兵士は中庭まで怪我人を運び込む。
そこには同様の惨状を晒す重傷者達が並べられていた。
呻き声さえ上げず、ただ荒い呼吸を漏らすばかりの半死人達。
たとえ、ここに野戦病院があろうとも結果は同じだろう。
担いで連れて来た男の傍に衛生兵が駆け寄る。
そして一頻り確認した後、その衛生兵は静かに首を振った。
『助からない』と彼は無言で判定を下した。
他の怪我人を収容するスペースを作る為に男が余所に運び出されていく。
僅かに取り留めた意識の中で本人がそれをどのように感じたか、
考えるだけで彼は居た堪れない気持ちで押し潰されそうになった。

刹那。夜の静寂に獣の彷徨が響き渡った。
死の淵にいる怪我人も、忙しなく動き回る衛生兵も、怪我人を運んでくる兵士達も
その声を聞いた全員が心臓を鷲掴みにされたように動けなくなった。
彼等を束縛したのは脳裏に焼き付いた恐怖。
槍で貫こうと銃で撃とうとも風で切り刻もうとも襲い来る怪物。
咆哮が止み、しばらく経って獣が現れない事を知って彼等は治療を再開した。

「化け物め…! これだけ殺してまだ殺し足りないってのか…!」

獣の声が響く度に中断される治療。
その所為でどれだけの助かる命が失われたのか。
男はこの場にいない怪物に毒づいた。

488ゼロいぬっ!:2008/01/12(土) 19:11:14 ID:ibltYdG6

城壁に上ったバオーが咆える。
だが決して雄叫びではない。
それは胸の内にある悲しみを吐き出し続ける慟哭。
彼は戦いの中で“バオー”の本質を理解した。
破壊衝動に身を委ね自ら怪物へと成り果てる、そう確信していた。
しかし違った。“バオー”は怪物などではなかった。
“バオー”は何も知らぬ赤子のような存在だった。
ただ自分の身を守る事しか知らずに力を振るう“バオー”に悪意は無い。
どれほど力があろうとも戦いなど求めていないのだ。
自分と同じ様に必死に生きているだけに過ぎない。

向かってくる敵意が薄れた今、彼の意識は限りなく鮮明な物になっていく。
その度に“バオー”の力を戦争に使った事を彼は嘆き叫ぶ。
何の罪も無い命を自分が化け物へと変えてしまった後悔。
幾重に罰を受けようとも決して許される事ではない。

なのに…。
それなのに…。
彼女は許すと言ってくれた。
例え自分を許せなくとも彼女が許すと言ってくれた。
身を引き裂かれそうな想いをその温かな胸で受け止めてくれた。
離れているのに前脚に刻まれた証から彼女の心が伝わってくる。

引かれ合うように空を見上げる。
重なり合う二つの月の境に浮かぶ一つの影。
その背から桃色の髪を風に靡かせた少女がこちらを窺っている。
姿が見えなくともお互いの事が認識できる。
それはルーンの力なのか、それとも彼女の血に交じった分泌液の力か、
理由は不明だが確かに二人の心は見えない何かで繋がっていた。

シルフィードが彼の目前へと近付き、タバサがレビテーションで彼を背へと持ち運ぶ。
目の前へと舞い降りる、余す所なく返り血で薄汚れた彼の身体。
それを何の躊躇もなくルイズは抱きしめた。
そして、寄り添うようにしてただ黙って二人で泣いた。
悲しくて、辛くて、悔しくて、泣く事しか出来なかった。


二人の邪魔をしないようにキュルケとタバサは押し黙る。
キュルケは自分ならルイズを慰める事が出来ると思っていた。
でもそれは違う。彼女に必要なのは一緒に泣いてくれる相手だった。
自分の思い違いに苦笑いを浮かべながらタバサの方へと視線を向ける。
しかし彼の無事に安堵した筈のタバサの表情は浮かない物だった。
タバサの視線の先には城門前に散らばる無数の敵兵の屍。
理由があろうとも彼は自分の意思で人間を手に掛けた。
それも一人や二人ではない、その総数は百を下らないだろう。
もし彼が人類の脅威となったなら、その時は……。

489ゼロいぬっ!:2008/01/12(土) 19:12:17 ID:ibltYdG6

(きゅいきゅい! 誰かが近付いてくるのね!)

思い詰める彼女の耳にシルフィードの鳴き声が届く。
咄嗟にタバサは彼女に退却を指示する。
如何に疲労が溜まっているとはいえ風を切って飛ぶ風竜の速度ならば逃げ切れる。
しかしその距離は離れるどころか簡単に追いつかれた。
追跡しているのが火竜ではなく風竜だと気付いた瞬間、彼女達の背後から声が掛けられた。

「ルイズ!!」

必死に手を伸ばしながらワルドは叫ぶ。
それは断崖に落ち掛けた人間へと伸ばされる手に等しい。
この機を逃せばルイズは無事ではいられない。
ワルドにとっては彼女を救う最後の機会だった。

「僕と一緒に来るんだ! このままでは君は…」

その続きは視界を覆う炎の塊に遮られた。
それを旋風の守りで背後に逸らしながらもワルドは前を見据える。
ワルドの視線からルイズを遮るようにして、
眼の奥に激情をともしたキュルケが再び杖を振りかざす。

「遺言はそこまで? 色男さん!」
「貴様ッ…! そこをどけ! 僕はルイズに話があるんだ!」
「あの子を傷付けておいて…よくもそんな事が!」

残り滓のような精神力を振り絞り、彼女の杖が再び火球を放つ。
それを肩の傷から響く痛みに耐えながら風竜を駆って寸前で避ける。
その攻防からタバサはワルドに余力が残されていない事を確信した。
精神力が残されているなら先程の様にすればいい。
余分な回避行動を取れば相手に距離を開かせる事になる。
そうしなければならなかった理由は唯一つ、ワルドにその力が残されていないから。
だがキュルケもタバサもルイズも限界が近付いている。
そして…出来る事なら彼に力を使わせたくはない。
それでも延々と追いかけっこを続ける訳にはいかない。

「このままでは君もその使い魔も助からない!
今ならまだ間に合う! 『レコンキスタ』に来るんだ!」
「そして、また薬を飲ませて狂わせようって言うの!?」

その、たった一言。
自分の親友が言った言葉がタバサの胸を深々と抉った。
それは彼女が知る由もない自分の忌まわしい因縁。
まるで古傷が疼くかのような痛みに彼女は蹲った。
タバサは気付いてしまった。
母親の心を壊され、彼等に従うしかなかった自分。
彼女が置かれようとした状況が自分達と酷似している事に。

490ゼロいぬっ!:2008/01/12(土) 19:13:07 ID:ibltYdG6

「ルイズを人質にして使い魔も手駒にしようって言うの!?
どうなのよ! 反論があるなら答えなさい!!」
「貴様如きに語る必要は無いッ!」

ワルドの怒号と共に風竜がその速度を増す。
一瞬にして真横に付けたワルドがルイズへと腕を伸ばした。
瞬間。その手を掠めて風の刃が飛ぶ。
不意に風竜を離脱させ、攻撃の来た方向へと視線を向ける。
そこにいたのは杖を掲げるタバサだった。

有り得ないと、目に映る光景をワルドは否定した。
彼女は既に竜騎士隊との戦いで精神力を使い果たした筈だった。
しかし現実に彼女はエア・カッターを放って見せた。

「……彼女は渡さない」

杖を握るタバサの手にはまだ柔らかな感触が残っている。
魔法薬で心の平静を奪われた時、ルイズに握り締められた両の手。
あの時に告げられた言葉がどれほど私の心を救ってくれたか。
キュルケと同じ……私の大切な親友。
その親友を傷付け、今度は心さえも奪おうというのか。
彼に、私と同じ苦痛を植え付けようというのか。

「貴方達には…二度と渡さない」

許さない。
決して許さない。
今度こそ私が守ってみせる。
あの頃の無力な少女、シャルロットはもういない。
私はタバサ、トリステイン魔法学院二年生『雪風』のタバサ。

沸き上がる怒りを精神力に変えてタバサは立つ。
彼女の眼に映るワルドは憎き仇の姿をしていた。
あるいは彼女は察知していたのかも知れない。
この背後で陰謀を巡らせる“あの男”の存在を…!

491ゼロいぬっ!:2008/01/12(土) 19:13:45 ID:ibltYdG6

「チィ……!」

ワルドは己の慢心を呪った。
魔法学院の生徒風情に後れを取る事はない。
心の奥で彼女達を完全に見下していた、その結果がこれだ。
二人の少女が放つ気配は自分の執念に迫るものがある。
敗れる事は無いにしても最悪、相討ちさえも覚悟せねばなるまい。
だが、それでは無意味なのだ。

「ルイズ……!」

再びワルドは声を上げた。
自分の声は届く、必ず届くと信じて彼は叫ぶ。
それに応えるように二人の間から細い腕が伸ばされた。
突然のルイズの行動をタバサ達が唖然と見つめる。

「おお…!」
ワルドが歓喜に沸いたのも一瞬。
ルイズと眼を合わせた瞬間、彼はその手の意味を理解した。
自分を哀れむような悲しげな瞳。
彼女は自分に“手を差し伸べた”のだ。
誘いを受けたのではなく、こっちに来るように告げている。
ルイズが理想とするワルド、ワルドが理想とするルイズ。
互いの理想像を求めて手を差し伸べあう二人。
両者の溝は断崖のように深く、決して交わる事は無い。
それをワルドはこの時、初めて理解した。

見る間に風竜の速度が落ちていく。
あれほど近くにあった彼女の背中が果てしなく遠ざかる。
彼自身がもう引き返せない事を自覚していた。
幾重にも重ねた罪は処刑でさえも生温い。
もはや懐かしきトリステインの地を踏み締めるには、かの国を滅ぼす他ない。
そして虚無の力を手に入れるにはそれしか残されていない。

気が付けば手に入れるべきはルイズから虚無の力へと変わっていた。
肩の痛みが失われ、身体を駆け巡る血液も熱を失い、心臓の脈動さえも聞こえない。
まるで自分が死んだかのような錯覚にワルドは陥っていた。
否。錯覚ではない、ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルドは今日死んだ。
ここにいるのは、その亡骸を突き動かす妄念の塊に過ぎない。
この身の飢えと渇きを癒す為に世界を焼き尽くす“怪物”と彼は成ったのだ。

492ゼロいぬっ!:2008/01/12(土) 19:14:42 ID:ibltYdG6

ルイズの手が宙に揺れる。
その手を掴むべき相手は遥か後方。
行き場を失った腕をそのまま漂わせながらルイズは自問する。
“一体私は何をやりたかったのか?”と。

あのままワルドが戻ってきてくれたとしても彼に待っているのは処刑だ。
せめて最期は貴族らしく誇りある姿で逝って欲しかったのか。
理由は判らない…判らないけれどワルドの目はとても寂しく感じられた。
まるで迷子が道往く誰かに助けを求めるような、そんな眼差しだった。
だからこそ手を伸ばしたのかもしれない。
しかし拒絶された今、残されているのは戦いの道しかない。
それもトリステインとアルビオンの国家間の大戦争。
どれほど多くの血が流されるのか想像さえも付かない。
そして、それを止める事は誰にも出来はしない。
運命という奔流の前では彼女達の存在は流されていく小枝のように無力。
その渦の中心にあるのは、私が持つという“虚無”の力。

“偉大なる我等の始祖ブリミル…”

ルイズは始祖に祈った。
毎晩のように捧げられた祈りは叶った。
だけど、こんな事を彼女は望んでなどいなかった。

“もう二度と魔法が使えなくて構いません。
 ゼロと呼ばれ蔑まれようとも他人を恨んだりはしません”

それは分不相応な願いを持ったが故の罰か。
彼女は心の底から始祖に祈り願う。

“ですから私達に昨日までの日々を返してください。
 ただ普通に暮らしていた日常へと私達を戻してください”

キュルケがいつもみたいに私の事を小馬鹿にして、
それを少し離れた所から本を読みながらタバサが見ていて、
首を突っ込んだギーシュが巻き添えを食って、
慌てて止めに入るコルベール先生が、可笑しそうに笑うシエスタがいて、
そして私の傍にアイツがいる、そんな退屈なのに楽しく笑い合える日常を、どうか。

失って初めて私は知った。
そんな事に気付けないほど私は幼稚だった。
あの日々こそが“虚無の魔法”にさえ勝る掛け替えの無い財産。
もう取り戻す事も出来ない、本当の“宝”だったのに。

零れ落ちた涙が風に融けて消えていく。
それは過ぎ去りし日を惜しむ惜別の涙だった。

493ゼロいぬっ!:2008/01/12(土) 19:15:26 ID:ibltYdG6
以上です。
本スレに何故か書き込めないみたいなので代理投下お願いします。

494ポルジョルの中の人:2008/01/15(火) 23:55:28 ID:9p6rZXr2
なんだかわからないけど書き込みミスするんだ…誰か、代理投下お願いします。





あ、ありのまま今起こっていることを説明するぜ!

今私はルイズ達と『土くれのフーケ』を追って魔法学院から馬車で移動している。
アンリエッタ王女が王都に報告し、警察に当たる連中とかが対処するんだろうが、魔法学院の連中はそうは考えなかった。

奴らにも面子ってもんがあるし、今回はフーケがどこに逃げ込んだか情報が手に入っちまったんだ。
その情報が入った時点で既に一日が経過していた。
王国の対応を待っていると更に何日もが費やされ、敵が来る前にフーケは逃げちまうだろう。
悠長に国に報告なんぞしてられん…全盛期には、魔法を使って隣国ガリアの王城ヴェルサルテイル宮殿の風呂場さえ覗いたという『栄光』を掴んだ男、私たち漢の間では伝説の男、尊敬と軽蔑の視線を今尚集め続ける『オールド・オスマン』学院長は有志を募った。

私はほんのちょっぴりだが興奮していた。このトリスティンには他国の漢達の尊敬と軽蔑を集める漢達がいる。
そのトップの顔を私は始めてみた。

ちなみに有名なのは、その時目の前にいた生きる伝説「偉大なる(オールド)」オスマン。
類稀なる妄想と知識、そして「巨乳はもっとも破壊的だ。だがそれだけでは寂しいと、この私は考えます。諸君、『胸』は見ようですぞ。見方を変えればいろんな楽しい事ができるのです(以下略)」の名言で有名な既に髪、いや神と呼ばれるコッパゲール大使。
帽子で視線を隠し、そのつばを基準に偏在であらゆる角度から観察する『スカウター』あるいは、一瞬で計り終え姿を消すことから『閃光』のロリド子爵。
平民に手を出しまくっている事がバレバレ過ぎて違う意味で有名な『オープン(全力全開な)・ザ・モット』伯。
その石像作品を見た漢達から『多分、いや間違いなく彼は隠れクビレフェチ』と言われ、奥方を見た者が口を揃えて言う『マゾ野郎』ヴァリエール公爵…知ってるか?
マゾ野郎なんて言葉は、こちらの漢達の世界では存在しねぇ。
ヴァリエるなら使われているッ。
「このマゾ野郎ッ」ではなく、「このヴァリエストがッ」なら使ってもいい。
表立って口にするのは恐ろしすぎるから、あくまで隠語だがな。
私達の世界でマゾの語源が…話が逸れたな。
嘘か真か、オールド・オスマンは、オルレアン公が風呂場でいちゃついている所さえトリスティンにいながら目撃したという…いやこれも話が逸れてるのか。

なんだっけ…えーっと…ああ、理由は幾つかあった。
学院としての面子、宝物庫の宝を取り戻したいって連中、宝はともかくやられっぱなしでは国からの干渉を受けると先の事を考えてるのもいる。

私は宝物庫の宝『破壊の円盤』に興味があったんで、最初からそれに志願するつもりだった。
だが私がそうするまでもなく、ルイズが手をあげた。

教師が誰も手をあげなかったからだ。
妙な感じだぜ。はっきり言って異常な程貴族である事に、ルイズは拘ってるらしい。
それに対抗心を見せて、あの破壊力抜群なキュルケとその友人であるタバサも志願し、私たち四人はさっさと準備を済ませて、朝のうちに学院を出発した。

だが、その情報を持ってきたのも今案内をしてるのも、オールド・オスマンの秘書を努めるミス・ロングビルだ。
私はマジシャンズレッドを出して御者台で手綱をとるミス・ロングビルの顔と長いローブに覆われた太ももを見る。

…どうみてもマチルダお姉さんです。本当にありがとうございました。

な、何を言ってるかわからないと思うが私にも何が起こっているのかわからなかった。
これは見間違いとか勘違いとかじゃねぇ!
もっと恐ろしいマチルダお姉さんの企みの臭いがするぜ!

だがしかし、しかしだ。
何を考えてるのか私にはさっぱりわからねぇ…一体どうすりゃいいんだ?

襲われた時、すぐに外に飛び出せる方がいいということで選んだ、屋根の無い荷車のような馬車に揺られながら私は首を捻る。
私が首を捻る間も、馬車はゆっくりと進んでいく。

糞っ、こんな事なら出発前に無理やりにでも時間を作ってルイズ達にこのことを話しておくべきだったぜ。

495ポルジョル:2008/01/15(火) 23:56:02 ID:9p6rZXr2
こんな馬車じゃなけりゃ馬車の中でも話せるだろうと甘く見ちまったんだ。
いらいらした私は髪をかきむしり、その後丁寧にヘアスタイルを直す。
いい案はまだ浮かばなかった。
苛立つ私のことには当然だが、全く気付かないルイズ達はまだ緊張感の欠片もない、リラックスした様子で暇を持て余していた。
余りにも暇だったのか、キュルケが口を開く。

「ミス・ロングビル…、手綱なんて付き人にやらせればいいじゃないですか」

話しかけられたマチルダお姉さんは振り向いてにっこりと笑った。

「いいのです。私は貴族の名をなくした者ですから」

キュルケはきょとんとする。
貴族の名をなくした者には二種類いる。
自分から捨てた者と、家を潰された者だ。
マチルダお姉さんは笑顔だったが、テファの事を知る私には内心、かなり忌々しいことだろうなと思った。
その事を知らないキュルケはマチルダお姉さんに尋ねる。

「だって、貴女はオールド・オスマンの秘書なのでしょ?」
「ええ、でもオスマン氏は貴族や平民だということに、あまり拘らないお方です」

私はマチルダお姉さんの言に納得した。
そりゃ『偉大なる』オスマンだからな。
マチルダお姉さんを、たかが貴族の名を失くした程度じゃあ見逃しはしないだろう。
罠かもしれないと思いながらも秘書にするその態度に、私は敬意を表するぜ。

「差し支えなかったら、事情をお聞かせ願いたいわ」

マチルダお姉さんは優しい微笑を浮かべた。それは言いたくないだろと思ったが、キュルケを見るとその顔は好奇心に満ち溢れていた。
キュルケの悪い所なんだろうな。付き合いの短い私だが、年の功でなんとなくそう感じた。

「いいじゃないの。教えてくださいな」

キュルケは興味津々といった顔で身を乗り出す。
御者台に座ったマチルダお姉さんは余り動くこともできずに困った様子だった。
それを見かねて、ルイズがその肩を掴んだ。キュルケは振り返ると、ルイズを睨みつける。

「なによ。ヴァリエール」

刺々しい口調に聊かむっとしたようだが、ルイズは我慢してキュルケに言う。

「よしなさいよ。昔の事を根掘り葉掘り聞くなんて」

ふん、とキュルケは呟いて荷台の柵に寄りかかる。つまらなさそうに頭の後ろで腕を組んだ。
それにまたルイズは機嫌を悪くしたようだ。マチルダお姉さんの事をちょっぴり知り、私自身あまり言いふらしたくない過去を持っているから、その態度には憤りを感じた。
胸は素晴らしいが中身はちょっと付き合いづらい奴かも知れんな。

「暇だからおしゃべりしようと思っただけじゃないの」
「あんたのお国じゃどうか知りませんけど、聞かれたくないことを無理やり聞き出そうとするのはトリスティンじゃ恥ずべき事なのよ」

キュルケはそれに答えず、足を組んだ。

ふむ…まぁ、暇なら仕方ないかもしれんな…何も見てませんよ?

足を組みなおし、眩しいまでに黒いキュルケが嫌味な調子で言い放つ。

496ポルジョル:2008/01/15(火) 23:57:46 ID:9p6rZXr2
「ったく…あんたがカッコつけたおかげで、とばっちりよ。何が悲しくて泥棒退治なんか…」

愚痴るキュルケをルイズはじろりと睨んだ。

「とばっちり? あんたが自分で志願したんじゃないの」
「あんたが一人じゃ、…あんた、の使い魔が危険じゃないの。ねぇ、ゼロのルイズ」

口は悪かったが、キュルケの目を見て私は苦笑した。
私の事をあげちゃいるが、言葉はどうあれキュルケの眼差しはルイズを心配しているように私には見えた。
私の勘違いかもしれないがな。

なんせ、魔法が使える事が貴族たる証って感じなのに、その魔法が使えないんだからな。
足が動かない奴を、その事で馬鹿にするようなもんだ。
本人がその事を気にしない性格ならまだいいんだが、ルイズはその事にコンプレックスを持ってる。
その事は忌々しい、不名誉な二つ名を口にされたルイズが剣呑な目をしたことで、鈍い私にもよくわかった。
わかってないはずねぇんだが、それでもあえてそこを突くキュルケがどういうつもりなのか私にはよくわからん。

ルイズはわかっていて、あえて聞いているのかもしれないがキュルケに尋ねた。

「どうしてよ?」
「いざ、あの大きなゴーレムが現れたら、あんたはどうせ逃げ出して後ろから見てるだけでしょ? ゼロのあんたにできることと言ったら使い魔を戦わせて高みの見物。そうでしょ?」

キュルケの返事は、ルイズに劇的な変化を齎した。
貴族である事に拘るルイズにとって、キュルケが今言った言葉は侮辱に等しいからだ。
顔を真っ赤にし、眉を逆立てたルイズは怒気を孕んだ声で言い返す。

「誰が逃げるもんですか。私の魔法で何とかして見せるわ…!」

だがその言葉はキュルケに鼻で笑われる。

「魔法? 誰が? 笑わせないで!」

二人は火花を散らし始めた。
もう一人の志願者であるタバサは相変わらず本を読んでいる。
仕方なく私は口を挟んだ。

「やめろ二人共! こんな所から仲間割れしてどうするんだ!」
「「カメナレフは黙ってなさい!」」

…なんだよ。めちゃ仲いいじゃねぇか。
馬鹿らしくなりながら、私は基本的にはキュルケの言うとおりになってくれることを望んでいた。
確かにルイズは、私を戦わせて高みの見物なんてつもりはないだろう。
むしろ、誰よりも躊躇いなくあの巨大ゴーレムに向かっていくはずだ。

だが、そんなルイズの魔法は期待できない。
攻撃は塔にひびを入れた位だから使えなくも無いが、ルイズはうまく当てることはできない。
フライだったか?
素早く空を飛ぶ為の魔法所か、浮く事もできないルイズじゃああのゴーレムの射程に入ったら、当てる前にいつか直撃を食らっちまう。
いや、それどころかあのゴーレムの腕がちょっぴり掠っただけでチェックメイトだ。

誰でもわかるそれを、本人がわかっていないような様子だから、キュルケは怒っているのかもしれねぇ。
それに巻き込まれにいった自分にも怒ってるようだがな…言っておくが、これは私が色気にやられて贔屓目で見てるからじゃあないぜ?
いや本当だ。

しかし…本当にどうしたものか。
止めても聞かないんで、二人を止めるのを諦めた私はまたどう対処するか悩み始めた。

このまま考え無しに突っ込んでいくのはできれば避けたい。
だが、そうするとマチルダお姉さんに聞かれちまう可能性が高い。
聞かれちまったら、この捕らえる機会をみすみす逃す事になりそうな気がしてならんぜ。

497ポルジョル:2008/01/15(火) 23:58:37 ID:9p6rZXr2
私の目的はマチルダお姉さんが盗んだ『破壊の円盤』だ。
多分、私のマジシャンズレッドと同じく、何かのスタンドディスクなんじゃねぇかと疑ってるんだが、それを確かめて、あわよくばGetしておきたい。
その為には、テファには悪いがマチルダお姉さんは捕まえなくちゃならねぇ。

なんせディスクだったとして、ディスクは私に渡す。
フーケは逃がすなんてことになったら、学院側の誇りは全く回復されねぇからな…落とし所としては、少なくとも一度マチルダお姉さんには捕まってもらわなきゃならんだろう。
そして、アドリブばっかりになるだろうが、オールドオスマンにちょっぴり事情を話すなり、最悪私がマチルダお姉さんの脱出を手伝うなりするしかないだろう。
困難だろうが、私が取れる最良の手はそれしかない。
まぁそれも、まず困難なマチルダお姉さんを捕らえるって任務をクリアしてからの話だがな。

そう考えるうちに、馬車は深い森に入ろうとしていた。
うっそうとした森が、恐怖を煽っていく。昼間だと言うのにその森は薄暗く、気味が悪かった。

まだどうやってあのゴーレムを攻略し、マチルダお姉さんを捕らえるかは考え付かない。
一体どうすりゃいいんだ?

もう余り時間がねぇ…ちょっとずつ、私を焦りが包んでいた。
隣にはルイズ、向かいにはキュルケにタバサ。こんなに近くにいるのに相談する事もできねぇ…馬車が止まった。

「ここから先は、徒歩で行きましょう」

マチルダお姉さんがそう言って、全員が馬車から降りていく。
キュルケは髪をかきあげて、タバサは本を閉じ、タバサには長すぎる杖を携え。
私の入った亀は、ルイズに抱えられた。
出しっぱなしのマジシャンズレッドの森を通る道から、小道が続いているのが見える。
もう余り考える時間は残されてねぇようだ。

心を決めなくちゃいけねぇ。
私の武器は、アブドゥルのスタンド『マジシャンズレッド』
アブドゥルがこいつを操ってるんなら、私は何の心配もしてねぇだろう。

奴が操るこいつは炎を自在に操り、それこそ自然の法則なんぞ無視して鉄でも何でも溶かしちまう。
それにかかりゃ土のゴーレム位則お陀仏だ。

だが、私が使っているせいか、今のマジシャンズレッドはそこまでのパワーを発揮できてない。
適正だけじゃなく、馴れってのも案外必要らしく、ちょっとずつ使えるようにはなっちゃいるが、アヴドゥル程とはとても言えない。

やるしかねぇのか…そう私が覚悟を決めようって時だった。

あれ?
良く考えると、マチルダお姉さんが何か考えてる。
それだけじゃねぇのか?

フッ…私はこっちに来てから冴えてるな。
私は気合を入れ、ニヒルな笑みを浮かべた。
誰も見てくれねぇのが残念だが、まぁしかたねぇ。

『マジシャンズ・レッド!!』

私の意思に呼応して、マジシャンズレッドが動き出す!
マジシャンズレッドは狙い違わずマチルダお姉さんを押し倒すッ。
「ぐえっ」なんてカエルが潰れるような声を上げて、マチルダお姉さんは昏倒した感触が、マジシャンズレッドから伝わってきた。

「勝った! 第一巻完ッ!!」

498ポルジョル:2008/01/15(火) 23:59:22 ID:9p6rZXr2

勝ち誇る私に、周囲から悲鳴のような声があがった。

「ちょっと待てカメナレフ!! 今言ったこともわかんないけど、手を離しなさいっ!」
「ゼロのルイズッ! 貴女使い魔もちゃんと教育できないの!?」

全く、うるさい連中だな。
私の素晴らしい思いつきだって言うのに…私はため息をついて、マチルダお姉さんの意識が無い事を確認してから手を離させた。

「落ち着けよ。ミス・ロングビルは『土くれ』のフーケだ」
「「はぁ?」」

二人から呆れたような声があがる。
タバサも、声こそ出さなかったが、会ってからあんま変わることがなかった表情に呆れが見えるぜ。
ルイズ達はため息をつきながらも一応話を聞く気はあるようだ。キュルケが私の入った亀を覗き込んでくる。絶景だぜ。

「…で、カメナレフ。それは何を根拠に言ってるのかしら?」
「あの太ももは間違いない。盗みに来た時にも見えたから間違いないぜッ!」

私の返事を聞いた三人の表情は、一気に氷点下まで温度を下げた。
話に聞いた『ホワイト・アルバム』も真っ青な速度だぜ。

私から視線を外し、キュルケがルイズを咎めるような目で見た。
ルイズは何故かそっぽを向く。

「ゼロのルイズ、貴女。本当に使い魔も教育できないの?」
「う、うるさいわねっ! カメナレフは元々こうなのよ!」
「…使い魔のした事は、主人の責任」

タバサの言葉に、ルイズは本当に嫌そうな顔で私を見下ろした。

「アンタ、ミス・ロングビルが起きたら謝りなさいよ!!」
「何故だ!? 私は間違った事は言ってない! あの太もm」

最後まで私は言うことができなかった。
亀を地面に叩きつけられ、それどころじゃなかったからだ。

「この亀ッ! カメナレフ!! エロナレフッ!!」

慌ててマジシャンズレッドで防ぐが、それでも手を踏まれ、蹴られ、罵られるのはかなり厳しかった…言葉の刃はスタンドじゃあ守りきれないんだぜ?
私が蹴られる間に、マチルダお姉さんは意識を取り戻す。

「う……一体、何が起きたんですか?」
「ミス・ロングビル。この亀が本当に吸いませんでした…この亀が悪いんです。この亀がッ! このエロ亀がッ!!」

マチルダお姉さんが目覚めたお陰で止んだってのに、また酷いスパンキングが始まりそうになったのを見て、私は慌ててマジシャンズレッドを操りルイズの足をかわす。

「カメナレフ、ほら、早く謝っちゃいなさいよ」

キュルケのいたずらした子供にでも言うような言葉とタバサの無言の圧力に押されて、私は釈然としないものを感じながら言う。

「…セクハラして本当にすいませんでした」
「え? …いえ、まぁ謝ってくださればそれで構いませんが」

多分私に気付いたんだろう。
なんだか哀れんだような目で言うマチルダお姉さんに、私はもうどうにでもナーレと思ってソファに寝転んだ。
なんだか目の前がぼやけているような気がしたが、多分きのせいだ。きっとな。
だって私は立派なフランスの漢なんだぜ?

499ポルジョル:2008/01/16(水) 00:04:09 ID:eCgUyFRs
以上です。

本スレ今覗いたら対処方法教えてくれてる方がいて涙目(′・ω・)
代理投下お願いします。

500名無しさん:2008/01/16(水) 00:04:45 ID:m7PBwCAc
スピードワゴンはクールに投下

501名無しさん:2008/01/16(水) 00:07:03 ID:m7PBwCAc
スター代理・乙GJズ

502ゼロの花嫁6話 ◆0hZtgB0vFY:2008/01/16(水) 20:25:02 ID:7oYvgoD2
申し訳ありません、突然本スレに接続不能になってしまいましたので続きをこちらに投下します
お時間のある方、よろしければ代理投下お願いします

503ゼロの花嫁6話 ◆0hZtgB0vFY:2008/01/16(水) 20:25:42 ID:7oYvgoD2
ルイズに負けじとやる気の燦に感動するルイズ。
「ええ! 最高の舞台にしましょう!」
盛り上がる二人、それに水を差すようにキュルケは言った。
「で、何やる気なの?」
そのアイディアすら無い二人は、まずそこから始めるべく部屋へと走っていった。
その後姿に声をかけるキュルケ。
「ミスタ・コルベールが私達の芸見てくれるって言ってるから、後で相談に行ってらっしゃい」
聞こえたという合図なのか、後ろ手に手を振りながら宿舎へと向かって行った。
「さて、じゃ私達も準備始めるとしましょうか」
暢気にそんな事を言うキュルケを、タバサはじとーっと見つめる。
「私はもう終わってる。キュルケもさっき知ったばかりなんだから早くしないと手遅れになる」
ミス・ロングビルに紹介してもらった相手との戦闘訓練にうつつを抜かしていたキュルケも、実は品評会の事を忘れていたのだ。
「はいはい。んじゃそれなりに仕上がったらミスタ・コルベールの所に行けばいいのね」
こくんと頷くタバサ。

タバサは、二人共その気になってくれたようで胸をなでおろしていた。
実はコルベールから、二人の芸が完成したら一度自分の前で披露するよう言っておいてくれと頼まれていたのだ。
コルベールが心配するのも良くわかる。
王女を前にこの二人が暴走なんてした日にはフォローしきれない。
ただ、一つ納得いかないのが、タバサもコルベールの前で芸を披露するよう言われた事だ。
この二人程無茶をした覚えは無い。いつも一緒に居るからと自分も問題児扱いはあんまりじゃないかと思う。
だがもし、タバサはいい、と言われたらそれはそれで少し寂しいと思うかもしれない。
自分の事ながらその辺が少し複雑だ、などと愚にも付かない事を考えていた。
誰かさん達の起こした決闘騒ぎのせいで開催が遅れてしまった使い魔品評会は、何としても無事に終わらせなければならない。
そう意気込むコルベールの気持ちが痛い程良くわかるタバサは、あまり興味は無かったが、せめてそれっぽく見えるようにと、密かに練習をしておいてあげたのだった。

504ゼロの花嫁6話 ◆0hZtgB0vFY:2008/01/16(水) 20:26:48 ID:7oYvgoD2
以上です、どうぞよろしくお願いします

505名無しさん:2008/01/16(水) 20:28:16 ID:IajEQaG2
おーい、スレまちごうてるでー

506 ◆0hZtgB0vFY:2008/01/16(水) 20:33:50 ID:7oYvgoD2
すみません! こっちJOJOスレでした! 本当に申し訳ありませんでした!

507名無しさん:2008/01/16(水) 21:52:21 ID:T3OPce6o
一瞬こんな話あったっけかな〜って探しそうになったじゃねーかw

508名無しさん:2008/01/17(木) 11:00:07 ID:m.QGnRuk
だがスレ違いではあるがディモールトベネと言っておこう

509アンリエッタ+康一:2008/01/21(月) 12:50:03 ID:7qBnfuH2
大きなお城に住んでるというのは、こんな時デメリットにしかならない。
フロアごとに広大な面積をもつ城の中を移動するというのは一苦労。
今、康一は気を失っているらしいエレオノールを抱えているのだから更に倍だ。
「じゃあこの女の人、エレオノールさんって言うんですか?」

『ああ、そうじゃよ。君のご主人である姫殿下とは血の繋がりもある。
この国一番の大貴族の娘さんでの。いや、しかし…良いフトモモじゃぁ』
『コノジジイ、ネズミの体ヲ借リテ何見テヤガル…』
ACT3でエレオノールを抱えて、自分の肩にハツカネズミを乗せた康一。

その肩に乗ったネズミは宙に浮いたエレオノールの(スタンドのACT3を見る事はできない)、
スカートから覗く、いわゆる、美脚に目を奪われていた。
御足と呼んでもよかろう。色白な肌。そこには一点のくすみもない。
ほっそりとしながら、そしてその形を崩さぬ程度に付いた柔らかな肉。

隅々まで手間暇を掛け、磨かれぬかれた、触りたくなるようなフトモモ。
踏まれたい。ああ、ハイヒールで踏まれてみたい。力を込めて踏んで欲しい!
美しい足、これが手なら殺人鬼も大絶賛する事だろう。
もっともエレオノールの手は足に劣らず磨かれたものであるのだが。

『ハレルヤ!グレート!この世は素晴らしきフトモモじゃ―――っ!』
「おい、いい加減静かにしなよ」
肩ではしゃぐネズミに康一の手が伸び、その小さな体を掴んだ。
『うあっ!待って、ホンの茶目っ気なんじゃよ!だからお願い、苦しい、潰さんでくれ!身が!身が出る―――――!!』

必死で弁解をするネズミに対して、正直ヤレヤレな気分の康一は手を放してやる。
さすがに中身がコレでも、見た目が愛らしいハツカネズミを握りつぶすのは康一には無理だ。
プルプル震えて怯えるハツカネズミの中身の老魔法使いは、
すでにエレオノールが履いている下着の色まで把握している事は黙っておこうと固く誓った。ちなみに白。

「それで、モートソグニル」
『お、オスマンで構わんよ。使い魔の体を通してワシが喋っとる訳じゃから、そっちの方が良かろう』
見た目はネズミ、頭脳はジジイ(エロ)。今宵舞踏会に出席している筈のオールド・オスマン。
使い魔であるモートソグニルの体を通して、老魔法使いは康一に語りかけていた。

510アンリエッタ+康一:2008/01/21(月) 12:50:57 ID:7qBnfuH2
『さっき枢機卿から君のルーンの能力の事を聞いたんじゃが、使い魔を通して会話ができるとは思わんかったよ』
「それは僕も驚いてます。でも何か変な感じだなァ。ネズミを通して人と話をするなんて、まるで生きたケータイみたいだ」
康一の右手に刻まれたルーンがボンヤリと光っていた。
強い輝きではないが、道を照らす灯火のようにも見える。

康一のルーンの能力である動物や獣と会話をする能力。
その能力が離れた場所にいるモートソグニルの主人であるオスマンとの会話を可能にしているのだ。
「それで何でこんな所に使い魔を送って来たんです?僕等はそのお陰で助かった訳ですけど」
そう、先ほど窓から飛び降りる直前に聞こえてきた声は、使い魔を通したオスマンの声であった。

康一達の部屋と二階下の部屋の窓を小さな体で必死に開けて、康一達を助けてくれたのだ。
モートソグニルの小さな体なら敵に見つかる事もなく、それを行う事ができたのである。
殊勲賞ものの大活躍である事に間違いない。何より可愛いし、そこが一番重要。
『ほっ、そうじゃそうじゃ。今ちぃとマズイ状況でのぉ。舞踏会の客等が皆やられてしまっとるんじゃ』

「な…ッ!!それってどーいう事ですかッ!アンリエッタさんはどうなってるんですッ!」
『これこれっ!声が大きい、敵に見つかってしまうぞ。キチンと説明するから落ち着きなさい』
更に康一は肩の使い魔を通してオスマンを問い詰めようとするが、さすがに今の状況は分かっている。
廊下に取り付けられたランプの灯火が揺れ、ぐにゃりと影が歪んだ。

康一は周囲を警戒しながら移動を続け、オスマンの話を聞く。
『どうやら今夜の舞踏会の食事か何かに痺れ薬のような毒が仕込んであったようでの。
それにやられて広間の者は殆ど倒れてしまっているらしい。ワシもその一人じゃよ。
しかしワシには毒が薄かったのか効き目が弱い。そのお陰で君とこうして使い魔を通し話ができているという訳じゃ。』

毒、どうやら死ぬような物ではないらしいが、しかしあまりにもタイミングが良すぎると康一は思った。
今夜マザリーニと共に資料庫へ行くと命を狙われた上に、アンリエッタの方ではこの騒ぎ。
これが別々の人間のやった事ならあまりにも偶然が過ぎる。つまり。
「同一人物か、もしくは同じグループの奴がやったのか…」

『同感じゃよ。ワシは倒れる直前に君の事を枢機卿から聞いての。
その話の途中で彼は何かに気づいたように慌てて何処かへ行ってしもうた。
それで毒に倒れてから彼が危険じゃと気付き、モートソグニルに居場所を探させとった』

511アンリエッタ+康一:2008/01/21(月) 12:51:32 ID:7qBnfuH2
そこで康一達が襲われているのを知り、モートソグニルに助けさせたという事か。
『恐らくエレオノール嬢も毒にやられたんじゃろうのぉ。
毒は効き目が遅いタイプだったのかは分からんが、広間を出た後に効果が出た。
それで今は君に巻き込まれ追われていると』

どうにもならない事もある。だが、それでもエレオノールを危険に晒すのは間違っている。
彼女は無関係だった。それを巻き込んでしまったのは他でもない康一自身。
ちくしょう、と康一はボソリと呟いた。だがそれでも、どうにかなる訳じゃあない。
今までにも何度かどうにもならない事を見てきたが、その度に康一はとてもとても寂しくなる。

寂しくて、そして悔しくなる。嫌なのだ。そんなのを見るのはとても嫌だ。
理由なんか無い。そう思うのは自分の本能で心なんだろう。
だからエレオノールを助けよう。深く考えた訳じゃあないが自然と決意した。
やれることはやる。そう心に決めていた。

『それでじゃの、姫殿下の事じゃが。今は体がゆうことを利かんので分からんのじゃ。
モートソグニルを行かせる前に見たものは、周りに幾人も人が倒れている程度での。スマンな』
「いえ、そっちで何が起こってるのか分かっただけでも充分です」
『シカシ、ソウナルト急ガナキャアナリマセンネ。お姫様ガ心配デス』

そしてマザリーニも一人足を負傷しながら追っ手から逃れられるか心配だ。
今すぐにでも駆けて行きたい所だが、しかしエレオノールを放って行く訳にもいかない。
彼女はぐったりとしており、身じろぎひとつしない。
このまま置いていくのは見殺しにするようなものだ。

「でも一つ分かんないのは、どーして今まで使えなかったルーンの能力が急に使えるようになったのかって事なんだけど…」
呟くように疑問を口にした康一。右手に刻まれたルーンが光っている。
先日タバサの使い魔シルフィードと言葉を交わしてから一度も発現しなかった能力が、
今になってどうして急に使えるようになったのか。それが分からなかった。

ピンチで新たな能力に目覚めるのは康一にはよくあった事だが、これは何か違う感じがする。
精神的な成長ならスタンドにも影響が現れている事だが、しかしそれは無い。
この能力で助かった訳ではあるが、不確定な能力というのは少し不気味でさえある。
康一はルーンの能力には発動条件があると考えていたが、いつの間にかその条件を満たしていたのか?
しかしその条件が不明ではいつ能力が使えなくなるのか分からない。どうしたものだろう。

512アンリエッタ+康一:2008/01/21(月) 12:52:30 ID:7qBnfuH2
悩む康一だが、思わぬ事に救いの手がACT3から差し伸べられた。
『康一様、チョットコレヲ見テ頂キタインデスガ』
「ん?」
救いの手の文字通りに、ACT3はその手を康一へと差し出す。

スタンドの透けたその手を、康一は見て、更に瞳を最大に見開き、凝視してから硬直。
「……え?何?何でッ!?」
『私モサッキ気ガ付イタバカリナンデスガネ、イツノ間ニカアリマシタ。
多分コレガ能力ヲ発現シテイル理由ナンジャアナイデショーカ?』

普段自分のスタンドをまじまじと見る事など無いために起こった偶然。
そして自分以外にスタンド使いがいない事で気付かれる事もなかった。
ACT3自身が見つけるしか、それに気付く手立てはなかった。
今日は襲われてから移動中も発現しっぱなしである為に、それに気付く事ができたのだ。

怪我の功名。本当にそうとしか言いようが無い。
『康一君…?君はさっきから誰と喋っとるんじゃね?』
「はッ!」
オスマンが微妙に不安気に康一へ問いかけた。

スタンドはスタンド使いにしか見る事ができない。
その為、オスマンには自分のスタンドと会話している康一が、コリャヤベーぜッ!みたいな感じに見える訳だ。
「いや、その、説明は難しいんですけど、ちょっと今重要な事が分かったんです」
『重要な事?』
康一は今ACT3から得た情報を魔法に詳しいであろうオスマンに伝えようと、肩にいるモートソグニルの方へ顔を向ける。そして。

ザグゥッ!

「…え?」
頬を鋭い風が凪いでいくのを康一は感じた。
その後に何かが切れたような、これもまた鋭い音が聞こえた。
それはすぐ目の前から聞こえてきた気がする。康一は横に向けていた顔をそちらにやった。

513アンリエッタ+康一:2008/01/21(月) 12:53:36 ID:7qBnfuH2

ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ


杜王町で普通に暮らしていても一生の内、直に拝む事は無いかもしれない
しかし康一はこの異世界に来てから、正直見慣れてしまった感がある。
初めてメイジと戦った時に康一はコレを使いもした。
何度かアニエスや軍人の訓練を目撃した時にも使われていた。

剣だ。

長細い柄の部分が康一の顔面を捉えるように傾いで、廊下の床に突き刺さっている。
康一には一瞬、その様子が自分を威嚇している蛇のように見えた。
先ほどの鋭い何かが切れたような音は、つまりこの突き刺さった剣からでたのだろう。
そして康一の頬を汗が流れ落ちる。無意識に康一は頬を拭い、しかしそれが汗で無い事に気付く。
手の甲が赤く染まっていた。それが自分の血であると気付いた瞬間、頬の痛みを康一は自覚する。

「痛ッ!」
『康一様ッ!上デスッ!!』
ACT3の叫びが聞こえて、康一は言われた通り上を見上げた。
石造りの天井。そこから、何かが吊り下がっていた。

鋭い突起がツララのように何本も恐るべき速度で生えてくる。
鈍く輝く鋭い突起、康一はその正体を知る。
「………何で、剣が天井から生えてくるん、だ?」
あまりにも不可思議な光景に疑問が先に出た。

そして天井から剣の刀身が半ばまで生えた時、僅かにその成長が止まる。
「おいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいッ!」
『来よるぞ、康一君!』
僅かに成長を止めたのは、更なる爆発的な成長を手に入れる為の大きな助走。

僅か一夜で成長するような植物のように、剣は一瞬で完全に成長しきった。
その成長により、根を必要としなくなった剣は天より康一達へ降り注ぐッ!
「ACT3ッ!」
『ワカッテイマスッ!』

514アンリエッタ+康一:2008/01/21(月) 12:54:17 ID:7qBnfuH2
ACT3は腕に抱えたエレオノールを放り出し、降り注ぐ剣を拳で迎撃ッ!
『WRYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYY!!』
最速で拳を繰り出し雨のような剣をACT3が砕く。しかし。
「マズ…ッ」
砕かれてもなお鋭く尖った剣の破片は落下を止めない。

足や腕が露出したドレスを着用しているエレオノールに、その破片が突き刺さればエライ事だ。
康一は倒れたエレオノールに慌てて、のしかかるようにして覆い被さる。
正直康一では身長が足りずに多少はみ出てしまう部分があるのだが、それでもやらないよりはマシだ。
ばらばら、と砕けた刀身の破片が康一の体に落ちてくる。

そして幾つかの鋭い破片が、康一の学ランに、突き立った。
破片と言えど剣であることには変わらない。
人間の背中に刃物が刺さった、血の気が引く光景。
落下の力を得た破片はそう簡単には止まらなかった。…だが。

「う、う……学ランが、丈夫で良かったよッ。いや丈夫だからこそ学生が着るのにいいのかなァ」
幸い丈夫な化学繊維の布地が、ギリギリで康一を守っていた。
友人の東方仗助は以前バイクで、病院のドアをガラスごとブチ破ってきた事があるが、しかし学ランにガラスが突き刺さってはいなかった。
無茶をするのが若い学生の特権なのか。ぶどうヶ丘高校の学ランはことさら頑丈だった。

「あ、確か、エレオノールさんだっけッ。大丈夫ですかッ!」
当然ながら毒にやられたエレオノールから返答は無い。
康一は肌が露出した部分をチラリと失礼にならない程度に見たが、目立った怪我は見当たらない。
どうやら、とりあえずは大丈夫らしい。

康一は体に付いた鏡のように自分の顔を綺麗に映し出す、剣の破片を払い落とす。
そしてエレオノールを抱き起こして、周りの状況を確認しようとした次の瞬間。
『康一君!また剣が降ってくるぞ―――ッ!!』
耳に届いた、必死なオスマンの叫び。

康一は即座にACT3を操作して宙から降り注ぐ剣を迎撃させる。
その間にエレオノールを抱えた康一は何とか攻撃から脱しようと試みた。
しかしエレオノールは比較的体重が軽い方だろうが、人一人を連れて逃げるというのはとても難しい。

515アンリエッタ+康一:2008/01/21(月) 12:55:09 ID:7qBnfuH2
そのためスタンドの操作は最低限にして、後はACT3の判断に任せる。
そうすれば意識を逃げる事に集中できる。今は攻撃から逃れる事が先決だった。
しかしエレオノールを引きずる康一の傍に、何本か降ってきた剣が突き立つ。
康一の顔をくっきりと映し出すほど、磨きぬかれた剣だ。正直な話、ゾッとしない。

「でも一体どこから攻撃してきてるんだッ。敵からこっちが見えるなら、こっちからも敵が見えなきゃあおかしいぞッ!」
康一が首を前後に振って廊下を見渡す。だが敵の姿は無い。
ここは遠くまで見渡せるほど、見通しのいい真っ直ぐな通路であるはずなのに、敵の姿はどこにも見えないのだ。
魔法は対象を視認しなければ正確に使う事は難しいと康一は聞いている。姿を消す魔法でもあるのだろうか。

しかしそんな事を考えても今の状況ではどうにもならない。
必死に全身を使ってエレオノールを引きずる康一だが、今にも剣はACT3の防御を超えてきそうだ。
これだけ切れ味が良さそうな剣に足でも貫かれれば、逃げ切る事は不可能に近くなる。
そもそも胴体をブチ抜かれれば、多分ショックで死んでしまうだろう。

康一はかなり追い詰められている事を自覚せざるを得なかった。
戦うにしても今敵がどこから攻撃してきているのかさえ分からない。
「それじゃあまともに戦う事もできないッ!」
必死でエレオノールを引きずって後ずさる康一に、背後を確認する暇など無かった。

どすん、と康一は背中が何かにブツかり、動きをせき止められてしまう。
壁があった。どうやら曲がり角だったらしい。
すぐに方向転換して康一は角を曲がる。すると、どうだろう。
「………攻撃が止んだ?」

あれだけ止めどなく降ってきた筈の剣が、唯の一本も降ってこない。
正確には曲がり角の方まで、剣は一本も飛んでこないのだ。
「もしかして、僕らの居場所が…分かってない?」
そして剣は何かを諦めたかのように降るのを止め、周囲に静寂が戻る。

『何デモイイデスケド、コノ隙ニ体勢を立テ直シマショウ』
「確かにそうだッ。早いとこマザリーニさんを追っかけないとッ」
ACT3にもエレオノールを運ぶのを手伝わせようかと、康一は思う。
だが。どうやら間隙は、本当に僅かな間でしかなかったようだ。

516アンリエッタ+康一:2008/01/21(月) 12:55:39 ID:7qBnfuH2

ザグンッ!

康一の肩が震えた。音の出どころを見る。
またしても、剣が床に突き刺さっていた。
揺れる明かりを受けて、剣の影がゆらゆら揺らぐ。
そして再び、攻撃は開始するッ!

「くそッ!またかッ!」
『マジデ鬱陶シイ奴デスネッ!』
再び剣が天井の石材から生成され、康一とエレオノールを襲うッ!
そして更に状況が悪化している事に康一は気が付いていた。それは、天井の高さ。

「ヤバイ事に曲がり角から天井が低くなっているッ!
天井が低くなったって事は、つまり落ちてくる剣を弾く為の時間が少なくなると言う事ッ!!」
ここよりも天井が高かった場所でさえ防ぐので精一杯だったのに、この場所では更に防御する為の時間が足りなくなってしまう。
非常にマズイ。これはすぐにでもACT3の防御を超えてくるッ!

このまま手数がこちらを超えたら、完全に押し切られる。
ACT2のしっぽ文字で防御しても、文字は一箇所にしか貼り付けられない。
貼り付けた文字は回収しなければならないのだ。
それでは自分達、二人を守りきる事はできない。

康一は廊下の先を振り返って見る。
「…そうかッ!この廊下ってここに通じてたのかッ!」
廊下を少し進んだ先にドアが見えた。数日前にアンリエッタとアニエスが入っていった部屋だ。
近くに他にドアは無い。一旦あそこに逃げ込むしかないッ!

「早く…ッ!早くッ!」
『S・H・I・T!!』
康一もACT3も全力で力をつぎ込む。全力。だが。
少しだけ足りない。本当に少しだけ足りない。

ホンのちっぽけな時間があれば逃げ込めるのに、その時間が足りないのだ。
数秒の時間でいいのだ。それだけあれば、あのドアの向こうに逃げ込めるのにッ。
誰かが手を貸してくれるだけでいいのにッ!
誰かがドアを開けてくれれば、それでイイのにッ!

517アンリエッタ+康一:2008/01/21(月) 12:56:10 ID:7qBnfuH2
『早くこっちへ逃げ込むんじゃ!康一君っ!!』
そして、声と同時に、ドアが開いた。
康一が声のする方を見ると、ドアノブに何か小さなもぞもぞするモノがくっついている。
小さくて、白い、しっぽのある動物。

「オスマンさんッ!」
モートソグニルの体を通してオスマンが康一へ叫んでいた。
『HO!チョット、カッコイイトコロ見セスギジャアナインデスカネ?』
康一の視線を通して見ていたACT3がぼやいた。

そしてACT3は更にスピードを上げて落下してくる剣を叩き落す。
少しだが康一に活力が戻ってきたのだ。スタンドは精神の力。
つまり精神力が強ければ強いほど、スタンドの力も上がってくるッ!

康一は開いたドアからエレオノールを力を振り絞って部屋の中へと引き込む。
そしてエレオノールの体が全て部屋の中へ収まった時、すかさずACT3がドアを閉めた。
部屋の外でドカドカ鳴っている音が次第に弱まり、遂には止んでしまった。
それを確認した康一は尻餅をつくように、どんっと勢いよくへたり込んだ。

「はああぁああぁ…危なかった―――。
ホント助かりましたよ。オスマンさん、モートソグニルも」
『礼には及ばんよ。ワシは学院長なんでのー、若いモンを助けるのが仕事じゃよ』
その言葉の後にチュッチュと鳴いた。後の方はモートソグニルだったようだ。

『しかしここは…』
「ええ、仕立て部屋らしいです」
部屋の中に一面に置かれた衣装の数々。
ほぼ全てが、城の主アンリエッタの持ち物なのであろう。

この前、今夜の舞踏会用のドレスの為にアンリエッタが来た場所。
そしてアニエスを酷く傷心させた、忌まわしき場所。
数日前に来たとき入室はしなかったため、中の様子を見るのはこれが始めてだった。
しかし女物の服ばかりなので、康一の気分は女性服売り場に来たような感じで微妙に気恥ずかしい。

518アンリエッタ+康一:2008/01/21(月) 12:56:51 ID:7qBnfuH2
(あ、何かハンガーの首の辺りにハートの飾りが付いたのがある…
でも明らかにあの服、アンリエッタさんの趣味っぽくないんだけど何で置いてあるんだろう?)
しかも何だかあの服から邪悪な気配がプンプンしてくる。
嫌な予感がするので康一はこれ以上あの服の事を深く考えるのは止めた。

部屋の中を見回してみると大きな姿見の鏡がある。
あとは座って化粧をする為だろう、豪奢な鏡台もあった。
鏡台の上に裁縫用の糸だろうか、芯に巻きつけられたそれが出しっぱなしにしてある。
今日の舞踏会の為に誰かが使ったのかもしれない。

康一は特に危険は無いようだと確認して、長い竿でドレスが大量に吊られている影にエレオノールを引き込んだ。
これは康一がここなら敵に見つかりにくいかもしれないと思ってである。
康一自身もその影に隠れて、小さなモートソグニルも康一の肩に飛び乗る。
何とか一息つけそうだが、実際はそうも言っていられない。

『問題はこれからどうするかっちゅう事じゃ。早ようせんとここも危ないじゃろう』
オスマンの言う通り、確かに今は攻撃が止んでいるが、またいつ始まるかは分からない。
数分か。それとも数秒かも分からないのだ。
「そーですね。とりあえず状況を整理してみましょう。
この攻撃をしてきてる敵は土のメイジなんですかね、オスマンさん?」

石造りの天井から剣を生成しての攻撃。思いつくのはそれしかない。
『ああ間違いないじゃろうの。この攻撃密度と回数からしてトライアングルクラスではなかろうかな?
「錬金」を使った回数や精神力の総量からして敵もそろそろ余裕がなくなってくる頃じゃ。もうひと踏ん張りって感じじゃな』
確かに敵は余りに攻撃にエネルギーを使いすぎていた。つまり逆に言うと。

「まだ、何か仕掛けてくるって事ですよね」
『…君、本当に戦い慣れとるのー』
この若さで、この判断力。どれだけ修羅場を潜ったのかオスマンにも想像できない。
だてに康一はスタンド使いをやっている訳ではないのだ。

「けど問題が一つ。オスマンさん、攻撃されている時に何処かに敵の姿なんかを見ました?
姿じゃあなくても、何か不自然な物音だったり、気配だったり」
康一の言いたい事はオスマンにも分かっている。
仮にも偉大な魔法使いと謳われるオスマンがそれに気が付かない筈がなかった。

519アンリエッタ+康一:2008/01/21(月) 12:57:45 ID:7qBnfuH2
『……康一君、君はネズミという種に関してどの位の事を知っているかね?』
「は…?ネズミですか?何で、いや、そーいえば」
ネズミというキーワードで康一は前に仗助から、愚痴混じりで聞かされた話を思い出した。
曰くイキナリ承太郎さんが自分の元を尋ねてきて、ネズミ狩りをする為に連れ出された事。

そのネズミは矢で貫かれたスタンド使いのネズミで、恐ろしいほどの知恵と感覚を持っていたと、仗助は話してくれた。
それは何百mも先に人間がいる事を簡単に察知して、人間が仕掛けた罠を逆に利用するほど頭が良かったとか。
そして何より重要なのが、ネズミの追跡中に水溜りでバリーの靴とミスタージュンコの靴下を泥まみれにされた事を、涙ながらに仗助は語ったのだ。

最後はカナリどうでもいいが、オスマンは康一がそれに気付いた事で再び語りだす。
『その様子じゃと少しはネズミの生態の事も知っているようじゃのぉ。
ネズミには人間や他の生物が自分から何百m先にいるか、そして何をしているかなど簡単に見通す、
超感覚ともいっていいじゃろう、恐ろしいまでの鋭敏な感覚を持っておる』

息を呑む康一。
「ならその鋭い感覚を使って、敵の位置を調べられるんですかッ」
フッフッフッ、と明らかにオスマンがもったいぶって笑う。
コノ野郎…さっさと言え、と康一は思うがさすがにそこは我慢。そして。

『ゴメン。無理』
………康一は、切れた。康一の中で張り詰めていたものがプツンと音を立てて切れた。
怒りの意思を受けたACT3がモートソグニルに拳で触れた。
『(カナリ手加減シテ)3・FREEZEッ!』

『えっ!お、重いっ!!何、ナンじゃァっ!!』
対象を超重くする3・FREEZEの能力。
かなり加減しているがハツカネズミがその重さに打ち勝つことは不可能だ。
よってモートソグニルは重さに耐えかね、床へと落下。

『ふぎゃっ』
べしゃっ、と床に落ちて身悶えるモートソグニル。
現在オスマンはモートソグニルと感覚を共有しているために、ブッ倒れている自分の体にも重さが伝わっている事だろう。

520アンリエッタ+康一:2008/01/21(月) 12:58:37 ID:7qBnfuH2
康一はちょっと静かに、何気ない感じで言う。
「モートソグニルには恨みは無いんだけど。メイジと使い魔は一心同体って言うし。まぁ、堪えてよ」
3・FREEZEので拘束されたオスマンにはまさしく恐怖の言葉。
『すまんかった!ちゃんと無理なのには理由があるんじゃ!だから潰さんといてェ―――ッ!!』

自分に掛かる重さが康一によるものだと理解したオスマンは、慌てて叫んだ。
康一はふぅと小さくため息をついて、3・FREEZEを解除。
『おおうっ!』
必死で重さに耐え体を起こそうとしていたモートソグニルが、急に重さが無くなってコロリと転がった。
「うふふ……。ジョーダン、ほんのジョーダンですって。で、何なんです?無理な理由って?」

くしくし、と顔をさすってオスマンが話す。心なしか声が震えていた。
『簡単に話すと、確かにワシらを狙っておるメイジが、ここらの何処かに居る事は確かなんじゃよ。
それはモートソグニルの感覚で感じ取っている確かな事じゃ。
しかし何故かこの辺りに居る事は分かっても、正確な位置が掴めんのじゃ。これは間違いない』

オスマンの言う事に多少疑問を康一は覚える。
「それは、つまり、魔法で気配を殺してるとか、そういう事なんですか?」
『そんな魔法は聞いた事が無いが、広い世界じゃからそんな魔法もあるかもしれん。
しかしこのメイジが都合良く、そんな魔法を知っているとも思えん』

つまりそれは敵の行動が関係しているのか?それとも何か別の理由があるのか?
「もう一度確認しときますけど、この辺りに敵が居る事は確かなんですね?」
『ああ。それは死人でもないかぎり間違いないぞい』
ふむ、と康一は眉根を寄せてとりあえず今とるべき行動を決める。

「よし。エコーズACT1!」
康一の背後に長いしっぽを持つスタンドが現れた。
まずは周囲をACT1で偵察して、敵の居所を掴もうという事である。
そしてACT1は壁をすり抜け、剣の突き立った廊下を飛行して幾つもの部屋を調べていく。

「今僕の能力でこの辺りを調べてますけど、でもこれで敵が見つけられると思いますか?
魔法ってのは目で見るか、対象の位置が分かんないと正確には使えないんでしたよね」
康一にとって今一番の謎はそこだ。
こちらから敵を見つける事ができないのに、なぜ敵は康一達の位置が分かるのか?

521アンリエッタ+康一:2008/01/21(月) 12:59:24 ID:7qBnfuH2
『それはワシも気になってたんじゃよ。攻撃を受けた際、何処にも敵のメイジの姿は見当たらんかった。
このワシの使い魔、モートソグニルのネズミが持つ超感覚を使ってさえ居所が掴めん…』
魔法は目視、または対象を設定しなければ正確な魔法は使えないというのにじゃ』
魔法の知恵袋であるオスマンでさえ、この謎が分からない。

『可能性としては今のワシのように使い魔の視覚を通じてこっちを見ているとか。
それに敵は土のメイジじゃ。土のメイジには馴染んだ大地を知る力を持つ者もおる。
その力を使い城の石材などから、こちらの位置を割り出してるという事も考えられる。
この敵はしばらく城の牢屋に閉じ込められておったからのぉ。城と馴染む時間はあったかもしれん』

だがこの可能性には穴がある。それはオスマンも承知していた。
「でもそれだと敵の使い魔がモートソグニルの感覚に引っかからないのはおかしいですね。
生き物の数も分かるんでしょう?」
『ああ、今周囲に感じるのは一つのみじゃ』

「それに土のメイジって言っても、杖もなしに城と自分を馴染ませるなんて事できないんじゃあないですか?」
『そうなんじゃよなぁ。一応脱獄する前から杖を隠し持っていたとか、苦しい理由なら説明がつくんじゃが』
どうも二つとも怪しい感じだ。しかしそれぐらいしかオスマンには思いつかない。

そうこうする内に、ACT1は周囲50mを調べつくしてしまった。
ACT1の射程距離外にいるのか。それともACT1にも見つからないほど、うまく隠れているのか。
どちらかというと康一は隠れているんじゃあないかと感じた。
「でも案外悪くないんだよなァ」

康一の主語が無い言葉。
『何がじゃね?』とオスマンは聞いた。
「いや、さっきオスマンさん使い魔の目で見ているって言ったじゃあないですか。
それなんですよ。目で見ているってのは案外悪くない感じなんですよ」

オスマンの代わりにモートソグニルが首をかしげた。
『どーいうことじゃね?ワシには言っとる意味がよく分からんのじゃが…』
「だから直接敵はこっちをみているんじゃあないかって事なんです。
オスマンさん、僕達が角を曲がった時にちょっと攻撃が止まったじゃあないですか。何でだと思います?」

522アンリエッタ+康一:2008/01/21(月) 12:59:57 ID:7qBnfuH2
問われてオスマンは詰まった。確かにそうだ。なぜ攻撃が止まったのか。
答えられないオスマンに康一は自分の考えを明かす。
「多分あの時、敵は少しの間でしたけど僕たちの位置を見失ったんです。
そうじゃないと今まで正確に僕たちを狙ってた敵が、急に攻撃を外す理由が無い」

つまり角を曲がった事で、視界から康一たちが消えて攻撃を外したという事か。
『確かに…言われて見ればそうじゃが。たとえそうだとしても、何処から見ているのかが分からん。
敵が何処からこちらを覗いているのか分からなければ打つ手が無いぞい』
そもそも敵が自分の目で康一たちを見ているとすれば、居場所はすぐ近くだ。

そんな場所にいる敵に気付かない筈が無いのに。
「何か見落としがあるはずなんです。その見落としがあったから、今こうして狙われているんです。
きっかけがあればスグにでも謎が解ける筈なんだっ」
康一の面持ちが俄かに鋭くなり、体に力がこもった、その時。

カチャン。

「ん?」『何じゃ?』
背後で物音がした。康一は振り向いて見る。
「ああ、これって。さっき砕いた剣の欠片がまだ服にくっついてたみたいですね」
康一は床に落ちていた、磨きぬかれた金属の欠片を手に取った。

「こうして見ると結構綺麗なモンなんですけど」
確かに窓から差し込む僅かな月明かりを反射して輝く姿は、中々味があるようにも見える。
これで形が整っていれば装飾品に見えなくもないだろう。
しかし何気なく欠片を眺めていた康一が、はたとして呼吸を止める。

「……もしかして、そんな単純な事?」
『どうしたんじゃね?』
オスマンが康一の雰囲気を察して尋ねた。
「いやでも、なんか、僕たち、ちょっと深く考えすぎてたのかもしれないですよ」

少し拍子抜けしてしまったような康一の物言いにオスマンは眉をひそめるばかりだ。
そして康一は静かにこう言った。
「オスマンさんたちに、ちょっとばかり頼みたい事があるんですけど」

523アンリエッタ+康一:2008/01/21(月) 13:00:50 ID:7qBnfuH2




「さーてと、ここにエレオノールさんを置いていくのは気が引けるんだけど。
僕と一緒じゃあ危ないからしょーがないかぁ」
康一は倒れるエレオノールを周りの衣装で隠した。
作戦では一人で身軽に動く必要があり、それにはエレオノールを一人にするしかないからだ。

すでに腹は決まっている。康一は背後にスタンドを発現させた。
そして僅かに一呼吸置いて、走った。
ドアを蹴り破るように開けて、脇目も降らず康一は廊下を駆け抜ける。
同時に剣が天井から不気味に生えてきた。

「さすがにこれで僕を倒せるとかは思ってないだろうけどね」
身に降りかかる殺意のこもった剣雨の嵐。
しかし康一はそれをスタンドで防御することもなく回避。
何度も見た攻撃など、身軽になった康一には簡単に避けられた。

しかし剣の雨は尽きない。それどころか更に数を増して降りかかってくる。
「まだまだッ!」
康一は更に加速。そして身を投げ出すように剣からのがれる。
さすがに何本かは康一の体を掠めるが浅い傷だ。

しかし足は止めない。まだ走っていなくては、この敵は倒せない。
そして先へと進もうとしたその時、康一は足元の異変に気付いた。
「これは…ッ!」
それは鋼で出来た模造の樹木のように見える。

だが枝の成長の速度が半端ではない。樹の命を削るかのような、激しい成長。
何と康一が今回避した剣から、新たな剣が枝のように伸びているのだ。
幾つもの床に突き立った剣から伸びる剣。
それは康一の行く手を阻むように康一を取り囲む。

何か仕掛けてくるだろうとは予想していた康一だが、さすがに意表を突かれた。
今まで上からの攻撃に気を配っていた神経は、下からの攻撃には対処しづらい。
だがここで止まっていては良い的にしかならない。
「これはさすがに覚悟を決めるしかないかな〜〜〜〜ッ!!」
いつの間にか床には剣の枝が張り巡らされているが、康一は負傷は覚悟で跳躍した。

524アンリエッタ+康一:2008/01/21(月) 13:01:23 ID:7qBnfuH2
「だあああッ!」
何とか剣の枝が少ない場所を見つけて跳んだが、負傷が無いわけではなかった。
叫びで痛みを誤魔化すものの、体を防御した腕や肩から血が滴る。
だが幸い行動不能ではない。

体を起こして周囲を見ると、今度は剣の樹木から葉っぱが生えていた。
さすがに見間違いかとも思ったが、どうにもこれは現実だった。
「剣の枝から、幾つも小さな剣が…生えてきてる」
短剣ともいえない小さな刃が、剣の枝から葉っぱのように無数に突き出ているのだ。

城の廊下に生まれた無数の剣樹。こんな時でなければ、中々圧巻の光景だ。
康一の判断は早かった。即座にその場に臥せて頭部を防御。そして。
音も無く、小さい無数の刃が剣樹から打ち出された。
いくらスタンドがあってもコレだけの数の刃を叩き落すなど早々出来るものではなかった。

「アグッ!」
一応スタンドで防御はしたものの、この形態では体の重要な部分を守るのが精一杯。
守りきれなかった部分は幾つもの刃が突き刺さった。
一つ一つは小さい刃だが、数が集まればコレほど殺傷力に優れたものへと変わる。
康一はとっさに伏せたため、背中に刃が多く刺さって、まさにハリネズミと化していた。

「でも確かに、すごく痛いんだけど、死ぬほどの事じゃあない……」
痛みを堪えて康一は呟き、体をゆっくりと起こした。
血がだらだらと垂れていて、本当に見るに耐えない有様だった。
しかし立つこともできないのか、その場で力なく座り込んでしまう。

「でも痛いことは痛いし、何か今日は散々な感じだよなァ」
ぼやくような雰囲気でため息も吐きつつ、康一は言った。
その間にも天井から鋭い長剣が生成され、止めをささんと狙いをつける。
だがそんな事は気にもせずに、康一は自分の手元を見た。

康一の右手の中でコロコロと回る『糸巻き』がそこにはあった。
そしてその回転が止まって、何処に伸びているのか分からない糸の先から、
康一は確かに頼みを果たしたという意思が届いたのを感じた。

525アンリエッタ+康一:2008/01/21(月) 13:02:18 ID:7qBnfuH2
「でもこの右手の能力って結構便利だよね。動物相手にこんな糸電話みたいな事までできるだなんて」
言った康一は自分の右手に重なるスタンド『ACT1の右手』を見る。
そのACT1の右手に刻まれた、康一と同じ文様のルーン。
二つのルーンは共鳴するかのように、ぼんやりと明るく輝いていた。

「それじゃあ問題なく敵の居場所を見つけられたんですね、オスマンさん」
『おお、君の言うとおりじゃったよ。今こやつの足に糸を巻きつけてやったぞい』
糸を伝わりオスマンの声がACT1の右手を通して康一に流れ込む。
この糸は仕立て部屋の鏡台の上に置いてあった物だ。

それを糸電話のようにして康一はオスマンと会話をしていた。
「スタンド能力を発現して初めて右手のルーンは発現する。
これって僕がスタンド使いだったから、こういう発現の条件ができちゃったのかな?
まぁ、今はあんまり気にしないでイイか」

敵から攻撃される直前にACT3から聞かされたのはこの事だった。
スタンドの右手を通してルーンの能力が発現する。
単純なようで意外と気付かない盲点。
それはこの敵がどうやって康一たちを捉えていたのかにも当てはまる。

康一は自分の傍に突き立つ剣の、磨きぬかれた自分の顔さえ映す刀身を見た。
その映りこんだ自分は、また別の刀身へと映りこみ、また別へと映る。まるで万華鏡のように。
「反射なんだッ。まるで合わせ鏡みたいに、自分が攻撃するのに使った剣の刀身に映りこんだ、僕たちを見ていたんだッ!
反射を繰り返した剣に映った僕たちを何処からか見て攻撃してきたッ。
僕たちには敵の居場所は分からない。でもッ!反射を繰り返しているなら、僕たちも反射させればいいッ!」

康一の傍らに浮遊するエコーズACT1の能力は音を操る事。
数多くの剣の群れの中から、自分の姿を敵の元へと届ける一本を探し出すなど、この短時間では不可能。
しかし何も反射するのは姿だけではない。音もそれは同じ事。
正確に合わせ鏡のように、角度を合わせて反射を繰り返すなら、音もその反射に乗せる事が出来る。

しかしヘタに音を反射させては敵に気付かれる恐れもあり、何より戦闘中に音の反射を繰り返す剣を見つける事は難しかった。
だから康一はオスマンたちに頼んだのだ。人間を遥かに超える感覚を持つ。
オスマンとモートソグニルなら、音の反射を捉えて敵の居場所を発見できる。
そのために康一は自分の体のみで剣をかわし、発見するまでの時間を稼いでいたのだ。

526アンリエッタ+康一:2008/01/21(月) 13:03:23 ID:7qBnfuH2
「でもさすがにスタンド無しで真剣を避けるとかは二度としたくないなぁ」
『おっ!どうやら、こやつが自分に巻きついた糸に気がついたらしい。早くとどめを刺してやれい!』
オスマンが状況を知らせてくれる。そろそろ決着の時だ。
「分かってますよ。エコーズACT2ッ!!」

康一の傍らに形態を変えたACT2が現れた。
しっぽ文字に「ドッグォンッ」と爆発音の文字を記す。
そしてACT2はそのしっぽ文字を康一の手から伸びる糸に貼り付けた。
糸は音の効果を表し、まるで爆弾の導火線のように、糸が巻きつけられたモノにエネルギーは向かう。

ただ連絡を取り合うためだけに、康一は糸を用いていた訳ではない。
敵を見つけたならばスグに反撃を加えられるように。
敵と直接繋がる糸で音の効果を伝えられるようにするためだった。
音の伝わる速度は半端ではない。敵は糸を足から外す間もなく、そして――炸裂。

ドッグォォンッッ!!!

けたたましい炸裂音を響かせ、康一は自分の能力が届いた事を肌で感じた。
ばらばら、と少し前方で崩れ落ちる廊下の壁。その中から覗いた、囚人服のメイジの姿。
つまり魔法を使って、壁の中に空洞でも作り隠れていたのだ。まるでモグラのように。
「なるほど。確かにそれならACT1の目から隠れていられる。
色々間違えてるけど、その執念深さは本当に凄いと思うよ。いや、ホント」

体の芯を失って、崩れ落ちるメイジ。足に巻きついていた糸は爆発音の衝撃で千切れとんでいた。
それを見た康一はゆっくりと体を起こして立ち上がる。
「あたたた…。エライ時間とられちゃった。コイツはとりあえずほっといて、早くマザリーニさんの所へ行かなきゃあ」
康一は倒れるメイジに背を向けて、突き立つ剣を掻き分けて進む。

だが、僅かに背後のメイジの指がピクンと動き。その血走った目が、皿のように見開かれた。
「きいいいいイィィィィええええエエエエエエエエエエッッ!!」
耳を、食い破るかのような奇声を上げて、待機中だった魔法が発動。
康一の頭上で半ばまで生成されていた剣が、再び動き出す。
そして剣が康一をまた襲おうかという、その時。

527アンリエッタ+康一:2008/01/21(月) 13:04:07 ID:7qBnfuH2
ドッグォォンッッ!!!

再び、炸裂。
「アッバッダアアアアッ!!」
爆発音を受けて、またもや吹き飛ぶメイジ。
その足には康一の、左手から伸びる糸が巻きついていた。
ずん、とメイジが廊下に沈む。

康一はそれを振り向きもせずに進みながら言った。
「気絶してるんなら、ほっといてもいいかと思ったけど、そのまま大人しくしてないんじゃあしょーがないよね」
そして右手と左手から一個づつ糸巻きを手放す。
その光景を廊下の隅っこで、オスマンとモートソグニルはじっと見ていた。

(嘘つきおって。はなっから、気絶しようがしまいが必ず二発目をくらわせる気だったんじゃろうが……
康一君。本気で頼りになるが、同じぐらい本気で恐ろしい奴じゃよ)
こうしてオスマンの絶対逆らってはならない人物像で、はれて康一はトップに輝く。
そしてモートソグニルは動物的な勘で、康一の事をオスマンより上の存在と認識するようになった。

オスマンとモートソグニルは慎重な協議の上、微妙に距離をとってから康一の後を追っていった。

528アンリエッタ+康一:2008/01/21(月) 13:12:38 ID:7qBnfuH2
かなり久しぶりな投下です。正月休みがてら書くのを休んでたらいつの間にか、こんなに時間が過ぎていました
一応その分、いつもより増量でやってみましたのでお許しください
というか投下しようとして規制うけてると、何だか微妙に落ち込む

投下の内容の事ですが、エコーズにルーンが刻まれているというのは唐突に思われるかもしれませんが、
実はまとめにある22話のACT3の描写で殆ど気付かれないだろう伏線を張っていました
ようやく伏線回収できたのでほっとしています
それではどなたか時間があったら本スレに代理投下の方をよろしくお願いします

529ゼロいぬっ!:2008/01/30(水) 18:38:19 ID:p90xmsJc
投下終了宣言の時にさるさんを受けてしまいました。
どなたか代わりに投下終了宣言をお願いします。

アルビオン側が終わったので次回はトリステイン側での悲喜交々です。

530仮面のルイズ:2008/02/07(木) 05:50:33 ID:xgevXBa2
投下できない…おかしい、異次元にきえてしまう

531仮面のルイズ:2008/02/07(木) 05:55:08 ID:xgevXBa2
だめだ!とうかできない。
ギリギリスレ容量に間に合うよう計算したつもりだったけど、行数オーバーでもないのに異次元に消えちゃうんで、こちらに投下します。

532仮面のルイズ:2008/02/07(木) 05:55:42 ID:xgevXBa2
リッシュモンは、アニエスが苦し紛れに拳銃を撃つかと思ったが、アニエスは拳銃を捨ててマントを翻した。
バシュウ!と音がしてマントが燃える、アニエスは水袋を仕込んだマントで炎を受け止めたのだ。
だが火の勢いは弱くなるだけで、消えたわけではない、残った火球がアニエスの体にぶつかり、身に纏った鎖帷子を熱く焼いた。
「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおああああああああああッ!」
しかしアニエスは倒れない。
体が焼け付く痛みと恐怖を乗り越え、剣を抜き放ちリッシュモンに向かって突進した。
自分が絶対優勢だと信じて疑わなかったリッシュモンは、思いがけない反撃に慌て、次の呪文を放った。
風の刃がアニエスを襲う、鎖帷子と板金で作られた鎧が致命傷を防いでいるが、体に無数の切り傷を負ってしまう。

更に次の魔法をリッシュモンが唱えようとした瞬間、アニエスはリッシュモンの懐に飛び込み、リッシュモンの体ごと地面に転んだ。
「うお……げぷっ」
リッシュモンの口からは、呪文ではなく、赤い血が溢れた。
アニエスの剣がリッシュモンの体を貫通し、柄まで深くめり込んでいたのだ。
「貴様は、剣や銃など、おもちゃだと抜かしたなっ……これは、これは武器だ、我等が貴様ら貴族に一矢報いんと、磨き続けた牙だ、このまま、死ね…!

アニエスは全身に火傷と切り傷を負い、気絶しそうな痛みの中で、剣をねじり込んだ。
ごぼごぼと、リッシュモンが大量の血を吐き、手に持った杖が地面へと落ちるた。

バシュゥ!と音が鳴って、リッシュモンの姿が、木目の浮かぶ人形に変わる。
「!?」
アニエスが驚くと、アニエスの体に空気の固まりが衝突した、アニエスは地下通路の壁に叩きつけられてしまったが、辛うじて頭を打ち付けずに済んだ。
だが、あまりの衝撃に呼吸が乱れ、声が出せない。

通路の奥に目をやると、そこには、無傷のリッシュモンが杖を翳していた。
「ふん、アルビオンを脱出した『騎士』が平民のフリをしていると聞いたが…どうやら貴様ではないようだな」
リッシュモンはそう言って、人形の胸に突き立ったアニエスの剣を引き抜く。
「詰めが甘い、主君に似て貴様も詰めが甘いな、これは『木のスキルニル』という魔法人形だ。血を垂らせばメイジでも平民でもまったく同じ姿を取り、身代わりになってくれるのだよ、言うなれば魔法で動く影武者だ」
そう言うと、リッシュモンはアニエスに近づき、眼球の寸前で剣をちらつかせた。
「目か?鼻か?耳か?お前の牙でお前を削いでやりたいところだが、時間もない。スキルニルを倒した手並みに敬意を表し、心臓を突いてやろう」
「……が………貴様ァ……!」
アニエスがリッシュモンを睨んだ、だがリッシュモンはそれに笑みを返すほど、余裕の態度を見せている。
「新教の神とやらに”なぜ助けてくれないのか”と恨み言でも言うがいい」
リッシュモンは、ゆっくりと剣を振り上げ……

瞬間、土煙が舞った。
慌ててリッシュモンが剣を突き刺そうとするが、なぜか剣が動かない。
リッシュモンは、すぐさま剣から手を離し、後ろに飛び退きつつルーンを詠唱した。
先ほどより一回りも二回りも大きい火球が杖の先端に現れ、土煙に向かって放たれる。
だが、その火急は、土煙の中からゆらりと姿を現した、片刃の大剣に飲み込まれ消滅してしまった。
「な、なん……」
リッシュモンが狼狽え、更に後ずさる。
轟々と音がして土煙が消えていく、よく見ると、天井に穴が開き、そこから土煙が逃げていた。

土煙が貼れると、一組の男女がリッシュモンの前に立ちはだかっていた。
一人は茶色の髪の毛を靡かせた少女で、不釣り合いなほど大きな剣を持っている。
もう一人はリッシュモンのよく知る男、元魔法衛士隊グリフォン隊隊長の、ワルド子爵であった。
「アニエス、生きてる?」『よう、大丈夫かねーちゃん』
「………?」
やっと呼吸が落ち着いてきたアニエスは、激痛に絶えながらルイズの顔を見上げた。
よく見ると、ルイズの降りてきた穴の向こうで、マチルダが地下通路をのぞき込んでいる。

「ばかな!土のトライアングルでもこの通路は破れんはずだ!」
リッシュモンが狼狽えて声を荒げたが、ルイズはそれを聞いて笑みを浮かべ、上を見上げた。
「トライアングルじゃ無理みたいだけど、ホント?」
「こりゃ手抜き工事だね。トライアングルがライン程度の仕事しかしてなかったんじゃないかい?」
ルイズが問いかけると、穴の上からマチルダが答えた。
「ま、深さだけはそれなりだと認めてやるけどね」

533仮面のルイズ:2008/02/07(木) 05:56:57 ID:xgevXBa2
マチルダはそう言って腕を組んだ、地下通路は二十メイル以上深くにあり、土くれのフーケと呼ばれたマチルダでも探すのは困難だった。
だがひとたび探り当てれば、そこまで練金で穴を掘ることぐらい容易い。

「裏切り者のワルド子爵までご一緒とはな、驚かされる」
「裏切り者か、お互い様だな」
ワルドが氷のような笑みを浮かべて答えると、リッシュモンは恐ろしさのあまり体を震わせた。

ルイズが上を見上げて、マチルダに呟く。
「アニエスの怪我が酷いわ、水のメイジを呼んで」
「アタシが呼ぶのかい?」
「メイジじゃなくて銃士隊の隊員に言えばいいでしょ」
「わかったよ」
マチルダの姿が見えなくなると、ルイズは改めてリッシュモンを見た。

リッシュモンもまた、ルイズを見ている。
「…その剣…まさ貴様が『騎士』か」
「答える義理はないわね」
ルイズが両手を左右に広げ、わざとらしいジェスチャーをすると、リッシュモンが杖を向けてルーンを唱えた。
ルイズの持つ剣は、魔法を吸収するマジックアイテムだと考えたリッシュモンは、その長さを見て地下通路で振り回すには大きすぎると判断した。
もう一度スキルニルを使えば逃げ切れるかも知れない、そう考えて牽制のために魔法を放ったのだが、それよりも早くルイズが一瞬で間合いを詰めた。
次の瞬間、地下通路の壁ごとリッシュモンの腕を斬り飛ばした。

ぼてっ、と腕の落ちる音を聞いて、リッシュモンが悲鳴を上げる。
「……ああ あああああああああああああうわああああああああああああああ!!」

「次は僕の番だな」
ワルドがそう呟くと、レビテーションを唱えてリッシュモンの体を浮かせた。
ゆっくりとリッシュモンの側に近寄ると、ワルドは小声で囁く。
「リッシュモン、僕の母の味はどうだった?」
「ひぃ、ひいい……」
「リッシュモン、僕の母の味はどうだった?」
「ああ、あああうううう」
「リッシュモン、僕の母の味はどうだった?」
「ひっ……ああ、あの、何のことだ」
「リッシュモン、僕の母の味はどうだった?」

ワルドはリッシュモンから視線を外さず問いつめていく、リッシュモンは全てバレていると思い、観念したのか、震える声でこう答えた。
「か、彼女は、とても聡明で、わ、私は彼女を気に入っていた」
「リッシュモン、僕はそんなことを聞いているんじゃない、おまえは僕の母を抱いたんだろう?どうだった?」
「とても、そうだ、とても美しかった、はは、はははは…」
「なら未練はないな」

脂汗を浮かべ、渇いた笑いを出したリッシュモンだったが、不意に『レビテーション』が解かれて背中から地面に落ちた。
うぐ、とうめき声を上げ、無防備になったリッシュモンの股間を、ワルドは勢いよく踏みつぶした。
「       ひ 」
ぶつっ、と何かが潰れた音が、地下通路に響いた。

534仮面のルイズ:2008/02/07(木) 05:57:37 ID:xgevXBa2
「悪趣味な問いをするわね」
ルイズがそう呟くと、ワルドは苦笑して答える。
「自分でもそう思うよ」
ワルドは、アニエスの剣を拾い上げると、アニエスの腕を掴んで立ち上がらせた。
「うっ…」
アニエスは、体を走る痛みに耐えようとしているが、こらえきれずに声を上げてしまう。
「僕は両親を殺されたが…君は故郷ごと滅ぼされたそうだな。止めは君が刺すんだ…君にはその権利がある」
そう言って、ワルドがアニエスに剣を手渡すと、アニエスはワルドの手を振り払い、剣を杖代わりにしてゆっくりとリッシュモンに近づいていった。
口を開き、ヨダレを垂らして硬直しているリッシュモンに近寄ると、アニエスは剣を胸に突き立て、ゆっくりと力強く差し込んでいく。
リッシュモンは体をよじらせて、逃げようともがくが、既に剣は心臓を貫いている。
「ごぼっ、ごあ、あぶっ」
今度こそ本物のリッシュモンが、血を吐き出して悶え苦しみ、体を震わせた。
しばらくすると、白目を剥いて背を逸らし、リッシュモンは息絶えた。

「…ハァッ……ハァ…」
アニエスは息を荒げ、リッシュモンの亡骸を見つめた。

あっけない。

何の達成感も、なんの感動もない。

ただ、虚しいだけだった。

アニエスは、虚脱感に襲われると同時に、その意識を手放した。

To be continued→

535仮面のルイズ:2008/02/07(木) 06:00:16 ID:xgevXBa2
以上です。
容量制限に引っかかる場合、次スレにまで投下しなくてもけっこうです、その代わりこのスレに誘導をお願いできませんでしょうか。
よろしくおねがいします。

536若ジョセフ×エレ姉様:2008/02/09(土) 21:26:14 ID:/YC7c8Sg
> 投下完了しました。別段サボっていた訳では無いのに、完成までここまで時間が掛かるとか、もうね…
> しかもこの間に身内が亡くなったり緊急入院したりで、挙句の果ては自分まで風邪でダウン中だったりと
> せめて多少なりとも、露伴先生の言う「リアリティ」が作品に反映されてればイイナー、とか思ったりして

> それはさておき、支援して下さった皆様、本当にありがとうございます!

最後にこの投下終了宣言を書き込もうとした瞬間にさるさんとか…

537ゼロと奇妙な隠者:2008/03/07(金) 02:17:32 ID:k/DuFyLI
「当たらなけりゃどうという事はない! というヤツじゃな!」
「そうそう当たるものでもない」
 ジョセフとタバサは軽口を叩ける余裕を取り返していたが、シルフィードが到着しなければ決定的な不利は覆らない。
(くそったれがァ〜〜〜〜、シルフィードに王子様乗せたらギッタギタにしてやるッ!)
 間もなく到着するシルフィードにウェールズを載せて身軽になれば、心置きなくグリフォン上のワルドに立ち向かえる。
 風竜であるシルフィードの速度はグリフォンを凌駕する。だが今のワルドを置いて逃げれば後顧の憂いを丸ごと残すこととなる。
 昨夜完全敗北させたはずなのに、傷の一つも負った様子もなく再び舞い戻ってくる事態。
 波紋戦士であるジョセフには嫌と言うほど心当たりがある。吸血鬼や柱の男という存在は彼の頭脳からどうやっても消せはしない。
(波紋で倒せるかは判らんが……しかし今のヤツは危険ッ! ここで決着をつけねばなるまいッ!)
 基本的にいい加減で怠け者でお調子者とは言え、他人に危害を加える存在を見逃して良しと出来る性格ではない。
 しかし久方ぶりの肉体の濫用により呼吸が乱れてしまっている。身体に残っている波紋はあと一撃を叩き込む余裕はあるとは言え、無駄撃ちは許されない。
 三人目の遍在を風の刃で斬り倒し、四人目の遍在の首をデルフリンガーが刎ねたその時。
「――来る」
 タバサの小さな呟きの後、シルフィードが二人と相対するワルドの背後から全速力で近付いてくるのが見えた。
「よし! お遊びはここまで、ここからが大逆転タイムじゃなッ!」

538ゼロと奇妙な隠者:2008/03/07(金) 02:18:10 ID:k/DuFyLI
 背後から急接近する風竜は、幾らグリフォンと言えども阻めるものではない。
 全くスピードを緩めず突っ込んでくるシルフィードにタイミングを合わせ、二人は完璧なタイミングで跳躍して飛び乗った。
 水色の背の上にウェールズを寝かせ、左手にハーミットパープルを這わせると両手でデルフリンガーを握り直す。
 たったこれだけの行動を終えるまでの僅かな時間で、全く飛行速度を殺すことのなかったシルフィードは岬の上から離脱していた。
「タバサ、ここでヤツと決着を付ける! アイツを見逃すのは……イヤァな予感がするんでなッ!」
 ちらりとジョセフを見たタバサは、微かに走った逡巡の色を拭うように手綱を引いた。
 短い付き合いではあるが、切羽詰った状況でジョセフが何の考えもなく行動する間抜けな事はしないとタバサは理解していた。
 手綱に合わせて急旋回したシルフィードは、グリフォンへ向けて突き進んでいく。
「タバサ」
 急速に互いの距離を縮めていく中、ジョセフは静かに言った。
「もしわしが失敗したら、王子様を連れて逃げてくれ」
「判った」
 その返事を聞き届け、ジョセフは真正面にワルドを見据えた。
 シルフィードに飛び乗られた時点で追撃を諦めていたワルドは、再び岬へと戻ってくる風竜を一瞥し、口端を歪ませた。
 手に持った杖は既にエアニードルを絡ませている。ワルドも手綱を操り、向かってくる風竜へ向けてグリフォンを奔らせていく。
 相対速度にして時速数百リーグにもなる超スピードの中、ジョセフは注意深くタイミングを計る。タバサも小さく呪文を唱える。

539ゼロと奇妙な隠者:2008/03/07(金) 02:18:46 ID:k/DuFyLI
 ジョセフがシルフィードの背を蹴り、空中に身を躍らせた瞬間、ニューカッスル城崩落の衝撃に耐え切れなくなった岬が、ゆっくりとアルビオンから切り離され、遥か下のハルケギニアへの落下を始めた。
 自らの身一つでワルドへ飛び掛るジョセフの背に、タバサがエアハンマーの魔法を放つ。
 当然攻撃の為ではなく、三千メイルの空を生身で飛ぶジョセフの背を後押しする為。
 デルフリンガーの切っ先をワルドに向けたまま、互いの表情の変化が見える距離の中、先に仕掛けたのはジョセフだった。
「ハーミットパープルッッッ!!!」
 左腕から、何本もの紫の茨が奔流となってワルドへ伸びる。
「笑わせるなガンダールヴ! 空は私の領域だ!」
 風のスクウェアメイジであるワルドにとって、上下左右全てが風に満ちた空と言う空間で不利になる要素はないと言っていい。
 この空中戦でワルドが空を飛ぶ鷲だとすれば、ジョセフは地を這う蛙程度でしかない。
 迸る茨を巧みにグリフォンを操って回避し、魔力を帯びた風の渦で飛び狂う茨を切り払う。
「こぉのクソッタレがァーーーーーーーッッッ!!!」
 この状況に置いて得意の罠を仕掛けることも出来ない。ジョセフにとって力押し一辺倒という戦法は下の下、ある意味彼にとって最も不得意な戦法と言うより他ない。
 しかしスタンドもガンダールヴの肉体強化も、心の震えが強ければそれに比例して出力が強化される能力。
 酷使に悲鳴を上げる身体の隅々から振り絞るように力を集め、更に茨を生み出していく。
 そして一本の茨がワルドの左腕に絡み付いた瞬間、体内に残る波紋を一気に吐き出した。
「ブッ壊すほどシュートッ!! オーヴァドライブッッッ!!!」
 茨を伝う波紋が疾走し、ワルドへと放たれる。

540ゼロと奇妙な隠者:2008/03/07(金) 02:19:19 ID:k/DuFyLI
 ワルドに届いた波紋は左腕を瞬時に爆裂させ、破壊する。劇的な破壊が波紋により起こった事実、それこそが、ジョセフの感じた予感が正しいと証明するものでしかなかった。
 普通の人間に波紋を放ってもせいぜい電流が走る程度の影響しか与えられない。狙えば心臓を停止させられるだけのショックを与えられるが、肉体を破壊させるまでには至らない。
 波紋でこれほど効果的な破壊が起こせるのは、吸血鬼か、柱の男か。
 少なくとも、今のワルドは太陽のエネルギーに酷似した正の力が毒となる存在だという事である。後は走る波紋がワルドの全身を駆け巡り、彼の肉体を破壊しつくすのみ――
「そうはさせるかァァァァッ!!」
 左腕を破壊した波紋が全身に伝わろうとする刹那、ワルドは僅かな躊躇さえ見せず左肩を自らの杖で貫き、打ち砕いた。
「何ッ!?」
 自分の左腕ごと波紋を切り離したワルドの行動に、さしものジョセフも虚を突かれた。
 構えたデルフリンガーで突きを繰り出す動作に移るのに、僅かな……本当に僅かな隙が生まれてしまった。
 勝利を確信したワルドの邪悪な笑みを、ジョセフは確かに目撃した。
「私の魔法は貴様には届かない……だが、自然の風ならばどうなのかなガンダールヴ!」
 その言葉がジョセフの耳に届いた瞬間、ジョセフの身体はグリフォンが一際大きくはためかせた翼に起こされた突風で弾き飛ばされた。
「うおおッッ!!?」
 この場に吹き荒れる風の流れを知り尽くすワルドにとって、自然の風にどう影響を及ぼせば自分の望み得る結果を生み出せるかは、正に手足を動かすのと同じレベルの話。
 空中で完全に体勢を崩されたガンダールヴは、正に鷲の前の蛙同然だった。
 グリフォンは主の思い通りに空を走り、獲物目掛けて前脚を振りかざし――狙い違わず、ジョセフの胴体に獣の力強い一撃を叩き込んだ。

541ゼロと奇妙な隠者:2008/03/07(金) 02:19:57 ID:k/DuFyLI
「ぐうッ――」
 ハーミットパープルに残りの波紋を注ぎ込んでしまったジョセフには、最早防御に回せる波紋すら残っていなかった。
 胸から脇腹にかけて大きく刻まれた爪痕と口から大きな血飛沫を撒き散らしながら、ジョセフは重力に引かれて先に落ちて行ったニューカッスル岬の後を追うこととなった。
 落ちていく中、ジョセフはまたも有り得ないものを見た。
 自ら打ち砕いた左腕が、あっという間に再生させるワルドの姿を。
「……ジョセフ……」
 見る見るうちに白い雲の合間へ落ちていくジョセフ。しかしタバサはジョセフを追い掛ける事もせず、シルフィードを全速力でこの場から離れさせる。
 魔法を吸収できるデルフリンガーを操るジョセフがいない今、シルフィードとグリフォンという乗騎の性能差があるとは言え、肝心のメイジの能力には著しい差がある。
 休息もろくに取れていないトライアングルメイジと、正体不明の能力を携えて戻ってきたスクウェアメイジ。
 勝ち目も無いのに感情に任せて突き進む愚を、タバサは短い人生の中で理解していた。
 だが彼女の中では忸怩たる思いがある。それは手が白くなるほど引き絞られた手綱が証明していた。
 タバサが持つ数ある目的に近付く為の不可思議な力だけでなく、様々な卓越した能力を持つジョセフ。ここで彼を失うのは痛恨ではあるが、ここで自分が死んでしまっては元も子もない。
 今の手持ちのカードでは決して勝ち目は無いが、せめて何か勝ち目の見えるカードがあれば再びワルドに立ち向かい、ジョセフを救出に向かう事に恐れは無い。
「せめて……せめて何か手立てが……」
 ぎり、と歯噛みするタバサ。不意にシルフィードが大きな声で叫んだ。
「お姉様! 前を見るのね!」
 竜の口から聞こえた言葉に前を見れば、そこにはキュルケとギーシュに抱えられてこちらへ飛んでくるルイズの姿があった。
 彼女の姿を認めた瞬間、タバサはシルフィードに命じた。
「三人を乗せたら急いで反転。反撃に向かう」


 To Be Contined →

542ゼロと奇妙な隠者:2008/03/07(金) 02:25:44 ID:k/DuFyLI
以上投下しました。
ゼロと奇妙な隠者の中ではジョセフが危機に陥るとルイズにも見えるようになりました。
理由:そっちの方が中の人の好みだから。こっちの方が萌えるんだ!ヽ(`Д´)ノ

久し振りに投下しようと今夜中に完成を間に合わせようとしたらこんな時間になってしまったぬー。
とりあえず私用も一段落したのでこれからはコンスタントに投下していく方向で。
プロットばかりが溜まっていく切なさも強いんだぜーちくしょうー。
どなたか代理投下してくれれば嬉しいのです。

543ヘビー・ゼロ:2008/03/16(日) 01:54:35 ID:HxTLDF6M
さるさん・・・・・・長いつき合いだぜ
こちらに投下します

544ヘビー・ゼロ:2008/03/16(日) 01:55:21 ID:HxTLDF6M


 店の中に砂を叩くような鈍い音が響く。
「オラッ!」
「ふぅっあッ!」
 十人目の男の拳がアニエスの腹部を捉える。衝撃は折れた肋骨で倍増され内臓をかき回し、口から血となって吐き出されていく。すでに給仕服にあの可愛らしかった面影はない。だが、今のアニエスはほとんど痛みを感じてはいなかった。
「しぶといな……早く楽になっちゃえよ」
「この程度では……ゲホッ、皿洗いの方が過酷と言うものだ…」
「強がるね」
「強がりじゃないさ…。むしろ強がっているのはお前だろう?すでに十分はとうに過ぎているんだ……なのにお前の仲間は一人も来ない。……フフフ、いったいどこで油を売っているんだろうなあ…?」
 力無く笑いながらも、アニエスの言葉には勝ち誇っている節さえある。その言葉にメイジ崩れの男はこめかみをひくつかせた。
 そうやって余裕ぶっているがいい。お前らの企みはウェザーたちが防いでくれる。お前らを個々に釘付けにしておけば我々の勝ちだ。
 と、不意に男が立ち上がった。そして杖をアニエスの鼻先に突きつける。
「もういいわ。元々お前にこだわる必要はねーんだし、先の方から焦げて死ねよ」
 死ぬ?私は死ぬのか?じゃあ私の復讐は誰が遂げる!こんな所で死ねるか!
「お、いいねえ。その生きたいっていう目。強がっててもやっぱり死ぬのは怖いよなあ?未練たらたらって感じの目がたまらねえ……。
 ああ、今ならあの人の丸焼き趣味が解るわ。生きながら焼かれるのは未練が強そうだからなあ……。じゃあ、逝ってらっしゃい」
 目の前で杖に火が着く。
 よりも早くアニエスは床に落ちた。
「…え?」
「…あ?」
 アニエスと男の疑問の声が重なる。どうやらお互いに予想外のことが起きたようだった。
 アニエスが背後に首を回せば、そこで自分を羽交い締めにしていたはずの大男は床に寝ており、代わりに無精ひげの伸びた中年男性が剣を担いで立っていた。
「お、お前は……武器屋の!」
「YES I AM!」
 格好つけてはいるがその顔は赤い。どうやら酔っているらしかった。
 そしてさらにその影から人影が現れた。
「あーあー…店がグチャグチャじゃねえか。グラス割れてねーだろーなあ」
「マスター!」
 いつの間にか消えていたはずのマスターがそこにはいたのだ。
「おうアニエス、生きてるって事は無事みたいだな。さて、お前ら」
 そう言ってマスターは男たちの方を見る。その目に思わず何人かが退いた。
「ウチの従業員に随分とまあ教育してくれたみてえだなあ……この授業料はキッチリ払ってやる」

545ヘビー・ゼロ:2008/03/16(日) 01:56:27 ID:HxTLDF6M
「…ハッ!援軍が二人来た程度で……」
 その言葉を掻き消すように表が騒がしくなった。何人かが吹き飛んできて店の中に転がる。
「誰が二人っていった?ブルドンネ街とチクトンネ街の腕利きの店長たちを集めてきてやったぜ」
「く……」
 外では再び怒号があがり、時折それに紛れて「トレビア〜〜〜〜ン」と言う声が混じって聞こえた。
「テメーらよくもいたいけなオレをイジメやがったなッ!許さんぞッ!この剣に誓ってお前を倒す!」
 しゃっくり上げながらイマイチろれつの回らない舌で武器屋の親父がそう叫ぶ。その間にマスターがアニエスを助け起こした。そして袋を渡してやる。
「これは……武器?」
「この酔っぱらいを酔わせて持ってこさせた奴だ。好きなのを使え。なーに、道具は使われてなんぼだ。酒臭い親父の下で埃被ってるよりかはいいだろう」
 言われるまでもなくアニエスはすでに袋の中を物色していた。そして一本の剣を取り出す。
 装飾は地味だが、鞘から解き放たれた瞬間に刃が空気を吸い込むかのように震えた。
「なるほど。腐っても武器商人と言うワケか。いい仕事をする」
 形勢すでに覆りつつある。内と外からの挟み撃ちは狭い室内も相まって効果が高かった。
 恋しがるように息を深く吸い込み、アニエスは体中に力を戻す。
 自分は生きている。まだ生きている。まだ、戦える。まだやらなければならないことがある。だから――
 "それ"はまるで麻薬のようにアニエスの体から痛みを消し去っていく。
 刃に映る自分の顔はどうなっているだろうか。きっと狂おしいほどに憎悪に燃えているだろう。
 それでいいというようにアニエスは駆け出した。



     To Be Continued…

546ヘビー・ゼロ:2008/03/16(日) 01:59:30 ID:HxTLDF6M
以上投下完了!
お、俺は一周年記念にお呼びじゃねーってのか!
答えろ!さるさーん!

使空さん待ってました!六部仲間が増えた!自分は楽しみに待ってますよ!

547ヘビー・ゼロ:2008/03/20(木) 21:29:34 ID:YWphJUIk
投下できない?

548ヘビー・ゼロ:2008/03/20(木) 22:37:50 ID:YWphJUIk
『Do or Die―5R―』

「ふぅ…」
 とある屋敷の裏でため息が漏れ聞こえてきた。
 フーケは背を壁に預けて荒い呼吸を整える。戦闘を極力避けていたためにダメージこそないが、それでも緊張と焦りが疲れになってのしかかる。
 ある程度息を整えられたのか、顔を上げて目の前の屋敷を見上げる。そこはフーケが目指していた場所だった。
「ウェザーの方も上手くやってるかな? まあ、上手くやってなくても何とかするか」
 そんな楽天的な考えで足を進める。恐らくは門で決着を付けるためだったのか、その屋敷には見張りもおらず灯りもついていなかった。
 屋敷内を徘徊し部屋を一つずつ見回るが、やはり何も、誰もいなかった。
 そして気づけばとうとう残り一つとなってしまっていた。
「さてさて、アタリを引いたかハズレを引いたか……」
 細心の注意を払いながら扉を開けていく。
 蝶番が軋む音とともに開いていく空間は――闇そのものだった。
 フーケの背後の月明かりで辛うじてハッキリ見えるのは二歩先までで、窓は一つしかなく黒の厚いカーテンに覆われていた。静けさも相まってまるで怪物の胃袋に放り込まれた気分にさせられる。
「調度品が高級なのは盗賊冥利に尽きるけど…、生憎と今日のお目当ては違うのよね」
 小さな獅子の像を手で弄びながら残念そうに呟いた。
 部屋の半ばまで足を踏み入れて辺りを再度見渡す。だが、やはり何もない。
 諦めたのかフーケはため息を付き、
「結局ハズレ――」
 像をいきなり投げつけた。

549ヘビー・ゼロ:2008/03/20(木) 22:39:27 ID:YWphJUIk
 部屋の奥隅に一直線に飛んだ獅子は何もないはずの空間に"ぶつかり"、劈くような金属音を上げてその空間を"砕いてしまった"のだ。
「――なわけないわよねえ」
 ヒビ割れ崩れ落ちていく空間の破片は、しかしよく見れば輝いていた。微かな月光を受け幻想的な景色を作り出したのは空間の破片などではなく、鏡の破片だったのだ。
「モノを映し出す鏡の性質を利用して角の一辺に鏡を設置すれば、映し出されるのは同じ壁……まるでそこがこの部屋の隅のように見えていても、その後には空間が出来てるってわけ。
 解ってしまえばなんてことないトリックだけど、この徹底した暗黒の空間作りと天上まで届く巨大な鏡を用意した努力は褒めてあげる」
 フーケは以前に襲われたときの違和感、そして屋敷の外観と部屋の大きさで異変を察知していたのだ。ルカの時も、椅子に座るように促してしまえばわざわざ逆らって部屋を物色したりはしない。
 それは道具さえあれば誰にでもできるトリックだが、だからこそ誰も気が付かなかったのだ。
 舞い散るガラスの破片の向こう側。さらに深い闇の中に輝く二つの目が見えた。
「こそこそ隠れて指示だけ出すなんていいご身分ね!」
 そこをめがけてフーケが杖を振るった。
 だがその時二人の間に落ちた鏡が光を反射した。
 それを見た瞬間にフーケは慌てて身を引いていた。
「く……」
 それでもフーケの給仕服の腹部は裂け、肌にはうっすらと赤い線が引かれることとなった。
「よくかわしたなぁ……」
「同じヘマはしないわよ!」
 すぐさま再び杖を構える。もっとも、その時にはすでに男はいなくなっていたが。
「まだ隠し部屋があるなんて、驚きを通り越して呆れたわ……」
 瞬時に辺りに目をやるが、居場所が特定できないと判断するや踵を返して部屋を飛び出す。そのままわき目もふらずに屋敷を駆け抜けた。
「……オレへの攻撃が不可能と見るやいなやのあの逃げ……。マジでこっちの攻撃方法に気づいたのか?」
 部屋中に散乱した鏡を見ながら呟く。このトリックは元々気づかれたとしても、そのトリック自体が己の力に変わるという二段仕掛けのモノだったのだ。フーケは踏み込んでこなかったと言うことは、あの破片群の中に入ることがどういうことか理解している。
 独力でスタンドに気づくことは不可能に近い。ならば"他にスタンド使いがいる"と言うことになる。それもフーケの味方として。そうなれば当然ながらこの戦いに参加しているのだろうが、フーケが一人の所を見るに別行動らしい。もっとも、
「どんな能力だろうと関係ねえ…。オレの『ハングドマン』は最強のスタンドだ。炎を操ろうが超精密なスピードとパワーだろうが、『鏡の世界』は貴様らの干渉外。じわじわじわじわじわじわと、炙るように殺してやる」
 どこからか現れた禿頭の男は、その"特徴的な左手"で口元を抑える。抑えきれずに零れ出る愉悦の笑いを抑えるために。
 床に落ちたいくつもの破片に映るのは男のもう一つの姿。
「さあ、童話の世界の住人が出てきてやったぞ。じっくりゆっくりたっぷりと、骨の髄までいたぶってやる」
 街に悪意を振りまく男――J・ガイルが夏の夜に飛び出した。

550ヘビー・ゼロ:2008/03/20(木) 22:40:50 ID:YWphJUIk


「ん〜〜、トレビア〜〜ン!」
 気の抜けるような掛け声だが、それとは裏腹に野太い声と共にぶっとい腕がチンピラの喉を強打した。ウェスタンラリアットである。
 喉に衝撃を受けたチンピラはそのまま白目を上げて後に吹き飛ぶ。そして静かになった。もはや立ち上がる者は誰一人としていなかったのだから。
「ご苦労さん。取り敢えず決着だ」
 マスターのその言葉に援軍が雄叫びを上げた。武器を振り回す者、座り込んでしまう者、それに手を貸す者。とにかく、ここでの戦いには勝利したのだ。
「いやいや、おつかれだなあスカロン」
 マスターに声をかけられたケバケバしい色のシャツにごついガタイを窮屈そうにしまい込んだ男が振り返る。すると、スカロンと呼ばれたその男は身をくねらせ始めた。
「本当だわよ!本来なら『カッフェ』の奴に手なんか貸したくもないけど、今回は街全体の問題だからしょうがないわ」
「そう言うことだ。簡単な治療ならみんな始めてるからやってきたらどうだ?」
「わたくしがケガして帰ったらみんなを心配させてしまうじゃない。今日はお休みにしたけど、明日までにはさすがに治せないんですから」
「その言いぶりだと二日もあればどんなケガでも治せそうだな…」
「そりゃそうよ」
 まるであなたは治せないの?と、さも当然のように答えられてはさすがに閉口してしまう。化け物め、と心中で呟き話を変えてみた。
「だ、だがまあそれで他人をケガさせてりゃ世話ないんだがな」
「美しい薔薇には棘があるのよ」
「棘って言うよりは毒だな。即死級の」
 どうにも洒落にならないような気分になったマスターは話を切り上げるとアニエスを探し始めた。一番の重傷者であるから恐らくはすでに応急処置を受けているだろうと治療を受けている人だかりを覗き込むが見あたらない。辺りにもそれらしき影もない。
 マスターは首を傾げるしかなかった。
「どこいったんだあいつ……」

551ヘビー・ゼロ:2008/03/20(木) 22:42:38 ID:YWphJUIk


 雨上がりで悪臭の強まった路地を男は走っていた。
 店内では戦局が一気に傾いた。街中からかき集めたのではないかと思うような人数で押し掛けられては策も何もあったものではなかった。街の人間たちには薬と恐怖である程度の統制を敷いているハズだと聞いていたと言うのにだ。
 旗色が悪いと見るや、このメイジ崩れの傭兵は頭としての役割を放棄し、群を囮にして外へ逃げ出したのだった。
「畜生が!とんだ火遊びだぜ。何が『オレの作戦に狂いはない』だよあの猿山の大将はよぉ!仲間が集まらねーんじゃ意味ねーだろーが!そもそも、姿を見せねー時点で妖しいんだよ!」
 そう毒づいたとき、細い横道の闇の中から白刃が飛び出してきた。
 咄嗟のことではあったが傭兵は何とかあごの先をかすめる程度で避けることに成功した。そして追撃の一閃も跳び退いてかわす。と同時にそつなく懐に手を伸ばし杖を探る。
「ほっ、アブねえアブねえ――……って、アレ?」
 杖がいっこうに掴めない。
 まさか落としたわけもなく、不思議に思い手元を見れば――
「探し物は"これ"か?」
 そう言って闇夜の襲撃者が掲げて見せたものは紛れもなく傭兵の腕だった。
「お、おおおおおぉぉおお?お。れの。腕。っがァッ!」
 真っ赤な噴水を上げる少し短くなった腕を前に男は叫び、そしてまだくっつくとでも思ったのか地面に放り投げられた腕を拾おうとかがみ込んだ。
 だが、腕に指先が触れる瞬間を狙い澄まして足の甲が顔面にめり込む。鼻と前歯を何本か折られ、今度は仰向けに倒されることとなった。
「うぐあ!ぢ…くしょうてめえェエギッ!」
 起き上がろうとした傭兵の胸へ容赦なく足を落とし、肋骨を軋ませると脇腹を蹴り上げ完全に砕いた。そして肩を足で押さえ壁に押し付ける。肺から息が一気に抜け、視界が点滅する中、傭兵はその襲撃者を見上げた。
 月明かりを背負って立つシルエット――それはアニエスだった。
「テメ……何で…」
「"何で動けるんだ?"――とでも聞きたげだな」
 そう言いながら刃をぎらつかせる。意図的ではないにしても恐ろしすぎるというものだ。
「生憎とまだ死ねない体でな――いや、私の意志が死なせてはくれないのだ。情にほだされて忘れかけていたが……お前のおかげで思い出せたよ。確かに私は未練だらけだ。殺さなければならない相手がまだいるんでな……憎悪で痛みも吹き飛ぶ」
 淡々と、静かに告げるアニエスに傭兵は冷や汗を垂らす。
 イカレてやがるこの女……。
「何だ?泣いているのか?男の子だろう。腕が一本なくなった程度じゃあないか。まだ死なないさ。それに……」
 アニエスは男の肩を解放してやる。
「安心しろ。貴様はどうやら中核の人物のようだからな、怒り心頭ではあるが無下に殺すつもりはない。もっとも、それ相応の罰は覚悟して置くんだな」
 場合によっては今よりも酷いかもな。そう付け加えてくるりと背を向けた。
 傭兵は折れた肋をかばうように蹲りながら観念したように呻く。
「くっそ……ダングルテール以来のでかい祭だと思ったのによお……」
 刹那、傭兵は勢いよく体を起こすと残った腕で取りだした小銃をアニエスの背中に向け引き金を引こうとした。
「だが最後の最後でツイてるぜ!」
 だが、驚くべき速度で反転したアニエスの刃がその小銃も傭兵の腕同様に半ばで切り落とし、弾丸は不発に終わってしまった。
 返す刀で傭兵の腿を切り裂き、懐から取りだした短剣を傭兵の残った腕に突き立て、今度こそ磔にした。

552ヘビー・ゼロ:2008/03/20(木) 22:44:31 ID:YWphJUIk
「ひぎあああああぁぁああ!」
 絶叫を始める傭兵の口に壊れた銃をつっこみ声を抑えてしまうと、影になるように上から覗き込んだ。そのせいで傭兵にはアニエスの表情が見えない。
 と言っても今の傭兵にそんなことを気にする余裕はないのだが。
「ああ――まったくだ。まったくもってツイてるよ……。私も、お前もだ。よもやこんな所で仇に出会えるとは思いもしなかった」
「は、はあぎ…?」
「ああ、喋りにくかったか?」
 ずるり…、と口の異物感から解放された傭兵が改めて聞き直す。
「仇だって……?お、オレが?」
「貴様自分の言ったことを三秒も覚えていられんのか?鶏か貴様」
 この世の軽蔑を全て集めたかのような視線を送り、アニエスは傭兵によく聞こえるよう声を低くして言ってやった。
「ダングルテール」
 瞬間的に傭兵の体は固くなった。あまりにも露骨すぎて滑稽なほど。
「う、うそだ……あの村の住人は全員焼き払ったはずだ……!亡霊でもなければ……ありえない!」
「そうだ亡霊だ。私はあの炎から生まれた怨嗟の塊。復讐の亡霊だ。二十回目の夏にしてようやく貴様のもとに来た」
 深い――深い闇がその目には宿っていた。
 ああ、自分はここで殺されるのか。
 恐怖に凍りついた意識が辛うじて紡ぎだしたものは諦めだった。
 目の前の亡霊はそれに答えるかのように突き立てた短刀を薙ぐようにして引き抜いた。壁から自由になった腕は、しかし重力に逆らうことが出来ない。それで腱を断たれたことに至った。足も動かず、完全にまな板の上の鯉である。
 だと言うのに、アニエスはそれだけで手を止めてしまった。
 ひいひいという呼吸か悲鳴か判別できない音を喉からこぼしながら、傭兵は疑問の視線を投げかける。
「生きたままだ」
「へあ?」
「私たちは生きたまま焼かれた。喉は焼かれ肺に熱風が流れ込む。乾ききった眼球は割れて骨まで溶けだすその苦痛――それを与えなければ意味がない」
 アニエスの声に混じって何かの唸り声が傭兵の耳を打った。視線をわずかに下に送れば、闇の中にいくつもの鬼火が見える。そして徐々に大きくなる唸り声と共に姿を現した鬼火の正体は野犬だった。汚く痩せた体は明らかに飢えを訴えている。

553ヘビー・ゼロ:2008/03/20(木) 22:46:57 ID:YWphJUIk
「気づいていたか?この辺りはもうスラム街に入っていることに」
「あ……ああ……ああ……」
 二人を囲むようにして様子を窺っていた野犬たちだったが、傭兵が手負いと見るとその包囲網を狭め始めた。強くなる唸り声と獣臭に傭兵は息を呑む。
「ふ、ふざけるなよ……こんなことォ……」
「ふざける?これは摂理だ。この野犬たちが飢えているのも元はと言えば貴様ら『組織』がここの住人たちを虐げるからだろう。薬を捌き金を搾り取る悪鬼どもめ。因果応報という言葉を知らないのか。
 いや……貴様に関してはそれだけではないがな」
「た、頼む!助けてくれェ!ダングルテールのことも謝る!これからは心を入れ替えるからどうか……」
「ああ、いいとも。貴様が私の知りたいことを、そのハープのような音色を出す喉で歌ってくれれば私はお前を殺さない。当時の仲間――貴様に戦術を教えたという隊長も含めた居場所を、な」
「そ、そいつは無理だ。オレがいたのは魔法研究所実験小隊ってぇほぼ非正規の汚れ屋だが、あのダングルテールの後にオレは脱走してるんだ……。
 だ、だが一人だけオレと同じ傭兵家業をやってる奴を知ってる!そいつもオレと同じで脱走した口なんだが、これがまた狂った野郎で……」
「ご託はいい。さっさと名前と居場所を吐け」
「ぐ……。メンヌヴィルだ、聞いたことくらいあるだろう?」
 その名前にアニエスはハッとする。
 『白炎』メンヌヴィルと言えば傭兵の中ではトップクラスに位置するビッグネームだ。そしてその嫌われ具合もトップクラスである。アニエスは一度その戦闘跡を見たことがあったが、炭化した大地と肉の焼ける酷い臭いが頭にこびりついている。
「そいつは今アルビオンにいる。あの人は鼻が利くからな……とくに、鉄と焼ける臭いには敏感さ。戦争があると悟ったんだろうな。何せオレもそこにいたんだから、確かな情報だぜ」
 そこまで言って、傭兵はアニエスに何かを期待するような視線を送った。だがアニエスはそれを気にする様子もなく、剣を収めて後にさがった。
 今までアニエスを警戒していた野犬たちもその様子に安心したのか包囲網をさらに縮め始める。
「お、おい…!お前約束が違うじゃねーか!は、早く助けろってェ!」
「何を言う。ちゃんと約束は守るさ。"私は貴様を殺さない"。だからこうして剣も収めた。あとは自分でどうにかするんだな。
 もしもどうにも出来ないというのであれば」
 瞬間、アニエスの目から温度が消える。
「――煮るなり焼くなり好きにされろ」
 嘲るようなアニエスの言葉に傭兵は土気色の顔をして口をパクパクとするしかなかった。出血も手伝ってもはや呼吸もままならないのだろう。それでも絞り出すようにして呪詛の言葉を紡ぎ出す。
「――……地獄に堕ちろ……」
「地獄ならとうに味わったさ」
 そして黒い雪崩が押し寄せた。
 その爪でその牙でその顎で、血を肉を骨を、啜り咀嚼し噛み砕いていく。
 もはや人としては最低限の機能しか残さない傭兵の双眸は凍りついたように動かず、空の月を捉えている。大きな二つの月に、今日はなぜかもう二つ月が浮いていた。底の見えない暗さを持った月。
 その月光を受けた牙が見えた瞬間、傭兵の全ては終わった。

554ヘビー・ゼロ:2008/03/20(木) 22:47:59 ID:YWphJUIk


「抱き締めたいなァッ!」
「冗談ッ!」
 前回り受身をしたフーケの服がまた裂ける。すでに服は破れに破られ、背中などは大きく開いてしまっていた。
 フーケはそんなことを気にすることもなくすぐに駆け出す。背後では妖しげな笑い声が聞こえる。
 何とか致命傷は避けてはいるが、いずれ捕まるだろう。
 ――いや、とっくに捕まっているのか。
 小さく舌打ちをする。
 見えない相手に上手いこと避けていることはあり得ない。気配らしきものは感じられるが、それでも微かであり、感じてから避けていては間に合うはずもない。それでもまだ生きているということは"自分"ではなく"敵"が致命傷を避けているのだ。
 遊ばれている――。
 ボスは狩りを楽しんでいるようなものだろう。一方的な暴力に由来する愉悦。わかりきっていたことだが最低だ。
「いや、最悪なのかな……けど、油断してくれてるならそれにこしたことはないね」
「ほおらいくぞお!」
 再び声が聞こえてくる。……と言うよりも響いてくるというべきなのだろうか。声からボス本体の位置を探ることが出来ない。恐らくはスタンドを通して声を通しているのだろう。メイジにしか聞こえないのかもしれない。
 ウェザーはメイジとスタンド使いは近しいものだと言っていた。どちらも精神に由来する強さであり、スタンドが魔法に干渉するのもそのせいではないか、と。
 仮説でしかないが、今はそれを確認している余裕もない。二の腕が裂けるとノースリーブになってしまった。
 一端建物の陰に隠れてやり過ごす。幸い下っ端に出くわさないのは街の方に回したからだろう。嬉しい反面焦りも増す。
「あー……これで負けたらあいつがうるさいんだろうなぁ」
 服を破り傷口に当てて止血する。ため息の出るような状況だった。それでも目的地まではあと少しだ。そう活を入れて走り出した。
 そして再び見覚えのある場所に出る。石畳に残る血痕とひび割れは侵入したときに暴れてできたものだ。ということは門も目の前である。
 一気に駆け抜けて橋の上に出ると、反転して止まった。
 やおらスカートの中に手を入れると幾つかの小瓶を取りだし橋の上に放り投げた。割れて出てきたのは土だ。すぐに『練金』で壁を作り出す。
 この橋の上なら、敵は一直線にしか攻撃してこれないはず。なら、その進路上に障害物を配置してやれば捕まえることもできる。
「――……え?」
 しかし、予想に反してフーケの脇腹にずぐり、と痛みが走った。
 そして血がこぼれ出す。痛みに思わず蹲った。
「なんだぁ?結局お前、オレの能力には気づいてないんじゃねーか。川だろうと池だろうと、オレには関係ないね」
「あぐッ……!」
 フーケは唇を噛み締めると傷ついた脇腹を押さえて走り出した。橋の上には点々と赤い印が残され街の方へと続いていく。
「おーおー健気だねえ。まあ、そっちの方が遊びがいがあっていいけどな」
 J・ガイルは舌なめずりをしながら、追い打ちをかけるでもなくフーケの背を見る。獲物の必死な様子を楽しむかのように。

555ヘビー・ゼロ:2008/03/20(木) 22:50:14 ID:YWphJUIk


 夏も盛りだというのに、月さえ黙してしまったかのような静かな夜。人々は本能的に何かを感じ取ったのか極力外へ出てこようとはしない。
 そんな中、道を駆ける一人の男がいた。幻獣マンティコアの刺繍の施されたマントを翻し、とある建物の扉を開いて中に駆け込む。
「ゼッサール隊長、各拠点の包囲完了いたしました」
 男は入ると同時に敬礼を取った。視線の先には机に向かっているマンティコア隊隊長ド・ゼッサールの姿があった。机の上に広げた街の地図から視線を上げて隊士を労う。
「ご苦労。引き続き警戒しておけ。くれぐれも住民に不安を与えるなよ」
 それに答えた隊士は、しかし沈黙した後でゼッサールに尋ねてきた。
「しかし隊長、敵は素人に毛の生えたチンピラとは言え、敵の本拠地での戦闘です。数も相当だと報告もありますし……本当に援護はいらないのでありましょうか」
「ヒポグリフ隊がすでに行っているのならば問題はない」
「ですが……これほどの大捕物、万一失敗するようなことがあれば我々衛士隊の沽券に関わります!」
「……お前、入隊して何年になる?」
「は?あ、えっと、マンティコア隊に配属されて今期で六年目であります!」
「そうか」
 突飛な質問に男は小首を傾げたが、ゼッサールはそれを気にする様子もなく腕を組んだ。
「……私はな、大捕物だからヒポグリフ隊に任せたんだよ」
 それだけ言って視線を隅にやる。そこには居心地悪そうに立っている少年たちの姿があった。水魔法により傷は治癒しているが、ここに連れてこられたことに戸惑いを隠せないでいる様子だ。
 そこへゼッサールが声をかける。
「諸君らの勇気ある行動に感謝する。君たちのおかげで国の大事は未然に防げそうだ。己が身を省みないその勇気は尊敬に値する」
「あ、ああ……そりゃ、どうも」
 国中の憧れである魔法衛士隊の隊長にそう言われて、少年たちはむず痒そうだった。何となく夢のような気さえする。
「家まで護衛を付けよう」
「いや、いい!……です。ケガも治ったし自分達で帰れる。……ます」
 そうか、と隊長はその厳つい髭面に人の良さそうな笑みを浮かべ少年たちを扉まで促す。そして少年たちは外へ踏み出した。
扉を開けた瞬間に飛び込んできた光景に息を呑む。
 マンティコア隊隊士たちが道の脇にずらりと並んでいるではないか。背後からゼッサールの太い声が響く。
「救国の英雄に敬礼ッ!」
 ザッ、という音とともに一斉に敬礼する隊士たち。その間を少年たちはうつむき肩を揺らして歩いていく。
 奪われ蔑み踏みにじられてきた人生。人として扱われぬ絶望。失意に駆られ道を逸れ、下を向いて歩いてきた。日陰こそが我が住処。そう思っていた。これからもそうだと思っていた。
 だが――
「バカ野郎。下を向くんじゃねーよお前ら」
 リーダー格の少年が前を見ながらそう言った。
「こういうときは胸を張って堂々と歩くんだよ」
 オレ達はまだまだこれからだ。そう思わせるような光に踏み出す一歩だった。

556ヘビー・ゼロ:2008/03/20(木) 22:51:35 ID:YWphJUIk
 そして見えなくなる。ゼッサールが敬礼を解くのに合わせて隊士たちも下ろす。と、一人の隊士がゼッサールに声をかけてきた。『組織』とフーケの関係をゼッサールに伝えた隊士だ。
「隊長、女王の近衛である魔法衛士隊が平民に敬礼を取るということは女王の権威が取ったというのと同然です!こんなことが上に知れたら……」
「せっかくのチャンスがダメになる……か?」
 ゼッサールの言葉に隊士がギョッとなる。
「な、何を言って……」
「あまり私を見くびるなよ。モット伯を絞ってみたら吐いたぞ。今回の事件と貴様らとの関連などをな」
 脂汗がとめどなく溢れてくるらしく、しきりに額を拭いてはいるが動揺は隠し切れていない。しどろもどろに何事かをいうがもはや言葉にもならないようだ。
「黙れ。言い訳は取り調べで聞く」
「そうかよ。じゃあもういいよ」
 言うが早いか杖を引き抜く。魔法衛士隊は魔法の威力だけではなく、詠唱速度や咄嗟に杖を引き抜く速度と言った目立たないところから鍛え上げられている。ブツブツと呟いていたのは言葉ではなく呪文。
 同じ衛士隊同士なら先手を打った方が勝つ!
「アンタの首を手土産にすりゃあこの失態も帳消しだッ!」
 そう言った瞬間隊士の意識は飛んでいた。壁に叩き付けられたことに彼は気付けていないだろう。
「見くびるなと言ったはずだ。先手を打てば勝てるとでも思ったのか?修練が足らん。これが隊長である私とお前との差だ」
 いつの間に抜いていたのか、ゼッサールの手には杖が握られていた。何十年という鍛錬に裏打ちされた純粋な技量である。
 隊士たちが息を呑んだ。それほどの力量を見せたのだ。絶大なる力でもって隊の統率を図る。かつての師の教えを実行した。
 数名の隊士に後始末を任せると、残りの隊士に指示を飛ばす。この熱帯夜にゼッサールの忠実な部下たちは飛び出していった。

557名無しさん:2008/03/20(木) 22:53:10 ID:YWphJUIk


 街の外観に溶け込むような家の中に、その外観に不釣り合いな男たちが集まっていた。各々が手に武器を持ち、一種の興奮状態にあるようだった。テーブルの上には白い粉が散乱し、それを奪い合う。
「おいよお!そろそろ時間じゃねーのかよッ!火どころか煙一つアがりゃあしねえ!」
「大方"不運(ハードラック)"と"踊(ダンス)"っちまったんだろ。つかテメェさっきからシャブ一人でギッてんじゃねっぞ、お?」
「あ?テメェなに調子くれてんだ?"顔(ツラ)"貸せや。あんまトンガってっと"潰"すぞ!」
「おいおい二人とも待てって。つーかそんなに暴れてーならオレ達だけで街にでりゃあよくねぇ?」
「ヤベえ、お前マジヤベぇな。マジオレら大人しすぎたろ。つかオレらでヤッちまったらオレら"天下(テッペン)"取れんじゃね?そーなりゃシャブ使いたい放題ジャン!」
 その言葉に家中から歓声が上がる。掛け声と共に足踏みで地面を揺らす。ちょうど薬の効きが頂点に来たのだろう。血走った目をした男たちが扉めがけて殺到する。今まさに狂気が解き放たれたのだ。
 ――しかし、男たちの進む先には壁があった。いや、それは人が横一列に並び、道を塞いでいる光景だった。その人間たちの恰好に気づいた男が一人、震えた声を出す。
「あ……ま、ままま――」
 その壁の中心になっていた人物が声を張り上げた。
「おのれら、チンピラ共ッ!このオレ率いるヒポグリフ隊が相手だッ!」
「魔法衛士隊だアァァァッ!」
 叫びを上げ逃げまどう男たち。しかし路地に入った瞬間、すでに待ちかまえていた衛士隊の魔法によって、ある者は風に押さえ込まれ、ある者は足下の地中が変形した檻に捕まった。
 立ち向かおうとする者もいるが、相手は鍛えられた軍人だった。薬で恐怖は薄まろうとその実力差は覆しがたく、また衛士隊も容赦がなかった。一人、また一人と魔法衛士隊に捕まっていく。
 そして他の所でも同じような光景が広がっていた。街における趨勢はこれではっきりすることとなるだろう。だが、手足が死のうとも頭が残っていれば幾度でも再生する。『組織』というものは往々にしてそういうものなのだ。

558ヘビー・ゼロ:2008/03/20(木) 22:54:47 ID:YWphJUIk


 夕立で出来た水たまりも気にすることなくフーケは走り続ける。傷に当てた分だけ衣服はその布面積を小さくし、今や夏に相応しいを通り越してやりすぎなほどであった。
 街に入ってからも変わりなく続く鬼ごっこは確実にフーケの体力と精神をすり減らしていた。曲がり角には目もくれずに十字路を真っ直ぐに突っ切る。
「ホラァ!追いついちまうぞッ!」
 後方からの声と共にフーケのスカートの裾が裂ける。
「くっ…!」
 慌てて角を左に曲がる。
 だが、依然背後の気配は消える様子もない。確実に追われている。足を休ませることも出来ずに走り続けるしかないのだ。
 勿論フーケもただ追われるだけではなく、何とか振り切ろうと左へ右へ細かく曲がり蛇行して走る。
「ムダムダムダァ!」
 一瞬何かが輝いたのをフーケは見て取ると、咄嗟に横っ飛びにT字路を曲がった。
「おしいおしい……クク」
 フーケはその声を振り切るかのように跳ね起きて駆け出し始めた。服や顔に付いた泥も気にしている暇はない。
「ははは!随分いい恰好になったじゃねーか!たまんねぇなあ弱いものイジメってヤツぁよお!」
 勝ち誇ったような声にも耳を貸すことなく走っているがついに限界が来た。
 目の前には曲がり角だがもはや一本道も同然。一分もたたないうちに――
「ッ!…行き止まり……」
「残念だったなあ、フーケ」
 瞬間、膝裏に熱を感じ、力が抜けて膝を突いてしまった。
 さっくりと裂けた傷口からは赤い血が流れ出す。
「楽しい楽しい夜の鬼ごっこもいよいよお終いだ。ここからはまな板ショーの始まり始まり」
「くっ……」
 周囲を見渡してみるが目に付く物と言えば積まれた木箱と水溜まり程度だ。本体の姿など欠片も見えない。
「ハン。勝ち誇ったところでちっとも格好良くないんだよ!裏でこそこそして女いたぶって楽しいのかい?」
「ああ、楽しいね」
 フーケの問いにさも当然とでも言いたげにJ・ガイルは答えた。
「何をされているのかわからずに死んでいく顔。目の前で大切なモノが奪われて時の顔。それが見たいからオレはここにいるんだぜ。いたぶって何が悪い?貶めて何が悪い?オレには力がある。それを許されるだけの力が!」
「クズが……」
「そのクズに追いつめられてりゃ世話ねえぜ。え?『土くれ』のフーケさんよォ!噂には聞いていたが、前にアジトに侵入したときに決めていた。お前は骨の髄までいたぶり抜いてから犯すってなあ……。
 死なない程度に四肢を痛めて血を流し、テメエはオレにこう言うんだ。『もう止めて!痛くしないで!』ってな、涙を流してその綺麗な顔をグチャグチャにして言うんだ。もうそれだけでヤバイってのに、当然オレは許しはしない。
 絶望に落ちていく顔をしながらお前は死ぬんだ。たまらねえ……いつだったかスラム街の女をヤった時もやばかった。あんときゃその女のガキがいてよぉ……楽しかったぜぇ。しかもそいつがスリを始めて『組織』に上納してるんだから傑作だぜ!
 その金はオレの懐にも来てるンだっつーの!」

559ヘビー・ゼロ:2008/03/20(木) 22:56:36 ID:YWphJUIk
 哄笑が渦を巻いて起こる。どこまでも耳障りだ。そしてその話を聞かされたフーケはすっくと立ち上がると杖を振るった。
 ちょっとした地鳴りと共に通路に土が隆起して壁を作り出した。行き止まりだった場所が箱に変わる。
「な、なんだ?」
「っあー……あたしもまだまだねー。こんなビチグソ以下の腐れ外道に、もしかしたら酌量の余地はあるかもしれないなんてほんのすこ〜〜〜〜〜〜〜〜しだけとは言え、思ってたんだから。本当、まだまだね」
 そして下げていた顔を上げた。
 いつにも増してつり上がる双眸は刃のように尖り、殺意と憎悪がない交ぜになったオーラを箱の中に充満させていく。
「壁を作って逃げ場をなくしたつもりか、笑わせる。オレのスタンド能力が解らない以上――」
「反射」
 J・ガイルの言葉をブッた斬って断言する。姿はなくともJ・ガイルが息を呑むのが見えるようだ。
「その反応だとどうやらビンゴみたいね。正直まだ半信半疑って所だったけど、これで心おきなくあんたをブッ飛ばせる」
「……どこで気づいたんだ?」
「最初にピンときたのはスラムの子たちがガラスの反射を使ったときよ。一度あんたにやられてるけど、その時にキラッて何かが反射したのを見てるわ。それに確証を与えたのが今日のアンタの大鏡のトリックよ。
 あそこまで鏡にこだわる以上は、鏡自体か、それに関係すること。それに鏡を使ってどうやって攻撃しているのかがまだ解らなかった。鏡から鏡へ移動して攻撃しているのか……鏡の中から攻撃してるのか。
 だからあの橋で確認したのよ。遮蔽物をまたいで攻撃できないなら前者。してくるのなら後者――って具合にね。ついでに、どの程度のものに反射が効くのか試したけど、水もイケるようでなによりだわ。あんたは今、目の前の水溜まりの中にいる。
 あんたはあたしを追いつめてるつもりだったのでしょうけど……残念、その逆よ。気づかない?ここは四回通ったんだけどなあ。まあ、通る度に壁を増やしてたから気づかないかしら?『追う者は追われる者以上に気を付けよ』。まったくね。
 あんたが油断しきってくれたおかげでおかげでこの状況まで持ってこれたんだから、まったく――」
 油断様々だわ。
 そう言ってフーケは笑った。J・ガイルの哄笑とは対照的な静かな笑み。しかしその中身がドス黒いことはその笑顔を見れば一目瞭然だ。
 油断。していた?自分が?ナメやがって。コケにされるのは許せねえ。
 自分はいつだって上位に立ってきたんだ。ここへ来る前に殺されはしたが、あれは何かの間違いだったはずだ。
 オレの『ハングドマン』は無敵なんだ!
「テメエこそ、何を勝ち誇ってるのかは知らねーが……調子に乗ってるんじゃねーぞ。居場所が割れようと能力がバレようとオレの『ハングドマン』は無敵だ!攻撃する術は無い!」
 そうだ。まだ負けた訳じゃあない。向こうに攻め手はないがこちらは好き放題に出来る。結局泣きつくのはあの女だ。
 ったはずなのに。
 フーケは無言のまま杖を振るった。足下の地面が盛り上がり徐々に固まっていく。そして現れたのは身の丈はあろうかという巨大な腕だった。その大きな掌の隙間からフーケの目が覗く。
「確かに――その中に引きこもってるあんたに攻撃する術はないね。でも……そこから出たらどうかな?
 例えば砕けたガラスにあんたは居続けられるのか?例えば水が涸れてもあんたは引きこもり続けられるのか?
 出来ないんだろう?何か別の反射するものに映らなきゃならない。例えば――あたしの目……とか」
 そこに至ってようやくJ・ガイルは自分が絶体絶命の窮地に立たされていることを理解した。
「光の速さでも、来る場所が解ってれば網を用意することは容易いわ」
 フーケの魔法だろうか、土が水溜まりの宙に浮く。J・ガイルは慌てて周りを探るが、光を反射するものは見あたらない。フーケの目以外には。

560ヘビー・ゼロ:2008/03/20(木) 22:58:15 ID:YWphJUIk
「う、うおおおおおおおおおあああああッ!」
 雄叫びと共に、水溜まりを埋めるには十分すぎる量の土が降り注ぐ。同時に土の腕が空を掴んだ。
 否、それは確かに何かを握っていた。ちょうど人一人分の空洞がその手には出来ていたのだ。
「そしてウェザーの言った通りね。『スタンドが魔法に干渉できるのならばその逆もまた然り』……。もっとも、『見えない』ってアドバンテージは痛すぎるけど……」
 手の中で何かがもがく感覚がある。フーケには見えないがそれこそ『ハングドマン』である。
「その拘束を外せないところを見ると、遠距離型っていうのはホントに非力なのね。潰しちゃわないか心配だわ。じゃないとわざわざ捕まえた意味がないじゃない」
 言いながら指揮棒のように杖を振り、周りに次々と腕を作り出していく。
「鉄の腕じゃあ反射してあんたに逃げられちゃうかおしれないからね。殺傷能力が落ちて苦しむだろうけど、まあそれは望む所よねぇ?」
「ま、待て!と、取り引きしよう!」
 ここにいたってJ・ガイルは急に取り繕ったような態度を取り出す。追いつめられると今までの自信はどこへやらと言った有様だ。
「お前が欲しいのは利益だろう?なら『組織』の利益のうち四割をお前によこそう!だから、な?な?」
「……悪の親玉ならもうちょっとそれらしい最期ってもんがあるだろうに。あんたがアルビオンの内紛の原因を作ったなんて、正直信じられないね」
「アルビオン?……ああ、それはボスがやったやつだな」
「――……はぁ?」
 J・ガイルの声に思わず間抜けな声を漏らすフーケ。
「そうだ!オレと組んでボスを倒そう!そうすれば五割……いや、もっと大きな利益がオレ達の物になるんだ!どうだ、魅力的な話だろう?」
「ヘイヘイ!ちょ、待ちな。あんたはボスじゃなくって、じゃあ、そのボスは誰なんだい?」
「そ、それは知らない……ボスは一度も姿を見せたことがないからだ。そのくせ偉そうに命令ばかりしやがるからよぉ……他の支部で問題が起きて今はそっちに向かってるから、その間にオレが頭になっちまおうと思ってな」
 その問題ってのはオレが起こしたんだけどな。と笑った。
「あの野郎は他の奴をまったく信じてないのはその徹底した隠蔽ぶりでわかるからな。事件は必ず自分で解決すると思ってたよ。案の定そうだったわけで、おかげでオレは美味しい汁が吸えた。
 この大規模な暴動も元々はボスの作戦だったんだが、オレの出世の第一歩として使わせたもらおうと思ってな。ま、まあ確かに誰も見たこと無いボスだが、お前の機転とオレの無敵の能力があれば暗殺も簡単だ。だから、なあ、組もうぜフーげぶぇッ!」
 皆まで言わせずに拳の一つが『ハングドマン』殴りつけた。何もないところを殴っているようでも手応えはある。

561ヘビー・ゼロ:2008/03/20(木) 23:00:03 ID:YWphJUIk
「あんたに名を呼ばれると気分が悪いわ……」
「オ……ゲ……」
 さらにもう一発。
「あんたの声を聞くと耳が腐るわ……」
「ブぎィアアアァ」
 さらに一発。
「あんたが生きてるとみんなが嫌な気分になるわ……」
「ナーアアアアアァァッァァァァ」
 さらに。
 さらに。さらに。さらに。さらに。さらに。さらに。さらに。さらに。さらに。さらに。さらに。さらに。さらに。さらに。さらに。さらに。
「バニバニバニバニバニバニバニバニバニバニバニバニバニバニバニバニバニバニバニバニバニバニバニバニバニバニバニバニバニバニバニバニバニバニバニバニバニバニバニバニバニバニバニバニバニバニバニバニバニバニ
 バニバニバニバニバニバニバニバニバニバニバニバニバニバニバニバニバニバニバニバニバニバニバニバニバニバニバニバニバニバニバニバニバニバニバニバニバニバニバニバニバニバニバニバニバニバニバニバニバニバニ
 HAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA
 バニバニバニバニバニバニバニバニバニバニバニバニ」
「ブッゲアアアァァァァァァァアアアアアア!」
「バニッシングッ!」
 無数の土腕によるラッシュのシメは天に昇るようなアッパーだった。
「無敵の存在があるはずないじゃない。ファンタジーやメルヘンじゃないんだから……」
 もはや返事などありはしない。しばしの静寂がフーケを包む。
 フーケは自分の服を見た。所々破け、土に汚れてしまって見る影もない。もはや最低限の役目しか果たさない布きれではメイドと言うよりアマゾネスだ。
「あたしの一張羅の請求書は地獄宛に送っとくよ」
 途中適当な布をローブ代わりに羽織り表に出ると、なにやら騒がしいことになっていた。
 とある店先に人垣が出来ている。気になったフーケはそこに近づくと、野次馬の一人に声をかけた。
「何の騒ぎかしら?」
「ああ、それがいきなり人がボロボロになって浮き上がって、あの飲み屋の看板にブッ刺さっちまったのさ。わけがわからねえ」
「その男……どんな男でした?」
「ここからじゃよく見えねえけど、何でも"両手とも右腕"だとかって――って、なんであんた男だって……」
 疑問に思った野次馬が振り返ったときには、すでにそこにフーケは居なかった。
 布を脱ぎ捨てると、痛む体を引きずるようにして走る。
 勝てたとは言えダメージは深刻だし、油断してくれなければそもそも勝負にさえならなかっただろう。
 そんな男を今まで押さえ付けていた人物とは、いったいどんな化け物なのか……。
「間に合ってよ……ウェザー」

562ヘビー・ゼロ:2008/03/20(木) 23:01:32 ID:YWphJUIk


「オラァッ!」
 掛け声と共に男が一人吹き飛ぶ。背後の道には他にも数人の男たちが倒れていた。
 地理になれていないウェザーにとって、今自分が立っている場所がどこなのかさえわからないのだ。同じ所を二、三度巡ってしまった。
 だが、それで気が付いたこともあった。追っ手の数が減っているのだ。恐らくは街の方にかり出されたのだろう。
「時間はないな」
 呟いて目の前に視線を移す。赤の装飾が門に施されているのが特徴的な屋敷があった。
 微かな記憶を辿れば恐らくはこここそが記憶の場所。
「せっかくだからオレは赤の屋敷を選ぶぜ!」
 誰に言ったのか、そう言って突入していった。
 中は無人だった。外であれだけの大立ち回りを演じても何の反応もないのだから当たり前だが。ウェザーは好都合とばかりに部屋中をひっくり返し始める。だがやはり何も見つからず、とうとう最後の一つの部屋となった。
「これでいなけりゃフーケがアタリか……」
 そう言って扉を開けた。
 と同時にいきなり前転して部屋の中に転がり込む。今し方ウェザーが立っていた場所には代わりにナイフが数本突き立っていた。
 身を起こしたウェザーはすぐさまスタンドを発動させる。
「『ウェザー・リポート』!」
 空気のセンサーは部屋中に張り巡らされ、すぐに空気の乱れを観測した。
 トラップのナイフを一本引き抜くと、それを部屋の隅めがけて投げつける。ドスッ、という鈍い音がして、次いで重いものが地面に落ちる音がした。
 暗闇から転がり出た何かのもとにウェザーが歩み寄り、俯せに倒れているのが男であると認識した。黒いコートに黒い頭巾という変わったいでたちだが、こんな所に一人で隠れていたと言うことはボスで間違いないだろう。
「あっけないが、存外組織のボスの戦闘能力なんてこんなもんか……」
 そう言って顔を確認しようとしたとき、不意に嘔吐感に襲われた。耐えられずに思わず吐き出してしまう。
 だが、吐き出されたものは真っ赤な液体とカミソリだった。
「うげェ!な、なにィィィィィィィ、これはッ!」
 ウェザーは事態に驚愕しながらも、背後にわずかな気配を感じて振り返った。
 黒いコートに黒い頭巾という、奇妙ないでたちの男が立っていた。だが、床にはもう一人の奇妙な男が転がっている。
 いや、それよりも、"なぜこいつはセンサーに反応しなかった"のか!
「お、お前はいったい……ッ!」
「オレはお前に……近づかない」




To Be Continued…

563ヘビー・ゼロ:2008/03/20(木) 23:06:35 ID:YWphJUIk
以上投下完了!
と言うわけでボスはあの人でした。
1Rでトニオさんが「ワタシの祖国のギャングとやり方が似てる」と言ってたり、
ウェザーがヒゲを剃ろうとした→ヒゲ剃りの道具→カミソリだったり、
全Rで『鉄』と言う言葉を出したりしてたんだけど・・・
あと、あの人のやり方じゃない!ってところもあると思うけどそこは次回あたりにでも・・・

本スレに投下できないので、どなたか代理お願いします

564名無しさん:2008/04/03(木) 01:25:18 ID:etIc0VxM
四月一日に投下する予定だったのに大幅に遅れた。
しかたないから、エイプリルフールのつもりで叫ぶぜ。

「少年漫画にお色気なんて必要ねえよなぁ〜!!
 だから俺は硬派な作品を投下するぜ!!」

565偉大なる使い魔:2008/04/09(水) 11:24:03 ID:mNqsjPag
「タバサッ!キュルケを追うわよ!」
しかし、タバサは構えを解かない。
「彼女なら、心配要らない」
信頼してるのね・・・でも、そうじゃ無いのよタバサ・・・
「キュルケ・・・このままだと真っ先に死ぬわよ」
タバサの目が大きく開かれる。
「本当に?」
「わたしはいいのよ、別に腐れツェルプトーが死んでも・・・
ただ見殺しは余りにも寝覚めが悪いしね。」
「・・・わかった、信じる」
「ルイズ、オレがこのまま黙って見逃すと思うのか?」
勿論、思わない。呪文を唱え杖を振るう。
「ファイアーボール」
プロシュートは寸でのところで爆発を飛び退きかわした。
「うおっ!」
「タバサッ!緊急時よ、思いっきりやって頂戴!!」
タバサは呪文を詠唱し杖を振るう。
「ウィンディ・アイシクル」
幾つもの氷の矢が宙に浮かびプロシュートに襲い掛かる。
「行くわよタバサ。だけど走らない様にね」
「了解」
わたし達はキュルケを止める為に廊下に向かった。
「グレイトフル・デッド」

 ドカ ドカ ドカ ドカ   バキ バキ バキ バキ

部屋の中から嫌な音が聞こえてきた。
ううう、お気に入りの家具だったのに・・・
わたし達はキュルケを探しながら廊下を進む。
「どっちに行ったのよ?」
目の前に階段があり上下に分かれていた。
「こっち」
タバサが迷わず下に進んでいく。
「わかるの?」
わたしの質問にコクリと頷き廊下に進んで行くと、ど真ん中に人がうつ
伏せに倒れていた。あの赤髪はキュルケに違いない。
「キュルケしっかりして」
わたしはキュルケに近寄り生死を確認した・・・生きてる、ただ足を縺れ
させて転んだだけのようだ。
こけた事で命が助かるなんて悪運の強い女ね。
「う、うん・・・ルイズ?」
気が付いた。
「落ち着いてキュルケ。今ならまだ何とかなるわ、タバサがいればね」
「タバサが?」
「そう、タバサの協力があれば老化の回復が出来るわ」
「ほっ、本当なのルイズ?」
「ええ本当よ」
「どうすればいいの?早く教えてよ」
「慌てないでよ、タバサ」
わたしは氷を作ってもらう為にタバサに声をかける。
「何?」
わたしが口を開きかけた、その時
目の前の部屋からモンモランシーの叫び声が聞こえてきた。

「しっかりして、しっかりしてよギーシュゥゥゥゥ」

566偉大なる使い魔:2008/04/09(水) 11:27:14 ID:mNqsjPag
ここはモンモランシーの部屋だったのね。
わたしは中の事情を察しドアを開けようとした。

ガチャ ガチャ

しかし鍵が掛かっておりドアは開かなかった。
「キュルケ、アンロックを」
「だから、さっきから何命令してんのよ」
・・・このツェルプトーは。
「わたしが吹き飛ばしてもいいのよ。その代りプロシュートに居場所を教える
事になるけど、いいかしら」
「ったく、わーったわよ。あんた変わったわよね」
「成長したと言って」
「嫌な子になったわね」
「ありがとう。最高の褒め言葉よ」
キュルケが、ため息をつきながら杖を振るう。
「開いたわよ」
部屋の中にはベッドの前に立っているモンモランシーと、ベットに寝かされ
ている老人・・・おそらくギーシュがいた。
モンモランシーは入ってきた、わたし達にも気付かずにボロボロと涙を流し
ながら治癒を唱え続けていた。
「無駄よモンモランシー。それは、ただの老化現象で怪我や病気じゃないわ」
モンモランシーは振り返り不思議そうな顔をしていた。
「ルイズ・・・?」
わたしは棚に置いてあるピカピカのビーカーを手に取った。
「借りるわよ、モンモランシー」
返事を待たずにビーカーをタバサの目の前に持っていく。
「タバサ、この中に氷を作って頂戴。一個じゃなく粒でギッシリとね」
タバサは注文通りに氷を作ってくれた。
その内の一つを口の中に入れ舌で転がす。
体が楽になっていく・・・効いているわ。
ギーシュの側に立ち、氷の一つを額に押し付けてやった。

シュパアアアアアァァァ

氷の触れた部分から皮膚が若返っていく。
「すっ、凄い!元に戻っていくわ!」
キュルケが感嘆の声をあげる。
わたしは、振り返ると皆にビーカーを突き出した。
「さあ、早く皆も!」
グワシッ、っと氷を握り締めたのはキュルケだ。
そのまま氷を口の中に放り込みボリボリと噛んでいく。
キュルケの皺が消えた。
「ありがとうルイズ助かったわ!」
キュルケが力一杯抱きついてきた。
「ちょっとキュルケ。体温が上がる!老化しちゃうじゃない!」
「えっ!?」
キュルケがドンと、わたしを突き飛ばした。
ビーカーは割れなかったけど氷が床に散らばってしまった。
「あんたねえ」
「ご、ごめん」

567偉大なる使い魔:2008/04/09(水) 11:29:31 ID:mNqsjPag
投下終了

規制くらった

568ゼロのスネイク 改訂版:2008/06/25(水) 01:38:56 ID:xqszcmTc
「一発ぶん殴っただけでワルキューレを壊せるなら、最初の一体をそうやって壊してるじゃない?」
「あ……そ、それもそうね……」
「でもキュルケの言うとおり。このまま避け続けてもそれだけじゃ意味がない」
「じゃあ彼はどうするのかしら?」

キュルケがタバサに尋ねる。
タバサの視線の先には前後をワルキューレに挟まれたホワイトスネイクがいる。
前のワルキューレは斧を、後ろのワルキューレはランスを構えている。

「彼は、避ける」

タバサが呟くように言った。
前門のワルキューレが斧を振りかぶる。
後門のワルキューレが構えたランスをホワイトスネイクの背中に突き出す。
瞬間、ホワイトスネイクは地面を強く蹴り、宙に飛んだ。
斧のワルキューレとランスのワルキューレが、互いに攻撃すべき相手を見失い――

「避けて同志討ちさせる」

ズゴォッ!

互いの得物が、互いに直撃したッ!
一方のワルキューレは胴体をランスで穿たれ、もう一方のワルキューレは斧で首を跳ね飛ばされていた。

569ゼロのスネイク 改訂版:2008/06/25(水) 01:39:31 ID:xqszcmTc
「くそッ、だが!」

ギーシュは毒づきながらもすぐにハンマーを携えたワルキューレをホワイトスネイクの着地点に先回りさせる。
自由落下するホワイトスネイク。
それを待ち受けるワルキューレ。
ホワイトスネイクはそれにちらりと目をやると、小馬鹿にしたように笑った。
そしてワルキューレのハンマーの射程に、ホワイトスネイクが入ったッ!

「今だッ!」

ゴヒャァァッ!

ギーシュの声に応じ、ワルキューレは打ち上げるようにハンマーを振るうッ!

だが、手ごたえなし。
ハンマーがホワイトスネイクを粉砕する音は、響かなかった。

(あれ? 何だ? 何が起きた?)

混乱するギーシュをあざ笑うかのように、ホワイトスネイクはワルキューレの背後にすとんと着地した。

「言イ忘レタガ……私ハ射程圏内ノ空中ヲ自在ニ移動デキル。
 空中デ一旦停止スルクライ、造作モナイコトダ」

そう言ってホワイトスネイクは腰を落としてワルキューレの胴体に腕を回し、ガッチリとロックする。
そしてッ!

メシャッ!

バックドロップだッ!
後頭部から地面に叩きつけられたワルキューレは、自重と落下の衝撃で簡単に自分の首を手放した。

570ゼロのスネイク 改訂版:2008/06/25(水) 01:41:07 ID:xqszcmTc
「くそぉぉぉーーーーーーーッ!!」

やけくそになったギーシュが残る3体のワルキューレでホワイトスネイクを取り囲む。

「やれぇッ!」

ギーシュの号令で、3体が一斉にホワイトスネイクに襲い掛かる。

「『ギーシュ』・・・・・・ダッタカ。ヤハリオ前ハ……」

ホワイトスネイクは3体の攻撃を容易く避ける。
さっきのようなそれなりのコンビネーションもない、
ただ3体が一緒に仕掛けてくるだけの攻撃などホワイトスネイクには何の意味もなさない。
ゆえに今回、ホワイトスネイクは避けるだけではなかった。
攻撃を避ける間際にワルキューレたちの武器の切っ先、矛先をわずかにずらしていた。
そしてホワイトスネイクが3体の包囲から抜けると同時に――

「タダノ、馬鹿ダッタナ」

ガッシィィーーンッ!

3体のワルキューレは一体化していた。
互いの武器で、互いの胴体を貫きあって。

571ゼロのスネイク 改訂版:2008/06/25(水) 01:42:22 ID:xqszcmTc
「そ、そんな、ぼ、ぼぼ、僕の、ワルキューレが……ぜ、全滅……」

ギーシュがかすれた声でそう呟いたのと、ヴェストリの広場が大歓声に包まれたのはほぼ同時だった。

「や、やりやがった! あいつ勝っちまった!」
「ブラボー……おお、ブラボー!」
「グレート! やるじゃあねーかよ」

そして驚いていたのは、ルイズも同じだった。

「あいつ、あんなに強かったんだ……」
「すごぉーい! いいカラダしてるとは思ってたけど、まさかこんなに強いなんて!
 あたし、彼のこと気に入っちゃったかも……」
「ちょ、キュルケ! あんた本気なの!? っていうかあれはわたしの使い魔よ!?」
「そんなの関係ないわ。恋ってのは突然訪れるものなの。
 ツェルプストーの女はそれに何よりも忠実なのよ」
「そういう問題じゃないでしょ!」
「二人とも静かに」

唐突にルイズとキュルケの会話をタバサが遮る。

「どうしたの、タバサ?」
「様子がおかしい」
「え……?」

タバサの言葉に従い、ルイズとキュルケは広場の中心に目を向ける。
そこにあったのは、腰を抜かして地面にへたり込むギーシュと、彼にゆっくりと歩み寄るホワイトスネイクの姿。

572ゼロのスネイク 改訂版:2008/06/25(水) 01:43:05 ID:xqszcmTc
「お、お前! ぼぼ、ぼ、僕に、何する気だ!」
「私ガコノ決闘ヲ楽シミニシテイタ理由ハ3ツ」

一歩ホワイトスネイクが近づく。
しかしギーシュは動けない。

「ち、近寄るな! 来るなあ!」
「1ツ目ハハメイジノ戦イノ一端ニ触レラレルコト。
 私ハコノ世界ニ来テマダ日ガ浅イ。
 ナノデコノ世界ノ一般的ナ戦イニ直ニ触レラレタノハトテモ価値ノアルコトダッタ」

また一歩ホワイトスネイクが近づく。
しかしギーシュは動けない。

「なな、何言ってるんだお前! や、やめろ、近づくな! 来ないでくれ!」 
「2ツ目ハ自分ノ戦闘能力ノ現状ヲ測レルコト。
 ヤハリ戦闘能力トイウヤツハ実戦デシカ測レンカラナ。
 コッチニ来テカラ私自身ガ弱クナッテイルコトモ心配ダッタカラナ」

ホワイトスネイクが、ギーシュに手の届く位置まで来た。
しかし……ギーシュは動けない。

「そ、そうだ! ぼくが悪かった。ぼ、ぼくが悪かったんだ、だから……ひぃっ!」
「ソシテ3ツ目ハ……」

ホワイトスネイクがギーシュの胸元を掴んで無理やり立たせる。
ギーシュは動けない。逃げられない。
そして「それ」が行われる。

「だから許し」

ドシュンッ!

空気を切り裂くような音とともに、ホワイトスネイクの貫手がギーシュの額に突き刺さった。

「3ツ目ハ、オ前ノ記憶ト『魔法ノ才能』ヲ得ラレルコトダ」

573ゼロのスネイク 改訂版:2008/06/25(水) 01:44:07 ID:xqszcmTc
「あいつ、やりおったわ!」

「遠見の鏡」で決闘を見ていたオスマンが叫ぶ。
同じく決闘を見ていたコルベールは既にここにはいない。
ヴェストリの広場に行ったのだろう。

「まさかとは思っとったが……ええい、モートソグニル!」

遠い場所で決闘を見張らせていた自分の使い魔の名を呼ぶオスマン。
すぐに返事と思しき鳴き声が返ってくる。

「眠りの鐘じゃ! すぐに鳴らせぃ!」

言うが早いが、オスマンは素早く杖を抜いてルーンを唱える。
「サイレント」の呪文だ。
その鐘の音の響くところにある者をことごとく眠らせる眠りの鐘。
響きは音としては学院長室まで聞こえなくとも、音の波として確実にここにも到達する。
うっかり自分も眠ってしまうわけにはいかないため、音そのものを遮断したのだ。

(たかだか子供の決闘とはいえ、死人を出すわけにはいかぬ)

オールド・オスマンは人間としてはダメな男だが、教師としては最上の男だったのだ。

574ゼロのスネイク 改訂版:2008/06/25(水) 01:45:39 ID:xqszcmTc
「あ、あいつ、ギーシュを殺しちゃったの!?」

ルイズが震える声で言う。

「どうでしょうね……血は出てないみたいだけど、放っておくのはヤバそうだわ」
「同感」

キュルケとタバサが杖をホワイトスネイクに向けて構える。

「な、何してるの二人とも!?」
「止めるのよ。このまんまじゃ、本当にただ事じゃ済まなくなりそうだもの。
 別に彼を殺したりはしないから大丈夫よ」

そう言ってルーンを唱えるキュルケ。
タバサの方はすでにルーンを唱え終わっており、その目の前に7、8本のツララが形成されている最中だった。

そして、タバサがツララをホワイトスネイクに向けて飛ばそうとした瞬間、その鐘の音は響いた。
決して大きな音ではなく、しかし心の奥底にまで浸み渡る音。
その音がタバサの体から力を奪っていった。

(こ、これ、は……)

薄れゆく意識の中で、タバサは音の正体を理解した。

(これは、『眠りの鐘』)

575ゼロのスネイク 改訂版:2008/06/25(水) 01:46:20 ID:xqszcmTc
その眠りの鐘の影響は、ホワイトスネイクにも及んだ。

「コノ音……何、ダ……コレハ?」

全身から力が抜けていき、激しい睡魔がホワイトスネイクを襲った。

「第、三者ノ……介入カ? アルイハ……ダガ……!」

ホワイトスネイクは、ギーシュの額から貫手を引き抜いた。
引き抜いた指に挟まれていたのは輝く二枚のDISC。
貴重な戦利品だ。
滅多なことでは手放せない。
こんな、わけのわからない攻撃なんかのためには、決して。

「コレハ……回収……スル。カ、確、実、ニ……」

最後のパワーを振り絞って体内にDISCを収納すると、ホワイトスネイクは煙のように姿を消した。


To Be Continued...

576ゼロのスネイク 改訂版:2008/06/25(水) 01:53:28 ID:xqszcmTc
投下完了でございます

ゼロのスネイク版眠りの鐘は鳴らす距離が近ければ近いほど効果が強く、眠りに落ちるのも早いって設定です
モートソグニルは宝物庫に忍び込んで眠りの鐘を持って「鐘の音が速攻で決闘を終わらせられる距離」まで近づいていました
眠りの鐘で寝てしまったモートソグニルを後で回収しに行くのはオスマンの仕事です
あとコルベールはヴェストリの広場に着く前に眠りの鐘で眠っちまったので実質行き倒れです

マジェント「バイバイさるさんよォー
    初めて会ったときから人のことを上から目線で小馬鹿にしやがって……
    ナメてんじゃあねーぞッ!」

577隠者の中の人 ◆4Yhl5ydrxE:2008/06/25(水) 03:49:53 ID:YQnGBDU.
 ギリギリさるさん食らったので後書きはこっちに投下しちゃうッ!
 夜を前にヒートアップするルイズが見たいって言われたからって頑張ったわけじゃないんだからね!(テンプレ)
 あと、伊豆の踊り子withアラキネタでこんなラストも考えてた。

 昔、小さいホリィに話した記憶を思い出しながら、不思議の国のアリスを話して聞かせる。
 最初は原作通りに時計を持ったウサギを追いかけて穴に落ちたアリスが不思議の国に迷い込むのだが、ジョセフは途中辺りまでしか覚えていなかった。
 なのでルイズが知らないことをいいことに、途中でスタンド能力に目覚めて不思議の国の住人達とのスタンドバトルを繰り広げ、最後はハートの女王を宇宙に吹き飛ばす所で終わった。
 結局ルイズは途中で寝てしまったのだが、その夜の夢の中でのルイズは、紫の茨を使って帽子屋の答えのないなぞなぞの答えを念聴して再起不能に追い込んだり、奇妙な色合いとデザインの服を着て奇妙なポーズを取ったりしたのだった。

 これもこれで面白そうだと思ったんで密かに載せて置こう。
 ジョセフが話して聞かせたおとぎ話を各々好きな方を選んでもいいッ!
 さてしばらくはほのぼの日常ばかりが続いてしまうなあ。
 むしろ大抵ほのぼののような気がするが構いませんねッ!

578仮面のルイズ:2008/06/26(木) 01:42:56 ID:dZwnLmMU
どうやっても駄目でした、代理投下お願いします。

579仮面のルイズ:2008/06/26(木) 01:43:29 ID:dZwnLmMU
夜。
アルビオンの首都ロンディニウムでは、いくつかの酒場に傭兵達の姿があった。
その多くは野党や人さらいで、戦争がある時だけ傭兵となり、軍の名を借りて好き勝手な騒ぎをやらかすのだ。

以前は、こうではなかった。
旧アルビオンの国王ジェームス一世は、自分と他人に厳しい、威厳が服を着て歩いているような国王であった。
その分反発も多かったが、間違いなく今よりも治安は良かったのだ。
市民達は自らの安全のために、家や店を厳重に閉じた、そして街道や路地から聞こえてくる罵声に怯え、ただひたすらに朝が来るのを待っていた。

「あら坊や、こんな所を歩いていたら、身ぐるみを剥がされるわよ」
「……はぁ」
一人の娼婦が、酒場の裏手を歩いていた細身の剣士に声をかけた。
腰に長さ80サントほどの剣を下げ、フードを被った剣士は、ハァとため息をついた。
「どう、この通りは即席の娼館街だけど、その分部屋は広いわ、ねえ助けると思って上がっておくれよ、よくしてあげるからさぁ」
剣士に声をかけた娼婦は、茶褐色の髪の毛を後ろで纏め、ポニーテールにしていた。
化粧が濃くて年齢がわかりにくいが、手の甲に浮いた皺の具合からして、25といったところだろう。
頬の骨が少し張っており、笑みを浮かべると、彫りの深い顔にくっきりとした陰影が浮かぶ。
そんな女が、一軒家の扉の前に立って、肌の透けるワンピースのような(ベビードールとか言うらしい)服を着て、剣士を招いている。

「あのね、わたしは…」
うんざりとした口調で剣士が何かを言おうとしたが、突然街道の方から聞こえてきた怒声に遮られてしまった。

「あの野郎どこに行きやがった!」
「クソガキが!おい、おまえはあっちを探せ!」
「ぶっ殺してやる!」

怒声の正体は、酒場で暴れていたごろつきであった、なぜか顔には青タンやたんこぶが出来ている、どうやら誰かにぶちのめされ、その報復に走り回っているらしい。

「げっ…」
あから様に嫌そうな顔をする剣士に、娼婦が言った。
「匿ってあげるわよ」
にこりと笑う娼婦、それを見た剣士はため息をつきつつも、素早く娼婦を抱きしめて建物中に入っていってしまった。
「きゃっ、細身なのに逞しいのね。ねえ剣士さん、私のことはアネリって呼んでね。貴方のお名前は?」
「……ロイズよ」
「え?女みたいな名前ね…あら?……もしかして、あんた、まさか、女!?」
「匿ってくれるって言ったのはそっちじゃない、ちゃんとお金は払うわよ、ああもう…何度目かしら」
ロイズと名乗った女は、娼婦をお姫様だっこの形で抱きしめたまま、何度男に間違えられたのかを思い出して……深く、ふかーくため息をついた。



ルイズが娼婦の元に匿われた頃、ロンディニウムに繋がる街道脇の森で、一人の男が何かを探していた。
『こっちだ、こっち』
男は突然聞こえてきた声に、眉をひそめたが、すぐに声の主に思い当たって安堵のため息を吐いた。
手に持った短剣状の杖に意識を傾け、短く何かを唱えると、木の上にぶら下がっていた剣が、鞘に収められた状態でゆっくりと降りてきた。
『いやあ困ったぜ、俺は目立つから駄目だとか言われちまったよ』
「まあ、おまえの形状は目立つからな。ルイズは?」
『昼間見かけた、気になる連中を調べて、今頃酒場に潜り込んでるぜ。あの嬢ちゃんが震えるなんてデルフ驚いちゃったねえ』
「…ルイズが、震える?」
『ああ、顔に火傷のある、白髪の男で、鍛えられた体格をしてる、年の頃は四十頃と言ってたぜ』
「…………そいつは、もしかして傭兵か?」
『かもしれね、嬢ちゃんはいまそれを調べてんだ』
「そうか…とりあえず、フーケと合流するぞ、すぐに移動する」
『あいよ』
「火傷の跡か…まさか、いや、まさか白炎では…だとしたら…」

ワルドの呟きは、一抹の不安を残して、闇夜へと消えていった。


To Be Contined →

580仮面のルイズ:2008/06/26(木) 01:45:46 ID:dZwnLmMU
以上です。
かなり間が空いてしまいました。
支援と投下ありがとうございます。

581名無しさん:2008/06/26(木) 01:49:44 ID:vVB5Cqlw
最近仮面さん来ないよねー、でも催促するのもちょっと
待ってますとか、書こうかな思ってスレ更新したら投下が来たんでビックリしたわ。GJ!

582581:2008/06/26(木) 01:52:34 ID:vVB5Cqlw
本スレに書くつもりが誤爆した。

583ゼロのスネイク 改訂版:2008/07/01(火) 20:53:59 ID:7XA4lgj6
そして次々と、いくつもの場面を映していく。
心に闇を抱えるものにつけ込み、利用するホワイトスネイクを。
他人の欲望を利用するホワイトスネイクを。
そしてホワイトスネイクが付き従う、浅黒い肌をした黒服の男を。
エンリコ・プッチを。

エンリコ・プッチは、まさしくそれまでに映されたホワイトスネイクの人間版であった。
相手の心の闇を利用し、欲望を利用し、そして使い捨てる。
そしてそればかりではなかった。
敵と戦えばどんな姑息で卑怯な手段も平気で取った。
相手にとって何よりも、命よりも大切なものをエサにして逃走し、
追い詰められれば醜く命乞いをし、スキあらば一瞬で命乞いをした相手を殺す。
ホワイトスネイクは、そんな男に付き従っていたのだ。
そして、それらの行動をその身をもって支えていた。
そのことが、ルイズの心に一つの感情を灯していった。

そして、また一つの映像に行き着いた。
そこでエンリコ・プッチは、再び醜く命乞いをしていた。
神だの大いなる意思だの、わけのわからない大義を持ち出して、
相手がさも無知であるかのように高説を振るっていた。

しかし相手の少年は命乞いを聞き入れなかった。
男はこれまでに重ねた邪悪な行いの全ての報いを受けるかのように頭を潰され、全身を砕かれ……そして死んだ。

その映像を最後に、また視界が真っ暗になった。

584ゼロのスネイク 改訂版:2008/07/01(火) 20:54:45 ID:7XA4lgj6
「ドウダ? 何カ分カッタカ?」

ルイズの額から抜き取ったDISCを収納しながら、ホワイトスネイクが言う。

「……ええ、分かったわ。すごく……よく分かった」
「ソウカ、ソレハ何ヨリダ」

ルイズは心の奥底からふつふつと湧き上がる感情に驚いていた。
たとえ魔法が全然成功しなくても、たとえゼロとバカにされても、こんな気持ちにはならなかった。

「ソウ言エバ……ソーダナ。モウ一ツ試シタイコトガアッタ」

ホワイトスネイクはそう言ってまたDISCを一枚取り出すと、それをルイズに投げた。
ギーシュの魔法の才能のDISCだ。

ズギュン!

そしてそのDISCは音を立ててルイスの額に差し込まれた。

「一人ノ人間カラ取リ出シタ魔法ノ才能ハ果タシテ別ノ人間ニ扱エルノカ、ッテコトダ。
 イクラ才能トシテ取リ出セテモ、実際ニ使エナケレバ意味ガ……」

そう言うホワイトスネイクの言葉をまるで聞いていないかのように、ルイズは短くルーンを唱えて杖を振る。
するとルイズの目の前の床から、床から一体のワルキューレが一瞬で出てきた。
植物の成長を超高速で早回ししたような感じだった。

「オット、上手クイッタヨーダナ」

ホワイトスネイクが口端に笑みを浮かべて、椅子に腰掛ける。
だがそれを無視して、ルイズはまた杖を振った。
さらに床から二振りの剣が伸びる。
ワルキューレはそれをおもむろに手に取った。

585ゼロのスネイク 改訂版:2008/07/01(火) 20:55:18 ID:7XA4lgj6
「ホーウ……中々上手クヤルモノダ。
 魔法ガ成功スルノハ、コレガ初メテダッテノニ」
「もう何も言わなくていいわ」
「何ダト?」

聞き返すホワイトスネイクに、ルイズは噛み締めるように言った。

「もう、何も、言わなくっていいって、言ったのよ」

その直後だった。
ルイズの前にいたワルキューレが素早く二刀を振り上げ、そして――

ドピュウゥッ!

ホワイトスネイクに斬りかかったッ!

「ヌゥッ!」

ホワイトスネイクは座っていた椅子を素早く持ち上げて盾にする。
ワルキューレの攻撃は椅子をバラバラにしたが、しかしそのためにホワイトスネイクには届かなかった。
そしてホワイトスネイクは素早くワルキューレから間合いを取る。
しかし、ホワイトスネイクに焦りは見られない。

「フフフ……ソレデイイ。ソレガ満点ノ回答ダ、ルイズ」

むしろ、これこそがホワイトスネイクが望んでいたことだったのだ。

「さっきまでは……あんたへの怒りより、あんたへの恐怖の方が強かった。
 わたしもギーシュみたいになるんじゃないかって。そのことばっかりが怖かった。
 でも……今は違う!
 心の底から! あんたを許せないって思いが湧き上がってくるッ!」
「ソレデ……ドースル気ダ? 私ヲ殺スノカ?」
「違うわ。殺すんじゃあない、勝つのよ」

ホワイトスネイクは何も言わなかった。
何も言わずに笑みを浮かべ、構えを取った。
ルイズも何も言わずにワルキューレを構えさせ、さらに二体のワルキューレを作る。
ニ体とも剣と盾で武装した、オーソドックスなタイプだ。

そしてニ刀のワルキューレとホワイトスネイクが、同時に動いた。


To Be Continued...

586ゼロのスネイク 改訂版:2008/07/01(火) 20:57:57 ID:7XA4lgj6
投下完了でございます

くっそー、またさるさんに引っかかった
今回は約3分おきのペースを守ったから大丈夫だと思ったんだけどなー
今度から4分ペースでいってみようかな

587名無しさん:2008/07/01(火) 20:59:59 ID:csraVeZ6
じゃあ、代理しますね。

588名無しさん:2008/07/02(水) 20:41:52 ID:cKTU8UDU
 だが、その傷も綺麗に消えていた。他にもあの決闘で、腕といわず脚といわず、とにかく全身に
傷を負ったはずだが、伸びをした限りでは、腰から上は何の支障も無く動いた。
 脚のほうはどうかと、ベッドから降りて歩き回ってみた。やはり不自由は無いようである。思い
切って軽いストレッチなどもしたが、だるい感じがあるだけで特に不具合はない。そのだるさも、
長い間寝ていたからだと思われた。どのくらい眠っていたのかは分からないが、これだけ体が動く
のであれば、そう長い間でもないだろう。
 あれだけの負傷が跡も無く、後遺症の一つも無く治るには、一月寝ても足りないはずだ。であれ
ば、これは魔法の恩恵なのだなとリキエルには思い当たった。
 腕と足をブラブラさせて、リキエルが改めて魔法の力に感心していると、部屋の扉をノックする
音が響き、次いで食事を持ったシエスタが入ってきた。シエスタは起き上がっているリキエルを見
ると目を丸くし、「まぁ」と言って立ち尽くした。それからひとしきり目をしばたたかせて、もう一
度まぁと言った。
「起きてらしたんですか。どこか、痛むところとかは?」
「特にないな、体が少しだるいだけだ」
 よかった、と言ってシエスタは笑った。その顔が心底安堵したものだったので、会って間もない
相手に心配をかけたと、リキエルは心うちで苦った。
 その苦りを顔には出さず、リキエルは言った。
「心配をかけたみたいだな、ずいぶんとよぉー。すまなかった」
「いえ、そんな。でも、大変だったんですよ。ここにあなたを連れてくるときに、ミス・ロングビ
ルが応急処置をしたそうなんですが、全然おいつかなくて、先生を呼んで、沢山の秘薬を使ったり
して、ようやく治療したんです」
「…………」
「でも五日も起きないから、やっぱり心配でした」
「…………」
 苦りが顔に出た。存外に長い間、自分は眠っていたようである。しかも、かなり多くの人間に迷
惑をかけたらしい。ミス・ロングビルだけでなく、自分を運んだ人間もいたはずで、自分が使い魔
という立場にいる以上、主人のルイズにも迷惑をかけたろう。
 ――しかしそれだけ眠っていたとなると……。
「その間、もしかして看病を?」
「あ、いえ、私じゃなくてミス・ヴァリエールが」
「ルイズ。あいつがか?」
「はい。夜通しで、汗を拭いたり包帯を替えたり……。秘薬の代金も、ミス・ヴァリエールが出し
たんですよ」
 意外なことを聞いたとリキエルは思った。
 決闘は、原因こそ相手のギーシュにあったが、結果的に受けたのはリキエルで、ルイズの静止を
振り切って、そのまま決闘を続けたのもリキエルだった。あずかり知らぬところで勝手に喧嘩など
始め、勝手に怪我をするような人間など、打ち捨てられたところで文句は言えない。それでなくと
も、ルイズはああいった性格をしているの。多く迷惑をかけた自分を、それほど献身的に面倒みて
くれるとは、リキエルは正直に言って信じられなかった。
 そんなことを思っていると、ちょうどそのルイズが、暗い顔をして部屋に入ってきた。顔が暗い
のは、目の下にできた大きな隈のせいである。夜通しの看病というのは、誇張ではないらしかった。
眠たそうな半眼がリキエルに向いた。
「あら。起きたの。あんた」
「ああ、お前には迷惑をかけた」
「本当よ。決闘だなんて、いい迷惑だわ」
「すまなかったな、薬だとか包帯だとかよぉ。まあ他にもいろいろと、感謝している」
 感謝しているというのは、素直な気持ちを言ったものだが、看病してもらったことに対するもの
ではなかった。そのことにも無論感謝の念はあるが、いまのリキエルは、『欠けた心』の一片が戻っ
てきたことに感謝している。
 父親のことを思い出せたのも、気分がすこぶる良いことも、それらの要因になっている、自分の
過去と向き合えたということも、全てはルイズの存在あってのことだった。いろいろな意味で、ル
イズには頭の下がる思いなのだ。
「当然よ! まったく、使い魔のくせに勝手なことばっかりして!」
 ルイズが怒鳴った。濃い隈のためか、なかなかに迫力があった。

589名無しさん:2008/07/02(水) 20:43:30 ID:cKTU8UDU
「わかってるの!? あんた死ぬところだったんだからね! 『治癒』を使ってくださった先生も、
あともう少し処置が遅いか、傷が熱でも持ったりしていたら危なかったって言ってたわ! なんの
後遺症も残らなかったのなんてほとんど奇跡よ、奇跡!」
「あの、ミス・ヴァリエール。リキエルさんは病み上がりですから……」
「病み上がりですって? 立って歩けて話せれば治ったのと同じよ!」
 見かねて控えめに口を挟んだシエスタにも、ルイズは憤然と噛み付いた。噛み付かれたシエスタ
は、自分に矛先の向かない保障がないのを知って、「え、え〜と。そういえば私、厨房でやることが
あるんだった。失礼します!」と早々に逃げ出した。
 ――災難だったな、とばっちりなんか受けて。
 他人事のように思いながら、リキエルはシエスタを見送った。その間も、ルイズのがなりたてる
声は耳に入ってくる。
「だいたいね! 怪我がひどすぎるのよ! 使った秘薬だって、平民には手が出せないくらい高価
なものだったのよ! おかげでお小遣いのほとんどに羽が生えたわ! ……ああ、もう! あんた
とりあえずそこに直りなさい! 首が疲れる!」
 リキエルは言うとおりに床に腰を下ろした。大の男が床に座らされ、年下の少女の小言を聞くと
いうのは、構図としてはだいぶ情けないものだったが、リキエル自身は特に思うところもなく、そ
れに甘んじている。叱責される筋合いならいくらでもあるので、素直に説教を聞くのが道理だった。
 それに、変に反発などしたところで、まるで得にならないことも自明の理である。あるいはそう
いった理由のほかに、溜飲の下がるまで、怒鳴りたいだけ怒鳴らせてやろうという気持ちもあるよ
うだった。
 どうにも心が穏やかで、罵声も怒声も気にならなかった。ほとんど聞いていないのと同じである。
頭の下がる思いではあっても、頭が上がらないわけではないのだった。
 そんなリキエルの意識を知るわけもないだろうが、ルイズは釘刺すように言った。 
「そういえば、あんたまたお前って言ったわね! 明日一日食事抜き! 溜まった洗濯物も洗っと
きなさいよ! 忘れないで、あんたは私の使い魔なんだからね!」
 リキエルは「ああ」「おお」と適当な返事をしながら、ちらと窓の外に目をやった。さっきまで赤
味を残していた日の光は、もうすっかり黄金色に変わっている。このハルケギニアとかいうらしい
異世界は、月は二つでも太陽はやはり一つなのだなと、リキエルは今さらそんなことを思った。

590使空高:2008/07/02(水) 20:45:11 ID:cKTU8UDU
ぐはぁ、やられた。すみません。お願いします。
にしても原作一巻の半分までをようやっと消化。……なんだこのペース。

591名無しさん:2008/07/02(水) 20:46:31 ID:gtVbvZ.M
ぢゃあ代理行きます。

592名無しさん:2008/07/02(水) 20:54:06 ID:cKTU8UDU
>>591
なんというスピード。感謝いたします。

593ゼロのスネイク 改訂版:2008/07/29(火) 00:48:23 ID:Amk0UQuY
「ルイズ、無事カ?」
「はぁっ、はぁっ……」
「ルイズ!」
「だ、大丈夫よ。平気。へ、平気だから……」
「ソウカ。見タトコロ怪我モ無イシナ……ダッタラソレデイイ」

それだけ言って室内へとそっと目をやるホワイトスネイク。
直後、ホワイトスネイクの鼻先を何かがかすめた。

「ッ!」
「ホワイトスネイク!」
「気ニスルナ。食ラッタワケジャアナイ……」

そういってホワイトスネイクは腕からDISCを一枚抜き取り、開いた手で自分の背中側にルイズを押しやった。

「ちょ、ちょっと、何して……」
「イイカラ黙ッテイロ……ヤツヲ始末スルンダカラナ」

そう言って強引にルイズを自分の背後に回らせる。

「だ、誰が、あんたなんか、に……」

言いかけて、ルイズはホワイトスネイクの背中を見てはっとした。
ホワイトスネイクの大きな背中に、いくつもの小さな金属の塊が深々とめり込んでいる。
めり込んだ場所にはひび割れのような亀裂も走っている。

(こ、これって……さっき、わたしを守るために?)

思わずホワイトスネイクの横顔を見る。
ホワイトスネイクの注意は依然室内に向けられており、ルイズの視線には気付いていないようだ。

(こいつ、一体何なの? 自分のためだなんて言っておいて、自分を盾にしてまでわたしを守って……)

ホワイトスネイクの真意の在り処を、ルイズは理解しかねていた。

594ゼロのスネイク 改訂版:2008/07/29(火) 00:48:56 ID:Amk0UQuY
「くそっ……何だっつーんだ、一体……」

襲撃者――ラング・ラングラーは短く毒づいた。
この仕事は、本当ならもっと楽なハズだった。
まず窓のサッシに唾液を吐きかけて無重力化。
あとは寝て待っていればガキの部屋を含めた半径20メートルが完全に無重力化する。
あとは無重力の中であっさり無力化したガキをとっ捕まえて帰るだけ。
それだけのハズだった。

なのにあんなヤツが、よりによってホワイトスネイクが、なんでこんなところにいやがる?
あいつのせいで、こっちの計画は御破算になっちまった。
いや、そもそもなんでホワイトスネイクのヤツが自分の標的を守っている?
考えれば考えるほど、ワケが分からない。
ラングラーの理性は混乱の極みにあった。

だが――だが、とラングラーの残忍な部分が囁く。
自分の能力なら、ヤツなんか目じゃあない。
軽くぶっ殺せるハズだ。
空条徐倫のときは雲のスタンドを使う野郎が加勢していたから負けた。
雲の野郎さえいなければ楽勝で勝っていたんだ。
そして今宵の相手はホワイトスネイク一人だ。
楽勝すぎる。
負けるはずがない。
やっちまえよ、ラング・ラングラー。
お前の「ジャンピン・ジャック・フラッシュ」なら何も問題ないさ。
そう囁くのだ。

「そうだ、それでいいじゃあねーか……」

果たして、ラングラーはその囁きに乗った。
何でホワイトスネイクがこんなとこにいるかは分からない。
自分と同じように来たのかもしれないし、そうじゃないかもしれない。
でもそんなことはどうだっていい。
オレのスタンド「ジャンピン・ジャック・フラッシュ」ならあんなヤツ楽勝だ。
肝心なのはそれだけだ。
だから、何も問題ない。
いける。

その確信と同時に、JJF(ジャンピン・ジャック・フラッシュ)が両腕を突き出してラングラーの前に出る。
そして、JJFの両腕の球状リングがグルグルと回転し始める。

ラング・ラングラー。
スタンド名、ジャンピン・ジャック・フラッシュの本体。
この世界で「魔法殺し」と称された、恐るべき「無重力」の操り手がホワイトスネイクに牙を剥く。


To Be Continued...

595ゼロのスネイク 改訂版:2008/07/29(火) 00:52:06 ID:Amk0UQuY
投下完了

戦闘のプロは奇襲されたらいったん引き返して体勢を立て直すそうです。
奇襲されたのに強引に突っ込んだラングラーは戦闘のプロじゃないですね
しばらく悪党同士の殺伐とした殺し合いが続きますがご容赦ください


あとラングつながりでこういうのもたまにはいいと思う

久々のばいばいサルさん
こういうしょうもない規制がなかったのが昔の2ちゃんねるなんだよな
今の2ちゃんねるは支援なしで大量投下するのが難しいから困る

596ゼロのスネイク 改訂版:2008/07/29(火) 00:53:12 ID:Amk0UQuY
どなたか、代理投下お願いします

597ゼロのスネイク 改訂版:2008/07/29(火) 01:10:02 ID:Amk0UQuY
自力復活できました
お騒がせして申し訳ないです

598使空高:2008/07/29(火) 12:54:15 ID:o5O3.CNw
幕ノ内の配達……『未』完了。すいません、またお願いします。
サルサンコワイ サルサンコワイ。

599使空高:2008/07/29(火) 12:55:17 ID:o5O3.CNw
 好きな人間もあまりいないだろうが、こういう暗闇がリキエルは好きではない。受け付けないと
言い換えてもいい。目を開けているのに何も見えない状態が、パニックの発作を起こして、意志と
無関係に両のまぶたが下り、上げようとしても上がらないときの暗闇と絶望感を、いやがうえにも
思い起こさせるのだ。
 窓の脇のカーテンが揺れて、涼しいというより冷たい風がリキエルの顔に当たったが、リキエル
は汗を握り締めていた。連れ込まれる焦りからかいた冷や汗ではない、かくだけで気分の悪くなる
汗である。もっとはやく目が慣れないかと、リキエルは目頭をもんだ。
「扉を閉めて?」
 闇の中に人の気配が動いて、その気配から声がかけられた。記憶が確かならば、まさしくキュル
ケの声である。
「…………」
 リキエルは動かなかった。これが誰か他の人間に言われたことであれば、特に断る理由もあるま
いと思い、その通りにしたかもわからないが、この場合、場所と人間がどうにも悪い。
 それに今リキエルは、キュルケにちょっとした反感を持っている。ここ最近は沈静化していた発
作が、こんなことで出てしまうかもしれない、わざわざこんな場所に連れ込みやがってという、八
つ当たり的な反感である。勝手な話だが、そうでも考えていなければ、雪だるま式にストレスが重
なり、本当にパニックになりかねない状態だった。
 ――自分で閉めたらどうなんだ。どうせ、自分で開けたのならよォ――ッ。
 そんなリキエルの胸のうちにある反感に、夢にも気づけるわけはないが、キュルケはリキエルに
扉を閉める気がないことは悟ったらしかった。
「……いいわ。まずはこっちにいらっしゃって」
 声には出さないが、リキエルはイライラとして言った。
「まず? それは違うぜ、『まず』オレにどんな用があるんだ?」
「それもこっちで話すわ。さ、いらっしゃい」
「オレは鳥目ではない。こんなふうに右目が下りてしまってはいるが、特に夜盲症とかってわけじ
ゃあないのだ。だが見えないぜ。こんな暗い中にいたんでは、足もとだって見えやしない。明かり
くらいは点けてもらわないとな、来いと言うのならよォ〜〜」
「まあ、気がつかなかったわ」
 変にわざとらしく明るい声音で、キュルケは言った。
 次に、手をたたいたか指を弾いたかする音がした。すると、リキエルの足もと付近からキュルケ
の立っている場所に向かって、ロウソクが滑走路の誘導灯のように火をつけた。ぼんやりと部屋が
明るんだことで、リキエルはほんの少し気分が楽になったが、この場にいる以上、ストレスがつの
っていくのは止まりそうになかった。
 闇の中に浮かび上がったキュルケは、レースのベビードールそれ一枚という扇情的な姿をさらし
ていた。もとのプロポーションがグンバツにいいキュルケがそういった格好をすると、ともすれば
学生であることを失念させる、年長けた女の色気とでもいうべきものがにおい立つ。
 ロウソクの演出といいリキエルを見つめる濡れた双眸といい、男を絡めとる手練手管というもの
を、キュルケはよくわかっていた。
 だがリキエルは、それに誘われはしなかった。誘惑されるほど、心に余剰がないのである。そし
て、そうやってある意味冷静な目で見てみれば、なるほどキュルケは肉付きのよい張りのある体で、
通った鼻筋や瑞々しい唇にも魅力があるが、逆にそういった若々しい部分が、大人っぽい色気の妨
げにもなっている。所詮まだまだといえた。
 リキエルは半分だけ距離を詰めた。
「それで、オレになんの用だ。それを聞いてから決めさせてもらうぜ、近づくかどうか」
 ゆったりとした動きでキュルケは腕を組んだ。胸が少し持ち上がり、あらためてその大きさが強
調される。

600使空高:2008/07/29(火) 12:56:18 ID:o5O3.CNw
 悲しげに目を伏せて、キュルケは言った。
「あなたは、あたしをはしたないと思うでしょうね」
 ――まともな服を着たらどうなんだ、自覚あるならよォ――。
「思われても、しかたがないの。わかる? あたしの二つ名は『微熱』」
 ――というかどうなんだ、疑問文にこんな返しってよォ――。
「こんな風にお呼びだてしたりして、いけないことだってわかっているの。でもあたし、恋してる
のよ、あなたに。恋はまったく、突然ね」
 ――恋ってどういうことだ、わざわざオレなんかによォ――。
「あなたがギーシュと決闘してる姿、あの啖呵、凛々しかったわ。あたしね、あれを見て痺れたの
よ。そう、痺れたの! 情熱なの! あああ、情熱だわ!」
 ――見てたのか、なら助けてくれてもいいだろうがよォ――ッ!
「二つ名の『微熱』はつまり情熱なのよ、ってあれ? どこに行くの!?」
 踵を返して、リキエルは扉に向かって歩き始めていた。足取りは重い。
 何か別の用件ならば、リキエルは聞かないでもない気になっていたが、自分に懸想しただなんだ
という話なら別だった。部屋に入ることさえ懸念しなくてはならないのだから、キュルケと恋仲に
なればなどと、考えたくもない。しかもそれが、明らかに一時の感情の揺れによるものなら尚更で
ある。純な感情と言えなくはないが、そこが冗談よりたちの悪い部分とも言えた。
 扉の前にはフレイムが伏せていたが、関係ない、出て行く。とにかく早々にここを立ち去らない
と、どんどん面倒なことになりそうなのだ。なによりリキエルは息が苦しくなってきており、これ
以上ストレスがかかるのはまずい予感もあった。
 しかし恋に身を焦がしたキュルケとて、そう簡単にリキエルを逃がす気はないようで、すぐにそ
の腕にすがりついた。
「待って! 本当に恋してるのよ! あの日から、授業中でも夢の中でも、ふとした時にはもうあ
なたのことを考えてしまっているの! 恋歌を綴ったりもしたわ! こんなふうにみっともないこ
とをしてしまうのだって、リキエル、あなたの所為なのよ!」
 リキエルは動きを止めた。キュルケの言葉に心を動かしたわけではなく、腕を掴まれた拍子に息
が詰まり、完全に呼吸ができなくなったのだ。
 そこに、である。
「キュルケ!」
 その声を聞き、跳ね上がった眉を目に留めて、リキエルは血の色を失った。思考がまとまらず、
一瞬目の前の娘の名前が頭から消えて、それがまた戻ってくると、体中から汗が噴き出した。腕に
組み付かれているという、かなり嫌なタイミングで、ルイズに目撃されてしまっていた。
ルイズはリキエルを見もせずに、キュルケに向かって声を張った。
「ツェルプストー! 誰の使い魔に手を出してんのよ!」
「あらヴァリエール、ここのところ放課後に見ないけど、どうかしたの?」
「あんたには関係ないわよ! それより何してるのか聞いてんの!」
「しかたないじゃない、好きになっちゃったんだもん」
 リキエルの腕に絡めた手を外して、キュルケは肩をすくめた。
 ルイズはそんなキュルケを一際強く睨むと、その視線をようやくリキエルへと向け、短く切りつ
けるように言った。
「来なさい」
 言われずともそうするつもりだったのだ。リキエルは荒い息で力の入らない足を動かし、つんの
めりそうになってよろけ、ロウソクを二、三本けり飛ばした。転がってきたロウソクに驚いて、寝
転がっていたフレイムが飛び退いた。
 部屋を出てルイズのそばに立つと、ようやく汗がひいてきた。

601使空高:2008/07/29(火) 12:57:18 ID:o5O3.CNw
「あら。お戻りになるの?」
 息をつくリキエルにキュルケが言った。
振り返りもせず、リキエルは手を振ってそれに答え、さっさと歩き出しているルイズの後に続い
た。淡白にすぎるかもしれなかったが、声を出せるような状態ではなく、挨拶するのもおっくうで
仕方がなかった。
 部屋にいたのはものの五分くらいだったろうに、リキエルはどっと疲れていた。


 ルイズの部屋に戻ったリキエルは、それでも心休まりはしなかった。キュルケの部屋で何をして
いたのか、多分その弁明をしなくてはならない。だがトカゲに引っ張られて仕方なく、などという
言い分がはたして通るものかは、たとえば自分がそう言われたとしても疑問だった。
 どんな言い訳をすればいいかリキエルは模索したが、うまい説明のしようはなかったし、いい嘘
も考えつかなかった。
「リキエル」
 頭をかかえていると、ベッドに腰を下ろしたルイズが不機嫌な顔で話しかけてきた。罵倒がくる
か叱責がとぶか、はたまた飯を抜かれるか。三つ目が一番こたえるなと思いながら、リキエルは片
目を向けた。
「顔色が悪いわよ、またパニックなんて起こさないでよ」
「……」
 思わずリキエルは身構えていたが、ルイズの言ったことは、激しく予想と違うものだった。まず
詰問されるくらいは順当な流れとリキエルは考えていたので、聞きようによっては身を案じるよう
な言葉をかけられたことで、肩透かしをくらった印象もある。別に、ルイズは怒っているわけでも
何でもないのだろうか。
 しかしそうすると、ルイズがこうして不機嫌そうにしているわけがわからなかった。朝の手紙の
件をまだ根に持っているのかとも思ったが、それなら罰を増やすとか、もっと直接的なことをして
くるはずだ。
 その思考が顔に出たか、ルイズはぶすっと顔をしかめて、わずかに身を乗り出した。
「あによ、ヒバリの声で鳴くカラスを見るような顔して」
「正直に言えば、てっきり怒っているものだと思ってたからな。キュルケとは折り合いが悪いみた
いだからよォ――、そんなキュルケと使い魔が一緒にいて、怒り心頭じゃないかってな」
「勿論よ! あああの色狂い人の使い魔にまで手を出して! あの下品で甘ったるい声ったらない
わね、扉が開いていたから廊下にまで聞こえてきたわよ! だからあんたを引き止める、惨めな懇
願も聞こえてたのよ。ふんッ、あれはいい気味だったわ!」
 だいたいリキエルにも飲み込めた。
 どうやらルイズは、キュルケに言い寄られてもリキエルがなびかなかったのを知り、そのことで
多少は溜飲が下がったので、リキエルをとがめだてする気はないということらしい。それでも癇に
障るものは障るので、不機嫌になっているようである。
「お風呂に入ってさっぱりしてきたあとに、あんな声なんか聞かされてぇ〜〜! せっかくとれた
疲れもなんかまた戻ってきたわ、やんなるわね!」
 言われてようやく気がついたが、ルイズの髪はしっとりと生乾きだった。石鹸と洗髪料の香りも
漂ってくる。柚子やオレンジのような柑橘系の香りで、あまりきつい感じではない。なるほど、リ
キエルが部屋に帰ってきたとき、ルイズは大浴場で湯を浴びていたのである。
 締め出されたことにはそういうわけがあったのだ。
 ――……ん?
「もっと早い時間じゃあなかったか? いつも風呂に入るのは」

602使空高:2008/07/29(火) 12:58:19 ID:o5O3.CNw
 ルイズは大抵、他の生徒たちと同じ時刻に風呂に入る。
 それが今日に限って妙に遅かった。いつもどおりにルイズが風呂に入っていれば、そもそもリキ
エルが締め出しを食うことはなかった。
「どうかしたのか?」
「別にどうもしやしないわよ、そんな気分だったの」
 ルイズは素っ気なく答えた。
「そうか」
「それよりあんたのことよ」
「オレの……? 何がだ」
「この時間なら、多分見たほうが早いわ。こっち来て、カーテンの隙間からキュルケの部屋を見て
みなさい」
 言われたとおり、リキエルは窓辺に立ち、外を覗いてみた。すると、なかなかにとんでもないも
のが目に飛び込んできた。
 まずハンサムな男が、キュルケの部屋の窓まで飛んできた。そのすぐあとに精悍な男が飛んでき
て、ハンサムな男と言い合いを始めた。どうやらあの二人は、キュルケに想いを寄せたか寄せられ
たかの男たちらしく、手違いがあったのか、逢引の時間が重なったようである。まかり間違えば自
分もあの二人と同じ立場かと、リキエルは眉をひそめた。
 だがそれは、まだ序の口だったのである。
 二人の男が口論しているところに、なんと今度はいっぺんに三人の色男が飛んできて、全員で揉
めだした。皆に今晩キュルケとの約束があり、皆が時間をかぶらされたということらしい。ここま
でいい加減な話もそう無い。
 とうとう一人が杖を抜き、他の四人もそれにならい、いっせいに地面へと下りていった。そのあ
とはかなり悲惨な権利争いが幕を開け、精悍な男が杖も使わずに四番目の男を殴り飛ばしたあたり
で、リキエルは観戦をやめた。
 疲労のこもったため息をつくリキエルに、ルイズが言った。
「わかったでしょ? キュルケがあんたに惚れてるって噂が立てばどうなるか」
「あの男どもの恨みを買うか。わかりたくもなかったがなぁ〜〜、こんなことはァ」
「ほんと厄介なことになっちゃったわ。それもこれもあのツェルプストーが……! ああもうだめ、
やっぱり疲れた。わたしもう寝る」
 そう言うや、ルイズはぽいぽいと制服を脱ぎ捨てて、愛用のネグリジェに着替え終えたところで
ベッドに倒れこんだ。そして最後の力を振り絞って指を鳴らし、部屋の灯りを消した。机の上のラ
ンプだけが、小さく灯りをつけている。
 このランプは、リキエルがルイズに頼み込んで、こういう月のない夜にはつけてもらうようにし
ていた。リキエルの発作を知るルイズは、睡眠の妨げにならない程度ということで了承してくれて
いる。
 すでに深い眠りに落ち込んでいるルイズに布団をかけてやりながら、リキエルはその常夜灯を見
つめた。暖かなはずの光が、今日はなぜか、変にくどくどしい。
 リキエルは目を背けるように窓の外を見た。うすぼんやりとした光が、かろうじて月明かりとわ
かる。当たり前だが、星は見えなかった。

603使空高:2008/07/29(火) 13:00:28 ID:o5O3.CNw
投下終了。ほんとたびたびすいません。もっと短くしたほうがいいな……。
精神がハイでもロウでもないリキエルって掴みにくい。
>>316げげっ、気持ち悪いど。

604名無しさん:2008/07/29(火) 13:17:08 ID:Amk0UQuY
代理投下行きます

605名無しさん:2008/07/29(火) 13:30:16 ID:Amk0UQuY
代理投下完了

606いぬの人:2008/08/15(金) 17:35:32 ID:WI3L6oA.
規制にかかった訳ではありませんが、とても重大な失態が発覚しました。
分かりやすく言うと『キュルケは二人いたッ!』
シルフィードと一緒に空に飛び立ったはずのキュルケが何故か地上に!

すみません。プロットの段階ではワルドに止め刺すのはギーシュでしたが、
ワルドに怒りを募らせているキュルケに出番を与えたくて変更したせいです。

ゼロいぬっ!の83の該当部分をここに投下しますので、
よろしければどなたかwikiを修正していただけないでしょうか。

(変更前)

「まさか私を置いてくなんて言わないわよね?」

だがキュルケは真っ先に名乗りを上げた。
臆する事なく、むしろワルドとの対決を望んでいるようにさえ感じる。
彼女の言葉にタバサは頷きで返す。
それに満足げな笑みを浮かべるとキュルケはシルフィードの背に乗る。
ついで聞き分けの良い子供を褒めるようにタバサの頭を撫でる。
まるで恐怖を物ともしない彼女達の姿に衛士達の顔が曇る。
このような子供達に遅れを取っていいのか?
だが頭では分かっていても心は動かない。

(変更後)

「まさか私を置いてくなんて言わないわよね?」

キュルケは真っ先に名乗りを上げた。
臆する事なく、むしろワルドとの対決を望んでいるようにさえ感じる。
しかし彼女の言葉にタバサは首を振った。
無茶の連続でシルフィードの疲労は限界に達していた。
そこにキュルケも乗せて飛ぶのは自殺行為だった。
自分の視線を真っ向から見返すタバサに、キュルケは小さく溜息をついた。

「いいわ。だけど必ず生きて帰ってきなさい、ルイズも貴女もね」

キュルケの言葉にタバサは今度こそ力強く頷いた。
まるで恐怖を物ともしない彼女達の姿に衛士達の顔が曇る。
このような子供達に遅れを取っていいのか?
だが頭では分かっていても心は動かない。

607名無しさん:2008/08/15(金) 21:04:58 ID:UPNtKQwY
把握

608名無しさん:2008/08/15(金) 21:10:24 ID:UPNtKQwY
修正完了

609608:2008/08/16(土) 07:54:12 ID:M2DIK8zQ
依頼に応えて修正した後で見直したのだが、関連しそうな部分を数箇所見つけ、どうすべきか、いぬの人の判断を求める

同じ83の次のくだり

シルフィードの背にはタバサと「キュルケ」、そして自分。
 まるでニューカッスル城の焼き直しだとルイズは思った。

84には多分無くて、85の次のくだり

否。その風竜を駆るのは騎士ではなく一人の少女。
 その背には同様に年若い少女が「二人」。
 彼女等を護衛するように傷だらけの竜騎士が左右に付く。


それと、多少の違和感があるのが83の次のくだり

 キュルケやタバサからフーケがレコンキスタに付いた事は知らされていた。
 だがタバサ達がいなくなった(キュルケは居残り)、このタイミングで襲ってくるなんて。
 自分の運の無さにギーシュは思わず舌打ちする。

610Hearts of Lion ◆4wSURDq66Q:2008/08/16(土) 16:51:23 ID:RbQuslU6

ご指摘ありがとうございます。
それでは再修正をお願いします。

ゼロいぬっ!の83

(修正前)

シルフィードの背にはタバサとキュルケ、そして自分。
まるでニューカッスル城の焼き直しだとルイズは思った。
そしてあの時と同じ様に、もう一度アイツを迎えに行く。
……だから待っていて。私は必ず行く。

(修正後)

まるでニューカッスル城の焼き直しだとルイズは思った。
そしてあの時と同じ様に、もう一度アイツを迎えに行く。
……だから待っていて。私は必ず行く。

(修正前)

「何ですかありゃあ?」
「……フーケのゴーレムだ」
「フーケって……まさか“土くれ”のフーケですかい!?」

ニコラの問い掛けにギーシュは冷や汗を垂らしながら答える。
キュルケやタバサからフーケがレコンキスタに付いた事は知らされていた。
だがタバサ達がいなくなった、このタイミングで襲ってくるなんて。
自分の運の無さにギーシュは思わず舌打ちする。

(修正後)

「何ですかありゃあ?」
「……フーケのゴーレムよ」
「フーケって……まさか“土くれ”のフーケですかい!?」
「ああ、そうだ」

ニコラの問い掛けにキュルケが答え、ギーシュはそれに冷や汗を垂らしながら同意する。
フーケがレコンキスタに付いた事は前の襲撃で分かっていた。
だけど彼やタバサがいなくなった、このタイミングで襲ってくるなんて。
タイミングの悪さにキュルケは思わず舌打ちする。

ゼロいぬっ!の85

(修正前)

高高度での死闘が続く中、満身創痍の一団が上空を目指す。
風竜を中心にした竜騎士の小隊。
否。その風竜を駆るのは騎士ではなく一人の少女。
その背には同様に年若い少女が二人。
彼女等を護衛するように傷だらけの竜騎士が左右に付く。

(修正後)

高高度での死闘が続く中、満身創痍の一団が上空を目指す。
風竜を中心にした竜騎士の小隊。
否。その風竜を駆るのは騎士ではなく一人の少女。
その背には同様に年若い少女。
彼女等を護衛するように傷だらけの竜騎士が左右に付く。

611いぬの人:2008/08/16(土) 16:52:01 ID:RbQuslU6
ちょっと失敗しましたが本人です。

612609:2008/08/16(土) 18:36:45 ID:J4/YDEC.
了解&修正完了
ご確認を

なお手動navi(【戻る 目次 進む】)も修正ついでに追加
84にも手動naviを追加

613いぬの人:2008/08/16(土) 18:39:23 ID:RbQuslU6
本当にありがとうございます。助かりました。

614ポルナレフ+ジョルノ_第二章_3-3:2008/08/24(日) 21:48:42 ID:8QeVE4.A
どなたか代理投下をお願いします。


先行していたルイズは、ジョルノ達より幾分早く宿に着いていた。
そのホテルは貴族用の、この港町では一番上等な宿、『女神の杵』亭で、普段なら事前予約が必須の宿だった。
だが、その宿も今は従業員以外に人気は無かった。
アルビオンとトリスティンの玄関口として賑ってきたと言う街の成り立ちから、アルビオンが内戦になってからはそこへ商売をしに行く商人達くらいなもので、主だった客層はこなくなったからだ。
今のアルビオンに向かう者達の中に、『女神の杵』亭を利用するような手合いは殆どいない。
浮遊大陸から戦火を逃れてきた者の中には貴族も多数いたが、近日中に内戦が終わろうと言う段になって逃げてくるような者はいなかった。
今浮遊大陸から出てくるのは、王党派についていた傭兵達だけ。
安宿の酒場から順に賑わっているようだが、平民と一緒に食事をしたがらない者も多い貴族様御用達の『女神の杵』亭には関係の無い話だった。
逆に、同じくなのしれた宿でありながら平民でも構わず受け入れる隣の宿『世界樹の枝』亭は今現在全室満員で、一歩宿を出れば同じく一階に設けられている酒場の騒ぎが聞こえてくる。

そんな宿にあって、最近暇を持て余していたホテルマン達は、一階の酒場をウロウロするルイズに愛想良く、あるいは目障りにならないよう粛々と己の職務を果たしている。
酒場の中にいるのも従業員を除けばルイズ達だけ…この宿で部屋を取っているのも、ルイズ達だけだったので従業員達の態度はとてもよかった。
ホテルマン達に、その傭兵達の中にはアルビオンから逃れてきた貴族を捕まえている者もいると聞かされたルイズは気が急いて、そうした仕事振りには気付かなかったが。

「いやしかし、話には聞いていたが…彼の財産は一体幾ら何だろうね」
「男爵? 彼って…ネアポリス伯爵のことですか?」
「ああ。さっき小耳に挟んだんだが、隣の騒がしい宿。この戦争が始まる前後にある貴族が買い取って『平民でも泊まれるように』としてしまったらしい…その貴族が」
「伯爵だと?」
「ああ、代理人ではあったらしいが。間違いないな」

久しぶりに再会した婚約者とは正反対に酒場の椅子に座って背にもたれかかり、ワインまで開けて寛いだ様子のワルドは、数日前より若返ったように見える笑顔を浮かべた。
ルイズは自分が説得に失敗し、ジョルノ達が今足止めしているはずの母に長髪と髭をばっさり刈られ五歳は若返ったワルドを咎める。

床と同じく一枚岩からの削り出しで、ピカピカに磨き上げられたテーブルに、ワルドの顔が映っている。
ワインのビンが置かれたテーブルにワルドのリラックスした様子が映り、ルイズをより焦らせた。

「ワルド…貴方飲みすぎよ。任務中に不謹慎だわ」

アルビオン行きが決まった晩に、配下の者へ連絡してこのホテルを買い取ったネアポリス伯爵家の財産を計算していたワルドは数年ぶりに再開した婚約者のその表情を可愛らしく思い、笑顔を浮かべた。

「君こそ、もう少し落ち着いた方がいいな…今からそれでは先が続かないからね」
「そんなことはないわ!」

重要過ぎる任務中にワイン片手に言う婚約者の姿は、数年前彼女が憧れて恋した相手と落差があった。
美化されたイメージとの差に対する落胆が間髪入れずにルイズにトゲトゲしく反論させた。
近衛隊と切り離せない幻想との付き合いが長いワルドはそれを承知し、困ったような顔をして話を続ける。

「それにどうせ、アルビオンに渡る船は明後日にならないと、出ない」
「急ぎの任務なのに……」

615ポルナレフ+ジョルノ_第二章_3-3:2008/08/24(日) 21:50:10 ID:8QeVE4.A
そう言ってルイズは口を尖らせた。
ルイズ達はこの街についてすぐ、昼の間に桟橋に行って乗船の交渉を行ったのだが、交渉相手は皆口を揃えて同じことを彼女らに説明した。
明日の夜は二つの月が重なる『スヴェル』の月夜。
その翌日の朝が、アルビオンが最もラ・ロシェールに近づく時でそれまで船は出ない。
二人はそう、船乗り達に明日の出向予定がないことを丁寧に説明されてしまっていた。

納得していないルイズにワルドは少し考える素振りを見せた。

「じゃあこういうのはどうだい?」
「何?」
「隣の宿を買ったようにネアポリス伯爵に船を一隻用意してもらう」

全く酔っていないように見える顔でワルドが言うと、ルイズは顔を顰めた。
酔っているならまだしも、今のワルドの表情からは全く冗談には聞こえなかった。

「それは…幾らなんでも」

任務の為とはいえ、ゲルマニア貴族の奢りで移動手段を確保するなどルイズにとっては、貴族としての矜持を大いに傷つけられるように感じた。
平民でもあるまいし、由緒正しきヴァリエール家の三女が姉の恩人でもある相手にだけ出費を強いて主君からの任務を達成するなど到底考えられないことだった。
ワルドはグラスを一枚岩から切り出したテーブルに置いた。
そうしたルイズの感情を察して、幼かったルイズが憧れた凛々しい表情を見せていた。

「ルイズ。後で支払うと約束しても構わないじゃないか。これは君も言ったとおり任務なんだ…急ぎなら止むを得ないだろう」

ルイズがその言葉に視線を彷徨わせて迷いを見せると、ワルドは一転し困ったような表情を見せた。
余り本気ではない、軽い冗談のつもりだったのだがこの任務に賭けるルイズの気持ちを侮っていたらしい、とワルドは背もたれに頭まで持たれかかり天を仰いだ。
スクエアのメイジの手で巨大な岩を切り抜き作り出された宿の天井には、自然が作り出した奇妙な模様が刻まれていた。
趣を感じさせるその文様が普段とは違った方向に気を向かせたのかワルドは気がつくと「よし。じゃあ僕が出そう」とルイズに言い出していた。

「え…!?」
「なんだいルイズ。僕も貴族だ。それくらいのお金はあるさ」

思いのほか大きく驚きを見せた婚約者に、ワルドは愛嬌のある笑みを浮かべた。
アルビオンまで問題なく行け、しかもできるだけ早い船を用意する。
今の時期、急ぎとなれば相当吹っかけられるのも覚悟しなければならないだろうなとワルドは痛むであろう懐を考えて、少しだけ乾いた笑い声を上げた。
ルイズも同じように考えたのか、ワルドが座るソファの背に手を置いて心配そうに尋ねる。

「で、でもワルド…ちょっと買い物するっていう話じゃあないのよ?」
「…僕のルイズ。そんな風に心配されるのはちょっと傷つくな」

自分の財産を心配されて、おどけた調子でワルドは返すとどんより沈んだ顔を作って見せた。
失言をしたと思ったルイズはそれに騙され、慌ててワルドに言う。

「だ、だって…私達は大使なのよ! 間に合わせでも、安い船は使えないわ! それに、船員達も一流所を揃えないと…!」
「…い、いや。アルビオンまで早くいければいいんじゃないかな?」
「ダメよ! 寄せ集めじゃもしもの時に役に立たないわ! それに船員達の身なりだってちゃんとしたものを用意しないと…」

そのまま船の調度品やアルビオンで乗り込む馬車の用意などまで言い出しそうなルイズに、ワルドは慌てて声を張り上げる。

「ちょ、ちょっと待ってくれ…!そんなものを用意していたら一月はかかるよ」
「…それでも私達は大使なのよ? アルビオンの王様達にも失礼だわ」
「こんな状況だ。厳格なアルビオンの御歴々も許してくださるさ」

もしかしてここでケチるとトリスティンがアルビオンを軽く見てると思われてしまう、とか考えてるのか?
余りにも自分とは違う予想図を描いているらしいルイズにワルドは冗談じゃないと若干引きながら、婚約者の肩に手を置いた。
彼女の言うとおりにしていては結婚しても破産しかねない。
この旅で心の距離だけではなく、金銭感覚の距離も詰めなければな、とワルドの目には真剣な光が宿り始めていた。

616ポルナレフ+ジョルノ_第二章_3-3:2008/08/24(日) 21:56:21 ID:8QeVE4.A
「ルイズ。君の気持ちはよく…うん、とてつもなく良くわかる。だがこれは、お忍びなんだ。そんな目立つ真似はできないし、時間もないんだ」
「で、でも…」
「時間がないって君も言っていただろう? 君の意見は最もだ。だがそれは公式の、大々的な、それこそ公費を使って行う訪問の時の話だ。
今の僕らの状況とは全く合っていない」

ワルドは懇願するように言ったが、納得は得られなかったらしく彼が見下ろす婚約者の表情は不満げだった。
二人を生暖かい目で見ていた従業員の一人が酒場の扉を開ける。
日が沈み、二つの月の光を背負って草臥れた様子のサイトがふらふらとだらしない足取りで入ってくる。
その後を、亀を手に持ったジョルノが足音を立てずに続き、扉を開けた従業員にチップを渡し、何かを言いつけてからワルドへと目を向けた。
思わず救いを求めるような目でワルドは二人の少年を見つめ、サイトは嫌な予感に回れ右しようとする。
「何やってんだテメーは」亀から声がして、サイトが首根っこから持ち上げられたように浮かび上がる。
月明かりが作る影に表情が隠れたままのジョルノは言う。

「船の手配は既に済んでいます。明朝出立の予定ですから、余り飲みすぎないでくださいね」

安堵して息をついたワルドに、入ってきた二人は首を傾げた。
この内乱を食い物にしていたジョルノは当然、アルビオンへの玄関口であるラ・ロシェールに船を持っている。
ジョルノの抱える研究者達が異世界の技術を取り込んで作成している船には及ばないが、そこいらの船には負けぬ性能を持っているし、
船員もきっちりと、栄光ある元アルビオン空軍の仕官で構成されている。
で、むしろそれを知っていてアンリエッタは自分を巻き込んだのではと、ちょっぴり考えていた…というよりそう思いたかったのだが無駄だったようだ。
ワルドは席を立ち、鍵束を持って二人の下へと来る。

「やあポルナレフ、待っていたよ」
「おう、待たせちまったな」

妙な親しみの篭った挨拶を交わす亀とワルドを気にせず、ジョルノは店内を見回す。
特に目に付くほど悪いところはなかったらしく、ジョルノは首根っこを掴まれて足をぶらぶらさせているサイトを無視してワルドの持つ鍵束に目をやる。

「もう部屋はとってあるようですね」
「隣の宿を買い取っておいてよくおっしゃる」

形式的な笑顔を見せるワルドにジョルノも同じような笑みを返す。

「トリスティン国内にいる間だけのことです。それもお二人のような由緒正しい貴族の家にはお恥ずかしい話ですが」
「ご謙遜を」

ワルドは鍵束の中から二つ鍵を取り、ジョルノとサイトにそれぞれ手渡す。

「サイトが小部屋。伯爵とポルナレフが同室だ」
「…あの、亀で一人分っすか?」

鍵を受け取ったサイトが思わず突っ込みを入れると、ワルドは怒りも露にサイトへと厳しい視線をやった。

「口を慎みたまえ。君は僕の同志に床で寝ろと言うのか?」
「そ、そんなことないっす」

ヴィンダールヴの能力も発動していない上にヒロインもいないサイトには、その視線は聊か強力すぎた。
サイトは目をそらし、それだけを言うとポルナレフにもういいから離してくれと頼む。
ポルナレフのマジシャンズ・レッドが手を離し、サイトを暇に開かせて磨き抜かれた床に落とした。

617ポルナレフ+ジョルノ_第二章_3-3:2008/08/24(日) 21:59:34 ID:8QeVE4.A
「僕とルイズは同室だ」

一人心持離れていたルイズがぎょっとして、ワルドの方を向いた。
それに気付いていない様子でワルドは言う。

「婚約者だからな。当然だろう?「そんな、ダメよ! まだ私達結婚してるわけじゃないじゃない!」

ワルドの言葉を遮るようにルイズは声を張り上げた。
ポルナレフもそれには同意しようとしたが、しかしワルドは首を振ってルイズを真剣な目で見つめた。
冗談や余人を挟む余地がない真剣さを感じ取り、ルイズ達は息を呑んだ。

「大事な話があるんだ。二人きりで話したい」
「…ボーイさん、ワインのリストを見せてもらえねぇか?」

口を挟む余地がないと悟り、ポルナレフはワルドが作り出そうとする空気をかき消そうとする。
同じく余り女性に縁のないボーイはその意を汲んで喜んでリストを皆に配りだす。
頬の肉を引きつらせる貴族相手に満面の笑みでリストを渡す様は堂に入ったもので、ルイズも安堵しながら注文をする。
「私にも何かちょうだい」と当の婚約者まで言い、テーブルに置いたままだったワインの瓶が亀の甲羅の中へと吸い込まれていくのを見たワルドは、肩を落とした。
然程落胆してはいないらしく、苦笑したワルドは一旦諦めて自身は料理の献立表を要求する。

「君、私にはメニューを見せてくれ」

だがにこやかに表を見せて回っていたボーイは、うんざりしたような顔で「メニュー? そんなもの、ウチにはないよ…」
と返し、また笑顔でルイズ達から飲み物の注文を窺う。

「おい…! どういうことだね?」
「料理の献立はお客様次第で決定するからです」
「だから、私が何を食べるか決めるのにメニューをよこせと言ってるんだろうが!」
「チガウ!チガウ! ウチのシェフがお客を見て料理を決めるということでス」

ボーイがそう言ったのとほぼ同時に、無礼な態度に眉間にしわを寄せるワルドの元へとおいしそうな匂いが漂い始めた。
亀とサイトのお腹が空腹を訴えるように鳴り、場の空気を和ませる。

「もう完成したようですネ。すぐにお持ちいたします」



そうして食事を済ませたジョルノ達はそのまま入浴も済ませ、どうやら本当に何か大事な話があるらしいワルドとルイズは誰よりも早く部屋へと引っ込んでしまった。
釣られるようにして、皆早々に自分に割り振られた部屋へと引っ込んでいった。
ジョルノや亀の中にいる何名かも勿論そうしたが…後は寝るだけとなってから亀に隠れ住む者の一人、マチルダはジョルノから相談を持ちかけられていた。

ココ=ジャンボと同じ内装の亀の部屋で、三人はソファに腰掛けていた。
同席したのはポルナレフだけ、テファとペットショップは席を外している。
彼らが今いる部屋とは別の亀の部屋の中で休息をとっているはずだった。
ミキタカも見張りとして、ココ=ジャンボに残されている。

入浴後の一杯を飲み干したマチルダが杖を抜き、ジョルノが持ったデルフを燃やそうとする。
濡れた髪を纏め、照明の明かりに照らされたうなじにポルナレフは注目してそれ所ではなかった。
そのせいで集中が乱れたなどの理由で勿論ないが、炎は生まれなかった。

618ポルナレフ+ジョルノ_第二章_3-3:2008/08/24(日) 22:00:10 ID:8QeVE4.A
「始めて見たね。間違いないよ、魔法を吸収する能力だ」
「…やっと自分の能力だけは思い出したってわけか」

杖を仕舞いながら結論したマチルダに、ポルナレフは真面目な顔で応じた。
火で炙られたり、これをやる前にも風の刃で刻まれたりしたデルフリンガーは、大慌てでその姿を変える。
一瞬でその変形は終わり、ぼろぼろに錆びた剣だったことが嘘のように…柄まで含めると150cm余りもある片刃の大剣がジョルノの手の中に出現していた。

「アンタどうやってこれに気付いたんだい?」
「いつまで経っても記憶喪失のままなんで、ちょっぴり折ろうとしてみたら途端に…「無茶しやがって…頑丈な俺様じゃなけりゃポッキリ逝ってるぜ!」

刃の根元についている金具を口のように動かしながら叫ぶデルフリンガーを見るジョルノの目は彼の愛鳥ペットショップが生み出す氷のように冷ややかだった。
ジョルノから、ゴールド・エクスペリエンスとは明らかに違う太く逞しい腕が出現するのを見て冷や汗を垂らしながら、ポルナレフが言う。

「ま、まあいいじゃねぇか。これで戦闘では切り札になるかもしれねぇぜ」
「そうですね。デルフのことは今は保留しましょう」

あっさりと同意して、ジョルノはデルフリンガーを鞘に仕舞い喋れないようにする。
そうしてジョルノは少しポルナレフ達に顔を寄せて本題に入った。

「ここに集まってもらったのは他でもありません。実は、ワルド子爵が裏切り者の可能性が高いです」
「なんだと…? そりゃどういうことだ」

マチルダが表情を鋭くさせて、背もたれへと体を押し付ける。
バスローブが少し肌蹴たが、残念ながらポルナレフは気づかなかったしジョルノはスルーして話を続けた。

「マチルダさんを助けに行った時に現れた仮面の男。今日の昼頃、ラルカスから彼がワルド子爵であるという情報をレコンキスタから寝返ったトリスティン貴族から得ました」

マチルダは胸元を直し、向かいに座るポルナレフの足を踏んだ。
名前が出たことで、一瞬向けられた目がどこへ向いていたか…マチルダにはお見通しだった。
ばれていないとでも思っているのか痛みを堪えながら、しかし涙を浮かべた目でポルナレフが叫ぶ。

「待ってくれ…奴がそんなはずはない! 俺と語り合った奴のあの目に、嘘偽りはなかった。信じられる紳士の目だったぜ!」
「その語り合った内容とは?」

熱く弁護しようとしたポルナレフは、その問いに色を無くしてそっぽを向いた。

「…さ、さあて。そこん所は忘れちまったな」
「その態度だけで何話してたか検討はつくけどねぇ…どうすんだい?」
「ポルナレフさんは彼が味方である可能性も信じたい、ということですね?」
「ああ。奴は紛れもないトリスティン紳士だ。それは俺の新しい友も賛同してくれるはずだぜ」

確認するジョルノに、ポルナレフは頷いた。
迷いのない、相手への厚い信頼を感じさせる言葉だった。
「男って馬鹿だねぇ」と、マチルダが微かに哀れんだように言い、どちらの言葉にかはわからないがジョルノは頷き還した。

「わかりました。保険をかけ、今は様子を見ることにしましょう」

喝采をあげ、ポルナレフは朗らかに笑った。


「わかってくれたか! だが、保険ってのは?」
「僕のゴールド・エクスペリエンスは既に彼の杖に触っています」

初めて聞く単語に内心首を傾げたマチルダは、説明を促そうとポルナレフに視線を向けた。
ポルナレフは苦い表情をして、「まぁ、仕方ねぇか」と自分に言い聞かせるように呟いていて、視線には気付かない。
無視されたことが面白くないのか、マチルダは鼻を鳴らして、亀から出て行った。

619ポルナレフ+ジョルノ_第二章_3-3:2008/08/24(日) 22:02:30 ID:8QeVE4.A
         To Be Contined

以上です。


代理投下よろしくお願いします。

620ポルジョルの中の人:2008/08/25(月) 07:35:02 ID:Kl72qEGY
本スレ814さん、代理投下ありがとうございました。

621銃は杖よりも強いと言い張る人:2008/09/03(水) 21:33:01 ID:0onyjGxA
案の定、アクセス規制食らった。
残りをこっちに投下します。

622Tedious Bastet:2008/09/03(水) 21:34:27 ID:0onyjGxA
 ぐっと目頭が熱くなり、唇の辺りが震えてくる。
 もう、やっていられない気分だった。
「クソッ!クソッ!!なんなんだよぅ。あたしがなにか悪いこと……」
 自分が不幸に陥ったときに口から出る、在り来たりな台詞を口走りそうになって、唐突にマ
ライアは口を閉じた。
 悪いことをしていない。なんて、口が裂けても言えない様な人生を送ってきていることに気
付いたのだ。
「自業自得、ってやつかね」
 体中から力が抜けて肩がガックリと落ちる。
 とぼとぼとその場を去っていくマライアの背中は、煤けているのように見えた。

 空に双子の月が昇る。
 青と赤の光が夜を照らしているおかげか、外の景色は思ったよりもずっと明るい。
 遠くから聞こえてくる獣の鳴き声をBGMに、マライアは寒空の下を寝藁を抱えながら歩い
ていた。
 冷たい石造りの塔から離れ、適度に暖が取れて眠れそうな場所を探し、フラフラと当ても無
く歩いているのだ。
 明かりの下なら少しは暖かいかもしれないと思ったが、松明の下は火の粉が飛んで火傷しそ
うになったし、他の光源は魔法を使用しているらしく、暖かさはあまりない。
 こういう状況に囲まれると、あの嫌気が差すほど熱い灼熱の国が懐かしく思えてくるから不
思議だ。とはいえ、あの土地も夜は十分冷えるのだが。
 何はともあれ、とにかく寒い。
 誰か頼れる人間がいればいいのだが、見知らぬ土地で目を覚ましたのは今日の昼頃。出会っ
た人と言えば、人を小ばかにしている赤毛の女と頭の悪いご主人様。後は、人が良さそうでは
あるが、ナイフを突きつけてしまった手前ちょっと頼り辛いメイドのシエスタくらいだろうか。
 たったの三人。酷く疲れた一日だったはずなのに、たったの三人しか会っていない。
 相性が悪いのだろうか。それとも、単に見知らぬ土地の習慣に振り回されただけなのだろう
か。
 多分、両方だろう。
「誰でも良いから、どこかに起きてるヤツはいないの?」
 ひっそりと人気の無くなった学院の建物はどこも明かりが落とされ、通路を照らす僅かな照
明だけが目立っている。
 あっちこっちへ視線を向けると、人の存在を感じられる明かりも確かにある。学院の中央に
聳える塔の最上階と、女子寮の三階にある赤毛のクソ女の部屋、それに中庭の片隅に佇む煙突
つきの小屋だ。
「クソ女は最初から選択肢から外すとして、行くとしたら塔の最上階かオンボロ小屋のどちら
か、か」
 なんとかと偉い人は高いところが好き、という格言を誰かに聞いた覚えがあったマライアは、
格言通りなら塔の最上階にいる人物は学長かなにかだろうと推測する。
 強い権力をもった相手を何の見返りも用意せずに頼るのは馬鹿のすることだ。高い地位にあ
る人間は、損得勘定を常に計算できるから権力を握っていられる。無為に頼れば弱みを握られ、
割に合わない要求を突きつけられる恐れがある。 
 となると、残るのは小屋だけだ。
 夜の暗さで分かり難いが、煙突からは少量だが煙が出続けている。暖炉を使用しているらし
い。なら、小屋の中は相当暖かいはずだ。
 寒さに耐えかねたマライアは、他に選択肢がないことを確認して明かりの漏れるちっぽけな
家屋に足を向けた。
 レンガで組まれた本当に小さな小屋。一人用という前提で作ってあるのか、それとも魔法と
やらで中を広くしてあるのか。

623Tedious Bastet:2008/09/03(水) 21:36:11 ID:0onyjGxA
 どちらにせよ、頼れるのはここしか無いのだ。暖かければ中身など大した問題ではない。
「あ、あー、誰かいますか」
 ドアを叩き、声をかける。
 夜の静けさのお陰で中の物音が聞こえてきていた。
 こちらの声に反応はしているが、どうにも慌しい音が響いている。すぐに対応できるわけで
はないらしい。
 少しだけ待ち惚けをさせられた後、唐突に扉が開いて額に汗を浮かべる頭頂部の寂しい中年
が姿を見せた。
「す、すみません。まさか、私の研究室を、それも夜中に尋ねてくる方がいらっしゃるとは思
わず、研究資料に埋もれておりました」
 息を荒くして説明する男に、マライアは外向けのスマイルを浮かべて、丁寧にお辞儀をした。
「夜分遅くに申し訳ありません。わたし、マライアと申します。実は、折り入ってお願いがご
ざいまして……」
 頬に手を当て、腰にしなをつくって上目遣いに男を見つめる。
 ん、と喉を鳴らした男は、顔を一瞬赤らめたかと思うと、次に感嘆の声を上げて手を叩いた。
「おお、あなたはミス・ヴァリエールに呼び出された方ですな。そうですか、マライアという
名前でしたか」
 急に笑顔になった男は、薄い頭頂部に手を当てて小さく頭を下げた。
「申し送れました。わたしはこの学院で教鞭をとっておるコルベールと申す者です。今回の使
い魔召喚の儀では監督役を務めておりましてな、ミス・ヴァリエールがあなたを呼び出したと
ころも、この目で見ておりました」
 なら、話は早い。
 長々と交渉して凍える気などないマライアは早速本題を切り出した。
「実はそのことでお話があるのです」
 すっと身を乗り出し、懇願するようにに顔を近づける。
「わたしは遠い国の辺境に生まれたために、こちらの常識に疎いのですが……そのせいでルイ
ズさんを怒らせてしまい、部屋を閉め出されてしまったのです」
 実際は口答えや皮肉が多すぎたのだが、そんなことをコルベールが知るはずもない。しかし、
呼び出してばかりの使い魔が寒空の下、普段から誰も寄り付かない自分の研究室をわざわざ尋
ねて来れば、初めから疑って掛かるのも難しいだろう。
 コルベールはなんとも言い難い顔で自分の頭を撫で、ここでは冷えるからと、マライアを研
究室の中へと誘った。
「……ゆ、ユニークなお部屋ね」
 部屋の中を見渡した後、マライアは自分なりに言葉を選んでその惨状を言い表した。
 幅4メートル、奥行きは5メートルと言った所だろうか。壁際には本棚や何かの入れ物を収
めた棚が並び、部屋の中央を長机が占領している。足元には、無数の本や羊皮紙と一緒に生き
物の一部と思しき物体や様々な色の液体が零れていた。
 そして、なにより鼻の曲がりそうな異臭が特に酷かった。
「ああ、そこで少しお待ちを。椅子をご用意しますので」
 本人にしか分からない道があるらしく、コルベールはひょいひょいと部屋の中を移動して行
き、どこからか木製の小さな椅子を取り出した。
「まずは、これにお掛けを。……っと、置く所がありませんな」
 マライアが立っているのは玄関を一歩入った場所で、床が目に見える唯一の地点だ。
「あの、お手伝いしますので、少し片付けませんか?」
 このままでは寝ることだって出来ない。
 右側の壁にある暖炉の火に手を向けて少しだけ暖を取ったマライアは、床とコルベールの間
を視線で行き来させる。
「うむむ。これで便利に配置されておるのですが、改めて見ると流石に散らかりすぎておるよ
うですな」
 コルベールはそう言うと、白いローブの下から杖を取り出した。

624Tedious Bastet:2008/09/03(水) 21:37:58 ID:0onyjGxA
 その口からマライアには聞きなれない言葉が流れ出る。
 最後に奇妙な言葉を唱えると、床に散らばった本が次々と本棚へと戻っていった。
「こ、これは、魔法ですか?」
 目に見えないスタンドが本を元の場所に戻しているのかとも思える光景に、マライアは目を
丸くした。
「いや、これはちょっとした道具を本や資料の束に組み合わせておりましてな。魔法というよ
りも、わたしが適当に作った手間を省く技術ですな」
 コルベールはまだ宙を舞う本たちの隙間を縫って部屋の奥へ移動すると、そこから自分の胴
ほどもある丸められた羊皮紙を取り出し、その場で広げて見せた。
「これが設計図でしてな。風石とコモン・マジックの組み合わせで浮かばせており、位置の調
整はガーゴイルの技術の応用なのです。詳しく説明するなら、基点となる……」
 広げた羊皮紙にペンを当て、嬉々として語り始めたコルベールの説明をマライアは適当に聞
き流しながら、少しずつ床の見える面積が広がっていく部屋の中をぼうっと見守った。
 全てが全て、棚に収まるわけではなく。転がっているビーカーやフラスコ、単体の羊皮紙や
薄い本などはその場に留まっている。
 その中の一つを手に取り、書かれている文字を読もうとした。
「……英語じゃあ、ないねえ」
 自体そのものはどことなく似てはいるが、表記文字そのものが違っているようだった。
 解読は難しそうだ。と思いつつ、マライアがそれを眺めていると、いつの間にかコルベール
が説明を止めて近づいていた。
「それに興味がおありですかな!」
 コルベールの指がマライアの手にある羊皮紙に向けられている。
 それに気が付いて、書かれているものを見直したマライアは、ふと、どこかで見たことのあ
る形状が描かれていることに気付いた。
「……エンジンの気筒かしら」
 マライアの脳裏に、日本製の不気味なほど頑丈なバイクの姿が浮かんだ。
 交通手段が限られているエジプト近郊ではマライアも時々世話になっていたが、エンジン周
りが故障して修理も聞かなくなったことで手放したのだ。
 ヴァニラ・アイスが自分の能力の実験に使った後、バラバラになったものを一つ一つ集めて
解体屋に持って行ったから覚えている。
「えんじん、ですか?これと同じようなものを見たことがおありで?それは素晴らしいです
な!うむ、なんだかやる気が沸いてきましたぞ!」
 コルベールは声を上げたかと思うと、机の上にあるものをあっという間に片付けて、マライ
アの手にある羊皮紙を広げた。
 描かれているのは、円筒に幾つも歯車が組み合わさった図で、矢印で歯車の動きが解説され
ている。羊皮紙の端にある火の絵柄は、恐らく着火位置だろう。
 図だけ見れば、なんとなく動く気はするが、どうしても理解できない点があった。
 まだ何も書いていない羊皮紙を並べてペンを走らせるコルベールの肩を叩き、マライアは設
計図の一部を指差した。
「その、ヘビの絵はいったいなんでしょうか」
 設計図通りなら、箱の中で生まれる駆動にあわせてヘビの作り物が箱から出たり入ったりを
繰り返すだけに見える。
 意味が分からなかった。
「良く聞いてくれました!実はですな、市場で見た子供の玩具を参考にして、箱の穴から顔を
出し入れするヘビさんの玩具を作ろうと思ったのです!」
 自信満々に胸を張ったコルベールは、どのようにしてヘビが顔を出し入れするのかの仕組み
に関しての解説を始めるが、マライアはそれを遮って自分の気持ちを素直に示した。
「……で、なにか意味があるのでしょうか」
「お、面白いですぞ、たぶん」
 ちょっと自信が無くなった様子のコルベールに、マライアは肩を落として溜息をついた。

625Tedious Bastet:2008/09/03(水) 21:39:14 ID:0onyjGxA
 趣味でいろいろ作る変人が世の中にはいるが、こいつもその1人なのだろう。いつまでも話
しに付き合っていては、同じ趣味の人間と思われてしまう。
 いい加減本題に入ろうと、マライアは小さく咳をして話を切り出した。
「それはそれとして、相談に関して聞いていただきたいのですが」
「おお、そうでした、そうでした。申し訳ない、研究のこととなると、どうにも見境が無くな
ってしまいましてな」
 誤魔化すように笑い始めたコルベールに、マライアは放置された椅子を適当な位置に直して、
その上に腰を下ろした。
 コルベールも自分の椅子を用意し、暖炉の上に置かれたグラスを二つ取ると、薬品と思われ
る入れ物と一緒に棚に入れられたワインを取り出した。
「保存も悪く安物ですが、喉を潤すくらいなら出来ますぞ」
 目の前に置かれたグラスを手に取り、注がれる赤い液体に目を向ける。
 ほんのりと、甘い香りがマライアの鼻を刺激した。
「……頂きますわ」
 グラスの半分まで満たしたワインが喉を通る。
 一息ついたのを確認して、コルベールが話を促した。
「ええと、マライアさん、でしたかな。ぜひ、お話をお聞かせください」
 こくりと小さく頷き。マライアは口を開いた。

 小屋の明かりが消えた。
 暖炉の火は燻り、余熱が部屋を暖めている。
 寝藁を敷き、二つ重ねた毛布で体を包んだマライアは、厚めの本を枕にして、やっと緊張を
解いた。
 短い交渉の結果、研究室の床はルイズがきちんとした寝床を用意するまで使用することが許
された。しばらくは、ここで眠ることになるだろう。
 コルベールに語った話の内容は真実が五割、ウソも五割のちょっとした聞き取り方の違いで
誤解してしまうような、そんな話だ。
 マライア自身の身の上をでっち上げ、ルイズとのやり取りを誇張を含めて苛めを受けている
という内容にした。明日には、コルベールにこっぴどく叱られるルイズの姿を見ることが出来
るだろう。
 それよりも、一番助かったのは、この世界の知識が多く得られたことだ。
 あまり世界の地理や文化に詳しいわけではないマライアは、ここをヨーロッパ地方の辺境か
なにかと考えていた。貴族なんて言葉を当たり前のように使っているのは、現代の一般社会で
は珍しいからだ。
 文化や技術力に関してもそれなりの情報を得ることが出来た。要はイソップ物語やグリム童
話などが書かれた時代だ。暇つぶしに取り上げて読んでいたボインゴのマンガも、似たような
世界観が描かれていたはずだ。
 悪いニュースがあるとすれば、召喚魔法はあっても送還魔法は存在していないという事実だ
ろうか。
「まさか、帰る手立てがないとはねえ……」
 コルベールは文献を調べてみるとは言っていたが、あまり期待はできそうに無い。使い魔の
契約は、ルイズの学院における進退に大きく関係しているらしい。たとえ送還魔法があったと
しても、内心では逃がすわけにはいかないと思っているはずだ。
 左手に刻まれたルーンという文字に対してわざわざスケッチを取ったのは、使い魔としてマ
ライアを拘束する気があるということを暗に示していた。
 なんだかんだで根が善人であるために、罪悪感からこうして自身の研究室を寝床として利用
することを許可したとも考えられる。
 なんにせよ、コルベールの中にある優先順位は、ルイズの学院生活と教員としての心が上位
で、平民に分類されるマライアの人生は下位。
 貴族の都合は、平民のあらゆる都合に優先する。そんなルールが、この世界にはあるのだろ
う。
 以上のことから得た、最終的な結論はたった一つ。
 さっさと、こんな場所から逃げ出してやる。
 ただ、それだけだった。

626銃は杖よりも強いと言い張る人:2008/09/03(水) 21:40:31 ID:0onyjGxA
以上です。
続きがあるみたいな終わり方をしていますが、続きは書いてません。
銃杖が終わったら書くかもしれないけど……、いつになるやら。

どなたか、代理投下していただけると助かります。

627名無しさん:2008/09/03(水) 21:46:48 ID:9sY5kqmg
らじゃー、行ってまいります

628名無しさん:2008/09/03(水) 21:53:04 ID:9sY5kqmg
投下してまいりました 乙ですー

629銃は杖よりも強いと言い張る人:2008/09/03(水) 21:53:30 ID:0onyjGxA
わざわざすまねぇ。感謝する!

630隠者の中の人 ◆4Yhl5ydrxE:2008/09/05(金) 04:23:51 ID:Mpe1ptAk
久し振りにさるさん食らってしまったorz
見かけたら代理投稿お願いしまっす

631ゼロと奇妙な隠者:2008/09/05(金) 04:24:47 ID:Mpe1ptAk
 唐突にコルベールが言葉を途切れさせた。
 これから先、言わなければならない言葉を発するのは躊躇われた。
 だが言わなければならない。
 二人に言わず、何も知らない振りをしてやり過ごせばいいのかもしれない。そうするのが一番ベストだとは判っている。だが、それでも。
 見つけてしまった真実を告げなければ、この二人に与えられた選択肢を一人で握り潰すことになってしまう。
 知らず乾いていた喉を濡らすべく唾を飲み込むと、改めて二人を見つめた。
「……だが、幾つか重大な問題がある。ミス・ヴァリエール――使い魔の原則は知っているだろう?」
 不意に告げられた言葉の意味を理解してしまったルイズは、言うべき言葉を見失った。
 呆然と立つルイズに悲しげな目を向けながらも、教師は意を決して真実を続けた。
「一人のメイジが召喚できる使い魔は一体だけ。その契約が破棄されるのは、メイジか使い魔のどちらかが死に至った時のみ。これに一切の例外はない」
「ちょ、ちょっと待ってくれッ! それじゃあッ……」
 ジョセフも、コルベールが何を言わんとしているか理解できた。
 コルベールは何かを言おうとしたジョセフへ手を翳して制止すると、静かに言葉を紡ぐ。
「もしミスタ・ジョースターが元の世界に帰れば、ミス・ヴァリエールはミスタ・ジョースターが死ぬまで新たな使い魔を召喚することが出来ない。いや、もしかしたら召喚のゲートが開くかもしれない。
 しかしその場合でも、ゲートが開かれるのはミスタ・ジョースターの前だろう。
 そして、私が君達に言わなければならない事がもう一つ、ある」
 突如残酷な選択肢を突き付けられた二人にとどめを差すような心持ちで、コルベールは静かに言葉を発した。
「私が先程計算したところ……次の日蝕は五日後の正午。その次の日蝕は……十年後、なんだ」


 To Be Contined →

632隠者の中の人 ◆4Yhl5ydrxE:2008/09/05(金) 04:31:53 ID:Mpe1ptAk
以上投下したッ!
さてここに至って、中の人はこの話で分岐点が発生することに気付いてしまった……
具体的に言うと当初考えていた結末とは別の結末が二つほど。
考えてしまった以上はせっかくだから全部やってしまいたい……ということで、これから分岐シナリオに進むことにしました。
次回投下分からは一つ目の結末に向けた分岐の話をやっていく所存。
その後で二つ目の結末をやった後、本筋に向かっていこうかなと!
分岐したそれぞれの話のタイトルも既に決まっている、と宣言しておこうッ!

次回、『ゼロと奇妙な隠者・帰還の挨拶』 To Be Contined →

633隠者の中の人 ◆4Yhl5ydrxE:2008/09/05(金) 05:35:56 ID:Mpe1ptAk
自己解決したとです。お騒がせしましたorz

634ねことダメなまほうつかい:2008/09/13(土) 19:57:26 ID:ZR9uIH7Q
初おサルさんされました。
あとたった一レスなのにクソックソッ!俺を舐めてんのか!ムカつくぜぇー!!

635ねことダメなまほうつかい:2008/09/13(土) 19:58:21 ID:ZR9uIH7Q
書き忘れてた。どなたか代理お願いします。



「やれやれ、五千年ぶりってところか」
「フォルサテ……ワムウとティファニアのDISCを返してもらおうか」
「なぁクロムウェル、やつらが言っている意味がわかるかい?」
 
 男たちがなにを言っているのか理解できないので、ジュリオはクロムウェルに聞きました。
 ですが、クロムウェルはブツブツと素数を数えているだけでなにも答えようとしません。
 この男たちが現れたのは、クロムウェルにとって最悪の事態になりました。
 レコン・キスタ総司令官、オリヴァー・クロムウェルの本当の名前はフォルサテといいます。
 このフォルサテという名前はとても有名です。
 ロマリアを建国した始祖の墓を守る弟子の名前なので有名なのは当然です。
 始祖の伝説の中ではフォルサテは弟子ということになっていますが、真実は違います。
 フォルサテは始祖の兄であり、そして、実の弟である始祖を殺した男でもあります。
 始祖を殺した後、フォルサテはエルフをだまして彼らの大切な宝物を盗んでなにかをしようとしました。
 それを止めたのが目の前の男たちなのです。
 その後、男たちの追跡から五千年も逃げて、今度こそ目的を果たそうとレコン・キスタを立ち上げたのです。
 ですが、もう少しで目的が叶おうというのに、男たちはフォルサテの前に現れました。
  
「バカな……わたしは運命に選ばれたんだッ!それを……貴様らごとき俗人がッ!!」
「……もういいか?そろそろ死んでもらいたいのだが」

 ふたりの男たちがゆっくりと近づいてきます。
 運命に選ばれ、夢を叶えようとした男は、いま、運命に見放されたのでした。

636ねことダメなまほうつかい:2008/09/13(土) 20:01:22 ID:ZR9uIH7Q
投下終了です。支援ありがとうございました。
次回予告

・そらとぶねこ
・ギーシュ折れる
・タバサがなんだか死にたくなったようです。
・以外!それは武器屋のオヤジ!!

以上でお送りします。お楽しみに!

637ねことダメなまほうつかい:2008/09/13(土) 20:05:24 ID:ZR9uIH7Q
申し訳ないですが、自分で投下できました。
お騒がせしました。

638ゼロいぬっ!:2008/09/20(土) 18:37:18 ID:hFcPvowI

銃声も、怒号も、靴音も、悲鳴も、
その咆哮は戦場に響き渡る全ての音を打ち消した。
アニエスもギーシュもキュルケも空を見上げる。
そこにいるのは竜に似た、しかし明らかに違う異質な存在。

「た……祟りだ! あの怪物を殺したから祟られたんだ!」

それを目にした誰かがそう叫んだ。
突然の竜の変貌。バオーの存在を知らない彼等には理由など見当たらない。
誰が口にしたのかすら判らない発言が水辺の波紋のように広がっていく。
倒すべき敵を前にして彼等の動きが止まった。
もしかしたら自分達も祟られてしまうかもしれない。
そんな考えが脳裏を過ぎり、彼等の身体を束縛する。

「ウオォォォォォオム!!」

雄叫びを上げながら“バオー”は舞う。
呆然とする竜騎士たちを余所に艦隊へと向かう。
分泌液から与えられた筋力が突風じみた速度を生み出す。
“バオー”は触覚で『ある臭い』を嗅ぎ当てていた。
人の生命を弄ぶ救いがたい下衆の臭い。
ウェールズと共に見上げたアルビオンの夜空で嗅いだ臭い。
その臭いが大嫌いだった。彼から掛け替えのない相棒を奪った、その臭いが。
“バオー”は思った! この臭いをこの世から消してやると!


振り落とされそうなほどに凄まじい加速の中、
ワルドはバオーが何処へと向かうのかを理解した。
奴が向かっているのは『レキシントン』ではない!
クロムウェルがいる艦へと一直線に進んでいる!

総大将が討たれれば、この戦争は終わる。
だが、そうはさせない……させてなるものか。
クロムウェルは“虚無”の手がかりを持っている。
それを知るまでは死なせるわけにはいかない。

「虫けら風情が! 僕の野望を邪魔するんじゃないッ!」

杖を突き立てるように“バオー”の首筋へと打ち込もうとした。
だが突き刺す直前、“バオー”の背中が音を立てて変形する。
隆起するのは青く染まった帷子のような鱗。
それが逃げ場の無いワルドの目の前で爆散した。

「う……ウオォォォォォーー!」

放たれた鱗が次々とワルドの身体を撃ち抜いていく。
機銃弾さながらの衝撃に困惑と悲鳴が入り混じった声が上がる。
それでも血に染まった視界でワルドは睨む。
憎悪を滲ませ、執拗に“バオー”への殺意を滾らせる。
だが杖を振り上げようとした瞬間、彼の身体は炎に包まれた。
ただの鱗ではない、それは“バオー・シューティング・ビースス・スティンガー・フェノメノン”
幾万の針に神経を貫かれるかのような苦痛。
全身を焼かれていく苦しみに悶えながらワルドは背から引き剥がされた。

639ゼロいぬっ!:2008/09/20(土) 18:38:35 ID:hFcPvowI

遠ざかっていく奇形の蒼い竜。
しかし、それもすぐに視界から消えた。
吸い込まれるような空の青だけが広がる。

不意にワルドは手を伸ばした。
世界を掴もうとした手が虚しく宙を漂う。
誰かに助けを求めるように突き出された腕。
しかし彼を助けようと手を差し伸べる者は誰もいない。

…………いや、一人だけいた。
彼女だけは僕を助けようとしてくれた。
たとえ、それが思い違いであったとしても、
『助けたい』という彼女の気持ちに偽りはなかった。
だが、アルビオンの空で差し伸べられた手を僕は拒絶した。

「報い、か」

呟いた一言は誰にも聞こえず、彼の身体と共に空へと消えていった。



絶え間なく響く艦の軋む音にクロムウェルは怯えるしかなかった。
艦隊からの砲撃を浴びても尚、怪物は止まらなかった。
瞬く間に自分の艦に取り付くと爪と牙で壊し始めたのだ。
まるで雪解けのように削り取られていく艦体。
竜騎士たちの応戦も実を結ばない。
静かに降下していく艦の中で沈痛な空気だけが流れる。

「皇帝陛下、早く脱出を!」
「馬鹿を言うな! 外には奴がいるのだぞ!」

兵士の声をクロムウェルの怒号が掻き消す。
無論、脱出艇の用意ぐらいはある。
しかし、艦から出た先には怪物が待っている。
小船などそれこそ容易く握り潰されてしまうだろう。

「艦隊は!? ジョンストン総司令は何をしておる!?」
「はっ! 今、艦隊の一部をこちらの救助に向かわせております」
「全部だ! 全ての艦を動かすように伝えよ!」

たった数隻では怪物に沈められないとも限らない。
既に御自慢だった艦隊への信用は失墜していた。
地上への砲撃でもさしたる被害を与えられず、
“光の杖”にはまるで歯が立たず、今も怪物を食い止める事さえ出来ない。
あれだけの数と質を揃えておきながら何の役にも立ってない。
もはやクロムウェルが頼れるのは手に嵌めた指輪の力だけだった。

640ゼロいぬっ!:2008/09/20(土) 18:39:48 ID:hFcPvowI

「バルバルバルッ!!」

雄叫びを上げて“バオー”が艦を引き裂いていく。
“メルティッディン・パルム・フェノメノン”の前では強度など何の意味も成さない。
彼は嫌な臭いのする方へとひたすらに爪を走らせる。
ただ臭いを消すだけならば“ブレイク・ダーク・サンダー”を打ち込めばいい。
この至近距離ならば確実に艦体を吹き飛ばせるだろう。
だが“バオー”はそれを望まない。何故なら“彼”がそれを望まないからだ。
無用な犠牲を避けて戦い続けた“彼”の意思を裏切りたくはない。
消すのは“この臭い”だけだ。もうそれで十分だ。
あまりにも……生命の臭いが失われすぎた。

“バオー”の覚悟を示すように、その身体は正しく満身創痍だった。
至近距離で撃ち込まれた散弾の銃創に、魔法や息吹で負った火傷。
分泌液の修復無しではまともに飛ぶ事さえ叶わなかっただろう。
残された力を振り絞り“バオー”は戦いの決着を付けようとしていた。


とん、と小さな靴音を鳴らしてタバサは地上に降りた。
彼女の乗っていたシルフィードの周りにはギーシュやキュルケたちが集まっている。
何があったのかを彼女に問い質せる者はいなかった。
いつも感情を露にしない少女が浮かべるのは明らかな悲哀の色。
そして、続けて降りてきたルイズの姿を見て誰もが理解した。

視線を落として俯く彼女が抱えるのは小さな犬の哀れな姿。
頭蓋を穿たれて赤黒く染まった毛並み。
傷の深さも場所も素人目に見ても助かるものではない。

彼はまだ死んではいなかった。だが、それだけだった。
体内に残ったバオーの分泌液が僅かに彼の命を繋ぎ止めていた。
だけど、それもあと僅か。いつ息絶えたとしてもおかしくはない。
風が吹けば消えてしまうのではないかという生命の炎。

何かを言おうとしてルイズは言葉を詰まらせた。
代わりに溢れてきたのは止め処ない涙。
このまま泣き続けていても仕方ないと分かっている。
なのに立ち尽くして泣く事しか今の彼女には出来なかった。

その彼女の腕でもぞもぞと何かが動く。
何かなどと考えるまでもない、彼女の腕にいるのはただ一匹。
ルイズに抱きとめられたまま懸命に彼は前足を動かしていた。
遠のいていく意識の中で震える足で歩みだそうとする。

「だ……ダメよ! 動いたりなんかしたら……!」

そこまで口にして彼女はそれに気付いた。
ワルドに立ち向かっていた時と同じ、闘志に満ちた瞳。
彼は動こうとしているんじゃない。
こんな姿になりながら、まだ戦おうとしているのだ。

641ゼロいぬっ!:2008/09/20(土) 18:40:36 ID:hFcPvowI

なんで、と言おうとして必死に飲み込んだ。
そんな事は訊かなくても分かっている。
いつも彼は私の為に戦ってくれた。

あの時と同じだ。フーケのゴーレムに襲われた、あの森と。
泣いていた私の代わりにアイツは立ち向かっていった。
あの頃からずっと変わらずに守り続けてくれた。
でも、もう戦わなくていい。

「タバサ。少しお願いするわ」

喉を震わせながらルイズは彼を託す。
空いた腕で、ぐしっと袖で涙を拭い取る。
ギーシュのブラウスを汚してしまったけど気にしない。
泣くのはもう終わりにしなきゃいけない。
いつまでも泣いていたらアイツは心配する。

「待ってて。すぐに終わらせてくるから」

彼に優しく微笑んでルイズは背を向けた。
もうすぐ彼はいなくなる、そして二度と会うことはない。
最後に憶えているのが私のくしゃくしゃな泣き顔だなんて、そんなの絶対に許さない。
助からないと分かっている。だからせめて最期に安心させてあげたい。
見せてあげなきゃいけないんだ、私が一人でも大丈夫だって。

自慢のご主人様だと、彼が胸を張って言えるように。

「私はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール!」

自分の名を誇るように告げて歩む。
頭上には間近にまで迫ってきた無数の艦影。
実感する、私はようやく歩き始めたのだ。
メイジとして、一人の人間として、自らの足と意思で。

「私は背を向けたりしない!」

高々と杖を掲げる。それは宣誓であると同時に詠唱の姿勢。
『始祖の祈祷書』を広げ、そこに書かれたルーンと言葉を注視する。
偉大なる始祖ブリミルよ、きっとこれは貴方が望んだ使い方ではないでしょう。
だけど私は“この力”を使います。自分が正しいと思える事に使います。
彼がそうしたように、そして私もそうありたいから。

「私は自分の運命に背を向けたりはしない!」

642ゼロいぬっ!:2008/09/20(土) 18:42:42 ID:hFcPvowI
以上、投下したッ!

643ゼロいぬっ!:2008/09/20(土) 18:44:17 ID:hFcPvowI
どなたか代理投下をお願いします。
cookieがどうのとかで本スレに書き込めません。
よろしくお願いします。

644名無しさん:2008/09/20(土) 20:28:54 ID:k.27R5oc
代理して参りましたー
専用ブラウザを更新することで、クッキーがどうのとかいう問題は
解消が図れるようです
そちらの方をお試しくださいませ

645ゼロいぬっ!:2008/09/20(土) 21:07:56 ID:hFcPvowI
ありがとうございます。
クッキーの方も解決しました。

646ゼロの兄貴:2008/09/28(日) 21:34:02 ID:WUmwiyoA
メーデーメーデー代理を願う、繰り返す、代理を願う。オーバー

「さて……と」
メイジをフーケに任せ、言いながらジジに近付き猿轡を外した。
後はこいつを連れ帰って任務完了といきたいのだが、どうもそうはいかないらしい。
「こ、来ないで……」
ジジが震えながらそう言ったが、その場に妙な沈黙が流れる。
特に気にしないでいたが、後ずさりしてつまづいたのかジジがしりもちをついた。

「おい、お前なんのマネだ」
上から見下ろすようにそう言ったがやはり脅えているかのように震えている。
「はい、そこの物騒なお兄さんこっち来なさい」
その様子を見て、見かねたフーケがプロシュートを呼び、どうしてこうなっているのかを説明する。
たぶんというか、こいつ絶対分かってないから。

「いいかい?あんた、さっきまで人質にとられてた娘に『死んでもいいだろ』とか言った挙句、メイジ相手に銃突きつけてたんだ」
「それがどうした」
ここまで言ってまだ気付かないか……。
悪い意味での天然というやつを見た気がする。
「……ほっんとこういう事は鈍いねー。逆に清々しいよ」
「手短に言え。ただでさえ負け犬ども相手にしてイラついてんだ」
「あー、じゃあハッキリ言うけど……間違いなくあんたも人攫いの類に見られてるね」
「……マジか?」
その問いに無言でフーケが頷く。
タバサを見るが、同じように一回縦に首を振られた。
恐らくここに居ないシルフィードでも、見ていれば同じ反応だろう。
「何も知らない村娘にはそりゃあショックが大きかったろうさ。
  助けが来たと思ったら実は別の人攫いだったなんて。ああ、もう鈍いを通り越して一種の犯罪だよこいつは」
オーバーリアクションを取りながらフーケがそう言ったが、プロシュートはいきなりキレた。
「うるせぇぇぇぇぇ!弁護士を呼べぇぇぇぇぇぇ!!」
あの連中からして、人質を殺してメイジ二人と戦り合うようなやつらではないと踏んだまでで、これでも最大限に気を使った結果だ。
犯罪者には違いないが、あの程度で人攫いと同じにされては笑い話にもならない。
老化に巻き込んでないだけ感謝しろと言いたいぐらいだ。

――誰が人攫いだS.H.I.Tッ!

心の中で思いっきりそう毒付く。
そこで震えてるのが人攫いも狙うような可愛気のある少女だからまだそれだけで済んでいるが
これが男だったら問答無用で殴り飛ばした挙句、蹴りを入れながらの説教コースである。
もちろん老若男女一切合財区別する気なぞ無いのだが、その意味ではジジは運が良かった方だろう。

647ゼロの兄貴:2008/09/28(日) 21:38:02 ID:WUmwiyoA
サンダーヘッドよりメビウスⅠへ、住人の厚い支援により代理は不要、繰り返す、支援により代理は不要。オーバー

648ゼロと奇妙な隠者:2008/10/27(月) 12:40:07 ID:mRC/mIpA
 怒涛のように押しかけてくる野次馬達を丁重にあしらい、無遠慮にゼロ戦を触ろうとする不貞な連中にはトライアングルの三人と使い魔が睨みを効かせていた。
 今日も今日とて注目を一手に集めるジョセフを羨ましげに見ていたギーシュは、自分を慰めるように鼻先を摺り寄せてくるヴェルダンデにしかと抱き付いていた。
「ああヴェルダンデ、僕の愛くるしいヴェルダンデ、傷心の僕を癒してくれるのは君だけだ」
 もぐもぐ、と喉を鳴らして目を細めるヴェルダンデは、しょうがないなあと言いたげなつぶらな瞳で主人を見つめていたのだった。

 ちょうどその頃、トリステイン王城のルイズは客間のベッドで頭から毛布を被っていた。
 眠っている訳ではない。目ならとっくに覚めている。
 しかし、ベッドから起き上がる気分にはなれなかったのだ。
 使い魔とも別れて一人、今の自分が唯一頼れる友人であるアンリエッタの所へ転がり込んだはいいものの、今になってその行動が間違いだったことに気付いてしまった。
 スタンド使いで様々な悪知恵が働くジョセフがいなければ、自分はただのゼロのルイズでしかない。何も出来ない、魔法も使えないゼロのルイズ。
 しかも使い魔が帰還するのを素直に喜んでやれる訳でもなく、さよならも言わずに帰れと置手紙を残しただけ。使い魔を手放す辛さに耐えかねたとは言え、そんな無責任な別れは許されるはずが無い。
 自分の都合で呼び出した使い魔を帰すのに、呼び出した張本人はこうして迎えの来ないベッドの上で毛布を被って時が過ぎるのをただ待っているだけだなんて、果たして貴族の振る舞いとして恥ずかしくないのか。答えは既に出ている。
 サイドテーブルに置いている帽子に視線が行き、そしてまたすぐ離された。
(……私、バカだわ。こんなことしてたってしょうがないじゃない……)
 頭では判っている。ジョセフが帰るその時まで側にいて、謝るところは謝って、最後にさようならと直接言って、きちんと別れを告げるべきなのだと。

649ゼロと奇妙な隠者:2008/10/27(月) 12:40:44 ID:mRC/mIpA
 まだ日蝕まで二日ある。今から馬を飛ばして帰れば、十分に間に合う。学院に帰って、何もなかったような顔しててもジョセフはちょっとだけ苦笑して、あの大きな手で頭を撫でてくれるだろう。
 正直になって、別れたくない帰したくないって駄々をこねられるだけこねて、思い切り泣いて叫んで――自分の中に溜まっているわだかまりを全部吐き出してぶつければいい。
 本当はそうしなければならないのだ。
 そんな事をしても、ジョセフの意思が変わらないのは判り切っている。
 ただ、伝えなければならない。

 ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールにとって、ジョセフ・ジョースターがとても大切な存在だって言う事を。

 人の言う事を先読みできる有り得ない洞察力と推理力を持つジョセフだって、あんな走り書きの文章一つで自分の中で渦巻いている色んな気持ちを察することなんて出来はしない。……いや、ハーミットパープルを使えば出来るかもしれないが、多分そんなことはしない。
 だからちゃんと自分の口で、自分の気持ちを伝えなければならないのに。
 今から部屋を飛び出して、馬に乗って帰るだけでいいのに。
 しかし、ルイズはベッドから起き上がる事が出来なかった。
 由緒正しいトリステイン名門のヴァリエール公爵家の三女たる者が、よりにもよって使い魔から逃げ出して毛布を被っているだけだなんて。どんな顔をして帰ればいいのか、果たしてジョセフが本当に自分の思うような行動を取ってくれるのか。もし取ってくれなかったらどうしよう――。
 そんな思いばかりが渦巻いて、立ち上がることが出来なかった。
 誰にも頼ることが出来ず、誰にも悩みを打ち明けられず、一人きりになった今、16歳の少女に似つかわしい臆病さが前面に押し出されていた。
 頭では取るべき行動が判っていても、心が動き出す決意を立てられない。
 結局ルイズは、毛布で全身を包みきゅっと目を閉じて、眠気が来るのをひたすら待ってしまった。

650ゼロと奇妙な隠者:2008/10/27(月) 12:41:18 ID:mRC/mIpA
 日蝕の前日。
 ゲルマニア皇帝アルブレヒト三世と、トリステイン王女アンリエッタの結婚式を三日後に控えたその日の朝。
 トリステイン王宮は、式が行われるアルビオン首府のヴィンドボナへのアンリエッタの出発の準備を控え、上から下まで慌しく駆け巡っていた。
 トリスタニアからヴィンドボナまでは、馬車で行けば半日弱しか掛からない。
 しかし政略結婚と言えども、一国の皇帝と王女の婚礼の儀は建前上目出度い代物であり、祭儀として華々しく、且つ恭しく執り行われるべき代物である。
 トリステイン首都のトリスタニアからヴィンドボナまでの旅路そのものが盛大なセレモニーであり、足早に急ぐような野暮な真似が出来るわけも無い。
 半日弱の旅路をたっぷり時間をかけ、式前日の夕方にやっと到着することになっていた。
 千の御伴を連れて立ち並ぶ行列の主賓たるアンリエッタ自身は、まるで病に冒されたような白い面持ちのまま、今朝本縫いが終わったばかりのウェディングドレスに身を包んでいた。
 上質の絹で織られた美しいドレスを着ているというのに、ドレスの色を黒く染めれば葬儀の場に立っていてもなんら違和感を感じさせない佇まいであった。
 出発の時間まで四半刻となった頃、王宮に突然の報がもたらされた。
 国賓歓迎の為、ラ・ロシェール上空に停泊していた艦隊全滅の知らせ。
 それと時を同じくし、神聖アルビオン共和国からの宣戦布告文が急使に拠り届けられた。
 ラ・ロシェールに配備されていたトリステイン艦隊が突如不可侵条約を無視して親善艦隊に理由なく攻撃を開始し、一隻の戦艦が撃沈された為、アルビオン共和国政府は『自衛の為』『やむなく』トリステイン王国政府に対して宣戦を布告する旨が綴られていた。
 トリステイン王宮はこの知らせに騒然となり、急遽将軍や大臣達を招集した。
 しかし名誉ある貴族が雁首揃えてやることと言えば、豪奢な大会議室でただ言葉を踊らせるばかり。
 やれこれは互いの誤解から発生した不幸な行き違いだ、アルビオン政府に対し真摯な対応をすべきだ。いや今すぐゲルマニアに急使を飛ばし、同盟に従い軍を差し向けるべきだ。
 誰も椅子から腰を上げようともせず、下の者を動かそうともせず、ただひたすらに終着点が考えられていない互いの意見ばかりが飛び交い、なんら実のある結果に繋がる気配は見えなかった。

651ゼロと奇妙な隠者:2008/10/27(月) 12:42:27 ID:mRC/mIpA
 会議室の上座には、ウェディングドレスを纏ったアンリエッタが座っていた。きらめくような白絹に身を包んだ姿は衆目を引き付ける美しさを醸し出しているが、居並ぶ貴族達は誰一人としてその清楚な美しさに目を留めようとしない。まして意見を求めようともしない。
 国を揺るがす一大事の中でも、うら若き王女はただ座っているだけ。
 ただ顔を俯かせ、膝の上に置いて握り締めた手をじっと見つめているだけだった。
「――これは偶然の事故――」
「――今なら話し合えば誤解が解けるかも――」
「――この双方の誤解が生んだ遺憾なる交戦が全面戦争へと発展しないうちに――」
 会議室での言葉は何一つアンリエッタに届かず、ただ頭の上を通り抜けていくだけ。
 誰も王女に言葉を届けようともしないし、届ける意味を見出してもいなかった。
「急報です! アルビオン艦隊は降下して占領行動に移りました!」
 伝書フクロウがもたらした書簡を手にした伝令が、息せき切って会議室に飛び込んできた。
「場所は何処だ!」
「ラ・ロシェールの近郊! タルブの草原のようです!」
 伝令の言葉に、会議室はより重い空気を漂わせる。
 自分達が考えている以上に、事態は重大であることに気付き始めざるを得なくなっていた。
 昼を過ぎ、王宮の会議室には次々と報告が飛び込んでくる。
 それらはどれも例外なく、頭を抱え耳を塞ぎたくなるような悪い知らせばかりであった。
 タルブの領主が討ち死にし、偵察の竜騎士隊は一騎たりとも帰還せず、アルビオンからの返答もない。
 敵意を持って杖を向けている敵に対し、未だに自分達がどうするのかも決めあぐねて会議室から出ようともしない貴族達。
 それをただ黙って見ているアンリエッタの心の中では、これまで懸命に押し殺してきた感情がゆっくりと、しかし着実に膨れ上がっていたのだった。
(……これが。伝統あるトリステイン王室)
 前王は子に恵まれなかった。生まれた子供はマリアンヌとの間に生まれた娘、アンリエッタ一人。側室も設けなかった為、トリステインの王位継承権を持つ者は大后マリアンヌと王女アンリエッタの二人だけ。

652ゼロと奇妙な隠者:2008/10/27(月) 12:43:13 ID:mRC/mIpA
 王が崩御した後、マリアンヌは王位継承権を放棄し、第一王位継承権を持つようになったアンリエッタは当時7歳。まだドットメイジですらない少女を王座に座らせる訳にも行かず、それから十年間トリステインの玉座は主を失ったまま現在に至っている。
 しかし17歳となり、水のトライアングルメイジとなった彼女は、ハルケギニア統一の野望を持つアルビオンに対抗する同盟を結ぶ為の貢物として、四十過ぎの男との政略結婚を組まれていた。そこに彼女の意思は介在していない。アンリエッタの恋心を斟酌されるはずもない。
 トリステイン王宮に仕えている貴族達は、王家に傅く素振りをしているだけ。国家存亡の危機に瀕している今、王女に意見を求めることも無く、ただ自分達だけで言葉を踊らせている。
 自分に求められている役割は国を統治する王女ではなく、王宮を飾る美しい花。
 花瓶に生けられた花に、王の言葉を求める者は居ない。
(そうね。私はずっと彼らから取り上げられてきたのだわ。トリステインという国を。王女としての誇りを)
 今にも滅亡しようとするアルビオンで孤軍奮闘するウェールズから、昔送った恋文を返して貰う。そんな困難な任務を頼める相手が、幼い頃の遊び相手しかいなかった。
 数少ない友人であるルイズにすら、最初は悲劇の主人公ぶった言葉でしか頼むことが出来なかった。王女としての立ち居振る舞いすら忘れていたのだ。
 それを思い出させてくれたのは、皮肉にも平民であり、使い魔である老人、ジョセフ・ジョースターの言葉。
『王族の誇りを捨て、自らに仕える貴族にへつらった! そんな腐れた魂の何が王女か、何がルイズの友達かッ!』
 あの夜、自分は王族としての誇りを取り戻したはずではなかったのか。
 愛するウェールズは最後の時までアルビオン王家に連なる者として、誇り高く死のうとした。それを無理矢理トリステインに連れて帰らせたのは自分だ。
 アンリエッタ・ド・トリステインは、こんな無様な姿を見せる為に愛する人の意思を捻じ曲げたのか?
 今の自分は胸を張って、自分の愛する人達の前に顔を出せるだろうか?

653ゼロと奇妙な隠者:2008/10/27(月) 12:44:08 ID:mRC/mIpA
(……出せないわ。出せるはずが無い)
 今の自分は、王女である資格がない。恋人である資格がない。友人である資格がない。
(――どうせ、このまま生き長らえても意にそぐわぬ婚姻をするだけ)
 弾む鼓動を抑えるように、ゆっくりと、けれど大きく、息を吸う。
(これから数十年ずっと悔いて生きるのと、今日、死ぬことと。どれだけの違いがあるのかしら)
 肺腑に行き渡らせた息を、静かに吐き出していく。
(せめて、トリステインの王女として誇れるように生きてみよう)
 俯いていた顔をゆっくりと上げる。意味のない言葉が舞う貴族達を一瞥し、悠然と立ち上がる王女に、貴族達の目が向けられた。
「――トリステインの貴族は誰も彼も臆病者のようですわね」
 アンリエッタの唇が紡いだ言葉は、意図せず氷柱のような冷たさと鋭さを纏っていた。
「姫殿下?」
「今正に国土を侵されていると言うのに、下らぬ言葉遊びに興じる様の見物はもう飽きました。それで? 貴方がたは一体どうするというのですか。そのお腰の杖は飾りなのですか? 貴方がたが今唱えなければならないのはつまらぬ御託ではなく、敵を討つ為の呪文のはずです」
 呼吸も乱れず言葉に震えもない。言うべき言葉が勝手に流れているような錯覚さえ、アンリエッタは抱いていた。
「しかし、姫殿下……誤解から発生した小競り合いですぞ」
「誤解? 何をどうもって誤解と言うのですか? トリステイン王国の艦隊は祝砲に実弾を込める愚か者が揃っております、とお認めになるつもり? そんな馬鹿な話があってたまりますか。どれだけ下らない道化芝居とて、こんな無様な筋書きは存在しません」
「いや、我々は不可侵条約を結んでおったのです。事故以外に有り得ません」
「事故以外の可能性を貴方が認めたくないだけでしょう。今我々が直面している現実は、アルビオンがトリステインの国土を侵している。条約は紙より容易く破られたのです。どうせ守るつもりなどなかったのでしょう、あの卑怯者達の集まりは」

654ゼロと奇妙な隠者:2008/10/27(月) 12:45:03 ID:mRC/mIpA
「しかし……」
 なおも言い募ろうとする一人の将軍に一瞥をくれる。
 ただのお飾りであるはずの王女は、臣下の勝手な発言を視線一つで遮った。
「貴方がたは御存知? アルビオンを簒奪したレコン・キスタは我がトリステイン王国のグリフォン隊隊長を裏切らせ、名誉ある戦いに赴こうとしたウェールズ皇太子を暗殺しようとしたのです」
 突如発せられた言葉に、会議室がどよめく。
 王宮近衛である魔法衛士隊隊長の裏切りは、緘口令が引かれていた。この緊急時に会議室に召集された貴族の中でも、その事実を知らない者は少なくなかった。
「アルビオン王家は滅亡寸前であったのに、彼らは最期の名誉ある死すら皇太子から奪おうとしたのです。いみじくもトリステインがレコン・キスタに加担したも等しい忌まわしい出来事を知ってなお、まだ愚にも付かぬ議論を続けるつもりですか」
 静かに紡がれる王女の言葉に、貴族達は口を噤む。つい先程まで貴族達の声が溢れていた会議室には、王女の声だけが響いていた。
「この様な繰言を並べている間も、国が踏み荒らされ、民の血が流れているのです。王族や貴族は、この様な時こそ杖を掲げ戦いに出向く存在だったのではありませぬか? そんな最低限の義務すら果たせないのなら、杖など折ってしまいなさい!」
 声を張り上げてテーブルを叩くアンリエッタ。
 誰も言葉を発さず、杖に手を掛ける者もいない。
「黙って聞いていれば、如何に逃げ口上を美しく整えるかという事ばかり。確かにトリステインは小国、頭上から見下ろすアルビオンに反撃したところで討ち死には必至。敗戦後、責任を取らされるのは真っ平御免と言う所でしょうか。
 それならば侵略者に尻尾を振って腹でも見せていれば命が永らえる。そうそう、私の聞き及んだ話ですと王党派は降伏してもギロチンなる処刑道具で首を刎ねられたそうですわ」
「姫殿下、言葉が過ぎますぞ」
 マザリーニがたしなめる。しかしアンリエッタは一瞬だけ視線を彼に向けただけだった。

655ゼロと奇妙な隠者:2008/10/27(月) 12:46:21 ID:mRC/mIpA
「わたくしは誇り高きトリステイン王国が王女、アンリエッタです。わたくしは王族としての義務を果たしに行きます。卑怯者どもの犬として首を刎ねられたいのならば、自由になさい」
 アンリエッタは貴族達にそれ以上構うこともなく、ドレスの裾を捲り上げて会議室を飛び出していく。
「お待ち下さい! お輿入れ前の大事なお体ですぞ!」
 マザリーニのみならず何人もの貴族がそれを押し留めようとするが、彼女は躊躇いなく彼らを一喝した。
「軽々しく王女に触れようとするとは何事ですか、立場を弁えなさい!」
 アンリエッタに伸ばされようとしていた手が、威厳ある言葉によって動きを失った。そして行き場を無くした手達が彷徨う中、捲り上げた裾を強引に引き千切ると、破き取った裾をマザリーニの顔目掛けて投げ付けた。
「もううんざりだわ、私の意思は私のもの! 貴方がたに左右される云われはないわ!」
 見るも無残に敗れた裾を翻し、足音も高く廊下を進んでいく。
 会議室を守っていた魔法衛士達は、王女殿下の後ろを自然と付き従っていった。
 宮廷の中庭に現れたアンリエッタは、涼やかな声で高らかに叫んだ。
「わたしの馬車を! 近衛! 参りなさい!」
 中庭にいた衛士達がアンリエッタの元に集まり、ユニコーンの繋がれた馬車が衛士の手によって引かれて来る。
 アンリエッタは馬車からユニコーンを一頭外し、傲慢なほど堂々と背に跨った。
「これより全軍の指揮をわたくしが執ります! 各連隊をここへ!」
 前王が崩御してから十年余の時間を経、トリステイン王宮に王の声が響き渡る。
 魔法衛士隊の面々は一斉に王女に敬礼し、アンリエッタはユニコーンの腹を蹴りつける。
 甲高いいななきを上げて前足を高く掲げる中でも、彼女は悠然とした態度を崩さなかった。
 アンリエッタの頭に載ったティアラが日の光を受け、黄金色に輝いたのを臣下に見せた後、ユニコーンは誇らしげに走り出す。
 それに続き、幻獣に搭乗した衛士達がそれぞれ叫びを上げて続く。

656ゼロと奇妙な隠者:2008/10/27(月) 12:47:39 ID:mRC/mIpA
「戦だ! 姫殿下に続け!」
「続け! 後れを取っては家名の恥だ!」
 雪崩を打つように貴族達は各々の乗機に跨り、アンリエッタの後を追いかけていく。
 王女出陣の知らせは城下に構える連隊へ届き、後れを取ってはならぬと次々とタルブへ向かって進んでいく。
 投げ付けられた裾を手にしたまま、その様子を見ていたマザリーニは呆然と天を見上げた。
 アンリエッタが貴族達に放った言葉は、自分も考えていたことだった。
 伝え聞く情報は、レコン・キスタとは誇りや名誉という単語から程遠い場所に存在する連中だという事は知っていた。
 だが現実問題として、今のトリステインでは彼らに太刀打ちできないことを一番知っているのは、国の政務を一手に引き受けてきたマザリーニである。
 今ここで戦いに出たところで、無駄に被害を広げる結果にしかならないと考えている。今更命が惜しい訳ではない。現実的に考えれば考えるほど、国の為、民の為には事を荒立ててはいけなかった。小を切り捨て、大を生かす為にはそうせざるを得なかった。
 だが、今この時、条約は破られ、戦争が始まっているのだ。外交のプロセスは既に終わっている。今は互いの国力をぶつけ合う実力行使の時間になっている。それを認めたくない、という気持ちがなかったとは言えなかった。
 一人の高級貴族が、アルビオンに派遣する特使の件で耳打ちをする。
 マザリーニは頭に被っていた球帽をそいつの顔面に思い切り投げ付けようとして、気が変わる。球帽を掴んだ拳ごと彼の鼻っ面に叩き込んだ。
 そしてアンリエッタが投げ付けた裾を頭に巻き付け、叫んだ。
「各々方! 馬へ! 遅れてはならぬ、栄えある姫殿下の元に集え!」


 To Be Contined →

657隠者の中の人:2008/10/27(月) 12:51:41 ID:mRC/mIpA
以上投下したッ!
投下の真ん中辺りでさるさん食らったのでかなり大量に代理投下をお願いするハメになっちまったぜorz
さて今度こそ本当に次回でタルブ戦に突入するぜー。
みんなお待ちかねのあのシーンもきちんと用意しているからなッ! このいやしんぼめッ!

658ゼロのスネイク 改訂版:2008/11/05(水) 21:52:37 ID:F0IDHUXM
「しかし……まさかここまでタフだとはな……」

一方、全身に銃創を作りながらもなお立ち続けるホワイトスネイクに、ラングラーは思わずそう呟いていた。

「ひょっとして……アイツ自身がスタンド使いだ……なんてオチじゃあねーだろーな……。
 あんだけボロボロになって……それでスタンド本体が無事だとは考えられねーからな……」

ラングラーがそう思うのも無理はなかった。
もう残弾が少ないのだ。
そんなにキツい仕事になるなんて思ってなかったから、あまり鉄クズをもってこなかったのが災いした。
補給はさっきので終わってしまったので、今腕輪に入ってる分が無くなれば打ち止めだ。
だからさっさとヤツを始末して仕事を終えたいのだが……

「ん?」

そのとき、ラングラーの目に何かが映った。
ドア枠の右、2〜3メイルのところがじわりと黒ずみ始めたのだ。
黒ずみはどんどん大きくなり、やがてぶすぶすと煙を上げ始めた。

「コゲてる……のか? さっきの火のメイジのアマが何か考えてやがるってか……なら!」

そこにJJFの腕を向け、一発鉄クズを撃ち込む。
放たれた鉄クズはコゲた壁を簡単に貫いて、ビシッと音を立てた。
どうやら向こう側の壁に着弾したらしい。
人には当たらなかったようだ。

やがて壁はメラメラと炎をあげて燃えはじめ、それからしばらくして壁は崩れ落ちた。
それによって開いた穴は縦1メイル、幅1メイルほど。
崩れた壁の先にはやはり誰もおらず、向こう側の壁が見えるだけだ。

659ゼロのスネイク 改訂版:2008/11/05(水) 21:53:09 ID:F0IDHUXM
「……何が目的だ? ただ穴を開けて、それで何をしたい?」

ラングラーが半ば呆れかけた直後、

ゴォッ!

壁の目の前に、赤く燃えさかる炎の壁が出来た。
炎の壁は高さ2メイル、幅2メイルほど。
焼け落ちてできた壁の穴をすっぽりと覆って余りあるほどだ。

「穴を開けて、壁を作って……ワケがわからんな……目的が見えない」

炎の壁をつくったのはいい。
確かにそれでこっちからは手出しができなくなる。
だがあんなに激しく燃えていては、向こう側からも何もできないだろう。
「絶対に壊れない」ホワイトスネイクのDISCなら炎の壁を突破できるかもしれないが、
バカ正直に飛んでくるDISCを食らってやるほどこっちもバカではない。
第一ホワイトスネイクはドアのところにいるのだから、その可能性は間違いなくゼロだ。

そう思った時だった。

660ゼロのスネイク 改訂版:2008/11/05(水) 21:53:48 ID:F0IDHUXM
ボン!

炎の壁の数10サント先の床が小さく爆発した。
本当に小さな爆発だ。
火薬の量で言えば、手持ち花火に詰まってる程度の量が爆発したぐらいのものだ。
しかし。

「な、何だと!?」

慌ててラングラーはそちらに腕を向けた。
さっきと同じだった。
向かいの部屋のドアをぶっ飛ばした、ワケの分からん爆発と同じだった。
前触れもなく、突然起きる謎の爆発。
さっきの爆発はホワイトスネイクが何か仕込んだものだとばかり思っていたが、
今回は何もない場所で爆発が起きた。

「爆発、だと……一体どういうことだ?
 種も仕掛けもないハズだぞ…………」

粘っこい汗がラングラーの額を伝う。

タイムリミットまであと2分。
とうとう、逆転の狼煙が上がった。


To Be Continued...

661ゼロのスネイク 改訂版:2008/11/05(水) 21:56:55 ID:F0IDHUXM
投下完了
次でとうとうラングラー戦は決着です
いやー長かった長かった
前は投下一回で終わったのに、とんでもない量に膨れ上がってしまった(前のも相当多かったけどね)

なんか最近、「ゼロ魔の最新刊が出たら本気出す」みたいな心境になってる気がする
こういうとこ変えていかないとなー

662名無しさん:2008/11/27(木) 23:16:01 ID:9qU/x0Us
 その奇妙な竜に向かっていくアルビオンの竜騎士達は、竜の翼や頭から発せられる白い光に貫かれた。ある竜は空中で爆発を起こし散華し、またある竜は減速することもなく地面へ向かって墜落していった。
 昨日の戦いを辛くも生き残った兵達は、自分の正気を疑った。
 トリステインの竜騎士達に圧勝した竜騎士隊が、たった一騎の竜に立ち向かうことも出来ず、ただ止まっている標的であるかのように撃ち抜かれて行く。
 奇妙な竜は天高く空へ向かって上昇したかと思えば、すぐさま急降下して竜騎士の背後を取る。背後を取られた竜騎士は間髪置かず白い光の洗礼を浴び、空から脱落する。
 トリステイン軍の中で、あの奇妙な竜が何であるかを知る人間は、一人しかいなかった。
 ルイズである。
 つい一週間前、タルブの村に置いてあった飛行機。
 とても空を飛ぶとは思えなかった代物が、今、現実に空を飛んでいるばかりか、天下無双と謳われるアルビオンの竜騎士隊を歯牙にもかけていない。
「……ジョセフ、ジョセフ、なの?」
 あの飛行機を操れるのは、この世界には一人しかいない。
 だがルイズの中に、この絶望的な戦況を覆せるかもしれない手段を引っ下げて来た使い魔を誇る気も、主人のピンチに駆け付けて来た忠義を喜ぶ気も、一切なかった。
「……あの、バカ犬ッ!」
 思わず漏れた声に、空を呆然と見上げていたアンリエッタが思わずルイズを見た。
「どうかしたの、ルイズ」
 アンリエッタが掛けた声で、自分の中で膨らむ感情が思わず口に出ていたのが判ったルイズは、慌てて首を横に振った。
「い、いえ、なんでもありません、王女殿下」
 そしてまた、二人の少女は空を見上げた。
 アンリエッタは、謎の竜が繰り広げる空中戦に目を見開き。ルイズは、コクピットの中にいるだろう使い魔への心配に満ちた目を眇めた。
(……ジョセフのことだもの。きっと、戦争やってるって聞いて……居ても立ってもいられず飛行機に乗って来たんだわ)

663ゼロと奇妙な隠者:2008/11/27(木) 23:16:41 ID:9qU/x0Us
 使い魔として召喚してからそれほど長い時間を過ごした訳でもないが、使い魔の気性は十分に理解していた。普段は怠け者でお調子者だが、戦うべき場面に恐れず歩み出すのがジョセフ・ジョースターなのだと。
(……でもジョセフ、アンタ……今、そんな事してる場合じゃないでしょう!? ちょっと我慢してたら元の世界に帰れるんじゃない! どうして来なくてもいい戦争なんかやってるのよ、なんで、どうして……!)
 使い魔を元の世界に帰す決意をしたのに、当の使い魔は必要のない戦いに首を突っ込んできている。こんな事なら、いっそ別れの時まで一緒にいればよかったかもしれない。
 自分の言葉で使い魔が自分の意志を曲げるとは毛ほども思っていないが、それでも、戦いに行くなと言えたかもしれない。しかし今、使い魔はたった一人レコン・キスタと戦っている。
 メイジでも貴族でもない、異世界の奇妙な老人が戦っていると知っているのは、ルイズただ一人。今、あの奇妙な竜を操っているのは自分の使い魔なのです、と言う気にはなれない。言った所でアンリエッタすら信じてくれないだろう。
 だが、事実である。
 ルイズは飛行機から視線を背けないまま、胸の前で両手を組んだ。
(――始祖ブリミル。ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール一生のお願いです。どうか、どうか……ジョセフ・ジョースターをお守り下さい。彼を無事に家族の元へ帰して下さい……)
 切なる祈りを捧げるルイズをよそに、ただ空を見上げていたトリステインの軍勢の中から、誰とも知れず声が聞こえてきた。
「……奇跡だ……」
「いや、あれこそ、始祖ブリミルが我々に大いなる力を振るって下さっているのだ……」
 都合のいい言葉だが、それを否定する言葉を誰も持っておらず、ましてや絶望に垂らされた一筋の希望を否定する気などあるはずもない。
 ルイズと同じくアンリエッタの側に控えていたマザリーニは、兵士達から上がる希望に縋る声にただ追従したりはしない。感情の揺らがない目で竜が空を舞う様を見つめていた。

664ゼロと奇妙な隠者:2008/11/27(木) 23:17:13 ID:9qU/x0Us
 熱狂に侵食されつつある二千の中で一人、どこまでも静かに戦況を見ていたのはマザリーニ枢機卿だけであった。鳥の骨と貶められいらぬ誤解を受けながらも、前王の崩御以来トリステイン王国を担ったのは紛れもなく彼なのだから。
 この戦いに勝算など欠片ほどもなく、ただ名誉を拾いに行くために死にに来たようなものだと考えていた彼は、かの奇妙な竜を目の当たりにしてもトリステインの勝利を描いていない。
(我々が勝てるとすれば、かの艦隊を空から引き摺り落とさなければならない。果たしてあの竜は、ただ一騎で艦隊と立ち向かえるのか?)
 この場に居る誰一人として、竜騎士を七面鳥の如くあしらう竜の能力全てを知らない。
 絶望的な状況の中、一筋の希望を見せている。だが、縋るにしてはその希望はか細い。
 もしこの希望さえ潰えたのなら、その時こそトリステイン軍はラ・ロシェールと共に壊滅するしかない。しかし、もしこの希望が縋るに相応しい代物であったのならば、二千の兵を奮い立たせる何よりの要因となる。
(……内から沸き上る衝動すら口に出せないとは。全く難儀な道を選んだものだ)
 手綱が湿るほど汗をかいていた掌を裾で拭う様など、アンリエッタですら見ていない。
 ――やがて、時間にしておよそ十分強。アルビオン艦隊の周囲を飛行していた竜騎士隊二十騎全てが全滅する。
 竜騎士が一騎撃墜される度に大音声の歓声を上げていたトリステイン軍は、今しがた竜騎士隊を全滅させた竜がラ・ロシェールに向かって飛んでくるのを見ていた。
 竜が近付いてくればくるほど、唸り声のような音は大きく響いて聞こえてくる。
 つい先程までアルビオンの竜騎士隊と戦っていた竜が何故こちらに近付いてくるのか、理由を計りかねるトリステイン軍は一様に竜を見上げる以外に対処の仕様がなかった。
 接近するにつれて少しずつ高度を落としていた竜は、自分を見上げている四千の眼の上を誰も見たことのない猛スピードで通り過ぎたかと思うと、街に聳える巨大な樹を回り込む軌道で戻ってきた。
 竜は再び艦隊へ向かう進路を取りつつ、トリステイン軍の頭上を悠々と渡っていく。
 そして竜がアンリエッタ達の頭上を飛び越えていったその時、竜から何者が飛び出した。

665ゼロと奇妙な隠者:2008/11/27(木) 23:18:17 ID:9qU/x0Us
 反射的に銃や杖が向けられるが、しかし今の今まで竜騎士隊と交戦していた竜から現れた人影へ問答無用に攻撃を仕掛ける者は居なかった。
 トリステイン軍の前方、アンリエッタの付近へ向けて落ちてくる最中にフライの魔法を唱えた影は、マントを風にはためかせながら声も限りに叫びを上げた。
「アンリエッタ!」
 風に乗せられて届いた声に、アンリエッタの目がこれ以上はないほど開かれた。
「ウェールズ様!? ウェールズ様なのですか!?」
 王女の口が紡いだ名は、呼ばれるはずのない名前だった。
 トリステインの王女が様を付けて呼ぶ「ウェールズ」はレコン・キスタとの戦いで華々しい戦死を遂げ、既にこの世の者ではないと言う事になっているからだ。
 返事をする間も惜しいとばかりに、ウェールズは一直線にアンリエッタの側へと降り立った。
 突然の事に周囲のメイジ達が一斉に杖を向けるが、マザリーニは彼をアルビオン王国皇太子であるとすぐさま判別をつけた。
「各々方待たれよ! この方はアルビオン王国が皇太子、ウェールズ・テューダー様なるぞ! 今すぐその杖を下ろされい!」
 その声に杖は幾許かの躊躇いの後で下ろされるが、アンリエッタとウェールズは杖の行方など最初から一瞥もくれていなかった。
 アンリエッタはこれまで辛うじて続けてきた王女としての振る舞いを今ばかりは完全に忘れ、ただの恋する少女に戻ってしまっていた。
「ああ、ウェールズ様! この様な時に来て下さるだなんて……!」
 それでも人目も憚らず抱擁を求めてしまうほど自分を見失ってはいなかったが、右手までは気持ちを抑えることも出来ず、ウェールズを求めるように伸ばされていた。
 ウェールズは恋人に向けて差し出された手を、王子としての手で取ると、自然な動作で甲に唇を落とした。
「話は後だ、アンリエッタ・ド・トリステイン。僕はアルビオン王国の生き残りとしてトリステインへの援軍に来ているんだ。もうすぐ艦隊からの砲撃が始まる、すぐに部隊を集めて――」

666ゼロと奇妙な隠者:2008/11/27(木) 23:18:48 ID:9qU/x0Us
 ウェールズの言葉が終わるのを待つこともなく、竜騎士隊を全滅させられた艦隊は多少の被害に構わず、当初の予定通りラ・ロシェールへの艦砲射撃を開始した。
 何百発もの砲弾が空から轟音を伴って降り注ぎ、岩や馬は言うに及ばず、兵士達を吹き飛ばす。これまで目の当たりにした奇跡で高揚した士気を持ってしても、兵達の動揺を留めることはできなかった。
「きゃあ!」
 思わず目を固く閉じて身を竦めたアンリエッタを庇うように立ったウェールズは杖を一振りし、風の障壁を周囲に張り巡らせる。
「マザリーニ枢機卿!」
「承知しております!」
 王女から少女に戻ったアンリエッタをウェールズに任せ、マザリーニは素早く周囲の将軍達と即席の軍議を終えた。マザリーニの号令に合わせ、メイジ達は一斉に杖を掲げて岩山の隙間を塞ぐ形で風の障壁が張り巡らされる。
 砲弾は障壁に阻まれてあらぬ方向へ飛ばされるか空中で砕け散ったが、それでも全てを防げる訳ではない。障壁の隙間を潜り抜けて砲弾が着弾する度に土煙と血飛沫が撒き散らされた。
「この砲撃が終わり次第、敵の突撃が開始されるでしょう。それに立ち向かう準備を整えねばなりませぬ」
「勝ち目は……あるのですか?」
 怯えを隠せなくなってきたアンリエッタの声に、マザリーニは心の中で首を振った。
 勇気を振り絞って出撃したものの、彼我の戦力差は比するまでもない。砲撃は兵の命だけでなく人の勇気を打ち砕き続けている。
 しかし、今でこそただの少女に戻ってはいるが、昨日の会議室で威厳ある王女としての振る舞いを見せてくれたアンリエッタに現実を突きつける気にはなれなかった。
 五分五分だ、と精一杯のおためごかしを言おうとしたその時、ウェールズの静かな声がアンリエッタに投げられた。
「――ある。十分だ」

667ゼロと奇妙な隠者:2008/11/27(木) 23:19:20 ID:9qU/x0Us
 ウェールズはアンリエッタではなく、艦隊を遠巻きに旋回しているゼロ戦を見上げながら呟いていた。
「砲撃が終われば、その時が反撃開始の時間だ。それまで、持ち堪える」
 着弾の度に揺るぐ地面の感触を感じつつ、愛する少女を守る為に青年は杖を掲げた。


 *


 竜騎士隊を全滅させた後、ジョセフは本来の目的であるウェールズの送迎を済ませた。
 ラ・ロシェールに進行する艦隊をゼロ戦一機で殲滅できるとは思っていない。竜騎士の七面鳥撃ちは出来るにしても、爆弾の一つも搭載していない戦闘機が戦艦に立ち向かおうとするのは無謀としか言い様がない。
「救いは二十ミリを結構温存出来たっつーことだが……それにしたってハンデデカいぞ」
 二千メイルの上空を維持したまま、艦隊の射程外を遠巻きに旋回する。闇雲に攻められるのは竜騎士に対してのように、圧倒的な戦力差があってこそである。
 今はジョセフが圧倒的に攻められる番のはずだが、艦隊はこちらにさして構う様子すら見せずトリステイン軍に艦砲射撃を開始していた。何門かの砲門がこちらに向いているが、あくまで無闇な接近を阻む威嚇射撃らしき散発的な砲撃である。
 それだけ戦力差が絶望的に開いている、という証左であった。
「相棒、それはいいんだがガソリンは足りるのかね。日蝕までもうすぐだが、今のでかなり吹かしたんじゃねえのか? 俺っち怒んないから正直に言ってみな」
「しょーじき、厳しい」
 燃料を満載にしていれば三千kmは優に飛行できるゼロ戦だが、日蝕に飛び込むまでどれだけ上昇するのかはコルベールすら把握していない。無事に元の世界へ帰還できたとしても、どこに出るか判らない以上、ある程度は燃料に余裕を持たせねばならなかった。
「あいつらの弱点は見えとる。空の上から攻め込む戦艦は、砲を真上に向けるようには作っちゃおらん。撃てたとしても自分で撃った砲弾を頭に食らう覚悟はないだろうがなッ」

668ゼロと奇妙な隠者:2008/11/27(木) 23:19:50 ID:9qU/x0Us
 一番手堅いのは、敵艦の頭上を取って急降下掃射を浴びせ反転急上昇、再び急降下掃射、という手を取る事であるが、そんな機動を繰り返せば燃料も弾薬もすぐ尽きる。
 しかしジョセフは躊躇わない。
「ここで引いたら男がすたるッてな!」
 口の端をにやりと吊り上げ、機体を急上昇させていく。
 雲を突き抜けた先で双月に隠れようとしている太陽を横目で見た後、そのまま間髪入れず宙返りして艦隊へと急降下していく。
「行くぞッ!!」
 艦隊の中央に陣取る、周囲の戦艦と比べても一際大きなレキシントン号。
 遥か眼下、照準器に刻まれた十字にレキシントン号を捕らえると、ハーミットパープルではなくガントリガーを力の限り引いて両翼の機関砲に火を噴かせる。
「これでも食らえッッ!!」
 出し惜しみすることをやめた二十ミリ砲弾と七.七ミリ銃弾が空を引き裂き、レキシントン号へと吸い込まれていく。
 元からの火力に急降下の速度と重力、そしてガンダールヴの能力の助けを受けた砲弾は一発一発が必殺の威力を手に入れている。直撃を受けたレキシントン号のメインマストは中程から折れ下がり、甲板を貫いた弾丸は直撃を受けた不幸な水兵を物言わぬミンチに変えた。
 だが、そこまでだった。
「……チッ、ビクともしとらんな」
 アルビオン艦隊の射程から逃れるべく四千メイルの上空で再び急上昇を掛けながら、なおもふてぶてしく空に聳えるレキシントン号を睨み付けて舌打ちをする。
 渾身の斉射は少なからずの被害を与えていたが、レキシントン号ほどの巨艦を大破轟沈させるにはどうしようもないくらいに役者不足だった。
 60キロでなくとも30キロ爆弾があれば、木造のフネなどあっと言う間に炎上させられていただろうし、一機だけでなく複数の僚機がいれば多大な被害を与えられていたはずだ。
 しかし今、ハルケギニアの空を飛ぶ戦闘機はジョセフのゼロ戦一機だけだった。
 二十騎もの竜騎士を容易く屠れはしても、巨大戦艦群を相手取れる性能はない。

669ゼロと奇妙な隠者:2008/11/27(木) 23:20:20 ID:9qU/x0Us
「弾切れになるまではブチ込んでやらにゃあなるまい……これ以上好き勝手させてたまるかッ!」
 ジョセフ本人もこれ以上は徒労になるとは理解している。
 しかしジョセフの気性に加え、「敵の手の届かない所から撃てる」というある意味気楽な立場は、もう一度攻撃を行う踏ん切りをつけるには十分だった。
「撃ち尽くしたら逃げるッ!」
 力強い宣言をした後、二度目の宙返りからの急降下斉射にかかる。
 再び機首と両翼から撃ち続けられる弾丸がレキシントン号とは別の艦船に叩き込まれる。
 しかし結果はレキシントン号と似たり寄ったりの結果でしかなかった。
 メインマストを破壊し、ひとまずの被害を与えたもののせいぜいが小破止まり。
「相棒、これ以上は無理だ。逃げな」
 戦況を冷静に把握しているデルフリンガーが呟く言葉に、ジョセフはまた舌打ちして操縦桿を握り直す。
「チ、これが限界じゃな。ところでお前はどうするんじゃ」
「ここから放り投げるなり連れてくなり好きにしてくれよ。でも六千年も見てきた世界より、相棒の来た世界とやらを見てみたい気もするな。良かったら連れてってくれるかい」
「了解了解、じゃあ行くとするか……」
 そう言いながらペダルを踏み込み、スロットルレバーを動かす。
「……む?」
「どうしたよ相棒」
 デルフリンガーに返事する前に、再びハーミットパープルを這わせる。
 茨から伝わってきた情報に、ジョセフの全身から汗が噴き出した。
「……まずいな、エンジンが焼け付いてきとる」
「なんだって? 今の今まで普通に飛んでたじゃねーか」
「この前試験飛行しただろ。本当は一回飛ぶ度にエンジンバラして全部の部品を調整せにゃならんのだが、そんな時間もないし大丈夫だろうと思ってたんだが……固定化の魔法ってそんなに信用できんかったんじゃなあ」

670ゼロと奇妙な隠者:2008/11/27(木) 23:21:00 ID:9qU/x0Us
「じゃなあ、じゃねえよ! 固定化は物の劣化を防ぐだけで損傷まではカバーしねえんだよ!」
「だったら最初から言ってくれよ! つい調子乗って試験飛行やっちゃったじゃないか!」
「うるせえ! いい年して調子こくから本番で困るんだろが!」
 不毛な言い争いをしながら、ひとまず滑空状態のまま空域から離れる。
 現状、まだ飛行は維持できるが急上昇急降下急旋回などの機動をすれば、場合によっては更なるエンジントラブルを引き起こし、最悪の場合は空中でエンジンが破壊される可能性も有り得るという見立てだった。
「ふぅーむ。こいつぁ参ったな……掻い摘んで言うと、帰れんくなったっつーこった」
「気楽に言ってんじゃねえよ! しゃあねえ、じゃあどっかに着陸して……」
「いや、このままあいつらをほったらかすとろくなことにゃならん」
「おいおい、もう何も出来ないだろ。これ以上何かするってったら……」
 そこまで言って、デルフリンガーはある可能性に行き当たった。
 まさかとは思ったが、そんな常識が通用しないのが今の相棒である。
「このゼロ戦のパイロットには伝統的な戦法があってな」
「おい。ちょっと待て。もしかして、この飛行機をあのデカブツにぶつけようとか、そんな無謀なことを考えてるわけじゃないよな?」
「よくわかったな」
「……無茶苦茶だ、幾ら何でもそりゃねえよ」
 六千年、使い手含めて様々な人間に握られてきたが、こんな無謀な手を考え付き、あまつさえ実行に移そうとする人間は見たことがなかった。
「なぁに、わしは手近なフネに飛び移ってハイジャックするつもりじゃ。死にはせん」
「おい、考え直そうぜ。それはあんまりにもあんまりだ」
 言葉だけ見ればジョセフの翻意を促しているが、その言葉の響きはいかにも楽しげであった。
「まぁ、相棒がどーしてもって言うなら付き合ってやらんでもないがな!」
「よし来た! んじゃちょっくら行くとするかッ!」
 艦隊の射程外を飛んでいたゼロ戦を上昇させ始め――
『待ちなさい! そんな勝手なこと、主人の許しもなしにやらせないわ!』
 不意に聞こえたルイズの声に、思わず上昇を抑えた。
「ルイズ!? ルイズなのかッ!?」


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671隠者の中の人:2008/11/27(木) 23:23:46 ID:9qU/x0Us
以上投下したッ!
あれだね、今回の投下の半分くらいで一旦投下すればよかっただろ常考。
次回の投下で分岐ルートその1最終回のつもりだったけど、多分あと二回くらいになるかもしれん。
支援してくれたみんなと代理投下してくれた方に最大限の感謝と、二回続けてさるさん食らってごめんちゃい。

672隠者の中の人:2008/11/27(木) 23:46:39 ID:9qU/x0Us
自己解決しましたごめんなさいorz

673使空高 ◆vS6ov90cAI:2009/01/06(火) 21:26:49 ID:rycuqIO6
すみません。またやりました。どなたかお願いします。


「この辺か? いまいち判然としないが」
「わからないか? 俺がどこにいるのかわからないか? よく見ろよ! おめえの目は節穴か!」
「確かに、片方はたいていそうだがなぁぁあ」
 ごく自然に卑屈なことを言いながら、リキエルは一振りの剣を手に取った。
 途端に、左手の甲に刻まれたルーンが光りだした。吸い付いたように剣が手になじみ、体がふと軽
くなった。その軽さに頼って、跳ね回りたいような気持ちさえわいてくる。ルイズの言っていた特殊
能力というものが、よくよく体感できた。
「なんだ、わかってたんじゃねえか」
「…………」
 手の中でひとりでにかたかたと震える剣を見つめて、リキエルは深くうなった。魔法があるならそ
ういうこともあるかなと、半ば冗談で手にしたのだが、罵声の主はこの剣で合っていたらしい。
 店主のほうを見てみると、忌々しげにそっぽを向いて腰を叩いている。こういったことは茶飯事な
ようである。ルイズはといえば、へえ、インテリジェンスソードだったのねと、心得顔して頷いてい
る。
「しかもなんだ、てめえ『使い手』か。見損なってたぜ」
「『使い手』? なんのだ」
「さあな。そんなことよりどうだ、このデルフリンガー様を買う気はねえかい?」
「デルフリンガー? お前の名前か」
「そうさ、かっけーだろ」
 デルフリンガーはまたリキエルの手の中で震えた。人で言う、笑って肩を揺する仕草に近いものが
あるらしかった。
 リキエルは改めて、デルフリンガーをつぶさに見てみた。柄頭から切っ先までがルイズの身長より
も長く、シュペー卿とやらの品と遜色ないほどの大刀で、刀身は肉厚だった。ただいかんせん錆びが
ひどく、刃区から刃先までの間がところどころこぼれていて、刃文も判然としない。丈夫ではあるよ
うだが、見る人が見なくとも、なまくらであることは疑いようがなかった。
 だが、リキエルはこれでよいと思った。あくまで護身のために持つのだから、よく斬れる必要など
ないのである。むしろあまり斬れてしまうとかえって危なっかしい。デルフリンガーの言うとおり、
こちらはずぶの素人だ。
 ――ついでに……。
 こういうお喋りな剣があれば退屈しのぎができる、とリキエルは思った。この世界の娯楽がよくわ
からないリキエルにとっては、退屈は強大な敵になる。
 リキエルはデルフリンガーを手に、店主とルイズのところに戻ってきて言った。
「ルイズ、こいつを買ってもらえるか」
「そんなんでいいの?」
 ルイズは露骨に眉をひそめた。罵倒されたことが頭から離れていないらしい。
「ああ、こいつでいい」
「話がわかるな、相棒」
「急に気安くなったわね、このおしゃべり剣」
「友好的と言いなよ娘っ子」
「釈然としないわね。まあ、いいけど。……この剣おいくら?」
 それまで渋面を作っていた店主が、いくらか和らいだ表情になって答えた。
「厄介払いもありまさあ、鞘つけて新金貨百でお売りしやしょう」
 ルイズはずっと手に持ったままだった財布を、もう一度覗き込んだ。
「えっと、百よね」「はいでさ」「新金貨でよね」「ええ、ええ」「スゥだとどれくらいかしら」「……」
「ドニエならだいたい――」「はばかりながら」「……なにかしら」「今日は、持ち合わせはいかほどで?」
「…………」「えっと、じゃあ七十で結構でさ」「…………」「…………」
 店主の愛想笑いが若干の困惑に引きつったのを見て、ルイズはばつ悪く顔をそむけた。

674使空高 ◆vS6ov90cAI:2009/01/06(火) 21:28:58 ID:rycuqIO6
 実のところ、今日ルイズは新金貨で五十しか持ってきていなかった。剣の値がこうも張るものとは
思ってもみなかったからでもあるが、そもそもからして、ルイズにはいま金がなかったのである。
 というのも、この前の決闘で傷ついたリキエルの治療代とそのときに使った秘薬の代金とで、今期
家から送られてきた小遣いはだいぶ減ってしまっていたのだ。いま手持ちの五十と、寮の自室の机の
奥にしまってある、こつこつためたへそくりとをあわせて、しめて八十六エキューがルイズの全財産
だった。
 いつもなら、下僕が持つものとリキエルに財布を持たせるところを、今日はそうしなかったのには、
このあたりのことが関係している。財布が軽いのを気取られたくなかったのだ。
 店主はあきれを通り越して、憐憫をはらんだ視線をルイズに送った。デルフリンガーなどは神妙な
声音になって、「ボケとか冷やかしとか言って悪かったよ、いやほんとに」などと謝罪の言葉を繰り返
している。自分の治療代が高くついたことを聞いていたリキエルは、直感でルイズの貧乏の原因を悟
って、言葉もなく冷や汗を流した。
「貧乏ね! ヴァリエール! 公爵家が泣くわよ!」
 もとからじめじめとしていた空気がいっそう湿っぽくなったところに、けたたましい笑い声が響い
た。いつになくご機嫌のキュルケである。
 リキエルとルイズは呆気にとられた。
「ツェルプストー! なんでここにあんたがいるのよ!」
「ダーリンがいるからに決まってるじゃないの」
 キュルケは姿態を見せ付けるように店の中を横切って、リキエルに向き合うとやわらかく笑んで流
し目を送った。リキエルはそれを、蟻の前に置かれた枝豆のように無視した。
「ダーリンですって? 袖にされたくせして、よく言うわ」
 小ばかにしたような笑みを無理やりに作って、ルイズが言った。
「それもつい昨日のことじゃないの」
「だから今日また会いにきたんでしょ」
「ふん、見苦しいったらないわね」
「それはあんたのことよね、ヴァリエール。そんなボロ剣一本買えないで、三割も値を引いてもらっ
て、それでも買えないなんてね。ちょっと見苦しいんじゃなくて、ねえ?」
 にやにやと楽しそうな顔をして、キュルケは揶揄して言った。
 タバサのドラゴンで先回りしていたキュルケは、街の入り口でルイズらを目ざとく見つけると、気
づかれないように後をつけた。そして二人がこの店に入ったのを見届けると、自分は入り口で中の様
子を見ることにした。つまりはことの一部始終を全て見て、聞いて知っていたのである。
自分でも思っていたところをつつかれて、ルイズはぐぅの音しか出せなかった。
 ルイズは、すぐに返す口をきけなかったことがどうにも悔しくなって、負け惜しんでキュルケをに
らみつけた。余裕ぶったキュルケの顔が、いつも以上に憎憎しく思えた。
「リキエル、帰るわよ。今日は気分がすぐれないわ」
 ルイズはついと顔をリキエルに向けて、喉の奥から声を出して言った。
 逃げるようでそれがさらに癪だが、この場でキュルケの顔を見ているのはもっと心地が悪い。持ち
合わせのない今、言い返しようがないということもある。
 ――だろうなァ。気分、悪いだろうなぁ〜〜あ。
「じゃあこいつ、お返ししますよ」
「惜しいなあ、せっかくの『使い手』だってのになあ」
「よければ、また来てやってくだせえ」
 愛想を使ってくる店主にデルフリンガーを手渡し、リキエルはもう店を出てしまっているルイズを
追った。
 引き止めてくるかなと思い、リキエルはキュルケのほうをちらと見たが、案に反して意味ありげに
微笑を向けてくるだけで、声もかけてこなかった。本当に、どうしてここにいるのか判然としないが、
べつに知らなくてもいいかとリキエルは思った。
 羽扉を押してきょろきょろと見回すと、右手に十歩ほど行ったところに、不機嫌そうにたたずむル
イズの背中があった。声をかけるとほんの一瞬だけ振り向いてきて、またすぐに背を向けられた。

675使空高 ◆vS6ov90cAI:2009/01/06(火) 21:30:09 ID:rycuqIO6
 リキエルが背後に立つのを確認すると、ルイズはそれまで落としていた肩を怒らせて、毅然とした
態度になって歩き出した。
 ――なんともなかったな。
 駅に着いて、預けていた馬に跨ったとき、リキエルは不意に思い至った。ひとの大勢いる街中で、
それも芋を洗うような中を揉まれて平常でいられたのは、いつ以来のことだったろう。
 だがリキエルは、なぜか素直にそれを喜べなかった。人づてに評判を聞いて見に行った映画やコン
サートが、ふたを開けてみればさしたる内容でもなかったというような、空虚なつまらなさだけを感
じた。
 なんだ、どうした、喜ばしいことじゃあねーかと、自分を励ますようなことを考えてみたが、駄目
だった。喜悦も深い感慨もなかった。余計に虚しさが募った。そんな自分にかすかな憤りさえ感じた
が、それさえはきとした形をなす前に散って、夜霧のように曖昧で濃い不快感として、胸の中に残っ
た。
 気の滅入ってしまったリキエルは、帰りは一言も口を利かなかった。へそを曲げたルイズも同様で
ある。やたらと寂しい帰路であった。


 学院に帰り着いたときには、もう日は落ちる寸前になっていた。さっきまで西空に夕日が赤々とし
ていたかと思う間に、あたりはすぐ薄暗くなって、遠い山々から夜が地を這って来る。
 馬を繋いだルイズとリキエルは、少し急ぎ足で女子寮に向かった。日が落ちて明かりがともされ、
月の光が強くなるまでの間、ほんの一時あたりは真っ暗になる。わずかな時間ではあるが、足元もお
ぼつかない心細い暗闇である。そうなる前に部屋に戻っておきかった。
 どうにかリキエルたちは、夜が来る前に女子寮に駆け込んだ。階段を上って、廊下を歩くうちに窓
から見えた風景が、一面の色濃い暗黒であったから、間髪の差だったようである。
 部屋の前に着いて、ルイズは鍵を取り出そうとしたが、不意にその動きが止まった。扉がわずかに
開いていて、中から光が漏れている。
 出るときに鍵をかけたのは、ルイズとリキエルがそれぞれに確認している。すわ賊かと、二人は一
瞬目を交し合った。まさかではあるが、閉めた家の戸が開いているというだけで、あまりぞっとしな
い話なのは確かだった。
 眉をひそめてどことなく緊張した面持ちのルイズが、ゆっくりと扉を押し開いて、頭だけ入れて中
をうかがいにかかった。ルイズはうへェだかきえーだかいうような、変な声をひとつだけ立てると、
黙って動かなくなった。
 ――なんなんだ、ええ? 一体よォ。
 続いて部屋の中を覗いたリキエルも、声を立てないだけで、ルイズと大体同じになった。
「あ、リキエル! お帰りなさい。遅かったのね」
「…………」
 キュルケともう一人、青い髪をした小さな娘が平然と居座っていた。キュルケはルイズの椅子で足
組んで、手鏡を覗いて髪をいじっていた様子だし、青髪の少女はこれもルイズのベッドの足に背をも
たれ、愛杖らしいごつごつした長杖をかたわらに立てかけて、重厚な本をぱらりぱらりとやっている。
侵入者の態度ではない。
 キュルケが椅子からひょいと立ち上がり、喜々として言った。
「今日は、ちょっとしたプレゼントを持ってきたのよ」
 それでか、武器屋での含みのある笑いはと、リキエルは合点がいった。それと知って思い返せば、
あの笑みは何かを楽しみにして、その楽しみを思ってこらえがきかなくなった類の笑い方であったこ
とがよくよくわかる。
 ――これは、長くなりそうだぜェ……夜がよぉ〜〜。
 プレゼントとやらをそこに置いているのか、ベッドの裏に引っ込んだキュルケと、早速に頭に血を
昇らせ始めているルイズを交互に見やって、リキエルは目の上に手を置いた。

676使空高 ◆vS6ov90cAI:2009/01/06(火) 21:31:53 ID:rycuqIO6
投下終了。

新年明けましておめでとうございます。
永の無沙汰をすいません。また目汚しにやって来ました。

677使空高 ◆vS6ov90cAI:2009/01/06(火) 21:37:00 ID:rycuqIO6
代理の方、ありがとうございます。迷惑おかけします。

678名無しさん:2009/01/06(火) 21:41:46 ID:7PXBAUfo
代理したんですが自分もさるさんに・・・
しかも順番間違えてしまいました、申し訳ありませんorz

679名無しさん:2009/01/06(火) 22:00:35 ID:rycuqIO6
いえ、反省を活かさずに何度も引っかかるこっちが悪い。
本当にすいません。

680ゼロいぬっ!:2009/01/25(日) 21:48:02 ID:1ZrPnq8I
初めてさるさんをくらってしまいました、どなたか代理投下お願いします。

681ゼロいぬっ!:2009/01/25(日) 21:48:40 ID:1ZrPnq8I

邪魔をする人の壁はなく、眼下に彼女らの頭が見えるだけ。
ふと隣に目を移せば、そこには先程の青年の姿。
自分が居たのは他ならぬ彼の肩の上だった。
慌てて降りようとした少年に彼は問いかける。

「ちゃんとその眼に焼き付けたか?」

彼の問いに頷きながらも少年は惜しむように行進を見やる。
その姿に青年は込み上げる笑みを堪えられなかった。
肩に担いだ少年は、かつての自分だった。
王都で見た英雄達の行進が今も目蓋に焼き付いている。
『烈風』と呼ばれた騎士の姿を目にし、その背を追おうと決めたあの日を。

「ねえ、僕も騎士に成れるのかな」

だから少年が言い出す言葉も分かっていた。
同じ事を言って叔父に笑い飛ばされた過去の記憶が過ぎる。
ましてやメイジでもない平民が騎士になるのは並大抵の苦労ではない。
アニエスとて内戦中のアルビオンに赴き、苛烈な戦場を乗り越えて掴んだものだ。
一時の憧れで辿り着けるような生易しい場所じゃない。
だから少年の体をポンと叩きながら答える。

「成れるかじゃない、成るんだろう?」

その答えに少年は満面の笑みを浮かべ大きく頷いた。
憧れを捨てずに歩き続ければ、いつかはその背中に追いつける。
―――そうやって俺は此処まで来たのだから。

去っていく青年の背中を少年は見送った。
目に焼き付けたのはパレードではなく彼の背中。
傷を負いながらも戦い、誰からも讃えられずに去っていく。
その姿が誰よりも騎士らしく彼の目に映っていた。

682ゼロいぬっ!:2009/01/25(日) 21:51:33 ID:1ZrPnq8I
以上、投下したッ!
量が多すぎたので前編・後編に分けます。
97話は城下町でのお話です、98話で学院に移ります。

予定ではもう全部終わってるのに……スランプで全然筆が進みません。

683ゼロいぬっ!:2009/01/25(日) 22:00:42 ID:1ZrPnq8I
代理投下の方、ありがとうございます。助かりました。

684ゼロいぬっ!:2009/03/24(火) 22:13:24 ID:cHNLclts
アクセス規制を受けて本スレに書き込めません。
どなたか代理投下をお願いします。

685ゼロいぬっ!:2009/03/24(火) 22:14:40 ID:cHNLclts

ラ・ヴァリエール公爵は落ち着かない様子でカップに注がれた紅茶を啜った。
魔法学院に入学して以来、顔を合わせていない娘が帰ってくるのだ。
悪い虫が付いていやしないか、悪い級友にいじめられていないかと不安だった彼が、
その帰りを今か今かと待ちわびるのは至極自然な事だった。
しかし、彼の心境はとても複雑であった。
彼に突き刺さるような視線を向ける二人の女性。
愛する家内と長女、実質的なラ・ヴァリエール家の支配者コンビだ。

「分かっていますね。けっして甘い顔はしないように」
「そうよ。あれだけ忠告したのに戦場に行くなんて!
今回は運が良かっただけ。調子に乗ったら次は間違いなく死ぬわ」
「わ……分かっているとも。ルイズには厳しく私から言っておこう」

その言葉が信用に足らないとばかりに、さらにジロリと鋭い眼が向けられる。
身体を縮こませるようにして公爵は再びカップに口を付ける。
トリステイン有数の実力者も家庭ではほとんど立場がなかった。
厳格な性格で知られるラ・ヴァリエール公爵だが、所詮は可愛い娘には勝てない男親である。
ましてや末娘でメイジとしての出来も悪いとなれば放っておけなかった。
彼女達もルイズが嫌いなわけではなく、その身を心配しているからこそ怒っているのだ。

ここは心を鬼にして彼女を厳しく罰するのが正しいのだろうが、ルイズに嫌われると思うとどうにも腰が引けてしまう。
かといって“出来ません”などと答えようものならどうなるか。
最小限に手加減されたとしても半年は施療院から出られなくなるだろう。
そしてルイズは徹底的な制裁を加えられて一生もののトラウマが刻まれるかもしれない。
やはり、名目上とはいえ家長である私がやらなければならない事だ。
そう言い聞かせて己を奮い立たせる彼に、老執事が声をかけた。

「旦那様。ルイズお嬢様がたった今お戻りになられました」
「う、うむ。では早速出迎えに……」
「必要ありません。エレオノール、あの子をここへ」
「ええ。頬を引っ張ってでも連れてきます」

席を立とうとする夫をカリーヌが制す。
命令ではないただの一言。
だが、それは絶対遵守の力を以って公爵を椅子に釘付けにした。
鼻息荒くエレオノールが出て行ったことで、必然二人きりの状況が作られる。
張り詰めた空気を察した老執事は“さて、歓迎の支度を”と、
あからさまな言い訳をしながら、そそくさとその場を立ち去った。

686ゼロいぬっ!:2009/03/24(火) 22:15:30 ID:cHNLclts

二人の間に重苦しい沈黙が流れる。
幻覚だと分かっていても身体が重く感じる。
遂に耐え切れなくなったラ・ヴァリエール公爵が口を開いた。

「それにしても戦場に単騎で出向くとは……まるで誰かの若い頃のようだな」
「……何を仰りたいのですか?」
「その、なんだ、おまえも人の事は言えない訳だし、今回だけは特別に……」

刹那。妻の猛禽じみた眼差しに全身が凍りつく。
幾多の戦場を駆け抜けた彼女の迫力は凄まじく、
曰く、一睨みで大軍が武器を捨てて逃げ出した、とか。
曰く、睨まれただけで火竜がお腹を見せて服従を示した、とか。
曰く、イタズラ好きの子供に『烈風カリンが来るぞ』と告げると大人しくなる、とか。
そんな伝説級の怪物に立ち向かう彼の心境は如何ばかりのものだったろうか。
気分はイーヴァルディの勇者どころか捧げられる生贄の少女であった。

「私は別に戦場に出た事を怒っているのではありません。
家長の指示に背いた、それに対し罰を与えるべきだと言っているのです。
規則は規則。それを特別だと許せば次も同じ過ちを繰り返すでしょう」

静かに響くカリーヌの言葉は規律を重んじる騎士のそれであった。
強すぎる力を持つが故に、それを抑制する規則が必要だと彼女は自覚していた。
力に溺れぬよう驕らぬようにカリーヌは己が信念を貫いてきた。
その教えがあればこそ三姉妹の誰もラ・ヴァリエールの権力を傘に、
他の貴族達に傲慢な振る舞いをしなかったのだろう。

「それともう一つ、私はまだ若い。今すぐ訂正してください」

返答に困った公爵が苦笑いを浮かべる。
いいかげんなおべっかは逆に彼女を苛立たせ、
“一番上の娘が嫁き遅れといわれる歳で若いもないだろう”と、
正直に答えればそれが自分の辞世の句となるだろう。
言葉に詰まる彼の目の前で大きな音を立てて扉が開け放たれた。

「ちびルイズを連れてきましたわ」
「御苦労」

始祖の助けをその身に感じながら公爵は安堵の溜息を洩らす。
おほん、と咳払いして気を取り直し威厳ある態度で臨む。
だが、彼が目にしたのは見る影もない自分の娘の姿だった。
気落ちなどという生易しいものではない。
悲嘆に暮れた表情は幼い頃の面影を隠し、
その瞳からは輝きが失われ、絶望だけを色濃く映す。
公爵は何を言い出せなかった。
今の彼女はまるでヒビ割れた硝子細工のようで、
少しでも触れてしまえば壊れてしまうように思えたのだ。

687ゼロいぬっ!:2009/03/24(火) 22:16:26 ID:cHNLclts

一方、エレオノールは情けない妹の姿に苛立ちを覚えていた。
いつもの無駄に元気な彼女なら口答えの1つでもしてくる。
それなら頬を引っ張って訂正させるのが楽しみでもあったのに。
今のちびルイズは見ているだけで辛くなってくる。
まるで生きている意味さえも失ってしまったかのような絶望。
それに身を浸す妹に発破をかけるつもりで言い放つ。

「たかが使い魔一匹死んだぐらいで、いつまで落ち込んでるつもりよ!
代わりに、また新しいのを召喚すればいいだけじゃない」

学院に赴く以前と同じ様に頬を抓り上げて怒鳴る。
そしてルイズは痛みに耐えながら“ごめんなさい、エレオノールお姉さま”と答える。
それはごく当たり前に繰り返された日常的なやりとり。
なのに、彼女の反応はそれまでのものと大きく違っていた。
伸ばしたエレオノールの手を振り払い、怒りを滲ませながら彼女を睨む。

「代わりなんて……、代わりなんている訳ないじゃない!」

思わぬ反撃と気迫にたじろぐ姉に、胸の内を吐き出すようにルイズは叫んだ。
そのまま部屋を飛び出す妹をエレオノールは呆然と見送る。
初めての反抗に彼女は狼狽し、我に返った時には既に彼女を見失っていた。

「しまった! 逃げられたわ!」
「追う必要はありません」

駆け出そうとしたエレオノールをカリーヌが呼び止める。
何故、と困惑の眼差しを向ける娘に答えず、彼女は続けた。

「もし見つけても『顔を出す必要はない』と伝えなさい。
そのような情けない顔を晒す者にラ・ヴァリエールを名乗る資格はありません」

ぞくりとエレオノールの背筋が震えた。
お母様は本気で言っていると彼女は直感したのだ。
鉄の規律という言葉が頭を過ぎる。
硬く、決して曲がらず、そして人の温もりには程遠い冷たさ。
正しく彼女の判断はその通りの物だった。
イエスともノーとも答えず、そそくさとエレオノールは立ち去った。
こうなれば一刻も早くルイズを見つけ出して一緒に謝るしかない。
そう考えて彼女は屋敷の探索に乗り出した。

「………………」
去ってゆく娘を視界にも収めず、カリーヌは紅茶を口に運ぶ。
自分の娘の考えなど見え透いていたが、それを咎める事はない。
どの道、エレオノールにはルイズは見つけられない。
あてもなく、ただ闇雲に屋敷内を探し回るのがオチだ。
もし彼女を見つけられるとしたら、それは……。

「カリーヌ。その、いくら罰にしても厳しすぎるぞ」

思案に耽っていた彼女をラ・ヴァリエール公爵の声が引き戻す。
額から冷や汗を流しつつ気圧されながらも彼は反論する。
彼とて妻に恐怖するだけの男ではない。
もしその程度の男なら、とっくにカリーヌに見放されていただろう。

688ゼロいぬっ!:2009/03/24(火) 22:17:06 ID:cHNLclts

「罰ならばルイズは既に受けています」
「え?」
「それも最も重く、一生背負っていかなければならないものを」

ルイズと目を見合わせた瞬間、カリーヌは直感した。
彼女と同じ想いをした自分だからこそ理解できた。
“自分の判断で大切な何かを失ってしまった”と。
失った物は決して戻る事はない。
これから先、彼女は何度も後悔と共に思い返す。
どうしてもっと上手く出来なかったのか、
何故もう少し冷静に考えられなかったのか、
他に方法はなかったのだろうかと悔やみ続ける。
それは逃れる事の出来ない罪として永遠に彼女を苛む。

ルイズは初めて自覚したのだ。
自分の判断が誰かの命を奪うことになる、その重みを。
恵まれていた彼女には失うことを知らなかった。
だから命も名誉も頭では分かっていても本当の意味では理解していなかった。
大切な物を失なってようやく彼女はその恐怖を知った。
これで彼女はスタートラインに立ったのだ。
何の責任を伴わない判断など存在しない。
これから先、彼女は何度も重要な決断を下さなければならない。
覚悟なき決定に意味などない。悩み傷付いた末に選んだ結果だからこそ意味がある。
ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは強くならねばならない。
何度膝を屈そうとも立ち上がり、前へと突き進めるぐらいに。

「私たちに出来る手助けはありません。
あの子が初めて自分の足で立ち上がった時のように見守るしか」

手を貸してやれない事を恨めしく思いながらカップを置く。
寂しげに呟く妻に、夫は力強く答えた。

「心配はいらない。ルイズは強い子だ、私たちの子を信じよう」

何の根拠もなく言い放った夫にカリーヌは笑みを浮かべる。
普段の彼女からは想像もつかない優しげな微笑み。
鉄仮面で素顔を隠し鉄の規律に身を縛ろうとも、
『烈風カリン』が一人の女性である事に変わりはない。
戦況さえ変える力を持った彼女とて思い悩み、悲しい決断を迫られた事もあった。
そんな時、彼の言葉に何度励まされただろうか。
彼女は単騎であろうとも一人ではなかった。
倒れぬのは、その身体を支える誰かがいたから。
突き進めたのは、その背を押す誰かの手があったから。
感謝を言葉に乗せずに笑みで応えた彼女に。
「ひぃ…! す、すみません! 何の根拠もない事を言って…!」
これ以上ないほどラ・ヴァリエール公爵は怯えていた。
満面の笑みを向けたにもかかわらず、命乞いをするかのように震える亭主。

その瞬間。彼女の中でスイッチが切り替わった。
彼女の精神テンションは今! マンティコア隊隊長時代に戻っているッ!
火竜山脈の主が戦慄し、大地を踏み鳴らす軍勢が恐怖した当時にだッ!
冷酷!残忍!その彼女の杖がラ・ヴァリエール公爵に向けられた。

689ゼロいぬっ!:2009/03/24(火) 22:17:40 ID:cHNLclts

ルイズは一人、屋敷の中庭で佇んでいた。
そこは幼い頃より彼女が隠れた秘密の場所。
遠くで響く轟音もここまでは届かない。
辛い事があった時はいつもここに逃げ出してきた。
それは今も変わらないのか。夢中で走り続けて、気が付けば自分はここにいた。
咲き誇る花々に彩られた無人の庭園。
そこに面する池に反射した陽の光が眩いばかりに輝く。
ささくれた心でさえ美しく、また懐かしく思える光景。
……もし出来るなら“彼”にも見せたかった。
同じ世界を見て、同じ気持ちを共有したかった。

俯く彼女の背後で茂みを掻き分ける音が響く。
(まさか、もう見つかったの…?)
徐々に近付いてくる物音に彼女は連れ戻される事を覚悟した。
いや、どちらかといえば諦観だったのだろう。
もうどうなろうと構わない、そんな自暴自棄に似た感情が沸き上がる。
しかし立ち尽くすルイズの視線の先に現れたのは、柔和な笑みを浮かべた女性だった。

「おかえりなさい、ルイズ」
「……ちい姉さま」

込み上げる感情に堪えきれずルイズは姉の胸に飛び込む。
それをカトレアは身体全体で包み込むように受け止めた。
安らぎに満ちた温もりに、張り詰めた感情が解れていくのを感じる。
エレオノールやカリーヌにさえ心を開かなかった彼女だがカトレアは別だ。
いつも庇い、慰めてくれた優しい姉はルイズにとって母親よりも母親らしく思えた。
ルイズの髪を梳くように繊細な指先が頭を撫でる。
子供扱いでもイヤな気分にはならない。
孤独から解放された安堵からか、ルイズの瞳から涙が一滴零れ落ちた。

「……本当はアイツと一緒に、ちい姉さまに会いに行きたかった。
でも、もう居ないの……もう何処にも居ない」
「忘れなきゃいけないのに、いつまでも引きずっていちゃいけないのに。
アイツもそれを望んでるって分かっているのに……出来ないの」

誰にも言えなかった本音を吐露しながらルイズは泣いた。
大粒の涙と共に、閉じこもっていた殻が次第に崩れていく。
“誰かに伝えたかった”孤独の中にあっても彼女はずっと思い続けていた。
使い魔と過ごした日々は記憶に深く刻まれ、それ故に彼女を苦しめる。
悲嘆に暮れる彼女を優しく、しかし力強く抱き締めてカトレアは言った。

「それでいいのよ、ルイズ。大切な想い出なら忘れてはいけない」
「え?」

姉の返事を理解できず、ルイズはきょとんと目を丸くした。
だって彼女を立ち直らせようとした友達も家族も、
そして彼の存在を隠匿した貴族達も、誰もが“忘れろ”と言った。
しかし、最も信頼している姉は“忘れるな”と告げた。
その真意を測りかねて戸惑う妹にカトレアは問いかける。

690ゼロいぬっ!:2009/03/24(火) 22:19:16 ID:cHNLclts
「初めて会った時の事を憶えてる?」
「……はい」
「一緒に遊んだ時の事も?」
「………はい」

問いに答える度にアイツとの思い出が蘇る。
広場を逃げ回るアイツを追いかけた最初の出会い。
投げた棒を咥えて楽しげに尻尾を振りながら戻って来るアイツの姿。
どれもが昨日の事のように鮮明に思い出せる。
ぎゅっとカトレアの服を掴む手に、思わず力が篭る。

「それは全部、ルイズにとって辛い思い出なの?」
「……いえ、違います」
「辛かったり悲しかったり、だけどそれだけじゃない。
楽しかった事も嬉しかった事も全て大切な思い出よ。
決して無くならない、ルイズの心の一部なの」
「私の……心に」

カトレアの言葉に従うように、そっと自分の胸に手を当てる。
どくんどくん、と脈打つ鼓動とは別に確かな温もりがそこにはあった。
ルーンの繋がりは絶たれたけれど、それでも“彼”を感じ取れる。
使い魔と過ごした日々は、思い出と共にそこに存在していた。
いつかは声を思い出せなくなるかもしれない、
姿さえも忘れてしまうかもしれない、だけど一緒にいた事は忘れない。
私の心にある限り、私は決して貴方を忘れない。

「一人で立ち上がるのは難しいかもしれない。だけど貴女は違う。
ルイズの大切な友達も、私も、姉様も、皆が貴女を見守ってくれているわ」

涙は止まらなかった。悲しいだけじゃなくて嬉しかった。
公爵家に生まれながら魔法が使えない、そんな自身の出生を不幸と思った。
だけど、今は心から感謝している。
ラ・ヴァリエールに生まれたからカトレア姉さまに会えた。
エレオノール姉さまやお父様、お母様、大切な家族と出会えた。
キュルケやタバサ、ギーシュにコルベール先生、多くの友人と巡りあえた。
――――そして、アイツとも。

多くの出会いと別れを重ねてようやく彼女は気付いた。
自分が如何に家族や友、仲間に恵まれていたのかを。
そして、その絆こそ今の自分を支える力だという事に。

まるでこの世に生まれ落ちた時のようにルイズは泣き続けた。
それを愛おしく抱き寄せながらカトレアは確信した。
“ルイズはきっと立ち直る。今よりもっと強くなる”と。
そこには彼女の切なる願いも込められていた。
今度、挫折した時は慰めてあげられないかもしれない。
それどころか、あるいは……。

咳き込んだ口をカトレアは手で押さえた。
赤錆にも似た味が口の中いっぱいに広がる。
見れば、こびり付いた赤色が白磁のような手を汚していた。
妹の綺麗な桃色の髪を汚さぬように手を遠くへ離す。

691ゼロいぬっ!:2009/03/24(火) 22:21:09 ID:cHNLclts

もう長くはないと自分でも判っていた。
いや、“自分だからこそ”かもしれない。
そのせいでルイズをまた泣かせてしまうかもしれない。
“ごめんなさい”と心の中で詫びながら、もう一方の手で彼女を撫でる。

「私の可愛いルイズ。今は泣いていいの」

いつまでこうしていられるかは分からないけれど、今だけは胸を貸してあげられる。
強くなってねルイズ。私がいなくなっても大丈夫なぐらいに。
―――そして、貴女の心にいつまでも私を居させて。


(全く……。損な役回りね)
植え込みの陰に隠れながら様子を窺っていたエレオノールが愚痴る。
カトレアの部屋に逃げ込んだと思い探してみれば、ルイズどころかカトレアも不在。
慌ててカトレアの足取りを使用人達に問い質しながら、ようやくここを探り当てたのだ。

エレオノールとてカトレアに負けず劣らずルイズの事を心配していた。
だが彼女はどうしようもないほど不器用で、上手く愛情を表現できなかった。
そういう所が血筋なのだろうかと、つい思い悩んでしまう。
カトレアにしがみつき泣きじゃくるルイズを見て、
子供の頃と全く変わってない事に安堵と呆れが同時に込み上げる。

「しばらくぶりだものね、もう少しぐらい見逃してあげるわ」

溜息を零しながら、カトレアに似た温かな眼差しがルイズに向けられる。
直後。彼女の脳裏に妹に泣きついた先日の自分の姿が蘇った。
その光景がカトレアの胸で泣き続けるルイズと重なる。
鋼の令嬢とまで呼ばれた彼女にとって、あの失態は闇に葬りたい過去だ。
もし使用人が目撃したならば即座に生き埋めにし、
掘り返されないように真上に教会を建築していたであろう。
見ているだけで恥ずかしい記憶を揺り動かされるという、正に生き地獄。
遂に耐えかねたエレオノールが飛び出して叫ぶ。

「ここにいたのね、ちびルイズ!」
「え、エレオノール姉様!?」

恥ずかしさからか、飛び跳ねるようにカトレアから離れるルイズ。
その彼女目掛けてエレオノールは手を伸ばした。
一瞬にして彼女の頬を抓り上げると教師のような面持ちで彼女に告げた。

「『お』が抜けてるわよ」
「ほ……ほへんはひゃい……へれほほーるほへえはは」

じゃれあうような姉妹喧嘩、それを遠巻きに見ているカトレアがくすくすと笑う。
幼き頃より当たり前のように繰り返されてきた日常の風景。
だけど、いつの日かルイズは思うだろう。

姉妹で共に過ごしたあの日々は黄金にも勝る思い出だったと。

692ゼロいぬっ!:2009/03/24(火) 22:21:53 ID:cHNLclts

エレオノール・アルベルティーヌ・ル・ブラン・ド・ラ・ブロワ・ド・ラ・ヴァリエール
……心配かけさせた分、滞在期間中ずっとルイズを思う存分抓る。
彼女を見送った後日、バーガンディ伯爵から『もう限界』と言う言葉を最後に婚約を解消される。
そのストレスは後に訪れるルイズと平賀才人に向けられる事となる。

カトレア・イヴェット・ラ・ボーム・ル・ブラン・ド・ラ・フォンティーヌ
……勝手に部屋を抜け出した事でエレオノールにこっぴどく叱られる。
ルイズの滞在中は自室で大人しく動物達に絵本を読み聞かせて過ごす。
 
カリーヌ・デジレ
……彼女の機嫌が直るまで使用人でさえ迂闊に近づけない緊張状態が続く。

ラ・ヴァリエール公爵
……再起不能。滞在期間中も面会謝絶状態が続き、ルイズと会話できないまま別れを迎える。
この寂しさと悲しみは後に平賀才人に八つ当たり気味に炸裂する事となる。

693ゼロいぬっ!:2009/03/24(火) 22:24:52 ID:cHNLclts
以上、投下したッ!
量があったので前・中・後編に3分割しました。
今回は中編で次回が後編です。
学院に戻ったルイズと“あの人”の話です。

694名無しさん:2009/03/25(水) 17:29:43 ID:OyC40KNg
おいらもアク禁で本スレに書き込めないので、
注目されるようにあげときます。
誰か代理投下してくれ!

695ゼロいぬっ!:2009/03/25(水) 20:48:58 ID:QNB./wLg
代理投下ありがとうございました

696ゼロいぬっ!:2009/04/25(土) 17:00:28 ID:dPBRqNnM
アクセス規制で書き込めません。
どなたか代理投下お願いします。

697ゼロいぬっ!:2009/04/25(土) 17:01:11 ID:dPBRqNnM

そうして『はじまり』はやり直された。
広場に数いた生徒たちの姿はなく、桃みがかった髪の少女を中心に、
褐色の肌の少女と青い髪の少女、そして眼鏡をかけた教師が見守るように立つのみ。
あの日よりも温かな風が木の葉を運んで吹き抜けていく。

彼女の前には火が焚かれ、それがパチパチと音を立てる。
ソリが黒く焦げて焼け落ち、彼女の日記と研究資料もただの灰へと変わる。
記録も思い出も等しく炎の中へと消え去っていく。
穏やかな風が灰を舞い上げて彼方へと運び去る。

「本当にもう大丈夫なの?」
心配そうに訊ねるキュルケにルイズは小さく頷いた。
答える彼女の瞳からは意志の力が感じ取れた。
余計な心配だったと安堵の溜息を漏らすキュルケの横で、
タバサは黙って事の成り行きを見守る。
彼女は知っている、人は大切な者を失う事で強くなるのだと。
悲しみを乗り越えた時、人はそれを糧にして成長する。
同類だからこそ分かる。彼女は完全に過去を払拭したわけではない。
今も燻るような炎が彼女の胸の内を焼いているのだろう。
だから見届けようと思う。それが彼女の運命に関わった自分の務めだと思うから。

「では、よろしいですね。ミス・ヴァリエール」
「はい。ミスタ・コルベール」

教師の指示を受けて、彼女は杖を天高く掲げた。
空をキャンバスに絵を描くように杖の先端を振るう。
かの時をなぞる様に紡がれる詠唱。
しかし、その仔細は微妙に異なっていた。

「宇宙の果てのどこかにいる私と運命を共にする者よ!」

従者としてではなく、共に肩を並べて苦難な道程を歩もう。
悲しい時は慰め、辛い時は肩を貸し、互いの背を預けて戦おう。

「誇り高き魂と、曇る事なき意志を、そして絶望に屈さぬ勇気を継ぐ使い魔よ!」

名前も残す事さえ許されなかった彼のルーンを、その想いと共に受け取って欲しい。
彼が遺したものを明日へと、そして未来へと伝えて欲しい。
それがいつの日か、誰かの希望として伝わっていくように。

「私は心より求めうったえるわ!」

そこまで告げてルイズの動きが止まった。
ここから先の言葉を紡ぐのを躊躇ったのだ。
言えば、それは彼との決別を意味する事になる。
前の使い魔との契約が終わり、新しい使い魔が呼び出される。
それは彼が死んだ時点でも決まっていた事だ。
だけど、彼女はその一歩が踏み出せずにいた。

698ゼロいぬっ!:2009/04/25(土) 17:02:00 ID:dPBRqNnM

まるで夢のような日々だった。
あの日、彼を召喚した時からずっと。
守ってあげると誓ったのも。
街でデルフと出会って、首輪を買ってあげたのも。
フーケのゴーレムを退治したのも。
モット伯との騒動だって。
姫様に頼まれてアルビオンに行った事も。
私が虚無の担い手だなんてことも。
そして、タルブでの戦いも。
ずっと、ずっと、夢だったんじゃないかって、そう思った。

本当の私はうたた寝の中にあって、明日の召喚が上手くいくかどうか、
ベッドの上で不安そうにしてるんじゃないかって。

誰かが夢だと言ってくれれば気が休まったかもしれない。
もし、そうなら彼もどこかで生きていてくれる、
私の存在も知らずに、楽しげに野原を駆け回っているだろう。
夢から醒めて、私は新しい一日を過ごせばいい。

でも、夢じゃない。夢で終わらせたくはない。
あの日々が幻なんかじゃない、かけがえのない宝だったから。
だから幕を引こう。他ならぬ私自身の手で。

「我が導きに答えなさい!」

それは出会いと別れの言葉。
一つの物語は終わり、そして少女は少年と出会った。
彼女の使い魔、『ゼロの使い魔』に―――。


「デルフ」
「何だ相棒?」
「俺は前の奴の事なんて、これっぽちも知らねえけど」

全てを聞き終えた才人は扉に背を預けながら、ずるずると腰を下ろした。
気力を使い果たしたかのように座り込んで呟く。
あまりにも違いすぎる。才人には彼のような力も覚悟もない。
背負った物があまりに大きすぎる、その現実に立ち上がる気力さえ失われていた。
何故、自分なのか、それを問いかけようにも神にまで声は届かない。
愚痴を零すように才人は続ける。

「……とんだ大馬鹿野郎だ。何にも報われねえじゃねえか。
何にも遺せなかった、そいつの一生に意味なんてあったのかよ」
「意味はあったさ。それもとびきりデカイやつがな」

デルフの意外な返答に、俯いた顔を起こす。
それに、まるで当然のようにデルフは告げた。

「相棒は、嬢ちゃんは命に代えても守り通した。
だから生きている。だからお前さんとも出会えた。
それ以外に何の意味が必要だって言うんだ、この大馬鹿野郎」

デルフの叱咤が部屋に強く響き渡る。
二人の巡り会いは運命だったのかもしれない。
だけど、それに繋がる未来を勝ち取ったのは彼だった。
今があるのは惰性なんかじゃない。
過去という時間を瞬間として生きて戦った者がいたから。
ここにあるのは誰かに守られてきたものなのだ。
処分しろと命じられた首輪を彼女が隠し通したように。

699ゼロいぬっ!:2009/04/25(土) 17:03:37 ID:dPBRqNnM

「やっと分かったような気がするぜ、相棒。
なんで今頃になって、その首輪が出てきたのかな」

視線を落とした先には擦り切れ褪せた首輪。
その感触を確かめながらデルフの言葉に耳を傾ける。

「それはバトンだ。前の相棒から今の相棒へ受け渡されたバトンだ」

寿命のないデルフは多くの生命を生まれ死んでいくのを見つめてきた。
彼の目を通して見た人の一生はゴールの見えない競争のようだと思った。
あっという間に駆け抜けていく者、ゆっくりと一歩ずつ踏み締めていく者、
倒れても立ち上がり、足を止めても再び歩き出し、自分の歩んだ道を振り返る。
善も悪もなく一人一人が、ただあるかどうかも判らないゴールへと向かう。
それは長命の種族から見れば儚く、また愚かしい行為に映るかもしれない。
しかし、デルフはそれを羨ましくも思う。
そう思うからこそ剣として彼らの人生に関わるのだ。
デルフは一度だけ前の相棒に生まれを聞いた事がある。
ここに来るまでの彼は生きていなかった。
生きる意味も知らずに、ただ心臓と脳が動いているだけの実験材料。
きっと嬉しかったに違いない。自分の人生が得られた歓喜に沸いたのだろう。
誰よりも早く走り続けてゴールを駆け抜けてしまった。
それできっと満足だった。
ただ、一人残されるルイズの事を不安に思ったんだろう。
だから袖を引っ張って相棒を連れてきた。
共に支えあいながら彼女と一緒に歩んでくれる奴を。

「お前さんに未来を託したい、そんな気持ちの表れなのかも知れねえな」
「……買いかぶりすぎだ。俺はそんな御大層な奴じゃない」

デルフの言葉に才人は謙遜ではなく本心で答えた。
彼の覚悟も勇気も力も引き継げるほど自分は強くないと。
だけど、と付け加えて首輪を力強く握り締めた。

「俺は絶対にルイズを一人にしない、それだけは誓える」
「ああ、きっとそれが聞きたかったんだよ、アイツはな」

この宣誓は前の相棒に届いただろうか。
いや、聞こえているはずだ。
だから安心してくれ。お前が選んだ奴に間違いはなかった。
そして俺も全てをかけてでも相棒を守る。
それがお前を死なせちまった、俺のせめてもの償いだ。

700ゼロいぬっ!:2009/04/25(土) 17:04:12 ID:dPBRqNnM

「いつまで掃除してるのよ! 早くしないとラ・ロシェール行きの馬車が出ちゃうわよ!」

ばんと景気よく開け放たれ、主人である少女が飛び込んでくる。
見渡せば掃除は途中で放棄され、デルフとお喋りしている使い魔一匹。
凄まじい剣幕で捲くし立てる彼女の言葉を背中で受け止めながら、
才人はそっと首輪をポケットにしまった。
しばらく、ここには戻っては来れない。
これからルイズと共にアルビオンに、戦場に赴くのだ。
だから一緒に戦場に連れて行こうと思った。
背中に蹴りを受けながら、平賀才人は雑巾の入ったバケツを手に立ち上がる。

「すぐに終わらせるから待ってろ」
「え? う、うん」

文句の1つも言わずに作業に戻る才人にルイズは違和感を覚えた。
もしかして、どこか頭を強く打ちつけてしまったのかとさえ思った。
手際よく掃除を始めた才人の背中を遠い景色のように見つめながら、
ふとルイズは思いついたように彼に訊ねた。

「……ねえ、アンタ、ひょっとして背伸びた?」

701ゼロいぬっ!:2009/04/25(土) 17:06:54 ID:dPBRqNnM
以上、投下したッ!
今回は99話前編です。
さすがに、そろそろ終わりそうです。
エンディングだけで時間がかかりすぎですね。

702ゼロいぬっ!:2009/05/19(火) 21:09:40 ID:04CJGkrk
規制されているのでどなたか代理投下をお願いします。

703ゼロいぬっ!:2009/05/19(火) 21:10:42 ID:04CJGkrk

息せき切らしてアルビオン軍の伝令が陣中を駆け抜ける。
歓喜とも困惑とも取れぬ表情を浮かべながら天幕の中へと入り込む。
左右には衛兵が立ち、その中央では二人の男がテーブルに地図を広げて軍議を行っていた。
アルビオン軍と連合軍の配置を示す白と黒の駒。
数に勝る連合軍はアルビオン軍を半包囲し、戦の趨勢も決したかに見えた。
しかし、それを覆す報が伝令より齎される。

「報告します!連合軍内にて叛乱が発生した模様です!
詳細は不明ですが敵軍は混乱し、中には同士討ちを始める者達も!」

その報告にホーキンスは思わず耳を疑った。
優勢な状況にある連合軍で内部分裂など有り得ない。
何が起きたのかを把握しようとする彼の隣で、
表情一つ変えないまま総司令は報告された地点の駒の配置を動かす。
ホーキンスが見下ろした先には、アルビオン軍によって包囲される連合軍の縮図が広がっていた。
もし、このまま完全に包囲し殲滅する事が出来たならアルビオンの勝利は確定する。
息を呑むホーキンスの横でアルビオン軍総司令は呟いた。

「さもありなん。所詮は目先の利益で繋がっていた連中に過ぎない。
勝利を前にして主導権を握らんと、どちらかが仕掛けたのだろう。
いくら御題目を立てようと正義は我等にある。アルビオンの民もそう気付いたはずだ」

果たしてそうだろうか、とホーキンスは疑念を払拭できずにいた。
レキシントンでの戦いの時も『ロイヤル・ソヴリン』号が反旗を翻すなど、
貴族派が苦境に立たされると何故か戦局を覆すような反乱が起きた。
もし、それが誰かの意志によって引き起こされたのだとしたら我々は何の為に戦っているのか。
信念も誇りも何の意味も持たない、ただの駒ではないのか。
かつて憧れた理想との落差にホーキンスは悔しくて唇を噛んだ。

「これより我が軍は追撃戦に移る。陣頭指揮は任せたぞホーキンス。
この天候では軍船も容易に出港できまい、アルビオンから一人として生かして帰すな」
「はっ! ……ですが、本当によろしいのですか?
トリステインのアンリエッタ女王は陛下の従兄妹君……いえ、それ以上の」
「ホーキンス」
「出来すぎた真似をしました、お許しを」

低く響いた声にホーキンスは身を固くして頭を下げた。
しかし、それを窘めもせず頭を上げるように促すと彼は続けた。

「私とて彼女を信じたかった。だが、現に彼女はアルビオンに侵攻した簒奪者なのだ。
正統たるアルビオンの継承者である私が戻ったにも関わらず彼女は軍を退こうとはしなかった。
私は私情は捨てたのだ。貴族派も王党派もなく、ただアルビオンを守る為に。
それが私を匿ってくれたクロムウェル司教へのせめてもの手向けだ」

704ゼロいぬっ!:2009/05/19(火) 21:14:32 ID:04CJGkrk

私情を捨てた……か。
時折、人とは思えぬ冷たさを感じたのはその所為か。
アンリエッタ女王が軍を退けなかったのも仕方あるまい。
巨費を投じて侵攻しておきながら何の成果も上げずに帰還したならば、
トリステイン王国は諸侯貴族や平民の反発を受け、その権威を失墜させただろう。
同盟国のゲルマニア帝国との兼ね合いもある。
恐らくは彼女は身を引き裂かれる想いで戦っていたに違いない。

だが、同情できるほど我々は優位に立っていない。
ここで連合軍を逃せば一時的には勝利しても、
最終的には圧倒的な国力の差に平伏す事になる。

「それでは行って参ります。ウェールズ陛下」
「ああ、吉報を期待している」

恭しく礼をして天幕を立ち去る。
用意してあった軍馬に跨ったホーキンスが全軍に指示を飛ばす。
反乱を起こした兵を加えれば総勢七万という途方もない軍勢。
大地を踏み鳴らしながら迫り来るその姿は、さながら山が動いたようにさえ見える。
それを天幕の傍らで眺めながらウェールズは呟いた。

「どうせ人形ならば自由意志など無い方が楽というもの」

否。それはウェールズの口を借りた繰り手の言葉。
死を迎えても尚、ウェールズの身体は悪夢に囚われたままだった。

ウェールズ・テューダー
……死後、トリステイン王国の宮廷内にある霊廟に安置されるも、
シェフィールドの手により奪われ、生ける屍として彼女の手駒にされる。
王党派と貴族派を束ね、神聖アルビオン共和国の議長として君臨する。


夜が到来したかのように立ち込める暗雲。
暴風が吹き荒び、張り詰めた帆が悲鳴じみた声を上げる。
軍勢から逃げ惑い、船へと殺到する人々で港は埋め尽くされた。
その狂乱と悲鳴を背に受けながら一隻の船が港から離れようとする。
遠ざかっていくアルビオンの大地を船室からアンリエッタは見た。
見捨てられたと思い、乳児を抱いて飛び降り自殺を図った母親を兵士が止める。
なんとしても船に乗り込もうと軍艦に押し寄せる民衆とそれを防ぐ兵士達。
誰もが口々に助けを求め、絶望の中を這いずり回っていた。

「船を止めなさい! 私は最後まで残ります!」
「女王陛下、それはなりませぬ!」
「何を言うのです! タルブの時と同じく、
王家の者が威光を示さねば誰が従うというのですか!?」
「なればこそ! 誰よりも先にこの場を離れるべきなのです!
陛下より先に逃げ出したとなれば彼等の名誉は失われましょう!」

アンリエッタの言葉をマザリーニは力強く遮った。
多くの軍備と兵、物資に本国から伴ってきた民衆。
失われる物は確かに大きい。再起までには長い時間と労力を要するだろう。
だが、決して取り返しのつかない物ではない。
真に恐れるべきはアンリエッタ女王を、
トリステイン王家の正統な血筋を絶やしてしまう事に他ならない。
要を失えばトリステインは瞬く間に瓦解する。

705ゼロいぬっ!:2009/05/19(火) 21:15:15 ID:04CJGkrk

「非難や中傷に耐えられぬというのならば、この私をお斬りください!
全ては矮小な枢機卿のしでかした事と、広場に首を晒せば皆納得するでしょう!」
「………………」

死を厭わぬマザリーニの決意にアンリエッタは返す言葉が見つからなかった。
命よりも重いとされる名誉さえも捨てて汚名を被ろうとする忠臣に、
どうやって引き下がれと命ずる事が出来るだろうか。
己の重責を新たに感じ取りアンリエッタは確認するように呟いた。

「……生きる者の責任ですか」
「御意」
「ならば私は罪を負いましょう。民を、兵を、罪無き人々を見捨てた罪を」
「お供します。たとえ、その先が地獄であろうとも」

視界の端に消えていくアルビオンを眺めてアンリエッタは告げた。
ここで失われたものを決して忘れる事はないと。
神と始祖に縋るように伸ばした手を振り払った事を、
哀願する彼等の視線を振り切って背を向けた事を、
思い出す度に彼女は後悔し続けるだろう。
地獄に等しい責め苦を受けようとも、それでもアンリエッタは生きる道を選んだ。

アンリエッタ・ド・トリステイン
……タルブの勝利を国威啓発に利用した軍部により、やむを得ずアルビオンとの開戦を決断。
前の使い魔の頃には出来なかった分、平民である才人にもルイズと変わらぬ扱いで接する。
生涯独身を貫きハルケギニア有数の名君として後世に名を残す。

マザリーニ
……アンリエッタの腹心として誠心誠意仕える。
時に無鉄砲になりがちな彼女を抑え、よき相談役となる。
ただ、才人を重用する事には些か疑問を抱いており、
貴族の特権を軽んじるアンリエッタと度々衝突する。
彼もまた、アンリエッタと共にハルケギニア史に足跡を刻む。


「ダメだ! 許可無き者は船に乗せられない!」

停泊している軍艦に押し寄せる者を兵士達が妨げる。
船の数は十分に足りているものの、荒天で作業が一向に捗らない。
その合間にもアルビオン軍はすぐそこまで迫って来ているのだ。
出港の準備を整えた艦に乗せてもらおうと詰めかける。
しかし、最優先で逃がされるのは高級貴族の士官で、
身分の低い者はとても乗せてくれそうにない。
多くの者が諦めて別の船を捜す中、ギーシュは一人の少女を抱えて兵士に歩み寄った。

「志願兵か。残念だがこの艦は満員だ。他のを当たれ」
「僕じゃない! 彼女を乗せてくれ、今すぐだ!」

叫ぶギーシュに兵士は彼の腕の中へと視線を下ろした。
桃みがかったブロンドの髪の可愛らしい少女が静かに寝息を立てている。
それを見て、兵士はギーシュの気迫に納得した。
恐らくこの少女は彼の恋人なのだろう。
ここに残ればアルビオンの連中にさんざ嬲り者にされた挙句、
殺されるか奴隷として売り飛ばされるに違いない。
なら、我が身を犠牲にしてでも助け出したいという気持ちは良く分かる。
だが規則は規則。そのような感情論で語れば、ここにいる全員を助けねばならない。

706ゼロいぬっ!:2009/05/19(火) 21:15:58 ID:04CJGkrk

「すまないがそれは出来ない。軍規には従ってもらおう」
「彼女はラ・ヴァリエールの三女だ!」

ギーシュの言葉に兵士は声を詰まらせた。
こちらを見据えるギーシュの眼差しに曇りはない。
もし、彼の言う事が本当だとしたら……?
顔を強張らせる兵士に畳み掛けるようにギーシュは続ける。

「もし、彼女の身に何かあってみろ!
彼女を見捨てたアンタは間違いなく処刑される!
いや、アンタだけじゃ済まされない! その累は家族や友人にまで及ぶ!
他に誰も乗せられないなら、まずアンタが降りるべきだろう!?」

権威を傘に着た悪辣な笑みを浮かべてギーシュは兵士に迫る。
たじろぐ兵士の姿にギーシュは勝利は確信した。
慌てた兵士が艦長へ伝令を遣すと返事は呆気ないほど早く返ってきた。

「ラ・ヴァリエール嬢の乗艦を認めます。
この艦は間もなく出航します。さあ、こちらへどうぞ」
「ああ、ありがとう」

横に退いて乗艦を促す兵士にギーシュは礼を告げた。
そしてルイズを兵士に預けると安心したように彼は艀を降りていく。
当然ギーシュも乗るものだと思っていた兵士は目を丸くさせて呼び止めようとした。

「“任せとけ”彼女が起きたら才人がそう言ってたって伝えてくれ!」

ギーシュはそう叫んで大きく手を振った。
彼は才人にルイズを託された。
ギーシュが認めた親友の願いだったから、
あの時と同じ様に、また彼を助ける事は出来なかったから、
せめてルイズだけは、彼の一番大切なものだけは守りたかった。
満足げな笑みを浮かべて艦を見送るギーシュに、兵士は心よりの敬礼で示した。

「あ、ちょっと待った! もし僕が逃げられなかったら
“実に勇敢な最期だった”って学院に居るモンモランシーに……」

嵐に紛れて遠ざかっていく軍艦にかけた声はもう届かない。
彼女に格好つけ損なったとギーシュはがっかりしたように肩を落とす。
そんな彼の周囲をトリステイン魔法学院の生徒達が取り囲む。
全員が志願兵としてアルビオンとの戦争に参加した連中だ。
恨みがましい目でギーシュを睨みつけると彼の襟を荒々しく掴む。

707ゼロいぬっ!:2009/05/19(火) 21:16:36 ID:04CJGkrk

「どうして“ゼロ”だけ行かせたんだ!
上手く言えば俺達も乗せてもらえたかもしれないだろ!?」
「そうだ。いくらラ・ヴァリエールだからって特権を振りかざしていいものか!」

貴族として特権を振りかざす人間の言う事か、そう言おうとしてギーシュは口を噤んだ。
どうも悪友と付き合いだしてから口が悪くなったような気がする。
だが気分は悪くない。ああいう風に生きられるならどれほど楽だろうか。

「僕達にあの船に乗る権利はない」

神経を逆撫でると知っていてギーシュは平然と口にした。
激昂する彼等を見上げながら、それだけはどうしても譲れなかった。
ルイズを船に乗せたのは、彼女を守る為に残った才人の『権利』。
命も名誉も何も残らない戦いに望む、彼の当然の権利だ。
それを知っているからこそギーシュは船には乗らなかった。

鈍い音が響きギーシュの身体が投げ出された。
頬に走る痛みと熱。それを実感して初めて殴り飛ばされたのだと理解した。
拳を鳴らしながら志願兵達が倒れたギーシュへと詰め寄る。
その眼には憎悪の炎を灯し、まるで親の仇にでもあったかのような殺意を滾らせる。
否。正確には自分達の仇だろう。ギーシュが助かるかもしれない望みを断ち切ったのだから。

「てめえ、もしも逃げ遅れたら俺達は……」
「間に合うさ」

再び殴りかかろうと拳を振り上げる男を前に、ギーシュはさも当たり前のように呟いた。
彼だって命は惜しい。本当に危険なら我先に逃げ出していただろう。
だけど彼は知っていた。アルビオン軍は追いつかない。
七万だろうが百万だろうが、そんなのは関係ない。
走り出したアイツを止められる奴なんていやしない。

「アイツが“任せとけ”って言ったんだ、間に合うに決まってるさ」

なあ、そうだろう……才人。


ギーシュ・ド・グラモン
……タルブ戦後、すっかりやさぐれるものの、
モンモランシーの香水を巡り才人と決闘、前任と同様に彼を認めるようになる。
今ではすっかり気の合う悪友として無理やり遊びに付き合わせている。
サウスゴーダでは一番槍を果たし精霊勲章を授与される。
後に水精霊騎士隊の隊長に就任し数々の武功を立てる。

708ゼロいぬっ!:2009/05/19(火) 21:17:06 ID:04CJGkrk

「これは何の真似だね?」

後甲板で作業監督をしていたボーウッドは訊ねた。
彼の周りには杖を向ける船員、その多くは魔法学院からの志願兵だ。
トリステイン軍が窮地に陥った事でアルビオンの兵達は裏切るのではないか、
もしかしたらこの船と船員を手土産にするつもりかもしれない、
そんな妄想に取り憑かれた彼等は暴発するように反乱という行動に移したのだ。
それはアルビオンの士官だったボーウッドが自分達の上官という耐え難い屈辱もあったのかもしれない。
いつアルビオン軍が襲ってくるかもしれない状況で新兵が冷静を保つのは困難だった。

杖を突きつけられているのに平然と振る舞うボーウッドに対し、
彼等の手は震え、杖の先端も定まらずに揺れ続ける。
呆れ顔でそれを見つめながらボーウッドは溜息混じりに聞き返す。

「それで? 私を殺した後は誰が指示を出す?」
「え?」

思わぬ問いかけに全員がお互いの顔を見合わせる。
そんな事、言われるまで考えもしなかったという表情を見せる。
ここにいるのは皆、操船経験のない素人の集まりにすぎない。
的確な指示を貰わなければ満足に船も動かせない。

「この中に近辺の岩礁の位置を把握している者は?
視界の利かない嵐の中で正確な航路を辿れる者はいるか?」

ボーウッドの言葉にざわめきが小波のように広がっていく。
元々、計画的な反乱ではない彼等に今後の見通しなどある筈もない。
うろたえる彼等を一通り見回した後、ボーウッドは大きく息を吸い込んだ。

「全員、直ちに所定の位置に戻らんかァ!
マリコルヌ、スティックス、貴様等は大砲と砲弾を外に運び出せ!
余分な荷物は全て破棄する! 可能な限り外の連中を艦に収容する!」

天を揺るがさんばかりの怒号に蜘蛛の子を散らすように船員は走り出した。
特に名指しで呼ばれた二人は青い顔をしながら慌てて作業に取り掛かる。
まさか、これだけの船員がいるのに一人一人の名前を憶えていたとは。
それに杖を向けられていながら揺るぎもしない豪胆さ。
ボーウッドとの格の違いを思い知らされ彼等は身震いした。

(……どうにも私には戦運がないようだな)
混迷の様相を呈する港を見下ろしながらボーウッドは一人ごちる。
圧倒的な軍勢を率いながらトリステイン王国に敗北し、
優勢なトリステイン側に付けば今度はアルビオン大陸から追い出される始末。
早々に隠居してしまった戦友を恨めしく思う。
元々アルビオンの軍人である彼にはこれ以上トリステイン王国の為に戦う義理はない。
タルブ戦での借りはアルビオン上陸戦で存分に果たしたと言っていい。
この混乱に紛れて姿を消したとしても誰も疑いはしないだろう。
どうするべきかと悩むボーウッドの耳に竜の羽ばたきが響く。
見上げた先にはアルビオン王国の紋章を掲げる竜騎士が数騎、
荒れ狂う暴風の中を隊列を乱すことなく飛び立っていった。

サー・ヘンリ・ボーウッド
……タルブ戦後、捕虜となりトリステイン軍に士官として従軍。
経験不足の新生トリステイン艦隊に協力し、アルビオン上陸戦において多大な貢献を果たす。
アルビオン撤退戦において脱出船団を先導して無事に帰還を成功させる。
その功績に免じ、アンリエッタ女王から軍役の終了を告げられ自由の身となる。
以降、軍を引退して幸せな余生を過ごす。

709ゼロいぬっ!:2009/05/19(火) 21:18:29 ID:04CJGkrk

「隊長、これからどうされるおつもりですか」

飛礫の如く降り注ぐ雨音にも掻き消されぬように隊員が声を張り上げた。
多分、そのような質問をしたのは後にも先にもこれっきりだろう。
常ならば撤退するトリステイン艦隊を護衛するべきだ。
だがウェールズが存命しており、さらにはアルビオンの実権を取り戻したという報が彼等の心を乱した。
もし事実だとするならトリステイン王国に加担する理由などない。
彼等は誇り高きアルビオン王直属竜騎士隊、王に刃を向ける事は有り得ない。
夢にまで見た王国の復権、それを前にして平静でいられるはずもなかった。

「……それを決めるのは俺じゃない、お前達だ」

一際大きく羽ばたいて隊長の火竜はその場で滞空する。
静かに告げた言葉が激流にも似た嵐の中で透き通って響く。
振り返り、隊の全員を眺めながら彼は話を続けた。

「ウェールズ陛下の下に戻りたい者がいるなら止めはしない。
このままトリステイン王国に残るのもいいだろう、自分で決めろ」

彼の突然の言葉に隊員達は己が耳を疑った。
隊員達にとって正しいのは王と隊長の命令、それだけだった。
常に先陣を切って戦場を駆け抜ける彼の姿が灯台の光のように道を示してくれた。
しかし彼は自分で決めろと言った。隊長としてではなく戦友として。
戸惑いながらも一人の隊員が彼に聞き返した。

「隊長は……ウェールズ陛下が生き延びたとの話を信じていないのですか」
戦場で虚報が飛び交うのは当然の事であり生存説はその最たる物だ。
その多くは敵を混乱させる物であったり誤解から生じる物など様々だ。
その問いかけに隊長は歯を食いしばりながら答えた。

「出来るなら信じたい。何度もそうあって欲しいと願った。
トリステイン王国の霊廟で陛下の遺体を目にした後もな」

手綱を掴む隊長の手が震える。
アルビオンから生還し、絶望的ともいえるタルブ戦を潜り抜け、
そうして再会した物言わぬ主の姿を前に彼はどれだけ嘆いただろうか。
死んだと分かっていたとしても目の前に突きつけられた真実は重すぎた。
叶うならば持てる全てを犠牲にしてでも蘇って欲しいと願った。
かつてワルドが母親の遺骸の前でそう願ったように。
そしてアンリエッタがウェールズの亡骸の前で思ったように。

しばらくして二騎の火竜が大きく羽ばたいた。
火竜の見据える先は連合軍のいる港ではなくアルビオン軍のいる内陸。
他の隊員が困惑する中、隊長と二人は互いに敬礼を交わす。
それはここまで共に戦ってきた戦友との訣別を示していた。

「今まで御世話になりました隊長。御武運をとは言えませんがお達者で」
「ああ。さらばだ戦友」

次第に小さくなっていく二騎の火竜を彼は見つめる。
たとえ敵味方に別れようとも彼等は間違いなく戦友だ。
しかし、これから戦うべき相手に言う事ではないとあえて黙した。
そして残った連中へと振り返り再度訊ねた。

710ゼロいぬっ!:2009/05/19(火) 21:19:09 ID:04CJGkrk

「それでお前達はどうする? 今ならまだ追いつけるぞ」
「ウェールズ陛下が生きているかどうかは分かりません。
ですが、陛下の下された最後の命令はまだ生きていると確信します」

笑みを浮かべて隊員の一人はそう答えた。
『アルビオンから脱出する船を護衛せよ』
あの時とは状況も意味も違うがトリステイン王国は紛れもなく同胞だ。
それを討たんとするウェールズの行動は命令を下した時とは真逆。
ならば己の内に存在する陛下の御心に従うべきだと彼等は判断した。
そうか、と満足げな笑みを浮かべた隊長が彼等と敬礼を交わす。
隊員達が港へ引き返そうと火竜を反転させる。
しかし続くと思われた隊長はまだその場に留まっていた。

「どうされたのですか? 何か騎竜に不調でも?」
「お前達は先に行け。俺はやる事が残っている」

そう言いながら彼は火竜を全力で駆けさせた。
誰が信じるだろうか、七万の大軍を相手に一人で殿を務める大馬鹿野郎の存在を。
もうとっくに殺されているかもしれないが、それでも彼は竜を飛ばす。
タルブの時の無念が心に染み付いていたからかもしれない。
遠ざかっていく隊員達の声を背に受けて彼は力強く答えた。

「英雄殿を迎えに行くんだよ!」

アルビオン王直属竜騎士隊
……王党派残党の脱出およびタルブ戦で大半が戦死。
生き残った内の2名は神聖アルビオン共和国へと下った事が判明、
隊長以下3名は追撃する先遣竜騎士隊と遭遇、
これと交戦した以降の消息は不明。


軍艦に群がる兵士達とは別に、港のやや離れた場所からそれを窺う一団があった。
誰もが厳つい風貌をし、野盗と見紛わんばかりの彼等はトリステインに雇われた傭兵達だった。
中でも彼等は一人一人がそれぞれの傭兵団を抱える頭目。
その彼等は船に乗り込もうとはせずに黙って成り行きを見届けている。
脱出が優先されるのは高級貴族、次いで中流貴族、下級貴族、正規兵、志願兵……、最後に傭兵だ。
どんなに慌てても順序が入れ替わる事はないだろう。
それを知っているからこそ傭兵達は動かないのだ。

「どうするよニコラ。このままじゃ俺ら皆殺しだぜ?」
「いっその事、あの船やっちまうか?」

だが危機が差し迫っている状況に変わりはない。
リーダー格の男に今後の相談を持ちかける中、
一人が出航の準備を続ける戦列艦を指差して銃の引き金を引く仕草をする。
それは空賊や海賊が好む、襲撃を意味するサイン。
乗せてもらえないのなら奪ってしまえばいい。
短絡的な行動かもしれないが傭兵達の中にはそれを副業とする者も多い。
手馴れた奴がいればたとえ正規兵だろうと混乱している相手に遅れは取らないだろう。
僅かに現実味を帯びた提案にニコラは静かに首を振った。

「やめとけ。港を出た所で沈められるのがオチだ。
仮に逃げられたとしても脱走兵を受け入れる所なんてありゃあしねえよ」

既に何隻かは出航しており船団を組む為に沿岸に待機しているはずだ。
上手く奪えたとしても素人が操船する軍艦なんざ鴨を撃つよりも容易く沈められる。
ニコラの返答に一同は大きく溜息を零した。
彼が無理と言った以上、それはどう足掻こうとも無理だと悟ったのだ。
しかし、すぐに別の者達が新たな提案を持ち出す。

711ゼロいぬっ!:2009/05/19(火) 21:19:55 ID:04CJGkrk

「じゃあ、あっちの民間船はどうだ?
あれなら連中もそれほど目くじら立てたりしねえだろ」
「それよりも、いっそアルビオンの方に付かねえか?
適当な貴族を手土産にすりゃあ邪険にされねえと思うが」

彼等の提案を耳にしつつ、ニコラは思案に暮れた。
もし貴族や正規兵がいれば人道に悖ると反発しただろう。
だが彼等は傭兵であり、優先されるのは金銭と自分達の命だけだ。
名誉などという形のない物に執着する事はない。
いざとなれば雇い主さえ裏切って生き延びるに違いない。

悴む手に息を吐きかけながら視線を配らせる。
視界さえも遮る豪雨のせいか、自分達に注意を払う者はいない。
算段を巡らせるニコラの視界にふと何かが目に留まった。
それは一人の少年を取り囲む集団の姿。
罵るような大声が雨音に消される事なくここまで響く。
見覚えのある少年の姿、そして会話の内容を聞いてニコラは立ち上がった。
ざわめく仲間を無視して、つかつかと少年達に近付いていく。
歩み寄るニコラに、少年をリンチしていた集団の一人がなにやら叫ぶ。
恐らくは警告か何かのつもりだったのだろう、
その少年が迎える最期を察した傭兵達が合わせたように十字を切る。

直後、少年の顎に叩き込まれるニコラの拳。
血飛沫に混じって歯が何本か飛び散る。
泡を食って逃げ出す集団には目もくれず、
ニコラは暴行を受けていた少年に自分のコートを被せた。
やがて傭兵達の所に戻ると笑みを浮かべて告げた。

「いや、もっと良いアイデアがある。
アルビオンの連中をここで撃退しちまうのさ」

突然のニコラの発言に、傭兵達は戸惑いを隠しきれなかった。
敵は七万、傭兵達の数は多く見積もってもせいぜい数百。
どう足掻いたって勝てるとは到底思えない。
困惑する彼等を前に、雨風に負けぬよう声を張り上げてニコラは説明する。

「勝つ必要はねえ。追撃しても無駄だって連中に思わせればいい。
防塁を築く資材だって十分にあるし建物だって使える。
それに武器だってここには幾らでも揃ってるぜ」

くい、とニコラが顎で示した先には、
覚束ない足取りをした太っちょに運び出される大砲。
雨に濡れぬよう防塁越しに横一列に並べて砲撃すれば、
かつてニコラがギーシュに語った通り、それがたとえ大軍であろうと足は止められる。
しかし圧倒的な戦力差を前に動こうとする者は誰もいなかった。
どうしてそんな無謀な賭けに歴戦の戦士であるニコラが挑むのか、
彼等には何一つとして理解できなかった。
そして、ついに堪りかねた傭兵が声を上げた。

712ゼロいぬっ!:2009/05/19(火) 21:20:51 ID:04CJGkrk

「無理に決まってるんだろ! 敵は七万だぞ!
そんな大軍相手に足止めなんて奇跡でも起きない限り……」
「奇跡なら起きただろ、あの時もよ」
「……タルブの戦いか!」

ニコラの言葉にハッと思い出したかのように傭兵達は顔を上げた。
このアルビオン戦に参加している傭兵の中にはタルブの戦いを経験した者も多かった。
正に奇跡というべき逆転劇を目の当たりしていた彼等に一筋の光明が差す。
それを眺めながらニコラは楽しげに話を続ける。

「そうだ。憶えているだろ、公の記録から消されちまった『ラ・ヴァリエール嬢の使い魔』。
そのたった一匹で大軍を蹴散らした怪物がよ、今度は七万相手に一騎駆けしてるんだとよ」

吹き荒ぶ嵐にも似たざわめきが傭兵達の間に広がっていく。
実際にその光景を目にした者も、また風聞でしか知らない者も、
また奇跡が起きるかもしれないと信じ始めていた。
全てを倒せなくとも統制を乱した相手ならば足止めも不可能ではない。

「上手くすりゃあ楽して大手柄だ。一生使い切れないぐらいの恩賞に与れるぜ」

親指と人差し指で輪を作りながらニコラはにやりと笑みを浮かべる。
その一言で傭兵達の腹は決まった。次々と自分の傭兵団へと指示を下していく。
せっせと作業に取り掛かる彼等を眺めながら、
ニコラは雨に濡れた自分の頭をがしがしと掻いた。
(まあ、嘘は言ってねえよな、嘘は)
たとえばラ・ヴァリエール嬢の使い魔が犬から人に代わってたとか、
そういうのは聞かれたら答えればいい事であって説明の必要はないだろう。
ガキの頃、神父に口酸っぱく『嘘だけはつくな』と叱られたので言いつけは守っている。
地獄に落ちると脅されても、これっぽっちも信じちゃいないが神父との約束だから仕方ねえ。
もちろん、神様も始祖も英雄も奇跡だって信じちゃいねえが。

「……大将、アンタの幸運に賭けてみよう」

平民の少女に助け起こされるギーシュを見つめながらニコラはそう呟いた。

ニコラ
……タルブ戦後、ギーシュの副官としてアルビオン戦役に参加。
戦闘経験のないギーシュを補佐し、彼にサウスゴータ一番槍を取らせる。
撤退戦では傭兵部隊を指揮し、アルビオン軍の追撃を押し留めるも包囲されて逃げ場を失う。
もはやこれまでと覚悟を決めて一人でも多く敵兵を道連れに……とは露ほども考えず直ちに降参。
鉱山で仲間に愚痴を聞かされながら強制労働に勤しむ。

713ゼロいぬっ!:2009/05/19(火) 21:21:32 ID:04CJGkrk

民間船の中は足の踏み場もないほどすし詰め状態だった。
元々、軍港の大半を軍艦が占めていて数が少ない上に、
近くを通りがかった船も危険を察知して引き返している状況だ。
アンリエッタが民間船を買い取らねばこの船もすでに港から離れていただろう。
絶望的な状況に恨みがましい声や悲嘆に暮れる声があちこちで響く。
そんな彼等を勇気付けようと船員達が励まして回る。
「……なんでアルビオンに来るといつもこうなんだよ」
「ご安心ください。船長はかつてアルビオン軍の追撃からも逃れた事があるベテランで……」
それらの声を無視してシエスタはギーシュを船内へと運び込む。
狭い船内でありながら負傷者や病人を手当てする空間は辛うじて残されていた。
そこにいた医者にギーシュを診察してもらいながら彼女は尋ねた。

「才人さんは!? ミス・ヴァリエールはどうされたんですか!?」

ゆさゆさと彼の両肩を揺すりながら医師の制止も振り切って尋問する。
言わなければ殺されるかもしれない位の迫力に呻きながらギーシュは答えた。

「才人は殿を……。ルイズを避難させて欲しい、と僕に預けて…」
「そんな!?」

パッとシエスタが手を離した瞬間、ギーシュは床に後頭部を打ち付けた。
文句を言おうとしたギーシュを踏みつけてシエスタは駆ける。
しかし甲板へと出て行った彼女が目にしたのは遠ざかるアルビオンの港だった。
彼女がギーシュを運んだ後すぐに船は出航していたのだ。
もはや彼の下に向かいたくとも港に戻るすべはない。
泣き崩れるように彼女はその場に膝をついた。

「また、会えますよね……?」

シエスタの瞳から零れた大粒の涙が雨に混じって流れ落ちる。
ぎゅっと彼女はポケットにしまっていたお守りを握り締めた。
それはいつもシエスタが“彼”にかけていたブラシ。
ルイズが首輪を隠していたように彼女もまた思い出を守り通した。
あの日の別れを思い出しながら彼女は呟く。

「まだ、お別れを言っていないんですから……また会えますよね」

願いにも似た言葉は吹き荒ぶ嵐と雷鳴に消える。
一人戦場で剣を振るう少年に、その声が届く事はなかった……。

シエスタ
……“彼”に受けた恩を才人に返そうと優しく接するうちに愛が芽生える。
今ではルイズに張り合って才人を奪い合うような関係に発展している。

武器屋の親父
……逃亡中に路銀が底をつき、戦時中の稼ぎを見込んでアルビオンへ。
そこそこの売り上げが出たものの敗戦で売り物を捨てて逃げざるを得なくなった。

『マリー・ガラント』号船長
……トリステイン王国より得た恩賞を元手に新たな船を購入、
アルビオンとの連絡船として難民や行商人を運ぶ仕事に就く。
船名は今も『マリー・ガラント』号のまま。

714ゼロいぬっ!:2009/05/19(火) 21:23:45 ID:04CJGkrk
以上、投下したッ!
今回は99話中編です。
次回は学院に残った人達と才人の奮闘で綴る後編です。

715ゼロいぬっ!:2009/05/19(火) 21:27:04 ID:04CJGkrk
前回、代理投下してくれた方、ありがとうございました。

716おれは使い魔になるぞジョジョーッ!:2009/06/22(月) 21:28:29 ID:kEjg.Au.
すいません、本スレの方で「おれは使い魔になるぞジョジョーッ」を書いているものです。
先日はまたお騒がせしてすみません。あの時はまさにポルナレフのAAそのまんまの心境でした。
「…信じられねぇな」って方はスタンドって事にしておいてください。
本題に入りますが、規制されてしまったのでこちらにて投下させていただきます。
どなたか代理投下をお願いします。
今回は第五話、幕間、第六話です。幕間には若干ネタが入っているので気をつけてください。

717おれは使い魔になるぞジョジョーッ!:2009/06/22(月) 21:29:11 ID:kEjg.Au.
ディオはルイズによって召喚された。だが、彼は四系統のいずれにも当て嵌まる覚えはなかった。
ディオは自らが召喚された理由を考えるが、その間にも運命の歯車は回り続ける。

おれは使い魔になるぞジョジョーッ! 第五話

朝食の席で特筆するような事はなかった。食堂に入ろうとするディオをルイズは物陰に引っ張り込み、
使い魔が食堂に入れる事自体が特別なんだから床で十分だと説明した。
そして床に皿を用意してやるからさっきの自分に対する態度を謝れば食べさせてあげない事もないと言ったが、
ディオは憎々しげな視線をルイズに向けると黙って立ち去った。

朝食が終わり(何故か今日の)、授業の為に教室へ行くと、いつの間にかディオが後ろを歩いていた。
大学の講義室のような教室に入るとすでに教室に入っていた生徒達から囁きが漏れる。
ルイズの召喚した前代未聞の平民の使い魔にみな興味津々なのだ。

そんな教室の様子にも我間せずといったかんじで入るとディオはルイズの隣に座ろうとした。

それを制止し
「あんたの席はここじゃないわ。ここはメイジの席。使い魔は…」
と言いかけたところでルイズは先程の出来事を思い出した。床に座れなどと言おうものならまたディオに殴られるか
黙って教室から出ていってしまうだろう。しかも今回は衆人監視の元で。
そうなったら恥ずかしい処の話ではない。使い魔も満足に御せないダメルイズ、やっぱりゼロはゼロだったと
嘲笑雑じりに馬鹿にされるのは目に見えている。
そこでルイズは―――使い魔と同じく剛巌不遜な態度に徹する事にした。
だがルイズは知らない。自分が無意識のうちにディオに恐怖していたという事を。

教室の先客にはキュルケもいた。キュルケの周りには何時も通り男生徒達が群がっている。
だが本当になかった事にしたのか、あるいはプライドが傷つくと考えたのかフレイムを蹴られた事を言い触らすつもりはないらしい。
それどころかディオと目線が合うとウィンクをする始末であった。

そんなキュルケを無視し、慣れた様子で『椅子に』座り、周りを見渡すディオ。
成る程、使い魔にも色々とあるらしいな。蛇や蛙、昆虫といった中にキュルケのサラマンダーをはじめとしてお伽話にしか
出てこないような動物がちらほらと見える。
だが、あいつらは全てジョジョのペットであったダニーと同じように主人の顔色を窺うようなゴミ以下の奴らでしかないッ!
メイジ共は自分に都合良く動くように洗脳しただけのそれを友情とごまかしているだけなのだ!

そうして暫くすると中年の優しそうな風貌をした女性が入ってきた。どうやら彼女が教師らしい。
「皆さん。春の使い魔召喚は、大成功のようですわね。このシュヴルーズ、こうやって春の新学期に、
 様々な使い魔たちを見るのがとても楽しみなのですよ」
と、ここで野次が飛ぶ。

「先生!一人その辺を歩いている平民を召喚しちゃって失敗した人がいます!」
小太りの生徒、マリコルヌだ。それにつられて爆笑する生徒達。
シュヴルーズはそれを睨むとルイズの方を向き、ディオをしげしげと観察する。

718おれは使い魔になるぞジョジョーッ!:2009/06/22(月) 21:30:03 ID:kEjg.Au.
「おやおや。変わった使い魔を召喚したものですね。ミス・ヴァリエール」
その間の抜けた発言と皆の笑いに気をよくしたのかマリコルヌは更にルイズを馬鹿にし、ルイズの応戦に挑発する。
そのやり取りはシュヴルーズがマリコルヌ他の口に赤粘土を貼り付けて口を封じるまで続いた。
その間ディオは表情一つ変えず、まるで自分は全く関係ないかのように一連の騒ぎを冷ややかに見つめていた。

「私の二つ名は『赤土』。『赤土』のシュヴルーズです。『土』系統の魔法を、これから一年、皆さんに講義します。
 魔法の四大系統はご存知ですね?ミスタ・マリコルヌ」
「は、はい。ミセス・シュヴルーズ。『火』『水』『土』『風』の四つです。」
生徒達には今更の話題であるらしく、あまり真面目に聞いていないが、ディオは熱心に聞いていた。
この世界では当たり前の事であるが、ディオにとっては初めて耳にする事ばかりである。
この先この世界で暮らしていく以上、どんな些細な事でも知っておく必要がある。

だが系統の話を聞いているうちにディオには一つの疑問が湧いてきた。『何故おれは召喚されたのか』という事である。
シュヴルーズの話では、使い魔は主人であるメイジの系統に沿ったものが召喚されるらしい。
だがディオには今の四つの系統に当て嵌まるような覚えはない。
主人の系統を知っておく事は大切かもな。そう考えるとディオは熱心に授業を聞いているルイズに尋ねる事にした。

横目でみるとシュヴルーズはどうやら石ころを錬金術で変質させたらしい。キュルケが身を乗り出して質問をしているが、
あまり興味は引かない。魔法や空想の生き物が存在しているのだ。錬金術くらい存在して当たり前である。

「ルイズ、少し聞いてもいいかい?」
「なによ」
ディオは小声で隣のルイズに尋ねる。
「さっき聞いたところ四つの系統が存在しているらしいが、君はどの系統なんだい?」
「…うっさい」
と、ルイズは表情を暗くすると呟く。
「主人の系統を知りたいのは普通だろ?まさか『虚無』の使い手なのかい?」


「うるさいって言ってるでしょ!?」
突然ルイズが怒鳴る。シーンと静まり返る教室。憮然とした顔付きをしているディオが
ふとキュルケを見るとやっちゃったなというジェスチャーをされた。
「ミス・ヴァリエール!私にむかって煩いとは何事ですか!」
「あ…いえ…その…違…」そして盛大に勘違いをする教師。自分の話に熱中していて前後を聞いていなかったらしい。が、

719おれは使い魔になるぞジョジョーッ!:2009/06/22(月) 21:30:35 ID:kEjg.Au.
「そこまで自信があるのであれば、あなたがやってみなさい!」
途端にざわめきだす教室。中には早々と机の下に潜り込む者もいる。
「先生、ルイズは止めておいた方がいいです!」
誰かが言う。
「どうしてですか?」
「あまりにも『危険』だからです!」
ルイズ以外の顔を出している生徒全員が頷く。
「な、なんなら私がやります!」
とキュルケ。しかし


「だが断る。」
容赦なく死刑宣告は下された。
「このシュヴルーズの好きな事はできないと思われている生徒に成功させることよ。
しかもミス・ヴァリエールには今回自信があるみたいです。あらゆる機会を捉えて生徒を成長させるのが教師の務めなのですよ。
さあ、やってみなさい」

今度こそ我先にと机の下に潜り込む生徒達。後ろで待機している使い魔を呼び寄せる生徒もいる。
ディオも周囲の危険を察知してゆっくりと机の下に潜る。
ルイズはそれらを横目に暫く逡巡していたが、やがて意を決すると教壇へと足を進めた。
「さあ、錬金したい金属を、強く心に思い浮かべるのです」
必死に連想するルイズ。その顔は美しいが悲しいかな、それを見ているのはシュヴルーズだけである。


次の瞬間、石と教卓が物凄い音を立てて爆発した。使い魔や生徒達の悲鳴や祈りの言葉が教室内に充満する。

グラウンド・ゼロにいたルイズはひっくり返って気絶しているシュヴルーズを見、頭に手を当てた。

「てへ、ちょっと失敗しちゃった」
その場にいた全員から突っ込みを入れられたのは言うまでもない。
先生が気絶してしまったので残りの時間は休講となり、ルイズは罰として教室の掃除を行う事になった。
そしてディオはルイズの文句を聞き流しながらルイズが『ゼロ』と呼ばれている事を理解し、今の出来事について考えるのであった。
                                         to be continued…

720おれは使い魔になるぞジョジョーッ!:2009/06/22(月) 21:31:36 ID:kEjg.Au.
注)前半はネタが混じっています。
コルベールがオスマンにガンダールヴの事を報告する下りですので、あまり好きではないという方は飛ばして下さい。

ミス・ヴァリエールが召喚した人間。彼は一見異世界から来たただの平民にすぎない。だが、彼の左手に刻まれていたルーン、
あれはまさか……伝説の使い魔のルーンではないだろうか…

おれは使い魔になるぞジョジョーッ! 幕間其の二 伝説の使い魔ガンダールヴ

図書館で一人の教師が調べ物をしている。時折本を取り出してはパラパラとめくり、ため息をついて本を戻す。
何冊目になるだろうか、教師のみ閲覧を許される部屋で本をめくっていた彼はとある本を食い入るかのように読みはじめ、
やがて本を持って走り去った。

トリステイン魔法学院の院長オールド・オスマン。白い口髭と長い白髪に覆われた外見の彼は一見するとただの老人に見えるが、
その正体は年老いてなお膨大な魔力を持つメイジである。

そんな彼は今本を読んでいる。近くの椅子ではオスマンが雇った秘書、ミス・ロングビルが同じく本を片手に何かを書いている。
ゆったりと無限とも思われる時間が流れていく空間は突然入ってきた太陽、もとい光が頭に反射して眩しい
コルベールが入ってきた事によって壊された。

「たた、大変です!オールド・オスマン!」
ちょうどシーザーという青年が吸血鬼になった祖父の弟子を倒すという山場を中断されたオスマンはあからさまに不機嫌な様子で本、
いや吸血鬼が連載しているという噂のある「戦闘潮流」と題した『マンガ』を置く。
「大変な事などあるものか。『味方だったはずの男が吸血鬼になった』事に比べればすべては小事じゃ。
 …ええとなんだっけ………そう…コルベールよ。」

しかしコルベールは先程まで図書館で読んでいた『始祖ブリミルの使い魔たち』を押し付け、とあるページを指差す。
それに何事かを察したオスマンは
「ミス・ロングビル、席を外しなさい」
とロングビルに退席を命じる。
ロングビルはぼうっとした顔をしていたが、怒ったような泣いたような不思議な顔をしながら先程まで書いていた手紙を持ち、
ふらふらと部屋を出ていった。
ロングビルをちらちらと見るコルベールの目に「あーん!スト様が死んだ!」という手紙の文面が目に入ったが、
訃報を覗くのはよくないと思い直し、それ以上見るのをやめた。

「それでは話を聞こうではないか」
説明を始めるコルベール。
「先日ミス・ヴァリエールが不思議なルーンを持つ使い魔を召喚した事はすでにご報告した通りです。
その後、そのルーンが気になり調べていたのですが、ついに同一の物を発見致しました。
あのミス・ヴァリエールが召喚した使い魔のルーン!彼は間違いなく始祖ブリミルの使い魔、ガンダールヴです!」
オスマンの眉がピクリ、と上がる。
「ほう、始祖ブリミルの使い魔、ガンダールヴとな?」
「はい。何故彼がガンダールヴなのか、何故ミス・ヴァリエールに召喚されたのかはまだわかりませんがこれは大事に違いありません!」

伝説の使い魔が召喚されてきたという事はただ事ではない。それが何かはまだわからないが、いずれにせよ重大な事が起こるのであろう。
だが、万万が一コルベールの口からその事が伝わろうものなら騒ぎになるのは目に見えている。オスマンはとりあえず誤魔化す事にした。
「ふむ、しかしルーンが同じだからといってガンダールヴと決めつけるのは早計かもしれん。」
「…はあ…そうですか」
不承不承ながらも納得するコルベール。
と、突然扉が開かれる。先程出ていったロングビルだ。

「オールド・オスマン!大変です!ヴェストリ広場で決闘騒ぎです!教師達が眠りの鐘の使用許可を求めています!」
「決闘などたいした事もなかろう。どうせ若気の至りじゃろ」
「しかし、決闘しているのはギーシュ・ド・グラモンとミス・ヴァリエールの使い魔の青年です!」

「「なんだと(ですって)!!」」
オスマンが慌てて遠見の鏡を起動させると、二人は広場の様子を食い入るように見つめるのであった。
                                            to be continued…

721おれは使い魔になるぞジョジョーッ!:2009/06/22(月) 21:34:08 ID:kEjg.Au.
ディオは一人考える。主人が『ゼロ』なら使い魔の評価もそれに準ずる。ルイズはともかく
自分の事を周囲に認めて貰うには贄が必要であると…

おれは使い魔になるぞジョジョーッ! 第六話①

時は遡る。ルイズは昼までかかって部屋を片付けた。ディオに命令してやらせようかとも思ったが、殴られた恐怖は簡単に消えず、
結局自分で片付ける事にした。だが掃除が昼前に終わったのは、いつの間にかディオが手伝ってくれた為である。
最もディオが掃除を手伝ったのはディオは主人を見捨てる使い魔であるといったようなマイナスイメージを避けるためのものであったが。

昼食を取る為に食堂に行くルイズ。ディオは相変わらず姿を消したようだ。いつまでその態度が持つか、ルイズはディオと根競べをする事に決めた。
ディオもまた人間である以上兵糧攻めをすれば勝のはこちらなのだ。ルイズは勝利を確信してほくそ笑んだ。

「…フンッ!」
ディオもまたルイズに屈する気はなかった。使い魔に身を窶しても床で食事を取るくらいなら餓死を選ぶ、それがディオである。
誰もいない廊下を歩きながらディオは考える。
(そう、今朝纏めたようにおれに今必要なのは必要な時に利用できる『友達』だ。だが、あのガキは『ゼロ』のあだ名の通り
 生徒どもから馬鹿にされているッ!その『ゼロ』の使い魔であるこのディオがきっかけを掴む為には誰か適当なメイジを倒し
 おれの株を上げる事が一番いい。だが、いきなり喧嘩を売るわけにもいくまい。どうすればこちらに後を引く非がなく
 適度な強さのメイジを皆の目の前で倒す状況に持っていくか…)
考えていると腹の虫が鳴る。悲しいかな、いくら鍛えていても人間である以上腹は減る。
「くそッ!忌ま忌ましいッ!本来だったら今頃、おれは人間を超越した存在になっていたはずだッ!それが今、
ガキの我が儘ごときに我慢しなくてはならないこの状態が気に入らないッ!」思わず壁を叩く。
「あの…」
どこかで聞いたような声がしたので振り返ると、今朝会ったメイドがいた。


「ふむ、なかなか…いや、とても美味しいよ」
数分後、ディオは厨房で食事を取っていた。朝出会ったメイド、シエスタは厨房で働いていたのだ。
(今朝の縁がこんなところで生きてくるとはな…。)
ディオの顔に黄金色のお菓子を目の前にした悪代官のような笑みが浮かぶ。
(だが!それよりもルイズの鼻を明かしてやった事がなによりも愉しいッ!ンッン〜〜♪ 実に! スガスガしい気分だッ!
  歌でもひとつ歌いたいようなイイ気分だ〜〜フフフフハハハハ…)

そんなディオをシエスタは料理を喜んでくれていると思い、ニコニコと見つめる。
やがて、そんな二人を見つけて太った中年のオヤジが近づいてくる。料理長のマルトーだ。
「あ…私、デザートを配ってきます!」
マルトーを見つけたシエスタは思い出したように立ち上がると、デザートを乗せたお盆を持って厨房を出ていき、
代わってマルトーがディオの隣に座る。
「あんたが貴族に召喚されたって平民か?シエスタに聞いたよ。しかも主人は高慢ちきだって話じゃないか。
 ついてないもんだな。確かディオだったかな?自己紹介が遅れたが俺はマルトー、ここで料理長をしている」
握手を求めるマルトーを上手く避けながらも慇懃に答えるディオ。

「マルトー…さんがこの料理を作ったのですか?」
「ああ、そうとも!この料理は賄い物だがあの食堂でくっちゃべってる貴族サマとおんなじモノだ。
奴ら、自分で言うのもなんだがこんな美味い料理を三食食って当たり前ってツラしてやがる。理不尽だとは思わねえか?」
どうやらこのマルトーとかいうコックは貴族を嫌っているらしい。
「あいつらは、なに、確かに魔法はできる。土から鍋や城を作ったり、とんでもない炎の玉を吐き出したり、果てはドラゴンを操ったり、
 たいしたもんだ!でも、こうやって絶妙の味に料理を仕立て上げるのだって、言うなら一つの魔法さ。そう思うだろ、ディオ」

完全に自分の世界に入っているマルトーにおざなりに同意すると続いて大笑いする。忙しい男だ。

「気に入った!お前さんわかってるじゃないか!いつでも食べに来てくれ!大歓迎するぞ!」
これで食の問題は解決した。次はメイジの件だが…
その時、少年の怒号とシエスタの詫びる声が聞こえた。
「どうしたんでしょう。ちょっと見てきます」
とディオは立ち上がる。丁度良く向こうから機会がやってきたらしい。ディオは罠にはまった獲物を見つけた猟師のような笑みを浮かべると、
騒ぎの現場へと足を向けた。

722おれは使い魔になるぞジョジョーッ!:2009/06/22(月) 21:34:46 ID:kEjg.Au.
「どうしてくれるんだ!君のせいでボクの制服が汚れてしまったじゃないか!」
先ほどから怒っているのはトリステイン王国屈指の名門であるグラモン伯爵の四男、ギーシュ・ド・グラモンである。
どうやらデザートを配っていたシエスタが向こうから取り巻きとやってきたギーシュにぶつかってしまったらしい。
ぶつかったとは言っても軽く触れただけだが、その少し前に付き合っている相手、ケティから他に交際相手がいるのではないかと
問い詰められていた為、機嫌が悪かったのが災いした。平民とメイジの階級の違いの故かギーシュの取り巻きはもちろん、
他の生徒も遠巻きに囲んで眺めているだけであり、誰もギーシェを制止しようとしない。

「お願いします!どうかお許し下さい!」
シエスタは必死に懇願する。経過はどうであれ平民がメイジを怒らせた以上、最悪殺されるかもしれないのだ。

その様子を見てギーシェは内心たじろぐ。相手は若い女の子でしかもなかなか可愛い。女の子を泣かせるのはギーシュとしては苦手な事であったし
今は何も言わない周りもこの状況が続けばギーシュの味方でいつづける確証はない。ちょっと怒ったら向こうがオーバーリアクションを取った。
うん、これで大丈夫。そう考えるとギーシェはその場を納めようとし、


パリン

何かが割れる音が響き渡る。
「おっと、すまないね。きみのポケットから香水の瓶が落ちたんでね、拾おうとしたんだが謝って踏んでしまったよ」
振り返ると最近『ゼロ』のルイズが召喚したという使い魔がニヤニヤしながら片足を上げており、
その下には見るも無惨に割れた紫色の瓶「だったもの」が散らばっていた。

「おい、あれはモンモランシーの香水じゃないか!」
「ギーシェはモンモランシーと付き合ってたのか!」
周りから声が上がる。

「なっ、し、知らない!」
とたじろぐギーシェだが、その時周りの生徒から一年生の女の子、ケティが飛び出してくると
「ギーシュさま…やはりミス・モンモランシーと付き合っていていたんですね!この…大嘘つき!」
と叫び、ギーシェの頬を引っぱたく。
そして女の子と入れ替わりにモンモランシーがギーシェに近づくと、無言でワインの瓶を掴んで逆さにしてギーシェにかけ、
おまけとばかりに向こう脛を思いっきり蹴りつけて去っていく。この三文喜劇の三枚目のようなギーシェに周りの生徒達は大笑いする。

ギーシェは暫く屈んで呻いていたが、やがて起き上がるとまだにやついているディオを睨み付け
「いいだろう、僕を侮辱した事を後悔させてやる。ヴェストリの広場にて待つ!死ぬ覚悟ができたらこい!」
と叫び、見張りの一人を残すと取り巻きを引き連れて立ち去った。

「ちょっと!あんた何してるのよ!」
ルイズが叫びながらやって来る。
最初ギーシェが叫んでいた時は無視していたが、あまりにも騒がしいので振り向くと自分の使い魔がギーシェに喧嘩を売っていたのだ。
だがルイズの身体では人混みの中なかなか二人に近づけなかったのだ。
「なにってこれから高慢ちきなメイジを『少し』懲らしめるのさ」
「あ…あんた…」
呆れたような声をあげるルイズ。
「わかってるの!?メイジに喧嘩を売ったのよ!」
「…それで?」
「なんであんなことしたの!?遅いかもしれないけど私も謝ってあげるからギーシェに謝りなさい!」
とディオの袖を掴み、引っ張っていこうとする。シエスタも我に返ると必死でディオを押しとどめようとする。
だがディオはルイズの手をゆっくりとふりほどく。
「勘違いしてもらっちゃ困るな、ルイズ。ぼくはああいう中身がない癖に威張り散らす手合いが大嫌いでね。それに借りは返す必要がある。」
なぜかシエスタはぽっと赤くなる。

「ばっ馬鹿!いい?平民はメイジに絶対に勝てないの!ってちょっと聞いてるの?」
とルイズはなんとか決闘をやめさせようとするが、ディオはそれを無視して見張りに
「武器を持ってくる時間くらいはくれるだろう?」
と聞き、許可を得るとシエスタに2,3訊ね、厨房へと消えていった。
                                       to be continued…

723おれは使い魔になるぞジョジョーッ!:2009/06/22(月) 21:37:30 ID:kEjg.Au.
以上です。>>716で書き忘れてしまいましたが、今回は①のみです。②は後日投下します。

724おれは使い魔になるぞジョジョーッ!:2009/06/24(水) 08:31:48 ID:veVAcdUo
代理投下していただいた方、ありがとうございました!
さて、今回は第六話②です。

>あとギーシェじゃなくてギーシュじゃなかったかしら
ドジこいたーーッ!基本的な登場人物の名前間違えちゃまずいだろ…、以後気をつけます。
他にも
×拾おうとしたんだが謝って踏んでしまったよ
○拾おうとしたんだが誤って踏んでしまったよ
等誤変換が目立ちますね…。精進します。

725おれは使い魔になるぞジョジョーッ!:2009/06/24(水) 08:32:29 ID:veVAcdUo
ディオはギーシュを甘くみていた。平民が近寄る事すらできないからこそメイジは特権を持ち続けていられるのだ。
だがガンダールヴというルーンはその理を覆し、運命の女神はディオに味方する…

ぼくは使い魔になるぞジョジョーッ! 第六話②

「よく来たな!逃げ出さなかったその度胸だけは誉めてやるぞ!」
ヴェストリ広場で決闘が行われるという噂は瞬く間に学院中に広まり、ディオが広場に来た頃には多くの野次馬が詰めかけていた。
ディオはその中を広場の中央まで歩いてゆくとギーシュと相対する。
早速薔薇の花に紛した杖を上げ、戦闘体制に入ろうとするギーシュだが、ディオはそれに待ったをかける。
「なんだ!まさか戦う前に命乞いじゃないだろうな!?」
「どうだ?ただ決闘するだけじゃ面白くない。ここは一つ賭けをしないか?」
「賭けだと!?」
ディオは頷くと宣言する。「ぼくが負けたら我が主人、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールの
三月分の生活費を君に渡し、ぼくも君に土下座をして謝ろう。」

もちろんルイズは驚愕し、怒り出す。
「ちょ、ふ、ふざけないでよ!何勝手に決めてるのよ!」
「お待ちなさいな」
飛び出そうとするルイズの肩を押さえる浅黒い腕。
「面白そうじゃない。それにあのディオって使い魔、かなり自信があるみたいよ。」
「…勝つ気。」
「キュルケ!なんであんたがここにいるの!?」
「この騒ぎだもの、来ない方がおかしいですわ。ね、タバサ」
「…。」
いつの間にかキュルケとタバサがルイズの隣にいた。
「信じてあげなさいな、あなたの使い魔なんだから」
「う…。」
沈黙するルイズ。

ディオは続ける。
「だが!君が負けたらぼくにベッドと今月分の小遣い全てを渡し、八つ当たりでミス・シエスタに無礼を働いた事を詫びて貰おう!」
そして周りに聞こえないよう小声で続ける。
「もちろん受けてくれるよなあ、グラモンくん。もっとも君がぼくに負けるのが怖いというのなら話は別だけどな。」
ギーシュは最初は賭けなど受けない気でいたが、このディオの一言に乗せられる。
「よし、その賭けに乗った!このギーシュ・ド・グラモン、この勝負に負けたら確かにベッドと小遣いを提供し、
そのシエスタとかいうメイドに謝罪しよう!」
この言葉にわっと沸く野次馬達。自分達もと賭けを始めている生徒達もいる。

「それでは改めて始めよう!ああ、言い忘れるとろこだった。僕はメイジだ、魔法で戦う。よもや文句はあるまいね!?」
ギーシュが叫びながら杖を振ると、薔薇の花びらが一枚飛び、見る間に女戦士の形をした青銅のゴーレムになる。
「言い忘れたな。僕の二つ名は『青銅』。青銅のギーシュだ。従って、青銅のゴーレム『ワルキューレ』がお相手するよ」
「さっきから言い忘れが激しいな!ボケ防止の薬でも飲んだらどうだい?」
「ほざけっ!」
女戦士の形をしたゴーレムがディオに向かって突進する。思わず目をつぶるルイズ。
そしてワルキューレの右の拳が、ディオの腹にめり込……まなかった。

ディオは不思議なポーズを取ると無駄のない動きで後ろに下がり、ワルキューレの拳をかわしたのだ。
「な…に?」
「ふん、なかなか素早いパンチだ。だが!ジョジョの拳に比べると止まって見えるぞッ!」
生徒たちから歓声が上がる。ルイズも呆気に取られて見ている。

726おれは使い魔になるぞジョジョーッ!:2009/06/24(水) 08:33:25 ID:veVAcdUo
その後もワルキューレの攻撃はことごとく空を切った。
「なに!あの足捌きは!」
「…見たことがない」
キュルケとタバサもその動きに目を丸くしている。
それもそのはず、ディオの取っている行動は20世紀に入ってから発達するボクシングのスウェーイングなどの防御テクニックだった!
余裕の表情で右に左にまた背を反らしてワルキューレのパンチを受け流す。気がつくとワルキューレがもう一体増えていたが、
これも難無くかわすッ!

「…くっ!」
ギーシュは焦っていた。当初の予定では腹に一発当てて動きを止めたあとゆっくりとなぶり殺しにするつもりだった。
だが、あの奇妙な動きの前に未だ一発も当てられない。
だが、ギーシュはまた分かっていた。あんな行動がいつまでも続くはずがない。
一方は生身の人間、もう一方は疲れなどとは無縁の人形なのだ。この勝負、長引けば長引くほど有利ッ!
実際ディオの顔からは段々と余裕が失われはじめている。このままではいずれあの重いパンチを食らってしまうだろう。
と、そこにシエスタが走ってくる。手には何かを持っている。
「ディオさん!頼まれたものを持ってきました!」
シエスタが持っている、メイジには見慣れない手袋のようなものはボクシングなどに使うグローブである。
そう、あの後厨房に入ったディオはマルトーに、拳で殴る為の武器を持っていないか聞いたのだ。

話は少し横に逸れる。
『殴る』というのは人間の基本動作の一つである。最も安易で、かつ相手にダメージを与えられる『殴る』行為は人間社会なら必ず発達する。
よってこのハルケギニアでもボクシングのようなものが平民社会でできていた。
もちろん様々な技術が生まれる前、19世紀イギリスのそれ程度だが。

残念な事にマルトーはグローブを持っていなかった。しかし知り合いに拳闘を好む衛兵がいる事を思い出すと、
シエスタに借りに行かせたのだった。

一瞬の隙をついてディオはワルキューレから離れ、シエスタのところへと後退する。
またディオが離れたのを見てルイズも駆け寄ってくる。
それを見たギーシュはどんな武器なのか興味をそそられて一旦ゴーレムを引く。
「分かってるの!このままじゃ勝ち目はないわ!」
ルイズが叫ぶ。
「あんたはよくやった。だけどそれだけよ!いずれあのパンチを食らって負ける!決まってるじゃない!いい加減に降伏しちゃいなさい!」
「ディオさん、ディオさんがここまでしてくれただけでも私は嬉しいです。だからもう…」
シエスタも『武器』を持ってきたもののディオを心配し、ルイズに合わせる。
ディオもその事はよく分かっていた。だが!ここで引く訳にはいかない!
あんなひょろひょろの少年に敗れる事はディオのプライドが許さなかった。
そしてそれ以上に!この勝負に負けたらディオは一生笑い者になり、計画は破錠するのだッ!

故にディオはシエスタからグローブを受け取ると、腕に嵌めながら二人に言う。
「忘れたのかい?この勝負に負けたらルイズは明日から生活できなくなるんだよ。」
「…あ゛」
「それに…魂が負けたと思った瞬間にもう負けは決まってしまう。だからおれは最後まで諦めないッ!!」
「…ディオ…」

と、その時、ディオは不思議な感覚に包まれた。疲れが吹き飛び、身体中に力が漲ってくるのだ。

ゆらりと立ち上がる。顔が影になっていてよく見えない。
「…ディオ?」
「……フフ…馴染む、馴染むぞォ!この気分!最高に「ハイ!」ってやつだアアアアアアハハハハハハハハハハーッ」
反り返って高笑いするディオ。いきなりの変貌に周りはドン引きである。
それを気にする事もなく、ディオはギーシュのもとへと駆け出していく。

727おれは使い魔になるぞジョジョーッ!:2009/06/24(水) 08:34:25 ID:veVAcdUo
「何を受け取ったのかは知らないが、君では絶対にワルキューレには勝てない!さあ、覚悟したまえ!」
ギーシュは勝利宣言を告げると、ワルキューレを突進させる。

ワルキューレとディオが拳を打ち合う。と、次の瞬間、ワルキューレは粉々になって崩れ落ちた。
「いいぞォ!新たな力がわいてくる。いい感触だッ!」
突然の身体の変化に戸惑うが、それ以上に戦局を変化させる力を得た事を喜び、にやり、と笑うディオ。
グローブで隠れているが、その隙間からガンダールヴのルーンの光が漏れている。

「なにっ!」
ギーシュはワルキューレを錬成すると武器を持たせ、残っていた一体と共にディオを攻撃する。今のはまぐれだっ!
今度こそとどめを刺してやる!……だが、
「エエィ、貧弱!貧弱ゥ!」
それは新たな瓦礫の山を生み出しただけであった。

「う、うわあああああ!!」
この展開に冷静さを失ったギーシュは残り全てのゴーレムを錬成すると、ディオの周りを取り囲ませ、一斉に攻撃させた。
「ワルキューレ!そいつを倒せ!」

ギーシュは不運であった。もし、最初から全力で攻撃していれば。もし、休憩など認めず、ディオにグローブを付けさせなければ、
ギーシュは勝っていた。だが、全ては手遅れだ。
「無駄!」
「無駄ァ!」
「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄
 無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァッ!」
目に見えないほどのパンチの連打に次々とスクラップになっていくワルキューレ達。
そして最後のゴーレムが崩れ落ちた瞬間、ディオは人間ばなれした速度でギーシュに近づくと、
慌てて新たなワルキューレを錬成しようとしているギーシュの顔面を思いっきり殴りつけるッ!!

「ブガゴッ!」
豚のような声をあげるギーシュ。もはや戦意は消失している。だが、ディオがそれだけで許すはずがなかった。
(これでこの決闘はおれの勝利!!しかしまだまだ安心するなよギーシュ!)

(このまま!!)
ディオの親指が曲がる。
(親指を!)
そのままでギーシュの目に迫る。
(こいつの!)
ギーシュの目にディオの指が突き刺さる。
(目の中に……突っ込んで!)
「殴りぬけるッ!」

ブッギャア!という嫌な音とともにギーシュの身体は空を舞い、地面に叩きつけられた。

飛びそうになる意識の中、ギーシュは片目でディオがゆっくりと近づいてくるのを見た。
気のせいかどす黒いオーラがディオを包んでいるように感じる。
(こ、殺される!)
そう感じると、ギーシュは死力を振り絞って叫ぶ。
「ま、参った!降参だ!」
そして―――気絶した。

728おれは使い魔になるぞジョジョーッ!:2009/06/24(水) 08:35:22 ID:veVAcdUo
「やった!ルイズの使い魔が勝った!」
「あのギーシュが平民に負けた!」
「ディオはわしが育てた」
次々にあがる歓声。片手を上げてそれに答えるディオの顔は先程までの邪悪な顔が嘘のように澄みきっている。
ルイズとシエスタが駆け寄ってくる。
「すごいじゃない!あのギーシュに勝つなんて!」
「だから言っただろう?ぼくは最後まで諦めないって。」
「ディオさん…私…私…」感極まったシエスタの頭ににディオは優しく手を置く。
「これで、君の受けた屈辱はあいつに返してやったよ」

シエスタの顔が真っ赤になる。泣いたらいいのか恥ずかしがったらいいのかわからないような表情をしている。

(これでメイジ共の間でおれの株は上がり、こいつも完全におれの事を信用するだろう!それだけではないッ!
 こいつの口から今の決闘の噂が平民共に広まれば!それだけで会ったことのない奴らもおれの味方となるのだッ!
 まさに一石二鳥、いや三鳥よッ!)

ディオは倒れているギーシュを抱えると、近くにいたやはり顔を朱く染めているキュルケに尋ねた。
「彼を運んでやりたいのだがね、医務室はどこかな?」

オスマン老とコルベールは『遠見の鏡』で一部始終を見終えると、顔を見合わせた。
「あの青年、勝ってしまいましたが……」
「ううむ…」
「ギーシュは『ドット』メイジですが、あそこまで一方的に平民に負けるとは考えられません!あの動き、やはり
 彼は『ガンダールヴ』なのです!さっそく王室に報告を…」
と、ここでオスマンはコルベールを押しとどめる。
「ミスタ・コルベール、ガンダールヴがどういうものなのか知っているかね?」
興奮して答えるコルベール。
「勿論です!並のメイジでは歯が立たず、一度戦場に立てば千人の軍隊もあっという間に打ち倒すという力を持っている!
 それがガンダールヴです!」
「だからじゃよ。この事を王宮なんぞに知られてみよ。ミス・ヴァリエールと共に戦場行きじゃ。」
「な…なるほど」
「よって、この件は私が預かる。他言は無用じゃ、ミスタ・コルベール」
「は、はい!かしこまりました。」

(しかしそれよりも……わしは気になるのじゃ。あのグラモンの息子を殴っていた時の青年の顔、あれはまるで相手を嬲る事を
 楽しみにしているような顔じゃった…。もしガンダールヴが純粋な『悪』だったとしたら…そうではないと信じたいのじゃが…)
オスマン老は深く嘆息しながら空を見つめるのであった。
                                    to be continued…

729おれは使い魔になるぞジョジョーッ!:2009/06/24(水) 08:36:43 ID:veVAcdUo
以上です。第七話以降の投下はしばらく空いてしまうかもしれません。

730おれは使い魔になるぞジョジョーッ!:2009/06/24(水) 08:41:01 ID:veVAcdUo
すいません、お手数をかけますが代理投下をしていただく際、最初のレスのギーシュの台詞、
「ああ、言い忘れるとろこだった。」を「ああ、言い忘れるところだった。」に
直してください。

731名無しさん:2009/06/28(日) 12:53:44 ID:a/VkJ.J.
最後だけさる喰らってしまったので代理投下できる方、どなたかお願いします

732名無しさん:2009/06/28(日) 12:54:14 ID:a/VkJ.J.
ここまでが当日の一連の流れである。
ここからは後日あった事を書き足しておこう。

ヌケサクは異世界から来ていたらしい。どうりで色々な情報が食い違ったわけだ。
それに武器、M72ロケットランチャーと言ったか。あれも気になる。
あそこまでの破壊力のある武器を作り出せる世界と作らざるを得なかった戦争があったわけだ。
興味がない訳ではない。
ただ、争いなんてなければいいのにと思うのが私の本心だ。

あの日、どうして逃げずに戦ったのかをヌケサクにそれとなく聞いてみたところ。
『例え魔法使いだろうと吸血鬼にとって人間は餌。シャケから逃げるクマが居るか?』
と言われた。
シャケとかクマとかはよく分からないがヌケサクにもプライドがあったって事だろう・

あれ以来ルイズとも一緒に居る事が多くなった。
やはり彼女は0のままだ。でも、一緒に居ると落ち着く。
結構話も合う。キュルケと一緒の時は二人でいがみ合ってばかりだが。

フーケが逃げた。
今度会ったらただじゃおかない。


後日加筆
まさかこの事件が全てのきっかけになるなんて思っても見なかった。
物語性を持たせるために繋ぎのような文章を残しておこう。
仲良くなった私とルイズ、それにキュルケとヌケサクと鼻たれギーシュで女王様のおつかいをするのは別の話。


to be continued…




以上、投下終了
急展開ですね、分かります
シリアスなんてなかった

話は変わりますが、上の方で話題になっている保管庫掲載の件
私の拙作は載せなくていいとして、他の方たちのは誰か掲載してあげて下さい
掲載されずに放置を喰らったら投下しても誰も見てくれないんじゃないかなんていうトラウマ持ちます
私もご多聞にもれず持ちました
なのでどうかよろしくお願いします

それでは、拙い文章ですが何かあれば

733名無しさん:2009/06/28(日) 13:22:37 ID:a/VkJ.J.
代理投下の方ありがとうございました

734ゼロいぬっ!:2009/07/01(水) 23:35:41 ID:fafafQwU

トリステイン魔法学院の広場に一人の少女が立っていた。
夜の帳が下り、赤と青の月明かりが彼女を照らし出す。
月光を浴びて彼女のトレードマークである金色の巻き髪が一層鮮やかに映える。
舞台の主役のように一人立つモンモランシーは複雑な表情を浮かべていた。
時には憂鬱に、または不満げに、ともすれば心配そうに、その表情を百面相の如く変えていく。
冷えた夜風に当たっても気分は一向に晴れない。
理由は分からないけれど何故だが不安が治まらないのだ。
心がざわついて部屋に篭ってなどいられなかった。

原因は分かっている。あのバカの所為だ。
別に正式に付き合ってるわけでもないのに、
どうして私がアイツの事で悩まなくちゃいけないんだろう。
安否を気遣うこっちの気持ちを少しは分かりなさいよ。
どんなに格好つけても死んだらただのバカなんだからね。
頭の中が思いつく限りの愚痴に埋め尽くされる。
よし、戻ってきたら殴り飛ばそう。
勲章なんて付けていても全然関係ない。
それだけの権利はあると思うから思い切ってやってしまおう。
……だけど、もし戻って来なかったら。

直後、草を踏み締める音に彼女は現実に引き戻された。
寮の明かりも消えた宵闇の中でも、2つの月が訪れた人影を映し出す。
踏み出した足に、赤く艶やか髪が炎のように舞い踊る。

「……キュルケ」
「夜更かしは美容の天敵よ。あまり感心はしないわね」

ちっちと指を左右に振りながらキュルケは冗談めいた口調で話しかける。
キュルケの暢気な態度に声を荒げようとするも、それこそ恥を晒すだけだと彼女は抑えた。
ここでそんな姿を見せれば一生ギーシュとの仲をからかわれるだろう。
ぐっと言葉を飲み込むモンモランシーを見つめながらキュルケは明るく接する。

「大丈夫、大丈夫。実家の伝手でアルビオンの戦況を知らせてもらっているの。
上陸してからも連合軍は連戦連勝。もうしばらくすればギーシュも帰ってくるわよ」

“ま、勝ってるのは連合軍じゃなくてゲルマニア軍なんだけどね”
とついでにお国自慢をしつつ、その豊満な胸を見せびらかすように大きく反らした。
平時と変わらない彼女の図太い神経に、全くと呆れつつも感謝する。
これじゃあ取り乱している自分の方が馬鹿らしい。

735ゼロいぬっ!:2009/07/01(水) 23:36:18 ID:fafafQwU

「ありがとう」

一言お礼を言ってモンモランシーは夜空を見上げる。
キュルケとて不安を感じていない訳ではない。
そうでなければ、こんな夜更けに部屋を抜け出したりなどしない。
自分を気遣って気丈に振る舞う彼女の配慮に心より感謝を示す。
きっと真正面から言ったら鼻で笑われるから簡素な言葉に想いを託した。

どういたしまして、と軽く返すキュルケ。
想い合う者同士を示すかのような双月を二人で見上げる。
草木の鳴る音を耳にして、ただ静かに時間だけが流れていく。

「早く帰って来るといいわね」
「ええ、本当に」


モンモランシー・マルガリタ・ラ・フェール・ド・モンモランシ
……ギーシュとの関係が誤解により一時期最悪になるも、
才人とギーシュの決闘後、紆余曲折ありギーシュとの事実上の恋人となる。
しかし、その関係も一進一退。才人とルイズ同様に周囲をヤキモキさせる。

キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストー
……タルブに参戦した事で絶縁も覚悟していたものの、
予想外の大勝利と女王陛下直々にお褒めの言葉を頂戴した事、
またタルブ戦においてゲルマニアが援軍を出さなかった後ろめたさもあり、
彼女を咎めるどころか同盟国を守る為に戦った勇敢なメイジとして表彰される。

ちなみに、縁談の相手はワルドを倒した彼女の武勇伝に恐れをなして撤回したらしい。


「きゅいきゅい! 今回のお仕事は簡単だったのね、いつもこうなら楽なのに」

タバサを背に乗せて楽しげにシルフィードは喚いた。
この高度では彼女たちの会話を聞き取れる者はいない。
日頃の鬱憤を晴らすかのように機関銃のようにシルフィは喋り続ける。
その一方で、タバサは命令書を再度確認する。
そこに書かれているのは、彼女の言うように単純で簡単な任務ばかり。
それを目にしてタバサは大いに首を傾げた。

北花壇の任務は基本的には汚れ仕事か、あるいは危険な任務だ。
時には処置に困るような面倒な仕事が舞い込む事があるが、
そういった例外を除いては命の危険を伴うようなものばかりだ。
なのに、ここに書かれている任務はメイジですらない兵士でも可能なもの。

736ゼロいぬっ!:2009/07/01(水) 23:36:59 ID:fafafQwU

そもそも任務を受諾しにプチ・トロワに向かった時、
従兄妹であり北花壇の団長でもあるイザベラの反応は明らかにおかしかった。
いつもなら厄介事を押し付けて、こちらが困るのを楽しんでいるようだったのに、
今回は苦虫を噛み潰した顔で命令書を突きつけるだけだった。

つまり、これは彼女が選んだ任務じゃない。
……じゃあ一体誰がそんな命令を出させたのか。
それが可能なのは唯一人。だけど、その意図がまるで掴めない。
意味がない任務に従事させて、それが何になるというのか。

「きゅい! お姉さま、無視しないで欲しいのね!」

思考の迷路に迷い込む主を見て、無視されたと勘違いしたシルフィが声を上げる。
ぎゃあぎゃあと大声で鳴きながら翼をばたばたとしきりに動かす。
それでようやく気付いたタバサが顔を上げて使い魔に答える。

「なに?」
「なにじゃないのね! いくらなんでも上の空はひどいのね!
ああ、わかった! きっと才人ね、才人の事を考えてたんでしょう!
きゅいきゅい! 遠く離れた二人は互いを想って……きゅい!」

ぱこーん、と小気味のいい音が響いてシルフィの妄想はあえなく断たれた。
ヒリヒリする頭を撫でながら恨みがましそうな目で振り返る。

「……いたいよう」
「自業自得」

大体、才人に対してそのような感情を抱いた事は……ない、と思う。
それに彼にはルイズがいる、主従の絆以上に強く結ばれた彼女が。
だから、その間に割って入るなんて私には出来ない。
……いつの間にか論点がずれている。そもそも割り込む必要などない。
なのに、私はどうしてそんな考えに至ったのか。
感情と計算。困惑する彼女の脳裏にふと閃くものがあった。

「戻って」
「え? 学院に帰るんじゃないのね?」
「違う。行くのはアルビオン」
「ど、ど、ど、どうして急に何でそんな所に!!?
ま、まさか本当に募る想いが乙女のリピドーを暴走させて……きゅい!」
「急いで」

さっきよりも力強く杖を頭に叩きつける。
渋々、方向転換するシルフィードの背中でタバサは唇を噛んだ。
彼女は深読みをしすぎていた。この任務は本当に何の意味も裏も無かった。
ただ、彼女をガリア国内に釘付けにするだけの時間稼ぎ。
そうまでして行かせたくない場所など彼女には一つしか思い当たらない。

逸る気持ちを抑えながらタバサはアルビオンへと向かう。
たとえ、それが間に合わないと分かっていながら。


タバサ(シャルロット・エレーヌ・オルレアン)
……キュルケ以外とは距離を置いていたが、次第にルイズや才人達とも打ち解け始める。
その所為か、よくシルフィードに才人との関係をからかわれるようになる。

737ゼロいぬっ!:2009/07/01(水) 23:37:58 ID:fafafQwU

見渡す限りの地平を埋め尽くすアルビオンの軍勢。
大気を震わせる雷鳴の音も、石飛礫のように降り注ぐ雨音も、
大地に根付いた木々さえも傾かせる暴風の音も、
七万の兵士が生み出す行軍の足音を掻き消す事は出来ない。
否。それを音と呼ぶのは些か語弊があった。
大地が弾む。まるで山が動くかの如く鳴動しているのだ。

松明さえも役に立たない嵐の中を魔法の明かりを目印に兵士達は歩く。
雨を凌ぐコートのような布を頭から被り、外の寒さに肩を震わせる。
役に立たない銃の代わりに槍を手に腰には剣を差す。
痛みさえ覚える雨粒に苛立ちを覚えながら、ぬかるんだ地面を固く踏み締める。

「なんでこんな天気で行軍しなきゃならねえんだ?」
「馬鹿が。“こんな天気”だからこそだろう。
今頃、連合軍の奴等は船も出せずに港で右往左往してるだろうぜ。
下手に時間を与えりゃあ、態勢を整えて反撃してくるかもしれねえしな」

不満を口にする若い兵士にベテランじみた風格の男が答える。
真正面から敵と殴り合うよりも進軍に支障が出ても楽に勝てる方がいい。
敵に最も損害を与えるのは追撃戦だ。ここで徹底的に叩けば勝敗は決する。
逆に逃がしてしまえば敵に反攻の機会を与えてしまう事になる。

さりとて現場の兵士にとっては、そんな上の事情など知った事ではない。
ただ命じられるがままに敵と戦う彼等にとって楽であればそれに越した事はない。
大軍であるが故の安心感からか、彼等の緊張は途切れかけていた。
それを繋ぎ止めようとベテランの兵士は餌をちらつかせる。

「手柄だって取りたい放題だ。港にゃあ爵位持った連中が唸るほど居るんだからな」
「そうは言ってもなあ、さっき、別の隊の連中に一番手柄持ってかれたばかりだしな」

ちらりと視線を向けた先には血塗れの元帥杖を奪い合う一団。
連合軍を指揮していたド・ポワチエ総司令官の遺体の傍に落ちていた物だ。
ハイエナのように群がった彼等は金目の物を剥ぎ取った後で、それをまるでトロフィーのように掲げる。
いくら手柄を立てようと総大将を仕留めた連中には遠く及ばない。そんな意気消沈が見て取れる。

「なあに、まだ一番手柄と決まったわけじゃない。
トリステイン王国のアンリエッタ女王もいるとの噂だ。
もし捕まえたら褒美は望むがままだ。爵位だって夢じゃない」
「本当に最前線に来てるのかよ? ただの噂だろ」
「いや、アンリエッタ女王はタルブ戦でも前線で指揮を取っていたと聞く。
ならば遠征中で士気も落ちる連合軍を見舞いに来てもおかしくないだろう」

とはいえベテランの兵士も絶対の確信などない。
タルブ戦といえば数ある戦いの中でも指折りの胡散臭さを誇る物だからだ。
結果こそ確かなものの、その記録内容は奇妙としか言い様が無かった。
従軍経験さえないアンリエッタ女王自ら采配を振るい、
最強と謳われたアルビオン艦隊は神と始祖の加護により壊滅したというのだから、
もう神代の時代の再現か、あるいは軍目付けの精神を疑うべきだろう。
他にも、この記録には不自然な点も多い。
“精強で知られたアルビオン兵が犬の遠吠えを援軍と勘違いして四散した”
“届く筈のない地上からの砲撃が何故か上空の艦隊を撃沈した”
“撃沈された筈の艦隊からは、ほとんど死傷者が出なかった”
その最たる物としてトリステインから離反したワルド子爵に至っては、
文官であるモット伯に討ち取られた上に自らの騎竜から転落死と、二度も死んだ事になっている。
恐らくは偶然の勝利を神懸り的な何かに演出しようとしたのだろう。
もし、これを書いたのが劇作家ならとっくに職を失っているに違いない。

738ゼロいぬっ!:2009/07/01(水) 23:38:44 ID:fafafQwU

疑いの眼差しを向ける兵士達に、やれやれと男は頭を掻いた。
やはり、こういった連中を動かすのはもっと目先の物でなければ。
その上で最も効果的な物を彼は長年の経験から熟知していた。

「じゃあ、こいつは知っているか。
今アルビオンにゃ兵士達の慰労の為に高級酒場が幾つも出張してるってな」

先輩の言葉に耳を貸さなかった兵士達の耳が動く。
彼等の視線は先行する彼へと向けられている。
それを感じ取ってニヤリと男は笑みを浮かべた。
結局の所、兵士を良く動かすのは出世欲や名誉欲ではない。
もっと純粋な三大欲求こそが彼等を突き動かすのだ。

「さすがに貴族の御偉方に手は出せねえが商売女なら話は別だ。
だがな、路地裏で客取ってるような安物じゃねえぞ。
伯爵様方も夢中になって金貨を落としていく最高級品だ。
いいか、早い者勝ちだ! 真っ先に港に辿り着いた奴から好きなのを選ばせてやる!」

男の言葉に兵士達は槍を手に雄叫びを上げた。
足取りは力強く、纏わりつく泥を跳ね飛ばしながら突き進む。
そこには先程までの重い足取りをした弱卒はいない。
今の連中は文字通り、飢えたケダモノどもだ。
“分かりやすく、そして扱いやすい連中だ”と呆れ半分で笑みを浮かべる。

その一方で士気の上がらぬ兵士達もいた。
新兵ならばそれも仕方ないと思ったかもしれない。
だが、その一団は貴族派だった頃からの正規兵達だった。
見れば顔は青白く、その身体は小刻みに震えていた。
それは雨風の冷たさばかりではなく内から込み上げる何かに起因しているように見えた。

「まるで分かっちゃいねえ! トリステインにはあの“ニューカッスルの怪物”がいるんだぞ!」

怯える兵士達の一人が耐え切れず、遂にその名前を口にした。
途端、血気に逸る若手達もそれを鼓舞する古参兵も全員が凍りついた。
“ニューカッスルの怪物”それはアルビオン軍では不吉の象徴とも言われる存在だった。
最初に現れたニューカッスル城では城内に進入した傭兵団を悉く殺し尽くし、
さらには包囲していた大軍にも襲いかかり多数の死傷者を出したと伝えられている。
またタルブ戦にも現れて何隻もの艦艇を沈めたとの逸話もある。
一時期、その怪物がトリステイン王国の生み出した生物兵器であるとの話も出てきた。
だが、それらはあくまで噂に過ぎない。

しかし、この兵団は“彼”の実在を知っていた。
彼等はニューカスル城に後詰として参加し、
城内と城外、無数に転がった人とも物とも区別の付かぬ肉塊を目にした。
かろうじて生き残った者達からは怪物が齎した身の毛もよだつ恐怖を聞かされ、
どこからともなく響く獣の遠吠えに身を竦ませた。
ニューカッスルも、タルブも、今も同じだと彼等は考える。
あと一息で敵を倒せるという時に、あの怪物は姿を現してきた。
だから、今この瞬間にも自分達の目の前に現れてもおかしくはない。
彼等はそう強く信じ込んでいた。

739ゼロいぬっ!:2009/07/01(水) 23:39:23 ID:fafafQwU

「何言ってやがる。ただの迷信じゃねえか」

彼等の言を一笑に付して若い兵士が先を急ぐ。
そんな兵器があるならとっとと前線に投入しているだろうし、
ただの理性もない怪物だとしたら操れるはずもない。
いるかどうかも分からない怪物に怯えるのは、
あるかどうかも分からない手柄に期待するよりも虚しい。
仮に、こんな事で手間取った挙句に失敗したら取り返しはつかないだろう。
半ば踝まで泥に埋まりかける足場を踏み分けて進んでいた、その最中。
彼の爪先が硬い何かにぶつかって止められた。
不意に足を止めて腰を屈め、その何かを確かめる。

それは倒れて意識を失ったアルビオン兵だった。
耳を近づけると雨音の中でも辛うじて呼吸が聞き取れた。
何があったのかを聞こうとして兵士は気付いた。
周りにはまだ何人もの兵士達が同様に地面に倒れている。

銃声はおろか魔法さえも目にしなかった。
こちらに軍勢が迫る気配も何もない。
なのに何故、彼等は倒れているのか。
困惑する彼の目の前で何かが蠢く。
降りしきる雨と宵闇に視界を遮られた中、
何者かの気配を感じて兵士は咄嗟に動いた。

「何者だ!?」

何が起こったのかを考えるよりも早く、
彼は威嚇の声を発して鋭く尖った槍を前へと突き出す。
直後、彼の槍先は瞬時にして失われた。
断たれた先端が宙を舞って弧を描く。
それに目を奪われた瞬間、彼の鳩尾に剣の柄尻が突き刺さる。
声を上げる間もなく沈んでいく兵士の陰から現れる、もう一つの影。

それが何かを理解するのは彼等には不可能だった。
連合軍の反攻はあるかもしれないと思っただろう。
だが唯一人。それも杖ではなく剣を手に乗り込んでくるなどとは考えもしない。
その理解できない『何か』は大地を飲み込まんとする大軍を前に正対する。
自身の常識を超えた存在の思わぬ出現に彼等は戦慄を覚えた。
そして、まるで弾けるように兵士達は外敵を排除しようと動き出す。

戦いというにはあまりにも一方的だった。
四方八方を取り囲み、さらには魔法が豪雨となって降り注ぐ。
人一人を殺すには過剰ともいえる暴力。
しかし、それだけの攻撃、それだけの殺意を向けられながら、
まるで小枝でも払うようにそれは陣中を切り進んでいく。
必死に繰り出される槍も剣も、魔法さえも切り払われて霧散する。
まるで現実感の伴わない光景を前に、立ち尽くした兵士が声を上げた。

「で……出た! ニューカッスルの怪物だ! 怪物が本当に出たぞ!」

恐慌状態に陥った兵士達が武器を捨てて後方へと逃げ出していく。
その彼等から齎された報が瞬く間にアルビオン軍全体へと伝わっていく。
それはまるで伝染病のような広がりを見せ、アルビオン軍は混乱に陥った。
そんな混迷を極める戦場の只中を平賀才人はひたすらに駆け抜けた。

主であり、そして恋焦がれた少女の為に走り続けた。

740ゼロいぬっ!:2009/07/01(水) 23:40:28 ID:fafafQwU

夢を見た。才人とアイツの夢だった。
才人がアイツを連れてどこかに行ってしまう。
その背中に追いつこうと必死になって走っても届かない。
大声を上げて呼び止めようとしても足を止めようとしない。
やがてアイツらは立ち止まってこっちに振り返る。
そして私に向かって手を振ると消えてしまう。
そんな怖いような、悲しいような夢だった。

胡乱な頭でベッドから起き上がる。
上半身だけを起こして辺りを見渡すも目に映るのは見覚えのない物ばかり。
学院の寮とも実家とも違う光景に頭がついていかずに戸惑う。

「……えーと」

寝ぼけ眼をこすりながら記憶を呼び起こす。
(そうだ。私達はアルビオンに……)
そこまで思い出して彼女は慌てて周囲を見渡す。
いない。どこにもいない。
部屋の中に才人の姿はどこにもなかった。

イヤな予感が胸の中を塗り潰す。
掛けてあったローブを引ったくって上から羽織ると、
そのまま船室を飛び出してルイズは駆け出した。

「……あのバカ!」

走りながら思い出すのは教会での一幕。
あの時に交わした杯の中に何かを入れたに違いない。
眠りに落ちる前の、優しげな才人の顔が目に焼きついている。
それがもし別れを決意したものだったとしたら……。
長い髪を乱しながら頭を振るう。
そんな事はない。まだ呼び止めれば間に合う。
二度も、二度も繰り返してたまるものか。
あんな悲しい別れは一度だって十分なのに。

息を切らせてルイズはようやく甲板へと辿り着く。
雨に濡れるのも構わず彼女は船縁へと走り寄る。
しかし、そこに見えたのは遠ざかっていく港だった。
もはやフライを使おうとも届くような距離ではない。
次第に小さくなっていく港の明かりを見ながら、
ぺたんと彼女はその場に力なく膝をついた。

もう間に合わない。
いえ、きっと追いついたとしても止められなかった。
雨ではない雫が頬を伝って零れ落ちる。
もう二度と失くしたくなくて、今度こそ私が守ろうと、
怖くても才人が生きていてくれるならとなけなしの勇気を奮った。
―――なのに、また私だけが生き残った。

741ゼロいぬっ!:2009/07/01(水) 23:41:16 ID:fafafQwU

悔しくて悔しくて何度も縁を叩きつける。
どうしていつも置いていかれるのか。
共に生き残る方法がないなら、
どうして“一緒に戦おう”と言ってくれなかったのか。
きっと残された私の気持ちを考えもしなかったのだ。
才人のいない世界で生きるのがどれほど辛く悲しいのかも。

「サイトの馬鹿!馬鹿!馬鹿ァァーー!!」

罵る相手を失った慟哭が虚しく響き渡る。
失って彼女はようやく気付いた。
自分にとって彼がどれほど大切な存在だったのかを。


「どうした相棒? 急にあさっての方を向いて」
「いや、ルイズの声が聞こえたような気がしてさ」

カタカタと鍔元を鳴らして話しかけてきたデルフに才人は答えた。
無論、空耳だというのは分かっている。
ここから港まで声が届くはずはない。
なのに、どこか心に妙な安堵感がある。
まるで傍らにルイズがいるかのような感覚。
それがある限りはまだ戦える、
否、戦わなければならないのだ。

「後悔はねえのか?」
「あるに決まってるだろ。まだルイズと一緒にいたかったさ」

そんでもって、あんな事やこんな事を…と妄想に耽りそうな頭を振るう。
だけど、それを運命は許してくれなかった。
生き残れるのは俺かルイズのどちらか一人だけ。
なら選ぶ余地なんて初めからありはしない。

平賀才人には何も無かった。
ハルケギニアに呼び出され、家族や友人、その他多くの物を失った。
いや、召喚される前の漫然とした日々でさえ確かなものは何も無かった。
そんな中で唯一つ確かなものはルイズだけ。
才人にとって彼女への想いだけが真実だった。

742ゼロいぬっ!:2009/07/01(水) 23:42:07 ID:fafafQwU

「やっぱり死ぬのかな、俺」
「さすがに七万の軍勢が相手じゃな。
前の相棒だったらどうにかなったかもしれねえけど」

そっか、と才人は溜息を漏らした。
ここまで運良く切り抜けてきたので、まるで実感は湧かなかった。
“ニューカッスルの怪物”の噂が兵士達の動揺を呼び、
そして視界を遮る豪雨により相互の連携が絶たれている事が幸いした。
敵の数も正体も他の部隊の現状も把握できずに狼狽する相手なら、
いくら数がいようともガンダールヴの相手ではない。

もしかしたら、このまま敵陣を突破して生き残れるかもしれない、
そんな淡い期待が才人の胸に込み上げていた。
しかし、きっぱりとデルフはそれを否定する。
幸運はここまでだ、と浮かれる相棒に鋭い釘を刺す。
指揮系統が機能していないのは末端までだ。
直接指揮を執っている連中の周りには万全の警戒が敷かれている。
その最中に切り込むのは火中に飛びいるに等しい。
この期に及んでまだ未練を残す自身に才人は苦笑いを浮かべた。

「まあいいさ。次があるって分かったからな。
後はそいつに任せる。ルイズと上手くやってくれるといいな」

ははは、と笑いながら自分が受けた仕打ちを思い返し、
きっと苦労するんだろうな、とまるで他人事のように呟く。
そんな相棒の姿を見ながらデルフは黙した。
確かに才人の言うように、彼が死ねば新しい使い魔は呼ばれるだろう。
だけど、そいつはそいつだ。才人ではない。
使い魔の代わりはいても、才人の代わりはいない。

(相棒……、きっと気付いちゃいねえだろうが、
嬢ちゃんにとってお前さんの代わりは居やしねえんだよ)

「なあ相棒。一つだけ約束してくれねえか」
「なんだよ、急に改まって」
「何があっても俺を手放さないと誓ってくれ」

万に一つ、いや、十万に一つもないだろう。
だが、少しでも可能性と呼べる物があるのなら賭けてみようと思った。
たとえ才人の意識が途切れてもデルフは彼の身体を操作できる。
剣を手放しさえしなければ、あるいは敵から逃げ遂せるかもしれない。
それに前の相棒の時のように離れ離れのまま別れるのは御免だった。
命を預けた相棒と最期まで共に戦って死ぬのならそれも悪くない。

743ゼロいぬっ!:2009/07/01(水) 23:43:35 ID:fafafQwU

「何か縛る物持ってないか? ハンカチでもいいけど」
「俺がそんな几帳面な奴に見えるか?」
「いや、聞いてみただけだ」

デルフに言われて、ごそごそとポケットの中を探る。
たとえ何かが入っていたとしても乱戦の最中に落としただろう。
ふと指先に何かを感じて、それを引っ張り出す。

「……………………」

偶然だったのか、それとも奇跡か。
才人のポケットから出てきたのは擦り切れ褪せた首輪だった。
それはお守りとしてルイズの部屋から持ち出した“彼”の持ち物。
呆然と首輪を眺めていた二人が、やがてどちらからともなく笑い合う。
ぐるりと手と柄を首輪で縛り、才人は握りを確かめて言う。

「それじゃあ一緒に行くか」

見据える先は魔法の明かりに照らし出された無数の軍勢。
大軍でありながら隊列の乱れや澱みのない行軍は、
陣中にそれを率いる指揮官が存在する事を示していた。
一個の生物として機能する軍隊はさながら巨大な竜のよう。
それに平賀才人は臆することなく立ち向かう。
まるで『イーヴァルディの勇者』がそうしたかの如く。

「出たぞ! “ニューカッスルの怪物”だ!」

視界の利かぬ中、動く人影を認めた兵士の一人が叫ぶ。
それに才人は雄叫びじみた名乗りを返す。
その称号を誇りと共に高らかに告げる。

「怪物じゃねえ! 俺は!俺達は……“ゼロの使い魔”だ!」

744ゼロいぬっ!:2009/07/01(水) 23:44:13 ID:fafafQwU

本陣に駆ける少年の姿をケンゴウは見送った。
四肢には立ち上がる力は無く、鳩尾にはくっきりと痣が残されている。
(……なんと脆き刃よ)
手には半ばで断たれた量産向けの剣。
しかし、彼が指したのはこの剣ではない。

少年の剣は決して褒められるような物ではなかった。
ただ速くただ重いだけの身体能力に任せた太刀筋。
先祖伝来の剣技を修めた自分ならば負ける相手ではなかったはずだ。
しかし、今の自分は数合も打ち合えず地に這わされている。

少年の話を盗み聞いてつくづく思う。
身に付けた剣も所詮、自分だけのもの。
多くの者達の想いを背負う少年に及ぶべくもない。
ましてや幾万の大軍に刃を向けられる気概など今の自分にはない。
その程度の志で天下に勇名を轟かせるなど遥かな夢。

「……修行のやり直しだな」

口の端に浮かぶのは笑み。
世界は広い、故に興味は尽きない。
杖を振るうメイジには野蛮、銃を撃つ兵士には時代遅れと揶揄された。
しかし、そんな剣に七万の大軍が翻弄されている。
その様に敵方だというのに爽快な気分が込み上げる。

ああ、恐らくは叶う事はないだろう。
だが始祖と神、そして先祖の住まう世界に居たという神仏に願う。
いつの日か、もう一度あの少年と心ゆくまで切り結ばせ給えと。


ケンゴウ(通り名)
……アルビオン戦役後、傭兵を辞めて流浪の旅に出る。
後に、クリスティナ・ヴァーサ・リクセル・オクセンシェルナと運命の出会いを果たす。
仕官した後は彼女を終生の主と仰ぎ、小さいながらも自分の道場を開く。



「前線より援護要請! 敵の反攻激しく、進軍を阻まれております!」
「観測所より通達! 連合艦隊はアルビオンを発ったとの事です!」

突然の奇襲に慌てふためく本陣に伝令が飛び込む。
アルビオン軍の敗北を知らせる2つの報告を耳に、
襲撃者である少年が去っていた方向をホーキンスは黙って見ていた。
追撃しようなどとは思わない。もはや少年が助かる見込みはない。
矢で射抜かれ、炎で焼かれ、槍に貫かれ、肉を裂かれた。
ここまで来た道程を少年の流した血が染めている。
たとえ水メイジの治癒であろうと間に合わないだろう。

勝っていた戦だった。
妨害があろうとも突破できるだけの戦力はあった。
それを覆したのはたった一人の少年だった。
剣を手に単騎で敵中を駆け抜けて本陣まで迫る。
炎も氷も風も土も、少年を阻む事は出来なかった。
今もホーキンスの眼には、目前で閃く少年の太刀筋が焼き付いている。

745ゼロいぬっ!:2009/07/01(水) 23:45:18 ID:fafafQwU

斬り飛ばされた帽子を拾い上げてパンパンと埃を落とす。
そして、それを被り直すと最初に報告に来た兵士を呼びつけた。

「あれが“ニューカッスルの怪物”か?」
「あ……いえ、その……」

ホーキンスの問いかけに、その兵士は萎縮して何の返答も出来なかった。
如何に腕が立とうとも相手はただの剣士、人間に過ぎない。
それを怪物が現れたなどと報告をすれば徒に混乱を招いたとして処罰は免れない。
実際に怪物騒ぎの所為で混乱を来たした部隊も少なくはない。
敗北に導いたと言いがかりをつけられても男には反論のしようがなかった。
加えて、アルビオン共和国の厳罰とは死罪を意味する。
蒼褪めていく兵士の顔を見据えながらホーキンスは続ける。

「槍で突けば傷付き、矢が刺されば血を流し、炎に焼かれれば火傷を負う。
あんな貧弱な物を人は怪物などと呼びはしない、違うか?」
「は……はい」
「では君はあれが何なのか分かっているかね?」

鋭いホーキンスの眼差しに男は竦み上がった。
もはや弁解の余地もなく、ただ言われた質問に答えようとした直後。
それを遮ってホーキンスは解答を口にする。

「あれはな、英雄と呼ばれるものだ」

ホーキンス
……神聖アルビオン共和国の将軍としてアルビオン戦役を戦い抜く。
終戦後、揉み消された平賀才人の功績をトリステイン政府に強く訴える。
後に、彼の回顧録はアルビオン戦役を知る上で最も史料価値が高いと評された。


「ねーちゃん! ねーちゃん!」
「どうしたんだい? 騒々しいね」

戦場から程近いサウスゴータの森の中。
がさがさと木陰から飛び出してきた子供達に、
やれやれといった態度でマチルダが答える。
雨の中でもはしゃぐ子供達に付き合う体力はない。
きっと、またイタズラして怪我でもしたのだろうと、
取り合わない彼女に子供達は切羽詰った様子で言い放つ。

「おばちゃんじゃなくて! ティファニアねーちゃんを呼んできてよ!」
「おば!!?」

困惑も一瞬、禁句に触れた子供へとマチルダの手が伸びる。
そして、あっと言う間に羽交い絞めにすると、
こめかみに拳を押し付けながらマチルダは問い質す。

「誰がおばちゃんだ! 誰が!」

その鬼気迫る表情に他の子供達も言葉を失う。
こんな事をしてる場合じゃないと分かっているが、
今のマチルダを止められるのは、この孤児院に一人だけ。
やがて騒ぎを聞きつけたティファニアが駆け寄ってきた。

746ゼロいぬっ!:2009/07/01(水) 23:46:13 ID:fafafQwU

「どうしたんですか、姉さん」
「年上に対する言葉遣いがなってないんでね、ちょっと教育してやったのさ」

心配そうに見つめるティファニア。
その視線に耐え切れずマチルダは捕らえた少年を解放する。
恨みがましそうに見上げる子供を睨みつけながら、
風邪を引かないように自分の着ていたローブを彼女に被せた。
ついでに言うと彼女の着ている服は薄手の布地で、
水に濡れると肌に張り付いて大変な事になる。
少年の情操教育に良くない物を隠していると、
子供達の一人が思い出したかのように声を上げた。

「大変だよ! 森の中に人が倒れてるんだ!
前の、竜のおじさんみたいに凄く血を流してる!」

その言葉に二人はすぐさま行動に移した。
少年の指差す方向へと走り出すと草木を掻き分けて進む。
やがて二人の前に目を覆いたくなるような凄惨な光景が広がる。
大木に寄り掛かる少年は正しく満身創痍だった。
傷口から流れ出た血は服を赤黒く染め上げ、
身体には何本もの矢が突き刺さったまま、
片腕は完全に黒く焦げて今にも崩れ落ちそうだった。

「………………」
「待ってて! 今助けるから!」

すぐに駆け寄るティファニアと裏腹に、マチルダは言葉を失った。
こんな偶然があるものなのかと思わず運命を信じてしまいそうになる。
マチルダにとっては敵同然だが何故か憎しみは湧かなかった。
それどころか、むしろ助かる可能性に安堵さえしている。

ティファニアが詠唱を行うと指に嵌めた指輪が光り、
致命傷と思われた才人の傷が次第に塞がっていく。
ふん、と鼻を鳴らすとマチルダは才人から目を背けた。
甘くなったのではない、ただ堪えられないだけ。
あの時のようにルイズが泣くのを見たくも聞きたくもない。
そんな自分勝手でつまらない理由。ただそれだけだ。


マチルダ・オブ・サウスゴータ(別名:土くれのフーケ)
……タルブ戦後、何食わぬ顔でオスマンの秘書として復帰。
その後、『破壊の杖』を強奪するも才人達に敗れて逮捕される。
しかしシェフィールドの手引きにより脱獄。
その代価としてクロムウェルより奪った『アンドバリの指輪』を引き渡す。
現在、アルビオンの孤児院にて慣れぬ子供の世話を勤める。

ティファニア・ウエストウッド
……孤児院で子供達の世話をしながら過ごしてきた。
今はまだ自分の運命を知らない。

747ゼロいぬっ!:2009/07/01(水) 23:46:53 ID:fafafQwU

顔が血色を取り戻すのを確認してティファニアは安堵の吐息を漏らした。
指輪に付いていた石はもう無い。それは力を全て使い切った証。
だが、彼女の顔に後悔はなく、むしろやり遂げたと思わせる表情を浮かべる。
ふと気付くと少年はうわ言のように何かを呟いていた。
失礼かもしれないと分かっていながら思わずティファニアは耳を傾ける。

「………ルイズ。待ってろよ、今帰るからな」


平賀才人
……ルイズの新しい使い魔としてハルケギニアに召喚される。
その後、ギーシュとの決闘、フーケとの戦いを通して戦いの経験を重ね、
前任者が託した想いを受け継いで精神的に大きな成長を遂げる。
―――彼の物語は、まだ始まったばかりだ。

748ゼロいぬっ!:2009/07/01(水) 23:50:46 ID:fafafQwU
以上、投下したッ!
絶賛規制中! 今後も代理投下をお楽しみくださいッ!

次回、第100話で堂々の完結(予定)!
ついでに次回作の構想も(未定)!

749ゼロいぬっ!:2009/07/01(水) 23:53:50 ID:fafafQwU
どなたか恵まれないレス乞食の為に代理投下をお願いします。

750名無しさん:2009/07/02(木) 00:34:05 ID:OE8gF.JQ
代理の代理 行ってみます

751ゼロいぬっ! 代理 の代理:2009/07/02(木) 00:45:04 ID:OE8gF.JQ
うぬっ!焦りすぎたか サルさん食らってしまった
誰か最後のレスを…

752ゼロいぬっ!:2009/07/02(木) 00:50:45 ID:cOtWCjW2
ありがとうございました。

753ゼロいぬっ!:2009/07/13(月) 21:23:59 ID:ULXnYHKg

墜落した戦列艦が上げる黒煙に燻ぶ中、コルベールは歩き続けた。
背中越しに聞こえる兵士の歓声や悲鳴にも振り返る事はない。
腕の中には息遣いの絶えた犬。それを我が子の様に抱き締める。

出来るだけ、ここから遠く離れたいと強く願った。
戦乱に放浪されて傷付いた彼の終焉の地はここであってはならない。
血や硝煙の臭いではなく風が薫る花畑、あるいは世界を見渡せる小高い丘か、
どこか誰も知らぬ場所に、そして誰にも知られずに葬られる。
それがトリステインであれ他の国であれ、決して墓を暴かれ利用されるなどあってはならない。
彼は大切な者を守る為、命を尽くして戦った。
その魂の平穏を乱すような事はたとえ始祖と神であろうと許されない。

「やあやあ待っていたよミスタ・コルベール!」

聞き覚えのある耳障りな声が高らかに響く。
コルベールの視線の先には身形の良い貴族が一人。
それはアカデミーから派遣された例の男だった。

「さあ、その薄汚い犬を我々に引き渡したまえ。
これほど貴重な研究資料、土の中で腐らせるには惜しい」

男は“我々”という言葉を殊更強調した。
恐らくはアカデミーの総意を示しているのだろう。
逆らえばアカデミー、引いてはトリステイン王国への反逆となる。
止まっていたコルベールの足が再び前へと歩み始める。
それを見て男は笑みを浮かべる。

「いや、君は実によくやってくれた。
さすがはアカデミーに所属していただけの事はある。
怪物について調べ上げ、こうして我々の元に連れて来てくれた。
君の貢献に、アカデミーも君の復職を認めるだろう」

コルベールを招き入れるように大きく両手を広げてみせる。
だが彼はコルベールの処遇などに興味はなかった。
圧倒的な力を誇示した“バオー”を手に入れる為の口約束。
この遺体を調べ尽くし、再現する事が出来ればトリステイン王国は最強となる。
さらには彼が推奨した“光の杖”の軍事利用も夢想ではなくなったのだ。
形骸化したアカデミーもかつてのような発言力を手にし、自分はその頂点に立つ。
男の目に映るのはコルベールではなく遥かな高みへと続く階段。

コルベールが男へと歩ずつ歩み寄る。
やがて互いの手が届く距離にまで近付き、男は手を差し伸べた。
しかし“彼”へと伸ばされた手は空を切った。
戸惑う男の横をコルベールは平然と通り抜けていく。

完全に無視された形となった男の拳が震える。
怒りと恥ずかしさが込み上げて顔を著しく高潮させる。
そしてコルベールへと振り返ると声を荒げて叫んだ。

754ゼロいぬっ!:2009/07/13(月) 21:24:41 ID:ULXnYHKg

「貴様! 分かってやっているのか、これは反逆だぞ!
今までは公に出来なかったが故に処罰を免れていたが、
実験部隊を脱走した罪は未だに有効! 本来ならば極刑だ!
それを見逃してやったにも拘らず再び背くとは度し難い!」

薄皮の様にへばり付いていた余裕の表情が男の顔から剥がれ落ちる。
杖を突きつけて恫喝する相手に目もくれずコルベールは歩いていく。
取るに足りない存在に無視されるなど屈辱に他ならない。
湧き上がる憎悪は人道に悖る方法さえも可能とさせる。
コルベールが自身を省みないというのならば別に人質を取ればいい。

「無論、今まで匿っていたオールド・オスマンも罰せられるだろうな。
そればかりか貴様の生徒達も事実を知りながら隠蔽していた可能性がある。
未来を担う貴族の子弟に、あらぬ嫌疑はかけたくないのだがなあ」

コルベールの足が止まる。
その背中にニヤついた笑みを浮かべながら男は近付いた。
そして彼の肩に手を触れようとした瞬間、コルベールは振り返った。
そこにいたのは魔法学院の教師などではない。
『白炎』をして怪物と云わしめた『炎の蛇』が睨む。
心臓を鷲掴みにされたのではないかという程の恐怖が男を襲う。
短い悲鳴を上げて尻餅をついた相手にコルベールは言い放った。

「もう学院に戻る事はありません。
それでも彼等に危害を及ぼすというのなら」

“今一度、この杖を振る事に躊躇いはない”
口には出さずとも、彼の鋭い視線が雄弁に語っていた。

遠ざかっていくコルベールの背中を男は見送る。
傍から見ても分かるぐらいにコルベールは満身創痍。
今なら如何に優れたメイジであろうとも仕留められる。

「誰か! 誰かいないのか! 反逆者だ!」

自分で動くという考えを完全に放棄して男は叫んだ。
離れているとはいえ、ここはまだ戦場の中だ。
騒ぎを聞きつければ誰かが駆けつけてくれるだろう。
そう期待して懸命に声を上げ続ける。
叫び続けた所為で黒煙を吸い込んで思わずむせ返る。
口元にハンカチを当てながら視線を戻すと、
そこにはこちらに歩み寄る人影があった。

「おお……!」

歓喜の混じった声が男の口から漏れる。
やはり始祖は自分を見捨てなかった。
次第に顕になっていく姿に男は始祖に感謝した。
手に持った杖は平民の兵士などではなく、
自身を倍して余りある体躯は鍛えられた軍人である事を示していた。
―――だが、煙の向こう側から現れた全容を見て男は凍りついた。

755ゼロいぬっ!:2009/07/13(月) 21:25:41 ID:ULXnYHKg

無惨に刻まれた火傷の痕。何も映さない盲目の瞳。
戦鎚じみた巨大な杖。オーク鬼の如き頑強な巨体。
何よりも男はその人物の顔に覚えがあった。
コルベールの所属していたアカデミー実験部隊の記録。
そこに副隊長として記載されていた男の名を呟く。

「『白炎』の……メンヌヴィル」

それが男の最期の言葉となった。
その直後、彼の肩から上は完全に失われていた。
つまらなそうに『白炎』は横薙ぎに払った杖を再び肩へと担ぎ直す。

「邪魔だ」

死体に目もくれずに吐き捨てるように言う。
しかし不満げだった表情も一瞬。
一歩一歩とコルベールに近付く度に、
その表情からは抑えようとも笑みが零れ落ちる。
迫り来る殺気にコルベールも振り向き、そして隠し切れぬ動揺を見せた。
その態度の変化を体温で察知してメンヌヴィルは狂喜する。

メンヌヴィルにとって十年の歳月は長かった。
傷が癒えるまで拷問に等しい苦痛と同居し、
光を失ってから屈辱に塗れて世界中を彷徨った。
眠りにつけば、あの夜を思い出して悲鳴と共に目覚める。
暖かな日差しさえも我が身を焼く記憶を蘇らせる。
楽しい時間が光の如く過ぎ去る物ならば、
その悪夢のような日々はどれだけ長い時間だったのだろうか。
怪物と成り果てるまでの道程を生き残れたのは執念のみ。
ただ、コルベールへの復讐心だけが彼を生かしていた。

そうだ、俺を見ろ。
俺はここにいるぞ、コルベール。
貴様の前に、貴様を狩る為だけにここにいる。
永劫とも思える時間も、苦痛も、屈辱も、憎悪も、
全てはこの戦いの為だけに存在していた。

「戦いは終わりました。これ以上の戦闘は無意味です」
「終わった…? 馬鹿を言うな、俺も貴様も生きている。
アルビオンとトリステインの戦など、どうなろうと知った事か」

コルベールの言葉を一笑に付してメンヌヴィルは杖を構えた。
『白炎』の言葉は額面だけのものではない。
彼は知らないがメンヌヴィルはここに来るまで自分の部下を手にかけた。
避難させようとする彼等を障害物であるかのように打ち殺したのだ。
発狂したと思い止めようとするアルビオン兵さえも焼き払い、
今まで築き上げてきた物全てを投げ打って『白炎』はここにいる。
ここにいるのは人間ではなく、妄執が動かす狂気の塊。

「貴様は追いつかれたと思っているようだが、それは少し違うぞ。
これは運命だ。俺と貴様はここで巡り会う事が決まっていた」

覚悟を決めて杖を向けるコルベールに、
メンヌヴィルは感極まったように語りかける。
何を言っているのか理解に苦しむ言動に思わず顔を顰める。
直後、彼等の真上に巨大な影が落ちた。
軍艦が来たのかと見上げるコルベールの視線の先、
そこには、まるで弦のように形を変えていく太陽があった。
日食の事を失念していた彼の表情が凍りつく。

756ゼロいぬっ!:2009/07/13(月) 21:26:59 ID:ULXnYHKg

「しまった!」
「気付いたようだな。だがもう遅い。
俺にとっては住み慣れた世界だが貴様はそうではあるまい。
これこそ天の恵み。始祖が貴様を討てと言っている、その証左よ。
日食が終わるまで果たして生きていられるかなコルベール!」

メンヌヴィルの巨体が闇の中に消えていく。
常でさえ不利な状況に加え、コルベールはワルドとの連戦。
残された精神力だけで凌ぎきれるとは到底思えなかった。
杖を握る手に力はない。彼の蓄積された経験が敗北を告げていた。

(……ここで終わり、ですか)
諦観に達したコルベールは僅かに安堵している自分に気付いた。
長き贖罪の日々は実を結ばず、見たいと願った異世界は遥か遠くに。
背負った罪の重さに苦しみ続けた生涯がようやく幕を下ろす。
嘘と裏切りを繰り返して人を傷付け続けた報いを受ける時が来たのだ。
メンヌヴィルとの因縁もここで断ち切られ、誰かを巻き込まずに済む。

そして“彼”の遺体を抱き留めてコルベールは願った。
もし、この日食の向こう側が“彼”の世界に繋がっているのならば、
せめて、その魂だけでも共に連れて行って欲しいと。

メンヌヴィルの魔法が完成する、その刹那。
一面の闇で覆われた世界を激しい稲光が白く塗り替えた。
まるで意志が介在するかの如く雷光がメンヌヴィルを襲う。
空を見上げるコルベールの目に映ったのは雷を纏う一頭の風竜。
電撃を放つ竜などハルケギニアには存在しない。
故にコルベールは気付いた。それが“彼”の内に潜んでいた力の源だと。

「おのれ…! 化け物如きが邪魔をする気か!」

忌々しげに見上げるメンヌヴィルに再び雷撃が迫る。
『白炎』同様に“バオー”も視覚ではなく触角で敵を察知する。
日食の闇はメンヌヴィルを覆い隠すカーテンにさえならない。
奥歯を噛み砕かんばかりにメンヌヴィルは憤怒の形相を浮かべた。
憤るべきは“バオー”とそれを仕留めそこなった自分の甘さ。
かつて“炎蛇”が自分を殺せなかったように、そのツケが今になって巡ってきたのだ。
己の失策を胸に刻みつけ、彼はフライでその場から早急に離脱した。
“バオー”と“炎蛇”そのどちらか一方なら確実に戦闘を続けただろう。
しかし、その両方と対峙すれば確実に敗れる。それでは意味がない。
生きてさえいれば必ずや次の機会が巡ってくるという確信が彼にはあった。
―――これは間違いなく運命なのだと。

「君は……」

コルベールの呼びかけを風竜の羽ばたきが掻き消していく。
大地に降り立ったバオーがコルベールとその腕に抱かれた“彼”を一瞥する。
生命の臭いは既に失われている。この状態から蘇生させるなど“バオー”にも不可能だ。
しかし彼は“バオー”の宿主だった。それならば僅かながら可能性が残されている。
幾度となく戦闘形態へと変身してきた彼の細胞は、
破壊と再生の繰り返しにより元の細胞よりも強靭な物に変貌している。
それを“バオー”の分泌液を分け与えて活性化させる事が出来れば、あるいは……。

しかし、それをした所でここに“彼”の居場所はない。
自分を焼き払おうとした男達は再び“彼”を研究材料にしようとした。
戦いは避けられない。だが人間を犠牲にしてまで生き延びるのを望むだろうか。

757ゼロいぬっ!:2009/07/13(月) 21:28:15 ID:ULXnYHKg

それでも“彼”に生きていて欲しい。
“バオー”は“彼”から学んだ。
“生きるとは何かに命を懸ける事だ”と。
“彼”が主である少女を守る事に命を懸けたのならば!
今度は自分が“彼”の命を守る事に命を懸けよう!
望みは捨てない! 自分は最強の生命力を持った生物なのだ!

“バオー”が自分の指に食らいつく。
傷口から分泌液の混じった血が零れ落ちる。
その指先を“彼”の口元に押し込んで体内に流し込む。
次いで口の端に引っかかっていた、千切れた前足を元の場所へと戻す。
後は、彼の生きたいと願う意志に賭けるのみ。
自分にまだやるべき事が残されている。

黒く染まった空を見上げる。
太陽は完全に影の中に隠れている。
時間がない。“バオー”は翼を大きく羽ばたかせた。

「無茶だ! 止めなさい!」

その行動の意味を察したコルベールが声を上げた。
風竜の翼膜は散弾によってあちこちに孔を穿たれ、
その翼を動かす背中の筋肉は炎によって焼け爛れていた。
如何な生命力を誇る生物でも再生には時間がかかる。
無理に動かせば根元から翼を失う事だって十分に有り得る。
今の“バオー”が高高度の落下に耐えられるとは到底思えない。
ここまで飛んできた事さえ奇跡なのだ。
これ以上を望むのはただの自殺行為にしか思えなかった。

しかし“バオー”は“彼”を抱きかかえて飛んだ。
黒一色の空を貫くように空へと昇っていく。
空気の壁を突き破り太陽に迫る青い弾丸。
それはやがてコルベールの視界から消え、
そして、ハルケギニアからも永遠に姿を消した―――。


少女は開いていた本を閉じた。
表紙には凛々しくも愛らしい犬の絵。
本を返しに来たはずなのに、いつの間にか読み返していた。
もう休み時間はとっくに過ぎている。
慌てて本棚の中に戻して図書室を飛び出した。
どんな言い訳をしようかと思案しながら廊下を駆ける。
終了間際にテストの空欄を埋めるぐらい必死になっていた彼女に、
部屋から出てくる人間に注意を払えるほどの余裕はなかった。
加速のついた勢いは急には止められない。
激突だけは避けようとして転倒する彼女にレビテーションがかけられる。

「遅刻しそうだからといって廊下を走るのはあまり感心しませんね」

溜息を零しながらコルベールは杖を振るって彼女を立たせた。
伝統ある魔法学院が嘆かわしいばかりです、と小言を漏らす彼に、
少女は何度も繰り返して頭を下げながら礼を言う。
もう走らないように、と注意してコルベールは彼女を解放した。
再度お礼を言って教室に向かおうとした彼女が不意に振り返った。

758ゼロいぬっ!:2009/07/13(月) 21:31:34 ID:ULXnYHKg

「ミスタ・コルベール。あの本、本当に面白かったです」
「そうですか。それは良かった」

本を紹介してくれたお礼を告げると、
まるで自分の事のようにコルベールは喜んだ。
戦争が始まると聞いてから久しく見なかった彼の笑顔に、少女も彼と同様の笑みを零した。
ふと彼女は本を読んでいて気付いた疑問を思い出した。
無論、コルベールが博識だからといってそんな事を知っていると思えない。
だけど彼なら何らかの答えを返してくれると期待して質問を投げかけた。

「コルベール先生。どうして、あの本には締めの言葉が無いのですか?」

少女の問いにコルベールは一瞬きょとんとした表情を浮かべ、
やがて優しげに微笑んでから彼女に答えた。

「ああ、それはね―――」


三陸の海岸沿いの道路に、その黒い乗用車は停まっていた。
辺りには行き交う他の車はなく、立ち入り禁止の看板が立てられていた。
『製薬会社の爆発物管理ミスにより崩落の危険があります、
調査が終了するまで立ち入り禁止です。皆様にはご迷惑をおかけします』
元々が私有地だったのでそれを不満に思う住民も無く、
せいぜい後で事故を知った釣り人が腹を立てて看板を蹴飛ばしていくぐらい。

クーラーが利いた車内で、白人の男はネクタイを緩めた。
暑苦しい外に比べてそこは天国のような快適さだった。
乱れた髪をバックミラーを見ながら整えて車載電話に手を掛ける。
そして番号をダイヤルすると二、三度咳払いをして緊張を和らげる。

「長官、私です」
『前置きはいい。実験体の少年は見つかったのか?』
「いえ、それはまだですが……」
『ならば連絡は不要だ、切るぞ』

その言い様に部下は思わず顔を顰めた。
だが、ここで電話を切られる訳にはいかない。
この報告を聞けば長官も喜ぶはずだと必死に縋りつく。

「少年とは別の“バオー”が見つかったんです!」
『どういう事だ。研究所の自爆で他の実験体は全滅したはずだ』
「それが幸運にも生き残っていたようです。
とはいえ損傷が激しく海岸に流れ着いてきた時には既に上半身だけでして」

ちらりと男が海岸へと目をやる。
そこにあるのは上からブルーシートが掛けられた『何か』。
大きさは象に匹敵し、その形状は地上に存在するあらゆる生物と異なる。
実に形容しがたい物を前に彼の部下も困惑を隠しきれない様子だった。
出来れば係わり合いになりたくない、そんな感情さえ窺える。
しかし、それにも構わず男は喜色満面で報告を続けた。

759ゼロいぬっ!:2009/07/13(月) 21:32:24 ID:ULXnYHKg

「ですが研究材料として非常に興味深い代物です。
形態変化により、まるで絵本に出てくるドラゴンのような―――」
『今すぐ焼却しろ』

長官の言葉に彼の饒舌な舌が動きを止める。
“ドレス”が失われた今、残された“バオー”はこれと少年の物だけ。
独占できる好機を前にして、そんな判断を下す上司が彼には信じられなかった。
だが、そんな彼の考えを見透かすかのように冷たい声色で言い放つ。

『聞こえなかったのか。全てを焼却しろ。
“バオー”も、その宿主も、データも、実験動物を、
何よりも我が国が“ドレス”に関与した一切の証拠をだ』
「りょ……了解しました、国防長官」


紅蓮の炎と黒煙が海岸に立ち昇る。
それを遠巻きに見ていた少女が気付かれぬように立ち去っていく。
ふと気付くと彼女の後を何かが付いて来ていた。
片足が動かないのか、ひょこひょこと覚束ない足取りで。
ハッハッと息を切らせながらその犬は近付いてくる。
餌を与えた訳ではないので、その内に居なくなるだろうと思っていた。
しかし、どこまで行ってもその犬は付いて来た。

「何で付いて来るのよ」

やがて根負けした彼女がバス停のベンチに腰掛けて訊ねる。
犬が言葉を話せないのは分かっている、だが彼女にはそれを知る術があった。
広げたスケッチブックの上で鉛筆を握り、いつも通り心を滑らせる。
彼女の意志とは関係なく動き出した手が“寂しそうだったから”と書き記す。

「寂しい? それはアンタも同じでしょ!」

心の奥を覗き込まれたような気がして少女は苛立ちをぶつけた。
あの爆発で彼女は居場所を失い、深い悲しみと恐怖の後遺症だけが残された。
もう自分を守ってくれた彼はいない、そう考えると生きる気力さえ湧いてこなかった。

彼女の怒声に、思わず犬がびくりと身を震わせ、
そして悲しそうにクゥンクゥン鳴きながらその場に伏せてしまった。
叱られたのもショックだったのかもしれないが、
それ以上に自分の置かれた境遇に悲しみを覚えたのだろう。
鉛筆が走る。次々と描かれていく人の姿に少女は彼がどれだけ愛されていたのかを知った。

―――だけど、もうここには居ない。
彼も私と同じ様に大切な人を失ったのだ。
その悲しみを理解できるのは、きっと他の誰でもない。
スケッチブックを閉じた少女は彼に手を差し伸べた。

760ゼロいぬっ!:2009/07/13(月) 21:33:09 ID:ULXnYHKg

「一緒に行く?」

その問いかけに彼は力強い一鳴きで応じた。
彼の返事を聞いた少女は静かに“そう”とだけ呟く。
そして数歩進んでから思い出したかのように振り返った。

「私はスミレ。貴方の名前は?」

振り向いて少女は彼に訊ねた。
その顔には、とても愛らしい笑みが浮かんでいた。


『―――それはね、彼の物語はまだ終わっていないからだよ』

761ゼロいぬっ!:2009/07/13(月) 22:01:00 ID:ULXnYHKg
以上、投下&連載終了です。
長かった物語もこれで一応の終わりです。
約2年間の応援ありがとうございました。
一言でも感想がもらえたりするだけで励みになりました。

この後の話も(何故かモット伯が主役で)避難所で書こうかと思ったのですが、
それは奇妙な使い魔じゃないだろうという事で全面カットで。
後、これとは別なエンディングがあるのですが、
余韻を台無しにしたくないので、そちらはいずれ避難所で書きたいと思います。

次回作は何をやるのか悩んでいます。
出来れば他の人と被らないのが良いかなと思ったり。
表紙つながりで悪魔のような少年か、
犬並みの嗅覚つながりで彼か、あるいはSBRから出そうか。
全く新しい観点からDIO様のウェストウッド農業開拓史とか。

……早く規制解除されないかなあ。

762ゼロいぬっ!:2009/07/13(月) 22:01:51 ID:ULXnYHKg
どなたか代理投下お願いします。

763ゼロいぬっ!:2009/07/13(月) 23:14:11 ID:ULXnYHKg
代理投下、ありがとうございました。

764使空高:2009/12/30(水) 13:40:22 ID:kFLIND6Y
行ってみよう、やってみよう。と思ったら規制されちまっていた。
どなたか気が向いた方、代理してやってください。

765使空高:2009/12/30(水) 13:41:59 ID:kFLIND6Y
一章十五節〜使い魔は空を見る 土くれは壁を見る〜

「全員、杖を遠くに投げなさい」
 フーケの命令に、ルイズらはしぶる様子を見せた。
 貴族、メイジといっても、杖なしではただの人間である。いま杖を捨てるということは、唯一の対
抗手段を奪われるということだった。しかし『破壊の杖』を向けられていたのでは、結局どの道もな
い。皆大人しく杖を投げた。
 それを見届けると、フーケは懐から杖を取り出して振った。するとひとの背丈ほどもある、さきほ
どのゴーレムを思わせるような土で出来た腕があらわれる。腕は地を滑るような気味の悪い動きをす
ると、ルイズたちの杖を掴み取って操り主の足元まで運んだ。わざわざそんなことまでするあたり、
フーケも用心は怠っていないらしい。
「あんたも、その折れた剣を投げるのよ」
 リキエルにも声がかかった。フーケにしてみれば、自慢のゴーレムの攻めをことごとく避けられ、
挙句には受け止めまでされたのだから、当然といえばそうかも知れない。
 ここでもリキエルは、まるで自失した人間のように口を半開きにして空を眺めていたが、やがて緩
慢に視線を移して、手の中の剣の柄を見た。それから、これものんびりとした動きでフーケを見、瞬
きふたつ分ほどの間が経ってから、その足元めがけて無造作に柄を放り投げた。
 それから間もなく、リキエルの左手が輝きを失った。全身の傷の痛みが戻って来て、ひどい苦しみ
があるはずだが、リキエルはそれをおくびにも出さなかった。悠然ともいえる態度で、フーケを見返
している。
 その視線を不気味に思ったか、フーケは一瞬リキエルから目を外したが、自身の有利を思い直した
ようにまた強い目を向けた。
「この、嘘つきッ」
「いったいどうして!」
 少しでも時間を稼ごうという算段なのか、それとも単純に怒りがそうさせたものか、キュルケとル
イズが前後して叫んだ。
 それを受けたフーケは、小馬鹿にしたように鼻を鳴らすと、動じる様子もなく淡淡と言った。
「義理はないけど、まあいいわ。教えてあげる。私ね、この『破壊の杖』を奪ったのはいいけれど、
使い方がわからなかったのよ。でも、わからなければひとに聞けばいいだけなのよね」
「学院関係者なら、それを知ってるだろうって?」
「そうよ。まさかあなたたちみたいな学生が出張るとは思わなかったし、あまり期待もしていなかっ
たけど、たまたま偶然、アタリを引いたみたいでよかったわ」
「……わたしたちの誰も、知らなかったらどうするつもりだったの?」
 眉をひそめながら、ルイズが聞いた。
「そのときは、全員ゴーレムで踏み潰して、次の連中を連れて来るだけよ。いい考えでしょ」
 ま、その手間もこうして省けたわけだけど。フーケは酷薄に笑って、あらためてルイズ達に見せつ
けるように、『破壊の杖』を乗せた肩を揺すった。
「さ、質問タイムはもう終わり。そろそろお別れのお時間かしらね。全員、もう少し後ろに下がって
ちょうだい。こんなに近くで使うと、私まで巻き込まれてしまうわ」
 なら自分が下がればいい。顔にそう書きながらも、ルイズたちはフーケの言いなりになって後退し
はじめた。せめてもの抵抗というように、ひどく遅遅とした動きであった。
 タバサなどはここに来てもフーケの隙をうかがって、反撃の糸口を探る様子だったが、賊もさる者
で、喋っている間もそういったほころびを微塵も見せなかった。どうやら本当にお手上げである。
 しかしそんな中で、やはり様子の違うやつがひとりいた。むろんリキエルである。こんなときだと
いうのに、顔色ひとつ指一本たりとも動かさず、奇怪なほどの落ち着きを見せる姿は、体を這う蟻を
気にしない牛といった風情である。あるいは純然たる馬鹿野郎にも見えなくはなかった。

766使空高:2009/12/30(水) 13:43:01 ID:kFLIND6Y
「リキエル、あんたはずいぶんと落ち着いてるのね」
 揶揄するようにフーケが言うのに、リキエルは少し首を傾けた。
「存外に勇気があるのかしら」
「さあなァ。それほどでもねーと思うがな、自分では。ただ、必要ないと思ってはいるな。お前の言
うことに唯々諾々と従う必要はな」
「この状況がわかってないわけじゃないわよね」
「ちゃあんと、わかってるぜ。たぶんこの場にいる誰よりもなぁああ」
 リキエルは腰に手を当て、挑むような口調で言った。口は笑っている。皮肉っぽさはなく、代わり
にぎらぎらするようなものがあらわれていた。
 対してフーケは、つかの間目を細めたものの、こちらも艶の乗った笑顔で返した。
 ルイズたち三人は、ほとんど蚊帳の外といった体だった。特にルイズはまだ混乱が収まっていない
ようで、まったくもってちんぷんかんぷんという顔をしている。他のふたりが厳しい顔で成り行きを
見守るのと対照して、どこか間の抜けた顔で、フーケとリキエルとの間に視線を彷徨わせるばかりで
ある。
 フーケが言った。
「そうでしょうね。……そしてそんな余裕のあんたは、いまこう思ってるんじゃないかしら。『こいつ
には破壊の杖が使えない』なんてふうにね」
「……ムッ」
 リキエルは笑みを消して、射るような視線をフーケに向けた。
 肩から『破壊の杖』を下ろしながら、フーケは続けた。
「あまり、私を甘く見ないで欲しいわね。この『破壊の杖』を最初に手に取ったとき、見た目や感触
より全然軽いんで驚いたわ。でもね、いまこうして持った感覚は、それよりまた少し軽い。これはど
ういうことなのかしら」
「…………」
「さっき、あんたがわたしのゴーレムを吹き飛ばすのを見ていて、ひとつ気づいたことがあったわ。
ゴーレムに向かって飛んで行ったものは、あれは魔法とかじゃないわね?」
 聞くというより、確かめる口調でフーケは言った。もう種は明けているとでも言うような、不敵な
物言いである。リキエルが驚いたように軽く目を見張っているために、フーケはごく上機嫌なようで
もあった。
「それを併せて考えてみたらね、わかったのよ。威力は二段も三段も違うけど、この『破壊の杖』は、
きっと平民の使う銃みたいなものなんでしょう。しち面倒に弾を仕込まなきゃならない、あの銃」
「いや、本当に……甘く見ていたぜ」
 仏頂面でそれまで黙っていたリキエルが、唐突に言った。
「その通りだ、確かに一発。そいつが撃てるのはそれだけなんだと」
「何よりあんたの態度が腑に落ちなかったわ。こんな物騒なもの向けられてるのに、あんたは顔色ひ
とつ変えなかったわね。欠点を知ってたら、怖いわけもないわ」
「鉄くずと同じだからなァ、銃と違ってよォ〜〜。怖くもなんともねーってのは、その通りだな」
 フーケは渋い顔をした。薄々気付いてはいたが、改めて手に入れた宝がゴミになっていると言われ、
気落ちを抑えられなかったようである。
「ええと、なんだっけな。いま思い出したんだが、そういや最近なんかで見たんだ。いや、読んだん
だっけ? 確か、ずいぶん昔から使われてる兵器とかで――」
 失望のまま軽くため息をつきながら、フーケは胸のうちに、もやもやと腑に落ちないものを感じて
いた。さっきから、リキエルがやたらとよくしゃべっている。
 フーケはいま、自分はリキエルよりも一段上にいると思っている。『破壊の杖』が使えないのを看破
したことで、裏の裏をかいたと確信している。念を入れて、小娘たちの杖もリキエルの剣も奪ってあ
るわけだから、実質的な立ち位置から何から、たしかにすべて上と言ってよかった。
「Mなんとかかんとかって名前でよお、使い捨て目的で製造されたんだと。……どうしてだろうな、
使い捨てとか聞くとよォォォオ、無性に勿体なく思えてくるぜ。貧乏性なのか?」

767使空高:2009/12/30(水) 13:43:50 ID:kFLIND6Y
 だがリキエルは、まったく焦りを見せていなかった。『破壊の杖』のことを言っても、多少驚いた様
子を見せはしたが、ことさら動じたふうではない。そしてまた、観念したようでもない。
「そうだ、M72 LA……W軽ロケットランチャーだ。所詮は付け焼刃だしなァ、抜け落ちて行ってる
ようだぜ、脳みそから。正直なところ、どうでもいいことだしなァ〜〜」
「ちょっとリキエル! さっきからなんの話してるのよ!」
「ルイズゥ〜、……ひとの薀蓄は黙って聞くものだぜ、どんなにうざったらしくてもな。そうしてや
るのが、人間の優しさってものだぜ」
 また、たまりかねたというように怒鳴ったルイズに、リキエルは肩をすくめて、いなすような口を
きいた。場の逼迫した空気から、このふたりだけが奇妙にズレている。
「と言うよりもだな、お前には緊張感ってものがないのか? 見ろよ、キュルケにタバサを」
「あんたってばッ! 緊張感ですって? どの口がそれを言うのよ!」
「落ち着けってよオオ――ォ。それなら、倒すか? そろそろ捕まえるんだな? これからこの、『土
くれ』のフーケをよおおお」
 耳を疑ったのはフーケである。そして彼女は次に、リキエルの正気を疑った。
『破壊の杖』が役に立たなくとも、依然フーケには魔法がある。対してリキエルは丸腰であって、た
めに使い魔の能力がなく、まして軽くない負傷までしているのだから、いまはただの人間以下と言え
た。よしんばフーケに魔法がなくとも、勝てる見込みは薄い。ひっくり返しようがない。それにつけ
ても、リキエルの自信に満ちた言動は異様だった。
「聞き捨てならないわね。あんたは満身創痍じゃないの。まして武器も持たずに、どうやって私を捕
まえるって……倒すって言うのかしら」
 鋭くフーケが言った。声には苛立った響きがある。
 ルイズとどこか滑稽なやりとりをするリキエルだったが、再びフーケと向き合ったときには、その
弛緩した感じは消えていた。
 リキエルは、フーケに向かって軽く指さした。
「オレにはいま、奇妙なことだが……『確信』がある。お前が魔法を使う前に、杖を落とせるという
『確信』だ。得意科目のテストを受けるときのように、出来て当然だという感覚があるのだッ。……
お前は自らの手で、その杖を落とすことになるだろうッ!」
 だらりと両腕を下げると、リキエルは無造作に歩き出した。大した意気も見られない動きだったが、
フーケはわずかに飛びのくように足を引いて、杖を構え直した。リキエルは意に介さない。ただ視線
だけを、まっすぐにフーケの手元に向けている。初めのうちはそれなりに開いていた距離が、見る間
に縮まって行く。
 末広がりの厚い雲がゆったりと流れて来て、その端が傾きを大きくしはじめた日にかかり、一帯に
濃い影を落とした。影はすぐに過ぎて行って、またさらりとした春の陽射しが地面に降り注いだ。既
にリキエル、フーケのどちらもが、相手の間合いに誤魔化しようもないほど入り込んでいる。
 追い詰められたような形で、フーケは杖を振り上げた。と、胸元まで引き上げたところでその動き
が唐突に止まった。ルイズたちは、何事かというように半端な格好で固まってしまったフーケを注視
したが、フーケ自身、なぜ腕が止まったのかわからないような、唖然とした顔になっている。
「一本!」
 そう呟きながら、リキエルが右手の人差し指を伸ばした。すると何がどうなったのか、まるで歯車
の噛み合った機械どうしのように、フーケの右人差し指が同じようにまっすぐに伸びる。
「えッ」
「あ…ゼロ本……。あ…ゼロ本」
 言葉に合わせて、リキエルは拳を握りこんだり、考え直したように開いたりする。フーケの拳も、
またそれと同じに動いた。小振りな杖が、その手からあっけなく滑り落ちた。
 意に沿わない動きをする自分の指に、息を詰めて瞠目するフーケだったが、つぎの動きは素早かっ
た。大きく跳びすさってしゃがみ込むと、左手にいくつか小石を握りこんで、リキエルに投げつける。

768使空高:2009/12/30(水) 13:44:35 ID:kFLIND6Y
 フーケは、それでリキエルをどうにかしようなどとは思っていなかった。何がどうなっているのか
は見当もつけられないが、どうやらまずい状況になりつつあるのを理解しているだけである。ともか
くいまは、リキエルから離れなければならない。注意を逸らさなければならない。ただそれだけを考
えていた。
 小石たりとはいえ、半ば力任せに投げられたものだから、その速さはなかなか避けられるものでは
ない。そういうものが五、六個ほどまとめて、リキエルめがけて思い切りよく飛ぶ。そのうちでも一
番大きな礫は、まさにその顔面を襲おうとしていた。
 リキエルを除いた四人が、いよいよ目を見張ったのはそのときである。リキエルの鼻柱に叩きつけ
られるかに見えた小石が、急に軌道を変えて、あらぬ方向へと吹っ飛んで行ったのだ。風に巻かれて
というような動きでは――そもそもから大風もない小春日和である――なかった。石はリキエルを避
けるように、不自然な反発を見せたのである。
 この奇怪な現象に際しても、リキエルは指一本動かさないどころか、小揺るぎもしない。目の奥に
灯火して、ほとんど無思慮に見える格好のまま、前に前にと出て行くばかりである。
 他方フーケは、立て続けに起きる奇妙を目の当たりにし、転がるように優勢の体を失って、いまや
頬を赤く染めて額に汗している。目はせわしなく動いた。右へ左へ、リキエルの顔へ、ルイズらの方
へ、またリキエルの顔へ。なんでもいい。状況を打開するものを探した。
「やめたほうがいいな、それは。逃げようってのはな」
 静かにリキエルが言った。
「もう一度、杖をとってみるか? お前の方が杖には近いからな。オレがお前にたどり着くのより、
多分だが、お前の方が早いだろう。やってみなよ。オレは足を怪我してもいるしな」
「…………」
「だが無駄になる。きっとだ。大人しくしたほうがいいな、水の中のスッポンみたいにだ」
 フーケは一瞬身体を震わせたが、すぐに意を決したように、自分の杖に飛びついた。どうせ一八の
賭けである。残された道はなかった。
 そしてそれは、リキエルの言ったように実を結ばなかった。つぎに地面を踏んだとき、フーケの足
首から先は、これもどういったわけかは知れないが、痺れたように力が伝わらなくなっている。重
心の置き所を見失ったフーケの身体は、見えない力に抑え込まれたように前のめった。
 なんとか踏みとどまって顔を上げたフーケの視線の先に、剣の柄を拾うリキエルの姿があった。
「いらないだろうと思ったんだが、やっぱりよぉ、あんまりちゃんと動けなかったな。これを手放し
てしまってはな。時にフーケ、腹の中に子供なんかいないよな? お前いま、妊娠しているか?」
 一瞬、フーケは言葉を失った。言われた内容が唐突に過ぎて、呆気に取られている。
「どうなんだ? ン? 妊娠、懐胎、出来ちゃってるのか?」
「何よ、その質問は。この期に及んでハラスメント? 舐めくさってくれて!」
「ちょっとした確認をしているのだ。オレはいまから、『土くれ』のフーケ、お前の腹を殴って昏倒さ
せるつもりでいる。もし胎児がいるのを知らずにそんなことをしてしまえばだ、それはすごく心苦し
いことだからな」
 フーケはからかわれているのかと思った。しかしリキエルの顔を見れば、ふざけているようでもな
かった。他意がないことは、それもおかしなことだが、わかった。
 肩口から、力が抜けていくようだった。
「……身重で泥棒が務まるもんか。それにわたしは、こう見えて身持ちは固いのよ」
 あまり抑揚のない声で、フーケは言った。
「そうか。なら問題ないな」
「ええ、ひと思いにやってほしいわね」
「その前にだ。悪いんだがな、もうひとつ聞いておきたいことがある。これもオレにとっては重要な
ことだ。質問させてもらうぜ」

769使空高:2009/12/30(水) 13:45:13 ID:kFLIND6Y
「もうこっちは腹を決めてるってのに。まあいいわ。で、何かしら」
 リキエルは無造作にフーケに近寄り、つかの間、世間話のように言葉を交わした。距離があって、
ルイズたちにはその会話は聞き取れなかった。
 やがてリキエルは、得心したように頷いた。そしてまた二言三言すると、やおら息を詰めて、フー
ケの腹に剣の柄を打ち込んだ。声もなく、フーケの全身から力が失われた。

◆ ◆ ◆

「盗人を、捕らえてみれば、美人秘書、だったのじゃな。ミス・ロングビル、彼女がのう」
 いかめしい顔で、オスマン氏は言った。横にはコルベールがいて、前にはルイズ以下、フーケ討伐
から帰った四人の顔が並んでいる。
 オスマン氏は、さりげなくリキエルの方に目をやった。三人娘がけろりとしている一方で、リキエ
ルだけはいくつもの手傷を負っている。応急処置はきちと済ませてあるようだが、それでも見過ごし
出来ない傷は多い。無茶をしたらしいのと、オスマン氏は心うちで唸った。
 実際、フーケを倒した後にリキエルが立っていられたのは、ひとえに使い魔の能力によるところで
あった。そしてそれがありながらも、勝利に沸いたルイズらが抱きついた途端に、その身体は朽木の
ように傾いだのである。
 馬車を繋いだところまで戻ってきたときには、リキエルは隠れもなく身体をがたつかせていた。そ
れを見かねたタバサによる『水』の魔法で、一応の処置がなされたのであった。ちなみに、昏倒した
フーケを手際よく縛り上げたのもタバサである。
 そのフーケは、今は学院の門脇に設けられた詰め所に押し込められている。明日の昼か、早ければ
朝のうちに、王宮の魔法衛士に引き渡されることになっている。
 目線を宙に放って、髭をなぜながら、オスマン氏は先の言葉に繋げて言った。
「なんの疑いもせずに秘書にしてしまったが……ふむ」
「いったい、どこで採用したのですか?」
「んん。彼女と出会ったのは、そう、街の居酒屋じゃった」
 コルベールが聞くのに、オスマン氏は目を細めて応じた。
「は、居酒屋?」
「私は客で、彼女は給仕をしておったのだが、ついついこの手がお尻を撫でてしまってな」
 そのときのことを思い出して、威厳を保つのも忘れてだらしなく鼻の下をのばすオスマン氏に、コ
ルベールは冷たい目を向けた。
「で?」
「それでも怒らないので、秘書にならないかと、言ってしまった」
「すみません、学院長。よく飲み込めませんで、いま少し詳しくお願いします」
「いやあ彼女、美人じゃったし、おまけに魔法も使えるというもんでな。で、採用」
 呆れた話だった。身辺怪しからずや否やの調べもなしに、ろくに話したこともない人間を酔った勢
いで秘書になどとは、学院の長を担う身にあってあるまじき失態といえた。それまで相槌をうってい
たコルベールも、聞いて損したというように顔をしかめている。
 はっきりと軽蔑した口調で、コルベールは吐き捨てた。
「話はわかりました。オールド・オスマン、さしあたって死んだほうがいいのでは?」
「そう怒らんでもよかろう。それに、そうじゃ。今になって思うに、あれも学院に潜り込むためのフ
ーケの手じゃった。愛想を振りまき、世辞を言い、媚を売って来る。しかも、尻を触ってもけろりと
して、いやむしろ照れたように微笑んどった。いや、もう、老い先短い耄碌ジジイを騙すのには十分
じゃろ? あ、こりゃ惚れてる? とか思っても仕方なかろ?」

770使空高:2009/12/30(水) 13:45:56 ID:kFLIND6Y
「耄碌しきる前にさっさと辞職しては?」
「そう冷たい目で見てくれるなよ、コルトパイソン君。私は悲しい。それに君も男ならわかるじゃろ
う? 美人というものは、ただそれだけでいけない魔法なのじゃ。な、そうじゃろうッ! カァーッ!」
「異論はありませんが聞く耳も持ちません。それと私はコルベールです。いやさ、そんなことよりオ
ールド・オスマン。そろそろ話を戻しましょう」
 言ってコルベールは、ルイズたちを示した。そちらに向き直ったオスマン氏は、憤まんや呆れ、軽
蔑に満ちた四つの顔にぶつかった。
 沈黙して二、三度髭をいじると、オスマン氏は次第にいかめしい面構えに戻って行った。十秒前の
醜態は、幻にでもするつもりらしい。
「さてさて、よくも『破壊の杖』を取り戻してくれたの、諸君。ならびに盗賊フーケの捕縛、まこと
にご苦労じゃった。ありがとうの、めでたく一件落着じゃ」
 オスマン氏はもう一度、ありがとうと言った。リキエル以外の三人は、それだけでさっきとうって
変わって明るい顔を見せ、頭を下げた。ルイズなどは感極まったように顔を赤くして、口元を震わせ
ている。
 そんな彼女たちを見てオスマン氏は微笑んだ。それから、いま思い出したといったふうに、ルイズ
とキュルケに対する『シュヴァリエ』の爵位申請を、既に同位を持つタバサへは『精霊勲章』の授与
申請を、それぞれ宮廷に申し入れした旨を話した。ルイズらはよりいっそうの喜びに顔を輝かせた。
 ――甲斐があったな、この様子なら。
 それまでつまらなそうに突っ立っていたリキエルも、オスマン氏のように微かに笑った。喜びに沸
く彼女たちを、特にルイズを眺めていると、全身の傷の痛みも悪くなく思われて来るようだった。
 ただ、当の本人はそうでもないらしかった。自分たちに向いたリキエルの視線に気づくと、ルイズ
は少し鼻白んだようになり、そのままオスマン氏に向き直って言った。
「オールド・オスマン。リキエルには、何もないんですか?」
「……ふむん」
 オスマン氏は困惑したようにうなり、眉間の皺を深めた。
「残念ながら、彼は貴族ではない」
「でも、リキエルは――」
「いや、いいんスよ。オレは別に」
 何か言いかけようとするルイズをさえぎって、リキエルはそう言った。本音では、ちょっとくらい
何がしかの褒美を貰っても罰当たるまい、と思ったりもした。しかし、爵位とか勲章はあんまり大袈
裟で、金品では大っぴらにそう言うのもはばかられる。実際に受け取ることを考えても気が引けた。
 ルイズはまだ何か言いたげだったが、リキエルが顔と手を横に振ると、ようやく引き下がった。
 それを見届けると、オスマン氏は手を叩いて仕切りなおしにかかった。
「さてと、今日の夜は『フリッグの舞踏会』じゃな。フーケの件も収まったしの、祝勝も兼ねて、予
定どおり執り行うこととする。当然、主役は君たちじゃ」
 キュルケが叫んだ。
「そうでしたわ! すっかり忘れておりました!」
「うむ。ここはもうよいから、部屋に戻って用意したまえ。せいぜい着飾るとよいじゃろう。なにせ
主役じゃよ、主役。より取り見取りもいいところじゃよ、主役」
 キュルケは礼もそこそこに、タバサの襟首を引っ掴んで部屋を飛び出して行った。
 それに続いて、ルイズとリキエルも部屋を出ようとする体だったが、オスマン氏に引き止められた。
「ミス・ヴァリエール、すまんがリキエル君をお借り出来るかの」
 主従二人は一瞬目を交し合ったが、リキエルが扉のほうを示して、ルイズを促した。訝しげにしな
がらも、ルイズは深い礼を残して学院長室を後にした。
「コルベール君、君も席を外してくれんか」
「はあ、私もですか」

771使空高:2009/12/30(水) 13:46:37 ID:kFLIND6Y
「うむ。そのむかし、私が東方の地で修めたパズス流柔術の奥義を、彼に授けようと思うのじゃ。門
外不出なのでな、君にも見せられん。わかってくれ」
 コルベールは苦笑とも呆れともつかない顔をして、しょうがないですなとこぼしつつ、出て行った。


「さて、君に残ってもらったのは他でもない。ちょいと聞きたいことがあるでな。それと、話したい
こともじゃ」
 悪いの、と言ってオスマン氏は笑い、腕を組んで考える姿になった。話したいこととやらを、頭の
中で整理している様子である。それから間もなく、オスマン氏は静かに語り始めた。
 いまから三十年ほども前、オスマン氏はある森を散策しているとき、ワイバーンに襲われた。見た
こともないほど巨大な、雌の個体だったという。折も折で体調を崩していたオスマン氏は、逃げるの
がやっとだった。
 あっという間に追いつかれ、オスマン氏はやむなく杖を抜いた。あるいは軽くない手傷を負うだろ
うが、倒せる自信はあった。だがそうなれば、付近に人里の気配も見えない深い森であったから、後
は野垂れ死ぬに任せる他にない状態だった。
 ここで死ぬや否やと腹をくくりながら、オスマン氏はワイバーンと正対する機をうかがった。勝機
があるとすれば、それは不意討ちだった。
 そしてワイバーンが、オスマン氏にそのひとの腕ほどもある牙を剥いたときだった。オスマン氏は
耳を飛ばすような大音を背に受けた。振り返ったオスマン氏は、逆に射す陽の光の中に二つの筒――
『破壊の杖』を抱えた、大柄なひとの形を認めた。そしてそうかと思う間に、その人影はゆらりと傾
いで倒れた。
 彼は傷を負っていた。オスマン氏は直ぐに彼を学院に連れ帰り、手厚い看護を施したのだが、手遅
れだった。傷はそう深くもかったのだが、ずいぶんと前に、そこから悪いものが入り込んでいたらし
かった。三日して、彼は死んだ。
「そのときの『杖』は、彼の墓に一緒に埋めた。そしてもう一本は、恩人の形見っちゅうことで、勝
手に拝借させてもらった。それが今回、君らの取り戻してくれたものじゃ」
 オスマン氏は、懐かしむようにしばし目を閉じてから、リキエルに目を向けた。穏やかだが、どこ
か刺すようなものも孕む視線だった。
「ところでじゃ。つかぬことを聞かせてもらうがの」
「はあ」
「君は、どこから来たのだね? 包み隠さずに言うてほしい」
「オレは――」
 そこで言葉を切って、リキエルはしばし考えたが、結局は正直に言うことにした。隠すことでもな
いと思った。ただ、自分でも与太話に思えるような出来事を、目の前の学院長が信じるかはわからな
いとも思った。
「オレが来たのは、こことは違う世界なんスよ。あるときちょっとしたことがあって、気を失っちま
ったんスけど、次に目が覚めたら、ルイズに召喚されてたってわけです」
「ふむ、そうか。そうなのじゃな」
 リキエルの案に反して、オスマン氏は得心したように頷いた。
「信じるんですか? オレは確かに事実を言ったつもりだが、冗談みたいな話だ」
「おお、信じるとも。というよりもな、わかった気がしたのじゃよ。……いま話した彼のことじゃが、
死ぬ間際まで、うわ言のように言っておった。元の世界に帰りたいとな」
「…………」

772使空高:2009/12/30(水) 13:47:29 ID:kFLIND6Y
「何のことだか、私には見当もつかんかった。じゃが、君が召喚されて来た後でな、あのコルベール
君が興奮して語ってくれたのじゃ。君と一緒に召喚された奇妙な形をした物体を、君から借り受けた
とな。それで、死んだ彼と彼の持っていた『破壊の杖』が思い起こされた。もしやと思うた。彼や君
は、このハルケギニアとはまったく別の場所から来たのでは、と」
 問いかけて来るようなオスマン氏の視線を受けて、リキエルは答えた。
「オレの住んでたところは、アメリカって国のフロリダって州です。話を聞く限りじゃ、その恩人も
アメリカ人なんじゃねーッスかね。そして、ロケットランチャーいくつも抱えてるなんてよォー、尋
常じゃあないぜ。どこかで、紛争だか戦争やってたんだ、きっと」
「戦争か。それで彼は傷を負ったか。まだ若い身空でのぉ、さぞ国に帰りたかったじゃろう」
 改めて悼むように、オスマン氏は深く息をついた。それから顔を上げると、リキエルに笑いかけた。
「すまんかったな。老いぼれのために時間を割かせてしまったの」
「いや、いい時間を過ごせたんじゃねーかと思いますよ。たぶん、互いに」
「重畳じゃな。よければこの後のパーティーも、楽しんでくれたまえ。君も主役の一人じゃ」
「せいぜいそうさせてもらうかな。料理なんかは期待大だ。……ああ、そうだ。こっちからもよォ〜、
一つ聞きたいんスけど、いいですか?」
 踵を返しかけてとどまり、リキエルがたずねた。オスマン氏は鷹揚に頷いた。
「確認みたいなもんなんスすけどね。オレのこの左手の、これ。武器なんかを持つと光って、体が軽
くなったりするんスけど、使い魔の能力ってやつなんですか?」
「いかにもそうじゃ。そのルーンをつける者は『ガンダールヴ』といってな、強力な使い魔じゃ。そ
して、ここだけの話――」
 オスマン氏はそこで区切りをつけた。そしてリキエルに、もっと近くに来るよう手真似した。さら
にリキエルが側に来ると、机の上に身を乗り出して、必要もないのに声をひそめて続けた。
「伝説の使い魔の証でもある」
 リキエルは眉を上げた。オスマン氏の大仰な態度からして、話半分で聞くべきことかも知れなかっ
たが、それ以上に興味をひかれた。
「伝説? それじゃあ、オレは伝説の使い魔か」
「うむ。なぜそのルーンが君についたのか、それは皆目わからんがな」
 無責任に言って、オスマン氏は元のように椅子に納まった。それから何事か思いついたように、そ
うじゃそうじゃと呟き手を叩いた。
「何も褒美が出せん代わり、と言ってはあれじゃが、これを受け取ってくれんか」
 言いながらオスマン氏は、机の引き出しを開けた。
「これも、彼の形見の品じゃ。『固定化』があるとはいえ、さすがに土の下に埋めるのもはばかられた
のでな」
 オスマン氏が差し出して来たものを、リキエルは反射的に受け取った。
 手のひらに余るくらいの、一冊の本だった。別段、読書家というわけでもないリキエルにとっても、
その題名はある種の馴染み深さを感じさせるものだった。版はかなり古く、ところどころがよれてし
まっているが、聖書である。オスマン氏の恩人とやらは、よほど信心深い人間だったのだろう。
 しげしげと書を眺めるリキエルに、オスマン氏は言った。
「どうやらそれも、君の世界のものらしいの。私には読めんかったよ。まあ、本は読める人間の手元
にあった方がよいじゃろうて」

◆ ◆ ◆

 会場のホールに着いたときには、舞踏会はもうはじまっていた。安っぽさのない華美な装飾や、食
物とも見えないほど見事に盛られた馳走の数々、常の様子とはうって変わって優麗に動く生徒の群れ
が、まさしくと思わせた。リキエルは、ルイズがどこかにいはしないかと目をせわしなくしたが、と
ても見つけられるものではなかった。

773使空高:2009/12/30(水) 13:48:11 ID:kFLIND6Y
 リキエルは学院長室を出た後、一度ルイズの部屋に戻っている。だが、ルイズの姿はなかった。と
いうよりも、女子寮全体にあまりひとの気配がなかった。舞踏会のために、皆どこかの控え室ででも、
準備を整えているのだと思われた。
 舞踏会の華やぎにしみは作るまいと、リキエルは目立たぬように壁際を歩き、そのままバルコニー
に向かった。どうせ平民は正面からでは入れないだろうと思い、厨房をたずねて、給仕のために設定
された入り口を使ったのが幸いしている。また傷みの増したスーツではさすがにまずいと、厨房で給
仕用のシャツとズボンを拝借したのだが、その程度ではごまかしにもなっていなかった。
 歩きながら、時折リキエルは人目を忍ぶ動きで食べ物をつまんだ。そうするうちに、タバサやキュ
ルケの姿を認めることは出来たが、どうにもルイズは見当たらなかった。あるいは、まだ準備に手間
取っているのかも知れなかった。
 バルコニーに出た。一角にはひとがおらず、孤独にぽつんと、水も置かれない小さなテーブルがあ
るばかりである。リキエルは、顔を上向けた。
 雲もかすみもなく、澄んだ空気だけがあった。ともすれば腰の引けてしまうような、満天の星空で
ある。リキエルは何をするでもなく、凝然と夜の光に目を焼いた。
 と、その視界に奇妙なものが入り込んで来る。そう思って意識しなければ、目の錯覚か、星明りの
軌跡としか見えないほどの、細かな白い筋である。しかし、そういう曖昧なものでも数を十、二十と
もすると、気に留まるようになる。
 縦横に動き回るそれらの中の一本が、不意に群れを出て、リキエルの前に飛んで来た。動きがそう
なら、形も奇妙な生き物だった。蛇のような棒状の白い体に、幾枚かの羽らしき膜がついている。虫
とも何ともわからない。
 ――スカイフィッシュ、ロッズと呼ばれる生き物がいるが……。
 こいつらが、そうか? リキエルは一昔前に見た、うさんくさいテレビ特番や、本屋でぱららと適
当に流し読んだ、未確認生物の特集本のことを思い起こしている。目の前の生き物が、果たしてそれ
らに出て来たロッズなのかはわからないが、リキエルは便宜的にそう呼ぶことにした。
 世界各地で目撃され、その存在と生態とが取り沙汰される奇妙な生物たちの一つ、それがロッズだ
が、そんなもののことは、昨日までは名前すら思い出しもしなかった。こうして目の当たりにしなけ
れば、終生そのままかも知れなかったわけだ。パーティー会場に分け入って行くロッズを眺めながら、
リキエルはそう思った。
 ロッズの行く先には、ワイングラス片手に数人の女の子を侍らせた『青銅』のギーシュがいる。ど
ぎつい色彩の服装だったから、こいつはすぐに判別がついた。
 それから数秒して、唐突にギーシュの肘が不自然に屈曲した。結果、色男は手に持ったワインを、
目の前の女子に引っ掛けることになった。リキエルは鼻を鳴らして、わやわやと騒がしい顛末から目
を離し、また宙に投げた。
 いまロッズを呼び、またギーシュへ向かわせたのは、リキエルの意思だった。操ったのである。そ
う出来るとリキエルが気づいたのは、フーケと渡り合っている最中、ゴーレムを倒した直後であった。
 気づけばロッズたちは、リキエルの頭上を円を描くように飛び回っていた。はじめは、こいつらも
この魔法の世界の不思議生物か、くらいに思って眺めていたのだが、その動きが自分の視線の動きと
連なっていることを、リキエルは次第に理解した。
 そこに及んだとき、リキエルの胸の内にあったのは歓喜だった。戸惑いはなかった。ロッズを操る
その感覚は、以前から手の中にあったように思われるほど、自然だった。何より新しく能力を得たこ
とは、すなわち自分の中にあるものが、確実に変わったことの証といえた。

774使空高:2009/12/30(水) 13:48:54 ID:kFLIND6Y
 そして喜びは確信を伴っていた。根拠もなく、フーケを倒せるという無闇な確信が、あのときリキ
エルを突き動かしていたものの正体である。フーケとルイズらの問答を尻目にしつつ、試しにロッズ
に自分の腕を襲わせてみて、その能力の僅かな把握には至ったが、実際に何がどうなっていたのかな
どは、いまも正確なところはわかっていない。
 ――これからわかればいいことだからな、そんな、こいつらのことなんかはよォ〜〜。
 そうだ、これからだ。半ば傲然と思いながら、リキエルは自分の手首に目を落とした。
 そこには、これまた奇妙なものがへばりついている。蛙と鳥とカブトムシを足してうっかり二で割
ってしまったような、有機とも無機ともつかないデザインの何物かである。ふとしたときには煙のよ
うに透けたり、思いのまま透過させたりも出来るから、物体なのかも怪しいところである。しかもこ
れは、リキエルの意思で自由に発現し、消失するらしいのだ。
 ロッズを操れると気づいたとき、どこからともなくあらわれたものだった。あるいはこれを出し入
れ出来るようになったために、ロッズを操れるようになったのかも知れない。いずれにせよ自身の変
化の証だと思えば、リキエルは見ているだけで、気分が浮き立つ感じもするのだった。
 ホールでは、すました顔の楽士たちが音を合わせている。それと一緒に鼻歌でも歌ってやろうかと、
リキエルが思ったときだった。門の方で、ルイズの到着を告げる声が上がった。やはり、少しばかり
時間を食っていたようである。
 いつの間にか会場には、優しく囁くようにして曲が流れている。ルイズはそこに、普段にない静々
とした足取りで入って来る。バレッタで纏め上げられた髪の色が、肌の色とともに白いドレスによく
映え、さながら花といった風情である。うっすらと紅を差し、化粧までしているのが可憐だった。
 そちらに向き直った生徒たちの間に、ざわめきが広がって行く。
「なんだ、これは!? ルイズ・ヴァリエール……まさか!」「久しく忘れていたぜェ…ルイズが美人っ
てことをよォォォォ」「ば…化けた! 深い後悔が、ゆっくりやってくるッ! 唾をつけていればああ
ああ」「可愛い! スゲェ可愛いッ! 百万倍も可愛い!」「この感情…こんなことがッ!! あ…あい
つはッ!! ゼロだぞッ! あんな…ヤツにッ!!」「描写のないまま終わり。それがモブシーン・エキス
トラ」「何も泣くこたあーね―だろーがよ〜〜〜。お前だって十分に綺麗さ」
 男連中は、常のルイズを知る者もそうでない者も、皆だらしなく鼻の下をのばした。女子たちから
も、驚きや感嘆の声が少なからず上がる。一部の色男は、是非にも手を取り合って踊ろうと、早速に
ルイズを口説きにかかっていたりする。
 折も折、そこかしこで出来上がったペアが、曲に合わせて踊り始めた。ルイズの小さな晴姿は、た
ちまち人いきれの向こうに消えた。
 リキエルは軽く嘆息した。フーケを前にした言い合いの後は、ルイズとはここまでまともな会話も
ないまま来ている。昨夜からのわだかまりも、はっきり解けたとは言いがたい。そういう諸々もあっ
て、ルイズとは少し話がしたい気分になっていた。
 ――部屋に帰ってから、とするか。他に仕方ねえしよ〜。
 そう思い切って、ホールから外の景色に目を戻した。二つの月は、今日もともに明るい。遠くに連
なる山々も、ただ黒いばかりの影とはならずに、陶磁器のように青白い光を返している。夜気に冷ま
された風が、包むような動きで吹きつけて来たが、寒々しさはなかった。
 そのまま手すりに腰を預けて、またギーシュあたりにでもロッズをけしかけてみようか、などとぼ
んやり思っていると、不意に声をかけられた。
「楽しんでるみたいね」
 振り向けば、呆れたようなルイズの顔が見上げて来る。そこいらのテーブルから持って来たらしい
ワインボトルと、グラスを二つ手にしている。
 ボトルとグラスを脇のテーブルの上に置いて、ルイズは続けた。
「どうしたのよ、その格好は。牛柄じゃないのね。おかげで探すのに手間取ったったら」
「よお。格好といえば、お前の方だぜルイズ。変われば変わるもんだよなあああ、あんな泥だらけだ
ったのが。すっかりめかしこんでよお。誰のコーディネートか知らないが、いい仕事をしたよな」
「何も出さないわよ。あんただって、もっといまみたいな格好したらどうなの。けっこう整った顔し
てるんだし、おしゃれに気をつかってみなさいよ」

775使空高:2009/12/30(水) 13:49:38 ID:kFLIND6Y
 リキエルは肩をすくめた。
「ってもなあ、持ち合わせは一着きりだぜ。あのスーツだけだ」
「そういえばそうだったわね」
 あっさり言うと、ルイズは疲れたようにテーブルについた。実際、疲労はあるはずだった。フーケ
を捕らえてからこちら、十分に休めてはいないだろう、身体的にも心の面でも。ただルイズの表情は、
どこかさっぱりとしたようでもあった。
 のんびりとした動作で、リキエルも席についた。二人は対面の位置に座っていたが、それでも小さ
なテーブルだったから、互いの距離はほとんどないようなものである。
「お前は踊ったりはしないのか? 主役だろうに」
 ホールの中央、先ほどルイズと彼女を取り巻いた連中のいた辺りを目で示しながら、リキエルはた
ずねた。
「踊ろうにも、相手がいないわ」
「誘われているようだったじゃあないか」
「いいのよ、あんな連中は。いままでさんざん馬鹿にしてくれたくせして、何よあの態度。結局馬鹿
にしてるわ、まったくね。きっとあんた踊ったほうがよっぽど楽しいわ」
「使い魔とかよォ〜?」
 言ってリキエルはへらへらと笑ったが、ルイズは「ええ、そのとおりよッ」と膨れた面をそのまま
戻そうとしなかった。
 そうしてしばらく憤然としていたルイズだが、急に何か思うような顔になって、短くひとつ息をつ
いた。それからリキエルを真直ぐに見て、小さく言った。
「信じてあげるわ。あんたが別の世界から来たってこと」
「突然だな。つーか、信じてなかったのか」
「半々、ってところね。だけど、あんたとフーケとのやりとりをね、思い返してみたの。そうしたら、
けっこう信憑性あるんじゃないかって思えたわ」
 言葉を切って、かすかな逡巡を見せたあと、ルイズは続けた。
「あんたが帰る方法、探すわ。すぐには無理だけど、きっと見つける」
「気を張ることもねーぜ、そんなにはな。帰って何があるでもないんだ」
 リキエルはそう返した。いささか締まりに欠ける顔でいるものの、これは本心から出た言葉である。
 元の世界に帰りたくはないかというのは、実はオスマン氏からもたずねられた。リキエルが学院長
室を出る間際、氏が思い出したように聞いてきたのである。そのときもリキエルは、大体に同じよう
な返事をしている。
 恋人を残して来たのでもなく、大切な約束を残して来たのでもない。だから元の世界に、それほど
強い未練はなかった。そしてまた、郷愁を感じるにもまだ早い。この世界での生活に不安がないでは
ないが、もうしばらくの間、経験という意味でとどまる分には、むしろ望むところであった。
 リキエルは言ったが、ルイズはそれをのけるようにしてなおも言い募った。
「それでも、探すわ。……ねえ、ひとつ聞いていいかしら。どうしてフーケを捕まえようとしたの? 
私の手柄になる、とかって言ってたわよね。あれは、私の心を慰めようとしたの?」
「いや、押し上げたいと思ったからだ。感銘を受けて、オレの力で、どうにかして助けになろうとし
た。それが、オレ自身の成長にも繋がると思った」
「私もそう。私もあんたを尊敬してる。だから、あんたが元の世界に帰る方法を探すの。これは、あ
んたを召喚した私のけじめで、あんたに出来る数少ないこと」
 思わず、リキエルはルイズの目を見返した。瞬きしない大きな鳶色の瞳に、真摯な光が見える。
 軽い驚きがあった。驚きは、自分とルイズとの間に横たわっていた距離が、突然に狭まったように
感じられたことから来ている。すぐにも交わりそうでいて、しかしどこか決定的な部分でそうならな
かったものが、いまはがちりと噛み合っている。そういう感覚があった。

776使空高:2009/12/30(水) 13:51:13 ID:kFLIND6Y
 そしてそれは、決して心地の悪いものではなかった。
 しばしの間、ふたりは半ば睨み合うようにして向き合っていたが、不意にルイズのほうは視線を外
して、またなにか逡巡する体になった。今度のそれは長く、そしてよほど難解らしかった。ルイズは
困惑とも苛立ちともとれるような顔をして、腕まで組んでいる。
 どうかしたかと思いつつそのまま眺めていると、ルイズはいまいちよくわからない顔のまま、いき
なり置いてあったグラスを突き出してきて、言った。
「仲直りしましょう」
「仲直り?」
 ルイズは頷いた。
「あんたは私を羨ましいと言ったけど、私はあんたが、あんたのどうしてでも前に進んで行こうって
態度が、眩しく思えた。だから、お互い様ってことで、仲直り」
「…………」
「あ、笑った。いま鼻で笑った! 聞こえたわ! 何よ、おかしいことないでしょッ!」
 ――ああ、そうだな。なあ〜〜んにもないな……。
 おかしいことなんてのはな。のどの奥で笑いながら、リキエルは思った。
 笑ったのは、単純にうれしかったからだ。言葉は過ぎるほど足りていないが、言わんとしていると
ころは十分に伝わってきた。ゆうべのことや、今日の言い合いのことを考えていたのは、なにもリキ
エルばかりではなかった。はっきり仲たがいしていたのではないから、仲直りというのは少し変かも
知れないが、それもいまは些末なことだった。
「なによ、もう」
 むくれ顔でルイズはこぼしたが、それ以上つっかかることもしなかった。へそを曲げたような、そ
れでいて快さも見える表情を浮かべながら、「今日だけだからね」と小さく言って、リキエルのグラス
にワインを注いだ。深い赤のワインだった。
 自分の分も注ぎ終えると、ルイズはさっそくグラスをとった。リキエルもならう。
「じゃあ、乾杯しましょう。仲直りと、それから……両目にとかどうかしら」
「両目? オレのか」
「うん。あんたのばっちり開いた両目に、乾杯」
「ふぅ〜ん。なるほど、いいかもな。フーケも捕まえたしな」
 どちらからともなく、ふたりは目の高さにグラスを掲げた。
「使い魔の両目に」
「主人のお手柄に」
 と、華やかなダンスホールの片隅で、小さく祝いの声が挙がる。
 ここからだ、とリキエルは思った。ここから始まるのだ。召喚され、契約の魔法でふたりは繋がっ
た。だが、使い魔とメイジの関係が出来上がったのだとすれば、いまがそうだった。それを祝福する
ものと思えば、こうして杯を交わしあうことも、何か特別なものに感じられてくるのだった。
 ――ゼロのルイズと、ゼロの使い魔に。
 心のうちでそう付け加えながら、リキエルはグラスをぐいと傾けた。香りを楽しむようなやり方は
知らない。ルイズはそれをたしなめるような、呆れるような顔で見たが、すぐ思い直したようにくす
くす笑った。そういう気楽さが、また心地よかった。どうせ水入らずの酒席である。
 しばらくして、そこに踊る相手に恵まれなかったらしい、『風上』のマリコルヌが通りかかった。ど
うしてか涙目で、やたらと棘の多い葉のサラダをぱくついている。
「おっどろいたなあ。ワインを注ぎあう使い魔とメイジなんてね。初めて見た」
 馬鹿にしたふうでもなく、心底から驚いた様子でマリコルヌは言った。

777使空高:2009/12/30(水) 13:51:53 ID:kFLIND6Y
 リキエルとルイズはマリコルヌのほうへ振り向くと、酔いが回って赤くなり始めた顔を笑わせて、
手に持ったグラスを掲げ上げた。

◆ ◆ ◆

 夜更けである。少し前から、ちょっとずつ雲が出始めていて、いまもひと際大きい雲の影に、双子
の月が隠れたところだった。大きくも薄い雲であったから、さほど闇が深まるでもなかったが、どこ
か不吉な夜のさやけさはいや増すようだった。だがフーケは、そんなことを知る由もない。
 ぶち込まれた詰め所の内の牢には、窓がなかった。ついでに調度の類もなく、ぼろく小さな椅子と、
それが寝床ということなのか、大量のわら束があるばかりである。そのわら束に寝そべったまま、フ
ーケは身じろぎひとつしない。寝ているのではなかった。その証拠に彼女の両目は、どこからか微か
に入ってくる光を鋭く返している。
 ――たいしたもんじゃないの、あいつらは。
 フーケは昼間のことを、自分を捕らえた人間たちのことを思い返している。わけてもリキエルの奇
怪な言動は印象に残っていた。
 思えばあの平民は、初めの出会いからして普通ではなかった。どころか、顔を合わせるたびに厄介
なことになっていた気がする。いまにも死にそうなうめき声を上げていたり、これまた死にそうな有
様になっていたり、なぜかそれを自分が介抱したり。遂にはわけもわからないまま捕まってしまった。
 例外は、いつだったか早朝に顔を合わせたときだろうか。そのときはたしか、どうにかして宝物庫
を破れないかと、朝の散歩がてら思案していたのである。そういえばあの男の一言で、思いがけなく
宝物庫破りに活路が見出せたのだ。もっとも、結局はあのゼロのルイズのおかげで、なんとか破るこ
とが出来たのだが。
 いまにして思えば、宝物庫のとき一息に踏み潰してやっていれば、こんな寒々しい牢の中に転がさ
れることもなかったのだろう。だが、フーケはそれをしなかった。出来なかったのである。
 感傷があるのではなかった。リキエルの苦しむ姿を見、それまでのわずかな交流を思い起こし、哀
れと思わないでもなかったが、そのままほだされてしまうほど自分は甘くはないつもりだったし、実
際に主従ともども踏み潰す気でいた。
 ただほんの数瞬、ためらった。ゴーレムの足を止めてしまった。なぜかは、フーケ自身にもわから
ない。理由があるとするなら、あのとき一瞬だけリキエルと目を見てしまったことだ。
 爽やかな目、とでもいうのだろうか。意識ははっきりとしているようだったが、リキエルはどこも
見てはいなかった。もし見ていたのなら、それはたぶん空だった。恐怖や諦めはなく、涼やかさのよ
うなものをたたえた片側だけの瞳で、じっと空を見ていた。その目を見たとき、フーケは我知らず動
きを緩めたのである。
 ――本当に、あいつはなんだったんだろうね。
 フーケは、最後にリキエルと交わした言葉を思い出した。
 質問があると言って寄って来たリキエルは、数年来の知り合いか、友人のような気安さでフーケに
話しかけたのだった。
 ――よお、悪いな。こんなことに……いろいろと助けてもらっといてよォー、恩を仇で返すような
ことになってしまってな。恨まないでくれると、オレはとても嬉しいんだが、どうだろうな?
 ――だんまりか。仕方がないことか、こんな与太話なんかにつきあわせてな。さぞ面倒に思ってい
るだろう。あ、聞きたいことってのはこれじゃあないんだ。真剣に聞きたいことは別にある。
 ――それじゃあ本題に入るぜ。答えてくれなくても、それはそれでいーんだがな。……いいか、聞
くぜ。初めてお前さんと会ったときのことだ。オレは、馬鹿みたいにうめいていたよな。それをお前
は、走り寄って助けてくれた。なんの益にもならないのにな、不審者だったかも知れないのにな。あ
れは、どうしてだ?
 ――『人当たりのいいロングビル』としては、そうするべきだと判断したのか? それとも、単な
る同情か何かだったのか?
 適当なことを言って、そのまま流してしまってもよかった。意図の読めない、よくわからない問い
であったし、それに付き合う義理はまったくないはずだった。状況を考えれば、リキエルの決して望
まないであろう返答をしても、なんらそしりを受ける筋合いはなかったろう。

778使空高:2009/12/30(水) 13:52:48 ID:kFLIND6Y
 だがフーケは、真実思ったことを言う気になっていた。口調はふざけているようだが、リキエルの
態度には真摯なものがあった。なんとはなしに、それに応えてみるのも悪くないと思っていた。それ
に、意地を張っても仕方がないという気持ちもあった。
 ――咄嗟だったからよ。判断とか、計算とか、少なくともそういうのじゃなかったね。
 ――オレはお前を捕らえる気でいる。それはこの問答によって左右されるようなものでは、弱い意
志ではないのだ。だが今……『咄嗟』と言ったのか? 咄嗟にオレを助けたと……? オレが、そう
答えてほしいと願う……『やさしい』答えだが、本当なのか? 本当のところは、それか?
 フーケは頷き返した。
 ――弱い意志じゃあないとキッパリ言ったばかりだが、……スマン、ありゃウソだった。お前のこ
とを少し見逃したくなったぜ。
 ――でも、そうしないんでしょ。
 ――そうだな。……しかし、答えをもらえてよかった。
 また食事でも出来るといいがな、そういう縁があればよォ。最後にそう言う声を耳にしながら、フ
ーケの意識は途切れる。
 最後の最後まで、それもひとの腹に一撃くれながら、奇妙なことを言う男だった。『土くれ』のフー
ケといえば、それなりに名の通った悪党である。捕まれば縛り首か打ち首か、よくて流刑遠島が筋で
ある。まずもって、二度と顔合わせはないだろう。
 ないだろう、と思っていたのだが。
 ――諦めるには、随分と早い。
 考えてみれば、やりたいことも、やらなければならないこともある。ここで投げ出してしまうには、
過ぎた重みのものもある。潔い覚悟を決める前に、足掻いてみようという気にフーケはなっている。
 あてられたかも知れないと、ふと思った。初めは、なんて不景気な顔だろうと思っていた。が、対
峙してみたときの顔には、輝くようなものがあった。自信があらわれていた。そういうリキエルの姿
を目の当たりにして、触発されてしまったのかも知れない。
 ゆっくりとフーケは腰を上げた。それから、格子の鍵に手を触れた。なかなかに強い『固定化』が
かけられている様子だった。これは骨が折れそうである。
 牢に入る前の検査で、隠し持っていた杖はすべて没収された。そしてそれがよかった。ここがかの
チェルノボーグであったなら、歯の詰め物まで調べ上げられ、身に着けるものは鬘の毛までむしられ
ていただろう。だが所詮は、詰め所の気ない衛兵の仕事である。最後までは気づかれなかった。
 フーケは、懐から眼鏡を取り出した。指先に弦をつまみ、力をこめる。ぽきりと小気味よい音をた
てて、弦は根から折れた。というよりも、外れた。この弦が、フーケの持つ最後の杖である。
 ――ふたりの囚人がいた。
 ひとりの囚人は壁を見ていた。もうひとりの囚人は星を見ていた。むかし、寝物語かなにかで聞い
た話を、フーケは思い出していた。もうあらかた忘れてしまっていたが、そのうちの一節が、不意に
思い浮かんで来たものである。私は、どっちだ。
 ここには星の見える窓はない。
「もちろん、私は壁を見る」
 ――それを破って、欲しいものを手に入れて来たんだからね。
 フーケは格子に向き直ると、静かに心を研ぎ澄ませ始めた。

779使空高:2009/12/30(水) 13:56:47 ID:kFLIND6Y
OVER! THE!  WAAAAAAAAAAALL!!!!!!
ということで(?)投下終了です。
ひとつだけ言わせてもらうと、皆様よいお年をば。

いま気づいたけども、サルさん以外での代理依頼はまずかっただろうか?

780使空高:2010/01/05(火) 22:14:44 ID:ea3utAiI
代理の方(方々かな?)、手間を頂きました。ありがとうございます。

781ティータイムは幽霊屋敷で:2010/04/26(月) 18:31:15 ID:5xWlG0aw

交錯する杖と刃。それに乗せられた互いの意地がぶつかり合って火花と散る。
出方を窺う小手先の業など1つとしてない。両者は渾身の力を込めて得物を振るう。
絶え間なく響く剣戟にエンポリオは直感した――“この戦いはどちらかが倒れるまで終わらない”と。

「おねえちゃん! 二人を止めて! このままじゃ……」
「無理だね。もう言葉なんかアイツらには届かないよ」

必死に裾に縋りつくエンポリオを一瞥もせずに振り払う。
言葉でダメなら実力行使か? ―――バカらしい。
あの旋風じみた斬り合いに飛び込もうなんてのは自殺志願者だけだ。
切り結ぶ両者を苛立たしげにイザベラは眺める。
彼女は彼等の実力を読み違えていた。
ただのお坊ちゃんだと思っていたウェールズにかつての面影はない。
憎悪が彼を更なる高みに引き上げたのだろう、すでに彼の魔法はスクエアに達している。
何より敵を必殺せんとする修羅の如き気迫はかつての彼にはなかった物だ。
しかし、それにもまして予想外だったのは、それを防ぎ続ける平民の方だった。
メイジでさえ数合も持つまいと思われる猛攻を粗末な剣で凌ぎ続ける。
それも技量ではなく並外れた膂力と運動神経だけで。
だが遂に体力が限界を迎えたのか、見る間に才人の動きは失速していく。
このままなら遠からず才人の首はウェールズに切り落とされるだろう。

イザベラの視線が才人に向けられる。
平民でありながらこれだけの実力を持ち、しかも何処の国にも所属していない。
自らの手駒にするなら万金を積んでも惜しくない人材だ。―――だが命を張るほど重要でもない。
ただのバカなら要らない。自分の立場も弁えずに誰彼噛み付く狂犬を飼うつもりはない。
何かある度に他人の尻拭いに駆り出されるなんて冗談じゃない。
仮にも王族に刃を向けたんだ。ルイズも心のどこかでは諦めているだろう。
どうせ死ねば次の使い魔が召喚できる。そしたら今度こそまともな物を呼び出せばいい。
―――まあ正直、見てて飽きない奴だから死なれると少しは困るか。

「剣を捨てて命乞いするってんなら手助けしてやらない事もないけどね」


決闘を見つめていた二人の姫は対称的に表情を変えた。
ウェールズの身を案じていたアンリエッタは安堵に顔を緩めた。
彼女にしてみれば婚約者が突然、暴漢に襲われたような物だった。
誰が何を言おうともこの場の正義はウェールズにある。
この世界に住まう人間にとってエルフは不倶戴天の大敵。
仮にウェールズの言葉が嘘だったとしても生かしておくわけにはいかない。
無論、アンリエッタが彼の言葉を疑うなどありえない。
本来ならばワルド子爵を仕向けて成敗する所だが、彼は親友の使い魔でもある。
そんな事をして嫌われたくはないと思うのが心情だった。
何よりもウェールズが自分で決着を付けようとしている―――少なくとも彼女にはそう見えたのだ。

逆に才人の窮地に思わずシャルロットは顔を背けた。
防ぎきれなくなった軍杖が無惨に才人の体を削ぎ落としていく。
最初は服、そして皮膚、ついには血が飛び散るまでに肉を抉りはじめる。
このままでは間違いなく才人は殺される。
声を上げようとするも二人の気迫に飲まれて何も言えない。
何を言えばいいのか、言ったとしても聞き届けてもらえるだろうか。
今はドレスもティアラもない、ただの無力な少女でしかないのに。
彼女は一心不乱に祈った。それだけが自分にできる事と信じて。
たとえどんなにみっともなくていい。今すぐ剣を捨ててウェールズに謝罪して欲しいと。
そうすれば後は私が庇う。お父様や叔父上の力を借りてでも守り抜く。
英雄であって欲しいと思った少年に、今度は英雄である事を捨てて欲しいと強く願う。
そんな恥知らずな想いを抱くほどシャルロットにとって彼は特別な存在だった。

782ティータイムは幽霊屋敷で:2010/04/26(月) 18:32:32 ID:5xWlG0aw

「やめてください! もういいんです!」

ティファニアは叫んだ。瞳から大粒の涙を零しながら必死に声を張り上げた。
もうこれ以上、誰かが血を流すのを見たくなかった。ましてや、それが自分のためなら尚更。
ここで自分が犠牲になればそれで済むというのならそれも仕方ないと思った。
だけど、懇願するような彼女の声は剣を振るう少年の耳には届かない。
傍観することしかできず悲嘆に暮れる少女をマチルダは優しく抱きとめた。


「あの娘は貴様の何だ? 妹か?恋人か?それとも恩人か? 違う、赤の他人だ!」
「それを守る理由は何だ! ただの同情、憐憫の感情にすぎん!」
「そんな安っぽい正義感で、この私の前に立ちはだかるな!」

ウェールズの口から吐き出されるのは詠唱ではなく罵倒とも叱責とも取れる雄叫び。
感情を剥き出しに苛立ちを形に変えるかのように杖を叩き込み続ける。
彼の憎悪の対象はいつしかティファニアから才人へと移っていた。
大義を背負って苦難の道を歩む彼を無知な平民が遮る。
それがどれだけ自分と死んだ者達を侮辱する行為か、恐らく相手は理解していない。
―――だからこそ許せないのだ。

「無念のうちに死んでいった父上やバリー、部下達の心が!
アルビオンに生きる全ての民を守らねばならぬ責務の重さが!
全てを失った私の気持ちが! 何も背負わず奇麗事を抜かす貴様に分かるというのか!」

受けに回った剣を力任せに薙ぎ払う。
激しい衝撃が握りから腕、肩まで痺れを伝導させる。
すかさず繰り出されるウェールズの追撃に血飛沫が舞う。
刻まれたガンダールヴのルーンは輝きを失い、
腕は鉛みたいに重く、脚は泥沼に沈んだかのように身動きが取れない。
傷口からは思い出したかのように痛みと熱が、剣を握る手には既に感覚がない。
それでも才人はウェールズを睨み返しながら背後の少女を指し示す。

「あの子が何をしたって言うんだよ。泣いてるじゃねえか。
誰にも傷付いてほしくないって、敵味方なしに倒れた連中の為に悲しんでるじゃねえか。
そんな子にどんな罪があるってんだ! 言ってみろよ!」
 
なけなしの気力を振り絞った才人の剣が直上から振り下ろされる。
しかし、その一撃もウェールズの身には届かず虚しく宙を切った。
背後にいるティファニアの姿を見やったウェールズの表情が僅かに曇る。
それでも彼は断固たる決意で言い放った。

「彼女の罪は―――この世に生を受けた事だ」

生まれた事、それ自体が悪であるとウェールズはそう断言した。
ティファニアの存在が知れ渡ればアルビオンは破滅する。
王家の血筋に異教徒であるエルフの血が混じる、この事実は王家の権威を失墜させるだろう。
そうなればアルビオン全土の貴族諸侯はテューダー王家に取って代わらんと内乱を引き起こし、
そうして混乱の坩堝と化したアルビオンを治安維持の名目で侵攻すべく各国も動き出す。
かつての家臣たちが互いに殺し合い、愛した祖国は他国の軍勢に蹂躙される。
焼かれ、奪われ、殺され、傷付けられ、追い出され、アルビオンは全てを失うだろう。
たった一人の命とアルビオン王国を秤にかける事などできない。

783ティータイムは幽霊屋敷で:2010/04/26(月) 18:34:03 ID:5xWlG0aw

「てめぇええええーーー!!」

その返答に、才人は雄叫びとも悲鳴ともつかない絶叫を放った。
動かなかった足は前に、腕を引き千切れんばかりに振り回し、
まるで狂ったかのようにひたすらウェールズに剣を打ち込み続ける。
命を燃やし尽くすかの如く彼は立ち向かっていった。

「そんな事……! 誰にも、誰にだって言わさせねえ!」
「………………」

しかし、それは披露する前に比べてあまりにも鈍く遅く稚拙な物だった。
子供をあしらうかのようにウェールズが決死の反撃を事もなしに凌ぐ。
激昂する才人の動きは単調そのもの。不用意に踏み込んだ一撃を絡めとって剣を弾き飛ばす。
唯一の武器を失った才人にウェールズは軍杖の先端を突きつけた。
勝負はついた。その結果に多くの者から安堵の息が洩れた、才人の身を案じる者達からも。
戦う術を失った以上、これ以上手向かう事は無い。故に殺される心配も無いのだ。
後は何とかウェールズを説き伏せて容赦を願い出るだけ。

だが、そんな彼女達の想いを無視して才人は無手となった腕を振り回す。
剣でさえ当てられなかったのにウェールズに拳が届くはずもない。
放った拳は悉く宙を掻き、掠る気配さえ感じさせない。
才人の出血は致死量に達しようとしている、それにも拘らず彼は戦う事を止めようとしない。
死を前にしても立ちはだかる、その異様な姿にウェールズは言葉を失った。
「何故だ……? 何故そこまでする……」
ようやく搾り出した言葉は降伏勧告ではなく疑問の声だった。


白に染まっていく視界の中、がむしゃらに才人は拳を振り回す。
当たっているのか、届いているのか、それさえも分からない。
千切れかけた意識で崩れ落ちそうな身体をただひたすらに突き動かし続ける。

俺は何も背負っていない、と奴は言った。
それは正しい、俺には何も無い。
力も、金も、魔法も、権力も、俺は何も持っていない。
親も、ダチも、家も、学校も、ここにはない。
俺の事を知っている奴なんて誰もいないし、俺が知ってる奴もいない。
確かな物なんて何一つない……俺はゼロなんだ。
―――だから俺は『自分』だけは曲げるわけにいかねえ。

あの頃みたいに流されて生きれば楽だろうさ。
目の前で起こる事に目を瞑って、貝みたいに口を閉ざせばいい。
ルイズに黙って従い、貴族連中にもおべっか使って適当にやってりゃいい。
そうすれば少なくともこんな死にそうな思いなんてしなくていい。
だけど、そうなっちまったら俺は『平賀才人』じゃなくなっちまう。
最後に残ったものが自分だけというなら、それを守り通さなきゃいけない。

この世界でどっちが正しいかなんて俺には分からない。
だけど、俺は間違っていると思った事に首を縦に振らない。
ガキだって笑われたっていい。この意地が、このバカが『俺』なんだ。
だから許せないものがあるなら俺は絶対に譲らない、絶対にだ。

784ティータイムは幽霊屋敷で:2010/04/26(月) 18:35:09 ID:5xWlG0aw

「……取り消せよ……生まれた事が悪いだなんて……そんなの、ひどすぎるだろ」

混濁した意識で才人は声を絞り出しながら拳を前に突き出した。
もはや殴るだけの力もなく握手を求めるかのようにゆっくりと伸ばされる腕。
それはペタンとウェールズの胸に当たって力なく止まる。
そして平賀才人もウェールズ、そのどちらも動かなくなった。

誰もが言葉を失う中、イザベラは両肩をわなわなと震わせていた。
何かあったのかとエンポリオが見上げた先にあったのは彼女の壮絶な笑みだった。

ただの馬鹿なら拾う価値はない。だが平賀才人は違った。
アイツはただの馬鹿じゃなく―――後にも先にもただ1人の大馬鹿だった。
こんな面白い物を黙って見過ごす手はない。ここで死なすにはあまりにも惜しい。
最高の玩具を見かけたような目つきでイザベラは才人を見つめる。

「こいつはアタシが貰った! 誰にも文句は言わせないよ!」

785ティータイムは幽霊屋敷で:2010/04/26(月) 18:40:26 ID:5xWlG0aw
以上、投下終了。時折、これをクロスと呼んでいいのか分からなくなる。

786名無しさん:2010/04/27(火) 20:33:06 ID:yTuO4.J2
代理投下、ありがとうございます。

787名無しさん:2010/04/27(火) 21:16:00 ID:WOxTKCTc
いやいや、こちらこそ遅れて申し訳ない。
気づいたのが寝る前だったんで次の日になってしまった。

788反省する使い魔!:2010/05/30(日) 00:28:13 ID:mnA6C3Nw

そして、そんな人ごみの中から飛び出してきたのが探していたルイズである。
どうやら騒ぎに気付いてやってきたようだ。

「ちょっとオトイシ!アンタ自分がなにやらかしたかわかってんの!?
いきなり貴族を蹴りつけて、あまつさえ決闘なんて…」
「そ、そうですよ!オトイシさん……こ、殺されます!
謝りにっ……!元々私がすべて悪いんです!だ、だから……
私がミスタ・グラモンに謝りに行きます!わ、私さえ罰を受ければいいだけの話ですから」

ドギュアアーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!!

「「!!?」」

音石が無言のまま、ギターを力強く弾き、
完全に興奮混乱状態だった二人を止めた。
いや、無理やり落ち着かせたと言ったほうが正解かもしれない、

「落ち着いたかぁ?な〜に、心配することぁねーよ
ようは勝てばいいだけの話なんだろ?」
「はぁ?アンタ本気で言ってんの!?…あのね?
平民が貴族に勝つなんて絶対にありえないのよ!」
「そ、そうですよオトイシさん!そんなの無茶です!!」
「だから落ち着けっての、
まあまずはそのヴェストリ広場ってのは何処か教えてくれよ」
「あんた、本気で死ぬわよ……」
「……死なねーよ、まあ見てろよルイズ
もしかしたら…面白いものが見れるかもしれねーぜ?」

789反省の人:2010/05/30(日) 00:36:24 ID:mnA6C3Nw
というわけで第六話投稿終了です!

こんなに時間がかかるなんて…
以前と同じように今回もサルったので皆さんのコメントや
ティータイムさんのを見本にしてやってみましたが
正直言って自信ないです……こわい…;;

それと、ついでに絶対本文に書いたら叩かれると
思ってやらなかったネタを書いときます。

「でも、ご主人様に対して偉そうにしたからお昼抜きね」
「まさに悪魔だな…」

どこの救世主の皮をかぶった水の亡者だよ!!


以上です…、次回いよいよギーシュとの決闘!!

790名無しさん:2010/05/30(日) 11:49:52 ID:KsQqf0E.
乙です!

791反省する使い魔!:2010/06/07(月) 00:10:17 ID:fsOal1BI


「…………………………は?」

マヌケそうな声がギーシュの口から漏れた。
言葉が見つからなかったのだ。一体何が起こったのかわからなかったのだ。
自分は今間違いなく平民と向かい合っていた。
その間にいるのは自分が作り出したワルキューレだけだった、
じゃああれはなんだ?一体なんなんだ?

獰猛な目を持ち、尖った口ばし、尻尾を生やし
体を発光させているあの怪物は一体なんだと言うのだ!?

「い、い、い、一体なんなんだそれはあアアアァァーーーーーッ!!!??」

ギーシュは喉が枯れてもおかしくない大声で叫んだ。
ギーシュだけではない、当然ギャラリーも今までとは
比にならないくらいに騒ぎ出した。
ルイズ、キュルケ、タバサはもはや互いに語り合う事もなく
ただ目を見開きながら、レッド・ホット・チリ・ペッパーを眺めていた。

「教えてナンになるんだよ?教えてオレに得があるかァ〜?
教えたところでてめーみてーなガキに理解できんのかよ?
カスみてーな質問してんじゃねーよ、くっくっくっく」
「うっ……うう……ワ、ワルキューレ!」
「邪魔だ」【ドガァッ!】
「なッ!?ぼ、僕のワルキューレを…い、一撃で!?」
「つくづくカスみてーな脳ミソだな、さっき一斉に4体を破壊してるのに
たった1体でどうにかできるわけねーだろ?
こんなノロい鉄くずが我が『レッド・ホット・チリ・ペッパー』を
上回るとでも思ってんのかァー?ボケが」

ギャラリーはさらにパニックになった。
なんてことだ!あの亜人は姿がおぞましいだけでなく
強さもデタラメだ!どうなっているんだ!?
なぜあれほどの亜人をあの平民が操っているんだ!?
ギャラリーの混乱は増すばかりだった。

792反省する使い魔!:2010/06/07(月) 00:10:55 ID:fsOal1BI
「くっくっくっく、いいね〜〜、この歓声が実にいい…
やっぱり、ギタリストとして熱く生きるオレは
こーゆーのが必要なんだよなァ〜〜〜、フッフッフッフッフ
おらぁガキ共ッ!!声が小せぃんだよ、もっと張り上げろッ!!
もっと俺を熱くさせろぉッ!!!」

ギャギャアーーーーーーーーーーーーーンッ!!!

ギターを奏で、ギャラリーはいっそうパニックの声を高めた。
レッド・ホット・チリ・ペッパーも観客にインパクトを与えるために
音石の周りを飛び回っている。

ギーシュはこの理解不能な事態を受け入れることができなかった、
自分は今間違いなく人間の平民を相手にしていた筈なのに、
本当なら自分のワルキューレがあの無礼な平民に鉄槌を下す筈なのに、
しかしなんてことだ、自分が相手にしていた平民はただの平民では
なかった。亜人を操る平民なんて聞いたことがない。
自分はとんでもない奴を敵に回していたんだ、

「う、う、うわああああああああああああッ!!!」

ギーシュは無我夢中で杖を振り、残り最後の2体のワルキューレを生成した。
理解不能ではある、しかし今あの男は自分と戦っているんだ。
戦っている以上、あの男はあの亜人を使って自分を攻撃してくる。
青銅を一撃で粉砕するほどのパワーをもし生身の自分が受けたら…
間違いなく死ぬ!

「たった2体だけって事は…、そいつらで最後ってわけか
オーケー、ギャラリーも最高に盛り上がってるところだ
ここいらで一気に決めちまったほうが最高にカッコいいよなーッ!」
「く、来るな!来るんじゃないッ!!」

駆け出した音石にギーシュのワルキューレがヤケクソに
手に持つ剣で無茶苦茶に振り回している。

「山カンにたよってヒョッとして大当たりなんつー
都合のいい発想はやめろよな」

【グゥアシッ!】

「なッ!?う、受け止めた!?」

レッド・ホット・チリ・ペッパーは我武者羅に振り回している
ワルキューレの剣をなんと指2本だけで摘み止めたのだ。

「無駄無駄、てめーのワルキューレのスピードなんて
仗助のクレイジー・ダイヤモンドの比じゃねーんだよ、
こんなすっトロい鉄くずがオレの相手になるかよぉっ!!」

【ドゴォッ!】

最後のワルキューレもあっけ無く破壊され
ギーシュは完全に戦意を喪失した。

793反省する使い魔!:2010/06/07(月) 00:11:39 ID:fsOal1BI

音石はレッド・ホット・チリ・ペッパーをおさめ
戦意を喪失し立ち尽くしているギーシュに
容赦なく顔面にひじ打ちを叩き込んだッ!

「うぐァッ!」

鼻血をぶちまけ、ギーシュは地面に倒れこもうとした
音石はギーシュの胸倉を掴み、ソレを阻止した。

「う…げ……ま、参った……降参だ…」
「だめだな、このまま終わらせるわけにはいかねェ、
今ここでお前を徹底的に痛めつける、周りの連中が
二度とオレやルイズ、シエスタを見下さねーよーになァ」
「ひっ……そ、そんな……ゆ、許してくれ……」
「ハッ、許して?…お前は今にも泣き出しそーになってまで
頭を下げまくってたシエスタを許してやんなかったくせによ〜、
今ここでオレが許してやるとでも思ってんのかァ〜?
そういう都合のいい考えもやめろ………殺すぞ?」
「ひ、ひいぃッ!?」
「まあどうせ、これだけの差別社会だ、
貴族であるお前が平民であるオレを殺してもどうせお咎めなしで
逆にオレがお前を殺したらお咎めありなんだろ?
だから殺しはしねェ、安心しろ…
だがな、よーは殺さなかったらいいだけの話なんだ
…………………………だから………」

音石はギーシュを地面に叩きつけ、両腕をポキポキ鳴らし始めた。
ギーシュはもはやそんな音石の凄まじい威圧に
動くことができなかった。動いたら間違いなく殺される。
人間としての本能がそう思ったからだ。

「だから半殺しで勘弁してやるッ!!
せいぜいベットの上で尿瓶のお世話にでもなってもらうんだなッ!!!」

「ひ、ヒイイイイイイイイイイイイィィィィッ!!!」


【ドガァベギッバギッバゴォペキポキグチャメメタァグチャ!!!】


ギーシュはこの日、両手両足指鼻などの骨をすべて折られるという
重傷負ったが、魔法の治癒のおかげで数日で復帰した………。

794反省する使い魔!:2010/06/07(月) 00:12:26 ID:fsOal1BI

決闘には勝ったものの、音石には不可解な疑問があった。
なにを隠そう、その疑問とは自分のスタンド、
レッド・ホット・チリ・ペッパーのことである。

(どうなってやがる?俺のレッド・ホット・チリ・ペッパーは
三年の歳月を費やして回復するには回復した……
確かに、レッド・ホット・チリ・ペッパーは本来
近距離パワー型ではある………
だがそれでも、電気なしであそこまでのパワーが出ねェ筈だ
こいつは一体………)

音石はギターをいじりながら考えふけっていたが、
やがてルイズがこちらにやって来るのが見え、一旦この疑問は保留した。

「オトイシッ!!」
「よおルイズ、どうだ?面白いモンが見れただろ?」
「アンタ一体あの亜人はなんなの!?きっちり説明しなさいッ!!」
「おいおい、落ち着けよ。まっ、お前の性格じゃあ無理な話か」
「あんた一体何者なの!?」
「まあ待てよ、教えてやるがさすがにここでじゃまずい
できれば誰にも聞かれたくねーからな……」
「………わかったわ、それなら私の部屋に」
「お待ちください、ミス・ヴァリエール」

ルイズの背後から一人の女性が声をかけてきた。
その女性は先程、学院長室にいたミス・ロングビルだった。

「ミ、ミス・ロングビルッ!?」
「失礼しますミス・ヴァリエール、学院長がお呼びです。
至急、使い魔と共に学院長室に来るようにと」
「…………わかりました。オトイシ、ついて来なさい」

(このタイミング…、やれやれ
こいつはメンドくせー質問攻めにあいそーだな)

そして音石はルイズとミス・ロングビルに案内され
学院長室に向かったのであった。

795反省の人:2010/06/07(月) 00:16:45 ID:fsOal1BI
七話投稿終了です!

改めて読み返してみるとこの音石、若干クールっぽさがあったので
今回は後半あたりワイルドに演じさせてみました。
あと効果音の際、自分は【】を使用しているんですがいかかでしょうか?

そして、サルったときに変わりに投稿してくれる人に
心から感謝です!

これからもがんばっていきたいと思います。

796名無しさん:2010/06/25(金) 06:44:19 ID:6kZ6pi7U
時間が出来たぜхорошо 書き上げられたぜлучше
そして寄生虫ってどーゆーこってすかぁ――――ッ!?
……あはれと思し召した方、……代理なぞお願いされて頂けないでせうか。

797名無しさん:2010/06/25(金) 06:45:25 ID:6kZ6pi7U
一章御仕舞〜休日は寝ても覚めても過ぎていく〜

「あー? ……なんだ、まだ寝てるのかよォ」
 ベッドの上で、気の抜けるほど穏やかな寝息をたてるルイズを認めて、リキエルは肩をすくめてひ
とりごちた。それからあくびを一つ落とす。
 いまリキエルは、洗い物を片付け、洗面用の水を汲んで寮に戻って来たところだったが、その時刻
はいつにもまして早かった。まだ夜も明けきっていない。空のどこにも白んでいるところはなく、外
にはかろうじて目が利く程度の、深い青に塗れた場景が広がるばかりである。おそらく、まだ生徒た
ちの誰も起きてはいないだろう。授業があれば別かもわからないが、今日は虚無の曜日である。
 そういうわけだから、日ごろ授業に身を入れているルイズが寝こけていたとしても、普段ならそう
悪しいことはない。ただ、リキエルに早起きするよう言ったのはルイズなのである。
 リキエルは部屋を横切って窓に近づき、おもむろに開け放った。薄皮を裂くような、早朝の冷えた
外気が襲い掛かってきたが、リキエルはわずかに顔をしかめるだけだった。ついさっきまで、この空
気の中で水仕事をやっていたのである。
 それから今度は、ルイズの布団を剥ぎにかかる。イェルサレム級のもふもふ感を誇る毛布と、押し
込めばどこまででも沈み込んで行ってしまいそうな、極上の羽毛布団である。使い魔のぺらぺら毛布
とは大きに違いが見えた。二枚重ねた中で丸くなって、さぞやさぞや、ぬくいことであろう。布団を
引っぺがすリキエルの動きに、手心はなかった。
 布団を剥ぎ取られたルイズは、程なくしてその寝顔を穏やかならぬものに変え、「うぶ、ぶぶぶ」と
か「ほわ、ほわわ、うゃわやややひゃひゃ」とかいった呻き声を発した。そして愛しの布たちを求め
て手探りをしたが、リキエルに拉致され、ベッドの端に寄せられた彼らには届かない。あわれをさそ
う絵である。
 はじめのうちは冷徹な顔で次第を眺めていたリキエルだったが、ルイズが立て続けにくしゃみをし
たところで、さすがに潮時をさとった。たかだかいたずらで風邪をひかせてしまったのでは、ちょっ
とつまらない。
 洗面用のバケツをベッドの脇に置き、中の水に指を浸す。慣れると慣れないのとでない、骨身に沁
みる冷たさが一瞬で肘まで上ってくる。軽く水滴を払って、リキエルはその指をルイズの首にあてた。
 短く悲鳴を上げながら、ルイズはがばりと身を起こした。
「ぬぁはびゃびゃ! じじじじ地獄の郵便配達員が私のへそのゴマを取りに来たのね!?」
「あ〜、いまの叫び声は聞かなかったことにするぜ、お前の名誉のためにな。と、そんなことよりも
だ、さっさと目を覚ませよォルイズ。寝ぼけている場合じゃあないぜ」
 言いつつ、リキエルはまたバケツを引き寄せ、中に手を入れた。
「おおッ、やっぱり冷てェ! ほら、こっち来い。顔洗えば目も覚める」
「へ? ……えぁ〜、ああ、うん」
 言われるまま、ルイズはリキエルに這い寄っていった。一応の返事こそしているが、舌が回ってお
らず寝ぼけ眼なところを見ると、まだ頭に火は入っていないようである。
「早くしてくれ。こうしていると、手の感覚がッ、どんどん持ってかれるんだぜ!」
「いちいち〜、うるさいわねー。主人を〜、起こすときはねー、こう、もっと粛々とね〜、やるもの
なの……うわ、冷たいこれすごく冷たい!」
「さあて、すっきりしたな? なら着替えもさっさと済ませるぜ」
 リキエルは箪笥のほうへ行き、下着にソックス、それとタオルを取り出して、ルイズに向かって投
げた。それから、制服の上下を引っ張り出しにかかる。この着替えの手伝いにも、もうだいぶ慣れが
来ている。寝起きのルイズはいやに幼いところがあり、それを相手にしているときの感覚は、たぶん
小さな子供の世話をするのに近い。

798名無しさん:2010/06/25(金) 06:46:09 ID:6kZ6pi7U
 一度などはルイズがなかなか目を覚まさなかったために、下着から何から全部着替えさせた上で、
脇に抱えて食堂まで持っていったこともある。使い魔とはいえ男相手に、嫁入り前の娘がそんなでは
いかんだろと、そのときリキエルはルイズを諭しにかかったのだが、ルイズはわずかに顔を赤らめた
だけで、「しょうがないでしょ、朝にはちょっぴり弱いの」と、いささか的外れに嘯くだけだった。ど
うやらルイズは、一個の人間としてのリキエルに対しても、あまり羞恥を感じないらしいのである。
 それはある種の深い信頼を得ているということでもあろうが、それだけで済む話ではない。世間の
目というやつがあるのだ。厳しいものから下世話なものまで、それはもう考える以上に多く光ってい
るのだ。ルイズの嫁入り先を減らす片棒にはちょっとでも触れるわけにはいかないと、最近リキエル
は変な使命感を覚えている。
 リキエルが振り向くと、ルイズはようやくショーツをはき終えたところだった。もう眠気が戻って
きているのか、頭の揺らめく様子がちょっとばかし危うい。
「起きろってよォ〜。でなけりゃ、オレがソックスを履かせることになるぞ」
「はいはい。……あれ? 何よ、まだ薄暗いじゃない」
 のろのろとソックスを伸ばしながら、ルイズはふにゃりとした顔で言った。
「それに、そうだわ。今日は虚無の曜日じゃなかったかしら。こんなに早くから起きて、あんたどう
したの?」
「早くに起きろと言ったのはオレじゃあないぜ。どうやらまだ――ちゃんと腕を出せ。シャツの袖が
通らねーだろーがァ――まだ寝ぼけているな? 買い物に行くんだろうが、今日こそはなぁ」
 ルイズは少し考える様子だったが、じきにがくがくと頷いた。
 一昨日の夕方のことである。リキエルが朝に洗濯した物を回収して部屋に戻ると、ルイズが机に向
かって、財布とぶちまけられたその中身を睨みつけていた。そして不意にリキエルに向き合ったと思
うと、買い物に行くと言い出したのである。細々と揃えたいものがあるらしく、そのついでとして、
今度こそリキエルの剣も買おうということだった。
 そしてこれは重要なこと――とルイズは言った――だが、またキュルケに見つかったりするのは避
けなければならなかった。そのために、ルイズは過ぎるほどの早起きをすると言い、リキエルにもそ
う告げたのである。加えて、これは厳命だとも。しかし当のルイズこそが、眠気の前に手も足も出な
かったようである。
「まったくよ〜。こっちは言われたように、早くから起きていたのによォオオ」
 リキエルが愚痴ったが、ルイズは一顧の素振りもない。どころか、堂々と大あくびをかました。
「ふぁ。思った通りにちゃんと起きれるの? あんた便利な身体してるのね」
「最近まで知らなかったぜ、オレもな。お前のおかげで新たな発見だ」
「感謝しなさいよ」
「感謝感激だ。きっと全米が泣くなァ。……靴だぜ、足を出しなよ」


 リキエルが老人のように腰を折っているのを、隣で歩くルイズは時折とがめる目で見ていたが、や
がて耐え切れなくなったように口を開いた。
「何をそう急に年寄ってるのよ? もっと背筋伸ばして、しゃんとなさいよ」
「なら少しだけでいいんだ。腰が痛くてたまらねえんだよォ、休ませてくれ」
 リキエルは歯を剥いて、横目だけでルイズに答えた。
「またなの? ちょっと馬の動きに合わせればいいだけじゃないの」
「無茶を言うんじゃあねー」
「何が無茶よ。コツさえつかめば簡単なことよ」
「それだぜ、無茶だと言ってるのはよォ。まだ三回目だぞ。オレが馬に乗ったのは、生涯の中でたっ
たの三度だ。それは腰を痛めるってものだぜ。ということでだ、休ませろ」

799使空高:2010/06/25(金) 06:47:52 ID:6kZ6pi7U
おおおぅ名前欄がはっ


 極めつけるようにリキエルは要求したが、ルイズの答えは素っ気ない。
「だめ、時間が勿体ないもの。今日はいろいろ見て回りたいの」
「やはり……NOかよ……。別にいいんだがなぁ、痛みも引いてきてるしよぉ」
 言ったとおり、リキエルの背筋は歩く毎に、そういう出来のからくり人形のように少しずつ伸びて
いく。その動きがおかしかったらしく、ルイズは顔の険を消してくすくすと笑った。
 そちらをまたじろりと一瞥してから、リキエルは改めてブルドンネの街を見渡した。前に来たとき
のほぼまま、街はひとの生む熱気と活気を吐き、また飲み込みながら、引きのない祭りのような賑わ
いを見せている。
「あんたの居た世界には、こういうところはなかったの?」
 視線をさまよわせていると、不意にルイズが聞いてきた。
「物珍しそうに見てるけど」
「ん〜、そうだな。こういうのじゃあないな。ひとは多かったが」
「ないっていえば、魔法もないのよね? 月もひとつだって」
「興味があるのか? 少し前までは眉唾で聞いていたのによぉ」
 ルイズは腕組んで眉根を寄せた。
「ええ、あるわ。たしかに疑ってはいたけど、初めに話を聞いたとき、ほんのちょっぴり面白そうっ
て気もしたしね。半信半疑って言ったのは、つまりそういうこと」
「そりゃあ違いの大きさってことで言えば、すげー違いだがなぁ」
 言いながら、リキエルは深くうなずき返す。ふたつの世界の常識を鑑みると、どちらもどちらで空
想の中の話だ。こちらに来てからそれなりに経ってはいるが、日々はまだまだ驚きに満ちている。
「あんたはフロ……なんだっけ、アフロ? ってところに住んでたのよね。どういうふうなことをし
てたの?」
「フロリダだな。特におもしろい話はできないぜ。オレも、あそこにはそう長いこと暮らしてたわけ
じゃあねぇしよォ〜。適当に仕事探して、バイクいじって、音楽聴いて、本当にそのくらいなんだ。
特別なことをする気も起きなかったしなぁ」
「そういえばあんた、あんまり大勢のひとがいるところには行けないんだったわね。最近は平気みた
いだけど」
「それもある。ただ一番は、目的意識ってやつを持たなかったんだな。満足してたわけじゃあないが、
一日が無事に過ごせればいいと思ってた。……そのくせ暴走族なんかはやってたが」
 ルイズがぎょっとしたように目を剥いた。ぽかりと口まで開けている。
 そしてその顔のまま、リキエルを上から下まで何度も眺め回す。言葉の響きとリキエルの気抜けた
物腰とを引き比べて、どうにも得心が行かない様子である。
「暴走族って、なに? なんだかよろしくないものみたいだけど」
「ああっと〜ォ、誤解だぜそいつは。お前にもわかるように説明するとだ、暴走族ってのは馬で全力
疾走して、ゴミ拾いをする集団なんだ、そのほとんどはな。オレのいたクラブも健全なとこだぜ。地
域の中だけでやるような、小さな集まりだった」
 大したスピードも出さないくせして、ばごばごと音だけは立派なもんだったと、リキエルは懐かし
むように思った。
 パニックの発作のために、ひとのいるところではろくすっぽ車の運転も出来ず、普段はバイクにさ
え乗りたくはなかったが、仲間内だけで軽く流す程度のそのツーリングだけは、諸々の鬱屈に対する
いくらかの慰めになっていた。人恋しかったというのもあるかも知れない。発作を見られるのが苦痛
で、あまり人間のいるところには足を向けたくはなかったが、そうかといって孤独大好き君だったわ
けではない。
 あまり要領を得られなかったのか、ルイズはしばらくの間、ミミズクのように首を左右にひねって
いたが、やがて飽きたように、これといった気もなしに頷いた。

800使空高:2010/06/25(金) 06:48:49 ID:6kZ6pi7U
「ふうん。……あ、そうだ! いま思い出したけど、別にあんたに聞きたいことがあったんだわ」
 顔をしかめつつ、リキエルはルイズの顔を覗き込むようにした。
「いきなりよォ〜、心臓に悪いからよォ〜、叫ばねーでくれよなぁ」
「フーケを捕まえたときのことだけど、リキエル、あれはなんだったの?」
 リキエルは口を開きかけたが、途中で考え直したようにやめた。視線もルイズから外して、明日の
方向に投げる。
 ルイズの言う『あれ』というのが何のことかは、リキエルにもわかっている。過日の討伐劇の中、
手も触れずフーケの身体に異様なことを起こした能力のことである。より正しくは、ロッズを操って
異常を起こさせた能力のことだ。たぶんあのとき、ルイズたちにロッズの姿は見えていなかったのだ
ろう。単に奇妙な光景として記憶に残ったはずである。
「なんとなく聞きそびれてたけど、ずっと気にはなってたのよ。あれは、あんたがやったことなのよ
ね? いったい何をしたの?」
「オレが直接どうしたってわけでもないんだがなぁ。何故あんなふうになったのかも知らねー。だが、
オレの能力のせいでああなったのは間違いないぜ」
「能力? あんた実はなんかすごい力とか持ってたの?」
「さあなァ。元から持っていたのか、それともいきなり授かったのか? たぶん、いわゆる超能力な
んだろうが、だからこそオレにもよくわからないな。ただあのとき以来、自由に使えるようになった
オレの能力なんだ。……こうやってなぁ」
 リキエルが不意に上を向く。
 釣られてルイズが中空に目を転じるのと、ほとんど同時だった。青空に白い曲線が走った。規則性
を感じさせない、でたらめな線である。
 それは一匹のロッズだった。ロッズはリキエルたちに近づくと、速さを落として二人の周囲を旋回
し始めた。ルイズは初め、この奇妙な生き物を警戒する様子で見ていたが、どうも無害らしいと判る
に連れ、鳶色の目に好奇を募らせていった。
 ひとしきり遊ばせて、リキエルはロッズを自由にしてやった。ロッズはリキエルの頭を一周ぐるり
としてから、潜るように人混みの中へと消えた。
「いまの、オレはロッズと呼んでいるが、あいつらを利用できるのがオレの能力だ」
「変な生き物ねぇ。何を食べているのかしら」
「どうやらロッズはその奇怪な飛行や習性によって、人や物になんらかの影響を及ぼしているらしい。
そしてルイズ、いま何を食っているのかと言ったな? ロッズ達が空中で何をしているのか、その鍵
はこいつらの食い物にこそにあるのじゃあないかと、オレは考えてる」
「名前は? その能力はなんて名前なの?」
 興奮した様子で、ルイズが急くように聞いた。
 リキエルはルイズを見返した。そして腕を組む。虚を突かれたというか、意外なことを聞かれたと
いう気がしている。言われてみれば、ここまで能力とばかり呼ばわっていたが、名前などは考えもし
ていない。別段、なくともそれはそれで構わないのかも知れないし、実際に困ることもないのだが、
少しばかり味気なくはあるなと、リキエルは思った。
 ぼけっとするリキエルを見て、ルイズは憤然とした。
「大事なことじゃないの。せっかくの能力を、あれとかそれとかって呼ぶの?」
「そうだよなァ。それじゃあ……『スカイ・ハイ』とでも呼ぶことにしようか」
「空高くって? へえ、なかなかいいんじゃない」
 リキエルとしては、何とはなしに頭に浮かんだフレーズをそのまま口に出しただけだったが、ルイ
ズはそれでも満足したように、ふんふんと頷いた。

801使空高:2010/06/25(金) 06:49:32 ID:6kZ6pi7U
 そうやってお喋りしつつ、人波に半ば飲まれながらぶらりぶらりと歩いているうちに、地面に跳ね
る日の光がまた強くなっていた。だいたいに空腹の募る頃合である。リキエルたちは朝食もとらずに
学院を発っていたから、それもひとしおであった。
 手ごろな料理屋に入って、今日の薦めを頼んだ。出てきたのは、塩を振った小鯛を蒸し焼きして、
ハーブで香り付けしたものである。いささかきつい香りではあったが、いざ食べてみると、それが軟
らかい魚の身と塩味によくよく絡んで、うまいのだった。少々値は張ったが、胃も心も満たされたあ
とでは、それもまったく気にならなかった。
 食事の後、ふたりは一度別れて動くことにした。せっかく街に来たのだし、各自で自由に見て回ろ
うとルイズが言い出したのである。
「この前は武器屋に行ったきりだしね。どうかしら」
「別に構いやしねえぜ。合流はどうする?」
 ルイズは額に指を当てて、ちょっと考えるそぶりをした。
「そうね。……ここから先にちょっと行くと花壇のある広場に出るんだけど、そこにしましょう。時
刻は二時間後、一時でいいかしら。鐘が鳴ったらすぐにね」
「二時間後に広場だな? よし」
「それじゃあ、はい。お金。スリなんかに取られないでね」

◆ ◆ ◆

 ひとりになってからも、リキエルはただぶらぶらと歩いている。目当てはなかった。そもそも、ど
こに何があるのかも知らない。来たのはこれで二度目だが、ルイズの言ったように、武器屋を見て帰
っただけの街だった。
 とはいえ、退屈かといえばそうでもない。この前とは違って、心には当て所なく歩きながらも、周
囲を見渡せる余裕というものがある。人ごみにはいまだに慣れが来ず、ともすればパニックに陥る自
分の姿が頭をよぎることもあるが、そのまま発作を起こすことはないから、以前と比べればマシもマ
シである。
 ――まだすこし、情緒不安定ではあるがなぁ。自分で言うのも奇妙だが。
 実際ブルドンネは、歩いているだけでなかなかに面白いところだった。
 大通りと言いながら、男が五人も並べば一杯になる程度の、いわゆる商店街である。色々なものが
雑然とただ詰め込まれているように見えながらも、そこには何がしか秩序が根付いていた。人を含め
た街全体が、ひとつのものとして動いている。そういう気配が、目で見、耳で聞くうちに伝わってく
るのだ。
 ときたま、そういった秩序に漏れる動きも見えた。そうした動きを意識して目で追ってみると、い
つも貴族らしい人間が居るのだった。やはり平民と貴族との間には、どうにも隔たるところがあるら
しいな、とリキエルは思った。が、しばらく観察していると、一見して場違いなように見える貴族た
ちも、結局は街に内包された存在としてあるのがわかってきた。
 懐の深い、とでも言うのだろうか。手狭なようでいて、実際に歩いてみるとその深さが見えてくる。
そんなところがこの通り、ひいては街の魅力となり、活気の源となっているのかもしれない。リキエ
ルはそんなふうに思った。
 迷わないようにとだけ考えて、リキエルは気の向くまま動く。それは街という生き物の中をめぐる、
血液の流れの一部のようでもある。通りの右をふらりふらりと歩いては、各種の飾りを扱っているら
しい店の軒下に入り、その巧みさに見入って凝然とし、挙句冷やかしと見破られて店主に追い出され
たりする。街の左をぶらぶらと行けば、途中で見せ売りに行き会って、その場にいたほかの人間と一
緒に、売り子の元気な口上に耳を傾けたりした。

802使空高:2010/06/25(金) 06:50:05 ID:6kZ6pi7U
 興味に飽かして回っていたが、やはり人ごみの中を泳ぐのは体力を使う。やがて疲れがきた。リキ
エルは場所の確認もかねて、一度ルイズとの合流場所へ向かうことにした。約束の時間はまだ先だが、
いまは一休みしたかった。広場なら、ベンチのひとつもあるだろう。
 商店がまばらになって来たなと思っていると、急に道幅が広くなり、間もなくそれらしい広場に出
た。住宅街にほど近いらしく、時間帯のこともあってか、ひとの流れも比較的緩やかなものだった。
円状の広場は、中央にこれも円形の花壇が設けられ、そのぐるりに鉄の柵と、案にたがわずベンチ
が置いてある。リキエルはベンチのひとつに腰掛けて、ほぐすように背を張った。
 ――さてと……。
 こいつをどうするかな。リキエルはポケットに手を突っ込んで、中の金貨を弄んだ。
ルイズからもらった小遣いだが、使うにあぐねている。何せ価値がわからない。渡された金貨は三
枚で、たしか新金貨と呼ばれているものだったが、それでどの程度のものが買えるのか、相場が判然
としないのだ。
 リキエルは手のひらに金貨を並べて、しばらくじっと見つめていたが、不意にそれを握りこむと、
立ち上がって歩き出した。まずは軽く、どこかで使ってみるかという気になっていた。
 それとするなら、どこか手軽にお茶でも飲めるところがいいとリキエルは思った。元の世界とこの
ハルケギニアと、物価はそう変わらないだろうから、そのくらいがいい目安になるはずである。こと
さらにぼられるような心配もない。
 それにこちらの世界の嗜好品や、あるのであればどんなジャンクフードがあるのか、元の世界のも
のとどれだけ違うのか、比べてみるのも悪くない。買い物のような散歩のような、そんな状況を存外
に楽しめている自分に、リキエルは気がついている。
 広場を北から出て、ブルドンネの大通りとは逆の、一本入った道を歩く。さっきまで感じていたよ
うな熱のある活気こそないものの、こちらはこちらで味のある賑わいを見せている。若い恋人連れや、
散歩中の隠居然とした紳士の姿があり、囁き交わしては笑いあうトリスタニア娘の集団もあり、リキ
エルと同じように、目的もなしに歩いているらしい者もちらほら見えた。
 穏やかな空気にあてられたように、あるいはその空気を楽しむように、必要以上に遅々として歩い
ていると、不意に耳を打つ、にぎやかな笑い声に行き会った。
 何かと思ってそちらに首を曲げてみると、少し離れたところに、リキエルの世界で言うオープンカ
フェに近いなりの店が見える。趣味のよさそうな店で、その証拠に、いい具合に客も入っている様子
だった。どうやらいまの笑い声は、ちょうどテラスでお茶でも飲んでいたらしい、妙齢のご婦人方か
ら上がったものである。
「…………」
 リキエルは、呆然とそちらに目を向けている。店の外装を眺めているのでも、また当然、ご婦人方
を眺めているのでもなかった。
 店のそばの塀にへばりついて、不審な動きをしている者がいた。どうも店の中の様子をうかがって
いるらしい。店からはそれと知れないだろうが、リキエルの位置からではそれが丸わかりだった。と
いうよりも、はたから見るとその格好は異様に目立つ。
 そしてその不審者は、どうもリキエルの知る人間なのだった。眉をひそめつつ首を捻りつつ、リキ
エルはそちらに近づいていった。
 不審者の背後から、おずおずと声をかけた。
「あのォ〜、何やってんスか?」
「ふむ? ……むッ、何奴じゃぁっ!」
 向き直ってきて、いきなり大喝した顔はオスマン氏である。よほど熱心になっていたのか、声をか
けるまで、リキエルがすぐそばまで来ていたことにも気づかなかったらしい。
「何奴と言われりゃあ、オレっスけど。老年性健忘症ですか? つまりはボケだがなぁ」

803使空高:2010/06/25(金) 06:50:59 ID:6kZ6pi7U
「いやいや、ちゃんと覚えとるよ、リキュール君。いまのはちと驚いただけでな、とっさに口をつい
てしまったのじゃ。それにしても、よくぞ私に気取られずここまで近づいた。私から教えられること
はもう何もないようじゃの」
「いいや、まだあるッスよ。何をしていりゃあそんな年のとり方が出来るのか、とかよ〜」
 オスマン氏は、のどの奥でくくっと笑った。
「冗談はさておいてじゃ。どうしたねリキエル君、こんなところで」
「オレは、ルイズに連れられて買い物してんスけどね。いや、それよりもだ。その質問はオレのほう
だぜ。こんなところで何してたんです? ……まさかだぜ。覗きとかじゃあないでしょうね」
 目を細めて、リキエルは一歩後ずさった。オスマン氏が年齢の甲斐もなく、助平な性分を持ち合わ
せていることを思い出していた。もしそういった部分をいま発揮して、店の中を覗いていたりしたの
なら、ちょっと頂けない話である。
 リキエルの目に猜疑が動くのを見て取ると、オスマン氏はあわてて、弁解するように言った。
「やや、待ちなさい。たしかに、この店で働いておる娘は皆魅力的でいい尻をしとるが――じゃから
そういう目で見るのは待ちなさいと――今日私はな、それが目当てでここに来たわけではないのじゃ」
「それならどういうわけで?」
 オスマン氏はうむと頷き、次いで長い髭に手をやり、考えるふうになった。そして、こんなことを
言った。
「リキエル君、この老いぼれとで悪いがの、ちょいとお茶をせんかね」
「なんか、本当だぜ、すげー嫌な誘われ方なんスけど。と、それはそれとしてだ、あの店で?」
 オスマン氏はまた、うむと頷いた。


 外から見て取ったままに、入ってみると雰囲気のいい店だった。落ち着いた、どこか野暮ったい感
じもする内装と、やわらかい色の灯りで、客の心に余裕を持たせるつくりになっている。これならひ
とりだけでも気安く入れそうだと、リキエルは思った。
 つくりばかりでもない。ふたりが店の奥まった席に座ると、すぐに水を持った娘が出てきたが、こ
れがオスマン氏を貴族と見ても、にこやかで温かな対応をするのだった。ついでに言えば、下がった
眉に優しさが感じられ、そこに愛嬌の見える娘だった。オスマン氏の言葉通り、ほかに数人いるお茶
汲み娘たちも、皆それぞれにいい味を出している。
 娘は二人分の紅茶の注文を聞くと、春の朝に出るもやを思わせるゆったりとした足取りで、厨房の
ほうへと戻っていった。
「な、別嬪さんばかりじゃろ?」
「あっあ〜、そうッスねぇ。たしかに粒揃いだと思うぜ〜〜。……けど学院長さん、そういうことじ
ゃあないんですよね? わざわざこんな、仕切まである店の奥の奥なんかに陣取ってよォ」
 鼻の下をのばしていたオスマン氏だが、リキエルにそうたずねられると、いくらか厳しい顔つきに
なる。してから、こう切り出した。
「おお、その話じゃ。さて、まずつかぬことを聞くと思うかもしれんが、君はあの『土くれ』のフー
ケが、その後どうなったか知っておるかね?」
 リキエルは黙り込んだ。フーケ討伐の、その後の顛末を思い起こしている。
 フーケが忽然とその姿を消したのは、『フリッグの舞踏会』のあった、つまりは捕らえたその日の夜
のことである。リキエルら討伐隊に捕らえられたフーケは、学院の詰め所に押し込められ、そして後
は夜明けを待って王宮の魔法衛士隊に引き渡されることになっていたのだが、いざ夜が明けてみると、
フーケは既に脱走していたのである。
 初めにそのことに気がついたのは、教員のミスタ・ギトーだった。たまたま早朝からあたりを歩い
ていた彼は、つめ所に差し掛かったとき、その牢にあたる部分の外壁に、ぽかっと人の口のように開
く穴を見つけたのである。人間一人がやっとくぐれるくらいの穴だったが、細身のフーケにはそれで
十分といえた。

804使空高:2010/06/25(金) 06:51:47 ID:6kZ6pi7U
 学院は騒然となった。一度はまた討伐隊を組もうという話も出かかったが、目撃者もないままフー
ケを探し出すことは、わら束に放り込んだ砂粒を見つけるのにも等しかった。そこから今日まで二週
間が経っているが、フーケの行方はようとして知れないままである。
 リキエルがそういった事情を知ったのは、フーケ捕縛の二日後のことだった。
「いやあ、大変じゃった。事後の収拾もせにゃならんし、責の所在もはっきりさせねばならんしの。
引渡しの衛士への説明もある。王宮からはまたあらためて叱責の書面がくる。一度などはな、『破壊の
杖』強奪からの一連、すべて学院の狂言だったのではとまで言われてしもうた。そこは調べもあって、
疑いはすぐに晴れたがの」
 言って深く息をつくオスマン氏を眺めながら、そういえば、あのときは何かとざわついていたなと、
リキエルはまた思い返した。あずかり知らぬところで、そう暢気でもないことがあったようである。
「一度は捕縛に成功したということで、これといって罰があったわけでもないがの。すこしばかり信
用は落ちたやもしれん。爵位や勲章の申請も、言い出せたものではなかった」
「ふうん、流れちまったんですか、その話。ちょっと惜しいことぜ。しかし、そのフーケの話がなん
なんです? オレの理解力のせいか知らないが、話が見えてこないんスけど」
 リキエルが言ったとき、ちょうどさっきの娘が、頼んだ紅茶を盆に載せてきた。ふたりはいったん
話を切って、娘が席を離れるのを待った。
「さて、たしかに愚痴ばかり聞かせていては何じゃな。論より証拠。見たほうが早い。リキエル君、
いまの娘さんが戻っていく先を追ってみなさい。そう、体は出来るだけ隠しての」
「追う? 隠れてって?」
「いまの時間帯なら、厨房に入っておるはずじゃて」
 言われるままリキエルは、衝立からなるだけ体を出さぬように気をつけて、茶汲み娘の後姿を目で
追った。娘はおもてと厨房とをつなぐ間口に立つと、奥から顔を出した人間に盆を手渡した。相手の
人間に何か言われ、それでくすくすと笑ったりしている。そんな様子を眺めていると、だんだんに英
国人的な羞恥心が沸いてきて、自分がずいぶんと浅ましいことをしているような、変な心地の悪さに
胸がムカムカした。
 だがそんなリキエルの葛藤は、すぐ驚きに取って代わった。茶汲み娘と話している人間こそが、あ
の『土くれ』のフーケだったのである。
 初めはそれとわからなかったが、凝然と見ているうちに気がついた。裸眼で髪の色や型も変えてい
るが、何度か間近で見たその顔と、たがうところはない。今日はよくよく意外な面と行き会うなと、
リキエルはその積りもなしに呻いた。
「あれは、ミス・ロングビル……ッ。いや、もといフーケじゃあねーのか」
「その通り。どうやら彼女は、ここで働いておるようなのじゃ」
 リキエルは体を戻して、オスマン氏に向き直った。
「わけがわからねえぜ。働いているだって?」
「先週のことじゃ。私がこのあたりをぶらついておるとな、ふと知ったような顔が、大きな買い物籠
を持ってこの店に入ったのじゃ。言わずもがな、それがフーケじゃな。気になった私は、この一週間
独自の調査を行っていたのじゃ」
 オスマン氏は調査と言ったが、要は暇に飽かせていたという話であった。それもいまの口ぶりから
すると、ほとんど通い詰めでこの店に来ている様子である。ある意味では根気の要る話だった。
 学院長って仕事は、五月病に罹患した大学生みたいなザマで務まるらしい、という思案は脇に置い
て、リキエルはふうんと頷いておいた。しかしそうやって頷きつつも、首は傾いでしまう。
「たしかここは王宮の膝元なんスよね。変装はしてるみたいだが、お尋ね者だってのによおォ、よく
見つからないもんだ」
「灯台の下はなんとやら、かの」

805使空高:2010/06/25(金) 06:52:20 ID:6kZ6pi7U
「さっさと国外逃亡でもすりゃあいいのにな」
「ふむ。定石ではあるがの、それはちと難しいじゃろうて」
 ちょっと言葉を切り、オスマン氏は紅茶を啜って舌を湿らせ、また続けた。
「隣国で大きな内戦が起きるやもとな、噂が広まっておる。王宮からの触れもあって、国境を通る道
はどこも警戒が強くなっておるじゃろう」
 なるほどとリキエルは思った。それでなくとも脱走して間もない今、当然フーケの国外逃走は睨ま
れているだろう。焦って動いては、かえって首が絞まってしまうというわけだった。
「内戦ね。けど、噂なんスよね? 神経質にすぎやしませんか、検問なんてのはよぉ」
「王宮の者たちは皆、心配性らしいのでな」
 揶揄する言い方だった。オスマン氏は、あまり宮廷を好いていないようである。
 オスマン氏はまた紅茶を口に含んだ。今度はリキエルもそれにならう。失敗したことにちょっとぬ
るくなってしまっていたが、それでも微かににおう香りは、今までにかいだことのないものだった。
「それに噂とは言ったがの、その隣国の情勢が近頃ちぃっとよろしくないのは事実じゃ。……いや、
はっきりと言ってしまおうかの。戦火は上がり、もう久しくなっておる。大きな内戦というのは、そ
の決着に上がる、派手な花火のことじゃ」
 もう一度カップに伸ばしかけていた手をとめて、リキエルは眉をひそめた。オスマン氏の口ぶりに、
ひどく断定めいたものを感じたのである。
 国境を挟んだすぐ隣の国で、戦争が起きる。内戦というのだから、トリステインとその国がどうの
こうのという話でないのはわかるが、それでも剣呑なことではある。こういったことでは、こちらの
世界と元いた世界とでそう大きな違いもないだろう。するとオスマン氏の言う決着とは、何らかの勢
力が完全に潰れるという意味に他ならない。
 そのときの火の粉は多かれ少なかれ、ここトリステインにも飛んでくるはずだった。それもオスマ
ン氏の言うことを信じるなら、そう遠くないうちにだ。それは、あまり愉快な想像とは言えなかった。
 顔をしかめるリキエルを見たオスマン氏は、唸るように小さく息を吐いてから、「いらぬ話をしてし
まったの」と言った。
「話が逸れてしもうたな。そう、フーケのことじゃ。リキエル君」
 リキエルは呼ばれるままに目を向けた。オスマン氏の、静かな瞳に行き会った。
「君にちょいとした頼みごとがある」
「なんです?」
「ここにフーケがおることは、内密のこととしてもらいたいのじゃ」
 はあ、とリキエルは曖昧に頷いた。
「そりゃあ構いませんが、またどうして?」
 どうしてというのは、秘密にしてくれという話に対してだけでもない。
 そもそもの事として、オスマン氏がここでこうしてお茶を喫して、何もしていないのが妙ではある
のだ。本当ならば、見張りなぞと暇なことをする前に、どこそこに盗賊がいると、王宮なり何なりに
届けるのが筋というものだろう。
「捕まえないんスか? もう一度よぉ〜」
「一度でも捕らえれば、学院の名誉は保たれる。それでまずは十分じゃ。あまり欲をかかぬほうが、
健康に暮らせるでな」
「届けるくらいは、むしろしなくちゃあならないんじゃ?」
「癪じゃな。手柄を掠められるようなものじゃ。正味なところ、面倒でもある。……逆にたずねるが
の、君は『土くれ』が捕らえれるのを良しと思うかね?」
 リキエルは腕を組み、やや考え考えになりつつ答えた。
「良し悪しは知らないが、しかし盗賊なんだからな、捕まって当然の女だとは思う。だがよぉぉぉ、
オレは何度か、いやさ何度も世話になってるんだぜ、学院ではな。本性が別だったにしてもだ、思う
ところはある。ちょっとくらいはな」

806使空高:2010/06/25(金) 06:53:20 ID:6kZ6pi7U
「なるほどの。実は私もなんじゃ」
 おどけるような、しかし冗談でもないふうでオスマン氏は言った。
 リキエルは鼻をうごめかせた。意外なことを聞いたと思った。ロングビルの正体があらわれたとき、
オスマン氏はそのことで特に感慨を抱いた様子でもなしに、いつも通りの飄々としたジジイだったは
ずである。いま言ったような態度は、たしか見られなかった。
 訝しむのを隠さないリキエルに、オスマン氏は照れるような笑いを見せた。
「年をとるとの、割合にいろいろなものが気にならなくなる。近しいことばかりで、満足してしまう
のじゃな。いっぱいいっぱいなのかも知れん。しかし不思議なものでな、そうなると身近なものには
思い入れが強まるのじゃ」
「つまり、フーケに情が移ったと、秘書やらせてるうちに」
「そこまでは言わんがの。君の言うように、彼女は後ろ指を差される者じゃ。捕らえられ、裁かれる
のが自然としたもので、私は彼女がそうなろうと一向に構わんと思うとる」
 じゃが、と言いかけてオスマン氏は口をつぐみ、先ほどフーケが顔を覗かせた間口のほうへと、少
しだけ首を回した。それから、もう冷めかけになっている紅茶を飲み干し、続けた。
「しかしまあ、だからといって躍起になって捕らえようと思うほど、私は彼女が嫌いではないな。秘
書としてよく働いておったし、何より美人じゃ。盗人にも三分の理という言葉もある。その理の良し
悪しをこうして見ておるのも悪くはない。どうせは暇つぶしの種じゃ」
 けっこう勝手なことばかり言ってやしないかと、リキエルは目の前の老体の顔をじろじろと見たが、
そのうちに、わからなくもないという気になった。
 話を聞く限り、オスマン氏は学院の名誉と個人の遺品を守るためにこそフーケを捕えたが、そこに
別段の悪感はないということだった。暇つぶしだと言い切るあたり、どうでもいいというのは本当の
ところなのだろう。
 そしてリキエル自身、義侠心からフーケを倒そうと思ったのでもなし、ルイズのために肌を脱いだ
までのことで、あとのことはどうでもよいことだった。フーケが脱走したと知ったときも、何かと縁
があったなと漠然と思うとともに、恩とも負い目ともつかないもののために、ちょっとばかり気分が
ささくれ立ったくらいである。
 してみると、オスマン氏と自分とはそう変わらないのか、とリキエルは思った。
 ――何か嫌だな、そいつは。
 ともあれ、フーケはこのままひとまず放置というのはわかった。ただ、気がかりなことはまだある。
「けどよォ〜、オレが言わなかったとしてもだ。学院の誰かが彼女を見て、それで気づかれてしまえ
ば一巻の終わりってやつなんじゃあないですか。オレだってひとりでここに入っていたら、誰かにゲ
ロしてたかもわからねぇ」
「生徒たちには、あまり大っぴらにミス・ロングビルが『土くれ』であったとは知らせておらん。そ
れと知れれば、私の立場のこともそうじゃが、いろいろと障りがあるでな。もっとも、すでにそのこ
とは噂として校内中に広まっておる。君の言う通りかも知れん。ましてや教師の誰かに見つかれば、
どうにもならんじゃろうて」
「それじゃあ、どうするんです?」
「どうもせんよ。そのときはそのとき、としたものじゃ。フーケも一応の変装はしておるしの。それ
で知らぬ存ぜぬ人違いと通すも、正体あらわれてお縄頂戴するも、彼女の運しだいじゃて。魔法衛士
は彼女の顔を知らんから、ま、それもひとつの幸運じゃな」
 いささか酷薄にオスマン氏は言った。あくまでかばい立てする義理はないということだろう。そし
て良し悪しを見ると言ったように、悪事を働く気配を見て取れば、そのときもすぐに届けを出す気で
いるのだ。リキエルも、それでいいと思った。
 リキエルが頷き返すのに満足したように、オスマン氏はまた笑った。この話は、どうやらこれまで
のようであった。

807使空高:2010/06/25(金) 06:54:20 ID:6kZ6pi7U
 本題が片付けられたあとも、オスマン氏とリキエルはしばらく話を続けた。使い魔としての生活や
学院の運営について愚痴をこぼしあい、ルイズの生活態度や生徒たちの馬鹿親のことで頭を抱え合い、
リキエルの世界の話で盛り上がった。リキエルの持つ使い魔の能力が、本当に伝説並みのものである
という話で、あらためてリキエルが驚いたりもした。
 とりとめもない雑談に、何度目かの区切りが生まれたときだった。オスマン氏が、おもむろに言っ
た。
「ところで、ミス・ヴァリエールはいいのかね? デートしておったのじゃろ」
「HA HA HA,ナイスジョーク。……いや、待ち合わせはしてるんだからなァ、一応はデートになる
のか。そういや、いまは何時だ? ええと、一時の鐘は鳴ってなかったッスよね?」
「ふむ、いま少しといったところじゃ。しかし動くことを考えればちょうど頃合といったところかの。
いやはや、この老いぼれのためにだいぶ時間をとらせてしまったの」
「なんかよォ〜、前にも聞いたことがある気がするぜ〜、そんなセリフを。実はそんなに申し訳なく
思っちゃいないでしょう?」
 リキエルがそう言って口の端を広げると、オスマン氏は好々爺よろしく莞爾と笑った。
「ふぉっほ。……さて、君はそろそろ行きなさい。私はもうしばらくここに残るとする。お代も持っ
ておくとしよう」
「いやあ、それこそ悪いことだぜ。ルイズから小遣いも頂いてるしな」
「紅茶の一杯や二杯、年長に奢らせるとしておくものじゃよ。接待でもあるまいし。それに君の手持
ちは新金貨じゃろう。こういったところで使うものではないよ」
 それじゃあとリキエルは言葉に甘えることにして、オスマン氏に軽く頭を下げた。オスマン氏は手
をひらひらとやって、気にするなという素振りをした。
「そいじゃ、また機会があれば話でも」
 席から立ち上がると、リキエルは小刻みに頭を下げ下げ、オスマン氏に暇を請うた。オスマン氏は、
一度だけ深く頷き返した。
 店を十歩ほど出たあたりで、リキエルは足をとめて振り返った。くるくると立ち働く娘たちの姿は
見えたが、店の奥にいるはずのオスマン氏や、ましてフーケの姿は当然見つからない。どうでもいい
だのなんだのといったところで、まるで気にならないといえば嘘だった。
 胸のうちでもう一度だけ「機会があれば」と呟いてから、リキエルはまた歩き出した。


 リキエルが広場に戻ってまず目にしたのは、ベンチに足組んで座るルイズの姿だった。学院の制服
を着ているからというのもあるが、やはりその可憐な容姿が目を引く。しかしその可憐さを裏切るよ
うに、ルイズの顔はいささか不機嫌の形に歪んでいた。
 間もなくルイズのほうもリキエルに気づいて、ベンチから立ち上がった。
 そうして合流したふたりは、そのまま示し合わせたように横並びになりながら、初めのように人い
きれの中に入り込んでいった。行き先は例の武器屋と決まっている。
「遅いじゃないの。五分は待ったわ」「鐘が鳴ってまだ間もないはずだぜ、オレの耳が腐って落ちてな
いんならな」「主人を待たせるなってことよ」「悪かったな。そこで『土くれ』のフーケを見かけたんでよぉ、様子を見てたんだ」「どうせ吐き出すなら、もっと面白い出まかせにしなさいよ」「今度から
そうさせてもらうぜぇ〜、ユーモアの先生よォォ〜」「あんまり調子に乗るとご飯抜くわよ。……あ、
そっちのが近道よ。さっき見つけたの」「よく見つけたもんだぜ、こんな細い道をよぉ。もしかして、
あれか? 迷子の副産物とかな」「…………」「ふはーッ、図星かよ〜」「……ご飯抜くわよ!」
 見目の良い貴族の令嬢と、それを笑う従者らしき平民という図は目立ち、すれ違う人間は誰も彼も
ルイズらを振り向いたが、当の本人たちはそれに気づかない。
 声高に、はた目も知らず、木の洞のような掛け合いをそこそこに楽しむうち、虚無の曜日は暮れて
いくようである。

808使空高:2010/06/25(金) 06:57:37 ID:6kZ6pi7U
投下終了です。

何より先に、何より後に、ごめんなさい。いろいろと。

809反省する使い魔!:2010/06/26(土) 02:32:11 ID:ugvoiwws
「え…、でも私たちにははっきりと見えるわよ!?」
「ふむ、恐らく我々の世界では精神力を魔法で
扱っておるからじゃろう、そう考えれば説明がつく」
「あ……。な、なるほど…さすが学院長…」
「今日の授業で聞いたばっかだろ」
「う、うっさいわね!!
ちょ、ちょっとうっかりしていただけよ!!」
「さいですか………、おっと、話がずれちまったな。
スタンドってのは個人によってそのデザインが違うし
ちょっと特殊な能力があるんだ」
「ほほう、特殊な能力とな」

オスマンが興味深そうに呟くと、
『レッド・ホット・チリ・ペッパー』に目を移した。
もちろんルイズもである、するとルイズは
『レッド・ホット・チリ・ペッパー』を眺めていると
あることに気付いた。

「特殊な能力…、
この『レッド・ホット・チリ・ペッパー』……だっけ?
決闘で見たとき、今みたいに体が光ってると思ってたけど、
よく見ると何かを身に纏ってるように見える……
これ……、もしかして雷ッ!?」
「半分は正解だな。まあ、雷なのは雷なんだが………。
正確に言えば、こいつは電気と同化してるのさ」
「………ねえ音石、電気って何?」
「あー…、そういやここの文化ほとんど魔法頼りなんだよなぁ」

ルイズたちが電気を知らないのも無理はなかった。

例えば、ここに燭台があるとしよう。
地球の文化ならわざわざ燭台に歩み寄り、
蝋燭などに火を灯さなければならない。

しかし、この世界では魔法を唱えるなり、
魔法で作られた特殊な道具を使えば一瞬で
火を灯すことができてしまう。
つまり魔法の活用性の良さが仇になっているのだ。

そのせいもあってか、ここハルケギニアは
今の地球のようなあらゆる道具の技術の発達によって
生み出された科学技術がないのはもちろん、
人工で電力を生み出すことなど魔法以外ありえないのだ。

「電気ってのは…そうだな、人工で生み出した雷。
簡単に言えばこんな感じだな
もちろん、魔法はなしだぜ」
「魔法を使わず雷を生み出す!?
あんたの世界じゃあ、そんなこともできるの!?」
「まあ、待てよルイズ。俺の世界の話は
また今度じっくりしてやる。今はスタンドの
話に集中しよーや」
「え、…あ……、うん……」

ルイズは戸惑ったものの確かに音石の言うとおり、
いちいち音石の世界に質問をしていたら日が暮れてしまう。
ルイズはそう判断した。

810反省する使い魔!:2010/06/26(土) 02:33:47 ID:ugvoiwws

「ふむ、つまり君のスタンド、
『レッド・ホット・チリ・ペッパー』は
その電気という雷と同化する能力というわけじゃな。
それについてはわかったんじゃが…、
しかし、一体スタンドとはどうやって身につくのじゃ?」
「オレが知る限りじゃあ、理由は2つある。
生まれたときから身につけているやつと……、
ある特殊な『弓と矢』で貫かれたやつ……、
オレは後者に値するがな」
「特殊な『弓と矢』?
それに貫かれたら誰でもスタンド使いになれるの?」
「いや、あくまで確率の問題だ
貫かれてそのままおっ死ぬ奴もいる」

音石はこの時、杜王町で『弓と矢』を使い
多くの犠牲者を出した虹村形兆と、
その形兆を殺し、『弓と矢』を使っていた
自分の過去のことを思い出していたが、
ルイズとオスマンに言ったところで意味がないと
判断し、あえて話さないことにした。


「まあ、大体こんな感じだな。
これで十分か、じいさん?」
「フォッフォッフォ、むしろ十分すぎるくらいじゃわい。
ふたりとも時間をとらせてすまんかったのう、
もう部屋に戻ってもかまわんよ」
「わかりました…オトイシ、いくわよ」
「はいよ…」

ルイズの後に続くように音石も立ち上がり、
『レッド・ホット・チリ・ペッパー』をおさめ、
扉に向かい学院長室を後にしようとしたが…

「オトイシ君、最後にひとつ聞きたいんじゃが…」
「ん?」

半開きの扉を掴み止めながら、音石は首を捻らせ
後ろを向いた。その時見せたオスマンの顔は
今まで以上に真剣さを物語っていた。

811反省する使い魔!:2010/06/26(土) 02:34:18 ID:ugvoiwws
「君は……、なぜ異世界の住人でありながら
ミス・ヴァリエールの使い魔を務めてくれるのじゃ?
彼女になにか恩でもあるわけでもないじゃろうに……」

このオスマンの質問に、一瞬音石のそばにいる
ルイズも不満になった。たしかにいくら
召喚されたからといって、異世界の人間である
音石が自分の使い魔をする義理なんてどこにもないからだ。
しかし、音石からは意外にも素っ気無い言葉が返ってきた。

「別に理由なんて特に考えてねェよ、
まっ、強いて言うなら………、
おもしろそうだから………だな」

音石の答えにオスマンもルイズもきょとんとした
顔をしながら、目を見開いたが
すぐにオスマンが顔を戻し、笑顔で笑い始めた。

「ふぉっふぉっふぉっふぉ!
なんとも気さくな男じゃわい、
呼び止めてすまなんだな、もう行ってよいぞ」

そのままルイズが失礼しましたと声を上げ、
二人が階段を下りる音が遠ざかっていった。


二人が学院長室を後にすると
オスマンは自分の机の引き出しをひとつ引いた。

「伝説の使い魔『ガンダールヴ』か……、
まさか異世界の住人だったとはの……。
ん?まてよ…、そういえば……」

オスマンが何かを思い出したのか、
立ち上がり、学院長室を後にした。
しかし、引き出しを閉め忘れたままである。
そこには、先程コルベールが持ってきた本、
『始祖ブリミルと使い魔たち』とその上に
音石のルーンを書き記した紙が置かれていた。

812反省の人:2010/06/26(土) 02:55:19 ID:ugvoiwws
というわけで投稿完了!

うわぁ、三週間くらいかかったなぁ…
いやねー、スタンド知らない人にスタンド説明する流れが
すっごい好きで、できる限りがんばってみたけどやっぱりむずかしいね、うん…
でもまあ、今日投稿できてよかったと思う。
だって今日があの有名なマイケル・ジャクソンが死んでちょうど一年だって
テレビで知って、「やっべ、なんか今日中に書き上げないと絶対後悔する」と
思って、寝る間を惜しんで頑張りました。
ついでに金曜ロードショーでジャッキー・チェン見ながら頑張った。
アクションシーンでついつい、書くのを手放して画面に向かってジャッキーと同じように
手とか足とかで攻撃してたwww。
いやホント自分、映画が大好きで土曜日の『エルム街の悪夢』も
来週からやるジブリ作品四週連発も楽しみで仕方がない。

やっぱこういうふうにキャラのセリフとか書いてるとついつい頭の中で
そのキャラの声が脳内再生されちゃうんですよねwww。
それで時々思うんですが、音石に声が付いたらどんなのが似合うかなぁって
ついつい思っちゃうんですよね、ジョジョに声優は邪道!って思ってる人ごめんなさい!

私なりに最近音石に似合うと思うのは
矢尾一樹さん(例:ワンピースコーラ人造人間、フランキー
         テイルズオブジアビスの†薔薇†のディスト
         ガンダムZZのジュドー・アーシタ
         鋼の錬金術師、ヨキ           )などがいいと思う

最後に関係ないけど、黄金伝説見てたとき気付いたんですけど
芸人の「宮川 大輔」さんって「宮本 輝之輔(エニグマの少年)」と
最初と最後の字が一緒なんだって気付いた!

813反省する使い魔!:2010/08/03(火) 00:44:38 ID:cN2.i/sU
反省する使い魔!  第九話「噂の奏で△微熱の乙女」


学院長室が配置されてあるのは
トリスティン魔法学院にいくつもそびえ立つ塔の一角だ。
当然、移動には内部の螺旋階段を使用する。
そして今その螺旋階段では、ルイズの後に続くように
音石が階段を下りていた。
すると音石に背を向け階段を下りながら
ルイズが話しかけてきた。

「ねえオトイシ、あんたなんで
スタンドのことを黙ってたの?」
「そこんとこは悪かったと思ってるぜルイズ、
だが勘違いはしないでくれよ。別に隠してたわけじゃねェ、
ただ単純に『話す機会』がなかった…。それだけだぜ。
…クックック、そう考えるとあのギーシュって小僧との決闘が
ある意味、お前にオレのことを知ってもらう
『いい機会』だったって事かもしれねーな」

音石が得意げに鼻で笑った。
それにつられてルイズも「もう、ばかねぇ」と
薄ら笑いを浮かべた。

「まっ、こうして話してくれたわけだし
今回は特別に許してあげるわ。その代わり!」

突然ルイズが振り返りビシッと音石を指差した。

「あんたさっき学院長室で言ってたわよね?
『オレの世界についてはまた今度じっくり話してやる』って
その約束、しっかり守ってもらうわよ!」

814反省する使い魔!:2010/08/03(火) 00:45:20 ID:cN2.i/sU
このルイズの命令には音石も意外そうな顔をした。

「なんだよルイズ、地球に興味があんのかよ?」
「そりゃね、私これでもハルケギニアについては
結構いろいろと知っているほうなのよ?
だからとても興味があるわ、魔法が存在しない世界だなんて、
とても想像できないもの」
「へぇ〜…、人は見かけによらねーってのはこの事だな」
「なんか言った?」
「幻聴だろ」

そんなやり取りをしているうちに
いつの間にか二人は階段を降りきっていた。
そして二人は自室……つまりルイズの部屋に戻るべく、
学院なだけあって無駄に広い中庭の道を通っていった。
そんなときだ、向こう側から数人の男女生徒が歩いてきた。
ルイズは彼らを見た瞬間、若干動きが躊躇った。
そんなルイズの反応に気付いた音石も向かってくる
生徒たちの顔を見る。……そして気付いた。
向かってくる生徒の何人かが今日の授業で見た顔……、
つまりルイズのクラスメイトだったのだ。

彼らは全員が楽しそうに会話を繰り広げ、
廊下の真ん中を堂々と歩いていた。
しかし、一人の生徒がルイズたちに気付いたのか、
顔をはっ!とさせ、一緒にいる仲間たちに
なにかをささやき始めた。

ルイズたちからは距離があったため
なにをささやいているのか聞こえなかったが、
次の瞬間、彼らが一斉にふたつに分かれ
ルイズたちが余裕で通れる道を作ったため
なにをささやいていたのか余裕で予想が付いた。

ルイズと音石が彼らを通り過ぎると
彼らは逃げるようにその場を走り去っていった。
ルイズは何か複雑な気分だったが
音石は心の中で嘲笑っていた。

815反省する使い魔!:2010/08/03(火) 00:45:59 ID:cN2.i/sU
(フッフッフッフッ、あの決闘自体がルイズに
スタンドを教える『いい機会』だとすれば…、
あの決闘での勝利は貴族の肩書きなんかで図に乗っている
ガキ共に喝を入れる『ちょうどいい機会』ってわけか……)


その後、音石はルイズの部屋で
自分の故郷、地球についての説明をした。
地球の歴史、科学技術の発達、自分は地球の
日本という国の人間で国によって言語が違うなど。
ありとあらゆる説明をしていくにつれ
ルイズは未知な知識が次から次へと
頭の中に入っていく新鮮な感覚に興奮と驚きを
隠せないでいた。
音石自身も自分の世界では誰でも知っていて当然の常識を
こうもいちいち驚きまくるルイズの反応は
見ていておもしろかったため特に不満も
めんどくささも感じないまま説明を続けた。

当然、説明すればするほどルイズからの質問が増えていく。
車とはどういうものなのか?
鉄の塊がどうやって空を飛ぶのか?
音石はサムライなのか?
など、説明するにつれ質問にも答えなければならないため
当然、喉がスッカラカンに渇ききってしまい
ルイズの部屋に置いてあった水を必要以上に摂取した。
喉を渇かすこと自体は音石にとってよくあることだが、
その渇きを癒すために摂取した水の量が半端じゃなかったため、
音石はこの日、ひどくトイレに悩まされる羽目になった。

816反省する使い魔!:2010/08/03(火) 00:46:36 ID:cN2.i/sU
そんなこんなで会話を繰り広げていると
いつの間にか、外が暗くなっていた。
どうやらお互い会話に夢中になっていたのか
時間が過ぎているのに気付かなかったらしい、
音石にとってはこの世界で二度目に迎える夜だったため
どこか奇妙な感覚を味わっていた。
先に外が暗くなっていることに気付いたのは音石だが
ベットに座っていたルイズも音石が気付いたすぐ後に
外が暗くなっているのに気付き、何かを思い出したのか
勢いよく立ち上がった。

「あ、いっけない!オトイシ、行くわよ!」
「行く?…ああ、夕食か?」
「そうよ、早くしないと神聖なる
食事前の祈りに遅れちゃうわ!」
「祈り?そんなんがあんのか?」
「はぁ?あんた何言って……
あ、そっか…。あんた朝食のとき
すぐに出てったから知らないのも当然ね……
いい?私たちの祈りってのは始祖………」
「なあルイズ、説明してくれんのは嬉しいんだが
急いでんならせめて行きながらにしねーか?」
「………それもそうね、ついてきなさい」

部屋に出た二人は食堂に向かうために
廊下の奥にある階段を目指した。
音石は食事前の祈りについての説明をしている
ルイズの後に続いて歩いていたが、
音石は食堂に行ったらまたシエスタの世話になるか
と考え事をしていた為、
最終的には祈りというのは
かつて存在した始祖とかいうお偉いさんに
感謝の言葉を送るというアバウトな感じにしか
覚えていなかった。

817反省する使い魔!:2010/08/03(火) 00:47:14 ID:cN2.i/sU
ルイズの後に階段を下りようとしたその時、
音石は咄嗟に後ろを向いた。視線を感じたからだ。
刑務所に入っていると、その気がなくても
嫌でも看守の目を気にするときがある。
そのため音石は妙に視線や気配に人一倍に敏感になっているのだ。
かつて牢屋に入っていたアンジェロが
虹村形兆の気配にいち早く感付いたのがいい例である。
しかし音石の視線の先には女子寮の生徒たちの
部屋の扉が連なっているだけで、
特にドアの隙間や廊下の一番奥にある窓ガラスには
こちらを伺うような人影もなかった。

(………気のせいか?)
「ちょっとオトイシ!なにしてんのよ、早く来なさい!!」
「あ、ああ………今行く……」

音石は疑問を感じながらも
これ以上、ルイズを待たせたら大目玉を
くらいそうだったため、慌てて階段を下りていった。
足音が遠のいていくと、ルイズのひとつ奥の部屋……
キュルケの部屋の扉がキイィィィィ…っと音を鳴らした。
わずかに開いた扉の隙間からはキュルケの使い魔、
フレイムが顔を覗かせていた。



ルイズと音石が食堂に辿り着くと
相変わらず大勢の生徒がにぎやかに談笑の声を上げていた。
しかし、生徒が少しずつ音石の存在に気付くと
にぎやかな談笑も少しずつざわめきに変わっていった。

818反省する使い魔!:2010/08/03(火) 00:47:54 ID:cN2.i/sU
「お、おい、あいつだぜ」
「ば、馬鹿!目を合わせるな!ギーシュの二の舞になるぞ!!」
「なんであんな野蛮人を先生たちは放っとくのよ……」
「ちょ、ちょっと…声が大きいって!聞こえたら殺されるわよ!」
「平民のくせに…………」
「あんな強力な亜人を操れる奴が平民なわけないでしょうッ!?
きっとエルフが魔法を使って化けてるのよ!」
「なんであんなのがルイズの使い魔なんだよ…………」

そんな陰口が食堂に充満していく有様だが、
席に向かうルイズの後に音石が続いて歩くと
机と机の間に立っていたり、椅子に座っていたり
している生徒たちは音石が近づいてくると
立っている生徒は怯えながら机に張り付くように道を譲り
座っている生徒は椅子に身を伏せていた。
なかには震えている生徒までいる始末だ。
学院長室から部屋に向かう途中の事といい、
この食堂での今といい、どうやら音石は
かなり生徒たちから恐れられているらしい。

どうやら『レッド・ホット・チリ・ペッパー』だけでなく
ギーシュを半殺しにしたことがよほど効果的だったらしい、
しかし元よりそのつもりでギーシュを必要以上に痛めつけたのだ。
音石としてはどこか奇妙な達成感を感じていた。

対してルイズは自分の使い魔が噂されるほど
優れている事に胸を張ればいいのか、
まるで自分が音石に相応しくないような
物言いをしている生徒に怒ればいいのか
どこか複雑でどこか悲しい気分のまま席に座ったが、
ポンッと肩を叩かれ、振り返り見上げてみると
音石が自分の心情を察してくれたのか

「言いたい奴には言わせておきゃあいい…
まっ、気に入らねー奴がいたら教えな
変わりにブッ飛ばしてやっからよぉ〜〜…」

と悪ガキのように笑いながら言った。
そんな音石の笑顔を見ていると
ルイズも陰口でブツブツ言っているだけしかできないような
奴らにいちいち反応している自分が馬鹿らしく感じた。

819反省する使い魔!:2010/08/03(火) 00:48:30 ID:cN2.i/sU
(そうよ!今は無理でもそのうち何も言えないぐらいに
成長してやるんだから!実際わたしはこいつを召喚したじゃない!
へこたれても仕方がないわッ!!)

そしてルイズは一言笑顔で「ありがとう」と音石に返した。
その目にはその目には音石とはまた違う
輝きと強い勇気と希望に満ち溢れていた。

すると給仕たちが厨房から
美味そうな食事を机に運び始めた。
そこでルイズはふとあることに気付いた。
音石の食事のことである。
ルイズは今朝、ここの給仕にみずぼらしい料理を
自分の使い魔に出すようにと命令しそのままである。
しかし音石は異世界の住人でありながらも
なにかといろいろ自分のことを気に掛けてくれている。
性格は多少野蛮で大雑把なところはあるが
ソレさえ除けば基本いい奴である。
さすがに今朝のようなみずぼらしい食事を
出すのはルイズの人間としての良心が痛んだ。
だが料理はもうすぐそこまで運ばれている。
ルイズはどうしようかと焦ったが
いつの間にか音石がその場に居ないことにも気付いた。

「あ、あれ?あいつどこ行ったのよ?」

周りを見渡しもどこにも音石の姿はない。
するといつの間にか隣にモンモランシーが
座っているのにも気付き、彼女に聞いてみることにした。

820反省する使い魔!:2010/08/03(火) 00:49:03 ID:cN2.i/sU
「ねえ、モンモランシー。私の使い魔どこ行ったか知らない?」
「ん?彼ならさっき厨房に向かっていくのを見たわよ?
たぶん、厨房の給仕たちに食事をもらうつもりじゃないかしら?」
「そうなんだ……、わかったわ、ありがとう」

自分の使い魔が給仕に食事を恵まれるというのも気に引けるが
それならそれでいいかと納得し、
ルイズは自分の前に食事が置かれるのを確認した。
相変わらず、おいしそうな香ばしい匂いが食欲をそそった。

「ねえ、ルイズ」

すると急に先ほどのモンモランシーが話しかけてきた。

「ん、なによ?」
「あの使い魔、なんて名前だったっけ?」
「え?オトイシ・アキラだけど………」
「そう……オトイシさんって言うんだ……」

モンモランシーのありえない呼び方に
ルイズは自分の耳を疑った。

「『さん』ッ!?え、ちょっとモンモランシー!?
あ、あんたまさかッ!?」
「えっ!?あ!?ち、ちがうわよルイズッ!!
誤解しないでッ!誰があんな平民なんかをっ!!
しかもアイツはギーシュをあんなひどい目にあわせたのよッ!?
なんで私がそんな奴のことなんか………」

そう言うとモンモランシーは腕を組みながら、
プイッと顔を逸らした。
しかし顔を逸らした先には厨房があり、
モンモランシーは厨房を眺めたまま、
完熟したトマトのように顔を赤くしながら
徐々に意識が上の空になっていった。

821反省する使い魔!:2010/08/03(火) 00:49:39 ID:cN2.i/sU
「よお、シエスタ」
「あ、オトイシさん!!」

厨房に現れた音石の名をシエスタが叫ぶと
厨房中の料理人、メイドたちが仕事の手を止め、一斉に音石を見た。
そんな視線に音石は多少気まずいモノを感じたが
よくよく見ると、彼らの視線は先ほどの生徒たちのような
不安と疑惑が篭った目ではなく、逆に尊敬と憧れを
その目に篭らせていた。
すると厨房の奥から大柄で筋肉モリモリマッチョマンの
料理長マルトーが現れた。

「おお、来たか!『我らが狂奏』!!」
「はぁ?」

突然現れたマッチョマンにわけのわからない
呼び方をされ、音石の頭の上に?マークが浮かび上がった。

「あ、オトイシさん。紹介しますね!
この人は料理長のマルトーさんです
マルトーさん、この人がさっき言った
オトイシさんです!」
「わざわざ言わなくてもわかるさシエスタ!
顔に大きな傷痕があり、見たことのない楽器をぶら下げた男!
そしてこの只者ならぬオーラ!一目でわかったぜ!
こいつがシエスタを助け、貴族を倒した『我らが狂奏』だってな!!
がっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっ!!!」

マルトーが豪快に笑いながら、
音石を半ば力ずくで椅子に座らせ、
昼間のシチューとは比べ物にならないくらいの
豪勢な食事が机に置かれた。

「おいおい、いいのかぁ?この料理、
下手したら食堂の貴族どもより豪華だぞ?」
「なぁ〜に、別に気にするこたぁねぇよ
お前さんはシエスタを助けてくれたんだ!
だからこの料理は俺たちからのささやかなお礼だ!」

そういうことなら……、と音石はフォークを手に取り、
美味そうな匂いを漂わせているチキンを取ろうとしたが
突然マルトーが料理の皿を横にずらし、
音石はむなしく机を刺してしまい、手が止まった。

822反省する使い魔!:2010/08/03(火) 00:50:38 ID:cN2.i/sU
なんのつもりだと言いた気に音石はマルトーを
見上げたが、その時のマルトーの顔は先ほどの
豪快な笑顔から真剣そのものの顔で音石を睨んでいた。

「ただ………最後に確認しておきたいんだが……
まさかお前さん、実は貴族……なんてことはないよな?」
「…………………なにィ?」
「シエスタから聞いたんだが……
お前さん、なんでも手で直接触れることなく
ゴーレムを破壊したそーじゃねーか…
そこら辺をはっきりさせておきてーんだ」

マルトーの言葉に音石は理解した。
そういうことか…、この世界じゃあ平民は魔法をつかえねぇ……、
つまりそれは魔法を扱うための精神力が扱えねーって事だ。
てことは当然こいつら平民は貴族とは違って
スタンドを見ることが出来ねーってわけか……。
音石は手に持つフォークを机に置き、
マルトーの顔を睨み返した。

「くっく、おいオッサン。勘違いしてんじゃねーよ
確かにオレには普通の人間にはない
特殊な『チカラ』を持っちゃいるがよ〜〜〜〜……、
コレだけははっきり言ってやる………。
オレをあんな口だけ野郎どもと一緒にすんじゃねーよ」

シエスタや周りの料理人たちやメイドたちが冷や汗をかいた。
マルトーは学院中の平民の間ではメイジ嫌いで有名である。
沈黙という重い空気が流れた。
―――――――――しかし………、

「………グ……、グゥアッハッハッハッハッハッハッ!!
コイツは驚いた!俺に睨まれてそんな口を利いた奴は
お前が初めてだよ!!いやはや、まったく恐れ入ったぞ!!」
「ギャッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッ!!
 オッサン!あんたも人が悪いぜェ!!
 せっかくの飯だってのにこんな邪険なムードにされちゃあ
 うまい飯もまずくなるってもんだぜ!?」
「ガッハッハッ!!違いない!!」

「ギャッハッハッハッハッハッハッハッハッハッ!!」
「ガッハッハッハッハッハッハッハッハッッハッ!!」

823反省する使い魔!:2010/08/03(火) 00:51:17 ID:cN2.i/sU

そんな二人の豪快なやり取りにシエスタたちは
安堵と喜びに満ち溢れていた。
どうやらシエスタたちは下手したら
殴り合いになるんじゃないかと心配していたようだ。

音石はマルトーと気が合ったようで
あっという間に打ち解けることが出来た。
音石が食事をしているとあらゆる質問が
料理人やメイドたちからぶつけられてきた。
主に年齢や出身、決闘についてである。
出身は適当に誤魔化したが
決闘に対しての質問は特殊な『チカラ』を
持っているとだけ教え、『スタンド』のことは
黙っていることにした。
しかし、どういうわけか。
マルトー含む、ほとんどの者は音石が持っている
ギターがマジックアイテムと勘違いしている者もいる。
特殊な『チカラ』=マジックアイテム
彼らはそう解釈したのだ。
だが音石からしても、マジックアイテムというのが
どういうものかは知らないが、そう解釈してもらえるなら
そっちのほうが都合がいいと判断し、そういう事にした。

そんな音石に付けられた称号が『我らが狂奏』である。
どうやら決闘の最中にギターを弾いていた音石の姿が
その称号を生んだらしい……、なんともえげつない呼び名である。


「また来いよ『我らが狂奏』!!
俺たちゃあいつでもお前を歓迎するぞ!!」
「ああ、また世話になるぜオッサン。
じゃあなシエスタ」
「はい!是非またいらしてくださいね!!」

食事を終えた音石は厨房を後にし、ルイズの元に向かおうとしたが
戻ってみると、ルイズが座っていた席にはルイズは居なかった。

「ルイズなら先に帰ったわよ」
「ああン?」

824反省する使い魔!:2010/08/03(火) 00:52:01 ID:cN2.i/sU

突然声をかけてきた相手はモンモランシーだった。

「頼まれたのよ、あいつが戻ってきたら
先に部屋に戻ってるって伝えてってね」
「そいつはご苦労さん…………じゃあな」
「え?あ!?ちょ、ちょっと待ちなさい!!」

正直この時、音石はこのまま無視して部屋に戻りたい気分だった。
呼び止められた理由がだいたい予想が付くからだ。
せっかく貴族がわざわざ伝えてあげたのよ!?
感謝の言葉を送るなりするのが礼儀でしょ!?
どうせこんな風なことを言われるに決まってる。
そう思った音石だが………興味があった。
昼間のギーシュの物言いから推測すると、
このモンモランシーはおそらくギーシュの恋仲かなんかだろう、
だからこそ興味があった。
そんな彼女が恋人であるギーシュを半殺しにした自分に
一体どんな口を利いてくるのか非常に興味があったのだ。
だから音石は部屋に戻ろうとした足を止め、
モンモランシーのほうへ振り向いた。
その時の彼女の顔は熱でもあるのか妙に赤かった。

「あ……あの!じゅ………授業の時………
そ、その………た、助けてくれて……あ、ありがとう」

音石は自分の耳にクソでも入ったんじゃないかと疑った。
まさか逆にお礼を言われるとは思っても見なかった。
この世界に来て音石は、貴族に対してはっきりいって
ロクな印象がない。
この世界の貴族はどいつもこいつもその肩書きを
馬鹿みたいに威張り散らすことしか知らないカス。
どちらかというと音石のなかにはこういう印象が
定着しきっていた。
だからもしも自分を見下すような物言いをしたら
適当に馬鹿にして嘲笑ってやろうと考えていたが、
逆にこう言うことを言われるとどう対処すれば
いいのか非常に困ってしまう。

「………ああ、まあ……あれだ………えっと……」

音石はぎこちない感じで、
どう言葉を返したらいいか考えていた。
元々音石は敵を作りやすい人柄のせいか
他人に感謝されること自体が極端に少ない。
ましてや女性に礼を言われたことなど
音石が記憶してる限りではほとんど経験がない。
まあ単に音石が覚えてないだけかもしれないが……。
音石は照れているのか頭をかきながら視線を逸らし、

「オレが勝手にやったことだし気にすんな」

と簡潔に言った。
モンモランシーは何かを言おうと
口を開こうとしたが、音石は逃げるように
早歩きで食堂を後にした。

825反省する使い魔!:2010/08/03(火) 00:52:39 ID:cN2.i/sU



らしくねぇ………、
音石はルイズの部屋がある女子寮の
階段を昇りながらそう思った。
さっきの食堂でのモンモランシーの感謝の言葉には
音石は正直今思えば感心している。
しかしそれでもいきなりあんなこと言われたら
どう言葉を返せばいいのか迷うのを通り越して
気恥ずかしくなってしまう。

(まったく、らくしねぇな音石明
承太郎の野郎みてぇにクールにいかねぇもんか………)

いろいろ考えているうちに
かえってむなしくなってしまい
音石は深いため息をついた。
今から外に出てギターを激しく演奏して
気分でも晴らそうかとさえ思ってしまう。
そんなことを考えているうちにいつの間にか
ルイズの部屋がある階にたどり着き
今日はさっさと寝てスッキリしようと思い
ルイズの部屋に近づいていったが
廊下の奥の暗闇からひとつの炎が宙に浮いているのが
目に入り、音石は咄嗟に足を止めた。
警戒していたが徐々に暗闇からソレが姿を現し、
その炎の正体がキュルケの使い魔、
サラマンダーのフレイムの尻尾だと気付いた。

「はぁ〜〜、なんだ脅かすなよ
てっきり人魂かと思ったじゃねぇか、
あ〜〜〜、心臓にわりィ……」

音石は服の上から自分の左胸に手を押さえ
心臓の鼓動が早くなっているのを確かめると、
突然フレイムが音石のもうひとつの手の
服の袖を咥えてきた。

826反省する使い魔!:2010/08/03(火) 00:53:27 ID:cN2.i/sU
「ん?なんだよ、人懐っこいやつだな
遊んでほしいのか?」
「きゅるきゅる」
「うおッ!?お、おい。いきなり引っ張んなよ!
この上着、結構高いんだぞ!?」

突然、力強くフレイムに引っ張られた音石であったが
下手に引き剥がそうとすると、お気に入りの上
値段も張った大切な上着が破けてしまう恐れがあったため、
引き剥がそうにも引き剥がすことができなかった。
されるがままにフレイムに引っ張られていくと
どうやら自分の主人であるキュルケの部屋に連れてこようと
しているようだ。
部屋のドアは半開きなっており、フレイムがその間に体を入り込ませ、
音石もその後を無理やり入り込まされた。
部屋の中はなぜか真っ暗で、いつの間に服を咥えている
口を離していたフレイムの尻尾の炎があっても
1メートル先も見渡せない空間となっていた。
ついでにこちらの世界ハルケギニアでは
『メートル』は『メイル』で表されているらしい。

「扉を閉めて」

すると暗闇の部屋の奥から声がした、当然キュルケである。
先に述べたように、部屋の中は1メートル先も見渡せない状況だ。
当然、そんな暗闇の中ではキュルケの姿を目視することは不可能である。
しかしなんと音石はこの暗闇の中、はっきりとベビードールだけを着た
セクシーな格好をしたキュルケの姿を認識していた。

なぜそんな暗闇の中を音石が目視できたかというと
音石はこの時、『レッド・ホット・チリ・ペッパー』の
『眼』だけを発現し、それを自分の眼球の上に
コンタクトレンズのように重ね被せたのだ!
チリ・ペッパーは電気のスタンド!
その発光体質を利用した音石独自の暗視スコープなのである!!

(おいおい……、一体なんのつもりだこの女?)

音石はそんなキュルケのベビードール姿に若干戸惑いながらも、
同時に興味があったので言われた通りに扉を閉めることにした。
すると部屋に置いてあった数本のロウソクが一斉に炎を灯らせた。
キュルケがなにか魔法をつかったのだろう、
音石は彼女の手に杖があることを確認した。

827反省する使い魔!:2010/08/03(火) 00:54:13 ID:cN2.i/sU
「そんな所に突っ立っていないでこっちに来てくださらない?」

音石はゆっくりとベットに座り込んでるキュルケの傍に歩み寄った。

「オレとルイズが食堂に行くとき、妙な視線を感じたが……
あれはお前の使い魔だったのか?」
「あら、気付いていたの?
さすがね………。ええ、その通りよ」
「なんでおれとルイズを監視してやがったんだ?
なんでもお前の実家とルイズの実家は昔っからの
因縁らしーじゃねーか?まさかそれに関係してんのか?」
「誤解しないで、別にヴァリエールなんか監視しないわ
あの娘、なにかとそのことにこだわっているけど
私は別に興味ないもの、ご先祖様たちの問題なんて……
それよりも………!」
「うぉわッ!!?」

すると突然キュルケが音石の手を引っ張り
自分の体の上に音石を無理やり押し倒させる体勢を作り出した。
音石は嫌の予感がしながら自分の額から首筋に
冷や汗が流れるのを実感した。
音石は咄嗟に手を伸ばし、キュルケから離れようと
体を起こし立ち上がろうとしたが、
いつの間にか自分の首に手を回しているキュルケによって
それもできなくなっていた。

「私が興味あるのは…………
ミスタ・オトイシ、あなたなのよ」
「…………ああ、なるほど、そういうことか?」
「ええ、わたし、貴方に恋してるのよ」

二人の顔の間隔は鉛筆縦一本分くらいで
互いの吐いた息が肌で感じ取れるほどのものだった。
しかし、ここで焦ってはと相手の思うつぼだ。
音石はここぞという時こそクールに対処するのが
最善の策だと結論付けた。
だから音石は無理にキュルケから離れようとせず
あえてこの距離のまま彼女に話しかけた。

828反省する使い魔!:2010/08/03(火) 00:54:58 ID:cN2.i/sU
「なぁキュルケ……、君の気持ちはうれしぃんだがよ〜〜〜。
昨日今日知り合った相手にいきなり惚れるってのは
オレからしてみれば普通にどうかと思うぜ?」
「そんなことはないわ、現にあなたは学院中の人気者じゃない」
「嫌な意味でだろ?そんなんで君に惚れられる道理はないぜ?」
「フフッ、意外と謙虚なのね。聞いたわよ?
あなたがギーシュと決闘したのは一人の女の子を
助けるためだったって………」
「…………………………………………」
「あなたの決闘での戦い様、カッコよかったわ
まるで伝説のイヴァールディの勇者みたいだったわ!
あんなすごい亜人、見たことないわ!
青銅を一発で粉砕するほどのパワー!
戦いながら楽器を奏で続ける不敵な物腰!
あれを見た瞬間、わたしの心に火がついたのよ!
情熱!そう、『恋』と言う名の情熱よ!!
昨日知り合ったばっかりだからだなんて些細なことよ!」


『言ってもムダ!』
キュルケの話を聞いていると、
音石は嫌でも広瀬康一が山岸由花子に対して言った
あの言葉を思い出してしまった。
音石はあの時、康一と由花子の戦いの一部始終を監視していたが
由花子はなにかを好きになると周りが見えなくなる異常な女だ。
この女、キュルケもまさにそれだ。
由花子のような凶暴性がないとはいえ、一度何かに夢中に
なると周りが見えなくなっているんだ。
しかもこの女は貴族という身分のせいか
『自分が好きになった男は自分が手に入れて当たり前』
と思っている。
由花子とはまた違った異常さが彼女に潜んでいた。
少なくとも音石にはそう思えて仕方なかった。

(これ以上この部屋にいるのは絶対にやばい!
だが力尽くじゃだめだ!
この女が何をするかわかったもんじゃねぇ……
下手に断ったらこの状況の濡れ衣をオレに着せる可能性がある。
『いきなり部屋に上がりこんできて襲ってきた』ってな!
そんなことになったら今度こそ大問題だ。
ギーシュとの決闘のときとはわけ違う。
学院長のじぃさんでも庇いきれるかどうか……………
なんとかこの女が納得する方法でここを
抜け出さねぇとこれから先、ここでの生活がどうなるか
わかったもんじゃねぇぞ!!)

829反省する使い魔!:2010/08/03(火) 00:55:44 ID:cN2.i/sU

音石はどうするか考えていた。
しかし周りが見えない女をうまいこと説得する方法など
はっきり言って容易なことではない。

「フレイムで監視していたのはごめんなさい。
あなたが気になって仕方がなかったの」
「………キュルケ、ひとついいことを教えてやるぜ。
人間、『仕方がなかった』でいくらでも誤魔化せるんだぜ?」

これはつい昨日まで刑務所にいた音石だからこそ言えるセリフだろう。
『仕方がなかった』、どんな奴でも自分の間違いを否定するとき
必ずこの言葉を口にする。間違いの罪が深ければ深いほど
この言葉を口にする。刑務所にいた音石はそんな言葉を
口にする人間を人一倍見てきた。
だからこそ音石は、この『仕方がなかった』という魔性の言葉が
どれほど恐ろしいかよく知っていた。

「……そうね、貴方の言うとおりだわ。
本当にごめんなさい。でもわかって頂戴……、
どうしようもないのよ。恋は突然だし、
『微熱』の二つ名を持つ私のプライドが許せなかったのよ!」
(………これで『微熱』ねぇ〜〜)

音石は完璧に呆れかえっていた。
こんな自分を好きになってくれるのは正直うれしい。
しかし先程も音石が言ったように、昨日今日会ったばかりの相手と
恋人関係になるような観点など音石は持ち合わせていない。


……………………………その時だ。
突然、部屋の外窓を叩く音がした。
音石とキュルケが窓を叩く音に反応し、咄嗟に窓のほうを見る。
すると窓を見ると同時に勢いよく窓が開いた。
開いた窓の外には一人の少年の姿があった。

「キュ、キュルケ……、待ち合わせの時間に来ないから
来てみれば……。な、な、なぜよりによってその男と………」
「ペリッソン!ええと、申し訳ないけど二時間後に…………」
「い、いや……。きょ、今日の約束はなかったことでいいから……
は、はは……そ、それじゃあごゆっくり!」
「え、あ、ちょ、ちょっとペリッソン!?」

(……ここ、たしか3階だよな?……でもまあ、
メイジ相手に今更って感じもするな)

「ふふっ。彼、確実にあなたに怯えてたわね」
「……なあキュルケ、俺が思うに先約があったんじゃないのか?」
「彼の勝手な勘違いよ。私が一番愛してるのはあなたよオトイシ
それにもう過ぎたことじゃない?彼は約束はなかった事でいいって
言ってたんだから………」

(マジでおっかねー女だぜ、こいつの恋愛感情は子供のオモチャと一緒だ。
なにかを気に入ったオモチャを見つけるととことん遊び尽くすが、
また別の気に入ったオモチャを見つけると今まで遊んできた
オモチャは何の迷いもなしに捨てやがる。
ひとつの事に夢中になるが、それ以外のものは
すべてどうでもいいと認識しちまっているんだ。
………ああ、だから『微熱』なんて中途半端な二つ名なわけだ)

830反省する使い魔!:2010/08/03(火) 00:56:26 ID:cN2.i/sU

音石のなかでなにかがしっくりきた。
するとまた別の少年が窓の外から顔を覗かせてきた。
置いてあるロウソクの光具合の影響か、知らないだけか、
今度の少年は音石を見ても怯えた様子はなかった。

「キュルケ!その男は誰だ!?
今夜は僕と過ごすと約束したじゃないか!」
「ああ、ごめんなさいスティックス
今夜の約束はなしってことで♪」

するとキュルケが胸の谷間か杖を取り出し、
杖を振った。するとロウソクの炎が蛇の形を模り、
窓の外にいる少年を突き飛ばした。

「呆れたを通り越して逆に感心するよ
よくまあ一晩にこう何人も…………」
「あなたは彼らと違うわ!『特別』よ!」
「『特別』ねぇ〜………、おっとキュルケ!
どうやらまだ予約が残ってるみたいだぞ?」
「えッ!?」

音石が窓を指差し、キュルケが驚きの声を上げ振り返る。
そこには三人の少年がぎゅうぎゅう詰めになって窓の外にいた。

「「「キュルケ!そいつは誰だ!!恋人はいないって言ったじゃないか!」」」
「ああもう、うるさい!フレイム!!」

キュルケが苛立ちを隠せない口調でフレイムに命令した。
きゅるきゅるっと鳴いたフレイムは、そのまま三人に向かって
死なない程度には手加減してるであろう炎を吐いて
三人を窓から焼き落とした。
キュルケがその様子を見て安堵の息を吐いた。
ところが前を向きなおすと音石はベットから立ち上がり
自分に背を向け、扉のほうへ帰っていこうとしていた。

831反省する使い魔!:2010/08/03(火) 00:57:04 ID:cN2.i/sU

「待って!誤解よ!別に彼らとはなんともないわ!
単なるお遊びよ!ねえ、お願い待って!!」

キュルケもすぐさまベットから立ち上がり、
音石の後を追い、彼の背中に抱きつこうとした。
しかしそれは、抱きつこうとした瞬間、
音石が向き直った事によって中断された。

「よかった、考え直してくれた……の……ね………」

キュルケは振り向き直った音石の顔を見て息を呑んだ。
とても冷たい目をしていたからだ。
貴族である自分にむかって………………
いや、それどころか彼の目は人間に向けるべき目ではなかった。
養豚場の豚でもみるかのように冷たい目……………、
とても…………………、とても残酷な目だった。
キュルケはそれを理解すると同時に、
自分の背中が冷えかえるような感覚に襲われた。

「………キュルケ、これだけは教えといてやる
お前には言っても無駄だろうが………………
男はな………、お前の退屈しのぎの道具じゃないんだよ」
「道具って…………。ち、違うわ!
わたし別にあなたや彼らをそんなふうにみてわけじゃ………」
「もうお前は喋るな」
「……………………………………え?」
「もうてめーにはなにもいうことはねえ………
とてもアワれすぎて……………………何も言えねぇ」

キュルケのなかでなにかが崩れ落ち音がした。
水晶玉が叩きつけられるような…………
すがすがしいくらいに残酷な音だった。

バタンっと音石が扉の音を鳴らし部屋を後にし、
膝を突き、その場に立ち尽くしたキュルケに
フレイムが心配そうに近寄った。
するとキュルケはフレイムに寄りすがり……………泣いた。

832反省する使い魔!:2010/08/03(火) 00:57:47 ID:cN2.i/sU
音石がキュルケの部屋を出ると、
見計らったかのようなタイミングでルイズの部屋のドアが開いた。
案の定、出てきたのはルイズだった。
そしてルイズも音石の存在に気付き、それどころか音石が
キュルケの部屋から出てきたことにも気付いた。

「オ、オトイシ!?あ、あんたキュルケの部屋で何してたのよ!?」
「…………………………………………」
「な、なんとか言いなさいよ!!
こ、こ、こ、この………エロ犬【ドォンッ!】ひゃあっ!?」

ルイズはたまたまそばに置いてあった鞭を手のとり
音石に向かって振り上げようとしたが、
音石は顔を伏せたまま、キュルケの部屋の壁に向かって
力一杯、拳で殴りつけたのだ!
そんな突然の行動にルイズの体は硬直した。
すると顔を伏せていた音石はゆっくりと顔を上げた。
ルイズに向かってフッと小さな笑みを浮かべた。

「なんでもねえよルイズ、実は今日
キュルケの使い魔が俺たちを監視していたから
その理由を問い正してただけだよ」
「………え?そ、そう……なの?」
「ああ、何でもオレに興味があったそうだ」
「え………はぁッ!?もう!キュルケの奴、一体何考えてんのよ!!」

ルイズがキュルケの部屋に乗り込もうとしたが
音石が手を壁にし、それを静止した。

「よせルイズ、ほっとけ」
「でも使い魔に色目使われて黙っていられないわ!!」
「必要ねぇよ……、」

音石の言葉にルイズは何かを察したのか、
仕方ないわねと言って、音石と一緒に部屋に戻ることにした。
部屋の中ではルイズはキュルケに対しての愚痴を
散々音石に浴びせた後、二人とも眠りに付いたが
ルイズはベットの中で、音石の先程の行動を思い返すと
怖くて仕方がなく、自分は本当に彼を使い魔として……
パートナーとしてやっていけるのか不安になってしまった。

833反省の人:2010/08/03(火) 01:08:39 ID:cN2.i/sU
投稿完了です。
長いこと間を空けてすみません、
出来る限り面白くしようとがんばったんですが
時間がかかった挙句、今回は後半あたりが完璧にグダグダで……、

あと質問したいんですがどうも今回、投稿する際に
本来投稿すべき2chの掲示板のほうで「おお杉(こんなんでしたっけ?)」
ってのが出るんですけどなにか対抗策あるんでしょうか?

あと、まとめサイトのほうでの修正依頼なんですが
二話でのルイズが音石に使い魔の紋章刻むシーンのセリフで
う…な、なんだ!?おい!左手がめちゃくちゃ熱いぞ!!」 ってのがあるんですが
ものの見事に 「 が抜けてるんですよ。もしよければご修正よろしくお願いします。

何か質問などがありましたらお気軽に投稿してください。
基本的に夜や時間が空いてるときとかにパソコンや携帯で覗いてますんで
それでは!!

834名無しさん:2010/08/03(火) 20:00:34 ID:HqOno.8c
おお、投下乙!
キュルケの誘いをきっぱり拒絶する音石カッケー!

人多杉ですが、2ちゃん専用ブラウザをインストールすれば解決できます。
無料なので検索してみるとよろし。

835名無しさん:2010/08/08(日) 20:40:29 ID:YE81fKrU
俺も投下したい

836名無しさん:2010/08/10(火) 21:03:36 ID:axCB.Q26
くそー! 反省さんの代理投下したいのに規制されて書き込みできねー!!
規制されてない人、誰か気付いてくれ!!

837名無しさん:2010/08/13(金) 10:32:04 ID:UMedrsHY
だが断る

838反省する使い魔!:2010/09/27(月) 02:31:06 ID:G31nj7UM
ギターで一通り演奏し、ラストは自分の気に入っている
決め台詞で締めくくると、万雷とまではいかないが
小さな拍手の音が音石の耳に入った。
音石がその拍手のするほうへ振り向く。
そこに居たのは、ルイズと同じくらい小柄で水色の髪、
片手にはその小柄な体よりもはるかに長い杖、
もう片手には三冊の分厚い本をもっている少女だった。
音石はその少女に見覚えがあった。
確か召喚された日にギーシュに魔法で浮かされたとき
キュルケと一緒にいた記憶がある。
その次の日には、シエスタが落としそうになった食器を
拾い戻す前に空を見上げていたとき、ドラゴンの上に
跨っていた記憶もあった。だが名前は知らない。

「お前は………確かキュルケと一緒にいた………」
「………タバサ、あなたは?」
「音石明だ……、いつからそこにいたんだ?」
「だいぶまえから」
「そうなのか?コイツ(ギター)に夢中だったから気付かなかったぜ。
なあ、……さっきのオレの演奏どんな感じだった?」

839反省する使い魔!:2010/09/27(月) 02:31:47 ID:G31nj7UM
音石としては、ギターが存在しないこの世界の人間に、
どんな印象を持たれるか興味深かった。

「初めて聴く音……、変わってたけどなかなかユニーク」
「ふむ、まぁそんなモンだろうな。
それでタバサ、こんなとこでなにしてたんだ?
寮からだいぶ離れてんのに………」
「……どちらかといえばそれは私のセリフ」
「ははっ、ちがいねぇな」
「わたしは図書室に借りていた本を返しにいって
あたらしい本を借りて、部屋に戻る途中に
奇妙な音が聞こえたから、気になって来てみたら貴方がいた」
「オレは随分と早く目が覚めちまってよぉ〜〜〜………、
気晴らしついでに、腕が鈍ってないか確かめていたんだよ」
「腕が鈍っていないか?」

タバサが知る限りでは、音石はルイズに召喚されたときから
ずっとギターを決闘中だろうと肌身離さず抱えていた。
そんな彼がまるで久しぶりに演奏するかのような
物言いに疑問を感じたのだ。

「………ん、ああ。ワケあって牢屋の中にぶち込まれててな。
ちょうど出所したところをルイズに召喚されたんだよ」
「………そう」

なぜ牢屋の中に入っていたのか………。
気にならないと言えば嘘になる。
しかし無理に相手の詮索するようなことはタバサはしたくなかった。
人はそれぞれにいろんな『過去』を背負っている。
楽しかった思い出、悲しかった思い出、悔しかった思い出、
そしてそんな思い出には必ず理由が存在する。
だからこそタバサは、目の前の男が牢屋の中に
入っていた人間であろうと、少なからず何か理由があるのだろう。
そう解釈したのだ。

840反省する使い魔!:2010/09/27(月) 02:32:25 ID:G31nj7UM
他の生徒や教師がこの事実を知れば音石に対して
強い警戒心を抱くだろう。
しかしタバサは違った。ワケがあって『過去』を
知っている彼女だからこそ
音石に対して、警戒することもなかった。

「………ひとつ、質問がある」
「ん?」

だがタバサにはまだ気になることがあった。
それは…………。

「ギーシュとの決闘のときに見せた
あれは…………………………何?」
「マジックアイテムを使った魔法だ」

当然嘘である。
音石は食堂でのマルトー達とのやりとりをもとに
自分のスタンドのことを誰に尋ねられたら
マジックアイテムと言って誤魔化そうと
昨日の夜から考えていたのだ。

実は言うと音石はタバサが自分を尋ねたときから
『レッド・ホット・チリ・ペッパー』のことを
聞いてくるんじゃないだろうかと予想はしていたのだ。

なぜならここの生徒たちは決闘のこともあり
ほとんどが確実に音石にビビッている。
それは昨日すでに音石も確信している。
(まあ、もともとそのつもりでの決闘なのだが)
そのため、そんな生徒が自分に話しかけるなんて
よほどの物好きか、プライドの高い馬鹿、
チリ・ペッパーの謎を探ろうとしている命知らず。
音石はそう考えていたのだ。

841反省する使い魔!:2010/09/27(月) 02:33:04 ID:G31nj7UM

当然、スタンドのことを話しても音石に得はない。
ルイズやオスマンに話したのは彼らを自分なりに
信頼しているからだ。
仮にキュルケにスタンドのことを聞かれても
音石は絶対に岸辺露伴の名言『だが断る』と言い切るだろう。

「嘘」
「なにィ?」

音石の答えをタバサがバッサリと否定した。

「あんな亜人を呼び出す魔法は私は知らない」
「おいおい、世界は広いんだぜ?
それに比べ、人間一人が脳みそにぶち込む記憶なんざ
たかが知れてるんだ。世の中お前が知らないことなんて
腐るほどあるんだよ……………」
「…………………」

音石は知らないがタバサは俗に言う『本の虫』である。
授業中はおろか、出歩くときも本を凝視している。
今日のような休みの日は一日中部屋に篭って本を
読むのが彼女の楽しみである。
それ故に彼女は成績も優秀、あらゆる魔法の知識を読破している。
マジックアイテムも例外ではない。
だから音石に知らないこともあると言われて
プライドが少し……だいぶ……ちょっと傷ついた。

「ならこれだけは教えてほしい」
「………なんだ?」
「あなたは…………どこの出身?」

842反省する使い魔!:2010/09/27(月) 02:33:58 ID:G31nj7UM
(痛いトコつくなァーおい)

「ここからずっと遠い所だよ」
「遠いところ?」
「正直言ってオレにもわかんねーんだわ
だいぶ離れているせいでな…………
だからオレもここら辺の地理をよく知らねぇんだよ」
「そう…………」

音石が今答えられるのはこのくらいが精一杯である。
音石としてはいちいち答えてやる道理はないが、
もしもというときがある。
音石はあとでルイズにこの世界の地理や国のことについて
色々と教えてもらおうと考えていた。
ついでになぜ道理もないのにタバサの質問に答えたかというと
単なる気まぐれである。

「あ、オトイシさん!」

すると突然だれかに名前を呼ばれ、音石は振り返った。
やって来たのはシエスタである。
どうやら昨日と同じように洗濯をしていたようだ。
しかしなぜ水汲み場から広場の隅にきたのだろうか?
音石はそれが気がかりだった。

「おお、おはようシエスタ」
「あ、おはようございます!………あ、そうじゃなくて。
オトイシさん、ミス・ヴァリエールが探していましたよ」
「ルイズが?チッ、仕方ねーな。
んじゃあタバサ、そういうことだから…………いねェ」

音石が振り向きなおってみると
いつの間にかタバサはその場を去っていた。
まるで雪みてーな奴だな、現れたと思ったら
いつの間にか消えてやがる。

843反省する使い魔!:2010/09/27(月) 02:35:02 ID:G31nj7UM
音石はタバサにそんな印象を感じながら、
シエスタと別れ、女子寮のルイズの部屋に帰っていった。
音石は知らない。タバサの二つ名がその印象どおり
『雪風』であることを…………。




そんなこんなで現在音石はルイズの部屋へと辿り着き
ルイズの部屋のドアノブに手を掛けた。

【ガチャ】
「あ、オトイシ!ちょっとアンタどこ行ってたのよ!?」
「ギターの練習だ。つーかよ〜〜…
どこに行こうがおれの勝手じゃねーか」
「もうっ!あんた、わたしの使い魔って自覚ある!?」
「はっ、オレにも人権ぐらいあってもいいと思うが?」
「ふん、まあいいわ。それはそうとオトイシ!
ゆっくり寝て気分もいいことだし、
今日は街に買い物に行くわよ!」
「お!街か〜、いいねぇどんなのか楽しみじゃね〜か〜
なにか買いたいモンでもあんのかルイズゥ〜?」

音石からしてみれば召喚されて以来
この学院を一歩も外に出ていなったので
この世界の街というのがどのようなものなのか
かの有名なルーブル美術館を観光するかのようで
非常に楽しみで心が躍った。

844反省する使い魔!:2010/09/27(月) 02:35:32 ID:G31nj7UM
しかしそれはそうとして、なぜ急に街に行くなどと
言い出したのか。そこに小さな疑問を感じていた。

「わたしじゃないわ、オトイシ。アンタのよ」
「オレの?」
「そっ、さすがに自分の使い魔をずっと藁で
寝かしておくのもなんだし。
今日はアンタ用の枕やモーフを買ってあげるのよ!」

そのルイズの言葉に音石は目を見開かせ、
やがてその顔に笑みが浮かび上がった。

「おいおいおい!なんだなんだァ〜ルイズ!
随分とメチャ嬉しい事してくれんじゃね〜か〜〜!
こりゃ明日は空から槍が降ってくるぜェ、はっはっは」
「一言多いのよアンタは!
そ、それと勘違いしないでよね!
使い魔の面倒を見るのは貴族として
当たり前のことなんだから!」

はいはい、笑みを浮かべながら音石は言葉を返し、
街に行くための支度を手伝い、
部屋を出る際に小さな袋を手渡された。
袋の中を見てみると、音石は「おおっ!」と声を上げた。
小さな袋の中には輝かしい金貨がギッシリと詰まっていた。

「財布を持って守るのも使い魔の役目よ」
「なるほどな」
「あ、それから。街に行くんだからスリとかに気をつけなさいよ?」
「わかった、任しとけ」

音石の頼りがいがあるような態度に
ルイズはどこか安心したが、この時彼女は気付かなかった。
自分の使い魔が主人である自分の目を盗んで、
いつの間にか袋の中の金貨を四枚ほど抜き取り、
ポケットにいれていたことを。

音石明。この男、やはり悪党である。

ルイズはそのまま忘れ物がないか確認した後、
音石とともに自室を後にした。

845反省する使い魔!:2010/09/27(月) 02:36:04 ID:G31nj7UM



学院の庭をルイズの後に続いて歩いていると
音石はあることに気付いた。

「おいルイズ、学院の門はあっちだろ?
どこにいくんだ?」
「街までは結構距離があるから
乗り物を取りにいくのよ」
「乗り物?」

音石の頭に?マークが浮かび上がると
奇妙な小屋に辿り着き、中からシエスタが出てきた。

「シエスタ?」
「ミス・ヴァリエール。頼まれていたモノは
用意しておきました」
「そう、ありがとう。それじゃあここまで連れてきて頂戴」
「かしこまいりました」

貴族であるルイズの前では
シエスタも給仕としての顔を覗かせており、
いつものシエスタからは想像も出来ない真剣な顔で
ルイズに対処していた。
音石はそんなシエスタにどこか感心していたが、
次に彼女が連れてきた『モノ』を見て、体がぴたりと止まった。

「………馬?」

そう、馬である。二頭のでかい馬。
その小屋は貴族用の馬を置いておく厩舎小屋なのである。

「なあ、まさか……こいつに乗って?」
「そうよ、当たり前でしょ?」

あっさりと返答するルイズに音石の頭と肩はガクッ下がった。

846反省する使い魔!:2010/09/27(月) 02:36:39 ID:G31nj7UM
(マジかよ〜、なんかもっとこう……
魔法を使った乗り物を想像してたぜ、
『アラジンの魔法のランプ』に出てくる
空飛ぶ魔法の絨毯(じゅうたん)的なモノをよ〜〜
うわァ〜、一分前のおれ殴りてェ………)

「ちょっとオトイシ。どうしたのよ?」
「なぁルイズゥ〜、オレ馬なんて乗ったことねぇんだけど」
「そうなの?あんたがいたトコって馬がいないの?」
「別にいねぇーわけじゃねぇんだが………」

そこで音石は、シエスタに聞かれると面倒だと判断し
ルイズの耳元で小声で話しかけた。

「オレの世界じゃ自動車や自転車やらの
移動手段があるから、馬なんて普通つかわねぇんだよ」
「そうなの?」
「別に馬がいないってわけでもねぇんだが………、
趣味とかスポーツぐらいでしか生の馬自体みかけねぇんだよ」
「え、じゃあオトイシ。
あんた馬を直接見たのコレが初めてなの?」
「当たり前だ。こんなのテレビぐらいでしか見たことねぇーよ!」

はあっ、とルイズに口から大きな溜め息が出た。

「もう、仕方ないわね。ええっと…確かシエスタだったかしら?
悪いけどその馬たちを門の外まで連れてきて頂戴。
オトイシ、さすがに学院内じゃなにかとあれだし
学院の外で私が馬の乗り方を教えてあげるわ」

(ご親切ありがてぇんだが、すっげー乗りこなす自信がねぇ……)

847反省する使い魔!:2010/09/27(月) 02:37:15 ID:G31nj7UM
その後、音石はルイズのご教授の下、
乗馬についてとりあえず基礎から教えてもらい
貴族用の馬だけあってか、馬自身も利口でおとなしく
一時間半かけて音石は少しずつ順応していった。
しかしまあそれでもぎこちないのはお約束。
だがそれでも、わずか一時間半で
馬を走らせる程にまで扱えるようになれるのは、
成長性の高いレッド・ホット・チリ・ペッパーの本体である
音石本人の驚異的な順応性や学習性の高さあってのものだろう。

そんなこんなでやっとの思いで何とか馬に乗って
走らすなどのある程の技術を使えるようになった音石は
ルイズの後に続いて壮大な草原を馬で走らせていた。

「はっはー!乗れるようになっちまうと
意外と楽しいじゃねーか!YES!GO!GO!」
「ちょっとオトイシ!あんまり調子乗ってると
おっこちちゃうわよ!落馬ってとっても危ないんだから!
あ、音石。そこを右に曲がって!」

ルイズよりも先行し、音石は馬を走らせ
はじめての乗馬経験でテンションが上がっており
落馬の危険も顧みず、お構いなしに馬のスピードを上げていた。
しかし音石は知らない。
目的地であるトリスティン城下町は
馬で走らせても三時間かかるほどの距離にあることを……。

848反省する使い魔!:2010/09/27(月) 02:37:50 ID:G31nj7UM
そして一方こちらは、所戻ってトリスティン魔法学院。
そこはタバサの部屋である。
彼女は虚無の曜日を読書で費やすことを日課としており、
音石と出会う少し前に借りていた本を物静かに読みふけっていた。

【コンッ……コンッ……】

その静寂を小さく突き破ったのは
部屋のノック音だった。しかし誰かは見当がつく。
学院の教師に呼び出されるような心当たりはないし、
自分の部屋に尋ねてくる人物など『彼女』以外考えられない。
本来ならせっかくの読書の時間を無駄にしたくないので
このまま無視するにかぎるのだが、タバサを違和感を感じていた。
扉のノック音に『彼女』らしい、活発で元気な感じがなかったのだ。

「………どうぞ」

タバサがそう言うと、部屋の扉はゆっくりと開かれ
入ってきたのはキュルケであった。
キュルケを見たとき、表情には出さなかったものの
タバサは内心驚いていた。
キュルケの顔が見ているだけでわかるほど
とても暗い表情をしていたからだ。
いや、表情だけじゃない。目の下にクマが出来ており
よく見ると目元に乾いた後がある。泣いていたのだろうか?

849反省する使い魔!:2010/09/27(月) 02:38:28 ID:G31nj7UM
「タバサ……、お願いがあるの…」
「……………何?」

とても暗い声、普段元気活発溢れる彼女からは
想像も出来ない声の低さにタバサは只ならぬものを感じた。
キュルケはタバサのかけがえのない親友だ。
その親友がこんな姿になっているなんて
余程のことがあったのだろうとタバサは察した。

「ルイズと……その使い魔のオトイシが
城下町に買い物に行ったの(シエスタから聞いた)
急いであの二人を追いかけないといけないのよ
だからお願い。貴方の風竜、シルフィードの
力を貸してほしいの、わけは………聞かないで」
「…………………」

タバサは無言のまま部屋の窓を開き、口笛を鳴らした。
するとどこからか青い肌をした竜、タバサの使い魔
シルフィードが現れた。

「ありがとうタバサ」

タバサがシルフィードに跨ると、キュルケもタバサの後ろに跨り
学院から飛び上がった。向かう先はトリステイン城下町……。



一方その二人、ルイズと音石は
トリステイン城下町の大通り、ブルドンネ街に辿り着いていた。

「…………………………………」

そして音石は、その一角の壁に手でもたれかかり
背中の腰辺りをさすっていた。

850反省する使い魔!:2010/09/27(月) 02:39:01 ID:G31nj7UM
「もう!言わんこっちゃないわね!
乗馬初心者のあんたがあんな長い距離を
馬でとばしまくったら、そりゃ腰も痛めるわよ!」
「…………面目ない」

さすがに音石も言い返す言葉も見つからなかった。
調子に乗って墓穴を掘ってしまうのは彼の悪い癖である。
実質、三年前の杜王町の一件でも
この癖が原因で散々な目にあっている。
音石自身もこの癖には反省しようと努力してはいるのだが
元々彼の性格上の問題もあってか、なかなか直せるものでもない。
しかし言い換えれば、そこが彼の魅力のひとつなのかもしれない。

「………もしまだ痛むんだったらここで待ってる?
私ひとりで買い物済ませるから………」
「……いや、大丈夫。だいぶマシになった」
「無理してないでしょうね?」
「無理なんてする必要があるかっての」

音石は大きく背中を仰け反ると、背中からポキポキッと
気持ちのいい音がなり、それと同時に腰の痛みを引いていった。

「そう、ならいいわ。それじゃいくわよ!
はぐれて迷子とかにならないでよね」

ルイズが街中を歩き出し、音石もその後に続く。
しかし人ごみを進んでいるうちに音石はあることに気が付いた。

「それにしても随分と道が狭いな。ここって大通りなんだろ?」

音石が向こう側の壁とこちら側の壁を
目で測ってみると、だいたい5mぐらいしかない。

851反省する使い魔!:2010/09/27(月) 02:39:36 ID:G31nj7UM

「そうよ、あんたの世界に比べたら狭いかもしれないけど
こっちの世界のわたしたちからしてみれば
コレぐらいが普通なのよ」
「まっ、そんなもんなんだろーな。認識の違いなんて」
「そんなもんなんでしょーね。あ、それはそうとオトイシ!
ちゃんと財布持ってるわよね?まさか取られて無いでしょうね?
いくらアンタでも魔法を使われたら一発なんだから
気をつけなさいよ」
「魔法?おいおい、魔法を使うって事は
貴族なんだろ?なのに盗みなんてするのかよ?」
「貴族にもいろいろいるのよ。
いろんな事情でその地位を追いやられて
傭兵や犯罪者に成り下がる奴もいるのよ」
「つまり没落貴族ってやつか?
やれやれ、この世界の世も末だな」

何気ない会話を繰り返していると
一軒の建物に辿り着いた。服などが飾られてる
ところから予想するとどうやら衣服店のようだ。
なぜ服屋に?とルイズに聞いてみると
どうやら音石のための変えの服も注文してくれるそうだ。

「いらっしゃいませ貴族様」

店に入ると、早速店員がルイズに
貴族相手の丁寧な接客を行いはじめた。

852反省する使い魔!:2010/09/27(月) 02:40:12 ID:G31nj7UM
「今日はどのような御用で?」
「使い魔のための服をいくつか注文したいの」
「こちらの御方ですか、かしこまいりました
どのような衣装をご希望で?」
「そこは彼に任せるわ。オトイシ、どんな服がほしいの?」
「そうだな………」

音石は顎に手を置き、店にある衣装を眺め考えるが
この世界の時代が時代なだけあってか
はっきりいって、これだ!とくるようなモノはなかった。

「オレが今着てる服と同じやつは作れるか?」

音石がそう言うと、その店員は音石に
「失礼」と呟き、音石が着ている服を
手触りで調べ始めた。

「………なかなか変わった作りと材質ですね」
「ワケあって遠い地方から来てんだよ
で、作れんのか?」
「ええ、少し手間取るかもしれませんが
これならなんとか作れるでしょう。
ですが材質が材質のため少々値が張るかもしれませんが……」
「いいかルイズ?」
「ええ、お金はある程度多く持ってきてるから大丈夫よ
でもいいのオトイシ?
せっかくなんだしなんか別の服を買っても……」
「いらねぇよ、それにコイツ(今着てる服)には
けっこう愛着があんだよ。これからなにが起こるかわかんねーし
予備に何着か持ってたって損はねーだろ」
「まっ、あんたがそれでいいなら
もう何も言うことはないわ。
………それじゃ、服が出来次第ここに送って頂戴。」
「かしこまいりました」

853反省する使い魔!:2010/09/27(月) 02:40:47 ID:G31nj7UM
ルイズがなにかを書き記したメモと一緒に代金を支払い、
音石と共にその店を後にし、
今度は別の店で枕やモーフを購入し、
服と同じように学院に送るようにと注文した。

やることも一通り終え、二人は現在街を出ようと移動していた。
すると音石はあることに気が付く。

「なあルイズ、この裏路地抜けていけば
近道になるんじゃねぇのか?」

音石の言葉に、ルイズは脳裏にいままで記憶している
この街の構図を展開し、道を辿らせる。

「確かに………、行けるかもしれないわね
事が早く済ませるのには越したことないわ
行きましょオトイシ」

ルイズ自体はその裏路地に入った経験はないが
記憶している街の間取り的に考えると
なかなかの時間短縮になると予想したからだ。
しかしこのような薄汚い路地裏に足を入れるのは
なにがおこるかわからないと抵抗はあったが、
自分にはオトイシという優秀な使い魔がいる。
そう考えると些細なことだと自然に思ったのだ。

そして路地裏を進んでいくと、四辻の道に入った。

「えっと、この道があーであの道があーだから……」

854反省する使い魔!:2010/09/27(月) 02:41:33 ID:G31nj7UM
ルイズがその四辻でどの道に進めば
一番の近道になるか考えている一方、
音石はあくびをしながら路地裏の周りを
興味深そうに見回していた。
薄汚い野良猫、道端に散乱しているゴミ屑
そして殺風景な風景。
こうも絵に描いたような路地裏も逆に珍しい。
するとだ、音石の目にとある看板が目に入った。
その看板はファンタジーの剣の様な形になっており
なにか文字が書いてあったが、
生憎音石はこの世界の文字が読めないためルイズに質問した。

「なァなァルイズ」
「ん、なによ?」
「あそこの看板、剣みてぇーな形してっけど
……もしかして武器屋か?」
「あら、よくわかったわね?
確かに武器屋だけどそれがどうかしたの?」
「行ってみよーぜ!」
「はぁッ!?なんでよ!?
あんたなんなに強い能力もってるくせに
剣なんて持ってどうするつもりよ!?」
「別にほしいなんて一言も言ってねぇーだろー?
俺の世界っつーか国にはあんな武器屋なんて
どこにもねぇからよ。興味あんだよ
なあルイズいいだろぉ?ちょっと見るだけでいいからさ〜」
「……はァ、仕方ないわね。
まっ、まだ時間には少し余裕あるし今回は特別よ?」

よっしゃ!と音石は歓喜の声を上げ、
早歩きでその武器屋に向かった。
店の中に入ると、壁に剣や槍が飾ってあり
つぼの様な容れ物にもあらゆる武器が収納されている。
おお!すげェ!っと日本ではまず見れない光景に
音石は興奮を隠せず、店の見渡した。
すると店の奥からどこか胡散臭そうな主人が現われた。

855反省する使い魔!:2010/09/27(月) 02:42:18 ID:G31nj7UM
「これはこれは貴族様!
いらっしゃいませ、当店に一体どのようなご用件で?」
「別に用って程じゃないわ、ウチの使い魔が
どうしても見たいっていうから連れてきただけよ」
「は、はァ。さようでございますか………」

店主は内心舌打ちをした。

(ウチの店は見世物じゃなく、商売をやってんだ!
せっかくの貴族の客だってのにこのまま帰してたまるか!
この世間知らずの貴族からたっぷりと金を搾り取ってやる!)

悪巧みを考えている店主の視線がルイズから
店に飾ってある武器を眺め回っている音石に変わる。

(このにいちゃんがこの貴族の使い魔だってんなら
この貴族よりもこっちをうまく口車に乗せたほうが
効率がいいかもしれねぇな……………
見たところ武器に興味があるようだし
うまくいきゃあこの使い魔を通してあの貴族から
ありったけの金を搾り取れるぜ!!)

「お客様、武器に興味がおありで?」
「ん?ああ、俺がいたところじゃあ
剣みてぇな武器なんて売ってねぇからな」
「ほっほー左様で……、どうです?
せっかくですしなにかご購入なさってはいかがです?」
「必要ないわよ」

店主のあくどい接客にルイズが横槍を入れた。
さすがにその言葉に店主も戸惑ったが、
逆にそれを止めたのは音石だった。

856反省する使い魔!:2010/09/27(月) 02:42:55 ID:G31nj7UM
「まぁまてよルイズ、このおっさんが
言ってることも一理あるぜ?
せっかく来たんだし、なにか記念に買って帰るのも
悪くはねぇだろ」
「あんたに武器が必要だとはとても思えないんだけど…」
「世の中『もしも』って時がいくらでもあるんだ
その『もしも』に備えとくのもありだと思うぜ?」

音石が言う『もしも』とは
スタンドの射程距離のことである。
レッド・ホット・チリ・ペッパーは
電線などによる発電物がない限り、
その射程距離は一般の近距離パワー型と
ほとんどかわらない。
ついでに近距離の場合の
レッド・ホット・チリ・ペッパーの
パワーの源である電力は音石の
精神力(スタンドパワー)によって補われている。
それ故にこの先この世界でどんなことが
起こるかわからない以上、ソレに備える必要がある。

例えば何らかの原因でまた貴族と対峙したとしよう、
彼らは基本、距離を置いての魔法を行使する。
コレが致命的であり、こちらのスタンドの射程距離に
相手が入らない限り、こちらは打つ手がない。

つまり音石は遠距離に対応できる武器がほしいのだ。
これはSPW財団から聞いた話なんだが
かつて自分が『弓と矢』を使って生み出した二匹の鼠、
その二匹はどうも遠距離のスタンドを使っていたそうだが
仗助はどうもベアリングとライフルの弾を使って
スタンド射程を補い、コレを撃退したそうだ。
その例もなる。用心に越したところで
別に損もないだろうと判断したのだ。
問題はどんな武器にするかだ。

857反省する使い魔!:2010/09/27(月) 02:43:32 ID:G31nj7UM
「弓……いや、ナイフとかないか?
こう……投げる用に有効なやつ」
「かしこまいりましたお客様、少々お待ちを」

店の奥に移動した店主は影で音石たちを嘲笑った。

(やりぃー!うまくいったぞ!
この勢いでどんどんせしめ取ってやるぜ!!)

「これぐらいしか置いてありませんが如何でしょう?」

店奥から戻ってきた店主は、
木箱のケースに収納されているナイフを持ってきた。
音石はへぇ…っと呟き、ナイフを手に取り
ダーツを投げるような仕草でナイフを動かした。

「お気に召しましたかな?」
「ああ、なかなかいいじゃねぇか。気に入ったぜ」
「そいつぁよかった。どうですお客様?
そのナイフのついでにこちらの剣も如何です?」

すると店主はカウンターの下から、大剣を取り出してきた。

「我が店一番の業物で、かの高名なゲルマニアの
錬金魔術師シュペー卿の傑作で。
魔法がかかってるから鉄だって一刀両断でさあ
どうです、美しい刀身でしょう?
今ならお安くしておきますよ?」

858反省する使い魔!:2010/09/27(月) 02:44:06 ID:G31nj7UM
確かに見事な大剣である。宝石などもちりばめられ
その美しさを引き出している。
しかし少々度が過ぎる感じがある。
その大剣を見た瞬間、特に興味もなく
退屈そうにしていたルイズがはじめて
その大剣に興味を示した。

「あら、ほんとに綺麗な剣ね。一体いくらなの?」
「エキュー金貨で二千。新金貨なら三千ってところでさ」
「高すぎるわ。立派な家と、森付きの庭が買えるじゃないの
もっと安く出来ないの?」
「貴族様ぁ〜、勘弁してくだせぇ
ウチも生活がかかっているんですよ」

(別に剣はいらねぇんだがなぁ)

いつの間にか店主の交渉対象がルイズに変わってしまい
音石は何気なく陳列している武器を1つ1つ見ていると
とある一振りの剣に目が止まった。
鞘の形状からすると日本刀のように反りの入った剣だった。
音石はなにか引き寄せられるかのように
その剣に手を伸ばし……その剣を掴み取った。

859反省する使い魔!:2010/09/27(月) 02:44:41 ID:G31nj7UM
「こいつはおどれぇーた、声もかけてねぇのに
俺をこの大量の武器の山から選び取るとは……」

すると突然、どこからか低い男の声が聞こえた。
音石は周りを見渡すが、自分とルイズと店主以外
この武器屋にはだれもいない。

「どこ見てんだよ……、あ〜なるほどな
選び取れる筈だぜ。お前使い手か」

音石は耳を澄まし、声の発信源を探ってみたが
その声はどうやら自分が持っている剣から放たれているようだ。

「剣が………しゃべってんのかッ!?」
「おうよ!オレはデルフリンガー様だ!!」
「それってインテリジェンスソード?」
「なんだそりゃ?」
「簡単に言えば魔法で人格が宿ったマジックアイテムよ」
「ふ〜ん。インテリジェンスソードね〜」
「こらデル公!!お客様に変なこと吹き込むんじゃねぇ!!」
「うっせえクソおやじ!!おいお前!
出会ってばっかでなんだが、お前オレを買え!!」
「はっはっは!こいつはおもしれぇー。
剣が売れ込みをしてるぞ!!」
「ちょっとオトイシ、あんたまさかその剣
買うつもりじゃないでしょーね!?
インテリジェンスソードなんてやめなさいよ!!
うるさくてかなわないわ!
それにこの剣、よく見たら錆だらけじゃない
そんなのよりこっちの大剣のほうがよっぽどマシよ!」
「世間知らずの貴族の娘っ子には
俺様のすばらしさなんてわかんねーだろーよ!!
あんな見かけだけのデカイ剣なんかより
オレを買ったほうが絶対得だぞ!!」

剣と人間との口論のなか、音石は少し考え
あるいい方法を思いついた。

860反省する使い魔!:2010/09/27(月) 02:45:18 ID:G31nj7UM
「なぁおやじ、この大剣は鉄も一刀両断できるんなら
当然それなりに頑丈なんだよな?」
「え?……あ、ええああそりゃあもちろん!
なんたってこの剣は【パキィンッ!】かの有名な……え?」

店主は一瞬何が起きたのか理解できなかった。
しかし次第に何が起きたのか理解していった。
そう、高値で売りつけようとしていた大剣が
突然真っ二つに折れてしまったのだ。

「どうやらなまくらだったようだな」
「な、な、なァァーーーーーーーーッ!!?
な、な、なんで!?け、剣が勝手に!?」

店主はせっかくの品物が使い物になれなくなった現実に
理解できないまま悲痛の声をあげていたが
ルイズは音石がなにをしたのかしっかりと理解していた。
レッド・ホット・チリ・ペッパーを発現させ
中指で大剣をでこピンするかのように打ちつけたのだ。
その結果、大剣は真っ二つに折れたのである。

「ちょ、ちょっとオトイシ。あんたなんで」
「おいおいルイズゥ〜。剣を買う買わない以前に
オレにはコイツ(スタンド)があるんだぜ〜〜?
仮に剣を使うんなら、コイツの攻撃に
耐えられるような剣じゃねぇと意味がねぇだろ〜?」
「お、おめー、今のは一体?」

手に持つデルフリンガーからも驚きの声が上がった。

「さすがに魔法で作られた剣だけあって
見えるようだな?さ〜て…果たしてお前はどうかな?」

861反省する使い魔!:2010/09/27(月) 02:45:48 ID:G31nj7UM
音石のレッド・ホット・チリ・ペッパーは
デルフリンガーの傍に近寄り、
中指を親指で押さえ、でこピンの体勢にはいる。

「え!?お、おい!ちょっとまて…」
【ガァアアアンッ!!】
「いってえええええええっ!!!」

レッド・ホット・チリ・ペッパーの強烈なでこピンで
デルフリンガーの刀身は大きな悲鳴を上げたが
なんと剣は折れることなく、それどころかヒビも入っていなかった。

「………なるほど、上出来だ」
「あ、あんた。時々怖いぐらい無茶するわね……」
「褒め言葉として受け取っておくよ」


「で、でもやっぱりわたしの使い魔として
もっと見栄がいいモノがいいわよ〜、例えばそうね〜…」

するとルイズが許可もなく店の奥に
ずかずかと入っていった。

「え?ちょ、ちょっと貴族様!?」

ショックで落ち込んでいた店主も
ルイズの勝手な行動に我に返り
ルイズに制止の声をかける。
それでもルイズは足を止めず更に店の奥へと入っていった。
自分が貴族であることを鼻にかけているのだろう。

862反省する使い魔!:2010/09/27(月) 02:46:29 ID:G31nj7UM

「しっかし汚い店ねぇ〜〜、掃除くらいしなさいよねぇ」

ルイズは自分のことを棚に上げながら
店に罵倒を浴びせ、店の奥の貯蔵庫を見回りはじめた。

するとだ……、散乱してる武器の中から
一本の剣がルイズの目に止まった。
ルイズはその剣を見た瞬間、一直線にその剣に歩み寄った。

「こういった薄汚いところに上等な掘り出し物があるって
以前だれかに聞いたことあるけど、
案外その通りなのね…。この剣、とても美しいじゃない
こう言った剣こそ私の使い魔の持つものとして
相応しいわ…………。でも本当に美しいわね……
いっぺん抜いてみようかしら………」

ルイズはそのままゆっくりと
その剣に歩み寄り、手に取ろうと手を伸ばした。

「ちょっと貴族様!さすがに困りますぜ!!
………ッ!?あァーーやばい!!!
その剣を手に持っちゃだめだァーーーーーッ!!!」

ルイズを止めようと追いかけて姿を現した店主が
ルイズがその剣を手に取ろうとした瞬間、
大声で静止の声をあげた。

しかし…………時既に遅し!!
店主が声を上げたときには
ルイズはその剣を『引き抜いていた』!
店主に続き音石もデルフリンガーを手に
ルイズを追いかけたが音石はルイズの顔を見た瞬間息を呑んだ
その顔はまるで別人で、目には殺気が充満していた。
ルイズはその剣を手に振り返り
音石に向かってある言葉をささやいた。

「お前の命………、貰い受ける」

その剣にはデルフリンガーのように名前があった。
   その名はアヌビス
それ以上でもそれ以下でもなく
それがその剣の名前だった。

863反省の人:2010/09/27(月) 02:53:08 ID:G31nj7UM
ラララ ラーラーラー なんてすてきな
ラララ ラーラーラー もじのならび!
ラララー それは ラララー それは…
オ・ト・イ・シ・サ・ン!

いきなりこれはひどい!
いやー、金曜ロードショーのバイオハザード見た後
たまたまこの偉大なる曲 ポケモンの「タケシのパラダイス」
見つけちゃって 反省する使い魔かいてる間ぶっ通しで聞いてた!

そんでもってなんか替え歌で音石にしたかったんですが………
素直にごめんなさい、やっちゃったZE!

864反省する使い魔!:2011/01/07(金) 16:56:25 ID:PBipDpGY
「別に、ただいつまでもそんなトコに突っ立ってられても迷惑だし
わたしもちょうど医務室に用があるし…………
ついでよ、ついで!ほら、ついて来なさい」

モンモランシーはそのまま音石を通り過ぎ食堂から廊下に向かう。
ルイズみてぇな奴だな、などとデジャヴ感を覚えながら
音石はそのままモンモランシーの後を追った。



「……おめぇ一体どういうつもりなんだ?」
「え?」

医務室に向かう廊下の途中、
音石はモンモランシーに自分の疑問をぶつけた。

「普通によぉ、考えてみたって変な話じゃねーか?
ルイズから聞いたぜ?
お前、俺が決闘で半殺しにしたギーシュの恋人らしいじゃねーか
こっちはただでさえその件で学院の生徒連中にびびられてるってのに、
どういうつもりなんだぁ?気味が悪いったらありゃしねぇ…」
「………………………」

その言葉にモンモランシーが黙り込んで足を止めた。
音石もそれに続いて足を止める。
モンモランシーは少しまじもじした様子でそっと口を開いた。

「た、たしかに今のあんたはこの学院のお尋ね者よ!
みんなあんたのことを恐れてるし、
なかにはあんたのことを『貴族の敵だ』って言ってる人もいる……、
私だって……あんたがギーシュを
あんな目に合わせたのは正直言うと、許せない気持ちはある」

すると次にモンモランシーは音石から視線を外し、
照れたような口調で言葉を連ねた。

「………でも、あんたは………あなたは私を助けてくれた。
それに、あなたがギーシュと決闘した理由は
ギーシュに二股の罪を擦り付けられた
給仕を助けるためだってのも知ってます。
だからその……なんていうか………
わ、わたしは……あ、あなたのことを尊敬してるのよ、
貴族とか…平民とか、関係なく………
ひとりの人間として………」

モンモランシーがそう言い終わると
赤くした顔を隠すために前に向きなおり
廊下にあるひとつの扉に入っていった。
どうやらそこが医務室らしい。

「……おれは、誰かに『尊敬』されるような人間じゃない」

モンモランシーに言ったたわけじゃない、
ただ……音石はだれにも聞こえることなく、ポツリと呟いた。
どこか複雑で、どこか悲しさを感じさせるような表情で………。

865反省の人:2011/01/07(金) 17:08:25 ID:PBipDpGY
これで…>>126>>135の勝利だ。

今回はちょっと短めです(決した、ブタだったァーー!!じゃないからな!)

リゾットの鉄の使い魔では リゾットとフーケとの絡みがよかったので
自分もなにか独自のヒロインでも作ろうと思い、
ゼロ魔の女キャラで
一番好きなモンモンランシーと絡ませましたが、かまいませんね!!

でもそうなるとルイズがモンモランシーと口調が被って
ややっこしくなるので、
今回モンモランシーを音石に対してこういう口調に変更しました。

あとね、以前 D0Cの人が大統領がKOFのイグニスに似てるってはなしが
あったじゃないですかァ〜
だったらモンモランシーも「ストリートファイター」の
神月かりんにすんげー似てるジャン!!

866反省する使い魔!:2011/04/10(日) 22:43:23 ID:ZXiG4D3Y
希望が奪われたことにギーシュは泣きそうになった。
いや、これから泣かされるのだろう。
できればその程度であることを願った。

「へ、平民の君が貴族である僕に手を出したらどうなるか
わかっているのか!?決闘のときは運良く問題にならなかったが
今回はそうはいかないぞ!?君がどれぐらい強くても
世界中のメイジが君を追い、間違いなく処刑するぞッ!?」

ギーシュの混乱した様を眺めながら
音石は内心でおおいに爆笑していた。
ギャハはァーーッ!なにもしねぇってのにバカが吠えてやがるぜ!!
音石からしてみればギーシュのその姿は滑稽でしかなかった。
包帯で手足を固定されているためベッドから動くことができず
頼みの綱であった杖も手元になく、ただ自分に威嚇するその姿、
動物園の檻の中で観客に威嚇する小動物、まさにそれである。
音石はそのまま、ギーシュの虚しい威嚇を眺めていると
ある人物が部屋に入ってきた――――――。

「ちょっとオトイシ!やめときなさいよ
さすがにギーシュに悪いわよ!」

治癒のおかげで完全に回復したルイズである。
音石は首だけ後ろに向け、それを確認する。
そのルイズに反応して硬直していたモンモランシーも
別の意味で帰ってきたようだ。
まあ、ルイズがそういうならここらあたりで勘弁してやるか
音石は満足そうに息を吐き、ギーシュから背を向けようとした
しかしまさにその時だった。ギーシュが言葉を発したのは……

「お、おいゼロのルイズ!!
はやくこの使い魔をなんとかしてくれ!!
主人なら使い魔の管理ぐらいちゃんと【グイッ!】ひ、ひィッ!!?」

言葉の途中に音石は瞬発的にギーシュの胸倉を掴みかかった!
そしてそのまま手足の包帯での固定もお構いなしに
ギーシュを無理やり力尽くで自分のほうへと引き寄せた。

「おいテメェ……、マジで入院期間先延ばししてやろうか……?」
「う、……うう、…うああ…あ………」

とうとうギーシュの目から涙が溢れる。
その音石の行動にすぐさまルイズとモンモランシーが止めに入った。

867反省する使い魔!:2011/04/10(日) 22:44:10 ID:ZXiG4D3Y
「なにやってるのよオトイシ!?いくらなんでもやりすぎよッ!?」
「そ、そうよオトイシさん!さっきなにもしないって言ってたでしょう!?」
「てめぇらは黙ってろッ!!!」

【ビクゥッ!!】

音石の怒鳴り声にその部屋にいた全員がびびった!
そこには先程までの年下の小僧に嫌がらせをする大人気ない姿ではなく、
なにか怒りに触れた悪鬼の如き、威圧ある姿があった。

「う、う………ゆ、許してくれ……」

涙で顔を濡らしたギーシュから謝罪の言葉が出る。
しかしその言葉は音石の怒りにさらに触れるだけだった。

「決闘の時もそんなこと言ってたなァ〜〜〜〜、ええおい?
お前は謝ることしかできねぇのか?よぉ、どうなんだ小僧?」
「う………うう…それ以外なにをすれば………
お、お金が……う、う……ほしいんなら幾らでも払う……だ、だから……」
「このボケがァッ!!
金で治まるよーな問題なら俺もここまでマジになりゃしねぇよッ!!
俺が頭にきてんのはな〜、てめぇがやるべきことに気付いていねぇことだッ!!」

胸倉を掴んでいた手を離し、ギーシュをベットに叩きつけた。
ギーシュは喉を押さえて咳き込みながら、
音石を恐る恐る見上げ、そして呟いた。

「やるべき……こと………?」
「……………………………」

音石は何も言わず黙り込んでいる。
聞かずとも自分で考えろ。そう示しているのだろう。
そしてギーシュは考える…………。
一体自分のなにが悪かったのだろう?
二股をしていたこと事態はあくまで自分の個人的な問題に過ぎない。
ならばその罪を無関係な給仕になすりつけたことだろうか?
いや、近い気もするが一番の理由はそうではないような気もする。
考え方を客観的にしてみよう………、
一番重要なのは『目の前の男が何に対して反応した』かだ………。
              ・
              ・
              ・
              ・
              ・
           『ゼロのルイズ』!!

868反省する使い魔!:2011/04/10(日) 22:44:48 ID:ZXiG4D3Y
ギーシュは一気に理解した!
目の前の男はルイズを侮辱したことに怒りを表しているのだ!
だが何故だ?使い魔としての本能がそうさせているのか?
それとも彼の元からの性格がただのお人よしなのか?
いいや、そんなものはどうでもいい!問題はそこではない!!
一番の問題は、自分がルイズを今まで侮辱し続けたことにある!
自分の誇り高き家柄、グラモン家の教訓はなんだ?
薔薇である女性を守る棘であることだろう!?
それなのに自分は今まで彼女になにをしてきた!?
魔法が使えないから!?確かに彼女は魔法は使えない、
だがそれでも魔法が使えるようにと必死で努力している
事実彼女は筆記試験では常にトップだ。
……………だからこそ尚更なのかもしれない。
魔法が使えない故に実技では常にルイズはゼロ点だ。
それに対して筆記試験では常にルイズはマン点だ。
それがものすごく気に入らなかったんだ………、
ゼロに嫉妬している自分に苛立ちを覚えてしまっていたのだ。
自分だけじゃない、ほとんどのクラスメイトがきっとそうだ。
だからみんなルイズを罵倒したのだ、見下していたのだ、
侮辱していたのだ、『ゼロのルイズ』と……………。

869反省する使い魔!:2011/04/10(日) 22:45:37 ID:ZXiG4D3Y
刹那、個室の外の廊下から足音が聞こえてきた。
このタイミングでやってくるような人物は大体予想できる。
扉が開かれる、予想通り医務室専属のメイジの女性だ。

「一体なんの騒ぎですか!?」
「え……あッ!?い、いえ!これは………その…事情がッ……」

ルイズは焦った、自分の使い魔がまた同じ生徒相手に
しかも重症の状態で暴行を働こうとしたなどと
学院側に知られたら今度こそ退学になる恐れがあったからだ。
なんとか誤魔化そうとルイズが必死で思考を廻らせる。

「……いいえ、なんでもありませんよ」

ルイズは自分の耳に届いた声を疑った、
何を隠そう、その声は間違いなくギーシュの声だったのだ。

「お騒がせしてすみません
急に窓から虫が入ってきたので、つい慌ててしまって……」
「む、虫ですか?」
「ご心配なく、もう追い払いましたので……
本当に申し訳ない、ご迷惑をお掛けしてしまい……」

それならいいんですが……、と言い残し
そのメイジの女性は扉を閉め、部屋を後にしていった。
足音が遠退いていくにつれ静寂が部屋を支配する。
しかしその静寂のなか、ギーシュは深く息を吸い、目を閉じた。
そして静かに吸った息を吐き捨てると、開いた彼の目はルイズを見た。

870反省する使い魔!:2011/04/10(日) 22:46:44 ID:ZXiG4D3Y
「な、なによ……?」
「ルイズ……………すまなかった……」
「………え?」

足が動けないせいで
ベットの上で横になっている状態の体を精一杯前に傾け
ギーシュはルイズに向けて頭を下ろした。

「僕は、いままで君に酷い事をしてきた……
だが今更僕がなにを言ったところで、言い訳にしか感じないだろう
いままで君に対しての侮辱してきたのは事実なんだからね……
だが一言、これだけは言わせて欲しい………、本当にすまなかった」
「ギーシュ………」

モンモランシーから彼の名が零れた………。
ルイズ自身もどこか複雑な表情を浮かべながら、
何を言うべきか考えているといったところだろう。

(ここまでくりゃあ、後はこいつら自身の問題だな
せいぜい達者にやんな、時間はたっぷりあるんだからよ)

自慢の長髪をなびかせながら、音石は静かにその個室を後にした。
医務室を出る途中にキュルケたちに何があったのか質問されたが、
音石は「でけぇお邪魔虫が部屋を出て行ったんだよ」とだけ述べ
扉を開き、そして閉め、医務室を後にしていくのだった…………。




「な、なによ……?」
「ルイズ……………すまなかった……」
「………え?」

足が動けないせいで
ベットの上で横になっている状態の体を精一杯前に傾け
ギーシュはルイズに向けて頭を下ろした。

「僕は、いままで君に酷い事をしてきた……
だが今更僕がなにを言ったところで、言い訳にしか感じないだろう
いままで君に対しての侮辱してきたのは事実なんだからね……
だが一言、これだけは言わせて欲しい………、本当にすまなかった」
「ギーシュ………」

モンモランシーから彼の名が零れた………。
ルイズ自身もどこか複雑な表情を浮かべながら、
何を言うべきか考えているといったところだろう。

(ここまでくりゃあ、後はこいつら自身の問題だな
せいぜい達者にやんな、時間はたっぷりあるんだからよ)

自慢の長髪をなびかせながら、音石は静かにその個室を後にした。
医務室を出る途中にキュルケたちに何があったのか質問されたが、
音石は「でけぇお邪魔虫が部屋を出て行ったんだよ」とだけ述べ
扉を開き、そして閉め、医務室を後にしていくのだった…………。

871反省する使い魔!:2011/04/10(日) 22:48:05 ID:ZXiG4D3Y
時は流れ夜、眩しい夕日の光もとうの昔に沈んでいき
空に浮かぶ二つの月が神秘的な輝きを発している。
そんな月の光に浴びながら、音石は目を覚ました。
医務室を後にしたあと、特にやることもなかったので
部屋に戻り昼寝をしていたのだ。当然藁の上で。

「あーあ……、ヒデェ中途半端な時間に起きちまったな…」

確実に狂ってしまっている自分の睡眠の習慣に頭を抱える
外の静けさから考えて、学院の生徒たちもとっくに夕食を終え
部屋に戻って寝静まり始めているくらいの時間だろう。
少し遅くはあるがシエスタに頼んでメシを恵んでもらおうかなと考えていると
壁に掛けてあったデルフリンガーが突然話しかけてきた。
ついでにその隣では音石のギターが掛かっている。

「気分が最悪のお目覚めだな相棒、どうだ気分は?」
「てめぇ自身が最悪だって言っといて喧嘩売ってんのかコラ」
「冗談だよ冗談、そんなに睨まねぇでくれよ、
でもよぉ、剣の俺様が言うのなんだが
そんなんなるんだったら最初っから昼寝なんてしなきゃいいだろうよ」
「眠くもねぇのに無性に寝たいって気分があんだよ
たくっ、これ俺夜寝れんのかねぇ〜?」

【コンッコンッ】

音石とデルフリンガーの何気ない会話の最中、誰かが扉をノックした。

「あン?だれだよ?ルイズなら今いねぇぞ」

誰かわからないがわざわざ扉を開けるのも面倒なので
音石は扉越しに声をかけた。しかし帰ってきた言葉から、
訪問者が意外な人物だというのが判明した。

「私だオトイシ君、コルベールだ。
夜分遅くにすまない、君に用があるんだ」
「なにぃ〜〜?」

訪問者はなんとコルベールだった。
それがわかると音石は藁から立ち上がり、すぐさま扉を開けた。
それと同時に、部屋から差し出す月の光が扉を開けた先にある
『とあるモノ』によって反射し音石の目を刺激した。

872反省する使い魔!:2011/04/10(日) 22:48:56 ID:ZXiG4D3Y
「目…目がくらむッ!げ…限界なく明るくなるゥ!」
「……………なにか言ったかね?」
「あ、いや、なんでもないッス」

つい口が滑った発言にコルベールの嫌な視線を向けられたが
音石はすぐさまそっぽ向くことによってその視線を受け流した。
そして何事もなかったようにコルベールに質問する。

「召喚されと日の時といい、また俺になんか用ッスか?」
「いや、今回は学院長の頼みで君に会いに来たんだよ
詳しいことは私の研究室で話をしたいんだが…………
ミス・ヴァリエールはいないのかね?」
「あの爺さんからの頼みで?
…………いいッスよ、特に今やることもないんで。
ルイズもまだ帰ってきてねぇし、丁度いいでしょう?」
「ふむ、それはよかった
では案内しよう、私についてきてくれ」

(あの爺さんからの頼みってコトはおそらく
スタンド使いに関すること、あるいは地球の手掛かりがあるってことか?
だがそれにしたって早すぎねぇか?頼んだのは今日の昼だぞ?
それに学院長室じゃなくこの先生の研究室ってのも妙だ、
………なにか……あるのか?この学院に、こんなすぐ傍に、
スタンド使いか、地球に関する手掛かりかなにかが………)

自分のなかに渦巻く疑問を胸に、音石はコルベールの後にを追うため
留守番をデルフリンガーに任せ、ギターを手にルイズの部屋を出て行った。



コルベールの後についていく内に音石は塔と塔に挟まれたいっかくにある
小汚い掘っ立て小屋に辿り着いた。

「これが………研究室?」

音石の呆然とした声にコルベールは苦笑した。

873反省する使い魔!:2011/04/10(日) 22:50:36 ID:ZXiG4D3Y
「はははっ…、以前はちゃんとした部屋があったのだがね
薬品などの臭いが理由で場所を移されてしまったのさ」
「はっ、随分優遇されてるなアンタ」
「君は嫌味で言っているんだろうが、実際そうなのかもしれない」

コルベールが扉を開き中に入り、音石もその後に続いた。
まず目に入ったのは薬品のビンや試験管、さまざまな実験器具だった。
壁は書物の詰まった本棚に覆われ、
蛇や蜥蜴や得体の知れない生物が檻に入れられている。
そして次に音石が感じたのは強烈な刺激臭だった。

「うあァ、こりゃ追い出されても文句いえねーわ」
「なぁに、これぐらいの臭いすぐに慣れるさ
しかし、ご婦人方には慣れるということはないらしく
私はこの通りまだ独身だがね」

コルベールは慣れた表情で言うが、音石はそうはいかない。
ある程度の臭いは刑務所で多少慣れてはいるものの、
この研究室に漂う臭いはそれはまた別の臭みをもっていたため、
音石は自分の顔の前を手で振り払う仕草を示した。

「それでっ?どんな用件なんッスか?
人をわざわざこんなところまで連れてきて」
「こんなところとは酷いじゃないか、
しかしそう言われても文句は言えないね
とりあえず本題に入ろう、実はオールド・オスマンから
君にあるモノを見せて欲しいと頼まれたんだよ」
「……ここに連れてきたってことは、
ここにそのあるモノってのがあるってわけかい?」
「さすがに察しがいいね、そして学院長から聞いたよ
君がこのハルケギニアとは違う別の世界から来たということも」
「げっ!?あのジジィしゃべりやがったのかよ!!」
「ああ、だが勘違いしないでほしい。
私が聞いたのはあくまで君が異世界の住人だということだけだよ
それ以上のことは聞いていない。君の不思議なチカラのこともね
仮に聞いたとしても、私はそれを他人に話すつもりはないよ
当然、君が異世界の住人だということもね」

コルベールはそう言うが、それでも音石は苦い表情を浮かべた。
あの学院長が話す程の相手ならそれなりに信用性はあるのだろうが
やはりどちらかといえば複雑な気分があった。

874反省する使い魔!:2011/04/10(日) 22:52:08 ID:ZXiG4D3Y
「だと嬉しいんだがなァ〜、
ていうかアンタ、俺が異世界の人間だってのにえらく冷静だな
それ以前に信じてんのかよ?こんな突拍子もない話」
「もちろん驚いたとも、しかしそれと同時に納得もした。
いままでの君の行動、その服装、見たことない楽器、
すべてハルケギニアの常識を覆しているからね。実に興味深いよ」
「あんた変わり者って言われたことないか?
あっ、図星だな?めちゃくちゃ顔に出てるぜ?
そんなんだからいい歳ぶっこいて独身なんだよ」

いつの間にか音石のコルベールに対しての言葉遣いが荒くなっていた。
ある意味これは秘密を知るもの同士の親近感を表しているのだろう。

「ゴホンッ!私のことはどうだっていい
話がそれてしまったが、君に見せたいあるモノというのが
…………これなんだよ」

コルベールが研究所の奥から、キャスター付きの机を持ってきた。
その机の上には何かが黒い布で覆いかぶされていた。
なんだこりゃ?と音石は疑問を感じた。
しかしコルベールがその布を引っ剥がした瞬間、
その疑問は…………驚愕へと変わった!

「………ばかなっ!?おいおいタチの悪い冗談だろ?
なんで………、なんだって『コレ』がここにあるんだ!!?」

875反省する使い魔!:2011/04/10(日) 22:54:04 ID:ZXiG4D3Y
時間は少しさかのぼり、
ルイズは今、食堂でキュルケ、タバサと一緒に夕食をとっていた。
そしてルイズはキュルケとタバサに医務室での出来事を話していた。

「へぇ〜、前々から思ってたけど
オトイシって結構やること容赦ないのね、
傷もまだ完治していないギーシュに掴みかかるなんて」
「………でもある意味、彼らしいといえば彼らしい」
「ふふっ、確かにそうかも♪
………それでルイズ?結局ギーシュのことは許してあげたの?」

キュルケの質問にルイズは食事の手を止め、
難しそうな表情を浮かべた。

「正直………なんとも言えなかったわ、
ギーシュはああ言ってくれたけど………ギーシュが今まで
わたしのことを侮辱してきたのは紛れもない事実だもの……
ギーシュ自身が言ってたようにね、
…………だから…………なんとも言えなかった」

重い静寂な空気が流れた。とても気まずく、とてもぎこちない空気、
しかし間もなくしてその空気の中で
キュルケがグラスに入ったワインを
口に軽く流し込んだのに続いて言葉を発した。

「だったら……それでいいんじゃない?
ギーシュが本気であんたにしてきたことを『反省』してるのなら
これから先、あいつの行動がそれをあらわすはずよ」
「それこそ……あなたの使い魔のように……」

キュルケに続いてタバサまでが言葉を並べた。

「……………なんかさ……」
「「?」」
「あんたたちがなんで親友同士なのかちょっとわかったような気がしたわ
だって、息がピッタリなんだもの」

その言葉にキュルケは笑い出し、ルイズもそれにつられて笑った。
そしてタバサも……その小さな口が薄く笑みを浮かべてるように見えた。

876反省する使い魔!:2011/04/10(日) 22:55:06 ID:ZXiG4D3Y
夕食を終えると生徒たちは自分の部屋に戻り寝静まっていく、
しかしルイズたちは寮から少し離れた広場にいた。
ルイズの魔法の練習が目的だ。しかもそのために
キュルケとタバサに協力を求め、キュルケたちもそれに承諾した。
タバサならともかく、ルイズがあの犬猿の仲だったキュルケに
こんなことを頼むなど、少し前の彼女なら考えられないだろう。
もちろんキュルケだって同じことだ。
ある意味これも音石明という男に関わったことによる
二人の変化………いや、成長なのだろう。
だが実際は…………、

【ドゴォォォンッ!】

「だからちがうでしょうヴァリエール!
この魔法での詠唱はそうじゃなくてっ!」

とキュルケが説教をし、

「だからちゃんとその通りにしてるって言ってるでしょう!?」

ルイズが抗議し、

「…………………………」

タバサが黙って本を読む、……………の繰り返しである。
実はその口論の最中に音石とコルベールが研究室に向かって
ルイズたちと入れ違いになったというのは誰も知る由もない。

「でもなんで詠唱も杖の振り方も完璧なのに
爆発ばっか起こんのよっ!!ホントわっけわかんない!!」
「そんなの私に聞かれても知るわけないでしょヴァリエール
ほら!もう少し付き合ってあげるからがんばって………」

【ドオォンッ】

「「「!!?」」」

キュルケが喋っている最中に突然どこからか轟音が響いた。

「なんなの今の音!?
ルイズ、あなた杖を振った?」
「振ってないわよ!
『大きな音=わたしの魔法』って認識しないでよね!!」
「あそこ」

877反省する使い魔!:2011/04/10(日) 22:55:53 ID:ZXiG4D3Y
タバサが冷静に、学院の中央塔の方角を指差した。
その指の沿ってルイズとキュルケも中央塔を見ると
10m以上はある巨大な何かが蠢いていた。
夜の暗闇でよく見えなかったが、目を凝らしてみると
徐々にその何かの正体が明らかとなった!

「あれは………ゴーレム!?なんて大きさなの!!
それにあんなところで一体なにを………」

キュルケが驚愕の声をあげるが、
頭の中では自然に状況の分析が行われていた。
そしてその分析の中で『ある人物』の名前が浮かび上がった。
しかしその名を口にしようとする前に
親友タバサに先にその名を出されてしまった。

「『土くれ』の……フーケ…」
「フーケッ!?最近このあたりを荒し回っている盗賊じゃない!!」

一人だけ分析に遅れていたルイズが
キュルケと同じような驚愕の声を上げた。
しかしそれでもキュルケに引きをとることもなく
すぐさま次なる状況分析結果に辿り着いた。

「まさか宝物庫の宝を狙ってるんじゃ!?」
「おそらくその通りでしょうね、
さっきの大きな音………きっと宝物庫の壁を攻撃した音だわ。
でもまぁ随分とナメられたものね、
あんな堂々と大胆に学院の宝を盗もうとするなんて………
タバサ、急いで先生たちに………」

タバサに視線を向け、指示を送ろうとしたとき
キュルケはあることに気付いた。
さっきまで自分の隣にいたルイズがいなかったのだ。
まさか!と思い、キュルケは視線を前方の塔の方角に移した。
予想した最悪の通り、ルイズがゴーレムに向かって走っているのだ!

「ルイズ!なにをするつもりよ!?危険よ!!」
「先生たちを呼んでいたら逃げられるでしょう!!
フーケはわたしが捕まえて見せる!!」
「そんなの無茶よ!!あなたもわかってるでしょうルイズ!?
あんな巨大なゴーレムを作り出せるなんて
フーケは相当腕の立つメイジの筈だわ!!」

キュルケがいくら叫び止めようと、ルイズにも意地があった。
キュルケの言葉に耳を傾けることなくゴーレムに向かっていった。

「このままじゃルイズが危険だわ!
急いで追うわよタバサッ!!
もうっ!ルイズッたらほんっと手間かけさせるんだか!!」

その言葉を合図にキュルケとタバサは走り出した!
そしてタバサは走りながら口笛を吹くと空から月をバックに
風竜シルフィードが姿を現し、キュルケとタバサの横に近寄り
低空ギリギリを飛行する。そして二人は空飛ぶ魔法『フライ』を唱え
シルフィードの背中に飛び乗り、塔の方角へと駆けていった。

878反省する使い魔!:2011/04/10(日) 22:56:36 ID:ZXiG4D3Y
そしてそのゴーレム自身は再度腕を振り上げ、全体重をかけて
宝物庫の壁に巨大な腕のパンチをぶつける。
しかしヒビも入らなければビクともしないその現実に
ゴーレムの肩に乗りマントで顔と体を隠しているフーケが一番苛立っていた。

「くそったれっ!硬いッたらないねぇホントにっ!!
あの禿げ、なにが外側の物理的衝撃には弱いよっ!!
外が『禿げてる』なら中も『剥げてる』ってことだねまったく!」

【ドゴォンッ】

「っ!?爆発!?一体どこの命知らずだいっ!!?」

突如自分のゴーレムの脇腹部分が爆発によって軽く削り取られた。
巨大なゴーレムに乗っていたせいで気付かなかったが、
よく見ると自分のゴーレムの足元に誰かがいた。

「『土くれ』のフーケ!
これ以上、神聖なる学院で好き勝手にはさせないわ!」

しかしとうのフーケは相手がルイズだと認識すると鼻で嘲笑った。

「はっ!だれかと思えば落ちこぼれの『ゼロ』のルイズじゃないか
驚かせんじゃないよ!
あんたごとき『障害』と呼ぶ以前に論外なのよ!!」

距離があるせいか、ルイズもフーケも互いに
相手の声が聞こえることはなった。
しかしフーケのゴーレムはルイズを攻撃しようとせず
再び宝物庫の壁に向けて腕を振り上げようとした。
その行動にルイズは自分が相手にされていないことに気付いた。

「わたしなんて相手に眼中にないってことっ!?舐めないで!
由緒正しきヴァリエールの血統のおそろしさ、
思い知らせてやるんだから!!」

ルイズが再び杖を振り上げようとしたとき、
自分の頭上にタバサのシルフィードが通ったのに気付いた。
よく見るとシルフィードの背中にはキュルケとタバサが乗っている。
しかし今はそれどころじゃない、
ルイズは再び目の前のゴーレムに視線を戻した。

879反省する使い魔!:2011/04/10(日) 22:57:28 ID:ZXiG4D3Y
「タバサ、はやくルイズをゴーレムから離れさせないと
あのままじゃ危険だわ!」

シルフィードに跨ったままキュルケは現状を把握していった。
もちろんタバサも同じことだ。
しかし状況はそう簡単なものではなかった。
それを理解していたタバサは冷静にキュルケに伝えた。

「彼女を無理やり引き離すなら、『フライ』を使わないといけない」
「じゃあはやくそうしましょうよ!」
「落ち着いて。そうしたいのは山々だけど
簡単にはいかない、飛行している私たちと彼女との距離は
『フライ』の範囲外、近づこうとすれば間違いなく
フーケのゴーレムが攻撃してくる」

迅速かつ簡潔な説明にキュルケは歯を強く噛んだ。

「じゃあ一体どうすれば……」
「幸い、フーケは彼女を敵と認識していない
でもいつ攻撃されても人質にされてもおかしくない
今は無闇に攻撃するのはかえって危険」

せっかくわざわざ危険を冒してゴーレムに向かったというのに
手も足も出ないなど屈辱意外何者でもなかった。

そしてフーケも竜に乗ったふたりが攻撃してこないことでそれに気付いた。

「はっ、どうやら『ゼロ』のルイズのおかげで
余計な邪魔が入らずに済んだみたいね…………でも……」

【ドォォンッ】

フーケが乗っているゴーレムの肩の反対側の肩が爆発した。

「もうっ!なんでそっちで爆発するのよ!
反対よ!逆よ、逆!!」

ゴーレムではなく本体のフーケを狙って魔法を発動したが
なんの嫌がらせか反対側で爆発した自分の魔法を起こした
手に持つ杖に向かって、ルイズは惜しむ声を上げた。
だがその行動が命取りとなってしまった!

880反省する使い魔!:2011/04/10(日) 22:58:24 ID:ZXiG4D3Y
危うく自分が爆発に巻き込まれそうになったことに
危機感を覚えたフーケが、標的をルイズに移したのだ。
壁を向いていたゴーレムがゆっくりとルイズのほうに体を傾けていく。
それにいち早く気付いたのはキュルケたちだった。

「まずいわ!ルイズを攻撃しようとしてる!
タバサ、こうなったら一か八かの賭けに……」
「待って……」

焦るキュルケにタバサは静止の声をかけた。

「なにか……聞こえる……」
「え?」

【………ブゥ……ゥウ……………ウ……】

「なに………この音?」

珍しくタバサが不思議そうな声をだした。
二人はシルフィードに乗りながら辺りを見渡した。
しかし暗闇で何も見えはしない。
微かに聞こえる音もなぜかそこらじゅうから聞こえるような気がした。
もちろんこの音にフーケもルイズも気付いた。

「い、一体なんだいこの音は?」
「…………………?」

ルイズが無言のままキュルケたちのように辺りを見渡す。
しかしすぐにその視線はゴーレムのほうに戻った。
目の前のゴーレムが自分に向かって拳を振り上げているからだ。

「ちっ!なにかは知らないけど、
耳元でハエがさえずっているようでイライラするったら
ありゃしないね、この苛立ちをアンタにぶつけてやるわ!!」
「ルイズッ!お願いにげてぇっ!!」

キュルケの願望も虚しく、
ルイズはゴーレムを前に勇気を振り絞って、誇りをかけて
ゴーレムに向かって杖を振りかざした。
ルイズにとってこれが最後のチャンス、
呪文を口で唱え、魔法の名をゴーレムに……
フーケに向かって吐き出した!

「ファイヤーボールッ!!」【ドゴォオンッ】

…………最後の足掻きは虚しく宝物庫の壁へとぶつかった。

881反省する使い魔!:2011/04/10(日) 22:58:57 ID:ZXiG4D3Y
【ドゴバァンッ!】

「な、なにぃっ!?」
「えっ!?」

だが次の瞬間、
なんと振り上げられていたゴーレムの腕が粉々に粉砕していった!

「なっ、あいつの爆発は間違いなく壁に当たったのに
なんであたしのゴーレムの腕が粉々に………ッ!?」

【ブゥウ……………ウウウゥ…………】

「はっ!またこの音!!
さっきから聞こえるこの音は一体なんだってんだい!?
一体どこから聞こえ…………」

一瞬、フーケは自分の横を何かが横切ったのを感じた。
咄嗟に視線を向けてもそこにはなにもありはしない。
だが自分の横に間違いなく何かが横切った………、
そして気付いた。この音…………はじめはどこか遠くからかに
聞こえてくる音だと思っていた。だが実際はそうじゃなかった。
自分の耳が……脳での認識が、その音に追いついていなかったのだ。
『ソレ』が……あまりにも高速でゴーレムの周りを飛び回っていたから……

「タ、タバサッ………あ、あれって……?」

上から見ていたキュルケたちもようやく
『ソレ』を認識することができた。
だが認識したことによって二人の混乱は増すばかりだった。
そしてタバサの口からぽつりと言葉が零れた………。

「鉄の……竜の子供……?」


「な、なんなのよあれ!?
あんなの……今まで見たことがないわ……」

ゴーレムの足元でルイズが唖然として立ち尽くし、
視認した『ソレ』を目で追っていた。
すると空飛ぶ『ソレ』が再びゴーレムに急接近すると、
あるもの飛び出してきた。『光る腕』だった!

「あ、あの腕!あれってまさかっ!!」

882反省する使い魔!:2011/04/10(日) 23:00:17 ID:ZXiG4D3Y
その光る腕は強烈なラッシュをゴーレムの腹部に炸裂した!
ラッシュによって抉られた腹部の影響で
ゴーレムは大きくバランスを崩した。
不安定に全体がぐらぐらと揺れている。

「うっ……ッ!くそっ、なんだってんだいあれは!?」

フーケはすぐさま杖を振り、抉られたゴーレムの腹部を修復し、
体勢を立て直すと、すかさず空飛ぶ『ソレ』に向けて
ゴーレムで攻撃させたが…………

(は、速いッ!?)

『ソレ』の驚異的な速さにフーケは肝を冷やした。
ゴーレムの攻撃を回避した『ソレ』は一旦距離をとった。
するとルイズたちの耳につい最近聴き慣れた音が鳴り響いた!

ドギュウァーーーーーーーーーンッ!!!

音が鳴ったのはルイズの後方!
その場にいた全員がその方向に目を向けた。
そこに居たのは、ギターを構え、特徴的な長髪と
顔に大きな傷のある青年!ルイズの使い魔!!

「オトイシッ!!」
「On、YEAH!!」

883反省する使い魔!:2011/04/10(日) 23:02:42 ID:ZXiG4D3Y
数分前、コルベールの研究室にて。

「なんだって『コレ』がここにあるんだ!!?」
「……………やはりコレを知っているんだね
オトイシ君、私はめずらしい噂や情報を耳に入れると
よく休暇をとって研究しに行ったりしているのだが………
これはその中で一番興味深い代物だよ、
数ヶ月ほど前のことなのだが……ある田舎の村で
『奇妙な鉄の竜の子』が拝められているという情報を耳に挟んでね
非常に興味深かったので、実際に見に行ってみたら
私の中の研究意欲を最高に刺激してね、村人たちに頼んで
譲ってもらったんだよ、私の財産の四割程が消し飛んだがね。
それから色々と研究してみたのだが、いっこうに謎ばかりだよ。
だがこのハルケギニアで作れるような代物じゃないこと理解できる。
そして君は異世界の住人、私も………学院長も………
これは君の世界から来たモノなのではないかと予想しているんだよ」
「………ああ先生、あんたの言うとおりだよ。………こいつは…」

【ドオォンッ】

「!?」
「な、なんだ今の音はッ!?」

コルベールは素早い動きで研究室から飛び出すと
音石もそんな彼の後に続いて外に飛び出した。
そして二人の目に入ったのは本塔の前に蠢いている
巨大なゴーレムだった。

「な、なんだありゃ!?」
「ゴーレムだよ!それにあの大きさ、相当腕の立つメイジの仕業だ
おそらく『土くれ』のフーケだ!」
「誰だそりゃ?」
「貴族を相手に盗みを働く盗賊だよ、
最近トリスティンにも現れはじめたとは聞いていたが
まさかこの学院をねらってくるとは………ハッ!?」

するとコルベールはその巨大なゴーレムに走り向かっていく人影に気付いた。

「あれは………ミス・ヴァリエール!?
まずい、彼女はフーケを捕まえるつもりだ!!危険だッ!!
急いで止めないと取り返しが付かなくなる!!」

コルベールがルイズを止めるため、駆け出そうとしたが
肩をグッと音石につかまれ静止された。

884反省する使い魔!:2011/04/10(日) 23:03:58 ID:ZXiG4D3Y
「あんたは学院長のジジィにこのことを伝えなよ!
ルイズは俺がなんとかする、フーケもその間足止めしといてやるよ」
「だ、だが!いくら君でもあれだけ巨大なゴーレムが相手では………」

コルベールが音石の方へと向くと、音石の手には
先ほど見せた『ソレ』が脇に抱えられていた。

「きみ………それは………」
「まあ、確かに普通じゃ厳しいだろうーな…
だが『コイツ』があるんだったら……勝算はあるかもな!」

そう言って音石はルイズを助けるために駆け出した!
そしてルイズを助けるために己が分身の名を叫ぶ!

「レッド・ホット・チリ・ペッパー!!
そして飛べェッ!『ラジコン飛行機スピットファイヤー』!!」




そしてゴーレムに攻撃されそうになった
ルイズの危機を音石は見事に救った!!

「よ〜うルイズぅ、随分と無茶やってんじゃねぇか?
まあ後は任せろよ、なんで三年前に俺がジョセフを殺すために
使おうとしてた『ラジコン飛行機スピットファイヤー』が
この世界に来てるのかは理解できねぇが…………
まあ、せっかくだぁ。三年前あんまり使ってやれなかった分……
思う存分暴れさせてやるぜぇっ!!」

ギュアァアーーーーーーーーーーンッ!!

【ブウゥゥゥゥゥゥゥゥンッ】

ギターの音を響かせ、ラジコン飛行機の機動音が鳴り響く!
スピットファイヤーinレッド・ホット・チリ・ペッパーは
フーケのゴーレム目掛けて飛来していった!!

885反省の人:2011/04/10(日) 23:08:29 ID:ZXiG4D3Y
お久しぶりです!
車の免許取りに行くため合宿してたら
投稿がめちゃくちゃ遅くなりました!もっと速く投稿できたんですけど
ギーシュとの会話あたり会話の流れにいろいろ悩まされてしまいましてね…

医務室とかの構造もいろいろ調べたんですが全然わからなかったから
自分なりに適当に捏造しましたがかまいませんねッ!!

886名無しさん:2011/04/10(日) 23:15:55 ID:DN/eWdEw
さるさん食らったのか

887反省する使い魔!:2011/06/20(月) 00:32:17 ID:L3NrDSp6
「いっててぇぇぇっ!!?いきなりなにすんだコラァッ!!」
「ソレはこっちの台詞よぉ!ご主人様に対してなんて事すんのよっ!!
助けてくれたことには感謝してるけど、もっとマシな方法なかったの!?
あの持ち方!!もう少しで首が絞まるトコだったじゃない!!」
「おいバカ!杖をこっち向けんなって!あーするしかなかったんだよ!
仮にマントじゃなく腕や脇から持ち上げたりしたらその長い髪が
あのスピットファイヤーのプロペラに巻き込まれかねねぇだろうがっ!」
「ハッ!そうよオトイシッ、説明しなさい!
あれは一体何なの!?もしかして竜の子供!?」

オトイシとの会話中にルイズは自分の中にある一番の疑問に気付き、
その疑問にむかって怒鳴るように指差した。

888反省する使い魔!:2011/06/20(月) 00:32:59 ID:L3NrDSp6
「竜の子供だぁ?そんなんじゃねぇーよぉー、
『スピットファイヤー』
イギリスのスーパーマリン製単発レシプロ単座戦闘機
大戦時にはイギリス空軍をはじめとする連合軍が使用していた戦闘機で
ロールス・ロイス製の強力なエンジンを搭載、空気抵抗も少なく
その性能はその手のレースで三度も優勝してるほどの優秀さを誇る。
主任設計技師であるR.J.ミッチェルとジョセフ・スミスを
始めとする後継者たちによって設計され、パイロットたちの支持も厚く
1950年代まで23,000機あまりが生産され
さまざまな戦場で活躍した…………そのラジコンバージョンだ」
「……………ごめん、あんたが何を言ってるのか理解できないわ」
「………………………………まあいい、話は後だ
今重要なのはあの盗賊フーケなんだからな〜〜〜」

巨大なゴーレムを眺めながら音石は勝利の確信の笑みを浮かべるが
ルイズは対照的にどこか腑に落ちない顔をしていた。
しかし音石の予想通り、フーケにとってこの状況は
非常に不味いものだった。

889反省する使い魔!:2011/06/20(月) 00:33:53 ID:L3NrDSp6
「まずい、非常にやばいわね
アレが何かは検討も付かないけど、あの使い魔は厄介だわ
しかも制空権を完璧に向こうに取られてる………
あの使い魔が操ってる思わしき鉄の子竜、そしてもう一人、
さっきから距離をとってこっちの様子を伺ってるあの風竜……」

フーケは首を上に傾け、タバサとキュルケを乗せたシルフィードを睨んだ。

「多少の邪魔は想定内だったけど、竜が二体なんて反則だよ!
『フライ』を使って飛んで逃げることもできやしない!」

苛立ちを隠せないフーケだったが、自分の中で無理やり心を落ち着かせ
状況整理と作戦を冷静に練り始める。

(これ以上グズグズしていられない!
いずれ学院長や教師連中がやってくる、
その前にこの状況を打破しなければ………ッ!
しかしどうする!?連中はこっちの時間が少ない焦りを利用して
距離をとってやがるし、ゴーレムを操る魔力もそろそろ限界に来てる
考えろ!なにか策があるはず………………ッ!?)

890反省する使い魔!:2011/06/20(月) 00:34:23 ID:L3NrDSp6
思考を張り巡らしているうちにフーケはあることに気付いた。
自分と対峙している竜たちが一向に自分に攻撃してくる様子を
見せていないのだ。まさか!と思い、フーケは咄嗟に音石を見た……。
かなり距離が離れているはずなのに、フーケにはそれがはっきりと見えた。
笑っていた。音石のその表情がすべてを悟っていた!

(降参を誘っているつもりかいッ!!?
こっちの不利な状況を理解して……ッ!舐めやがってッ!!
この『土くれ』のフーケをここまでコケにしやがるなんてっ………!!)



ギュゥィィイイイイイイアァァァァンッ!

音石は愛用のギターを絶好調に響かせた。

891反省する使い魔!:2011/06/20(月) 00:35:05 ID:L3NrDSp6
「ハッハァーッ!よかったなぁルイズ!
コレでお前は明日から英雄だぜ、より胸はって学生生活も送れるってわけだぁっ!
実家で病弱だっていうお前の姉貴も喜ぶぜぇっ!ギャハハハハッ!!
よっしゃあせっかくだぁ、なにか弾いてやるからリクエストしてみろよ!
おっとしまった、この世界の住人のお前じゃリクエストなんて無理だな
仕方ねぇな、だったら俺が選曲して聞かせてやるぜっ!
そうだな……………よしっ!
『エアロスミス』の『WALK THIS WAY』あたりでも…………」

(たしかにオトイシの言う通り、この状況は圧倒的にこっちが有利……
でもなんなの!?さっきからわたしのなかで渦巻いている
このモヤモヤ感は!?いやな予感がしてならない………ってこと?)

未だルイズが不安を隠せないことも気付かずに、
いつの間にか音石はルイズの隣で………
ズッタンッズッズッタン!と勝利の確信に酔い踊っていた。

892反省する使い魔!:2011/06/20(月) 00:35:38 ID:L3NrDSp6
「なっ!?この『土くれ』のフーケを前にして踊ってやがるッ!?
なんてムカつく奴なんだい!思えばあいつの登場で
なにもかもぶち壊しだよっ!
当初の目的だった宝物庫の宝も結局取れまず仕舞い………え!?」

一瞬宝物庫の壁に目を向けたとき、フーケは目を疑った。
なんと壁に『ヒビ』が入っていたのだ!
ばかなっ!さっきまでいくらゴーレムで攻撃しても駄目だった
壁にどうして今になってヒビが!?とフーケは疑問に思ったが
その原因であるべき正体を思い出した。

「まさか………、あのゼロのルイズがさっき放った爆発でッ!?」

ますます理解不能だった、なぜあのゼロの失敗の爆発でこの壁が?
しかし、これは二度とないチャンスであるという事実が
そんな疑問を掻き消した。
そして閃いてしまった、この状況を打破する策を………!

「アンタにはもう少し働いてもらうよ!!」

フーケは杖を振り、ゴーレムを再び動かし始めた。
ソレを見た音石が踊りと演奏を止め、行動に移った。

893反省する使い魔!:2011/06/20(月) 00:36:09 ID:L3NrDSp6
「ゴーレムを動かしやがったか、
その行動………、殺されちまっても文句はねぇモンだと判断するぜっ!」

音石はシルフィードを操っているタバサを見てアイコンタクトを送る。
それを合図にスピットファイヤーとシルフィードは
ゴーレムに向かって飛来していった。
ただ一人、自分がなにもしていないことに気付いた
ルイズは精一杯の手助けをと思い、音石アドバイスを送った。

「オトイシ!ゴーレムの肩に乗っているフーケ本体を狙うのよ!
そうすればあのゴーレムは動かないわ!!」
「それぐらいは言われなくたってわかってるぜぇルイズ!
そこらへんの原理はスタンド使いと一緒だからなぁ〜!!」

(お願い!わたしのなかのこの予感が、どうかわたしの勘違いであって……!)

ルイズは自分の胸に手を当てて、祈った。
生命の予感や察知とはなんとも不思議なものだ。
自分の身にナニかが迫ると無意識のうちに自分の中でそれを感じ取る、
犬や猫などが、飼い主が帰ってくること時にソワソワするのと同じだ。
ルイズは正確にその嫌な予感を的中させてしまった。
なぜなら、その嫌な予感の元凶を作ったのがルイズ本人であるのだから………。

894反省する使い魔!:2011/06/20(月) 00:36:49 ID:L3NrDSp6
フーケのゴーレムがスピットファイヤーたちを無視して、
宝物庫の壁に拳を飛ばし、なんと壁を粉砕してしまったのだ!

「ナニィッ!?」「そんなっ!?」

音石とキュルケの驚きの声が重なった。
壁がえぐれた部分にゴーレムの肩に乗っていたフーケが飛び移った、

「まずいわ!宝を盗まれてしまうわ!」

キュルケがバッと音石にアイコンタクトを送った、
えぐれた壁の隙間に入っていったフーケを攻撃できるのは
音石が操るスピットファイヤーしかないと判断したからこその合図だ。
音石もそのキュルケの合図には気付いていたが、
一方でゴーレムのある変化にも気付いた。そして驚愕した!

「タバサァッ!!ゴーレムに近づくんじゃねぇっ!!
こっちに向かって倒れて来てるぞぉ!!」

895反省する使い魔!:2011/06/20(月) 00:37:49 ID:L3NrDSp6
それを合図に、シルフィードとスピットファイヤーはすぐさま真上に上昇したが、
30メートル近くあるゴーレムの転倒の衝撃は並なものではない。
凄まじい砂煙が広範囲に広がり始めていった。
地上にいる音石とルイズがそれに巻き込まれはじめたのも当然のことだった。

「伏せろルイズッ!絶対に目をあけるんじゃねぇぞ!!」
「きゃあぁぁぁぁっ!!」

咄嗟の行動だった、目の前まで迫ってきている砂塵に襲われる前に
音石はルイズのマントを引っぺがし、彼女を片手で抱き寄せると
体の体勢を低くし、引っぺがしたマントを二人の体を覆うように被り
迫り来る砂塵を受け流した。

【ビュオオオオォォォォォォ……………】




「オトイシくん、大丈夫かい!?」

896反省する使い魔!:2011/06/20(月) 00:38:26 ID:L3NrDSp6
マントを覆い被って数分、遠くから聞こえるコルベールの声が聞こえ
音石は覆い被っていたマントから顔を覗くと、
コルベールとオールド・オスマンがこっちに向かってきていた。
そのほかにも大勢の教師や生徒、衛兵がぞろぞろとやってきていた。

「………ふう、おらよルイズ。マント返すぜ
砂埃だらけだが、洗えば取れるよ」

ルイズは「ありがとオトイシ」と礼を言ってマントを受け取ると、
すぐさまオールド・オスマンたちのもとへと駆け寄った。

「ほっほ、ミス・ヴァリエール。
随分と無茶したようじゃが、怪我はないかの?」
「お気遣い感謝いたしますオールド・オスマン
ですが大丈夫です、私の使い魔が守ってくれましたから……」

その時一瞬、ルイズは軽く頬を染め誇らしそうな顔をすると
すぐにまたスイッチを繰り返した。

「それよりも学院長!たった今緊急事態がッ!」
「ふむ、コルベール君に事情は聞いておる
『土くれ』のフーケ、まさかこのトリスティン魔法学院を狙うとはの……
その上、固定化をかけておいた壁をも打ち破るとはたいした奴じゃわい」

897反省する使い魔!:2011/06/20(月) 00:39:22 ID:L3NrDSp6
それに対してはルイズも共感した。
固定化の魔法とは、その名の通り。
対象の物質などを時を止めたかのように固定し、
固定された物質は腐ることもなく、壊れることもない。
並みのメイジがかけた固定化ならばそれなりの実力者のメイジでも
破壊することはむずかしくはないが
あそこの宝物庫の壁は学院長直々に固定化の魔法をかけているほどのものだ
それを破るなんて、フーケとはそれほどの実力者だったとは………と
ルイズは少し身震いした。しかしルイズは永遠に知ることはない、
その固定化を打ち破った本当の原因は紛れもなく自分だということを………。

「学院長!」

宝物庫を調べていた教師の一人がフライの魔法で上から降りてきた。

「ほとんどの宝は無事だったのですが、ただひとつ
『破壊の杖』だけがどこにもありません」
「ふぅーむ、フーケめ
よりにもよって『破壊の杖』を………、ほかに手掛かりは?」
「はい、この置手紙がひとつ」
「なになに〜、『破壊の杖、確かに頂戴しました  土くれのフーケ』か
フォフォフォッ、なんとも律儀なもんじゃわい」

898反省する使い魔!:2011/06/20(月) 00:40:03 ID:L3NrDSp6

口では笑ってはいるオールド・オスマンだが
その目は真剣そのものだ、今この老人のなかでは
これからどうするかの方針が練りこまれているのだろう。

「ねえオトイシ、あんたのあの竜の子でフーケを探せないの?」
「だから竜じゃなくて………、はぁ……上見てみろ」

そう言われてルイズが顔を上に上げると、スピットファイヤーと
シルフィードが学院の上空をグルグルと飛び回っていた。
何人かの教師がスピットファイヤーの姿に「オオッ!?」と驚きの声をあげた。

「さっきからタバサのシルフィードと一緒に探しちゃいるんだが、
なにしろあの砂煙だし、フーケは名の知れた盗賊だからな
見つからないように身を潜めることに関しちゃあ、
向こうのほうが圧倒的上手だ。どうしようもねぇよ……」

スピットファイヤーを地上まで下ろすと、音石は片手でそれを持ち上げると
その姿にコルベールは感動と歓喜の声をあげ始めた。

899反省する使い魔!:2011/06/20(月) 00:40:35 ID:L3NrDSp6
「おお!なんとも素晴らしい!!
見ましたか学院長!?あれほどの文化が彼の故郷には
当たり前のように発達しているのですぞ!」
「コルベール君、君が喜ぶのも理解できるは
今もっとも重要なのは『破壊の杖』を持ち去ったフーケのほうじゃぞ?」
「あっ……こ、これは失礼しました」

どこか残念そうだが興奮を落ち着かせたコルベールだったが、
タイミングを見計らったように、タバサとキュルケを乗せたシルフィードが
降下しはじめ、地上へと舞い降り、そんな二人に音石は声をかけた。

「そっちはどうだったよ?」
「やっぱりだめだったわ、フーケがどっちの方角逃げたかもわからないし
第一こんなに暗いんじゃねぇ………」
「もっともだな、………なあタバサ、お前なら奴をどう探す?」
「………夜明けを待つ、それに情報も…………」

900反省する使い魔!:2011/06/20(月) 00:41:09 ID:L3NrDSp6
――夜が明け始め、現在学院長室――
タバサの意見がもっともだと賛成した一同が学院長室に集まっていた。
今ここにいるのは、音石たちとオールド・オスマン、コルベール
そして何人かの教師陣たちだった。

「さて………こうして夜が明け始めたのはよいが
周囲を捜索させた衛兵たちの報告はどうなんじゃ、コルベール君?」
「残念ながら……、現在のところそう言った報告はまだ………」
「はっ、衛兵と言えど所詮平民、
平民のような役立たずなどあてにしても仕方ありませんぞ!」
「じゃあテメェはどうにかできんのかよ?」
「なにぃっ!!?」

一人の教師が鼻で笑った言葉に、音石がポツリと嫌味を呟き
その教師が音石を睨むが、しかし音石は眼中にないかのように
その教師と目を合わせなかった。

「コレコレよさんか二人とも、今はフーケが問題じゃろう
しかし、オヌシの今の発言はいささか言葉が過ぎるぞ?」
「………ッ、申し訳…ありません…」

その教師が詫びると、オールド・オスマンはやれやれと息を吐いた。
こんな非常時に相変わらずな教師たちに呆れながら
見渡しているとあることに気付いた。

901反省する使い魔!:2011/06/20(月) 00:41:53 ID:L3NrDSp6
「おや?ミス・ロングビルの姿が見えんの」
【ガチャッ】「私ならここにいます学院長、ハァッ…、遅れて申し訳ありません」

噂をすればなんとやらだ、
突然扉が開かれ、ミス・ロングビルが息を切らしながら入ってきた。

「おお、心配したぞミス・ロングビル
ん?えらく息がきれているようじゃが……なにかあったのかの?」
「はぁ…はぁ…、土くれのフーケの件で…調査していました」
「ふむ、仕事がはやくて助かるのミス・ロングビル」
「お褒めにあずかり光栄です、それで調査の結果なのですが
土くれのフーケの居場所が掴めました」

その言葉に学院長室が一気にどよめきはじめるが
オールド・オスマンは落ち着いた物腰と口調で問う。

902反省する使い魔!:2011/06/20(月) 00:42:39 ID:L3NrDSp6
「ほう、フーケめの居場所をのぉ〜〜……
一体それはどうやって調べたのじゃ?」
「はい、実はフーケが破壊の杖を持ち出し
逃亡したところを私が目撃したのです」

周囲のどよめきが一層に増す、ルイズたちもその言葉には驚いた。
しかし音石はなにか引っかかるものを感じていたが、
今は黙ってロングビルの話を聞いておくことにした。

「まさかだと思うがミス・ロングビル………
君はそのまま…………フーケの後を尾行したのかね?」
「身勝手な行動をお許しくださいオールド・オスマン
学院の衛兵である、『サリー』と『エンリケス』を連れて………
そしてフーケがここから馬で2時間〜3時間ほどの
とある森の廃屋を拠点にしていたことがわかりました」
「ふ〜〜〜む、ミス・ロングビル……
叱ってやるのはこの騒ぎが終わってからとしよう………。
しかし『サリー』と『エンリケス』?聞かん名じゃのぉ」

903反省する使い魔!:2011/06/20(月) 00:43:09 ID:L3NrDSp6
コルベールが手元にあったファイルを開き始める。
どうやらそれは学院に所属する衛兵や使用人などのプロフィールのようだ。
ページをめくっていくと発見したのか、詳細をオールド・オスマンに伝える。

「つい最近この学院に所属したばかりの二人組の衛兵ですね」
「はい、現在フーケが潜んでいる廃屋を見張らしています」
「なんじゃとっ!?ミス・ロングビル!
君はそんな危険なところに衛兵を置いてきたのかッ!?
もしもその二人になにかあったらどうするつもりじゃッ!!」

オールド・オスマンが珍しく声を荒げて張り上げ、椅子から立ち上がった。
心優しいこの老人のことだ、危険で凶暴なメイジの近くに
平民でしかない衛兵を置いとくなどどれだけ酷なことか、
それに対して怒っているのだろう。
今まで見たことなかった学院長の怒りの光景に教師たちが動揺し始めた。
しかしコルベールがロングビルをサポートするかのように言葉を挟み
その場を落ち着かせようとした。

904反省する使い魔!:2011/06/20(月) 00:44:03 ID:L3NrDSp6
「お気持ちは理解できますが学院長!彼らのことを思っているのならっ!
今は一刻も早く王宮にこのことを報告して助けを呼ぶべきかとッ!!」

コルベールが間に入ったことによって、
心を落ち着かせたオールド・オスマンは椅子に座りなおした

「そんな悠長な時間もないじゃろう、コルベール君………、
王宮に連絡してからでは時間がかかりすぎる、
よってじゃ!この一件は我々魔法学院内で解決するとしよう
そうとなれば早速捜査隊を編成する!
我こそはと思うものは杖をかかげ志を示すがよいッ!!」

しかし残念なことに、この学院の教師たちは
口だけが達者なトーシロの集まりのようなものだ。
教師それぞれが顔を見合すだけで、誰も杖を上げようとはしなかった。
そんな教師たちにオールド・オスマンはますます呆れた溜め息を上げると
たった一人、そう……ルイズだけがそのなかで杖をかかげた!

「ミス・ヴァリエール!あなたは生徒ではありませんか!ここは教師に任せて」

905反省する使い魔!:2011/06/20(月) 00:44:40 ID:L3NrDSp6
シュヴルーズが止めようとしたが、ルイズは牙を剥くように怒鳴り返した。

「誰も杖をかかげようとはしません!
ならばわたしがフーケを追います!
元々フーケをみすみす取り逃がした責任はわたしにあります
あの場に私はいたのですから!」
「それだったら私たちにもその責任はあるわよヴァリエール?
あんたと同じように、私たちだってあそこにいたのだから………」

ルイズに続くように、キュルケとタバサが杖をかかげる。
その行為に次に驚いたのはコルベールだった。

「ミス・テェルプストー!気持ちはわかるがあまりにも危険だッ!!
君たちもあのゴーレムを見ただろう!?」
「お気遣い感謝しますがミスと・コルベール
ですがヴァリエールには負けたくありませんので………
ねぇ、タバサ?」
「………別に家名なんてどうでもいい……でも心配」
「ありがとうタバサ、やっぱりあなたは最高の親友だわ!」

906反省する使い魔!:2011/06/20(月) 00:45:54 ID:L3NrDSp6
キュルケとタバサが友情を深め合う中、教師達は猛反対を開始した。
だがオールド・オスマンが「では君が行くかね?」と問うと、
皆体調不良などを訴えて断る。
オールド・オスマンは勇気ある志願者三人を見て微笑んだ。

「彼女達は、我々より敵を知っている。実際に見ておるのじゃからな
その上、ミス・タバサは若くしてシュヴァリエの称号を持つ騎士だと聞いておる
実力は保証できるじゃろう」

教師達は驚いたようにタバサを見つめ、キュルケも驚いた。

「そんなの初耳よ!?それ本当なのタバサ?
なんで黙っていたのよ?教えてくれればよかったのに……」
「騒がしくなるから……」
「ウフッ、もうっ、タバサらしいんだから!」

キュルケが納得とばかりに微笑んだ。
音石が後から聞いた話だが、
『シュヴァリエ』というのは王室から与えられる爵位であり
階級で言えば最下級のものだが、
ルイズ達のような若さで与えられるような生易しいものではないらしい、

907反省する使い魔!:2011/06/20(月) 00:47:01 ID:L3NrDSp6
しかもシュヴァリエは他の爵位と違い純粋な業績に対して与えられる爵位。
いわば戦果と実力の称号である。
するとオールド・オスマンが話を続ける。

「ミス・ツェルプストーは、
ゲルマニアの優秀な軍人を数多く輩出した家系の出で、
彼女自身の炎の魔法も、かなり強力と聞いておるぞ」

キュルケは得意げに髪をかき上げた。
さて次はルイズの番と、オールド・オスマンは視線を向けて、
褒める場所を探し、コホンッと咳払い。

「その……ミス・ヴァリエールは数々の優秀なメイジを輩出した
ヴァリエール公爵家の息女で、うむ、それにじゃ……
将来有望なメイジと聞いておる。
しかもその使い魔は、平民でありながらも
あのグラモン元帥の息子である
ギーシュ・ド・グラモンと決闘して勝ったという戦績がある」

明らかにルイズよりを音石を褒めている発言に、
ルイズは少しムッとしたが事実だから仕方ない。
音石は思わず少し苦笑してしまった。

908反省する使い魔!:2011/06/20(月) 00:47:34 ID:L3NrDSp6
「………オトイシくん」
「あん?」

ルイズたちが並んで前に出ている後ろのほうで、
壁にもたれ掛っている音石にオスマンは突然声を掛けた。

「これはこの年寄りからの………いや、学院長であるワシからの頼みじゃ
君も彼女たちと共にフーケを追ってくれんか?
当然、君が望むのであればいくらでも礼は弾む」
「が、学院長ッ!?」

このオールド・オスマンの言葉に教師たちが驚きの声をあげた。
由緒正しき魔法学院の長が、一人の平民……しかも使い魔相手に
そのような頼みを言うなどこの世界の常識では考えられないことだった。
だが音石からしてみれば、そのようなことを頼まれてもどうしようもないことだ。
なぜなら、頼まれるまでもないのだ…………。

「オトイシ、あんたは私の使い魔よ」

ルイズという自分の主人がこう言われてしまった以上………。

909反省する使い魔!:2011/06/20(月) 00:48:24 ID:L3NrDSp6
「まあ、そういうことだジイさん
今のオレはルイズの使い魔、そしてそのルイズがフーケを追う以上
オレが行かねぇわけにもいかねぇだろ?
それに『勝算』だってこっちにはある、任せておけよ」

そう言いながら音石は、先程から脇に抱えている
スピットファイヤーをつよく握り締めた。

(さっきは油断したが次はそうはいかねぇ……
ルイズたちはああ言ったが、フーケを逃がした一番の理由は
オレの過信からきた油断だ……、反省しなくちゃなぁ〜〜〜
次もヘマ踏まねぇようによ〜〜〜〜)




学院の門付近にて、音石とルイズ、キュルケとタバサ、
そしてオスマン、コルベール、ロングビルがそこに集まっていた。

910反省する使い魔!:2011/06/20(月) 00:49:38 ID:L3NrDSp6
「ミス・ロングビルはフーケの居場所を知っておる故
君らの道案内役として同行させよう、
なによりミス・ロングビル、君には衛兵の二人の件もある
……………わかっておるな?彼女たちを手伝ってやってくれ」
「はい、オールド・オスマン………
もとよりそのつもりです……」

ロングビルの言葉にオスマンは渋るような顔で頷く。

「ふむ、では馬車を用意せんとな………」
「学院長、その馬車なのですが……
屋根付きの馬車では見通しも限られますし、
なによりいざ何かあった時に動きにくいかと………」
「ふ〜む、コルベールくんの意見がもっともじゃな……」
「でしたら屋根のない荷馬車を用意しましょう」
「うむ、任せたぞミス・ロングビル」

そう言って、ロングビルは厩舎小屋へと駆け出していった。
そんなロングビルを見送っていた音石だったが、
そんな彼の上着の裾を突然誰かが引っ張ってきた。
見てみると、引っ張っていたのはタバサだった。

「………質問がある」
「こいつ(スピットファイヤー)のことなら黙秘するが?」
「………………そう……」

911反省する使い魔!:2011/06/20(月) 00:50:35 ID:L3NrDSp6
表情こそ変えなかったタバサだったが、どこか残念そうな雰囲気で
裾から手を離し、本を読む作業に戻った。
その様子を見ていたキュルケは溜め息をはいた。

(やっぱり教えてくれないか………
オトイシって、ほんと何者なのかしら………
でも彼と一緒にフーケを追えば、少しでも真実に近づくような気がするわね)

「コルベールさん、今更なんだがあんたに頼みが………」
「言わなくてもわかっているよ、それは(スピットファイヤー)君に譲るよ」

コルベールはスピットファイヤーに目を向けそう言ったが
さすがにこの発言には音石も驚いた。
あくまで「借りたい」と言うつもりだったのだが
まさか譲るとまで言ってくれるとは予想してなかったのだ。

「いいのか!?あんたが大金払って手に入れたモンなんだろ?」
「確かに、しかしオトイシくん。私はとても満足している
君がそれを動かすのを見たとき感動で涙がでそうにもなった……
なにより誇りにすら思っているのだよ私は………
少しでも君やミス・ヴァリエールの助けになるなら
私は君に手を貸すのを惜しまないよ………」
「…………感謝します、コルベールさん」

912反省する使い魔!:2011/06/20(月) 00:51:29 ID:L3NrDSp6
音石は目の前の聖人のような男に軽く頭を下げるのだった………。
すると横から見ていたルイズがあるモノに気づき声を掛けてきた

「そういえばオトイシ、あんたそれもっていくつもり?」
「なんでぇ娘っ子、おれ様も一緒にいっちゃあ問題でもあんのかよ?」

ルイズが指差したのは、音石が部屋からもってきた
意思を持つ剣、デルフリンガーの事だった。

「だって別にねぇ〜……、オトイシにはレッド・ホット・チリ・ペッパーが
あるんだから、わざわざあんたみたいな薄汚い剣持っていかなくても……」
「ひっでぇなっ!あんまりだぜ、そんな言い草ッ!!?」
「事実を言ってるだけでしょうっ!」

自分を挟んでのやかましいいい争いに、
音石はやれやれと呟き二人の間に助け舟を出した。

「まぁ、ルイズが言ってることがもっともなんだがな」
「おいおい相棒、そりゃあねぇよ〜〜ッ!?」

913反省する使い魔!:2011/06/20(月) 00:52:33 ID:L3NrDSp6
「だがまあルイズ、ないよりはマシだろ?
それにこいつの助けが必要になる状況もあるかもしれねぇしな、
例えば俺がスピット・ファイヤーでフーケのゴーレムを攻撃してる時に
フーケ本体がオレ本体を狙ってくるかもしれねぇ………。
手元に武器がありゃ幾分かマシだぜ?ナイフも何本か持ってきたしな」

そう言って音石は、上着の内ポケットに仕舞っているナイフを
ルイズにチラつかせた。
内側のナイフをチラつかせている音石の姿が
あまりにも様になっていたのにルイズは苦笑いを浮かべるのであった。

「まあ、薄汚いボロ剣ってのは事実だから仕方ねぇがな」
「なに勝手に『ボロ』付け足してんだよっ!?
使い魔、主人そろってひでぇぜお前らッ!!」

デルフの虚しい叫びも、音石とルイズが目を黒い影で塗りつぶし
無視されるのであった。

914反省する使い魔!:2011/06/20(月) 00:55:26 ID:L3NrDSp6




ミス・ロングビルはまず、荷台を引くための馬を用意するために
厩舎小屋で適度な馬を選んでいた。
本来、大盗賊土くれのフーケを追うような危険な調査では
誰もが不安を隠せない表情を浮かべるのが普通だろう。
しかしこの時彼女の顔は、邪悪な笑みで口元を歪めていた。

「ふっふっふっ、まずは第一段落終了だね………
できれば教師に出てきてほしかったけど、まぁ仕方ないわね
この学校の教師たちったら口だけで腑抜けばかりだもの……」
「どうやら計画は順調に進んでるようじゃねぇかフーケ」
「!?」

すると突然、厩舎小屋の奥から声が聞こえてきた。
暗闇で顔こそは見えなかったものの、
ミス・ロングビルもとい土くれのフーケはその声に聞き覚えがあった。

「ッ!?あんた、なんでこんなところにいるんだいっ!?
私が獲物を連れてくるまで持ち場で待機してろって………」

915反省する使い魔!:2011/06/20(月) 00:56:02 ID:L3NrDSp6
「ヒヒヒヒッ、そう硬いこと言わないでほしぃ〜ね〜
あんたを捕まえようなんて考えている馬鹿な命知らずがどんなヤツらか
ちょいと気になったからよ〜〜、見に来ただけじゃねぇか〜
あんたまさか『土くれ』って ふたつ名のくせして
人のおちゃめも通じねえコチコチのクソ石頭の持ち主って
こたあないでしょうね〜〜〜〜〜?」

暗闇のなかにいる相手の言葉にフーケは苛立ちを覚えるが
こいつの人を頭から馬鹿にしたようなしゃべり方は今に始まったことじゃないと
自分に言い聞かせ、怒りを堪えた。

「どうせそっちは馬車なんだからナメクジみてぇにノロノロ来るんだろう?
あんたの考えた計画をおれがわざわざめちゃくちゃにするとでも思ったかい?
そこらへんはちゃ〜〜〜〜〜んと考えてるぜぇ〜〜〜〜〜?」
「………ふんっ、そりゃよかったね。
だったらとっとと持ち場に戻って………」
「いんや〜〜、おれも最初はそうしようと思ったんだけどなぁ〜〜……
これだけはあんたに伝えといといたほうがいいかなぁ〜〜っと思って、
わざわざこんな馬糞くせぇところであんたを待ってやったってわけだぜ?」
「伝えたいこと?」
「ああ、あんたが言ってた妙な使い魔………
ありゃ〜〜〜十中八九『スタンド使い』だぜ
以前あんたは伝説の使い魔ガンダーなんとかの能力とかなんとかって
バカづらさげて言ってたがよ〜〜〜………」

916反省する使い魔!:2011/06/20(月) 00:56:47 ID:L3NrDSp6
その言葉にフーケは身目を見開かせ、驚きを隠せない顔をしていた。

「そうそう、丁度そんな感じのバカづらだぁ〜、ヒヒヒヒヒ
あんた顔面の表情操作が意外とうまいねぇ〜」
「つまりあの使い魔はあんたの世界から召喚されたっていうのかいっ!?」
「ケッ、そこはあえてスルーですか……
まぁ、そういうことになるんだろうなぁ〜〜〜〜
あいつの格好、ぶら下げてるギター。間違いなくおれの世界の文化だ
しかもギタリストとは………なかなかイカシてると思わねぇかい?」

フーケは爪を歯で噛みながら、なにかを考えふけっていた。

「あんた………あの使い魔を倒せるのかい?
あの使い魔、はっきり言ってかなり強力だよ…………」
「モノは考えてから言えやこのボゲ、このおれが負けるとでも思ってんのかよ?
もしそうだとしたら、アンタ今からこのガキのションベンくせぇ
学院の医務室に行って、ケツの穴に温度計ブッ刺されたほうが
いいって助言してやるぜ?」
「ふんっ、相変わらず減らず口が絶えないやつだよ
まあ、それを聞いて安心したよ。
今回の作戦はあんたの働きに掛かってるんだからね」

917反省する使い魔!:2011/06/20(月) 00:57:44 ID:L3NrDSp6

そういってフーケは相手が潜んでいる暗闇から視線を外し、
馬を二頭選び、厩舎小屋から引っ張り出した。
そして自分が気になっていたことを思い出し、
再度小屋の奥の暗闇に視線を戻した。

「そう言えば、あんたに言われたから攫ってきた衛兵の二人
一体なにに使うんだい?」

しかし、その時には暗闇には誰もおらず、
ただ小屋のなかにいる馬の鳴き声と窓から流れる風の音が
静寂に小さく唸るだけだった………………。

918反省の人:2011/06/20(月) 01:04:36 ID:L3NrDSp6
投稿してサルに引っかかる際常に思うことがある。
代理の人、いつも本当にありがとうございます!

なんだかんだで一年ぐらい続けているこの『反省する使い魔』!
はじめこそは投稿する際にビクビクしていましたが
ここまで続けて、皆様から評価される今となっては胸を張って投稿できる!

そして今回の最後に現れたフーケと話していたなぞの人物、
一体何者なのか!?その正体は次話で明かされる!!
まあ、察しのいい人はもう気付いてるだろうけどね…………

SBRも無事終わり、次の新たなるジョジョが超楽しみです!
どうでもいい余談でした!それでは!!

919名無しさん:2012/10/04(木) 00:19:22 ID:QUno.Auo
さるさんくらいました
マジェントのやつ続きです

920名無しさん:2012/10/04(木) 00:20:38 ID:QUno.Auo

自分の使い魔が懐柔されていると見たルイズは、機嫌を悪くしてマジェントの服の襟を引っ張った。
「もう行くわよ!
 そんなのたいして凄くもないでしょ!
 トカゲなんて使い魔にしても全然便利じゃないし!
 物も運ばせられないし、大きくて邪魔になるだけよ……
 い、いっそのこと平民のほうがマシよ!」
「あらルイズ、けっこう彼のこと気に入っているのね?
 そうよね〜じゃなきゃ使い魔になんてできないわ」
「気に、入ってるですって?!
 だれがこんな、脳みそまで天パな平民の男を!とろいし鈍いし!」
ルイズがマジェントの脛を蹴ると、彼は「でっ!ひっで〜。ルイズがひでえ!」と文句を言った。
キュルケはルイズをからかうのをやめない。
「そうかしら?
 わたしはてっきり、ルイズは彼に一目ぼれでもしたのかと思ったわ。
 好きでもなきゃ、男ととコントラクト・サーヴァントなんてできないでしょ」
ルイズは顔を真っ赤にした。
「そ、そ、それ以上しゃべったら、わたしの杖が火を吹くわよキュルケ!」
「あら?言って何か困ることがあるの?」
キュルケは、マジェントをちらちらと横目で睨むルイズの焦り顔を見て思いつく。
「もしかしてルイズ、コントラクト・サーヴァントの方法を、彼は知らないのね?
 契約するために何をやっちゃったか、教えてなかったのね。
 でも、もうしちゃったものはしちゃったじゃない。あんな人前で。
 された本人だけが知らないのは不公平じゃない?」
そうしてキュルケは妖しく笑った。
言葉選びに作意が見える。ルイズは悪寒を感じ、戦略的撤退を選んだ。
「あーッ!遅刻するわ!
 朝食の時間に間に合わない!
 走るわよ!」
「え?でもキュルケの話ききたいんだけど……」
ルイズは彼の服を掴んで廊下を走り出した。
しかし、ルイズの決断は少々遅すぎた。
キュルケが、ルイズとマジェントの背中に向かって叫んだ。
「使い魔の契約の方法はねー!
 リップ・キスよ!お二人さん、末永くお幸せにねー!」

キュルケはゆっくりと食堂にむかって歩き出した。
まだ歩いて行っても間に合う時間だった。

921マジェント:2012/10/04(木) 00:21:41 ID:QUno.Auo

「…………」
「…………」
ルイズとマジェントの二人は無言で食堂への廊下をひた走っていた。
キュルケの声は、それはもう明らかに二人の耳に届いていた。
ルイズは恥ずかしさで脳みそが爆発しそうだった。
同時に、隣を走るマジェントが何も発言しないことをいぶかしんでいた。
この男が黙っているときは、ろくでもないことしか考えていない、ということをルイズは既に学んでいた。
マジェントがおもむろに口を開いた。
「……こんな話を知ってるか?
 茨に囲まれた城の中で、昏々と眠り続けているお姫様がいた。
 何をやってもそのお姫様は起きなかった。
 だけどある日、白馬にのった王子様がやってきてお姫様にキスをした。
 そしたらたちまち、呪いが解けて目を覚ましたっていう……」
「何それ?!
 まさかとは思うけど、あんたがそのお姫様だって言いたいの?!
 ありえないわ!!
 あ〜もうっ!どうせそういう妙なこと言い出すだろうから、アンタに知られたくなかったのよー!」
「じゃあ……毒りんごを食べて死んじまったお姫様を、王子様がキスで生き返らせるほうの話でもいいぜ」
「同じじゃないっ!!」
ルイズは息を吸い込んで大声を出した。
「あんたなんか野獣がいいとこよ!」
「それ、どんな話だ?」
「知らないの?
 呪いで恐ろしい野獣の姿にさせられてしまった王子様が、美しいお姫様のキスで……」
元の姿に戻る話、と続けようとしたところで、彼が期待に満ち満ちた顔でこちらを見つめていることに気づいた。
慌ててルイズは、走りながら杖を取り出した。
「そ、それだとあんたが王子様ってことになっちゃうじゃない!
 とにかく、わたしとあんたの間には、キスを交わしてハッピーエンドなんておとぎ話はいっさい存在しないのよ!!」
二人は結ばれて一生幸せにすごしました、めでたしめでたし、で終わる童話を認めるわけにはいかない。
走りながらマジェントに杖を向けると、彼は驚いて足を止めた。
呪文を唱える僅かな間で、彼が腰を落として地面に手をつけるのを、ルイズは見ていなかった。
「ファイヤーボールッ!!」
ろくに狙いも定めず放った『火』の魔法が、後ろでいつもの爆発になったのをルイズは感じた。
使い魔に直撃はしていないかもしれないが、無傷ではすまないだろう。医務室送りにでもなんでもなるがいい。
そしてそのまま、振り返りもせずに食堂へと走り去っていった。





922マジェント:2012/10/04(木) 00:24:11 ID:QUno.Auo

ルイズは、この不敬な使い魔を床で粗末な食事をさせることで、ちょっとでも使い魔の立場というものを理解させるつもりでいた。
そしてその試みはある種成功し、ある種失敗した。
マジェントは座ったまま自分の食事に手をつける前に、食堂の様子を見渡し、こう言った。
「あのさあ、気になったから聞いてくれよ」
「なに?」
「ほかの……使い魔ってやつはこの食堂にいないのか?見当たらないぜ」
「普通は食堂に使い魔なんて連れてこないわ!
 わたしが好意で特別に入れてやってるんじゃない!」
マジェントは彼女の顔を見上げた。
「好意か?ならいいんだぜ……
 てっきり、あんたがオレを見下すためにやってるのかと思ったけど、そんなハズねえよなぁ〜
 あんたはオレのことを、対等に扱ってくれるんだろ……?
 ルイズは来てくれたんだからな……」
言っている内容は軽口のようだったが、彼は剣呑な表情をしていた。
彼は信頼を踏みにじられたことを思い出していた。
ひたとルイズの目を見つめている。
真剣に、確認するように言った。
「オレを道具扱いとかクズ呼ばわりとか……助けに来てくれなかったりとか、ルイズはそんなことしないよな」
ルイズは不穏な雰囲気を感じて唾を飲んだ。
迂闊な返事をしてはいけない気配があった。
彼は床からルイズを、片方しかない目で見上げている。
彼が、『見下されている』と判断するのはどのくらいの範囲だろう。
使い魔はメイジの手となり足となること、と説明しているとき、彼は不満は表したがルイズを見限りはしなかった。
罵倒しても、爆発をくらわせても、平然とルイズについてくる。
今だって、ルイズが「ここの床で食事を与えたのは好意からだ」と説明すれば、彼はルイズの意図など気づかず納得するだろう。
しかし、もしルイズが「最底辺の人間らしく無様を晒せ」と嘲ったら、彼はどうするだろうか。
実際のところ、ルイズが彼を見下しているのは本心だったが、そこまで口に出して言わないと彼は気づかないだろう。
とっくに人間扱いされてないことくらい気づけと思う。いや、この場合、その鈍感さを幸いととるべきなのか。
ルイズが彼を助けたというだけで、彼は彼女を楽観的に信頼しているのだ。
この男、勝手にこちらに入れ込んできている分、蔑ろにされていたと気づけば被害妄想を爆発させて逆恨みしてきそうだった。
好意が一方的なら、恨みも一方的なのだ。
彼ごときに恨まれても深刻な事態に陥るとは思えないが、念のためという言葉もある。

923マジェント:2012/10/04(木) 00:26:26 ID:QUno.Auo
なんか抜けた
以下を>>922の前に

924マジェント:2012/10/04(木) 00:28:17 ID:QUno.Auo


キュルケとマジェントがアルヴィーズの食堂に辿り着いたとき、ルイズは既に二年生のテーブルについていた。
朝食の始まりの祈りはまだされていない。
キュルケがルイズに苦言を呈する。
「ルイズ、廊下すごいことになってたわよ。
 また爆発させたのね?」
ルイズは、並んで入ってきた二人を見ると、驚いて不満をぶつけた。
「ちょっと、なんでキュルケと一緒に来てるの?
 あの爆発でかすり傷もついてないってどういうことよ!」
「キュルケはいいヤツだ……
 オレが煙でむせこんでたら、心配してくれた」
そう言ってマジェントはこれ見よがしに、ゲホ、と咳をする。
キュルケは楽しそうだ。
「目的地と経路が同じなんだから、一緒に来ることになるのは別に普通じゃなあい?」
「ええッ!そうねッ!普通だわ!全然別に!
 わたしの言いたいことはそーじゃないのよ!」
ルイズは椅子に座ったままジタバタする。
ルイズは彼が無傷で歩いてきたことを問い詰めたいのであって、彼がキュルケと歓談しながら来たのを僻んでいるわけではない。
どう考えたって、咳き込む程度ですむ爆発では無かったのだ。
ルイズがやきもちしていると誤解したままのキュルケはまたクスクス笑う。
「あらあら、ごめんなさいねールイズ。お邪魔だったみたい。
 あとは二人でお食事楽しんでくださいな」
キュルケはひやかしながら、ルイズの前から去っていった。
テーブルのどこか別の席について適当な男と食事するのだろう。
あとには棒立ちのマジェントが残る。
豪華絢爛の食堂を眺めて言う。
「それ、すげえ量だな。
 絶対食いきれないよなあ〜………
 あ、残りはさっきの恐竜みたいなのに食わせるんだろ?そうじゃねえかい?
 使い魔って言ったっけ。ああいうのたくさんいるって聞いたぜ」
「知るか!」
つっこむのにも疲れてきたルイズだった。

925マジェント:2012/10/04(木) 00:29:06 ID:QUno.Auo

ルイズはとりあえずマジェントを床に直接座らせた。
「ねえ、食事のときくらい帽子をはずしたら?」
彼女がそう言うと、マジェントは「似合ってるだろ?」とほざきながらも帽子をはずした。
ルイズは、彼のくるくるパーマの頭から爪先まで眺めた。
痩せすぎというわけではないが、健康的に筋肉がついているというわけでもない。
肩幅はあるが、服の布が余っていて、薄い体格に見える。
不健康そうな雰囲気が全体に感じられる。
首元以外全身まっ黒のデザインは確かに、彼に似合っていた。怪しさ満点、という意味でだ。
一見、只者じゃなさそうに見える。
頭の中身がお花畑すぎて、外見に追いついていないが。
彼はちょっと興味津々にルイズに話しかけた。
「なあ……さっきの、何やったんだ?
 いきなりだったから驚いたぜ!
 ルイズの『能力』ってわけじゃあねえよな〜……あんたはスタンド使いじゃねえから……
 杖でなんかすると見せかけて爆弾を投げたとか……」
「それはこっちのセリフよ。
 あんた、さっきどうやったの?
 最初も朝もそうだったわね。何をやっても無傷なのはなんで?」
彼は歯茎を見せてにやりと笑った。
嬉しそうに、とっておきの秘密を暴露するときのように声をひそめて囁く。
「聞きたいかい?ルイズさんよォ〜……」
言いたくてうずうずしているようだ。
ルイズはウザくなって逆に聞く気が失せた。
まあそれでも、使い魔が重大な隠し事をしているのはしゃくなので、続きを促した。
と、しようとしたところで、
『偉大なる始祖ブリミルと女王陛下よ……』
祈りの唱和が始まった。

926マジェント:2012/10/04(木) 00:31:21 ID:QUno.Auo
>>922と同じ文です)


ルイズは、この不敬な使い魔を床で粗末な食事をさせることで、ちょっとでも使い魔の立場というものを理解させるつもりでいた。
そしてその試みはある種成功し、ある種失敗した。
マジェントは座ったまま自分の食事に手をつける前に、食堂の様子を見渡し、こう言った。
「あのさあ、気になったから聞いてくれよ」
「なに?」
「ほかの……使い魔ってやつはこの食堂にいないのか?見当たらないぜ」
「普通は食堂に使い魔なんて連れてこないわ!
 わたしが好意で特別に入れてやってるんじゃない!」
マジェントは彼女の顔を見上げた。
「好意か?ならいいんだぜ……
 てっきり、あんたがオレを見下すためにやってるのかと思ったけど、そんなハズねえよなぁ〜
 あんたはオレのことを、対等に扱ってくれるんだろ……?
 ルイズは来てくれたんだからな……」
言っている内容は軽口のようだったが、彼は剣呑な表情をしていた。
彼は信頼を踏みにじられたことを思い出していた。
ひたとルイズの目を見つめている。
真剣に、確認するように言った。
「オレを道具扱いとかクズ呼ばわりとか……助けに来てくれなかったりとか、ルイズはそんなことしないよな」
ルイズは不穏な雰囲気を感じて唾を飲んだ。
迂闊な返事をしてはいけない気配があった。
彼は床からルイズを、片方しかない目で見上げている。
彼が、『見下されている』と判断するのはどのくらいの範囲だろう。
使い魔はメイジの手となり足となること、と説明しているとき、彼は不満は表したがルイズを見限りはしなかった。
罵倒しても、爆発をくらわせても、平然とルイズについてくる。
今だって、ルイズが「ここの床で食事を与えたのは好意からだ」と説明すれば、彼はルイズの意図など気づかず納得するだろう。
しかし、もしルイズが「最底辺の人間らしく無様を晒せ」と嘲ったら、彼はどうするだろうか。
実際のところ、ルイズが彼を見下しているのは本心だったが、そこまで口に出して言わないと彼は気づかないだろう。
とっくに人間扱いされてないことくらい気づけと思う。いや、この場合、その鈍感さを幸いととるべきなのか。
ルイズが彼を助けたというだけで、彼は彼女を楽観的に信頼しているのだ。
この男、勝手にこちらに入れ込んできている分、蔑ろにされていたと気づけば被害妄想を爆発させて逆恨みしてきそうだった。
好意が一方的なら、恨みも一方的なのだ。
彼ごときに恨まれても深刻な事態に陥るとは思えないが、念のためという言葉もある。

927マジェント:2012/10/04(木) 00:34:33 ID:QUno.Auo

ルイズは慎重に言葉を選んで言った。
「ねえ……仮によ。
 わたしがあんたを内心では馬鹿にしていて……
 いざというときにあなたを裏切ったら、どうするの?」
彼もまた真摯に答えた。
「まず、この世の地獄の、もっとうすら寒いその底の底をなめさせて、それから、ゆっくりと殺してやる」
悪人面をしているので、据わった目で言われると、冗談に聞こえなかった。
マジェントの心持ちは本気だった。

ルイズは本音を隠すことを選んだ。
下手に彼の名誉を著しく毀損することを避けさえすれば、彼はこちらに素直な信頼を寄せ続けるだろう。
道具扱いを明言して理解させるよりも、口先三寸で騙して道具扱いしたほうが得策かもしれない。

「別にあんたを馬鹿にしようとしてるわけじゃないわよ。
 これは使い魔としてはかなり良い待遇なんだからね」
「そーか」
彼はルイズを睨むのを止め、簡素な食事に手をつけた。
これで納得するのだから安い男である。


彼はちょっと不満そうにしながらも、たいして文句も言わずに床で食べはじめた。
というか、床に寝転がってパンをつまんで食べるという、だらけきった態度で食っていた。
おかげで、彼の単純な信頼を裏切ったルイズがほんのちょっぴり感じた罪悪感は吹き飛んでいってしまった。
布団に包まったまま飯を食うニートか貴様は。
「やっぱりあんたは外!」
結局ルイズは食堂の扉を指差し、廊下へ彼を追い出したのである。




928マジェント:2012/10/04(木) 00:35:24 ID:QUno.Auo
朝食が終わり、アルヴィーズの食堂を出たところで、ルイズは何かに躓いた。
「こんなところに物を置いておくのは誰?!」と罵倒しながら振り返ると、それは自分の使い魔であった。
出入り口で寝るな。
例によって、眠っているのか死んでいるのか分からないあの状態で倒れ伏している。
食堂から出てきた他の生徒たちから迷惑そうな視線を浴びている。
ルイズはその物体を、通行の邪魔にならない位置に蹴飛ばした。
すると彼はのそのそと起きだし、開口一番に「メシが足りねー」と文句を言った。
食堂に戻ろうとするマジェントをルイズは教室に引きずっていった。
「なんだよ!いいじゃあねーかよーどーせ何か余ってんだろ?」
「残り物なんて食べないの!
 犬じゃないんだから拾い食いも駄目よ?!」
「食えればいいじゃねーか……」
「わたしが恥ずかしいの!」
マジェントはまだごねていたが、ルイズは腕を引っ張ったり背中を押したりして無理やり歩かせた。
彼は体重がある方ではないし真面目に抵抗はしていなかったが、背の差がかなりあるので悪戦苦闘した。
授業開始時間に間に合わなくなってしまう。
ルイズは彼の背を押しながら説得作戦にでた。
「ほら!教室に行ったら他の使い魔たくさん見れるわよ!
 平民になんて一生縁が無い、魔法の講義が聴けるんだから!
 だからもーさっさと歩いてよー!」
「講義〜?
 堅っ苦しいのはなあ〜……」
そう言いながらも、彼は少し興味をそそられたようだ。

教室に入ると、半分くらいの席が生徒たちで埋まっていた。
皆、昨日召喚したばかりの使い魔をつれていて、教室のあちこちに小動物や得体の知れない生物がいた。
マジェントは使い魔たちをいちいち指さしてルイズに話しかけた。
「なあ、あそこに浮いてる目玉、どーやって飛んでるんだ?
 生物としてバランスおかしーんじゃねーか。
 あのでっけー蛇、窓の外からこっち見てるけど、あれも誰かの使い魔ってやつか?
 日常生活どうすんの?エサ代ぜってーやばいよなアレ。
 あそこに座ってんのキュルケだな。火トカゲもいんのかな?
 猫って鳥食うよな。あっちに鳥と猫が一緒にいるけど平気なのか?
 ルイズ、聞いたことあるか?猫は『ネ』ズミを食うから『ネ』コって言うんだそーだぜ。
 それだとつまり、『ト』リを食う猫は『ト』コで、『サ』カナを食う猫は『サ』コっつーことになるよな!」
ルイズが席に歩いていって座るまでの短い間で、彼はうっとーしくもルイズを質問攻めにした。
よく一人でこれだけべらべらと喋れるものだ。
「うるさいッ!
 ちょっとは口を閉じてられないの?!
 授業が始まるんだから黙っててよ!」
「見ろよルイズ、あの触手はえてるやつ気持ちわりいな」
ルイズは彼の肩に体重をかけて強制的に床に座らせた。
まだ喋り足りない様子だったが、彼の帽子を顔に引きずり降ろして目隠しにしてやった。
彼は文句を言おうと帽子を押し上げたが、ルイズに恐ろしい形相で睨まれると、しぶしぶ口を閉じた。

929マジェント:2012/10/04(木) 00:36:23 ID:QUno.Auo

講義が始まると、彼は比較的おとなしくしていた。
もっともそれは、マジェントが何かを言おうとするたびに彼を小突いたルイズの努力の賜物なのだが。
教壇で教師シュヴルーズが『系統魔法』や『コモンマジック』について話している間、彼は口を出したくてしょうがないようだった。
特に、シュヴルーズが『錬金』を実践して見せようと言ったとき、彼は今にも立ち上がって教壇まで見に行きそうだったので、ルイズは杖を出して彼におとなしくしているよう脅さねばならなかった。
しかし不運なことに、使い魔を黙らせるためにルイズが出した杖が、シュヴルーズに見咎められた。
「ミス・ヴァリエール。
 私の授業中に魔法の試しうちがしたいのなら、『錬金』の実践はあなたにやってもらいましょうか」
この場合不運だったのは、ルイズだけではなく、教室にいた全員である。
ルイズの失敗魔法を体感したことのある全ての生徒は、ゼロのルイズが『錬金』を試す事に反対したが、時既に遅しだった。
ルイズは緊張した表情の中に少しの希望をこめて、
「やります」
と言ったのだ。
小石を金属に変えるべく教壇に立ったルイズと、何も知らずにそれを見守ろうとするシュヴルーズ以外は、我先にと席を立って総員退避を始めた。
しかし、マジェントは皆が引いている理由に欠片も見当をつけようともせず、前の方の席が空いたのをいいことに、教卓の真ん前の椅子に移動して座った。
ルイズが『魔法』を使うと聞いて興味津々で食いついていた。

そして例に洩れず、ルイズの『錬金』により遠慮会釈もない爆発が起こった。

教室は阿鼻叫喚の地獄絵図となり、黒板に叩きつけられたシュヴルーズのために「タンカだ、タンカー!」というパニくった叫び声が飛び交った。
ルイズも爆風をもろに受け、教壇に転んで膝をついていた。ローブのあちこちがほつれ、擦り傷を負って血がにじんでいた。
今回の爆発は普段より一段とひどいものであった。
ルイズには罵声が浴びさせられ、授業は続行不可能になった。
「ゼロのルイズ!
 何をやっても成功率ゼロなんだから、もう二度と杖を振るなよ!」
生徒たちはお互い肩を貸し合い、怯えたり興奮したりしている使い魔を宥めながら教室を出て行った。
窓ガラスが落ちて割れ、耳障りな騒音を立てた。

930マジェント:2012/10/04(木) 00:37:05 ID:QUno.Auo

教室には、まだ教壇に座り込んでいるルイズと、そのすぐ近くの席に座っているマジェントだけが残った。
爆風はおさまったが、教室は見るも無残な状態で、まだ埃が舞って煙たかった。
破壊のあとは閑散として、静かだった。
壊れた椅子や机が歪んで時々たてる音だけが、やけに煩く感じられた。
ルイズはうなだれて気まずい沈黙を聞いていた。
こぶしを痛いほど握り締める。
(何か言いなさいよ……)
自分の使い魔が珍しく黙っている。
彼は間近で爆発を受けた衝撃の余りか、座ったまま固まっている。
教室は散々な有様だったが、ルイズの心境も負けず劣らず荒んだものだった。
「なによ……ちょっと失敗しただけじゃない……!
 成功すると思ったのよ……ゼロなんかじゃないんだから!
 召喚は成功したじゃない!
 そんな………言わなくても……ッ!
 誰もっ……心配なんか!わたしだって………!!」
そのとき、咳払いがひとつ聞こえて、ルイズは勢いよくそっちを睨みつけた。

931マジェント:2012/10/04(木) 00:38:08 ID:QUno.Auo

はたしてそこには、咳き込んでいるマジェントがいた。
「ゴホッゴホッエホッ……ゲホ!ゴホッ
 グッ……ゲホ、あ〜……やっぱ駄目だなあ〜…ゴホッ
 やべ、ハナ水でてきた……ハンカチあったかな」
「…………」
「ゴホッゲホッ、もうちょっと埃おさまるまでスタンド被ってりゃあよかった……」
「なんで……」
「あ、見てた〜?袖で拭いちゃった……ゴホッゴホン
 ハンカチかティッシュ持ってるかい?
 昨晩までは持ってたのにな……なんでかハンカチとかってすぐどっかいくよなあ〜
 ポケットの中は暗黒空間に繋がってるんだろうなあ……ゲホ」
「だから何で、まるで無傷なのよ!!
 わたしがこんな無様を晒してるってのに!!
 卑怯よ!ずるいわ!何様?!」
ルイズはマジェントの座っている席に詰め寄った。
ルイズの服の裾は破れて、かすり傷を受け、顔は煤で汚れている。
彼も同じような至近距離でもろに爆撃をくらったはずだ。
それなのに彼ときたら、爆発など一度として起こらなかったかのようだ。汚れてもいない。
「ゲホッ……確かに間に合うかどうかギリギリだったけど、ルイズが杖を振ったら爆発したのを今朝も見てたからなああ〜
 爆発すんの、なんか唱えてからだし……
 このオレにかかれば余裕だぜ」
「だから、どうやったかって訊いてるのよ!」
「『スタンド』………」
「え?」
彼は言いかけたところで、何か悪い事でも思いついたようにニヤリと笑った。
「なあ……ゲホッ……今、ギャグ考えた…批評してくれる?
 これ聞いてくれりゃあ、『スタンド』について教えてやるぜ」
ルイズは彼の鼻先に杖を突きつけることで返答とした。
ただでさえルイズの虫の居所が悪いのに、彼は人の神経を逆撫でするようなことを言う。
彼は、不適なニヤニヤ笑いをしたまま、椅子の上で行儀悪く膝を立ててルイズを挑発した。
「爆発させてみるかい?
 やってみるのも……いいかもな」
ルイズはできるだけ素早く短いルーンを唱えた。
しかしそれは、彼が『20th・センチュリー・ボーイ』を発動するのに十分に足る時間だった。
そして彼女は、彼が爆発を『受け流す』のを目の当たりにした。
それは異様な光景だった。
彼の眼前で起こった爆発のエネルギーは、彼の身体の表面に触れた瞬間、方向を『逸らされ』、あるいは体表を滑って地に、あるいは空中に散った。
爆発は彼に触れるか触れないかのところを素通りしていく。
爆炎や爆風は彼に一筋の爪痕も残さずに通り過ぎていき、彼が座っている椅子や机を傷つけた。
ルイズは、彼の背後にある机が盛大に半壊したのを見た。
彼女は爆発のあおりを受けて髪の毛を乱していたが、彼の帽子は吹き飛びもしなかった。
軋んだ音を立てて分解寸前の椅子と机に囲まれて、立て膝で座った彼だけが無事だ。
先ほどもこうして、爆発に包まれた教室の中で、彼だけがなんの被害も受けなかったのだろう。
彼はあらゆる衝撃から隔離され、空間からとり残される。

「ありえないわ………何の魔法よ……」

932マジェント:2012/10/04(木) 00:39:06 ID:QUno.Auo

彼女はしばらく呆然と立ちすくんでいた。
我に返り、マジェントが何か言い出すのを待ったが、待てども待てども彼が微塵も動かない。
ルイズは痺れを切らして、彼の頭をはたいて、耳元で「座ったまま寝るな!!」と叫んでやった。
「ゴホゴホッ!なんだよ……まだケムいじゃねーか!エホッ…
 室内だからこんなムセるのか?ゲホッゲホッ」
彼は椅子から飛び降りて、ヒビの入ってしまった窓の方に歩いていった。
落ちているガラスの欠片を踏んで、パリンと割れる音がした。
破片の散った教室の窓を開けようとしている。
「あイテ。
 指切っちまった……」
のんきに指の傷口をなめている彼を、ルイズは怒りに震える声で呼んだ。
「こっちを向きなさい、マジェント」
彼は喜色を広げて振り返って言った。
「今のが始めてだよなあ?ゴホッ……ルイズがオレの名前呼ぶの……」
「余計なことほざくなッ!
 いい?!今からあんたが発言していいのは、『スタンド』とやらについてだけよッ!
 ふざけたこと言ったら爆破するわ!
 冗談を言っても爆破!咳をしても爆破!
 爆破を防御しても爆破よ!」
「ゲホッ、咳くらいいいだろ?
 オレがルイズの爆発で困るのはそれだけなんだからなああ〜」
この使い魔は、ルイズの渾身の爆発が効かないことで調子に乗っている。
ルイズは地獄の底から沸きあがってくるような低音で嚇した。
「『スタンド』のことを喋らないと、あんたの新作ギャグ聞いてあげないわよ」
この男にはこっちの方が堪えるだろうというルイズの予想どおりに、彼はころっと態度を変えた。
「お!スタンドのこと言えばいいんだな?
 何でも訊けよ!」
そもそも、『ルイズがマジェントのギャグを聞けば、スタンドのことを話してやる』だったはずだが、『マジェントがスタンドの話をすれば、ルイズがギャグを聞いてやる』に逆転していることに、彼は気づいていない。ちょろい男だ。

933マジェント:2012/10/04(木) 00:40:41 ID:QUno.Auo

半壊した教室で、ルイズとマジェントは適当な席に腰かけて、会話を始めた。
「まず、そうね……単刀直入に訊くわよ。
 『スタンド』ってなに?」
「スタンドってのは……『能力』だな……
 一人ひとっつだけ使える、摩訶不思議の超能力さ。
 使うときはなんか像が出たりするんだけどよ〜……それが見えないヤツには、スタンドの才能がねえ」
マジェントがルイズに向けた人差し指を、ルイズは叩き落とした。
「人を指差さないの!
 スタンドの『才能』って言ったわね?
 魔法は、貴族に流れているブリミルの血で使うのよ。だから魔法を使えるのは貴族だけ。
 スタンドは平民にも使えるの?」
「血は関係ねえんじゃねえかあ?
 生まれつきで持ってるヤツもいりゃあ、『場所』の影響で発現するヤツもいるし、『道具』の効果で発現するヤツもいる……
 誰にでも可能性はあるんだそーだぜ……才能と精神力があればな。
 そんなにたくさんはいねえだろーけどなあ」
「きっとそうなんでしょうね。
 わたしはスタンドなんて聞いたことないもの。
 一人が使えるのは一つの能力だけなんでしょう?
 平民がそんなもの持っていても大事にはならないわね。
 魔法の方が便利よ」
マジェントはそこでいきなり話に食いついた。
「あ!それだ!
 その『魔法』が便利って話だった。
 さっきの授業聞くまでピンと来なかったんだけどよ、魔法ってマジにあんのな!
 スタンド使いでもねーのに、妙な爆発を起こすから何だと思ってたぜ。
 ルイズのそれがありゃあ、ダイナマイトいらねえなあ〜
 『コモンなんとか』ってめっちゃ楽じゃねえ?
 物浮かせたり飛んだりとか……歩く必要ねえじゃねえか。
 こう……ふいっと杖を動かすだけでいいんだぜ?ラクチンじゃん。
 でもメイジにしか使えないってのはクソだな。
 誰でも使える便利魔法アイテムみたいなのねーの?」
「マジック・アイテムがあるけど、魔法のことは今はどうでもいいのよ!
 あんた固有のスタンドの話よ。
 何度も爆発を受け流したわね。
 それがあんたの『能力』?」

934マジェント:2012/10/04(木) 00:41:29 ID:QUno.Auo
彼は再び椅子に足を乗っけて片膝を立てた。
破顔し、大げさに両腕を広げて、心底楽しそうに、自慢らしく語る。
「そーさっ!
 これがオレの『20thCenturyBoy』だ。
 コイツは何からでもオレの身を守ってくれるのさ!
 どんなに鋭い刃物も、銃弾の雨も、惑星破壊爆弾も、オレがスタンドを発動している限り手出しできないんだ。
 確かにその間は指一本も動かすことはできねえが、こんなに優秀な鎧は他にはないぜ!
 スタンドを被っている間は何も要らなくなる。
 『二十世紀少年』は永遠に安全を約束してくれるんだ!」
「窒息もしないし、餓死もしない?
 本当に何も効かないの?」
「本当に何も!」
しかし、得意顔のマジェントにルイズは水をさしてやる。
「何かそんな虫がいたわね。
 体を丸めて仮死状態になって、どんな熱にも冷温にも耐えて、空気が無くても一世紀くらい生き延びちゃう虫。
 あんたの『能力』ってその虫と同じね」
その虫を人はクマムシと呼ぶ。
ルイズは畳み掛ける。
「川底に沈められたって言ってたのもそれ?わたしに召喚されたときも、スタンドを発動してたんでしょ。
 スタンドを発動していれば溺れはしないみたいだけど、身動きがとれないんじゃ意味ないわ。
 スタンドを使用中のまま生き埋めにされたりしたらどうしようもないじゃない」
しかし、ルイズの指摘を聞いて、彼は呆れた、というように肩をすくめた。
「それで何かマズいことでもあるのか?」
彼女が口を開こうとするのを制し、マジェントは言うまでも無いこの世の真実のように答えた。
「何も問題は無いじゃあねえか。
 ルイズが助けに来てくれるんだからな」

教室は二度の爆撃をうけてひどい有様だったが、ルイズが最初にこの教室で起こした爆発のせいで広がっていた悲壮な雰囲気は霧散していた。
ルイズだけだったら、その後も彼女は壊滅状態の教室を一人寂しく片付けながら、落ち込んだり荒れたりして最悪の気分だっただろう。
しかし今は、マジェントがボケてルイズがツッコむどつき漫才が繰り広げられている。
ルイズはほんの少しだけ、雀の涙ほどだけマジェントに感謝した。

935マジェント:2012/10/04(木) 00:45:41 ID:QUno.Auo
以上で投下終わりです。
本スレで支援してくれた人ありがとう!
>>922を飛ばして代理して頂けると嬉しい

936名無しさん:2012/10/04(木) 01:11:31 ID:xmV.xLd.
乙!

937マジェント:2012/10/04(木) 02:34:00 ID:QUno.Auo
二度目のさるさんッ!
残りは>>932-934

938名無しさん:2012/10/04(木) 02:46:24 ID:8V5w6GSI
では当方が代理を

939マジェント:2012/10/04(木) 02:57:33 ID:QUno.Auo
代理ありがとうございましたっ
これで今夜も安心して熟睡できるッ!

940ゼロと奇妙な隠者:2013/05/13(月) 18:01:54 ID:EkL5/BY.
 レコン・キスタの奇襲により開始されたタルブでの会戦は、二日も経たず終わりを迎えた。
 トリステイン王国王女アンリエッタ・ド・トリステインと、アルビオン王国皇太子ウェールズ・テューダーの手によるオクタゴンスペルにより、アルビオン軍は艦隊及び地上軍の大半を喪失。
 竜巻の直撃と、竜巻に巻き込まれた艦隊の直撃を受ける事無く、幸運にも辛うじて生き残った兵達は、始祖の子孫達の恐るべき魔力を目の当たりにした為にそのほぼ全てが投降、もしくは逃走を図った。
 タルブ平原に駆け付けたトリステイン軍は、逃走したアルビオン兵の捕縛に杖を振るう事となった。
 その顛末を、ルイズは知らない。
 タルブ平原に艦隊を突き立てた竜巻の後に発生した、まるで太陽が地表に生まれたかの様な光球を生み出した張本人である彼女は、ジョセフが操っていたゼロ戦が空に見えなくなったのを見届けた後、身体の底から湧き上がる激情に押され戦場を後にしていた。
 自分が伝説の虚無の担い手である事も、敬愛するアンリエッタを救えた事も、今のルイズには何の価値とてなかった。

 ――失った。無くしてしまった。

 自分の手で、使い魔を、ジョセフ・ジョースターを帰してしまった。
 もう二度と会う事が出来ない。
 別れを交わす事も出来ず、感謝を述べる事も出来ず。
 あんな『ひこうき』で来なくてもいい戦場までやってきて、最後の最後まで関らなくてもいい危険に関ってきた恩人に、何も自分は報いてやれなかった。
 鞍の上でルイズは、人目がないのをいい事にひたすら泣きじゃくっていた。
 涙が枯れ果てても、喉が嗄れ果てても、それでも悲しみは涸れなかった。
 日が落ち、二つの月と無数の星だけが照らす夜道を一人、ただ馬を進ませ、悲しみに暮れる以外ルイズは何もしなかった。
 魔法学院に帰り着いたのは、東の空が僅かに白み始めた頃。寝ぼけ眼を擦りながら出てきた馬子の前で馬から下りた後は、幽霊の様なおぼつかない足取りで寮へと向かうしかない。

941ゼロと奇妙な隠者:2013/05/13(月) 18:02:57 ID:EkL5/BY.
 鉛の様に重い身体を強引に引っ張り上げる様な気持ちのまま、やっと辿り着いた何日ぶりかの自室のドアの前で、ドアノブに手を伸ばそうとし、ノブを握ろうとし、扉を開けるまでの段階でそれぞれ重大な決意を経過した後、ドアを軋ませながら開いた。
 双月の光だけが部屋を照らす中、つい数ヶ月前までそうだった部屋を見れば、また悲しみが膨れ上がる様に込み上げてくる。
 ジョセフがいない。ジョセフがいない。もう、帰ってこない――
 サモン・サーヴァントで図体のでかい老人を召喚してしまった時の失望から、掛け替えの無い存在になるまで、本当にあっと言う間だった。
 使い魔はメイジの半身だ、と言う言葉の意味を、ルイズはひたすらに痛感していた。
「う……うあっ、ううぅ……」
 もう泣きたくなんて無いのに、体の中から嗚咽が昇ってくる。
 ベッドに突っ伏し、布団を被り、枕を抱き締めて泣きじゃくろうとベッドに向かう直前に、机の上に残されたジョセフの帽子が目に入る。
 それと同時に、帽子の下に置かれた便箋が目に入ったのは、ほんの偶然だった。
「……手紙……?」
 ぐす、と鼻を啜りつつ、ジョセフが残して行ったのが明白な手紙を今読もうとする気になれたのは、馬の上で十分に泣いていたからだろう。
 帽子を摘み、きゅ、と両腕で抱いてから、便箋を手に取る。
「…………?」
 内容自体はすぐに読み終わる。
 しかし、意味が判らない。
 文法が支離滅裂だとか、字が汚くて解読不能だからではない。
 走り書きで書かれた文面は、これだけだった。

【ルイズへ。わしが元の世界に帰ってから15日後、もう一度サモン・サーヴァントを行え。出来れば広い場所で。コッパゲと、ジェットに選ばれた友人達も立ち合わせとけ】

942ゼロと奇妙な隠者:2013/05/13(月) 18:04:14 ID:EkL5/BY.
「ん、んんんん……?」
 今の今まで悲しみばかりに支配されていたのも、どこかへ消え失せてしまった。
 ジョセフが何を意図してこの最後の手紙を書いたのかが、全く判らなかったからだ。
 一度使い魔になった動物は、死ぬまで使い魔のままだ。
 使い魔がいるメイジがサモン・サーヴァントを唱えても、ゲートが開く事は決してない。ゲートが開く場合は、使い魔が死んでいなければならない、が。
「……ジョセフが自殺するとか、有り得ないし」
 誰に聞かせる訳でもなくそう呟くと、ベッドに腰掛けて眉間に皺を寄せる。
 ルイズには確信があった。
 ジョセフ・ジョースターは、そんなつまらない事で死んだりしない。
 いくら可愛がっている主人の為とは言え、新しい使い魔を呼び出させる為に自分で死を選ぶ人間ではない。
 では、自分は死なずに向こうの世界で生きているとこちらに知らせる為?
「……だったら、15日後でなくていいじゃない」
 そう、意味が判らないのはわざわざ15日後と指定している事。
 自分の生存表明をさせる様なイヤミをするはずがないのも、ルイズは十分に承知している。
 では、一体この別れの挨拶が意味しているものは何なのか。
 そして、自分一人ではなく、友人達も立ち会わせる理由は何か。
 意味の判らない事をするとしても、意味の無い事をジョセフはするだろうか?
「…………この手紙を書いたのは……、この部屋を出て行く前よね」
 急いで部屋を後にしなければならない状況の中、これだけの文章を残せれば自分の目的を果たせるとジョセフは判断したと言う事だ。
「…………判らない、判らないわ」
 この手紙を残す意図が判らない。
 別れの挨拶にしては、余りに情緒がない。最後のメッセージとしては、余りに意味が判らない。
 ルイズは手紙の意味を考えるのを放棄した証拠として、背中からベッドに倒れ込んだ。

943ゼロと奇妙な隠者:2013/05/13(月) 18:04:54 ID:EkL5/BY.
 生まれて初めて自分の系統に基づいた正しい魔法を行使した身体は、ルイズが考えているよりも強烈な疲労を蓄積させていた。
 そのまま深い眠りに落ちた結果、ルイズがもう一度目覚めた時には夜闇の中で月が煌々と輝いており、丸一日完全に眠りの中で過ごしたと気付くのにもう少しばかりの時間を要する事になったのは、また別の話である。

 ☆

 ――ジョセフが日食の輪を潜り抜けてから、15日後の昼。
 あの日サモン・サーヴァントでジョセフを召喚したアウストリの広場に集まったのは、ルイズとコルベール、そしてジェットに選ばれたキュルケ、タバサ、ギーシュの合わせて五人。
 ウェールズ本人は今となってはアルビオン亡命政府の長、つまりはアルビオン王国の王となっている。
 共に手を携え、アルビオン軍をウェールズとアンリエッタの二人で撃破した華々しい物語は、トリステインのみならず近隣諸国にも轟き渡った。
 アンリエッタ王女の政略結婚は土壇場で解消し、改めてトリステイン、ゲルマニアの軍事同盟にアルビオン王国が加盟する事がつい先日決定した所である。
 トリステインはほぼ壊滅したアルビオン神聖帝国の数少ない残存兵を取り込んで、現在はアルビオン大陸の簒奪者達を如何に仕留めるか、そして気が早い者はアルビオン大陸を如何に切り分けるかを話し合っている真っ最中。
 晴れて王冠を戴き、トリステインの新たな女王となったアンリエッタは、最愛のウェールズ国王との婚姻の儀を挙げる為、多忙な日々を過ごしているのだった。
「しかし、僕もジョジョが残した手紙の意味がついぞ判らなかったな。何にせよ、ルイズがサモン・サーヴァントを行えばその意味も判るんだろうけれど」
 穴の中から頭と両前足を出しているヴェルダンデを抱き締めたまま頬擦りしながら、ギーシュが今日集められた全員の気持ちを代弁する。
 ジョセフが指定した面々に手紙を読ませてみても、ジョセフが意図しているであろう目的を考え付いた者はいなかったのである。

944ゼロと奇妙な隠者:2013/05/13(月) 18:05:39 ID:EkL5/BY.
「まあ、後はちゃあんとルイズがサモン・サーヴァントを成功させるって言う最大の難関が待ち構えているんだけど。大丈夫、ラ・ヴァリエール?」
 相変わらず、ルイズを小馬鹿にした笑いにも、ルイズはふんと鼻を鳴らして答えた。
「御心配痛み入るわ、ツェルプストー。これでもコモン・マジックは成功する様になったのよ。いつまでもゼロだとか言われてるだけの私じゃあないって事よ」
 いつも通りの口喧嘩が始まるのは華麗に無視し、タバサは地面に座ったまま読書を続けていた。
 虚無の系統に目覚めてから、正しい魔力の使い方を身体が理解したのか、初歩的な魔法を使うのに不自由は無くなった。四大系統の魔法は何一つ使えないにせよ、ルイズにとっては大きな進歩だった。 
 とは言え、虚無の担い手である事はアンリエッタにも話していない。
 伝説の系統に目覚めた事を自慢して回る気には、どうしてもなれなかったのだ。
 ゼロのルイズで無くなった喜びは確かにあるが、ジョセフとの別れを引き摺ってしまっている事が何より大きく、それに加えて手紙の謎が気になっているのもあった。
 あの日から何度も何度も読み返した手紙をポケットから取り出すと、もう一度文面を読み返してみる。当然意味は判らない……が。
(……今になったら、この手紙は本当に助かったわ。もっと意味が判る手紙だとしたら……まだ部屋で泣いてたかもしれないもの)
 主人が泣き腫らして部屋に帰って来る事を考えて、ジョセフはこの手紙を書いたのだろうか。
 だとすれば、随分と気配りが行き届いていると言うか、全てお見通しと言うか。
 スカートのポケットの中に入れている手紙を、愛しげに指先でもう一度触れてから、進級試験の日と同じ面持ちで立っているコルベールに、ルイズは静かに視線を向けた。
「準備はいいかね、ミス・ヴァリエール」
 コルベールの問い掛けに、ルイズはしっかり頷く。
 ルイズの一連の仕草を見つめ、コルベールは知らず微笑を浮かべていた。
 あの進級試験の日とは、ルイズの態度は比べ物にならないほど堂々としたものだった。
 ゼロのルイズと馬鹿にされ、劣等感の塊だった少女はもういない。
 ここに立っているのは、貴族と呼ばれるに相応しい立派なメイジの一人だった。

945ゼロと奇妙な隠者:2013/05/13(月) 18:06:13 ID:EkL5/BY.
(ジョースター君。君がミス・ヴァリエールの使い魔で、本当に良かった。たった二ヶ月足らずの時間を分けてもらったお陰で、彼女は救われる事が出来たのだから――)
 日食の輪の向こうへ去った友人に、心の中で礼を述べる。
 そして教師としての眼差しで、ルイズを見やる。
「では、ミス・ヴァリエール。サモン・サーヴァントを」
「はい」
 すう、と一つ息を吸い、ゆっくりと吐き出す。
 ジョセフがいつも行っていた波紋の呼吸の様に、大きく長い深呼吸。
 そして愛用の杖を掲げると、朗々と召喚の呪文を唱えていく。
「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。我の運命に従いし、"使い魔"を召還せよ!」
 呪文の完成と同時に、勢い良く杖を振り下ろす。
 次の瞬間――白く光る鏡の様なゲートが、完成した。
 誰かが息を呑んだ音が、無闇に大きく聞こえた。
 契約した使い魔が生きている場合、ゲートは開かれない。
 ゲートが開かれていると言う事は、つまりジョセフは死んだと言う事実を厳然と示すものだった。
 サモン・サーヴァントのルールを知らない者は、ここにはいない。
「ル……ルイズ!」
 ゲートを閉じるんだ、と続けようとしたギーシュの言葉が、思わず飲み込まれた。
 ルイズは、ゲートから目を背けていなかった。
 そこには、“信頼”があった。
 盲目的でも依存でもなく、ジョセフ・ジョースターと言う人間を信じる輝かしさ。
 ゲートから照らされる光だけではなく、ルイズの立つ姿そのものから光が発せられている様な、そんな錯覚さえギーシュは感じてしまった。
 ゲートが開かれてから、ほんの数秒。しかし、これから何が起こるのかを固唾を呑んで見守る全員には、とんでもなく長い時間が経過した様に思われたその時――

946ゼロと奇妙な隠者:2013/05/13(月) 18:06:45 ID:EkL5/BY.
「ゲートの前からどいとけッ! デカいのが行くぞォーーーーッ!!」


 聞き間違えようが無い。
 ゲートの向こうから聞こえた叫び声は、ジョセフの声だった。
 そして次の瞬間、メイジ達は信じられない光景を目の当たりにする事になる。
 爆発にも似た轟音が断続的にゲートの向こうから聞こえ、ゲートが奇妙に大きく引き伸ばされたかと思うと、見た事の無い“何か”がゲートの中から現れてくる。
 タバサが杖を一振りし、風のロープでルイズを掴んでゲートの前から引き離した。
 ゲートを潜り抜けて来たのはピカピカと鮮やかな紫に輝く、巨大な物体。その大きさと言えば、まるでちょっとした建物並。そんな物体がスムーズにゲートを潜り抜けてくる。
 紫色の部分が出終わったかと思えば、その後ろからは紫の物体に負けず劣らず巨大な、銀色の長方形。紫と銀の物体には、人の背丈程もある黒々とした車輪が幾つも連なっており、巨大な物体達には似つかわしくないスムーズな前進を可能としていた。
 一つの長方形が出終わったかと思えば、その長方形に繋がってまた同じ形の長方形が出てくる。そして合計三つの銀の長方形が出終わると、召喚を終えたゲートは閉じてしまった。
「な、な、な……」
 生徒達を見守り指導するコルベールでさえ、想像を絶する召喚に意味のある言葉が出ない。
 年若い少年少女達に至っては、度肝を抜かれたと言う言葉そのものの表情で、ただ出てきた物体を見上げる事しか出来なかった。
 それはアメリカントラックと呼ばれる、アメリカの緩い規制の産物とも言える巨大トラック。日本では「コンボイ」と呼ばれる事が多く、ロボットにトランスフォームするトラックとして有名な、トラックであった。
 だがしかし、ここにいる全員はそんな名前など知る由も無い。
「……ぅぉーぃ」
 鳴り止まないエンジン音の中、微かに聞こえる呼び声に気付いたのは、風のメイジであるタバサだった。

947ゼロと奇妙な隠者:2013/05/13(月) 18:07:22 ID:EkL5/BY.
 召喚されたコンボイの先頭、紫の物体の中からその声は聞こえてくる。
 よく見てみれば、紫の物体の正面上側には巨大なガラス窓がはめ込まれており、横側には数段の階段が取り付けられたドアが付いている様だった。
 タバサは短い呪文を一言唱えると、ガラス窓の高さまで浮き上がって中の様子を窺った。
 ガラス窓の向こうには黒光りする座席があり、その上にはジョセフが腰に佩いていた大剣、デルフリンガーが鞘から半ば抜かれて横たわっていた。
 宙に浮いて自分を見つめるタバサに気付いたデルフリンガーは、かちかち柄を鳴らす。
「おお、久し振りだな。とりあえず横のドア開けてくれっか、うるさくて仕方ねぇだろ」
 タバサはこくりと頷くと、そのままドアに連なるステップに着地し、ドアノブだと思われる凹みに指を掛けてドアを開いた。
「んじゃあ、そこに鍵が掛かってるだろ。それを捻ったらエンジンが止まる」
 その言葉に視線を巡らせると、確かに穴に刺さった鍵がある。華奢な手を伸ばし、鍵を捻ると鳴り響き続けていたエンジン音がゆっくり途絶えて行った。
「さぁてと、だ。元の世界に帰った相棒からお前らに手紙とプレゼントを言付かってるんでな。いいモンばっかりだぜ、俺っちがありもしない腰抜かすくらいにな」
 くく、とデルフリンガーが笑う。
 タバサは軽口に笑う事もなかったが、興味深そうに青い瞳を剣に向けた。
 剣の横には手紙の束が置かれており、その一番上に置かれた封筒には『わしの親愛なる友人達へ』と書かれているのが見えた。
「一番上の手紙は全員で読んでほしいってよ。それぞれの手紙は別に書いてあるぜ」
 タバサは無言で手紙の束を手に取り、今までに触った事のないつるつるした手触りの紙に一瞬だけ視線を留まらせてから、自分とデルフリンガーに風を纏わせて運転席から地面へと降りる。
 手に持った手紙の束から一番上の封筒を取り出し、ルイズへ向けて静かに差し出した。
「……この手紙は、あなたの使い魔が書いたもの。なら、あなたが語って読むのが筋」
「――そうね」
 差し出された手紙を受け取ると封筒を破り、中に入っていた数枚の便箋を取り出す。

948ゼロと奇妙な隠者:2013/05/13(月) 18:08:01 ID:EkL5/BY.
 便箋に書き連ねられた文章は、確かにジョセフが書いたそれ。
 文面に視線を寄り添わせながら、内容をゆっくりと語り始める。
『この手紙がお前達に届いたと言う事は、わしの計画は全て上手く行ったと言う事だ。――ろくに別れの挨拶も出来なかったが、手紙で済ませる不義理を許してほしい』
 ルイズの声で紡がれるジョセフの口調に、その場にいる全員がしっかりと耳を傾け。ルイズも時折息継ぎを挟みながら、使い魔からの最後の手紙を読み上げていく。
『そうそう、もし心配しているのならわしは無事に元の世界に戻り、お前達が手紙を読んでいる今も元気にピンピンしとるので心配せんでいい。わしからの手紙とプレゼントを贈る為、そしてルイズに使い魔を返す為にわしは考えた』
 そこまで読んでから、不意にルイズの眉根が寄る。数度同じ箇所を読み返し、んん、と疑問めいた声を上げるルイズに、続きを待ち兼ねたギーシュが怪訝げに問いかけた。
「どうしたんだねルイズ。文章の綴りが間違ってるのかい?」
 何度も同じ場所で視線を行ったり来たりさせているルイズに全員の視線が集まった所で、ルイズは文章の理解を諦めた。
「…………ねえ、私には理解が及ばないわ。誰か私の代わりに理解してくれないかしら」
 そう言うと、その問題の箇所を指で示しながら全員に便箋を見せた。
 文面を読んだ全員の視線が、ルイズと同じ様に何度も往復する動きを見せる間、余り表情を変化させない事に定評のあるタバサでさえ、その端正な顔に紛う事のない疑問を浮かべている。
 他のメンバーに至っては、これ以上ないくらいに「理解不能」と顔全体で語っていた。
 そこには、こう書かれていたのだった。
『……メイジと使い魔は一心同体、どちらかが死ぬまで使い魔の契約が切れる事はない。つまりルイズとの契約を破棄する為には、わしが一度死に、もう一度蘇生しちまえばいいと考えた――』
「……ん、んんん?」
 何度も文章を読み返す中、必死に理解しようとする誰かかの吐息めいた声が知らず漏れるのを咎めたりする者もおらず、次の文章は更にメイジ達の理解を拒んでいた。
『どうせそっちに行くほんのちょっと前には、わしの爺さんの身体を乗っ取った吸血鬼に全身の血を抜かれて四分ほど心臓が止まった後に、吸血鬼の死体から取り返した血をもう一度身体に入れてから、心臓を無理矢理動かして蘇生した事もある。
 たかだか一分くらい心臓止めただけで、わしが死んだとルーンが判断した時には少々拍子抜けもした』

949ゼロと奇妙な隠者:2013/05/13(月) 18:08:33 ID:EkL5/BY.
 さして長くもない文章が、大量の奇妙を内包している。
 長い沈黙を経た後、意を決して口を開いたのはギーシュだった。
「……ここで一番僕達がすんなり納得できるとすれば、ジョセフが大分とホラを上乗せしているんだと考えるのが自然だと思うんだが、みんなはどう思う」
 今まで培ってきた常識が根底から置いてきぼりにされた中、キュルケが辛うじて言葉を絞り出す。
「……そもそも吸血鬼に全身の血を抜かれて、取り戻した血をもう一度身体に入れて、心臓をもう一度動かして蘇った、って一連の言葉の意味が全く判らないわ。今までそんな言葉聞いた事ないもの」
 ハルケギニアで初めて紡がれた言葉は、全員の脳裏に共通の疑問を生み出した。
 ルイズは全員を代表するつもりもなく、生まれたばかりの疑問を口にした。
「……ジョセフの世界って一体どんな世界なのかしら」
 『ひこうき』もそうだが、まるで想像も出来ない様な世界である事は疑い様もない。
 ルイズは一つ小さく息を吐くと、考えても判らないジョセフの世界について考えるのを一旦放棄した。
「ほら、手紙の続きに戻るわよ。これ以上考えても多分判らないもの」
 その言葉に、それもそうだと区切りを付けた全員に向けて、ルイズは朗読を再開した。
『が、それ以上に、これでルイズに残した手紙に書いた約束を守れる安心の方が大きかったのはマジなとこじゃ……』
「って何よこれ。いきなり砕けて来たわね」
「ここまで真面目な文体で書いてきたけど、そろそろ飽き始めてきてるのが目に見える様だわ」
「ジョジョにしちゃ大分もった方だと僕は思うなぁ」
 口さがない部類の友人達の寸評を受けながらも、文面は唐突に終わりを迎えていた。
『そこで無事に帰れた記念に、わしの可愛いご主人様と掛け替えない友人達にささやかなプレゼントを用意した。それぞれに向けた手紙にわしからのメッセージと目録を書いてあるから、ケンカせずに仲良く分け合ってくれ』
 ルイズがそこまで読み終えると、全員の目はコンテナへと向けられたのだった。

 ☆

950ゼロと奇妙な隠者:2013/05/13(月) 18:09:18 ID:EkL5/BY.
『コルベールセンセへ。
 センセへのプレゼントは、トラックとトラックの設計図。それからゼロ戦を一機用立てようかとも思ったんじゃが、流石にムリじゃった。わしの世界じゃ五十年前の骨董品で、残存数もほとんど無かったモンですまん。
 代わりに、新品のセスナと設計図、ゼロ戦のエンジンのレプリカを用意した。二番目のコンテナに積んであるから、好きなだけ研究してくれ。いずれそっちでも飛行機が飛ぶのを期待しておるよ』
 コルベールの研究室の横に、新たな掘っ立て小屋が建築された。
 その中には固定化の魔法を施されたセスナが堂々と鎮座しており、コルベールが今までに見た事もない素材で作られた座席が彼の最高の居場所になっていた。
 ジョセフからの贈り物であるセスナの設計図と、何度も分解しては組み立てて構造を把握したエンジンを見比べながら、もう二度と会えない友へ言葉を向けるのは最早日課となっていた。
「なあ、ミスタ・ジョースター。君の贈り物は決して無駄にはしないぞ。魔法に頼らず、誰にでも仕える立派な技術を開発してみせる。それが君に出来る、私からの返礼になるだろう……」
 そしてコルベールは羊皮紙に向き直る。
 自分自身で作り上げる新たなエンジンの開発の為に。

 ――ジャン・コルベールはジョセフから送られたセスナとエンジンを研究し、パトロンの協力を得て飛空船オストラント号を開発。後年、ハルケギニアで初めて作られた飛行機での飛行に成功する。


『ギーシュへ。
 お前へのプレゼントの一つ目は、わしの世界で流通しとる金属だ。名前はアルミニウム、軽くて丈夫で加工し易いのが取り柄だが、精製するのにえっれえエネルギーを必要とするのが玉に瑕ってトコロじゃな。
 二つ目はアルミニウムの原料になるボーキサイト。熱帯雨林や熱帯雨林があった土地辺りによく鉱床があるらしい。コイツの粉末を吸い過ぎると肺をやられて四年くらいで死ぬから、取りに行く時はマスクをちゃんと付けておけよ。
 三つ目がアルミニウムから作ったジュラルミン、四つ目がジュラルミンを更に強化した超ジュラルミン、五つ目が超ジュラルミンを更に強化した超々ジュラルミンじゃ。
 コンテナもこの超々ジュラルミンで作られておる。お前も軽いだけの男でなく、軽いくせに使い勝手のいいアルミニウムの様な男になれよ』

951ゼロと奇妙な隠者:2013/05/13(月) 18:09:55 ID:EkL5/BY.
 一旦そこで文章は締められていたが、便箋とは別に小さな紙片に走り書きされた追伸も添えられていた。
『あ、そうそう。浮気とかマジやめとけ。甘く見とると命落としかねんぞ』
 ギーシュに贈られたのは、未知の金属のインゴットと、その原料になる原石。それと何やら、切羽詰った忠告。
 時折親愛なる友人からの手紙を読み返す度、ちょっとした苦笑は抑えられない。
「なんだい、破天荒な英雄にしちゃ随分と至らない所があるじゃないか」
 たった二ヶ月の付き合いで、一生忘れられないインパクトを残して去って行った親友。
 故郷に帰った時に、きっと修羅場か何かあったのだろう。アルヴィーズ大食堂での一悶着など比べ物にならないような、本物の修羅場が。そうでなければ、わざわざ本文とは別の追伸を書いて渡すはずがない。
 後先考えず、昨日今日出会った友人を守る為に未知の敵との戦いを恐れない男でも、ちょっとした欠点がある。
 ギーシュが様々な壁にぶち当たり心が折れそうな時、手紙を読み返してジョセフと愉快な友人達との騒々しい日々を思い起こし、心の支えとする。
 あの騒々しい年甲斐のない友人と別れてから、もう十年以上になる。
 最後の追伸を自分の胸の中だけに秘めておいたのは、親友への情けであった。
「きっと君は元気にやってるんだろう。僕もそれなりに元気にやってるし、モンモランシーも泣かせたりはあんまりしてない。長生きしたまえよ、ジョジョ」
 もう二度と会う事のない親友に思いを馳せながら、手紙を左の胸ポケットへと仕舞った。

 ――ギーシュ・ド・グラモンはグラモン家の四男として様々な戦功を挙げると共に、新種の金属『グラモニウム』の発見、開発に成功する。後に「グラモニウム」の二つ名を名乗り、愛妻との間に数人の子を生し立派な軍人となる。

952ゼロと奇妙な隠者:2013/05/13(月) 18:10:37 ID:EkL5/BY.
『タバサへ。
 お前へのプレゼントは、わしの世界で一番旨い牛一頭分の肉と、その牛の番いじゃ。
 既に食える処理はしてあるから、マルトーに料理してもらえ。それと食べる時にはミスタ・オスマンにもお裾分けするといい。もしあんまりお気に召さんかったら、番いも潰して適当に食べてしまえばいい。
 じゃが、食べた後にタバサはこう言うじゃろう』
「――私が今まで食べていたのは、サンダルの底だった」
 手紙の最後に書かれていた言葉を読んだ上で、改めて口にしなければならないほど旨い牛。
 ただ切って焼いただけのシンプルなステーキだと言うのに、熟れた果実を切る様にナイフが通り、噛めば噛むほど上質な脂が口一杯に迸る肉。
 これに比べれば今まで食べていた“牛肉”など、サンダルの底でしかない。
「こいつぁすげえ……。俺達料理人の仕事は、そのままじゃ食べられない材料に手を掛けて食べられる様にするのと、より旨い飯に仕立てる事だ。まさか、材料の時点から手を掛けるだなんて、その発想自体が目から鱗ってヤツでさぁ……。
 この牛があれば、ハルケギニア中の料理が全部引っくり返るのは言うまでもありませんや」
 実際にこの牛肉を調理したマルトーが、同席しているオスマンに感嘆を惜しまない声を掛ける。
 オスマンに出されたステーキがタバサのより明らかに小さいのは、三桁以上の年齢を重ねた老人が食べるにはパンチがあり過ぎると言う配慮ではあったが、オスマンは構わずぺろりとステーキを平らげていた。
「確かに旨い。わしも長く生きてきたが、こんなステーキは食べた事がない。しかし……これだけの牛を育てるのには、それに見合った手間がかかるようじゃな?」
 口ひげに付いた肉汁をナプキンで拭きながら問い掛ける言葉に、タバサが小さく頷いた。
「――手紙に同封されていた手引書に寄れば、トウモロコシを食べさせ、ビールを飲ませ、毎日全身を決まった工程で刺激する。なおストレスを与えない為に、音楽を聞かせる、と書いてある」
 淡々と告げられる言葉に、マルトーがカーッ、と声を漏らして顔に手を当てた。
「ちぇっ、いずれ潰されて食われる牛だってのに、まるでお貴族様の様な生活じゃねえですかい。いや、これだけの肉になるにゃそれだけの手間を掛けなくちゃならねえってことなんでしょうがね」

953ゼロと奇妙な隠者:2013/05/13(月) 18:11:10 ID:EkL5/BY.
「ハルケギニアにいる牛も、それなりの味にする為の方法も提示されている。彼がもたらした牛には劣るだろうが、それでもこれまでに比べれば、きっと革命を起こすのは確実」
 二人の言葉に鷹揚に頷くと、オスマンは料理長に視線をやった。
「まあとりあえず、今度はもっと分厚いレアで焼いてもらおうかの。わしはまだまだ長生きするつもりなのに、これだけ旨い肉を食う機会を無くしてしまうのは、余りに惜しい」
 愉快げな笑みを浮かべるオスマンに、マルトーは満面の笑みで答えた。
「承知しました、そちらのお嬢さんもで?」
「次はこの牛の内臓が食べてみたい。適当な所を見繕って出してほしい」
 表情を変えないまま、貴族が口にしない下手物を所望する小柄な少女にマルトーは恭しく一礼すると、厨房へと戻って腕によりを掛ける事にした。

 ――タバサは後に、オスマンとの共同研究により動物や植物の品種改良技術の基礎を確立する。その中で『黄金より貴重』とまで言われる最高級牛の繁殖に成功した。
 なお余談ではあるが、使い魔である竜へ事ある毎に最高級牛の品種名である「コービー」の名を付けようとして必死に拒否されるのは、タバサをよく知る者なら全員知っている奇癖であった。


『キュルケへ。
 わしがお前にプレゼントするのは、わしの世界での最新ファッションのカタログとヘアカタログを一揃えじゃ。普段使い用の他に、お前の実家の宝物庫に収める分もワンセット用意しておいた。
 前にシエスタを助ける為に譲ってもらった家宝の本の代わりと言う事で、勘弁してほしい。
 ルイズの家と長年の恩讐があるのは知ってるし、国境を隔てたお隣同士っつーのは非常に仲が悪いのもよく知っちゃおる。知っちゃおるが、それでもやっぱりルイズは可愛いわしの孫なんでな。仲良くしてくれとまでは言わんが、お手柔らかに頼む。
 お前はとても魅力的だし、自分がそうだと言う事もよく知っているだろう。
 それならトリステインの小さな領土を取りに行くよりも、ゲルマニアの広大な領土を取りに行った方がずっと効率的だろうとわしは思ったりするが。
 まあ、わしの贈り物がちょっとでも役に立ちゃ幸いじゃ』

954ゼロと奇妙な隠者:2013/05/13(月) 18:11:45 ID:EkL5/BY.
「ダーリンの世界はすごいわねえ。もう何て言うか、あたし一人じゃ一生かかっても全部のドレスを試せそうにないもの」
 かつてジョセフに請われて渡した、たった一冊の薄っぺらい「召喚されし書物」の代償としては、その重さも内容も比較するまでもない。
 まるでその瞬間を切り取った様に克明な絵と、指さえ切れてしまいそうに薄い紙。この本だけでも好事家に売れば城でも買える金貨が手に入るだろう。
 しかしキュルケにとっては、このカタログは何物にも勝る贈り物である。国一つと引き換えと言われれば交換を考えないでもないレベルの価値が其処にあった。
 しかしハルケギニアでは想像もしないくらいに多種多様なデザインのドレスやヘアスタイルは、キュルケには似合わないものも多くある。
 そこでキュルケが目を付けたのは、彼女の親愛なる友人であるタバサやルイズである。
 キュルケとは種類の異なる美少女である二人は、キュルケの審美眼に拠って魅力的に着飾らされる羽目になり、圧倒的多数の男子と少数の女子からの恋文攻勢に立たされる破目にもなった。
 そんな中でも特に彼女の目を引いたのは、「ブラジャー」と呼ばれる胸当てだった。
 この下着は乳房を支えるのが主目的だが、デザインを工夫すればただでさえ大変な胸元がより大変になる事に気付いたその時、キュルケの野望は具現化したと言っても過言ではなかった。
 今までも大きく広げていた制服の胸元がより大きく広げられ、これまでより更に深まった胸の谷間を彩る真紅の胸当ては、学院の男達の視線を以前とは比べ物にならないレベルで集めたのは言うまでもない。
 学院を卒業するまでに流した浮名の数は、長い学院の歴史でも長く語り継がれる事になるのだが、それはキュルケと言う稀代の美女を語る上では序章でしかなかった。

 ――キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストーは、火の魔法と彼女自身の美貌を存分に駆使し、後に故郷ゲルマニアの女王として君臨する。
 特定の配偶者を持たず、数多くの愛人と恋人を終生侍らせ続けた彼女は“処女王”の二つ名で呼ばれる事となる。

955ゼロと奇妙な隠者:2013/05/13(月) 18:12:18 ID:EkL5/BY.
『わしの可愛いルイズへ。
 この手紙を読んでいると言う事は、お前は魔法をきちんと使える一人前のメイジになったと言う事だろう。まーそーでなくとも、一度はわしを召喚しているのだから、もう一度くらいは召喚に成功してもバチは当たらんはずじゃ。
 こんな形で別れる事になったのに心残りがないと言えば、嘘になる。お前に直接別れを告げられなかったし、お前が困っていても24時間以内に駆け付けてやれないのはとても辛いが、それは言っても詮無き事じゃから、な。
 わしがたまたまお前の使い魔になった事も、短い間でさよならを言わなくちゃならなかった事も、それはきっとそうなるべくしてなった事なんじゃろう。だからもう、わしの事は気にするな。
 わしはわしの世界で生きていかなければならんし、お前はお前の世界で生きていかなければならん。だから、もうわしらの手から離れた事をずーっと書き連ねても意味がない。
 ルイズ・ド・ラ・ヴァリエールはわしと言う使い魔を失ったかも知れん。しかし、わしといた二ヶ月でルイズが手に入れた物はそれ以上に沢山ある。今のお前には良き友人も教師も間違いなくいる。お前が何と言おうとな。
 それは間違いなく、これからのお前にとってとてもとても大切な事じゃ。
 わしも長い事生きてきたから、無二の親友を戦いで失いもしたし、わしを育ててくれたエリナおばあちゃんやスピードワゴンを見送りもした。しかし、それ以上にわしはもっと沢山の大切な物を手に入れてきた。
 もしわしが大切な者を亡くした悲しみに捕らわれ続けていれば、お前と出会う二ヶ月も無かっただろう。お前達との二ヶ月間は本当に色んな事があった。じゃが、本当に楽しい二ヶ月だった。
 異世界で出会った掛替えの無い友人達を、わしは死ぬまで忘れる事は無いじゃろう。
 これからお前の行く道には色々と厄介事があるかもしれんが、今のお前は一人じゃあない。
 お前は友を助け、友にお前を助けてもらえ。
 最後になったが、わしがお前にしてやれる最後の贈り物を用意した。
 わしの代わりに、お前の使い魔になる様な動物はどんなのがいいのか一生懸命考えた。ドラゴンやらグリフォンやらが実在する世界で、果たしてわしの用意できる程度の動物でいいのかと思ったが、まあカエルとかネズミとかの使い魔の方が一般的みたいじゃし別によかろう。
 何はともあれ、これからのお前が幸せである様に祈っておる。
 わしもお前に心配されん程度に、幸せにやっていくからな。
 ルイズを愛するジョセフ・ジョースターより』

956ゼロと奇妙な隠者:2013/05/13(月) 18:12:49 ID:EkL5/BY.
 机に向かって羊皮紙にペンを走らせているルイズの耳に、ノックの音が聞こえた。
「開いているわ」
 ペンは止めず、ドアに視線を向ける事も無く短く答える。
「失礼致します」
 短い挨拶と共にドアを開けて入ってきたのは、シエスタだった。
 手にはティーセットを乗せたトレイを持ってきており、ルイズの指示を受ける前に手馴れた様子でテーブルの上に茶の用意を済ませていく。
 二人きりの部屋の中、さして互いに言葉を交わすでもなく、ペンが走る音とティーセットが微かに音を立てるだけの静寂の中、カップに注がれた茶が緩やかに湯気を立て出した頃にシエスタはルイズの背に向けて声を掛けた。
「ミス・ヴァリエール。お茶の用意が整いました」
「そう。じゃあ頂こうかしら」
 ペン立てにペンを挿し、椅子を軋ませて立ち上がるとテーブルへと足を向ける。
 テーブルの上にはティーカップと、クックベリーパイがツーピース乗った小皿。
 ルイズの足取りに合わせてシエスタが引いた椅子に腰掛けると、まずは茶を一口。
「うん、いい案配ね」
「恐縮です」
 矢鱈に視線を合わせはしないが、それぞれの口元は柔らかく綻んでいる。
 二人を引き合わせた張本人であるジョセフはもういないが、シエスタはタルブの戦以来、タルブを守った英雄であるジョセフに返せなかった恩をほんの少しでも返すべく、ルイズに甲斐甲斐しく仕えると決意した。
 ルイズはそれを嫌がるでも厭うでもなく、特に何も言わずシエスタを自分のお付きメイドとして扱う様にし、現在に至っている。
 夏季休暇も終わり、そろそろ秋の気配が見える頃になっても、二人の会話の糸口は決まっていた。
「ジョセフさん、お元気にしておられるでしょうか」
「アレがそうそう耄碌するはずがないじゃない。だって私の使い魔だったんだもの」

957ゼロと奇妙な隠者:2013/05/13(月) 18:13:22 ID:EkL5/BY.
 殆ど毎日交わした決まり文句を口にしてから、パイを一口食べる。
「ところでシエスタ。貴方の故郷の様子はどうなってるの」
「ええ、平原はメチャクチャになっちゃいましたけど……フネの残骸やら何やらで結構な臨時収入が出来ましたので。来年にはまたブドウの作付けも出来るかと思います」
 シエスタが笑みを浮かべながら答える言葉に嘘がない事を、ルイズは知っている。
 今のルイズは、タルブの復興状況を知る立場にある。ジョセフからの手紙を受け取った後、ルイズは一人トリスタニア城へ出向き、自らが虚無の担い手であるらしい事をアンリエッタとウェールズに告白し、二人に宛てられた手紙を渡した。
 アンリエッタは驚きながらも、親友が落ちこぼれのメイジどころか伝説の系統の使い手だった事を喜び、そして虚無の系統に目覚めた事を他言しない様に厳命した。
 新たな女王の役に立ちたいと願うルイズと、親友を禍々しい権力闘争に巻き込みたくないアンリエッタの押し問答を押し留めたのは、アルビオンの王となったウェールズだった。
 虚無の力を使う決断はアンリエッタに任せ、ルイズの独断で力を行使しないこと。この条件にまだ納得しかねたルイズに、ウェールズは少しばかり悪戯っぽい笑みを向けて説得した。
「あのジョセフ・ジョースターは、自分の力を濫用したりしなかった。しかし力を用いるべき時には、全力で事に挑んだ。だからこそ、私が今こうして生きて愛する従妹と婚約を結ぶ事が出来たのだ。
 君の愛した使い魔は、君が無闇矢鱈に死地へ向かう事を願ったりはしないだろう。私達は、彼から貰い受けた多くの物を返す事が出来なかった代わりに、彼が大切にした少女を彼と同じ様に大切にしたいと考えている」
 王としてではなく、友人として語り掛ける穏やかな口調。
 それでもなお、でも、と反論しようとしたルイズに、ウェールズは僅かに口調を変えた。
 友人の名誉を守ろうとする男の声で、静かに言葉を紡ぐ。
「あのジョセフ・ジョースターは、愛する主人に『国の為に力を使い尽くして死ね』なんて言うだろうか? もし彼がそう言うと思うのなら、君を私達の手駒とする事に異論はない」
 そう言われてしまえば、ルイズにそれ以上歯向かう言葉など存在しない。
 悲しげに俯いたルイズに、アンリエッタはすぐさま羽ペンを取ると羊皮紙に文面を書き連ねる。それはルイズを女王直属の女官とする許可証だった。

958ゼロと奇妙な隠者:2013/05/13(月) 18:14:06 ID:EkL5/BY.
 許可証をルイズに手渡すと、その手を離さないまま優しげな笑みを無二の親友へと向けた。
「今のわたくしには、愛するウェールズ陛下がおります。ですがルイズ、あの奇妙な使い魔と初めて出会った夜に言った言葉をもう一度、貴女に送ります」
 女王から臣下に向ける為の表情ではなく、幼い頃からの親友に向ける為のアンリエッタの声色で、ルイズの手を握る手に力を込め、ブルーの瞳を潤ませて真正面からじっと見つめた。
「友達面で擦り寄ってくるだけの宮廷貴族達とは違う……私に真に忠誠を誓う貴女が、私には必要なの。今はもういないジョジョの分まで、わたくしの友人でいてほしいのよ、ルイズ!」
 身に余る言葉を受け取ったルイズは感極まり、涙を流しながらアンリエッタに抱きついた。
「――女王陛下!」
「ああ、ルイズ! ルイズ! わたくし達だけの時はそんなよそよそしい呼び方をしないで! 昔の様に姫さまと呼んで!」
 ひしと抱き合いながら、二人で気が済むまでおいおいと泣き合う姿を、ウェールズは目を細めながら眺めていた。
 ルイズは感極まって泣き続けながらも、頭の何処かで何故こんなに涙が止まらないのかを理解した。
 自分がメイジであるかどうかなど関係なく、自分を必要だと認めてくれる。
 そう、ジョセフもそうだった。魔法が使えない落ちこぼれを馬鹿にする事無く、ルイズはただのルイズでいいのだと認めてくれた。
 虚無の力ではなく、ルイズ本人を必要だと、敬愛する女王陛下とウェールズ陛下に認めてもらえた。
 別れの手紙に書いてあった事は嘘ではなかった。今の私は一人ではないのだ、と、確信出来た喜びの涙だと、判ったからだった。
 その日からルイズは、アンリエッタ達の前で『虚無』を口にする事はなくなった。
 アルビオン大陸への封鎖作戦が進行しているとは言え、表向きは今すぐに戦争を仕掛けようとはしていないので国もそれなりには平穏を保っている。
 休日には朝早く学院からトリスタニアへと向かい、アンリエッタの公務中は何をするでもなくただ女官として女王の側に立ち、時折出来る暇に言葉を交わし、慌しく短い食事の時間を共にしてまた学院へ帰る。

959ゼロと奇妙な隠者:2013/05/13(月) 18:14:43 ID:EkL5/BY.
 授業がある日には友人達と軽口を叩き合ったり一方的にからかわれたりしつつ、アンリエッタから届いた手紙に返事を書き、伝書フクロウに託す。
 アンリエッタに送る手紙を書く手を一旦止めて、毎日の習慣となりつつあるティータイムを今日もまた過ごしていた。
 空になったカップをソーサーの上に置くと、シエスタは慣れた手つきでそっとお茶を注いでいく。
「ジョセフさんの世界って本当にすごいんですね、ミス。贈られた軟膏でアカギレもひび割れも出来なくなっちゃいましたし、お腹の調子を悪くしてもあの丸薬ですぐに治ってしまいます」
 シエスタにもジョセフからの手紙とプレゼントは贈られていた。
 竜の羽衣のお陰でタルブを守れた事、無事に元の世界へ帰還できた事、シエスタの祖父の遺言通り、祖父の生まれた国へと返還した事、初めて会った時から親身になってくれた事。それらについて丁寧に礼が述べられた後、シエスタへのプレゼントも添えられていた。
 見た事もない素材で作られた箱にたっぷりと詰められた、これまた見た事もない素材で作られた小さな筒に入った軟膏と、茶色の小さなガラス瓶に入った茶色の丸薬。そして軟膏と薬の作り方と材料。
 ジョセフの世界の単語で言えば、ダンボール箱にたっぷり詰まった日本製の軟膏と正露丸。
 軟膏の実物は学院中の使用人全員が毎日使っても二年分は優にあり、使用人の肌環境を劇的に改善させる事となった。
 正露丸は魔法も必要とせず、ただ飲んだだけですぐに腹痛を治めてしまう。使用人のみならずメイジ達にもその評判は流れ、軟膏や正露丸自体やその材料の研究も流行の兆しを見せている。
「……そうね。あいつはいっつもそう。自分は他人の為に走り回ったくせに、あんなに一杯贈り物なんか贈ってきて。腹が立つわ」
 ジョセフの話題になると時折零れる刺々しい言葉は、ジョセフへの思慕の情が漏れそうになるのを隠そうとするパフォーマンスである事は、シエスタのみならずルイズの主従関係を知る友人達にとっては周知の事実だった。
 その証拠に、刺々しい言葉とは裏腹に、かつての使い魔を語る口調はいつもとても柔らかい。
 しかしその柔らかな口調は、すぐに言葉に似つかわしい刺々しさを持つ事になる。
「……で、あいつは一体どこほっつき歩いてるのかしら」

960ゼロと奇妙な隠者:2013/05/13(月) 18:15:13 ID:EkL5/BY.
「さあ……厨房からここまで擦れ違いませんでしたし、いつもの様にどこかで昼寝なさってるんじゃないでしょうか」
 本格的な棘が発生しても、シエスタはどこ吹く風と言わんばかりにしれっとルイズの言葉を流す。
 それがまたルイズの気に障り、見る見る間にテンションを上げさせて行く。
「あいつあたしの使い魔でしょ!? なのにいっつもご主人様の側にいないでほっつき歩きっぱなしってどう言うことかしら!」
 それから一通りきーきー喚いている所に、ドアがギィと押し開けられた。
 部屋へ入ってきた姿を見たルイズが、勢い良く椅子から立ち上がると鞭を“彼”へ向けた。
「一体今までどこブラブラしてたのよ! 使い魔がご主人様の側にいないって、アンタ本当に使い魔としての自覚あんのジョセフ!?」
 しかし“ジョセフ”は意に介さず、後ろ足で首の後ろを掻いた。
 その悠然とした態度が更に癇に障り、しばらく散々喚いて疲れたルイズがじとりとした目で“ジョセフ”を見下ろした。
 ジョセフ・ジョースターがルイズへ贈ったのは、自分の代わりの使い魔になる動物だった。
 ジョセフがスピードワゴン財団に無理を言って用意させたのは、虎の仔。地球に生息する虎の中でも最大級の体格を持ち、尚且つ生息する個体数も少ない貴重なアムールトラをルイズへと贈ったのだった。
 無論ルイズはその虎にジョセフと名付け、使い魔として契約を果たした。
 しかしこの虎は色々と小生意気で、コントラスト・サーヴァントも行ったにも拘らず、主人を主人と思っていない様に自由奔放に振舞う。
 トラックのコンテナに設置された檻の中にいた時は猫程度の大きさだったのが、良く食べ良く寝て良く走った結果、あっと言う間に大型犬よりも大きくなっている。これで更に大きくなったら果たしてどうなるのか、今からルイズの頭痛の種だった。
「まあまあそう怒るなよ娘っ子」
 部屋の隅でかちかち唾を鳴らし、能天気な声で取り成す剣の声が更に怒りを増幅させる。
「うるっさいわね! アンタはいいわね、前のジョセフの時も今のジョセフの時ものうのうと隠居暮らしが出来て」

961ゼロと奇妙な隠者:2013/05/13(月) 18:16:27 ID:EkL5/BY.
「な! おめえそれは言っちゃなんねえ事だぞ! 大体娘っ子もお前らも伝説の剣を何だと思ってやがる!」
 貴族と剣の言い争いも恒例行事。黒髪のメイドは意にも介さず、まだ手の付けられていないパイを手に取ると、ジョセフへと差し出した。
「ふふっ、ジョセフさん。沢山食べて大きくなるんですよー」
 大きく開けた口の中へパイを落としてもらい、ジョセフは嬉しそうにパイを飲み込むとシエスタの足元へ身を摺り寄せた。
「あっ! こらジョセフ、何ご主人様以外の女に媚売ってるのよ!」
「あらミス、ジョセフさんと私はとーっても仲良しなんですよ? こんなに可愛い虎さんをしかってばかりの怖いご主人様より、ご飯上げて可愛がっちゃう私の方がずーっといいですよねー?」
 がぁう、と虎が暢気に鳴いて、四つ巴の口喧嘩が発生するのもまた日常茶飯事。
 伝説の担い手と伝説の使い魔は、そんな肩書きなど関係なくじゃれあっていた。

 ――シエスタはそれから学院のメイドを数年勤めた後に故郷のタルブ村に帰り、丈夫で働き者の夫を得てブドウ栽培とワイン作りに専念する。
 シエスタが完成させ、村の恩人である英雄の名を冠した「ジョースターワイン」は、ヴァリエール家の晩餐会に供され、トリステインでも屈指の高級ワインとして名を馳せる事となる。

 ――ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは、ウェールズ王と共に手を取り合うアンリエッタ女王の側に付き従い忠誠を誓う女官として、使い魔である巨大虎と共に歴史書に名を残す事になる。
 彼女が虚無の担い手であった物語は世間に聞こえる事は決してなかったものの、彼女の誇り高い生涯はヴァリエールの子孫達に語り継がれていくのだった――


ゼロと奇妙な隠者 完

962ゼロと奇妙な隠者:2013/05/13(月) 18:19:29 ID:EkL5/BY.
以上で投下終了します。
長い事放置してしまって大変申し訳ありませんでした。
ヤマグチノボル先生のお別れの会に行けない代わりと言っては何ですが、
こうして投下をしようとしたらホスト規制食らってましたチクショウ
ヤマグチ先生のご冥福をお祈りします。



そしてジョジョ第三部アニメ化を祈願して、「ジョセフがタルブ戦後も帰らなかった場合」で
書いて行こうと思っています。
期待しないで待っててくれれば幸いです。

963名無しさん:2013/05/13(月) 18:31:20 ID:65i7LyGg
乙!
支援できなくてサーセンした!

964名無しさん:2013/05/13(月) 20:23:39 ID:zFTQ/Pgc
お疲れさまでした!
今度の休みの日にまとめて読ませてもらいます。

965名無しさん:2013/05/13(月) 23:32:42 ID:94uVb72E
乙乙!
待ってるぜ〜

966名無しさん:2013/05/14(火) 15:03:54 ID:ulW7WlYQ
更新乙乙!
ずっと待ってた!
これからも待ってるよ!

967ゼロと奇妙な隠者:2013/05/16(木) 00:11:29 ID:nwVKw83w
本スレに投下しようとしてもやはりホスト規制食らってダメなので、
誰か代理投下お願いしたい次第


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