したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | |
レス数が900を超えています。1000を超えると投稿できなくなるよ。

ゼロの奇妙な使い魔 対サル用書き込みリレー依頼板

487ゼロいぬっ!:2008/01/12(土) 19:10:32 ID:ibltYdG6

「おい! しっかりしろ! 意識を強く持て!」

肩を貸した相手を引き摺りながら貴族派の兵士が叫ぶ。
その言葉に反応は無く、俯いた顔色は青白いまま。
彼の目の前で止血した包帯が赤黒く染まっていく。
無理もない。男の腕は獣を突いた槍ごと肉も骨も砕かれていたのだ。
それをこんな布如きで出血を止められる筈もない。
戦場での常識は助かる人間から助ける事だ。
重傷者一人を助けるよりは軽傷者三人を助けた方が効率がいい。
しかし兵士は男を助けようと必死に運び出す。
そいつは彼の友人でもなければ知り合いでもないし、ましてや上官でもない。
彼は戦場での常識に従ったに過ぎない。
一面に広がる地獄の中で、まだしも彼が一番助かる可能性があったからだ。

足元を埋め尽くす屍が彼等の進路を妨げる。
原形さえも失ったそれを死体と呼ぶ事さえ間違っているのかもしれない。
“これはもう…戦争ですらない”
心の中で呟きながら兵士は中庭まで怪我人を運び込む。
そこには同様の惨状を晒す重傷者達が並べられていた。
呻き声さえ上げず、ただ荒い呼吸を漏らすばかりの半死人達。
たとえ、ここに野戦病院があろうとも結果は同じだろう。
担いで連れて来た男の傍に衛生兵が駆け寄る。
そして一頻り確認した後、その衛生兵は静かに首を振った。
『助からない』と彼は無言で判定を下した。
他の怪我人を収容するスペースを作る為に男が余所に運び出されていく。
僅かに取り留めた意識の中で本人がそれをどのように感じたか、
考えるだけで彼は居た堪れない気持ちで押し潰されそうになった。

刹那。夜の静寂に獣の彷徨が響き渡った。
死の淵にいる怪我人も、忙しなく動き回る衛生兵も、怪我人を運んでくる兵士達も
その声を聞いた全員が心臓を鷲掴みにされたように動けなくなった。
彼等を束縛したのは脳裏に焼き付いた恐怖。
槍で貫こうと銃で撃とうとも風で切り刻もうとも襲い来る怪物。
咆哮が止み、しばらく経って獣が現れない事を知って彼等は治療を再開した。

「化け物め…! これだけ殺してまだ殺し足りないってのか…!」

獣の声が響く度に中断される治療。
その所為でどれだけの助かる命が失われたのか。
男はこの場にいない怪物に毒づいた。


新着レスの表示


名前: E-mail(省略可)

※書き込む際の注意事項はこちら

※画像アップローダーはこちら

(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)

掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板