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ゼロの奇妙な使い魔 対サル用書き込みリレー依頼板

553ヘビー・ゼロ:2008/03/20(木) 22:46:57 ID:YWphJUIk
「気づいていたか?この辺りはもうスラム街に入っていることに」
「あ……ああ……ああ……」
 二人を囲むようにして様子を窺っていた野犬たちだったが、傭兵が手負いと見るとその包囲網を狭め始めた。強くなる唸り声と獣臭に傭兵は息を呑む。
「ふ、ふざけるなよ……こんなことォ……」
「ふざける?これは摂理だ。この野犬たちが飢えているのも元はと言えば貴様ら『組織』がここの住人たちを虐げるからだろう。薬を捌き金を搾り取る悪鬼どもめ。因果応報という言葉を知らないのか。
 いや……貴様に関してはそれだけではないがな」
「た、頼む!助けてくれェ!ダングルテールのことも謝る!これからは心を入れ替えるからどうか……」
「ああ、いいとも。貴様が私の知りたいことを、そのハープのような音色を出す喉で歌ってくれれば私はお前を殺さない。当時の仲間――貴様に戦術を教えたという隊長も含めた居場所を、な」
「そ、そいつは無理だ。オレがいたのは魔法研究所実験小隊ってぇほぼ非正規の汚れ屋だが、あのダングルテールの後にオレは脱走してるんだ……。
 だ、だが一人だけオレと同じ傭兵家業をやってる奴を知ってる!そいつもオレと同じで脱走した口なんだが、これがまた狂った野郎で……」
「ご託はいい。さっさと名前と居場所を吐け」
「ぐ……。メンヌヴィルだ、聞いたことくらいあるだろう?」
 その名前にアニエスはハッとする。
 『白炎』メンヌヴィルと言えば傭兵の中ではトップクラスに位置するビッグネームだ。そしてその嫌われ具合もトップクラスである。アニエスは一度その戦闘跡を見たことがあったが、炭化した大地と肉の焼ける酷い臭いが頭にこびりついている。
「そいつは今アルビオンにいる。あの人は鼻が利くからな……とくに、鉄と焼ける臭いには敏感さ。戦争があると悟ったんだろうな。何せオレもそこにいたんだから、確かな情報だぜ」
 そこまで言って、傭兵はアニエスに何かを期待するような視線を送った。だがアニエスはそれを気にする様子もなく、剣を収めて後にさがった。
 今までアニエスを警戒していた野犬たちもその様子に安心したのか包囲網をさらに縮め始める。
「お、おい…!お前約束が違うじゃねーか!は、早く助けろってェ!」
「何を言う。ちゃんと約束は守るさ。"私は貴様を殺さない"。だからこうして剣も収めた。あとは自分でどうにかするんだな。
 もしもどうにも出来ないというのであれば」
 瞬間、アニエスの目から温度が消える。
「――煮るなり焼くなり好きにされろ」
 嘲るようなアニエスの言葉に傭兵は土気色の顔をして口をパクパクとするしかなかった。出血も手伝ってもはや呼吸もままならないのだろう。それでも絞り出すようにして呪詛の言葉を紡ぎ出す。
「――……地獄に堕ちろ……」
「地獄ならとうに味わったさ」
 そして黒い雪崩が押し寄せた。
 その爪でその牙でその顎で、血を肉を骨を、啜り咀嚼し噛み砕いていく。
 もはや人としては最低限の機能しか残さない傭兵の双眸は凍りついたように動かず、空の月を捉えている。大きな二つの月に、今日はなぜかもう二つ月が浮いていた。底の見えない暗さを持った月。
 その月光を受けた牙が見えた瞬間、傭兵の全ては終わった。


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